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【ONE169】2度目のMMAへ。ケイド・ルオトロ「次にやってくる波は、失われた柔術の技だよ。それが……」

【写真】緊張しているようには、感じられたなかったケイド。インタビューでは、それを見せないだけかもしれないが──とにかく興味深い話が聞かれた(C)ONE

9 日(土・現地時間)、タイはバンコクのルンピニー・スタジアムで開催されるONE169でケイト・ルオトロが2度目のMMAに挑む。
Text by Manabu Takashima

アフメド・ムジタバと相対するケイドは、8月にCJIを制し100万ドルを獲得。ADCC2022の優勝に続き、この惑星で一番のグラップラーであることを示した。グラップラーが競技で食っていける時代を突き進むケイドが、1億5000万円を獲得した3カ月後にMMAを戦う理由とは。

そして意外な師弟関係にあるエリック・パーソンについて尋ねた。


僕は頭のネジが外れてしまっている

──今週末、アフメド・ムジタバと2度目のMMAを戦います。今の気持ちを教えてください。

「凄くワクワクしているけど、少し緊張しているかな」

──ナーバスになっているというのは?

「いつだって試合前は、ある程度はナーバスになるものだよ。そしてMMAだから、柔術の時よりも緊張の度合いは強い。それでも、楽しみな気持ちの方が大きいけどね」

──もちろん今はムジタバ戦に集中しないといけないのですが、CJI優勝を振り返ってもらえないでしょうか。前回のADCCに続き、CJIの優勝はケイドが改めて世界一のグラップラーであることが証明されました。

「本当に特別な時だったよ。ADCC2022から今年のCJIまで、自分をさらに高めてきた。ただ、これまでのトーナメントで優勝した時のような清々しい気持ちにはなれなかったのも事実だ」

──えっ?

「ONEではタイもベルトを持っている。WNOもそうだ。2人でベルトを巻いた。CJIではタイは不運にもヒザの負傷に見舞われて、決勝まで一緒に進むことがならなかった。確かに100万ドルを手にできたことは、凄いよ。本当に素晴らしいトーナメントだったしね。そこで最高の選手たちに勝つことができた。アメージングな経験になったよ。ただ、タイと優勝をシェアしたかった……」

──ADCCとは違い、同じ階級に出場をしました。決勝に両者が揃って進んでいれば、最後の1試合は行われなかったわけですね。

「そうだね。ファイナルはタイとシェアするつもりだったよ。ただ、タイが2回戦で負ったヒザのケガは酷くて、次の試合に進めなかった。最悪だよ。技術的にタイは僕と比べても……いや、この階級の誰よりも優れているんだ。でも、それが競技の怖いところで、最高の選手が色々なことが要因となって、勝ち上がれるわけじゃない」

──タイの負傷は残念でした。と同時にCJIではアンドリュー・タケットとの準決勝戦、リーヴァイ・ジョーンズレアリー決勝戦など、ケイドや若い選手がグラップリングを観賞用スポーツに昇華させたともいえます。

「そうだね。CJIのルールが、大きく後押ししてくれた。そして、参加選手の多くがただ柔術を戦うだけでなく、エキサイティングな攻防を仕掛けることの大切さを理解していた。退屈な柔術の試合をしていても、生きていくにはアカデミーを開いて指導をしないといけない。

でも柔術を戦って生きていくには、エキサイティングな試合をすることは欠かせない。皆、そういう試合を楽しみにしているのだから。アンドリュー・タケット、そして僕も相当にエキサイティングなファイターだ。その2人が戦ったのだから、試合はああいう風になるよ(笑)」

──CJIはグラップラーが競技生活で、生きていける道筋を創りました。そして100万ドルを手にしたケイドが、3カ月もしないうちにMMAを戦うというのは?

「MMAを戦う理由……、それはCJIが生まれる前からMMAを戦うことを決めていたからだよ。ただし、CJIは本当にタフなトーナメントで体を酷使し過ぎてしまった。ケガも多くて、9月のデンバー大会には出場できなかった。体調はかなり戻せたけど、部分的にはヘルシーでない箇所もある。今週末のファイトが、今年最後の試合になる。タイと一緒に体の回復に努めて、来年はもっと強くなって戻って来るつもりだよ」

──ケイドやタイのグラップリング戦を見るのが楽しみなのは、100パーセントのリアルファイトでシリアスな戦いにあっても、2人も楽しく戦っているように映るからです。その一方で殴りに来る相手と戦うMMAで、ケイドは楽しむという気持ちがあるのでしょうか。

「MMAと柔術は違うね(笑)。正直、それでも楽しもうと思っているよ。その恐怖を楽しむような感覚があるんだ。サーフィンで、とてつもないビッグウェイブに挑む時のようにね。そして、海に投げ出されるとサメが回りにいる。そういう危険な状況を欲している自分がいるんだよ」

──命綱なしにクライミングに挑むようなモノですか。

「それっ!! その通りだよ。MMAって、僕にとってそれに等しいんだ。相手は僕を失神させようと殴って来るんだけど、僕は頭のネジが外れてしまっているのか……そこをエンジョイしているんだ」

──そんなMMAを戦う時に、コーナーにエリック・パーソンの姿が見られました。UFCの前から日本で、30年以上前に戦っていたエリックはいわばオールドスクール・ガイです。もちろん今のMMAに適応していますが、彼の指導をケイドが受けているのが凄く不思議で興味深いです。

左にエリック。右にタイ。6月のMMA初戦のケイド陣営(C)ONE

「エリックは日本に30回以上行っていると言っているし、そうか……顔見知りなんだね。

凄いや、それって!! 僕がエリックに初めて会ったのは、5年ぐらい前かな。まだガキの頃だよ。当時の僕にとって、プロフェッサー・アンドレ・ガルバォンこそが最高であり、唯一絶対的な指導者だった。

でもエリックって、別モノなんだよ。彼は柔術も学んでいるけど、それこそ柔術が失ってしまったモノを持ち続けている。シュートレスリング、キャッチレスリングには僕らが目にしなかった技術が存在していた。

技術の変遷って、サークルじゃないか。ADCCでもレスリングが全盛で誰もがレスリングに懸命になっている時期があった。その前はレッグロックの時代だ。皆がレッグロッグを学ぶ必要があった。で、僕が想うには次にやってくる波は、失われた柔術の技術だ。それがエリック・パーソンのシュートレスリング、キャッチレスリングに残っている技術なんだよ」

──もの凄く興味深いですね。

「レッグロックを見てみようよ。昔のテクニックだ。ダーティーだと忌み嫌われて、誰もが忘れていた。でも、今では絶対に欠かせない技術になっている。20年の年月を経て、エディ・カミングスがレッグロックを極めまくり、その重要性を皆が再確認した。

エリック・パーソンが見せてくれたテクニックは、僕が見たことがないものだった。殺しの術というのか、もの凄く興味深いモノだったんだ。加えてエリック・パーソンはMMAの経験も豊富でパンチ、キックも含めて知識の宝庫といえる。何もかも知り抜いているよ。

なによりも人として最高なんだよ。本当のナイスガイで、このスポーツで出会ったことがない人間性の持ち主だ。そんなエリックだから、彼の教えを受けることを決めたんだよ」

エリックは聖水で僕の体を清めてくれ、十字を切り、オイルを焚いて……

──いやぁ、ケイドがそんな風にエリックのことを話してくれると、こっちまで嬉しくなってしまいますね。

「エリックって、一度見たことを写真に収めるように忘れることがないんだよ。本当に凄まじい知識量を誇っている。100万にも及ぶ技術を、シェアしてくれるんだ。彼のMMAの技術、知識、そして重ねて言うけど素晴らしい人間性が僕を助けてくれる。

実はあまり言ってこなかったけどMMAデビュー戦の前夜、僕はものすごく体調が悪化していたんだ。凄く寒気がして、血を吐きだすぐらいで」

──えぇ、そうだったのですか!!

「寒くて寒くて。父もどうして良いか分からなくて。咳が酷くて、息苦しくもあった。でも真夜中にエリックが部屋に来てくれた。エリックは聖水で僕の体を清めてくれ、十字を切り、オイルを焚いてマッサージを1時間もしてくれた。すると体の毒素が洗い出されたみたいになって、もう別人かのように回復したんだ。マーシャルアーチストだけでなく、彼はヒーラー(宇宙や生命のエネルギーを活用して、人々を癒す人物)なんだ」

──その話、皆が訝しく思うかもしれないですが……。今日は時間がなくて、私の話をすることはできないのですが、実はカリフォルニアで体調不良に陥った自分は、エリックに同じ癒されたことがあります。いやか、いつの日かケイドとエリックの対談をさせて欲しいです。

「おお、そうなんだ!! 絶対、その取材をやろうよ!!」

──ハイ。ただ今日は試合前のメディアデーで、時間も限りがあります。なので……2度目のMMAファイトでケイドは、何を見せたいのか話してもらえますか(笑)。

「まずベストを尽くすこと。キックもパンチも使うよ。そして、最後は僕のルーツ……柔術を駆使してフィニッシュする。対戦相手はレスラーで、柔術も茶帯か紫帯で危険な相手だ。KO勝ちもできるしね。テイクダウンの距離もグラップリングとMMAでは違ってくる。でも、僕だって打撃とグラップリングの融合を目指して練習してきた。しっかりと、仕留めるよ」

──さきほど、年内は今回の試合が最後になると言っていました。では2025年はどのような目標を持っているのでしょうか。

「来年はよりMMAに集中して、戦績を積み重ねていきたい。ただ柔術家としても、ONEのベルトを保持続ける。そしてADCCやCJIのような機会があれば、頂点を目指すつもりだ。それでもMMAで戦績を増やすことに、より集中したいと思っている」

■ONE169 視聴方法(予定)
11月9日(土・日本時間)
午前9時45分~U-NEXT

■ONE169 対戦カード

<ONE世界ヘビー級選手権試合/5分5R>
[王者] アナトリ―・マリキン(ロシア)
[挑戦者] ウマウ・ケニ・ログログ(セネガル)

<ONEムエタイ世界フライ級選手権試合/3分5R>
[王者] ロッタン・シットムアンノン(タイ)
[挑戦者] ジェイコブ・スミス(英国)

<ONEキックボクシング女子世界ストロー級選手権試合/3分5R>
[王者] ジャッキー・ブンタン(米国)
[挑戦者] アニッサ・メクセン(フランス)

<フライ級((※61.2キロ)/5分3R>
アドリアーノ・モライシュ(ブラジル)
ダニー・キンガド(フィリピン)

<ムエタイ・フライ級/3分3R>
ゴントーラニー・ソー・ソンマイ(タイ)
タギール・カリロフ(ロシア)

<ライト級(※77.1キロ)/5分3R>
ケイド・ルオトロ(米国)
アフメド・ムジタバ(パキスタン)

<キック・ストロー級/3分3R>
サムエー・ガイヤーンハーダオ(タイ)
ジャン・ペイメン(中国)

<ヘビー級/5分3R>
マーカス・ブシェシャ・アルメイダ(ブラジル)
アミール・アリアックバリ(イラン)

