カテゴリー
ADCC2022 MMA MMAPLANET o ONE WNO Championships   ガブリエル・ソウザ コナー・マクレガー ジオゴ・ヘイス ジオ・マルチネス ファブリシオ・アンドレイ マイキー・ムスメシ メイソン・ファウラー 堀内勇 高橋SUBMISSION雄己

【ADCC2022】ADCCを深掘り─01─/高橋Sub&堀内勇。66キロ級はレス&柔術力でファブシリオ&ジオゴ

【写真】22歳のファブシリオ・アンドレイと比較すると20歳のベイビーシャークの童顔ぶりが凄まじい(C)CLAYTON JONES/FLOGRAPPLING

17日(土・現地時間)&18日(日・同)にラスベガスのトーマス&マック・センターで開催される2022 ADCC World Championship。2年に1度のグラップリング界最大のトーナメントが、コロナの影響で3年振りに開催される。

グラップリング界においても特殊なポイント制が用いられながら、世界最高峰の組み技の祭典を高橋Submission雄己とMMAPLANETグラップリング・ライター堀内勇氏が、独断と偏見と愛情をもって深堀り。第1弾は天才2人を中心に66キロ級について語ってもらった。


――昨年のWNO Championshipsに続き、1年振りに高橋選手と堀内さんに、グラップリング大会の見所を語ってもらうことになりました。まずはADCC世界大会、、まずは66キロ級からお願いします。

堀内 自分は予習でFight&Lifeの高橋選手のADCC2022ガイドを読ませていただいて、さすがの見立てというか。ファブリシオ・アンドレイのことを分かっていなかったのですが、記事を読んでチェックしてみたら『これはレスリングが強いわ』と(笑)。ADCCのルールを考えた時に、ファブリシオが本命というのは反論のしようがないと思いました。

だからこそ、僕はファブシリオのチームメイトでもあるベイビーシャークことと、ジオゴ・ヘイスに注目したいと思います。

──体のバネが異様にありますよね。

堀内 そこを頭に入れてMMAPLANETの読者の方には、彼の動画でのインタビューを見て欲しいのですが、本当に童顔なんです。中学生ぐらいにしか見えなくて、声変わりもしていない(笑)。ミカ・ガルバォンも含め、ファブシリオとジオゴ・ヘイスは同門なんですが、ミカが「米国のファミレスで食事をした時に、ジオゴ・ヘイスにキッズ・メニューが渡された」と話していて。

高橋 アハハハハハ。

堀内 今回の66キロ級はマイキーがいなくなったことで、強い選手はブラジルの若い選手に集約されたような状態ですけど、ジオゴ・ヘイスの可愛らしいキャラを認知していただければと。試合に関していうと南米予選の1回目の方を視ましたが、準決勝の同門対決でファブリシオに足関節で勝っています。でも、アレはいつも取ったり、取られたりしている延長戦上にあるものかと思いました。

それより決勝のジエゴ・パト戦、世界最高のガードプレイヤーのパトを相手に後半の加点時間帯のレスリング合戦になると、体力とレスリングの圧力でベイビーシャークの方が上回ってきて。反応が悪くなったパトからバックを奪いかけて優勢勝ちしました。

あの試合を見て、パトは再戦が実現しても正直勝てないと思いました。コレをやられると防ぎようがない。ADCCに必要なレスリングの消耗戦での強さをこの子は持っていますね。ADCCのレスリングってテイクダウンをされても、亀になって3秒過ぎればテイクダウンが無効になります。だからなかなかテイクダウンポイントが入らず、永遠にレスリングが続きます。

そういう風な展開になると、ファブシリオとジオゴがもう1度戦うとファブリシオが勝つかなというのは、正直なところですけど。でも、この強豪揃いのなかで決勝を勝ち上がってくることを考えると、ひょっとしてジオゴの方が強いかも。そういう見立てをしました。

高橋 トーナメント表が出ていないなかで、ワンツートップはファブリシオとジオゴだと思います。

──ファブリシオも体のバネが尋常ではないですね。

高橋 ジオゴがファブシリオからヒールで勝ったものの、試合で極められたモノって凄く残るから、2度同じモノは食らわないだろうというところで──僕はファブシリオかと。ポラリスで66キロ級のファブシリオが、88キロ級のメイソン・ファウラーをレスリングで吹っ飛ばしているのを見て、その強さは絶対だという想いを持っています。

いずれにせよ、ファブリシオとジオゴが一番の注目株です。全然、関係ないんですけどポラリスの時、ジオゴが隣の部屋でした(笑)。部屋を出るときに十字を切っていて、敬虔なクリスチャンなんだと。

──ファブシリオ・アンドレイのレスリング、裸の柔道のような技もありますよね。小内刈りからシングルレッグとか、大腰で投げた試合を見ました。あの背中からドンと落とせる柔道技はテイクダウンポイントを取り辛いADCCでも有効でないかと思いました。

高橋 立ち技のポイントになると、シングルレッグで引き倒したり、ダブルレッグでガチッと入るよりも柔道的な投げのほうが抑え込みっぽくなるので、ポイントになりやすい。そうなるとさらにファブリシオの線が濃くなりますね。

──この2人以外に名前を挙げるなら、道着世界一のパトと言いたいのですが、南米予選の決勝後にムンジアルの準決勝でジオゴと戦った試合を見て、道着を有効利用して最後は50/50でパトが勝ちました。柔術だから何も間違っていないです。と同時に、あの勝ち方を見て、ADCCでパトがジオゴに勝つことはないと感じました。

高橋 そうですね。パトはガブリエル・ソウザとやった試合が印象的で。切って、倒れないところを見せていますが、それでもゴリゴリに立ち技が強いファブリシオやジオゴに勝つ手札はないと感じました。消耗戦のレスリングとなると、攻め手の少なさが原因となってギリギリのところで勝てないと思います。

堀内 下手をするとレスリングが強い選手と当たって、ベスト4前に敗退ということもあるかと。

──道着柔術の世界のトップで、そっちが本職という気持ちが少しでもあると、諦めて引き込んで負けという展開も有り得るかと。

堀内 南米予選の決勝で、パトがボロボロに疲れた状態でバックを許すと、ベイビーシャークが離れたんです。『最大のチャンスで離れた。何をやっているんだ』という意見があるなかで、ジオゴは『あの場面ではパトに背中をつけてガードをプレーさせたくなかった』と振り返っていました。先ほど言いましたが、ADCCルールだと亀でヒザをつき3秒が過ぎるとテイクダウンにならない。

──なるほど、スクランブルゲームでなく引き込み選択できるということですね。

堀内 ハイ。3秒間、パトが亀で耐えると彼は減点無しでガードを選択できるようになります。でも、ジオゴはそれをさせなかった。そこにはミカのお父さん、メルキ・ガルバォンの指示もあったかと思います。あんな風に最後の手段までそうやって周到に封じ込まれると、下派の選手は厳しいですね。

