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Interview Special ブログ ヘナト・モイカノ ラファエル・フィジエフ 平本蓮 青木真也

【Special】月刊、青木真也のこの一番:12月─その弐─フィジエフ✖モイカノからの「平本蓮とローカル化」

【写真】なぜ欧米ではキックやムエタイで実績を残している選手が、次々とMMAで成功しているのだろうか。いや、逆になぜ日本にはあまり見られない事象なのだろうか (C)MMAPLANET

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

2020年12月の一番、第ニ弾は12日に行われたUFC258からラファエル・フィジエフ✖ヘナト・モイカノについて語らおう。


──青木真也が選ぶ2020年12月の一番、2試合目をお願いします。

「ラファエル・フィジエフとヘナト・モイカノの一戦ですね。フィジエフはUFCデビュー戦でマゴメド・ムスタファエフを相手にこけたけど、それからは連勝していて。勝ち方が派手で、ROAD FC時代(※2017年6月10日キム・スンヨン戦、同年12月23日ムントスズ・ナンディンエルデン戦)の勢いの良さが出てきましたね。

モイカノは去年から階級をライト級に上げてきているのですが、それにしても左ボディフックから入るって凄いです。あんなことをMMAでできるの? 怖くないのって思いました」

──フィジエフはタイや欧州で50戦近いムエタイやキックやムエタイの経験がありますが、MMAでもあの距離で打撃戦ができるわけですね。

「キックなら分かります。そして、MMAでも以前より重心が高めのスタンスを取る選手も増えてきました。でも左のボディから入るって、顔が空くのに。相手の奥の手側で、右ストレートを合わされるリスクがある。それをMMAグローブでやってしまう度胸は凄いと思いました。

言い換えると自信があるのでしょうね。最後も左から右、そして左で倒しました」

──最後の1発は、モイカノは全く見えていなかったです。

「結局、あの最初の左の踏み込みがあるから右を合わせて、また左が出せる。アレは日本人にはできないと思いましたね」

──日本人はできないですか。

「できないです」

──例えばですね、フィジエフだけでなく相当な立ち技のキャリアのある選手がMMAに転じてきました。ビッグネームでなくても、そういう選手は組みと寝技を消化して中間距離で打ち合って、プロモーションやファンからも受ける戦いをしています。日本でK-1などキックやムエタイで、ガンガンやっている選手がMMAに転向したら、それも可能ではないでしょうか。

「できないことはないと思います。K-1の話になると、打ち合いなさいという戦いだけど、本当に一流は貰っていないですよね」

──それはMAX時代からそうでした。

「それでも戦い続けているとアンディ・サワーとかダメージが蓄積していますけど、魔裟斗はパンチのある選手に対してロー勝っていて。パンチ勝負で消耗しなかったです。あのルールで本当のトップは貰わない。今も野入選手とか、貰わないですよね。

言い方は悪いけど、下っ端というか抜けきれない人は技量でなく漢気で魅せていますけど、トップの人は貰っていないです」

──では明日の大晦日に平本蓮選手がMMAデビューを果たしますが(※取材は12月30日に行われた)、青木選手はどのように考えていますか。

「平本蓮選手は打撃の使い手としては神憑っていると思います。特A級です。これは岩﨑(達也)さんの武術空手のところと重なってきますけど、でもMMAっていうのは総合的な打撃だから。

組技があることによって、組み技の圧力が加わったところでの打撃です。だから平本選手が仰る『MMAの打撃は俺から見たら素人だ』という理屈は分かります。それは仰る通りです。でも組み技が入ったら違うんだせ──というのはあります」

──しかし、そんなことはもう第1回UFCで分かったことではないでしょうか。その後ストライカーが柔術、さらにレスリングを習得し、ある程度出来上がったスタイルを皆が学ぶ時代になった。結果、基本中の基本を皆が忘れてしまうのですか。

「そうレスリングの圧力がところで戦っているという部分が、なぜか抜け落ちている。いや分かっているようで、まだ分かっていないのでしょうね」

──そこを理解し、それこそフィジエフやイスラエル・アデサーニャのように消化すれば平本選手だけでなく、日本の立ち技選手もMMAで活躍できる?

(C)t.SAKUMA

「そういう話にはなるのですが、そんなに簡単に組み技は消化できないですよ。ホントに本気ならないと。MMAは1+1が2の世界じゃないですから。

競技として真面目でMMAを見ないと。真面目に見ていない人は、本当には理解できないです。本当に格闘技を分かっていて、やっているなら自分がUFCとか口にできないって分かるはずです。酷いことを言うけど、僕は道化として見ちゃっている部分はあります」

──青木選手の道化というのが、決して蔑む言葉だとは自分は思っていません。存在感を認めているということで。

「ハイ。で、あの打撃があって真剣に組み技に取り組めば、今の打撃を評価する傾向にある世界のMMAで勝てるスタイルで戦えます。ただし、簡単にそうはならんですよ。

ロシア、ブラジル、米国、海外の立ち技の選手が、それができるのはキックとMMAが地続きで、そのMMAがUFCと地続きだからだと思います。だから本気で学ぶ姿勢を持てます」

──対して、日本は……。

「現状は地続きじゃない。日本国内で完結するわけじゃないですか。ちょっと喋りが上手くて、トラッシュトークが出来る。ドン・ドンって打ち合いができれば完結するから。それで完結しても良いんですよ。でもMMAとしては、変わってきますよね。

今、情報が全て平等に与えられたことでグローバルな資本主義がコネクトしました」

──……、?

「つまりどこにいても誤魔化しがきかないモノが出来上がってしまったということです。それは僕がDREAMを戦っている頃からで。僕のレコードは世界中の選手とネット上でリンクするようになった。

だから未知の強豪なんてモノを興行側も創ることができなくなりました」

──ハイ。逆に情報が多すぎて、未知ではなく……我々が追い切れないという意味で、無知の強豪がいくらでもいます。

「それが2020年、日本の格闘技は完全ガラパゴス化を進めました」

──そこにはコロナの影響で外国人選手を招聘することが困難になったという事情があるかと思います。ただしUFCもBellator、ONEもBRAVE CFやUAEWもグローバルのなかで活動を続けている。国内スポーツを見れば契約して日本に長期滞在がベースではないところでいえば、モータースポーツは懸命に欧米と行き来し、リングしている。グローバル経済の中に踏み止まっています。

「でも日本の格闘技はビジネスとして、グローバルなモノが一切通じなくなった。そのメリットもありますが、強さの追求という部分ではデメリットの部分も同然あります。その危うさを十分に感じています。危うさがあるなかで、ガラパゴスをつくった人達が幸せを享受している感じです。海外に出向く、一部の選手を除いて……今の日本の格闘技は

いや、全くフィジエフの話ではなくなってしまいましたね(笑)」

──いえ、しっかりと地続きの話です。頂戴させてもらいます(笑)。

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Interview Special オレッグ・ボリソフ シャミル・ニカエフ ピョートル・ヤン ブログ マゴメド・マゴメドフ マテウス・マトス ルスタン・カリモフ 青木真也

【Special】月刊、青木真也のこの一番:2020年12月─その壱─マゴメドフ×マトス「レブニー的Bellator」

【写真】超ド級レスラーがベラトール・バンタム級戦線で如何に活躍していくのか(C)MMAPLANET

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

今月は変則的に番外編からお届けしたが、今回から従来の形式通りに、背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。

