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【ONE169】2度目のMMAへ。ケイド・ルオトロ「次にやってくる波は、失われた柔術の技だよ。それが……」

【写真】緊張しているようには、感じられたなかったケイド。インタビューでは、それを見せないだけかもしれないが──とにかく興味深い話が聞かれた(C)ONE

9 日(土・現地時間)、タイはバンコクのルンピニー・スタジアムで開催されるONE169でケイト・ルオトロが2度目のMMAに挑む。
Text by Manabu Takashima

アフメド・ムジタバと相対するケイドは、8月にCJIを制し100万ドルを獲得。ADCC2022の優勝に続き、この惑星で一番のグラップラーであることを示した。グラップラーが競技で食っていける時代を突き進むケイドが、1億5000万円を獲得した3カ月後にMMAを戦う理由とは。

そして意外な師弟関係にあるエリック・パーソンについて尋ねた。


僕は頭のネジが外れてしまっている

──今週末、アフメド・ムジタバと2度目のMMAを戦います。今の気持ちを教えてください。

「凄くワクワクしているけど、少し緊張しているかな」

──ナーバスになっているというのは?

「いつだって試合前は、ある程度はナーバスになるものだよ。そしてMMAだから、柔術の時よりも緊張の度合いは強い。それでも、楽しみな気持ちの方が大きいけどね」

──もちろん今はムジタバ戦に集中しないといけないのですが、CJI優勝を振り返ってもらえないでしょうか。前回のADCCに続き、CJIの優勝はケイドが改めて世界一のグラップラーであることが証明されました。

「本当に特別な時だったよ。ADCC2022から今年のCJIまで、自分をさらに高めてきた。ただ、これまでのトーナメントで優勝した時のような清々しい気持ちにはなれなかったのも事実だ」

──えっ?

「ONEではタイもベルトを持っている。WNOもそうだ。2人でベルトを巻いた。CJIではタイは不運にもヒザの負傷に見舞われて、決勝まで一緒に進むことがならなかった。確かに100万ドルを手にできたことは、凄いよ。本当に素晴らしいトーナメントだったしね。そこで最高の選手たちに勝つことができた。アメージングな経験になったよ。ただ、タイと優勝をシェアしたかった……」

──ADCCとは違い、同じ階級に出場をしました。決勝に両者が揃って進んでいれば、最後の1試合は行われなかったわけですね。

「そうだね。ファイナルはタイとシェアするつもりだったよ。ただ、タイが2回戦で負ったヒザのケガは酷くて、次の試合に進めなかった。最悪だよ。技術的にタイは僕と比べても……いや、この階級の誰よりも優れているんだ。でも、それが競技の怖いところで、最高の選手が色々なことが要因となって、勝ち上がれるわけじゃない」

──タイの負傷は残念でした。と同時にCJIではアンドリュー・タケットとの準決勝戦、リーヴァイ・ジョーンズレアリー決勝戦など、ケイドや若い選手がグラップリングを観賞用スポーツに昇華させたともいえます。

「そうだね。CJIのルールが、大きく後押ししてくれた。そして、参加選手の多くがただ柔術を戦うだけでなく、エキサイティングな攻防を仕掛けることの大切さを理解していた。退屈な柔術の試合をしていても、生きていくにはアカデミーを開いて指導をしないといけない。

でも柔術を戦って生きていくには、エキサイティングな試合をすることは欠かせない。皆、そういう試合を楽しみにしているのだから。アンドリュー・タケット、そして僕も相当にエキサイティングなファイターだ。その2人が戦ったのだから、試合はああいう風になるよ(笑)」

──CJIはグラップラーが競技生活で、生きていける道筋を創りました。そして100万ドルを手にしたケイドが、3カ月もしないうちにMMAを戦うというのは?

「MMAを戦う理由……、それはCJIが生まれる前からMMAを戦うことを決めていたからだよ。ただし、CJIは本当にタフなトーナメントで体を酷使し過ぎてしまった。ケガも多くて、9月のデンバー大会には出場できなかった。体調はかなり戻せたけど、部分的にはヘルシーでない箇所もある。今週末のファイトが、今年最後の試合になる。タイと一緒に体の回復に努めて、来年はもっと強くなって戻って来るつもりだよ」

──ケイドやタイのグラップリング戦を見るのが楽しみなのは、100パーセントのリアルファイトでシリアスな戦いにあっても、2人も楽しく戦っているように映るからです。その一方で殴りに来る相手と戦うMMAで、ケイドは楽しむという気持ちがあるのでしょうか。

「MMAと柔術は違うね(笑)。正直、それでも楽しもうと思っているよ。その恐怖を楽しむような感覚があるんだ。サーフィンで、とてつもないビッグウェイブに挑む時のようにね。そして、海に投げ出されるとサメが回りにいる。そういう危険な状況を欲している自分がいるんだよ」

──命綱なしにクライミングに挑むようなモノですか。

「それっ!! その通りだよ。MMAって、僕にとってそれに等しいんだ。相手は僕を失神させようと殴って来るんだけど、僕は頭のネジが外れてしまっているのか……そこをエンジョイしているんだ」

──そんなMMAを戦う時に、コーナーにエリック・パーソンの姿が見られました。UFCの前から日本で、30年以上前に戦っていたエリックはいわばオールドスクール・ガイです。もちろん今のMMAに適応していますが、彼の指導をケイドが受けているのが凄く不思議で興味深いです。

左にエリック。右にタイ。6月のMMA初戦のケイド陣営(C)ONE

「エリックは日本に30回以上行っていると言っているし、そうか……顔見知りなんだね。

凄いや、それって!! 僕がエリックに初めて会ったのは、5年ぐらい前かな。まだガキの頃だよ。当時の僕にとって、プロフェッサー・アンドレ・ガルバォンこそが最高であり、唯一絶対的な指導者だった。

でもエリックって、別モノなんだよ。彼は柔術も学んでいるけど、それこそ柔術が失ってしまったモノを持ち続けている。シュートレスリング、キャッチレスリングには僕らが目にしなかった技術が存在していた。

技術の変遷って、サークルじゃないか。ADCCでもレスリングが全盛で誰もがレスリングに懸命になっている時期があった。その前はレッグロックの時代だ。皆がレッグロッグを学ぶ必要があった。で、僕が想うには次にやってくる波は、失われた柔術の技術だ。それがエリック・パーソンのシュートレスリング、キャッチレスリングに残っている技術なんだよ」

──もの凄く興味深いですね。

「レッグロックを見てみようよ。昔のテクニックだ。ダーティーだと忌み嫌われて、誰もが忘れていた。でも、今では絶対に欠かせない技術になっている。20年の年月を経て、エディ・カミングスがレッグロックを極めまくり、その重要性を皆が再確認した。

エリック・パーソンが見せてくれたテクニックは、僕が見たことがないものだった。殺しの術というのか、もの凄く興味深いモノだったんだ。加えてエリック・パーソンはMMAの経験も豊富でパンチ、キックも含めて知識の宝庫といえる。何もかも知り抜いているよ。

なによりも人として最高なんだよ。本当のナイスガイで、このスポーツで出会ったことがない人間性の持ち主だ。そんなエリックだから、彼の教えを受けることを決めたんだよ」

エリックは聖水で僕の体を清めてくれ、十字を切り、オイルを焚いて……

──いやぁ、ケイドがそんな風にエリックのことを話してくれると、こっちまで嬉しくなってしまいますね。

「エリックって、一度見たことを写真に収めるように忘れることがないんだよ。本当に凄まじい知識量を誇っている。100万にも及ぶ技術を、シェアしてくれるんだ。彼のMMAの技術、知識、そして重ねて言うけど素晴らしい人間性が僕を助けてくれる。

実はあまり言ってこなかったけどMMAデビュー戦の前夜、僕はものすごく体調が悪化していたんだ。凄く寒気がして、血を吐きだすぐらいで」

──えぇ、そうだったのですか!!

「寒くて寒くて。父もどうして良いか分からなくて。咳が酷くて、息苦しくもあった。でも真夜中にエリックが部屋に来てくれた。エリックは聖水で僕の体を清めてくれ、十字を切り、オイルを焚いてマッサージを1時間もしてくれた。すると体の毒素が洗い出されたみたいになって、もう別人かのように回復したんだ。マーシャルアーチストだけでなく、彼はヒーラー(宇宙や生命のエネルギーを活用して、人々を癒す人物)なんだ」

──その話、皆が訝しく思うかもしれないですが……。今日は時間がなくて、私の話をすることはできないのですが、実はカリフォルニアで体調不良に陥った自分は、エリックに同じ癒されたことがあります。いやか、いつの日かケイドとエリックの対談をさせて欲しいです。

「おお、そうなんだ!! 絶対、その取材をやろうよ!!」

──ハイ。ただ今日は試合前のメディアデーで、時間も限りがあります。なので……2度目のMMAファイトでケイドは、何を見せたいのか話してもらえますか(笑)。

「まずベストを尽くすこと。キックもパンチも使うよ。そして、最後は僕のルーツ……柔術を駆使してフィニッシュする。対戦相手はレスラーで、柔術も茶帯か紫帯で危険な相手だ。KO勝ちもできるしね。テイクダウンの距離もグラップリングとMMAでは違ってくる。でも、僕だって打撃とグラップリングの融合を目指して練習してきた。しっかりと、仕留めるよ」

──さきほど、年内は今回の試合が最後になると言っていました。では2025年はどのような目標を持っているのでしょうか。

「来年はよりMMAに集中して、戦績を積み重ねていきたい。ただ柔術家としても、ONEのベルトを保持続ける。そしてADCCやCJIのような機会があれば、頂点を目指すつもりだ。それでもMMAで戦績を増やすことに、より集中したいと思っている」

■ONE169 視聴方法(予定)
11月9日(土・日本時間)
午前9時45分~U-NEXT

■ONE169 対戦カード

<ONE世界ヘビー級選手権試合/5分5R>
[王者] アナトリ―・マリキン(ロシア)
[挑戦者] ウマウ・ケニ・ログログ(セネガル)

<ONEムエタイ世界フライ級選手権試合/3分5R>
[王者] ロッタン・シットムアンノン(タイ)
[挑戦者] ジェイコブ・スミス(英国)

<ONEキックボクシング女子世界ストロー級選手権試合/3分5R>
[王者] ジャッキー・ブンタン(米国)
[挑戦者] アニッサ・メクセン(フランス)

<フライ級((※61.2キロ)/5分3R>
アドリアーノ・モライシュ(ブラジル)
ダニー・キンガド(フィリピン)

<ムエタイ・フライ級/3分3R>
ゴントーラニー・ソー・ソンマイ(タイ)
タギール・カリロフ(ロシア)

<ライト級(※77.1キロ)/5分3R>
ケイド・ルオトロ(米国)
アフメド・ムジタバ(パキスタン)

<キック・ストロー級/3分3R>
サムエー・ガイヤーンハーダオ(タイ)
ジャン・ペイメン(中国)

<ヘビー級/5分3R>
マーカス・ブシェシャ・アルメイダ(ブラジル)
アミール・アリアックバリ(イラン)

<ムエタイ・フェザー級/3分3R>
エディ・アバソロ(米国)
モハメド・ユネス・ラバー(アルジェリア)

<女子アトム級(※52.2キロ)/5分3R>
三浦彩佳(日本)
マカレナ・アラゴン(アルゼンチン)

<ムエタイ・ストロー級/3分3R>
アリーフ・ソー・デチャパン(マレーシア)
ヴァウテル・ゴンサウベス(ブラジル)

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【ADCC2024】レポート─03─素晴らしき、G-World!! ミカがホシャを下しスーパーグランドスラム達成

【写真】(C)SATOSHI NARITA

8月17日(土・現地時間)と18日(日・同)の二日間にわたって、ラスベガスのT-モバイルアリーナにて、世界最高峰のグラップリングイベントであるADCC世界大会が行われた。今年は既報のように、破格の賞金100万ドルを掲げて日時と場所をあえて重ねて開催してきた対抗団体クレイグ・ジョーンズ・インビテーショナル(CJI)に多くの有力選手を奪われた形となった。レビュー第3回は、元チームメイト同士にして、22歳もの年齢差対決となった77キロ以下級の感動の決勝戦と、3位決定戦の模様をレポートしたい。
Text by Isamu Horiuchi

