カテゴリー
45 MMA MMAPLANET o UFC UFC308   カムザット・チマエフ ロバート・ウィティカー

【UFC308】アゴが破壊される?! バックを制したチマエフが一気のRNCでウィティカーを初回で破る

<ミドル級/5分5R>
カムザット・チマエフ(UAE)
Def.1R3分34秒by RNC
ロバート・ウィティカー(豪州)

ウィティカーが右ローを蹴る。遠い距離から右を見せつつ、低い姿勢で両ヒザをついてダブルレッグを仕掛けたチマエフがバックに回る。チマエフはワンフックで殴り、体重を掛けていく。ケージを使って足のフックを許さないウィティカーだが、正対できない状態が続く。ワンフック、ロールするウィティカーから両足をフックさせたチマエフだが、ロールを続けたウィティカーがついに正対する。その刹那、ダブルレッグからバックに回り直したチマエフが後方からパンチを入れる。

ウィティカーはここもロールして逃れようとしたが、マウントを取られて急ぎ背中を見せる。勢いのあるパンチから、座った状態のウィティカーにRNCに捕らえる。ネッククランク気味に入ったのは、アゴがクラッシュしそうになったのか――即座にウィティカーがタップし、勝負は決した。

「ロブはレジェンドだ。チャンピオンも誰もが俺から逃げるのに、戦ってくれて尊敬している。あのRNCは、アゴが折れかかっていただろう。ダナ、UFCに都合が悪いのか。俺にベルトをくれ」と勝者は話した。


The post 【UFC308】アゴが破壊される?! バックを制したチマエフが一気のRNCでウィティカーを初回で破る first appeared on MMAPLANET.
カテゴリー
45 MMA MMAPLANET o UFC UFC308 YouTube   アルメン・ペトロシアン アレクサンドル・ラキッチ アレックス・ヴォルカノフスキー アンソニー・ペティス アーノルド・アレン イボ・アスラン イリャ・トプリア カムザット・チマエフ カルロス・レアル キック クリス・バーネット シャラブジン・マゴメドフ ジェフ・ニール ジャスティン・ゲイジー ジョシュ・エメット ジョン・チャンソン ダン・イゲ ハファエル・ドスアンジョス ブルーノ・シウバ マゴメド・アンカラエフ マックス・ホロウェイ ミクティベク・オロルバイ ライカ リナット・ファクレトディノフ レローン・マーフィー ロバート・ウィティカー ヴィクトー・ウゴ

【UFC308 】展望 語学堪能=強さの秘密、王者イリャ・トプリア×拳で語る挑戦者マックス・ホロウェイ

【写真】ホロウェイはテクニックに裏付けされた喧嘩ができる男。王者トプリアはタフな終盤戦に持ち来れ込んだ時、喧嘩ができる気持ちの持ち主なのか(C)Zuffa/UFC

26日(土・現地時間)、アラブ首長国連邦アブダビのエティハド・アリーナにてUFC 308「Topuria vs. Holloway」 が行われる。ロバート・ウィティカーとカムザット・チマエフによるミドル級戦をコメインとする今大会のメインは、無敗の新王者イリャ・トプリアにBMF王者マックス・ホロウェイが挑戦するフェザー級タイトルマッチだ。
Text by Isamu Horiuchi

トプリアは2020年10月に、8戦全勝の戦績をもってUFCデビュー。当時は強力なテイクダウンから肩固め、RNC、ギロチン、ダースといった見事な首技の連携を駆使するハイレベルグラップラーのイメージが強かったが、やがて立ちで距離を詰めてからの強烈かつ正確無比な拳のコンビネーションでKOを量産するようになった。

昨年6月にはランキング5位のジョシュ・エメットと戦い、幾度となくダウンを奪って5R判定で圧勝、今年の2月に絶対王者アレックス・ヴォルカノフスキーに挑戦する機会を得た。2Rに王者の右ジャブをかわしたトプリアは、瞬時に距離を詰めて右ボディから左フック。次の右ストレートは外れたものの、すぐに角度を調整しての右フックが炸裂。パウンドフォーパウンドランキングのトップに君臨し続けていた世界最高峰のMMAストライカーを圧巻のコンビネーションで葬り去り、15戦全勝の戦績で(15歳の頃から住んでいる)スペイン初のUFC王座に輝いた。

対して生粋のハワイアンのホロウェイは、2016年12月にアンソニー・ペティスを倒してフェザー級王座を獲得。4度の防衛を重ねるが、2019年12月にヴォルカノフスキーに5R判定で敗れて王座転落した。

その後ヴォルカノフスキーに2度挑戦するもいずれも5R判定負けを喫し、王座復帰は遠のいたかに見えた。しかし昨年アーノルド・アレンとコリアンゾンビことジョン・チャンソンに完勝して健在を示すと、4月のUFC 300にて一階級上のBMF(Baddest Motherfucker=最高にヤバい奴)王者ジャスティン・ゲイジーに挑んだ。


ホロウェイは1R終盤にバックスピンキックでゲイジーの鼻を破壊すると、その後は打撃戦で終始主導権を握る。そして最終ラウンド残り10秒の時点でオクタゴン中央で床を指差し、俺と打ち合えと咆哮。それに応じたゲイジーが振り回す拳よりも高い回転力でパンチの連打を繰り出し、最後は右フックをスマッシュヒット。残り1秒でゲイジーが前のめりに失神するUFC史上最高のKOシーンをもってBMF王者に輝いた。

間違いなく自分が勝っている試合で、最後の10秒にて階級上の超弩級の強打者と足を止めて殴り合いを挑む──常人にはまったく考えられない、これ以上BMFに相応しい行動は存在しないほどの超BMFぶりを見せつけて会場を熱狂の渦に叩き込んだホロウェイは、その場で「エル・マタドールよ!」とトプリアのニックネームをコールアウトすると「お前はこのブルから逃げている! 145パウンドのベルトを賭けて俺と戦え!」と対戦表明した。

それに応じたトプリアは「ああ、ホロウェイと防衛戦をやろうじゃないか。ただし奴がBMFベルトも掛けた場合のみだ」と発言。しかしその案はUFCから却下されたのか、今回トプリアのフェザー級王座のみが掛かったタイトル戦が実現の運びとなった。

さて今回の試合に先立ち、UFCの企画にてトプリアの住むスペインとホロウェイの住むハワイを二画面で繋いでの同時インタビューが行われている。その際トプリアは、フェザー級ベルトだけでなくBMFベルト(のレプリカ)まで入手して部屋に飾って登場し「マックスは今回このベルトを掛けなかったけど、今回勝てば事実上俺がBMFさ」と不敵に微笑みながら挑発してみせた。

ホロウェイが「お前はそれわざわざ買ったんだろ、俺のファンだからだよな」と聞くと、トプリアは「ああ、正直ファンだったよ。あんたは俺ら新世代にとってのグレイト・イグザンプル(偉大なる模範)だった」とリスペクトを示す。が、その後は薄笑いを浮かべながら

「でも今は俺の時代さ。試合が終わったら、あんたが俺のファンになるだろうよ。そもそもあんたはキャリアで7敗。俺は無敗。戦ったらどうなるかは分かるだろ?」

「あんたが75分間も使ってできなかったこと(=打倒ヴォルカノフスキー)を、俺はたった7分間でやってのけたんだぜ」

「ところで俺は最近老人ホームをオープンしたんだよ。ヴォルクがすでに入居した。あんたにも一部屋用意してあるぜ。試合後すぐに放り込んでやるよ。あ、心配しなくてもいい、料金は一切無料だから」と知的にして絶妙に無礼な挑発を繰り返し、トラッシュトークに興味を示さないホロウェイを苛立たせたのだった。

さらにトプリアはホロウェイのBMF戦に触れて「ありゃすごく退屈だった。エキサイティングだったのは最後の10秒だけだ。戦略もテクニックもまるでない酒場の喧嘩だね。最後の10秒もそうだ。ゼロ・テクニックだ。俺みたいな技術とパワーを持った選手を倒すことはできないな。嘘だと思うなら、あれを俺らの試合の最初の10秒でやってみるってのはどうだい?」と不敵な提案をする。

そこでホロウェイが「そりゃお前にとってはなんとも都合のいい話だな。お前は試合ですぐに疲れちまう(get tired)んだから」と反応すると、トプリアは微笑みを崩さず「ああ、俺は確かにget tiredするよ。相手をKOすることにget tired(=うんざり)しているんだ。だから今回はあんたをサブミットすることにするかな」と言い返した。

