カテゴリー
45 MMA MMAPLANET o Special UFC UFC309 キック ジョン・ジョーンズ スタイプ・ミオシッチ トム・アスピナル ボクシング 大沢ケンジ 柏木信吾 水垣偉弥 良太郎

【Special】月刊、良太郎のこの一番:11月 JJ×ミオシッチ「JJが怪物から仙人になってきた」

【写真】王道の戦い方+引き出しの多さ+必要最低限の出力。これはジョン・ジョーンズの変わらない強さでもある(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は良太郎氏が選んだ2024年11月の一番──11月16日に行われたUFC309のジョン・ジョーンズ×スタイプ・ミオシッチ。今回も水垣氏と同チョイスとなったが、打撃という視点でジョーンズの強さについて語らおう。

【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:11月
JJ×ミオシッチ「いよいよJJが負ける姿が想像つかない」


――実は11月の一番も水垣さんと同じジョン・ジョーンズ×スタイプ・ミオシッチをセレクトしてもらいました。この試合はやはりジョーンズについてお聞きしたいと思います。

「あれはもう…変人の領域に達してますね(笑)。やっぱりジョン・ジョーンズに対する幻想があるじゃないですか。でも体つきを見たりすると、みんなが知っている全盛期から2周も3周も回った選手だと思うんです。だから正直まだ強いのか?と思って見ている人が多かったと思います。ミオシッチも42歳で、約3年8カ月ぶりの試合だったので、ジョーンズが何だかんだで勝つだろうなとは思っていましたが、スピニングバックキックを左の脇腹に突き刺してKO勝ちするというのは全く予想してなかったです。もう本当にすげえな、この人っていう。それしか出てこないです」

――JJは明らかにライトヘビー級時代と比べると体のコンディションは悪いじゃないですか。それでもなんだかんだで勝ってしまいましたよね。

「コンディションは間違いなく良くないですよね。ボクシング的に言ったら、 かつてのスター選手が復活して、倒して勝っちゃうことってあるじゃないですか。あれはボクシングがパンチに限定された競技でラウンド数も長いからだと思うんです。キック・ムエタイは蹴りもあってラウンド数も短くなるから、どうしても若くてフレッシュな選手の方の勢いに飲まれてしまうけど、サムエー、ブアカーオ、センチャイのように制空権を制して、相手を制圧して距離感を支配する達人みたいな40代の選手もいる。MMAは試合時間が長いのでボクシングに近いところがあるけれど、レスリングや組み技をやらないといけないし、よりフィジカル的な強さが求められる。そんな競技なのにジョン・ジョーンズはボクシングやキック・ムエタイでオールドスターが未だに強いというのをMMA、しかもUFCでやっちゃってる感じですよね。

今回のミオシッチ戦で言うなら、右と左をスイッチして戦えるベースがあるんですけど、無駄な動きが一切ないんです。ミオシッチがバー!と攻めた時にジョーンズが後ろを向いて逃げたじゃないですか。あれを若いファイターがやるともっとクイックな動きになるんですけど、ジョーンズはちょっとスローな動きでしたよね。言葉は悪いですけど年齢を重ねた選手というか。でも見方を変えれば必要最小限の動きとスピードでかわしてるわけですよ」

――なるほど。それは面白い視点です。

「細かい技術で言うと、オーソドックスに構えたら自分の距離感でスナップがついたジャブを当てて、サウスポーに構えたら前手で相手の前手を触っておいて、同じモーションでローと三日月蹴りを蹴って、たまに左ストレートを打つ。やってることは普通、王道中の王道なんです」

――特別なことをやっているわけじゃない、と。

「ただジョーンズがすごいのは1Rに決めた大外刈りのような技の引き出しが豊富なところです。あんな技もやるんだという引き出しがあるんですよね。勝つために必要なことを最小限の出力で無駄なくやる、そして技の引き出しが多い。それがジョン・ジョーンズだと思います」

――フィニッシュになったスピニングバックキックについてはいかがでしょうか。

「あれは最初にジョーンズが三日月蹴りでレバーを意識させておいて、アレックス・ペレイラがよくやるようなお尻をくっと入れるフェイントでミオシッチを下がらせて金網を背負わせる。それで逆回転のスピニングバックキックをレバーの逆側にぶちこむと。あれは当たった場所的にボディが効いたというよりも骨がいったんじゃないかなと思います」

――あの一発にもそういった細かいテクニックがあるわけですね。

「昔は怪物で最強だったのが、段々と仙人みたいになってきましたよね」

――良太郎選手のお話を聞いていると怪物時代のジョーンズも無駄打ちが少なかったり、余計な出力をしていなかったり、今と共通している部分もあるんでしょうね。

「そうですね。そこに昔は若さがあったというか、細かい部分のスピードや反応速度は当時の方があったと思います。こういうタイプは段々と反応が悪くなって結果が出なくなってきて、それで引退という流れになるんですけど、ジョーンズは負けないんですよね。なんでそれが出来るのかは……正直分かりません(笑)」

――ムエタイのスーパースターだった選手が日本でトレーナーとして働きながら試合をしても日本人には負けないというパターンに似ているのかなとも思います。

「貯金と言えば貯金で勝っていると思いますが、それだけでもないし、UFCのあのレベルでやっているわけですからね。今回も相手はブランクがあるとはいえミオシッチですし。ここまで来たら、もう相手は1人=トム・アスピナルしかいないですけど、なんかやらなそうな感じじゃないですか。色々と難癖をつけて(苦笑)。でも僕はそれも含めて強さだと思うんですよ。フロイド・メイウェザーじゃないけど、博打する時は自分のタイミングでやる、みたいな。だからそこも全部ひっくるめて最強幻想がありますよね」

――試合以外の部分でも主導権を握るところも含めて強さですね。あれだけ色々な問題を起こしてもUFCで試合を組まれ続けているわけですし。

「本当ですよ。 普通は追放レベルですからね(苦笑)」

――いずれにしてもUFCから必要とされ続けているという時点で スペシャルな選手であることは間違いないですね。

「はい。ただみんなはもうちょっと彼に尊敬や畏敬の面を求めていると思います(笑)」

The post 【Special】月刊、良太郎のこの一番:11月 JJ×ミオシッチ「JJが怪物から仙人になってきた」 first appeared on MMAPLANET.
カテゴリー
45 DEEP MMA MMAPLANET NEXUS Nexus37 o RIZIN YouTube YUKI マシン 佐藤龍汰朗 加藤瑠偉 将斗 武尊 水垣偉弥 誠悟 鈴木槙吾

【Nexus37】アマチュア1戦でプロデビュー、3戦目でミドル級王座へ王手。将斗「いつも通りやれば大丈夫」

【写真】小川直也の教え子で、武尊に憧れている将斗。MMAを本格的に始めたのは昨年9月、MMA歴は1年半に満たない(C)MMAPLANET

28日(木)、東京都文京区の後楽園ホールで開催されるFighting NEXUS vol.37。今大会のメインイベント=初代ミドル級王座決定トーナメント決勝戦で将斗(ゆきと)が佐藤龍汰朗と対戦する。
Text by Takumi Nakamura

学生時代は柔道に打ち込み、昨年9月から本格的にMMAの練習を始め、アマチュア戦績1戦1勝でトーナメントに大抜擢された将斗。一回戦で趙大貴にTKO勝利すると、準決勝ではマシンとの無敗対決にも勝利し、決勝戦まで勝ち進んだ。抜群のポテンシャルと可能性を秘めるミドル級の超新星は、小川直也が代表を務める小川道場出身、武尊の闘争本能溢れるファイトに憧れるファイターだった。


――準決勝のマシン戦はスタンドの打撃でTKO勝利という結果でした。あの試合は将斗選手にとっても会心の勝利だったのではないですか。

「でも反省点は結構ありましたね。ちょっと試合前から怪我もあったし、まだ試合慣れしていないというか。自分はアマチュアの試合にほとんど出ていなかったので緊張しすぎました。1Rは全然動けてなかったし、自分から手が出せてなかったと思います」

──試合中はどのくらいから動けるようになったと感じましたか。

「マシンくんは合わせるフックが強いイメージがあったので、それも警戒しすぎていて、なかなか1Rは中に入れなかったんです。でも2Rは打撃でいくと決めて『中に入ろう。中に入れなかったら負ける』と思って、打撃でいったら上手くハマりました」

──将斗選手にとってマシン戦はプロ2戦目だったんですよね。

「そうです。というか本格的にMMAでプロを目指そうと思ったのも1年2~3カ月前だったんで緊張しすぎちゃいました」

──MMA歴もそのくらいなのですか。

「はい。人に誘われて週1回フィットネス感覚で練習していた時期もあったのですが、それも最後の半年くらいは仕事が忙しくてほとんど行けてなくて。本気でプロを目指そうと思って仕事を辞めてAACCに入ったのが1年ちょっと前です」

──初めて取材させてもらうということで経歴的なことから聞かせてもらえますか。

「もともと幼稚園の時に小川直也さんの小川道場で柔道を始めて、しっかり行くようになったのは小学1年生からです。長男と次男が先に柔道を始めていて、半強制的に(柔道を)始めました(笑)」

──小川さんの教え子だったんですね。柔道そのものは好きだったんですか。

「小・中学の頃は柔道をやらされている感じで、中学時代はよくサボっていました(笑)。ただ自分は頭が悪かったこともあって、周りからも『ちゃんと柔道をやってほしい』と言われていて。それでギリギリのところで高校でも柔道を続けようと思って、高校に入ってからは柔道が楽しいと思えるようになりましたね」

──高校に入るまではあまりいい成績を残せなかったのですか。

「小学生の頃は県大会の決勝で負けて全国大会に行けなかったのですが、団体では全国大会で3位とか上の方まで行ってました。中学でも全国には行けなかったんですが、負けた相手が全中で優勝していたり、それなりに上位陣とはやっていました。自分は中学までは軽量級で体も小さくて、高校に入った時は60kgくらいだったんです。それからどんどん体がでかくなって、高校3年間で身長が20㎝くらい伸びて、体重も100kgまで行きました(笑)」

