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【ADCC2024】レポート─02─ステ投与を明言=ヴァグネウ・ホシャが優勝候補と新星下し、ファイナルへ

【写真】30代の時からステロイドの使用を公言。ADCCは検査なし、42歳の彼は6度目の出場で、5年ぶり二度目の決勝進出。これがホシャの人生(C)SATOSHI NARITA

17日(土・現地時間)と18日(日・同)の二日間にわたって、ラスベガスのT-モバイルアリーナにて、世界最高峰のグラップリングイベントであるADCC世界大会が行われた。今年は既報のように、破格の賞金100万ドルを掲げて日時と場所をあえて重ねて開催してきた対抗団体クレイグ・ジョーンズ・インビテーショナル(CJI)に多くの有力選手を奪われた形となった。レビュー2回目は、最注目77キロ以下級の後半ブロックの準決勝までの模様をレポートしたい。
Text by Isamu Horiuchi

前回大会3位。前回準優勝のミカ・ガルバォンや2017&2019年優勝のJTトレスに次ぐ優勝候補と言えるダンテ・リオンは、一回戦で新鋭エライジャ・ドロシーと対戦した。ロイド・アーヴィン門下にして強力なレスリングベースを持つドロシーは、今年の東海岸予選の覇者で同予選のファイナルではニッキー・ライアンを制圧している。

前半、ドロシーがダブルに入れば、リオンがギロチンで切り返し、また足関節を狙う白熱の攻防に。加点時間帯になるとリオンが座る。バタフライフックから座ってワキを差してボディロックを作り、そこから立ち上がってのテイクダウンを狙うリオンだが、ドロシーが堪えて両者は場外に。

再開後も差しからのテイクダウンを狙い続けるリオンだが、強靭な足腰を持つドロシーが、小手から内股で豪快に投げて上を取った。大きな流れの中で考えるともともと上のポジションにいたドロシーが上に戻ったという攻防だが、ブレイクを経て一旦両者がスタンドに戻ったと解釈されて、ドロシーに2点が入った。リオンとしては、改めてテイクダウンを狙うというよりスイープを継続していたつもりだっただろうから、痛恨の計算違いだ。

まさかのリードを許したリオンは再びバタフライ。そこから潜ってワキを差し、ドロシーの右足に二重絡みをかけて下から煽るが強靭なベースを誇るドロシーは崩れない。ダンテはさらに好転しながらドロシーの左足を肩で抱えて崩しにかかるが、ドロシーはここも足を抜く。その後もリオンはシッティングから崩し、チョイバーで左腕を伸ばしかける場面も作るが、ことごとくドロシーがディフェンス。結局ドロシーが2点のリードを守り切り、優勝候補を撃破する殊勲の星を挙げた。


勢いに乗るドロシーは続く準々決勝、JTトレスと対戦。ちなみにJTは以前(現在ドロシーが師事する)ロイド・アーヴィン門下だっただけに、その点でも因縁のある新旧対決だ。

レスリングに自信を持つ両者だけに、スタンド戦が続く。4分過ぎ、シュートインしたドロシーが組みつくと、JTが上から首を抱えにあかる。が、ドロシーは首の力でJTをリフトしながらボディロックを作り、そのままテイクダウンに成功。その後は下から足を絡めるJTと上からパスを狙うドロシーの攻防が続くが、加点時間開始前にドロシーが距離を取り、両者スタンドに戻った。

そして試合時間が5分を過ぎ加点時間帯になると、JTはすぐさまシュートイン。ここはドロシーがスプロウルしてみせた。逆にシュートインするドロシーがそのまま押してゆくと、JTは右でウィザーを作って対抗。そのまま内股で投げを狙うJTだが、ドロシーは崩れずJTの背中側に重心をかけてゆく。

ここでJTは方向を変え、仰向け方向に捨て身の形でドロシーを投げようとするが、ドロシーは機敏な反応でバランスを取り上をキープ。なんとか距離を作って立とうとするJTに重心を浴びせて押さえ続け、ついにハーフで固定。6分経過時点で2点を先取して見せた。

JTはハーフから仕掛けようとするが、ドロシーは動かず。残り3分のところで立ち上がったJTが前進するも、ドロシーはうまくいなし続ける。ならばとJTが両差しを作ってドロシーの体を掬い上げにかかると、差し返すドロシー。さらにJTは左ワキでドロシーの首を抱えようとするが、が、前半同様強靭な首の力を持つドロシーのバランスは崩せない。逆にここでドロシーがニータップから浴びせ倒し、再び上に。JTはギロチンのカウンターを狙うが、ドロシーに首を抜かれてしまいテイクダウンが成立。4-0とリードを広げた。