<77キロ以下級決勝/20分1R・延長10分>
ミカ・ガルバォン(ブラジル)
Def.19分05秒 by RNC
ヴァグネウ・ホシャ(ブラジル)

以前はマイアミのファイトスポーツにて一緒にトレーニングをしていた、親子並に年齢差のある二人。42歳のホシャが笑顔で両手を大きく広げると、20歳のミカも笑顔で歩み寄り両者はハグ。しばらくそのままの体勢で言葉をかけ合った両雄だった。

スタンドの探り合い。足を飛ばすミカ。ホシャが前にドライブすると、ミカはあまり抵抗をせずに倒れてクローズドガードを取った。

ハイガードを取るミカに対して、ホシャはその体を持ち上げ、ガードをこじ開けにかかる。ガードを解いたミカは下から足を絡めると、やがてホシャの左足を引き出して肩に抱える形を作る。が、ホシャは冷静に右足をミカの頭側に移動して足を引き抜いた。

その後も下から足を絡めるミカと、上からそれを捌くホシャという展開がしばらく続くが、6分過ぎにホシャが距離を取ったところでミカも立ち上がり、試合はスタンドでの探り合いに戻った。


7分近く。 ホシャが高めのダブルで前に出るとミカは瞬時に左でワキを差しながら支え釣り込み足。天才的な反応とタイミングで見事にホシャを舞わしてテイクダウンを奪い、サイドに付いたのだった。

さらにマウントを狙うミカだが、かろうじて左足に絡んだホシャは距離を作って立ち上がった。

その後はまたしても両者のスタンド戦となり、やがて10分が経過して試合は加点時間帯に突入した。

額をミカの額に擦り付けて押してゆくホシャは、左でワキを差す得意の姿勢を作る。さらに前に出ながらの小外刈りでミカを豪快に倒すホシャ。

が、ミカは倒された瞬間に右足でホシャの体を跳ね上げて立ち上がると、スクランブルを試みるホシャの背中に、まるで猫の如き俊敏さで飛びついてみせて、あっという間にフックを入れて3点を獲得してみせた。この動きもまた、尋常ならざるものがある。

さらにパームトゥパームで首を絞め上げにかかるミカ。ピンチと思われたホシャだが、後ろに倒れ込むと同時に体を捻って、チョークを振り解いて正対することに成功。

凄まじい攻防に大歓声が上がるなか、ミカのオープンガードの上になったホシャは、なんとも言えない味のある笑顔を作ったのだった。

ここから下のミカと上のホシャの攻防が続いた後、ミカが立って試合はスタンドに戻った。お互い何か言葉を掛け合い、時に笑顔を見せながらも厳しい組手争いを続ける両者。先程の攻防がリバーサルとして評価されたのか、ホシャにも点が入りポイントは3-2となっていた。

12分過ぎ、しきりに差しの体勢を狙うホシャが両ワキを差しにゆくと、ミカはすかさず外掛けでカウンターしテイクダウン。

動きを止めずに立とうとするホシャだが、ミカは再び素早く背中に飛びつきシングルフック。

が、ホシャは腰を上げてミカを前に落とすことに成功した。

上になったホシャは圧力をかけての侵攻を試みるが、ミカの強靭な足と上半身で作るシールドをフレームに阻まれる。やがて残り4分半の時点でミカが立ち上がった。

ここまで見事な攻撃で見せ場を作っているのはミカだが、点差はわずか1点と一瞬で逆転可能だ。どんどん前に出るホシャは左でワキを差すと、ミカが払い腰でのカウンターを狙う。しかしホシャの体は崩れず、すっぽ抜けてミカが下に。ミカはすぐさま立ち上がってみせた。

無尽蔵のエネルギーを誇るホシャはさらに前進を繰り返し、ミカの頭を両手で掴んでは下げさせにかかる。が、スタミナ十分のミカはそれを許さず、積極的にホシャの足に手を伸ばしてゆく。両者気力充実、一つのテイクダウンが勝敗を分けるスリリングな攻防が続いた。

残り2分。首を抱え合った状態から、おもむろに頭を下げて右手を伸ばしたミカは、内側からホシャの左カカトを掴んでピックしてバランスを崩したと思いきや、次の瞬間背中に回ってそのままフックを完成して6-2。凄まじい動きで決定的なポイントを奪うと、すぐさま深く左腕を食い込ませ、残り1分のところでホシャからタップを奪ってみせたのだった。

大歓声が上がるなか、体を起こしたホシャの肩に顔をうずめるミカ。

親子ほども年齢差のある両者は健闘を称え合った。

やがてホシャはミカの父にしてセコンドのメルキ・ガルバォンと抱き合い、ミカはホシャの盟友にして古巣ファイトスポーツの主であるサイボーグことホベルト・アブレウとハグ。さらにミカはガールフレンドであり、今年のパリ五輪女子フリースタイルレスリング68キロ級にて、米代表として金メダルを獲得したアミット・エロアとも抱き合ったのだった。

念願のADCC初制覇にして、2024年度スーパーグランドスラム(IBJJFユーロ、パン、ブラジレイロ、ムンジアル、ADCC全制覇)達成を果たしたミカは「すごく長い旅だったよ。僕の周りにいてくれた人たちなら、ここまで本当に何が起きたかを知っているんだ。ただこの大会に出られたということだけでも僕には大きな意味がある。2022年(のADCCでは、結果が準優勝で終わって)からADCCタイトルを取るためにずっとやってきた。このイベントに感謝したい。そして来てくれたみんなにもね。感謝したいのはまずダッドだ。僕はときには、あなたに相応しいような息子じゃないのは分かっている。でも約束するよ、これからベストを尽くして、あなたが育てようとしていたような息子になるから。(ガールフレンドのアミット・エロアに向けて)ベイブ、本当にありがとう。君はオリンピックで優勝したばかりで、時間をとってここにADCCを見にきてくれた。僕のハートの全ては君のものさ、僕は本当に恵まれているよ」とコメントを残した。

準決勝では思わぬ大苦戦を強いられた──判定に「救われた」とすら見えた──ミカだが、絶妙のタイミングとスピード、卓越した反応から繰り出されるテイクダウン、そして目にも止まらぬスピードと高い精度を兼ね備えたバックグラブは、組技を見る者に至上の喜びを提供してくれる。

選手の活躍する舞台が多様化するとともに、ときに自由な行き来が困難な場面も出てくるのが昨今のグラップリング界だ。それでもファンとしては、今回世界を獲ったミカと、CJIで輝いたルオトロ&タケット兄弟、リーヴァイ・ジョーンズレアリー、そしてタイと初戦で激闘を繰り広げた超エリートレスラーにして、後日グラップリング転向を表明したジェイソン・ノルフらの対戦の実現を心待ちにしたい。

また、強力なレスリングベースを持つ同士の3位決定戦となったPJ・バーチ対エライジャ・ドロシー戦では、ドロシーが自ら座って下からの勝負を挑んだ。一度腕ひしぎ腕固めでバーチの左腕を伸ばしかける等の見せ場を作ったドロシーだが、それを抜いたバーチは準決勝でミカからパスを奪いかけたのと同様の3点倒立の形を作ると、右ヒザをスライドしてパス。

さらにマウントを奪って見せたが、これは加点開始前。

やがて加点時間帯に入ると、ドロシーが立って勝負はスタンドレスリングに。ドロシーがシングルに入るが、それを切ったバーチが逆に深くシュートイン&ドライブする。

ドロシーは倒されながらアームインギロチンに入るが、バーチが首を抜き2点を先制した。

その後ドロシーの下からの仕掛けをしっかりワキを締め、また胸を密着させて防ぐバーチは、ドロシーが最後の望みを賭けて外ヒールを仕掛けてくるも、余裕の表情を見せる。

極めることに気を取られているドロシーの左足をクロスで捉えたバーチは、逆に一瞬で内ヒールで切り返して9分44秒、鮮やかな一本勝ちを収めた。

昨年はJTに殊勲の星を挙げるも4位に終わったバーチ。今年は準決勝でミカに限りなく勝利に近い判定負けを喫したものの、見事な3位入賞。 10thプラネット随一のレスリングベースを持つ男は、歴戦を重ねるなかで極め力と勝負勘、そして世界屈指と言っても過言ではないほどのパス技術を磨き上げ、34歳にして世界最強のグラップラーの一人へと成長した。

【リザルト・77キロ以下級】
優勝 ミカ・ガルバォン(ブラジル)
準優勝 ヴァグネウ・ホシャ(ブラジル)
3位 PJ・バーチ(米国)

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【CJI2024】レポート─04─己を貫きあった80以下級決勝。優勝はケイト・ルオトロ。リーヴァイが準優勝

【写真】ONEでのファイトマネーを含めると、試合だけケイドの2024年の年収は2億円越えか!!(C)SATOSHI NARITA

16日(金・現地時間)と17日(土・同)の二日間にわたって、ラスベガスのトーマス&マックセンターで開催されたクレイグ・ジョーンズ・インビテーショナル(CJI)。同大会のレビュー第4回は、80キロ以下級の決勝戦をレポートしたい。
Text by Isamu Horiuchi

<80キロ以下級決勝/5分5R>
ケイド・ルオトロ(米国)
Def.3-0:49-46.48-47. 48-47
リーヴァイ・ジョーンズレアリー(豪州)

卓越したガードワークと足関節をもってケイドの双子にして優勝候補筆頭のタイを倒したリーヴァイと、グラップリング史上最高の名勝負と呼べるような準決勝の大激闘を勝ち上がり、タイの仇を取らんとするケイド。現在のグラップリング界の風潮に反旗を翻すが如くスタンドを避け、徹底して下からの戦いを貫くガードプレイヤーと、それに真っ向から意を唱えスタンドでもグラウンドでも上からも下からも攻撃を仕掛け続けるダイナミックグラップラー。

二つの異なるスタイルの頂点を究めた両者による大注目の決勝戦だ。試合開始早々座るリーヴァイ。すると客席からはブーイングが。ケイドも少し離れたところであえて座り込み、そのまま尻で前進するガードプレイヤーの仕草を真似してみせる。そこでリーヴァイが立ち上がって距離を詰めようとするとケイドは立ち、ならばとリーヴァイはまた座ってみせた。観客の声も現在の風潮も一切気にせず、自分の戦いを貫く姿勢だ。


リーヴァイは近づいてきたケイドの右足に下から絡むと、回転してクラブライドの形を作りかける。ここでケイドは豪快にバク転するように体を翻し、振り解くことに成功。ルイトロ兄弟の哲学を象徴するかのごときガード対処法を見せた。さらにリーヴァイがケイドの右足に外から絡むが、ケイドは振り解く。次に左足に絡んだリーヴァイは、股下に潜り込み後転するようにケイドの体を崩しにかかる。

ケイドはあえてその動きに乗ってダイブするよう下になると、次の瞬間三角絞めのロックを完成。

ピンチと思われたリーヴァイだが、すぐに腰を上げて右足でケイドの体をまたぎながら回転して脱出。再び下に戻ってみせた。

リーヴァイは再び右足にからむと、Kガードから回転してケイドを崩しその足を狙う。

が、ケイドもすかさず動いてヒザの支点をずらす。それでも足を狙い続けるリーヴァイだが、ケイド回転して脱出しラウンドは終了した。

採点は二人が10-9でリーヴァイを支持し、一人が10-9でケイド。これを聞いた観衆からはブーイングの声もちらほら聞かれた。

しかし「有効な攻撃を先に仕掛けること」が今大会の最優先の採点基準であるので、何度かケイドを下から崩したリーヴァイ優勢と見ることはおかしくないだろう。また、そこは両者互角と見て第二基準の「ポジションの進行やサブミッションの試み」、さらに第三基準の「ポジションにおける優位やペースを支配」を検討したところで、考え方次第でどちらに付けることも十分可能。下からの仕掛けと上からのパスのどちらを優先するか、きわめて採点の難しいラウンドだ。

2R、横への動きを見せるケイドに対し、リーヴァイは左絡んでKガードを作り崩すと、そのままケイドの片足を持って立ち上がる。ここでケイドが片足で立つと、リーヴァイは深追いせずにその足を抜かせてすぐに座ってみせた。タイ戦と同様、無理にトップを取るための深追いはせずあくまで下からの勝負を貫くようだ。