高橋 パトはソウザとの試合でも、なんだかんだと減点なしで下を取りました。下になるとガンガン攻めて、レフェリー判定で勝ちました。ジオゴ・ヘイスのようなトップゲームの強い選手が、パトにガードは取らせたくないというのは逆に幻想が膨らみますね。

──66キロの見所を話してもらううえで、最初に堀内さんが言われたマイキー・ムスメシの不出場。これはもう本音をいえば「ONE、要らんことするなよ」と。

高橋 アハハハハ。

堀内 盲腸の手術をするから欠場といっても、その翌週にONEでサブミッション・グラップリングの世界王座決定戦に出場するわけですよね……。

高橋 出場して欲しかったですけど、正直なところルール的に勝てないと僕は思っています。

──マイキーにすら、極め幻想は持てないですか。

高橋 それはWNOでソウザが打ち破った感はあるじゃないですか。マイキーのレスリングって、ジオ・マルチネスにぶん投げられているんで(笑)。

堀内 ただマイキーがジョー・ローガンのポッドキャストに出て『僕は3回、コロナで陽性になった(笑)』と言っていたんですよ。きっとソウザ戦の前はコロナだったんじゃないかなって(笑)。

高橋 病み上がりでガードのリテンションを仕切るスタミナがなくて、削り切られたと。

──いずれにせよ、マイキーは今回の欠場といい、ONEで5万ドルのボーナスで泣いている姿といい、ちょっとガッカリ感があります。5万ドルって、いうたら普通に働いていたら1年間で手にデキる額で。それで柔術世界一が泣くなよって。

高橋 マイキーともあろうお方が(笑)。コナー・マクレガーが飲み食いして一晩で使っちゃいそうな額ですからね。業界IQでいえば同じところにいる人間が、そこで泣くなと(笑)。

<この項、続く>

The post 【ADCC2022】ADCCを深掘り─01─/高橋Sub&堀内勇。66キロ級はレス&柔術力でファブシリオ&ジオゴ first appeared on MMAPLANET.
カテゴリー
MMA ONE WNO Championships WNO13 オリバー・タザ クレイグ・ジョーンズ タイ・ルオトロ ダヴィ・ハモス ドナルド・セラーニ ペドロ・マリーニョ リーヴァイ・ジョーンズレアリー

【WNO13】2022年のWNOはクレイグ×ノーギワールズ2冠マリーニョ、タイ・ルオトロ×リーヴァイから

【写真】反応という部分をとっても、若いマリーニョがクレイグを食う可能性は十分にある (C)MMAPLANET

1月21日(金・現地時間)にテキサス州フリスコにあるスポーツ・アカデミー・アット・ザ・スターでWNO13が開催され、WNOライトヘビー級王座決定戦=クレイグ・ジョーンズ×ペドロ・マリーニョ、WNOミドル級選手権試合=王者タイ・ルオトロ×挑戦者リーヴァイ・ジョーンズレアリーという2つのタイトル戦が組まれることが発表されている。

ムンジアルが2年振りに開催された今も、北米でのグラップリング熱は収まらず、MMAファイターも多く参戦するなか、純粋グラップラーの活躍でこのジャンルをリードするWNOが2022年も早速注目カードを揃えてきた。


新設されるライトヘビー級王座を争うクレイグとマリーニョは揃って9月に行われたWNO Championshipsのミドル級王座決定トーナメントを欠場しているが、翌月にクレイグはPolarisノーギ・ミドル級王座をダヴィ・ハモスを相手に防衛し、今月19日には──なんちゃってコンバット柔術でドナルド・セラーニを下している。

一方、グレイシーバッハの黒帯マリーニョは10月に開催されたノーギワールズで無差別級とヘビー級を制し、ポイント有りノーギで──黒帯初年度にして世界最強グラップラーの地位を獲得している。

レスリング力もあり、足関節も使いこなしながら、ギロチンというスクランブル系の極めを持つマリーニョ。ADCCイヤーの戦い初めでクレイグを相手に、どのような試合を見せることができるのか、非常に興味深い。

(C)CLAYTON JONES/WNO

そんなクレイグとマリーニョが欠場したトーナメントを制し、ミドル級王者となったタイの初防衛戦の相手=ジョーンズレアリーは10月のWNOに初参戦し、オリバー・タザを判定で下している。

その後、アブダビ・ワールドプロ、ムンジアルを経てWNO王座挑戦という機会を得た。

(C)CLAYTON JONES/WNO

オープンガードとベリンボロのユニティらしいコンビネーションで、10代の百戦錬磨=タイへの攻略は可能か。

ノーギにおけるベリンボロ攻防が、どのようなグラップリングの未来を見せてくれるのか──見逃せないミドル級選手権試合だ。

The post 【WNO13】2022年のWNOはクレイグ×ノーギワールズ2冠マリーニョ、タイ・ルオトロ×リーヴァイから first appeared on MMAPLANET.
カテゴリー
BELLATOR INVICTA MMA ONE SUG27 SUG28 UFC WNO Championships   アンディ・ヴェレラ カイル・チェンバース カイル・ベーム クリス・レンチオーニ ケビン・リー ジュリアナ・ミラー タラ・ラロサ ハイサム・リダ ビア・メスキータ メイソン・ファウラー リッチー・ブギーマン・マルチネス

【SUG28】ハイサム・リダがメイン登場!! ケビン・リー✖レンチオーニ&タラ・ラロサも

【写真】いよいよハイサムが全米級の活躍をするようになってきた!!(C)CLAYTON JONES/FLOGRAPPLING

31日(日)、ポートランド州コーネリアスのコーチ・サーチ・シニでSUG28が開催され、ハイサム・リダが初出場でヘッドライナーの大役を担う。

ノーギワールズでメダルの獲得すらならなかったが、WNO Championshipsヘビー級3位という結果がUFCファイトパスでライブ配信されるケージグラップリング大会のメイン抜擢につながった。


ハイサムの相手アンディ・ヴェレラは今年の3月に石井慧を破り、4月にメイソン・ファウラーの持つSUGアブソリュート級王座挑戦経験もあるグラップラーだ。元MMAファイターでコンバット柔術や、グラップリングでも3CGやF2Wでも戦ってきた。

そのうえでSUG27度の歴史で10試合の出場経験があり、通算戦績は6勝4敗とケージグラップリング&OTの経験値は群を抜いている。とはいえ純粋に一本を取る技量ではハイサムがヴェレラに遅れを取ることはない。事前の掛け率でもハイサムは-415でヴェレラは+305と圧倒している。

ハイサムとしては5分という短時間、金網、何よりもOTという終着点があることを考慮し、この初チャレンジに挑まなければならない。そして、初物尽くしチャレンジを成功裏に終えると、見えてくるのはファウラーの持つベルトだ。

