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Bu et Sports de combat MMA MMAPLANET o ONE UFC アレックス・ポアタン・ペレイラ イスラエル・アデサニャ キック ボクシング 剛毅會 岩﨑達也 平本蓮 武術空手

お蔵入り厳禁【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。ポアタン✖アデサニャ「質量が凄い」

【写真】確かに近い距離での豪腕フックが何度も見られた (C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

お蔵入り厳禁。武術的観点に立って見たアレックス・ポアタン・ペレイラ✖イスラエル・アデサニャ戦を約2週間後に迫った再戦前に改めて振り返りたい。


──アデサニャとポアタンなのですが、キックボクシング時代に引き続きMMAでもポアタンが勝ってしまいました。

「平本蓮という選手が、ああいう風に戦いたいから見てくださいとアデサニャのことを言ってきました。パッと見た時にポアタンの拳(けん)の質量が凄いんですよ、ともかく。こんなものを食らったら死んじゃうんじゃないかと思って見ていました。試合開始直後の印象でポアタンの質量が圧倒的なので、これはポアタンがKOすると思いました。というのもアデサニャがビビッて、いつもの老獪な感じが無かったですね。つまりアデサニャに対して、UFCであろうが打撃で伍する相手はいなかった」

──UFCで戦いだした当時は、アデサニャが何者か分からないので、相手も仕掛けて倒されていました。しかし、彼が強さを見せると打撃で圧し切れる相手はおらず、アデサニャも今言われたように倒すというよりもインサイドワークを駆使するだけで勝てていたように感じます。

「実はポアタンのような相手が出てくると、打撃でやりとりができないのかというぐらいに見えました。いわば打撃のスクランブル。MMAでは余り見られない、やりとりは」

──組みがあるので打撃の距離は、組みにいける距離で。劣勢な方が、打撃を続けるということはなくても良い競技です。結果、MMAでの打ち合いは、体力も精神力もギリギリになった状態での戦い、根性勝負の殴り合いになるような。

「打ち合いの中で呼吸を外す、しっかりとカウンターを取るというのはそこまで多くないです。アデサニャも前手を使って殴られないようにして、おずおずと下がるばかりでした。ただし、ポアタンも自分のリーチを生かした戦いはできていなかった。きっとボクシンググローブの戦いを続けているのだと思います。リーチがあるのに詰めてフックを打つ。拳の向きを見ると、素手よりもボクシンググローブの殴り方です」

──クリンチでボディを殴る時も、まさにそのように見えました。

「ハイ。ショートレンジのキックボクサーなんです。だからMMAに多い、少し離れた距離の打撃はまだ慣れていない。寄っていかないと当てられない。あれだけリーチがあるのに、その繰り返しでした。限定された距離で、人を殴るポアタンの質量が圧倒的にアデサニャを上回っていても、最初にアデサニャがダウンを奪います。アデサニャの打ち方は、MMAグローブの打ち方で、ピンポイントで捕らえている。

やはりボクシンググローブと、MMAグローブに違いがある。それだけ質量に差があっても、その通り反映しない。結果的にやりあうとダウンを取ったのはアデサニャでしたからね。ポアタンのパンチは止めないで、流れていても効きます。MMAグローブは止める……置くといっているパンチですね。

フォロースルーを創ると、あまり効かない気がします。ボクシンググローブは、大きさがあるのである程度スウィングさせて殴るとダメージを与えやすい。つまりボクシンググローブとMMAグローブで殴るポイントが違ってきます。手を伸ばしただけで効かせる突き……空手では決めと呼びますが、決めと打ち抜くパンチの違いですね」

──それでもポアタンにはあの勢いがあって殴られるのですから、相手は怖いかと。

「ハイ。その距離に入ってアデサニャは殴っていったので、それは勇気が必要だったと思います」

──ONEのMMAグローブのムエタイ。距離もスタンスも、そこに近い試合に見えました。

「だからこそ、ポアタンは凄まじい可能性を秘めていますよ。まだMMAに慣れていないので。まぁキックで結果を残し、MMAでもキャリア6戦や7戦でUFCの頂点で戦う。これはもう、とんでもないことです」

──とはいえMMAです。決して組みの選手ではないアデサニャの組み技で、疲れてしまいました。

「あれは組みだけでなく、全般的に疲れたんだと思いますけどね」

──打撃だけの展開で2Rにポアタンがテイクダウンを取れましたが、アデサニャがボディロックで倒すと、力で逃げていました。ただし、アデサニャもグラップリングで勝ち切れる力がなかった。ずっと踏ん張って、バテまくっていました。

「つまり打撃ではアデサニャは負けた。でもMMAでは上回っている。それでも打撃のMMA選手で、組み技をそこまで積んでいなかったかと。自分より打撃が強い相手がくる想定が、そこまでなかった。組んでくる相手にどう戦うのかという部分でやってきたのでしょうね。

打撃に関してはファイターのポアタンに詰められたボクサータイプという風になっていました。打撃だけになると、蓋を開けてみるまで本当に分からない。予測がつかない展開になることがありますね。アデサニャは足を負傷したのか、ひっくり返って。アレがないとアデサニャが勝っていた。

あれだけ質量に差があったのに──あのままだと勝てるところまで持って来られた。帳尻を合わせることができるアデサニャに感心させられました。それがMMAなのかと。我々が強くなるために、何を採り入れるのか。足をケガする前のアデサニャには学ぶことが多かったです。

もつれた試合で、どう勝てるのか。審判に勝敗を委ねると、どうなるか分からない。もつれないように戦うには、もつれた時にどう戦うのかを勉強しないといけない。同時にポアタンはああいう生き物。本能でぶん殴ることができるけど、そこに法則性はない。でも、その理を知らなければ勝てない。それがMMAだということを改めて感じた試合でした」

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Bu et Sports de combat MMA MMAPLANET o UFC   ジャビッド・バシャラット マテウス・メンドンサ 剛毅會 岩﨑達也 武術空手

【Bu et Sports de combat】「打倒極の回転では勝てない」武術的観点で見るバシャラット✖メンドンサ

【写真】KO、フィニッシュ、ドミネイトは目的。打倒極の回転は手段 (C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

お蔵入り厳禁。武術的観点に立って見たジャビッド・バシャラット✖マテウス・メンドンサ戦とは?!