その後も、ケイドがリーヴァイのガードの突破を試みるが、攻めあぐねる展開が続く。左右に動きニースライスも狙うケイドだが、その度にリーヴァイは巧みに足を絡めて、また腕を張って距離を作って防ぐ。

逆にリーヴァイが深く足を絡めてケイドを崩し、足関節を狙いかける場面もあるが、ケイドはそのたびにニーラインをクリアする。ならばとケイドも上からのトーホールドを狙うが、効果なし。こうして終了したこのラウンドは、三者とも10-9でリーヴァイを支持した。

ここ数年、ダナハー流の足関節の使い手等やリーヴァイをはじめとするガードプレイヤー達をことごとく打ち破り、自らのスタイルの優勢を確立してきたルオトロ兄弟。が、二年前にタイに敗れたリーヴァイはそれでもガードワークと足関節を磨き続け、ついにはルオトロ兄弟の攻撃に下から互角以上に戦うまでにその技術を高めるに至ったことが、決勝のここまでの攻防で改めて明らかとなった。

3Rもリーヴァイが下から足を効かせる展開が続く。ケイドはわざと背中を見せてクラブライドを作らせ、そこから側転してのパスを狙うが不発。残り1分、リーヴァイの頭側に回ったケイドは、インヴァーテッドガードを使うリーヴァイの足と胴体に自らの体を捩じ込む形で圧力をかけ、さらにリーヴァイの左足を抱えることに成功する。

そのまま対角線に流してのレッグドラッグを狙うが、リーバイも動いて隙間を作って防いでみせた。その後は両者特に攻め手のないまま終了。このラウンドは、終盤の攻撃が評価されて3者とも10-9でケイドに。リーヴァイのガードワークでケイドが手を焼いている状況は変わりないが、ここに来て上からのさまざまな試みとプレッシャーが、ガード=防御線をわずかにだが押し込みはじめているようにも見える。

4Rも座って下から絡むリーヴァイと、上から突破を試みるケイドによる攻防が延々と続く。ときにリーヴァイが深く足を絡めるとケイドは対処し、逆にケイドはアオキロックを見せたり、わざと背中を向けて足を取りにゆくが有効な場面は作れない。ラウンド終盤、リーヴァイが下からケイドの背中側に付きかける。

と、ケイドは下になりながらもリーヴァイの右足に外側から右腕をこじいれてのヒザ固め狙い。が、深く入らずこのRは終了。

最後のこの攻撃が評価されたか、はたまたケイドが崩される場面が少なくなっていると判断されたか、このラウンドは3者とも10-9でケイドを支持した。

中盤以降若干流れがケイドに傾きかけているように見えるものの、ここまで両者決定打なし。採点もほぼ互角という状況で、決着は最終5Rに持ち込まれた。最終回も開始早々座るリーヴァイ。するとケイドも逆に座る。

リーヴァイが立ち上がり近づいてゆくと、ケイドは立たずに下にステイ。

初めて上下逆での攻防がはじまった。低く入ったリーヴァイはケイドの左足を取ってレッグドラッグ狙い。これを距離を取って防いだケイドは立ち上がり、リーヴァイが座って結局試合は元の展開に戻った。

ケイドは上から手を伸ばし、リーヴァイの口を塞いでの嫌がらせ。さらに頭側に回ったケイドは、3R終盤同様にインヴァーテッドの中に身体を入れようとプレッシャーをかけてから、さらに足側に戻って担ぎの体勢に。しかしリーヴァイは腕でフレームを張って凌いだ。

ややケイドが攻撃する場面が増えてきている中、リーヴァイも下からケイドの足をすくうが、ケイドは距離を取って対処。

ケイドがニースライスを仕掛けるも、上の足で侵攻を止めるリーヴァイ。ならばケイドはその足を取ってのアオキロック狙いを見せる。

残り時間が少なくなるなか、ケイドはさらに激しく動き胸でプレッシャーをかけにゆくが、リーヴァイも足と腕のフレームを効かせて対処し続ける。残り20秒でケイドはバク転しながらのパスを仕掛け、リーヴァイが対処して5Rの激闘が終了した。

判定は、49-46 48-47 48-47の 3-0でケイドに。25分間、両者どちらも決定的な場面を作らせない接戦となったが、後半になるにつれ、ケイドが攻めこむ場面がやや増えてきていたこともあり、おかしな採点ではないだろう。

2022年のADCC世界大会に続いてCJIも制覇。改めてグラップリング界の頂点の座に立つとともに破格の優勝賞金を得たケイドは「信じられない。これで俺は金持ちだ! なんてね。このお金はコスタリカに創っているジムに使うよ。道場本体はもうすごく綺麗に建ったから、次はみんなが泊まれる場所を作るのさ! タイは『誇りに思う』って言ってくれたよ。今大会の顔ぶれで、僕よりタフな選手はタイだけだった。でも昨日の2試合目(リーヴァイ戦)の1Rで怪我してしまって力を発揮できなかったんだよ。タイこそが僕を倒せる唯一の人間なんだよ」と、最後まで双子の兄弟への想いを口にした。

優勝ケイドとアンドリュー・タケットによる準決勝の超激闘の印象が強烈すぎる今大会だが、決勝で惜敗したリーヴァイの活躍にも一言触れておきたい。二年前、本人がタイに完敗を喫したこともあり──ルオトロ兄弟によってガードプレイヤー達や足関節師達は完全攻略されてしまったという印象が確立しかけていた状況下で、今回下からの戦いを貫いてタイに雪辱を果たした。そして決勝ではケイドの上からの攻撃も全て遮断し、3R戦なら勝っていたのでは、と思えるほどの戦いを見せた。

ケイドの言葉にもあるように、準々決勝でのタイ戦のリーヴァイの勝利は、序盤でタイが足を負傷したが故のアップセットだという見方もあった。が、決勝のケイド戦を経て改めて明らかになったことは、リーヴァイがガードゲームとそこからの足関節等の仕掛けを、階級上の怪物王者バルボーザを制し、世界を席巻するルオトロ兄弟を脅かすところまで磨き抜いたということだ。世界中の下派のグラップラーたちに勇気を与え、今後のグラップリング界の展開にも影響するような素晴らしい戦いぶりだった。

ADCCへの対抗軸としてはじまったCJI第一回大会の軽量級は、歴史的な名勝負を生み出すとともにグラップリングのさらなる進化も告げる、極めて意義深いものとなった。

【リザルト 80キロ以下級】
優勝 ケイド・ルオトロ(米国)
準優勝 リーヴァイ・ジョーンズレアリー(豪州)
3位 アンドリュー・タケット(米国)、ルーカス・バルボーザ(ブラジル)

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【CJI2024】レポート─03─80以下級準決勝。堅実なリーヴァイ、ケイドはアンドリューとの歴史的バトル制す

【写真】静✖動、陰と陽というべき対象的なファイナリストが誕生した(C)SATOSHI NARITA

16日(金・現地時間)と17日(土・同)の二日間にわたって、ラスベガスのトーマス&マックセンターで開催されたクレイグ・ジョーンズ・インビテーショナル(CJI)。驚愕の優勝賞金100万ドルが用意されたこの大会のレビュー3回目は、80キロ以下級の準決勝2試合をレポートしたい。
Text by Isamu Horiuchi

<80キロ以下級準決勝/5分3R>
リーヴァイ・ジョーンズレアリー(豪州)
Def. 3-0 30-26. 29-27.30-26
ルーカス・バルボーザ(ブラジル)

前日同様にすぐに座ったリーヴァイ。

バルボーザは横に動いてのパスを仕掛けるが、リーヴァイは足を効かせて対処する。

さらにバルボーザが重心低くプレッシャーをかけてゆくが、リーヴァイが侵攻を許さないまま1R終了。このラウンドの判定は一人が10-9でバルボーザ、二人が10-9でリーヴァイと割れた。

ちなみに今大会の採点基準は、まず最優先事項として(1)「有効な攻撃を先に仕掛けること」があり、次に(2)「そこからさらにポジションを進めたりサブミッションを試みること」。もし、それらで優劣が付かないなら最後に(3)「ポジションでの優位性やペースの支配」が判断される。


そこを考えた場合、最初の採点基準である「先に仕掛ける」ことをしていたのはバルボーザの方だろう。だから彼に付けるべしという見解はあり得るが、その仕掛けが「有効」だったと言えるかは疑問だ。ならば(2)のポジションの進行やサブミッションの試みを見ることになるが、これらは両者ともに見られなかった。そこで(3)のポジションやペース支配が最後の判断基準となるが、きわめて拮抗したこのラウンドはここでも明確な勝者は存在せず、最終的にはジャッジ一人一人のグラップリング観やその時の視点により判断が分かれることだろう。かくしてジャッジが割れたことに不思議はない。

2Rも当然のように下のリーヴァイと上のバルボーザの展開が続く。

このラウンドはリーヴァイが内回りや内側から相手のヒザ下に腕を通して引きつけてのKガードの形から崩す場面が散見された。

また低く入ってくるバルボーザの首元に、リーヴァイが左足首を突っ込んでのゴゴプラッタ狙いを見せることもあった。

バルボーザも危なげなく対処はしていたものの、上記の採点基準で考えた場合、どちらが取ったかの判断はそこまで難しくない。ジャッジ3者とも3-0でリーヴァイを支持した。

3R。後のないバルボーザは右に動いてプレッシャーを掛け、さらにリーヴァイの頭側に回る。

インヴァーテッドの形で対処したリーヴァイは、下からバルボーザの右腕を抱えると、そのまま右足をファーサイドに回してワキにねじ込んでチョイバーへ。

腕を伸ばされまいと腹這いになって耐えるバルボーザ。ここでリーヴァイはそのまま体を旋回させて続けてバックに着くと、四の字フックを完成。ラウンド序盤に圧倒的な有利なポジションを確立してみせた。

その後バルボーザは腕で足のフックを解除しては懸命に体をずらそうと試みるが、リーヴァイはバックをキープ。再び四の字を組み直してそのままの体勢を保ったまま試合終了。このラウンドは大差が付き、リーヴァイが判定で完勝となった。

階級上の怪物バルボーザの恐るべき体圧を見事なガードワークで捌き切り、さらには見事なサブミッションの仕掛けからバックを奪って完勝したリーヴァイ。ルオトロ兄弟の台頭に代表されるように、トップゲームで圧力をかける戦い方が主流になってきている昨今のグラップリング界において、あえて下からのガードゲームを貫いて超大物を制してみせたことの意義は大きい。この世界は多様な方向で進化を続けるのだ。

<80キロ以下級準決勝/5分3R>
ケイド・ルオトロ(米国)
Def. 2-1 29-27.29-28.29-27
アンドリュー・タケット(米国)

前日素晴らしい戦いで観衆を魅了した21歳同士による、大注目の準決勝戦。まずはタケットが思い切り良くダブルに入るが、ケイドもすかさず必殺の小手に巻いての投げで豪快に切り返す。

すぐに立ったタケットはさらに前に出るが、ケイドはまたしても小手に巻いての内股へ。

再び大きく宙を舞わされたタケットだが、その体が傾斜壁に跳ね返って着地に成功すると、ボディロックをキープして突進。

またもや小手から投げを試みるケイドだが、両者の体が壁にぶつかる勢いで腕が抜けてしまい、すかさずタケットがバックに。

壁際ですぐにボディトライアングルを作ると、壁の傾斜にもたれかかった両者の体が滑り落ちて試合はグラウンドに移行した。開始早々、傾斜壁に囲まれた新しい舞台にて、恐るべき思い切りの良さとアグレッシブさを身上とする二人の若者による、ダイナミックにしてアンプレディクタブルな、今まで誰も見たことがないような攻防が展開されている。

とまれグラウンドで有利な体勢を奪ったタケットは、強烈なフェースロックへ。が、ケイドは体をずらして起き上がって正対に成功。するとタケットも立ち上がり、会場からは大歓声があがった。

ケイドは支え釣り込み足で崩すが、持ち直すタケット。すると今度は先ほどとは逆にケイドの方が差しからタケットを押してゆき、逆にタケットが投げに。

それをなんとか持ち堪えるケイド。

またしても差しにゆくタケットに対して、ケイドはその腕を一瞬でスタンディングのフランク・ミア・ロック(かつてUFCでフランク・ミアがピート・ウィリアムスを極めた形)に捉えて絞り上げるが、タケットは腕を抜く。