──まさに急成長したんですね。高校での成績はどうだったのですか。

「それが高1の時は怪我で、高2の時はコロナと重なって、高3の時も怪我でインターハイの予選には1回も出てないんです(苦笑)」

――色んな巡り合わせがなくて、インターハイには縁がなかったんですね。

「そうです。ただ自分のライバルだったヤツがいて、天野開斗って言うんですけど。そいつとはそれなりに競い合えていたのですが、大事な試合には出られなかったです」

──では柔道には相当悔いが残ったんじゃないですか。

「高校時代は悔いが残りましたね。結局天野は高校生と大学生が出る20歳以下の大会でも全日本2位になって、俺が練習していない間にどんどん差がついてるんだろうなって考えになっちゃって。本当は柔道推薦で大学にも行く予定だったんですけど、その推薦も断っちゃったんです。で、当時は引っ越しのバイトをやっていて、そっちで『マネージャーになれるように頑張れよ』と言われていたので、引っ越しの仕事を頑張ろうと思いました」

──大学進学を蹴ってフリーターになるというのは、周りから反対されなかったですか。

「自分の面倒を見てくれていた道場の先輩、高校の先輩、神奈川で知っている先輩とかも『もう一回頑張れば柔道で上に行けるよ』って言われたんですけど、もうその時は気持ちが折れてましたね(苦笑)。親からも『どうするんだ?』と言われたんですけど、当時の自分は柔道で日本一を獲る覚悟がないから、それなら(大学に)行く必要はないと思っていて。そういう覚悟があって大学に行くならいいんですけど、その覚悟もないのに大学だけ行くのは嫌でしたね」

──そして引っ越しのバイトを続けるなかでMMAと出会うのですか。

「ちょうど柔道出身で同じ引っ越しの仕事をやっている先輩がいて、その先輩が水垣偉弥さんのジム(BELVA)に通ってたんです。それで『そんなに柔道で後悔が残ってるならジムに来ればいいじゃん』と誘われて、一度BELVAに行かせてもらって。その時に水垣さんから『センスがあるから真剣にやった方がいい!身体が大きい人がいる場所に行ってみなよ』と言われたんですね。だったらジムを探そうと思って、自分の家から近かったのがKRAZY BEE。それでKRAZY BEEに入会するんですけど、当時は引っ越しの仕事をしながら通っていたんで、いわゆる一般会員としてたまに練習に行く程度だったんです」

──それが最初に話したフィットネス感覚でやっていたという時期ですね。

「そうです。そのくらいの練習頻度だったのですが、KRAZY BEEからDEEPに出ていた加藤瑠偉くんに『アマチュアの試合に出てみたら?』と言われて、いざ出てみたら腕十字で一本勝ちしたんです。その時に『もしかしたら俺ってセンスあるんじゃね?』と思って、本気でプロを目指そうと思ってすぐに勤務先に退職届を出しました。職場の支店長からは『お前、本当に大丈夫か?』と言われたし、親に『俺は格闘技でチャンピオンになるわ』と伝えたら『あんたは何言ってんの!』と言われましたけど(苦笑)」

――どうしても周りはそういう反応になりますよね。

「それで改めてジムをどうしようかと思った時に『AACCはデカい選手が多い』と聞いて。実際にAACCのプロ練を見に行ったら、誠悟さんとか酒井(リョウ)さんとか本当にデカい人がたくさんがいて、実際にみなさんと組ませてもらった時に『センスあるからここで頑張れ』と言われて、AACCに入ることにしました」

――そして入会して1年経たずにプロデビューする、と。

「AACCに入ったのが去年の9月で、12月に1回アマチュアの試合に出て、そこで一本勝ちしたんですね。そしたらいきなりNEXUSからベルトがかかったトーナメントのオファーが来て、周りからは『もっとアマチュアの経験を積んだ方がいい』と言われましたが、僕自身は『ベルトがかかっているなら出ますよ』と言って出場を決めました」

──本格的にMMAを始めて3カ月のやりとりですよね。

「そうですね(笑)。でも自分は何か目標を作らないとダメなタイプで、今の目標はRIZINに出ること。あとはDEEPでウェルター級のベルトを獲ることなんです。そこにつながるチャンスがあるなら絶対に出た方がいいと思って決めました。実際にそれで決勝まで勝ち上がってこれたし、今はみんな自分のことを応援してくれてますね」

──ちなみに打撃にもすぐ対応できたのですか。

「AACCのプロ練はガチスパーなんで、ヘッドギアをつけてバチバチにやるんです。もちろん最初はガードを固めて何もできなかったですが、そういう状況に置かれたらやるしかないじゃないですか。それで打撃を覚えていった感じです。2戦目の時からKrushに出ていた萩原秀斗さんにミットを持ってもらうようになって、そこで打撃の細かい部分を教えてもらっています。それで色んな選手ガンガンやり合うので、打撃には自信がつきました」

──決勝で対戦する佐藤龍汰朗選手にはどんな印象を持っていますか。

「まあ……よく分からないですね、正直(笑)。ただ何でもできて、腰は強そうだなと」

──相手どうこうよりも、自分がいいパフォーマンスして勝つことに重きを置いていますか。

「そうですね。僕は練習環境にも恵まれていますし。よくみんなに言われるのが、経験の差はいつかどこかで出ることもあるだろうけど、いつも通りしっかりやれば大丈夫だって。DEEPの元チャンピオンの鈴木槙吾さんとも練習させてもらっていて、鈴木さんからそう言ってもらえているので、自分がいつも通りやれば大丈夫かなと思います。前回の試合みたいに経験がない分、試合で固くなっちゃうことがちょっと怖いくらいです」

──これからプロでやっていく上で、自分のどこをアピールしたいですか。

「やっぱり……スター性ですかね!」

――ずばりスター性! ここまでのキャリアも異色ですが、自分は他の選手とは違うと思いますか。

「そこは周りに感謝しています。自分は小さい頃からズレていて、自分1人だったら今頃何をやっていたか分からないような人間でしたけど、周りの仲間たちが柔道を勧めてくれたり、今でもたくさんの人が応援に来てくれるので、みんなに感謝しています。あと自分は昔から武尊選手に憧れていて、武尊選手みたいにどんなことがあっても前に出るみたいな選手になりたいですね」

――MMAファイターではなく武尊選手に憧れているのですか。

「はい。もともとYouTubeで武尊選手の試合を見たことがきっかけで好きになって。武尊選手が上京してすぐの頃にもやししか食べてなくて大変だったとか、そういうエピソードも色々とあるじゃないですか。そういうことを乗り越えてスターになっていった武尊選手からはいつもパワーをもらっていました。当時は中学生とか高校生で自分が格闘技をやることになるとは思ってなかったんですけど、自分も武尊選手みたいに気持ちが伝わる試合をする選手になりたいです」

The post 【Nexus37】アマチュア1戦でプロデビュー、3戦目でミドル級王座へ王手。将斗「いつも通りやれば大丈夫」 first appeared on MMAPLANET.
カテゴリー
45 AB ACA Black Combat Column Gladiator MMA MMAPLANET o RIZIN Road to UFC UFC UFC300 UFN UFN248 イェン・シャオナン キム・ドンヒョン ジャン・ウェイリ ジャン・リーポン ソン・ヤードン チェ・ドンフン デイヴィソン・フィゲイレド ピョートル・ヤン ユ・スヨン リー・ジンリャン 中村倫也 佐々木憂流迦 安西信昌 平良達郎 徳留一樹 手塚基伸 日沖発 朝倉海 木下憂朔 本野美樹 水垣偉弥 河名マスト 漆谷康宏 風間敏臣 魅津希 鶴屋怜

【Column】マカオで11年振りにUFCを取材して……何だかんだと、詮無いことを考えてしまった

【写真】本当にすさまじい盛り上がり方だった (C)MMAPLANET

23日(土・現地時間)にマカオのギャラクシー・アリーナで開催されたUFN248:UFN on ESPN+106「Yan vs Figueiredo」。メインのピョートル・ヤン×デイヴィソン・フィゲイレドの激闘に沸き返る1万2000人超の館内をケージサイドから眺めて、「全然違う」と素直に思わされた。
Text by Manabu Takashima

何が違うのか。過去のマカオ大会とは、明らかに別モノだった。UFCが前回マカオでイベントを行ったのは2014年8月23日、もう10年以上も前になる。

ギャラクシー・マカオとアヴェニーダ・シダージ・ノヴァを隔てたザ・ベネチアン・マカオのコタイ・アリーナに7000人強のファンを集めたUFN48のメインは、奇しくも今大会でカラーコメンテーターを務めたマイケル・ビスピンが、カン・リーと相対した一戦だった。

マカオに初めてUFCが進出したのは、その2年前。2012年11月10日のUFC Macao(UFC Fuel TV06)で五味隆典、水垣偉弥、手塚基伸、漆谷康宏、福田力と日本人5選手も出場した。同大会での中国人ファイターの出場はジャン・ティエチュエンの1選手のみ。それでもコタイ・アリーナに8000人のファンを動員し、日本大会と並びアジアで定期的にイベントが行われるという期待が寄せられた。

この後、今はUFCを去ったマーク・フィッシャーを長とするUFCアジアは、TUF Chinaを軸とした中国人選手の育成という命題を挙げ引き続き2 度に渡りコタイ・アリーナ大会を取り行っている。2014年3月のTUF China Finale大会では、そのTUF Chinaウェルター級決勝戦でジャン・リーポン×ワン・サイが組まれ、ジュマビエク・トルスンと3人の中国人ファイターと共に日沖発と徳留一樹が参戦した。

上記にあるUFN48ではTUF Chinaフェザー級決勝ニン・グォンユ×ヤン・ジェンピン、ジャン・リーポンとワン・サイ&ヤン・ジークイと中国人選手は5人に増え、日本人出場選手は安西信昌と佐々木憂流迦の2人だった。

これら過去のマカオ3大会の集客数は6000人から8000人、コタイ・アリーナの一部を使用するスケールでイベントは実施された。3大会連続出場はキム・ドンヒョン。特に中国がフューチャーされるという風ではなく、アジア大会という空気感だったことが思い出される。

あれから10年、UFCにおける中国の存在感は比較にならないほど、重要になっている。

世界女子ストロー級王者ジャン・ウェイリは当然として、男子でもバンタム級のソン・ヤードンやウェルター級のリー・ジンリャンが北米要員として地位を確立。20人に及ぼうかという契約配下選手の多くは、上海PIで最先端のトレーニング環境が与えられ、現地のローカルショーからRoad to UFCという道を経て最高峰に辿り着いている。

フロリダのキルクリフFC、サクラメントのチーム・アルファメールと中国人選手が米国のジムで練習、所属することは何も珍しくなくなった。

今回のマカオ大会には上に名前を挙げた中軸ファイターの出場はなかったが1カ月に 3度から4度、世界のとこかで見られるUFCの日常的なイベントで、中国のファンたちはお祭り騒ぎ状態だった。