──バシャラット×メンドンサ、ここでもアフガン出身のバシャラットの精神面という部分が際立った戦いとなりました。

「メンドンサという10勝0敗の選手、初めてのUFCで分かりやすくバテていましたね(笑)。前半の動き、メンドンサはそれは良かったです。動きそのものを見ても、メンドンサの方が殺傷能力もあるように感じました。ただし、バシャラットは動き云々より眼です」

──眼……ですか。

「ハイ。眼に関心しましたね。バシャラットは眼が絶対に動かないです。ジャブを合わせるのも、しっかりと相手を見ています。実は相手を見ないで、動く選手が少なくないです。車でも事故を起こしてしまう時は、前方や後方不注意、つまり見ていない時ですよね。それは戦いも同じです。見ていれば、事故を起こす確率はとても低くなります。この当たり前のことが結構できないんですよ。

例えばニータップとか、テイクダウンをしようとしたときに、相手を見ないで仕掛けるとどれだけ危ないですか? 片方は肩、もう一方は足を触りに行って顔面はがら空きです。それを見ないで仕掛けるとどうなるのか。でも、案外とそういうことが往々に見られます。対してバシャラットはずっと見ている。そしてジャブを合わせることができています。このジャブの合わせ方は、地味ですが素晴らしかったです」

──やはり淡々と戦っているように見えました。

「ハイ。正直、取り立てて凄い動きじゃないんです。技術的には何が素晴らしいということではない。でも、やはりこの選手は生きてきた背景とファイトがどう結びついているのかが、興味深いですね。

アグレッシブな相手を動かせて、疲れさせる。言葉では簡単です。同時に相当に勇気がいることです。だってアグレッシブなヤツを動かすと、そのままやられることだってあるわけですから。だから、どれだけ太々しいのかって話です」

──なので、興味深いのはピンチになった時にどういう風に戦えるのか。現状、まだそのようなシーンはないわけですが。

「何度も言いますが、技術的にはシンプルなんです。ただし、下がるのではなくて、相手を出させています。下がる……後ろに行く、足を後ろにやるという表現になる動きでないと。それは相手を前に出させている動きなので。でも、下げられるとダメなんです。

メンドンサは前に出さされていた。バシャラットが、そういう風に戦っていました。これは胆力がいることです。それこそが彼の歩んできた人生、生き残るために生きてきた人間が持つ胆力。そんなものは、なかなか日本では身につかないです。私も、そこを本当に考えないといけないと思っています。

この試合でも肉体的にはメンドンサの方が優秀だったと思います。でも、彼は自滅していった。メンドンサとバシャラットでは、苦しさへの捉え方が違うのでしょう。だから、いたって冷静にバシャラットはメンドンサを自滅に追い込むことができる。前に出させてパンチ、ミドル、前蹴りを合わせることで。ただし、惜しむらくは打撃の技術力がそれほどではないこと。だからこそ、MMAとしてバランスが取れているのだと思います」

──全てを消化して打撃だけで勝つMMAもあれば、打撃だけでは勝てないけどMMAだから勝てるMMAもある。バシャラットは後者ですよね。

「そうやって総合力で勝つって、実はできていないですよ。打撃、テイクダウン、寝技を回すことを目的にしてはいけない。勝つための手段として、回さないといけない。回せるから勝てる──ではないんです。そういう選手は、回らないで負けてしまう。

ただし、バシャラットは回していますよ。いや、結果として回っているけど相手の動きに合わせて、その上をいっているから回って見えるんです。UFCレベルで、こうやって勝てるのはなかなかでしょう。

なによりも上を取った時の眼つきが、これがまた怖いから。もう1度、確認してみてください」

──分かりました(笑)。

「凄い眼をしていますよ。そして立たれた時のシングルレッグに入る所作。流れるように入っていますが、別に回していない。これも相手の動きに合わせて、さらにその先をいく動きをしているということ。回すとかいっても、自分で動こうとして回らないことばかりです。

対してバシャラットはまさに水が流れるように戦っていました。それが回って見えるということです。だから回転じゃないんです。流れと回転は違います。これは私の持論ですが、回転を目指すと──それは回転を目指す一つの動きになってしまいます。全てに対応するMMAでは、回転という一つの動きを目指すと勝てない。流れだと、回転させないで反応して勝つということで。

戦いの根本は、相手の嫌なことをやり続けること。だから回転させようとしても、それをさせない戦いを相手がしてきます。そうやって一つ、一つの局面で技術力が上がってくると、ウェルラウンダーの異種格闘技戦になる。MMAはそういうところまで昇華されてきたように思います。そのなかでバシャラットが見せた戦いは、MMAだった。異種格闘技ではない。一つ一つの要素は突出していなくても、バランス良く戦っている。でも回しているわけではない。いやぁバシャラットとトップ10、トップ5の戦いが楽しみですね」

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Bu et Sports de combat MMA MMAPLANET o UFC ジャビッド・バシャラット トニー・グレーブリー ファリド・バシャラット 剛毅會 岩﨑達也 武術空手

お蔵入り厳禁【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。バシャラット✖ベゴッソ「生きる為」

【写真】バシャラット兄弟、兄のジャビッドは今週末。弟のファリドは3月4日に試合が決まっている。要注目だ (C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

お蔵入り厳禁。武術的観点に立って見たファリド・バシャラット✖アラン・ベゴッソ戦とは?!


──この試合、同じ週の週末にUFCで2勝目を挙げたファリドの兄ジャビッドにインタビューをしたのですが、「フィニッシュを狙う必要はない。自分の動きをしていれば美しいのだから無理に狙って崩す必要はない」とアドバイスしたと言っていました。フィニッシュ絶対のコンテンダーシリーズを前にして、このアドバイスができるということが凄いと感じた次第です。技術の前の精神力、彼らのバックボーンも踏まえてそこを岩﨑さんがどのように見ているのか。

「アフガニスタンを離れ、パキスタンの難民キャンプから英国に渡ったという選手ですよね」

──ハイ。試合になると、兄弟揃って淡々と表情も変えずに、やるべきことをやっている。そのように感じた次第です。

「それこそキーワードですね。やるべきことに徹しています。ある意味、パンチが凄い、蹴りが凄い、テイクダウンが凄いとかいっても技術で何とかなります。でも、そういう精神構造を技術で崩すことはできないです。無理、無理です。

それはもう出自が違うというのが、まずあります。『自分の国にいて安全だと思ったことはない』とお兄さんがインタビューで言っていましたし、タリバンと北部同盟(アフガニスタン救国・民族イスラム統一戦線)の争いのなかで幼少期を過ごしていたわけですよね……。

この試合に関して理解してほしいところは、ファリド・バシャラットは特別なことは何もしていません」

──ハイ。

「技術的なことを論じるにはどうしようかと思って視ていました。でも3Rが終った時に、これは真似ができねぇと。こういうヤツと戦った時は、どうすれば良いんだと思いましたよ」

──レフェリーがいないと、人が死ぬまで攻めることができるんじゃないかと。

「それをやらないと自分が死ぬっていうことです。これはユーラシア大陸の歴史の法則性です。好き好んで領土を奪いに行っているのではなくて、領土を取らないと命を取られる。UFCだ、世界だと言っている人達はそういう連中と殴り合うということをもう少し自覚する必要があります。

漫画家の板垣恵介さんが言っていたエピソードに、ジェラルド・ゴルドーが『お前らは顔を殴るのに躊躇するだろう』というのがあります。まさにその通りなんです。我々日本人は人の顔を殴って良いという教育は受けていないんです。日本人で格闘技を始めて、いきなり人の顔をぶん殴れるヤツの方がマイノリティなんです。実は」

──あぁ、なんとなく言われていることは分かります。

「でもユーラシア大陸、ヨーロッパ、朝鮮半島は『やらなきゃ、やられる』という歴史と風土が息づいているんです。好き好んで相手をボコボコにしているんじゃなくて、そうしないと自分が生きていけないという数千年に渡る歴史です」

──その歴史の末に今を生きている人と、その歴史が続いて生き残ってきた人間も違いがあるかと思います。バシャラット兄弟は試合中に感情が見えない。ポーカーフェイス云々でなく、感情がないのかと。