その後もお互い激しく組み合って足を飛ばしあい、バランスを保つ展開に。グラップリング試合においてレスリングの攻防が続くととかく退屈なものになりがちだが、この二人にはまったく当てはまらない。残り30秒、ケイドはタケットの体を崩して横に付くと、さらにワキを潜ってバックを狙う。

タケットはここでまたしても豪快に投げるが、ピッタリと背中に付いていったケイドはハーフ上の体勢でグラウンドに。

タケットがクローズドガードを取り、ケイドはその首を抱えてカンオープナーを仕掛けるなか驚愕の1Rが終了した。

判定は3者とも10-9でタケットに。2022年のADCC世界大会にて、神童ミカ・ガルバォンを倒して頂点に立ったケイドの真骨頂は、誰にも付いてゆけないほどダイナミックに動き続けることにある。しかし、タケットはまさにケイドの土俵であるはずのウルトラハイペースの混沌状況の中で動き勝つという離れ技をやってのけた。とはいってもラウンド終盤に近づくにつれケイドの勢いが増し、相対的にタケットの動きはやや落ちはじめてきているようにも見えた。

2R、引き続き激しくいなし合い崩し合う両者。ケイドは前に出るタケットの首を掴んで引き倒すと上からクルスフィクスを狙うが、タケットは立って凌ぐ。ならばとケイドはスタンディングからキムラに入るが、ここもタケットは腕を抜いてみせた。

さらに組み合う両者。やや体の軸がぶれてきたかのように見えるタケットだが、手四つに組んだ両手を上げてスペースを作ると同時にシュートインしてシングルへ。

ケイドの右足を抱えてタケットが立ち上がると、片足で堪えるケイドは豪快に飛んでカニバサミへ。

そのままタケットの右足に絡んで内ヒールを狙うケイド。ヒールを露出させられかけたタケットだが、回転して足を抜いて立つ。

と同時にまたワキを差してケイドを押してゆく。するとここでまたしてもケイド必殺の小手からの内股が豪快に炸裂。ハーフで上を取ってみせた。驚愕のノンストップバトルはまだ止まらないが、まるで動きの落ちないケイドが徐々にタケットを呑み込み始めているようだ。

ケイドは右を深く差してウィザーに。長い腕を用いて得意のダースを狙える体勢だが、ケここで一瞬逆に左腕を深く入れてアナコンダグリップを作る。そこから改めて右を深く入れ直して再びダースへ。

回転して逃げるタケットに対して、ケイドはノースサウスチョークに移行。絶体絶命と思われたタケットだが、右腕をケイドの顔の前に捻じ込んでスペースを確保して決して諦めない。やがて隙間を作ってガードの中にケイドを入れた。

タケットはそこから三角を狙うがケイドが防ぐ。

ならばとタケットは内側からケイドの左足を引き寄せると、外掛けからヒザ固めに。

しかしケイドは動じず、左足にトーホールドを仕掛け、上をキープしてこのラウンドを終えた。

判定は一人が10-8 残り二人が10-9でチョークを極めかけたケイドに。徐々に差を付けられはじめたタケットだが、勝負を諦める様子は毛頭ないようで、力の限りの攻撃を仕掛け続けている。

3R、いきなりシュートインしたタケットは、そこからワキをくぐってバックへ。ケイドが前転するがタケットは背中から離れない。それでもケイドは仰向けになり体をずらすと、タケットはケイドのガードの中に入って上のポジションを取った。

ケイドは下からバギーチョーク狙いを見せると、すかさず距離を取って立ち上がる。

が、その瞬間背中に飛びつくタケット。

ケイドはその足を両手で押し落としながら反転して上に。ならばとタケットも素早くワキを差して立ち上がる。ケイドが右で小手を巻くと離れる両者。残り3分。さすがにケイドの動きもやや落ちてきたように見えるが、会場を震撼させ続けているインクレディブル・ウォーはまだまだ止まらない。

ケイドはまたしてもスタンディングでミアロックを狙う。

凌いだタケットはダブルに入るが、ケイドは強靭な腰で受け止めると逆にダブルレッグのお返し。受け止めようとしたタケットだが、ケイドの勢いは止まらず。

キャンパスに雪崩れ込むような形でテイクダウンに成功した。上からケイドは右ワキを差してニースライスを狙うが、ニーシールドで耐えるタケット。グラウンドにおけるポジション争いの鍔迫り合いにおいても、両者の攻防は全く目が離せない。2Rを失ったタケットとしては、なんとかここを脱出して上を取り最後の攻撃を仕掛けたいところだ。

やがてガードの中に入ったケイドはタケットの首を抱えて圧をかける。立ち上がってタケットのガードをこじ開けると、すぐにタケットはスクランブルに。するとすかさず反応したケイドはスプロールしてアナコンダのグリップを作る。

そのまま傾斜壁に座るような形で絞り上げるケイド。さらにクローズドガードに移行してフィニッシュを狙うが、タケットは首の力と執念でケイドの全体重を持ち上げて抜いてみせた。

残り10秒、最後まで諦めないタケットがパスを狙いにゆくが、ケイドは右足首をタケットの喉元に捻じ込んでゴゴプラッタでカウンターするうちにタイムアップ。

立っても寝ても両者止まらない攻防のダイナミックさと激しさという点で見るなら、文句なくグラップリング史上最高の名勝負と呼べる試合が、ついに終了した。立ち上がってハグする両者。グラップリングの明るい未来を象徴するが如き、驚きに溢れた大激闘を展開した21歳の若者二人を、会場はスタンディングオベーションと大歓声で称えた。さらには「One more round!」という無茶なチャントまで発生するが、これほどの試合をこなしてなお余力十分、まさに無尽蔵のエネルギーの持ち主のケイドはこれを両手で煽り立てたのだった。

判定は29-27, 27-29, 29-28でケイドに。勝者は「まずタケット兄弟二人に敬意を表したい。これが本物の柔術さ! リアルなテクニックとアンリアルなスクランブルだ! こんな試合は一人じゃできないからね。(前日上の階級で大健闘を見せた)ウィリアム(タケット)も凄かったよね! 決勝戦に向けてものすごく気分が上がっているよ! ただ彼(決勝の相手のリーヴァイ)が、何をやりにここに来ているのか分からない面もあるよ。もうちょっと膠着に対する警告の仕方を変えた方がいいんじゃないかな! 最初からガードで座っているのって簡単すぎるじゃないか。ただの僕の意見だけどね。まあ僕だってガードをプレイするのは大好きだけど、もし僕が(腰を引いた姿勢を見せて)スタンドでこうやって下がって、相手が無理に仕掛けてくるのを待っているだったら、膠着の傾向を受けるべきだよね。まあともかくリーヴァイのガードは凄いよね! 決勝がものすごく楽しみだ!」と語る。

スタンドでもグラウンドでも攻撃を仕掛け続ける、現代グラップリングの魅力の全てを集めたような戦い方で大観衆を魅了したケイドは、このアピールを通して、自らとは対極的な──しかし別の意味で洗練を極めた──ガードの使い手であるであるリーヴァイとの興味深い対立軸までしっかり観客に提示してみせたのだった。

究極のダイナミックグラップラー=ケイド・ルオトロと究極のガードプレイヤー=リーヴァイ・ジョーンズレアリー。組技格闘技に深く拘っているあらゆる人間たちにとって興味深い、対照的なグラップリングスタイルとフィロソフィーの頂点を窮めた両者による対決
が実現することとなった。

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【CJI2024】レポート─01─80以下級、岩本健汰&ジェセフはハルクに逆転負け。タイもまさかのQF敗退に

【写真】岩本は階級上のマルチワールドチャンピオンに大健闘。ジョセフも勝利を手中に収めていたかと思われたが、バルボーザの壁は厚かった。そして、タイ・ルオトロがまさかの準々決勝に敗退に(C)SATOSHI NARITA

16日(金・現地時間)と17日(土・同)の二日間にわたって、ラスベガスのトーマス&マックセンターにて、グラップリング大会クレイグ・ジョーンズ・インビテーショナル(CJI)が行われた。
Text by Isamu Horiuchi

長年グラップリング大会の頂点に君臨してきたADCC世界大会に対抗し、「選手により多額の賞金を」という志のもと、組技系イベントとしては超破格の優勝賞金100万ドル(約1億6千万円)を用意、あえてADCC世界大会と同時期に同じベガスでぶつける形で行われたこの大会。レビュー第1回目は80キロ以下級前半ブロックの準々決勝までの戦いをレポートしたい。

第1試合に早くも優勝候補筆頭のタイ・ルオトロが登場。

NCAAディビジョンIレスリングで三度王座に輝き、一昨年昨年とフリースタイル全米王者でもあるジェイソン・ノルフと対戦した。この超大物レスラーに初回からタイが立ち技で真っ向勝負を挑み、ノルフが受けて立つ白熱の展開に。


ルーカス・バルボーザから初回先制の岩本、これだけも快挙

2Rにノルフが豪快なダブルレッグを仕掛けると、タイは倒される勢いを利用してノルフを背後に放ってスクランブルして上からがぶる体勢に。そこからサイドバックに移行したタイがクルスフィクスを狙う。

と、ノルフは体をリフトしたまま立ち上がり、傾斜壁に投げつける。

が、タイはそのまま横三角をロックオン。

強烈に絞め上げるがノルフはラウンド終了まで耐えてみせた。

3R、ノルフはタイのテイクダウンからのスイッチを力でねじ伏せる形で上に。

タイはここから、下からバギーチョークを試みる。

さらにハーフからヒザ十字に入って、ノルフの足を伸ばし切ってタップを奪った。

超弩級レスラーにレスリングで挑み、跳ね返されても極めを仕掛け続け、最後に仕留める。まさに千両役者ぶりを見せつけたタイは「相手誰であろうが、テイクダウン、パス、サブミッションを狙う。それが俺のスタイル! 自分から引き込むことは絶対にないよ!」と会心の笑顔で語った。

第2試合では豪州の技師リーヴァイ・ジョーンズレアリーが登場。ユニティ柔術で磨き抜いたベリンボロ・ゲームに加え、母国の足関節の第一人者ラクラン・ジャイルズと練習を重ねたリーヴァイは──やはり彼の試合としては、定石通りすぐにシッティングへ。

さらに定石その二──通りに、デラヒーバガードの態勢に入りレッグライドを狙う。

1度、2度と反応したヒメネスだが、攻防のなかでリバースデラヒーバに取ったリーヴァイが内回りからサドルを組んでの内ヒールをセットする。

RNグリップに切り替えたリーヴァイが、初回でIBJJFノーギワールズ無差別級界王者ロベルト・ヒメネスを仕留めてみせた。

第3試合には、主催道場B-teamの主要メンバーでもある日本の岩本健汰が登場。世界柔術を二度制し、2022年ADCC世界大会でも88キロ以下級で準優勝、ムンジアルとノーギワールド通算5度制覇という超大物ルーカス・バルボーザと対戦した。

ハルクのニックネームを持ち、階級上の筋肉獣に立ち技で挑んだ岩本は、果敢にダブルを仕掛けるがスプロウルされてしまう。バルボーザはそこからグリップを組み替えて岩本の右足をクレイドルで捕獲して崩すと、上のポジションを奪った。

バルボーザは重心低くしてボディロックパスを仕掛けるが、岩本も凌いで距離を作る。やがて足で隙間を作ってレッスルアップして立ち上がることに成功。

さらに右腕でワキを差した岩本は、ニータップを仕掛けて巨体を崩してのテイクダウン。

立ち上がったバルボーザのバックに付いた。バルボーザの前転に離れず付いていった岩本は、その巨大な背中に飛びついて片足フックへ。

ここでラウンドが終了。公表された採点は2-1で岩本。階級上の超大物相手にラウンドを先取しただけでも大快挙だ。

2Rもバルボーザのテイクダウンを切った岩本は、逆にシングルを仕掛けて巨体を壁際で崩す。

が、バルボーザは巧みに壁の傾斜を使って体勢を立て直し、上を取り返してみせた。そのまま上をキープしたバルボーザがこのラウンドを取り、試合を五分に戻した。

勝負の3R。岩本はここも果敢にテイクダウンを狙うが、体格で勝るバルボーザにスプロウルされてしまう。ガードプレイヤーとしての強さも通っている岩本が下から仕掛けるが、重心の低いバルボーザのバランスは崩せない。

