【写真】確かに近い距離での豪腕フックが何度も見られた (C)Zuffa/UFC
MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。
武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは間、質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。
お蔵入り厳禁。武術的観点に立って見たアレックス・ポアタン・ペレイライスラエル・アデサニャ戦を約2週間後に迫った再戦前に改めて振り返りたい。
──アデサニャとポアタンなのですが、キックボクシング時代に引き続きMMAでもポアタンが勝ってしまいました。
「平本蓮という選手が、ああいう風に戦いたいから見てくださいとアデサニャのことを言ってきました。パッと見た時にポアタンの拳(けん)の質量が凄いんですよ、ともかく。こんなものを食らったら死んじゃうんじゃないかと思って見ていました。試合開始直後の印象でポアタンの質量が圧倒的なので、これはポアタンがKOすると思いました。というのもアデサニャがビビッて、いつもの老獪な感じが無かったですね。つまりアデサニャに対して、UFCであろうが打撃で伍する相手はいなかった」
──UFCで戦いだした当時は、アデサニャが何者か分からないので、相手も仕掛けて倒されていました。しかし、彼が強さを見せると打撃で圧し切れる相手はおらず、アデサニャも今言われたように倒すというよりもインサイドワークを駆使するだけで勝てていたように感じます。
「実はポアタンのような相手が出てくると、打撃でやりとりができないのかというぐらいに見えました。いわば打撃のスクランブル。MMAでは余り見られない、やりとりは」
──組みがあるので打撃の距離は、組みにいける距離で。劣勢な方が、打撃を続けるということはなくても良い競技です。結果、MMAでの打ち合いは、体力も精神力もギリギリになった状態での戦い、根性勝負の殴り合いになるような。
「打ち合いの中で呼吸を外す、しっかりとカウンターを取るというのはそこまで多くないです。アデサニャも前手を使って殴られないようにして、おずおずと下がるばかりでした。ただし、ポアタンも自分のリーチを生かした戦いはできていなかった。きっとボクシンググローブの戦いを続けているのだと思います。リーチがあるのに詰めてフックを打つ。拳の向きを見ると、素手よりもボクシンググローブの殴り方です」
──クリンチでボディを殴る時も、まさにそのように見えました。
「ハイ。ショートレンジのキックボクサーなんです。だからMMAに多い、少し離れた距離の打撃はまだ慣れていない。寄っていかないと当てられない。あれだけリーチがあるのに、その繰り返しでした。限定された距離で、人を殴るポアタンの質量が圧倒的にアデサニャを上回っていても、最初にアデサニャがダウンを奪います。アデサニャの打ち方は、MMAグローブの打ち方で、ピンポイントで捕らえている。
やはりボクシンググローブと、MMAグローブに違いがある。それだけ質量に差があっても、その通り反映しない。結果的にやりあうとダウンを取ったのはアデサニャでしたからね。ポアタンのパンチは止めないで、流れていても効きます。MMAグローブは止める……置くといっているパンチですね。
フォロースルーを創ると、あまり効かない気がします。ボクシンググローブは、大きさがあるのである程度スウィングさせて殴るとダメージを与えやすい。つまりボクシンググローブとMMAグローブで殴るポイントが違ってきます。手を伸ばしただけで効かせる突き……空手では決めと呼びますが、決めと打ち抜くパンチの違いですね」
──それでもポアタンにはあの勢いがあって殴られるのですから、相手は怖いかと。
「ハイ。その距離に入ってアデサニャは殴っていったので、それは勇気が必要だったと思います」
──ONEのMMAグローブのムエタイ。距離もスタンスも、そこに近い試合に見えました。
「だからこそ、ポアタンは凄まじい可能性を秘めていますよ。まだMMAに慣れていないので。まぁキックで結果を残し、MMAでもキャリア6戦や7戦でUFCの頂点で戦う。これはもう、とんでもないことです」
──とはいえMMAです。決して組みの選手ではないアデサニャの組み技で、疲れてしまいました。
「あれは組みだけでなく、全般的に疲れたんだと思いますけどね」
──打撃だけの展開で2Rにポアタンがテイクダウンを取れましたが、アデサニャがボディロックで倒すと、力で逃げていました。ただし、アデサニャもグラップリングで勝ち切れる力がなかった。ずっと踏ん張って、バテまくっていました。
「つまり打撃ではアデサニャは負けた。でもMMAでは上回っている。それでも打撃のMMA選手で、組み技をそこまで積んでいなかったかと。自分より打撃が強い相手がくる想定が、そこまでなかった。組んでくる相手にどう戦うのかという部分でやってきたのでしょうね。
打撃に関してはファイターのポアタンに詰められたボクサータイプという風になっていました。打撃だけになると、蓋を開けてみるまで本当に分からない。予測がつかない展開になることがありますね。アデサニャは足を負傷したのか、ひっくり返って。アレがないとアデサニャが勝っていた。
あれだけ質量に差があったのに──あのままだと勝てるところまで持って来られた。帳尻を合わせることができるアデサニャに感心させられました。それがMMAなのかと。我々が強くなるために、何を採り入れるのか。足をケガする前のアデサニャには学ぶことが多かったです。
もつれた試合で、どう勝てるのか。審判に勝敗を委ねると、どうなるか分からない。もつれないように戦うには、もつれた時にどう戦うのかを勉強しないといけない。同時にポアタンはああいう生き物。本能でぶん殴ることができるけど、そこに法則性はない。でも、その理を知らなければ勝てない。それがMMAだということを改めて感じた試合でした」
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