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【Special】J-MMA2023─2024、世羅智茂─01─「まずレスリングをやる。安易に下にならない」

【写真】強豪揃いのBチームでの練習——写真はニック・ロドリゲス、ハイサム・リダと(C)TOMOSHIGE SERA

2023年が終わり、新たな1年が始まるなかMMAPLANETでは2023年に気になった選手をピックアップ──過ぎ去った1年を振り返り、始まったばかりの1年について話してもらった。
Text by Shojiro Kameike

J-MMA 2023-2024、第六弾は昨年11月にADCCアジア&オセアニア予選の77キロ級3位となった世羅智茂に話を訊いた。全てはADCC世界大会出場のため――国内外を問わず毎月のように試合に出場した世羅は、海外での試合と練習を経て何を感じたのか。

■2023年世羅智茂戦績

3月26日 Gladiator021 Progressフォークスタイルグラップリング
○8-4 大嶋聡承(日本)

4月29日 Gladiator-Cup03
エリート-77.1キロ級 2位

5月27日 ADCC SouthEast Asia Open 2023
プロフェッショナル77キロ級 優勝

5月28日 AFG Open International 2023
アダルトプロ・アブソリュート紫・茶・黒帯ライト級 優勝

6月11日 Gladiator022  Progressフォークスタイルグラップリング
○2R1分50秒 by 肩固め 加賀谷庸一朗(日本)

7月8日 American National IBJJF Jiu-Jitsu No-Gi Championship
アダルト黒帯ライト級 準々決勝敗退

7月17日 Austin Summer International Open IBJJF Jiu-Jitsu No-Gi Championship 2023
アダルト黒帯ミドル級 3位

9月10日 QUINTET04
●2分13秒 by RNC PJバーチ(米国)

9月30日 Gladiator023  Progressフォークスタイルグラップリング
●2-4 森戸新士(日本)

11月25日 ADCC Asia & Oceania Trial 2023
77キロ級 3位
1回戦 ○肩固め キム・キュンジェ(韓国)
2回戦 ○8-0 アーロン・コミンスキー()
3回戦 ○5-0 シライ・ソウフィ(豪州)
準々決勝 ○2-0 シュ・ワイチン(中国)
準決勝 ●延長0-0/レフェリー判定 リース・アレン(豪州)
3位決定戦 ○3-0 シルクハン・バラトベク(カザフスタン)


――改めて戦績を並べてみると、とにかく試合数が多かった2023年です。もともと昨年はこれだけ試合数をこなしたいと考えていたのでしょうか。

「こんなに試合をするとは思っていなかったです。グラジエイターからプログレスのオファーを頂いたことは大きかったですね。2023年は『海外で試合をしたい』という目標を立てていました。どこに行くかは最初の段階で決めてはいなかったのですが、前に海外で試合をしたのはコロナ禍の前ですし、まず海外で経験を積みたいという目標があって。結果、3回も海外へ行くことができたのは――たまたまですね(笑)」

――というと?

「5月に出場した大会は、タイのバンコクで開催されたものです。これは最近オープンしたカルペディエム・バンコクのオーナーさんから『こういう大会があるのですが出ませんか?』と言われたことがキッカケでした。

まずADCCルールの大会は、自分もADCCアジア&オセアニア予選を目指していたので、ちょうど良いと思ったんですよ。翌日の大会は柔術の大会です。実は今年、あまり柔術の大会に出るつもりはなくて。でも翌日に開催されるし、タイで柔術の大会に出るのも良い経験かなと考えて出場しました。優勝すればカルペディエム・バンコクの宣伝にもなるかなと思い、結果的にどちらの大会も優勝することができて良かったです」

――現在、アジアでADCCルールのオープン大会が増加していますね。

「もともと世界各国で開催されていますが、なかでもアジアは増えてきています。僕が出たのはバンコクの大会で、確かプーケットでも行われているはずです(※2023年12月にプーケットでADCCタイ選手権が開催されているほか、プーケットオープンも存在する)」

――実際に試合をしてみて、タイのグラップリングレベルはいかがですか。

「タイ人の選手は、まだそれほどレベルは高くないです。でもグラップリングの人気は高くなっていると思いますね。特にタイ在住の外国人選手が出場するので、盛り上がっているという印象はありました」

――7月には米国ラスベガスで開催されたアメリカン・ナショナルに出場しました。

T-モバイル・アリーナ、300ドル席からの風景。ADCC世界選手権2024は、この会場で行われる(C)TOMOSHIGE SERA

「UFC290と日程が重なっていたので、参加者も多かったんだろうと思います。会場(ラスベガス・コンベンション・センター)もメチャクチャ大きくて。その大会後にUFCも会場で観てきました。UFCのチケット代は300ドル――今のレートだと日本円で42,000~43,000円ぐらいですか。席は会場の端のほうでしたけど(苦笑)。でも平良達郎選手も出場していましたし、こんな機会は滅多にないと思って観に行きました。日本大会とも違う現地のUFCを観ることができて良かったです」

――世羅選手にとっては久々の海外遠征となりましたが、米国のグラップリングに変化はありましたか。

マット12面のアメリカン・ナショナル会場(C)TOMOSHIGE SERA

「僕がコロナ禍の前に行った時はIBJJFのノーギ・ワールドに出たのですが、正直言ってノーギ・ワールドの盛り上がりは、それほど変わっていないと思うんです。それよりもADCCの注目度とレベルが上がっていて。

ムンジアルとノーギ・ワールドを比べると、ノーギ・ワールドの立ち位置って微妙なところはあるんですよ。たとえばムンジアルで優勝した選手が、ノーギ・ワールドには出ないけどADCCに出ていたりとか。だからといって、ノーギ・ワールドのレベルが低いというわけではないです。やはりグラップリング界の注目度はADCCのほうが高いとは感じますよね。そのADCCやUFCの人気が高まるにつれて、米国のグラップリングもそうですし、ノーギ・ワールドのレベルも上がっているんじゃないでしょうか」

――なるほど。アメリカン・ナショナルの1週間後にはテキサス州オースティンの大会に出場しています。

「アメリカン・ナショナルの後に、オースティンにあるBチームへ練習に行ったんですよ。Bチームにいるハイサム(・リダ)に連絡すると、チームも受け入れてくれました。ちなみに、オースティン・サマー国際にミドル級で出場したのは、減量しながらBチームで練習するのは嫌だったからです(笑)。結果は4名参加の初戦敗退で、負けメダルでした」

――Bチームで練習した感想を教えてください。

「当たり前の話ですけど――やっぱり皆が強いです。盛り上がりも凄いですし。まず単純に、ジムの会員さんが多くて。朝9時ごろから始まるクラスでも、30~40人が参加していました。昼からのクラスも同じぐらいの人数でしたね」

――グラップリングのみで、それだけの人数がクラスに参加するのですか。

元チームメイトであるハイサム・リダの協力を得てBチームへ。偶然も同じタイミングで、米倉大貴もB-チームに(C)TOMOSHIGE SERA

「はい。ニック・ロドリゲスやニッキー・ライアンといった有名選手も、一般会員さんと一緒のクラスでスパーリングに参加していました。そこで練習している会員さんたちも、かなり強い人がいます。特にしっかりレスリングができる人が多かったですね。もちろんレスリングが強くない人もいます。そういった人たちでも、まずレスリングをやろうとする。安易に下にならない、という姿勢で練習していました

もともとレスリングベースの選手も多いですよね。17歳でADCC北米予選を制したドリアン・オリヴァレスも練習に来ていて。彼はもともとレスリングのトップ選手なんですよ。体格的には66キロ級でも小さいほうなのに、レスリングを徹底していて強かったです。サブミッションになると、僕が極めることもありました。でもレスリングが強いし、体力も凄かったです。実際のトーナメントで対戦すると、シンドイ相手だろうなと思いました」

――世羅選手も2023年のテーマとして、レスリング力の強化を上げていました。

「そうですね。僕自身は大学のレスリング部や、レスリング専門ジムの練習に参加させてもらったりしていました。あと偶然のような話ではありますけど、最近はカルペディエムにレスリングをやっている方が練習に来たり、クラスでレスリングを教えに来てくださったり。そうしてレスリングと関わることが増えてきました。MMAファイターの方と練習する時も、何かしらレスリングに関することを学ぼうとしていましたね」

――それだけレスリング力の強化に取り組んできたのも、11月に開催されるADCCアジア&オセアニア予選のためだったのですか。

「そうです。練習だけでなくADCCとは異なるルールの試合でも、ADCCのことを考えながら取り組んできたものを試すように意識していました」

<この項、続く>

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45 AB LFA MMA MMAPLANET o Road to UFC Special UFC チェ・スングク チーニョーシーユエ パク・ヒョンソン ボクシング マーク・クリマコ ライカ 鶴屋怜

【Special】J-MMA2023─2024、鶴屋怜─01─「ラスベガスになったことで気持ちは楽になりました」

【写真】デビュー当時の幼さがすっかりと影を潜めてきた鶴屋怜。この2年の経験が、顔つきをよりシャープにした (C)MMAPLANET

2023年が終わり、新たな1年が始まるなかMMAPLANETでは2023年に気になった選手をピックアップ──過ぎ去った1年を振り返り、始まったばかりの1年について話してもらった。
Text by Manabu Takashima

J-MMA 2023-2024、第五弾はRoad to UFCフライ級決勝戦を控える鶴屋怜に話を訊いた。キャリア6勝で迎えたUFCへの道、その最終関門は日程変更などでゴタゴタもあった。そして右ヒザの負傷もあった昨年をまず振り返ってもらった。


――12月9日に上海で予定されていたRoad to UFCフライ級ファイナル=チーニョーシーユエ戦が2月4日のラスベガスのAPEXに変更されるなど、少しごたつきました。あの時はどのような心境だったのでしょうか。

「僕らの試合がなくなったことすら、全然連絡がなかったです。でも上海の大会がなくなったのは事実で、代わりの大会では僕らの試合は組まれなくて。試合がいつになるのかも分からないから、体重を戻すこともできなかったです。1週間後のラスベガス大会になるとうい話もあったので。そこで食べたりしたら、調整が大変になるから食べるのも我慢していたら、代わりの大会の1週間ぐらい前に決勝戦はそこでは行われないという発表がありました」

──結果、2月にラスベガスに戦うことが決まった時の気持ちは?