岩本は終盤足を絡めて外掛けを作ったが、足関節の対処も巧みなバルボーザに防がれてしまいタイムアップとなった。判定は3者ともに最終Rを僅差ながらポジションキープで手堅く確保したバルボーザに。

一回戦敗退となった岩本だが、階級上の世界のトップ中のトップと紙一重の戦いは天晴れの一言だ。

第4試合は岩本の盟友であり、ADCCのユーロ優勝のジョセフ・チェンの登場となった。

アンディ・ヴァレラをシッティングガードからのレッスルアップで崩して上になり、得意の三点倒立パスを何度も決めて判定3-0で完勝した。

グラップリングの完全体=タイ・ルオトロが、先鋭ベリンボロゲームのリーヴァイ・ジョーンズレアリーに下る

<80キロ以下級準々決勝/5分3R>
リーヴァイ・ジョーンズレアリー(豪州)
Def.3-0:30-27.29-28.29-28
タイ・ルオトロ(米国)

2022年1月に行われたWNO13におけるウェルター級王座決定戦の再戦となったこの試合。

その時はタイがトップからのプレッシャーで優位に立ち、上の体勢から足を取りに行き内ヒールで完勝している。試合開始早々シッティングガードを作るリーヴァイに対し、タイはなんと今成ロールのような動きで飛び込みながらの首狙いへ。振り解かれてしまったものの、開始早々その真骨頂を見せつけた。

その後もパスを狙うタイだが、世界屈指のベリンボロの使い手のリーヴァイは巧みに対応する。ならばとタイはトーホールドを仕掛けるが、リーヴァイが解除。

1R残り約1分、リーヴァイはベリンボロからタイの左足に絡んで内ヒール狙いへ。これが深く入りタイの踵がフックされる寸前まで露出してしまうが、タイは回り続けてなんとか脱出に成功。

トーホールドで逆襲を試みるもののリーヴァイが無難に解除した。

そのまま終了した初回は、ヒール狙いが決定打となり2-1でリーヴァイに。絶対的優勝候補のタイが、体格に劣るリーヴァイにラウンドを取られただけで大きな衝撃だ。

2R、引き続きシッティングから足を絡めて回転してくるリーヴァイに対し、タイが圧力を掛けきれない場面が続く。手を焼くタイはスタンディングの青木ロックを仕掛けるが、リーヴァイは慌てずストレートレッグロックで切り返す。

さらに下からタイのヒザを抱えて崩そうとするリーヴァイ。その動きに合わせてタイが横に飛んでのパスを試みると、リーヴァイは逆にその勢いを利用して上を奪取。

タイがすぐに腕をポストして立ち上がれば、リーヴァイが座る。結局このラウンドもペースを支配していたリーヴァイが2-1で取り、まさかのアップセットの予感が場内を覆った。

3R、後のないタイはルオトロ兄弟の代名詞とも言える足を踏みつけてのパスを仕掛けるが、リーヴァイは侵攻を許さない。逆に下から足を絡めてXガードでタイを崩したリーヴァイ、その右足を抱えて立ちあがる。

片足立ちを余儀なくされたタイだが、リーヴァイは深追いせず、タイに足を引き抜かせるとまた座った。ここまでオープンガードでタイのパス攻撃を完全に封じ込めている以上、ここは無理せず徹底的に下から戦う作戦のようだ。

その後もタイは踏み付けてのパスや担ぎ、青木ロック等を試みるが、リーヴァイはことごとく未然に対応。残り時間が少なくなり、タイは背中を向けるリスクを犯してリーヴァイの攻撃を誘う。バックを狙ってきたリーヴァイに崩されかけたタイは、体勢を立て直すときに苦悶の表情で叫び声を上げたのだった。

結局そのまま試合終了。左足をひきずってコーナーに戻るタイ。どうやらどこかの時点で左足を負傷したようだ。

判定は3-0でリーヴァイに。

驚きの大番狂わせを演じた豪州の若きガードプレイヤーは、きわめて落ち着いた口調で「最初の1分が過ぎたくらいに、何かが起きたのは感じたよ。彼はヒザかどこかを痛めたんだよね。また向こうが100パーセントの時にぜひ戦いたいと思う。僕は彼と戦うためにずっと準備してきたのだから。彼に二年前に負けたことがきっかけで強くなれたんだよ」と語った。

ジョセフ・チェン、ハルクを追い込むも……

<80キロ以下級準々決勝/5分3R>
ルーカス・バルボーザ(ブラジル)
Def. by 3R3分24秒 by カーフスライサー
ジョセフ・チェン(ドイツ)

一回戦を勝利した後、「ぜひ僕がケンタの敗戦のリベンジをしたい。彼はいい試合をしたと思うよ」と語ったチェンは、岩本同様に真っ向から立ち技勝負を挑む。1分過ぎにハルクの左腕にアームドラッグを仕掛ける。

そのままバックに回って襷を作るとチェンは前に飛び込むように崩してバルボーザの巨体を前転させてグラウンドに持ち込んでみせた。こうして素晴らしい動きでポジションを取ったチェンが、そのまま上をキープしてラウンド終了。3-0でチェンが先取した。

2R、下になりたくない両者によるスタンドでの探り合いが延々と続く。残り 30秒のところで、チェンが遠くからタックルの動作を仕掛けるが不発。残り10秒で逆にバルボーザがシュートイン。チェンがこれを防いだところでラウンドが終わった。

ほとんどどちらにも付け難いラウンドとなったが、どちらかに付けなければならないならば、かろうじて評価対象にし得るのは最後のバルボーザのテイクダウン狙いのみ。ということでこの2Rは、3-0でバルボーザに。チェンとしては、値千金のテイクダウンで奪った1Rのリードを、ほぼ何もせずに帳消しにされてしまうという──例えるなら、百万円分の労働をもって得た物品を翌日100円で売り渡してしまうような──なんとも勿体ない形となった。

3R、同様にスタンドでの探り合いが続き、業を煮やしたレフェリーのシャオリンから両者に警告が与えられた。

2分過ぎ、先に仕掛けたのはチェン。ダブルから見事な流れでワキを潜り、バックに回ることに成功した。

さらに1Rと似たような形でバルボーザを崩したチェンだが、バルボーザも立ち上がって振り解く。後がなくなったバルボーザは、すぐにアームドラッグで反撃を試みる。

が、それを振り解いたチェンは自ら座る。このまま下から足を効かせて侵攻を許さなければ、判定勝ちは濃厚だ。

攻撃するしかないバルボーザは、体圧を使ってチェンを傾斜壁に押し付けて動きを封じにかかる。しかしチェンは体の角度をずらしてマットに背中を付ける。

ここでバルボーザは、チェンの右ヒザ裏に太い左腕を外側からこじ入れると、右足をステップオーバーして四の字フックを作りながら背後に倒れ込む。

そのままヒザ固めで絞り上げると、チェンがタップ!

台頭する若手に追い詰められたヴェテランが、意表を付く見事な仕掛けで逆転一本勝ちを奪ってみせた。

客席で見ていた息子さんと娘さんをそれぞれ片腕で抱え上げたバルボーザは「疲れた時には子供たちのことを考えた。マイ・モチベーション。明日も今日と同じさ。どんなことになっても最後まで戦うよ」と力強く語った。

かくて準決勝は、磨き抜いたガードゲームと足関節で大アップセットを引き起こしたリーヴァイ・ジョーンズレアリーと、若手二人に追い詰められつつも、底力を見せつけたバルボーザという組み合わせとなった。

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【CJI】ついにケイド&タイのルオトロ兄弟も、CJIに鞍替え。揃って80キロ以下級にエントリー! ミカは?

【写真】今年に限って、趨勢は決まった。ADCCの77キロ級とCJIの80キロ以下級を比較すると後者の方が楽しみなのは明白だ(C)ONE

20日(木・現地時間)、ついにCraig Jones Invitationalの公式SNSがケイド&タイのルオトロ兄弟の出場を発表した。8月16日(金・同)と17日(土・同)の両日、ネヴァダ州ラスベガスのトーマス&マック・センターで開催されるCraig Jones Invitationalにグラップリング界のアイコンでありアイドルでもあるルオトロ・ブラザースが登場。ADCCでなくCJIを選んだツインズは揃って-80キロ級で戦うことに。
Text by Manabu Takashima

ADCC2022の77キロ級世界王者で、現在はONEサブミッショングラップリング・ライト級世界王者のケイド。タイは無差別級の銅メダリストでONEサブミッショングラップリングでは世界ウェルター級王者に君臨している。

前回のADCCでタイは88キロ級に出場し、今年の世界大会も同級で招待出場となっていたため、CJIに移ったとしても+80キロに挑むものと思われていた。それが2人とも80キロ以下級にエントリー、兄弟100万ドルをどちらかが獲得するため……の判断といえるだろう。

決勝でケイドとルオトロが100万ドルを掛けて戦うのも夢のような話だが、決勝の同門対決はいずれかが勝利を譲るという柔術界の伝統に従う恐れもある。そこを避けるために同じ山となることも考えられるが、果たして。ともあれルオトロ兄弟の参戦決定でCJIの80キロ以下級は、以下のように16名中14名が埋まった。

■ケイド・ルオトロ
■タイ・ルオトロ
■ジョセフ・チェン
■アンドリュー・タケット
■ロベルト・ヒメネス
■ルーカス・バルボーサ
■ニッキー・ライアン
■リーヴァイ・ジョーンズレアリー
■マテウス・ジニス
■ヘナト・カヌート
■ジェイソン・ノルフ
■アンディ・ヴァレラ
■トミー・ランガカー
■オーウェン・オフラナゲン

こうなると気になるのが、柔術の神の子ミカ・ガルバォンの動向だ。ミカはONEからのオファーを固辞したことがあり、独特の感性の持ち主でもある。現時点でADCCのリストに残っているままだが、残り2枠に彼の名が連なることはあるのか──気になるところだ。


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【CJI】フィオン・デイヴィスの相手は、何とマッケンジー・ダーンに。ランガカー&ジョーンズレアリーも

【写真】2月のUFC298のアマンダ・レモス戦の激闘で敗れはしたが、3度目となるファイト・オブ・ザ・ナイトを獲得しているマッケンジー(C)Zuffa/UFC

18日(火・現地時間)、8月16日(金・同)と17日(土・同)の両日、ネヴァダ州ラスベガスのトーマス&マック・センターで開催されるCraig Jones Invitationalに元ADCC世界チャンピオンで、現UFCファイターの出場が発表されている。
Text by Manabu Takashima

80キロ以下&以上の2階級16人制トーナメント──優勝賞金100万ドル、出場すれば1万1ドルのファイトマネーが確約されるCJI、この発表に先立ち13日(木)には-80キロ級にトミー・ランガカーとリーヴァイ・ジョーンズレアリーの出場が明らかになっていた。


つまり欧州予選77キロから一次予選を制したジョセフ・チェンに続き、二次予選優勝のランガカーと2人の地区トップが世界大会に進まなかったことになる。対してアジア&オセアニア予選からは二次だけに出場し頂点に立ったジョーンズレアリーがCJIに鞍替え、一次優勝の岩本健汰はADCC世界大会にトライする。

この他、いわゆる中堅どころのCJI出場の発表が続く中、18日(火・同)に既に出場を明言していた女子グラップリング界のP4P=フィオン・デイヴィスのスーパーファイトの相手が、マッケンジー・ダーンになることがSNSで発表された。

2015年のADCC世界選手権では女子60キロ級を制しているマッケンジーは、UFC女子ファイターのなかでも特にタフな試合を繰り返しており、現在は連敗中だ8月3日にルピタ・ゴディネスと対戦することが決まっている。

加えて、UFC出場2週間前に2017年のADCC以来となるグラップリング戦を、そのADCCに新設された55キロ以下級で行うことが公表されていた。それが一転してCJI出場。CJIは女子トーナメントが実施されないため、女子グラップラーの転出は少ないと見られていたがデイヴィスに続き、65キロ超級で招待選手枠の1人だったギャビ・ガルシア(何とCJIでクレイグ・ジョーンズと男女マッチに興ずる)、さらにマッケンジーと3つのピナクルを失うこととなった。

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【ADCC2024 Asia&Oceania Trial02】山田海南江、米倉大貴が準優勝も、世界大会出場は岩本健汰一人に