UFC300でジャン・ウェイリに挑戦したイェン・シャオナンを始めとする10人の同朋に、1万2000人越えの大観衆は「加油(チャーヨー」と、力いっぱい叫び続けた。特別でなく、ご当地ファンを応援する。そして世界のトップに声援を送るという──熱狂がギャラクシー・アリーナに渦巻いていた。

メディアの数は昨年、一昨年のシンガポール大会とは比較にならないほど多かった。プレスルームもそれだけ巨大だ。ざっと見まわして、中国メディアの数は80を下らなかっただろう。

それだけ投資をした結果といえばそれまでだが、お祭りでなく日常がビジネスになることは、大きい。何よりマカオ大会の熱狂は中国の人々のUFCを見る目が肥え、UFCを楽しめるようUFCが手を尽くしてきたからこその結果だ。

天文学的な額の投資やその勢いを買うだけの経済基盤が、かの国にある。だから時間を掛けることができた。投資を回収できないのであれば事業の見直すことになることも承知し、それだけ費やしてきた。残念ながら、我が国の経済はそのような余裕はない。プロモーターやファイター、ジム関係者、専門メディア、皆がそうだ。いうと一国全自転車操業状態。だから、目の前の利益を追求する必要がある。

複数の日本人ファイターがUFCのメインカードに名を連ね、サッカーのプレミアリーグで活躍したり、MLBでレギュラーを務める選手のような名声を得るにはどうしたら良いのか。そのような日はやってくるのか。

強さを追求しているだけでは食っていけないという言い訳をやめて、格闘技の本質を曲げないでいられるのか。あるいは強さが絶対の価値観を持つMMA界とするために、投機できるビリオンネアーが現れるのを待つのか。ギャラクシー・マカオを闊歩する大陸からやってきた人達を眺めつつ、そんな現実離れした考えしか思い浮かばなかった。

それでも今、日本のMMA界に奇跡的な神風が吹こうとしている。朝倉海のUFC世界フライ級王座挑戦は、特別なことだ。9年振り9カ月振りの日本人のUFC世界王座挑戦が、デビュー戦。彼の日本における影響力の大きさとフライ級の現状が合致した特別な世界王座挑戦に加えて、このチャレンジに化学反応を示す下地が今は少なからずある。

格闘技・冬の時代と呼ばれた頃に、「UFCで戦いたい」と猫も杓子も口にしていたのとは違う──本気で強さを追求することで、選択肢がUFC一択となったファイター達が存在している。平良達郎、中村倫也、鶴屋怜、木下憂朔、風間敏臣、井上魅津希──そんな面子に、Road to UFCと同時開催なんてことがあるなら強さを追求する純度と強度が高まるイベントの実現も可能になるに違ない。

この動きを一過性でなく、恒常性とするには……強さが軸となるマッチメイクをプロモーターが組める仕組みを構築すること。それにはファイターとプロモーターが対等の立場になる環境創りが欠かせない。過去の慣例に縛られない。過去の成功例でなく、今の成功例に目をやること。

近い例でいえば、それこそ朝倉海の大抜擢だ。なぜ、デビュー戦&世界挑戦が現実のモノとなったのか。彼はRIZINが求めることをやり抜き、UFCが求めるモノを追求してきた。その姿勢を学ばずに「RIZINで戦いたい」、「UFCと契約する」と口にしても、正直どうしようもない。

Road to UFCも然りだ。入口に立つことが大切なのは、UFC本大会であってRoad to UFCではないはず。出場を目指してレコードを綺麗にするために、強い相手との対戦を避けるような姿勢では、豪州が加われることが予想される次回大会を勝ち抜くことができるだろうか。

今やコンテンダーシリーズもそうだが、Road to UFCという「勝てば官軍」的なトーナメントで生き残るのは綺麗なレコードは当たり前。それも強い相手を食って、綺麗なレコードである必要がある。

韓国人ファイターだが、ユ・スヨンは昨年12月のNAIZA FCの敗北後に1月にBlack Combatでキム・ミウ戦と戦った。結果はNCだった。この2試合を経てRoad to UFCに出場できなかったかもしれない。

と同時に、この2戦を経験していないと今の強さがなかったかもしれない。要はユ・スヨンはRoad to UFCで戦う権利を得るために、チャレンジをした。

チェ・ドンフンは強いが試合が面白くないという韓国内での評判を、Gladiatorの2戦で払拭した。日本での試合は、現状を変えるために必要だった。

倒せる武器があることを自認し、準決勝まで勝利を最優先とした。そしてファイナルは見事なKO勝ちを飾った。彼もまた昨年12月と今年の2月と日本で戦って、Road to UFC出場権を得ている。

レコードが汚れるリスクを冒して、戦績を積んだうえでRoad to UFCに出場しても勝てないこともある。実際に河名マストや本野美樹はそうだったと言える。だからこ、その姿勢を評価する業界になることが、日本が強くなる第一歩ではないだろうか。

頂きを目指すには、登山口がどこにあるのか。そのルートをしっかりと確認、精査しないと登山はできない。その挑戦が成功例も失敗談も将来に活かすことはできないままで終わる。

根本として、日本を強くするのはプロモーターではない。ジム、そしてファイターだ。それを評価するのがプロモーターの役割で、さらに商売にする才覚が求められる。中継パートナーも同様だろう。ではメディアの役割とは何か……正直、専門メディアの役割など、もうとうになくなったのではないかと思っている。

フォロワーが多いインフルエンサーに、しっかりと格闘技を伝えてもらう方がよほど、Yahooへの転載でPV数を増やしてGoogle広告で生き永らえようとする専門メディアより影響力があるはず。影響力のある有名人や中継局、大手メディアに対して、情報提供でなく知識の共有を目指した記事を書く。それが、実はネット時代になる以前と変わらぬ専門メディアが果たすべき役割だ。


The post 【Column】マカオで11年振りにUFCを取材して……何だかんだと、詮無いことを考えてしまった first appeared on MMAPLANET.
カテゴリー
45 MMA MMAPLANET o Special UFC   ショーン・オマリー ジョゼ・アルド ボクシング マラブ・デヴァリシビリ ライカ 大沢ケンジ 柏木信吾 水垣偉弥 良太郎

【Special】月刊、良太郎のこの一番:9月 マラブ×オマリー「二歩下がって一歩出る、マラブの制空権」

【写真】9月の一番は水垣・良太郎両氏ともにマラブ×オマリーをチョイス。ぜひ両者の言葉を読んだうえで、この一戦を再考していただきたい(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は良太郎氏が選んだ2024年9月の一番──9月14日に行われたNOCHE UFC 306のマラブ・デヴァリシビリ×ショーン・オマリー、水垣氏も選んだこの一戦を、水垣氏とは異なる目線で語ろう。

【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:9月
マラブ×オマリー「マラブは変な人? だからあれをやりきれる」

――9月の一番、良太郎選手にもマラブ・デヴァリシビリ×ショーン・オマリーの一戦を選んでいただきました。

「打撃という部分にフォーカスして、この企画をやらせてもらっていて、この試合はストライカーVSストライカーではないんですけど、僕は指導する立場でもあるので、ストライカーにとっては嫌な展開を作られた試合でした。しかもこの試合はUFCが誇る超スター選手のオマリーvsオマリーのような華がはないけど実力があるマラブという図式もあり、試合前のトラッシュトークも含めて、こういう試合展開になることは予想していた人も多かったと思うんですね。純粋な打撃だけのスキルとは違う部分で、打撃にフォーカスする試合としてセレクトさせていただきました」

――オマリーのようなストライカーからすると、テイクダウンを狙ってくる相手に対して、どう打撃を当てるか。これはMMAにおける永遠のテーマだと思います。

「多くの人がマラブが無限のスタミナでひたすらテイクダウンを狙って削る、もしくはカウンターパンチャーのオマリーが打撃を入れる、そういう試合をイメージしていたと思います。そこでいうと僕はスタンドの距離=制空権が鍵を握っていると思いました。

 オマリーはロングレンジを活かした打撃を当てたくて、5Rに三日月蹴りを効かせた場面もありましたが、あの時点でオマリー自身がスタミナ切れしていて追い足がなかったですよね。ああやって三日月蹴りで削って、そこから打撃で仕留める展開に持ち込みたかったと思うのですが、その三日月蹴りを当てたのが最終ラウンドで、試合の残り時間とお互いのスタミナを考えたら、あそこから仕留めないといけないオマリーよりも、最悪くっついて逃げ切ればいいマラブだったら、マラブの方が有利でしたよね。

 1Rはお互いスタミナもある状況ですが、マラブが上下のフェイントで揺さぶりをかけて組みついてテイクダウンを仕掛けて。あれを凌ぐ攻防のなかでオマリーはかなりスタミナをロスしたと思います。オマリーはカウンターパンチャーなので、あそこでロングレングのパンチを射抜いたり、カウンターのヒザ蹴りだったりを当てられればよかったのですが、それが出来なかったですよね」

――なぜオマリーはそれが出来なかったのでしょうか。

「これは対戦した選手にしか分からないと思うのですが、おそらくマラブはスタンドの距離が独特なんですよ。オマリーもVSストライカーだったら、スイッチを使って体の軸を色々と使い分けながらパンチを打ち抜くので打撃のゾーンが広くて、距離が独特なんですね。ただこれがVSマラブになると、マラブは打撃が当たらない距離でステップしていて、そこからダッシュ力を活かして入ってくる。相手からするとマラブはかなり遠い位置に感じると思います。

 それが特に分かりやすかったのが4Rにマラブがテイクダウンを奪った場面で、1~3Rまでの動きを見ていてもそうなのですが、オマリーが一歩前に出ると、マラブは二歩下がるんです。そしてすぐに一歩前に出る。そうするとオマリーが一歩下がったとしても、そこはマラブにとってはテリトリー内なんです。4Rにオマリーがフェイントをかけて前に詰めようとしたところで、マラブにジャブから綺麗にタックルに入られてテイクダウンされたのは、その距離のトラップに引っかかったからですね」

――あのテイクダウンはメラブの距離とステップに要因があった、と。

「スイッチする選手はステップせずに歩きながら前に出られる分、どうしても距離設定が緩くなる場面があるんですね。今回はそこにマラブが打撃ではなくカウンターのタックルを合わせたという形ですね。しかも今回は5Rマッチでお互いスタミナを消耗していて、特にオマリーは後半のラウンドになると下半身からの連動で強い攻撃を出せない・追い足がない状態に追い込まれていました。