<ムエタイ・フェザー級/3分3R>
エディ・アバソロ(米国)
モハメド・ユネス・ラバー(アルジェリア)

<女子アトム級(※52.2キロ)/5分3R>
三浦彩佳(日本)
マカレナ・アラゴン(アルゼンチン)

<ムエタイ・ストロー級/3分3R>
アリーフ・ソー・デチャパン(マレーシア)
ヴァウテル・ゴンサウベス(ブラジル)

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45 AB Breakthrough Combat01 CJI MMA MMAPLANET o Progress RIZIN YouTube オトゴンバートル・ボルドバートル シンバートル・バットエルデネ チャンネル チョ・ジュンゴン ビクター・コレスニック 中原由貴 中川晧貴 久保健太 吉野光 林源平 森戸新士 泉武志 長谷川賢 風我

【Breaktrough Combat01】中川晧貴とMMAファイター同士のProgress。中原由貴「冒険しようかと」

【写真】MMAファイター✖グラップラーとは違う、グラップリング=打撃のないMMAとなるか (C) MMAPLANET

本日30日(水)、会場非公開で開催される配信イベント=Breakthrough Combat01。同大会はMMAが3試合、Progress=グラップリングマッチが3試合組まれている。そのProgress戦にはグラップラーが2名、MMAファイターが4選手出場しており中原由貴が中川晧貴と相対する。
Text by Manabu Takashima

ビクター・コレスニック戦の敗北以来、半年ぶりの実戦がMMAファイター同士、72キロ契約のグラップリング戦となった中原を計量直後にインタビューした。


――中原由貴選手が長谷川賢率いるBreakthrough Combat旗揚げ戦に出場し、中川晧貴選手とProgressルールで戦う。意外なことのオンパレードです。

「意外ですよね(笑)。でも僕はノーギが好きでチェックしていたんです。ヘンゾ・グレイシーのところに行って、ああいう人達と触れ合ったりして。グラップリングも好きなんですよ。

CJIやADCCもチェックしていましたし、実はこの間のQuintet(19日開催)のチームRIZINのメンバーで戦う予定だったのが、いつの間にかメンバーから外れていました(笑)」

──アハハハハ。そして、今大会出場が決まったと。

「最初はもうカードが揃ってしまって難しいかと聞いていたのですが、新たにオファーがあって良かったです」

──Progressルールはケージのなかで、ポイント制のあるグラップリングです。

「フォークスタイルレスリングも昔はチェックしていて、グラウンドではボディクラッチができないルールの練習もチラッとしていたことがあるんです。かつ、そこにサブミッションが許されているので、打撃の練習を減らして触れる練習……組みの練習を増やしてきたので、楽しみですね。

MMAでは交われない選手と実戦で戦えることができますし、Progressのコンセプトを聞くと、純粋なグラップリングというよりはMMA寄りですよね。やっぱり取りに行くときに、簡単に下になるのではない。MMAに生きるように考えて戦えます。それにポイント制なので、余裕ができればチョット引き出しを開けて冒険することもできますよね」

──ではMMAファイターでもある対戦相手の中川選手ですが、どのような印象を持っていますか。

「打撃がないので殺伐とはしないとはいえ食って掛かってこられるかと思っていたので……そうでもないのかと」

──それは中川選手の性格によるところかと思います(笑)。

「でも食ってやるというのは絶対にあると思っていたので(笑)。僕も僕で、ルールが違うとのびのびとやりたい──というのはおかしいですけど、トライしたいという気持ちですね。

このルールはスクランブル重視だし、視てくれる人が面白い試合ができれば良いですね。練習ではなく、勝敗がかかったなかでどれだけリスクを取れるのか。そこが実戦だからこそ、という部分で。やっぱりポイント制はミソです。リードしてしまえば、一本さえ取られなきゃリスクを冒すことができます。

打撃があるとリードをしていても、ワンミスで全てが変わってしまいます。でも、グラップリングでポイント制なら自分なりに戦い方も考えることがありますね。

この1年はケージ際で寝かせ切ることにメチャクチャ取り組んできました。そこをMMAを戦う前に、実戦で相手がシリアスに動いて来るところで試せる。それは凄く楽しみにしています」

──中川選手はMMAでも倒してバックを取るというスタイルを貫いている選手です。

「そこは……普段からMMAの組みでやってきて、スクランブルもしてきたので僕も自信があるところです」

──MMAに生きるグラップリングで、それが次の試合が組まれるアピールに少しでもなればと思います。

「ハイ」

──なかなかMMAの試合は組まれないですか。

「かすりもしないですね。アハハハ。でも、それは覚悟の上で。MMAはRIZINでやると決めているので、こういう機会も大切にしたいと思っています」

──RIZINは超RIZINや大晦日大会、数字系重視のビッグショーと地方のLANDMARKがあり、そこにナンバーシリーズということで……。いうと中原選手タイプの選手が、なかなか試合が巡ってこないというのはありますね。

「現状、自分だけでないですしね。どうしてもイベント数も関係してきますしね」

──そこに中央アジア、コーカサスの脅威が加わりました。

「どえらいことになっていますね(笑)。今回もそうだし、練習を続けてグラップリング、サブオンリーも含めて来年は出ていこうかなと(笑)。MMAがなくても、実戦経験は必要です。明日のProgressでも、ちょっとはアピールしようかと思います」

■視聴方法(予定)
10月30日(水)午後6時30分~
ザ・ワンTV YouTubeチャンネル

■Breakthrough Combat01計量結果

<バンタム級/5分3R>
吉野光:61.5キロ
シンバートル・バットエルデネ:61.5キロ

<Progress暫定ウェルター級選手権試合/5分3R>
[王者]森戸新士:76.45キロ
[挑戦者]泉武志:──キロ※当日計量

<58キロ契約/5分3R>
風我:57.85キロ
オトゴンバートル・ボルドバートル:57.9キロ

<Progress72キロ契約/5分2R>
中原由貴:71.85キロ
中川晧貴:71.85キロ

<フライ級/5分3R>
久保健太:56.85キロ
チョ・ジュンゴン:56.4キロ

<Progressミドル級/5分2R>
有松息吹:82.4キロ
林源平:84.1キロ

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45 AB CJI MMA MMAPLANET o ONE Shooto ブログ 竹内稔 米倉大貴

【ADCC WORLDS OPEN】オール一本で65キロ級制した米倉、次なる目標=「本戦出場」を前に控える大舞台

【写真】ADCC Worlds Open 65キロ級優勝の米倉。渡豪前も大阪、岡山、神戸でセミナーや特別クラスを精力的にこなし、CJIのTシャツ姿でインタビューに応じてくれた (C)SATOSHI NARITA

22日(日)東京都文京区の後楽園ホールで開催されるShooto2024#07にて、山上幹臣がストロー級で黒部和沙と対戦する。
text by Satoshi Narita

ADCC世界大会が行われる前々日の8月15日(木・現地時間)には、世界大会と同じラスベガスのT-モバイルアリーナを会場に、ADCC USAが主催するWorlds Open(ワールズオープン)が開催された。
確認できた限り日本からは5名が参戦。アドバンスド-65キロ級には米倉大貴、竹内稔、比家秀晃が名を連ね、共に一本勝利を重ねた米倉と竹内が決勝で相まみえ、米倉が一本勝ちし金メダルを獲得。昨年11月のアジア&オセアニアトライアル準決勝で竹内にアナコンダチョークで一本負けを喫していたが、今回の勝利で借りを返した。

1200人が参戦し、12面で進行された本大会は、世界大会と同時期開催で注目度も高く、世界各地で毎週のように実施されているオープン大会の中で最難関のトーナメントだろう。この大会に照準を合わせて1カ月間、テキサス州オースティンのB-TEAMで強化合宿を行い、満を持して頂点に挑んだ米倉に、大会のこと、今後のことを訊いた。


──これから豪州に行くそうですね。

「11日から30日までメルボルンとパースに行きます。で、30日から10月6日までインドネシアのバリ島で、僕をスポンサーしてくれているAL LEONEのキャンプに参加します」

──15日には広島でADCC広島オープンが開催されます。米倉選手もエントリーされていましたが?

「キャンセルします。ワールドオープンの結果次第で出ようかなと思っていたんですけど、優勝できたので、豪州のプロマッチに集中しようと。豪州に行く目的は、練習だけじゃないんです。細かく言うと、26日までラクラン(・ジャイルス)のAbsolute MMAで練習して、それからパースに移動して28日に試合です。『BATTLEGROUND』というイベントのコメインでグラップリングの試合が組まれていて。相手は豪州に住んでいるブラジル人で、それなりに結果を出しています。トライアルにはまだ出てないけど、シドニーオープンは5戦5勝、全部一本勝ちですね。スタイル的にはルオトロっぽくてよく動く、野性的です」

──試合はいつ頃から決まっていたのですか。

「ラスベガスに行く前からです。去年のAIGAに出てから世界で試合に出られる機会が増えて、ようやく海外のプロマッチに呼んでもらえるようになりました」

──ラスベガスのワールズオープンは4試合すべて一本勝ちで優勝、どの試合もほぼ秒殺という圧巻の試合内容でした。

「それ(秒殺)は狙っていました。トライアルの経験もあったから、トーナメントで長丁場に持っていきたくなかったんですよね。やっぱり1、2回戦は、足関で早く極められるなら極めたい。レスの攻防だと3、4戦目で体力がなくなって、一本勝ちで勝ち上がってくるような相手に体力負けしてしまう。だから、なるべく足関節でガンガン攻めて取り切って、体力を温存した状態で準決勝、決勝に行くという戦略でした」

──1、2回戦は10th Planetの選手で、相手は相手で足関節に長けているのかとも思いましたが。

「そうですね。ただ、僕が長けている部分はパスと足関節なんです。そこで勝負しないと、この世界では勝てない。自信を持っている武器でどう戦うのか、足関の攻防で負けない練習をB-TEAMのキャンプでもやってきました。実際、組む中でわかることもあって、2回戦の選手は引き込んでわかったんですけどレスラータイプで、徹底的に足を触らせない。それなら足関で挑んでみようととことん追いかけて、ただ足関を狙うだけじゃなくて、嫌がって前かがみになったら腕を狙うとか、足だけにこだわらず常に圧をかけ続けることを意識しました」

──結果、1回戦は開始11秒でヒールフック、2回戦はフットロックで1分51秒一本勝ちでした。

「キャンプでテイラー・ピアマンという選手から学んだフットロックで、それで極められてうれしかったですね(笑)」

──準決勝の相手はプエルトリコの選手で、オール一本勝利で勝ち上がってきました。

「ちょろっと見ていたけどバックを取る技術が長けていましたね。ジョセフ(・チェン)に試合前に言われたんです。『相手は上を取ったら圧をかけて亀にさせてバックを狙ってくるから気をつけろ』と。でも、向こうも僕の試合を見ていたからか、引き込んできてくれたので、パスで勝負しようと。で、パスに意識が行くあまり足関の警戒が弱くなっていたので、加点時間帯でもないし、僕から下になって足を狙いました」