(C)Zuffa/UFC

また今大会ではUFCファイターのケビン・リーの出場も急遽決まった。

元Bellatorファイターで、AJ・アガザームに勝利しながら、その後ファイトの機会が与えられていないクリス・レンチオーニと対戦予定だったジョーダン・ホリーの欠場を受け、3日前のスクランブル発進にUFCライト級インターリムコンテンダーが同意した。

リーのベースはレスリング。ミシガン州のグランドバレー州立大時代の2年生の時にはレスリングクラブで37連勝を記録したが、MMAに専念するために大学を中退した過去を持つ。MMAではキャリア18勝のうち一本勝ちが8試合、うち7つの勝利がRNCというリー。

(C)BELLATOR

対するレンチオーニはSUGで3勝1敗、コンバット柔術でも勝利している。

パウンド有りとはいえアガザームのバックグラブを逃れ、Zハーフガードを潰すと、キムラの仕掛けにバックから3/4マウントを奪うなどグラップリングは1枚上手を行くか。あるいはレスリングでリーが試合を支配してしまうのか。両者の戦いでは、ケージを効果的に使ったサブミッション・レスリングおよびスクランブルというこれまでのグラップリングシーンでは見られなかった戦いが見られるかもしれない。

また10thPlanetのカイル・チェンバースとタナー・ウェイスグラムのマッチアップも決まっている。

ウェイスグラムはホベルト・ヒメネス、カイル・ベームに連敗中だけに、チェンバースはSUGの一線級であることを示す結果が必要だ。

(C)INVICTA FC

隆盛を究めつつあるグラップリング界にあって、独自路線をいくSUGらしいカード、ある意味、今大会のサプライズがテラ・ラロサの実戦復帰だ。

2002年にMMAデビュー、女子MMAのパイオニアは22勝5敗という戦績を誇りながら、UFCで戦うことなく2015年5月を最後に表舞台から離れていた。43歳になったラロサの相手はリッチー・ブギーマン・マルチネスがキラーの愛称で呼ぶジュリアナ・ミラーだ。

ミラーは10月の女子版コンバット柔術&EBI=メドゥーサのコンバット柔術女子バンタム級GP初戦であのビア・メスキータをOTのエスケープタイムながら破り、大番狂わせを起こした注目の選手だ。トーナメント自体は準決勝で、準優勝のニッキ・サリバンに敗れたが、OTの強さは立証済みといえる。

そんなミラーを相手に、ラロサは往年の重厚感あるサブミッション・グラップリングを披露できるか──非常に楽しみ一戦だ。

The post 【SUG28】ハイサム・リダがメイン登場!! ケビン・リー✖レンチオーニ&タラ・ラロサも first appeared on MMAPLANET.

カテゴリー
MIKE MMA NOGI Worlds2021 WNO Championships イゴール・タナベ ハイサム・リダ ブログ ラファエル・ロバトJr ヴィニシウス・フェヘイラ

【NOGI Worlds2021】WNOヘビー級T3位のハイサム・リダが、ノーギ柔術の頂点を目指す!!

【写真】IBJJFノーギで世界を摂ることができるか(C)MIKE CALIMBAS/FLOGRAPPLING

7日(木・現地時間)からテキサス州ダラス郊外のガーランドはカーティス・コーウェル・センターで開催中のWorld IBJJF Jiu Jitsu NO-GI championship2021=ノーギワールズ2021。

9日(土・同)に準々決勝と準決勝、10日(日・同)にファイナルが行われる黒帯スーパーヘビー級にハイサム・リダがエントリーしている。


9月25日&26日に行われたWNO Championshipsのヘビー級で3位に輝いたハイサムが、2週間のインターバルでノーギ柔術の頂点に挑む。

ハイサムの初戦の相手はシャビエル・シウバ、黒帯になって日が浅いポルトガル人柔術家で、サンディエゴではイゴール・タナベらと練習していたこともある新鋭だ。

ここをクリアすると、初戦をシードされた昨年のノーギワールズ・スーパーヘビー級優勝のヴィニシウス・フェヘイラが、待ち受けている。今大会の優勝候補筆頭といえるフェヘイラはシッティング&アンクルピックという師匠マルセリーニョ・ガウッシア仕込みの動きや、シングルレッグXから足関節、あるいは足を絡ませて横回転でスイープという動きを見せる。

ポイントゲームという部分でフェヘイラには巧さがあるが、俊敏性と爆発力と丁寧さを兼ね備えたハイサムは、真っ向から勝負に挑むことができるはずだ。ノーポイント制のF2Wなどでは芳しい結果が残せていないフェヘイラに対し、座り合いを避け、長い足を生かしたクローズドからの創ることができればハイサムの決勝進出の目は十分にある。

反対側のブロックは誰が勝ち上がって来るのか予想が難しいが、一番のビッグネームであるラファル・ロバトJrが2つかってファイナルでハイサムと相対する──それが日本のファン、そしてハイサムとってベストなストーリーラインであることは間違いない。

ノーポイント、アタック重視&ジャッジの裁定有りサブオンリー・グラップリングから、ヒールが解禁されたとはいえポイント制で、守りを固めることも比較的可能なノーギ柔術で、ハイサムがIBJJFメジャー制覇なるか、要注目だ。

The post 【NOGI Worlds2021】WNOヘビー級T3位のハイサム・リダが、ノーギ柔術の頂点を目指す!! first appeared on MMAPLANET.

カテゴリー
MIKE MMA ONE ONE Championship WNO Championships   カイナン・デュアルチ クレイグ・ジョーンズ ティム・スプリッグス ブログ

【WNO Championships】─09─大アップセット!! ヘビー級決勝でスプリッグスがカナンを外ヒールで破る

【写真】捻る方向に自らも回るオールドスクール外ヒールで一本勝ち。歴史的な勝利をスプリッグスが挙げた (C)MIKE CALIMBAS/FLOGRAPPLING

9月25&26日(土&日・現地時間)にテキサス州オースチンのパーマー・イベンツセンターで開催されたWho’s Number One Championships。ライト級、ミドル級とヘビー級、女子はストロー級及びヘビー級で賞金3万ドルとチャンピオンベルトを賭けた2days 8人制トーナメント──は2021年グラップリング界の最大のイベントとなった。
Text by Isamu Horiuchi

レビュー第9回はヘビー級決勝戦の模様をお伝えしたい。


<ヘビー級決勝戦/30分1R>
ティム・スプリッグス(米国)
Def. 7分21秒by ヒールフック
カイナン・デュアルチ(ブラジル)

