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Preview UFC UFC ESPN09 ティム・エリオット ブランドン・ロイヴァル ブログ

【UFC ESPN09】スクランブルの果てに何がある? LFAフライ級王者ロイヴァルがエリオットとデビュー戦

【写真】ガードから相手の上半身を4つの技で回すダイヤモンド・コンビネーション を武器に、ブランドン・ロイヴァルは世界最高峰を勝ち残ることができるか(C)LFA

30日(土・現地時間)、ネヴァダ州ラスベガスのUFC APEXでUFC ESPN09「Woodley vs Burns」が開催される。ラスベガスに戻ったUFC、そのメインは大会名にあるようにタイロン・ウッドリー✖ジルベウト・ドリーニョ・バーンズのウェルター級戦だ。

前UFC世界ウェルター級王者ウッドリーが再起戦で、ウェルター級転向後は破竹の3連勝中のドゥリーニョと対戦する今大会。当初の予定はプレリミとともにメインカードもESPN+で配信予定だったが、メインはESPNでライブ中継されることが決まった。


そのメインカードはウッドリー✖ドゥリーニョを筆頭にブラゴイ・イワノフ✖アウグスト・サカイのヘビー級=ブルガリア✖ブラジル対決や、マッケンジー・ダーンのママとして2戦目=ハナ・サイファース戦など5試合が用意されている。

さらにプレリミは6試合で、全11試合のラインナップのなかからプレリミで組まれたフライ級の一戦=ティム・エリオット✖ブランドン・ロイヴァル戦に注目したい。チャンピオンのUFC進出率が6割以上、コンテンダーシリーズを経た場合と合わせると96パーセントのチャンピオンがUFC、Bellator、ONE、PFLといったメジャーにステップアップを果たしているLFAから、フライ級王者ロイヴァルがUFCデビュー戦を行う。

ロイヴァルは6月23日のダナ・ホワイト・チューズデーナイト・コンテンダーシリーズ2020で同じLFAで戦うジェローム・リヴェラと対戦が決まっていたが、このタイミングでUFCと契約を果たすこととなった。

対戦相手はTUF24決勝で扇久保博正を破り優勝し、そのままデメトリウス・ジョンソンに挑戦を経験しているエリオットだ。いってみればTitan FCからTUFを経てUFCに戻ったエリオットが、LFAからコンテンダーシリーズを経ずにオクタゴンにやってきたロイヴァルを迎え撃つ形だ。

ロイヴァルの強みは、そのアグレッシブな極め中心のファイトにある。スクランブル全盛のMMAにあって、ロイヴァルは下になることを厭わない。むしろテイクダウンを狙われると自ら下を選択するのがロイヴァルというファイターだ。背中をマットにつけるやいなや。オモプラッタやゴゴプラッタを仕掛けており、ここが外されても深く足を差し入れて腕十字、あるいは真正面から三角絞めと、行きつくしまを与えず一本を狙う。

このゴゴ、もしくはオモからの三角か腕十字という流れは自由に行き来することができ、、最終的に相手の右腕を腕十字で狙うことが多い。またオモプラッタからは足関節に移行するという選択肢もロイヴァルは持っている。

対してエリオットはスイッチ多用の組むための打撃から、徹底してシングルレッグやダブルレッグでテイクダウンを奪う。そしてスクランブルゲームからのバック奪取、あるいはギロチンでフィニッシュを狙いつつ、相手を削っていく。

これまでのロイヴァルならば、組まれても耐えることなく下を選択し、上に挙げた四つの技からなるダイヤモンド・コンビネーションで極めを即座に狙っていくだろう。ただし、彼が戦うのは世界の最高峰UFCだ。最終的に彼の狙いが右腕への腕十字であれば、エリオットはテイクダウンにし成功しても、右腕のヒジを外側に貼り、伸ばされないという対策は練って来るだろう。

下からの仕掛けを凌がれ、担ぎパスやハーフを許す展開に追い込まれると、ロイヴァルは苦しくなる。そこでも足を戻して、ディープハーフから上を取り返したり、スクランブルに持ち込む方法で、エリオットをどれだけ削ることができるか。ロイヴァルの下での消耗が、上から攻めるエリオットより少なければ、スタンドに戻って左ローでエリオットの前足を殺すという戦い方もある。

その結果、エリオットの踏み込みが甘くなれば組み力、テイクダウン能力は落ちる。そうなるとヒザ蹴りやヒジに加え、スピニングバックエルボーという飛び道具という武器が英ヴァルにはある。エリオットとしては打撃を見せてテイクダウン、そこからポジション&バックチョークかスクランブルでギロチン、タップを奪えなくても削り続けること。ロイヴァルとしては、相手の虚をつくほど動ける間の一本。ここを凌がれると、3Rを考えた選択肢があるのか。

スクランブルゲームの先にあるのは、エリオットのドミネイトか──それともスクランブルの終着点として、ロイヴァルがサブミッションで仕留めることが可能になるのか。最初のロイヴァルの仕掛けの是非で、試合の流れを占うことができそうだ。

■UFC ESPN09対戦カード

<ウェルター級/5分5R>
タイロン・ウッドリー(米国)
ジルベウト・ドゥリーニョ・バーンズ(ブラジル)

<ヘビー級/5分3R>
ブラコイ・イワノフ(ブルガリア)
アウグスト・サカイ(ブラジル)