──開始13秒でヒールフックで勝利。

そして竹内稔選手との決勝は、2分42秒、RNCで勝利でした。

「周りにすごい言われていたんですよね。『ダースのエスケープを練習したほうがいい』とか『稔さんのほうが強いから』って……。

僕の中の言い訳としては、トライアルで稔さんに負けたのはトライアルの体力配分を知らなかったから。3回戦でカザフスタンのタフな選手と当たって疲れ切ってしまい、インターバルも短いところで稔さん(との準決勝)だったじゃないですか。

オーバータイムになったら負けると思ってガムシャラにいってしまって、そしたら頭を外に出されて形をつくられて、逃げる体力もなくやられてしまった。それが僕の中にずっとあって……。だから、技術以外の部分をどう調整していくかもキャンプの課題で、今回は体力が切れてもしっかり出し切る練習をしてきました」

──トーナメントを戦い切る準備は万全だった、と。キャンプの様子をSNSで拝見していましたが、キャンプ終盤は体力的にも精神的にもかなりキツそうでした。

「あれは食が合わなくて……(苦笑)。食べても食べても入っている気がしなくて、それで激しい練習じゃないですか。激しい練習をやる曜日は決まっていて、他の曜日は休みだったり、フロースパーとかミディアムスパーという軽めの練習なんですけど、強度が高い日はとことん高い。かといって休むわけにはいかない雰囲気があるんですよね。

どんなに疲れていても昼だけは行く。で、しっかりしごかれました。今回のキャンプはディマ(・ムロバンニ)コーチが主導で練習を進行してくれて、スパーのペアも同じ階級で合わせてくれてたんです。ジョセフなら(岩本)健汰やジェイロドで、僕は66キロに出場する選手と組んでいました。ヨーロッパトライアルで優勝したロシアのゲルベグ・イブラギモフ、オーウェン・ジョーンズ、シュウ(・フアチン)、イーサン(・クレリンステン)の中に入れてもらって」

──素晴らしく充実した環境ですね。

「毎日成長を実感していました。特にオーウェンとはよくペアを組んでもらっていたんですけど、止まることなく常に技をかけ合って、練習で初めて吐きましたよ(笑)。彼も苦しがっていたけど、僕はそれ以上でした。15分ノンストップのスパーをインターバルなしで続けて、多いときは25分ノンストップで。でも、その練習をしていたから、今回のオープンも絶対的自信をもって挑めました。これだけやってきて簡単に負けるわけはないと。会場にジョセフやオーウェンが来てくれて、こんな有能なセコンドが付いてくれるんだからという安心感もありましたし」

──仲間たちに勝利を祝われて、米倉選手が感極まっていたのも印象に残っています。ところで、CJIやADCCの本戦は会場で観戦しましたか。

「CJIはセコンドパスで入らせてもらって、ADCCは決勝だけ見に行きました。CJIはものすごい大きなイベントだったけど、自分の階級に近いものがないし、ADCCの66キロも適正ではないけれど、近い階級として、そこを目指したい、あの舞台に立ちたいと改めて思いましたね」

──とはいえ、目下の照準は月末のプロマッチということですね。

「あとは10月末のパンパシです。去年はノーギでダブルゴールドだったんですけど、今年も出たいと思っていて。柔術もタリソン(・ソアレス)が出るならもう一回やりたいです。前回は決勝で足を鳴らしたんですけど、それで勝ったと思って緩めてしまったら、タップもなくて続行になって……。あれを思い切り極めていたらという後悔があるし、柔術でもこれだけ通じるんだとも思ったので、またやれる機会があればいいなって」

──今もドーギを着た練習はしているのですか。

「ハイ、完全に止めたわけではないです。クラスもあるし、スパーもしています。それに、追々発表されると思いますが、パンパシが終わったら12月のAIGAのチーム戦に出場できるかもしれない。去年もこれで僕の人生がよくなっていきましたから、またチャンスをもらえたことは大きい。手放したくないですね。しかも、今回は60キロで適正体重なんです。前回は65キロで2勝1敗だったので、60キロでどこまで通用するか、どこまで自分が成長できているのかを確かめたいと思います」

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45 ADCC2024 CJI MMA MMAPLANET o YouTube   エライジャ・ドロシー クレイグ・ジョーンズ ジェイソン・ノルフ ホベルト・アブレウ リーヴァイ・ジョーンズレアリー ヴァグネウ・ホシャ

【ADCC2024】レポート─03─素晴らしき、G-World!! ミカがホシャを下しスーパーグランドスラム達成

【写真】(C)SATOSHI NARITA

8月17日(土・現地時間)と18日(日・同)の二日間にわたって、ラスベガスのT-モバイルアリーナにて、世界最高峰のグラップリングイベントであるADCC世界大会が行われた。今年は既報のように、破格の賞金100万ドルを掲げて日時と場所をあえて重ねて開催してきた対抗団体クレイグ・ジョーンズ・インビテーショナル(CJI)に多くの有力選手を奪われた形となった。レビュー第3回は、元チームメイト同士にして、22歳もの年齢差対決となった77キロ以下級の感動の決勝戦と、3位決定戦の模様をレポートしたい。
Text by Isamu Horiuchi

<77キロ以下級決勝/20分1R・延長10分>
ミカ・ガルバォン(ブラジル)
Def.19分05秒 by RNC
ヴァグネウ・ホシャ(ブラジル)

以前はマイアミのファイトスポーツにて一緒にトレーニングをしていた、親子並に年齢差のある二人。42歳のホシャが笑顔で両手を大きく広げると、20歳のミカも笑顔で歩み寄り両者はハグ。しばらくそのままの体勢で言葉をかけ合った両雄だった。

スタンドの探り合い。足を飛ばすミカ。ホシャが前にドライブすると、ミカはあまり抵抗をせずに倒れてクローズドガードを取った。

ハイガードを取るミカに対して、ホシャはその体を持ち上げ、ガードをこじ開けにかかる。ガードを解いたミカは下から足を絡めると、やがてホシャの左足を引き出して肩に抱える形を作る。が、ホシャは冷静に右足をミカの頭側に移動して足を引き抜いた。

その後も下から足を絡めるミカと、上からそれを捌くホシャという展開がしばらく続くが、6分過ぎにホシャが距離を取ったところでミカも立ち上がり、試合はスタンドでの探り合いに戻った。


7分近く。 ホシャが高めのダブルで前に出るとミカは瞬時に左でワキを差しながら支え釣り込み足。天才的な反応とタイミングで見事にホシャを舞わしてテイクダウンを奪い、サイドに付いたのだった。

さらにマウントを狙うミカだが、かろうじて左足に絡んだホシャは距離を作って立ち上がった。

その後はまたしても両者のスタンド戦となり、やがて10分が経過して試合は加点時間帯に突入した。

額をミカの額に擦り付けて押してゆくホシャは、左でワキを差す得意の姿勢を作る。さらに前に出ながらの小外刈りでミカを豪快に倒すホシャ。

が、ミカは倒された瞬間に右足でホシャの体を跳ね上げて立ち上がると、スクランブルを試みるホシャの背中に、まるで猫の如き俊敏さで飛びついてみせて、あっという間にフックを入れて3点を獲得してみせた。この動きもまた、尋常ならざるものがある。

さらにパームトゥパームで首を絞め上げにかかるミカ。ピンチと思われたホシャだが、後ろに倒れ込むと同時に体を捻って、チョークを振り解いて正対することに成功。

凄まじい攻防に大歓声が上がるなか、ミカのオープンガードの上になったホシャは、なんとも言えない味のある笑顔を作ったのだった。

ここから下のミカと上のホシャの攻防が続いた後、ミカが立って試合はスタンドに戻った。お互い何か言葉を掛け合い、時に笑顔を見せながらも厳しい組手争いを続ける両者。先程の攻防がリバーサルとして評価されたのか、ホシャにも点が入りポイントは3-2となっていた。

12分過ぎ、しきりに差しの体勢を狙うホシャが両ワキを差しにゆくと、ミカはすかさず外掛けでカウンターしテイクダウン。

動きを止めずに立とうとするホシャだが、ミカは再び素早く背中に飛びつきシングルフック。

が、ホシャは腰を上げてミカを前に落とすことに成功した。

上になったホシャは圧力をかけての侵攻を試みるが、ミカの強靭な足と上半身で作るシールドをフレームに阻まれる。やがて残り4分半の時点でミカが立ち上がった。

ここまで見事な攻撃で見せ場を作っているのはミカだが、点差はわずか1点と一瞬で逆転可能だ。どんどん前に出るホシャは左でワキを差すと、ミカが払い腰でのカウンターを狙う。しかしホシャの体は崩れず、すっぽ抜けてミカが下に。ミカはすぐさま立ち上がってみせた。

無尽蔵のエネルギーを誇るホシャはさらに前進を繰り返し、ミカの頭を両手で掴んでは下げさせにかかる。が、スタミナ十分のミカはそれを許さず、積極的にホシャの足に手を伸ばしてゆく。両者気力充実、一つのテイクダウンが勝敗を分けるスリリングな攻防が続いた。

残り2分。首を抱え合った状態から、おもむろに頭を下げて右手を伸ばしたミカは、内側からホシャの左カカトを掴んでピックしてバランスを崩したと思いきや、次の瞬間背中に回ってそのままフックを完成して6-2。凄まじい動きで決定的なポイントを奪うと、すぐさま深く左腕を食い込ませ、残り1分のところでホシャからタップを奪ってみせたのだった。

大歓声が上がるなか、体を起こしたホシャの肩に顔をうずめるミカ。

親子ほども年齢差のある両者は健闘を称え合った。

やがてホシャはミカの父にしてセコンドのメルキ・ガルバォンと抱き合い、ミカはホシャの盟友にして古巣ファイトスポーツの主であるサイボーグことホベルト・アブレウとハグ。さらにミカはガールフレンドであり、今年のパリ五輪女子フリースタイルレスリング68キロ級にて、米代表として金メダルを獲得したアミット・エロアとも抱き合ったのだった。

念願のADCC初制覇にして、2024年度スーパーグランドスラム(IBJJFユーロ、パン、ブラジレイロ、ムンジアル、ADCC全制覇)達成を果たしたミカは「すごく長い旅だったよ。僕の周りにいてくれた人たちなら、ここまで本当に何が起きたかを知っているんだ。ただこの大会に出られたということだけでも僕には大きな意味がある。2022年(のADCCでは、結果が準優勝で終わって)からADCCタイトルを取るためにずっとやってきた。このイベントに感謝したい。そして来てくれたみんなにもね。感謝したいのはまずダッドだ。僕はときには、あなたに相応しいような息子じゃないのは分かっている。でも約束するよ、これからベストを尽くして、あなたが育てようとしていたような息子になるから。(ガールフレンドのアミット・エロアに向けて)ベイブ、本当にありがとう。君はオリンピックで優勝したばかりで、時間をとってここにADCCを見にきてくれた。僕のハートの全ては君のものさ、僕は本当に恵まれているよ」とコメントを残した。