第一言語ではない英語でのやりとりにおいて、この見事な切り返しは特筆に値する。実際トプリアはホロウェイに「何を言っているんだ、ちゃんと話せ」と言われた時にも余裕の表情で「おいおい、俺はあんたの言語で話してやっているんだぜ。じゃあスペイン語がジョージア(グルジア)語かロシア語かドイツ語で話そうか」と言うと、おもむろに(おそらくホロウェイには理解できないだろう)流暢なスペイン語を披露し、言語マウントを取ったのだった。

放映後、この両者のディベート対決(?)の勝敗を判定するメディアがいくつかあったが、ほぼ満場一致でトプリアに軍配を挙げていた。もっともホロウェイ自身が相手を言い負かすことに興味を示しておらず、勝敗を付けること自体に無理はある──とは言え、トプリアは母語でない英語を用いて、英語ネイティブのホロウェイを翻弄してみせた。

ジョージア系の両親のもとドイツに生まれジョージア、スペインと移住を繰り返す中で身に付けた多言語能力と知性は「俺は打撃、レスリング、グラップリングと全てにおいてネクストレベルにあるし、パワー、テクニック、ファイトIQとあらゆる面で卓越している」と豪語する新王者の強さの一端なのかもしれない。

閑話休題。

この試合に誰もが期待するのは、卓越した二人のMMAボクサーである両者による最高レベルの打撃戦だ。両者の戦績だけを見ると、本人が挑発的に語っていたように──ホロウェイが3回戦って倒せなかったヴォルカノフスキーをトプリアは2RでKOしており、新王者有利という見方が成り立つ。しかし両者と戦った張本人のヴォルカノフスキーが、この三段論法を否定してホロウェイ有利を予想している。

曰く「イリアには相性が悪い試合だと思うよ。マックスは5Rずっとペースが落ちないから、イリアが勝つには序盤でKOする必要がある。もちろんその力はあるよ。でもマックスはとにかく打たれ強いから、難しいんじゃないかな。テイクダウンディフェンスや立つ力も抜群だから、寝技でマックスをフィニッシュするのも困難だ。

そして、試合が長引くとイリアにはスタミナの問題が生じてくる。序盤はイリアがマックスの打撃をしっかりガードして有利に進めるだろう。でも相手がいつまでも倒れない、テイクダウンできない、自分の呼吸が上がってくる、となると話が変わってくるのさ。中盤以降はマックス有利になるだろうね。僕が思うに、一番可能性が高いのはマックスの判定勝利だ。あるいは4、5ラウンドにマックスが大量のパンチを当ててTKOするかもしれないね」

この前王者の鋭い予想にさらに注目点を付け加えるなら、それはスタンド戦における両者の距離とケージ上の位置取りだ。180センチの長身を誇り、自分のパンチが当たる絶妙の間合いを保つことに長けているホロウェイ。対する王者トプリアは身長173センチ。頭を振りながら間合いを詰め、懐に入り込んでのパンチコンビネーションを決め技とする。果たして自分の得意な距離を作るのはどちらか。

また、ホロウェイは(前回のBMF戦でゲイジーに大ダメージを与えた)バックキック、トプリアは強烈な右カーフを持っている。パンチの間合いの取り合いにおいて、これらの足技を両者がどう用いるかも興味深い。

そしてトプリアの拳が最も威力を発揮するのは──前戦でヴォルカノフスキーを倒した時のように──相手をケージ際に追い詰め、下がるスペースを無くした時であることに留意したい。アーノルド・アレン戦でスイッチや横への動きを巧みに使ってみせたホロウェイを、新王者がいかなるステップで金網を背負わせるのかは、この試合の重要ポイントとなる。

上述のように、トプリアは開始10秒間、ケージ中央での足を止めての殴り合いを提案している。対するホロウェイは「(BMF戦での)あの瞬間は理由があったから成立したんだ。エキサイティングな戦いで俺が勝っていたから、ジャスティンにチャンスを与えた。もともと彼が階級下の僕に戦うチャンスをくれたのだからね」と、理由もなく闇雲に打ち合うことには興味を示さない。

それでも世界最高のMMAボクサー二人によるこの試合が、開始直後からまったく目を離せないものであることに変わりはない。

■視聴方法(予定)
10月26日(土・日本時間)
午後11時00分~UFC FIGHT PASS
10月27日 午前3時~PPV
午後10時 30分~U-NEXT

■ UFC308対戦カード

<UFC世界フェザー級選手権試合/5分5R>
[王者] イリャ・トプリア(スペイン)
[挑戦者] マックス・ホロウェイ(米国)

<ミドル級/5分5R>
ロバート・ウィティカー(豪州)
カムザット・チマエフ(スウェーデン)

<ライトヘビー級/5分3R>
マゴメド・アンカラエフ(ロシア)
アレクサンドル・ラキッチ(オーストリア)

<フェザー級/5分3R>
レローン・マーフィー(英国)
ダン・イゲ(米国)

<ミドル級/5分3R>
シャラブジン・マゴメドフ(ロシア)
アルメン・ペトロシアン(アルメニア)

<ライトヘビー級/5分3R>
イボ・アスラン(トルコ)
ハファエル・セルケイラ(ブラジル)

<ウェルター級/5分3R>
ジェフ・ニール(米国)
ハファエル・ドスアンジョス(ブラジル)

<ライト級/5分3R>
ミクティベク・オロルバイ(キルギス)
マテウス・レンベツキ(ポーランド)

<ヘビー級/5分3R>
ケネディ・ンゼチェクウ(米国)
クリス・バーネット(米国)

<バンタム級/5分3R>
ファイト・バシャラット(アフガニスタン)
ヴィクトー・ウゴ(ブラジル)

<ミドル級/5分3R>
ブルーノ・シウバ(ブラジル)
イズミール・ヌルディエフ(オーストリア)

<ウェルター級/5分3R>
リナット・ファクレトディノフ(ロシア)
カルロス・レアル(ブラジル)

The post 【UFC308 】展望 語学堪能=強さの秘密、王者イリャ・トプリア×拳で語る挑戦者マックス・ホロウェイ first appeared on MMAPLANET.
カテゴリー
45 MMA MMAPLANET o UFC UFC308 YouTube   イクラム・アリスケロフ イスラエル・アデサニャ カマル・ウスマン カムザット・チマエフ ケヴィン・ホランド ジルベウト・ドゥリーニョ ジルベウト・ドゥリーニョ・バーンズ ドリキュス・デュプレッシー ニック・ディアス パウロ・コスタ マックス・ホロウェイ ヨエル・ロメロ リー・ジンリャン レオン・エドワーズ ロバート・ウィティカー

【UFC308】展望  このスポーツの模範ロバート・ウィティカー×危険かつ情緒不安定カムザット・チマエフ

【写真】心技体の合計点。高いのどっちだ (C)Zuffa/UFC

26日(土・現地時間)、アラブ首長国連邦アブダビのエティハド・アリーナにてUFC 308「Topuria vs. Holloway 」が行われる。新王者イリア・トプリアにBMF王者マックス・ホロウェイが挑戦するフェザー級タイトルマッチをメインとするこの大会のコメインは、元世界王者のロバート・ウィティカーとプロ無敗のカムザット・チマエフが激突する大注目のミドル級トップコンテンダーマッチだ。
Text by Isamu Horiuchi

ウィティカーは2017年の7月、ヨエル・ロメロとの5Rの激闘を制してミドル級暫定王者に就くと、同年末には当時の正規王者ジョルジュ・サンピエールのタイトル返上&引退を受けて正規王者に認定された。2019年10月にイスラエル・アデサニャに敗れて王座を失ったが、その後も常にミドル級トップ戦線で戦い続けている。

昨年7月には現王者のドリキュス・デュプレッシーに2RTKO負けを喫したものの、今年に入って2月にパウロ・コスタに判定3-0で快勝し、さらに6月にはUFC無敗のイクラム・アリスケロフと対戦。1R早々に必殺の飛び込んでの右ストレートを当てると、さらに右ハイ、そして右アッパーをスマッシュヒットして圧巻のKO勝利を飾っている。


対するチマエフはこれまでプロ13戦全勝。昨年10月には元ウェルター級王者のカマル・ウスマンに判定3-0で快勝し、UFC7連勝を飾った。ウィティカーとの試合は今年の6月に予定されていたが、チマエフの体調悪化により中止となり、上述のようにウィティカーは代役のアリスケロフに鮮烈な1RKO勝利。4ヶ月後の今回、両者の試合が改めて組まれた。

UFC王者✖BMF王者という豪華メインイベントに劣らぬ注目を集めているこの一戦。その理由は何よりもまず、チマエフが途轍もなく高い戦闘能力と心身の不安定さを併せ持つ、色々な意味で目の離せない存在であることだ。そしてウィティカーこそチマエフのキャリア上最強の相手であり、今回ついにその「底」が露呈する可能性が少なくないことだ。