【写真】決して満足できないだろうが。この二つのシルバーこそが今後の日本の組み技界を強くする光明といえるだろう(C)MMAPLANET

11日(土・現地時間)、タイはバンコク郊外ランシット大のスポーツホールでADCCアジア&オセアニア二次予選が行われ、男女8階級で日本人選手の優勝はなく8月の世界大会に日本から出場するのは昨年11月の一次予選77キロ級で優勝した岩本健汰1人となった。
Text by Manabu Takashima

その77キロ級に挑んだ森戸新士は初戦でダニエル・エヴァンズと対戦し、延長ラウンドにRNCで一本負けに。無名のエヴァンズだが、1階級を落としてきたフィジカルとレスリングで森戸を上回る。ノーポイントからの延長戦では押され気味のなかで、森戸はマット外=板の間での攻防が続くと、背中を譲ったことでもフリーズが懸からず、動きに迷いが出たかRNCに切って落とされた。それでも森戸は「若い選手がどんどん出てきます。だから楽しい。これからも挑戦します」と今回の予選を振り返っていた。

同じく77キロ級に挑んだ世羅智茂もまた、初戦でキルギスのマゴメド・ザルバエフに「6分で3Pは挽回できない」と語っていたパスを許し、0-3で敗れた。また世羅のカルペディエム青山の同門=鈴木真は1回戦をヒールでクリアしたものの、足の取り合いによる負傷で無念の棄権となった。

結局、同階級はリーヴァイ・ジョーンズレアリーが同じ豪州のジェレミー・スキナーを決勝で下し、世界大会へ最後の一枠を獲得。レスリングができない――という評判のジョーンズレアリーだったが、序盤のポイントがない時間帯でガードを取り、デラヒバからベリンボロでバック奪取を続け、見事にアジア&オセアニア代表の座を掴んだ。3月のPolarisでジョゼフ・チェンを封じた彼のノーギ柔術が、世界大会でどこまで通用するのか楽しみだ。


昨年11月はオープン・トーナメントで世界大会の切符が掛かっていなかった女子グラップラーの争い。今回は3つの本戦出場権を狙う戦いの中で、55キロ級には日本から3選手が出場し、山田海南江がオープンTの決勝で腕十字を取られた豪州の――普通にワールドクラスの――アデーレ・フォーナリノと再び決勝で相対した。

ウォーリングを2度受けながら、フォーナリノのガードに入らない我慢と勇気が必要な戦いを続けた山田。しかしながら、立ちからの再開となる延長まで残り32秒となったところでテイクダウンを切られ、バックを許しそうになる。このスクランブルの展開のなかで、前方に振り落とされたかのような動きからフォーナリノが、驚速・腕十字を極め山田のリベンジと世界大会出場&世界一という夢は絶たれた。

今回の予選も豪州と並び多数の日本人選手が出場した66キロ級では、前回予選準優勝の竹内稔が2試合目で敗退するなど、シード選手も含め2試合目の壁を破ることができない選手が続出した。その2試合目となった寒河江寿泰戦で、レフェリー判定勝ちを収めた為房虎太郎はジェイコブ・ブルックスを2-0で下すなど、準々決勝進出を果たす。

ここでも中国のシュウ・フアチンと対戦した思い切り投げを決めて先行したが、終盤にRNCを極められ為房は涙をのんだ。そんな66キロ級、シュウ・フアチンと決勝で相対したのが米倉大貴だ。前回予選を4位で終え、このラストチャンスを戦う――のではなく、勝つという意識で挑んだ米倉は、持ち味である足関節を極める武器だけでなく、ルールに合わせてスイープでポイントゲットをするなど、ADCCルールに対応した戦い方でタフなトーナメント枠を勝ち上がってきた。

初戦はヒールで一本勝ちし、ここから魔のカザフスタン勢3連戦を勝ち抜くと、準々決勝とフィジカルモンスター=ジェイムス・サージソン、準決勝で優勝候補の一角デイヴィッド・ストイレスクというフィジカル&テクニックが切れまくる強豪との消耗戦をしっかりとバックを取って生き残った。

そんな米倉だったが、上海武者修行での練習仲間で――あのジョセフ・チェンが将来性に太鼓判を押すシュウ・フアチンに、ここまで成功してきた試みを柔軟かつ強固なディフェンス能力で封じられる。自らは何度かバック&両足フックの危機を脱し、延長Rには逆にバック奪取、ワンフックでRNCまでセットしたもののレフェリー判定でシュウ・フアチンに下った。

豪州、カザフスタン、中国人ウィナーが誕生した二次予選。厳しい結果に終わったものの山田と米倉の準優勝は、アジア&オセアニアの頂点は決して手が届かない場所でないことを立証している。これからの2年、さらに強くなることが予想されるアジア各国の戦いを日本勢が勝ちあがるには、趣味の延長線上で良い柔術、グラップリング界の環境のなかで如何に競技者が生まれるのか、重要になってくる。

今回の予選の名称が「プロ」だったのように、戦う専門家が輝く場所――黒帯、アドバンスドの戦いが、現状より注目を集めるような変化は必要となるだろう。

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【WJJC2022】至高の600秒=ミカ・ガルバォンがタイ・ルオトロを決勝で下し、最年少世界王者に

【写真】最年少、世界王者となったミカ・ガルバォン。タイ・ルオトロのライバルストーリーはミドル級に階級を上げて紡がれていくのか。そこにはもう一人、強力な男がいるだけに2023年のムンジアルが既に楽しみでならない(C)SATOSHI NARITA

2日(木・現地時間)から5日(日・同)にかけて、カリフォルニア州ロングビーチのウォルター・ピラミッドにて行われた、IBJJF主催のブラジリアン柔術世界選手権。
Text Isamu Horiuchi

レビュー第3回は、タイ・ルオトロとミカエル・ガルバォンという二大ニュースターの参戦により最注目区となったライト級の模様を、この2人の試合を中心に報告したい。


今回が道着着用ルールにおける黒帯デビュー戦となる19歳のタイ・ルオトロ。1回戦は相手の欠場により不戦勝で突破し、初戦にていきなり優勝候補のジョナタ・アウヴェスとの大一番を迎えた。

<ライト級2回戦/10分1R>
タイ・ルオトロ(米国)
Def. 4-2
ジョナタ・アウヴェス(ブラジル)

前に出て襟を掴むアウヴェス。対するタイは、ノーギでも多用する両腕で相手の頭を抱える形で対抗する。やがて豪快に引き込んだアウヴェスは、タイの右足をワキに抱えて回転して上を狙う。ズボンの足首部分を掴まれているため、ノーギのようには足を抜くことができないタイだが、それでも右手でポストしてバランスをキープする。

さらに50/50の形で右足に絡んだアウヴェスは内回転。が、タイは一緒に回転して対応するとすぐに前方に飛び込んでのバック狙いへ。ここをすぐに対処して距離を取ったアウヴェスは、タイの両足をまとめて左手で抱えて起き上がり、2点を先取した。

下になったタイはアウヴェスの右足を抱えるが、アウヴェスは左で巧みにステップオーバーして距離を作り、離れることに成功した。

中央からタイが座った姿勢で再開。ヒザ立ちで前に出るタイだが、リードしているアウヴェスは両腕を伸ばして襟を掴んで下がりながら距離を保つ。残り6分となった時点で、タイはアウヴェスの襟を取ってクローズドガードに引き込んだ。

この体勢で無類の防御の強さを誇るアウヴェスは、低く胸を合わせて密着。タイは、バギーチョーク、ループチョーク、クロスチョークと狙い。あるいは背中から手を伸ばしてアウヴェスの帯を掴んでの仕掛けを試みるが、重石の如きアウヴェスのベースは崩れない。途中で膠着ペナルティを受けたアウヴェスだが、構わず密着を続ける。

が、残り3分近くの時点でアウヴェスに2つ目の膠着ペナルティが入る。ここで少し動き始めたアウヴェスは、ヒジを入れてタイのタードを開かせて足を潰しにかかる。タイはなんとか隙間を作ると、残り2分少々のところで再びクローズドに引き込んだ。

タイのズボンを掴み、低くプレッシャーかけるアウヴェス。タイがクロスチョークを仕掛けるとすかさず距離を取る。再び引き込んだタイはオープンガードから攻撃を試みるが、アウヴェスはここも腰を引いて距離を取った。

タイを応援する客席からブーイングが起こる中、なんと残り54秒でアウヴェスに3つ目のペナルティ。これでタイは2点を獲得するとともに、受けたペナルティの数により逆転となった。

着実に勝利に向かっていたはずが一転、突然攻撃する必要が生まれたアウヴェスは、タイの左足を抱えて噛みつき。そのまま左に跨いでパスを狙うが、タイは距離を作ってアウヴェスの左足を下から掴むと、両足を絡めて50/50を作って上に。残り14秒で4-2としてみせた。

アウヴェスは最後の望みを賭けて足を取りにゆくが、極めることはできず。タイは道着着用の黒帯デビュー戦で、この階級世界最強の一角であるアウヴェスから勝利を奪うという快挙を成し遂げた。

最初にスイープで先制し、その後は持ち前のベースを利した漬物石戦法で守り切ろうとしたアウヴェスだが、レフェリーの厳しい判断によって予定を狂わされることに。パスも極めも世界最高峰の力を持つにもかかわらず、勝利にこだわるあまりにそれらを駆使することなく、結果として勝利自体も逃すという皮肉な形での初戦敗退となった。

一方、初日最大の難関アウヴェス戦を見事に突破したタイは、2019年ヨーロピアン&パン王者にして、道着着用柔術における最高峰のベリンボロ使いの一人、リーヴァイ・ジョーンズレアリーとの準々決勝に駒を進めた。

<ライト級準々決勝/10分1R>
タイ・ルオトロ(米国)
Def. 8-0
リーヴァイ・ジョーンズレアリー(豪州)

今年のWNOにおいてウェルター級タイトル戦=ノーギルールで対戦している両者。その際はタイがヒールから変化してのヒザ十字を極めて完勝しているが、道着着用ルールのおける黒帯での景観はリーヴァイに一日の長がある。現時点における黒帯でのタイの道着への対応力──初戦では、アウヴェスが膠着戦法を貫いたためあまり見ることができなかった──という点でも注目の再戦だ。

試合開始後すぐにスライディングして座ったリーヴァイは、タイの右足に絡むと直ちに鋭い回転のベリンボロへ。が、タイも合わせて回転。まるでボディボードに乗るかのうようにリーヴァイの上で腹這いになってバランスを保ってみせた。

タイのズボンを掴んだリーヴァイはそのまま上を狙うが、タイはリーヴァイの絡む足を押し下げつつ、後ろ向きにステップオーバーする形でバランスキープ。

やがて向き直ったタイは、前に体重をかけながら腹でリーヴァイの左足を潰してゆく。さらに圧力をかけるタイは、リーヴァイの右足首を踏みつけて固定する得意の形を作った。

卓越したボディバランスで上をキープし、パス攻撃を繰り出し続けて相手を疲弊させる。タイはノーギグラップリングと同様の戦い方を、道着の世界最高峰の舞台でも通用させている。

そのまま上四方の方向に回ったタイ。リーヴァイも足を効かせて守るが、タイは構わずプレッシャーをかけ続けて、再び足を踏みつけてのパスを試みる。リーヴァイはタイの襟を掴んで足を効かせて対抗するが、タイは先日のゲイリー・トノン戦のように両足首を押さえつけて再び上四方に回ると、そのまま低く重心をかけパスに成功。試合時間の約半分が経過したところで3点先制してみせた。

そこから左腕を狙うタイは、リーヴァイのラペルを引き出す動きを見せた後、ニーオンザベリーで2点を追加した。抑えられたリーヴァイは残り2分の時点でガードに戻すことに成功するが、タイはまたしてもリーヴァイの足首を踏みつけて圧力をかけてゆく。

諦めずにタイの右足に絡んだリーヴァイだが、タイはその足を抜いてはまた踏みつけると、大きく頭の方に回って再びパスに成功。最後に狙ったノース&サウスチョークこそ極めきれなかったものの、結局8-0でタイが勝利した。

道着着用ルールにおいても、ノーギ同様のノンストップパス攻撃を貫き、世界最高峰のオープンガードプレイヤーを疲弊させて制圧。競技間の違いを超え、常識を覆す驚愕のパフォーマンスを見せて、タイは翌日の準決勝に進出した。