準決勝では思わぬ大苦戦を強いられた──判定に「救われた」とすら見えた──ミカだが、絶妙のタイミングとスピード、卓越した反応から繰り出されるテイクダウン、そして目にも止まらぬスピードと高い精度を兼ね備えたバックグラブは、組技を見る者に至上の喜びを提供してくれる。

選手の活躍する舞台が多様化するとともに、ときに自由な行き来が困難な場面も出てくるのが昨今のグラップリング界だ。それでもファンとしては、今回世界を獲ったミカと、CJIで輝いたルオトロ&タケット兄弟、リーヴァイ・ジョーンズレアリー、そしてタイと初戦で激闘を繰り広げた超エリートレスラーにして、後日グラップリング転向を表明したジェイソン・ノルフらの対戦の実現を心待ちにしたい。

また、強力なレスリングベースを持つ同士の3位決定戦となったPJ・バーチ対エライジャ・ドロシー戦では、ドロシーが自ら座って下からの勝負を挑んだ。一度腕ひしぎ腕固めでバーチの左腕を伸ばしかける等の見せ場を作ったドロシーだが、それを抜いたバーチは準決勝でミカからパスを奪いかけたのと同様の3点倒立の形を作ると、右ヒザをスライドしてパス。

さらにマウントを奪って見せたが、これは加点開始前。

やがて加点時間帯に入ると、ドロシーが立って勝負はスタンドレスリングに。ドロシーがシングルに入るが、それを切ったバーチが逆に深くシュートイン&ドライブする。

ドロシーは倒されながらアームインギロチンに入るが、バーチが首を抜き2点を先制した。

その後ドロシーの下からの仕掛けをしっかりワキを締め、また胸を密着させて防ぐバーチは、ドロシーが最後の望みを賭けて外ヒールを仕掛けてくるも、余裕の表情を見せる。

極めることに気を取られているドロシーの左足をクロスで捉えたバーチは、逆に一瞬で内ヒールで切り返して9分44秒、鮮やかな一本勝ちを収めた。

昨年はJTに殊勲の星を挙げるも4位に終わったバーチ。今年は準決勝でミカに限りなく勝利に近い判定負けを喫したものの、見事な3位入賞。 10thプラネット随一のレスリングベースを持つ男は、歴戦を重ねるなかで極め力と勝負勘、そして世界屈指と言っても過言ではないほどのパス技術を磨き上げ、34歳にして世界最強のグラップラーの一人へと成長した。

【リザルト・77キロ以下級】
優勝 ミカ・ガルバォン(ブラジル)
準優勝 ヴァグネウ・ホシャ(ブラジル)
3位 PJ・バーチ(米国)

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45 ADCC2024 CJI MMA MMAPLANET o YouTube エライジャ・ドロシー クレイグ・ジョーンズ ジェレミー・スキナー ジョナタス・ ジョナタス・グレイシー ダンテ・リオン ニッキー・ライアン ヴァグネウ・ホシャ

【ADCC2024】レポート─02─ステ投与を明言=ヴァグネウ・ホシャが優勝候補と新星下し、ファイナルへ

【写真】30代の時からステロイドの使用を公言。ADCCは検査なし、42歳の彼は6度目の出場で、5年ぶり二度目の決勝進出。これがホシャの人生(C)SATOSHI NARITA

17日(土・現地時間)と18日(日・同)の二日間にわたって、ラスベガスのT-モバイルアリーナにて、世界最高峰のグラップリングイベントであるADCC世界大会が行われた。今年は既報のように、破格の賞金100万ドルを掲げて日時と場所をあえて重ねて開催してきた対抗団体クレイグ・ジョーンズ・インビテーショナル(CJI)に多くの有力選手を奪われた形となった。レビュー2回目は、最注目77キロ以下級の後半ブロックの準決勝までの模様をレポートしたい。
Text by Isamu Horiuchi

前回大会3位。前回準優勝のミカ・ガルバォンや2017&2019年優勝のJTトレスに次ぐ優勝候補と言えるダンテ・リオンは、一回戦で新鋭エライジャ・ドロシーと対戦した。ロイド・アーヴィン門下にして強力なレスリングベースを持つドロシーは、今年の東海岸予選の覇者で同予選のファイナルではニッキー・ライアンを制圧している。

前半、ドロシーがダブルに入れば、リオンがギロチンで切り返し、また足関節を狙う白熱の攻防に。加点時間帯になるとリオンが座る。バタフライフックから座ってワキを差してボディロックを作り、そこから立ち上がってのテイクダウンを狙うリオンだが、ドロシーが堪えて両者は場外に。

再開後も差しからのテイクダウンを狙い続けるリオンだが、強靭な足腰を持つドロシーが、小手から内股で豪快に投げて上を取った。大きな流れの中で考えるともともと上のポジションにいたドロシーが上に戻ったという攻防だが、ブレイクを経て一旦両者がスタンドに戻ったと解釈されて、ドロシーに2点が入った。リオンとしては、改めてテイクダウンを狙うというよりスイープを継続していたつもりだっただろうから、痛恨の計算違いだ。

まさかのリードを許したリオンは再びバタフライ。そこから潜ってワキを差し、ドロシーの右足に二重絡みをかけて下から煽るが強靭なベースを誇るドロシーは崩れない。ダンテはさらに好転しながらドロシーの左足を肩で抱えて崩しにかかるが、ドロシーはここも足を抜く。その後もリオンはシッティングから崩し、チョイバーで左腕を伸ばしかける場面も作るが、ことごとくドロシーがディフェンス。結局ドロシーが2点のリードを守り切り、優勝候補を撃破する殊勲の星を挙げた。


勢いに乗るドロシーは続く準々決勝、JTトレスと対戦。ちなみにJTは以前(現在ドロシーが師事する)ロイド・アーヴィン門下だっただけに、その点でも因縁のある新旧対決だ。

レスリングに自信を持つ両者だけに、スタンド戦が続く。4分過ぎ、シュートインしたドロシーが組みつくと、JTが上から首を抱えにあかる。が、ドロシーは首の力でJTをリフトしながらボディロックを作り、そのままテイクダウンに成功。その後は下から足を絡めるJTと上からパスを狙うドロシーの攻防が続くが、加点時間開始前にドロシーが距離を取り、両者スタンドに戻った。

そして試合時間が5分を過ぎ加点時間帯になると、JTはすぐさまシュートイン。ここはドロシーがスプロウルしてみせた。逆にシュートインするドロシーがそのまま押してゆくと、JTは右でウィザーを作って対抗。そのまま内股で投げを狙うJTだが、ドロシーは崩れずJTの背中側に重心をかけてゆく。

ここでJTは方向を変え、仰向け方向に捨て身の形でドロシーを投げようとするが、ドロシーは機敏な反応でバランスを取り上をキープ。なんとか距離を作って立とうとするJTに重心を浴びせて押さえ続け、ついにハーフで固定。6分経過時点で2点を先取して見せた。

JTはハーフから仕掛けようとするが、ドロシーは動かず。残り3分のところで立ち上がったJTが前進するも、ドロシーはうまくいなし続ける。ならばとJTが両差しを作ってドロシーの体を掬い上げにかかると、差し返すドロシー。さらにJTは左ワキでドロシーの首を抱えようとするが、が、前半同様強靭な首の力を持つドロシーのバランスは崩せない。逆にここでドロシーがニータップから浴びせ倒し、再び上に。JTはギロチンのカウンターを狙うが、ドロシーに首を抜かれてしまいテイクダウンが成立。4-0とリードを広げた。

その後、上からパスのプレッシャーをかけ続けるドロシーに対し、JTが有効な攻撃を仕掛けないまま試合終了。若さに勝るドロシーが、JTの本領であるはずのスタンドレスリング&トップゲームで完勝。世代交代を印象付ける一戦となった。レスリングの優位性で勝利してきたJTだが、そのレスリングで勝てなくなってしまうと、ADCCルールにおいては厳しいようだ。

もう一つの山からは、42歳の大ベテランにしてやはり優勝候補のヴァグネウ・ホシャが気を吐いた。初戦ではジェレミー・スキナーからテイクダウンを取り、パスガードを決めた後に左腕を伸ばしかけ、最後にはバックも奪って6-0で完勝。

2回戦ではジョナタス・グレイシーと当たったホシャは、上からじっくりプレッシャーをかけて疲弊させ、延長戦で左でワキを指す得意の形から小内刈りを合わせてテイクダウンに成功。その後もジョナタスの口を手で塞ぐなど嫌がらせ攻撃も冴え渡り、自分より際も若い相手を疲労困憊させて完勝。自分より20歳若いエライジャ・ドロシーとの準決勝に駒を進めた。

<77キロ以下級準決勝/10分1R・延長5分>
ヴァグネウ・ホシャ(ブラジル)
Def. Referee’s decision
エライジャ・ドロシー(米国)

42歳✖22歳。実に20の年齢差のある両者はスタンドで首や腕を取り合い、そして頭を付けて、時に強くぶつけ合っての鍔迫り合いを展開する。そして2分半経過時に、ホシャが前に出てワキを差す得意の体勢から浴びせ倒してのテイクダウンに成功。ドロシーがクローズドガードを取ると、喉元に手をやりプレッシャーをかけるホシャは一度ハーフまで侵攻するが、ドロシーも戻す。

5分を過ぎて加点時間帯となっても、上のホシャと下のドロシーによる攻防が続いた。

残り3分のところでドロシーが距離を作って立ち上がり、試合はスタンド戦に。レスリングに自信を持つドロシーが前に出るが、ホシャは下がりながら受け流す。ドロシーはニータップも仕掛けるが、ホシャはここも巧みに下がって対応した。やがてホシャはまたしてもワキを差す得意の体勢に。

対するドロシーは小手に巻いての内股狙いに出るが、ホシャがこらえてみせた。残り45秒、ホシャがワキを差した形からの小外刈でドロシーを倒す。が、ドロシーはウィザーを効かせてすぐにたち、ポイント献上は回避した。結局そのまま0-0で本戦が終了し、試合は延長に持ち込まれた。

延長に入るとドロシーがシュートイン。

しかしホシャは素早く対応して受け止める。アタックを試み続けるドロシーは残り3分のところで深くシングルに。

そのままドライブしてのテイクダウンを狙うが、ホシャは右足を抱えられながらもスプロールし、重心を落として対応する。

やがてドロシーを押し返して距離を取った。若きレスラーが仕掛けるテイクダウンに対して見事なディフェンスを見せたホシャは、してやったりの笑顔を見せた。

その後も両者譲らないスタンドの展開が続く。残り1分を切っても反応速度が落ちず気力充実ぶりが伺えるホシャに対し、20歳若いドロシーは遠い距離から雑にシュートインしては防がれる場面が目立ってくる。ドロシーのテイクダウンを切っては押してゆくホシャは、笑顔を見せてからフェイント。さらに前に出て左でワキを差してドロシーを場外に押し出す等、底知れぬスタミナと地力を発揮するホシャが余裕を持ってドロシーのテイクダウンを防ぐうちに試合は終了した。