青木が選んだ2020年12月の一番、第一弾は10日に行われたBellator254からマゴメド・マゴメドフ✖マテウス・マトスについて語らおう。


──青木真也が選ぶ2020年12月の一番、最初の試合をお願いします。

「マゴメド・マゴメドフ✖マテウス・マトス戦です。笑っちゃうのがマゴメドフだけでなく、相手のマトスもACBで戦っていた選手なんですよね。ピョートル・ヤンに負けてACBでは2勝1敗とかで」

ピョートル・ヤン✖マゴメド・マゴメドフ(C)ACA

──対するマゴメドフはヤンに勝ってACBバンタム級王者になっています。

「そこ、やっぱり引用しますよね。でもピョートル・ヤンに負けてベルトを失っていることは強調しない」

──それは試合を盛り上げるために、ピョートル・ヤンと1勝1敗、勝ったのは接戦で負けたのは完敗……とはしないですよね(笑)。

オレッグ・ボリソフ(C)ACA

「アハハハ。そしてピョートル・ヤンに勝っているから、バリバリの殴り合いができる選手だと思われていたかもしれないけど、超ド級のレスラーですしね(笑)。ACAとかチェックしていない人は、どんなロシア人が出てきたのかって楽しいだったからもしれないけど、実際は試合が跳ねる系じゃない。

試合内容だとオレッグ・ボリソフやルスタン・カリモフの方が面白い」

──その両名とヤン、マゴメドフでACBバンタム級四強でした。

ルスタン・カリモフ(C)ACA

「ハイ。で、試合でいえばピョートル・ヤン、ボリソフ、カリモフの方が面白いんですよ。ただ試合は跳ねないマゴメドフですけど、ボディクラッチからレスリングは抜群に強いです。襷にしなくて、ボディクラッチが。

エスケープを絶対にさせないし、スクランブルを起こさせない。そういう堅実なレスリングが強い。ヤンとかなんでも強いじゃないですか。UFCの選手ってレスリングだけっていうのはもう見られない。ただし、ここまでレスリングが強い選手はいるのか。

一点突破で何でも強い選手とやってどうなるのだろうかっていうぐらいレスリングは強いですね。ロシアのレスリングでいえば、ブラジル人のACAフェザー級王者のフィリッピ・フロレスが計量オーバーして。そのフロレスにKO負けしたマラット・バラエフ……あのユサップ・ライソフに負けている選手かんですけど、バラエフも打撃に特化しているのに相手がノヴァ・ウニオンのストライカーになると、一気に組みに行ったんです。

ああいう試合を見ていると、ロシア人ってフリースタイル・レスリングやサンボが強いから打ち合えるというのを表していると思います。

まあバラエフは45歳だけど、これから肝になるのはヤングイーグル(※ACAの人材育成大会)出身の選手かと。バラつきがあっても、あそこから抜けてくる選手は強いですよ」

──フライ級王者になったアズマット・カレフォフとか、ヤングイーグル出身ですね。

「あの春日井に勝ったヤツですね。ロシアは篩落としができる。ヤングイーグルで鍛えられた人間が勝ち残ると、やはり強いですよ。でも、そんなレスラーで試合は地味なマゴメドフがマトスと戦うとかっていうのは、ビヨン・レブニー時代のようですね」

──最近の兆候でいえば意外なマッチアップでした。

シャミル・ニカエフ(C)BELLATOR

「ウェルター級のシャミル・ニカエフとか、なんか投入していますしね」

──ニカエフは本来はライト級の選手で、ロシア勢は世界中を侵食しています。そのマゴメドフは、アン・アルタチュラ政権に挑むことになりますが、ベラトールのバンタム級戦線は大晦日に復帰する堀口恭司選手も元チャンピオンで強力なタイトルコンテンダーです(※同取材は12月30日に行われた)。

「堀口選手はケージでも大丈夫ですよね。朝倉海選手は、そこは分からない。堀口選手と朝倉選手が同じ相手10人とやるとアベレージで勝率が高いのは堀口選手だと思います。でも、朝倉選手の方が派手な勝ち方はできる。

だからこそ、この2人の試合は完成度の高さでいえば堀口選手だと思っています。マゴメドフと戦うことを考えても、堀口選手はダリオン・コールドウェルに勝ち、UFC時代にはアリ・バガウティノフに勝っていますからね」

──既に超ド級のレスラーとロシアンに勝っていると。

「堀口選手はラウンドマストでも足が使えて打撃があるから、相性は良いと思います。大晦日にケガ明けでどういう試合ができるのかは見る必要がありますが、堀口選手がマゴメドフやアルタチュラと絡むととても面白いでしょうね。

そこはスコット・コーカーのベラトールですけど、マゴメドフなんてビヨン・レブニー時代のベラトールの面白さでもあるし、興味深いですね(笑)」

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Interview ONE ONE Collision Course ONE115 Special ブログ ヨッカイカー・フェアテックス 和田竜光 青木真也

【Special】月刊、青木真也のこの一番─番外編─ヨッカイカー✖和田竜光─02─「武道、武士道とは」

【写真】1月1日から青木が取り組んでいるモノは、決して武道ではない。青木は武士でも武道家でもなく、競技者だ (C) MMAPLANET

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2020年12月の一番──だが、ここでは本来のピックアップされた3試合からではなく、いきなりの番外編から──12月18日に行われたONE 115で行われたヨッカイカー・フェアテックス✖和田竜光戦について語らう=後編をお届けしたい。

判定に理がない。だから極めろという青木真也の真意は見えてきキーワードを青木は話した。

<青木真也のヨッカイカー・フェアテックス✖和田竜光論Part.01はコチラから>


──それにしても、どう飲み込めば良いのかという判定ですね。

「どう勝つかのっていうのは見えづらいですよね。もうジャッジ次第になって。例えばエリック・ケリー✖田中半蔵はどう思いました?」

──半蔵選手の勝ちです。

「じゃぁ、安藤晃司✖ティモフィ・ナシューヒンは?」

──試合直後は絶対に安藤選手だと思っていました。あの時は大会後にマット・ヒュームとすれ違った時に、『どういうこと?』って尋ねたんですよ。そこでテイクダウンはダメージを与えていないっていう返答があり、『あぁ、そういうことなんだね』と。その後、ONEは裁定基準を公にしましたよね。若松佑弥✖ダニー・キンガド、内藤のび太✖ジョシュア・パシオ戦後に。

「実は分からない判定はかなりあったんです。ただ、それも日本人が絡んでいるから覚えているだけで。きっと僕らが忘れてしまっている外国人同士の試合でも、あるんですよ。

判定勝ちの計算ができないということは、裏を返すと『行け』ってことなんです。だから、武道だろうって(笑)」

──そこで、武道が来ますか(笑)。私には武道って分からないんですよね。武術と違い、武道とされるモノには競技会があるので。

「武道とかって完全に言葉遊びじゃないですか。そもそも曖昧なモノだし。柔術は武道か?とかって話題になることがあるけど、そんなのどっちも良いじゃん(笑)。

嘉納治五郎が柔道を武道って言いだしたのも、社会に受け入れられるためですからね。武術っていうと前時代の野蛮なモノだから戦闘に関わる者を教育に採り入れるときに、武道とした──そういう教育者ですよね」