<ウェルター級/5分3R>
ゲイブリエル・グリーン(米国)
ダニエル・ロドリゲス(米国)

<ライト級/5分3R>
ルーズベルト・ロバーツ(米国)
ブロック・ウィーバー(米国)

<女子ストロー級/5分3R>
マッケンジー・ダーン(米国)
ハナ・サイファース(米国)

<女子フライ級/5分3R>
ケイトリン・チューケイギアン(米国)
アントニーナ・シェフチェンコ(キルギス)

<フェザー級/5分3R>
ビリー・クゥアンティロ(米国)
スパイク・カーライル(米国)

<ライトヘビー級/5分3R>
ジャマハル・ヒル(米国)
クリジソン・アブレウ(ブラジル)

<フライ級/5分3R>
ティム・エリオット(米国)
ブランドン・ロイヴァル(米国)

<バンタム級/5分3R>
ケイシー・ケニー(米国)
ルイス・スモルカ(米国)

<バンタム級/5分3R>
クリス・グティエレス(米国)
ヴィンス・モラレス(米国)

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JJ Globo Preview SUG14 クレイグ・ジョーンズ ブログ ヴァグネウ・ホシャ

【SUG14】クレイグ・ジョーンズがEBIでのリベンジを掛けて、コンバット柔術世界王者ホシャと再戦

【写真】ADCCの階級ではクレイグがホシャより1階級上だ (C)SATOSHI NARITA

31日(日・現地時間)にチェール・ソネンがホストのSubmission Underground14が開催され、UFC Fight Passでライブ中継させる。

リモートカメラ、セコンドなし、レフェリーとファイターのみという状況で行われた4月大会は、改造された穀物サイロというダミー名の下で開かれ、今回も会場はSUGアイランドというUFCのファイトアイランドをもじった名称が使用されている。5分1R+オーバータイム制が用いられたSUGはノーポイント&サブオンリー・グラップリング大会で、前回大会に続きメインにクレイグ・ジョーンズが出場し、2017年に敗れたヴァグネウ・ホシャと戦う。


昨年来グラップリングで17勝3敗1分という驚異的な勝率を誇るジョーンズは、SUGでもジルベウト・ドリーニョ、ケビン・ケイシー、そして前回のヴィニー・マガリャエスは結果的にヴァーバル・タップだったものの、RNグリップの内ヒールでヒザを破壊しており、事実上3試合連続で足関節により勝利している。

そんなジョーンズは2017年にEBI11のウェルター級16人トーナメントに出場。ここでブラジルはリオデジャネイロ州生まれ、5歳の時に両親とフロリダに移り住み18歳からパブロ・ポポビッチの下で柔術&MMAを始めたホシャに、準決勝=OTで敗れている。

ホシャはMMAでもUFCまで到達しており、2009年から実働8年で14勝4敗8つの一本勝ちという戦績を収めている。2017年3月以降はグラップリングに軸を置いて活動し、ライト級だったMMA時代と違い主に77キロでキャリアを積んできた。

上に挙げたようにジョーンズに勝利したEBI11では決勝でゴードン・ライアンに敗れ準優勝、EBI13=ライト級TでPJ・バーチ&ネイサン・オーチャードという10thPlanet組を破るも、決勝でゲイリー・トノンの足関節に下っている。

他方、コンバット柔術では決勝でオーチャードと再戦し、マウントからの掌底の連打でライト級王者に輝くと、2018年のPolaris08でベンソン・ヘンダーソンをRNCで下している。さらにはADCC2019でも77キロ級で準優勝、今年に入るとSub Starで──先日UFCでマイケル・ジョンソンにストレートフットロックを極めたチアゴ・モイゼスからポイント勝利を手にするなど、グラップラー・ホシャはMMA時代よりも多くの栄光を手にしてきた。

ジョーンズとしてはホシャに対し、リベンジを狙い一本必至というスタイルを貫くことが予想される。その一方で、ホシャはEBIで挙げた6勝のうちOTでの勝ちが4つと延長のシートベルト・ポジション&スパイダーウェブの好守に強い。SUGは本戦が5分間ということを考えると、ホシャはOTでの勝利を狙ってくることも大いに考えられる。

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Preview UFC UFC ESPN08 ソン・ヤードン ブログ マルロン・ヴェラ

【UFC ESPN08】フロリダ3連戦、唯一のアジア人=ソン・ヤードンがTOP10入りを賭けマルロン・ヴェラ戦へ

Song Yadong【写真】活動再開のUFCに唯一アジア人ファイターとしてソン・ヤードンが出場しマルロン・ヴェラと対戦する (C)Zuffa/UFC

16日(土・現地時間)にフロリダ州ジャクソンビルのヴィスター・ベテランズ・メモリアル・アリーナでUFC再開活動シリーズ3連戦の最終戦、UFC ESPN08「Ovreem vs Harris」が開催される。

ヘビー級のアリスター・オーフレイム✖ウォルト・ハリスがメイン、セミに女子ストロー級のクラウジア・ガデーリャ✖アンジェラ・ヒルが組まれている同大会には、これらフロリダ・シリーズで唯一となるアジア人ファイター=ソン・ヤードンが出場しマルロン・ヴェラと対戦する。


サクラメントのチーム・アルファメール所属のソン・ヤードンは、2017年11月にUFCデビューを果たし、これまで4勝1分と負け知らず──チャイナ・パワー台頭の象徴といえる22歳だ。