 3Rあたりはオマリーも距離を探れているのかなと思ったのですが、いかんせんマラブがさっきのステップインでオマリーの体力とやることを削っていたので、オマリーとしてはマラブの泥沼にハマっていった感じですよね。どこまでマラブが意識していたか分かりませんが、2Rにオマリーにキスして余裕をアピールして挑発したじゃないですか。ああいう心理戦の駆け引きもあったと思います」

――スイッチヒッターに対して打撃ではなく、タックルのカウンターを合わせたということですか。

「そうですね。オマリーがスイッチして一歩前に出て、マラブが一歩下がるだけだったら、オマリーがプレッシャーをかけられるんですけど、二歩下がるとプレッシャーがかからないんですよね。しかもそこからすぐマラブがステップインしてきて、距離を取ろうと思った時には、マラブにタックルに入られる距離になっているという。

 もしオマリーが1Rから組まれる覚悟でローで足を潰すとか、ヒザのフェイントを入れるとか、そういう選択をしていたら展開は変わっていたかもしれないです。オマリーもどうしても自分のパンチに自信があるから、制空権を支配したいという気持ちがあったと思うんですよね。それが今回に関してはマラブに遠い距離に居座られて、あのダッシュ力で距離を詰められる=制空権を支配できないという時間が長かったように思います」

――オマリーにとっては自分のやりたい攻防に持ち込めなかったわけですね。

「オマリーからすると相当やりづらかっただろうし、試合をしながらイライラしていたと思います。最後は体力的にいけなかったのもあるし、どうしても1Rから4Rまでの攻防で、打撃が当たらなかったら組まれる→トップキープされて時間を使われる→判定になったら負けるということも頭に刷り込まれていたと思います」

――またマラブはテイクダウン以外でかなり細かいパンチのフェイントを入れたり、目線を散らしたり、体を上下させたり、常に動き続けていますよね。あれは打撃の観点から見ていかがですか。

「あれはうざったいですね。フェイントには動くフェイントと動かないフェイントがありますが、マラブは典型的な動くフェイントで、常に上下に体を動かして、基本的にテイクダウンにつなげる打撃なんだけど、必ず当たる打撃も混ぜてくる。それでいて遠い距離にいるなと思ったら、ものすごいダッシュ力で組んできて、試合後半になっても疲れることなく、それを延々と繰り返してくるわけだから…ストライカーからしたらたちが悪いですよ(苦笑)」

――あのファイトスタイルだけだったら対応できるかもしれませんが、あれを5R続けられるスタミナがあることが厄介ですよね。

「はい。もしかしたらオマリー陣営は、さすがに後半は動きが落ちるだろうから、そこで勝負しようとしていたところもあったのかなと思うんです。競技は違いますけど、ボクシングの井上拓真×堤聖也みたいに、みんなさすがに堤選手は後半ペースが落ちると思っていたら、結局最後まで落ちなかったじゃないですか。ああなると対戦相手からすると手遅れなんですよ。しかもオマリーのようなカウンターパンチャーは、玉砕覚悟で前に出て打撃を当てるのが決して得意ではないので、後半のラウンドで一気に逆転という形にはならなかったですよね」

――ちなみにもし良太郎選手の選手あマラブと戦うことになったら、どういう作戦を立てますか。

「僕だったら…1Rはイーブンに動かせますね。結局マラブのリズムに合わせちゃうからやられるわけで、だったらこっちもあえて乗っかる。マラブと同じことをやるわけじゃなく、こっちはこっちで色んな打撃のフェイんをかけて動く。もちろんスタミナはロスしますけど、その方がマラブもマラブでやりにくいと思うんです。オマリーはどちらかと言うとフワフワ~と動いてドン!と当てるタイプですが、逆に最初からパンチとかヒザ蹴りをどんどん見せていった方がよかったかもしれないです。これもすべてたらればの話ではあるんですけどね」

――最近のMMAは判定で打撃・ダメージが重視されやすくなっていますが、UFCのチャンピオンの顔ぶれを見ると組み技系の選手も多いですよね。

「やっぱり時代は回るんですよ。そういうなかでイリア・トプリアのような選手がチャンピオンになるところが面白いですよね。ただUFCのトップレベルの技術を10段階で評価したら、すべての技術が7~8はあると思うんですよ。そのうえで10ある技術で勝負しているというか。トプリアやジョゼ・アルドのような純ストライカーに見える選手でも、元は柔術黒帯だったりするわけじゃないですか。

 きっとそれは練習環境が以前よりも整備されていて、自分にあったスキルを学べるコーチや指導者がいるから、ベースにある格闘技を活かしながらMMAファイターとして完成度を上げられるからだと思うんですよね。そういう部分でもUFCの試合を見ていくのは興味深いですし、これだけレベルが上がったもの同士が戦うのに『嘘だろ?』『こんなのある?』みたいなフィニッシュも起こるわけだから、純粋にUFCは見ていて面白いですよ」

――今回もたっぷり語っていただき、ありがとうございます!

The post 【Special】月刊、良太郎のこの一番:9月 マラブ×オマリー「二歩下がって一歩出る、マラブの制空権」 first appeared on MMAPLANET.
カテゴリー
45 MMA MMAPLANET o Special UFC アルジャメイン・ステーリング ウマル・ヌルマゴメドフ コナー・マクレガー コリー・サンドハーゲン シャーウス・オリヴィエラ ショーン・オマリー ジョゼ・アルド ダナ・ホワイト ネイト・ディアス ピョートル・ヤン ボクシング マラブ・デヴァリシビリ ライカ 大沢ケンジ 柏木信吾 水垣偉弥 良太郎

【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:9月 マラブ×オマリー「マラブは変な人。だからあれをやりきれる」

【写真】ファイトスタイルそのものは疲れるスタイル。それを5Rやりきってしまうのがマラブの強さだ(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は水垣偉弥氏が選んだ2024年8月の一番──9月14日に行われたNOCHE UFC 306のマラブ・デヴァリシビリ×ショーン・オマリーについて語ろう。


――9月の一番はマラブ・デヴァリシビリ×ショーン・オマリーの一戦を選んでいただきました。この試合はマラブの強さが目立った試合だったと思います。

「色々と僕の中でも見どころがあった試合で、マラブのようなタックルマシーンに対して、オマリーのようなストライカーがどう戦うのか。そこは自分自身の現役時代からの永遠のテーマでもあり、この試合でもそこを主に見たい、もっと言うならオマリーがどういう戦い方をするのかを見たかったんですね。結果的にはオマリーがストライカー病というか、マラブのタックルを警戒して手が出ないという、よくあるパターンにハマっちゃったなっていう感じでしたね。と同時に、このテーマはまだまだ続くなと思ったのが正直な感想です」

――試合全体を通して見ると、1Rに2回組まれてテイクダウンを許してしまったことが、2R以降の試合展開に影響を与えたと思います。

「ずばりそれだと思いますね。1Rが始まってテイクダウンされるまでのオマリーは、割と前蹴りだったり攻撃が出ていたんですよね。逆にマラブはいつもよりちょっとな控えめで、タックルに行きにくそうに見えました。でもそこで1回マラブがテイクダウンを取ったことで、徐々にオマリーの手が出なくなってきて。オマリーからすると打撃を出すとマラブに触れる、警戒して打撃を出せないというパターンにハマっていった印象です」

――仮に組まれたとしてもマラブのクリンチをはがしたり、完全には寝かされない状況を作っていれば違ったと思うのですが、しっかり組まれてしまった印象があります。

「そうなんですよね。結構ちゃんと組まれてしまって、その後のラウンドもすぐに立ち上がることができない展開になってましたよね。それだけ1Rにテイクダウンされた時に、もうテイクダウンされたくないなというのがオマリーの中で出てきちゃったんだと思います。マラブは割とテイクダウンしても相手を立たせるタイプなんですけど、オマリーは一度組まれて尻餅をつかされると、そのまま動きが止まったり、下になる展開が長かったように見えました」

――もちろんオマリーもレスリング・組み技への対応はできる選手だと思いますが、マラブのような超トップ選手との対戦は少なかったと思います。

「まさにそれもあって、正直過去の対戦相手を見ると、あまりマラブのようなタイプとはやってないんですよね。アルジャメイン・ステーリングとやった試合が初めてレスリングが強力な相手とやった試合だと思うんですけど、アルジャメイン戦も2R開始直後にパコーン!と一発で倒しちゃったので、レスリングや組みの技術をちゃんと見ることが出来ないままだったんですよね。そういう部分で、マラブとやってどうなのかなと思っていたのですが、 やや安易にグラウンドで下になったり、ガードポジションを取ったりしていて。オマリーはグラウンドで下からガンガン戦えるタイプでもないと思うのですが、そこで立ちに行く感じでもなかったので、組まれる・テイクダウンされるとキツいというのが見えちゃいましたよね」

――どうしてもマラブクラスのレスリング力がある選手と対戦すると、その部分で差が出てしまいますよね。

「そこは相性の問題もあると思います。ストライカーとレスラーは、単純に言うとどうしてもストライカーは相性が悪くて、その相性の悪さがもろに出ちゃったのかなと。例えばジョゼ・アルドやピョートル・ヤンがマラブとやった時、アルドは下がりながらテイクダウンに対処する感じで、テイクダウンは許さなかったんですけど、その代わりにケージに押し込まれ続けたんですよね。で、ヤンはスイッチを使いながら対応しようとしたのですが、マラブにそこを上回られてしまうという試合でした。じゃあオマリーはどうなんだ?というところだったのですが、結果的にオマリーはアルドやヤンのところまではいかなかったなというのが正直なところですかね」

――見ている側からすると、テイクダウンをディフェンスできないなら、打撃を思い切り当てにいくという選択肢はなかったのかと思うのですが、そこはファイター側からするとどうなのでしょうか。

「あとは一発を当てに行きたいは行きたいんですけど、結局そこで組まれちゃうんで。一発を当てるタイミングを探っているうちに結局(試合が終わる)なんですよね。ようは一発を当てるための距離になる=組まれる距離なので、行ったら組まれるという感覚もあるんですよ、タックル系の選手に対しては。だから一発を当てるための行き方が難しいんですよね、単純に思いっきりいけないという」

――その一発を当てるためには組み立ても必要だし、そうしているうちに組まれるリスクが大きいということですね。

「一発にかけるということは、ある程度の強打を当てて、その一発でKOするなり、ダウンさせるなり、大ダメージを与えるのが欲しいじゃないですか。リスクを追う分の見返りが欲しいというか。それに見合う一発を当てる距離まで詰めるというと、またそこですごく難しくなってきますよね」