──と同時にスポーツの開祖かと思います。

「頭が良い人だから、プロモーションに長けていた。だから武道って凄く曖昧な言葉で。武士道とか武道って皆が言うけど……武士道なら葉隠れなの? 新渡戸稲造なの?って話で。君、どっちのことを言っているの? 言っている人によって違うわけじゃないですか」

──とはいえ、和田選手の敗北に関して青木選手が武道という言葉を使うのは、ONEのいうマーシャルアーツという言葉を斜に構えて引用しているということですよね。

「そうですよ(笑)。『だって、武道なんでしょ』って(笑)。で、武道って何? どういう系譜なの?って」

──極めに行くことが武道ということではなくて……。でも、そう書くと極めに行くことが武道かと思う人も出てきてしまいますよね。

「出てくるでしょうね。でもONEだけじゃなくて、武士道って良く使われるじゃないですか。そういう精神性みたいな話を持ち出すと、戦争するしかないですよ。戦争する時に、皆をコントロールするために使った言葉なんだから。

だって普通に生きていると、仇を討つなんてしないですよ。それを圧倒的に人口が少ない武士階級の人間が、自分たちの支配力を強めるために創ったのが武士道ですよ」

──人口比でいえば7パーセントの武士が、8割以上の農民を抑えるために。実は外国人の格闘技関係者と話している時にサムライの子孫とか言われるのですが、たまに『日本の殆どがサムライではなく、ファーマーの子孫なんだよ』って話すと凄く場が白けてしまうんですよね(笑)。

「アハハハ。だって武士道のような規範意識を持っているかと思われるけど、そんなものはないですからね。規範意識がないから、持ち込んだわけで。貞操観念とかも、そうですよね。無いから戦後に持ち込む必要があった」

──それにしても、武道という言葉の解釈は難し過ぎます。明治時代に時代遅れとなった武術に関しては、現代社会においては試合がないモノ。使わないことが一番良いという、技術を磨いている。試合には出ないし、イザコザは避けるというのが私の理解です。

「まぁ護身ですからね」

──ヨーイ、ドン!!で1✖1で戦うということが、もう武術とは違ってきますからね。集団で稽古をしたり。

「武術になると水掛け論ですよね。武術的に誰が一番強いのかっていう話になると、それは米国大統領だろうって。すげぇ下らない話になってくる(笑)」

──その通りだと思います。身も蓋もない話になります。

「守る者がいないヤツが一番強いとかね。だから僕らのやっていることに──美しい精神性とか持ち込まれると、怖くて……」

──ケージで戦う青木真也は武士ではないですしね。

「ハイ。競技者です。だから和田さんの試合に関しては、競技者としてはONEという場では、圧倒的に攻めないとダメだということが可視化されたんです。ずっと格闘技をやり、見てきた俺ですら全く判定基準が分からないんだから。

それと判定は覆らないと言ったんですが、サゲッダーオ(ペットパヤータイ)は勝った試合があとから覆っていましたね。あとから負けにされた(※2018年6月のマー・ジャワン戦)」

──ハイ。ジョルジオ・ペトロシアンとペットモラコット・ペッティンディーアカデミーの試合は、ペトロシアンの負けからノーコンテストになって、再戦でペトロシアン勝利というのもありました。これって身も蓋もないのですが、競技、武道でなく武術っぽくないですか(笑)。

「もう分かんないですよ(笑)。よく分からないから、仕方ねぇなぁ──圧倒しろ、極めろって話なんですよ」

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Interview ONE ONE Collision Course ONE115 Special ブログ ヨッカイカー・フェアテックス 和田竜光 青木真也

【Special】月刊、青木真也のこの一番─番外編─ヨッカイカー✖和田竜光「答え合わせができない」なら

【写真】MMAとしてはあり得ないとMMAPLANETでは評した一戦について、青木が深くメスを入れる (C) ONE

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2020年12月の一番──だが、ここは本来のピックアップされた3試合からではなく、いきなりの番外編から──12月18日に行われたONE 115で行われたヨッカイカー・フェアテックス✖和田竜光戦について語らおう。

青木ならではの視点、全体を俯瞰しつつ、局地的に仰望する興味深い話が聞かれた。


──業界を騒然とさせた和田選手のヨッカイカー・フェアテックス戦の判定負けですが、「青木選手は一本を取らないと。武道は」という感想をツイートしていました。

「ネット上で関係者の人が怒っていたじゃないですか。でも、あの反応はもうこの試合が判定がおかしいからだけでなくて、2020年の状況を色濃く反映していたかのように思います」

──というのは?

「コロナで自粛したり、不条理なことを経験してきて。皆が政府の対応とかに不満を持っている。加えて関係者の人は、今のONEの対応に『なんなんだ』という感情があるから」

──アハハハハ。

「そこに加えて不条理っぽい判定結果になったから、火がついたと思います」

──なるほど。なぜ青木真也の試合が10月に組まれなかったんだ。なぜ、日本人選手の試合は録画枠が多いのか。なんだ、和田の対戦カードの変更は?という感情があるわけですね。

「そうなんです。あの後、試合は2回ぐらい見直したのですが……、おかしいといえばおかしいです。でも平等な範疇ではあります」

──平等ですか?

「平等の範疇です。和田選手も何もしていないといえば、何もしていない」

──1Rにバックマウントを取って殴り、2Rもテイクダウンがあった。

「それを攻勢と採るのかっていう話でいうと微妙ですよ」

──いやヨッカイカーの攻撃との比較論でいえば、バックとパンチはよりフィニッシュにより近いです。ヨッカイカーのローよりも。

「ローを採られてもおかしくないよって話ですよね」

──それはMMAとして見て、ですか。それともONEだから、ですか。

「いや、ONEだからですよ」

──そこなんですよ。ONEだからあり得るという意見が当然になると、じゃぁONEのMMAって何なのっていうことですよね。修斗でチャンピオンになったらONEと契約。でも修斗のチャンピオン、ヨッカイカーの戦い方で勝っていない。なら、あの判定で勝てる選手がONEに行かないと。あくまでもONEのMMAであって、他のMMAとは違ってきます。

「それをいうなら、修斗とONEは同じルールでやらないと。もう、そこからですよ。おかしいのは。この話題とは関係なくありますよね」

──はい。ONEへはユニファイドでなく、ONE判定で勝てる選手が行くべきかと。ONEだと魚井✖田丸は、魚井選手の勝ちです。ならONEへは魚井選手のような選手がいくべきで。

「う~ん、MMAの定義が違いますよね。確かに判定はおかしいですよ。でも、和田さんが文句を言える筋合いじゃない。文句を言っても覆られないんだから。

まぁ勝ちですよ、和田さんの。MMAなら。でも文句をいっても、ジャッジもONEも変わらない。試合をするなら勝つ、そうでないと試合に出ない。出て負けて、文句を言ってもしょうがないから」

──そこで青木選手は極めないといけないというロジックです。

「極めないと負けですよ」

──なら一本、KO決着でなければドローにすべきで。判定決着があるのに、一本、KOでないといけないというのは違うかと思います。判定勝ちがあるなら、判定勝ちをしっかりと裁けるジャッジがいないと。

「そこでいうと判定っていうモノ自体が、決められないモノを決めるという行為で。決着しないモノの勝ち負けを決めている。だから、そもそも判定になった時点で何かされても『仕方ない』ことなんです」

──では青木選手は江藤選手との試合で判定負けになっても納得できる?

