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Bu et Sports de combat ONE タン・リー ブログ マーチン・ウェン 岩﨑達也 武術空手

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。タン・リー✖ウェン「MMAの妙、武の妙」

【写真】タン・リーに見るべきものがなかった──その真意は(C)ONE

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑氏とともに見てみたい。

武術的観点に立って見た──ONE113におけるタン・リー✖マーチン・ウェンとは?!


──空手を指導している松嶋こよみ選手にも関係してくるタン・リー✖マーチン・ウェン戦ですが、どのように見られましたか。

「青木選手の解説を聞かせて頂きながら視ていました。そして青木選手の話していることで非常に勉強させてもらったのと同時に、自分はMMAの妙味が分かっていないことが本当に痛感させられています」

──MMAの妙味ですか……。

「質量と競技の違いというのですか……、同じ試合を見ていてもここまで見方が違ってくるのかという部分でも、本当に勉強になりました。というのも、私からすればタン・リーに見るべきものがなかったからです」

──!! えっ? そんなことはあり得ますか!!

「言ってみると期待外れだったんです。それだけビビっていたということなんです。これまでONEで見せていた2試合からすれば、どれだけ凄まじい試合をするのかと楽しみにしていましが、期待外れでした。

タン・リーは完全に蹴りの選手で、ウェンはボクシング……パンチの人です。そして、この試合でのウェンは素敵、男だね。惚れちゃうねって。やっぱり腹が据わっているというか、男の中の男ですよ。

MMAでは前に出てやれる選手はいくらでもいますが、この人の前への出方は良いです。送り足で前に出て追い詰めることができた。それだけタン・リーがビビっていたということです」

──タン・リーがビビッていたと見ている人は少ないかと思います。

「ウェンのパンチにビビっていて、タン・リー良いところが一つもなかった」

──しかし、KO勝ちをしているのはタン・リーです。

「それはウェンの自滅です」

──タン・リーはペースを持っていかれそうだという時になると、しっかりと腹を蹴ることができウェンの間合いにならないように戦うことはできていなかったでしょうか。

「そんなモノはウェンは何も思っていないですよ。気合と根性があったから」

──いや気合と根性だけで勝負が決まるなら、MMAは面白くないですよ。気が弱くても勝てる。距離を取っても勝てる。真っ向勝負でなくて、工夫で勝てるのがMMAという競技なはずです。

「ビビり合戦なんです、試合って。どっちが嫌か、どっちが怖いか。どっちが強いのかで勝負は語られがちですが、戦いはどっちが怖がっているのかということになります。実際、2Rのタン・リーは、後半は試合を投げかけていました。攻撃をするために射程距離を作るために下がるのではなくて、避けるために下がっています。そしてウェンが追い込んでいく。

ただし、ウェンはカウンターの選手なのに3Rになって打ちに行った。後の先が取れる選手なのに、なぜか3Rはそれをしなかったです。カウンターを取れることは、全く悪いことではないのに、『カウンターだけだろ。待っているときは良いけど、自分から詰めることはできない』というような批判に対して、自分から詰めることを練習してきたのでしょう。

実際に1Rからウェンの質量が高かったです。でも本当に漢人なところで、自分が一番強いところを出さなかった。武器として、あの3Rは絶対的にカウンターを使うべきだったのに。前に出るから勇気があるということではないです。早く仕留めてしまおうと焦っていた。それは勇気ではないです」

──確かに、焦っていたようには見えました。

「だから3Rになって、ウェンも心の弱さがでました。「判定でも勝ちゃ良いじゃないか」って──私がセコンドなら言います。ウェンはちょっと勝ち急いでしまった。初回も2Rもウェンの試合でした。そして5Rあるのに、なぜ3Rでとどめを刺しに行ったのか。打ち方も悪くなってしました。中が残って、外が先に出てしまっていましたからね」

──??

「一番良いのは中……内面が先に動き、外面が後からついてくること。これは難しい話なのですが……例え話を用いると、内面という名の機関車が、外面である3両ぐらいの客車や貨車を同時に引っ張って走る形ですね。一番前の機関車だけで前に進み後ろの車両がついてきていないと、カウンターを被弾します。対して、機関車が車両を引っ張り同時に動いていると、カウンターを貰うことはありません。

加えていうと前進しながらのフックは、質量が下がりやすいです。前進は縦方向の動き、フックは横回転なので」

──力の方向性が一致していないわけですね。

「そうなんです。前蹴りからストレート系のワンツーと、前蹴り&左右のフックだと、カウンターを食らうのは後者が圧倒的に多いということなんです。前進しながらのフックは、少し沈み込むような動きから左フックを放つとか、相手の右に対して──左側に沈み込みながら右オーバーハンドという動きならまだしも、下がる相手に左右のフックは、カウンターを当ててくださいと機会を与えているようなものになります」

──そこを3Rにウェンがしてしまったと。

「彼は基本に忠実なボクシングをする選手だと思うのですが、あの動きはボクシングのセオリーからも外れていたかと感じました。結果、あまりストレート系のパンチに自信がないのかと思いましたね。カウンターでも倒しているのは右クロスか、オーバーハンドで直突き……ストレートでダメージを与えるという攻撃がない。それで倒す確信が拳(けん)にないのでしょうね。いずれにせよ、顔から突っ込んでいきました。カウンターのフックではなく、前に出てフック&フックですから……これは良くなかったと思います。

対してタン・リーはボクシングでない、直突きです。前進して回し蹴りをして、直突き。彼のパンチはボクシング的なリズムには落とし込めていない。だからボクシングだとウェンだし、タン・リーの遠間からの攻撃がどういう風に見られるのかというのに着眼していたました。結果、全くウェンがその動きをさせなかった。そして自ら質量を下げていきました。質量の高いウェンに対して、いつものようなミドルを出すこともできなくなっていた。

どっちが強いのかいう点でなく、どっちが退くのか。そういう風に見ると、タン・リーはこれまでとは違い──見るべきものがない動きになりました。自分の動きを駆使するのではなく、相手の武器は使わせない戦いをしていたんです。

武術的にMMAを見る場合──、自分の戦いができると勝てます。自分より弱い相手だと、それができる。ただし強い相手を戦った時にどうなるのか。タン・リーはマーチン・ウェンを相手にして、自分の戦いができなかった。強い相手に対し、自分の戦いを見せることはなかったです」