気合十分のスプリッグスに対し、優勝候補大本命のカイナンは、自信の裏付けかきわめてリラックスした表情でマットに上がる。

首を取りいなし合う攻防の後、引き込んだカイナンは、左足を中から入れてスプリッグスの右足に絡めてシングルレッグXを作り、後ろに倒す。

スプリッグスはすぐに体勢を立て直し、カイナンは右足に絡んで崩そうとしても正座するようにバランスを保ってゆく。

やがてカイナンは外掛けからの外ヒールを狙うが、スプリッグスは絡んでくる足を押し下げて背中を見せてエスケープを図る。

が、カイナンは許さないばとばかりにスプリッグスの右太腿を掴んで引き寄せて、右足を入れたヒザ固めの態勢に。

プレッシャーを和らげようとマットに横になったスプリッグスの動きに乗じて、カイナンはシットアップして上へ。ところが、次の瞬間スプリッグスは右足でカイナンの左足に足払い。

見事にカイナンに尻餅をつけさせ、自らも立ち上がる。

スタンドから、すぐに座ったカイナン。非常にリラックスした柔らかい動きでスプリッグスの左足に内掛けで絡む。

対するスプリッグスは体勢を低くして圧力をかけようとするが、カイナンは強力なニーシールドで侵攻を許さない。

やがてカイナンはスプリッグスの右足を内側から抱えてディープハーフに。

ここでスプリッグスがカイナンの体をステップオーバーし、右足を抱えてヒザ十字狙いのように倒れ込む。

足関節の対処には自信があるからか、必死に逃げようとはしないカイナン。対して左足を外掛けで絡めて深いサドルを作ったスプリッグスは、外ヒールのフックを創りにかかる。

ここでカイナンはかかとを内側に向けてディフェンス。そのまま足を抜こうとするが、スプリッグスは上腕でカイナンの右足先を引っ掛け、内ヒールのような角度で捕獲して抜かせない。

改めてストレートレッグロックの形を作り直したスプリッグスは、次の瞬間外ヒールのフックに移行。ここで慌てて回って逃れようとしたカイナンだが、強烈に極めに来たスプリッグスとともに一回転したところでタップアウト。

時間にして7分少々、昨年は1試合もせず、今年もこの大会以前は2戦2敗だったスプリッグスが、ゴードン・ライアンが活動停止中の現在、世界最強のグラップラーとみられるカイナンからまさかの一本勝ちを収めたのだった。

カイナンは初戦では足関節師ベームの、準決勝ではダナハー門下に加わったボドニの足狙いを完全にシャットアウト。どころか足関節の攻防でも優位に立って勝ち上がった。にもかかかわず、決勝でスプリッグスの繰り出すシンプルな外ヒールに屈してしまったのだから、勝負とは分からない。

歓喜の表情でマットを走り回ったスプリッグスは、勝利者インタビューのために実況席に向かうと、コナー・マクレガーばりに机に足を乗せてカメラに足の裏を見せながら

「現在の練習は週3回くらいだ。俺は3ヶ月前まで足関節なんか何も知らなかったんだ。でも友人に言われて練習してみたんだよ。そしたらどうだ。ヒールフックで2度極めて、ボーナス2つゲットだ。みんな俺はフィニッシュできないって言っていたよな。でも世界最強の相手をフィニッシュして見せたぜ! つまり、俺が世界最強ってことよ。俺の次の試合を見たいか? だったらマネーを積みな」と見事なアピールを決めた。

足関節に取り組んで3カ月とのことだが、実際にスプリッグスの前回の試合は5月、ヴィクトー・ウゴにヒールフックで敗れたもの。それまではトップキープに徹して判定勝ちを狙う印象が強かっただけに、ハイサムとカイナンは意表を突かれた形になったか。

ニッキー・ライアンやクレイグ・ジョーンズのような足関節技師がトップを取ってパスを決める技術を取り入れる一方で、スプリッグスのようなトップゲーム主体のグラップラーが足関節技を習得する。今後警戒を強めてくる相手に対し、狙われる立場となったスプリッグスはどのような戦いを見せるのか。

片やカイナン。2019年のADCC世界大会で階級下の伏兵ラクラン・ジャイルズのヒールに敗れた屈辱を経て、今年は足関節への完全対応を果たし、向かうところ敵なしかと思われた。が、ここに来て足関節初学者を名乗るスプリッグスのヒールに屈することに。リラックスしすぎ、油断しすぎという批判の声も上がるなか、いかなる復活劇を見せてくれるのか。

選手一人ひとりの進化を追うことで、グラップリングの世界はますます面白くなる。

【ヘビー級リザルト】
優勝:ティム・スプリッグス(米国)
準優勝:カイナン・デュアルチ(ブラジル)
3位:ハイサム・リダ(ガーナ)

The post 【WNO Championships】─09─大アップセット!! ヘビー級決勝でスプリッグスがカナンを外ヒールで破る first appeared on MMAPLANET.

カテゴリー
JJ Globo Report WNO Championships オーランド・サンチェス ジャンカルロ・ボドニ ハイサム・リダ ブログ

【WNO Championships】レポート─08─ヘビー級この一番。敗者復活戦勝ち抜き、ハイサムが3位入賞!!!!

【写真】今回のトーナメントで3位は、世界で3位と捉えて良いはずだ (C)MIKE CALIMBAS/FLOGRAPPLING

9月25&26日(土&日・現地時間)にテキサス州オースチンのパーマー・イベンツセンターで開催されたWho’s Number One Championships。ライト級、ミドル級とヘビー級、女子はストロー級及びヘビー級で賞金3万ドルとチャンピオンベルトを賭けた2days 8人制トーナメント──は2021年グラップリング界の最大のイベントとなった。
Text by Isamu Horiuchi

レビュー第8回はヘビー級のこの一番──ハイサム・リダの3位決定戦、✖ジャンカルロ・ボドニ戦の模様をお伝えしたい。


トーナメント1回戦でスプリッグスの足関節に敗れたハイサムだが、敗者復活戦の初戦でオーランド・サンチェスと対戦。サンチェスは、かつてその特殊体型を活かし、決して下にならない戦いぶりでADCC世界大会を制した大物だ。

序盤はハイサムが下から攻めあぐねる場面も見られた。が、ハイサムは中盤にオープンガードから足を絡めて足関を狙いつつスイープを決めると、スクランブルで背中を見せたサンチェスのバックを奪い足を一本フックさせる。

(C)CLAYTON JONES/FLOGRAPPLING

ここで場外となったが、同体で再開となり強烈なネッククランクを極めて6分52秒で一本勝ち。

元ADCC世界王者から値千金の勝利を得たハイサムは、3位の座を賭けてジャンカルロ・ボドニと対戦することとなった。ボドニはもともとベウナウド・ファリアに教えを受けたアリアンシの新黒帯だが、最近ジョン・ダナハーとゴードン・ライアンが結成したニューウェーブ柔術の新メンバーとなった。今年のパンノーギヘビー級決勝では、昨年の決勝で敗れたルーカス・バルボーザを相手にレフェリー判定で下し雪辱を果たすとともにパンノーギの挑戦に立っている。体重が軽いとはいえ、実績ではハイサムを上回る選手だ。