「まず中国でなくなったのは、良かったと思いました。相手も中国人で、効かない攻撃でもファンが声を挙げてジャッジが影響を受けるかもしれないので」

──逆に怜選手の有効な攻撃も会場はシーンとしてしまって。

「ハイ。向うの攻めは空振りでもわくでしょうし。まぁ一本、フィニッシュすれば関係ないという風には考えていたのですが、やっぱりラスベガスになったことで気持ちは楽になりました。アウェイ感は嫌だったので、これで僕も彼もイーブン。ハンデはなくなりました。それとラスベガスは1カ月滞在したことで気候とかも分かるし、何を持って行けば良いのかとか準備する面でも気持ちが楽です。APEXでUFCを観戦したことがあるので、その空気感も分かるし、自分に有利な方向に進んでいるような気がします。

いつもは試合が決まると無我夢中になっていて、気がつけば試合の日になっているような感じなんです。今回も普通に勝たないといけない試合で、勝つんですけど──ベガスになって不安要素がなくなったというか。やっぱり少しでも不利なことは減らしたいし、相手が飛行機に乗らないだけでも減量などを考えると有利なわけじゃないですか。中国で戦うということだけで、パフォーマンス的にも相手の方が力を発揮しやすい。それでも負ける気はなかったですけど、ベガスでやる方が気持ち的に楽になりました。

あと2カ月、時間ができたことで時々痛みを感じていたヒザの調子が以前と同じところまで戻せたのも大きいです。12月だと90パーセントだったのが、2月になったので100パーセントで戦えます」

──左ヒザの負傷で、準決勝は組み技や寝技の練習ができない状態で挑みましたが、そこも12月の時点で90パーセントまで回復できていたのですね。

「朝、起きた時にちょっと痛みが出てきそうだって感じることがあって。そういう日は練習内容を変えていたのですが、今はほぼなくなりました。ラントレもグラップリングも、十分に取り組むことができています。

準決勝前は組み技の練習はできなかったです。テイクダウンにしても踏ん張るとヒザが痛かったので、ぶっつけ本番でした。結果、初回から腕がパンパンに張ってしまいました。それまで、あんな風になったことはなくて。足を使うことが、やっぱり怖くて腕に頼ってしまいましたね。それでも試合になると意外と動ける……一方で、怖かったです」

──そのような状況で準決勝を乗り切れたことによって、何を得ることができましたか。

「マーク・クリマコはLFAとかで試合をやってきた選手で、全て判定勝ちというしっかりと勝ちに来る相手でした。そういう選手とあの状況で戦って、自分の力を出せることが分かりました。万全の状況だったら、圧勝できたと思えるし。あの状況を乗り越えることは大きかったです」

──準決勝が終わった時点で、恐らく次は12月の上海だろうという話になっていたのですが、ヒザの復調具合はいかがでしたか。

「試合後、少し違和感がありました。日本に戻って来て、2日後にはボクシングの練習を再開しましたけど、2週間ほどはヒザを使わないトレーニングだけをしていました。それから様子を見つつ、動かせるようになれば少しずつ組み技の練習をやるようにして。正直、痛みが出たりもして……でも試合が決まっていたので無理をした部分もありました。そのなかで、強度を徐々に高くしていきました」

──では、改めてチーニョーシーユエの印象を教えてください。

「ストライカーなんですけど、KOでなくポイントで勝って来る選手ですね。KO勝ちできるタイプではないと思います。ただワイドスタンスでこれまで戦ったことがない構えなので、ちょっと戦いづらいかもしれないです」

──サウスポーで奥手、奥足を使うイメージがあります。しかも、変則的に。

「たまにオーソドックスにもなるのですけど、ほぼサウスポーですよね。負ける気はしないんですけど、やりにくい……やりにくそうだなっていうのはあります。テイクダウンを切られたら、ちょっとやりにくいかもしれないですけど、試合で入りにくいと思ったことがないので。

あの選手に準決勝で負けた韓国のチェ・スングクも、正直あまり強くない。あの選手に判定勝ちだったので、大したことはないかなって。う~ん、まぁ、どうなんですかね」

──Road to UFCに出ているフライ級ファイターは、眼中にないですか。

「チェ・スングクが前回のRoad to UFC決勝で負けた相手、パク・ヒョンソンは戦績が自分と同じで。スタイルも似ていました。あの選手が3RにRNCで一本勝ちしているんですけど、それと同じようになるんじゃないかと。

普通にテイクダウンからコントロールして、一本を取れれば良いかなって。1Rで一本勝ちできるかもしれないですけど、時間を使って3Rにフィニッシュするのが理想的な勝ち方です」

<この項、続く>


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45 AB ABEMA F1 K-1 LFA MMA MMAPLANET o RIZIN Special UFC   キック コナー・マクレガー ヘンリ・ホーフト ボクシング 佐藤天 岡見勇信

【Special】ヘンリ・ホーフトに聞く、日米の違い─01─「なぜ、新人が10度の世界王者と戦えるんだ」

【写真】キックボクシングは当然として、F1のみならずあらゆるオートスポーツ。そしてサッカーにも精通するホーフト。MMA界で成功を掴むためには、他の世界のことも知る必要があることを再確認させられた (C)MMAPLANET

昨年末、MMA界を代表するプロフェッショナルファイター集団=キルクリフFCの総帥ヘンリ・ホーフトが来日し、3度に渡りセミナーを行った。オランダ・キックボクシング界の重量級で飛びぬけた技術力を誇ったホーフトは、北米に渡りMMAファイターのコーチをするようになると、指導力だけでなく将来性を見越したビジネスセンスを発揮し、ジムにネーミングライツを採用した巨大なMMAファクトリーを持つようになった。
Text by Manabu Takashima

世界中からMMAの頂点を目指し、ファイターが集う場の率いるホーフトの来日目的は自身の知識を日本のMMA界の住民と共有し、日本人ファイターがより米国で活躍できるようストラクチャー創りの一歩を示すこと。そんな彼はネーミングライツ使用は終わったが、今もビジネスパートナーである医療機関=サンフォードとの連携で、LFAのサンフォード・ペンタゴン大会を事実上買い興行で年に2度プロモートしている。自らの名を冠としたイベントでもなく、そこまで活動の領域を広げるのは選手の正しい育成こそがファイト・ビジネスにもっとも重要だという想いがあるからだった。


――ヘンリ。改めてですが、今回の来日の目的を説明していただけますか。

「実はもう何カ月間も日本に行きたいと、タカシ(佐藤天)と話していたんだ。ホリデーで訪れるんだけど、ホリデーだけにとどめたくないってね。

そうだね……私は今になっても、なぜMMAで日本人のスターが育たないのか原因が分からないでいる。確かにタツロー・タイラのような才能のある選手が現れてきた。でも、多くのタレントが埋もれている……。ただし、日本の格闘技イベントに関してはK-1時代から思って来たことがあるんだ」

──というのは?

「K-1ではデビューしたての日本人選手をしっかりと育てることなく、オランダのチャンピオンたちと戦わせていた。若い選手をデビュー直後に外国人選手と戦わせるなんて、やってはいけないことだ。ムサシ(武蔵)のような経験のないファイターをピーター・アーツと戦わせていた。なぜ、新人が10度の世界王者と戦えるんだ。全くもって不公平だ。

実際ピーター自身が言っていたよ。『俺は日本人選手と戦いたくない』とね。キックボクシングとMMAは技術的にも違うが、大晦日のRIZINを観戦させてもらったけど、なぜ2戦や3戦しか経験がない選手が、あの舞台で戦っているんだ? なぜ、もっと経験を積まさないのか。カビブ・ヌルマゴメドフやコナー・マクレガーだって、デビュー直後に経験の差があるファイターと試合をしていれば、今のようになっていない。ああいうことをしていると、才能を殺すことになる。

だから、あのようなカードは米国のMMAでは絶対に起こり得ない。私が学んだキックボクシングは日本の極真から誕生したモノだ。オランダの格闘技界の人間は、もの凄く日本を尊敬し、その伝統を重んじている。

米国はそうじゃない。全く違う。だから米国でダッチ・キックボクシングと呼ばれると、『オランダ人は日本のキックボクシングを学んだ』といつも口にしている。オランダのキック界のパイオニアは、キックボクシングをクロサキ(黒崎健時)から教わった。オランダのキックの背景には、常に伝統が存在している。だから、オランダのキックのジムでは今も『押忍』という言葉が残っている。