レフェリー判定は、本戦の前半で綺麗なテイクダウンを奪う場面も見せたホシャに。延長で何度もアタックを試みたのはドロシーの方だが、ペース支配という点では、上手く捌き続けては押していったホシャの方が優勢に見えてしまうような展開だった。

とまれ、ホシャは2019年大会以来二度目の決勝進出。リオンとJTという優勝候補二人をスタンドレスリングとトップゲームで上回った20歳下のドロシーを相手に、まさにその分野で渡り合い攻略するという驚くべき戦いぶりだった。準々決勝でドロシーは、2019年にホシャを決勝で倒した34歳のJTに完勝し世代交代を強く印象付けた。そのドロシーをさらに一世代上のホシャが倒したのだから、時代の流れを一人で引き戻す凄まじい活躍だ。

ただしホシャ本人は、ホルモン補充療法としてステロイド投与を30代半ばから続けていることを以前から明言しており、この「驚くべき」戦いに我々はどの程度驚くべきなのか、果たして「鉄人」、「中年の希望の星」等の賛辞を送るべきかどうかの判断は難しい。

が、このADCC大会の公式ルールには禁止薬物についての記載がなく、検査もされないことは公然の事実だ。つまりホシャはこの大会で他の選手たちと同じルールに則って戦っている。そして2011年の初出場以来6度出場、実に13年間かけて戦い続け、今回42歳にして5年ぶり二度目の決勝進出を果たした。他の追従を許さない並外れた業績であることは間違いない。

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【ADCC2024】レポート─01─それでも激熱=77キロ級で、元柔術の神の子ミカがPJパーチに苦戦も決勝進出

【写真】ある意味、ADCCの権威を守ったといえるミカの出場。そして、しっかりと決勝進出を決めた(C)SATOSHI NARITA

8月17日(土・現地時間)と18日(日・同)の二日間にわたって、ラスベガスのT-モバイルアリーナにて、世界最高峰のグラップリングイベントであるADCC世界大会が行われた。今年は既報のように、破格の賞金100万ドルを掲げて日時と場所をあえて重ねて開催してきた対抗団体クレイグ・ジョーンズ・インビテーショナル(CJI)に多くの有力選手を奪われた形となった。
Text by Isamu Horiuchi

それでも世界の強豪が集まった今大会の中でも最注目と言える、77キロ以下級の前半ブロックの準決勝までの模様をレポートしたい。

この階級の最注目選手は、当然ミカ・ガルバォンだ。2022年の前回大会はケイド・ルオトロに敗れて準優勝に終わり、その数ヶ月前にタイ・ルオトロを倒して最年少で制覇したはずの世界柔術のタイトルも、禁止薬物の使用発覚によって剥奪されてしまった。

驚異的な強さの秘密の一端が神から与えられた才能ではなく、人工的な薬物だったことが明らかとなった以上、「柔術の神の子」という渾名は使いにくい。(ちなみに本人はこの件について、ハードトレーニングに起因するテストステロンの減少の治療に、医者が禁止薬物を使用してしまったせいだと説明している)

それでも昨年は主にWNO等のプログラップリングで活躍し、変わらぬ強さを見せ続けたミカは、今年になってIBJJF系の大会にも復活。ヨーロピアン、パン、ブラジレイロ、世界柔術とミドル級を全制覇し、このADCC世界大会はいわゆる「スーパーグランドスラム」達成が賭かったものとなる。宿敵ケイドがCJIを選択してここにいない今回、20歳のミカが飛び抜けた優勝候補筆頭だ。


そんなミカの一回戦の相手は、ブラジル予選勝者のルイス・パウロ。ミカとは練習仲間でもある選手だ。シングルレッグで右足を掴ってから、あえて下になってのフットロック狙いを見せたミカは、それを凌がれた後も支え釣り込み足等を積極的に仕掛けてゆく。

さらに飛びつきガードも見せたミカは、下から腕や足を狙ってゆき、さらに後転してシングルレッグに移行して上に。場外に出て抵抗を試みるパウロから流れるような動きでバックを奪ってみせた。ここからミカは相手の右腕を右足で押さえて封じると、左手で相手の左手首をコントロール。こうして両手を封じた後、残った右腕でワンアームチョークに。わずか3分06秒、ミカが流石の技の切れ味を見せつけた。

続く準々決勝でミカは、技師オリバー・タザと対戦。初戦でヴェテランのダヴィ・ハモスをわずか55秒、前転からのヒザ十字で仕留めて勢いに乗るタザだったが、ミカは序盤からニータップでテイクダウンからパス、マウントへと移行し腕を極めかける等圧倒する。

そして5分経過して加点時間帯を過ぎた後、スタンドで足を飛ばしてタザを崩したミカが、背後から飛びついてグラウンドに持ち込んで先制。その後も立ち、寝技どちらも終始優勢に試合を進めたミカが、バックやマウントでポイントを重ねて8-0で勝利。順当に準決勝進出を果たした。

もう片方の山の一回戦では、ポーランドの足関節師マテウス・シュゼシンスキが大会常連のゲイリー・トノンと対戦。6月のポラリス28では、リーヴァイ・ジョーンズレアリーに競り勝ち勢いに乗るシュゼシンスキが、延長でオープンガードから一瞬で抱え十字を極めてみせた。

そのシュゼシンスキは続く準々決勝で、前回大会にて当時の絶対王者だったJTトレスを倒して世界を驚かせた10thプラネット柔術のPJ・バーチと対戦。得意のオープンガードで互角に渡り合ったシュゼシンスキは、加点時間が過ぎた後にスイープで上になりかける。が、場外側でバーチにスクランブルされてブレイクが入り、試合が(バーチの土俵である)スタンドから再開されてしまうという不運に見舞われてしまう。

結局、残り1分でダブルレッグを仕掛けたバーチが、シュゼシンスキが仕掛けてきたギロチンから頭を抜いて先制点を奪い、2大会連続の準決勝進出を決めた。

<77キロ以下級準決勝/10分1R・延長5分>
ミカ・ガルバォン(ブラジル)
Def. Referee’s decision
PJ・バーチ(米国)

前回大会準優勝のミカと、4位のバーチ。その時は顔を合わせなかった両者だが、その後昨年のWNO 20におけるウェルター級王座決定トーナメントの決勝で対戦が実現し──僅か45秒でミカの跳び抱え十字が炸裂して一本決着している。ミカの尋常でない極めを体感したバーチは、今回どう挑むのか。試合開始後いきなりシングルを仕掛けたミカ。右足を取るがバーチは片足立ちで堪えて抜く。さらにミカはダックアンダーやシングルを仕掛けるがバーチが凌ぐ。

3分を経過した時点で、これまで守っていたバーチが首を取り合う状態からミカを捻って崩すと、そのまま回り続けて最初のテイクダウンを奪ってみせた。

ハーフからクローズドを作ったミカが下から仕掛けるが、バーチは固くワキを締めて守る。やがて試合は加点時間帯に。ミカはシッティングから逞しい脚をシザースイープのような形で使ってバーチを崩す。

そのままがぶってみせたミカは、倒れ込みながらのギロチンへ。しかしバーチは強靭な首で耐えて姿勢を崩さず、やがて頭を抜いてみせた。

残り3分。下のミカに対して右でワキを差したバーチは右ヒザも入れてニースライスに。ミカは左足で跳ね上げようとするが不発で、バーチがヒザを抜く。ピンチに陥ったミカはすかさず背中を向けて凌ぎ、さらに向き直る際に足を絡めてハーフに戻す。

ワキを差して胸を合わせているバーチは再びニースライスを狙うが、ミカが足を入れてバタフライに戻してみせた。

難を逃れたかに見えたミカだが、残り20秒のところでバーチが両ワキを差し、3点倒立の姿勢でニースライスの形を作る。上半身を完全に制して侵攻するバーチは、残り10秒でニアマウントまで持ち込み、残り1、2秒のところでついに足の絡みを解いてヒザを抜いたバーチが完全マウントを達成…したところで本戦終了を迎えた。

バーチ大殊勲の勝利かと思いきや、ポイントが成立するにはポジションを安定させてから数秒必要ということで、スコアは0-0のまま。試合は延長戦に持ち込まれた。それにしても、これまで階級上の世界王者たちを相手にした時でさえ鉄壁であり続けたミカのガードが、同体格のバーチに完全攻略されかけた場面は衝撃的だった。

延長戦。一つの失点が命取りになるとあって、両者譲らないスタンドの攻防が続く。バーチがシュートインを試み、ミカも積極的にアームドラッグ等を仕掛けるが崩し切るには至らない。

このままでは敗色濃厚のミカは、残り15秒のところでシングルからドライブ。

バーチに切られて腹這いになるミカだったが、次の瞬間体を起こしてワキをくぐって背中に回る。

ミカはここから瞬く間に飛びついてグラウンドに持ち込む。

残り10秒を切る中、ミカは柔軟な股関節を使ってまず左足をフックし、残る右足も入れようと試み、バーチがそれを手で凌ごうとしている時に試合終了。まだ完全にバックグラブの体勢に入り切っていないということで、ここはノーポイント。試合はレフェリー判定に持ち込まれた。

本戦終了寸前にマウントポジションの形を作り切ったバーチと、延長終了寸前にテイクダウンからバックグラブ狙いまで持ち込んだミカ。予想が難しい判定は…ミカに挙がった。

これはバーチにはなんとも気の毒な判定だ。試合終了寸前のミカのバック狙いよりも、本戦終了寸前のバーチのマウントの方がはるかにポイント獲得/完全制圧に近かった。加点時間前に見事なテイクダウンを決めたのもバーチのほうだ。前戦での秒殺負けを経て、今回は隙のない試合運びを見せながら、要所で有効な攻撃を繰り出して互角に渡り合った。さらに桁外れの攻撃力を持つミカのガードを正面突破するという、世界の同階級の誰もなし得ないような偉業を成し遂げる寸前まで迫る、出色の──おそらくキャリア最高の──パフォーマンスだった。

とはいえ、敗色濃厚だったこの試合にて、最後の最後で見事な瞬発力を技のキレをもって大反撃を見せて強引に勝利を引き寄せたミカもまた、改めてその非凡さを見せつけたと言える。人工的な手段に現在も頼っていようがいまいが、やはりこの選手は柔術の神から──ついでに審判からも──特別な愛を受けている…とこちらが思ってしまうような形で薄氷の勝利を得たミカが、昨年に続いて決勝進出を決めた。

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【CJI2024】レポート─04─己を貫きあった80以下級決勝。優勝はケイト・ルオトロ。リーヴァイが準優勝

【写真】ONEでのファイトマネーを含めると、試合だけケイドの2024年の年収は2億円越えか!!(C)SATOSHI NARITA

16日(金・現地時間)と17日(土・同)の二日間にわたって、ラスベガスのトーマス&マックセンターで開催されたクレイグ・ジョーンズ・インビテーショナル(CJI)。同大会のレビュー第4回は、80キロ以下級の決勝戦をレポートしたい。
Text by Isamu Horiuchi