「仕方ないです。それも含めて強さ。結局、勝ったヤツが強い。変な話で、あってはいけないけど、ジャッジが非難されるような判定でも勝てば良いわけじゃないですか。

だから判定で負けたということは、相手の方が強かったってことですよ。一本、KOでなくてもヨッカイカーが判定で勝ったということは、あの日はヨッカイカーのほうが強かった」

──う~ん……、MMAとしてONEだからあり得る判定でも──ということですね。

「ハイ。だから競技者として、極めないといけないと思っています。ジャッジをそこまで信用していない。だって分かっていると思えないから。

そしておかしな判定はONEだって、修斗だって、パンクラスだって、UFCだってある。同じです」

──ONEはもともとユニファイドと違う裁定基準ですが、そこをも逸脱した感はぬぐえないです。それ以前の微妙な裁定でなく、あの裁定には理が見えない。

「確かに、理解はできないですよね。内藤のび太✖ジョシュア・パシオの時は内藤がコントールして、パシオは殴っていた。ONE裁定だとパシオだという答え合わせができた。でも、和田✖ヨッカイカーは答え合わせができない」

──答が合わないですからね。だから、ONEならあり得るっていう意見は今回は許容できなかったんです。格闘技って、好きな人間にとって理屈がないと。それがないと、ただ殴った、蹴った、投げたってことで終わりですし。

「ハイ、分かります。理屈があって勝負論が成り立つ。それが、あの試合にはなかった。となると──理屈がないんだから、何されるか分からないって言う気持ちで戦わないと。

それをね、ジャッジを変えろとか、あんな判定あり得ないって選手側が言ってもしょうがないんです。そういうところで戦っているんだから。極めるか、圧倒するしかない。覚悟決めるしかないんです。

アレであり得ないっていっているファイターや関係者はちょっと甘いなって思います。勝負師としてジャッジのせいで負けたとか口にするのは。○○のせいで負けたって言っちゃだめなんです」

──自分は仕事として、そこはやはり納得できないですね。あの判定はありえない。

「いや、それは記者として言い続けてください。報じる立場は好きに言ってください。むしろメディアは自浄作用というか──。浄化する作業が必要だから。そこは重要だと思います。でも、選手は勝敗を他人のせいにしちゃダメです」

<この項、続く>

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Interview ONE SARAMI Shooto Special ブログ 大塚隆史 岡田遼 青木真也 黒部三奈

【Special】月刊、青木真也のこの一番:番外編─ONE、修斗、矛盾「自分で自分の首を絞めている」

【写真】キレキレ、切れる直前か (C)MMAPLANET

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

ここでは番外編として、本題から外れ──最近のONEと修斗に見られる矛盾を話題に──MMAを愉しみたい。


──ONEではアンジェラ・リーの妊娠にともないベルト返上という手段を取らず、妊娠を女子選手のキャリアを脅かすモノとしませんでした。私は素晴らしいことだと思いましたが、男女間の違いはない。人種間での違いもない。なのでブラジル人同士の世界戦があっても然りではないでしょうか。

「国籍とか人種で差別がないという理屈は分かります。ただしマーケットの有利不利はどこにも存在しますよね」

──では、年齢はどうでしょうか。UFCに通じるのですが、年を重ねていても実績を残す選手がいます。例えば修斗で女子スーパーアトム級王座が創られ、黒部三奈選手が初代チャンピオンになりました。でも、彼女の契約はなっていません。

「そこに関しては年齢が増しても、勝てば上にいけるのは平等だと思います。黒部の話で語ると、『勝てば契約』の条件を修斗とONEが互いに握っていなかった。日本側のマネージメントの弱さも、ONEが年齢云々で契約するのかどうだかという以前に感じちゃいますね。

プロモーション側としては、年齢って客観的に見て上がり目があるかないか──だし。ビジネスでも実力的にも。それでいうと斎藤裕だったそうじゃないですか」

──斎藤選手の場合はONEとの取り決めがなって以降、防衛戦がなかったのでシステム的には契約しなくても構わない状況だったのでしょうが、パンクラスとの王者対決もなく、結果的にRIZINでブレイクをしたのでONEと修斗のパートナーシップって実情はどうなのかってなりますね。

「そうなるとパンクラスとのパートナーシップはどうなったのかって(笑)。もう、こうなると憲法○条の解釈みたいな話に近いですよね。それぞれがそれぞれの言い分があるって感じで、外から見てよくわからない」

──キレーごとをいうなら、臭いモノに蓋をすると矛盾が生じます。『僕、家族が大好きで』って言って他でネェちゃんと遊んでいたら矛盾だろうがって(笑)。

「アハハハ。そこで修斗の暫定王座ですよ。180日以内に正規王者と試合が組まれなければ、自動的に暫定王者が正規王者になるとかっていう規定があるって……岡田が言っていたけど。そんな規定作って、何を自分で自分の首を絞めているんだって思いますよ(笑)。自分たちでルールを決めて苦しくなるなら、作らなければ良いのに」

──王座というものは、興行の売りですからね。暫定王者があっても、暫定五輪とかないわけで。

「そうです、そうです。商売です。商売っていえば良いのに。俺たちはキレーだって言っていて商売をするのは、なんか嫌ですね。だって商売ですからね。

キレーごとがあるから大塚が戦いたいと言って、暫定チャンピオンの岡田がやるよっていえばおかしくなっちゃう。ルール上、岡田は正規チャンピオンの佐藤将光としか戦えないわけだから(※取材後、佐藤が修斗世界バンタム級王座を返上し、岡田が正規王者になった)。

で岡田は解説席で困った顔をしている(笑)。だいたい安藤と大塚を環太平洋王座を賭けずに組んだことで、ストーリーがメチャクチャになっていますよね」

──そこを実況の河内さんが、なんとなくまとめようとしたら青木選手が突っ込んで(笑)。

「でもアレっておかしいし、岡田が可哀そうじゃないですか」

──ただ実況中って何か意見の相違があっても、そこを突っ込むと会話がぎくしゃくするので、なんとなしに流すことが多いのが従来の流れで。

「いや、なんか僕──思ったんです。ランキング、ランキングって言っているけど、高野さん(SARAMI)が杉本さんに勝っても誰もいないじゃんって(笑)」

──解説って大会を盛り上げるもので、実況に水を差さないですよね(笑)。

「だって修斗のやっていること、おかしいし(笑)。困っている岡田を見ていると可哀そうになっちゃって。言われっぱなしだと損ですよ。自分たちでルールを決めて何やってるんだろうなって(笑)」

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Interview Special ブログ ミゲール・バエサ 佐藤天 青木真也

【Special】月刊、青木真也のこの一番:11月─その参─ミゲール・バエサ×佐藤天「天の続きを見たい」

【写真】えげつない領域に入りつつあるUFCウェルター級戦線で、佐藤天を見続けたい (C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2020年11月の一番、第3 弾は28日に開催されたUFC ESPN18からミゲール・パエサ✖佐藤天の一戦を語らおう。


──11月の青木真也が選ぶ、この一番。3試合目は?