2020年7月、チマエフは(コロナ禍による米国入国規制に対応して開催された)アブダビのファイトアイランドことヤス島大会に登場し、ジョン・フィリップスとのミドル級戦において2Rダースチョークで圧勝して鮮烈なUFCデビューを飾った。

その10日後には同会場に行われた大会にも欠場選手の代打としてウェルター級戦=リース・マッキー戦に登場。1RパウンドによるTKOで相手を葬り去り、10日で2勝という(ワンデートーナメント廃止以降の)現代UFCにおける最短記録を──しかも2階級をまたいで──樹立してのけた。

さらにその2ヶ月後には再びミドル級戦に登場し、今度はわずか17秒でジェラルド・マーシャートからKO勝ちを収め、66日で3連勝という新たな現代UFC記録をも達成した。

結果以上に圧巻だったのがこの3戦の内容だ。最初の2戦は試合開始と同時に距離を詰めてテイクダウン。そのまま相手を逃さず強烈なパウンドや肘で削り、一方的に攻撃してフィニッシュした。3戦目も試合開始直後から前に出て、テイクダウンを警戒する相手を右ショート一発で昏倒させた。

問答無用のテイクダウン力と相手に何もさせない圧倒的コントロール力、さらに精度と破壊力を併せ持つ打撃まで備えた男が、試合開始と同時に様子見を一切せず相手に迫り、一片の躊躇もなくフルスロットルで攻撃し続け、最短距離で粉砕する──見る者全てを戦慄させる戦いを披露したチマエフは、当然のようにデビュー3連続でパフォーマンス・オブ・ザ・ナイト・ボーナスを受賞した。

その言動も超攻撃的な戦い方に相応しく、二戦目の勝利後には「俺は全ての相手を破壊する!」と絶叫し、三戦目の前には「お前の顔面を粉砕してやる」と相手を挑発すると、17秒でその通りに実行。こうしてチマエフは、UFCデビューから僅か2カ月にて世界で最も熱い注目を浴びる若手MMAファイターの座に駆け上がったのだった。

3カ月後の12月には早くもウェルター級トップランカーのレオン・エドワーズとの対戦が組まれたが、両者とも新型コロナウィルスに感染して試合は延期に。その後この試合は二度リスケジュールされたものの、チマエフの回復が遅れて実現せず。21年3月にチマエフは肺の合併症を理由にSNSで「もう終わりだと思う。みんながっかりすると思うけど、僕の心と体が僕に全てを語っている」と引退の意志を表明し、洗面台に吐いた血を写したショッキングな写真を投稿した。

が、チマエフを治療のためにベガスに呼んだデイナ・ホワイトUFC代表は、これは一時的な気持ちの揺れによるものと説明して引退を否定。実際やがて症状が改善したチマエフは、2021年10月にリー・ジンリャンと対戦した。以前同様、開始同時に距離を詰めて組みついてチマエフは、ジンリャンをリフトしたままケージの中を歩きながらケージサイドのホワイト代表に向かって「俺が王者だ! 全員殺してやる!」と叫んでからテイクダウン。そのまま強烈なパウンドとチョークを織り交ぜて一方的に攻撃し、3分過ぎにジンリャンを絞め落として破天荒極まりない復活を遂げた。

が、その後チマエフは2022年9月に大会目玉カードのニック・ディアス戦を体重超過で飛ばしてしまう。そこで急遽組まれたケヴィン・ホランド戦に圧勝すると、試合後のインタビューでは謝罪するどころか「ウェイトオーバーなんてどうでもいい! 俺は落とせたのに医者に止められたんだ!」と前代未聞の開き直りを見せた。

次戦の昨年10月の元ウェルター級王者のカマル・ウスマン戦は快勝。が、今年6月に予定されていたウィテカー戦は、キャンプ途中で原因不明の体調不良に襲われて回復せず、キャンセルを余儀なくされた。

比類なき戦闘能力とアグレッシブネス、その激しさを反映するが如き精神面健康面の脆さも併せ持ったチマエフは、「次にいつ試合するのか」、「どんな戦いを見せるのか」、「そもそも本当に試合をするのか」とさまざまな形でファンの興味を掻き立て続ける存在だ。

ちなみに近年チマエフは、米国入国に必要なビザが降りないとのことで、昨年のウスマン戦はアブダビ大会、6月に予定されていたウィティカー戦はサウジアラビアのリヤド大会、今回改めて組まれたウィティカー戦は再びアブダビでの試合となる。ビザが降りない理由は、(18歳でスウェーデンに移住した)チマエフの生まれ故郷であるチェチェン共和国の首長ラムザン・カディロフ──米国当局からは人権侵害に関与したとして入国禁止の制裁対象とされている──とチマエフがごく親しい間柄であるためだと報道されている。

実際カディロフの二人の息子にMMAを指導し、長男のデビュー戦ではセコンドに付いたチマエフは、現在も頻繁にSNSでカディロフと親しくしている写真を投稿している。当然ファンからは批判の声も挙がっているが、本人は気にかける様子もなく、冗談めかして「(ホワイト代表と親しい)ドナルド・トランプが大統領になってくれない限り、僕は米国に入国できずにUFCタイトルに挑戦できないかもしれない。でも気にしないさ。僕はどこでも戦うし、ベルトなき王者というだけだ」と語る。このような政治的事情も、チマエフの激しくも儚く、そして危なっかしいイメージを増幅させている。

そんなチマエフの前に今回立ちはだかるウィティカーは、全く対照的なイメージを纏っている。常に若者のロールモデル(模範)であることを心がけ地域貢献活動にも精を出し、対戦相手へのトラッシュトークなどは一切行なわず、誰からも好かれ尊敬される存在だ。チマエフも以前ウィティカー戦との対戦可能性について聞かれた際に「できれば別の選手とやりたいよ。ロバートは良い人間で尊敬している。もっと憎むことのできる相手と対戦して殴りたい。彼とはむしろ一緒に練習したい」と語っており、両者の間には遺恨らしきものは存在しない。

下馬評では無敗のチマエフ(ミドル級ランキングは13位)が現在ランキング3位のウィティカーより有利と出ているが、チマエフ危うしとの声も小さくない。

最大の疑問は、チマエフの一番の強みであるテイクダウン&コントロールが、ウィティカー相手にどこまで通用するかだ。ウィティカーは、これまでウェルターとミドルを行き来してきたチマエフがはじめて戦う真のミドル級の体格のトップランカーだ。2014年から10年間ミドル級で戦い続けており、ヨエル・ロメロをはじめとする何人もの強力なレスラーのテイクダウンを凌いで勝利した実績がある。

レスリングの練習に余念のないウィティカーは「私はなかなかテイクダウンされないし、抑え付けるのも困難だよ」と自信を覗かせている。試合開始と同時に暴風雨のような攻撃を繰り出すチマエフは、これまで全ての相手から1R早々にテイクダウンを奪っている。が、仮に今回同じことをできたとしても、これまでのどの対戦相手よりも高い身体の出力を持つウィティカーをコントロールし続け、フィニッシュあるいは大ダメージを与えることができるのか。チマエフの攻撃力が最大値にある1Rの攻防こそ、一番の見どころだ。

もしウィティカーがチマエフの序盤の猛攻を凌いだ場合、ウィティカー有利説のもう一つの根拠=この試合が5R制だということが大きな意味を持ってくる。ウィティカーが何人ものミドル級トップ勢と5Rフルに戦い、制しているのに対して、チマエフはジルベウト・ドゥリーニョ・バーンズ戦とウスマン戦で3R判定の試合を二度経験しているのみ。この二戦ともに2R以降はノンストップラッシュを控えてペースを抑え、反撃をもらう場面もあった。試合が4、5Rに突入してもスタミナが残せるのか、フタを開けてみなければ分からない。

また、長期戦になればなるほどチマエフが距離を詰めてテイクダウンを取るのは困難となり、必然的にウィティカーが望むスタンドの攻防が多くなるだろう。そこでは近距離を得意とするチマエフの拳より、蹴りを多用して距離を保つウィティカーが、遠い間合いから一気にブリッツして(=飛び込んで)放つ必殺の右が炸裂する可能性が高い。チマエフも「もしロブがテイクダウンだけを警戒するのなら、僕のライトハンドでKOされる可能性もあるよ」と打撃戦にも自信を覗かせているが、どう出るか。

チマエフは前回の体調悪化を踏まえ、今回ロシアのコーカサス山中にある五輪選手用の訓練施設オゾン・ヴィレッジでキャンプを張った。世界レベルのレスラーやコーチ陣と練習を重ね、万全の調整ができた模様だ。試合前記者会見では、五分刈りではなく自然な短髪&眼鏡を着用して登場。今までのヤンチャなイメージから一変して、物静かにしてきわめて温厚な調子で受け答えをしたこと自体が反響を呼んでいる。

