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【RIZIN DECADE】神龍誠と対戦。小さな巨人ホセ・トーレス「ショーティー航空だ。僕が宙を舞わすから」

【写真】待望というか、来日を期待することができなかったフライ級の実力者がRIZINフライ級戦線へ(C)BRAVE CF

31日(火)、さいたま市中央区のさいたまスーパーアリーナで開催されるRIZIN DECADE。その第2部=RIZIN49にホセ・トーレスが初来日を果たし、59キロ契約マッチで神龍誠と対戦する。
Text Manabu Takashima

IMMAF二連覇、プロ転向後は3戦目でTitan FCフライ級王座を獲得すると5戦目でバンタム級を制し2連覇を達成。合計4度の王座防衛の末に契約を果たしたUFCだったが、フライ級冬の時代と重なり1勝1敗で階級閉鎖の流れのなか、バンタム級転向&契約続行でなくリリースを選択した。

トーレスが選んだ再就職先は、バーレーン王国が所有するBRAVE CFだった。結果的に未完に終わったフライ級王座決定トーナメントに出場後に、階級を上げてバンタム級でBRAVE CFの頂点に立った。

厚待遇、レスト・オブ・ザ・レスト級の未知強と戦える砂漠のMMA独立王国で、トーレスはファイター人生のピークを過ごすものかと思われた。そんな身長163センチ、ショーティーと呼ばれる小さな巨人が思いもしないRIZIN参戦へ。しかも今後はフライ級に戻すことも明言した。

ボクシングの距離で戦い続けることができるトーレスは、レスリングでなく柔道、キックでなくムエタイと散打を重視する。そんな北米MMAの枠を飛び越えた――北米MMAの実力者が心躍る日本初戦への想いを語った。


BRAVE CFを日本の人達に知ってもらうためのファイト

──まさかショーティーの試合が、大晦日に日本で見られる日が来るとは思ってもいなかったです。

「ようやくこの日を迎えることができたよ。僕が最初にMMAに夢中になったのはPRIDEを視たからだった。ストリートでPRIDEのDVDを打っている人間がいて(笑)。それを買ってランペイジのスープレックス、皇帝ヒョードルや多くのファイターの試合を夢中になって視ていた。そして今回、PRIDEが行われていて会場で、PRIDEのようにリングで戦うことができる。こんな環境で戦えるなんて、めちゃくちゃエキサイトしているよ。楽しみでしょうがない」

――BRAVE CFに属してギャリアを全うするように感じていたので、この日が来ることが本当に嬉しいです。

「僕は今もBRAVE CFのファイターだ。彼らが僕にこのDECADEイベントで戦う機会を与えてくれた。そしてポケモン、デジモン、ドラゴンボールZと僕が夢中になった夢のような国で戦うことができる。BRAVE CFの元チャンピオンとして、BRAVEのショーツ、BRAVEのTシャツを着て、BRAVEとは違うマーケットで、BRAVEのブランドを知らしめるために戦う。32歳になった僕には、そういう役割もある。BRAVE CFを日本の人達に知ってもらうためのファイト。その機会をマッチメイカーが僕に設けてくれた。

ただ、それとは別に本当に訪れたかった場所に行けるという喜びがあるんだ。最高にファイターを尊敬してくれるところで戦うことができる。今回の試合だけでなく、観光客として日本に行く日が来ることを願っているよ(笑)」

――ではこの話が決定した時、ショーティーは本当に嬉しかったのでしょうね。

「もう言葉に言い表すことはできないよ。かつての練習仲間だったキョージ・ホリグチがチャンピオンのフライ級まで、すぐに体重を落とすことはできなかった。でもキャッチウェイトでマコト・シンリュウと戦うという話に、即イエスと答えたよ。ホントはキャッチウェイトでない正規の階級で戦いたいけど、今は自分のオリジナルウェイトに落とす過程にあるから、今回は59キロで戦うことにしたんだ。

怖いモノ知らずの若くて、強いファイターと戦う。彼はフライングニーやフライングハイキックをリングで使っているよね。最高にエキサイティングなファイターだ。ただ、僕の武器はシンリュウにとって最悪だ。この試合で、僕の名前を日本のファンの心にしっかりと刻むことできるに違いない。心の底からワクワクしている」

――ショーティーは自分にとって、MMAの打撃戦がボクシングの距離で続くことを初めて見せてくれたファイターです。ただ、それゆえにダメージの蓄積もあったかと思います。そして、最近ではバンタム級でレスリング重視の試合をしてきました。日本のファンはグラップリングを熟知していますが、どのような試合をしたいと考えていますか。

(C)BRAVE CF

「まず、RIZINでは僕にとって未体験の技が許されている。

グラウンドでヒザやキックを使うことができる。それに日本のファンが柔道やレスリングが分かっているといっても、RIZINという場所で見たいのはファイトだ。それに現実的なことをいえばレスリングは嫌いだ。ボクシングが好きなんだ」

レスリングで勝負してくるなら、柔道で迎え撃つ

――アハハハハ。言い切りましたね。

「前に出て殴る。若い頃のマニー・パッキャオのように、スピードに乗って飛び込むようにパンチを繰り出したい。戦いたいんだ。ただ、ここ2年間で3度戦ったンコシ・ンデベレは、背の高いパワーあふれるファイターだった。あの相手に勝つには、テイクダウンを選択するしかない。