「佐藤天ですね、パエサと戦った試合です。あの試合は色んな人が色々なことを言っていて……。左を完封された──みたいな意見を聞きましたね」

──結果的にそうなるのかしれないですが、パエサは相当に警戒しているように映りました。

「ハイ、警戒されると試合にならないという見方でした。ただ、僕はちょっと違っていて。やっぱり、佐藤天は強くなっています。あれだけプレッシャーを掛けることができていたんだから。

手数が少ないとかっていう意見もあるけど、2戦目のベラル・モハメッドと戦った時も圧力を掛けているのは佐藤天なんですよ。今回も手数は少なかったけど、プレッシャーを掛けてイニシアチブを取っているのは佐藤天だった。

喧嘩っていうと語弊がありますが、喧嘩が強かったのは佐藤天です。喧嘩で追い回していたのは、天だったから。ただし、バエサの構えが本当に綺麗でしたね。左相手のオーソドックスだから、左ストレートを警戒して右手を高く上げているんだけど、あの立ち方をされるといくらプレッシャーを掛けても難しいですね。

それにあれだけ下がらされても、あの構えを続けることができたのは、結局のところ彼が強いからなんでしょうね」

──試合が進むと最初は佐藤選手が中心だったのが、パエサが中央を取るようになりました。

「でも、それも天が外を取れているということなので。凄く良い立ち位置ではありましたけど……、パエサは打ち方も綺麗でした」

──右のパンチ被弾し、そこから右ミドルとハイがうるさかったです。そして、あのシングルレッグ。あそこで倒されるというのは、佐藤選手自身も思ってなかったのではないでしょうか。それだけ準備をしてきただろうし。

「パエサは初回の組みで見せたヒザも急所になりましたけど、あれも上手かったですしね。ムエタイ的な流れもあって、実は寝技も強い。良いスタイルで、僕は好きなスタイルですね。

打撃もムエタイができて、ボクシングチックのリズムも良い。そしてテイクダウンしてからの寝技もよくて穴がなかったです。正直、テイクダウンされてバックを取られた時に『負けたな』と思いました」

──佐藤選手は背中を預けることが、たびたび見られます。

「あれは負けパターンです。これは嫌がられるかもしれないけどTRIBEっぽいです。打撃に自信をもって、倒されても凌いでっていう感じでやっている。TRIBEっていう打撃のジムのやり方……ですよね。そこを露呈した天の敗戦でした」

──素早く立ち上がるというのが現代MMAで、そこからのバック奪取が上手くなっている。反対に佐藤選手は止まってしまう傾向があるなら、足をきかせることができる間にガードを取るというのは、やはり現代MMAでは採りづらい選択でしょうか。

「まぁ、ぶん殴られますからね。組み技から打撃があると思っている人たちと、打撃があって寝技があると思っている人の違いはあると思います。日本は後者で、それが日本のMMAが抱える問題じゃないかと思います」

──フロリダで練習をしてきても、日本の問題ですか。

「だってミゲール・パエサは初めての一本勝ちっていうけど、完成度の高さは決して初めての一本勝ちではないですからね。いくらでも一本勝ちできるけど、その前に打撃で勝っているということで。

天は打撃が良い。だから、組み技と合わせて欲しい。まぁ、でもやっていると思いますよ。言うても、フロリダに移ってまだ1年です。ここから、フロリダでやってきたことが出てくると思います。だから、もう少しチャンスを手にしてほしいですね」

──この試合がUFCとの契約最後の試合で、戦績は2勝2敗でした。ここはもう神のみぞ知るということで。

「ただ、アイツの感覚だとどういうことになっても、残ることができるなら米国に残るでしょうね。UFCに出た人って、絶対にもう1度UFCっていうじゃないですか」

──水垣偉弥選手はそういってACBとRIZIN、岡見勇信選手はWSOF、田中路教選手もそうですね。

「古くは宇野さんもそうで。やっぱり、最高なんだと思います。僕は正直、分からないです。徳留選手だって、UFCに拘りを持っていたし──リリースされた人間は。僕は行ったことがないから分からないし、軽々しく言えない。でも天も、ここでリリースはされてほしくないけど、リリースされてもTitan FCだとかLFAっていう選択もあるし、UFCを狙うんでしょうね」

──う~ん、UFCもこれだけ陽性で出場できない選手がいるので、4戦2勝2敗の選手を切るようなことはしないでほしいと心から願います。

「ホント、そうです。天の続きを見たい。でもリリースされても天は『もう1回』って言うのでしょうね。同じ格闘技をやっているんですよね、僕たちと天は……」

──えっ?

「どこか同列に語ってはいけないのかなって……。UFCはやっていることが違っていて、なおさら60キロとかと違って77キロですからね。UFCのウェルター級ですよ。UFCのライト級とウェルター級は黄金の階級です。

バエサは本当に強かったです、でも、彼ぐらい強くて連勝をしていてもトップ10に入っていない選手がいくらでもいる。10位に入ると、もう相撲でいえば三役。その下に位置につけることですら、尋常ないです。だから天には、またそこで戦ってほしいです」

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Interview JJ Globo Special ブログ 今成正和 岩本健汰 青木真也

【Special】月刊、青木真也のこの一番:11月─その弐─岩本健汰×今成正和「組み技の異種格闘技戦を」

【写真】岩本健汰を孤高のグラップラーにさせてはいけない (C)MMAPLANET

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2020年11月の一番、第2 弾は22日に開催されたZST/Battle Hazard08から岩本健汰✖今成正和の一戦を語らおう。


──11 月の青木真也が選ぶ、この一番。2試合目は?

「岩本健汰✖今成正和のブラップリングマッチですね。僕は2人とも組んできていますし、当然のように彼の方が強いことは分かっていました。でも、思った以上に差がありましたね。15分のグラップリングで下を選択して良いルールなので、決着がつかないという予想もありました。

圧倒するからこそ取れないということがあると思っているところで、取ってしまったので。相当の実力がありますね」

──今成選手が組み技で日本人選手に一本を取られるのは、本当に記憶になくて。自分のなかでは佐藤ルミナ戦以来かと……。

「コンバットレスリングだっ!! ないですよね、そこ以外。日本で戦った試合では外国人にだって……ジェフ・グローバーにも取られなかったし。MMAで今成選手からパスを決めた選手はままいますが、グラップリングで引き込んだ今成選手に岩本選手がパスを決めた。あれこそが、この試合のハイライトでしたね。

ボディロックですぐにパスをした。アレが全てだと思いました。得意な形なんですけど、バチっといった。『これは強えぇ』と思いましたね」

──岩本選手の方が大きくはありましたが、そのあたりというのは?