ボドニは1回戦でマイケル・ファウラーに敗れたものの、負傷リタイアで準決勝進出へ。ここでもカイナン・デュアルチに敗れ、さらには敗者復活戦もカイル・ベームが棄権したため白星がないまま3決へ。

<ヘビー級3位決定戦/15分1R>
ハイサム・リダ(ガーナ)
Def. 2-1
ジャンカルロ・ボドニ(米国)

試合開始後に引き込んだボドニに対し、ハイサムも素早く横にパスを仕掛けるが、ボドニもハイサムの右足に内側から絡める。

さらにハイサムは軽快な動きから右にパス、対してボドニは足を効かせてフレームを張って守る。

ならばとハイサムは長いリーチを伸ばして上からダイビングキムラ狙い。が、ここもボドイは防御。序盤から両者の持ち味が発揮されている。

その後もボドニはハイサムの右足に絡ませると、そのまま立ち上がってのシングルレッグへ。するとハイサムは自らクローズドに引き込んで三角狙いへ。

ボドニが両腕をこじ入れて防ぎ、続いてハイサムは足をきかせてボドニを浮かせる。

さらにハイサムは内回転でボドニの右足を引き出して抱えると、そのまま立ち上がってのテイクダウンを狙うが、ボドニも素早く足を抜いた。ハイサムのダイナミックな動きと、足関節とレッスルアップというダナハー派の影響を受けたボドニのテクニカルな仕掛けが噛み合った攻防だ。

その後立ち技の攻防になると、ハイサムは足車でテイクダウンに成功する。

その後もボドニは足を絡めてスイープやストレートレッグロックを仕掛けるが、ハイサムはうまく対処してゆく。

途中ボドニに何度かシットアップを許す場面もあったハイサムだが、その度に下から長い足を利かせ、またフットロックを仕掛けて距離を取ることに成功させた。

残り5分を切ると、リードを許している状態のボドニは、シッティングから素早くハイサムの右足を掴んでレスリングアップを狙う。が、ハイサムは小手投げで切り返して崩してからガードに飛びつく。

立ち上がってハイサムのガードを開けたボドニは、その両足首を掴んでスタックパスを仕掛けてから、下に飛び込んでクラブライドを狙う。

が、ハイサムはしっかりと背中をマットにつけてバックを許さず。やがて離れることに成功した。

またしても引き込んだボドニはハイサムをクローズドガードに入れ、両者は膠着。残り1分のところで、上から防御に徹していたハイサムにペナルティが与えられた(ペナルティは3回受けると反則負けだが、判定に直接加算されることはない)。

立ち上がってボドニのガードを開かせたハイサムは、軽快な動きでボドニの足を捌きにかかる。それを防いだボドニはシッティングから前進し、最後の望みをかけてハイサムの右足に外掛けで絡む。が、長いリーチを誇るハイサムが立ち上がってボドニの足の絡みを押し下げたところで試合終了。両者が持ち味を発揮した15分の熱戦が終了した。

判定は2-1でハイサムに。敗者復活を2試合勝ち抜いて、大舞台で堂々の3位入賞となった。内容面を見ても、1回戦はスプリッグスにテイクダウンもパスを許さず、敗者復活一回戦は難攻不落のサンチェスのバランスを見事に崩しての一本勝ち。3決では、ダナハー派の流れを汲むボドニの仕掛けにうまく対処した上で、自らの持ち味であるダイナミックな動きを活かして競り勝っての勝利。北米グラップリングの最先端に対応しつつ、自身の強みを大いに発揮するという天晴れな戦いぶりだった。

ファウラーとベームという強豪二人が途中棄権という幸運に恵まれた面はあったものの、世界最高峰のグラップリング大会での3位入賞。このWNOチャンピオンシップの舞台は、ハイサム・リダが真の意味で世界の重量級トップグラップラーの仲間入りを果たした、記念すべきものとなった。

The post 【WNO Championships】レポート─08─ヘビー級この一番。敗者復活戦勝ち抜き、ハイサムが3位入賞!!!! first appeared on MMAPLANET.

カテゴリー
MIKE MMA ONE ONE Championship WNO Championships   オーランド・サンチェス カイナン・デュアルチ カイル・ベーム ティム・スプリッグス テックス・ジョンソン ハイサム・リダ メイソン・ファウラー

【WNO Championships】レポート─07─ハイサム、初戦で足関の餌食に。ヘビー級準々決勝~準決勝

【写真】カイナンの代名詞となりつつあるクローバーリーフ (C)MIKE CALIMBAS/FLOGRAPPLING

9月25&26日(土&日・現地時間)にテキサス州オースチンのパーマー・イベンツセンターで開催されたWho’s Number One Championships。ライト級、ミドル級とヘビー級、女子はストロー級及びヘビー級で賞金3万ドルとチャンピオンベルトを賭けた2days 8人制トーナメント──は2021年グラップリング界の最大のイベントとなった。
Text by Isamu Horiuchi

レビュー第7回はヘビー級の準決勝までのトーナメント進捗状況をまとめてお伝えしたい。


1回戦、日本のファン及び関係者の期待を集めたハイサム・リダはティム・スプリッグスと対戦。前半、懐の深さを活かしたスタンドの攻防で渡り合ったものの、強固なレスリングベースを持つスプリッグスを倒すのは難しいと見たか、やがて引き込んで下からの戦いを選択した。

長い足を絡めての仕掛けを試みるハイサムだが、相手はディフェンシブ・トップゲームの強さでノーギ・ワールズを制したスプリッグスだ。なかなか崩せないまま時間が過ぎてゆく。

終盤、横回転して50/50を作ってみせたハイサムに対し、これを予期していたかのようにスプリッグスは、50/50を解除すると、なんと左足を抱えて倒れ込みながらの内ヒール。

決してトップを譲らないはずのスプリッグスが、残り1分のところで足関節を仕掛け、ハイサムからタップを奪い準決勝進出を決めた。ハイサムは世界的強豪のスプリッグス相手にテイクダウンもパスも許さず、堂々と渡り合ったが、最後は強化していた足関節の攻防で一本負け。トップキープの権化のように思われていたスプリッグスの見事な極めは、ハイサムが仲間入りを目指すワールドクラスの選手たちも日々進化し続けていることを痛感させるものだった。

(C)CLAYTON JONES/FLOGRAPPLING

なおスプリッグスと準決勝で対峙したのは、テックス・ジョンソンだ。

ジョンソンは1回戦で、動かざること山のごとしオーランド・サンチェスに三角を仕掛けたところ、高々とリフトして叩きつけられ嬉しくない反則勝ちでセミファイナルをセミファイナル進出の権利をしていた。