──なのにウェンは3Rに前に出て、フック&フックで顔面を晒してしまった。

「焦りなのだとしたら、やはり怖かったのでしょう。タン・リーも一発が絶対的にありますからね。そして、それがMMAです。ウェンの自滅だろうが、自分の持ち味など関係ないけど、勝ちが起こる。自分の強さは出せなくても、勝てることがある。それはMMAの妙で、武術の妙は自分より強い相手にいかに自分を出すか──なのです」

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Bu et Sports de combat サンチン ブログ 剛毅會 岩﨑達也 武術空手

【Bu et Sports de combat】武術で勝つ。型の分解、サンチン編─05─「僅かに吸うと呼吸が体を通り……」

【写真】サンチン、型の分解。今回はここまでの動きに関する呼吸について触れたい (C)MMAPLANET

武術でMMAを勝つ。空手でMMAに勝利する──型を重視する剛毅會の武術空手だが、岩﨑達也宗師は「型を使って戦うということではない」と断言する。型稽古とは自身の状態を知り、相手との関係を知るために欠かせないモノであって、その形で戦うことではない。

サンチン、ナイファンチ、セイサン、パッサイ、クーサンクーの型稽古を行う剛毅會では、まずサンチンから指導する。5種類の型稽古にあって、唯一サンチンのみが意味を吸いて吐くという意味での呼吸を学ぶことができる。

全ての根幹となる武術の呼吸を学ぶことができる──サンチンの解析、第5回──用意の姿勢から突き、受け──ここまで紹介した動きの間に見られる、呼吸を振り返りたい。

<サンチン解析第4回はコチラから>


(01)サンチンをする際の呼吸、まず用意の姿勢の時に息を吸うが、呼吸そのものは大きく見せることはしない。

特に吸うときは、通常の呼吸と同じように息を吸っていることをことさら強調しない。

基本的に武術は呼吸を見せないモノで、サンチン以外の型では隠し呼吸といって、外には見せないようになっている
  
(02)用意の姿勢から始めの声が掛かり、足は結び立ちから内八の字立ちとなり、手の甲を交錯している状態から正拳を握り体側に開き下ろす時に息を吐く。

✖ 動作に合わせてハッと息を吐く。

肩を上げて息を吐く動作はガク引きと呼ばれ、よく見られている。しかし、このガク引きのような大きな動作と大きな呼吸は必要ない

【重要】吸った時を特に見せないようにするのは隙だらけになり、その瞬間に腹を突かれると相当に効かされてしまうから。

吸う呼吸を見せることは健康法ではあっても、武術ではありえない

(03)01:右足を内に回しながら前に進めるとき、両腕が交差し足は内側にある時点まで息を吸い、

(03)02:両腕受け&右足が外に踏み出した時に息を吐く。ここでもガク引きはせず、腹を圧縮するようにし、

(03)03:ごくごく小さく発声するように吐く

(04)左手を引きながら、吸い

(05)突きながら吐く

✖腕を突く時に、大きくヒザでタメを作り同時にハッと大きく発声しながら息を吐いてはいけない

(06)腕受けの際は、外側に下がっている時に吸い

(07)内側を挙がってくるときから、両腕受けになるまで吐く

サンチンの息の吐き方を身につけると息が長くなる。呼吸が長くなるとサンチンに掛る時間も長くなる。

【最重要ポイント】新しい空気を入れるよりも、古い空気を出していないことの方が疲れに通じる。大きく吸って、大きく吐いてという動作をしていると、実際には体の中に呼吸が通っておらず人間の体は軽くなる。少し口を開き、僅かに吸うと呼吸が体を通り、強い状態になる。つまり吸って、吐いてという呼吸を学ぶことで、最終的には吸ったり吐いたりするのではない、体の内面に流れる呼吸を身につけていく。

<この項、続く>

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Bu et Sports de combat カビブ・ヌルマゴメドフ ジャスティン・ゲイジー ブログ 岩﨑達也

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。ヌルマゴメドフ✖ジャスティン・ゲイジー

【写真】予想外の一方的な展開になったのは──なぜか(C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑氏とともに見てみたい。

武術的観点に立って見た──UFC254におけるカビブ・ヌルメゴメドフ✖ジャスティン・ゲイジーとは?!


──序盤の打撃戦はともかく、テイクダウンから試合はヌルマゴメドフの一方的なモノになりました。

「ボクシングだけでいえばゲイジーの方が良かったです。1Rに右を当てて、ヌルマゴメドフをふらつかしていますし。ヌルマゴは上下で攻めてくる人間に対して、苦手にしている部分があります」

──ただし、ゲイジーは強烈なローキックの持ち主ですが。ローでKO勝ちもしています。

「まぁ武術的な理の話は理論であったり、技術の話になりがちですが、そこを突き詰めていくと今回の試合のように──そこを動かしているのは人間性、精神、思考ということになります。人間力が結果として質量を上げるということを感じます。

どこを目指してやっていくのか……何を目指しているのか。不利な試合に挑むというのは、指導をするにあたって非常に役立つことがあります。今回、ゲイジーはもう怯えていました。あのトニー・ファーガソン戦の強さはどこに行ったのかというほどに。なぜ、あのパンチをヌルマゴに打てなかったのか。

ヌルマゴのレスリングと寝技に対して自信がなかったので、あれほどまでにビビってしまったのではないかと思います。つまりは──ヌルマゴの凄まじいレスリング力とコントロール、そしてフィニッシュ力に対し、最悪の想定をしていなかったのではないかと。

試合でビビるというのは、自分を信じることができていないからです。では、どうすれば自分を信じることができるのか──まずは自分にとって不都合なことばかりを想定することです。最悪な状況を想定する。

そうなったときにトレーニングと稽古の違いが見られます。トレーニングは本人が最高のパフォーマンスを発揮するために行うモノです。最高のパフォーマンスが10だとすれば、トレーニングではパフォーマンスが12の人との溝は永遠に埋まらないです。しかし、10の人間が8しかない、7しか出せない状況に追い込めば、10を超えて12、15という力を出せることがあります」

──それが稽古ということですか。

「ハイ。稽古ですが、相当に厳しい稽古です。毎日が憂鬱になるような。ただし、そこを経験すれば試合前の恐怖や緊張はなくなります。緊張やプレッシャーは誰にでもあるからこそ、自分の心も体もぶっ壊れるような稽古をする。ただし、これは1人では無理です。選手と指導者の間にそこまでやる信頼関係があれば勇気を持って上がって行けると思っています。

