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【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:2月 鶴屋怜×チーニョーシーユエ「どう原石が磨かれるか」

【写真】練習仲間たちは、まさに渡辺を送り出す。そんな空気に包まれていた(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は水垣偉弥氏が選んだ2024年2月の一番──2月4日に行われたRoad to UFC2023Finalの鶴屋怜×チーニョーシーユエ戦について、担当・中村の「取材は3月31日だったのでギリギリOK」という言い訳と共に語らおう。


――取材日が3月31日ということで……ギリギリ2月の「今月の一番」で間に合ったということでよろしくお願いします(笑)!今回は鶴屋怜×チーニョーシーユエをピックアップしていだきました。

「トーナメント全体を見て鶴屋選手の強さが際立っていたと思いますし、特化している技術でトーナメントを勝ち抜いた凄さもあったと思います。これからUFCで試合を重ねていくことで、21歳の彼がどう仕上がっていくのかを楽しみにしています。この試合そのものを推したいというよりも、これからの鶴屋選手への期待感も込めて、この試合をセレクトしました」

――鶴屋選手はレスリングのバックボーンがありますが、テイクダウン&トップキープという手堅い戦い方ではなく、色んなことにトライする思い切りのよさが特徴的なファイトスタイルだと思って見ていました。

「だからこそ準決勝でマーク・クリマコとフルラウンド戦ったことが大きな経験になったと思っていて。あの思い切りのいいスタイルをUFC本戦でもやりきるのは大変だと思うんですよ。Road to UFCの選手たちは決してトップレベルではないですし、それで今のスタイルをやりきれている部分もあると思うので。逆にクリマコはLFAでもキャリアがある選手なので、ああいった試合の経験も踏まえてUFCでどんな戦い方をするのか注目したいです」

――例えば首投げからの袈裟固め。あれは鶴屋選手の必殺技であり、得意な形である一方、UFCの本戦レベルの選手に対してはリスキーな技なのかなとも思ってしまいます。

「そうなんですよ。ただ、今の鶴屋選手はダイヤの原石だと思うので、ここからどう原石が磨かれていくかですよね」

――自分の武器をどうぶつけるか。ユニファイドルールや北米の選手と戦ってどう勝つか。UFCにチャレンジする選手はそのバランスが一つの壁だと思っています。

「今のスタイルのままでいくと、いずれ大きな壁にはぶつかると思います。それは本人もチームのみなさんも考えていることだと思いますし、UFCのトップ選手たちと戦う前にUFCでの戦い方・勝ち方を身につけてほしいです。UFCとしても鶴屋選手を将来性のある存在的な扱いで、ちゃんと段階を踏んだ相手を用意してくれると思うので、そこで一戦一戦成長しながら勝っていく。

そして最終目標までたどり着いてほしいです。だからこそ鶴屋選手のUFCデビュー戦が決まる前にRoad to UFCの試合を再チェックしておくと、鶴屋選手の進化や変化も分かって、日本のUFCファンにとってはすごくいい楽しみ方もできると思います」

――そういう意味ではいきなり本戦契約するのではなく、Road to UFCから実績を積んでトップ選手と勝負できる環境は遠回りのように見えて充実したキャリアの作り方とも言えますね。

「はい。それこそ僕はCAGE FORCEのトーナメントで優勝して、WECデビュー戦の相手がミゲール・トーレスでタイトルマッチでしたからね(笑)」

――北米デビュー戦の相手がいきなり当時の軽量級世界最強(笑)。

「すごく貴重な体験でした(笑)。今はUFCのオペレーションのなかで、試合が決まる→試合までの練習・準備をする→試合当日を迎えるという流れを経験できる場があるので、それはすごく大きいと思いますね」

――UFCというピラミッドの一番下からキャリアを積み重ねることは決してネガティブではない、と。

「むしろポジティブな要素の方が多いと思います。しかも今UFCで戦っている日本人はみんな若いですし、慌てて試合を重ねるのではなく、今のUFCのレールに乗って、キャリア相応の相手と戦って、着実に上に上がっていくといいと思いますね。平良(達郎)選手はまさにそうじゃないですか。2人とも同じフライ級で、同門のような存在だと思いますが、この2人がランキングを駆け上がってUFCのベルトをかけて戦うことになったら、日本のMMAは盛り上がると思います」

――水垣選手の戦績を振り返ると、WEC・UFC参戦当初は勝ち負けを交互に繰り返して、徐々に勝ち星を伸ばしていくキャリアだったんですね。

「今は契約満了まで試合をやらせてもらえることも多いですが、当時は2連敗したらリリースされるという暗黙のルールのようなものがあったので、毎回崖っぷちの感覚で試合をして、何とかサバイブしていましたね。だから一戦一戦を何としてでも勝たなければいけなかったし、そのプレッシャーも大きくて、自分を成長させる余裕や時間はなかったなとも思います。もう少し時間的な余裕があって、自分を成長するための時間を作れたら、もうちょっと変わった自分を出せたのかなとも思っていて。そういう意味で鶴屋選手はすごくいい環境にいると思うので、自分を磨いて強くなって欲しいなと思います」

――水垣選手がWECで戦ってきた相手も錚々たる選手たち(ミゲール・トーレス(戦)、ジェフ・カラン(戦)スコット・ヨルゲンセン(戦)ハニ・ヤヒーラ(戦)ユライア・フェイバー(戦))ですし、あそこで米国で勝つ術を覚えたことがUFCでの5連勝にもつながったと思います。

「WECの5戦は本当にきつかったですけど、自分を成長させてくれた試合でしたね。WECは一階級の契約選手が20選手くらいで、当時のバンタム級のトップ20人が集まっているような状況だったので、毎回がトップランカーとの対戦だったんです。なかなかタフな戦いでしたけど、今思えば一番充実していた、楽しかった時期だったかもしれないです」

――今回も水垣選手らしいコメントをありがとうございました!

「Road to UFCという注目される舞台を経てUFCで戦う。そこで選手が成長していく、チャレンジしていく過程を見ていくのは今のUFCの楽しみ方だと思うので、鶴屋選手の成長とチャレンジにも注目したいと思います」

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45 MMA MMAPLANET o Special UFC UFC300 UFN UFN234 ガブリエル・ベニテス ジム・ミラー 大沢ケンジ 柏木信吾 水垣偉弥

【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:1月 ミラー×ベニテス「関脇が関脇として居続ける味わい深さ」

【写真】UFC100、UFC200、UFC300まで来たら、ぜひUFC400も目指してほしいジム・ミラーだ(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。(担当・中村が月を跨いで取材する凡ミスをしたため、12月&1月の2部作として)今回は水垣偉弥氏が選んだ2024年1月の一番──1月13日に行われたUFN234のジム・ミラー×ガブリエル・ベニテス戦について語らおう。


──それは水垣さんが言うことに意味がありますね。そして1月はUFN234:UFN on ESPN+92「Ankalaev vs Walker2」のジム・ミラー×ガブリエル・ベニテスを選んでいただきました。この試合はジム・ミラー40 歳、恐るべし!という試合でした。

「普通は年齢と共に反応速度が遅くなるので、打撃系の選手は年齢を重ねると組み技も交えたスタイルを模索するというのがよくあるパターンなんですよ。その逆で組み技の選手が年齢を重ねて打撃系に変わっていくというのはあまり聞いたことがないので、ジム・ミラーを見ていると『どういうこと?』と思っちゃいますね(笑)」

──平良選手とは違う意味で想定できない強さです。

「しかも相手の打撃に対する反応も良くなっていたり、動きそのものが良くなっている印象があります。体つきも以前は組み技選手らしいガッチリした筋量の多いタイプだったのが、今は筋量は落ちているけど力みがない体つきになってきて。力が抜けることによって、今まで反応できなかった打撃にも反応できるようになっているのかなと思います。純粋な反応速度は落ちいていたとしても、そのマイナスを補ってプラスにまで持っていっている……というのが僕の見解なんですけど、実際どうなのかは分かりません(笑)!」

──一時は4連敗も喫していたのに、そこから復活していますからね。

「しかもスタンドのKO勝ちが増えているという(笑)。ジム・ミラーはUFC100に出て、UFC200に出て、UFC300にも出ると言ってるじゃないですか。それを聞いてそれぞれの開催年を調べたんですけど、UFC100が2009年で、UFC200が2016年なんですね。ちょうど僕がWECと契約したのが2009年で、UFCの最後の1年になったのが2016年なんです。僕もUFCでは長く戦ってきた方ですが、その僕がWEC&UFCで過ごした格闘技人生がUFC100~UFC200の間とするなら、単純計算でそれを倍やっているってことじゃないですか。しかも時代も変わって、明らかにMMAのスタイルも進化しているなかで、それをやっているというのは…すごいの一言しかないし、頭が下がります」

──MMAも色んな形で進化していますが、ジム・ミラーのような選手がいることも面白いです。

「さすがにUFCチャンピオンになるというのは難しいと思うんですよ、本人がその気だったら失礼な感じになっちゃいますが。でも色んなファイターがいるなかで、関脇が関脇として居続けるみたいな、こういう選手がいるというのは非常に味わい深いですね」

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45 MMA MMAPLANET o Road to UFC Special UFC UFN UFN233 アザット・マクスン カーロス・ヘルナンデス シャーウス・オリヴィエラ ジョシュア・ヴァン ムハマド・モカエフ 堀口恭司 大沢ケンジ 平良達郎 朝倉海 柏木信吾 水垣偉弥 鶴屋怜

【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:12月 平良×ヘルナンデス「イメージ的にシャーウス・オリヴィエラ」