そうだね、今回はホリデーだけでもなく、セミナーを開いて何か日本の役に立ちたいと思ったんだ。日本のキックボクシングから生まれたオランダのキックボクシング、その技術を知りたいとセミナーにやってくる人達に、私の知識を共有したいと思った。セミナーで儲けようということではない。米国のジム・ビジネスで、十分に稼げている。日本で何が行われているのかを、この目で見ること。そして、普段と何か違う指導をすることで、日本のタレントが何かを得ることができるのではないかと思ってやってきたんだ。

実際にセミナーで選手を指導するだけでなく、コーチたちがどのような考えを持ち、指導をしているのか。その辺りをミーティングをして、知ることができて良かった。そんな自分の来日を支えてくれたABEMAに感謝している。我々のような米国のビッグジムと協力関係を結ぶことで、日本人選手のキャリアアップに関して、現状とは違う道筋を見つけることができるのではないかと思っている。

このスポーツをより良いモノにするために選手やチーム、コーチたちと交流の場を持て色々な人達で出会えた。素晴らし滞在になったよ。サトーもいるし、これから少しでも日本人選手が米国で活躍できるようになり、またコーチ達が米国を訪れて米国のMMAを知る一歩になってくれれば嬉しい限りだよ」

──3度セミナーを開かれましたね。

2度目のセミナーはEXFIGHTで行われた(C)TAKASHI SATO

「そうだね。サトーが関係している人達のところで、ABEMAの協力もあってセミナーをやらせてもらった。2日目のセミナーにはオカミ(岡見勇信)も来てくれたよ」

佐藤天 1度目はニック(末永)さんの借りている施設でセミナーをさせてもらいました。

「レンタルしているスペースだったよね。15人ぐらい参加したけど、凄く興味深かった。米国でセミナーといえば、有名なファイターを見たいからっていうような感覚なんだ。トレーナーのセミナーなんてない。有名なファイターを育てた指導者やジムの人間には、興味を持たない。ただ名声だけを追いかけているのが、米国のセミナーなんだよ。

私は指導者として日本の練習に興味があるし、その背景に存在する日本の文化に興味を持っている。セミナーを受講してくれた皆が、より競争力のある選手になりたいと内面から思ってくれると嬉しい」

──そんな日本の競技者に対して、ヘンリから見て改善が必要な部分はありましたか。

「そうだね……。それが皆の素晴らしい点でもあるけど、相手を尊重し過ぎているきらいがある。私もワイフも、だからこそ日本の皆のことが大好きなんだけど、試合になってもその傾向が強すぎると思う。UFC、MMAは戦いなんだ。ファイティングはスポーツではない。ファイトはファイトだ。相手を尊敬する気持ちは、ファイトが終わってから持てば良い。そのメンタル面だね、変わる必要があるのは」

──日本人でもキック系の選手はMMAやグラップリングの選手よりも、ファイターであり喧嘩ができる人が多いかと思います。

「喧嘩ができてもしょうがない。ファイトとブロウルは違う。礼儀は必要だ。戦いが終って握手をしない選手のことは、私も好きではない。でもケージの中で良い人である必要はないということなんだ。人々を尊敬する姿勢を持つ。それが日本人の良さだよ。そのメンタリティを捨てる必要はない。

ただし、ケージの中では相手をぶちのめしベストファイターになるために戦う必要がある。私達のジムは、プロフェッショナルしかいない。ベストになるために練習している。より競争力をつけるためにね。強くなって、スーパースターになるためにファイターは厳しいトレーニングを日夜続けている。

彼らを率いる私も、どこかに……日本でも良い──最高のトレーナーがいて、最高のジムがあるなら見学して、指導者と言葉を交わしたい。それが我々、キルクリフFCのメンタリティだ。喧嘩なんかする必要はない。相手を尊敬する気持ちは必要だ。ただし、それはケージの外での話だ。

ファイターを強くするにはファイターが正しくあるだけでなく、コーチが正しくあり、ジムが正しくあり、オーガナイザーによる正しいマッチメイクが必要なんだ。力の差が明らかにある試合を組んではならない。このスポーツを日本で普及させるためには、そういうことをしていてはダメだ。目の前のことに捉われるのではなく、将来のビジョンを持たなければならない。オーガナイザーは次の10年を考えてイベントを行う必要がある」

──セミナーを行うだけでは、その全てが解決するとは思えません。ただし、貴重な一歩になったと思います。と同時に日本を何とかしたいというヘンリにとって、今回最も伝えたいことは何だったのでしょうか。

「自分のことを単なるジムのトレーナーだけだとは思っていない。私は先生だ。先生の仕事は教えること。それが私の人生でもある。今回の訪日でも、私の知識を皆にシェアしたいと思っていた。そして、その場があることで私も学ぶことができる。私の考えを伝え、その反応で得るものがあるんだ」

<この項、続く>


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45 AB Black Combat DEEP K-MMA MMA MMAPLANET o ONE RIZIN ROAD FC Special UFC YouTube   パク・シユン パク・テヒョン ブラック ライカ 伊澤星花 青井人

【Special】K-MMA、2023年・秋。パク・シユンを指導=パク・テヒョン「伊澤選手と。絶対に勝てる」

【写真】次長課長!!!と呼びたくなるパク・テヒョン館長が、シャイなパク・シユンに変わり色々と話してくれました (C)MMAPLANET

日本と韓国、MMAにおいても永遠のライバルである両国。Road FCを頂点とするK-MMAは規模的には日本のRIZINのようなビッグステージを持たない。対してUFCファイターの評価は引退したコリアンゾンビに代表されるように、韓国勢の方が高い。9月のDEEP vs BLACK COMBATで後者が日本の老舗を圧倒した。日韓関係に少し変化が見られるようにもなった10月最終週に訪韓、K-MMAの今を歩いた。
Text by Manabu Takashima

特集「K-MMA、2023年・秋」。最終回後編、パク・シユンを指導するパク・テヒョン館長の言葉に――日本が強くなるための色々なヒントが隠させているように感じられた。

<パク・シユン・インタビューPart.01はコチラから>


――8割もできていれば、上々ではないですか。

パク・テヒョン 最後の寝技の展開もスラムをして印象点を稼ごうと思っていたのですが、まだ10秒あると思っていたのに実際は3秒しか残っておらず、そこはできなかったです。

――8割と試合中のアレンジと。結果的に快勝となりましたが、パク・シユン選手ご自身では試合前にどれほど勝てる自信があったのでしょうか。

「チームや周囲の応援があったので、不安はなかったです。絶対に勝てると信じることができました」

――BLOWSの青井人選手など戦い方以外は、全体的に韓国勢の方が対戦相手の研究を含め、対抗戦に向けての取り組みは日本勢を上回ったのかと。

キム・テヒョン 私は日本やシンガポールでも日本人選手たちの練習を見させてもらったことがあります。対策練習とは違うかもしれないですが、長所を伸ばすトレーニングに力を入れていた印象があります。グラップリングが強い選手は、打撃よりもグラップリングに時間を費やす。そんな風に思いました。

韓国人の場合、得手不得手は関係なく満遍なく練習します。全てが平均かそれ以上になるように。レスリング、打撃、グラウンドもある程度できる。そうなると試合に向けて、幅の広い戦略を練ることができます。そこが対抗戦で見えた差かもしれないです。

――パク・テヒョン館長は打撃、あるいはシュートボックスのスパーリングではストライキイングは何割ぐらいの力を入れて指導しているのでしょうか。

「何割のパワー……重点を置いているのは、パワーでなくスピードと精度です。それと日本の選手の練習を見させてもらった時に、本当に強い選手が集まっていました。全員で底上げする。皆で強くなると。対して韓国では、弱い練習性も選手練習に混ざっています。ジム単位の練習が多いので、強い選手は2、3人ほどです。その少ない選手たちの力が、頭抜けています。結果、日本ではプロとして戦って行ける選手が多い。対して、韓国は飛びぬけた選手しかプロになれないかと思います。結果、韓国のMMAは層が日本のように厚くないです」

――なるほどぉ、そういう見方ができるのですね。特に韓国は女子選手の層が薄く感じますが、DEEPのベルトを獲ったことでより試合機会が増えてくるという期待はありますか。

「DEEPのベルトは凄く価値があります。国内だけでなく、国外で試合が増えると思います」

――大島選手は当然として、伊澤星花選手も体重を落として取り返さないといけないという発言をしていました。

キム・テヒョン レスリングの練習をしていた時に、男子の国家代表ともやっていました。なのでレスリングのレベルは相当に高くなっています。一番のシナリオは伊澤選手と対戦できることが一番です。大島選手は柔道流の投げなど、彼女にとって理解が十分でない組みがあります。対して伊澤選手の組み、テイクダウンはレスリング的に見て彼女よりレベルが低いです。絶対に勝てるという自信があるので、ブラックコンバットに招聘してほしいのですが、次は無理だと言われています。

――大晦日のRIZINがあるので、1月は難しいですよね。

キム・テヒョン ブラックコンバットはストライカーに有利なルールなので、是非とも実現させたいです。でも、難しいならしょうがないです。

――パク・シヨン選手は日本でも好感度が高いですが、これでキム・テヒョン館長は日本で敵だらけになりましたね(笑)。

「アハハハハハハ」

キム・テヒョク 私は日本を愛していますから、お手柔らかにお願いします。

――冗談ですので。

「アハハハハ。館長はジムでもミスターチルドレンやB’Zとか日本の歌ばかりかけるんです」

――ナイスフォローです。では改めて、二冠王になってどのようなキャリアアップを考えていますか。

「UFCやONEは時間がかかるかと思うので、好きな日本で……RIZINに出場できれば嬉しいです」

キム・テヒョン 伊澤選手とブラックコンバットで戦い、2戦目をRIZINで戦うのがベストですね。

――……。せっかくシユン選手がフォローしてくれたのに……。

「アハハハハハハ」

キム・テヒョン 試合は試合ですから!!