――あとマラブの方もテイクダウン以外でかなり細かいパンチのフェイントを入れたり、目線を散らしたり、体を上下させたり、常に動き続けていますよね。

「動きそのものが多いですよね。絶対打撃が届かない距離でもシャドーボクシングやスイッチしたり、地味な動きなんですけど、それをずっと繰り返している。ただタックルだけ狙っているより、こういう動きをやられると嫌ですよね」

――相手からすると、あれだけちょこちょこ動き続けられると、フェイントだと分かっていても引っかかってしまうものですか。

「あとはやっぱりああやって動いている中で、本物と偽物の(動きの)違い、本当に来る時と来ない時って、 何もしないでバッ!と来るより、色々と動いてる中でバッ!と来る方が、対応も遅れると思うんですよね。そういう部分はあると思います。だからあれだけ目の前で動き続けられていたら、やりにくいと思いますね」

――オマリーも5Rに三日月蹴りを効かせる場面がありました。メラブは試合後に「効いていない」と言っていましたが……。

「あれは効いていたと思います。分かりやすくお腹をさすってましたからね」

――右の三日月蹴りをもらったあとのシーンですが、あの前の左の三日月蹴りも効いていたと思います。

「あれも絶対効いてましたね。ボディが効いたかどうかは本人しか分からないし、効いていても『効いてない』って言い張ると思うんですけど、セラ・ロンゴ・ファイトチームで一緒に練習していた(井上)直樹くんの話だと、練習でもマラブは腹を効かされていたことが結構あると言っていたんで、マラブは腹が弱いんじゃないか説も出てますね。だから試合展開や相性もあるんですけど、あれがもっと早い段階で来ていたら、面白かったのかなという気もしますよね」

――それまでの打撃とは違い、明らかにオマリーのプレッシャーがかかっていた時間でした。

「そうですね。あれはオマリーが5Rに判定で勝つのがほぼダメだろうと思っていた中での開き直りがあったから、また前に出始めたんだと思います。もうテイクダウンされてたとしてもしょうがないって気持ちがあったからこそ、もう1回(打撃を)作り直したんじゃないかなと思います」

――5Rに弱みを見せたメラブですが、あのテイクダウンを軸にしたファイトスタイル&無尽蔵のスタミナは真似できないですよね。

「あのスタミナは異常ですね。ファイトスタイルそのものは疲れるスタイルだと思うんですよね。今回の試合はトップを取ってからキープする時間が長かったですが、他の試合では結構立たせるんです。で、また倒す。倒して、立たせて、倒して…を繰り返して倒してテイクダウンの数で印象つけるみたいな、めちゃめちゃしんどい戦い方をしているので、それが出来るスタミナは尋常じゃないですね。対戦相手=タックル受ける側としては、やっぱりしつこくタックルを切って切って、マラブが疲弊してきてタックルに入れなくさせるというのも1つの作戦としてあると思うんですよね。ただマラブは疲弊しないから、その希望がなくなってしまうという」

――あれだけスタミナがあるとテイクダウンの攻防でマラブを疲れさせるという作戦もチョイスできません。

「テイクダウンそのものもバーン!と入って綺麗に倒しちゃうじゃないですか。一回ケージに押し込んで、低い姿勢でケージレスリングを頑張って倒すという展開が少ない。テイクダウン能力の高さも、マラブがバテにくい要素だと思います」

――水垣選手はどういうタイプだったらマラブを攻略できると思いますか。

「攻略法がなかなかないですよね(苦笑)。それこそシャーウス・オリヴィエラみたいに打撃があって、グラウンドで下になっても戦えるとか。そういうファイターだったら可能性があるのかなっていう気はするんですけどね」

――マラブとレスリング勝負できるか、レスリングそのものを捨てて勝負するか。

「そうなんですよ。さっきも話したようにジョゼ・アルドはほとんどテイクダウンを許していないんですけど、テイクダウンディフェンスするためにずっと押し込まれたままで判定負けしているんです。テイクダウンされないことに集中すると打撃が出せないし、相手がバテない限りは押し込まれ続けるので、ポイントを取られちゃいますよね。だからメラブ攻略は本当に難しいです。

あと試合とは関係ないですけど、メラブってちょっとおかしいじゃないですか。試合が始まった瞬間、オマリーのセコンドと言い合ったり、試合中にオマリーにキスしてハーブ・ディーンにめちゃくちゃ怒られたり。あとは試合前にインスタグラムで氷が張ってる湖に飛び込んで、練習でカットしたところを縫ってる動画をアップしてダナ・ホワイトに『アイツはレベルが違うバカだ』ってキレられてましたよね。普通はあんなことしないですよ(笑)」

――大分変わっていると言えば変わっていますね…。

「基本的に変な人なんだと思います(笑)。でも、だからこそああいうファイトスタイルをやりきれちゃうというか。普通は5Rマッチでああいう試合はやろうと思わないし、それをやっちゃうというのは何かぶっ飛んでる新しいタイプですよね」

――敗れた方のオマリーについても一言いただけますか。

「あと僕の中でオマリーとコナー・マクレガーを重ねていて、マクレガーもここで負けるだろうと思われている試合で勝ち続けて、オマリーもそういうキャリアだったと思うんですよ。マクレガーはネイト・ディアスに負けてライト級に上げてタイトルを獲っていますけど、最後はハビブ・ヌルマゴメドフにやられて、それからスーパーファイトを中心にやっていくスーパースター路線に行ったじゃないですか。じゃあオマリーはここで負けて、これからどうなっていくのかなと。そこにも凄く注目しています」

――さてマラブの次の挑戦者にとしてウマル・ヌルマゴメドフが噂されています。

「そこは僕、すごく楽しみなんですよ。ウマルもレスリング力があるから、そこでも勝負もできるし、打撃という部分ではウマルの方が上だと思うんですよね。だから打撃+レスリング力でどこまでマラブに対抗できるのかっていうところですよね」

――前回水垣さんにウマル・ヌルマゴメドフ×コリー・サンドハーゲンを解説していただきましたが、マラブよりもウマルの方が技の引き出しは多い印象です。

「例えばウマルが一回・一発のテイクダウン勝負で負けたとしても、そこからのスクランブル勝負で後ろに回るとか、下からでも組み勝つみたいなものを見せてくれたら面白いなと思います。何度か言っているようにマラブが立たせるタイプなので、仮にマラブに3回テイクダウンされても立ち続けて、逆にウマルがテイクダウンもしくはスクランブルで上を取ってキープする。それをしつこくやれば、ウマルも強いと思います。あとはクリーンテイクダウンできなくても、スタンドバックの攻防に持っていければ、ウマルがマラブにヒザをつけさせて殴って、もう一回立って打撃をやるとか、そういうことが出来れば、ウマルにもチャンスが出てくると思いますね。この試合はぜひ実現させてほしいです!」

The post 【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:9月 マラブ×オマリー「マラブは変な人。だからあれをやりきれる」 first appeared on MMAPLANET.
カテゴリー
45 MMA MMAPLANET o Special TJ・ディラショー UFC アレッシャンドリ・パントージャ アーセグ イスラエス・アデサニャ カイ・カラフランス スティーブ・アーセグ ドミニク・クルーズ ボクシング マイケル・チャンドラー 大沢ケンジ 朝倉海 柏木信吾 水垣偉弥 良太郎

【Special】月刊、良太郎のこの一番:8月 カラフランス×アーセグ「スイッチを使う打撃として参考になる」

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は良太郎氏が選んだ2024年8月の一番──8月17日に行われたUFC 305「Du Plessis vs Adesanya」のカイ・カラフランス×スティーブ・アーセグについて語ろう。


――今回はカラフランスのKOをピックアップしていただきました。まずその理由から聞かせてください。

「カラフランスは約10カ月ぶりの復帰戦で、アーセグはアレッシャンドリ・パントージャに負けて以来の試合だったんですよね。アーセグはフライ級では身長が高いんですけど(173㎝)、カラフランスは身長に対してリーチが長い体系なんですね。で、僕もMMAの選手を指導するうえで構えをスイッチする打ち方を勉強していて、この試合でカラフランスはファーストコンタクトから左→右→左とスイッチしながら出す攻撃を積極的にトライしていたんですよね。この形をトータル3回くらいトライしていて、アーセグもカラフランスの左のオーバーハンドを気にして、あまり自分から前に行くことが出来ていなかったんです。

アーセグもカラフランスが入ってくるところにアッパーを用意していて、それがいい形で当たったんですけど、フィニッシュシーンのカラフランスは左→左で入ってるんですよ。しかも左を見せたあとに左手でアーセグの前手を払って、それをアーセグに反応させておいて、右のオーバーハンドからスイッチしての左フックでダウンを奪っていました。あれは僕もすごく参考している動きですね。マイケル・チャンドラーもストレートでやる動きなんですけど、カラフランスの場合はストレートというよりもしっかり骨盤・軸に体重を乗せて、いい角度でフックが入りましたよね」

――試合途中にカラフランスのパンチの空振りが目立っていて、少しやりにくそうに見えていました。

「最初カラフランスは自分の右側に回ってトライしようとしてたんですよ。そこをリセットして左に回ったときにアーセグにアッパーを合わせられてるんですね。で、それもあったので次のトライではカラフランスがアーセグの前手を払いにいってるんです。あの前手払いにアーセグが反応してしまい、軸・顔が上がってしまったんです。あれはスイッチパンチャーに対して絶対にやってはいけない動きなんです」

――アーセグにミスがあったんですね。

「カラフランスはカラフランスで失敗もしているんですけど、最後のトライではそこを修正して打ち抜きました。だからここはしつこくやり続けたもの勝ちというか。アーセグはカラフランスのプレッシャーを感じていて、バックステップが少し甘くなっていたのかもしれないです。この試合は僕がMMAファイターを指導するにあたって、すごく勉強になる試合でした。構えをスイッチしてくる選手に対して“これをやってはいけませんよ”という意味でも参考になりました」

――良太郎さんはただ構えをオーソドックスとサウスポーに変えるだけではなく、スイッチしながらの打撃も研究しているのですか。

「はい。そういったスイッチしながらの打撃=ムービングの打撃に関しては、アルファメールの流れでいうとTJ・ディラショーとコーディ・ガ-ブランドがいて、ドゥェイン・ラドウィックのチームに分家していって……ですよね。実際にラドウィックはすごくムービングの打撃を研究していて、そこの指導が上手いんですけど、かなり複雑で覚えるのが難しいんですよ。あとはムービングをよく使う選手は体の反応速度が衰えると、それがパフォーマンスの低下に直結しちゃうんですよね。それこそディラショーやガ-ブランド、イスラエス・アデサニャもそうですよね。年齢を重ねることでの反応や体の連動が落ちると、一気に動きが落ちてしまうんです」