ベースは散打、足技、崩しに特徴のある中国流散打にボクシングを加えたソン・ヤードンは、前後の動きに秀でている。オーソドックスでやや遠めの距離から素早く、身を屈めて踏み込みつつ放たれる右オーバーハンドや右フックは一発KOパワーを持つ。

ソン・ヤードンはステップバックして相手を誘いこむことができることで、この踏み込みをカウンターとしてより効果的にしている。加えてこの距離はレスリングにも応用でき、相手が打撃に呼応すると、ダブルレッグに移行してテイクダウンにつなげる。組んでからのソン・ヤードンは、クラッチを軸に回ることで横からの負荷をかけてテイクダウンを奪い、立ち技とは違う回転軸で戦うこともある。

打撃を嫌がって組んできた相手には懐に相手をいれず、10フィンガーやゴゴチョークというカウンターのサブミッションもソン・ヤードンのレパートリーだ。そのなかで再注目は、前後の動きからのパンチを相手が警戒するようになると、同じステップの踏み込みから右スピニングバックキックという回転系の蹴りを駆使し、その防御をすり抜ける点だ。

若干遠目のレンジでの前後の移動、ここでの圧力に屈せず、横移動を使って力強くテイクダウンを仕掛けるコディ・ステーマンに苦戦しドローに終わった前回の試合を経て、ソン・ヤードンが横移動を身に着けているのか、それとも前後移動を強化しているのかに注目だ。

水曜日の大会で勝利したリッキー・シモンとも練習するヴェラ

水曜日の大会で勝利したリッキー・シモンとも練習するヴェラ

対するエクアドル人ファイターで、アーバインのチーム・オーヤマ所属のヴェラは母国やパナマ、ペルーのインカFCを経てTUFラテンアメリカに出演、負傷で準決勝を棒に振ったがUFCとの契約を勝ち取った。

現在までプレリミを中心に9勝4敗と結果を出している。

重心が高いスイッチヒッターのヴェラは、常にハイペースではなく緩急をつけたファイトを展開する。そして打撃と組みが流れるという言葉以上に、繋がっており切れ目が全く感じられない。その組みも特徴的でスタンドで肩固めを仕掛けて寝技に持ち込む動きも過去に披露してきた。

打撃を見せ、組んでバックに回る一連の動作が他にないほどスピーディーで、相手に首を守る準備、その思考を与えない。下になることを厭わない寝技が、ヴェラの思い切りの良さを可能にしているといえるだろう。バックを取っても下に落とされることが多く、そうなるくらいなら自ら離れて打撃の間合いに戻るのがMMAのセオリーだが、ヴェラは落とされてガードになっても構わない覚悟で、背中に乗って極めを狙う。

下になればポイント的には不利になるが、彼には腕十字、三角絞めという常套手段の合間に相手がクラッチを組むことを想定した──腕版カーフスライサーといえば表現方法はおかしいが筋肉潰し系のサブミッション、ガードから鉄槌攻撃など独創的な下攻めを有している。またトップを取った時は、長いリーチを生かし遠心力をつけたパウンドに直線的なエルボーを交え甚大なダメージを与えてきた。

スタンドでも近距離でのエルボーを多用し、切れのあるファイトを展開するヴェラ。ただしソン・ヤードンと対峙した場合、彼が多用する──顔面をガードで固め、額でパンチを受けるように下を向くのは厳禁だ。ソン・ドーヤンとの打撃戦で、この反応を示した時こそボディにスピニングバックキックを被弾し、致命傷となる危険性がある。

ここまで5試合連続フィニッシュ勝利のヴェラ、4勝1分のソン・ヤードン。この試合で勝利することで、より上のステージで戦う権利を得ることができる大切なファイト。勢いのソン・ヤードン、老獪なヴェラ──トップ10進出が掛かった注目の一番だ。

■UFC ESPN08対戦カード

<ヘビー級/5分5R>
アリスター・オーフレイム(オランダ)
ウォルト・ハリス(米国)

<女子ストロー級/5分3R>
クラウジア・ガデーリャ(ブラジル)
アンジェラ・ヒル(米国)

<フェザー級/5分3R>
エジソン・バルボーサ(ブラジル)
ダン・イゲ(米国)

<ミドル級/5分3R>
エリク・アンダース(米国)
クリシュトフ・ヨッコ(ポーランド)

<バンタム級/5分3R>
ソン・ヤードン(中国)
マルロン・ヴェラ(エクアドル)

<ミドル級/5分3R>
ケヴィン・ホランド(米国)
アンソニー・ヘルナンデス(米国)

<フェザー級/5分3R>
ジガ・チカズ(ジョージア)
マイク・デイヴィス(米国)

<女子フライ級/5分3R>
コートニー・ケイシー(米国)
マラ・ロメロ・ボレッラ(イタリア)

<フェザー級/5分3R>
ダレン・エルキンス(米国)
ネイト・ランドヴェール(米国)

<ヘビー級/5分3R>
ドンテイル・メイス(米国)
ホドリゴ・ナシメント(米国)

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Preview UFC UFN ESPN+29 UFN171 ブログ リッキー・シモン レイ・ボーグ

【UFN171】水曜日のUFC、注目はグライディングMMAレイ・ボーグ✖ハイプMMAリッキー・シモン!!