ゲイジーはNCAAの強いレスラーをパートナーに練習をしていたとも聞きました。ヌルマゴの動きを想定して、そういうトレーニングをしたのでしょう。でも、そういうパズルが上手く組み合わさることは余りないです。

そういう方法論は通じない。方法論を動かすのは人間です。だから、どこまで想定していたのか。稽古の修羅道というのですが、挫折して嫌になるような修羅を何度見たかで、フッと乗り越える瞬間があります。

ゲイジーもレベルの高い練習はしていたはずです。ただし、修羅を見るまでの稽古をしていたのか。していたようには、私には見えなかったです。これは彼が負けたからではないですよ。負けても、それが見える選手はいます。ヌルマゴは子供の頃から、お父さんとやってきたのでしょう。息子だから、ダメなところをどんどんついていたでしょうしね。

ゲイジーがあそこまでビビっていたのは、稽古でそこまで追い込んでいないから。そうなると怖くなってくるんです。この試合で圧倒的にヌルマゴの質量が高くなったのですが、それはゲイジーがそうさせてしまったんです。ゲイジーの質量がいつもと比較して、全くなかった。怯めば、質量は下がります。そうなるとヌルマゴの質量は上がる一方です。

相手が自分にとって、そこまで強いと容易に分かる相手の時は、やはりそういう稽古をしなければならない。それはトップ・オブ・ザ・トップのUFCの世界戦かもしれないし、海外で戦う試合かもしれない。日本の大会でベルトに挑む試合、あるいは2回戦かもしれないです。でも、強大な敵と対することが分かっているなら、自分の限界から始める稽古を行い、乗り越えた自信がつくと試合でそこまでの精神的なプレッシャーには掛からない。そうなることで質量は下がらないです。

相手より自分の質量が低い場合は、相手の質量を上げさせないで戦うことが重要になってきます。つまり、いかに自分の質量を下げないで戦うのか。それは怯まないこと。その怯まないで戦う精神は、自分の限界を超える稽古で養われます。ただし1人では無理です。だからMMAの場合は、チームでやれるのか。そういう稽古をしているようには感じられなかったゲイジーは、大勝ちするか、一方的にやれるのか。そういう選択しか、ヌルマゴと戦うことでなかったように見えました」

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Bu et Sports de combat サンチン ブログ 剛毅會 岩﨑達也 武術空手

【Bu et Sports de combat】武術で勝つ。型の分解、サンチン編─04─「チンクチのかかった状態の突き」

【写真】当たった時の形はサンチンでなくても、状態はサンチン。それが武術のMMAにおける、活かし方だ(C)MMAPLANET

武術でMMAを勝つ。空手でMMAに勝利する──型を重視する剛毅會の武術空手だが、岩﨑達也宗師は「型を使って戦うということではない」と断言する。型稽古とは自身の状態を知り、相手との関係を知るために欠かせない。

サンチン、ナイファンチ、セイサン、パッサイ、クーサンクーの型稽古を行う剛毅會では、まずサンチンから指導する。そんな剛毅會の稽古には站椿が採り入れられている。5種類の型稽古にあって、唯一サンチンのみが意味を吸いて吐くという意味での呼吸を学ぶことができる。

全ての根幹となる武術の呼吸を学ぶことができる──サンチンの解析、第4回──突きを追求したい。

<サンチン解析第4回はコチラから>


(01) 拳を出す時は

(02) ヒジが体側から離れる位置にあるところから、

(03) ヒジを中心に円を描き、

(04) ゆっくりと回転して拳甲が上を向くように打つ。拳先からカラダ全体が一つに繋がった状態、すなわちチンクチのかかった状態の非常に強い突きとなる。✖肩甲骨を意識して打っても強い突きは打てない

✖ヒジが体側から離れる前に拳が回転し始めると、腕の伸びる距離が短くなる

✖拳を高い位置からスタートさせると、弱い突きになる

✖上に向かって突きを出すと、弱くなる。チンクチが掛かっていない状態になっている

【重要】
サンチンで正しい突きの打ち方、腕の伸ばし方を習得すると、実際の試合で使うスピードが乗ったパンチも同じ原理・原則で打てるようになる。「それ以外のパンチは、体が嫌がって打たなくなります」(松嶋)。当たった時の形はサンチンでなくても、状態はサンチンになっている。動作と決め、つまり当たったときにカラダ全体が繋がっているのが空手の命である。ただし決めだけではボクシングや、MMAなど実際の格闘で使うことができない。型で養成した突きをボクシング的な練習で自分のリズムに落とし込むことが必要となる。ここに型を格闘に使う際の難しさがある。型で突きを養成し、ボクシング的練習で自分のリズムに落とし込むことで誰でも強烈かつ実戦的なパンチを身につけることができる

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Bu et Sports de combat サンチン ブログ 剛毅會 岩﨑達也 武術空手

【Bu et Sports de combat】武術で勝つ。型の分解、サンチン編─03─「引くという動きが一番難しい動作」

【写真】この拳を引いた構えのなかに、サンチンを知る要素が非常に多く含まれている (C)MMAPLANET

武術でMMAを勝つ。空手でMMAに勝利する──型を重視する剛毅會の武術空手だが、岩﨑達也宗師は「型と使って戦うということではない」と断言する。型稽古とは自身の状態を知り、相手との関係を知るために欠かせない。

サンチン、ナイファンチ、セイサン、パッサイ、クーサンクーの型稽古を行う剛毅會では、まずサンチンから指導する。そんな剛毅會の稽古には站椿が採り入れられている。5種類の型稽古にあって、唯一サンチンのみが意味を吸いて吐くという意味での呼吸を学ぶことができる。