その後、上からパスのプレッシャーをかけ続けるドロシーに対し、JTが有効な攻撃を仕掛けないまま試合終了。若さに勝るドロシーが、JTの本領であるはずのスタンドレスリング&トップゲームで完勝。世代交代を印象付ける一戦となった。レスリングの優位性で勝利してきたJTだが、そのレスリングで勝てなくなってしまうと、ADCCルールにおいては厳しいようだ。

もう一つの山からは、42歳の大ベテランにしてやはり優勝候補のヴァグネウ・ホシャが気を吐いた。初戦ではジェレミー・スキナーからテイクダウンを取り、パスガードを決めた後に左腕を伸ばしかけ、最後にはバックも奪って6-0で完勝。

2回戦ではジョナタス・グレイシーと当たったホシャは、上からじっくりプレッシャーをかけて疲弊させ、延長戦で左でワキを指す得意の形から小内刈りを合わせてテイクダウンに成功。その後もジョナタスの口を手で塞ぐなど嫌がらせ攻撃も冴え渡り、自分より際も若い相手を疲労困憊させて完勝。自分より20歳若いエライジャ・ドロシーとの準決勝に駒を進めた。

<77キロ以下級準決勝/10分1R・延長5分>
ヴァグネウ・ホシャ(ブラジル)
Def. Referee’s decision
エライジャ・ドロシー(米国)

42歳✖22歳。実に20の年齢差のある両者はスタンドで首や腕を取り合い、そして頭を付けて、時に強くぶつけ合っての鍔迫り合いを展開する。そして2分半経過時に、ホシャが前に出てワキを差す得意の体勢から浴びせ倒してのテイクダウンに成功。ドロシーがクローズドガードを取ると、喉元に手をやりプレッシャーをかけるホシャは一度ハーフまで侵攻するが、ドロシーも戻す。

5分を過ぎて加点時間帯となっても、上のホシャと下のドロシーによる攻防が続いた。

残り3分のところでドロシーが距離を作って立ち上がり、試合はスタンド戦に。レスリングに自信を持つドロシーが前に出るが、ホシャは下がりながら受け流す。ドロシーはニータップも仕掛けるが、ホシャはここも巧みに下がって対応した。やがてホシャはまたしてもワキを差す得意の体勢に。

対するドロシーは小手に巻いての内股狙いに出るが、ホシャがこらえてみせた。残り45秒、ホシャがワキを差した形からの小外刈でドロシーを倒す。が、ドロシーはウィザーを効かせてすぐにたち、ポイント献上は回避した。結局そのまま0-0で本戦が終了し、試合は延長に持ち込まれた。

延長に入るとドロシーがシュートイン。

しかしホシャは素早く対応して受け止める。アタックを試み続けるドロシーは残り3分のところで深くシングルに。

そのままドライブしてのテイクダウンを狙うが、ホシャは右足を抱えられながらもスプロールし、重心を落として対応する。

やがてドロシーを押し返して距離を取った。若きレスラーが仕掛けるテイクダウンに対して見事なディフェンスを見せたホシャは、してやったりの笑顔を見せた。

その後も両者譲らないスタンドの展開が続く。残り1分を切っても反応速度が落ちず気力充実ぶりが伺えるホシャに対し、20歳若いドロシーは遠い距離から雑にシュートインしては防がれる場面が目立ってくる。ドロシーのテイクダウンを切っては押してゆくホシャは、笑顔を見せてからフェイント。さらに前に出て左でワキを差してドロシーを場外に押し出す等、底知れぬスタミナと地力を発揮するホシャが余裕を持ってドロシーのテイクダウンを防ぐうちに試合は終了した。

レフェリー判定は、本戦の前半で綺麗なテイクダウンを奪う場面も見せたホシャに。延長で何度もアタックを試みたのはドロシーの方だが、ペース支配という点では、上手く捌き続けては押していったホシャの方が優勢に見えてしまうような展開だった。