Ricky Simon【写真】とにかく動き回るシモンをボーグは、封じ込めることができるか (C)LFA

8日間でUFC3連戦。第2弾= UFN171:UFN on ESPN+29「Smith vs Teixeira」が、13日(水・現地時間)にフロリダ州ジャクソンビルのヴィスター・ベテランズ・メモリアル・アリーナで引き続き開催される。

UFCのイベントは格でいえばPPVショー、ESPN中継大会、そしてESPN+配信大会と格付けが存在しているが、今回はESPN+大会でニューノーマル時代にあって、UFC的には日常を取り戻すべきイベントという見方もできる。

またズッファではWEC時代にVersus(現NBC Sports Network)大会を水曜日に開いていたことはあるが、この曜日に行うこと自体がコロナ以前ではまずなかった選択だろう。そんな水曜日のUFCで組まれたバンタム級のレイ・ボーグ✖リッキー・シモンは、MMAの変化を感じさせるという点で注目される。


フライ級では世界王座に挑み、デメトリウス・ジョンソンの伝説となるバックスープレック十字で敗れたボーグは、今回から2度目のバンタム級転向を計り、シモンとの対戦を迎える。シモンはコンテンダーシリーズ勝利からLFAを選択、バンタム級王座を獲得してUFCとの契約を勝ち取った。オクタゴンでは3連勝後にユライア・フェイバーに敗れ、ロブ・フォントにはファイト・オブ・ザ・ナイト獲得も判定負けし、2連敗でボーグと戦うこととなった。

ボーグのMMAはやや遠めの距離で打撃と組みを融合させ、テイクダウンを仕掛けコントロールするというモノ。一発でテイクダウンできなければケージに押し込み、尻もちをつかせては立たせないようトライし、立ち上がる際にバックに回る。詰めて、組んで、抑えて削る。ここからフィニッシュに持ち込んだのは、UFCでは7つの勝利のうち最初の2試合のみ。キムラとRNCによる2つの一本勝ちも、ベストファイト・オブ・ザ・ナイト獲得はない──ボーグのグライディングMMAを顕著に表しているといえるだろう。

一方のシモンもMMAキャリアの序盤には4連続TKO勝ちをし、KOTC、Titan FC時代に肩固めとRNC、UFCではギロチンで一本勝ちがあるもの、決してフィニッシャーというわけではなく、ボーグと同様に消耗戦を勝ち切るというファイターだ。ただし、シモンのMMAはボーグのグライディングとは正反対、動き続け、相手も自分も止まらない。相手が動きを止めれば勝利を手にし、自分が止まれば試合を落とす。その結果、UFCでもファイト・オブ・ザ・ナイトで2度ボーナスを手にしている。

ややサイドに開いたワイドスタンス、胸も開き気味のシモンは、下半身と上半身が連動していないような動きで、圧力をかけては近距離でアッパー、フック、オーバーハンドを左右から繰り出す。イクダウンも豪快なリフトアップ系が多く、落としても特にコントロールに拘るわけではないのが特徴だ。相手がスクランブルを狙うなら、すぐにスタンドに意識を切り替え、立ち上がらない対戦相手にはトップでスペースを空けて抑え、パンチを入れる。

よって相手は殴られながらも、スタンドに戻る機会が巡ってくる。このように相手を動かせ、自分も動きながら、接近戦で打撃を入れるのがシモンの戦い方だ。何よりも打撃戦で、距離が近いこともあり、相手の攻撃を被弾することが少なくない。殴り、殴られる消耗戦で勝ち切るスタイルが、ユライアには一発を効かされ、フォント戦ではよりダメージを受ける結果となった。

同じ削るファイトでも、詰めて、相手の自分の思うように反応させるボーグと、シモンのそれはまるで違う。コンテンダーシリーズ時代のファイターという一言で括るのは乱暴だが、UFC首脳はコンテンダーシリーズでグライディングで勝ったと契約することはまずない。そんな時代のMMAはコンテンダーシリーズやLFAで攻撃>防御のガチャガチャMMAを生み、シモンはさらに一歩踏み込み反撃上等のハイプMMAを戦う。

結果として心身ともに消耗する両者の戦い、新型コロナウィルス感染者の感染拡大とシャットダウンという期間が、彼らの信条とする戦いにどのような影響を与えるのか。UFC249を見ても、出場選手のコンディションは非コロナの時代とは明らかに差があった。

戦い方は対極でも、自らの体も苛めることは変わりない両者。初回から普段のような動きができるのか、あるいは60パーセントから70パーセントぐらいの動きで、3R全般を見ているのか。とにかく仕上がりが大きくモノをいう異文化MMAのぶつかり合いとなる。

■UFN171対戦カード

<ライトヘビー級/5分5R>
アンソニー・スミス(米国)
グローバー・テイシェイラ(ブラジル)

<ヘビー級/5分3R>
オヴァンス・サンプレー(ハイチ)
ベン・ロズウェル(米国)

<ライト級/5分3R>
ドリュー・トバー(米国)
アレキサンダー・フェルナンデス(米国)

<バンタム級/5分3R>
レイ・ボーグ(米国)
リッキー・シモン(米国)

<ミドル級/5分3R>
カール・ロバーソン(米国)
マーヴィン・ヴェットーリ(イタリア)