長年ミドル級世界トップに君臨する超実力者ウィティカーとの対戦で、底知れぬ強さを見せてきたチマエフの底が割れる日がついに来るのか、それとも予測不可能にして危険極まりない男チマエフがまたしても世界を震撼させるのか。興味は尽きない。

■視聴方法(予定)
10月26日(日・日本時間)
午後11時00分~UFC FIGHT PASS
10月27日 午前3時~PPV
午後10時 30分~U-NEXT

The post 【UFC308】展望  このスポーツの模範ロバート・ウィティカー×危険かつ情緒不安定カムザット・チマエフ first appeared on MMAPLANET.
カテゴリー
45 AB MMA MMAPLANET o UFC UFC ABC06 イクラム・アリスケロフ キック ロバート・ウィティカー

【UFC ABC06】ウィティカーが右ストレートでアリスケロフをグラつかせ、右アッパーで仕留める

<ミドル級/5分5R>
ロバート・ウィティカー(豪州)
Def.1R1分49秒 by KO
イクラム・アリスケロフ(ロシア)

アリスケロフが左ローのフェイントを見せる。ウィティカーが左ジャブから距離を詰めた。右カーフキックを当てたウィティカーは、アリスケロフを左ジャブで下がらせると、さらに右カーフをヒットさせる。アリスケロフもプレスをかけていくが、ウィティカーの左ジャブで下がらされてしまう。ここでアウィティカーの右ストレートがアリスケロフのアゴを捉える。グラついたアリスケロフに襲い掛かるウィティカー。右ハイは外れたものの、下がったアリスケロフに右アッパーを突き上げた。この一撃でダウンしたアリスケロフに、追撃のパンチを連打するとレフェリーが試合を止めた。


The post 【UFC ABC06】ウィティカーが右ストレートでアリスケロフをグラつかせ、右アッパーで仕留める first appeared on MMAPLANET.
カテゴリー
45 AB Black Combat Gladiator K-MMA MMA MMAPLANET o ROAD FC Road to UFC UFC UFC ABC06   アレキサンダー・ヴォルコフ イクラム・アリスケロフ イ・チャンホ カン・ギョンホ ケルヴィン・ガステラム シャオ・ロン ジャレッド・ゴードン ジョニー・ウォーカー ダニエル・ロドリゲス ナスラ・ハクパレス ニコラス・ダルビー ブレンジソン・ヒベイロ マゴメド・ガジヤスロフ ムイン・ガフロフ ロバート・ウィティカー 食事

【UFC ABC06】ムイン・ガフロフ戦へ、UFC生活11年のカン・ギョンホ「スタミナ重視から効果的な戦い」

【写真】今年で37歳になるボディ!! (C)Zuffa/UFC

22日(土・現地時間)、サウジアラビアはリヤドのキングダム・アリーナでUFC on ABC06「Whittaker vs Aliskerov」が開催されカン・ギョンホが出場し、ムイン・ガフロフと戦う。
Text by Manabu Takashima

ミスター・パーフェクトの異名を取るカン・ギョンホがMMAでビューをしたのは2007年4月と、もう17年のキャリアを誇る。K-MMA界に定期的なイベントを維持できるプロモーションがほぼ存在しなかった時代に戦極、GLADIATOR、GRACHNなど日本でのファイトも経験している。

Road FCが旗揚げ後はバンタム級ファイターとして順調に経験を積み、バンタム級Tで優勝してベルト巻くとUFCと契約を果たした。それからもう干支が一回りしようという今も、カン・ギョンホはUFCで戦い続けている。ムイン・ガフロフ──を前に長いキャリアを続けられる要因と、変化するK-MMAについて尋ねた。


──今週末にムイン・ガフロフと対戦します。今の気持ちを教えてください(※取材は18日に行われた)。

「最高の状態で、ファイトに向かって気持ちがあがっています」

──サウジアラビアでの試合ですが、何かミドルイースト独特の空気感のようなモノはありますか。

「ホテルにいるだけなので、サウジアラビアっぽさっていうのは分からないです(笑)。ただヒジャブをつけた人が多いですね。その辺りに文化の違いは感じます。いずれにせよ、自分にとって初めての国での試合というのは楽しみでならないです」

──私がカン・ギョンホ選手を初めて取材させていただいたのは、まだRoad FCで戦っていた頃で12年も昔になるかと思います。が、容姿がほとんど変わっていないですね。

「そんなことはないです(笑)。すっかり年を重ねました。ただ変わっていないといってもらえると、嬉しいものです。普段から体に良い食事を摂り、しっかりと良い睡眠を心掛けています。もちろん、常に体を動かしていますし。でも、実は白髪が増えて……今回、初めて白毛染をしたんですよ(笑)」

──なるほどぉ!! ところで11年前にUFCとサインをしたとき、11年後もUFCで戦っていることが想像できていましたか。

「ファイトは私の仕事なので、キャリアをスタートさせた時から少しでも長く戦い続けようとは思っていました。そして、今もUFCに在籍しているということは、その目標を果たせているのかなとは思います。

MMAファイターがキャリアを積み重ねていくということは、それだけ厳しい時間を繰り返していることにもなります。練習と試合という日々に疲れを感じたこともあります。でも、試合の度に新しいモチベーションを得ることができたので、ずっと練習を続けることができました。そのモチベーションを見つける努力はしてきましたね。

何より練習をして、試合を戦うことで最高の気持ちになれます。特に勝った時は。それが今でも最高に楽しくて。MMAをエンジョイしていますし、何よりもMMAを続けることで家族と共に人生を歩んでいける。そこは誇りを感じています」

──最高です。と同時にカン・ギョンホ選手はフィジカルが強いレスラーで、アグレッシブなファイターです。とはいえ、今や周囲のファイターはどんどんフィジカルが強くなり、レスリング力の強さもデフォルトになっています。10年以上、UFCで戦ってきてスタイルにも変化が加わったのではないでしょうか。

「しっかりとレスリングに重点を置いたファイトは、今でも欠かせないと思います。ただ自分もキャリアを積み、背中のケガも経験しました。フィジカルを鍛えつつも結果として、戦い方を変えないといけなかったです。

それが打撃重視の戦いです。若い時のようにスタミナ勝負のようなファイトではなく、効果的な戦いを心掛けるようになりましたね」

──つまりムイン・ガフロフともスマートに戦うと。

「そうですね。ムイン・ガフロフはアグレッシブでタフな相手なので、賢く戦う必要があります。でも、彼よりもアグレッシブで爆発力のある試合をお見せますよ」

Black CombatかUFCか。それはファンが判断すること

──ところでK-MMA界も大きく変わったと思います。チームMADが小さなジムで、マットは汗がたまるような時代を知るカン・ギョンホ選手から若い世代に伝えたいことはありますか。

「今、韓国では凄く可能性のある若い選手が多く育ってきています。チームMADもそうです。とにかく必死に戦い、必死に練習をする。自分の限界に挑む姿を見せることで、彼らもやる気を出してくれると思っています」

──押忍。ところで今や韓国でも若い選手はSNSを駆使し、ケージ外でのエンターテイメント化が進んでいると思います。

「MMAはプロ産業です。私たちはファンの関心を引かなければならないです。それを自分自身でやっていることは、良いのではないでしょうか。トレンドを目指す。それは凄く自然なことで、プロとしても良いことだと自分は捉えています。もちろん、それ以前にしっかりと練習をすることが前提として存在しています。それ以外のことは、二の次です。そこが分かっていれば良いことです」

──Black Combatの取材をすると、試合後のマイクのやり取りが非常に長いです。それを若いファンが凄く楽しんでいる。あのシーンを目の当たりにすると、まさに隔世の感という言葉が思い浮かびます。

「つまりはファンが何を見たいのかっていうことなんですよね。試合時間よりも長いインタビューをファンが楽しんでいるなら、それはそれで正解です。MMAプロモーションはファンの見たいモノを提供するものです。Black Combatが見たいのか。UFCが見たいのか。それはファンの皆が判断することなんです」

──押忍。試合以外のことまで、しっかりと話してくれてありがとうございます。では最後に日本のファンに一言お願いします。

「自分は日本でも試合をしたことがありますし、日本人選手とはたくさん試合をしてきました。それでも日本の人たちは自分に声援をおくってくれます。また、いつの日か日本で戦いたいと思っています。いつも応援ありがとうございます」

■視聴方法(予定)
6月23日(日)
午前0時45分~ U-NEXT
■放送予定
6月23日(日・日本時間)
午前1時00分~UFC Fight Pass
午前0時45分~U-NEXT

■UFC ABC06対戦カード

<ミドル級/5分5R>
ロバート・ウィティカー(豪州)
イクラム・アリスケロフ(ロシア)