「紳士的に相手をぶっ殺すというやつですね(笑)」

──確かにジャビッド・バシャラットはインタビューの受け答えは、凄く穏やかでした。

「想像できます。アフタニスタンで北部同盟を率いた英雄的な指導者のアフマド・シャー・マスードという人の言っていることなんて、常に愛と慈愛に満ち溢れています。そこには愛しかない。もう詩集ですよ。

でもソビエト連邦を追い返したのはこの人たちで、マスードの最後はアルカイダの自爆テロで暗殺され、その2日後に9.11が起こったんです。米軍のアフガン撤退を機に、息子さんのアフマド・マスードが今のタリバンに抵抗するようになっていますね」

──もちろん、だからといってアフガンの皆がマスードのようではないのでしょうが、バシャラット兄の弟への想いと淡々とした攻めには、何か通じるものがあるようです。

「マスードという人はソ連を撤退させ、その後の捕虜の開放でロシアの支持を得るなど、勇猛さと慈愛を兼ね備えていた人物だったんです。愛情に溢れ、でも向かってくる敵には一切の容赦がない。そういうことをこのバシャラットの戦いを見て、思い出しました。

あの当たり前のことしかしない戦いをしたがらない選手は多いです。なぜか、『疲れるから』です。疲れるのが嫌なら、格闘技やるなよって。でもバシャラット兄弟は、疲れるなんて屁でもないですよ。命を落とすから国を離れる。きっと着の身着のままだったでしょう。それをね、真似をするのは無理ですよ。我々、日本人には。でも、その精神性を理解して試合に臨めば、我々だってやってやれないことはない」

──4日後にトニー・グレーブリーを破ったジャビッド・バシャラットも、頭突きで流血しながら表情も変えず戦っていた。その淡々さが怖かったです。

「そうですよ、怖いですよ。でもね、バシャラットが怖くないかといえば──彼だって怖いんですよ。でも生きるためにやっているんですよ。ああいう選手に勝つのは、本当に大変です。しかし、このところのUFCはコンテンダーシリーズとかプレリミの試合は、なぜかPPVカードよりも考えさせられることが多いです」

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Bu et Sports de combat K-1 MMA MMAPLANET o RIZIN UFC キック サンチン ボクシング 剛毅會 岩﨑達也 平本蓮 弥益ドミネーター聡志 松嶋こよみ 武術空手 長谷川賢

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。平本✖弥益「空手の打ち方のボクシングです」

【写真】平本が何度も決めた左の突きは、空手の後の先ではなくボクシングのカウンターだった。そして返しの右が強かった (C)RIZIN

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見た──だけでなく、自ら稽古を共にする立場から見た平本蓮✖弥益ドミネーター聡志戦とは?!


──平本選手の打撃が変わった。「空手だ」、「後の先だ」、「カウンターだ」と様々な声があります。そのなかでこの2カ月、平本選手と稽古してきたなかでの初めての試合。そして、足の指の骨折も経験しました。

「試合が決まってすぐに前蹴りの練習をさせると、左足薬指の中足を折ってしまいました」

──やはり前蹴りから入ると。岩﨑さんは以前、剛毅會空手ルールを創るなら蹴りは前蹴りだけで良いというほど、前蹴りの重要性を説いていました。

「それはMMAだからですよ。しっかりと前蹴りで入って、両手と両足を連動させる。剛毅會の定石といえます。前蹴りが一番簡単だから。いや、蓮は蹴りも上手いです。回し蹴りでもロー、ミドル、ハイキックと全て上手いです。ただし、11月の頭に弥益選手とやる。もう1カ月少ししかないなかで、それらの蹴りは使わない方が良いと思いました」

──その故は?

「彼も分かっていたけど蹴った後、そして蹴る前にしても──蹴りを使うことで居着いてしまうので。そうしたら、ケガをした。だから、今回は何かをこうするということではなく、ミスをなくしていく選択をして、あの戦い方になったわけです」

──ほぼパンチのみでした。

「ケガをしてから、K-1時代の映像をチェックしました。その時に思ったのは、やはりパンチ力でした。蓮はボクシングなんですよ。キックボクシングではない。だから、彼の持つボクシング力、そこで徹底的に戦おうという選択をしました」

──途中「で後ろを使う」という戦いは、前に出て圧力をかけることができず逆にパンチを被弾し、テイクダウンを取られるかもという指摘が、セコンド陣からあったと聞きました。

「そこは大きかったです。ハセケン(長谷川賢)さんと赤沢(幸典)君は『それだと下がって危ないんじゃないか』と思った。蓮の良さがスポイルされるんじゃないかということだったんです。ただし、今回の試合に関しては彼が前に出ると弥益選手はテイクダウンを取ることができる。

パンチのインステップにテイクダウンを合わせるのが弥益選手。なら、その機会を無くして戦うことが勝利に近づくと踏みました。蓮はカウンターが得意だから。蓮は私の言わんとする真意をくんでいることが、彼らの指摘で理解できました。結果、ハセケンさんも赤沢君も分かった。彼らが蓮のことを心配して、尋ねてきてくれたからですよね。

それもあって……試合に関しては、やることがドンピシャにハマり、結果もでた。そんなことは10数年指導をしてきて初めてです。チームワーク……ハセケンさん、赤沢君、(平本)丈、練習に付き合ってくれた飯田(健夫)君、この全員が同じことを考え、こう戦わないといけないという部分で一致していました。陳腐な言い方ですが、チームが一丸となった。そこが勝因だと思います。

加えて蓮の舞台度胸ですかね。いよいよ追い詰められて、ホントに戦うことが決まったのは大会の1週間前のことで……決まってからの気合は半端なかったです。ハマり過ぎるほどハマった。ただし、そうなることは見えていた試合とも言えました」

──2カ月ほどの稽古で、平本選手は何が必要か理解度も高いのですね。

「そこでいうと理解度が高くても、試合でやるかどうかは別問題なんです。そういう意味でも、彼が今回は信じてああいう戦い方をしたということになりますね」

──ではハマったというのは弥益選手を研究して、当てはめていったのか。今回の稽古をすれば誰が相手もハマるということでしょうか。

「それ以前にMMAの選手として、どう戦うのか。彼にはそのベースがないということでした。レスリングができる。寝技が強いというベースがあれば、そこに向けて勝つ方法論で向かっていけます。それが無いから、分からない。でもケガをしてボクシングに絞ることで、戦略が立てやすかったです。もうそれ以外、選択肢がなかったから」

──そのためにどのような稽古を行ったのでしょうか。

「動かないで殴る。空手の基本稽古です。空手の基本稽古はその場でやります。動かないで強い力を出せるようになる。それができるようになると力を運ぶ。それが稽古の手順です。今回は動かないで突きを見せる。それができたら、下がりながらカウンターを取る。それだけです」

──では今回の平本選手の戦い方はカウンターで良いわけですね。後の先が取れていたわけではなくて。

「後の先なんて、まだ取れないです。言うちゃ悪いけど、そんなに甘いモノではない。あの試合はあくまでもカウンターです。打ち方は空手の。後の先ではなく、カウンターです」

──後の先とカウンターの違い。そこがまた難しい。後の先=カウンターというのが格闘技界の通例ですし。

「ハイ、後の先を経験している方は非常に少ないと思います。蓮の戦いは後の先ではなく、ボクシングのカウンターです。空手の打ち方でやっただけです。ひたすら右足前の左の逆突きの稽古をしました」

サンチン??