<ヘビー級/5分3R>
アンドレイ・オルロフスキー(ベラルーシ)
フィリッピ・リンス(ブラジル)

<ライト級/5分3R>
マイケル・ジョンソン(米国)
チアゴ・モイゼス(ブラジル)

<女子バンタム級/5分3R>
シジャラー・ユーバンクス(米国)
サラ・モラス(カナダ)

<バンタム級/5分3R>
ハンター・アジャー(米国)
ブライアン・ケレハー(米国)

<ヘビー級/5分3R>
チェイス・シャーマン(米国)
イケ・ビジャヌエバ(米国)

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Preview UFC249 ドミニク・クルーズ ブログ ヘンリー・セフード

【UFC249】Last Minute シャッフルの終着点、スクランブルゲームの変化──セフード✖ドミニク戦を考察

Dominic【写真】あの日の強さは維持できているのか。そして、あの日よりも強さを手にしているのか(C)MMAPLANET

ジャカレ・ソウザがコロナウィルスに感染していることが判明するなど予断を許さない状況のなか、いよいよ9日(土・現地時間)にフロリダ州ジャクソンビルのヴィスター・ベテランズ・メモリアル・アリーナでUFC249が開催される。

MMAPLANETではこのファイトウィーク、2016年12月30日以来の実戦がUFC2階級制覇からフライ級王座を返上したヘンリー・セフードの持つベルトへチャレンジとなったドミニク・クルーズに最大の注目をしてきた。

スイッチを多用し、上中下・左右と攻撃を散らし、それまでのMMAの概念を超えた前後の動きで革命を起こしたドミニクも、今や35歳を迎える。前進もそうだが、あのバックステップの速さと距離、当てない攻撃を触覚として、届く攻撃を割り出す──コンピューターのような動きが、これだけのブランクがあって再現できるのか。


いや再現できるだけでなく、セフードに勝利するには以前よりも強くなっていなければならない。別記事のDEEPフェザー級チャンピオン弥益ドミネーター聡志の見立てのようにセフードは対戦相手のステップワークに意に介さず、ガンガン前に出ていく。

そんなセフードだが、MMAからUFCデビュー後はもっと慎重にタイミングを計るような打撃を使っていた。それがBellator世界フェザー級&ライト級世界王者のパトリシオ・フレイレとトレーニングンをするようになり、殴られても殴るという意識を持つようになったのか、上手く戦うのではなく強く戦うようになり打撃の質が変化した。

ワイドスタンス、左足を前に踏み出し、まるで前屈立ちのような構えから、レスラー特有の鋭い踏み込みで右のパンチをボディ&顔面に入れ、蹴りも上中下と放つことができる。基本、右中心の攻撃だが、ここに五輪で世界の頂点にたったシングルレッグなどテイクダウンを加わることで、威力十分の右パンチの打ち出しが見えなくなるという強みがある。

対してドミニクのシャッフルMMAは、終着点がテイクダウンだ。打撃を散らし、相手も消耗させておいて、組んで倒す。ここからのコントロールが試合のコントロールとなり、対戦相手の思考を奪っていく。また組み伏せるだけでなく、水垣偉弥をKOしたようにMMA特有のスクランブル打撃にも長じている。

そんなテイクダウンからスクランブルゲームをドミニクはセフードに仕掛けることができるのか。攻撃の意識が強くなったセフードだが、テイクダウンを切る能力には一片の陰りも見られない。逆に綺麗に戦おうとしていたときより、力強さが増している。スプロール、がぶり、クレイドルからバック奪取とパワー溢れる流れで試合をコントロールできる。

当然のようにドミニクが胸を合わせてクリンチに入れたとしても、そこからの耐久力とカウンターとなるテイクダウン能力にしても、MMA随一といっても過言でないだろう。さらにいえばテイクダウンを奪った後も、試合を支配できるとは限らない。なんといってもドミニクが休養していた3年間で、MMAが最も進化したのは──このスクランブルゲームだ。テイクダウン防御も誰もが強くなったが、そこで距離が詰まった状態での打撃戦が増え、またテイクダウンも若干取れるという状況にはある。

しかし、ここから相手の背中をマットにつけさせ続けることは非常に困難になった。テイクダウンを奪ったとしても、クラッチをしっかりと握り、胸を合わせた状態で抑え込んだ先に待っているのはブレイクだ。こうなると抑え込んだ分だけ、力を消耗してしまう。だからいって、腰の辺りのクラッチでは到底立ちあがる力を制御できなくなった。それこそが、ここ3年のMMAだ。ならストップもされず、ダメージを与えるにはパウンドという手段があるが、そのためにスペースを与えると待っていましたとばかりに、立ち上がられてしまう。

そこからのバック奪取は、バックを維持できず落とされてからのオモプラッタ、三角、腕十字というサブミッションの流れを生んだが、多くのファイターはスクランブルを繰り返すことになる。スクランブルゲームの進化に対し、ドミニクはどのような考えでいるのかとバーチャル・メディアデーで尋ねると、彼はこのように返答した。