反対側のブロックでは、もう1人のニュースター、ミカことミカエル・ガルバォンが登場。1回戦はアトスのパウロ・ガブリエル相手に先制点を許したものの、攻撃の数で明確に上回って勝利した。

2回戦でセルジオ・アントニオと対峙したミカは、両者座った状態から相手の片足を持って立ち上がると、いきなり横に飛んでバックを狙うという凄技を見せる。その後ハーフで腰を切って足を抜いてパスしてからマウントに入り、袖車で完勝。準々決勝、昨年度王者マテウス・ガブリエルとの世界が注目する大一番に駒を進めた。

<ライト級準々決勝/10分1R>
ミカエル・ガルバォン(ブラジル)
Def. 4-2
マテウス・ガブリエル(ブラジル)

ミカの道着を取った瞬間に座るガブリエルと、それにカウンターで飛びつこうとしたが退いたミカ。改めて近づいて左に回ったミカは、次の瞬間右に倒れ込みながらガブリエルの左足を掴んで変形のレッグドラッグのような形でパスへ。あっという間に上四方に付きかけるが、ガブリエルも両腕でフレームを作りつつ、足を入れて正対した。

次の瞬間には右足に絡もうとするガブリエルだが、凄まじい反応でその足を抜いて下がるミカは場外へ。ここでブレイクが入り、ミカにパスのアドバンテージが入った。ここまでわずか40秒、とんでもないスピードの攻防が展開されている。

再開後、ハーフで左に絡んだガブリエルは、鋭いスイープでミカを横に崩す。バランスを保つミカだが、ガブリエルはその右足を引きつけてシットアップ。見事に2点を先制した。

下から絡んだミカは右足を抱えて崩しにかかるが、ガブリエルはバランスを保つ。立っているガブリエルに対してガードを閉じたミカは、素早く左足を内側から抱えて倒す。が、ガブリエルはすぐに体勢を立て直してみせた。

ミカはガブリエルのラペルを右ヒザ裏を通して掴むと、前に崩してからのシットアップを狙うが、ガブリエルはここもポジションキープする。さらに右足に絡んだミカが前方に崩しを仕掛けると、ガブリエルはマットに頭をつけて耐えて横向きに。右足のズボンをしっかりと掴んで引きつけられたミカは、シットアップができない。

やがてもう一度下になったミカは、右ヒザ裏を通したグリップをキープしたまま、再びガブリエルを前に崩してからシットアップへ。ガブリエルは左足一本で立ち上がるが、ミカは軸足を刈ってのテイクダウン。ガブリエルはまた立ち上がり、んらばとミカが後ろに倒す。それでも諦めず立ち上がるガブリエルだが、ミカはまたしても軸足を刈って、豪快に舞わせてのテイクダウン。

場外際で立とうとするガブリエルに対し、ミカは中に引きずり込んで上のポジションを固定しにかかる。が、抵抗するガブリエルが下がり切って場外へ。この一連の攻防の中でミカのテイクダウンが認められ、残り3分のところでアドバンテージ差で逆転することとなった。

スタンドからの再開。ガブリエルの引き込み狙いを察知したか、ミカはしゃがんで低い姿勢に。警戒しあう両者に一度ペナルティが与えられる。その後も低く構えたミカは、素早く前に出て引き込むガブリエルに合わせるような形で上に。

これがテイクダウンとして認められ、4-2。アドバンテージでも上回っているミカは、残り2分の時点で大きなリードを得ることとなった。

座ったガブリエルは、ミカが近づくとすぐに左に回って必殺のベリンボロへ。座って腰を引いて距離を取ったミカは、左に動いてパスで反撃。攻防を回避してリードを守り切る気などさらさらないようだ。それを防いだガブリエルは、今度は右に絡んでのベリンボロを繰り出す。終盤まで両者が攻め合う凄まじい攻防だ。

残り1分。ミカの右に絡みつつ、ラペルを絡めて掴んだガブリエルは、最後の望みを賭けてベリンボロのアタック。ミカの体勢を崩して立とうとするが、バランスをキープしたミカは前方にドライブし、ガブリエルを押し倒した。

残り15秒。諦めずにシザースイープを狙うガブリエルだが、それを堪えたミカが左に大きくパスを仕掛けたところで試合終了。最後はミカがサイドポジションに入ったところで終わったが、これは勝負ありと悟ったガブリエルが力を抜いたせいだろう。

両者が上下から凄まじいキレの技術を繰り出し続ける至上の攻防の末、ミカが4-2で快勝。要所で上を取り切るスクランブルの強さにおいてミカが上回ったことが、勝敗を分けた要因か。

とまれ、現在世界最高の業師の一人ガブリエルをも凌駕した柔術の神の子が、翌日の準決勝へ進出。期待されるタイ・ルオトロとの新世代決勝戦が、俄然現実味を帯びてきた。

<ライト級準決勝/10分1R>
タイ・ルオトロ(米国)
Def. 4-0
ルーカス・ヴァレンチ(ブラジル)

大会最終日。準決勝に進んだタイの相手は、この階級で2019年世界準優勝、21年にも3位に入っているルーカス・ヴァレンチ。2019年の世界大会決勝では、当時の絶対王者ルーカス・レプリにすらパスを許さなかったオープンガードの名手だ。

意外にも先に引き込んだタイ。ヴァレンチの右足を抱えて横回転し、さらにシングルレッグへの移行を狙う。バランスを保ったヴァレンチは、上からクロスチョークを狙いながら右膝を抜こうとするが、タイはそのまま強引にスクランブルで上になると、立とうとするヴァレンチを倒し切って上を取って先制点を奪ってみせた。道着着用ルールで自ら下になり、ノーギの流儀を押し通してトップを取るのだから驚きだ。

上になったタイは、担ぎや得意の足を踏みつける形でプレッシャーをかけるが、オープンガードに定評のあるヴァレンチも距離を取り対処し、やがてタイをクローズドガードに入れた。

ヴァレンチは下からタイの手首やラペルを取りにゆくが、タイはその度に切る。またタイは時に腰を上げて前傾姿勢でプレッシャーをかけるが、ヴァレンチに下からギを掴まれそうになると無理せず座る。先制点を取っているからこそ余裕のある戦いぶりだ。

クローズドガードでなかなか突破口を見出せないヴァレンチは、タイの左ヒザに右腕を入れてラペルを取ると、さらに左でラッソーを作って内回りを仕掛ける。

が、強靭なバランスを誇るタイは崩れず。ラペルを左足に巻き付けられているタイだが、見事な体捌きでバランスを保ちつつ左足を上げ、解除に成功した。それでもヴァレンチは左のラッソーと右のラペルグリップを使っての攻撃を試みるが、可動域が増したタイはさらに動いて両方とも解除し、距離を取った。

残り2分。一旦立ち上がったヴァレンチはタイと組み合う。ここでタイはヴァレンチの頭を抱えてスナップダウンを仕掛け、さらに奥襟を取ると大内刈りのフェイントからシングルレッグへ。右手で足を取りつつ、左手でグリップした袖を引き寄せる形でヴァレンチを崩してテイクダウンを決めてリードを広げた。

そのまま攻撃の手を緩めないタイは、さらにプレッシャーをかけてヴァレンチの体を二つ折り。両足首を持って体重をかけ、さらに右足を踏みつけて固定してから自ら飛びこんでのバック取りを狙うが、ヴァレンチも防ぐ。

残り1分。立ち上がったヴァレンチはタイの道着を掴むが、変幻自在に体勢を変えつつ左右の手で頭を掴んでくるタイに攻撃を仕掛けることができない。それでもシングルを狙うヴァレンチだが、タイは軽くがぶると逆に長い左手を伸ばしてヴァレンチのかかとを掴んで崩す。

ここで深追いせずに引いたタイは、次の瞬間大きく跳躍しての飛び三角。ヴァレンチが反応して脇を締めると、タイはここも深追いせずにすぐに立ち上がる。

その後もヴァレンチの帯を背中越しにとって動きを止めたタイは、最後は引き込みスイープを狙って試合終了を迎えた。

自ら下を選んでからスクランブルでトップを取ると、その後はヴァレンチの道着を用いた攻撃を、持ち前のダイナミックな身体操作で完封したタイの完勝だった。道着着用ルールにおける世界屈指のテクニシャンのギを用いた妙技を、全て潰してしまう恐るべき19歳だ。

<ライト級準決勝/10分1R>
ミカエル・ガルバォン(ブラジル)
Def.6分27秒 by ボーアンドアローチョーク
ジョナタス・グレイシー(ブラジル)

準決勝に進んだミカエルの相手は、2020年ヨーロピアンのライト級覇者のジョナタス・グレイシー。いわゆるグレイシー一族と血縁関係はないが、昨年末の世界大会ではミドル級に出場し、準決勝でイザッキ・バイエンセにレフェリー判定で惜敗して3位入賞を果たしている世界的強豪だ。

下になりたいジョナタスは、ミカの道着を掴まずに座ってしまいペナルティをもらう。改めて引き込んだジョナタスに対し、ミカは左膝を入れてベースを作ると、すぐに動いてジョナタスの左足をかつぎ、右足を押し下げての噛みつきパス狙いへ。

低くプレッシャーをかけて右足を超えにかかるミカだが、ジョナタスも腕のフレームで懸命に距離を作る。やがてミカはハーフまで侵攻して胸を合わせると、左腕で枕を作って首を殺して腰を切る。

注目されがちな派手な切り返しではなく、ごくごくオーソドックスな動きで、世界トップどころのガードをゆっくりと殺してゆくミカ。重心の低さ、タイトな密着、圧力のかけ方といった柔術の地力が恐ろしく強いことの証左だろう。

ジョナタスは下からミカのラペルを掴んで揺さぶろうとするが、ミカの盤石のベースは揺るがない。やがて絡まれている右足を抜いたミカは3点を先制すると、さらにステップオーバーしてマウント狙い。ジョナタスはなんとか左足に絡むものの、ミカはジョナタスの左ワキに頭を入れて肩固めの体勢に。さらに袖車に移行するが、ここでジョナタスは回転して上になるとともに両者は場外へ。これが場外逃避とみなされ、ミカがさらに2点を追加した。

試合はスタンド&中央で再開される。ジョナタスが引き込むと、瞬時に反応して右ヒザを入れたミカは、グラウンドに状態なった瞬間にはもうニースライスを完遂してサイドに付いている。ジョナタスも下から足を入れるが、ミカは低く担ぎにかかる。それを凌いだジョナタスは右でラッソー、左でデラヒーバで絡む。

ここからベリンボロを狙って回転するジョナタスだが、ミカは一緒に回転して防御。さらにジョナタスがもう一回転を狙うが、すでにその尻を取っていたミカは前に飛び込んでのベリンボロ返し。あっという間にバックを取って足のフックを入れて9-0とリードを広げた。

ミカは右手でジョナタスの襟を掴み、ボーアンドアローチョークへ。先日2階級上の世界王者ルーカス・バルボーザを仕留めたのと同じ技をもって、約7分半のところでタップを奪ってみせた。

普段は上の階級において世界レベルの活躍をするジョナタスに対し、瞬時の反応や切り返しだけでなく、桁外れに強力な柔術ファンダメンタルから繰り出すオーソドックスなパスガードでも圧倒。柔術の神の子が、その渾名に相応しい力を見せつけて決勝進出し、誰もが待ち望むタイ・ルオトロとの新世代決戦に駒を進めた。

<ライト級決勝/10分1R>
ミカエル・ガルバォン(ブラジル)
Def.2-0
タイ・ルオトロ(米国)

19歳のタイと18歳のミカによる注目の決勝戦。青帯時代に道着着用ルール対戦した時は、グリップを有効に使ってスイープしたミカが完勝している。が、昨年のWNOチャンピオンシップ=ミドル級決勝ではお互いが警戒し合ってほぼ攻防がないまま時間が過ぎ、タイが僅差の判定をものにしている。

まず引き込んだのはミカの方。一瞬で右にオモプラッタに入るが、タイも即座に反応して前転して上に戻る。するとミカは下からタイの右足を取って両足で浮かせるが、タイはバランスをキープした。最初の攻撃でミカにアドバンテージが与えられた。