とまれ、ホシャは2019年大会以来二度目の決勝進出。リオンとJTという優勝候補二人をスタンドレスリングとトップゲームで上回った20歳下のドロシーを相手に、まさにその分野で渡り合い攻略するという驚くべき戦いぶりだった。準々決勝でドロシーは、2019年にホシャを決勝で倒した34歳のJTに完勝し世代交代を強く印象付けた。そのドロシーをさらに一世代上のホシャが倒したのだから、時代の流れを一人で引き戻す凄まじい活躍だ。

ただしホシャ本人は、ホルモン補充療法としてステロイド投与を30代半ばから続けていることを以前から明言しており、この「驚くべき」戦いに我々はどの程度驚くべきなのか、果たして「鉄人」、「中年の希望の星」等の賛辞を送るべきかどうかの判断は難しい。

が、このADCC大会の公式ルールには禁止薬物についての記載がなく、検査もされないことは公然の事実だ。つまりホシャはこの大会で他の選手たちと同じルールに則って戦っている。そして2011年の初出場以来6度出場、実に13年間かけて戦い続け、今回42歳にして5年ぶり二度目の決勝進出を果たした。他の追従を許さない並外れた業績であることは間違いない。

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【WJJC2022】至高の600秒=ミカ・ガルバォンがタイ・ルオトロを決勝で下し、最年少世界王者に

【写真】最年少、世界王者となったミカ・ガルバォン。タイ・ルオトロのライバルストーリーはミドル級に階級を上げて紡がれていくのか。そこにはもう一人、強力な男がいるだけに2023年のムンジアルが既に楽しみでならない(C)SATOSHI NARITA

2日(木・現地時間)から5日(日・同)にかけて、カリフォルニア州ロングビーチのウォルター・ピラミッドにて行われた、IBJJF主催のブラジリアン柔術世界選手権。
Text Isamu Horiuchi

レビュー第3回は、タイ・ルオトロとミカエル・ガルバォンという二大ニュースターの参戦により最注目区となったライト級の模様を、この2人の試合を中心に報告したい。


今回が道着着用ルールにおける黒帯デビュー戦となる19歳のタイ・ルオトロ。1回戦は相手の欠場により不戦勝で突破し、初戦にていきなり優勝候補のジョナタ・アウヴェスとの大一番を迎えた。

<ライト級2回戦/10分1R>
タイ・ルオトロ(米国)
Def. 4-2
ジョナタ・アウヴェス(ブラジル)

前に出て襟を掴むアウヴェス。対するタイは、ノーギでも多用する両腕で相手の頭を抱える形で対抗する。やがて豪快に引き込んだアウヴェスは、タイの右足をワキに抱えて回転して上を狙う。ズボンの足首部分を掴まれているため、ノーギのようには足を抜くことができないタイだが、それでも右手でポストしてバランスをキープする。

さらに50/50の形で右足に絡んだアウヴェスは内回転。が、タイは一緒に回転して対応するとすぐに前方に飛び込んでのバック狙いへ。ここをすぐに対処して距離を取ったアウヴェスは、タイの両足をまとめて左手で抱えて起き上がり、2点を先取した。

下になったタイはアウヴェスの右足を抱えるが、アウヴェスは左で巧みにステップオーバーして距離を作り、離れることに成功した。

中央からタイが座った姿勢で再開。ヒザ立ちで前に出るタイだが、リードしているアウヴェスは両腕を伸ばして襟を掴んで下がりながら距離を保つ。残り6分となった時点で、タイはアウヴェスの襟を取ってクローズドガードに引き込んだ。

この体勢で無類の防御の強さを誇るアウヴェスは、低く胸を合わせて密着。タイは、バギーチョーク、ループチョーク、クロスチョークと狙い。あるいは背中から手を伸ばしてアウヴェスの帯を掴んでの仕掛けを試みるが、重石の如きアウヴェスのベースは崩れない。途中で膠着ペナルティを受けたアウヴェスだが、構わず密着を続ける。

が、残り3分近くの時点でアウヴェスに2つ目の膠着ペナルティが入る。ここで少し動き始めたアウヴェスは、ヒジを入れてタイのタードを開かせて足を潰しにかかる。タイはなんとか隙間を作ると、残り2分少々のところで再びクローズドに引き込んだ。

タイのズボンを掴み、低くプレッシャーかけるアウヴェス。タイがクロスチョークを仕掛けるとすかさず距離を取る。再び引き込んだタイはオープンガードから攻撃を試みるが、アウヴェスはここも腰を引いて距離を取った。