――スイッチしながらの打撃は運動能力に影響される部分も大きい、と。

「僕はそう思います。やはりムービングは体を連動させる動きなので、一つの形を覚えるのではなくて(重心を)おしりに乗せる、股関節に乗せる、体軸を変える……そういった動きが必要になるんです。どうしても年齢やキャリアを重ねると無理して戦わなくなるというか、若い時のようにたくさん動いて戦うというよりも、どっしりと構えて動きのベースをしっかり作って戦う選手の方が被弾は少なくなりますよね」

――非常に興味深い話です。

「例えばオーソドックスだけ、サウスポーだけしか使わない選手だったら、年齢を重ねても自分と相手との空間支配能力でなんとかなるものなんですよ。そしてその空間支配能力はあまり年齢に影響されることがない。アレックス・ペレイラがまさにそれです。逆にムービングする選手は空間支配の仕方が変わるし、反応速度が衰えてくると、そこに大きなズレが生じてくるんです。だからもし年齢を重ねてスイッチを使うとするなら、流れるようにスイッチを使って動き続ける=ムービングのスタイルよりも、オーソドックスとサウスポーをどちらも使えるスタイルの方が合っていると思うし、どうしても前者のスタイルは全盛期が少し短くなるのかなと思います。それでいくとカラフランスはキャリアは37戦やっていますけど、年齢的には31歳だし、まだ体力的に落ちることはないと思うんですよ。もし朝倉海選手がUFCのフライ級でやっていくなら、カラフランスとやると面白いと思いますよ」

――今後もスイッチしながらの打撃、良太郎さんが言うところのムービングの打撃は伸びていくでしょうか。

「日本人でも頻繁にスイッチしたり、ムービングする選手は増えていますけど、アメリカに比べると遅いじゃないですか」

――僕が初めてスイッチやムービングを意識したのは、おそらくドミニク・クルーズだと思っていて、彼がWECチャンピオンとして防衛を重ねてUFCに参戦したのは2010年~2011年です。

「僕もアメリカに練習にいった選手に聞くと、アメリカではスイッチやムービングがMMAをやる選手たちの基本的なドリルに組みこまれているそうなんです。ボクシングも国によってファイトスタイルが違うと言われますが、あれはその国の選手に合ったスタイルというわけではなくて、指導方法・方針の違いだと思うんです。もし日本人がメキシコでボクシングを始めたらメキシカンスタイルになるはず。もちろんそこには持って生まれた身体能力という部分での向き不向きはあると思いますけど、ただし最初からスイッチすることを教えていれば、そういう動きはできますよね。僕が最初から指導する選手は子供も含めて、オーソドックス・サウスポーどちらもできるようにしていますし、初歩の段階でどちらの構えもできるように仕込んでおくことで、将来的にスイッチやムービングの基礎はできやすいと思います」

――最初にどちらかに構えて、逆の構えを覚えるではなくて、最初からどちらも構えるようにするわけですね。

「どちらが利き手か、どちらの構えの方が力が伝わりやすいかは選手によって違うし、格闘技のバックボーンによっても変わってくるので、それはやりながらカスタムしていくイメージです。スイッチを練習するからスイッチヒッターにならなくてもいいし、どちらも構えることが出来たら、オーソドックスがやられて嫌なこと、サウスポーがやられて嫌なことを自分で覚えることもできて、同じジムの仲間の練習相手にもなる。そういう意味でもプラスですよね。どちらもの構えも出来ることと、構えをスイッチしながら打撃を出すことは別で、そこへの向き・不向きもあるので、僕はそういう考え方で見ています。少し話は脱線してしまいましたが、アーセグをKOしたカラフランスの打撃はスイッチを使う打撃として非常に参考になりました」

The post 【Special】月刊、良太郎のこの一番:8月 カラフランス×アーセグ「スイッチを使う打撃として参考になる」 first appeared on MMAPLANET.
カテゴリー
45 AB CORO MMA MMAPLANET o RIZIN RIZIN47 RIZIN48 キム・スーチョル ホベルト・サトシ・ソウザ ルイス・グスタボ 井上直樹 伊澤星花 佐藤将光 元谷友貴 太田忍 宇佐美正パトリック 新井丈 木下カラテ 水垣偉弥 浅倉カンナ 牛久絢太郎 矢地祐介 秋元強真 高木凌 高橋遼伍

【RIZIN47】仮想スーチョル=水垣偉弥が語る井上直樹「酷い目にあったので勝ってもらわないと困る」

18日(水)都内にて、29日(日)さいたま市中央区のさいたまスーパーアリーナで行われるRIZIN48に出場する選手たちの合同公開練習が行われた。
Text by Takumi Nakamura


ファン公開形式で行われた今回の公開練習は全14選手が参加。新井丈のミット打ち&木下カラテによる空手の型からスタートし、RIZIN初参戦の秋元強真がJTTのエリーコーチとのミット打ちを披露する。

3組目から6組目までは対戦相手が見ている前での公開練習となり、宇佐美正パトリックのシャドー→矢地祐介ミット打ち、佐藤将光と高橋遼伍によるMMA形式のマススパーリング→牛久絢太郎のミット打ち、太田忍の気配斬り→元谷友貴のミット&打ち込み、浅倉カンナと重田ほのかのMM形式のマススパーリング→伊澤星花とCOROのグラップリングスパーリングと続いた。

そして練習仲間でもある高木凌と井上直樹は揃ってミット打ちを見せた。キム・スーチョルとのバンタム級王座決定戦を控える井上のミットを持ったのはMMAPLANET「今月の一番」シリーズでもおなじみの水垣偉弥。井上曰く、水垣が仮想スーチョルとしてトレーニングパートナーを務めているそうだが、公開練習のミット打ちはあくまで軽めのもの。

公開練習後に水垣にコメントを求めると「今回、仮想スーチョルとして頑張りました。最後の方は色々な攻撃を当てられまくって酷い目にあったので、仕上がりはいいと思います。これで仮想の相手を出来るのはもう最後かもしれないくらい出し切ったので、勝ってもらわないと困ります」と井上の仕上がりの良さを教えてくれた。

そして締めに登場したのはルイス・グスタボとの防衛戦を控えるライト級王者のホベルト・サトシ・ソウザ。柔術衣を着てマットに表れたサトシは原点回帰ともいえる柔術形式のスパーリングで「久しぶりの試合、タイトルマッチです。絶対にベルトを守ります。日本の名前とRIZINの名前を守ります」と意気込みを語った。

The post 【RIZIN47】仮想スーチョル=水垣偉弥が語る井上直樹「酷い目にあったので勝ってもらわないと困る」 first appeared on MMAPLANET.
カテゴリー
45 MMA MMAPLANET o Special UFC カマル・ウスマン クレイ・グイダ コナー・マクレガー コルビー・コヴィントン ショーン・オマリー ダナ・ホワイト ネイト・ディアス ベラル・モハメッド ベンソン・ヘンダーソン レオン・エドワーズ 大沢ケンジ 柏木信吾 水垣偉弥

【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:7月 エドワーズ×モハメッド「モハメッドの良さを伝えたい」

【写真】決して派手なスタイルではない。だからこそモハメッドの試合にはMMAの奥深さが詰まっている(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は水垣偉弥氏が選んだ2024年7月の一番──7月27日に行われたUFC 304「Edwards vs Muhammad 2」のレオン・エドワーズ×ベラル・モハメッドについて語ろう。


――7月の一番として、レオン・エドワーズ×ベラル・モハメッドのUFC世界ウェルター級選手権試合を選んでもらいました。この試合を選んだ理由を教えてもらえますか。

「僕はモハメッドの地味強感が好きというか、彼はフィジカル的にすごく優れているわけでもないし、リーチが長かったり、なにか特徴があるわけでもない。バックボーンはレスリングですが、決してエリートレスラーというわけでもなくて、そういう選手がMMAファイターとしてUFCのトップ戦線で戦っている。しかもフィニッシュするのではなくて、5Rフルに使って戦って勝つというのが非常に僕好みですね。

今回はエドワーズ相手にモハメッドの良さがすごく出ていて、こういう試合をみなさんに伝えられたらなと思って選びました。おそらくもっと派手な試合、例えばエドワーズのKO勝ちを期待したファンの方も多いと思うんですけど、僕的には見たいものを見ることが出来た試合です」

――この取材前にモハメッドのプロフィールを調べたら、モハメッドは高校時代にレスリングをやっていたくらいの経歴なんですよね。それで開始早々にモハメッドがテイクダウンするという展開でスタートしました。

「まずそこがすごく驚きました。エドワーズのここ数戦を見て カマル・ウスマンやコルビー・コヴィントンといったテイクダウンが強い相手に対して(エドワーズは)はほとんどテイクダウンを許してないんですよ。そのエドワーズ相手にモハメッドは開始早々テイクダウンをとってるんですよね。その作り方もすごく上手いですし、この最初のテイクダウンが活きて、その後のラウンドも有利に試合を進めていくので、試合の作り方の上手さも感じました。

もちろん1個1個の格闘技の技術もバランスよく使うものは持ってるんですけど、それ意外の部分での試合巧者というか、相手の心理を読むというか。そういう心理戦がすごい上手いんじゃないかなと思います。それがまさに最初のテイクダウンで、あれはほぼファーストコンタクトに近いようなタイミングでのタックルでしたが、おそらくエドワーズはああいうタックルはが来るとは思っていなかったと思います」

――結果的に最初にモハメッドがテイクダウンを取ったことで、エドワーズはモハメッドのテイクダウンを警戒せざるをえなくなりましたよね。逆にモハメッドはテイクダウンだけでなく打撃でもいけると踏んだと思いますし、まさにあの一発目のテイクダウンが25分間の試合の流れを決めたと思います。

「そうなんですよ。エドワーズはいきなり予想外のタックルに入られて、焦ってテイクダウンを取られてしまった。 それで打撃・スタンド勝負でも、モハメッドは楽になったと思うんですよね。それで1Rの終わりぐらいにモハメッドが打撃をまとめるシーンがあるんですよ。あれはおそらくエドワーズがテイクダウンを警戒して自分の打撃ができなかったところに、モハメッドがパンチを当てて、明らかにエドワーズが嫌がったんです。