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Black Combat DEEP MMA MMAPLANET o Special イ・ソンハ イ・ファンソン キック ブラック 大原樹理

【Special】J-MMA2023─2024、大原樹理─02─「この体のおかげで2カ月に1回試合ができます」

【写真】韓国での激闘が、大原を強くさせないわけがないっ!! (C)BLACK COMBAT

J-MMA 2023-2024、第二弾・大原樹理インタビューの後編。
Text by Shojiro Kameike

ここでは大激闘となったイ・ファンソン戦の試合内容について振り返る。大原は開始直後のアクシデントを如何に乗り越え、逆転KO勝ちを収めたのか。さらにブラックコンバット出場についても、今後の展望を語ってくれた。

<大原樹理インタビューPart.01はコチラから>


――試合映像では大原選手が入場してくると、会場も大いに盛り上がっているように見えました。現地の認知度などはいかがですか。

「それが――日本とは違って、意外と韓国では大原樹理が人気なんですよ(笑)」

――日本と違って(笑)。

「アハハハ。佐伯さんからも『せっかく韓国で人気が出ているのだから、しばらくブラックコンバットで試合をしてみても良いんじゃないか』と言われていて。試合当日も会場の外に出たら現地の方が『一緒に写真を撮ってほしい』とか、日本語で『頑張ってください!』と声をかけてきてくれました。大会自体は今年2月の試合の時も盛り上がっていましたけど、11月の大会のほうが盛り上がっていたようには感じましたね」

――試合が始まると、イ・ファンソンのパンチを受けて右目を負傷してしまいました。

「開始1分で相手の左フックを受けて、全く右目が見えない状態になってしまい……。見えなくなった瞬間は、とりあえず組んで時間を潰し、回復を待とうと思って。でも拭ったら出血しているし、視界も回復しないので『これは折れたな』と。そのせいで距離感は掴めず『どうしようかな……』と考えていました」

――要因は異なりますがイ・ソンハ戦と同様に距離感が掴めず、「どうしよおうかな」と考える試合展開に……。

「はい、同じようにシンドイ試合ではありました。でも今回は気持ちも違ったんですよ。『いいや。殴り合おう』って。殴り合いの打撃なら絶対に負けない。血まみれになろうと、どうなろうと――とにかく殴り合おうと思いましたね。

距離感が掴めないから、1Rはいくら手数を出しても当たらなくて。当たっても、いつもどおりの感覚がなかったです。2Rになるとイ・ファンソン選手も出て来たので、とにかく右目だけはガードで守りながら、相手のパンチはパーリングしながらジャブを突くことだけ考えました。そのジャブが当たることで、少しだけ距離感を修正することができたんです」

――片目が見えなくても、自分の打撃で相手の位置を探ってから左ヒジを当てたのですか。

「そうです。自分の打撃だけではなく相手のパンチを食らっていたら、それだけ近い距離なわけじゃないですか。『これは踏み込めば当たる』と左の横ヒジを出したんですよ。

当たった瞬間は感触があったし、相手の額が切れているのも分かりました。でもイ・ファンソン選手の動きは止まらず、それまで自分の打撃も当たっていないから『もう一回、他のどこかを切ることはできないかな』と考えていました」

――結果として右カーフから右ハイが当たり、フィニッシュは右ストレートに続く右前蹴りでした。なかでも前蹴りを繰り出したのは、あの瞬間が初めてです。

「だから相手は、あの前蹴りが見えていなかったと思います。その直前に相手のセコンドが顔面への攻撃を警戒して、イ・ファンスン選手にガードを上げさせたんですよ。すると僕のセコンドから『前蹴り!』という声が聞こえて、前蹴りを出したら当たりました。つまり僕たちはセコンド、チームとして試合に勝ったんです」

――なるほど。ボディへの前蹴りでダウンしたあと、サッカーボールキックのダメ押しもありました。

「ブラックコンバットのルールって結構過激で、サッカーボールキックも有りなんですよ。あの試合は散々やられてしまっていたので、『前蹴りだけで終わらせたくねぇ』と思って樹理キックでトドメを刺しました」

――あのサッカーボールキックを「樹理キック」と呼んでいるのですか。

「今、咄嗟に名付けました(笑)。どうですか?」

――今後は「樹理キック」でいきましょう! この勝利でイ・ソンハ戦の敗北は払拭できたと思いますか。

「自分の中では払拭できました。やっぱり『追う立場』と『追われる立場』というか――DEEPのベルトを獲ったあと、イ・ソンハ戦の時も自分はどこかで『追われる立場』の意識を持っていたと思うんです。でも、そのベルトを失って自分は『追う立場』に戻りました。追う立場の人間が、ちょっとやそっとの怪我でウダウダ言っていられない。そういう逆境も当然だと思って、韓国に乗り込みましたから。気持ちで勝った試合、ということですね」

――大逆転KO勝ちの興奮もあったのか、次の対戦相手候補としてキム・ジョンギュンがケージインしてきた時は本気でイラッとしていましたね。

「イラッとしましたよ! そもそも『ジムのオープンがあるから』って自分との試合を断っておいて、ここで出てくるなんて面倒くさいと思いました。しかも『準備期間が必要だと思って今回のオファーは断ったけど、こんな試合内容なら準備期間はいらなかった』とか言いやがって。だったらオファー受けろよ(苦笑)。ケージの中でも言ったとおり、僕は彼にチャンスを与える気はないです」

――大原選手としては次に誰と対戦したいですか。

「ランキング2位のパク・ジョンホンです。キム・ジョンギュンは今、ライト級3位で。チャンピオンのイ・ソンハと対戦するためには、1位の僕が2位のパク・ジョンホンを倒すほうが手っ取り早いじゃないですか。3位のキム・ジョンギュンを倒したとしても、またケージの中でパク・ジョンホンと長いやり取りがあって、さらにパク・ジョンホンに勝ったあとイ・ソンハと長いやり取りをして……というのは、どうなのかと」

――ブラックコンバット特有といえる、試合後のトークアワー問題ですか(笑)。

「そういうわけじゃないですけど――トーク時間は長いです(苦笑)。とにかくワンクッションを挟むのが面倒くさくて。だったら先にパク・ジョンホンを潰しておけば、僕がイ・ソンハと対戦することについて誰も文句を言えなくなりますよね」

――そういったブラックコンバット側の選手との試合は、日本で行いたいですか。それとも韓国で実現させたいですか。

「やっぱり僕が単身韓国に乗り込んで、ベルトを獲り返すほうがカッコ良いですよね。そこでDEEPのベルトを獲り返し、ブラックコンバットのベルトも巻きたいです」

――ちなみに試合後、右目の腫れはどうなったのでしょうか。

「1~2日は腫れが酷かったのですが、1週間もしないうちに元通りになりました。試合後に診てもらっても『これは折れていない』と言われ、すぐに帰国できましたし。格闘技の才能はないけど、怪我をしない才能はあるんじゃないかと」

――あれだけ腫れ上がって……怪我はしていますよね(笑)。

「いやいや、あんなの怪我のうちに入りませんから。帰国して病院で診察してもらっても、目の中は全く傷ついていませんでした。この体のおかげで2カ月に1回試合ができますから、2024年もどんどん試合をしていきたいです。宜しくお願いします!」


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MMA MMAPLANET o Road to UFC Special UFC UFC295 UFN UFN231 ケヴィン・ボルハス ザルガス・ズマグロフ ジャイルトン・アルメイダ ジョシュア・ヴァン デリック・ルイス ボクシング ムハマド・モカエフ ライカ 大沢ケンジ 平良達郎 柏木信吾 水垣偉弥

【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:11月 ヴァン×ボルハス「MMA歴3年のミャンマー人選手が……」

【写真】ジョシュア・ヴァン、2024年の要注目のフライ級ファイターだ(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は水垣偉弥氏が選んだ2023年11月の一番──11月11日に行われたUFC295のジョシュア・ヴァン×ケヴィン・ボルハス戦について語らおう。


――11月の一番として、水垣さんにはUFC295でのジョシュア・ヴァン×ケヴィン・ボルハスを選んでいただきました。

「僕はこのジョシュア・ヴァンという選手にすごく注目していて、ヴァンは22歳と若い選手なのですが、本格的にトレーニングを始めたのが19歳らしいんですね。しかも彼はミャンマー人で、どのタイミングでアメリカに来て練習しているかは定かではないのですが、MMA歴3年のミャンマー人選手がこのレベルのMMAを出来てしまうのかと驚きました。そういう部分でとても気になっている選手です」

――ヴァンはFury FCでフライ級王者となり、今年6月からUFCに参戦して、ボルハス戦がUFC2戦目でした。

「UFCデビュー戦でザルガス・ズマグロフと対戦して、ズマグロフが負けが続いている状態ではあったんですけど、その相手にも勝っていますし、とにかく彼にはセンスを感じますね。世代・キャリア的には平良達郎選手と同じだと思うので、これからのフライ級を面白くしてくれる新しい選手としても期待しています」