そのジョンソンに対して、スプリッグスが得意の上攻めから1度ニースライスパスを決めるなど、ペースを握って3-0で判定勝利し、決勝に進出した。

もう一方のブロックでは、大本命のカイナン・デュアルチが1回戦にてオッズでは対抗と目されていたカイル・ベームといきなりの大勝負を迎える。

序盤、ベーム得意の下からの足関節の仕掛けを、逆に強烈なストレートフットロックで切り返したデュアルチは、その後もトップから試合を優位に進める。そして後半は前回マテウス・ディニズを極めたクローバーリーフからバックも奪ってみせるなど判定3-0で完勝した。

(C)CLAYTON JONES/FLOGRAPPLING

もう一つの1回戦は、SUGで無敗を誇るオーバータイム・キングことメイソン・ファウラーが代打出場のジャンカルロ・ボドニと対戦。

途中アイポークを受けたにもかかわらず、右目を覆って試合を続行し、得意のトップゲームで試合を支配して判定勝利した。が、その後ファウラーは目の治療のために病院に直行し、この1戦で敗れたボドニが準決勝進出となった。

デュアルチとボドニによる準決勝は、ボドニの下からの仕掛けをデュアルチが盤石の安定感で対処していく展開に。中盤、首を制してハーフで胸を合わせてパスに成功する等終始ペースを握り、終盤にはまたしても必殺のクローバーリーフ狙いでボドニの動きを止めて判定3-0で完勝した。

かくてヘビー級決勝は、大本命、そして手堅い勝利を挙げたデュアルチと、ハイサムを下したスプリッグスの組み合わせとなった。

The post 【WNO Championships】レポート─07─ハイサム、初戦で足関の餌食に。ヘビー級準々決勝~準決勝 first appeared on MMAPLANET.

カテゴリー
JJ Globo Report WNO Championships ジェイコブ・カウチ. タイ・ルオトロ ブログ ミカエル・ガルバォン

【WNO Championships】─06─兄弟で2階級制覇、ミドル級優勝はタイ・ルオトロ。カウチ、涙の3位

【写真】どこまで目まぐるしい攻防が見られるかと期待されていた一戦は、守りの意識が高い戦いとなった (C)MIKE CALIMBAS/FLOGRAPPLING

25&26日(土&日・現地時間)にテキサス州オースチンのパーマー・イベンツセンターで開催されたWho’s Number One Championships。ライト級、ミドル級とヘビー級、女子はストロー級及びヘビー級で賞金3万ドルとチャンピオンベルトを賭けた2days 8人制トーナメント──は2021年グラップリング界の最大のイベントとなった。
Text by Isamu Horiuchi

レビュー第6回はミドル級決勝戦の模様をお伝えしたい。


<ミドル級決勝戦/30分1R>
タイ・ルオトロ(米国)
Def. 2-1
ミカ・ガルバォン(ブラジル)

圧巻の動きで決勝に駆け上がった2人──18歳のタイと、もうすぐ18歳になるミカによる大注目の新世代対決は、予想に反してスタンドでの静かな展開が続く序盤戦となった。

タイは両手でミカの体を押しては軽くいなす等のフェイントを仕掛けるが、ミカはそれを受け流す。準決勝まで猛進しての豪快なダブルレッグを決めていたタイは、ミカの切り返しを警戒してか危険な距離までは踏み込まない。基本的にカウンター待ちのミカも、タイが入ってこない以上は有効な攻撃を仕掛けられない。スタミナでは不利と見られるミカにとっては、このエネルギーを消費しない展開は好都合ともいえる。

スタンドでの触り合いが延々と続き、あまりのアクションの少なさに観客もしびれを切らせはじめる。レフェリーもしきりにアクションを促し、両者にペナルティを宣告するも状況は変わらず。

こうして9分間が経過した頃、タイが前進してミカのワキを潜ると、ミカは凄まじいスピードで前転、ここではじめて上下が成立した。

ミカの両足首を掴んでは周囲を回るタイ。ミカは持ち前の柔軟性を発揮して、大きく股間を開いたまま軽やかに背中で回転して対応する。タイの右足を掴んで外掛けで絡むミカだが、タイはすぐに足を抜いて距離を取ると、またしてもミカの足首を掴んで回る。普段は凄まじいノンストップパスを仕掛けるタイだが、ミカのカウンターを警戒してかほとんど距離を詰めない。そしてミカもタイに合わせて背中で軽快に回るだけ。ときにタイの右足に絡みにゆくが、その度にタイに距離を取られてしまう。

こうして上下成立後も、お互いほとんど攻撃らしき攻撃を仕掛けない状況が継続することに。時々立ち上がるミカだが、ほとんどレスリングの攻防は挑まず座って下になる。凄まじい動きで大人たちを圧倒してきた新世代グラップラー2人が対峙すると、ほとんどアクションも起きないという、ある意味誰も予想できなかった攻防、いや非攻防が展開され──つまり攻防がない試合に。

タイはときにミカの頭側に回るが、ミカは回転して正対しようとすらせずにインバーテッドでタイの股間を見上げている形で誘う。それでもタイが動かないと、ミカは一瞬でタイの左足に絡んで回転。バランスを崩されたタイだが、劣らぬスピードでスピンして立ち上がると、ミカの絡む足を押し下げ、足を抜いて離れた。このように時折り、凄まじい動きを見せる両者だが、攻防は続かない。

その後も似たような展開が続く。タイはミカの頭側に回るが、ミカは正対することもなく下から両腕を張ってタイをブロック。タイはミカのフレームに体重をかけるのみで、それを崩すための仕掛けは起こさない。ミカが足を絡めてゆくと、タイはすぐにそれを捌いて足を抜く。

やがてレフェリーはタイにペナルティを宣告。さらにレフェリーが注意をすると、タイは「俺は攻めようとしている。(試合が動かないのは)奴のせいだ。俺はパスを試みている。でも奴は何もしようとしていない」と強く反論。ミカがカウンター狙い中心の戦い方なのはその通りだが、タイもミカの領域に入ろうとしていないのは明らかなので、この主張にはあまり説得力はない。

20分が経過し、残り10分に。ミカが立ち上がるとタイはその頭を押す。するとミカも押し返し、両者は相撲の突っ張り合いをするような形に。しかし相変わらずお互い警戒し、本気のテイクダウンは仕掛けない。やがてミカが素早くジャンピングガードに入った。

タイは立ってミカのガードを下げようとするが、ミカが足を絡めてくるとすぐに座って再びガードの中に。ミカは下から仕掛けようとするも、タイの手に阻まれる。背筋を伸ばして腕を伸ばし、ミカの仕掛けを切るタイ。