【写真】寝技に自信があるかこその打撃、フィニッシュから逆算した組み立て。まさに独自にスタイルで勝ち続ける平良達郎だ(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。(担当・中村が月を跨いで取材する凡ミスをしたため、12月&1月の2部作として)今回は水垣偉弥氏が選んだ2023年12月の一番──12月9日に行われたUFN233の平良達郎×カーロス・ヘルナンデス戦について語らおう。


──今月の一番ですが、完全に私のミスで1月を跨いでしまいました…。というわけで今回は12月と1月の二本立てでいかせてください! まずは12月の一番はUFN233での平良達郎×カーロス・ヘルナンデスをセレクトしていただきました。やはりここは平良選手の勝ちっぷりですよね。

「すごく安心して見ていられましたし、ここ数試合は相手が弱く見えちゃうくらい、平良選手の安定感と強さが際立っていますね。当たり前のことや基本的な技を決めて、ポンポンポン!と駒を進めてしまうので『あれ?相手こんなことも出来ないの?』と思っちゃうんですけど、対戦相手の他の試合を見てみると全くそんなことはないわけで。今回もフィニッシュは右ストレートからのパウンドでしたけど、普通に寝技で圧倒しちゃうわけなので、相当寝技は強いんだろうなと思います」

──UFC参戦当初は勢いや相手との相性で勝っていたのかなと思う部分も少なからずありましたが、5連勝という結果でUFCファイターとしての実力を完全に証明したと思います。

「ランキング手前の選手は完封して勝つことを証明できたので、次はランキングの上の選手たちとどう戦っていくかですね」

──あの試合で具体的に良かった点はどこですか。

「もちろん四つ(組み)の強さもあるし、寝技で上を取れる選手ではあるんですけど、テイクダウン能力がめちゃめちゃ高いタイプではないと思うんです。でもそこ(トップを取る)につなげるためのスキルとしての打撃のレベルが高いことも分かって、右ストレートを効かせてパウンドでフィニッシュしても驚きはなかったです」

──寝技に自信がある=打撃で思い切りいける=結果的に打撃が当たるスタイルですね。

「グラウンドで下になっても落ち着いているじゃないですか。今回僕がびっくりしたのは、1Rに自分で蹴ってバランスを崩して下になった時、迷わずに潜りスイープにいったこと。僕自身がそうだったし、僕は選手を指導するときも『MMAで潜りスイープは危ないよ』と言うんです。腕を足に挟まれて殴られたり、失敗したときのリスクが大きいので」

──今のMMAファイターはあの場面では背中を見せて立つことを選択する選手が多いと思います。

「はい。あとは、もし僕が1Rのあの時間帯で下になったら相当焦っていたと思います。でも平良選手は迷わず潜って上を取っていて、それだけ寝技の技術に自信があって、実際にスキルのレベルも高いんでしょうね。イメージ的にシャーウス・オリヴィエラというか、グラウンドで下になってもOKだから打撃を思い切りいける、みたいな」

──平良=チャールズ・オリベイラはイメージしやすいです。あとは事前のインタビューで平良選手が殴る・削る意識を持って戦うと言っていて、そこも影響したのかな、と。

「僕が試合前にインタビューした時にもそれを話していて、実際にパウンドアウトしたわけだから、自分のやりたいことを明確に持って戦って、それが上手く試合で出せているんだなと思います」

──個人的には打撃を出す際の安定感も増しているのかなと思いました。

「フィニッシュの右は安定感がありましたよね。強いパンチが打てる姿勢で出せていたと思います。あのパンチも『倒してやろう!』と思って出したというよりも自然に出ていたパンチだと思います。やっぱり組みや下になることを警戒していると、ああいうパンチは出せないです」

──平良選手は試合を組み立てた先にフィニッシュがあるのではなく、フィニッシュから逆算して戦っている印象があります。僕は倒す感覚や極める感覚に優れていることも才能の一つだと思っていて、キャリア関係なくフィニッシュできる選手はフィニッシュの画が見えているというか。

「確かに。僕は打撃で倒すという部分で言えば倒すことを捨てたんですよ」

──倒すことを捨てた、ですか。

「はい。僕は相手を倒す攻撃には”落差”が必要だと考えていて、軽くパパパパン!とパンチをまとめて、フィニッシュブローをズドン!と強く打つ。打撃の威力に”落差”をつけるからこそ、相手に大きなダメージを与えると思うんです。でも僕の場合は先にガードの上からでもいいので強いパンチをズドン!と当てるんです。最初にそれをやって相手に『この相手はパンチがあるな』と思わせる。そうすると相手は僕のパンチを警戒した動きになるし、相手はやりたいことができなくなる。最初に一発かましておくことで、結果的に僕が試合を進めやすくなるんです」

──あえて警戒させるためのビッグヒットですね。

「はい。ただそれをやると相手の警戒心を強める分、倒すための攻撃は当てづらくなるんです」

──倒すための戦い方か、勝率を上げるための戦い方か。

「そこで僕の場合は考えを割り切って、倒すことよりも自分が有利に戦って勝つ可能性を上げることを選択していました」

──水垣さんが現役引退したからこそ話していただける技術論ですね。

「寝技にもそういった組み立てがあるだろうし、倒し感や極め感がある選手は本能的にその組み立てや落差のつけ方ができるんでしょうね」

──平良選手はそれをUFCで勝つレベルで出来ているわけで、自分のフィニッシュ力をMMAに落とし込むセンスや才能もある。

「先ほどの話にもつながりますが、僕が考えているMMAで勝率を上げる戦い方とは違う戦い方をしていますよね。判定勝ちにするにしても、レスリング勝負してトップキープして削る…とは違うじゃないですか。だからどうやってあのスタイルや戦い方を身につけたのか気になるんですよ。先生の松根(良太)さんの現役時代とも少し違うし。松根さんの指導の幅の広さや持っている引き出しの多さで、ああいう選手が育ってきたのか。僕はそこにも興味があります」

──いよいよ今年はランカーとの対戦が組まれると思います。どんなことを期待していますか。

「上位陣に勝ってタイトルを獲ることも期待しているし、無敗のままいけるか。ランキング上位陣にどういう戦いができるか楽しみです。平良選手を含めたフライ級の新世代= ムハマド・モカエフ、アザット・マクスン、ジョシュア・ヴァン…たちが、上位ランカーとどう戦っていくか。またその世代同士の潰し合いがどういう結果になるのか。それも合わせて楽しみです」

──鶴屋怜選手がRoad to UFCで優勝してUFCと契約し、堀口恭司選手や朝倉海選手もUFC参戦に興味を示しています。今年はUFCフライ級が一気に注目されますね。

「フライ級は日本人が活躍できる階級なので、そういう部分でも今年はより注目ですね」

──あと僕が平良選手を取材していて、いい意味で図太いというか、UFCにチャレンジしているという感覚を持っていない気がしています。UFCで戦うことが当たり前、みたいな。

「そうなんですよ。マイクアピール一つとっても、しっかりタメを作ってから『アイム・ハッピー!センキュー!』とか“慣れてきた”じゃないですか(笑)。そうやってUFCの一員になってきたなと思いました。それと今回の勝利で僕が持っていた日本人のUFCでの連勝記録(5連勝)に並ばれたんですよ。これは僕が拾っておかなければいけないな、と。そういう意味でも今回、平良選手の試合を選ばせてもらいました」

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45 AB MMA MMAPLANET o UFC UFC298 YouTube   ドミニク・クルーズ 中村倫也 常達偉 摔跤 水垣偉弥

【UFC298】ヴェラ戦へ。中村倫也のMMA学概論─02─「意識を向けたところにエネルギーは発生する」

【写真】競技特性上、レスラーが嫌がる距離を取る中村。ここからさらに動いて誘い、無理に相手が前に出るように仕向けていた(C)MMAPLANET

17日(土・現地時間)、カリフォルニア州アナハイムのホンダ・センターで開催されるUFC298「Volkanovki vs Topuria」でカルロス・ヴェラ対戦する中村倫也インタビュー第2弾。
Text by Manabu Takashima

古巣専修大学レスリングジムでトレーニングから、中村は競技として攻め主体の格闘技にあってMMAには、距離を取って「誘う」という間があることから、外見の動きと内面の思考と意志力の一致が欠かせないと独特の感性に得ることができたMMA論を語った。

ヨガでも、武術でもない。勿論、宇宙でもない。中村倫也はMMAを追求している。

<中村倫也インタビューPart.01はコチラから>


──持続力というのは?

「これまで1Rのなかで、体力を気にして躊躇するようなことがあったのですが、それがなくなってガンガンと蹴りが出せるとか。そういう部分ですね。心配なく、それが出せるようになりました。ただ、そうなると自分がどんどん攻め気になってしまうのがMMAで、後ろのスペースを使わなくなってくるんですよ」

──そこで後ろの発想があるのが、倫也選手ですよ。攻め主体は、あらゆる競技の特徴で。そこで後ろを気に出来る。ある意味、武術に通じています。

「レスリングは場外に出ると減点なので、その感覚は持っているといえば持っているのですが……」

──でも、それはある意味攻められている方の感覚ですよね。倫也選手が言われたイケイケになると、後ろのスペースを使わなくなるというのとは状況が違います。


「そうですね。レスリングは誘うってことはしないですしね。でも、MMAをやるようになってから『しても良いじゃん』って誘うような動きをここでも取り入れています。『コイツは並行ステップをすれば、並行でついて来る。なら、角度をつけてテイクダウンを狙おう』とか。それがメッチャ通用するんです」

──うん。倫也選手、去年はシルムとモンゴル相撲の体験紀行を実施しましたが、今度は台湾に行って摔跤をやりましょう!!