<ヘビー級/5分3R>
セルゲイ・パブロヴィッチ(ロシア)
アレキサンダー・ヴォルコフ(ロシア)

<ミドル級/5分3R>
ケルヴィン・ガステラム(米国)
ダニエル・ロドリゲス(米国)

<ミドル級/5分3R>
シャラブジン・マゴメドフ(ロシア)
アントニオ・トロッコリ(ブラジル)

<ライトヘビー級/5分3R>
ジョニー・ウォーカー(ブラジル)
ヴォルカン・オズデミア(スイス)

<ライト級/5分3R>
ナスラ・ハクパレス(ドイツ)
ジャレッド・ゴードン(米国)

<フェザー級/5分3R>
ムハンマジョン・ナミモフ(タジキスタン)
フィリッピ・リマ(ブラジル)

<ウェルター級/5分3R>
リナット・ファクレトディノフ(ロシア)
ニコラス・ダルビー(デンマーク)

<バンタム級/5分3R>
ムイン・ガフロフ(タジキスタン)
カン・ギョンホ(韓国)

<ライトヘビー級/5分3R>
マゴメド・ガジヤスロフ(バーレーン)
ブレンジソン・ヒベイロ(ブラジル)

<Road to UFCバンタム級決勝/5分3R>
イ・チャンホ(韓国)
シャオ・ロン(中国)

The post 【UFC ABC06】ムイン・ガフロフ戦へ、UFC生活11年のカン・ギョンホ「スタミナ重視から効果的な戦い」 first appeared on MMAPLANET.
カテゴリー
MMA MMAPLANET o UFC UFC293   アブス・マゴメドフ アレキサンダー・ヴォルコフ アントン・トゥルキャリ イスラエル・アデサニャ オースティン・レーン カーロス・アルバーグ キック ショーン・ストリックランド ジェイミー・マラーキー ジャスティン・タファ ジャック・ジェンキンス ジャレッド・キャノニア タイソン・ペドロ タイ・ツイバサ チョン・ダウン ドリキュス・デュプレッシー ナスラ・ハクパレス ナソーディン・イマボフ フィリッピ・ドスサントス ブラッド・ダイアモンド ボクシング マネル・ケイプ ヤン・ブラホヴィッチ ロバート・ウィティカー

【UFC293】有言実行……いや嘘から出た実はなるか?!=アデサニャ✖ストリックランド戦展望「奇跡は?」

【写真】ジャブでミドル級無双のアデサニャをストリックランドは攻略できるのか(C)Zuffa/UFC

10日(日・現地時間)、豪州のシドニーにあるクドス・バンク・アリーナにて、UFC 293「Adesanya vs Strickland」が行われる。2017年11月以来、実に約6年ぶりにこの地での開催となる今大会のメインイベントは、王者イスラエル・アデサニャにショーン・ストリックランドが挑むミドル級タイトルマッチだ。
Text by Isamu Horiuchi

アデサニャは2019年6月にロバート・ウィティカーを破って正規王者に。当時のライトヘビー級王者ヤン・ブラホヴィッチに挑んでの二階級王者奪取こそ失敗したものの──実に5度の連続防衛に成功した。昨年12月にはキックボクシング時代からの天敵アレックス・ペレイラに5R逆転TKO負けを喫して王座陥落したが、今年の4月に再戦。

2Rに劇的なKO勝利を挙げてリベンジに成功した。ペレイラが階級を上げた今、ミドル級では頭二つほど抜けた存在だ。


ランキング5位のストリックランドと、チャンピオンの因縁は、昨年7月のUFC 276の試合前記者会見から始まっていた。同大会のメインでジャレッド・キャノニアの挑戦を受けるアデサニャと、アレックス・ペレイラとの対戦を控えたストリックランドは、お互いの対戦相手そっちのけで口論を交わしたのだ。

もちろん先制攻撃を仕掛けたのは、数秒に1回は放送禁止用語を口にするのが通常運転のストリックランドの方だ。アニメ好きで有名なアデサニャに対して「おい、Pornhub(世界最大のアダルトサイト)のお前のページはアニメばっかなんだよな! アニメでbeat off(自慰行為)している奴が、俺をbeat(ぶちのめす)することができるわけねーぜ!」と下品だが上手いことを言って挑発。

すると、王者も負けじと「もしお前が(ペレイラに)勝ったら、次に俺がお前と戦い、KOしてやる。そしてお前の墓の上でTikTokダンスを踊ってやるよ」と言い返す。

するとストリックランドはいかにも嬉しそうに──「ハ! 聞いたか? 大の大人がTikTokだってよ! こういうのがヤベーんだよ。こんな野郎がチャンピオンなんだぜ!」とさらに煽る。

その後も言い合いは続き──。

ストリックランド まあ、イジーはいい奴だぜ! 俺はポルノアニメ中毒の男をダメ野郎だと見下したりしねえんだ!

アデサニャ そのジャンルはHentaiって言うんだ。そのくらい知っとけや!

ストリックランド なるほど、Hentaiか。俺は大人だからそんなもん見ねーよ!

アデサニャ とにかくお前は、(ストリックランドの対戦相手のペレイラを指して)この男に集中したほうがいいぞ。マジだ。こいつはお前をあっという間に眠らせちまうからな。

などと──誰が得するのか分からない方向に話は展開し、アデサニャの警告通りストリックランドはペレイラに1RKO負けを喫し、続くジャレッド・キャノニアは1-2で競り負け、ランカー上位の壁に跳ね返された。

その後、今年1月にランキング12位のナソーディン・イマボフ戦(ライトヘビー級契約)に競り勝つと、7月にはノーランカーのアブス・マゴメドフを2RKOに下して現在2連勝中とはいえ、本来ならば挑戦権を得られるような実績ではない。

実際、現在アデサニャの挑戦者に最も相応しいとされているのは、7月にウィティカーを倒した南アフリカのドリキュス・デュプレッシーだ。が、デュプレッシーはその試合で負傷。当初よりシドニー大会への出場を熱望していたアデサニャ──10歳の頃に故郷のナイジェリアからニュージーランドに移住している王者にとって、同じオセアニアのシドニーは地元同然だ──の挑戦者が見当たらなくなってしまったのだ。

そこで今回白羽の矢が立てられたのが、ランキング6位までの選手中、デュプレッシー以外で唯一アデサニャとの対戦経験のないストリックランドというわけだ。

実績も地位も大きく差のある両者だけに、下馬評では王者が圧倒的有利だ。両者の主武器であるスタンド打撃を比較しても、王者有利説は揺らがない。まず武器の数が違う。アデサニャは自在にスイッチして左右の多彩な蹴りとパンチを使いこなすが、常にオーソのストリックランドの打撃は、前蹴り以外はほぼパンチのみ。もし遠い間合いで戦えば、アデサニャの蹴りで翻弄されローでダメージを蓄積される可能性が高いので、ストリックランドとしては得意のジャブを多用しながら前に出るしか勝機はないだろう。

しかし、打撃一発一発の精度と鋭さ、反応速度やスピードも目に見えて王者が上だ。抜群の距離感と巧みな足捌きを持つアデサニャが、前に出たいストリックランド相手に自分の間合いを保ちつつ、カウンターを面白いように当てる展開が容易に想像できる。

だが──それでもストリックランドには、大番狂わせを期待させる何かがある。幼少時代「とんでもねえ人種差別主義者の祖父とアル中で虐待癖のある父親」に育てられ、自分の性格も大きく歪んでしまった語るストリックランド。

内面の怒りを抑えきれずにハイスクールをドロップアウトされた後、MMAジムで練習を初体験したとき「人生で初めて幸せを感じた」と語る。

それ以来MMAに生活の全てを注ぎ、現在まで周囲が引くほどのハードなスパーリングを毎日重ねてきた。排外主義的、性差別的な発言で物議を醸すことも多く「MMAがなければ、俺は間違いなく今監獄にいるよ」と語るストリックランド(過去の犯罪歴もあり、今回豪州入りのためのビザ取得にも苦労があったようだ)には、MMAこそ社会で生きる唯一の術だ。

数限りないスパーを通して独自のスタイルを練り上げたストリックランドは、やや不格好だがよく伸びるジャブを持つ。さらに自己流L字ガード的な体捌きで、打撃を完全に避けきれなくても威力を逃す術にも長けている。

多少打たれても意に介さず前に出続ける闘志と、それを5R続けるスタミナも間違いなく持っている。遠距離では決して王者に当たらないであろうパンチも、距離を詰めることができれば話は別だ。前回のマゴメドフ戦では、一度ケージ側に詰めたら倒し切るまで延々と連打を放ち続けてみせた。組技のフィジカルに関しては王者を上回っており、ボディロックからのテイクダウンもあり、上をキープしパウンドで削るスキルも持っている。