――僕も改めて試合映像を見直して、格闘技を始めて数年の選手なのかと思いました。特にセンスを感じたのは打撃の部分です。構え方、ステップ、動きのキレ、力の抜け具合など。

「ボルハス戦はほぼ打撃の展開でしたが、僕も打撃には非凡なものを感じました。ボディブローを交えたパンチのコンビネーションや余裕を持った試合運びなど、格闘技歴数年のレベルじゃないです」

――所属ジムの4oz. Fight Clubもトップ選手が多数存在するジムではないんですよね。

「そうなんですよ。もちろん誰と練習しているかが強さにつながるわけではないですが、名門ジムの所属ではないからこそ、どんな練習をしているんだろうという興味もあります。僕はどうしても打撃と比べると組み技・寝技の習得には時間がかかると思っていて、この試合でも打撃とテイクダウンのタイミングの良さは見てとれたのですが、打撃からの流れでテイクダウンを取っている=打撃のスキルを活かしてテイクダウンしている印象だったんですね。改めて打撃はセンスがあると一気に伸びるもので、それに比べると組み技・寝技は時間がかかるんだなと思いました」

――もちろん組み技・寝技にもセンスはあると思いますが、練習を始めて数年で飛躍的に伸びることはないような感覚はあります。

「例えば打撃を何年もやっている選手と格闘技歴は浅いけど打撃のセンスがある選手がスパーリングしたら、後者が有利になることもあるのが打撃じゃないですか。寝技でそれと同じことはなかなかないと思うんですよね」

――統計的をとっていないので一概には言えませんが、そういうイメージはありますね。

「もちろんボクシングで世界チャンピオンを目指すとなれば、子供の頃からボクシングをやるに越したことはないと思いますが、MMAという意味では組み技・寝技を先に始めておく方がいいのかなと思いますね」

――あとはMMAのセンスという部分では3Rにパンチからテイクダウンをとった場面など「ここでテイクダウンにいけるのか!」と思いました。

「タイミングが抜群でしたし、あの流れでテイクダウンにいけるのは試合の組み立てに余裕を持っていますよね。1Rにダウンを奪われて、2Rに打撃で盛り返して、3Rの序盤にテイクダウンにいくのはMMA的な頭の良さを感じました」

――逆に3Rにトップキープできるタイミングで足関節を狙って失敗するなど、まだ寝技にそのものには慣れていないのかなと。

「僕もそう思います。ああいう純粋な寝技の攻防になると、まだ格闘技を始めて3年の選手だなと思いますよね。だからMMAをやるにあたって、早い時期に組み技・寝技をやることは大事だと思うし、相手をコントロールするバランス感覚や重心の移動などは、早い時期に時間をかけて覚えておくことがいいのかなと思いましたね。ヴァンのように打撃はセンスがあれば2~3年でここまでのことが出来るようになるわけで、なおさら組み技・寝技は早くやっておくべきだと思います」

――これもお伺いしたかったのですが、ヴァン選手はスタンドでの立ち位置とプレッシャーのかけ方が絶妙だと思いました。常にボルハスに対して何かアクションをかけられる位置で戦っていたと思います。

「僕もそうだったんですけど、プレッシャーをかけていくと、どうしても(距離を)詰めすぎちゃうんですよね。だから自分が一番得意なオイシイ距離をキープするというのは実は難しくて、距離をキープすることに集中すると自分のプレッシャーが弱まってしまう。僕の場合は自分の得意な距離になったらそこで打撃をまとめて、そのままプレッシャーをかけてクリンチになっても構わないと思ってやっていました。でもヴァンは相手のレベルがあったにせよ、自分のオイシイ距離に長くいることが出来ていて、距離感のセンスも感じましたね」

――またこういったポテンシャルを持った選手がミャンマー人であるということも驚きです。

「Road to UFCでもインドネシアやインドなど、今まであまり見ることがなかったら国から選手が出てきて、まだまだ粗削りではあるんですけど、みんな試合をする度にどんどん強くなっているじゃないですか。一つきっかけがあればその国のMMA人口は増えると思うし、ヴァンのようにUFCで活躍する若いニューヒーローが出てくると、彼に憧れてMMAを始めるミャンマーの選手も増えるでしょうね」

――しかも一攫千金を目指して早くから米国に住んで練習する選手も出てくることもありそうです。UFCのフライ級はトップグループのメンバーがある程度固まっているので、ヴァン選手のような新しい世代の選手たちが出てくることで階級が活性化しそうです。

「ムハマド・モカエフも愚痴っていましたよね、『ランキングの上のヤツらが試合をやってくれない』って。まだヴァンはモカエフや平良選手に比べると荒さはありますが、その分、化ける可能性があると思うので、数年後どう成長しているかが楽しみですね。本当に僕はこの選手はセンスに溢れていると思うので、インタビューして細かいことをたくさん聞いてみたいです。

もしかしたらMMAの練習は3年だけど、ミャンマー時代に親戚のおじさんがボクシングをやっていて、子供の頃から教わっていた…とか、そういうエピソードがありそうな気もするんですよね(笑)」

――そうじゃないと辻褄が合わないんじゃないか、と(笑)。

「はい(笑)。でもそう勘ぐってしまうぐらい、打撃のセンスや技術はピカイチだと思います。もうちょっと強い相手とやれば穴も見つかると思うのですが、彼のセンスやポテンシャルの高さには注目したいです」

――そして番外編としてUFN231でのジャイルトン・アルメイダ×デリック・ルイス戦についても聞かせてください。この試合は5分5Rのうち、アルメイダが合計13回マウントポジションをとっていたにも関わらず、フィニッシュまで至らず判定決着になるという不思議な試合でした。

「UFNとはいえ、UFCという名がつく大会のメインイベントで、こんな試合があるのか、と。試合前からルイスがテイクダウンされたらキツイとは思っていて、アルメイダが1Rにテイクダウンしてマウントまでいったんで、このまま早いタイミングでフィニッシュするだろうなと思って見ていたんです。そうしたらルイスが粘るというか、アルメイダが攻めあぐねるというか。何とも言えない展開が続きましたよね。3Rまではアルメイダがフィニッシュするかも?と思っていましたが、4・5Rはアルメイダがマウントをとってもフィニッシュできなそうだな…と思うようになっていました」

――グラップリングでマウントやバックをとられて一本取られたくないからディフェンスに徹して、そのまま終わるという試合もありますが、MMAの試合であれだけ簡単にマウントをとらせる選手もいないですし、あれだけマウントをとっても攻めきれない選手も珍しいですよね。

「ストライカーに一切ポジショニングの概念がない。グレイシー一族だけがポジショニングを知っている。初期UFCを見ているような錯覚に陥りました。色んな選手や試合を見ることができるUFCですが、2023年にこういう試合を見たのは逆に新鮮でした」

――今回もありがとうございました。2024年もよろしくお願いします!

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DEEP DEEP112 DEEP113 DEEPフライ級GP MMA MMAPLANET NAIZA FC55 o RIZIN RIZIN44 Special YouTube   ジアス・エレンガイポフ チャンネル 宇田悠斗 山本アーセン 平良達郎 扇久保博正 本田良介 神龍誠 福田龍彌

【Special】J-MMA2023─2024、福田龍彌「ユーザー(ジューサー)というものの凄さを改めて知りました」

【写真】負けじ魂が、福田をどこまで成長させるか (C)SHOJIRO KAMEIKE

2023年も残り僅か、2024年という新たな1年を迎えるには当たり、MMAPLANETでは2023年に気になった選手をピックアップ──過行く1年を振り返り、これから始まる1年について話してもらった。
Text by Shojiro Kameike

J-MMA2023-2024、第四弾は12月6日(現地時間)にカザフスタンの首都アスタナで開催されたNAIZA FC55で、ジアス・エレンガイポフに敗れた福田龍彌に話を訊いた。DEEPフライ級GPで優勝し同級暫定王座も獲得、続いてRIZINで山本アーセンを下した2023年最後の試合で喫した敗北について、福田は何を想うのか。

■2023年福田龍彌戦績

2月11日 DEEP112
〇3-0 宇田悠斗(日本)

5月7日 DEEP113
〇3-0 本田良介(日本)

9月24日 RIZIN44
〇3R1分37秒 by TKO 山本アーセン(日本)

12月6日 NAIZA FC55
●0-3 ジアス・エレンガイポフ(カザフスタン)


――カザフスタンでの試合後、風邪をひいていたそうですが、それは帰国後ですか。

「試合の日の夜から前兆はありましたね。とにかく無事に帰国することが一つのミッションやったので、それは達成できました(笑)。今回はまずカザフスタンのアスタナという街まで行くのがメッチャ大変だったんですよ。

まず朝10時ぐらいの飛行機で日本を経ち、2回乗り換えて、現地に着いたのは夜中の2時ぐらいでしたから。それは現地時間なので、日本でいうたら朝5時ぐらいですか」

――大会前にはライブ中継に関して、当初は有料だったメインカードも無料視聴できるようになったなか、ひと悶着あったそうですね。

「もともと『オンラインで中継する』とは聞いていて。僕の周りでも視たいと言ってくれている人たちも多かったから、現地で視聴方法を確認したんですよ。でもNAIZA FCのYouTubeチャンネルは日本で登録しているクレジットカードでは決済できない、と。そうなると日本では誰も視られへんから、マネージャーさんがプロモーターと交渉してくれて、メインカードも無料で視られるようになったという流れです。