「摔跤? それって何ですか(笑)」

──平たくいえば中国式レスリングですが、武術として功夫の母体であり、功夫の究極系とも言われています。なので打撃、擒拿、関節技も含まれています。競技としてサークルマットで戦い、レスリングのように押し出されるとポイントを失いますが、押し出すことを目的とした押し出しにはポイントは与えられません。あくまで円の移動で相手を崩して、ボディバランスを崩した時のみ有効です。さらにヒザ下への蹴り、バランスを崩す目的の蹴りも許されています。

■台湾に残る伝統的な摔跤を伝承する常達偉(チャン・ターウェイ)氏のインタビューはコチラから

「円の動きなのですか! おおっ!! 行きたいですっ! めっちゃ行きたいです(笑)」

──鍛錬が功夫で。

「凄いっすね。呼吸法とかも、何かありそうです。そうっすね、その理論は生きて来そうです(笑)。台湾、行きたいです!!」

──八極拳とかも、ぜひ体験してほしいです。站椿とかも、倫也選手は生かせそうです。

「いやあ、楽しみです(笑)」

──本当に話が逸れてしまいましたが、レスリングに誘うことを用いて、どのような変化が起こったのでしょうか。

「手を首にかけて誘うとか、そういう距離感ではやっていました。そこからアンクルピックみたいな形で。でも、触らない位置で誘うというのはやらないことですし、学生達も違和感があるようです。レスラーにとっては、触ることができない距離は気持ち悪いはずです」

──レスリングは闘牛同士の戦いですよね。

「アハハハハ。確かに。闘牛士がいない。闘牛✖闘牛ですね。だから、そこを踏まえてレスリングのスパーをやってみます。ただ久しぶりだし、思い切り押し切られることもあるかもしれないですけど、工夫をして進化をもたらせたいですね」

──MMAって気持ちの良い空間のやり取りは、他の競技よりも少ないかとも思います。以前、水垣偉弥さんとアライアンスに行った時に、ドミニク・クルーズの師匠であるエリック・デルフィエロにミットを持ってもらったのですが、『気持ち良くない。逆に気持ち悪いミットでした』と感想を述べていました。

「そうなんですね、ミットからそうなる。コーチがわざとやっているわけですね、凄いですね。でも、誘えるっていうのはMMAを始めて気付いたことです。だから逆に僕は上手い人とやると、誘われてしまことが凄く多いです。(アリアンドロ)カエタノ戦は自分が闘牛になって、変な位置から飛び込んで一発を貰ったし、野瀬(翔平)君との試合で一発を貰ったのも自分から突っ込んだ時です。

ガルシア戦で事故は無かったですけど、向うが2歩、3歩と下がった時に追う技術が自分にはなかったです。そこは頭を抱えました。今回、決まっていた相手もサークリングを多用するタイプで、シミュレーションをしたときに『あっ、コレ誘われてるわ』みたいなことに気付きました。そこでプレッシャーの掛け方とか、距離の潰し方を色々とやっている際中だったんです」

──その距離を潰せるようにならないと、上には行けない?

「そうッスね。アレを潰さないといけない」

──後ろも気にするし、前にも出ないといけないと。

「金網の中ではあの空間を支配しないといけないです。実際に戦うようになって、気付くことは多いです。僕はシミュレーションの1回、1回を本当の試合のようにやっているんで気付きは多いです。そして、これまで戦ってきたなかで気持ちが良かった瞬間を思い出す作業をメンタルコーチング・セッションとかでするんですけど。その時って前の空間と後ろの空間が把握できている瞬間なんです」

──おぉ。

「なんか細胞が、そうなっていて。あと2歩下がると金網だからとか、もう少し来たら外すとか」

──それが倫也選手は競技を戦っていて、できているということですか。相手の攻撃が見えるだけでなく、自分の動きを把握すると相手も自分のことも分かり過ぎて、動けなくなる。それが護身を目的とする武術を競技に用いる難しさだと理解してきましたが……。

「はい、はい、はい。そこを凄く探しているんです。頭がバババババババと凄く回っていて、凄く活性化して色んな展開を想定する。でも体の動き、速さには限界があるから。ワッと自分が攻撃した後の展開まで色々と考えちゃって動けなくなります。頭のモーターが早過ぎて、から回しているみたいな。

パッと拾って、その動きに繋げるにはどういう心理状態が良いのか。それを探しているとことですね」

──倫也選手、長い間は戦えそうにないですね(笑)。

「できないッスね(笑)」

──武術は生涯をかけてやるもので。そこと同じ精神状態を現役競技生活のなかで求める。いやぁ、凄まじいです。

「それを体現したいというのはあります。それが整っている時が統一体ですもんね」

──出たぁ、統一体。自身の体が最も整い、意志伝達が行きわたる。それでいて、特別ではない。無理をしない状態ですね。

「今、教わっているメンタルコーチングの方だったり、ちょいちょいストレッチスタジオでお世話になっている人たちって真理とか、法則を纏める人たちなんですよ。そういう人たちの言っていることで、一致することを拾っていく。格闘技でないところで生きている人の考えも、格闘技のシチュエーションで生きることに通じることがある。そこで、こう切り替えるのは格闘技の考え方と同じだ──とか。そういう人が統一体になることが、一番パフォーマンスを発揮できるという風に言っています。呼吸、姿勢、そこからですね」

──通じているのですね。

「人間は外見の動きだけでなく、内面と通じている。MMAを戦うようになって、そこが一番感じられることです。意識を向けたところにエネルギーは発生する。そこを凄く感じていて……僕はレスリング時代はコンディションがメチャクチャだったんです。今はそうでなくなったのは、そこを感じるようになったことも関係しています。

ずっと頑張って前へ、前へ、前へという人生を送ってきたので、自分の体って実際よりも前にあるという感覚になっていました。肩を動かそうと思ったら、本来はある位置よりも気持ちでは前に肩がある。気持ちが前のめりになっているので。そこから動かそうとすると、実際の肩の位置と距離があるから支点がズレてケガをする。

ストレッチをするのも、伸ばしたい場所を明確にする。本当にその箇所に意識をして伸ばすと、伸びも違います。そんな風に本当の自分の体の位置への理解が深まり、ケガも減りました」

<この項、続く>

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45 AB MMA MMAPLANET o UFC UFN UFN234   アンドレイ・オルロフスキー ウェスティン・ウィルソン ガブリエル・ベニテス キック コナー・マクレガー ジアン・シウバ ジム・ミラー ジョシュア・ヴァン ジョニー・ウォーカー ダニエル・ピネダ トム・ノーラン ナスラ・ハクパレス ファリド・バシャラット フィリッピ・ブニス フィル・ホーズ ブルーノ・フェヘイラ ボクシング マゴメド・アンカラエフ マテウス・ニコラウ マネル・ケイプ マリオ・バウティスタ マーカス・マギー リッキー・シモン ワルド・コルテスアコスタ 堀内佑馬 平良達郎 水垣偉弥

【UFN234】要注目ミャンマー出身MMA歴3年ジョシュア・ヴァン「ミャンマーは血生臭い歴史を持っている」

【写真】タフな幼少期を微塵にも感じさせない明るさいっぱいのジョシュア・ヴァンだった (C)MMAPLANET

13日(土・現地時間)、ネヴァダ州ラスベガスのUFC APEXでUFN234:UFN on ESPN+92「Ankalaev vs Walker2」が開催される。同大会のオープニングファイトでフィリッピ・ブニスと対戦するジョシュア・ヴァンは、元UFCファイターで現MMAアナリストの水垣偉弥氏がMMAPLANETの「月刊、この一番」に挙げた注目ファイターだ。
Text by Manabu Takashima

ミャンマー出身、MMA歴は3年という未知すぎるファイターに初インタビュー。その過酷な生い立ちと、ファイトに目覚めた歴史に触れた。日本にはない環境で育ったファイターの拳が、堀内佑馬を下したブニスと如何に戦うのか。その前にジョシュア・ヴァンの人となりに触れておきたい。


――元UFCファイターの水垣偉弥さんがジョシュアのミャンマー出身、MMA歴は3年という経歴に着目し注目度が日本で挙がっています。

「おお、ありがとう。それでインタビューをしてくれるんだね」

──同時に我々は全くジョシュアのことが分かっていません。まずジョシュアという名前自体がミャンマー人っぽくないのですが、いつ頃から米国で暮らすようになったのでしょううか。

「ジョシュアは僕の本当の名前だよ。僕のファミリーはクリスチャンだから」

──ということは、出身は?