──平本選手は試合後の会見で、勢いがあるならオーソの構え。

技術的には戦うにはサウスポーの構え。今回は右足前で戦ったということを話していました。そこまで話しても大丈夫なのかと思ったほどです。

「全く問題ないです。手の内でもなんでもないですから。彼は空手に関しては初心者。まだ白帯です。茶帯ぐらいになった時はバカバカしくて、そんな話もしなくなるはずです。空手だと騒ぎ立ててもらえているのは、彼にネームバリューがあるからで。

とはいっても彼はUFCの世界王者を目指すと公言していますから。なるか、なれないかは別問題として、逆算してやっていく。目標がそこであるなら、これではダメです」

──あの戦いではダメですか。

「ダメですよ、全然。MMAも初心者で、経験値が足らないです。アマからプロ、もまれてランカー、そしてチャンピオンというところを飛ばして戦う状況にあるわけですからね。今、UFCのチャンピオンだと言っても絵空事です。そして本人もそこを理解しています。今回はボクシングを空手の打ち方でやったんだと。

と同時に、蓮はそういうのが好きなんですよね。この勝利で彼も道着を着て、白帯を巻くことができます。今後は渋谷支部、支部長代行ですから(笑)」

──えっ?

「これまで週に一度、蓮や丈との練習で使わせていただいていたFIGHT CLUB渋谷さんに、剛毅會空手のクラスを正式発足する運びになりそうです。ジムの会員さんは稽古に参加できないかと相談を受けました。ただし、蓮も黒帯を取らないと支部長になれないので」

──そしてあれだけの強さをMMAで見せても、平本蓮は白帯だと。

「ハイ。白帯です。松嶋こよみ師範代は黒帯二段です。武術空手への理解力は次元が違います。と同時に松嶋こよみはMMAにおいて打撃と組み、寝技と引き出しが多いです。平本蓮は打撃の専門家です。打撃の専門家にここまで私の空手を指導したのは、初めてです。蓮は打撃で苦労してきたからこそ、真意が理解できるのだと思います。

4月の初遭遇から7カ月、両者はチームになった

ただし、MMAファイターとしては平本蓮は松嶋こよみに遠く及ばないです。そこを蓮も後輩として分かっています。

2人はレスリングの稽古もやり、打撃の稽古も一緒にやる。これから2人でしのぎを削って世界を目指しますので、宜しくお願いします」

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Bu et Sports de combat MMA MMAPLANET o UFC キック ボクシング マーヴィン・ヴェットーリ ロバート・ウィティカー 剛毅會 岩﨑達也 武術空手

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。ウィティカー✖ヴェットーリ「後ろ足」

【写真】 この写真は左ジャブだが、ウィティカーの攻撃は右が中心だった(C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たロバート・ウィティカー✖マーヴィン・ヴェットーリ戦とは?!


──遠い距離から蹴り、近い距離ではヘッドムーブ。ヴェットーリの攻撃をほぼ完封したウィティカーが判定勝ちを収めました。

「ウィティカーのスタンスが素晴らしかったです。ヴェットーリがサウスポーで、ウィティカーがオーソ。ウィティカーは常に蹴ることができるスタンスでした。ただし、なぜか1Rは全く蹴りを出さなかったです。そうなるとただ広いスタンスで動く、これでは一歩間違えると殴られやすい何の取柄もないスタンスになってしまいます。

だから何のためにこういうスタンスをしているのかと思っていたのですが、蓋を開けて見れば2Rから右の前蹴りを軸にして、右の突き、そして右のハイキックという3つの攻撃だけでヴェットーリを圧倒しました。ヴェットーリは蹴りなのか、突きなのか。何が来るのか分からない状態で貰っていたと思います。

当然、そこにはヴェットーリの打撃の質がそれほどでないから、好きなように攻めることができるということはあったと思います。とはいえウィティカーは長い間トップで戦ってきた選手なので、自分の勝ちどきが分かっていて展開をどんどん創ることができますね。

ところで、ウィティカーのベースは何なのですか。伝統派空手か何かですか」

──確かに幼少期から10代の半ばまで剛柔流空手をやっていて、そこからハップキドーに。その道場がMMAジムに代わりMMAを始めたということを聞いたことがあります。かつてMMAPLANETのインタビューで「規律のある動き、タイミングの取り方、スピードは剛柔流空手から来ている部分が多い」と言っていました。スタンスやフットワークも。ただし、「そういう動きが西洋のスポーツで育めないかといえば、それは難しい質問だ」と。

「彼はいつも、あれだけ当てることができていますか」

──ハイ。貰わず当てることが多いと思います。勝っている試合では。ただし、アデサニャ戦ではより長いレンジを崩せず、テイクダウン狙いに切り替えて倒せずに負けました。そんなウィティカーですが、近い距離になると頭を振ってボクシングになる。それは武術空手的には蹴りに対応できない危ない動きということになりますよね。

「ハイ。ハイキックをもらう危険があります。そこは本当に危ないです。相手が蹴りを使わないから良かったですけど、蹴りのある相手には危ないです」

──つまりはボクシングも蹴りのない選手には有効になるわけですね。

「パンチをかわす技術ですから。なのでMMA全般にいえることですが、そこまで蹴りを使いこなせる選手が多くないので、頭を振って戦っていても危なくないように映る試合は多いです。

ただし蹴りのある選手に対しては穴になる。私が稽古している選手には、その穴をついていこうという風にしています。蹴りの対応に関しては、UFCにあってもまだ知識が行き届いていない。これだけハイキックによるKO決着が見られても、未だにそこを重要視していない。深刻に捉えていない部分があるように感じます。本当にあの頭を振ってパンチをかわそうとするのは、危ないです」

──攻める方の技術が上がらないと、防御の技術も上がらないと。

「その通りです。だからといって、皆がやらないから自分もやらないというのは違います。グレイシーだけが持っている柔術という技術を知らなかったから、他の競技の選手は柔術家に負けていました。それと同じで、蹴りに対しては空手が持っている技術がまだ浸透していない部分が多い。受け返しなどフルコンタクト空手で数十年前から繰り返されてきた技術が、MMAにないのであれば──それは知っている方が有利です。

当然、寝技ができてテイクダウンの攻防ができる。顔面直接殴打、パンチに対応しているうえで蹴りの受け返しがあれば──ということです。それがないのにMMAで、フルコンタクト空手の受け返しといっても始まりません。

同時に顔面のあるなしはあっても、あのウィティカーの間合いと飛び込みはフルコンタクト空手で日本人が外国勢に苦しめられた距離なんです。あの戦い方が日本の空手家は当時、できなかった。

それがアデサニャには通じないとなると、カウンターが取れないのだと思います。自分よりリーチのある選手と戦って入って行けない。長い距離にカウンターが取れないのでしょうね。堀口選手なんて、そういう風に攻めることができていましたよね。

でもウィティカーは後ろ足で距離をコントロールしています。そこは是非とも日本のMMAファイターの皆さんにも見習ってほしい点です。前に攻めようとする時に、どうしても前足で動いて、前足で距離を取ろうとしがちです。