ここでモハメッドは打撃で攻めるんじゃなくて、もう一回タックルに入るんですよ。で、そこでもまた1発でテイクダウンを決めました。そういった試合運びの巧さというかクレバーさ。フィッシュを狙うファイターであれば、打撃であそこまで行けたら そのまま打撃で行くと思うんですよね。でもそこで自分がやることを明確にして、打撃からテイクダウンに切り替えることが出来る。相手が打撃を嫌がって意識が上に行ったら、タックルに行くという。そこをパっと切り替えられることの凄さですよね」

――またモハメッドは上(打撃)と下(テイクダウン)の散らしが絶妙ですよね。

「僕もモハメッドのテイクダウンの何がいいのかを考えて、僕は理由が2つあると思うんですよ。まず1つは位置取りですよね。モハメッドはたまにスイッチを使いながら、 ナチュラルに相手にケージを背負わせるんですよ。それで相手のバックステップを殺しておいて、パンチかタックルの2択にして、パンチを散らしてタックルって入っていますよね。あともう1つは左手=前手の使い方がすごく上手いです。ジャブだけじゃなく、アッパーも打ったり、左のパンチを散らすことができる。その2つの要素がモハメッドの試合の作りにすごく関係している気がします」

――エドワーズからすると知らないうちにケージに詰められていて、打撃を散らされてテイクダウンに入られていたわけですね。

「おそらく打撃の1発はそんなにないと思うんですよね。いざ打てば強いかもしれないですけど、そういう打ち方をしていない。相手としては(モハメッドのパンチを受けて)これなら大丈夫かなと自然にステップしていたら、いつの間にかケージを背負っていって『あっ!』と思った時には、目の前で左のパンチを散らされている。今度はそれを鬱陶しいなと思ったら、タックルに入られているみたいな。そういう作りが完成されている気がします」

――技術的なところで言えば、股下で腕をクラッチして相手を持ち上げるテイクダウンが目立っていました。

「僕はあれをクレイ・グイダ・スローと呼んでいるんですよ。クレイ・グイダがネイト・ディアスを投げた時の技があれだったので(笑)」

――確かにクレイ・グイダがやっているイメージがあります(笑)。

「ハイクロッチから股下でクラッチして持ち上げる技なんですけど、あれはサクラバアームロック(キムラロック)を取られた時のカウンターでやると有効なんですよね」

――モハメッドはバックを取った時でも、すぐに両足フックせずにレスリング的なコントロールで上手く時間を使っていました。

「時間の使い方もすごい上手いですよね。バックキープはしつつも、あまりそこには固執せず。下になったシーンもありましたけど、基本的にはもう1回上を取りに行っている。あの辺りのポジションコントロールも、いい意味でフィニッシュにこだわりすぎていない。 本人もインタビューで言っているように、ドミネイトして制圧して強さを見せることが好きなんでしょうね。僕もそういう戦い方は好きですね」

――しかもそういった試合運びをエドワーズにやったことがすごいと思います。

「エドワーズはウスマンやコビントンのテイクダウンを切って、逆にテイクダウンするぐらいの選手なので、このレスリング力で、あの打撃があったら、なかなか崩せる選手はいないだろうなと思っていたところで、モハメッドが開始早々にテイクダウンを取って。モハメッドがMMAというものを見せてくれた感じがして、すごくよかったです」

――年齢的にも36歳での王座戴冠でした。

「階級がウェルター級なので、軽量級よりも多少は競技寿命が長いと思うのですが、身体能力に頼った戦い方ではないですよね。反射神経や瞬発力に頼らず、試合運びや駆け引きを武器として戦ってる選手なので、基本的な技術プラス試合作りが上手いですよね。その試合作りで言うと、3Rにエドワーズにバックを取られた時点で、僕はモハメッドがラウンドを捨てたような印象があるんですよ。このラウンドを取られてもいいから、体力回復にあてよう、みたいな。だから僕は5Rこそモハメッドの良さが出る気がしています」

――ポイントを計算できるからこそ、そういった戦い方もできる、と。

「3Rも最初はモハメッドが攻めに行って、スクランブルの攻防でバックを取られちゃって、その瞬間に、フィニッシュさえされなければいいやと思ったんじゃないのかなと。僕は見ていてそう感じていて、そういったラウンドを捨てる潔さもいいなと思いました。

例えなハビブ(・ヌルマゴメドフ)の過去の試合を見てみると、試合中に休むんですよね。1・2Rを明確に取ったら3Rは休む、みたいな。ただハビブの場合はポジションを許して休むのではなくて、攻めのテンションを一旦落ち着けて休むみたいな戦法で。モハメッドの場合は先に攻めたんだけど、守勢に回る展開になって、そこで休むことを選択したように見えました。そこでの切り替えの良さというか、すごくクレバーだなと思いましたね」

――なるほど。3Rはサブミッションさえ凌いで休めればいいという判断だったんですね。

「僕はそう思いました。バックを取られて相手に首を絞められたり、うつ伏せで潰されてしまうとダメですが、モハメッドのようにエドワーズを下にして、自分が天井を見ているような状態でバックを取られている分には強い打撃をもらうことはないと思うんです。

だからダメージもそんなに受けないし、サブミッションだけ気をつけていれば意外に疲れないのかなと。もちろん寝技が超一流の相手にバックを許して休むのは危険ですけど、エドワーズからはそういった危険を感じなかったと思うんですよね。だから一本を取られないようにディフェンスして、休もうという感覚もあったのではないかと思います」

――少し話題はずれますが5Rにモハマッドがバックを取っていて、最後の最後にエドワーズが正対して肘で流血させたじゃないですか。ああいう展開でエドワーズにポイントが入ることもありえそうですね。

「それはあると思います、ダメージ重視の視点でいくと」

――バックを取られて相手に攻めさせないで守るというのも戦法の一つとしてありえるのかなと思いました。

「自分と相手の技量を比べて極められない自信があって、ポイント的にもリードしているという、非常に限定されたシチュエーションにはなりますけど、5Rマッチであればそういう選択もありなのかもしれません。

もちろんモハメッドがバックを取られた状態から粘るのが得意だったのかもしれないし、その辺も含めて自分が持ってる引き出しと使い方、それを完全に熟知して戦っていると思います。ずば抜けて特別なものを持った選手ではないけれど、自分が持っている引き出しをどう使えばいいかを分かっている。だから勝つ。そういう選手なんだと思います。僕もそういう戦い方をしたかったので、モハメッドにはすごく惹かれますね」

――今のUFCチャンピオンの顔ぶれを見ると、また新たな個性を持ったチャンピオンが誕生しましたよね。

「ぶっちゃけ人気は出ないと思うんですよ(笑)。PPVが売れなくて、ダナ・ホワイトがキレる姿を想像しちゃいますけど、間違いなく通好みの選手ではあるので。MMA好きはチェックすべき試合、選手だと思います」

――確かに派手さはないかもしれませんが、例えば選手サイドからすると参考になる点が多い選手かもしれませんね。

「この企画でも以前話したことですが、教科書にしていい選手としちゃいけない選手がいて、ショーン・オマリートやコナー・マクレガーを真似するのは相当難しいと思うんです。そういう選手に憧れる気持ちは分かりますが、僕のような凡人が(笑)憧れる選手、見本とする選手は今回のムハマッドだったり、僕は結構ベンソン・ヘンダーソン戦い方が好きだったんですけど、そういう真似できる可能性がある選手を見るべきだと思いますね」

The post 【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:7月 エドワーズ×モハメッド「モハメッドの良さを伝えたい」 first appeared on MMAPLANET.
カテゴリー
45 Fight&Life MMA MMAPLANET o Special UFC UFC303   アレックス・ポアタン イリー・プロハースカ キック ジョン・ジョーンズ 大沢ケンジ 柏木信吾 水垣偉弥

【Special】月刊、良太郎のこの一番:特別編 ペレイラ×プロハースカ「武器を厳選して殺傷能力を上げる」

【写真】二度目のプロハースカはペレイラの格闘IQの高さが詰まったKO劇だった(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾というJ-MMA界の論客にMMAPLANET執筆陣がインタビューをしてきた「月刊、この一番」シリーズ。そこに新たに初代KNOCK OUT-BLACKウェルター級王者にして、立ち技・MMA問わず多くの選手を指導する良太郎も参加。MMAの主要選手はすべてチェックしているという打撃の専門家の目線でMMAを語ってもらう。

今回は良太郎が選んだ2024年7月の一番として、試合をセレクトしてもらう予定だったが、さっそく良太郎のこだわりがさく裂。どうしてもこの試合を語らせて欲しいということで──6月29日に行われたUFC303のアレックス・ポアタン・ぺレイラ×イリー・プロハースカについて語ろう。


――さて今回から「月刊、この一番」に良太郎選手にも参加していただくことになりました。当初、7月の大会から試合を選んでもらう予定だったのですが、良太郎選手の強い希望で6.29「UFC303」のアレックス・ペレイラとイリー・プロハースカの試合をセレクトしてもらいました。

「この話をいただいて、ペレイラとイリーの試合しかないよなと思って、映像を再チェックしてたら6月30日(※日本時間)だったんですよ。改めて7月の試合からも選ぼうと思ったんですけど、どうしてもペレイラのことを話したいので、第1回目から特別編になっちゃいますが、よろしくお願いします(笑)」

――そういうこだわりを語ってもらうのがこの連載の趣旨なので、全く問題ありません(笑)!では良太郎選手はこの試合を見て、どんな感想を持ちましたか。

「過去に一度両者が対戦していて、ややスクランブル的に決まった試合だと思うんですけど、僕は予想として普通にペレイラがいくだろうなと思っていました。ペレイラは武骨だし、器用には見えないんですけど、ものすごく格闘技IQが高い選手だということを再確認しました」

――どこにペレイラの格闘技IQの高さを感じましたか。

「ペレイラは自分の戦い方が確立していて、イリーはやや変則的で、一度目の対戦とは大差ない試合になると思っていたんです。それがいざ蓋を開けてみると、ペレイラが細かく段階を踏んでKOにつなげていて、すごく上手くなっているなと感じました。例えば一度目の対戦ではイリーがタックルのフェイントを入れて、スイッチしながら飛び込んでいて、そこでペレイラはスイッチヒッターにやってはいけない動きをしてしまって、打撃を被弾していました。