「チン州のハカだよ」

──つまり、チン州出身のキリスト教徒。それが国を離れた要因になっているのでしょうか。

「そうだね、9歳までハカに住んでいた。当時の……今もだけど、ミャンマーには色々なことが起こっていて僕らの家族は、ミャンマーで生きていくことが困難になっていた。国にいることができなくなり、国外に出ていく必要があったんだ(ミャンマーでマイノリティであるキリスト教徒は、チン州やカチン州に多い。軍事政権の少数民族への迫害と相まって、要職に就くことができないばかり暴力事件など差別が確認されている)。

まずマレーシアに行き、難民キャンプで3、4年生活をした。僕らだけでなく、多くの難民がいて。マレーシアに行く時は、自分たちがどこに向かっているのかも分からなかった。大変な状況だったけど、そこで友人を見つけることもできたよ。僕らの家族は結果的に2013年にテキサス州ヒューストンに移り住むことになったんだ。でもね、今の方がミャンマーの状況は凄く悪くなっている」

──私は2度ほど取材でヤンゴンを訪れたことがあるのですが、国内の宗教間や民族間には問題は存在したのでしょうが、我々のような外国人には本当に皆が親切でした。その優しさが他の国を抜きんでているという印象すら持ちました。ただ、あの優しかった人達が軍事政権下であれだけの激しさを見せている。

「ミャンマーという国は、つねに外国の侵略を受けてきた。血生臭い歴史を持っている。だから優しさと勇敢さを僕らは持ち合わせているんだと思うよ」

──……。仰る通りかもしれないです。とはいえ13歳でテキサスに移住。保守的な土地柄もあって米国では米国で苦労があったのではないでしょうか。

「最悪だったよ(笑)。いつも両親に『自分たちの国に帰りたい』って頼んでいたよ。言われたように英語は分からなかったし、自分がどういう状況にあるのかも分からない。本当にタフな時期を過ごした。環境的には、凄くラフだったよ。

まず学校に行ってイジメにあった。彼らは僕が何を言っているのか分からないし、僕も彼らが何を話しているのか分からなかった。テキサスってアジアの人間が少ないから、アジア系の子供が学校でイジメられることは……いえば普通にあった。でも、僕はイジめられっぱなしでは終わらなかったよ。ファイトした。言葉が通じないから、体で示すしかなかったんだ。それだけが自分を守る術だったんだよ」

──……。

「正直、暴力沙汰は日常茶飯事だったよ……。そんな時、叔母が『それなら国のために戦いなさい。皆に認められる場所で戦うのよ。そう、マニー・パッキャオのように国や民族を代表して』って言われて。その言葉によって……僕の物事の見方が変わった。自分が置かれた状況をより理解し、テキサスで生きていく覚悟を決めた。それからはこの国での生活も楽しくなった。今では米国を愛しているよ」

──叔母さんのアドバイスからMMAを始めたのですか。

「あの時はMMAのことは分かっていなかった。ボクシングしか知らなかったんだ。僕がMMAを知ったのはフロイド・メイウェザーとコナー・マクレガーが戦った時で(2017年8月)。コナーのことを調べて、MMAを知った。『あぁ、これこそ俺が求めていたものだ』と直感したよ。

でもすぐにMMAを始めたわけでなく、キックボクシングと柔術を始めたんだ。家の近くにあったフィットネスジムで。そこから友人たちと悪さをすることもなくなり、とにかくジムで凄く時間が増えた。まずはジムで一番になりたかった。やられたままで家に帰り、眠ることが嫌だったんだ。だから夜遊びに誘われても、断るようになった。トレーニングを始めたことで、僕のなかでそれまでなかった自信が芽生えてきて生活が一変した」

──とはいえ練習をすることと、プロMMAファイターになることは別次元です。格闘技の練習を始めた時、その先に何を見ていたのでしょうか。

「さっきも言ったように最初に始めた場所は、フィットネスジムで。普通の人ばかりだったから、僕はやり込まれることがなかった。そんな時、見たことがないヤツがやってきてボコられたんだ(笑)。どうやったら、彼のように戦うことができるのか素直に尋ねた。そうしたら、その彼がちょうどMMAのジムの開くというから、もともとのコーチに事情を説明して練習場所を変えることにしたんだ。

練習を始めてから2年ほど経っていたよ。だから、僕が本格的にMMAの練習を始めたのは2019年なんだ」

──それが今、所属する4オンス・ファイトクラブだったのですか。

「いや、そのジムは2021年に閉められることになって、僕は自分1人で練習を続けていた。そしてプロ7戦目にテキサス州最強と言われていたパリス・モランと戦うことになった時(2022年8月@Fury FC67。結果は2R0分36秒KO勝ち)、ちゃんとした練習環境が必要だと思ってジムを探し始めたんだ。結果ダニエル・ピネダの下──4オンス・ファイトクラブでトレーニングするようになった。最高のジムに出会えたよ」

──プロ集団で練習するようになって1年半に満たないということですね!! 

「そうだね。多くの素晴らしいジムが米国にはあるけど、軽量級の選手が集まる場所は決して多くない。4オンス・ファイトクラブはフライ級からフェザー級の選手が多くて、凄く僕に適している」

──ところでUFCで戦うようになって、生活に変化は生じましたか。

「変わらないよ。僕はごくごく普通の人間だから(笑)。ジムや色々な場所で同じように聞かれるんだ。でも戦う舞台が大きくなっただけで、僕自身は何も変わらないから」

──オクタゴン3戦目、フィリッピ・ブニス戦が土曜日に迫ってきました。対戦相手の印象を教えてください。

「1年間戦っていないし、どれだけの力を持っているか測りようがない。だから、あまり予測は立てないでいる。あの時より良くなっているかもしれないし、ダメになっているかもしれない。とにかくファイトは予想できないことが起こるからね。

(C)Zuffa/UFC

でも僕のスタンド、打撃に注目してほしい。

ストライキングで勝負したいと思っている。KOするよ、いやサブミッションでも構わない。いずれにせよ、フィニッシュする」

──スポーツと政治を一緒にするなという意見がありますが、試合を通してミャンマーの人々にメッセージを送りたいと思っていますか。

「もちろん、そう思っている。僕はミャンマーの皆のために戦う。最後まで戦い抜こうと伝えたい」

──押忍。MMAPLANETではフライ級の選手には、共通の質問として平良達郎選手の印象を伺っています。ジョシュアの平良達郎選手評を教えてください。

「実はあんまり知らないんだ。きっと、良い選手なんだと思うよ(笑)」

──ハハハハ。では最後に日本のファンに一言お願いします。

「皆と同じアジア人の僕が、駆け上がっていくところを見続けて欲しい」

■視聴方法(予定)
1月14日(日・日本時間)
午前6時00分~UFC FIGHT PASS
午前5時30分~U-NEXT

■UFN234対戦カード

<ライトヘビー級/5分5R>
マゴメド・アンカラエフ(ロシア)
ジョニー・ウォーカー(ブラジル)

<フライ級/5分3R>
マテウス・ニコラウ(ブラジル)
マネル・ケイプ(アンゴラ)

<ライト級/5分3R>
ジム・ミラー(米国)
ガブリエル・ベニテス(メキシコ)

<ライト級/5分3R>
ナスラ・ハクパレス(ドイツ)
ジェイミー・バラーキー(豪州)

<バンタム級/5分3R>
リッキー・シモン(米国)
マリオ・バウティスタ(米国)

<ミドル級/5分3R>
フィル・ホーズ(米国)
ブルーノ・フェヘイラ(ブラジル)

<ヘビー級/5分3R>
アンドレイ・オルロフスキー(ベラルーシ)
ワルド・コルテスアコスタ(ドミニカ)

<ウェルター級/5分3R>
マシュー・セメルスバーガー(米国)
プレストン・パーソンズ(米国)

<バンタム級/5分3R>
マーカス・マギー(米国)
ガストン・ボラノス(ペルー)

<バンタム級/5分3R>
ファリド・バシャラット(アフガニスタン)
テイラー・ラピルース(フランス)

<フェザー級/5分3R>
ウェスティン・ウィルソン(米国)
ジアン・シウバ(ブラジル)

<ライト級/5分3R>
トム・ノーラン(豪州)
ニコラス・モッタ(ブラジル)

<フライ級/5分3R>
フィリッピ・ブニス(ブラジル)
ジョシュア・ヴァン(ミャンマー)

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【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:11月 ヴァン×ボルハス「MMA歴3年のミャンマー人選手が……」

【写真】ジョシュア・ヴァン、2024年の要注目のフライ級ファイターだ(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は水垣偉弥氏が選んだ2023年11月の一番──11月11日に行われたUFC295のジョシュア・ヴァン×ケヴィン・ボルハス戦について語らおう。


――11月の一番として、水垣さんにはUFC295でのジョシュア・ヴァン×ケヴィン・ボルハスを選んでいただきました。

「僕はこのジョシュア・ヴァンという選手にすごく注目していて、ヴァンは22歳と若い選手なのですが、本格的にトレーニングを始めたのが19歳らしいんですね。しかも彼はミャンマー人で、どのタイミングでアメリカに来て練習しているかは定かではないのですが、MMA歴3年のミャンマー人選手がこのレベルのMMAを出来てしまうのかと驚きました。そういう部分でとても気になっている選手です」

――ヴァンはFury FCでフライ級王者となり、今年6月からUFCに参戦して、ボルハス戦がUFC2戦目でした。

「UFCデビュー戦でザルガス・ズマグロフと対戦して、ズマグロフが負けが続いている状態ではあったんですけど、その相手にも勝っていますし、とにかく彼にはセンスを感じますね。世代・キャリア的には平良達郎選手と同じだと思うので、これからのフライ級を面白くしてくれる新しい選手としても期待しています」

――僕も改めて試合映像を見直して、格闘技を始めて数年の選手なのかと思いました。特にセンスを感じたのは打撃の部分です。構え方、ステップ、動きのキレ、力の抜け具合など。

「ボルハス戦はほぼ打撃の展開でしたが、僕も打撃には非凡なものを感じました。ボディブローを交えたパンチのコンビネーションや余裕を持った試合運びなど、格闘技歴数年のレベルじゃないです」