全ての根幹となる武術の呼吸を学ぶことができる──サンチンの解析、第3回──両腕受けから、最も難しいといえる拳を引く動きを追求したい。

<サンチン解析第2回はコチラから>


✖両腕受けで、ワキの下に拳ひとつ入るぐらいのスペースがないと、手の位置が低くなり、相手の攻撃が入りやすくなる

✖拳が前に出過ぎると、さらに入りやすくなる。顔面だけでなく、禁的攻撃を受ける

(01) 正しい構えだと、非常に遠く感じ攻撃は届かなくなる。禁的蹴りも入りづらくなり、何より安心して構えることができる

(02) 両腕受けから左で突く。突くためには拳を引く動作が必要だが、この引くという動きがサンチンで一番難しい動作になる

(03) 拳を引くヒジをしぼって、力をいれないように引く。力をいれないでも、締まるようになる

(04) 引いた拳の位置は、肋骨の一番下に鉄槌が軽く食い込むように持ってくる

この引いた時に、ヒジがやや内側を向いている。これによって、筋肉が背骨側に締まり、縦と横に筋肉を締めることになる。この筋肉の収縮をヒジを出すことで開放する。骨を動かしていると、筋肉がついてくる動きによって、ガマクがかかった突きとなる

【重要】肩を下げて、ヒジを締める。サンチンでは、どの状態でも重要な点

✖ヒジを引いた時の注意点は肩が上がらない、ワキをあけない、締まらないからといって無理やり締めるようにしない。ヒジが内側を向いていなく真後ろに引かない──という4点だ

✖ヒジを内側に入れようとして、腰を捻ると筋肉の横への収縮が弱くなり力は入らない。腰の横回転で打つと、もともとパンチ力の強い人間のパンチは強く、そうでない人間のパンチは弱い。誰もが強く打てる原理・原則の下、威力のある突きが打てる武術空手の突きとは違う

<この項、続く>

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Bu et Sports de combat Interview アブドゥルラクマン・ドゥダエフ ダニエル・オリヴェイラ ブログ 岩﨑達也

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。オリヴェイラ✖ドゥダエフ「横蹴りバランス」

【写真】肉弾相打つといった消耗戦を制したオリヴェイラ、彼の勝利はドゥダエフの正面と横蹴り、2つのバランスの違いにあった(C)ACA

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑氏とともに見てみたい。

武術的観点に立って見た──ACA112におけるダニエル・オリヴェイラ✖アブドゥルラクマン・ドゥダエフとは?!


──今回は日本や北米なく、ロシアからブラジル人とロシア人ファイターの対戦です。

「まず、この試合は最近のUFCの5分✖5R戦で見られる燃費合戦とは違い面白かったですね。ドゥダエフって、チェチェン人ですよね。チェチェン……カフカスという地域は、僕らにはまだ幻想を抱かせる響きを持っています。ドゥダエフなんて、ソ連崩壊時の極真のチェチェン支部長の名前ですからね(笑)」

──アハハハハ。

「まぁ、こういう選手は強いですよ。ただしドゥダエフはパンチが打ちたくてしょうがない構えなのに、良いのは蹴りという一風変わった選手でした。横蹴りバランスと私は呼んでいるのですが、サイドキックを出せるような構えで。最初はガードが高くて、小さな構えだったのでフック系の選手かと思いましたが……。

そういうフック系の選手かと思っている間は、オリヴェイラの間でした。あまり良いパンチを打っていないから。オリヴェイラは圧力とか余り感じていなかったと思います。それが、いきなり後ろ蹴りをスコンと入れて。その途端に間がドゥダエフになりました。そうすると、オリヴェイラが急にガクンとなって。

その時に気付いたのですが、ボクシングの構えだとあんな風にスムーズに蹴りを出すことはできないんです。前蹴りにしても、回し蹴りにしても。特に彼が器用に使っていた後ろ蹴りなんかは。後ろ回し蹴りも使うし、直線的な後ろ蹴りをよく使っていました。これは横蹴りバランスだと。横蹴りバランスは、骨盤の動きがスムーズになって上手く蹴ることができるんです。フルコンタクト空手とか散打が盛んだからなのか、ロシアにはこういう選手は多いですね」

──確かに北米系の選手では、そういう傾倒の選手は極端なサイドキックを使う選手ぐらいで、あまり見ないです。

「それは逆に横蹴りバランスだと、MMAでも見られる勢いのあるフックとか打てないからでしょうね。横蹴りバランスは……ジョン・ジョーンズぐらいですかね、米国では。TJ・ディラショーなんかは正面バランスでパンチから蹴り、蹴りからパンチをしています。そういう上下の攻撃をどちらも見せることができる選手は、米国ではまだとても少ないです。どうしてもMMAは蹴りが得意、パンチが得意という風に分かれる傾向にありますから」

──そしてドゥダエフは蹴りの選手だったと。

「そうですね。ドゥダエフはパンチから蹴り、蹴りからパンチという風に連係されておらず、完全に蹴りとパンチがバラバラです。そして後ろ蹴りや回転系の蹴りを出すときは横蹴りバランスになっています。

横蹴りバランスは先を取るのに適しています。よって横蹴りバランスの時は自分の間だったのに、彼はパンチを打ちたがっていた。パンチの時は正面バランスになり、そのまま左のハイキックを出した時に、右ストレートを合わされてダウンを喫しました。横蹴りバランスで回転系の蹴りを出している時はドゥダエフの質量が高いですが、正面を向くとオリヴェイラになっていました。結果、ここぞという時にドゥダエフが正面バランスになるので、逆にオリヴェイラが要所を抑えるような試合という風になっていきましたね」

──オリヴェイラの攻撃は、遠くからオーバーハンドを放り込むようなことが多くなかったでしょうか。

「後ろ蹴りを被弾してから、間合が遠くなりました。それからもオリヴェイラのスピニングバックブローの直後に、ドゥダエフが後ろ回し蹴りを狙うなどフルコンタクト空手のような間合で戦う場面もありましたが、徐々にドゥダエフが下がるようになっていったんです。

ダウンもあってバックを取られ、RNCを狙われた。スクランブルの攻防が入ると、オリヴェイラの方が上でした。それもシングルレッグで倒されたときは、ドゥダエフは正面バランスなっていて、オリヴェイラの間だったんです。ドゥダエフは横蹴りバランスから二段蹴りを使うなど入りは良かったのですが、すぐに正面バランスを取ってしまう。そこで勝つなら組みだっていう勢いで、オリヴェイラが飛び込んでいました」

──それでいて、オリヴェイラの腹へのヒザ蹴りで勝負は決しました。

「最後のヒザは完全に顔面だと思ったところで、腹に入りましたね。ただし、チェチェン人なら腹で倒れちゃダメですよ(笑)。お前、そこは耐えろよと。まぁ、あの構えは腹が弱いです。少し前傾、お腹を引いてガードを固める。猫背になっていて、距離は遠く感じるのですが、あの構えは間が完全に蹴りになってしまいます。