<80キロ以下級決勝/5分5R>
ケイド・ルオトロ(米国)
Def.3-0:49-46.48-47. 48-47
リーヴァイ・ジョーンズレアリー(豪州)

卓越したガードワークと足関節をもってケイドの双子にして優勝候補筆頭のタイを倒したリーヴァイと、グラップリング史上最高の名勝負と呼べるような準決勝の大激闘を勝ち上がり、タイの仇を取らんとするケイド。現在のグラップリング界の風潮に反旗を翻すが如くスタンドを避け、徹底して下からの戦いを貫くガードプレイヤーと、それに真っ向から意を唱えスタンドでもグラウンドでも上からも下からも攻撃を仕掛け続けるダイナミックグラップラー。

二つの異なるスタイルの頂点を究めた両者による大注目の決勝戦だ。試合開始早々座るリーヴァイ。すると客席からはブーイングが。ケイドも少し離れたところであえて座り込み、そのまま尻で前進するガードプレイヤーの仕草を真似してみせる。そこでリーヴァイが立ち上がって距離を詰めようとするとケイドは立ち、ならばとリーヴァイはまた座ってみせた。観客の声も現在の風潮も一切気にせず、自分の戦いを貫く姿勢だ。


リーヴァイは近づいてきたケイドの右足に下から絡むと、回転してクラブライドの形を作りかける。ここでケイドは豪快にバク転するように体を翻し、振り解くことに成功。ルイトロ兄弟の哲学を象徴するかのごときガード対処法を見せた。さらにリーヴァイがケイドの右足に外から絡むが、ケイドは振り解く。次に左足に絡んだリーヴァイは、股下に潜り込み後転するようにケイドの体を崩しにかかる。

ケイドはあえてその動きに乗ってダイブするよう下になると、次の瞬間三角絞めのロックを完成。

ピンチと思われたリーヴァイだが、すぐに腰を上げて右足でケイドの体をまたぎながら回転して脱出。再び下に戻ってみせた。

リーヴァイは再び右足にからむと、Kガードから回転してケイドを崩しその足を狙う。

が、ケイドもすかさず動いてヒザの支点をずらす。それでも足を狙い続けるリーヴァイだが、ケイド回転して脱出しラウンドは終了した。

採点は二人が10-9でリーヴァイを支持し、一人が10-9でケイド。これを聞いた観衆からはブーイングの声もちらほら聞かれた。

しかし「有効な攻撃を先に仕掛けること」が今大会の最優先の採点基準であるので、何度かケイドを下から崩したリーヴァイ優勢と見ることはおかしくないだろう。また、そこは両者互角と見て第二基準の「ポジションの進行やサブミッションの試み」、さらに第三基準の「ポジションにおける優位やペースを支配」を検討したところで、考え方次第でどちらに付けることも十分可能。下からの仕掛けと上からのパスのどちらを優先するか、きわめて採点の難しいラウンドだ。

2R、横への動きを見せるケイドに対し、リーヴァイは左絡んでKガードを作り崩すと、そのままケイドの片足を持って立ち上がる。ここでケイドが片足で立つと、リーヴァイは深追いせずにその足を抜かせてすぐに座ってみせた。タイ戦と同様、無理にトップを取るための深追いはせずあくまで下からの勝負を貫くようだ。

その後も、ケイドがリーヴァイのガードの突破を試みるが、攻めあぐねる展開が続く。左右に動きニースライスも狙うケイドだが、その度にリーヴァイは巧みに足を絡めて、また腕を張って距離を作って防ぐ。

逆にリーヴァイが深く足を絡めてケイドを崩し、足関節を狙いかける場面もあるが、ケイドはそのたびにニーラインをクリアする。ならばとケイドも上からのトーホールドを狙うが、効果なし。こうして終了したこのラウンドは、三者とも10-9でリーヴァイを支持した。

ここ数年、ダナハー流の足関節の使い手等やリーヴァイをはじめとするガードプレイヤー達をことごとく打ち破り、自らのスタイルの優勢を確立してきたルオトロ兄弟。が、二年前にタイに敗れたリーヴァイはそれでもガードワークと足関節を磨き続け、ついにはルオトロ兄弟の攻撃に下から互角以上に戦うまでにその技術を高めるに至ったことが、決勝のここまでの攻防で改めて明らかとなった。

3Rもリーヴァイが下から足を効かせる展開が続く。ケイドはわざと背中を見せてクラブライドを作らせ、そこから側転してのパスを狙うが不発。残り1分、リーヴァイの頭側に回ったケイドは、インヴァーテッドガードを使うリーヴァイの足と胴体に自らの体を捩じ込む形で圧力をかけ、さらにリーヴァイの左足を抱えることに成功する。

そのまま対角線に流してのレッグドラッグを狙うが、リーバイも動いて隙間を作って防いでみせた。その後は両者特に攻め手のないまま終了。このラウンドは、終盤の攻撃が評価されて3者とも10-9でケイドに。リーヴァイのガードワークでケイドが手を焼いている状況は変わりないが、ここに来て上からのさまざまな試みとプレッシャーが、ガード=防御線をわずかにだが押し込みはじめているようにも見える。

4Rも座って下から絡むリーヴァイと、上から突破を試みるケイドによる攻防が延々と続く。ときにリーヴァイが深く足を絡めるとケイドは対処し、逆にケイドはアオキロックを見せたり、わざと背中を向けて足を取りにゆくが有効な場面は作れない。ラウンド終盤、リーヴァイが下からケイドの背中側に付きかける。

と、ケイドは下になりながらもリーヴァイの右足に外側から右腕をこじいれてのヒザ固め狙い。が、深く入らずこのRは終了。

最後のこの攻撃が評価されたか、はたまたケイドが崩される場面が少なくなっていると判断されたか、このラウンドは3者とも10-9でケイドを支持した。

中盤以降若干流れがケイドに傾きかけているように見えるものの、ここまで両者決定打なし。採点もほぼ互角という状況で、決着は最終5Rに持ち込まれた。最終回も開始早々座るリーヴァイ。するとケイドも逆に座る。

リーヴァイが立ち上がり近づいてゆくと、ケイドは立たずに下にステイ。

初めて上下逆での攻防がはじまった。低く入ったリーヴァイはケイドの左足を取ってレッグドラッグ狙い。これを距離を取って防いだケイドは立ち上がり、リーヴァイが座って結局試合は元の展開に戻った。

ケイドは上から手を伸ばし、リーヴァイの口を塞いでの嫌がらせ。さらに頭側に回ったケイドは、3R終盤同様にインヴァーテッドの中に身体を入れようとプレッシャーをかけてから、さらに足側に戻って担ぎの体勢に。しかしリーヴァイは腕でフレームを張って凌いだ。

ややケイドが攻撃する場面が増えてきている中、リーヴァイも下からケイドの足をすくうが、ケイドは距離を取って対処。

ケイドがニースライスを仕掛けるも、上の足で侵攻を止めるリーヴァイ。ならばケイドはその足を取ってのアオキロック狙いを見せる。

残り時間が少なくなるなか、ケイドはさらに激しく動き胸でプレッシャーをかけにゆくが、リーヴァイも足と腕のフレームを効かせて対処し続ける。残り20秒でケイドはバク転しながらのパスを仕掛け、リーヴァイが対処して5Rの激闘が終了した。

判定は、49-46 48-47 48-47の 3-0でケイドに。25分間、両者どちらも決定的な場面を作らせない接戦となったが、後半になるにつれ、ケイドが攻めこむ場面がやや増えてきていたこともあり、おかしな採点ではないだろう。

2022年のADCC世界大会に続いてCJIも制覇。改めてグラップリング界の頂点の座に立つとともに破格の優勝賞金を得たケイドは「信じられない。これで俺は金持ちだ! なんてね。このお金はコスタリカに創っているジムに使うよ。道場本体はもうすごく綺麗に建ったから、次はみんなが泊まれる場所を作るのさ! タイは『誇りに思う』って言ってくれたよ。今大会の顔ぶれで、僕よりタフな選手はタイだけだった。でも昨日の2試合目(リーヴァイ戦)の1Rで怪我してしまって力を発揮できなかったんだよ。タイこそが僕を倒せる唯一の人間なんだよ」と、最後まで双子の兄弟への想いを口にした。

優勝ケイドとアンドリュー・タケットによる準決勝の超激闘の印象が強烈すぎる今大会だが、決勝で惜敗したリーヴァイの活躍にも一言触れておきたい。二年前、本人がタイに完敗を喫したこともあり──ルオトロ兄弟によってガードプレイヤー達や足関節師達は完全攻略されてしまったという印象が確立しかけていた状況下で、今回下からの戦いを貫いてタイに雪辱を果たした。そして決勝ではケイドの上からの攻撃も全て遮断し、3R戦なら勝っていたのでは、と思えるほどの戦いを見せた。

ケイドの言葉にもあるように、準々決勝でのタイ戦のリーヴァイの勝利は、序盤でタイが足を負傷したが故のアップセットだという見方もあった。が、決勝のケイド戦を経て改めて明らかになったことは、リーヴァイがガードゲームとそこからの足関節等の仕掛けを、階級上の怪物王者バルボーザを制し、世界を席巻するルオトロ兄弟を脅かすところまで磨き抜いたということだ。世界中の下派のグラップラーたちに勇気を与え、今後のグラップリング界の展開にも影響するような素晴らしい戦いぶりだった。

ADCCへの対抗軸としてはじまったCJI第一回大会の軽量級は、歴史的な名勝負を生み出すとともにグラップリングのさらなる進化も告げる、極めて意義深いものとなった。

【リザルト 80キロ以下級】
優勝 ケイド・ルオトロ(米国)
準優勝 リーヴァイ・ジョーンズレアリー(豪州)
3位 アンドリュー・タケット(米国)、ルーカス・バルボーザ(ブラジル)

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【CJI2024】レポート─03─80以下級準決勝。堅実なリーヴァイ、ケイドはアンドリューとの歴史的バトル制す

【写真】静✖動、陰と陽というべき対象的なファイナリストが誕生した(C)SATOSHI NARITA

16日(金・現地時間)と17日(土・同)の二日間にわたって、ラスベガスのトーマス&マックセンターで開催されたクレイグ・ジョーンズ・インビテーショナル(CJI)。驚愕の優勝賞金100万ドルが用意されたこの大会のレビュー3回目は、80キロ以下級の準決勝2試合をレポートしたい。
Text by Isamu Horiuchi

<80キロ以下級準決勝/5分3R>
リーヴァイ・ジョーンズレアリー(豪州)
Def. 3-0 30-26. 29-27.30-26
ルーカス・バルボーザ(ブラジル)

前日同様にすぐに座ったリーヴァイ。

バルボーザは横に動いてのパスを仕掛けるが、リーヴァイは足を効かせて対処する。

さらにバルボーザが重心低くプレッシャーをかけてゆくが、リーヴァイが侵攻を許さないまま1R終了。このラウンドの判定は一人が10-9でバルボーザ、二人が10-9でリーヴァイと割れた。