「体格差はありました。でも2、3キロとかの範囲だろうし、いうてもグラップリングですからね。そこの体重差が影響したというのは打撃よりは小さいですよね」

──15分という試合タイム、ここはどうでしょうか。

「10分でないのは大きいです。10分だと守られたかもしれない。15分という時間を設定できたのはポイントだし、そこから戦いも始まっていますからね」

──と同時に、一瞬でも内ヒールに入る態勢に持っていける今成選手も素敵でした。

「岩本選手のチャンレジを受けて立つ、そこは凄いです。40代半ばになって、バリバリの日本一と戦う。勝負論からは下りているからこその味わいがあります。一発あるかもって思われると、そこである意味勝ちでもありますしね。高島さんはこういう言い方嫌いかもしれないですけど、プロレスラーですよ」

──自分、プロレスラー嫌いでないですよ。ロープに跳んで、ラ・ケプラーダやトペ・コンヒーロができるって凄いと思いますし。プロレスをやっているプロレスラーの人に何もないです。でも、MMAやグラップリングだと偽ってプロレスをするのは話が違うと思っているだけで。

「そうでした、そうですね。なんていうのか、でも勝負論がないことを好まない印象はありますよね」

──う~ん、自分のスタンスを話すのも格好悪いですが、勝負論がないことを好まないのではなくて、勝負論がない試合を勝負論がある試合よりPV数を稼ぐために上位に持ってくるのは好まないという感じです。

「違う色は認めると。それは、それで魅力がありますからね。勝負論っぽくて、勝負論じゃないとかは面白くないけど。その点でいえば、今成選手の凄いところは達観しているところなんですよね」

──今成選手の試合が面白くないケースが多いのは、足関節が怖くて入れない対戦相手が多いから。でも、それも勝負の妙で。今回、入っていける相手だとここまで重厚感があって緊張感溢れる試合になるというのを岩本選手が示したかと思います。それに今成選手の場合は足関勝負できる人が、ほとんど一緒に練習している選手になりますし。

「あぁ、気持ちが入らないということですね。そうなっちゃいますよね、面白くなりそうな相手が……練習相手だと。うん、熱くなれないですよね」

──と同時に寝転がって足関合戦ができる選手が、どれだけ少ないのかという表れでもあるかと思います。グラップリングが盛んなるには、もっと門戸を広げないと岩本選手も対戦相手がいなくなってくるという懸念が既にあります。他の上にいる選手、倒した選手が有利というような。

「それって上から下にモノは流れるものだから、米国軸にそういう流れがないと難しいですよね。こっちからメジャーにしていくのは困難です」

──ただし、そこに挑むために国内の普及策ということでは、そういう考えもあるかと思います。

「そうですね。日本のグラップラー、柔術家が海外に出て勝負すると、どれだけテクニックがあってもフィジカルで跳ね返される。テクニック勝負にならないという事実はあるかと思います。そういうなかで、MMAファイターと触れ合うことができるグラップリングというのは必要になるかもしれないですね」

──そのためにはMMAファイターに勝ち目があるルールが、必要かと。

「簡単にいえばADCCルールですよね。ポイントのあるバージョンの。打撃のないMMAというか。MMAファイターもね、グラップリングをやっていないから。そこが必要だからっていうのは、そういうモノがあることで気付く人も出てくるかもしれないですしね。

MMAの人達が……僕もMMAの人なんですけど、MMAの人はグラウンドをやらないから。やらないと、しんどいですよ。最終的には、勝てなくなります。UFCファイターはデキていますからね。

そういうなかで岩本健汰という今の日本で最高のグラップラーは足関の人として出てきたのが、今や足関の人でない。今成さんと取り合って、パスして肩固めで勝てる。固いグラップリングもできる。総合力のあるグラップラーです。

自分でいうのも恥ずかしいですが、僕は影響を与えてしまったと思っています。良くも悪くも──柔術で勝つグラップリングに、MMAのエッセンスを与えてしまった。彼が今のようになったのは、僕の流れというのはありますし」

──では責任を取ってもらって、青木スペシャルで総合グラップリングを組んでもらいましょうか(笑)。

「いわばノーギで柔道家、サンビスト、柔術家とも戦える。昔、中井(祐樹)さんが『MMAファイターだったり、大道塾のようにトータルファイトを標ぼうする人間は、どの競技の人間ともやり合えなくても良いけど、立ち会えないといけない』と凄く良いことを言っていたんです」

──15年前だと、それこそ──そうである人がMMAで突出することがありましたが、今や普通レベルにそれが求められるほどMMAは進化したわけですね。

「まぁ、そこに寝技が欠けているというのが日本の現状ですけど、ボクサーともキックボクサーとも立ち会える。勝てないかもしれないけど、立ち会えますよね。

そういう部分で岩本選手はどんなグラップラーとやっても立ち会える。その彼の世界観が広がるのはノーポイントではないでしょうね。そのグラウンドの戦いの重要性を競技者としてやりつつ、MMAファイターも含め伝えていく責任があると最近は感じています。

岩本選手が岩崎(正寛)選手とやりたいと言っていたけど、そういう世界観じゃない。岩崎選手もやらなくて良いし。反応もしなくて良いです。柔術に対応できてノーギが戦える柔道家とかね……。コロナの状況下ですけど、何か次に良いモノを用意してあげたいですね。要は組み技の異種格闘技戦ですね。

岩本選手は努力の質と量、技術力、何も上から目線で言えない。俺たちがやってやっているというんじゃなくて、協力させてもらっているという立ち位置で……何かできれば。岩本健汰的な世界観が広まれば、回りまわって僕も得する──みたいな有難い話であるので(笑)」

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Interview ONE Special ケビン・ベリンゴン ジョン・リネケル ブログ 青木真也

【Special】月刊、青木真也のこの一番:11月─その壱─リネケル×ベリンゴン「ONEの世界観が──」

【写真】こんなにあっさりと決着がつくとは……そんなショッキングな試合になったリネケル✖ベリンゴンだった (C) ONE

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2020年11月の一番、第一弾は13日に中継されたONE 113 Inside the Matrix03からジョン・リネケル✖ケビン・ベリンゴンについて語らおう。


──11月の青木真也が選ぶ、この一番。まず第1試合目は?

「ジョン・リネケル✖ケビン・ベリンゴン戦ですね。まぁ、成績としては当然の結果じゃないですか。ただ、あれだけしっかりとKOという結果が残るとショックはショックです」

──この試合もまさにというか、タン・リー✖マーチン・ウェン以上にUFCファイターがONEに参戦して、北米の世界観がONEの世界観を駆逐した試合となりました。

「リネケルがムイン・ガフロフと戦った時は、跳ねた試合ではなかった。だから本調子でなくて、ベリンゴンの目もあるかと思っていたんです。水抜きなしの計量に慣れていなくて、調整面でも不安は残っていたし。だから、あるのかと……にも関わらず、ハッキリと結果が出ましたね。最後もノックアウトというよりも、ゴメンナサイ感がありましたし」

──嫌ダウンか、痛ダウンかと。

「そうでしたね。ベリンゴンってタフで、殴り合いに長けた選手だったのが、ああなる。ビビアーノ・フェルナンデスとあれだけやりあっていて……ビビアーノはDREAMのチャンピオンからUFCと契約まで話があったのに、うっちゃってONEを選んだ選手だったから」

──いわばランク15位とかでなく、あの当時ですがトップ5級の活躍が見込まれていました。

「そういうベリンゴンが、ここでリネケルに負けたことでONEのストーリーラインもゴチャゴチャしてしまいます。リネケルのUFC的な世界観を持ちこんできたから、話がおかしくなってしまって」

──そもそもリネケルとONEの契約に関しては、DJやエディ・アルバレスと違い、なぜその必要があるのかと思ったのも事実です。ヴィトー・ベウフォート然り。ブラジル大会でも狙っていたのかと。