それとドゥダエフは正面になった時の技がなかったように見えました。正面になるとテイクダウン、右ストレート、そして最後のヒザ蹴りと、攻撃を受けていました。横蹴りバランスの時と比較して先が取れなくなっている。正面バランスでは武器がなかったからだと思います。

しかしACAは面白いですね。と同時に米国で練習しているロシア人と比べて、ロシアがベースのロシア人選手は強いからこそ、試合の組み立てがない。もう自分の強さを100パーセント信頼している。こういうところでブラジルや米国人選手に遅れを取っているかと感じました──MMAとしては。ただ、元々の強さはロシア人です」

──ACAはUFCに次ぐレベルにあるといっても過言でないです。軽量級のチャンピオン達がUFCに進出し、ピョートル・ヤン、ザビット・マゴメドシャリポフ、アスカル・アスカロフと完全にトップですし。

「日本人選手には、ACAは出るなって言いたいですね(苦笑)。青木選手も以前、ロシアは掘るなと言っていましたけど、本当にそういうプロモーションです。危ない。でも、ここに挑もうとした日本人選手は覚悟決まっていますね。

それと横蹴りバランスなんですが、MMAで相当に使えるはずです。やれることが、かなりあるんです。私たちは70年代、80年代の極真空手だったから正面バランスだったけど、フランシスコ・フィリョやブラジル人は横蹴りバランスでした。

そしてK-1にいってからも、横蹴りバランスからの突きでアンディ・フグをKOしたのですが、キックボクシングを習うようになって正面バランスになると、フィリョのパンチの威力は落ちしてしまって。本当に面白いモノです。股関節の固い人っていうのは蹴りがなかなか難しいのですが、骨盤の使い方で足は上がります。だから回し蹴りだと難しくても、横蹴りバランスにすると色々なことができるようになるんです。で、横蹴りバランスというのはナイファンチなんです」

──そこは非常に興味深いです。是非また、教えてください。

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Bu et Sports de combat Interview ONE サンチン ブログ 松嶋こよみ

お蔵入り厳禁【ONE】松嶋こよみに訊く─02─武術空手「サンチンの稽古で培われた内面を生かすこと」

【写真】黒帯のストライプルが2本になっている松嶋。コレをやって役にたつのか?!(C)MMAPLANET

お蔵入り厳禁──8月21日(金・現地時間)にABEMAで中継されたONE110「No Surrender III」のゲスト解説を務めた松嶋こよみインタビュー後編。

Road to ONE出場がなかった松嶋はMMAファイターがほぼ行うことがない空手の型稽古を採り入れている。フルコンタクト空手でもポイント空手でのない、武術空手の稽古は松嶋に何をもたらしているのか。

<松嶋こよみインタビューPart.01はコチラから>


──ゲイリー・トノン、タン・リーという名前が挙がりましたが、その2人を現時点でのターゲットにしているということですね。

「やはり今すぐに戦って勝てるというプランが頭に浮かばない2人ですし。簡単にそういうモノが出てくる相手ではないです。それこそ、もっともっ積まないと勝てない相手だとは分かっています。だからこそ、この2人と戦いたいんです」

──現代の有明省吾と剛毅會では呼ばれている松嶋選手としては……。

「誰も分からないですよ。その呼び方をしても(笑)」

──大山倍達総裁が極真史上、最高の天才と称したとされる春山一郎という実在した人物をモデルとした空手バカ一代の登場人物であることは一応説明させていただきます。そんななか、あまり武術空手を語ることがない松嶋選手ですが、以前に取材以外での会話のなかで『ナイファンチは型をやっていてもまだ分からないですが、サンチンは掴めてきてMMAで生かせる』ということを言っていましたが、その言葉の真意を教えていただけないでしょうか。

「それは……何が生きているのか、動きや技術面として言葉で言い表すことはできないのですが……一番は僕は目線かと思っています」

──目線?

「ハイ。構えている時の目線、視線が死んでいる時というのがあります。こういうことを話し始めると、MMAの選手たちは『何を言っているんだ』という感じになってしまいますが、僕のなかでは視線が死んでいる時があるんです。

でも構えてフとした時に、ハッと……全部、擬音になってしまうのですが(苦笑)、開いた瞬間にパンチが見える」

──それは姿勢や目の位置が同じであっても死んでいる時と、見える時があるのですか。

「細かいことでいえば手の位置とか、姿勢は違っているのかもしれないですが、見えるんです。心の持ちようもあるかと思いますけど、色々なことが合わさって自分の構えが良くなったと思います。

それこそ今、前傾姿勢で戦っているのですが、そういう時ってどうしても頭は下がります。でも、その気持ちがあるだけで自分が楽になるんです」

──サンチンの構えを取らなくても、サンチンの型の稽古をしていることで、その気持ちを思い起こして活用できるということですか。

「ハイ。サンチンの構えを取らなくても、自分が瞬間的にフッと開いているなという気持ちでいるだけで、自分の状態が良くなっているんじゃないかと感じます」

──それがサンチンを体得できているということなのですか。

「いや、体得できているなんて言えません。全然、まだまだだと思っています。そういう気持ちの部分以外でも、肩の使い方や、ヒジが体側から離れるタイミングで拳を回転させるなど威力のある突きを打つことができるはずなのですが、まだ自分のなかで落とし込めていないです」

──つまりはサンチンで培ったモノを心身ともに威力、力として活用するわけであって、相手のパンチを廻し受けし、虎口のようなタイミングで掌底やパンチを入れるということではないと?