タイを応援する客席からブーイングが起こる中、なんと残り54秒でアウヴェスに3つ目のペナルティ。これでタイは2点を獲得するとともに、受けたペナルティの数により逆転となった。

着実に勝利に向かっていたはずが一転、突然攻撃する必要が生まれたアウヴェスは、タイの左足を抱えて噛みつき。そのまま左に跨いでパスを狙うが、タイは距離を作ってアウヴェスの左足を下から掴むと、両足を絡めて50/50を作って上に。残り14秒で4-2としてみせた。

アウヴェスは最後の望みを賭けて足を取りにゆくが、極めることはできず。タイは道着着用の黒帯デビュー戦で、この階級世界最強の一角であるアウヴェスから勝利を奪うという快挙を成し遂げた。

最初にスイープで先制し、その後は持ち前のベースを利した漬物石戦法で守り切ろうとしたアウヴェスだが、レフェリーの厳しい判断によって予定を狂わされることに。パスも極めも世界最高峰の力を持つにもかかわらず、勝利にこだわるあまりにそれらを駆使することなく、結果として勝利自体も逃すという皮肉な形での初戦敗退となった。

一方、初日最大の難関アウヴェス戦を見事に突破したタイは、2019年ヨーロピアン&パン王者にして、道着着用柔術における最高峰のベリンボロ使いの一人、リーヴァイ・ジョーンズレアリーとの準々決勝に駒を進めた。

<ライト級準々決勝/10分1R>
タイ・ルオトロ(米国)
Def. 8-0
リーヴァイ・ジョーンズレアリー(豪州)

今年のWNOにおいてウェルター級タイトル戦=ノーギルールで対戦している両者。その際はタイがヒールから変化してのヒザ十字を極めて完勝しているが、道着着用ルールのおける黒帯での景観はリーヴァイに一日の長がある。現時点における黒帯でのタイの道着への対応力──初戦では、アウヴェスが膠着戦法を貫いたためあまり見ることができなかった──という点でも注目の再戦だ。

試合開始後すぐにスライディングして座ったリーヴァイは、タイの右足に絡むと直ちに鋭い回転のベリンボロへ。が、タイも合わせて回転。まるでボディボードに乗るかのうようにリーヴァイの上で腹這いになってバランスを保ってみせた。

タイのズボンを掴んだリーヴァイはそのまま上を狙うが、タイはリーヴァイの絡む足を押し下げつつ、後ろ向きにステップオーバーする形でバランスキープ。

やがて向き直ったタイは、前に体重をかけながら腹でリーヴァイの左足を潰してゆく。さらに圧力をかけるタイは、リーヴァイの右足首を踏みつけて固定する得意の形を作った。

卓越したボディバランスで上をキープし、パス攻撃を繰り出し続けて相手を疲弊させる。タイはノーギグラップリングと同様の戦い方を、道着の世界最高峰の舞台でも通用させている。

そのまま上四方の方向に回ったタイ。リーヴァイも足を効かせて守るが、タイは構わずプレッシャーをかけ続けて、再び足を踏みつけてのパスを試みる。リーヴァイはタイの襟を掴んで足を効かせて対抗するが、タイは先日のゲイリー・トノン戦のように両足首を押さえつけて再び上四方に回ると、そのまま低く重心をかけパスに成功。試合時間の約半分が経過したところで3点先制してみせた。

そこから左腕を狙うタイは、リーヴァイのラペルを引き出す動きを見せた後、ニーオンザベリーで2点を追加した。抑えられたリーヴァイは残り2分の時点でガードに戻すことに成功するが、タイはまたしてもリーヴァイの足首を踏みつけて圧力をかけてゆく。

諦めずにタイの右足に絡んだリーヴァイだが、タイはその足を抜いてはまた踏みつけると、大きく頭の方に回って再びパスに成功。最後に狙ったノース&サウスチョークこそ極めきれなかったものの、結局8-0でタイが勝利した。

道着着用ルールにおいても、ノーギ同様のノンストップパス攻撃を貫き、世界最高峰のオープンガードプレイヤーを疲弊させて制圧。競技間の違いを超え、常識を覆す驚愕のパフォーマンスを見せて、タイは翌日の準決勝に進出した。

反対側のブロックでは、もう1人のニュースター、ミカことミカエル・ガルバォンが登場。1回戦はアトスのパウロ・ガブリエル相手に先制点を許したものの、攻撃の数で明確に上回って勝利した。