「僕自身、徹底してホールディング・ダウンの練習をしてきた。テイクダウンはそこからの試合を有利に進めるための入り口になる。何もサブミッションという特定した場合だけでなく、クリンチにしてもそうだ。ヘンリーは習慣のようにオーバーフック、ダブル・アンダーフックからのインサイドトリップを使う。あるいはタイクリンチにも移行している。力強く、多数の手段を持っている。僕もスクランブルが必要だし、彼もスクランブルをしてくる。そしてバンタム級のファイターは、皆がマーシャルアーツをしっかりと理解しているんだ。テイクダウンの瞬間、それが試合の流れを掴むことになる。僕が凄く好きな部分でもあるよ」

さすがに手の内は明かさなかったドミニクだが、その言葉以上に自然と腕を差す動作が見られるなど十分にセフードを研究し、同時に自分のやるべきことを見つけ出しているように感じられた。

セフードが、ドミニクのステップに惑わされずに前に出て戦うことができるのか。ドミニクは組みまでのプロセスを成功させて、テイクダウンに持ち込めるのか。その結果、スクランブルゲームで試合を優位に進めるのはどちらになるのか。打撃、組み、角度、距離、手数、スタミナ、そしてスピード、全てのMMAの要素で最高レベルの攻防が見られる──至高の25分間となりそうだ。


■UFC249計量結果

<UFC暫定世界王座決定戦/5分5R>
トニー・ファーガソン: 155ポンド(70.31キロ)
ジャスティン・ゲイジー: 155ポンド(70.31キロ)

<UFC世界バンタム級選手権試合/5分5R>
[王者]ヘンリー・セフード: 135ポンド(61.24キロ)
[挑戦者]ドミニク・クルーズ: 135ポンド(61.24キロ)

<ヘビー級/5分3R>
フランシス・ガヌー: 261.5ポンド(118.61キロ)
ジャイルジーニョ・ホーゼンストライク: 260ポンド(117.93キロ)

<フェザー級/5分3R>
ジェレミー・スティーブンス: 150.5ポンド(68.26キロ)
カルヴィン・ケイター: 146ポンド(66.22キロ)

<ヘビー級/5分3R>
グレッグ・ハーディー: 265.5ポンド(120.42キロ)
ヨーガン・デ・カストロ: 262ポンド(118.84キロ)

<ウェルター級/5分3R>
ドナルド・セラーニ: 171ポンド(77.56キロ)
アンソニー・ペティス: 170.5ポンド(77.34キロ)

<ヘビー級/5分3R>
アレクセイ・オレイニク: 227.5ポンド(103.19キロ)
ファブリシオ・ヴェウドゥム: 243ポンド(110.22キロ)

<女子ストロー級/5分3R>
カーラ・エスパルザ: 115.5ポンド(52.38キロ)
ミッシェレ・ウォーターソン: 115ポンド(52.16キロ)

<ミドル級/5分3R>
ホナウド・ジャカレ: 186ポンド(84.37キロ)
ユライア・ホール: 186ポンド(84.37キロ)

<ウェルター級/5分3R>
ヴィセンチ・ルケ: 170ポンド(77.11キロ)
ニコ・プライス: 170.5ポンド(77.34キロ)

<フェザー級/5分3R>
ブライス・ミッチェル: 145.5ポンド(66.0キロ)
チャールズ・ロサ: 146ポンド(66.22キロ)

<ライトヘビー級/5分3R>
サム・アルヴィー: 205ポンド(92.99キロ)
ライアン・スポーン: 206ポンド(93.44キロ)

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Preview UFC UFC249 ニコ・プライス ブログ ヴィセンチ・ルケ

【UFC249】必見!! ヴィセンチ・ルケのK-1 MMA✖奇想天外MMA=ニコ・プライス=フィニッシュ絶対対決

Luque【写真】相手の拳が届く距離で戦うルケ (C) Zuffa/UFC

18日(土・現地時間)に開催されるUFC249で、ボーナス獲得必至のウェルター級マッチ=ヴィセンチ・ルケ✖ニコ・プライス戦が組まれている。

ルケ、プライス共に4月11日に予定されていたポートランド大会で、前者がランディ・ブラウン、後者はムスリム・サリコフ戦が決まっていたが、新型コロナウィルス感染拡大の影響で大会が延期されるという境遇にあった。


MMAPLANETでの佐藤天インタビューにもあったように、ルケはブラジルから試合も未確定な状況で急遽呼び寄せられ、今回の試合が決定した。これはプライスも同じシチュエーションだったことは想像に難くない。

それでもUFCが今大会で両者の試合をマッチアップした理由も、明白だ。ルケはパフォーマンス・オブ・ザ・ナイト獲得2回、ファイト・オブ・ザ・ナイトを3度手にしている選手で、プライスはパフォーマンス・オブ・ザ・ナイトを4度手にしている。つまりはフィニッシュ必至のガチガチあるいはガチャガチャファイトが期待されているカードだ。

チリ人の父とブラジル人の母を持ち、米国ニュージャージーで生まれたルケは、両親の離婚後ブラジリアで育ち、英語、スペイン語、ポルトガル語を使いこなすバイリンガルで、SNSの動画でも英語やスペイン語でファンにメッセージを送ることも珍しくない。

ブラジリアの名門セハードMMAとフロリダのスタンフォードMMA(ハードノックス)の2カ所で練習しているルケは、MMAにあってもK-1ような距離で殴る蹴るができるファイターだ。ガードは高く顔面を守り、頭を振るよりも小さなMMAグローブでブロックをし、ボディは殴らせる──ヘンリー・フーフトが提唱する、ややリスクは高まるが負けないよりも倒すことに比重を置くダッチ・キックボクシングMMAの実践者だ。