対してウィティカーは後ろ足で、一度深さを創って前蹴りから右の突きを打っています。相手としては遠くから飛んできたと感じます。これが動かないで、半四股立ちの幅が間違う──つまりは前足でコントロールしたりすると、右を出してもカウンターを打たれやすいです。型通りに後ろ足に引くことができる──正しい状態から拳(けん)を伸ばしていくと、相手の攻撃を受けずに自分の攻撃を当てることができます。つまりは後ろ足でコントロールすると相手の攻撃を受けずに、自分の攻撃が入りやすくなるということです。そこまで考えてはいないと思いますが、ウィティカーはそういう動きを使っています。

だから定番となっている外を取るという動きとは、逆で内側でも攻撃を当てることができていました。ヴェットーリが右足前で、ウィティカーは左足が前。ウィティカーはヴェットーリの前足の中に入っている。外を取っても、中に入れないといけない。そういう部分でもウィティカーの動きは注目すべきモノです。

スタンスが蹴られる状態で、後ろ足で相手との距離や自分が反撃するタイミングをコントロールしている。跳ねる前後移動とは、明らかに別モノでした。ウィティカーも跳ねます。でも、後ろ足を少し引いているんです。これはデキるようでデキない。前に出ようとする時に、後ろ足を引く。これはデキないんですよ。

ただしタイ人やミルコがKOしている時は、それをやっていました。右足前で、左足を少し引いて左ミドルを蹴る。倒せる時のミルコは、その場で蹴ることはなかったです。ただしUFCで倒された時は前足で踏み込んで──のされてしまいました。

1Rは何をしているのかまるで分からなかったですが、2R以降はウィティカーのスタンスの広さの意味、この動きがあるからあの広さなんだと理解できました。凄く興味深いです」

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Bu et Sports de combat ONE160 タン・カイ タン・リー ブログ 剛毅會 岩﨑達也 武術空手

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。タン・カイ✖タン・リー「恋愛と同じ」

【写真】飛び込んで、打たれる。なぜ、タン・リーはタン・カイを相手にそのような動きを繰り返すことになったのか…… (C)ONE

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たタン・カイ✖タン・リー戦とは?!


──教え子の松嶋こよみ選手が離脱したONEフェザー級戦線、その世界戦ですが非常に興味深い顔合わせでした。

「ハイ。それだけにタン・リーにガッカリでした。どうしてしまったのか。対して、タン・カイは良い意味で狡猾でした。ホント感心させられました」

──まずタン・リーがオーソに構えて、左足をカーフで壊されました。なぜ、最初からサウスポーでいかなかったのか。

「確かに左の蹴りが良い選手ですが……。あの試合だけ見ると、その良さやそもそもどのような選手だったのかを忘れてしまうほど、崩れていました。それだけ動きが冴えなかったです」

──左ミドルで踏み込んでからスイッチして追いつき、あるいは右フックなど注目していた攻撃が見らなかったです。

「追わされました。タン・カイが追わせて戦っていた。恋愛と同じでね、追うより追わせた方の勝ちです(笑)。試合は追った方が不利。それだけ追うのは難しいんですよ。タン・カイはそれをやらせました。

そしてタン・リーは自分を見失った。ダニエル・ウィリアムスとツオロンチャアシーとの試合のツオロンチャアシーと同じで、どういう理由を持ってその攻撃に出ていたのか。そういう動きに終始してしまいましたね。

あのテイクダウン狙いやバック狙いなど、懸命だったのは伝わってきましたが、理もなくタン・リーは動いていたように見えました」

──タン・カイは相手を見て、右でも左でも倒せる。それにしても入ってきたタン・リーに当てる攻撃は見事でした。

「上手いです。もともとカウンターは上手いですが、今回はそこにサークリングが加わっていました。タン・リーを中心にして円を描くという動きをタン・カイが続けていました。一つ言えるのは、攻防としてタン・リーが打つ。タン・カイが返す。ここで終わっていたということです。

そうなると返した方が有利になる一方です。タン・リーが打って、打たれて、また打っていく。そこまで続けると、タン・カイも攻撃を止めることができずに、次の局面というものが生まれていたはずです。

ただし、この試合はソレが最後までなかったです。タン・カイはマネージメントがデキていましたね。武術的にMMAを捉えると、その部分は私も弱いところなので参考になりました」

──それはどういう部分で、ですか。

「試合だから、勝てば良いという部分で参考にしたいのですが、それはあくまでも試合に勝つという前提があってのことで、全面的に良いわけではないことを前提にして──。3Rからもうタン・カイは手を抜き始めましたね。無理にいかない。無理しない。それは現実問題として、そういうことも試合中は必要なのかと思います。

同時にマネージメントができた。だから良かったという結果論になります。ではマネージメントができない状況に陥ったら、どうなったのかと」

──ならなかったので結果論として、良しということですね。

「そういうことです。つまりタン・カイはタン・リーに対して、余裕があったということですね。タン・リーはもっと制空権が深く、相手が入ってきたところに攻撃を入れるというイメージがありましたけど、全くなかったです」

──ハイ。だからこそタン・リーが、来ないタン・カイを相手にしてどのように詰めるかという楽しみがあったのですが……。タン・カイは来ないばかりか回り、タン・リーは自らの戦いがまるでできなくなった。あそこでタン・リーも行かないという選択は、あり得ますか。

「試合ですから、全く行かないということはできないでしょう。ただし、タン・リーが出ないとなるとタン・カイが行かないといけなくなる。つまりは先の取り合いなんです。先が取れないで入っていくと、食らいます。

タン・リーは今回、先が取れていなかった。ブランドン・モレノ×カイ・カラフランス戦でモレノは先を取れていました。あの両手の動きで先が取れているので、自分から攻めることができます。対してタン・リーは、先が取れる動きがなかった。本当に少しのことで、ここは変わります。少し右足を引くとか、それだけでタン・カイを反応させる。そういう動きが見られなかったです。

同時にカーフを効かされたことは大きいです。

その影響が出たのか、タン・リーの動きをするというよりも、タン・カイにやられない動きに終始していました。本来は相手のことなどお構いなしに自分勝手に蹴って、殴る選手なのに。だからタン・リーの試合では、ミドルを蹴っているのにヒザが顔面に入るKO勝ちなどが生まれました」

──タン・リーは居着いていたということでしょうか。

「そうですね。居着いていると言って良いかもしれないです。居着くというのは色々な意味がありますが、その一つに受けに回っているということがあります。受けて何かをすることを居着いているとも言いますからね。相手の動きを第一に考えて、自分軸で動かない。良い時は自分の動き、自分軸で戦っています。

それが良くいわれる見えない部分での主導権の奪い合いで、今回はタン・カイが主導権を握ったということです。見える部分でジャブが当たった、蹴りが当たったというのは結果論でしかなくて。武術的に質量などを踏まえて考察していくと、エネルギー的に主導権をどちらが握っているかということになります。

ただし主導権を握っているのに、パッと離してしまう選手もいます。試合は結果論を得るために戦うので、主導権を握っていることが分からなくなることが選手には往々にしてあるんです。そこを指導の現場で指摘することが、指導者としての役割だと心得ています。

つまりタン・カイは行かない部分を含めて、自分のペースを守り切った。そこは考えさせられる部分でした。あと、やはりONEの裁定基準という部分は大きいかと思います。2度ダウンを奪ってもラウンドマストの5回戦だと、あと1つはラウンドを取らないといけない。でも、ONEなら2度ニアフィニッシュがあれば、もう何もさせなければ勝てます。フィニッシュを狙わせる裁定基準の裏をいった──タン・カイのマネージメント能力でした」

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Bu et Sports de combat MMA MMAPLANET o UFC デメトリウス・ジョンソン ドミニク・クルーズ ナイファンチ ナイファンチン マルロン・ヴェラ ユライア・フェイバー 剛毅會 岩﨑達也 松嶋こよみ 武術空手

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。ヴェラ✖ドミニク「いけないオンパレード」

【写真】ドミニクはドミニクであろうとし、ヴェラに敗れた (C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たマルロン・ヴェラ✖ドミニク・クルーズ戦とは?!