さらに下からボンをとったミカは尻を出させながらバックを狙うと、タイはここも上を保つ。やがて正対してオープンガードに戻ったミカは、内掛けでタイの右足に絡む。下から煽ってタイを前に崩すと、右足を掴んでトーホールドにゆくが、タイは回転して逃れる。これでミカは2つ目のアドバンテージを獲得した。

その後も下から煽り続けるミカと、守勢を余儀なくされながらも見事なバランスで上をキープするタイ。道着着用であるが故に、前回の対戦──お互い警戒するまま時間が過ぎ、終盤の数少ないミカの攻撃もタイがことごとく遮断した──とは全く違う展開となっている。

やがてミカはタイの右腕にラッソーで絡むが、タイは立ち上がってミカの右足を踏みつける得意の形を作ると、横に動いてのパスを仕掛ける。こうしてタイが反撃を開始したその刹那、ラッソーを利用してタイを前方に舞わせるミカ。下になるまいと頭で着地したタイが立とうとしたところで、ミカもその斜め後ろに付いて追いすがる。

諦めず逃げようとするタイに対し、ミカはそのバックを目掛けて豪快に旋回。遠心力でタイを倒すと、そのまま上になってみせた。

なんとか腕のフレームで距離を作ろうとするタイだが、ミカはしっかり重心を落として体勢を固定。残り5分半でついにミカが先制点を獲得。最初から怒涛の攻めを続け、耐えたタイがついに反撃に出たその瞬間を突いた見事なカウンターだった。

低く胸を合わせたミカは、タイの右足を押し下げて侵攻を図る。タイは下から小手絞りで反撃するが、ミカは構わずポジションを進めてハーフに。さらに腰を切ってサイドを狙うが、タイは小手絞りを解いて右腕で距離を作った。

が、ここでミカはすぐに右のニースライスに移行。タイがそれを押し戻そうとしたところで、巧みに右足を引いて足の絡みを解除したミカは、上半身で低く体重をかけたまま左にパス。暴れるタイを抑え込んでサイドを奪取した…と思いきや、まだ諦めず動き続けたタイが全力でブリッジしてうつ伏せに。見ているだけで力の入る凄まじい攻防だ。

ミカはぴったりその背中に付いて襷掛けを取ると、タイの上体をリフトし、胴体に両足を巻き付けてみせる。ポイントの入る両足フックではなく、足をクロスしてポジションキープするミカは、やがて襟を掴んでチョーク狙い。絶体絶命と思われたタイだが、体を反って動きポイントをずらし続けてなんとか耐える。

ミカは足を四の字に組むと、さらに左でタイの襟を掴んでチョークを狙う。諦めずにディフェンスを続けるタイは、両腕でミカの左腕を掴んで外すとそのまま回転。残り1分半のところで正対し、ミカのクローズドガードの中に入ることに成功した。ここまでポイントは2-0、アドバンテージは5-1でミカがリードしている。

残り時間が少なるなか腰を上げるタイだが、先日レアンドロ・ロのトップゲームを完封したミカのガードは開かず、時間だけが過ぎてゆく。残り35秒、タイはミカをリフトしながら改めて立ち上がり押し下げようとするが、それでもガードは開かない。残り20秒、まだ諦めないタイはミカの体を下ろしてから左腕でガードを押し下げにかかる。

が、内側からタイの左足を抱えたミカは、それと同時に右腕にゴゴからオモプラッタのカウンター。フックこそしきれなかったもの、キムラグリップを取って上下を入れ替える。ここからミカが右腕を極めにゆくなかで、タイが左腕をグリップしてそれを耐える中で試合終了した。

道着着用ルール世界一を賭けた舞台での再戦は、前回と違い両者が持ち味をぶつけ合う珠玉の展開に。形は異なれど共にきわめて強力なトップゲームを持つ両者だが、下になった時に最後はスクランブルが頼りのタイに対し、ミカは多彩なガードからの仕掛けと、相手の動きの先を行く天性のカウンターの勘を持つ。この差が、より相手の体をコントロールできる道着着用下でものを言ったようだ。

戦い終えて、正座して握手した二人。今後10年――続くであろう至上のライバルストーリーの続きを見ることができるのは、ADCC世界大会の決勝戦か――。

18歳、最年少で黒帯のムンジアル王者となったミカは「最高の気分だよ。凄く良い経験になった。前回、僕を破ったタイに勝てたことも良かった。今回はより自分の試合ができたこともハッピーだよ。18歳で世界チャンピオンは最年少かもしれないけど、ずっとやってきたことだからね。父、母、スポンサー、ガールフレンド、チームメイト、試合にも出ているファブリシオ・ディアゴに感謝している。皆の心と一緒戦っていて、僕は1人じゃなかった。自分が目指す場所には、まだまだの距離がある。僕に勝っている2人がライト級で戦っていた。来年は体重を落とせないかもしれないからもしれないから、ライト級で戦うことにしたんだ。来年はミドル、あるいはミディアムヘビー級かもしれない。今からADCCに備えるよ」とポディウムで金メダルを掛けられた直後にFLOGRAPPLINGのインタビューで語っている。

【ライト級リザルト】
優勝 ミカ・ガルバォン(ブラジル)
準優勝 タイ・ルオトロ(米国)
3位 ジョナタス・グレイシー(ブラジル)、ルーカス・ヴァレンチ(ブラジル)

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【WJJC2022】柔術の神の子ミカ・ガルバォンと神童タイ・ルオトロ、New Wave Jiu-Jitsuがムンジに挑む

【写真】夢のティーン対決が実現するか。そんなに甘いモノではないのか──見所だらけのライト級だ(C)FLOGRAPPLING & ONE

2日(木・現地時間)から5日(日・同)にかけて、カリフォルニア州ロングビーチのウォルター・ピラミッドにて行われる、IBJJF主催のブラジリアン柔術世界選手権。
Text by Isamu Horiuchi

プレビュー第3回は、タイ・ルオトロ、ミカ・ガルバォンという柔術グラップリング界の二大ニュースターのエントリーにより最注目区となったライト級の見どころを紹介したい。


昨年はヘナート・カヌートとマテウス・ガブリエルのチェックマット勢によるクローズアウトとなったこの階級。今年はカヌートの姿がないものの、2019年のフェザー級世界王者でもあるガブリエルは出場する。

下からは長い足を活かした切れ味抜群のベリンボロを駆使し、上を取れば卓越したバランスから強力なパスガードを繰り出すガブリエルは、まぎれもなく優勝候補本命の1人だろう。

このガブリエルと並ぶ優勝候補と言えるのが、AOJのジョナタ・アウヴェスだ。

(C)FLOGRAPPLING

4月のパン大会では準決勝までは全試合短時間で一本勝ちし、決勝でもライバルのアンディ・ムラサキ相手に上下どちらからも試合を支配して、付け入る隙を与えずに完勝。

頭一つ抜けた強さを見せつけている。が、ガブリエルとは昨年のEUG1トーナメントの初戦で戦い、ベリンボロでポイントを奪われて惜敗している。師匠メンデス兄弟の必殺技でもあるこの技の対策を、アウヴェスが今回いかにアップデートして再戦に臨むのか。

ベリンボロと言えば、今回はオーストラリア出身のリーヴァイ・ジョーンズレアリーと、ノルウェーのエスペン・マティエセンという2人の名高いベリンボロ使いもエントリーしている。両者ともにメダル獲得の可能性を十分に持った強豪だ。

しかし、今回は上記の選手たちを超える注目を集める若手が2人エントリーを果たしている。1人は、先日のONE CHAMPIONSHIPにてゲイリー・トノンとグラップリング戦を行い、僅か97秒にてダースチョークで圧勝したタイ・ルオトロだ。

双子の弟ケイドと共にティーンの頃から脚光を浴びてきたタイは、2019年のADCC世界大会に若干16歳で出場。無尽蔵のスタミナをもって動き続け、ブルーノ・フラザトとパブロ・マントバーニという同門の大先輩2人を連破してベスト4に進出し、世界にその名を轟かせた。

その後もタイはケイドとともにノーギシーンを中心に大活躍し、昨年のWNOチャンピオンシップでも優勝。現在19歳にして既に今年のADCC世界大会の優勝候補本命とまで言われている。

ONEグラップリング以前に、今年の1月にはリーヴァイ・ジョーンズレアリーをヒザ十字で下しミドル級に続きウェルター級でWNOのベルトを巻くなど──ノーギではすでに疑いなく世界最強クラスのタイだが、道着着用ルールでの試合も厭わない。

昨年末の世界大会では茶帯ライト級出場し、決勝で弟ケイドと真っ向勝負。やや押され気味だったものの終盤にダースからバックに回り、後ろ三角から腕十字に移行という見事な流れで一本勝ちを収めて優勝を果たした。数日後、両者は師匠のアンドレ・ガルバォンから黒帯を授与された。

ノンストップ攻撃と圧倒的な極めでグラップリング界を席巻する19歳が、道着着用の大舞台でどのような戦いを見せるのか。今回はまさに世界が注目する黒帯デビュー戦だ。

タイが一回戦を突破すると、アウヴェスとの対決が実現する。スタンドでもグラウンドでも動き続けるタイを、タイトな柔術を身上とするアウヴェスが道着を用いていかに封じ込めるのか。低重心で抜群の安定感を持つアウヴェスに上になられた時、タイはどのように抵抗して活路を見出すのか、興味は尽きない。

そして今回タイに劣らず、むしろそれ以上に大きな期待を集めている初出場選手が、さらに年下の18歳「ミカ」ことミカエル・ガルバォンだ。幼少時よりルタ・リーブリとブラジリアン柔術の両方を修め、突出した反応速度を用いたカウンター、一瞬の閃きと極めの強さをもってノーギ&道着着用の両ジャンルにて見る者を魅了する「柔術の神の子」だが、その才能の凄まじさがより如実に発揮されるのは道着着用ルールの方だ。

昨年のEUG第2回大会のトーナメントに茶帯ながら参戦したミカは、準決勝で現在世界最強のミドル級柔術家であるタイナン・ダウプラと対戦。驚異的な反応と体捌きでダウプラの強力なオープンガードを封じ込め、終盤は一瞬で形に入った三角絞めを極めかけて判定勝ち。決勝ではダウプラの兄貴分アウヴェスの執念の膠着戦法の前に惜敗したものの、世界を驚嘆させる黒帯デビューを果たした。

黒帯昇格後に出場したアブダビ・ワールドプロ大会では、ブラジル予選& 本戦の6試合中5試合で一本勝ちして圧倒的に優勝。前述のマティエセンとジョーンズレアリーの2人も極めている。

さらなる驚きは、今年4月末のBJJ Stars08大会のトーナメント。1回戦で世界5階級制覇のレアンドロ・ロとのドリームマッチに挑んだミカは、クローズドガードからの攻撃でロのトップゲームを封じ込めて完勝してみせた。

さらに決勝ではミディアムヘビー級の世界王者ルーカス・バルボーザと対戦。スタンド戦で互角以上に渡り合って疲弊させると、終盤にテイクダウンからあっという間にバックに回ってボーアンドアローチョーク一閃。2階級上の怪物世界王者からも一本勝ちを収め、一夜にして柔術界の二大レジェンドを連破するという大仕事をやってのけたのだった。

その後、5月に入っても8日(日・同)にサンパウロで開かれた最も歴史と伝統があるといっても過言でないブラジレイロでも黒帯ミドル級で1回戦こそ対戦相手が失格だったが、その後の3試合では絞め、横三角、腕十字と一本勝ちを収め頂点に立っている。

今回、アウヴェスやタイとは逆のブロックに位置しているミカ。順当に勝ち上がれば準々決勝で前回優勝のガブリエルとの大一番が実現する可能性が高い。トップからもボトムからも無類の切れ味を持つ両者だが、攻撃の仕掛けが鋭いガブリエルに対して、ミカは切り返しの鋭さを誇る。両者の特性が噛み合えば想像を超えるような名勝負となる可能性もあるだろう。

アウヴェス対タイ、そしてガブリエル対ミカ。仮に両強豪を打ち破り、ファイナルでタイ✖ミカのNEW WAVE Jiu Jitsuの一戦が実現することになれば、昨年9月のWNOミドル級王座決定トーナメント戦以来の顔合わせとなり、その時はタイが辛勝しえいる。

誰が勝ち上がっても、さらに興味深い対決に続くこのライト級こそ、今年の世界大会で最も熱い期待を集める場であることは間違いない。

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