ちなみに今大会の採点基準は、まず最優先事項として(1)「有効な攻撃を先に仕掛けること」があり、次に(2)「そこからさらにポジションを進めたりサブミッションを試みること」。もし、それらで優劣が付かないなら最後に(3)「ポジションでの優位性やペースの支配」が判断される。


そこを考えた場合、最初の採点基準である「先に仕掛ける」ことをしていたのはバルボーザの方だろう。だから彼に付けるべしという見解はあり得るが、その仕掛けが「有効」だったと言えるかは疑問だ。ならば(2)のポジションの進行やサブミッションの試みを見ることになるが、これらは両者ともに見られなかった。そこで(3)のポジションやペース支配が最後の判断基準となるが、きわめて拮抗したこのラウンドはここでも明確な勝者は存在せず、最終的にはジャッジ一人一人のグラップリング観やその時の視点により判断が分かれることだろう。かくしてジャッジが割れたことに不思議はない。

2Rも当然のように下のリーヴァイと上のバルボーザの展開が続く。

このラウンドはリーヴァイが内回りや内側から相手のヒザ下に腕を通して引きつけてのKガードの形から崩す場面が散見された。

また低く入ってくるバルボーザの首元に、リーヴァイが左足首を突っ込んでのゴゴプラッタ狙いを見せることもあった。

バルボーザも危なげなく対処はしていたものの、上記の採点基準で考えた場合、どちらが取ったかの判断はそこまで難しくない。ジャッジ3者とも3-0でリーヴァイを支持した。

3R。後のないバルボーザは右に動いてプレッシャーを掛け、さらにリーヴァイの頭側に回る。

インヴァーテッドの形で対処したリーヴァイは、下からバルボーザの右腕を抱えると、そのまま右足をファーサイドに回してワキにねじ込んでチョイバーへ。

腕を伸ばされまいと腹這いになって耐えるバルボーザ。ここでリーヴァイはそのまま体を旋回させて続けてバックに着くと、四の字フックを完成。ラウンド序盤に圧倒的な有利なポジションを確立してみせた。

その後バルボーザは腕で足のフックを解除しては懸命に体をずらそうと試みるが、リーヴァイはバックをキープ。再び四の字を組み直してそのままの体勢を保ったまま試合終了。このラウンドは大差が付き、リーヴァイが判定で完勝となった。

階級上の怪物バルボーザの恐るべき体圧を見事なガードワークで捌き切り、さらには見事なサブミッションの仕掛けからバックを奪って完勝したリーヴァイ。ルオトロ兄弟の台頭に代表されるように、トップゲームで圧力をかける戦い方が主流になってきている昨今のグラップリング界において、あえて下からのガードゲームを貫いて超大物を制してみせたことの意義は大きい。この世界は多様な方向で進化を続けるのだ。

<80キロ以下級準決勝/5分3R>
ケイド・ルオトロ(米国)
Def. 2-1 29-27.29-28.29-27
アンドリュー・タケット(米国)

前日素晴らしい戦いで観衆を魅了した21歳同士による、大注目の準決勝戦。まずはタケットが思い切り良くダブルに入るが、ケイドもすかさず必殺の小手に巻いての投げで豪快に切り返す。

すぐに立ったタケットはさらに前に出るが、ケイドはまたしても小手に巻いての内股へ。

再び大きく宙を舞わされたタケットだが、その体が傾斜壁に跳ね返って着地に成功すると、ボディロックをキープして突進。

またもや小手から投げを試みるケイドだが、両者の体が壁にぶつかる勢いで腕が抜けてしまい、すかさずタケットがバックに。

壁際ですぐにボディトライアングルを作ると、壁の傾斜にもたれかかった両者の体が滑り落ちて試合はグラウンドに移行した。開始早々、傾斜壁に囲まれた新しい舞台にて、恐るべき思い切りの良さとアグレッシブさを身上とする二人の若者による、ダイナミックにしてアンプレディクタブルな、今まで誰も見たことがないような攻防が展開されている。

とまれグラウンドで有利な体勢を奪ったタケットは、強烈なフェースロックへ。が、ケイドは体をずらして起き上がって正対に成功。するとタケットも立ち上がり、会場からは大歓声があがった。

ケイドは支え釣り込み足で崩すが、持ち直すタケット。すると今度は先ほどとは逆にケイドの方が差しからタケットを押してゆき、逆にタケットが投げに。

それをなんとか持ち堪えるケイド。

またしても差しにゆくタケットに対して、ケイドはその腕を一瞬でスタンディングのフランク・ミア・ロック(かつてUFCでフランク・ミアがピート・ウィリアムスを極めた形)に捉えて絞り上げるが、タケットは腕を抜く。

その後もお互い激しく組み合って足を飛ばしあい、バランスを保つ展開に。グラップリング試合においてレスリングの攻防が続くととかく退屈なものになりがちだが、この二人にはまったく当てはまらない。残り30秒、ケイドはタケットの体を崩して横に付くと、さらにワキを潜ってバックを狙う。

タケットはここでまたしても豪快に投げるが、ピッタリと背中に付いていったケイドはハーフ上の体勢でグラウンドに。

タケットがクローズドガードを取り、ケイドはその首を抱えてカンオープナーを仕掛けるなか驚愕の1Rが終了した。

判定は3者とも10-9でタケットに。2022年のADCC世界大会にて、神童ミカ・ガルバォンを倒して頂点に立ったケイドの真骨頂は、誰にも付いてゆけないほどダイナミックに動き続けることにある。しかし、タケットはまさにケイドの土俵であるはずのウルトラハイペースの混沌状況の中で動き勝つという離れ技をやってのけた。とはいってもラウンド終盤に近づくにつれケイドの勢いが増し、相対的にタケットの動きはやや落ちはじめてきているようにも見えた。

2R、引き続き激しくいなし合い崩し合う両者。ケイドは前に出るタケットの首を掴んで引き倒すと上からクルスフィクスを狙うが、タケットは立って凌ぐ。ならばとケイドはスタンディングからキムラに入るが、ここもタケットは腕を抜いてみせた。

さらに組み合う両者。やや体の軸がぶれてきたかのように見えるタケットだが、手四つに組んだ両手を上げてスペースを作ると同時にシュートインしてシングルへ。

ケイドの右足を抱えてタケットが立ち上がると、片足で堪えるケイドは豪快に飛んでカニバサミへ。

そのままタケットの右足に絡んで内ヒールを狙うケイド。ヒールを露出させられかけたタケットだが、回転して足を抜いて立つ。

と同時にまたワキを差してケイドを押してゆく。するとここでまたしてもケイド必殺の小手からの内股が豪快に炸裂。ハーフで上を取ってみせた。驚愕のノンストップバトルはまだ止まらないが、まるで動きの落ちないケイドが徐々にタケットを呑み込み始めているようだ。

ケイドは右を深く差してウィザーに。長い腕を用いて得意のダースを狙える体勢だが、ケここで一瞬逆に左腕を深く入れてアナコンダグリップを作る。そこから改めて右を深く入れ直して再びダースへ。

回転して逃げるタケットに対して、ケイドはノースサウスチョークに移行。絶体絶命と思われたタケットだが、右腕をケイドの顔の前に捻じ込んでスペースを確保して決して諦めない。やがて隙間を作ってガードの中にケイドを入れた。

タケットはそこから三角を狙うがケイドが防ぐ。

ならばとタケットは内側からケイドの左足を引き寄せると、外掛けからヒザ固めに。

しかしケイドは動じず、左足にトーホールドを仕掛け、上をキープしてこのラウンドを終えた。

判定は一人が10-8 残り二人が10-9でチョークを極めかけたケイドに。徐々に差を付けられはじめたタケットだが、勝負を諦める様子は毛頭ないようで、力の限りの攻撃を仕掛け続けている。

3R、いきなりシュートインしたタケットは、そこからワキをくぐってバックへ。ケイドが前転するがタケットは背中から離れない。それでもケイドは仰向けになり体をずらすと、タケットはケイドのガードの中に入って上のポジションを取った。

ケイドは下からバギーチョーク狙いを見せると、すかさず距離を取って立ち上がる。

が、その瞬間背中に飛びつくタケット。

ケイドはその足を両手で押し落としながら反転して上に。ならばとタケットも素早くワキを差して立ち上がる。ケイドが右で小手を巻くと離れる両者。残り3分。さすがにケイドの動きもやや落ちてきたように見えるが、会場を震撼させ続けているインクレディブル・ウォーはまだまだ止まらない。

ケイドはまたしてもスタンディングでミアロックを狙う。

凌いだタケットはダブルに入るが、ケイドは強靭な腰で受け止めると逆にダブルレッグのお返し。受け止めようとしたタケットだが、ケイドの勢いは止まらず。

キャンパスに雪崩れ込むような形でテイクダウンに成功した。上からケイドは右ワキを差してニースライスを狙うが、ニーシールドで耐えるタケット。グラウンドにおけるポジション争いの鍔迫り合いにおいても、両者の攻防は全く目が離せない。2Rを失ったタケットとしては、なんとかここを脱出して上を取り最後の攻撃を仕掛けたいところだ。

やがてガードの中に入ったケイドはタケットの首を抱えて圧をかける。立ち上がってタケットのガードをこじ開けると、すぐにタケットはスクランブルに。するとすかさず反応したケイドはスプロールしてアナコンダのグリップを作る。

そのまま傾斜壁に座るような形で絞り上げるケイド。さらにクローズドガードに移行してフィニッシュを狙うが、タケットは首の力と執念でケイドの全体重を持ち上げて抜いてみせた。

残り10秒、最後まで諦めないタケットがパスを狙いにゆくが、ケイドは右足首をタケットの喉元に捻じ込んでゴゴプラッタでカウンターするうちにタイムアップ。

立っても寝ても両者止まらない攻防のダイナミックさと激しさという点で見るなら、文句なくグラップリング史上最高の名勝負と呼べる試合が、ついに終了した。立ち上がってハグする両者。グラップリングの明るい未来を象徴するが如き、驚きに溢れた大激闘を展開した21歳の若者二人を、会場はスタンディングオベーションと大歓声で称えた。さらには「One more round!」という無茶なチャントまで発生するが、これほどの試合をこなしてなお余力十分、まさに無尽蔵のエネルギーの持ち主のケイドはこれを両手で煽り立てたのだった。

判定は29-27, 27-29, 29-28でケイドに。勝者は「まずタケット兄弟二人に敬意を表したい。これが本物の柔術さ! リアルなテクニックとアンリアルなスクランブルだ! こんな試合は一人じゃできないからね。(前日上の階級で大健闘を見せた)ウィリアム(タケット)も凄かったよね! 決勝戦に向けてものすごく気分が上がっているよ! ただ彼(決勝の相手のリーヴァイ)が、何をやりにここに来ているのか分からない面もあるよ。もうちょっと膠着に対する警告の仕方を変えた方がいいんじゃないかな! 最初からガードで座っているのって簡単すぎるじゃないか。ただの僕の意見だけどね。まあ僕だってガードをプレイするのは大好きだけど、もし僕が(腰を引いた姿勢を見せて)スタンドでこうやって下がって、相手が無理に仕掛けてくるのを待っているだったら、膠着の傾向を受けるべきだよね。まあともかくリーヴァイのガードは凄いよね! 決勝がものすごく楽しみだ!」と語る。

スタンドでもグラウンドでも攻撃を仕掛け続ける、現代グラップリングの魅力の全てを集めたような戦い方で大観衆を魅了したケイドは、このアピールを通して、自らとは対極的な──しかし別の意味で洗練を極めた──ガードの使い手であるであるリーヴァイとの興味深い対立軸までしっかり観客に提示してみせたのだった。

究極のダイナミックグラップラー=ケイド・ルオトロと究極のガードプレイヤー=リーヴァイ・ジョーンズレアリー。組技格闘技に深く拘っているあらゆる人間たちにとって興味深い、対照的なグラップリングスタイルとフィロソフィーの頂点を窮めた両者による対決
が実現することとなった。

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【CJI2024】レポート─02─80以下級、ケイド・ルオトロ&アンドリュー・タケット──躍進撃の21歳!!