――所属ジムの4oz. Fight Clubもトップ選手が多数存在するジムではないんですよね。

「そうなんですよ。もちろん誰と練習しているかが強さにつながるわけではないですが、名門ジムの所属ではないからこそ、どんな練習をしているんだろうという興味もあります。僕はどうしても打撃と比べると組み技・寝技の習得には時間がかかると思っていて、この試合でも打撃とテイクダウンのタイミングの良さは見てとれたのですが、打撃からの流れでテイクダウンを取っている=打撃のスキルを活かしてテイクダウンしている印象だったんですね。改めて打撃はセンスがあると一気に伸びるもので、それに比べると組み技・寝技は時間がかかるんだなと思いました」

――もちろん組み技・寝技にもセンスはあると思いますが、練習を始めて数年で飛躍的に伸びることはないような感覚はあります。

「例えば打撃を何年もやっている選手と格闘技歴は浅いけど打撃のセンスがある選手がスパーリングしたら、後者が有利になることもあるのが打撃じゃないですか。寝技でそれと同じことはなかなかないと思うんですよね」

――統計的をとっていないので一概には言えませんが、そういうイメージはありますね。

「もちろんボクシングで世界チャンピオンを目指すとなれば、子供の頃からボクシングをやるに越したことはないと思いますが、MMAという意味では組み技・寝技を先に始めておく方がいいのかなと思いますね」

――あとはMMAのセンスという部分では3Rにパンチからテイクダウンをとった場面など「ここでテイクダウンにいけるのか!」と思いました。

「タイミングが抜群でしたし、あの流れでテイクダウンにいけるのは試合の組み立てに余裕を持っていますよね。1Rにダウンを奪われて、2Rに打撃で盛り返して、3Rの序盤にテイクダウンにいくのはMMA的な頭の良さを感じました」

――逆に3Rにトップキープできるタイミングで足関節を狙って失敗するなど、まだ寝技にそのものには慣れていないのかなと。

「僕もそう思います。ああいう純粋な寝技の攻防になると、まだ格闘技を始めて3年の選手だなと思いますよね。だからMMAをやるにあたって、早い時期に組み技・寝技をやることは大事だと思うし、相手をコントロールするバランス感覚や重心の移動などは、早い時期に時間をかけて覚えておくことがいいのかなと思いましたね。ヴァンのように打撃はセンスがあれば2~3年でここまでのことが出来るようになるわけで、なおさら組み技・寝技は早くやっておくべきだと思います」

――これもお伺いしたかったのですが、ヴァン選手はスタンドでの立ち位置とプレッシャーのかけ方が絶妙だと思いました。常にボルハスに対して何かアクションをかけられる位置で戦っていたと思います。

「僕もそうだったんですけど、プレッシャーをかけていくと、どうしても(距離を)詰めすぎちゃうんですよね。だから自分が一番得意なオイシイ距離をキープするというのは実は難しくて、距離をキープすることに集中すると自分のプレッシャーが弱まってしまう。僕の場合は自分の得意な距離になったらそこで打撃をまとめて、そのままプレッシャーをかけてクリンチになっても構わないと思ってやっていました。でもヴァンは相手のレベルがあったにせよ、自分のオイシイ距離に長くいることが出来ていて、距離感のセンスも感じましたね」

――またこういったポテンシャルを持った選手がミャンマー人であるということも驚きです。

「Road to UFCでもインドネシアやインドなど、今まであまり見ることがなかったら国から選手が出てきて、まだまだ粗削りではあるんですけど、みんな試合をする度にどんどん強くなっているじゃないですか。一つきっかけがあればその国のMMA人口は増えると思うし、ヴァンのようにUFCで活躍する若いニューヒーローが出てくると、彼に憧れてMMAを始めるミャンマーの選手も増えるでしょうね」

――しかも一攫千金を目指して早くから米国に住んで練習する選手も出てくることもありそうです。UFCのフライ級はトップグループのメンバーがある程度固まっているので、ヴァン選手のような新しい世代の選手たちが出てくることで階級が活性化しそうです。

「ムハマド・モカエフも愚痴っていましたよね、『ランキングの上のヤツらが試合をやってくれない』って。まだヴァンはモカエフや平良選手に比べると荒さはありますが、その分、化ける可能性があると思うので、数年後どう成長しているかが楽しみですね。本当に僕はこの選手はセンスに溢れていると思うので、インタビューして細かいことをたくさん聞いてみたいです。

もしかしたらMMAの練習は3年だけど、ミャンマー時代に親戚のおじさんがボクシングをやっていて、子供の頃から教わっていた…とか、そういうエピソードがありそうな気もするんですよね(笑)」

――そうじゃないと辻褄が合わないんじゃないか、と(笑)。

「はい(笑)。でもそう勘ぐってしまうぐらい、打撃のセンスや技術はピカイチだと思います。もうちょっと強い相手とやれば穴も見つかると思うのですが、彼のセンスやポテンシャルの高さには注目したいです」

――そして番外編としてUFN231でのジャイルトン・アルメイダ×デリック・ルイス戦についても聞かせてください。この試合は5分5Rのうち、アルメイダが合計13回マウントポジションをとっていたにも関わらず、フィニッシュまで至らず判定決着になるという不思議な試合でした。

「UFNとはいえ、UFCという名がつく大会のメインイベントで、こんな試合があるのか、と。試合前からルイスがテイクダウンされたらキツイとは思っていて、アルメイダが1Rにテイクダウンしてマウントまでいったんで、このまま早いタイミングでフィニッシュするだろうなと思って見ていたんです。そうしたらルイスが粘るというか、アルメイダが攻めあぐねるというか。何とも言えない展開が続きましたよね。3Rまではアルメイダがフィニッシュするかも?と思っていましたが、4・5Rはアルメイダがマウントをとってもフィニッシュできなそうだな…と思うようになっていました」

――グラップリングでマウントやバックをとられて一本取られたくないからディフェンスに徹して、そのまま終わるという試合もありますが、MMAの試合であれだけ簡単にマウントをとらせる選手もいないですし、あれだけマウントをとっても攻めきれない選手も珍しいですよね。

「ストライカーに一切ポジショニングの概念がない。グレイシー一族だけがポジショニングを知っている。初期UFCを見ているような錯覚に陥りました。色んな選手や試合を見ることができるUFCですが、2023年にこういう試合を見たのは逆に新鮮でした」

――今回もありがとうございました。2024年もよろしくお願いします!

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お蔵入り厳禁【Special】月刊、大沢ケンジのこの一番:10月 チマエフ✖ウスマン~のミドル級戦線

【写真】既にミドル級に転向していたチマエフは、パウロ・コスタの代役出場となったウスマンより心身ともに優位にあったとはいえ……(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。
Text by Shojiro Kameike

背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は何と大阪ケンジ氏が、水垣偉弥氏と同様に2023年10月の一番として、10月21日に行われたUFC294におけるカムザット・チマエフ×カマル・ウスマン戦をチョイス。

お蔵入り厳禁。メディアとしてご法度の同じマッチアップから今後のUFCミドル級戦線──『ショーン・ストリックランドとチマエフ、もし戦わば……』というトピックを語らおう。


――今回もよろしくお願いいたします。まずは大沢さんが選んだ2023年10月の一番を教えてください。

「カムザット・チマエフ×カマル・ウスマンですね。あれ、ヤバくないですか!」

――10月21日(現地時間)、UFC294でチマエフがウスマンに判定勝ちを収めた試合ですね。もうUFCの試合時間が5分3Rでは足りない、5分5Rを標準としたほうが良いのではと思わせるぐらい動き続けていました。

「本当にそうですね。5分3Rをずっとアタックし続けても、まだ体力が余っているぐらい(笑)。だからこそ、2Rにチマエフが攻めなかった理由が分からなくて」

――チマエフにしてみれば、ウスマンのほうがもっと出て来ると思ったのか。あるいはウスマンが終始チマエフの足を触る、つまりテイクダウンを狙っていたので警戒していたのか。

「確かにチマエフは警戒していたと思います。ただ、チマエフのほうも触ったら即倒せるようなテイクダウン力を持っているじゃないですか。1Rはタイミングで倒した要素もあるとは思うけど、あの展開の中で『完全にコントロールできる』と考えたはずですよね。でも2Rはチマエフが攻めず、ジャッジ2人がウスマンにつけていて」

――1Rはジャッジ3者とも10-8でチマエフのビッグラウンドとし、2Rは2者がウスマンの10-9。そして最終ラウンドはジャッジ2人がウスマンにつけるという採点結果でした。

「3Rは微妙なところでしたよね。ウスマンも寝かされていたけど、チマエフにはついていない。それでも何が凄いかっていうと、今までレオン・エドワーズ戦(今年3月、ウスマンが判定負けでベルトを失う)しか背中を着かされたことのないウスマンに対して、チマエフが相手の良いとこを出させずに組みで勝った。

しかも1Rは遠い距離から入って、足を掴んでから2度3度動かれても、しっかりとバックを取った。『とんでもなく組みの強いヤツが出て来た』と思いましたよね。本来、スタンドのバックコントロールから、背中に張り付いてバックマウントを奪いに行くとか。そういうことができないと、あの状態からテイクダウンディフェンスが強い相手を倒すって難しいんです。何といっても相手はウスマンですからね。そのウスマンを相手に、何度も何度も足を入れながら崩していく。ミドル級なのに軽量級のファイターが見せるような組み技の細かさで」

――ケージ際でバックを奪いながらも、展開できずに離れる選手は多いです。スタミナをロスしないためには、必要な戦術だと思います。軽量級でもそのような攻防が多いのに対し、チマエフはミドル級でもあれだけアタックし続けているのが驚きです。