「ここは断言できますが、cです」

──おお、そういう風に言い切れてしまうのですね。あれができると格好良いなとか浪漫を追い求めるのではなく。

「練習の時点でそういうことをやると、それは試合のための練習にはならないです。それこそサンチンの型には、色々な動作、体の使い方はありますが、そこによって培われた内面を生かすことだと僕は考えています。あの型の動きが、MMAに生きるとは思っていないです」

──リアリティと浪漫、秘術の違いですね。そういう夢を見なくてトライできるのが凄いですね。

「やって損はないですから。だって日本人の打撃はキックでもなく、ムエタイでもない。日本にあったのは空手じゃないですか。せっかく日本には空手があったのに、皆はそこを学ばないんだなぁって思っています」

──キックボクシング、ボクシング、ムエタイは内面で生かすのではなく、練習した技術を落とし込むことができますよね。その違いは大きくないでしょうか。

「でもK-1やムエタイの距離とMMAは違うので、そこも習った技術がそのまま生きるというのは別だと思います。だから、個々の競技で習ったことをMMAに落とし込む作業は必要ですし。実際、僕もキックボクシングのジムに行かせてもらってキックのスパーリングをしていますけど、そのスパーがMMAで直接生きると思ってやっているわけではないです……でも、なんでやっているのかな。アハハハハ」

──そもそも剛毅會の武術空手は競技としてのカテゴライズを考えるとフルコンタクト空手でも、ポイント空手でもありません。要は琉球で培われていた競技化、むしろ体育科する以前の空手を探求しているような。

「だから僕がやっている空手の稽古はK-1やキック、ムエタイよりもMMAに生きると思っています」

──例えば松嶋選手のパンチは、低い位置からまっすぐ出ることがあります。それはサンチンで培ったからでしょうか。

「自分では理解していないですが、2月のキム・ジェウン戦で奪ったダウンは岩﨑先生曰く『そうです』。でも自分ではサンチンの突きで殴り倒したという自覚はないです。それこそボクシングもやっているから、できたとも思っていました。ただ後々、映像で見返して見るとヒジを返していたり、ちょっと違う殴り方をしていました」

──サンチンの動きが入っていたと。

「それでも武術って実際には使うモノじゃないような気がしています」

──それが路上の現実を指すモノであれば暴漢に襲われた、切った、刺したということが身の回りにあるほうが危険すぎますしね。

「それこそマインド的なやることで、それが勝手に試合で出たんじゃないかと思います。だから、こういう感覚ってどう説明すれば良いのかも難しいですし、誰もがハマるかといえば全然そうじゃないでしょうし。でも、僕にはそれがハマったということです」

──マインドということですが、メディテーションとはまた違うのでしょうか。

「メディテーションは別物です。武術も格闘技もMMAも、どのスポーツも感情の起伏が試合中で出てしまいます。その部分をできるだけ減らしたくて、僕はメディテーションをやっています」

──その効果の程は?

「自分のなかで精神的な波がなくなってきました。それが空手と良いように融合してきたかと思っています。2月の試合は特にそのように感じました。以前は……それこそAACCに所属していた時期は、ガッと攻めて殴れば良いという感覚で空手をやっていました。結果的に空手が自分の中に入ってきていなかったです。

それが今ではメディテーションとの相乗効果で空手が入ってきて、凄く良い練習ができています」

──MMAをやるうえでどのような稽古も真剣にしていれば無駄はないと思います。ただし、効率的かどうかはある。正解があるとすれば試合で勝つこと。と同時に勝った、負けたで正解、間違いもない。結果と鍛錬によって得る効果、あるいは強化とは別物という難しさがあります。

「だから面白いという見方もできると思います」

──結果ムエタイにも興味があって、土曜日はムエタイに行こうとなるわけですね。

「あっ、でも明日(※収録翌日)は昇段審査があるんです。サンチン、ナイファンチ、セイサン、パッサイ、クーサンクーの型を全てやります」

※剛毅會空手二段に昇段

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Bu et Sports de combat Interview ズベア・トホゴフ ハキーム・ダラドゥ ブログ 岩﨑達也

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。ダラドゥ✖トホゴフ「何をもって有効打と?」

【写真】読者の皆さんにとって、質量という捉え方がまだ困難であっても迫力という言葉に置き換えても両者のパンチの違いは見て取れるはずだ、(C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑氏とともに見てみたい。

武術的観点に立って見た──UFC253におけるハキーム・ダラドゥ✖ズベア・トホゴフとは?!


──ハキーム・ダラドゥ✖ズベア・トホゴフ、非常に興味深い攻防が見られ私はトホゴフの29-28で判定勝ちかと思いました。しかし結果はダラドゥが30-27、29-28、28-29でスプリット判定負けとなりました。武術的にみて質量、間がどうであったのか。岩﨑さんの見立てをお伺いしたいと思います。

「判定に関しては、私もロシア人の勝ちだと思いましたよ。そうとしか思えなかったです。初回と2Rと取った上での3Rの安全策。私は質量が高い選手が好みなので、そういう選手が有利に見えてしまうというのはあるかと思います。対して、MMAというのは質量の高い選手がポイントで負けることがあります。それもMMAだと分かります。そうなるとトホゴフは創りがまずかったのか……と。でも、今回ばかりは初回と2Rでそういう見方は成り立たないのかと思うんです。

確かにトホゴフは体重オーバーです。だからといって、ポイントがマイナスされるということはUFCではないですよね。イエロースタートのようなことは。そうなればどうすれば初回、2Rと落とすことがあるのか。2Rはテイクダウンをして、バックにも回っていた。つまりはポイントメイクもしているのに」

──その通りだと、自分も思いました。例え2Rを落として28-29で負けたのも、そういうこともあるのか……と捉えることもできます。しかし、30-27でダラドゥというのは、意味不明かと。

「おかしいですよね。ダラドゥのカーフキックが良かったとか、ジャブが良かった……トホゴフはバテたという意見もあるようですが、ダラドゥのジャブにしてもトホゴフが打ってくるところに合わせていたり、前に出てくるのを止めているなら有効ですよ。でも、相手のパンチに弱腰になり、それこそ腰が引けたような構えでチョコチョコ出しても、トホゴフも痛くないし、怖くないからそのままにしておきますよ。

有効打ということを考えると、では何をもって有効打とするのですか。それを審判が見ても、分からないからアマチュアボクシングは当たったら全部取るという風になりました。その判断なら分かりますよ、今回の採点も。

でもUFCはダメージ重視で、インパクト、試合のコントロールですよね。ならばダラドゥの勝ちはない。確かにトホゴフが安全策を取ったのは失敗だったでしょう。でも、3Rだってテイクダウンを切られているけど、テイクダウンを仕掛けている。それぐらいのスタミナは残っていますよ。そうやって勝てると踏んでいたんだろうし」