MMAでも中間距離以内の打ち合いが大歓迎される状況になりつつあるなか、真正面&近場に立つ必要がなかったMMAファイターは、接近戦の防御に課題を残していることも少なくない。遠いレンジからの打撃を効かせて、中に入るために一方的に攻勢になるのが、MMAにおける接近戦だからだ。

ただし、ルケの場合は最初から強い圧力をかけて、相手のパンチが届く距離に居続けるという稀なスタイルで、右のパンチがめっぽう強い。もう一つのフーフトの指導ならではと思われる特徴は、ローやハイなど蹴りを使う場合につま先が上を向いていることが多い点が挙げられる。

蹴り足がキャッチされ、テイクダウンという流れがあるMMAでは──つま先を上げる蹴りを使う選手は、キックが未成熟と思われてきた。つま先を上に向けることで角度がつき、キャッチされると際にフックになるという理由もあるが、それ以上にこのフォームで蹴りを使うと重心が高くなり、よりバランスを崩しやすくなるからだ。よって、従来のMMAでは蹴りが使えるファイターほど、彼のような蹴りを見せることはなかった。

フーフトによると、この蹴りは軸足に力を入れて、蹴り足は力を入れないことで反動を利用し威力を得ることができるとのこと。ルケとはスタンフォードMMAのチームメイトで、ONE2階級王者のオンラ・ンサンもこの主の蹴りが使うが、勢いで重心が高くなることをチャラにしているようにも見える。

ンサン以上にルケにとってこの蹴りが有効なのは、近距離でのファイトで北米MMAファイターはまだ蹴りへの対応は進んでおらず、組んで倒すという流れが多くなることだ。これは打撃を効かせて嫌がってテイクダウンを狙ってくる相手にも共通するが、ルケが育ったセハードMMAは柔術だけでなく、ルタリーブリも学べるアカデミーで、彼はルタ・スペシャルといえるアナコンダ・チョークや、アームイン&クローズドガードというクラシカル=長年かけて磨き上げられてきたフロント系チョークの使い手でもある。

ダッチ・キックボクシング&ルタリーブリの融合が、ルケのK-1MMAを可能にした。故にルケは、昨年11月に対戦したスティーブン・トンプソンのロングレンジで手数の多い戦いにはしてやられたという見方も成り立つ。

ただし、ボーナス獲得ばかりか勝っても負けてもフィニッシュ決着のプライスは、トンプソンのようなファイトはまずしてこない。ルケにとっても、リスクが高くなろうが、自分のファイトができる相手といえる。このところ5試合で3勝2敗、決して勝率は高くないプライスだが、勝った3試合は揃ってKO勝ち。

Zuffa/UFC

Zuffa/UFC

その勝ち方も、独創性に溢れている。昨年10月のジェイムス・ヴィック戦では上から殴ってくる相手の顔面をカカトで蹴り抜いたアップキック=蹴り上げでKO勝ち。

2018年7月のランディ・ブラウン戦では、ガードからの腕十字に失敗しながら、足を抱えてブラウンを制して、下からの鉄槌の連打で失神に追い込んでいる。

プライスの奇想天外ファイトは、アラン・ジョバーン戦でも見られた。フィニッシュブローといえる右フックを効かせたプライスは、後方によろめいたジョバーンがマットに手や足の裏以外の部分が着く前に右の顔面を蹴り抜き、KOしている。この一瞬の勝利を見逃さない強さは、プライスが持つ格闘センスの表れといえるだろう。

ただし、隙を見せないファイターの前では──ジェフ・ニールにはガードを取りながら殴られ、アブドゥル・ラザクには打撃戦のなかでバランスを崩して立ち上がったところに一発を被弾して敗れている。相手の隙をつくのに長けている一方で、自らも隙があるプライスは安定度が欠け、勝っても負けても劇的な勝負になるという特徴がズッファの信頼を得る要因になっているに違いない。

そんなリスク承知の近距離戦を戦うルケと、奇想天外なプライスのファイト。地力でいえばルケであることは間違いなく、5度戦えばルケの4勝1敗というぐらいの差はあるはず。ただし、その1勝を導く力に長けているプライスだけに、何が起こるか分からない。どんでん返しも、ルケの圧勝もある試合になるだろう。

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【UFC249】いつでも倒せる─距離となるのか、フランシス・ガヌー✖ジャイルジーニョ・ホーゼンストライク

UFC249【写真】当たれば終わる。当てるのも上手い。果たして、その間合になるのか(C) Zuffa/UFC

18日(土・現地時間)に決行されるUFC249。同大会のプレリミメインでフランシス・ガヌー✖ジャイルジーニョ・ホーゼンストライクのヘビー級マッチが組まれている。

本来3月28日のUFC ESPN08のメインで組まれていたストライカー対決が、シャッフルされて今大会のESPN枠で視聴されることとなった。


N'Gannouアフリカ・カメルーン出身のガヌーと、南米スリナム生まれのホーゼンストライク。ガヌーは22歳でボクシングを始め、26歳でプロボクサーを目指してフランスに渡るもパリで路上生活を強いられる。その後、ボクシングジムで練習こそ始めたがパリの名門MMAファクトリーでMMAファイターとしての力を見初められるまで、路上生活は続いていた。