技術的洗練を極めた王者の打撃を、戦う以外は社会に居場所のない挑戦者が、不格好かつ愚直にプレッシャーをかけ続け、最後には呑みこんでしまう奇跡は訪れるのだろうか。

■視聴方法(予定)
9月10日(日・日本時間)
午前7時30分~UFC FIGHT PASS
午前11時~PPV
午前7時00分~U-NEXT


■ UFC293対戦カード

<UFC世界ミドル級選手権試合/5分5R>
[王者]イスラエル・アデサナニャ(ニュージーランド)
[挑戦者]ショーン・ストリックランド(米国)

<ヘビー級/5分3R>
タイ・ツイバサ(豪州)
アレキサンダー・ヴォルコフ(ロシア)

<フライ級/5分3R>
マネル・ケイプ(ポルトガル)
フィリッピ・ドスサントス(ブラジル)

<ヘビー級/5分3R>
ジャスティン・タファ(豪州)
オースティン・レーン(米国)

<ライトヘビー級/5分3R>
タイソン・ペドロ(豪州)
アントン・トゥルキャリ(スウェーデン)

<ライトヘビー級/5分3R>
カーロス・アルバーグ(ニュージーランド)
チョン・ダウン(韓国)

<フェザー級/5分3R>
ジャック・ジェンキンス(豪州)
チャペ・マリスカル(米国)

<ライト級/5分3R>
ジェイミー・マラーキー(豪州)
ジョン・マクデッシ(カナダ)

<ライト級/5分3R>
ナスラ・ハクパレス(ドイツ)
ランドン・キニョネス(米国)

<ウェルター級/5分3R>
ブラッド・ダイアモンド(ニュージーランド)
チャーリー・ラドキー(米国)

<フェザー級/5分3R>
シェーン・ヤング(豪州)
ガブリエル・ミランダ(ブラジル)

<ウェルター級/5分3R>
ケヴィン・ジュセ(フランス)
キーファー・クロスビー(米国)

The post 【UFC293】有言実行……いや嘘から出た実はなるか?!=アデサニャ✖ストリックランド戦展望「奇跡は?」 first appeared on MMAPLANET.
カテゴリー
DEEP DEEP110 MMA MMAPLANET o ONE UFC カーロス・コンディット ゴードン・ライアン パンクラス ボクシング ラマザン・クラマゴメドフ ロバート・ウィティカー ロベルト・ソルディッチ ローリー・マクドナルド 山本空良 西川大和 赤沢幸典 酒井リョウ

【DEEP110】ケジメの酒井リョウ戦へ。赤沢幸典「なぜ自分でチャンスを掴もうとしないんだ」

【写真】セコンド業でも活躍中の赤沢が、ファイターとして大一番に挑む(C)SHOJIRO KAMEIKE

12日(土)、東京都文京区の後楽園ホールで開催されるDEEP110で、暫定メガトン級王座を赤沢幸典と酒井リョウが争う。
Text by Shojiro Kameike

赤沢といえば2012年にカナダへ渡り、当時UFC世界ウェルター級王者であったジョルジュ・サンピエールが所属するトライスタージムで練習していたことが知られる。昨年帰国し、千葉でトライスタージム日本館をオープン。現在はDEEPで2連勝し、今回の暫定王座決定戦にたどり着いた。そんな赤沢にカナダでの練習と帰国の理由、そしてタイトルマッチについて訊いた。


――まず赤沢選手が単独でカナダに渡ったのは、どのような経緯だったのでしょうか。

「僕は北海道出身で、上京してMMAをやりたいと思って仕事をしながらお金を貯めていたんですよ。その頃に、北海道に山本喧一さんのPODジムが出来まして。上京しなくてもMMAができるなら、と思ってPODに入ったのが2012年の4月でした」

――MMAのスタートはPODだったのですね。現在は山本空良選手が活躍中です。

「そうですよね。当時の空良君は、まだ本格的にMMAを始めてはいなくて。たまにジムへ会長が連れて来る息子さんっていう感じでした。あとは西川大和君もいましたね。まだ子供の頃に、彼が空手の大会に出る時に同行したことはありました」

――なるほど。話を戻すと、PODに入ってからプロデビューはすぐでした。

「もともと柔道をやっていたので、伸びるのも他の人よりは速かったんじゃないかと思います。すると山本喧一さんから、試合に出てみないかと言われて、2012年10月にGRABAKA LIVE2という大会でプロデビューしました。その相手が、今回タイトルマッチで戦う酒井リョウ選手だったんですけど、1RでKO負けしてショックを受けたんです」

――ショックを受けた、というのは……。

「当時20歳でした。それぐらいの年齢の頃って、自分は何でもできると思いがちじゃないですか。なのにプロデビュー戦でつまずいてしまったことがショックで、練習も休みがちになってしまったんです。そんな時に、お世話になっている方から『お前の目標は何なの?』と聞かれて、UFCに行きたいですと答えたんですね。それならUFCを現地で感じないといけないということで、2012年11月にUFCを観に行きました」

――そこで観に行ったのが、GSPの試合だったということですか。

「UFC154、ジョルジュが右ヒザの前十字靭帯を損傷してからの復帰戦で、暫定王者のカーロス・コンディットとの王座統一戦でした(GSPが判定勝ち)。カナダのモントリオールで観て、これは凄い世界だなと思ったんですよね。で、大会から1週間後にトライスタージムへ行って、ジムの内容や練習にも感動して。だから日本に帰国してすぐ、カナダへ行く準備を始めて、2013年1月からトライスタージムに入りました」

――当時のトライスタージムでは、どのような練習をされていたのでしょうか。

「僕はただのファンみたいな形で行って、スーパースターだったジョルジュと話ができるわけもなく(笑)。まずビギナークラスから始めて、1年後にオーナーのフィラス・ザハビに呼ばれ、プロクラスへ移りました。それから2、3年後ぐらいですかね。トライスターってスパーリングの時に、名前が挙げられるんです。そこに僕とジョルジュの名前があって、自分がジョルジュと練習できるんだ、と……。カナダへ渡って4年後ぐらいの話です」

――その4年の間に、試合はしていなかったのですか。

「アマチュアで5戦して、2勝3敗ぐらいでした。日本では1回プロで試合をしていましたけど、MMAを始めてすぐの試合だったので、実力も何もなかったんですよね。だからアマチュアに戻ろうということで。その後、2015年12月にパンクラス札幌大会でプロデビューし、1ラウンドでKO勝ちしました」

――当時はまだカナダのトライスタージムで練習していた時期ですよね。

「はい。試合のためにカナダから帰国していました。カナダで試合をしたかったんですけど、向こうで試合に出るためには就労ビザを取得しないといけなくて。就労ビザの中でも、試合をするためのものは取得するのが難しかったんです。そういった関係で、日本で試合をするほうが良いだろうという話になり、カナダから日本で試合をする生活になりました」

――2017年にはロシアで開催されたACBで、ラマザン・クラマゴメドフと対戦しています(1ラウンドKO負け)。

「ちょうどジョルジュと練習し始めた頃で、ジョルジュの推薦で出ることができました。ジョルジュには普段からお世話になっていて――お金ないだろうって食事に連れていってもらったり。朝起きたら自宅にタクシーが来ていて、ジョルジュが『その車に乗って』と。乗ったら自動的に、ジョルジュが待っているレストランに着くんですよ(笑)。そこから練習~食事~ジョルジュの家で休憩~練習~食事という1日もありました」

――GSPが家族のように接してくれていたわけですね。

「ジョルジュも僕のことを、弟と呼んでくれていました。あと当時はローリー・マクドナルドやタレック・サジフィーヌ、ロバート・ウィティカーとも練習させてもらっていましたね。ONEと契約した元KSW王者のロベルト・ソルディッチとか……そうだ、ヴィトー・ベウフォートも来ていて一緒に練習していました。僕のことを気に入ってくれて」

――現地ではジョン・ダナハーの指導も受けたりと。

「そうです。まだダナハーの足関節システムが広まる前で――ゴードン・ライアン、エディ・カミングスとも練習させてもらいました。彼らに足を極められていましたよ。当時トライスターで教えてもらったことが、今でも僕の基本になっています。

その中でも、やっぱりジョルジュの影響は大きいです。ジョルジュと僕ではファイトスタイルが全く違いますけど、コンセプトは同じで。テイクダウンしたら相手を立たずに削り続ける。あえて下にならない……バックを取りに行ける場面でも、下になってしまうリスクがあるならバックも狙わない。削り続けて、相手の集中力が切れたらRNCを狙うとか。削るという感覚はジョルジュの影響が強いと思います」

――それだけの影響を受けたトライスタージムを、なぜ離れることになったのでしょうか。

「帰国したのは去年の10月で、それまでは3~4年ぐらいジョルジュと一緒に練習させてもらっていて。でもその間の戦績はKO負けか、自分の体重オーバーで……良い結果を残せていないことが、ジョルジュに申し訳なかったんです。