【写真】躍動感あふれるファイトで、準決勝進出を決めたケイドとアンドリュー(C)SATOSHI NARITA

16日(金・現地時間)と17日(土・同)の二日間にわたって、ラスベガスのトーマス&マックセンターで開催されたクレイグ・ジョーンズ・インビテーショナル(CJI)。驚愕の優勝賞金100万ドルが用意されたこの大会のレビュー2回目は、80キロ以下級の後半ブロックの準々決勝までの戦いをレポートしたい。
Text by Isamu Horiuchi

一回戦第5試合は、双子の兄弟タイと並ぶ優勝候補であり、2022年ADCC世界大会77キロ以下級王者のケイド・ルオトロが登場、2019年ADCC世界大会級88キロ以下王者のマテウス・ジニスと新旧王者対決が実現した。

開始早々、ジニスが強烈に当てる足払いから頭を──「いなす」というよりむしろ──はたく動作を仕掛けてくると、なんとケイドは軽く掌打を3連打してお返し。もちろんこれはレフェリーから注意を受けたが、先日のMMAデビューを経て打撃勝負上等という姿勢を披露した。


その後もジニスの足払いにローキックを返したケイドは、突進してジニスの頭で顎を押し、傾斜壁まで押し付けて体勢を崩す。ジニスが横に逃げようとしたところでワキを差してのテイクダウン。相手を金網に押し付けるケージレスリングの技術を、傾斜壁がある今大会で利用した形だ。

ジニスはリバースハーフ下からのリバーサルを狙うが、卓越したバランスでこれを堪えるケイドは、四の字を組んだジニスの右足を引っ張り出してワキに挟むとそのままストレートレッグロックへ。

強烈に絞り上げるとすぐにジニスはタップ。残り18秒、階級差をまるで問題にせず、世界グラップリング界の先頭を走り続ける男の勢いを見せつけての勝利だった。

一回戦第6試合は、北欧の極め業師トミー・ランガカーがベテランのヘナート・カヌートと対戦。

上から飛び込んでのバック狙いや担ぎパスで終始圧倒したランガカーが、肩固めや腕十字狙いでカヌートを追い詰めて判定で完勝した。

一回戦第7試合は、2022年にADCC世界大会88キロ級において、レジェンドのシャンジ・ヒベイロやSUG王メイソン・ファウラーを連覇してブレイクアウト・スターの一人となった英国のエオガン・オフラナガンが登場。

(道着着用ルールでは)ベースボールチョークの名手として知られるマジッド・ヘイジと対戦した。

シッティングから相手の体を跳ね上げつつ後転するような動きで足を取ったオフラナガンは、そのままヘイジの両足を束ねて左ワキで抱える。

やがて右足を孤立させたオフラナガンがヒールを露出させて捻りかけたところで、ヘイジはすぐにタップした。

一回戦最終試合は、今大会の主催道場とも言えるB-teamの中量級エースであるニッキー・ライアンが道場し、今年のADCC西海岸予選を制し、またWNO大会でトミー・ランガカーにチョークで一本勝ちして波に乗る21歳のアンドリュー・タケットと対戦した。この注目の一戦は、1Rから両者のポジションが入れ替わる一進一退の凄まじい攻防が展開されたが、残り2分のところでタケットがノースサウスの形からニッキーのガードを超えて完全パスに成功。

足を戻したニッキーは必殺のレッスルアップで上を取り返すが、やがてまた上になったタケットは再びパス。初回を3-0でリードした。

その後のラウンドは動きの落ちたニッキーに対し、タケットが面白いようにパスを決めマウント、バックグラブから極めを狙う展開に。他大会のようにポイント制を採用していたら数十点差が付くほどの一方的な展開のなか、抑え込んだまま髪を整える仕草まで見せるほどやりたい放題のまま試合終了。

結局判定3-0でタケットの圧勝劇に。

ニッキーの実力を知る世界のグラップリングファン達に衝撃を与えたタケットは「僕のお母さんはヘアスタイリストだ! だから髪にはこだわりがあるんだ! 僕はまだ21歳さ! 相手を押さえる退屈な試合じゃなく、動き回ってどんどん狙っていかないとね!」と会心の笑顔を見せた。

<80キロ以下級準々決勝/5分3R>
ケイド・ルオトロ(米国) 
Def.3-0:30-26.30-26.30-27
トミー・ランガカー(ノルウェー)

ONEサブミッショングラプリング・ライト級世界王座を賭けて、1年で3戦目となる両者。過去2試合はどちらも判定決着だったが、ケイドが圧勝している。

試合開始すぐにランガカーに突進していったケイドは、一回戦同様に傾斜壁にランガカーを押し付ける。が、ランガカーは傾斜を登って上からのギロチン狙いという斬新な返しを見せる。

それを凌がれたランガカーが小内からのテイクダウンを仕掛けると、ケイドは下になった瞬間にオモプラッタを仕掛ける。するとランガカーもすぐに抜くという見応えのある攻防を展開する。

スタンドに戻ったケイドはワキを差して再び壁までランガカーを押していってガードを余儀なくさせ、上の体勢でラウンド終了、ジャッジ3者とも10-9でケイドを支持した。

2R、立ちから素早くワキを潜ったケイドがボディロックを取り上に。

ランガカーもオクトパスの形からの形成逆転を試みるが、ケイドは持ち前の腰の強さで競り勝ち、強引に押し倒すような形で上を譲らない。さらにランガカーの背中に付いたケイドは、まるでストレートパンチの如き鋭さで腕を捻じ込んでのギロチン狙い。

さらに右腕を首に回してRNCの形で絞め上げるが、ランガカーは驚異的な耐久力で凌いでみせた。

しかし、一方的にケイドが攻めた5分間は10-8というビッグラウンドとなった。

3R、後のないランガカーはシングルレッグからボディロックに移行してのテイクダウンを狙う。

ケイドは左腕で小手を巻く得意の形から払い腰で豪快に切り返す。

再びランガカーの背後に付いたケイドは、その左腕を両脚で捕らえてクルスフィクスに。

そこからチョークを狙ってゆくがケイドだが、ランガカーはここも極めさせず、体をずらして上を取り返した。その後インサイドガードから仕掛けたいランガカーだが、ケイドが決めさせずに試合終了。判定は30-26が二人、30-27が一人でいずれもケイドがフルマークの判定勝ちを手にした。

躍動感溢れる動きで攻め続け、なおかつ際の競り合いも凄まじく強いという魅力爆発の内容で準々決勝に進出したケイドは「勝てたことで安心した。僕ら兄弟はいつも俺が強いいや俺だって言い合っているけど、本当に正直のところを言うとタイの方が60-40くらいで強いんだよ。タイは僕にとって最高のトレーニングパートナーだ。でもさっきの試合、彼は初回に大怪我をしてしまい力の全てを見せることができなかった。だけど僕がこの階級で一番怖かったのはタイなんだよ。僕ら兄弟にとって、お互いが負けるのを見るのはすごく辛い。特に兄弟がもっと強いって分かっているときはね。でもタイなら怪我をすぐに治してトップに返り咲いてくれるはずだ。タイとガルバォンがセコンドにいるとものすごく心強いね」と、自分をそっちのけで、リーヴァイ・ジョーンズレアリーにまさかの敗戦を喫した双子の兄弟タイへの想いを語ったのだった。

<80キロ以下級準々決勝/5分3R>
アンドリュー・タケット(米国) 
Def.3-0:30-27.30-27.30-27
エオガン・オフラナガン(英国)

1R、すぐに座ったオフラナガンは下から素早く腕狙いへ。これをタケットが抜くと、さらに一瞬で右足に絡んでの内ヒールをセットしていく。

あわや踵が露出する状態だったが、タケットは回転しながら左足をこじ入れて逃れてみせた。

オフラナガンはさらに内回りから三角へ。そのまま右腕を伸ばしかけるも、タケットはここも抜き、同時に担ぎの要領でパスしてサイドへ。

一回戦でも見せたお得意の髪をかきあげる姿勢を作ると、ノースサウスに移行した。その後オフラナガンが足を入れて戻すと、タケットは左にプレッシャーをかけておいて右に回ってパス。さらにもう一度パスを決めたタケットはさらにマウントを奪取し、初回を3者とも10-9のスコアで先制した。

2Rになるとさらに勢いを増したタケットは、ノースサウスの体勢からのパスや、左右に回って担ぐ形のパスを面白いように決めて圧倒。

ここは三者とも10-8のスコアが付いた。一回戦の圧勝劇の主因はニッキーの不調やスタミナ切れにあるのではないかという見方もあったが、何よりもタケットのパスガード力が突出しているということがまざまざと証明された。

21歳という年齢を考えるとまさに恐るべしだ。

3Rには側転パスを仕掛けたタケット。オフラナガンは、それを三角でキャッチして大逆転の望みを賭けて右腕を伸ばしにゆくが、タケットは1Rと同じ要領の体捌きで担いでパスを決める。

こうしてオフラナガンの最後の攻撃も潰したタケットは、その後も好き放題にパスを決めてマウントも取り、最後まで圧倒したまま試合を終えた。判定は3者とも30-26。ニッキー・ライアンとオフラナガンという二人の超技巧派プレイヤーのガードゲームを完膚なきまでに破壊するという衝撃的な強さを見せつけた若者は「いやあ、もう夜の1時だぜ! みんなが帰れるように短くするよ。明日も行くぜ!」と叫ぶと、会場に設置されているトーナメント表の準決勝進出者の欄に、自らの名前のかわりに”I want sleep”と書いて去って行ったのだった。

こうしてもう一つの準決勝は、期待通りの動きで実力を見せつけた優勝候補タイ・ルオトロと、この日最大の衝撃と言えるほどの強さを見せつけたアンドリュー・タケットという二人の21歳による、グラップリングの未来を体現するような組み合わせが実現することになった。

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