2回戦でセルジオ・アントニオと対峙したミカは、両者座った状態から相手の片足を持って立ち上がると、いきなり横に飛んでバックを狙うという凄技を見せる。その後ハーフで腰を切って足を抜いてパスしてからマウントに入り、袖車で完勝。準々決勝、昨年度王者マテウス・ガブリエルとの世界が注目する大一番に駒を進めた。

<ライト級準々決勝/10分1R>
ミカエル・ガルバォン(ブラジル)
Def. 4-2
マテウス・ガブリエル(ブラジル)

ミカの道着を取った瞬間に座るガブリエルと、それにカウンターで飛びつこうとしたが退いたミカ。改めて近づいて左に回ったミカは、次の瞬間右に倒れ込みながらガブリエルの左足を掴んで変形のレッグドラッグのような形でパスへ。あっという間に上四方に付きかけるが、ガブリエルも両腕でフレームを作りつつ、足を入れて正対した。

次の瞬間には右足に絡もうとするガブリエルだが、凄まじい反応でその足を抜いて下がるミカは場外へ。ここでブレイクが入り、ミカにパスのアドバンテージが入った。ここまでわずか40秒、とんでもないスピードの攻防が展開されている。

再開後、ハーフで左に絡んだガブリエルは、鋭いスイープでミカを横に崩す。バランスを保つミカだが、ガブリエルはその右足を引きつけてシットアップ。見事に2点を先制した。

下から絡んだミカは右足を抱えて崩しにかかるが、ガブリエルはバランスを保つ。立っているガブリエルに対してガードを閉じたミカは、素早く左足を内側から抱えて倒す。が、ガブリエルはすぐに体勢を立て直してみせた。

ミカはガブリエルのラペルを右ヒザ裏を通して掴むと、前に崩してからのシットアップを狙うが、ガブリエルはここもポジションキープする。さらに右足に絡んだミカが前方に崩しを仕掛けると、ガブリエルはマットに頭をつけて耐えて横向きに。右足のズボンをしっかりと掴んで引きつけられたミカは、シットアップができない。

やがてもう一度下になったミカは、右ヒザ裏を通したグリップをキープしたまま、再びガブリエルを前に崩してからシットアップへ。ガブリエルは左足一本で立ち上がるが、ミカは軸足を刈ってのテイクダウン。ガブリエルはまた立ち上がり、んらばとミカが後ろに倒す。それでも諦めず立ち上がるガブリエルだが、ミカはまたしても軸足を刈って、豪快に舞わせてのテイクダウン。

場外際で立とうとするガブリエルに対し、ミカは中に引きずり込んで上のポジションを固定しにかかる。が、抵抗するガブリエルが下がり切って場外へ。この一連の攻防の中でミカのテイクダウンが認められ、残り3分のところでアドバンテージ差で逆転することとなった。

スタンドからの再開。ガブリエルの引き込み狙いを察知したか、ミカはしゃがんで低い姿勢に。警戒しあう両者に一度ペナルティが与えられる。その後も低く構えたミカは、素早く前に出て引き込むガブリエルに合わせるような形で上に。

これがテイクダウンとして認められ、4-2。アドバンテージでも上回っているミカは、残り2分の時点で大きなリードを得ることとなった。

座ったガブリエルは、ミカが近づくとすぐに左に回って必殺のベリンボロへ。座って腰を引いて距離を取ったミカは、左に動いてパスで反撃。攻防を回避してリードを守り切る気などさらさらないようだ。それを防いだガブリエルは、今度は右に絡んでのベリンボロを繰り出す。終盤まで両者が攻め合う凄まじい攻防だ。

残り1分。ミカの右に絡みつつ、ラペルを絡めて掴んだガブリエルは、最後の望みを賭けてベリンボロのアタック。ミカの体勢を崩して立とうとするが、バランスをキープしたミカは前方にドライブし、ガブリエルを押し倒した。

残り15秒。諦めずにシザースイープを狙うガブリエルだが、それを堪えたミカが左に大きくパスを仕掛けたところで試合終了。最後はミカがサイドポジションに入ったところで終わったが、これは勝負ありと悟ったガブリエルが力を抜いたせいだろう。

両者が上下から凄まじいキレの技術を繰り出し続ける至上の攻防の末、ミカが4-2で快勝。要所で上を取り切るスクランブルの強さにおいてミカが上回ったことが、勝敗を分けた要因か。