「僕も、スタンドのバックコントロールが巧くない選手に対しては『そこで勝負せずに、離れ際だけ注意して離れろ』と言ったりします。しかもウスマンは、その際の処理がメチャクチャ巧い。なのに、そのウスマンが警戒して組みの対処が後手に回っている。勝負せずに相手の組みを受け入れて、そこからどうしようかと考えているような感じでしたね。あの展開で3Rをウスマンにつけるジャッジがいるんだってことにも驚きましたけど、そんなことは関係ないほどの衝撃を受けた試合でした」

――ウェルター級以上で、あれほど細かい組み技を見せる選手が増えると、日本人ファイターはどうなってしまうのでしょうか。

「中量級以上で戦っている日本人選手がどうなるか、ということですよね。それは難しいんじゃないですか。ただでさえ軽量級に比べたら中量級以上の選手層が薄い日本で、チマエフほどの細かい技術を持つファイターを生み出すのは――。岡見勇信みたいに、一人だけ世界のミドル級で戦える選手が突然出て来ることもあるし、一概には言えないですけどね」

――チマエフが飛び込むスピードも、ミドル級の中では速すぎるように思いました。

「ミドル級では抜けているスピードですよね。一方で、打撃は少しディフェンスが甘い。ただ、ウスマンの左ジャブだから食らってしまう――というのはありますけど」

――チマエフの登場で、今後のUFCミドル級が大きく動きそうですね。

「ミドル級はイスラエル・アデサニャがトップどころを一掃して、そこにアレックス・ペレイラ(※取材後の11月11日にUFC世界ライトヘビー級王者に)とストリックランドが出て来た。そこにチマエフが現れて……誰が勝てるかなぁ。

チマエフは体格も理想的なミドル級だし、打撃も綺麗なジャブとストレートを打つ。スイッチもできる。しかもチマエフって、MMAを始めたのは最近ですよね。2018年までレスリングをやっていて、その少し前——2017年あたりからアレクサンダー・グスタフソンのジムで練習し始めたとか。5年であれほど打撃ができるというのも、レスリングとバランスの良さがあってのもので」

――チマエフのアドバンテージとして、バランスの良さと圧の強さがあると思います。打撃の攻防の中で、ウスマンがハイを見せながら体勢を崩しました。それだけチマエフのプレッシャーが強かったのではないかと。

「ウスマンって相手と向かいあったらすぐにジャブを出すし、テイクダウンにも行く。それだけアタックの回数が多い選手なのに、2Rは――チマエフもそうですけど、ウスマンのアタックは少なかった。あのウスマンが引くぐらいの圧なんだろうなって思います。

チマエフはヌルマゴ(カビブ・ヌルマゴメドフ)に近いタイプかもしれませんね。ただ、ヌルマゴのほうが早く組みに行く。チマエフは結構、打撃の攻防をやりますから。今の時点で組みの力は図抜けているので、打撃も含めてこれから成長していくと、どこまで強くなるんだろう?』と思わせるファイターです」

――チマエフは現在ランキング9位です。まだ先の話ではありますが、現世界ミドル級王者のショーン・ストリックランドと対戦した場合は……。

「そういえばDJがインターネットのインタビューで、ウスマン戦を視て『チマエフの弱点が見えた』というようなことを言っていたんですよ。ショーン・ストリックラウンドのようにアタックの回数を多くして、ガス欠を起こさせたら――と。でもガス欠を起こさせたとしても……ですよね。

ウスマンがスクランブル出場であったとしても、あれだけチマエフはテイクダウンできたわけですよ。少しでも触ったら倒せる。だからもしチマエフがベルトを獲ったら結構な長期政権を築くんじゃないのかな、とも思っています」

――ストリックランドの圧に対しても、チマエフはウスマン戦と同じ展開に持ち込めるでしょうか。

「どうでしょうね……。まずストリックランドのジャブと前蹴りに対して、正面に立つのは嫌ですよね。しかも自分に考える暇も与えず、ストリックランドが攻めてくる。1Rは攻めあぐねたとしても、2R、3Rと猛追してくるじゃないですか。それができるのって、テイクダウンディフェンスと立ち上がる技術があるからで。ただ、チマエフもストリックランドを相手にしても触れば倒せると思います。そこからストリックランドが立ち上がることができるかどうか。今のUFCミドル級でも、チマエフの組みから逃れることができる選手は見当たらないから楽しみですよ」

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【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:10月 ウスマン×チマエフ「スタンドのバックキープは山の五合目」

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
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大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は水垣偉弥氏が選んだ2023年10月の一番──10月21日に行われたUFC294でのカマル・ウスマン×カムザット・チマエフ戦について語らおう。

――取材がギリギリになって申し訳ありません!10月の一番として、水垣さんにはUFN228でのカマル・ウスマン×カムザット・チマエフを選んでいただきました。

「まずチマエフはまだ底を見せ切れていないというか、ギルバート・バーンズ戦で大分見えていた部分もあったけど、最終的には競り勝った。では本来の階級は下だけど、ウスマン相手にチマエフの実力がどうなのかを見たいという興味がありました。あとはテイクダウンされないウスマンと最強のテイクダウン技術を持つチマエフが戦ったらどうなるのかなという好奇心もありましたね」

――いざ蓋を開けたらチマエフが開始早々テイクダウンしてバックを取るという衝撃的な展開でした。

「あれはビビりましたね(笑)。改めて見直すとチマエフがテイクダウンしてバックを取るまで1分くらいなんですよ。あの攻めの速さは尋常じゃないです。ただ2Rになるとチマエフがテイクダウンにいけなくなるんですよ。少し休みながら戦っているようにも見えて、もしかしたら1Rにテイクダウンとバックは取っていたけど、あの攻防のなかで『今までの相手とは違う』という感覚があったのかもしれないですね」

――意図したものかどうかは分からないですが、1Rと2Rのチマエフは別人のようでした。

「そこがまだチマエフの分からないところなんですよ。スタミナが切れてしまったのか、あえてそうしたのか。3Rに入ると何度かテイクダウンに成功しているし、結局チマエフの全貌が分からない(笑)」

――3Rはウスマンのパンチも当たりだしたので、このままウスマンが前に出て、チマエフが弱気になると思ったんです。そうしたら打撃でも打ち返していましたよね。

「それはバーンズ戦でも感じたことで、僕はチマエフは試合終盤の競り合いになったら弱気になるタイプだと思っていたんですよ。でもバーンズ戦はそういう競り合いでも勝負強さを見せたんですよね。今回も2Rを見終わって、3Rはこのままウスマンの流れるになるかなと思っていたら、最後はチマエフが盛り返して勝っている。2試合連続ちゃんと競り勝っているわけだから勝負弱くはないと思うんですけど、1Rの圧倒ぶりからすると、もっと圧勝できる気もするじゃないですか。でも最終的に接戦になってしまっているので『結局、チマエフどうなの?』と思われてしまいますよね」

――そんな謎多きチマエフではありますが、シングルレッグからテイクダウンしてバックコントロールという流れは素晴らしかったです。ここ最近のロシアや中央アジア出身の選手が得意にしているムーブです。

「シングルレッグ、テイクダウン、相手が立ってきたらバックキープ、仮に立たれてもスタンドでバックをとる、そこからテイクダウン……この流れが完全に出来上がっていますよね。チマエフはハビブ軍団とは別チームなので指導者やトレーナーが同じということはないと思うんですけど、あの地域のレスリング系の選手の技術体系や動きが似ているというのは不思議な部分ではあります。これは推測ですけど“組み伏せて殴る”ことを突き詰めていくと、バックコントロールに行きつくんじゃないですかな、と」

――スクランブルの攻防が増えて、組みの展開で選手が立つという選択をするようになった。グラウンドで両足をフックする柔術的なバックコントロールよりも、レスリング的な足をフックしないバックコントロールの時間が長くなっていることも影響していると思います。

「その方が殴りやすいというのもあるでしょうね。あとは立たれるリスクもあるけれど、スタンドでバックについていればOKという感覚もあると思うんですよ。立たれて正対されるのはダメだけど、バックについていれば仕切り直しできるみたいな」

――スタンドのバックキープがイーブンではなく有利な状況ということですね。

「山登りでも五合目にベースキャンプを置いて、登山途中に天候が悪くなったら一旦ベースキャンプに引き返すじゃないですか。そのベースキャンプがスタンドのバックキープというか。テイクダウンして完全にバックコントロールするのがベストだけど、その攻防で自分が下になる・立たれて距離を取られるリスクがあるなら、立たせてバックキープする方がいい。スタンドのバックキープは6:4で有利だけど、正対されたら4:6で不利になる。だから6:4で有利でいられるところまで戻されることはよしとする感覚なんだと思います」

――なるほど。“立たれた”ではなく“立たせた”という見方もできる、と。そう考えるとポジショニングの概念も選手のファイトスタイルや技術によって変わってきますね。

「もちろんスタンドのバックキープからテイクダウンする&組み伏せる技術ありきですが、彼らにとってはグラウンドのポジションキープよりも体力の消耗も少ないんだと思います。そこまで展開に幅を持たせることが出来たら体力的にも精神的にも余裕を持てますよね」

――逆にショートノーティスで出場が決まって、本来はウェルター級ながら、ミドル級のチマエフとあれだけ出来たウスマンの強さも再確認しました。

「チマエフのテイクダウンを切って、捌くところは捌いてましたからね。UFCは試合中にテイクダウンの成功率が出るじゃないですか。確かにテイクダウンを取られてはいるんですけど、防いでいると言えば防いでいる。その数字は『あれだけチマエフのテイクダウンを防いだウスマンはすごい!』なのか『結果的にウスマンからテイクダウンを取っているチマエフはすごい!』なのか。チマエフが未知数な部分を残している分、どっちなんだろうなと思ってしまいますね(笑)。もちろんウスマンをテイクダウンするチマエフの能力はすごいですんですけど」