 それでも最終的にペレイラは右の縦拳アッパーからの左フックでKOしていて、今回の再戦にあたってイリーからすると一度倒されている恐怖心もあるし、右のカーフや左フックが強烈だという刷り込みもあったと思うんです。それもあって2度目の対戦ではペレイラのゾーンがより確立されているなと思いました。右のカーフでコツコツ削って、イリ―がスイッチしたら左の三日月蹴りを蹴って、またカーフを蹴る。これで完全に制空権を支配して、イリーがステップインして来たらバックステップして得意のスマッシュを合わせる。1R終了間際のダウンはまさにそれでしたよね」

――フィニッシュになった左ハイはいかがでしたか。

「あれも完璧でしたね。試合後にペレイラがコメントしていたように、あの左ハイは試合までに用意していたものではなくて、試合直前に流れたイリーのウォーミングアップの映像を見て、コーチたちと『イリーはカーフを蹴ると手が下がるから、ハイキックを蹴ろう』とセッションして、その場で左ハイを蹴ることを決めたそうなんです。直前でもそこまで相手のことを観察して、それをチームでセッションできる。本人はもちろん、そういう役割を担う参謀役もいるんだろうなと思います」

――直前にそこまでチームで作りこんでいたのはすごいですね。ちなになぜイリーはペレイラにカーフを蹴られて手を下げてしまったのでしょうか。

「もともとイリーはガードを上げない構えで、手を下げたところから差すようなパンチを打ったり、タックルのモーションを見せるんですね。それでペレイラにカーフを蹴られたらカットするのではなく、おそらくパンチを合わせようとしていたんだと思うんです。それで自然に手が下がってしまっていたんでしょうね。あとペレイラが左ハイを蹴った時、手が下がっていたイリーはペレイラの左足をすくおうとしているんですよ。あれは三日月蹴りを蹴られていたから、そういう蹴りが来ると思って左の蹴りをすくおうとしていたんだと思います」

――まさに計算しつくされた左ハイだった、と。

「ペレイラはペレイラで試合直前のアップで左ハイを蹴っていましたからね。前回はカーフを効かされたイリーがタックルに入っていましたが、今回はそれすらさせなかったですし、以前、Fight&Lifeの取材でペレイラのことを“ヘタウマ”と表現しましたが、制空権の支配はピカイチですね。そして必ず自分の勝ちパターンに持っていくところはすごいです。僕はペレイラのことが大好きで、もしかしたらペレイラは左利きのオーソドックスかなと思ったこともあったんですよ。セーム・シュルトも右利きのサウスポーだから、ジャブがストレート並みに強いというじゃないですか。でもペレイラがサインしているところを見ると右手でペンを持っていたので、右利きは右利きだと思うんですよね」

――そこまでチェックしていたんですね(笑)。

「はい(笑)。だから日々の積み重ねであの左を磨いたんだと思います」

――これでペレイラは3連勝、完全に勝ちパターンが確立されてきました。

「相手からしたらとてつもなく嫌ですよね。ただペレイラの戦い方は自分のフレーム、骨格、リーチ、得意不得意、年齢……そういうすべてのものを加味して、自分にしかできないことをやっていると思います。必要なことしかやらない=マイナスの練習をしながら、それが結果的にプラスになっている。持っている武器を厳選しつつ、その武器一つ一つの殺傷能力が上がっていますから」

――ある意味、達人的なところまでいきつつある選手でしょうか。

「そう思いますよ。実際に“触れたら倒せる”のところまで近づいているわけですし」

――UFCでミドル級とライトヘビー級を獲って、もしヘビー級まで獲ることになったら、いよいよ最強と言える選手になるのではないかなと思います。

「山の頂上が見えている選手ですよね。僕はずばりジョン・ジョーンズをぶつけてほしいですね。ペレイラは戦績はもちろん、武骨なキャラも浸透してきて、ファイターとしての色気もあるじゃないですか。みんなジョン・ジョーンズVSアレックス・ペレイラは見たいと思いますよ」

――ジョーンズは次戦で引退という報道もありましたが、なんとかこの夢のカードは実現して欲しいですね。そういうわけで今後もよろしくお願いいたします!

「次回はちゃんと8月の大会からセレクトします(笑)!」

The post 【Special】月刊、良太郎のこの一番:特別編 ペレイラ×プロハースカ「武器を厳選して殺傷能力を上げる」 first appeared on MMAPLANET.
カテゴリー
45 MMA MMAPLANET o Special UFC アレッシャンドリ・パントージャ ドミニク・クルーズ マネル・ケイプ ムハマド・モカエフ 大沢ケンジ 平良達郎 柏木信吾 水垣偉弥

【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:6月 平良達郎×ぺレス「フィニッシュより、あの戦い方に驚き」

【写真】おたつロックからのフィニッシュが話題になったが、そこに至るまでの戦いぶりを再評価したい(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は水垣偉弥氏が選んだ2024年6月の一番──6月15日に行われたUFC on ESPN58の平良達郎×アレックス・ぺレスについて語ろう。


――平良選手がフライ級5位のぺレスに2RTKO勝利し、日本人前人未到のオクタゴン6連勝を果たし、フライ級で5位にランクされることとなりました。当然、水垣さんにもこの試合をセレクトしてもらったのですが、率直にどんな感想を持ちましたか。

「フィニッシュもそうなんですけど、僕は一発でテイクダウンを決めたことに驚きましたね。ああいう風にパっと(テイクダウン)出来るとは思っていなかったので。ムハマド・モカエフもぺレスをテイクダウンするのに手こずっていたので、ああいう形でテイクダウンしたことに驚きました。またあの時の平良選手のテイクダウンはどちらかというと(テイクダウンを)切られるパターンなんですよ。タックルに入って、出ている頭と逆側の脇を差されるっていう。あの形は仮にケージまで押し込めたとしても、脇を差し上げられて四つ組みになりやすいんです。でも平良選手はそうなりそうなところで、上手くぺレスの身体を引き出して足をかけてテイクダウンする。あれは見ていて僕も勉強になりました」

――私も試合前は平良選手が勝つにしても、一発でテイクダウンを取るという展開は想定ませんでした。

「僕も平良選手がどこで勝負するのかなと思っていて、もっとスタンドでカーフを蹴って削ったり、四つ組で上手くテイクダウンしたり、そういう試合をイメージしていたんです。実際の試合では自分からタックルに入ってテイクダウンしましたけど、あれは考えていなかったですね。レスリングレスリングしていない、足をかけてのテイクダウンというか、ダゲスタン系の選手がやるような足をかける系のテイクダウンですよね。アメリカの純レスリングにはない技術だと思うし、それを上手く使って戦っているなと思いました。それでいて彼には柔術的なテクニックもあって、そこをミックスさせたものが平良選手のスタイルだし、フィニッシュは機転を利かせた技というか、ああいう技を使うのは彼の頭の良さであり、すごく頭が柔らかいなと思いました」

――むしろ平良選手にとってぺレスは苦戦を強いられる、攻略が難しい相手だと思っていました。

「フィニッシュもそうですけど、ぺレス相手にあの戦い方をして勝ったことが驚きました。僕は『どうやってぺレスを攻略するんだろう?』と見ていて、例えば組みの部分でも下になってスクランブルを仕掛ける、もしくはスイープして上を取るのかなと思っていたんですよ。ただぺレスは首系サブミッションも上手いので怖いなとか。だから平良選手がどう戦うのかすごく興味深くて。最後のフィニッシュも、試合後のインタビューで『レスラー対策のスペシャルムーブだ』ということを言っていましたが、ああやって自分がスタンドでバックを取るところまでイメージしていたんじゃないのかなと思います。レスラーに尻餅をつかせれば背中を見せて立ってくるから、そこに飛び乗ってスタンドのバックから攻める、みたいな」

――あとはぺレス相手に一切気持ちがひかない、自信たっぷりに堂々と戦っている姿が頼もしく見えました。

「僕が引退して思ったのが、相手がランキングのトップ5以内の選手になってくると、博打を打たないと勝てないんじゃないのかなというマインドになっていたんです。普段通りのスタイルを貫くのが難しいというか。チャンピオンクラスの選手と戦うと、どこかで自分が劣っているという考え方になって、自分自身の戦い方に自信を持てないから、一発先に当ててやろうとかどうやって一発逆転しようみたいな。ドミニク・クルーズとやった時なんかはそういうメンタルだったんです。でも平良選手を見ていると、そういうメンタルになっていないところがすごい。相手がトップ5でもなんとも思わずに、いつもの自分を出せば勝てると思ってやっている。それが僕からするとすごいなと思いますね」

――まさに強い人間のメンタリティですね。

「僕もランキング5位~10位の相手だったら、そういうメンタリティで戦えたんですよ。でもチャンピオン付近・トップ5になってくると、そうは思えなかったんです。でも平良選手はそうじゃないから、今後の試合にも期待が膨らみますよね」

――戦い方という面で先ほどは「平良選手のスタイルがある」という言葉もありましたが、彼独自のスタイルがあったうえでMMA的にもレベルが高いという印象ですか。

「これもまた僕との比較になっちゃうんですけど、僕はレスラーに対してレスリングを頑張って何とかしようと思って、それでレスリングを必死に練習して、自分のいい部分を出すこともできました。ただそれがトップレスラー相手になると、どうしてもレスリングが弱点になっていて、そこで勝てない苦手意識がありました。でも平良選手はレスラー相手にレスリングだけじゃなく、レスリング以外の色んな技術を駆使して対抗していると思うんですね」

――ランキング5位のぺレス相手に今回の試合内容で勝ったわけなので、僕はこのまま平良選手には自分のスタイルをぶつける形でトップ5の選手と戦ってほしいんですよね。

「チャンピオンのアレッシャンドリ・パントージャが柔術家なので、柔術家相手にどう戦うのかが見たいですよね。今回のぺレスの試合を見ると、柔術家とやるとどうなるんだろう?というところがあるので。僕はレスラーが苦手で、柔術家は得意なところがあったので」

――今後、平良選手よりも組み技・寝技が強い相手と戦うことになったら、平良選手はどんな戦い方をするんだろうという興味も沸きます。

「想像が膨らみますよね。7月27日(現地時間)にマネル・ケイプとモカエフが試合をしましたけど、あの試合を比べると平良選手の方が期待感を持てる試合だったと思うんですよ。しかもモカエフがUFC離脱という話(※取材日は28日)も出ているので、それだったらなおさら(タイトルマッチを)期待しちゃいますよね。同じ日本人だからということを抜きにしても、どちらがチャンピオンとやった時に期待を持てるかと言ったら、僕は平良選手の方だと思いますね」

The post 【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:6月 平良達郎×ぺレス「フィニッシュより、あの戦い方に驚き」 first appeared on MMAPLANET.