とまれ、現在世界最高の業師の一人ガブリエルをも凌駕した柔術の神の子が、翌日の準決勝へ進出。期待されるタイ・ルオトロとの新世代決勝戦が、俄然現実味を帯びてきた。

<ライト級準決勝/10分1R>
タイ・ルオトロ(米国)
Def. 4-0
ルーカス・ヴァレンチ(ブラジル)

大会最終日。準決勝に進んだタイの相手は、この階級で2019年世界準優勝、21年にも3位に入っているルーカス・ヴァレンチ。2019年の世界大会決勝では、当時の絶対王者ルーカス・レプリにすらパスを許さなかったオープンガードの名手だ。

意外にも先に引き込んだタイ。ヴァレンチの右足を抱えて横回転し、さらにシングルレッグへの移行を狙う。バランスを保ったヴァレンチは、上からクロスチョークを狙いながら右膝を抜こうとするが、タイはそのまま強引にスクランブルで上になると、立とうとするヴァレンチを倒し切って上を取って先制点を奪ってみせた。道着着用ルールで自ら下になり、ノーギの流儀を押し通してトップを取るのだから驚きだ。

上になったタイは、担ぎや得意の足を踏みつける形でプレッシャーをかけるが、オープンガードに定評のあるヴァレンチも距離を取り対処し、やがてタイをクローズドガードに入れた。

ヴァレンチは下からタイの手首やラペルを取りにゆくが、タイはその度に切る。またタイは時に腰を上げて前傾姿勢でプレッシャーをかけるが、ヴァレンチに下からギを掴まれそうになると無理せず座る。先制点を取っているからこそ余裕のある戦いぶりだ。

クローズドガードでなかなか突破口を見出せないヴァレンチは、タイの左ヒザに右腕を入れてラペルを取ると、さらに左でラッソーを作って内回りを仕掛ける。

が、強靭なバランスを誇るタイは崩れず。ラペルを左足に巻き付けられているタイだが、見事な体捌きでバランスを保ちつつ左足を上げ、解除に成功した。それでもヴァレンチは左のラッソーと右のラペルグリップを使っての攻撃を試みるが、可動域が増したタイはさらに動いて両方とも解除し、距離を取った。

残り2分。一旦立ち上がったヴァレンチはタイと組み合う。ここでタイはヴァレンチの頭を抱えてスナップダウンを仕掛け、さらに奥襟を取ると大内刈りのフェイントからシングルレッグへ。右手で足を取りつつ、左手でグリップした袖を引き寄せる形でヴァレンチを崩してテイクダウンを決めてリードを広げた。

そのまま攻撃の手を緩めないタイは、さらにプレッシャーをかけてヴァレンチの体を二つ折り。両足首を持って体重をかけ、さらに右足を踏みつけて固定してから自ら飛びこんでのバック取りを狙うが、ヴァレンチも防ぐ。

残り1分。立ち上がったヴァレンチはタイの道着を掴むが、変幻自在に体勢を変えつつ左右の手で頭を掴んでくるタイに攻撃を仕掛けることができない。それでもシングルを狙うヴァレンチだが、タイは軽くがぶると逆に長い左手を伸ばしてヴァレンチのかかとを掴んで崩す。

ここで深追いせずに引いたタイは、次の瞬間大きく跳躍しての飛び三角。ヴァレンチが反応して脇を締めると、タイはここも深追いせずにすぐに立ち上がる。

その後もヴァレンチの帯を背中越しにとって動きを止めたタイは、最後は引き込みスイープを狙って試合終了を迎えた。

自ら下を選んでからスクランブルでトップを取ると、その後はヴァレンチの道着を用いた攻撃を、持ち前のダイナミックな身体操作で完封したタイの完勝だった。道着着用ルールにおける世界屈指のテクニシャンのギを用いた妙技を、全て潰してしまう恐るべき19歳だ。

<ライト級準決勝/10分1R>
ミカエル・ガルバォン(ブラジル)
Def.6分27秒 by ボーアンドアローチョーク
ジョナタス・グレイシー(ブラジル)

準決勝に進んだミカエルの相手は、2020年ヨーロピアンのライト級覇者のジョナタス・グレイシー。いわゆるグレイシー一族と血縁関係はないが、昨年末の世界大会ではミドル級に出場し、準決勝でイザッキ・バイエンセにレフェリー判定で惜敗して3位入賞を果たしている世界的強豪だ。