「謎でしたね。なぜ、この世界観を持ちこむのかって。米国でTV中継を始めたことで、北米や南米開拓というのはあったのかもしれないですけど、謎だった。

リネケルに関してもUFCでのレコードは良くても、ここ一番に負けている選手ですからね」

──計量ミスが多く、実は水抜き無しの1階級上というのは合っているのかしれないです。水抜きありで65キロだと、対戦相手ももっと大きくなってしまうので。

「あぁ、それですね。ムイン・ガフロフと戦った時はジャカルタだったから、コンディションも悪かったのかもしれないですね」

──う~ん、旅の疲れでなければブラジリアンは東南アジアで戦うのは苦ではないような気がします。ビビアーノも「マニラはリオみたいだ。気候もフルーツが多いのも」って言っていましたし。

「あぁ、なるほどぉ。そうかぁ……高温多湿で。なら、あの時はやっぱり減量の仕方がまずかったのかな」

──そのビビアーノが、リネケルの挑戦を受けることになるかと思われます。

「なると余計におかしくなりますよね。ビビアーノがチャンピオンでブラジル人同士だし……」

──おかしいと感じるのは、青木選手にとってONEという戦いの場はどういうモノだったのでしょうか。

「ONEの面白さって、北米的な世界観が入らない面白さだった。僕がONEで戦うようになった時は北米の物差しが一切なかったから。そういう面白さ、ワクワク感。要は鎖国された世界観があったから面白かったんです。それがグローバル……全ての価値観を、北米を含めた世界に当てはめるようになりましたね」

──飲み込まれないためには、勝たないといけないんですよね。

「この負けは分かっていたことだけど、ベリンゴンはスクランブルが強く、蹴りもできる選手でタフだったのに……。しっかりと北米に侵食されるようになってきましたね」

──私などは勝手ながら、元UFCやBellatorのライト級の選手がONEにロースターに加わって青木選手と戦うようなことがあれば、それは楽しみですよ。

「それは良いかなって思います(笑)。ONEの世界観でなく、僕の世界ですけどね」

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Interview Special ブログ 青木真也

【Special】月刊、青木真也のこの一番:番外編─青木真也の忖度・解説「面倒くさがらずやっていきたい」

【写真】青木真也はケージの上でも放送ブースでも、真剣勝負をしている (C)MMAPLANET

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

ここでは番外編として、青木に二面性を持つ解説について尋ねた。

格闘技を伝える、その対象を考えた青木話術。忖度無しと言われる青木の解説だが、実際には格闘技の在り方に関して、推し量るばかりのスーパー忖度解説だった。


──先日の青木選手のABEMAの解説を拝聴させてもらって、少し気になったことがあり、その点について話を伺わせてほしいのですが。

「もちろん、どういうところですか」

──格闘技的に好きな試合と、そうでない試合で話している内容が変わっていますよね。

「そうですか(笑)」

──タン・リー✖マーチン・ウェンの時は相当に技術的なことを話していましたが、いえば余りテクニック的に見るべきことがない試合になると一気にプロレスラーモードになっていたような気がしました(笑)。

「そりゃタン・リーとウェンの試合や、クリスチャンの試合は技術で語ることができますけど、あのインド女子の試合とは、そういうことで話はできないですよね。MMAとしては厳しいです」

──マーケティング戦略があるのでしょうが、ONE国際大会復活第1弾のライブマッチ。4つの世界戦の中から一つをオープニングで選ぶのも、ショーとして全くありかと思いました。

「ですよね。ばかりか、世界戦も3試合ぐらいで良いかと」

──そういうなかで解説者の人間性が変わる(笑)。どう伝えるのかっていう部分ですけど、70キロまでじゃないと伝わらないという意見は、フェザー級以下の選手には失礼ではないかと。

「でも、それは明確に思っています。格闘技は大きい人がやるものです。人を魅了するなら。言い方は悪いけど、そうでないと伝わらない。

もちろんMMAが好きな人間は別です。好きな人間だけだとパイは少ない。今の格闘技自体はMMAだけでなく、キックにしても軽量化が進んでいます。どんどん勝つために軽くしている。

そうなると本末転倒だと思います。それだとやっぱり伝わらないから。堀口選手や朝倉海選手、那須川天心ぐらいまでいけば伝わりますよ。でも、そうじゃない選手の試合は伝わらない。

PRIDEやK-1の時代だって大きな選手がやっていると、外国人同士の試合だって皆が見ていた。でもK-1 MAXになると魔裟斗という日本人エースが必要になった。そのMAXですら70キロありました。

僕自身、70キロじゃないですか。やっぱり70キロは最初、伝わりづらかったです。そこがあるから、経験則としてデカい方が伝わると思っています」

──それを口にしてしまう試合と、そうでない試合があった。いずれも重量級ではないのに。

「ABEMAの対象は一般の人達で。その人達が視ているなかで、タン・リー✖マーチン・ウェンは実力があって技術力でも良さが伝わる試合だから。アレはちゃんと話せました」

──それは対象が一般層であっても、と。

「極力、分かりやすく視ている人に立ち方なんかを話して、技術と試合で話すことができました。あの試合だったら立ち位置や距離の話でも、伝わります。

僕はレベルの高い選手の良い試合は、技術を話しても世の中に伝わると思っています。階級が下がるとそれがなくなっているのですが、バンタム級は伝わるかもしれないです。でもボクシングでも50何キロで凄い、凄いっていう人がいるけど、それですら凄いのかって僕は思っているし」

──それぞれの国のアベレージの体格も関係してこないでしょうか。180センチ、85キロの国と170センチ&65キロの国では自国の選手の活躍する階級が違ってきます。格闘技もスポーツも国威発揚、愛国心が顔を覗かせる場ですし。

「それでも大きさは関係ありますよ。佐藤天が何が凄いって、ウェルター級でやっている。それが凄いんです」

──これ自分が言っちゃうと、もうダメだろうってことですけど。UFCであってもバンタム級やフェザー級の方がライトヘビー級やヘビー級より、よほど面白くないですか。

「あぁ、それは……そうですね。そこにいくと微妙になりますね(笑)。UFCのヘビー級だとブロック・レスナー✖アリスター・オーフレイムがピークで」

──それこそジェネラルを考えた時ですよね。

「ハイ、だからデカいって凄いことで。でも、それをいえば日本だとUFCが一般層に向いていないから」

──確かにそうです。露出ということを考えても。

「まぁ会場で観るのと、画面で視るのは違っていて。でも、ここから暫らくMMAはモニターで見るモノになるかもしれないですしね」

──その論理でいけば、相撲が一番ですね(苦笑)。モニターで見てもすぐに決着がつき、分かりやすくて大きい……。

「女子とかその対極にあるけど、それで売れることがある、格闘技の中身では売っていなくて、それと同じかと。この間、RISEを観たんですけど、皆50キロです。倒れないですよ。何ていうんだろうな、迫力ないよなって。

でも、その魅力を伝えていかないといけないのも事実で。将棋でも、こうなるんだから……伝え方はあるはずです。将棋のルールも全く分からないのに、あれだけ人気が出て。Numberが特集を組む。それって売れるってことじゃないですか」