──同じことになってしまいますが、スタミナが切れて足を使ったとしましょう。それでもダラドゥが取ったのは3Rだけかと。

「ダラドゥも声を挙げて、距離を詰める動きはしなかったです。テイクダウンは切ったけど、あんな風にエキサイトしたのは自分が勝っていると思っていなかったからでしょう。どうしようもなくなって、『お前、出てこいっ!!』って怒鳴って。そうじゃないと逆転の芽がないから。ダラドゥはどこが良かったのか。そういう風に見てみると、どの攻撃を挙げることができますか」

──左ボディは良かったかと。

「そうですね。あのタイミングで、あの間合でよく打てていました。でも、あの攻撃だけですね。この試合からダラドゥの見るべきところは。才能は素晴らしいです。終盤のテイクダウンの切り方も、2Rにジャンプしてスイッチしてから左の前蹴りも。ああいう攻撃をされると厄介ですよ。何をしてくるのか、分からない怖さがあります。ただし、何をするわけでもなかった。

ダラドゥは質量の低い選手ではないです。でも、自分の力を生かしきれていない。相手を見て、対策に専念するかのように戦っていました。そういう練習をしてきたのであれば、彼の強さが試合で出てくる練習になっていないと感じましたね」

──つまりは質量という部分でもトホゴフでしたか。

「ハイ。本来は体のバネなどを考えても、ダラドゥの質量が上回っていてもおかしくないです。それだけの素材です。それでもトホゴフの質量が上だったのは、彼は呼吸で打っているからです。筋肉の引っ張りで打っていない。ただし、単発になっていました。呼吸で打ってはいるのですが、そこで一度止まってしまっていました。

対してダラドゥは腰を落として、蹴りから入ろうとします。トホゴフのパンチを良く見て。ただし、その動きで彼の質量は下がっていました。自分の長所を殺し、対策で戦っていたんです。ダラドゥが多少殴られようが、自分の庭に持ち込んでぶっ殺すぐらいの勢いだったら、彼の質量は下がることはないはずです。自分の攻撃で優位に持っていくという作戦だと、そうなっていたかと。ダラドゥが持っている人間としてのパワーは凄いモノだと思います」

──最初のパンチの被弾で、ビビったということはないですか。

「いや、それはビビっていますよ。だから、あのパンチへの対応策でしかない。つまり受け身の戦いだったんです。2Rのトホゴフがノーモーションで打ち下ろした右ストレート、ゾッとしましたよ」

──カーフやローという攻撃も、パンチの距離にしたくないのかと。

「う~ん、でもカーフでもなかったですしね。トホゴフは随分と避けているし、効いていなかった。及び腰でチョンチョンと蹴りやジャブを出してはいましたが」

──先日、人間は手足があるから、手と手足の戦いになると手足が絶対的に有利ということでしたが、この試合では蹴りのあるダラドゥの方が質量が下だったわけでしょうか。

「それはあの時も言ったように、蹴りを使う必要はなくても知っていると問題ないということです。トホゴフのパンチはボクシングではないです。蹴っていないけど、足も生きている。そういうパンチなんです。接近戦で体当たりみたいな攻防になっても、押し返していた。あれはボクシングだけの選手は、MMAでは見せることができない動きなんです。蹴っていないけど、足は生きていました。そうなると使っていたのはパンチだけでも、トホゴフの方が質量は上になります。

5ポンド・オーバーで、ああやって動ける。最後まで体重を落としてないだろうってことで、トホゴフの人間性は疑いますけどね(苦笑)。でも、どっちも強いです。そして可能性としてはダラドゥです。あんな二段蹴りができるなら、普通に蹴れば素晴らしく威力のある蹴りが出せるはずです」

──愛弟子の松嶋こよみ選手は、彼らとやり合えますか。

「本人のやる気次第です。『やってやるよ、この野郎』となればやれます。『噛みついてでも勝つ』と思えばいけます。そういう想いがあれば、こよみの技量だといけます」

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Bu et Sports de combat Interview ゼリム・イマダエフ ブログ ミシェウ・ペレイラ 岩﨑達也

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。ペレイラ✖イマダエフ「理屈でなく乗り」

【写真】パンチが当たるのも、余計な動きをしているから?!(C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑氏とともに見てみたい。

武術的観点に立って見た──UFN176におけるミシェウ・ペレイラ✖ゼリム・イマダエフとは?!


──無駄に動いたり、ドタバタすると質量は落ちるということですが、ミシェウ・ペレイラほど無駄な動きをする選手はいません。その辺りで、彼の質量というのはどういうものなのかと。

「確かに無駄な動きは多いです(笑)。それはね、多いに結構なことです」

──そうなのですか? バック宙をしたり、ダブルレッグで肩を抱えてケージを蹴ってスラム、コークスクリューをしてパスを狙ってバテてしまうこともあります。

「アハハハ。今回の試合も胴回し回転蹴りをして、背中から落ちていましたね。全く、する必要がない動きを。基本、最初の質量はイマダエフの方が上でした。パンチで入る人の特徴として、イチ・ニ、イニ・チのリズムで戦っていて。でも、結果的にイマダエフはボクシングだけでした。

ボクシングからムエタイ、キックで成功することって余り例がないのですが、ムエタイからボクシングでは成功例があるじゃないですか。人間は手足を使うようにできているのだからだと思います。試合で蹴りを使う必要はないですが、蹴りを使えないと蹴りを持っている相手を殴ることはできないです。

マクレガーも関節蹴りや、ミドルを使い、そこからパンチで倒すようにしています。質量もそうですが、両手しか使えない人が両手・両足を使える人と戦うと、間違いない距離は両手・両足が使える人の距離になります。その典型的な試合でした。イマダエフもボクシングしかできなくて、UFCまで来るなんてことはないと思います。でもテイクダウンにも行かないし、ボクシングだけで戦っていました。それではUFCでは勝てないです、厳しかったですね」

──質量でいうと最初はイマダエフだったのが、どの辺りでペレイラの方が強くなっていったのでしょうか。

「開始直後2分ぐらいは大人しかったです。1Rの後半に蹴りの間合いから右が入ったり、後ろ蹴りを入れるようになりました。キックボクシングではないフルコン系の蹴りを生かしていましたね。MMAのように組みが入ってくると、キックボクシングやムエタイのように蹴って・蹴り返すというリズムの攻防には余りならないですよね。対して、ペレイラはカポエイラの蹴りを使っていましたしね」

──ただし、無くても良い動きもします。

「アハハハハ。それは本人に聞いてくださいよ。ただし、私の経験でいえば『こういう蹴りを身につけたから、試合で使うぞ』なんていう気持ちでいると、上手くいかなかったことが多かったです。だからペレイラのようなノリでやっている時の方が決めるような。