僕は『みんなに視てほしいから試合をしている』というわけではないんです。でも応援してくれている人には試合を視てもらいたくて。そういう意味では、無料中継を勝ち取ったのが今回唯一の功績じゃないですか(笑)」

――唯一……(苦笑)。現地に着いてからコンディション調整はいかがでしたか。

「それがまたホテルも凄くて。半身浴をしようと思ってバスタブにお湯を溜めたら、なぜか僕の部屋はどこからか漏水して、居住空間のカーペットまで水浸しになるという。ただ、部屋はずっと暖房がガンガン効いていて乾燥しているんですよ。だから部屋のカーペットがビチャビチャになったのが、ちょうど良いぐらいで」

――アハハハ。しかし、その状態だと現地での減量はうまく行うことができたのでしょうか。

「日本で体重を落とすよりもシンドイ状況でした。ホテルのサウナも使えるけど、日本のサウナとは違う感じで――結局、必死でエアロバイクをこいで落としましたね」

――試合結果はフルランドを戦い、判定負けを喫しました。まず率直な感想から聞かせてください。

「う~ん、なんか現実を感じてしまいましたね。まず1R、相手の馬力にビックリしたんですよ。今まで感じたことのない馬力で。テイクダウンに入られた時、原チャリで突撃されたんかと思いました。でも『こんなに強いヤツがおるんか』と僕のテンションは上がって」

――テイクダウンを奪われたあと、立ち上がらずボトムから三角絞めを狙いました。あの展開は、スクランブルでスタミナを消耗しないようにという作戦だったのですか。

「あの時は相手をバテさそうと思っていました。ジアスにとっては『行けそうで行けへん』という状態にして、スタミナだけ使わせてやろうと。現に1Rが終わったら口を開けて、メッチャ肩で息をしながらコーナーに帰っていくから『あぁ、良かった』と思ったんですよね。5Rあるし、次のラウンドでスタミナを使い切らせて3~5Rで倒そうと考えました。でも1分のインターバルで全回復してきよるんです」

――えっ!?

「2Rに入っても全く出力が落ちなくて。だから3Rには相手のことが機械のように感じられましたよ。壁に押し込まれている時のプレッシャーも落ちない。今までの試合を視てもらったら分かると思うけど、僕もスタミナが切れるほうじゃないから。でもそれを凌駕するものを感じたというか――ユーザーというものの凄さを改めて知りました。負けた自分が、そんなことを口にするのも情けないけど」

――ユーザー、ですか。

「たとえば僕たちは5キロを走ることを考えて、ペース配分をするんですよ。でもジアスは100メートル走のペースで1キロ走っている。ペース配分して走っている僕に追いつく前に全回復して、また1キロ全力疾走していく。ジアスの力の使い方が、30秒一発勝負のシチュエーションスパーみたいなペースで。その力で25分間、攻めてくるんですから」

――福田選手がケージに押し込まれた際、しっかり腕を差し上げてバランスを取っていたにも関わらずテイクダウンされたことには驚きました。

「さらにジアスは巧さも持っているから大変なんですよ。技術的な面でも、レスリング力には差があったとは思います。でも抑え込まれても立つことはできたし、『今の自分がやっていることは通用するんやな』とは感じました。

ジアス戦では僕のほうが戦い方を変えていたら、もっと他のこともできたかもしれないです。ただ、それでは自分のほうが3~5Rもたへん。対してジアスは5Rまで同じペースで戦える。そういう状態で、どうやったら勝てたのか。一発カウンターを合わせるしかないけど、こちらの打撃にテイクダウンを合わせてくる巧さは持っていて。さらにインターバル中に全回復してくるから、徐々に崩して削っていくこともできませんでした」

――するとジアス戦に関しては悔しさというより、ユーザーに対して……。

「いや、メッチャ悔しいですよ。何年振りやろう? 平良達郎戦でも神龍誠戦でも、こんなに悔しくはなかったです。今回は言葉にするのが難しいぐらい悔しくて。試合はひたすら投げられて、立つけど投げられての繰り返しやったから、もう二度とそんな情けない姿は見せたくない。

僕はデビュー当初、負ける場合は漬けられることが多かったんですよ。それが悔しくて、どうやって漬けられんようになるかって考えながら、12年間やってきました。だからテイクダウンディフェンスには自信を持っていたし、倒されても立ち上がることに関しては血眼になって取り組んでいきた自信がある。実際に試合でも結果を出してきたと思います。

でも今回は自分がやってきたことを突破され、完膚なきまでに叩きのめされた。それがホンマに悔しいんです。今も毎晩のように思い出して、悔しくてジッとしてられへんぐらい――自分に対して悔しい」

――……。

「そういう意味では、今のモチベーションは過去イチ高いです。もっともっと強くなる。そのためにも、今後の取り組みも含めて考え直していきますよ。来年にはもう32歳で、きっと40歳まで現役を続けることはないと思います。だからこそ、こういう悔しい経験は今回で最後にしたい。自分の中では答えが出ているので、いろいろ修正しながら2024年はまた暴れようかなと思っています」

――2024年はどのような1年にしたいですか。

「早ければ2月には試合したいですね。個人的にはバンタム級でやりたいとは思っています。このままフライ級にこだわっていても――たとえばRIZINやと扇久保博正さんとは戦ってみたいです。でも扇久保戦に行くまで、あと何試合やらないかんのやろうと考えると……今すぐオファーが来たら戦いますけど(笑)。DEEPフライ級では、神龍君が統一戦をやってくれるなら試合したいです。それがDEEPフライ級で唯一やり残したことやから。

どうせ福田が勝つやろ、と思われるようなマッチメイクやと面白くない。僕自身も燃えへん。それやったらフライ級より、バンタム級のほうが新鮮で燃えるカードが組まれるんじゃないかと思っています」


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AB DEEP DJ.taiki MMA MMAPLANET o RIZIN ROAD FC Special アレックス・ヴォルカノフスキー イスラム・マカチェフ パンクラス 井村塁 修斗 南友之輔 原口伸 原口央 木村柊也 海外 田嶋椋 藤井伸樹

【Special】J-MMA2023─2024、原口央─02─「いろんな若いのがいて世代交代されないように必死」

【写真】この痺れる舞台へ、再び (C)MMAPLANET

J-MMA 2023-2024、第一弾・原口伸、後編。
Text by Manabu Takashima

2024年もRoad FCのトーナメントが出ることが確定という原口だが、その前に国内でも1試合を挟みたいという。そこで挙げられた各プロモーションのバンタム級ファイターの名前は原口が如何に自分の現在の位置を理解し、さらなる高みを目指そうとしているのかがしっかりと伝わってくる選手たちだった。

<原口央インタビューPart.01はコチラから>


――ところで原口選手って、SNSでファンに何言われると反応していますよね。結構、挑発的に。

「ハハハハ。楽しんでいます。僕、普通に言っちゃうんです。思ったことが、すぐに出てしまって(笑)。相手にすればするほど、回りも反応するので面白くて。武田(光司)がインスタLIVEをやっていて、そこに僕が入って。武田が僕を弄ると色んな奴が反応してきて。そいつら一人一人に返信します。『うるせぇ』とか『直接、言いに来い』とか」

――アハハハ。そんなことしてもしょうがないじゃないですか。

「めっちゃ、楽しんでいます(笑)」

――凄く意外な気がします。

「アンチとかも全く気にならないので」

――SNSのやりとりも、打ち合いもほどほどにお願いします(笑)。ところでトーナメント決勝直後、その後のキャリアップに関してはどのように考えていましたか。

「Road FCのトーナメントは、2024年もジョン(ムンホン)代表から直接『また出てほしい』と言ってもらえたので。僕自身、また出たい――負けた直後から来年のトーナメントに出たいと思っていました。本当に色々と経験ができました。日本とは全く違うので。僕もそうですし、(原口)伸も対戦相手が急遽代わったり、そういうことが当たり前にある。そういうときの適応能力が、海外でやっていくには必要になってくる。

伸なんて準決勝は相手が代わって、決勝は大会自体がなくなりましたからね(苦笑)。世界のトップでやるには、そういうことにも対応できないと。本当はなるべく公平な状況で、ここまで練習してきたことをぶつけ合いたい。そう思っています。あのアレックス・ヴォルカノフスキーもイスラム・マカチェフとの2度の対戦は、全然動きが違っていました。準備って大切です。

でもショートノーティスで試合を受けることも凄いですし、そういうことを当然だと思えないといけない。僕も中原(由貴)選手との試合で経験しているので。1週間前のオファーを受けて戦ったことで、準備の大切さは身に染みて分かりました。それを経験したことで分かって。やはり経験して良かったです」

――そのような覚悟で挑むRoad FCのトーナメントですが、63キロをバンタム級として、王座決定トーナメントをライト級とともに初夏から開くという情報も入ってきます。

「フェザー級の選手が下げてくる……世界各国から、強い選手が集まってきそうです。その来年のトーナメントで頑張らないといけない」

――開幕まで半年ほど時間が空くと、考えられます。

「なので、その前に一戦を国内で挟んでも良いかなと」

――それはどの大会で?