やがてタイは掌でミカの口を塞ぐ攻撃に。するとミカも下から手を伸ばしてタイの口を塞いでお返し。顔を激しく動かしてそれに抵抗するタイ。猫科の猛獣を思わせる動きを持つ両者だが、この動きは猫同士のじゃれ合いを想起させるものがある。

その後もミカがクローズドで展開を作れないまま、残り5分に。スタンド、オープンガード、インバーテッドガード、クローズドガードと体勢こそ変わるものの、どうあっても攻防が成立しない驚くべき試合だ。お互いに攻め合わないという点では見る者のフラストレーションを溜める展開だが、それ故に通常は見られないような奇妙な形の絡みが散見され、表現としては面白いともいえる。

とまれ、場内では飽きてきた観客のヤジが増え、さらに投げやりなUSAチャントも聞かれるように。そのうちタイが立ち上がると、ミカはガードを開いてタイの左足にフックして崩す。が、攻防に付き合わないタイはすぐに振り解いて立ち上がった。

やや疲れが見えてきたミカは、いったん立ち上がるもすぐに座る。下からタイの右足をストレートレッグロックのグリップで抱えながら足を絡ませるミカ。だが、タイも上からのトーホールドを仕掛けてすぐに足を抜いた。

残り1分。タイは腰を前に出してスライディングしてのパスの動きを見せる。が、ニースライスから本気で密着して押さえ込もうとするのではなく、ミカに足を絡まれないようにしながらその横を抜けるだけなので、ミカは難なく対処する。

最後の15秒でミカは再びタイの右足に絡むが、結局展開を作れず試合は終了した。グラップリング界の輝ける未来を象徴する両者による30分間は、結局攻防がほとんど成立しないまま終わってしまった。こういう予測不可能性こそが戦いのリアルであり、だからこそ格闘技は面白い。が、もしこれが未来ならばグラップリング界に先はない。

とまれ、終了後にガッツポーズを作ったタイは、座り込んでいるミカのところに駆け寄って握手。両者は笑顔で健闘を称え合った。驚異的なスタミナを武器に果てしなく攻撃を続けられるタイと、相手の動きを先読みした抜群のカウンターを持つミカ。タイはその凄さを知るがゆえに攻撃に踏み込めず、ミカは自ら仕掛ける力はまだ発展途上なので、攻撃を全てタイに遮断されてしまった。観客の多くは退屈したが、お互いがお互いの力を改めて感じた30分間だったのだろう。

(C)CLAYTON JONES/FLOGRAPPLING

判定は、2-1でタイに。

きわめて難しい判断だが、タイが自らの判断でミカの懐に飛び込まず、またミカの仕掛けてくる攻撃を遮断してみせたのは確かだ。今回攻防が生まれなかった原因は、どちらかというとタイの側にあると言える。それは同時に、自分がやりたいように試合を運んだのもタイの方だということだ。主導権を握っていたのはタイだと解釈することはおかしくないだろう。

勝利を告げられると素直に歓喜の表情を見せたタイだが、見る側としては、結局どちらが強いのかまるで分からないまま終わってしまったのは紛れもない事実だ。

「僕はうまくミカの頭側に回ったけど、強力なフレームで防がれてしまった。僕は通常、相手を疲弊させることができるんだけど、彼の耐久力はとんでもなかったよ。ミカは機会を捉えるのが上手い。だからすごく注意深く、忍耐強く戦わなければならなかったんだ。ミカ相手に一つでもミスを犯したら大変なことになるからね。僕のスタイルは相手を疲れさせてからサブを取るものだ。ミカ相手にもそうしたかったけど、階級下の僕が、大きくて力も強い相手にそれをするのはなかなか難しいんだ」と、タイは笑顔で勝利のコメントを残した。

彼がミカのカウンターをものともしないほどの攻撃力を身に纏い、またミカがタイに遮断されないような強力な仕掛けの力を身に付けたとき、両者の戦いは真の意味でグラップリング界の輝ける未来と化すだろう。

なおこの決勝戦とは対照的に、3位入賞を賭けた敗者復活戦では驚きのフィニッシュシーンが続出した。

まずジョン・ブランクがジェイコブ・カウチ相手にサイドを取られた状態から柔軟性を活かして足をこじ入れての横三角絞めを極める。

続いてウィリアム・タケットが、シッティングからダンテ・リオンの右ヒザ裏に自らの左腕をこじ入れ、さらに両足で締め上げるカーフスライサー(ヒザ固め)で一本勝ち。

3位決定戦は、タケットとブランクの負傷により再々復活を果たしたカウチの間で争われることに。得意の足関節を積極的に仕掛けるカウチと、それを凌ぎながら有利なポジションを取っては一本を狙うタケットの一進一退の15分の熱闘の判定は、2-1でカウチに。

戦前はほぼ無名の存在だったにもかかわらず、ヒメネズとタケットというグラップリング界の新世代を代表する二人を倒し大殊勲の3位入賞を果たしたカウチは、自身の勝利が告げられると同時に感涙にむせんだ。

【ミドル級リザルト】
優勝:タイ・ルオトロ(米国)
準優勝:ミカ・ガルバォン(ブラジル)
3位:ジェイコブ・カウチ(米国)

The post 【WNO Championships】─06─兄弟で2階級制覇、ミドル級優勝はタイ・ルオトロ。カウチ、涙の3位 first appeared on MMAPLANET.

カテゴリー
HEAT49 MIKE MMA ONE ONE Championship WNO Championships   ブログ ロベルト・ヒメネス

【WNO Championships】レポート─05─ミドル級この一番。ヒメネス、廃コインランドリー産ヒールに下る

【写真】カウチが優勝候補筆頭のヒメネスを内ヒールで破る (C)MIKE CALIMBAS/FLOGRAPPLING

25&26日(土&日・現地時間)にテキサス州オースチンのパーマー・イベンツセンターで開催されたWho’s Number One Championships。ライト級、ミドル級とヘビー級、女子はストロー級及びヘビー級で賞金3万ドルとチャンピオンベルトを賭けた2days 8人制トーナメント──は2021年グラップリング界の最大のイベントとなった。
Text by Isamu Horiuchi

レビュー第5回はミドル級のこの一番──マイキー敗北に通じるアップセット=ジェイコブ・カウチ✖ロベルト・ヒメネス戦の模様をお伝えしたい。


<ミドル級1回戦/15分1R>
ジェイコブ・カウチ(米国)
Def.1分54秒 by ヒールフック
ロベルト・ヒメネス(米国)

ペドロ・マリーニョの負傷欠場を受け、直前で代打出場を決めたのはジェイコブ・カウチ。カウチは、話題の組技集団「デイジー・フレッシュ」ことペディゴ・サブミッション・ファイティング──ホドリゴ・バギの黒帯ヒース・ペディゴの指導の下、廃コインランドリーの建物にマットを敷いただけの粗末な道場に寝泊りし、修行僧の如く練習漬けの日々を送っている若者たちで、当初このトーナメントにエントリーしていたアンドリュー・ウィルツィがその出世頭だ──のメンバー。昨年のパンノーギ大会の紫帯を制して茶帯を取得しているカウチ。キャリアを考えると大抜擢だ。