その実、色々とペレイラがバタバタやっているのも余裕があるからできているわけですし。余裕がなければ、ああいうことはできないです。無駄な動きはしていますが、2Rでも差し際にヒザを入れて、しっかりとコントロールもできている。際の打撃も理想的なことをしていました。

蹴りが入り始めると、もう初回の中盤から間は全てペレイラです。イマダエフは何もできなかったので。ペレイラからすると、もう好き勝手にやっていました。胴回し回転蹴りで背中から落ちても、イマダエフが何もしないで待っていましたしね。フルコン空手ですら、あの展開で残心を決めると技有りになるというのに。あのチャンスに動かなかった。

ペレイラはブレずに好きにやっていたから……跳んだり、回ったりした結果、上手くいった感はあります。何度も言いますが、イマダエフがボクシングだけやっている限り、胴回し回転蹴りやカポエイラのような蹴りを使っている相手に対しては動けなくなり、そんな状況だとパンチも被弾してしまいます。彼のボクシングは相殺されてしまったのです、間を失うことで」

──岩﨑さんの教え子が、「先生、僕は楽しい試合がしたいんです」といってバック宙や前転を試合中にしていると、どうしますか。

「放っておきます(笑)。それで良い時もあるからです。一番いけないことは、習ったことをやろうとすることです。習ったことが自分の指揮系統のなかに入って、考えることなく使っているなら構いません。そうでないのに使おうと意識することで、居着きます。先生に習ったから使おうと思うなら、使わない方が良いです。

車を運転するときに、バックミラーやドアミラーを確認する。それは自分の指揮系統にあって、安全に車を運転するためにです。それがね、横に教官が乗っていて見ないと怒られるからミラーを確認しているようじゃ、運転なんてできないということですよ」

──なるほどっ!!

「ペレイラは誰の指示も受けず、自分でアレをやっていたんです。今、私もセコンドに就く時は『何かをやらせる』という意識はないです。何が起こっているのかを見るためにいる。相手の腹が効いているのに、気付いていないなら『腹を攻めろ』と指示を出します。指示というのは、後付けで良いと考えています」

──宙返りも?

「ハイ。ペレイラのバック宙はありなんです。ケージの中に入った時、選手は練習のときのように思った通りに動けないですよ。そして試合中に我が身に起きる、あの緊張は練習では経験できないです。だからこそ、試合になった時に大切なのは理屈ではなくて、心の持ちようなのです。ノリとかヴァイブスです。ペレイラはそういうヴァイブスなんです。

あんなことをしているから、脳で考えて動いているじゃない。だからヒザもパンチも入る。脳で考えて動く、それでは遅いんです。打つ、蹴るという意識の先に動かす。松嶋こよみがインドネシアでキム・ジェウォンに勝った時は右を打って、左で倒そうとしていました。そうしたら、無意識の右が当たった。そういうことなんだと思いますよ、ペライラのヒザも。

ペレイラは何に依って戦っていたのか。ノリなんです。それが一番怖いんです。ノリすぎると、グラウンドの相手にヒザを入れて反則負けになってしまいますが(※ディエゴ・サンチェス戦)。あのタイプの選手は上手く行った時と、失敗した時の差は激しいと思います。ただし、あんなことは5分✖3Rですら持たないのに、5分✖5Rでは絶対にできないです。仮に世界戦まで辿り着き、カマル・ウスマンを相手に宙返りをするなら、もう国民栄誉賞です(笑)」

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Bu et Sports de combat サンチン ブログ 剛毅會 岩﨑達也 武術空手

【Bu et Sports de combat】武術で勝つ。型の分解、サンチン編─02─「力を入れるのではなくて──」

【写真】サンチンの動きで、MMAに勝てたとしてもタマタマです。ただし、サンチンを習得してMMAの戦い生かせることは、確実にある (C)MMAPLANET

武術でMMAを勝つ。空手でMMAに勝利する──型を重視する剛毅會の武術空手だが、岩﨑達也宗師は「型と使って戦うということではない」と断言する。型稽古とは自身の状態を知り、相手との関係を知るために欠かせない。

サンチン、ナイファンチ、セイサン、パッサイ、クーサンクーの型稽古を行う剛毅會では、まずサンチンから指導する。そんな剛毅會の稽古には站椿が採り入れられている。5種類の型稽古にあって、唯一サンチンのみが意味を吸いて吐くという意味での呼吸を学ぶことができる。

全ての根幹となる武術の呼吸を学ぶことができる──サンチンの解析、第2回を行いたい。

<サンチン解析第1回はコチラから>


足の幅は肩幅より少し広く取り、爪先をやや内側に向け、同じ方向にヒザを向け両腕を胸の前で交差させて両腕受けの姿勢に。この構えを取ることで後ろや前、横から押されても崩れない強い姿勢となる。

ヒザを曲げるのではなく、同じ方向に向けることでヒザに力がある状態となる。前足のカカトと、後ろ足の爪先が同一線上となるよう気を付ける。『この時、前足のカカトと後ろ足の爪先が延長線上で交わる地点を三角形の頂点となるように意識する。この三角形の頂点を意識することが、続く動作で非常に大切になる』。

✖爪先が内側に向き過ぎると、押されることで崩れてしまう弱い姿勢に。

拳は起式の際の下げた肩の高さに。ワキは拳が一つ入るぐらいのスペースを創る。『両腕を胸の前で交差させる時に腕を絞ることで、体の中心のある強い姿勢がとれ、目も見えるようになる。サンチンの形によって内側のエネルギーの大きな違いが生じるので、腕を絞る時も力を入れて無理に絞ることは厳禁』。

【最重要ポイント】サンチンの型で最も大切なことが力を入れないこと。力を入れて取られた姿勢は、両腕受け拳が内から外に向いて動いた場合に外に行く力は強いが、逆の方向には弱くなる。力を入れるのではなくて、型から力が出てこなければならない。そうなると逆の方向へも中心ができることで強い構えとなる

✖ワキが空き過ぎる。ワキが拳一つ以上空くと、ここでも体の中心を失い、横からの力に弱い構えとなる

✖ワキが閉まり過ぎると──後ろからの力には強いが、前方からの力に弱くなる

<この項、続く>

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