「どこでもオファーをくれれば……どこでも良いです。RIZINが九州・佐賀でLANDMARKを開くので――地元の鹿児島に近いし、出たいですね。九州だし、盛り上がるだろうなと。でも強い選手と戦いたいです。LANDMARKならケージで、僕の土俵だと思っているので。

まぁRIZINもそうだし、DEEP、修斗、パンクラス――どこでも良いので、強い選手とやりたいです……。そうですね、これ書いてもらって良いですか」

――ハイ、なんでも。

「修斗なら藤井伸樹選手、僕も藤井選手もスタミナがドロドロの試合ができるので、ゾンビ系のファイトがしたいです。あとDEEPならDJ.taiki選手」

――人選が渋くて、またしっかりと実力者を指名していますね。

「DJ選手に勝てれば、上の選手と戦って良いということだと思うんです。それとパンクラスなら田嶋椋選手か井村塁選手、やっぱり強い選手がいるんで。僕、ZSTで河村(泰博)選手に負けているから……何も言えないですけど(苦笑)」

――今の原口選手なら、今名前を挙げた各プロモーションの選手なら誰でも戦える権利があると思います。ところでBRAVEでは空手の南友之輔選手、日本拳法の木村柊也選手という勢いのある新人がデビューしました。

「南が同じ階級で、木村はフェザー級ですけどプロ練習にもいつも来ますし、一緒に練習をしています。打撃に関しては凄いです。打撃だけならメチャクチャやられます、ボッコボコに。まだプロ2戦と1戦なんですけど、学ぶことしかないですね。それに南、木村、伸以外にも強いのが集まってきています。コンバットサンボ全日本王者の熊崎夏暉とか、いろんな若いのがいて世代交代されないように必死です(苦笑)」

――気が早いですね(笑)。そんな原口選手ですが、2024年の飛躍に向け意気込みの方をお願いします。

「2024年もRoad FCのトーナメントに出るので、今度はしっかりと優勝します」


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MMA MMAPLANET o Special キム・ジェヨン ブログ 岡見勇信

【Special】J-MMA2023─2024、岡見勇信「やっぱり僕は自分が信じた武器をぶつけるしかない」

【写真】試合後に自嘲気味な笑みでなく、会心の笑みが見られたのは嬉しい限りだ (C)TAKUMI NAKAMURA

2023年も残り僅か、2024年という新たな1年を迎えるには当たり、MMAPLANETでは2023年に気になった選手をピックアップ──過行く1年を振り返り、これから始まる1年について話してもらった。
Text by Takumi Nakamura

J-MMA 2023-2024、第三弾は12月2日のプロ修斗公式戦「FIGHT&MOSH」でキム・ジェヨンに判定勝利した岡見勇信に話を訊いた。2023年の試合はこのジェヨン戦のみだったが、この試合に向けた取り組み、そして試合で見せた必死な姿は見るものの心に響いた。岡見がジェヨン戦で何と戦っていたのか。

■2023年岡見勇信戦績

12月2日 プロ修斗公式戦FIGHT&MOSH
〇2-1 キム・ジェヨン(韓国)


――キム・ジェヨン戦は約4年ぶりの勝利でした。試合を終えた時は率直にどのような心境でしたか。

「色んな感情がありましたよね。カード発表動画でも言ったように、ジェヨン戦は終わりを考えずに気持ちはフレッシュに新たな冒険に出る、終わりを見据えた戦いはよくないと思う試合でした。そういった意味で再スタートを切れるのか、それとも終わってしまうのか。そのどちらかという試合だったので、勝つことが出来てホッとしていますし、厳しい戦いでしたけど、自分がやろうとしていた前に出る姿勢は貫けたかなと思います。

そういうファイターとして大事な部分をオンラ・ンサン戦からずっと考えていて、その課題を自分に問う試合だったので、そこでなんとか…なんとか…なんとか……ファイターとして戦いきれたことがホッとした感じがありますね」

――試合そのものは打撃でプレッシャーをかけて何度もテイクダウンにトライするという展開でした。それを想定して練習にも取り組んでいたのですか。

「もちろん練習と試合は違う部分がありますが、まさにそういう練習をやっていました。どうしても経験や技術が増えると、そこに頼りがちになって、特に練習ではそうなってしまうんです。言葉は悪いけど小手先の技術でごまかしてしまうというか。決してそれが間違っているわけではないんですけど、自分がダメージを負わない代わりに、相手にもダメージを与えていない。でも試合としては上手く勝つ。いつからか自分もそういう練習や試合をするようになっていました。

僕自身、ンサン戦が終わって、いつからそうなったんだろう?と考えたら、2017年にUFCに復帰してから、特にそういう部分が出てきていたなって。この5~6年はファイターとしての本質的な部分が欠けた姿勢や練習をやっていました。だから今回のトレーニングキャンプでは逃げずに戦う姿勢を持つ。自分がダメージを受けるリスクもあるけれど、相手にダメージを与える。そこをやらなきゃいけないと思って、内藤由良と16オンスのグローブで、ヘッドギアなしの本気のMMAスパーをやってたんです。そのスパーが試合と同じような練習だったんですよ。試合中にも『これって由良とやったスパーのまんまだな』って思うぐらい。

由良はレスリングがバックボーンで動きも早いから、なかなかピュアレスリングではテイクダウンが取れないんです。だから打撃で前に出てケージに押し込んで押し潰して、MMAのレスリングで勝負しないといけない。その中間で組みつきに行ってもいなされるし、少しでも弱気な姿勢を見せたらやられるので、由良とスパーしながら勝つためには前に出ることがベストな選択だと感じていました。そういうシチュエーションが試合で何度も訪れたんですよね」

――例えば1Rに岡見選手がバックコントロールしようとして、グラウンドで下になってしまい、亀になって立とうとしたところでパンチを浴びました。結果的に立ち上がることはできましたが、ああいった場面でもキツイことをやるという練習が試された場面だと思いました。

「あの場面は僕がバックをとろうとしたところで、ジェヨン選手に上手く重心移動されて、最終的に僕がバックをとられたんです。あの時に『これは簡単な試合にならない』と痛感しました。でもそれは試合前にジェヨン選手の試合映像を見た時点で、タフな試合になりそうだと思ったし、今回はバックステージがそこまで広くなかったのでジェヨン選手のアップを試合前に見かけたんですけど、入場直前までものすごくアップをしてるんですよ。本当に入場1分前までずっと対人練習をしていて、これはしんどくなるぞと(苦笑)」

――もしかしたらジェヨン選手も岡見選手とやるにあたってタフな展開になることを覚悟していたかもしれませんね。

「実はキム・ドンヒョンのジムで彼とは練習したことがあって、なんとなくやりづらい選手だなと思った記憶があるんです。案の定、1Rに自分がグラウンドで下になって、練習でやっていたことが出来ずに、パウンドをもらってポイントをとられましたけど、そこは冷静にやるべきことをやろうと。あの時点で改めてスイッチを入れ直しました」

――ジェヨン選手はこの試合のためにATTワシントンでも練習を行うなど、この試合にかける想いは強かったと思います。ファイトスタイルも含めて、岡見選手が取り組んできた練習が試された相手だったと。

「色んな相性もありますけど、どちらかと言えばジェヨン選手は僕が苦手としているブルファイター。どんどん前に出て殴ってくる。粘り強い典型的な韓国人ファイターで、こっちも絶対に気持ちが折れちゃいけない相手でした。まさに自分自身に課していたものを彼が対戦相手として立ちはだかってくれたと思います」

――試合を見ていて感じたのは、岡見選手は対戦相手のジェヨン選手だけでなく、自分とも戦っていたんじゃないかなと。事前のインタビューで岡見選手が「自分に克つ」という言葉を口にしていたので余計にそう感じました。

「確かに自分と対話している時間が長い試合だったと思います。身体はキツかったんですけど、意外と頭は冷静だったというか。今回は客席の声や言葉もはっきりと聞こえてきて、それも聞きながら自分と対話ができました。今まで戦ってきたイベントと会場の大きさが違う部分もあると思いますが、しんどい展開の中でも色んな言葉が入ってきました」

――まるでキャリアの浅い・若い選手が先輩に煽られて何度もテイクダウンに入る。そんな光景にも見えました。

「ホントにその通りです。それを自分で自分にやっていましたね。試合後にも言った通り、ダメージとは違う部分で本当に身体がしんどかったのですが、だからこそ自分で自分に檄を飛ばしていました。今回は試合に勝つのはもちろん、自分の弱さに負けたくないという気持ちがすごくあったんですよ。

僕は格闘技を通じて常に自分の弱さと向き合ってきて、試合を楽しめる選手がうらやましいんです。試合前に堀口(恭司)くんのYouTubeチャンネルを見たんですけど、彼は試合前日もすごく楽しそうにしているし、計量後にみんなでご飯を食べて『よっしゃ、行くぞ!』みたいな動画をアップしているんですよ。僕はあれにすごく感動して。本当の意味で世界で勝っていく男ってこういうマインドなんだなと思いました」

――堀口選手のYouTubeを見て、そんなことを感じていたんですね。

「もちろん堀口くんも色んなプレッシャーや感情はあるだろうけど、リアルにあの動画のまま試合に入って、勝ち負けはあっても素晴らしいパフォーマンスを発揮するわけじゃないですか。しかもそれを世界のトップレベルでやるわけだから、本当にすごいと思いますよ。彼と比較すると、僕はそこまで試合を楽しめないし、ずばり彼は自分とは違う人間だなと思います。だからこそ彼のような選手から吸収したいこともあるし、今回は試合が近づくにつれて、自分を追い詰めすぎずに楽な気持ちで楽しむべきなのか?とか、色んなことも考えました。