一方、サッカーワールドカップで過去3人しかない初戦から決勝まで全試合で得点を挙げた選手の1人、ブラジルの名プレイヤー=ジャイルジーニョの名を持つホーゼンストライクは、18歳でキックを始めると、ボス・ジムの名コーチ=マイケル・バッブに見いだされプロキックボクサーとして活躍。MMAと並行して活動していた終盤も含め、実にキャリア85戦76勝8敗1分という戦績を残している。

2016年には武林風スーパーヘビー級Tを制したローゼンストライクは、2017年からMMAに専念するようになり翌年5月にはRIZINに参戦、アンドレ・コバレフからキャリア唯一の判定勝ちを手にしている。昨年2月からオクタゴンで戦うようになり、現在4連勝中のホーゼンストライクは、2戦目でアレン・クロウダーを9秒で倒し、昨年12月にはアリスター・オーフレイムから残り4秒で逆転TKO勝ちを収めている。

対してガヌーは2015年12月からUFCで活躍中で、オクタゴン戦績は9勝2敗だ。2つの敗北のうち、1試合は2018年1月にUFC世界ヘビー級王者スタイプ・ミオシッチに挑戦し敗れたもの。そう既にガヌーは世界挑戦経験があり、現在3試合連続初回KO勝ち中だ。

ガヌーは前述した世界戦の敗北に続き、お見合いファイトとなったデリック・ルイス戦で判定負けをしているが、UFCで挙げた9勝は全てKO/TKOないし一本勝ちで、うち8試合が初回で勝利を手にしている。ホーゼンストライクの4勝も全てKOもしくはTKO勝ちで、彼の場合はMMA全体でも10連勝と負け知らず、7試合で初回KO勝ちを収めている。

一発必倒のパンチ力を誇る両者。ガヌーは左フック、左アッパー、右フックとどこからでもKOが可能なファイターだ。大きく踏み込んだ左足の外側から左フック、内側から左アッパー、前手でKOすることもあればフォローの右フックで失神に相手を追い込むこともできる。そんなガヌーの多彩なフィニッシュブローも、右ストレートの強さがあるからこそ。やや左外に踏み込み、正中線を捕えるような右ストレートへの警戒を怠ることがでない対戦相手は、角度では外、距離ではインとなったパンチを見落として奈落の底に突き落とされる。

蹴りは右のカーフキックと、時折り見せるサウスポーからの左ハイぐらいで、ガヌーはボクシング中心のストライカーであることは間違いない。UFCで見せた一本勝ちはスタンドでバックを譲った状態でキムラに取り、そのまま倒してニーインベリーで極めた力技だった。

ガヌーはMMA禁止のフランスでパウンドなしの100%Fightというプロモーションでキャリアを序盤を積んでおり、その時代にもオーバーフックに取った相手が座り込み、そのまま腕を極めるなど、非常に強引な関節技も持っている。

レスリングが一番穴であることは間違いなく、ミオシッチにはパンチを入れながらも何度もテイクダウン&トップコントロールで削られて敗れた。とはいっても、ローゼンストライクはガヌーがテイクダウンを許さず、豪快過ぎる左アッパーでKOしたアリスターにテイクダウンから抑えられ、逆転の左→右フックKOがなければ判定でほぼ勝ち目はなかったという試合をしている。

つまりホーゼンストライクが組み勝負を仕掛けることはまず考えられなく、必然的にこの試合は打撃戦となる。ホーゼンストライクの打撃の注意点は、低い構えといえる。特に左の拳の位置は低く、その左フックでキック時代から多くの相手を沈めてきた。もちろん、この左に続くフォローの右もあり、さらに左ハイにつなげる対角線コントロールもイワン・ヒポリットの孫弟子だけに身につけている。

Rozenstruikキック時代のホーゼンストライクのガードは決して低くないことを考えると、今の構えはMMAの距離を頭に入れてアレンジされたモノだろう。そんなガヌーとホーゼンストライクの一戦は、両者揃って下がって打つカウンターの持ち主でもありKO決着必死の戦いになること──間違いないとはいえないのが、MMAの妙だ。

2人揃って目が良い。相手の攻撃を最後まで見ることで、体の強さもあるが接近戦でフルパワーのフックを当てることができる。下がって入れるKOパンチも、相手をその状況に追い込み、ステップインを予見して見えているからこそ、可能になるフィニッシュだ。

それだけ相手が見えることで、ガヌーがルイス戦で陥ったお見合いファイトが起こった。遠い距離でハイを放つルイスは手数が少なく、隙もない。その結果、相手の攻撃に化学反応を起こすガヌーは、動かないルイス相手に自分も動けなくなった。

ホーゼンストライクは手の届く範囲で、相手に打たせてから自分も殴り勝ってきたが、そんなファイトをガヌー相手に仕掛けることができるのか。ガヌーの踏み込みを待つと、ホーゼンストライクも様子見が増えるかもしれない。が、試合を動かすのはホーゼンストライクになる公算が高い。

ボクサーを目指していたといっても、タイミングと距離は完全にMMAのガヌーに対し、真正面から殴るキックの試合を85試合もしてきたホーゼンストライクは、距離を詰める術は持っている。ホーゼンストライクが恐怖に打ち勝つか、恐怖すら感じず無神経に距離を詰めることで試合は動くことになるだろう。その後の展開は、紙のみぞ知るといったところか……。