──マルロン・ヴェラ×ドミニク・クルーズ。一つの時代が終わった。そんな印象のドミニクのKO負けでした。

「その一時代を築いたドミニク・クルーズのことをリスペクトされているようですが、私はこの試合だけに限って話をさせていただくと……戦いとしてやってはいけないことばかりのオンパレードでした。

これは止めましょうというオンパレードです。動くために動いている。その動きが、1Rの2分過ぎでピタッと止まってしまっていました。バテてしまったのですかね」

──あの時間帯で背中が光るほど汗が出る。過去になかったかと思います。

「とにかくあれだけ体が浮いてしまうと、自分の攻撃は全てが軽くなりますし、相手の攻撃を被弾すると効いてしまいます。対してヴェラがどっしり構えていつでも倒せるぞという戦いをしていれば、早々にパンチで倒せていたと思います。でも、そうでもなくのんびり構えていましたね。もっと早く倒せたはずですが、エンジンの掛かりが遅かった。

ただ、この試合はドミニク・クルーズがマルロン・ヴェラにKO負けしたというよりも、ドミニク・クルーズが自爆した。そういう試合だったと思います」

──もうドミニクが、ドミニクではなかった。だから岩﨑さんの指摘は正しいのでしょう。それでも、ドミニクをぶった切られると良い気分はしないです。正直。

「それは、松嶋こよみ師範代も言っていましたよ。『この試合だけでなく、ドミニクのWEC時代やUFCでのデメトリウス・ジョンソン戦、ユライア・フェイバー戦を見て評価してください』って。そんなもん、いくら昔が凄かろうが今、負けていたらどうしようもない。基本に戻る必要があるんだって言っても、師範代は納得しないんですよ(苦笑)」

──それはそうですよ。ドミニクが基本通りの動きをして、ファイター人生の余生を永らえるなんて見たくもないです。もうドミニクではなかったかもしれないけど、ドミニクはドミニクであろうとして散ったんです。昔、凄かった。そう言われる選手が、どれだけMMAに存在しているでしょうか。

「アハハハハハ。いやぁ、それだけ愛されるって凄い選手なんでしょうね。あなたもそうだし師範代もそう。相当にリスペクトされているドミニクですけど、私はガーブラントにやられた時ぐらいからしか見ていないので。逆にどう凄かったのでしょうか」

──この試合でいえばドミニクっぽくはありました。ただし、前の動きも後ろへの動きももうドミニクではなくなっていた。前に関しては、あそこで止まるならそりゃパンチを合わされるよなと思います。

「つまりは、あそこでは止まっていなかったということですね。もっと遠かったということですか」

──遠いというよりも、近づいても遠くなる。前に出るなら相手の横を通り抜けて、攻撃を受ける位置にはいないぐらいで。当てた時も、その場にはいない。そして相手を翻弄してテイクダウンを奪っていた。それと下がる動きが、まさに変幻自在でした。

「そこまでだったのですね。下がれるのは凄いことです……MMAを戦ううえで。そして自分の攻撃を当てることができていたのは。ただし、この試合では下がった時のステップが、足がバッテンになるんですよね。アレは絶対にやってはいけないです」

──足がクロスするということですね。

「縦のバッテンと横のバッテンがあって、縦のバッテンがあると歩幅が狭くなってしまって。あれではすぐに相手の距離になってしまいます。バランシングといって、歩幅は一定で横に動くことが必要で。でも、クロスしてしまっていますからね。そこでパンチを貰うと、非常に効きます。最後は横のバッテンなんですよ。あのステップになると、相手が見えなくなります。だから、そのためにナイファンチンの型稽古があります。

足がクロスした時にも、相手を見られるようになるためには。そういう部分もナイファンチンにはあるんです。でも話を伺う限り、以前はあのステップでも攻撃を貰わなかったのでしょうね」

──ハイ。以前は、その足がクロスするステップでも相手の攻撃を受けなかったです。まさに唯一無二の存在でした。

「そこまでできていたことが、できなくなる。それはなぜ、デキていたのかが分かっていないとデキなくなりますよね」

──……。誰もできない動きをしていた。だから、靭帯を負傷したのかもしれないです。

「そういうことだと思いますよ。人間として、やるべきではない動きで負荷が掛かっていたのでしょう。ただですね、指導者として見るとドミニク・クルーズは人ができないことができたファイターということだけで、もう放っておいて構わない選手です。それだけ才能がある選手ですから。

でも才能がない人は真似をしてはいけないです。だから基本があって、そこが大切になってくる。基本を身に着けたうえで、応用をやる。ドミニク・クルーズのような才能がある人間は、ほぼ存在していないんですよ。

昔、私が指導していた人間でドミニクの真似をして、全くダメになった人がいたんです。蹴りが凄く強くて、その蹴りを伸ばそうと練習をしてきたのにドミニクに感化されて。全くバラバラになりました。

ドミニクを真似るなら、そういう分かりやすい部分ではなくて──相手の動きが見えているところや……きっとそれって、相手の動きを予見して当たらない方向に動いていたんだと思います。その動きをするためには、徹底的な反復練習が必要だったはずです。そういう部分を真似て欲しい。そういうことなんです」

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Bu et Sports de combat MMA MMAPLANET o UFC カイ・カラフランス カマル・ウスマン キック ブランドン・モレノ ボクシング 佐藤天 剛毅會 岩﨑達也 武術空手

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。モレノ✖カラフランス「夫婦手で全体に連動」

【写真】左三角蹴りからパウンドアウトの試合に見えた、武術的な要素とは (C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たブランドン・モレノ✖カイ・カラフランス戦とは?!