下になりたいジョナタスは、ミカの道着を掴まずに座ってしまいペナルティをもらう。改めて引き込んだジョナタスに対し、ミカは左膝を入れてベースを作ると、すぐに動いてジョナタスの左足をかつぎ、右足を押し下げての噛みつきパス狙いへ。

低くプレッシャーをかけて右足を超えにかかるミカだが、ジョナタスも腕のフレームで懸命に距離を作る。やがてミカはハーフまで侵攻して胸を合わせると、左腕で枕を作って首を殺して腰を切る。

注目されがちな派手な切り返しではなく、ごくごくオーソドックスな動きで、世界トップどころのガードをゆっくりと殺してゆくミカ。重心の低さ、タイトな密着、圧力のかけ方といった柔術の地力が恐ろしく強いことの証左だろう。

ジョナタスは下からミカのラペルを掴んで揺さぶろうとするが、ミカの盤石のベースは揺るがない。やがて絡まれている右足を抜いたミカは3点を先制すると、さらにステップオーバーしてマウント狙い。ジョナタスはなんとか左足に絡むものの、ミカはジョナタスの左ワキに頭を入れて肩固めの体勢に。さらに袖車に移行するが、ここでジョナタスは回転して上になるとともに両者は場外へ。これが場外逃避とみなされ、ミカがさらに2点を追加した。

試合はスタンド&中央で再開される。ジョナタスが引き込むと、瞬時に反応して右ヒザを入れたミカは、グラウンドに状態なった瞬間にはもうニースライスを完遂してサイドに付いている。ジョナタスも下から足を入れるが、ミカは低く担ぎにかかる。それを凌いだジョナタスは右でラッソー、左でデラヒーバで絡む。

ここからベリンボロを狙って回転するジョナタスだが、ミカは一緒に回転して防御。さらにジョナタスがもう一回転を狙うが、すでにその尻を取っていたミカは前に飛び込んでのベリンボロ返し。あっという間にバックを取って足のフックを入れて9-0とリードを広げた。

ミカは右手でジョナタスの襟を掴み、ボーアンドアローチョークへ。先日2階級上の世界王者ルーカス・バルボーザを仕留めたのと同じ技をもって、約7分半のところでタップを奪ってみせた。

普段は上の階級において世界レベルの活躍をするジョナタスに対し、瞬時の反応や切り返しだけでなく、桁外れに強力な柔術ファンダメンタルから繰り出すオーソドックスなパスガードでも圧倒。柔術の神の子が、その渾名に相応しい力を見せつけて決勝進出し、誰もが待ち望むタイ・ルオトロとの新世代決戦に駒を進めた。

<ライト級決勝/10分1R>
ミカエル・ガルバォン(ブラジル)
Def.2-0
タイ・ルオトロ(米国)

19歳のタイと18歳のミカによる注目の決勝戦。青帯時代に道着着用ルール対戦した時は、グリップを有効に使ってスイープしたミカが完勝している。が、昨年のWNOチャンピオンシップ=ミドル級決勝ではお互いが警戒し合ってほぼ攻防がないまま時間が過ぎ、タイが僅差の判定をものにしている。

まず引き込んだのはミカの方。一瞬で右にオモプラッタに入るが、タイも即座に反応して前転して上に戻る。するとミカは下からタイの右足を取って両足で浮かせるが、タイはバランスをキープした。最初の攻撃でミカにアドバンテージが与えられた。

さらに下からボンをとったミカは尻を出させながらバックを狙うと、タイはここも上を保つ。やがて正対してオープンガードに戻ったミカは、内掛けでタイの右足に絡む。下から煽ってタイを前に崩すと、右足を掴んでトーホールドにゆくが、タイは回転して逃れる。これでミカは2つ目のアドバンテージを獲得した。

その後も下から煽り続けるミカと、守勢を余儀なくされながらも見事なバランスで上をキープするタイ。道着着用であるが故に、前回の対戦──お互い警戒するまま時間が過ぎ、終盤の数少ないミカの攻撃もタイがことごとく遮断した──とは全く違う展開となっている。

やがてミカはタイの右腕にラッソーで絡むが、タイは立ち上がってミカの右足を踏みつける得意の形を作ると、横に動いてのパスを仕掛ける。こうしてタイが反撃を開始したその刹那、ラッソーを利用してタイを前方に舞わせるミカ。下になるまいと頭で着地したタイが立とうとしたところで、ミカもその斜め後ろに付いて追いすがる。