──そうなると将棋ファンが購読している将棋雑誌って今、売れているのか。格闘技もパイを広げるジェネラルと、見続けてくるコア層。伝えるにはどちらにかに振り切らないと、凄く中途半端いなり、両サイドの注意を削ぐことになるのではないかと感じることもあります。

「いずれにしても、伝え方ですよね。良い伝え方をしたいと思っています。そこは本当に思っています。一般と好きな人、一般の人に届かせる一方で、好きな人にも納得してもらえる伝え方──ポップでやる時はポップでやる。伝えるのが面倒くさいモノも、面倒くさがらずやっていきたいです」

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Interview ONE Special タン・リー ブログ マーチン・ウェン 青木真也

【Special】月刊、青木真也のこの一番:10月─その参─タン・リー×ウェン「モザイクを外すようなこと」

【写真】タン・リーという北米フィーダーショーの王者が、ONEの世界王者になったことで、その世界観にどのような変化が起こるのか楽しみだ (C)ONE

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2020年10月の一番、第3 弾は30日に開催されたONE113 Inside the MatrixからONE世界フェザー級選手権試合=タン・リー✖マーチン・ウェンの一戦を語らおう。


──10月の青木真也が選ぶ、この一番。3試合目は?

「タン・リーとマーチン・ウェンですね。この試合は語り口がいっぱいありますよ。何より、本気でショックでした」

──というのは?

「タン・リーはLFAの暫定王者で──見せ方としてウェンは世界チャンピオンじゃないですか。その世界王者が北米のフィーダーショーのチャンピオンにいかれる……タン・リーに勝ったことがある選手は決してUFCではトップになく、プレリミだという現実が、かなり来ちゃいましたね」

──えっ、でもそういうモノじゃないですか。MMAの世界は。

「それはそうなんです。だから世界王者というモザイクを外すようなことをして、NEというプロモーションにあったのかって。なんで、こういうことするんだろうなっていうことで来ちゃったんです」

──なるほどONEの世界王者が、LFAのフィーダーショーの王者に負けたことでなく、この方法論ではONEの現実が見えてしまいますよ、ということなのですね。

「ONEは北米のフィーダーショーを掘ったらダメなんです。背を向け続けないと。UFCのトップ経験者が天下りするのは構わないけど」

──ハイ。MLBの元首位打者が阪神に来るのは良いけど、4番は米国では3Aなのか──というのは見えない方が良いと。

「そうなんですよ。これで、見えちゃうから。僕なんか騙されておけば良いっていう見方をするんですけど、このモザイクを外す必要ねぇよって。僕は若い頃に北米でぶっとばされているから世界一とか言っていないし、グラップリングでもやられていますからね。そこは弁えてきたんです。

それが今は弁えていない子、分かっていないヤツが増えて、この結果に絶望しているんじゃないかなって。凄く嫌な気持ちになって帰宅したんです。これ、辛いなぁって」

──強くなれば良いじゃないですか。

「それはそうですよ、強くなれば。でもウェンが世界一だという世界観を潰す必要はあるのかなって……」

──えっ、思いますか? マーチンは素晴らしいファイターです。日本人で誰がマーチンに勝てるんだろうと思えるぐらい。でもMMAに世界的な競技連盟があれば、UFC以外の団体は世界を名乗ることはできないかと。

「それは勿論そうです。と同時に、そのUFCや強さをスルーして見なくなっているなって思うことがあるんです」

──マーチンが負けたことで、フィリピン、インドネシア、ミャンマー、マレーシア、ベトナムの若い選手たちはショック療法かもしれないですが、これでさらに強くなれると思った次第です。上には上がいるんだって分かって。

「あぁ、なんだ。そういうことか……。高島さんは東南アジアというかONEのマーケットを対象にしているわけですよ。僕は日本のことを言っていたんです」

──あっ、スミマセン。噛み合わなかったはずですね(笑)。

「世界、海外といって、ソレが分かっていないと……。もちろん、分かっている選手もいると思いますけど」

──口にはしなくても、そこを狙っている選手もいるだろうし。ド同時に北米は機会がないから、ONEで戦いたいと思っている選手もいるでしょうし。

「色々な生き方や選択があることは、もちろん否定はしないです。でも、世界で戦いたいとかいってONEで戦う人がいるじゃないですか。いや、ならお前、一回、北米でぶっ飛ばされてみろって思っちゃうんです。僕は一応、ぶっ飛ばされたうえで語っているから。

でも、アジアで考えると強くなるっていう見方はありますね。そこは北米と交わった方がフィリピンとか、強くなるでしょうね」

──それだけレベルの高い試合が、ONEで行われたわけですし。

「ハイ、素晴らしかったです。ホントに。技術的なことでいえば、日本人がやらないといけないことをタン・リーがやっていました。マインドというか、必ず打ったあとに回るじゃないですか」

──ハイ。攻撃すると、もうそこに留まっていなかったです。

「解説でも言っていたのですが、外の取り合いでした。打ったら外に出る。インサイドになったら、なんとか外して。最後の右フックを打った時だけ、タン・リーは左に回っているんです。あそこは打ったら、右に抜けていないとおかしいのに。最後だけ左に回ったのは、効かされていたからだと思います。それまではずっと左に回って外を取っていたのに、だから最後の一発だけはマグレだったと僕は思います」

──興味深い見方です。

「最後以外は完璧でした。あそこはウェンの流れになっていて。効かされていたんでしょうね」

──それまでもペースの取り合いで、ウェンが圧力をかけるとタン・リーが腹を蹴っていました。

「一度、急所に入ったけどタイミングは抜群でしたよね。急所に当たったということは、ウェンが当たる距離にいたからで。あれは下腹部だったけど、少し上だったらノックアウトです。そんな蹴りが当たる距離にウェンはいたということで」

──MMAでフィーダーショーのチャンピオンに、ONEで戦績を積んだ選手があそこまで戦える。それはONEのレベルが上がっているからだと私は思ったんです。

「その見方かぁ。そう言われると、そうですよね。佐藤天がサンフォードMMAではマーチン・ウェンは目立たないって言っていました。でもONEで積んできた選手が、タン・リーに勝てるかもという試合をしたということですね」

──私はそう思っています。と同時に仮にラカイのフェザー級にダニー・キンガドやジョシュア・パシオのような若い選手がいれば、めちゃくちゃ面白いのに──と。

「あぁ、あのBrave CFでやっているスティーブン・ローマン、アイツはめっちゃ強いけど……バンタム級なんですよね。間違いなくONEのレベルはあの一戦で上がったのは確かです」

──ハイ。だから日本で戦っているより、日本人選手もONEで結果を残していれば、強くなれるのではないかと。あの試合を見て、そう思えました。

「まぁ、もう日本でやっていては……ってことじゃないですか、正直。その点、ONEだとロシアや中央アジアの選手、ブラジル人と戦えるわけですし。最初に言ったモザイクを外すっていう部分ではビジネスで、回り道になるかもしれないですけど、東南アジアが強くなるっていう面白い状況が生まれてきそうですね。

ONEの功績の一つは東南アジアにMMAを普及させたことだし。で、ここでタン・リーみたいな北米の選手がいると、東南アジアが強くなって、そのうちにUFCを目指すっていう選手が出てくるかもしれない。それこそ中国、韓国、日本のようになってくるかも。それは面白い──良い話ですね」

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