──ブランドン・モレノ×カイ・カラフランスのUFC世界暫定フライ級王座決定戦に、武術的な要素が明白にあったということですか。

「ハイ。MMAはMMAグローブで戦い、蹴りがあります。それを前提に打撃に関しては組み立て方が存在しています。加えてMMAは自由な発想で戦えます。打撃だけの試合と比較すると構えが頻繁に変わり、距離も一定でなく遠くに立っても良い。その割にはグローブをつけてボクシングの練習に精を出す選手が多いです。

ボクシングの技術、蹴りはキックボクシングと分けて稽古をする選手が多いと感じます。今回、そういう点でモレノが素晴らしかったです。捌きというやつですね。モレノの構えは打撃にも受け返しができるうえで、シングルレッグに入るなどレスリングにも対応できます」

──この試合のモレノは掌を広げて、腕を良く動かすという余りこれまでになかった構えをしていました。

「そこです。MMAの打撃はボクシングでも、キックボクシングでなくても良い。そして、ここで注目すべきは手の位置と動きです。私が40年間空手の修行を行ってきて、何度かだけ目にした現象があります。それは調子が良いと両手がよく動くことというです。ただし、良く動かしていた人間がまたできるかというと、そうではないです。

『もう一度見せて欲しい』と稽古の時に頼んでも、全く手が止まってまるで違う動きをします。だから、異様に調子が良いときに無意識でそうなっているのか……。正直にいえば、それが絶対だと結論づけることはできないです。ただし、両手が動いている時は体が良く動く。体が反応できると思います。この両手の動きのことを空手では夫婦手といいますが、夫婦手を使って両手を動かすことが捌きという動作になります。

捌きとは相手の蹴りを受け流すことをイメージされると思いますが……決してそうではなく、本来の裁きとは相手の攻撃を掻い潜って攻撃すること。その時点で先を取れています。例えば……そうですね、カーテンなど垂れ幕のようなモノがあって、それを掻い潜って……捌いて前に出ると、先が取れています。捌きというと、相手の動きを捌く防御のように捉えがちですが、あの手の動きは既に攻撃態勢に入っています」

──モレノの動きが、捌きになっていたと……。これは浪漫ですね。

「なぜ、彼があの動きをするようになっているのか。本当に分からないです。どういう風にあそこに行き着いたのか。ただし、カイ・カラフランスとの違いは明白でした。カラフランスのパンチは、ボクシングです。蹴りがある競技でボクシングに特化した動きで対応すると、危険極まりないということがこのところ連続して見られています。

ボクシングの避け方は、蹴りがあると危なくなる。蹴りがあることで、頭を振るという動作はとてもリスキーになります。頭を振った方向から蹴りが飛んでくると、大変なダメージを受けますからね」

──左の突きから左ハイでKO負けしたカマル・ウスマン。右ストレート直後の右ハイで倒された佐藤天選手が、結果論としてそういうKO負けになりました。蹴りのある競技の練習をしていてなお。

「ハイ。対してモレノの構えと動きはボクシングではなく、かといってレスリングでもないのにレスリングに対応できています。両手、両足が四つ足動物のように、自然に機能していている」

──それは中段突きと中段の外受けの移動稽古で、後ろに下がるときに多く腕を動かすと、しっかりと下がることができる。それと同じ現象ということでしょうか。

「ハイ。手から動くという理屈、原理として同じです。両手を動かすことで結果的に全身が連動した動きとなります。自分の体も両手が動いていると機能しますし、相手からすると腕の動きで一つ幕が張られて見えない状態になります。ボクシングは幕がなく、顔があって拳を出す競技です。結果、幕がある分モレノは有利な距離を創ることができていました。

手を自由に動かした軌道のなかで、パンチが出ているのでボクシング的に言えば下手くそかもしれないですが、MMAグローブで戦う競技としては全く問題なく、パンチのヒット数も多かったです。フィニッシュの左ミドルも、三角蹴りでしたね。中足を効かせた。それでダウンを奪ってからのパウンドアウトでした。

本来はMMAとして、こうあるべきなのかもしれないですが、現実問題としてMMAはボクシング、キックボクシング、レスリングと足し算の発想で28年間進化してきました。モレノは足し算では生まれない動きをしたかと思います。

最後の三角蹴り……左ミドルを中足で蹴ったので、三日月ではなく三角蹴りでした。あの左の三角蹴りも左の突きから入っていましたね。左の突きで後ろ足を送って、左の蹴りを出している。これは対角線ではなくて、空手のコンビネーションです。面白いモノで、この状態だと頭を振っても構わないんです。手を振って頭を振るというのは。

頭だけ振って、上体が動くと体と頭が繋がっていなくて危険です。ただ手から動いて、体が機能して上体が動く。その結果として頭が動いていると、体と頭が繋がっているので攻撃を食らっても、耐えることができます。何よりもこの動きはヘッドスリップ的な防御にもなりますし、攻撃手段としての右か左が分からないフェイクにもなっています。非常に興味深い動きでした」

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Bu et Sports de combat MMA MMAPLANET o ONE UFC   ダニエル・ウィリアムス ツオロンチャアシー ボクシング 剛毅會 岩﨑達也 武術空手

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。ダニエル・ウィリアムス✖ツオロンチャアシー

【写真】劣勢のツオロンチャアシがボクシングの距離で戦い続け、質量の高いウィリアムスが勝利するのは必然だった (C)ONE

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たダニエル・ウィリアムス✖ツオロンチャアシー戦とは?!


──ダニエル・ウィリアムス✖ツオロンチャアシー、ロッタンとムエタイで勝負ができるウィリアムスのMMAの打撃とはいかなるモノなのか。そこが知りたいです。

「間合いが完全にボクシングでした。組む気はゼロ。そうなるとボクシングになる。MMAなのに他のことを考えていないのか、疑問に思いました。テイクダウンもないし、そうなるとひたすらボクシングになる」

――それで勝っているウィリアムスは、あれで良かったかと思います。でも、負けているツオロンチャアシーはなぜ他のことをしないのか、と。

「できないからじゃないですかね。なぜ、〇〇しないのか。この〇〇がMMAで許された技なのに『向いていないので』、『できないんです』、『僕、やらないんです』ということ多くないですか。対戦相手が決まって1カ月後、2カ月後というなかで、そこをできるようになるのは無理な話ですが、MMAを戦うのだから、なぜ常にそこを試合で使えるようにならないのか。

『僕、寝技ができないんです』っておかしな話でしょう。MMAは寝技があるのに、なら寝技になったら負けるのかって。でも、それを意外と不思議に思わないで、『あぁ、そうなんだ』で終わらせてしまっている選手、かなりいるように感じます。

この試合における打撃に関していえば、両者は似ているタイプです。似ているなら質量が高い方が勝ちます。

最後の右は先の先でした。ウィリアムスは先の先が取れているから、ツオロンチャアシーは完全に反応できないでやられてしまいました。カウンターを取る間もなかった」

――つまりツオロンチャアシーに出す間を与えなかったと。

「そうです。出そうとして打たれるのは、大概は後の先です。どうしようかと思案しているときに食らうのは、先の先です。つまりツオロンチャアシーは居着いていたんです。ただし、そこも先ほど言ったようにタイプが同じで、質量が上の方が勝った。それだけの話です。

だからこそツオロンチャアシーもMMAファイターなら、できないことをやるべきだということで。それはどの選手にも当てはまります。MMAなんだから。打撃で勝てないなら、組んでいきなさいよということなんです。

ボクシングを戦っているわけじゃない。そのボクシングだって、ファイター同士で相手の方が強かった場合に、アウトボックスが必要になる。だからアウトボックスの練習をやらないとダメで。

だからといってツオロンチャアシーは、打撃の真っ向勝負で相手に勝つというだけの意思もなかったです。できないことをできるようにする。これほど真っ当なことはないです。できないことをできるようになりましょう。そうでないと勝てないよ。この言葉があまり聞かれないのは不思議です。