たぶん本当に弱かったら、ジョルジュやヴィトーが練習に呼んでくれることはないと思うんですよ。でも僕は練習した内容を試合で出すことができていない。その理由が分からず、人生の修行をしようと考えたんですよね。レストランで働きながら、ボクシングをやって、メンタル面も改善して。ちょうどその頃に、ボクシングの試合に出るはずで。でもコロナ禍のため、ライセンスを取ることすらできずに。結果、どんどん試合間隔が空くなか、最初にUFCを観せてくれた方から怒られました。カナダまで行って、現地で試合ができなくても日本で試合をするとか、なぜ自分でチャンスを掴もうとしないんだと」

<この項、続く

The post 【DEEP110】ケジメの酒井リョウ戦へ。赤沢幸典「なぜ自分でチャンスを掴もうとしないんだ」 first appeared on MMAPLANET.
カテゴリー
Bu et Sports de combat MMA MMAPLANET o UFC キック ボクシング マーヴィン・ヴェットーリ ロバート・ウィティカー 剛毅會 岩﨑達也 武術空手

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。ウィティカー✖ヴェットーリ「後ろ足」

【写真】 この写真は左ジャブだが、ウィティカーの攻撃は右が中心だった(C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たロバート・ウィティカー✖マーヴィン・ヴェットーリ戦とは?!


──遠い距離から蹴り、近い距離ではヘッドムーブ。ヴェットーリの攻撃をほぼ完封したウィティカーが判定勝ちを収めました。

「ウィティカーのスタンスが素晴らしかったです。ヴェットーリがサウスポーで、ウィティカーがオーソ。ウィティカーは常に蹴ることができるスタンスでした。ただし、なぜか1Rは全く蹴りを出さなかったです。そうなるとただ広いスタンスで動く、これでは一歩間違えると殴られやすい何の取柄もないスタンスになってしまいます。

だから何のためにこういうスタンスをしているのかと思っていたのですが、蓋を開けて見れば2Rから右の前蹴りを軸にして、右の突き、そして右のハイキックという3つの攻撃だけでヴェットーリを圧倒しました。ヴェットーリは蹴りなのか、突きなのか。何が来るのか分からない状態で貰っていたと思います。

当然、そこにはヴェットーリの打撃の質がそれほどでないから、好きなように攻めることができるということはあったと思います。とはいえウィティカーは長い間トップで戦ってきた選手なので、自分の勝ちどきが分かっていて展開をどんどん創ることができますね。

ところで、ウィティカーのベースは何なのですか。伝統派空手か何かですか」

──確かに幼少期から10代の半ばまで剛柔流空手をやっていて、そこからハップキドーに。その道場がMMAジムに代わりMMAを始めたということを聞いたことがあります。かつてMMAPLANETのインタビューで「規律のある動き、タイミングの取り方、スピードは剛柔流空手から来ている部分が多い」と言っていました。スタンスやフットワークも。ただし、「そういう動きが西洋のスポーツで育めないかといえば、それは難しい質問だ」と。

「彼はいつも、あれだけ当てることができていますか」

──ハイ。貰わず当てることが多いと思います。勝っている試合では。ただし、アデサニャ戦ではより長いレンジを崩せず、テイクダウン狙いに切り替えて倒せずに負けました。そんなウィティカーですが、近い距離になると頭を振ってボクシングになる。それは武術空手的には蹴りに対応できない危ない動きということになりますよね。

「ハイ。ハイキックをもらう危険があります。そこは本当に危ないです。相手が蹴りを使わないから良かったですけど、蹴りのある相手には危ないです」

──つまりはボクシングも蹴りのない選手には有効になるわけですね。

「パンチをかわす技術ですから。なのでMMA全般にいえることですが、そこまで蹴りを使いこなせる選手が多くないので、頭を振って戦っていても危なくないように映る試合は多いです。

ただし蹴りのある選手に対しては穴になる。私が稽古している選手には、その穴をついていこうという風にしています。蹴りの対応に関しては、UFCにあってもまだ知識が行き届いていない。これだけハイキックによるKO決着が見られても、未だにそこを重要視していない。深刻に捉えていない部分があるように感じます。本当にあの頭を振ってパンチをかわそうとするのは、危ないです」

──攻める方の技術が上がらないと、防御の技術も上がらないと。

「その通りです。だからといって、皆がやらないから自分もやらないというのは違います。グレイシーだけが持っている柔術という技術を知らなかったから、他の競技の選手は柔術家に負けていました。それと同じで、蹴りに対しては空手が持っている技術がまだ浸透していない部分が多い。受け返しなどフルコンタクト空手で数十年前から繰り返されてきた技術が、MMAにないのであれば──それは知っている方が有利です。

当然、寝技ができてテイクダウンの攻防ができる。顔面直接殴打、パンチに対応しているうえで蹴りの受け返しがあれば──ということです。それがないのにMMAで、フルコンタクト空手の受け返しといっても始まりません。

同時に顔面のあるなしはあっても、あのウィティカーの間合いと飛び込みはフルコンタクト空手で日本人が外国勢に苦しめられた距離なんです。あの戦い方が日本の空手家は当時、できなかった。

それがアデサニャには通じないとなると、カウンターが取れないのだと思います。自分よりリーチのある選手と戦って入って行けない。長い距離にカウンターが取れないのでしょうね。堀口選手なんて、そういう風に攻めることができていましたよね。

でもウィティカーは後ろ足で距離をコントロールしています。そこは是非とも日本のMMAファイターの皆さんにも見習ってほしい点です。前に攻めようとする時に、どうしても前足で動いて、前足で距離を取ろうとしがちです。

対してウィティカーは後ろ足で、一度深さを創って前蹴りから右の突きを打っています。相手としては遠くから飛んできたと感じます。これが動かないで、半四股立ちの幅が間違う──つまりは前足でコントロールしたりすると、右を出してもカウンターを打たれやすいです。型通りに後ろ足に引くことができる──正しい状態から拳(けん)を伸ばしていくと、相手の攻撃を受けずに自分の攻撃を当てることができます。つまりは後ろ足でコントロールすると相手の攻撃を受けずに、自分の攻撃が入りやすくなるということです。そこまで考えてはいないと思いますが、ウィティカーはそういう動きを使っています。

だから定番となっている外を取るという動きとは、逆で内側でも攻撃を当てることができていました。ヴェットーリが右足前で、ウィティカーは左足が前。ウィティカーはヴェットーリの前足の中に入っている。外を取っても、中に入れないといけない。そういう部分でもウィティカーの動きは注目すべきモノです。

スタンスが蹴られる状態で、後ろ足で相手との距離や自分が反撃するタイミングをコントロールしている。跳ねる前後移動とは、明らかに別モノでした。ウィティカーも跳ねます。でも、後ろ足を少し引いているんです。これはデキるようでデキない。前に出ようとする時に、後ろ足を引く。これはデキないんですよ。

ただしタイ人やミルコがKOしている時は、それをやっていました。右足前で、左足を少し引いて左ミドルを蹴る。倒せる時のミルコは、その場で蹴ることはなかったです。ただしUFCで倒された時は前足で踏み込んで──のされてしまいました。

1Rは何をしているのかまるで分からなかったですが、2R以降はウィティカーのスタンスの広さの意味、この動きがあるからあの広さなんだと理解できました。凄く興味深いです」

The post 【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。ウィティカー✖ヴェットーリ「後ろ足」 first appeared on MMAPLANET.
カテゴリー
MMA MMAPLANET o UFN209 キック マーヴィン・ヴェットーリ ロバート・ウィティカー

【UFN209】ほぼノーヒットノーラン、ロバート・ウィティカーがヴェットーリから完封勝利

<ミドル級/5分3R>
ロバート・ウィティカー(豪州)
Def.3-0:30-27.30-27.29-28
マーヴィン・ヴェットーリ(イタリア)

サウスポーのヴェットーリに左ローを蹴るウィティカー。さらに踏込みに右をカウンターで合わせていく。左カーフを蹴られたヴェットーリは、テイクダウン狙いを切って圧を掛ける。ウィティカーはジャブを伸ばし、ヴェットーリは右ローで前足を蹴られても距離を詰める。細かいパンチを入れたウィティカーは、左ハイをブロックすると右を見せて前に出る。ヴェットーリは左で迎え打ち、左ジャブには右を合わせようとする。残り2分を切り、組んだヴェットーリが右腕を差す。回って離れたウィティカーは左ローを蹴られ、右ローを返す。ヴェットーリの踏み込みに間合いを外したウィティカーは、左ジャブを2発伸ばす。ここから右に右を合わせたウィティカー、ヴェットーリも左ミドルを返し、飛び込みに左ヒザを合わせた。