――チマエフは前回の試合が13戦目ですし、まだまだ伸びしろはありそうですね。UFC自体も完成された選手が集まるというより、UFCで戦っていくなかでキャリアを積んで伸びていく選手たちが増えそうです。

「例えばDWCS(Dana White’s Contender Series)から無敗のまま上がってくる選手もいますけど、正直『えっ?』と思うような選手もいるんですよ(笑)。でも今のUFCはそれもありというか。戦績がいい選手を30~40選手くらい集めて、その中にダイヤの原石が1人いればいいという考えで、昔と比べるとふるいのかけ方が変わってきているんだと思います。とりあえず戦績がいい選手を数で集めて、UFNのアンダーカードで削って行くみたいな」

――以前は他のプロモーションで勝ち上がった選手がUFCを目指していましたが、今はUFCというプロモーション自体がもう一つ大きなふるいを持ったイメージですよね。それがRoad to UFCやDWCSでもあると思いますし。

「とりあえず履歴書を送って、書類選考は通過みたいな(笑)」

――まずはバイトから始まって正社員まで険しい道のりが続く、と(笑)。言い方を変えれば間口が広がった分、UFCに引っかかる可能性やチャンスは増えましたよね。

「まだDWCSに日本人が出る機会は少ないですけど、木下憂朔選手の例もありますからね。ただそれは他の国にも言えることで、アジア圏でも色んな国から選手が出てきているじゃないですか。来年はUFCとしてインドから選手を育成するプログラムをスタートさせるという記事も見ましたし、Road to UFCに出ている選手たちも1年間で急成長していますからね」

――UAE Warriorsに参戦中の藤田大和選手を取材したのですが「国全体でMMAが盛り上がっている空気を感じるので、これからすごい選手が出てくる可能性もあると思います」と話していました。

「UAEWやBRAVE CFを経由してUFCに出る選手たちは一味違いますよ。あとはムハマド・モカエフのようにIMMAFに出ている選手たちは、アマチュアだけどめちゃくちゃレベルが高いところで試合をしてきているから、先ほどとは逆で『この強さでこの戦績?』と驚くような選手も出てきますよね。MMAという競技の発展という意味では、そういった動向も見ていきたいと思います」

――もしかしたら数年後にインドやUAEがMMA大国になっているかもしれない。そんな言葉で今月の一番を締めさせていただきます!

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お蔵入り厳禁【Special】月刊、柏木信吾のこの一番:7月―その弐―鈴木千裕✖パトリシオ「Bellatorが……」

【写真】フレイレ戦の勝利後の会見の席での鈴木。この時点では、彼の米国での活躍に胸を躍らせたファンも多くいたに違いない――(C)MMAPLANET

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。
Text by Shojiro Kameike

背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾という3人のJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。

今回は柏木信吾が選んだ2023年7月の一番、7月30日に行われた鈴木千裕×パトリシオ・フレイレ戦の続編……前編から2カ月以上を経てという掲載は、当時――記事化できなかったBellatorの状況が多々あったからだ。

お蔵入り厳禁――8月の時点で氏の口から語られていた『事実』こそ、鈴木千裕がアゼルバイジャンでヴガール・ケラモフと戦うという現在に通じている。

<月刊、柏木信吾のこの一番:7月:鈴木千裕✖パトリシオ・フレイレPart.01はコチラから>


――パトリシオにしても、よく受けたなと思う試合でもありました。

「それに関していうと、Bellator側の最初のリアクションは『スズキは何か悪いことでもしたのか?』だったんです(笑)」

――アハハハ。懲罰だと?

「ハイ(笑)。スズキはサカキバラを怒らせたのか、と。パトリシオに関しては、本当は試合をすることは嫌だったみたいです。『なぜ、やらないといけないのか』って」

――実はBlack Houseでマネージメントをしているエド・ソアレスは「イージーマネーだ」とホクホク顔で話をしていましたね(笑)。

「アハハハ。パトリシオからすると嫌だけど、条件が割りに合うというか……そこにあったら取るでしょと。お腹いっぱいでも、まだ食べられるということだったと思います」

――色々な背景があって実現した試合。鈴木選手が勝利し、彼はFigth&Lifeのインタビューで今後に関して、しっかりと「一番良い条件のところ」という話をしていました。お金の話ができる選手って、強いと思います。

「うん、そうですね。その辺りのハングリーさは、結果にも出てきますね。そういうファイターが成功しているんです。ブラジル人そうで。鈴木千裕選手のパトリシオ戦は、ハングリーな選手の魅力が詰まった試合でもありました」

――この試合で勝利した鈴木選手の北米MMA界における価値を柏木さんは、どのように捉えていますか。

「大筋は変わらない」

――えっ……。

「MMA業界の勢力分布図には、影響を与えないと思っています」

――……。

「Fight Matrixで鈴木選手のランクが12位に跳ね上がりました。それは数字的にパトリシオに勝った選手が自動的に上位にランクされるということです。ただしBellatorやUFCというMMA業界においては、お祭りのなかで事故が起きた――という捉え方だと僕は思っています」

――Bellatorで再戦だろう、とか。パトリシオをKOしたのだから、UFCのアンテナに引っかかってくるのではないという期待が……。

「お祭りの時に起こった事故って言っちゃうと、それは申し訳ないのですが……パトリシオも、そこまで深く受け止めていないかと。僕の立場としては、この勝利で色々と仕掛けられるかなっていうのはありますけど。そういう期待感があって、実際にBellatorで戦うことになったとしましょう。なら、高島さんはどう思いますか?」

――簡単ではないです。

「ジェレミー・ケネディ戦とか実現したら、どうなりますか」

――勝つことは難しい。もちろん、一発で勝つ力はあります。ただし、それを連続するだけの力はまだ備わっていない。

「そういうことですよね。鈴木千裕選手が活きるマッチメイクをBellatorや北米のプロモーションが組んでいくのかといえば、それはないですよね。特にBellatorはグラップラーが多いので……そこは簡単ではないと思います。正直、パトリシオをKOしたからといって、パトリシオより強いという風にはならないと思います」

――ハイ。

「もちろん格闘技の魅力が大爆発した試合ではあったのは間違いないです。ですが、それが現状ではないかと」

――その勝負に勝ったのだから、ライズしたモノが何倍にもなって返るようになってほしい……。

「オールインして、勝ったわけです。それは本当に素晴らしい勝利でした」

――Bellatorは柏木さんと違って、あの勝敗で何かを仕掛けることはないと。

「それは……ほら、今は状況が状況じゃないですか。10月以降のことを、今のBellatorが考えることができているのか。残念ながら、そうではないと思います。本来ならBellatorでリマッチが組まれても、全くおかしい話ではないです。でも、今はそれどころじゃない――ということは、伝わってきますよね」

――Bellatorの今後が不透明すぎますし、PFLがBellatorの全選手の契約を買い取るとは思えないです。

「選手を回すこともできないですよね。PFLのシステムで、そこまで選手を抱えることはないと思いますし」

――PFLはどうなのか……。ONEの元スタッフで、凄く優秀だった人がPFLの中東の担当になったり、自分の周囲ですら色々と勘繰りたくなる動きは見られます。

「いずれにせろ、契約を満了にする期間は必要ですよね。その母体を残さないと、契約を履行でいない」

――9月以降のBellatorは凄まじい数のマッチメイクを組むようになっています。

「そうですね。だから、本当にこの状況でなければ……。逆にいえばBellatorが、こういう状態だったからパトリシオ・フレイレと鈴木千裕戦を組むことができた。RIZINからすると漁夫の利です。アハハハ、言っちゃった(笑)」

――ダハハハハ。

「同時にBellatorが通常営業していれば、米国で再戦もあっただろうし、我々の方から米国で試合を組んでほしいと伝えていました。そこは絶対です。あの試合に勝ったんだから、それはやっていますよ。でも、今はそういう状況ではない。向こうがそういう状況ではないから話はしてこないし、こっちもできないというのが現状です」

――Bellator300以降の話が、まず聞かれないです。

「ないですね。10月7日以降がどうなるのか。それが10月7日前に分かるのか(※9月13日にBellator301=11月17日大会の開催が発表された)。いずれにしても、こういう状況で生まれた試合で、あの勝ち方をした鈴木千裕選手は今のRIZINフェザー級で誰とやっても面白い選手になったんです。

一発当てると、勝負を終わらせることができる。これまで燻っていてものがあったけど、パトリシオ戦の勝利で――こんなに良い選手なんだということが伝わった。鈴木千裕という選手の生き方が集約された試合が、パトリシオ戦だったかと思います。そこが凄く分かりやすい形で、多くの人に伝わった作品となりましたね」

■視聴方法(予定)
11月4日(日)
午後10時00分~ABEMA, U-NEXT, RIZIN100CLUB,RIZIN LIVE,スカパー!