勝てない部分があって、そこで勝負するしかないなら、勝てない。勝ちようがないです。なら負けないでいよう。負けないようにしていると、巻き返すチャンスが回ってくるかもしれない。それなのに勝てない試合を勝つとところから戦術を練っても勝てないですよ。つまり負けます。勝てないんだから。

それを口にできる環境の有無ですね。負けた、また頑張ろう。そうじゃないだろ、またなんてないかもしれないんだよ。だから、それを言える人間関係を指導者と選手が築けていないと難しいかと思います」

――それをすると人は離れる。そういうことにもなります。

「でも、事実は本人のために伝えないと。それが本人のためで。どれだけ厳しくても。で、それを言われて、その指導者から離れる。まぁ離れるのは良いけど、同じことをどこに行っても繰り返すことになるでしょう。そうやって何も改善されないまま、試合を続けているということです。

ツオロンチャアシーはウィリアムスと戦うのに、どこまでシビアに考えているのか。そのシビアさはなかったです。試合のオファーが来たから戦う。そうやって試合に出ている選手、多くないですか? やるのと勝つのは違います。どれだけ真剣に勝とうとして、試合を受けているのか。オファーがあるから戦います――じゃ勝てない。

UFCの凄いところは、負けられないっていう選手ばかりなところです。それは相手に勝ちたいというよりもUFCに残りたい。UFCで戦い続けたいという情念です。その感情をむき出しにして戦っています。そこですね、この試合のツオロンチャアシーと同じ選手が日本も多いと思います。技を見れば分かります。技というモノは、日々の努力が出ますからね」

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Bu et Sports de combat MMA MMAPLANET o UFC キック ジェイミー・マラーキー ブログ マイケル・ジョンソン 剛毅會 岩﨑達也 武術空手

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。マラーキー✖ジョンソン「呼吸に合った戦い」

【写真】マラーキーは前に出て、ハイを蹴っていったが…… (C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たジェイミー・マラーキー✖マイケル・ジョンソン戦とは?!


──ジェイミー・マラーキー✖マイケル・ジョンソンの1戦、サウスポーで相手の中心を取るのに長けたジョンソンに対し、ヘッドスリップやウェービングを多用していました。

「まずサウスポーのマイケル・ジョンソンが左に回っている点に注目したいです。この回り方をすると、逆だと怒られることが多いですよね。サウスポーの選手が、オーソの選手を相手にすると右に回って……左を当てるために外を取る。

その方が当たりやすいからもしれないです。ただし、相手の構えを念頭に置いている時点で、武術的には相手の間になってしまいます。相手を軸にした戦い方ですね。そして、どの状況でも右回りが得策なのかなどは考えが及ばず、そういう思考になることがあるのではないかと思います。

外を取る……結果、何を取っているのかということです。その場所を取ることが大切なのか。右ストレートをかわして、左を当てたい。そのために右に避けても、それは相手の右ストレートの間です。だから右に回るのか、左に回るのかではなくて相手のエネルギーが高い状態では、どちらに動いても危ないです。

私が素手、相手が石ころを掴んでいたら──右に回ろうが、左に回ろうが危ない。だから攻撃されないために動くというのであれば、右でも左でもなく、相手の質量が下がる状態にしなければいけないということです。それは相手が石ロコを持つなら、こっちはそれ以上の石ころを持つ状態にするのです」

──それが武術だと。そして、武術と関係ないであろうジョンソンは左に回っていたということですね。

「ワンツーからスリーまで、ダメだと言われる方に回って当てています。相手が来るのに、その場で養成した力をぶつけていますね。その攻撃でダウンも取りました。一方で、マラーキーの方がリーチがあるのに、近づけないと攻撃できていなかったです」

──それでもジョンソンが打撃戦で圧されてしまったのは?

「ジョンソンは防御がボクシング対応でした。あの構えではパンチを防げても、蹴りが入ります。ハイキックを食らって危ない場面があっても、ハイキック対応の防御でなくパンチに反応し続けていました。あの戦い方では少し以前、ボクシングとレスリングが合体したMMAの時代なら勝ち続けることができたかもしれない。

ただし、MMAは今では蹴りが増えています。そこに対応しないまま戦っていました。逆にマラーキーは蹴りが良かった。蹴りの選手で、首相撲も使っていました」

──……。しかし、その蹴りの選手であるマラーキーが……。ウェービングやヘッドスリップというボクシングの動きを見せていました。

「近づくためにです。マラーキーはあと数センチ後ろから蹴っていると、KOできていたかもしれないのに。ハイキックの距離が近すぎました。それでもボクシング対応のジョンソンには、その蹴りがほぼほぼ入っていたということになります。つまりマラーキーは彼の本来のリーチとパワーが生きた戦い方ではなかったです。自分の体格と言いますか、呼吸にあった戦い方を身につけないと、リーチだとか体を生かした戦いができなくなります。

良く似たケースが、世界中にあると思います。先日、とある日本を代表する柔術家のガールフレンドさんと会って話す機会がありました。オランダ人女性で、やはり骨格は日本の女子選手と違います。その体格はいわばダッチキックボクシングができる体なんです。ただし、ちょっと打ってもらうとそうじゃない。それはあくまでも日本人のキックボクシングになっていました。

オランダ人と日本人では呼吸が違います。その呼吸に合わせた打撃が存在しています。だから彼女には彼女の呼吸にあった打撃を稽古してほしいです」

──今MMAは接近戦が増えて、接近戦を制した選手が勝つという空気感もあります。

「あれだけ近くで打撃戦が増えると、テイクダウンを狙うという選択肢から除外されつつあるようにも感じました。まあ前に出て、自分のパンチや蹴りが効果的なら出るべきです。ただし大切なことは前に出ることではなくて、どこにいれば効果的な攻撃を出すことができるのかを知ることかと思います。

もう四半世紀以上も昔の話ですが、ソ連では地下でフルコンタクト空手の稽古が行われていました。西側はヨーロッパの技術が伝えられ、東側は日本の練習が伝承されていました。結果、ロシアになってからも東側の選手の方が戦いやすかったです。それはロシア、スラブ系の人たちに日本人の呼吸の空手を指導した結果だと思います。東の方は英国の影響が大きい空手をしていました。つまり欧州の呼吸だったんです。

最後はパワーでやられるということはありましたが、欧州で名前を挙げた選手が日本での稽古が増えると、組みし易くなるということが往々にしてありました。やはり民族、人種として体の特徴、感性と言うモノが存在しており。武器を使わない格闘技、武術はその特徴、感性……つまり呼吸を大切にした方が良いというのが私の考えです。

マラーキーはあれだけ足が上がるのに、なぜウェービングやヘッドスリップを使って距離を詰めて、窮屈な態勢で蹴りを使っていたのか。それは、そういう練習をしてきたからなので。

いずれにせよ、初回はジョンソン、2Rはマラーキー、最後はマラーキーだったという試合でしたが、の両者揃って最後の5分は自分が勝っているというような心境で戦っていたように見えました。ホントは、ここを取らないと負けるという状況であったのに。

つまりは普段の練習ですよね。そりゃあUFCで戦う選手だから、普段から凄くハードな練習をしているでしょう。だからこそ、相手も皆同じだけやっているんだという自覚を持ち、そこで勝つためには何が必要かを見つめる必要は全選手が持っていると思います」

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