諦めず逃げようとするタイに対し、ミカはそのバックを目掛けて豪快に旋回。遠心力でタイを倒すと、そのまま上になってみせた。

なんとか腕のフレームで距離を作ろうとするタイだが、ミカはしっかり重心を落として体勢を固定。残り5分半でついにミカが先制点を獲得。最初から怒涛の攻めを続け、耐えたタイがついに反撃に出たその瞬間を突いた見事なカウンターだった。

低く胸を合わせたミカは、タイの右足を押し下げて侵攻を図る。タイは下から小手絞りで反撃するが、ミカは構わずポジションを進めてハーフに。さらに腰を切ってサイドを狙うが、タイは小手絞りを解いて右腕で距離を作った。

が、ここでミカはすぐに右のニースライスに移行。タイがそれを押し戻そうとしたところで、巧みに右足を引いて足の絡みを解除したミカは、上半身で低く体重をかけたまま左にパス。暴れるタイを抑え込んでサイドを奪取した…と思いきや、まだ諦めず動き続けたタイが全力でブリッジしてうつ伏せに。見ているだけで力の入る凄まじい攻防だ。

ミカはぴったりその背中に付いて襷掛けを取ると、タイの上体をリフトし、胴体に両足を巻き付けてみせる。ポイントの入る両足フックではなく、足をクロスしてポジションキープするミカは、やがて襟を掴んでチョーク狙い。絶体絶命と思われたタイだが、体を反って動きポイントをずらし続けてなんとか耐える。

ミカは足を四の字に組むと、さらに左でタイの襟を掴んでチョークを狙う。諦めずにディフェンスを続けるタイは、両腕でミカの左腕を掴んで外すとそのまま回転。残り1分半のところで正対し、ミカのクローズドガードの中に入ることに成功した。ここまでポイントは2-0、アドバンテージは5-1でミカがリードしている。

残り時間が少なるなか腰を上げるタイだが、先日レアンドロ・ロのトップゲームを完封したミカのガードは開かず、時間だけが過ぎてゆく。残り35秒、タイはミカをリフトしながら改めて立ち上がり押し下げようとするが、それでもガードは開かない。残り20秒、まだ諦めないタイはミカの体を下ろしてから左腕でガードを押し下げにかかる。

が、内側からタイの左足を抱えたミカは、それと同時に右腕にゴゴからオモプラッタのカウンター。フックこそしきれなかったもの、キムラグリップを取って上下を入れ替える。ここからミカが右腕を極めにゆくなかで、タイが左腕をグリップしてそれを耐える中で試合終了した。

道着着用ルール世界一を賭けた舞台での再戦は、前回と違い両者が持ち味をぶつけ合う珠玉の展開に。形は異なれど共にきわめて強力なトップゲームを持つ両者だが、下になった時に最後はスクランブルが頼りのタイに対し、ミカは多彩なガードからの仕掛けと、相手の動きの先を行く天性のカウンターの勘を持つ。この差が、より相手の体をコントロールできる道着着用下でものを言ったようだ。

戦い終えて、正座して握手した二人。今後10年――続くであろう至上のライバルストーリーの続きを見ることができるのは、ADCC世界大会の決勝戦か――。

18歳、最年少で黒帯のムンジアル王者となったミカは「最高の気分だよ。凄く良い経験になった。前回、僕を破ったタイに勝てたことも良かった。今回はより自分の試合ができたこともハッピーだよ。18歳で世界チャンピオンは最年少かもしれないけど、ずっとやってきたことだからね。父、母、スポンサー、ガールフレンド、チームメイト、試合にも出ているファブリシオ・ディアゴに感謝している。皆の心と一緒戦っていて、僕は1人じゃなかった。自分が目指す場所には、まだまだの距離がある。僕に勝っている2人がライト級で戦っていた。来年は体重を落とせないかもしれないからもしれないから、ライト級で戦うことにしたんだ。来年はミドル、あるいはミディアムヘビー級かもしれない。今からADCCに備えるよ」とポディウムで金メダルを掛けられた直後にFLOGRAPPLINGのインタビューで語っている。

【ライト級リザルト】
優勝 ミカ・ガルバォン(ブラジル)
準優勝 タイ・ルオトロ(米国)
3位 ジョナタス・グレイシー(ブラジル)、ルーカス・ヴァレンチ(ブラジル)

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