■ RIZIN LANDMARK07対戦カード

<RIZINフェザー級選手権試合/5分3R>
[王者]ヴガール・ケラモフ(アゼルバイジャン)
[挑戦者]鈴木千裕(日本)

<ライト級/5分3R>
トフィック・ムサエフ(アゼルバイジャン)
武田光司(日本)

<ライト級/5分3R>
ナリマン・アバソフ(アゼルバイジャン)
アリ・アブドゥルカリコフ(ロシア)

<60キロ契約/5分3R>
メイマン・マメドフ(アゼルバイジャン)
フェリット・ギョクテペ (トルコ)

<ライト級/5分3R>
ドゥラル・ラギモフ(アゼルバイジャン)
キム・ギョンピョ(韓国)

<女子ストロー級/5分3R>
アナスタシア・ヴェッキスカ(ウクライナ)
ファリダ・アブドゥエバ(キルギス)

<フェザー級/5分3R>
ホアレス・ディア(南アフリカ)
イルホム・ノジモフ(ウズベキスタン)

<ライト級/5分3R>
イリヤール・アスカノフ(カザフスタン)
ヴラディスラヴ・ルドニエフ(ウクライナ)

<ヘビー級/5分3R>
クエンティン・ドミンゴス(ポルトガル)
ショータ・ペトレミドゥゼ(ジョージア)

<ライトヘビー級/5分3R>
ハサン・メジエフ(ラトヴィア)
コンスタンティノ・メルクロフ(カザフスタン)

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【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:9月魅津希×ゴールディ「練習してきたことを試合で出せるセンス」

【写真】オクタゴンで、しっかりと勝てる。素晴らしいことだ(C)Zuffa/LCC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は水垣偉弥氏が選んだ2023年9月の一番──9月23日に行われたUFN228:UFN on ESPN+86「Fiziev vs Gamrot」での魅津希×ハナ・ゴールディ戦について語らおう。


――今回水垣さんにはUFN228での魅津希×ハナ・ゴールディを選んでいただきました。

「魅津希選手は約3年のブランクがあって復帰戦が組まれて、UFCなので相手のレベルも高いですし、大変な状況だったと思うんですけど、本当にいい勝ち方をしたと思います。UFCにおいて日本人がなかなか勝てないという状況が続いている中で、同じ日本人としてうれしい勝利でしたね」

――僕も試合を見ていて、ブランクを感じないほど序盤から身体が動いていたと思いました。

「すごく動きが良かったですよね」

――それだけ準備が出来ていたということでしょうか。

「UFC PIも利用してリハビリに向けたサポートをしっかり受けることが出来たのが大きいんじゃないですかね」

――結果的に時間をかけて治療、リハビリ、練習したうえで復帰したことがよかったのかもしれませんね。

「特に彼女の場合は小さい頃から格闘技をやっていて、年齢と比較して競技生活が長いと思うんですよ。それで細かい怪我も多かっただろうし、一度しっかり休んで怪我を治すことが出来たのは、これからに向けても大きなことだったと思います」

――技術的な部分についても聞かせてください。1Rはテイクダウンを狙うゴールディを首相撲でコントロールしたり、組みの攻防にイニシアチブをとっていました。

「あの首相撲もそうですし、自分殻をワキを差してゴールディにケージを背負わせたり、レスリング力がかなり向上しているなと思いました。下になる場面は2Rに1回あったぐらいで、あの時もすぐにスクランブルを仕掛けて、立ち上がっているんですよ。それまでの魅津希選手は打撃が出来て寝技も強いタイプで、テイクダウンされると下から勝負することを選択することが多かったと思うんです。でも今回は下になっても立つ、上を取り返すという意識が強くなっていて、MMAファイターとしての進化を感じました。ただ怪我を治して元の状態に戻って復帰するのではなく、それにプラスアルファで自分に足りなかった部分を補ってきたんだなと思いました」

――フィニッシュを狙う印象が強かった魅津希選手のMMAファイターとしての進化が見られた試合ですね。

「そうですね。やはりこういう戦い方ができると判定を拾いやすくなるので、判定も拾えてフィニッシュも狙える。それが出来るようになるんじゃないかなと思います」

――判定はジャッジ3名が29-28ながら、どのラウンドにポイントを付けるかがばらつきました。これについてはいかがでしょうか。

「僕は30-27でもいいかなと思いました。強いて言うなら2Rに一度グラウンドで上を取られましたけど、逆に上を取り返していますし、僕は完勝と言っていい試合内容だったと思います」

――今回の試合に限らず、魅津希選手のファイターとしての長所はどこでしょうか。

(C)Zuffa/UFC

「すごくファイトIQが高い選手だと思います。

スタンドでは細かいフェイントをかけるのが上手いですし、抑えるべきところをしっかり抑えて戦っている。ちゃんと相手を研究して戦って、試合を作ることが出来ますよね。唯一懸念していたのが、先ほどのグラウンドで下になった時にスクランブルを仕掛けるのではなく落ちついてしまうところだったので、そこはまさに改善されつつあると思います。

あとはフィジカルですね。今回の対戦相手はめちゃくちゃゴツくて、ちょっと力負けするんじゃないかと思っていたんです。そういう相手にも力負けしていなかったことも進化の一つですよね。あと僕は村田夏南子選手の存在も大きいと思っていて、村田選手のレスリングとフィジカルは世界に通用するものですし、一緒に練習していることがかなりプラスになっていると思います」

――これまでNYのセラ・ロンゴ・ファイトチームで練習していた魅津希選手ですが、この1年は日本を練習の拠点とし、山﨑剛代表のリバーサルジム新宿 Me,Weをべースに村田選手、CUTEで上田将勝さんと練習していたそうです。

「基本的に山﨑さんのもとで練習しつつ、村田選手と対人練習して、上田さんから細かいレスリング技術を教わって、そういう取り組みが出た試合だと思います。あと僕が『月刊、水垣偉弥のこの一番』に選んだ一番の理由でもあるんですけど、練習でやってきたことをちゃんと3年ぶりの試合でも出せるというところですね。それは彼女が持っているセンスであり、試合勘の良さなのかなと思います。

どれだけ練習で出来ていても、無鉄砲にいくだけだったら試合で出せないと思うんですよ。しかも魅津希選手の場合は新しい技術を学んだうえでの試合で、本番で今までやってこなかったことを出すのは簡単ではないし、それを3年ぶりの試合で一発で出してくるところはさすがだなと思いました」

――それも一つの才能であり、センスですよね。

「一言でそう言ってしまうと、乱暴ではあるんですけど、試合になった時に落ちついて戦えるメンタルなのか。普通は練習で出来ていても試合で出せない選手の方が多いと思うんですよ。でもそれが出来てしまう、しかも復帰戦で出来てしまうというのは………やっぱりセンスなのかな(笑)。いずれにしても魅津希選手の中で、動きの感覚みたいなものがあるのだと思います」

――ちなみに魅津希選手の2週間後に復帰した村田選手の試合(ヴァネッサ・デモパウロスに判定負け)はどう見ましたか。

「僕は率直に試合を見終わったときに判定負けしたと思いました。最近のUFCの傾向としてトップを取っていてもキープだけでは評価されない。もう少しトップを取ったところで殴って攻勢を印象付けていたら判定も違っていたと思います。実際に3Rはそれが出来ていたと思うし、2Rはデモパウロスのガードポジションからの攻めの方が村田選手のトップキープよりジャッジの印象がよかったですよね。ただこれは技術的に劣っていたわけではないし、試合中の意識を変えればいいだけだと思うんですよ。

あとは先ほどの魅津希選手とは逆で、村田選手のステップワークやフェイントのかけ方が魅津希選手とそっくりだったんですよ。お互いにお互いが足りないところを補い合っていて、この」2人はすごくいいチームだなと思います」

――まだ練習を始めて1年とは思えないほど息が合っていますよね。

「はい。今回2人に事前にインタビューさせてもらったのですが、その時もすごくいい雰囲気だったので、今後どういった形になるかは分かりませんが、一緒に切磋琢磨して強くなって欲しいです」

――2人はこのままラスベガスに残って一緒に練習するとのことです。

「2人ともUFCでトップを狙えるポテンシャルを持っていると思うので、これからの2人の活躍には期待しています」

――ちなみに水垣選手は海外で長期合宿を行ったことはあるのですか。

「僕はジェフ・カランのジムに一カ月間半ほど行ったのが最長ですね。DJ.taikiさんとマキシモ・ブランコと相部屋という強烈なメンバーでした(笑)」

――日本と米国の練習環境、水垣選手はどのようにお考えですか。

「どちらを拠点に置くかは人それぞれだと思うのですが、僕の場合は日本の慣れた環境で練習する方が合っていましたね。海外で練習すると、良くも悪くも格闘技しかやることがないので、それがストレスになっちゃうので。あとは日本で出来ないなら海外でやるしかないと思っていたのですが、フランキー・エドガーの練習を見たときに、彼は自分で各分野の専門のジムに足を運んで練習してたんですよ。

マーク・ヘンリーに打撃を教わって、ヘンゾ・グレイシーのジムで組み技をやって、大学でレスリングをやって、ヒカルド・アルメイダのジムでMMAのスパーをやって、と。米国の選手がみんなメガジムで練習しているわけではないですし、エドガーの練習スタイルを見たときに、これだったら日本でもできることがあると思って、僕は日本で練習することを選びました。もし僕が米国で練習するなら、日本と米国を行き来せずに完全に米国に住んで拠点を変えます」

――日本と米国どちらがいいというわけではなく、自分に何が必要かを見極めて、取捨選択することが必要ということですね。

「そう思います。僕は自分に何が足りなくて、どこでそれを学べばいいかを考えることも才能やセンスだと思っていて、魅津希選手はそこも優れていると思います。試合で何をやるかだけでなく、試合に向けて何をやるか、試合のためにどんな準備をするか。自分の練習環境をどう整えるのか、どう普段のスケジュールや試合前のスケジュールを組み立てるのか。そういう部分まで意識して練習をすることが求められると思いますね」

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