僕も戦績的にただ勝つだけだったら、たくさん勝ってきました。そのなかで本当の意味で勝つ、楽しむ、実力を出し切っていいパフォーマンスを見せる…そういうものを求めて、自分の弱さとも向き合って、それを克服しようとしてきたんだなと思い起こして。だから今回は絶対に自分の弱さに勝つ・絶対にそこをクリアすることが大きかったんですよね。それが分かりやすく言えば前に出ることだったし、それがトレーニングキャンプで取り組んだことです」

――岡見選手のようにキャリアを重ねると「この団体のベルトが欲しい」や「この相手に勝ちたい」という外的な目標だけでなく、それ以外の部分で何を目標にして戦うかも大事になると思います。岡見選手の場合は弱い自分に勝つことがそうだったと思うし、僕はまさにMMAがそういう競技だと思うんです。MMAは局面が多くて色んなことをやる必要がある分、言い方を変えれば妥協する・諦めるポイントも多いじゃないですか。

「確かにそうですね」

――だからこそMMAで勝つためには自分の弱さと向き合うことが必要で、今回の試合で岡見選手が見せてくれたものこそMMAの強さの追求だと感じました。

「僕は打ち合う・殴り合うことが勇気だとは思っていないし、弱い自分が出てきたときにMMAは色んなことができる分、誤魔化しが利いてしまう。練習でもごまかす方にいってしまいそうになるんです。でもそうじゃないだろ、と。今、自分がやっていることが次の相手や目指している選手に通用するのかと。格闘技は対人競技だから、相手に軸を置いてしまうと、練習相手のレベルによってやりたいことができちゃうし、誤魔化すのも簡単なんです。

でもそれで試合に臨んだ時に。相手のスキルやレベルが高ければやってきたことが通用しない。そこがMMAの難しいところで、どこに自分の軸を置くかが大切なんですけど、やっぱり僕は自分が信じた武器をぶつけるしかないと思うんです。結局そこで通用しなかったら相手が強かったと認めるしかないし、そこをぶつけずに誤魔化して戦うことが自分の弱さだなって。練習相手には誤魔化すことが出来たけど、試合で競った相手にトライしたら通用しない。それが逃げだと思うんですよね。

だったらこれが岡見勇信の武器だと思ったものを全力でぶつける。それが通用しなかったら、それは相手が強いということ。それをぶらさずに練習にも試合にも取り組んで、上手くいかないこともあったけど、自分がやろうとしていたことは多少できたかなと思います。自分の武器を相手にぶつけること、それが自分にとって勇気だったと思います」

――試合後に岡見選手のX(旧)を見させてもらったのですが、MMAPLANETのコラムでも振れた客席からの「こんな試合が見たいんじゃないぞ!」という声の主は岡見選手を長年応援している方の声だったそうですね。

「実はそうなんですよ。僕がデビューして2~3年目、UFCに出る前から応援してくれている方で、それこそUFCのブラジル大会にも来てくれて。だから僕の弱いところを知ってくれているから、あえてああいう言い方で檄を飛ばしてくれました。僕も試合中に誰の言葉かすぐに分かりましたし、言葉だけを聞くと野次のように聞こえたかもしれませんが、愛を持って接してくれている方の言葉です。でもああいうコラムを書いてくれた髙島さんの想いも嬉しいし、あの試合に対するみなさんの気持ちが嬉しいです」

――2023年を勝利で終えることが出来ました。この一戦にかけていたと思うので、先のことは考えていなかったと思いますが、来年はどんな試合をやっていきたいですか。

「今はまだそこまで深くは考えてはいなくて。今回の試合をやってファイターとしての新しい景色が見られたと思うんですよ。今までとは違う景色が見られて、新しい自分と出会えることが出来た。こうやってみたいとか、これをやったらどうだろうという色々なイメージもあります。次はいつどこで戦うということは考えず、僕もただ試合をやればいいというキャリアでもないので、また自分と向き合って身体を創って、その時にふさわしい舞台や意味のある相手と戦いたいと思います」


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【Special】K-MMA、2023年・秋。大島沙緒里に快勝、パク・シユン「この試合は勝てる。気持ちも楽に」

【写真】二つのベルトを持つことが、恥ずかしそうでもあったパク・シユン (C)MMAPLANET

日本と韓国、MMAにおいても永遠のライバルである両国。Road FCを頂点とするK-MMAは規模的には日本のRIZINのようなビッグステージを持たない。対してUFCファイターの評価は引退したコリアンゾンビに代表されるように、韓国勢の方が高い。9月のDEEP vs BLACK COMBATで後者が日本の老舗を圧倒した。日韓関係に少し変化が見られるようにもなった10月最終週に訪韓、K-MMAの今を歩いた。
Text by Manabu Takashima

特集「K-MMA、2023年・秋」。最終回は大島沙緒里にまさかの判定勝ちを収め、DEEP JEWELSアトム級王座を韓国に持ち帰った──Black Combat女子アトム級チャンピオンのパク・シユンに話を訊いた。

シャイなパク・シユンは言葉少なく、指導者のパク・テヒョン館長が代弁することが多くなったが、それだけにあの大番狂わせは、実は番狂わせでなかったことが理解できる言葉を聞くことができた。


──大島沙緒里戦の勝利後の涙が、凄く印象に残っているパク・シユン選手です。

「勝利した時は、試合に勝ったという実感は余りわいていなかったんです」

──というと、あの涙は?

「2019年2月に亡くなったアッパ(韓国語でお父さん。成人するとアボジやインタビューなどではより堅めなアボニムという言葉を使うこともあるが、この時パク・シユンは家庭で父を呼ぶようにアッパという表現をした)は、私が連敗をしている時しか試合を見ていなかったんです。大島選手に勝ってアッパのことを想うと、涙が止まらなくなりました」

──自分は娘が3人いるので、もうその言葉だけでダメですね……。

パク・テヒョク(コーチ) 厳格だったお父さんなんですが、彼女がMMAをすることを許してくれたんです。でも、そのお父さんに勝つ姿を見せることができなくて、彼女は見送ることになってしまった。凄く無念だったはずです。

──そういう涙だったのですね。お父さんが亡くられた年の12月にDEEP JEWELSで赤林檎選手に敗れた印象が強い日本のファンにとって、パク・シユン選手の勝利は相当にショッキングなモノでした。今回の対抗戦、大島選手だけは負けることがない。そういう風に予想されていたので。

「……」

パク・テヒョク 以前のジムに所属している時に、本当に試合機会に恵まれていなくて。その間にレスリングに活躍の舞台を移そうと、実業団クラブで練習をするようになりました。その時にMMAに必要なレスリングの技術を身に着けたんですよ(笑)。そしてMMAに戻ってきたんです。

──それにしても、組んでテイクダウンをしても大島選手の庭といえる寝技に移行することになるかと思うのですが。

パク・テヒョク その通りですね。大島選手にとって寝技が一番力を発揮できる展開です。だからこそ、下にならないようにクリンチを重要視していました。防御としてレスリングは十分に有効だったと思います。

──実際、そのように感じましたか。

「大島選手が首を抱えて投げを狙って来た時など、100パーセントとはいえないですけど99パーセントは効果的に防げたと思います。凄く良い作戦でした」

──そうなると大島選手は引き込んで足関節を狙ってきましたが、2度に渡りしっかりと対処できました。

「キャッチも許さなかったですし、危なくなかったです」

パク・テヒョク 大島選手はキムラ、そして足関節をよく狙うのでしっかりと対策練習もしていました。その前後の展開やコンビネーションも踏まえて。

「だから、足関節は怖くなかったです。話している内容は勿論分からないのですが、大島選手のセコンドの人の声もしっかりと聞こえるぐらい余裕はありました。だから『ハイキック』と言っているのは分かって、準備できましたね(笑)」

パク・テヒョク 同時にサウスポーだったのをオーソに変えたんです。大島選手はサウスポー対策をしてきたと思います。だからこそ大島選手を惑わせることが、肝でした。そこがハマり、打撃戦で結果的に勝つことができたと思います。

──2Rまで劣勢だった大島選手ですが、最終回も戦い方を変えませんでした。

「それは私も思いました。何かやることを変えてくるかもと。でも、あの戦い方が最善だと思って選んだのであれば、もうこの試合は勝てるという風に気持ちも楽になりました」

パク・テヒョク 大島選手が同じことをやってくるなら、やられることはない。そう思うと同時にアウェイですし、判定は絶対ではない。なので同じように対応するか、もっと攻めるのか。どうすべきかを考えました。ただ彼女にも足首にケガがあり、蹴りは使えない。ならば、最終回はパンチの数を増やすように指示をしました。

彼女はスイッチができます。ワンツーを当てて、カーフや蹴りを使って戦わせようと思っていたんです。でも蹴りが使えなくなった。それでもスイッチをすると、大島選手は打撃の距離が掴めなくなったので良かったです。パンチを被弾した結果、力んで大きな振りのパンチを多用するようになったので戦いやすくなりましたね。

「8割ぐらい、作戦は実行できたと思います。まま、やれました」

パク・テヒョン 8割……そうですね、7割から8割はできていたと思います。

<この項、続く>


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