この大チャンスに緊張した面持ちもなく、やる気に満ち溢れた満面の笑顔で登場したカウチは、試合開始後すぐに座る。

自分のやることは最初から決まっているとばかりに迷わずリバースデラヒーバでヒメネスの右足に絡んでいったカウチは、内側から左足を絡めてサドルを作り、外ヒールへ。

まだ入りが浅く回転して逃れたヒメネスだが、カウチはヒメネスのヒールを抱えたまま1度シットアップ。足の絡みを深くした後で、再び外ヒールを極めにゆく。ここも回転して防御するヒメネス。

両者が場外際まで行くと、カウチはいったん外ヒールのグリップを離して動きを止め、逆回転して中央まで戻ってゆく。

そこでヒメネスの右足を逆に持ち替えたカウチは、内ヒールを仕掛ける。ここも足を伸ばして回転して凌いだヒメネスは、カウチの左腕をホールドしながら立ち上がった。

が、サドル(インサイドサンカク)をしっかりとロックしているカウチは、ヒメネスのグリップが離れたところでさらに内ヒールで捻り上げる。

次の瞬間、ヒメネスは大声を上げてタップ。わずか2分弱。代役カウチが、優勝候補筆頭のヒメネスから一本勝ちという大殊勲を上げた。

ほぼ無名のカウチが、迷わずひたすら自分の得意技を仕掛け続けることで、本命のヒメネスに自分の戦いをする機会を一切与えずに極めきっての大金星。いかにオーソドックスな柔術の技術が高くても、足関節技への高度な対応ができないと不覚を取りかねない。グラップリング最先端における現実を、改めて教えてくれる試合だった。

The post 【WNO Championships】レポート─05─ミドル級この一番。ヒメネス、廃コインランドリー産ヒールに下る first appeared on MMAPLANET.

カテゴリー
MIKE MMA ONE ONE Championship WNO Championships   ウィリアム・タケット オリバー・タザ ジョニー・タマ タイ・ルオトロ ダンテ・リオン ロベルト・ヒメネス

【WNO Championships】レポート─04─群雄割拠、柔術の神の子たちの競演。ミドル級準々決勝~準決勝

【写真】柔術の神の子が決勝進出、タイ・ルオトロ戦 (C)MIKE CALIMBAS/FLOGRAPPLING

25&26日(土&日・現地時間)にテキサス州オースチンのパーマー・イベンツセンターで開催されたWho’s Number One Championships。ライト級、ミドル級とヘビー級、女子はストロー級及びヘビー級で賞金3万ドルとチャンピオンベルトを賭けた2days 8人制トーナメント──は2021年グラップリング界の最大のイベントとなった。
Text by Isamu Horiuchi

レビュー第4回はミドル級の準決勝までの流れを整理したい。


ライト級同様、ミドル級の1回戦でも大波乱が起きた。優勝候補本命のロベルト・ヒメネスが、最後の最後にトーナメント代役出場が決まったジェイコブ・カウチに一本負けを喫した(別稿で詳述)。

同ブロックのもう一つの1回戦では、世界の注目を集める柔術の神の子ことミカ・ガルバォンが登場。コロナ禍の北米グラップリング界の隆盛を象徴する存在ウィリアム・タケットとの新世代対決が実現した。

(C)MIKE CALIMBAS/FLOGRAPPLING

まずはミカがきれいな小外掛けでテイクダウンを奪うと、タケットも下からの足関節の仕掛けで反撃。

タケットが逃れるミカのバックを狙ったところで、一瞬の反応で体を翻してニアマウントに入るなど、序盤から両者の持ち味が発揮される展開となった。その後もミカが主導権を握り、タケットがシットアップした刹那のタイミングでニーカットパスを決め、次の瞬間マウントに入るといった素晴らしい動きを随所で披露した。結局一本こそ取れなかったものの、その天性の能力を存分に発揮したミカが判定3-0で完勝を収めた。

(C)CLAYTON JONES/FLOGRAPPLING

続いてミカは準決勝で、1回戦でヒメネスを倒す大殊勲を挙げたカウチと相対した。

下からのスイープを狙うカウチが頭を抱えてきた瞬間に、ダイブしながらその右腕をすくいあげて伸ばしてアームバーに入るという離れ技を炸裂させ、3分弱で決勝進出を決めた。

(C)CLAYTON JONES/FLOGRAPPLING

もう一方のブロックでは、ヒメネスと並んで優勝候補のタイ・ルオトロが登場、1回戦でジョニー・タマ──オリバー・タザの代打として急遽出場が決定──と対戦した。

タマが下から足を絡めてくるとすかさずベリンボロで切り返してバックを奪ったタイは、脱出したタマがシッティングから仕掛けようとしたときにダイブしてダースチョーク一閃。足関節にはベリンボロ、シッティングにはダースチョークというルオトロ兄弟の黄金カウンターパターンを見事に決めて1回戦を突破した。

(C)CLAYTON JONES/FLOGRAPPLING

同ブロックもう一つの1回戦を勝ち上がったのはダンテ・リオンだった。

ジョン・ブランク相手にスタンドからのシングルレッグと下からのレスリングアップを何度も決めて優位に立ったリオンは、終盤にはブランクのフレームを手で押し除けて前にドライブして後ろ三角絞めへ。極めきることこそできなかったものの、文句なしの判定3-0で勝利した。

(C)CLAYTON JONES/FLOGRAPPLING

タイとリオンによる注目の準決勝は、スタンドレスリングでダブルレッグを何度も決めたタイが、上から攻撃を仕掛け続ける展開に。

リオンも鉄壁のニーシールドからのレッスルアップという得意の流れを試みるが、タイはそれをことごとく遮断して上をキープ、ノンストップ・パス攻勢でリオン削っていった。終盤、ついに側転パスからサイドを取りかけたタイは、亀になったダンテの背後に付く。すかさず左腕をダンテの肩口から入れて首をワキで抱え、ギロチンと肩固めの融合のような形で絞め上げると、ダンテはすぐにタップ。のこり10秒ほどのところで見事な一本勝ちを収めた。

かくてミドル級決勝の顔合わせは、18歳のタイ・ルオトロ✖もうすぐ18歳のミカ・ガルバォンに。圧巻の強さと輝きをもって勝ち上がった柔術界の未来そのもののような二人による、大注目の新世代決戦が実現することとなった。

The post 【WNO Championships】レポート─04─群雄割拠、柔術の神の子たちの競演。ミドル級準々決勝~準決勝 first appeared on MMAPLANET.