2R、右を見せて右ハイを蹴ったウィティカーがバランスを崩す。すぐに立ち上がり、右前蹴りを入れると、ヴェットーリが組んでケージに押し込む。ここもウィティカーは左に回りつつ崩して離れると、左サイドキックで関節を狙う。そして右ハイから右ストレートを決めたウィティカーが、前蹴りで突き離す。ヴェットーリのジャブ、ワンツーは届かない。ならばと左ミドルを蹴るが、ウィティカーが詰めて潰す。逆にガードの上から右ハイを蹴ったウィティカーは、右ストレート&右ハイを攻撃を続ける。ヴェットーリは右ローを入れるが、パンチがほぼ当たらず右ハイで上半身をのけ反らされる。ウィティカーの左右のフェイクに反応するヴェットーリが右を被弾。そして関節をサイドキックで蹴られる。ウィティカーの動きを見過ぎて、自分の動きができないヴェットーリがまた右を打たれて厳しい5分が終わった。

最終回、リスクをおかしてジャブを伸ばせという指示を受けたヴェットーリは、そのジャブに右を合わせされる。前蹴り、サイドキックを織り交ぜ、距離を支配して殴るウィティカーは、近い距離でもヘッドムーブで攻撃をかわす。そしてガードの上からの右ハイを効かせると、右で追い打ちをかけ、ダックにも右を蹴っていく。さらにジャブに右を当てたウィティカーは左ロー、踏み込んで右ストレートをヒットする。ヴェットーリはシングルレッグでドライブ、ケージにウィティカーを押し込むが、直ぐに離れたウィティカーが右を当てる。と残り1分、ダブルレッグを決めたウィティカーはすぐに離れてヴェットーリの立ち上がり際にパンチを打ち込む。完全にファイトを掌握したウィティカーは右ハイを連続で繰り出し、試合を締めた。

ほぼほぼヴェットーリの攻撃を完封したウィティカーは、3-0で完勝し「こういう結果だけど、ヴェットーリのパンチは凄くハードだった。チャンピオンを含めても、僕がこの階級で一番危険な攻撃を持っている」と話した。


The post 【UFN209】ほぼノーヒットノーラン、ロバート・ウィティカーがヴェットーリから完封勝利 first appeared on MMAPLANET.
カテゴリー
Brave CF MMA MMAPLANET o UAEW UFC UFN209   アレッシオ・デキリコ ウィリアム・ゴミス エッガー キック クリスチャン・キニョネス シャルル・ジョーダン シリル・ガンヌ ステファニー・エッガー タイ・ツイバサ ダスティン・ストーツフス ナサニエル・ウッド ナスラ・ハクパレス フェレス・ジアム ブノワ・サンドニ マーヴィン・ヴェットーリ ヤルノ・エレンズ ロバート・ウィティカー

【UFN209】計量終了 初のフランス大会で知る──欧州の今。ゴミス×エレンズの仏蘭初陣対決に要注目

【写真】フェイスオフからもフレンチ・ナックモエ×ダッチ・キックボクサー的に見えるゴミス×エレンスだ(C)Zuffa/UFC

3日(土・現地時間)、フランスは花の都パリのアコー・アリーナで開催されるUFN209:UFN on ESPN+67「Gane vs Tuivasal」の計量が、2日(金・同)に行われた。

2020年1月からMMAが解禁されたフランスで、ついにUFCが大会を開く。メジャーでは2020年10月、そして今年の5月にアコー・アリーナよりも、ベルシーの名が馴染む同アリーナで大会を成功させている。

満を持してのUFCのフランス進出、そのメインは暫定ながらヘビー級タイトルコンテンダーであるフランス人ファイター=シリル・ガンヌが5試合連続KO勝ちのタイ・ツイバサを迎え撃つ。


ヘッドラインを筆頭にフランス勢は5人が出場する今大会、全12試合で北南米からの遠征組は7人、豪州から2名と欧州勢中心のカード編成となっている。

ヨーロッパ中心といっても英国&アイルランドからはナサニエル・ウッドのみの参戦で、ユーロUFCの豊かな人材が実感させられるパリ大会だ。

そんななか注目したいのは、フェザー級のフランス✖オランダ対決=ウィリアム・ゴミス×ヤルノ・エレンズ──メインカードに組み込まれた、デビュー戦同士のマッチアップだ。

ジャグアー=ジャガーの異名を持つゴミスは戦績10勝2敗、本来はベルシーから10キロ、パリ15区にあるパレ・デ・スポール内ドーム・ドゥ・パリで2日に開かれたアレスFCに出場予定だったファイター。

アレスFCは2019年12月にアフリカ・セネガルで活動を始め、コロナの時代となるとベルギー大会が2度キャンセルされ、昨年12月からパリで定期開催されているMMAイベントだ。MMA解禁後のフランスで、母国ファイターだけでなく国際戦を組み、同国のMMAファイターの強化を大いに後押ししている。

母国にイベントがなかった時代、パウンド禁止の100% Fightから英国や中東をステップアップの地に定めていたゴミスは、結果的にアレスFCからUFCとの契約を勝ち取った。

対するキック王国オランダのエレンズは、キャリア13勝3敗1分。最近ではLevels Fight Leagueが奮闘しているもののキック王国が故に世界標準のMMA大会がなかなか根付かない母国でなく、ドイツから彼もまたUAEWと中東を目指し、最後はBRAVE CFのドイツ大会からステップアップを果たした。

ゴミスはムエタイ基調で、相手の攻撃を良く見る目を持っている。攻撃を見切ってからの攻撃手段は打撃だけでなく、ムエタイ流クリンチ&バック奪取、そしてダブルレッグというMMA流にアレンジした動きを見せる。

対してエレンズは、ザッツ・キックボクサー。振り下ろすロー、奥手でも果敢にボディストレートを打ち、前に出てきた相手にはMMAでも常套手段となった右アッパーを突き上げる。組みに関しても、オランダ人ファイターらしく柔道の投げ技を駆使し、柔術的な寝技も駆使している。

組みに関しては互いに攻めの姿勢を持つ両者だが、倒してから仕留めるという部分ではゴミスは削ってスタンド、エレンズはサブミッションで仕留める傾向が強く、そのファイト・アイデンティティは違ってくる。

そんな点も含め、ヨーロッパ──西ヨーロッパ大陸の今を知ることができるゴミス×エレンズの顔合わせといえよう。

■視聴方法(予定)
9月4日(日・日本時間)
午前1時00分~UFC FIGHT PASS

■UFN209計量結果

<ヘビー/5分5R>
シリル・ガンヌ: 247ポンド(112.03キロ)
タイ・ツイバサ: 266ポンド(120.65キロ)

<ミドル級/5分3R>
ロバート・ウィティカー: 186ポンド(84.37キロ)
マーヴィン・ヴェットーリ: 186ポンド(84.37キロ)

<ミドル級/5分3R>
アレッシオ・デキリコ: 186ポンド(84.37キロ)
ロマン・コピロフ: 186ポンド(84.37キロ)

<ライト級/5分3R>
ナスラ・ハクパレス: 155ポンド(70.31キロ)
ジョン・マクデッシ: 154.5ポンド(70.08キロ)

<フェザー級/5分3R>
ウィリアム・ゴミス: 146ポンド(66.22キロ)
ヤルノ・エレンズ: 146ポンド(66.22キロ)

<フェザー級/5分3R>
シャルル・ジョーダン: 145.5ポンド(66.0キロ)
ナサニエル・ウッド: 146ポンド(66.22キロ)

<ミドル級/5分3R>
ダスティン・ストーツフス: 186ポンド(84.37キロ)
アブスピアン・マゴメドフ: 186ポンド(84.37キロ)

<ライト級/5分3R>
フェレス・ジアム: 156ポンド(70.76キロ)
ミハウ・フィグラック: 156ポンド(70.76キロ)

<ミドル級/5分3R>
ナソーディン・イマボフ: 186ポンド(84.37キロ)
ジョアキン・バックリー: 186ポンド(84.37キロ)

<ライト級/5分3R>
ブノワ・サンドニ: 156ポンド(70.76キロ)
ガブリエル・ミランダ: 155.5ポンド(70.53キロ)

<バンタム級/5分3R>
カリド・タハ: 135ポンド(61.24キロ)
クリスチャン・キニョネス: 136ポンド(61.69キロ)

<女子フェザー級/5分3R>
アイリン・ペレス: 144.5ポンド(65.54キロ)
ステファニー・エッガー: 145ポンド(65.77キロ)

The post 【UFN209】計量終了 初のフランス大会で知る──欧州の今。ゴミス×エレンズの仏蘭初陣対決に要注目 first appeared on MMAPLANET.