ンコシと僕の試合はイスラエル・アデサニャとケルヴィン・ガステラムのマッチアップと同じだよ。ボクシング、テイクダウンと必死に懐に入っていった。ジョン・ジョーンズと戦った時のダニエル・コーミエーのようにね。五輪レスラーのDCが、テイクダウンを狙って苦労し続けた。もう、これはサイズとレンジの問題なんだ。

でも、ついに自分のサイズの相手と戦うことができる。懐に跳びこんで、顔面を殴ることができるんだ。もちろん彼だって僕を殴ることができる。そういう戦いのなかで、スタンドでもグラウンドでも僕には仕留める力があることを見せたい。

シンリュウがテイクダウンを仕掛け、レッスルしたいことは分かっている。試合がグラウンドになっても、構わない。立ちレスになっても、内股や払い腰で投げることが可能だ。ただ日本のファンに最高にエキサイティングな試合を見せたいから、僕のゴールはKOすることになる」

――神龍選手は拳の届く距離に立ち続けることはないかと予想されます。

「僕のボクシングは徹底的にプレッシャーを与えるなかで、カウンターを決めること。マコトの打撃は、カラテやテコンドーのように遠い距離から出入りを多用する。その先にあるのはテイクダウンをすること。でも、僕はカウンターファイターだ。掴んできても、さっきも言ったように投げることができる。それがショーティー・エアラインだ。無料でマイル・ポイントを獲得できるんだ。僕が宙を舞わすから」

――ショーティー航空で、投げを食らうといことですね(笑)。

「そう。でも、決して自分が思うような飛行はできないからね。マコトがレスリングで勝負してくるなら、柔道で迎え撃つ。打撃の間合いなら、殴って来ればよい。その時点でカウンターを打ち込む。彼はまだ若い。そういう経験をしたことがない。それでもマコトのように前に出てくる相手と戦うことは、楽しみでならないよ。それにレスリングと柔術にしても、僕は彼より優れている。テイクダウンをしたいなら、してくれば良い。

僕の爆発力を試合開始直後から、ぶつけるよ。その仕掛けに5分間耐えることができれば、彼は徹底して2Rと3Rを組み続けてくるようになるだろう。でも僕は皆に楽しんでもらいたい。例え、そういう風に攻めてきても僕のペースにマコトはついてくることができるかな?

特にラウンド毎の裁定でなく、試合を通じてダメージを与えた方が勝てる判定基準は、絶対的に僕に有利に働く。本当にシンリュウにとって、しんどい試合になるはずだよ。初回を戦い切ることができたとしても、ね」

――リングで戦うことに対して、免疫はありますか。

「リング、90度のコーナーがあることは僕のようなプレッシャーファイターにとってアドバンテージでしかない。オクタゴンやサークルは、足を使われると先回りすることが難しい。でもコーナーがあれば、サイドステップで先回りして簡単に追い込むことができる。

それに散打の経験が絶対的に生きてくる。散打はリングが舞台だった。ボクシングとレスリングをミックスして、リングで戦っている。リングで戦うことで、何かマイナスがあるとすればケージを背負って仕掛けるサブミッション、ギロチンが極めづらくなることだろう」

――柔道に散打ですか……ショーティーのことを単なる北米スタイルのMMAファイターとは思わない方が良いですね。

「これは僕も分かっていなかったんだけど、ダゲスタンで練習したときに僕のレスリングや柔術は凄くサンボ的だったことを知った。トップから攻めるのが好きで、柔術プレーはしたくない。リバーサルは立ち技に戻るための手段で。それに散打の投げも大好きだけど、僕が本当に得意にしていて皆に見て欲しい攻撃はボクシング。そして組まれたときの柔道とムエタイ・クリンチだ。

首相撲からヒザやヒジを叩きこむこと。ボクシング、柔道、ムエタイを見て欲しい。それを同じサイズのファイターにぶつけることができる。いやぁ、本当に楽しみで仕方ないよ(笑)。上のクラスから、フライ級に戻ることもね」

フライ級で再び戦う。この階級でトップになるために

――さきほどのフライ級でという言葉が聞かれ、実は鳥肌が立っていました。

「アハハハハ。僕はフライ級で戦う。UFCフライ級トップファイターのアミール・アルバジに僕は勝っている。UFCで戦っていた頃、いやそれ以前もだ。僕は世界で有数のファイターたちとトレーニングをしていた。ブランドン・モレノ、アレッシャンドリ・パントージャ、キョージ、多くのフライ級トップファイターとね。もちろん練習は練習だ。

でも、本当に良い日々だった。そしてフライ級で彼らとやり合える自信がある。君がさっき言ったように、僕はダメージが蓄積していた。だから少し体を休めためにクリスマスを楽しんだり、サンクスギビングデーに好きなだけ食べるという生活を数年してきた。そしてフライ級で再び戦う。この階級でトップになるために」

――いやぁ、本当にRIZINフライ級が楽しみになってきます。ショーティーがロースターに加わればRIZINフライ級は、UFCフライ級に続き世界から選手があつまるタフな階級になりますね。

「日本という北米マーケットとは異質のグループが、力をつけることは本当に楽しみだ。カイ・アサクラはUFCで、他のプロモーションからやってきいきなり世界戦を戦えることを証明した。キョージ・ホリグチはRIZINとBellatorの二冠王、カイ・アサクラはRIZINで2度ベルトを巻いた男。マネル・ケイプ、イリー・プロハースカというRIZIN出身のファイター達はUFCファイター達を相手に、その強さを見せてきた。

今回の試合に勝って、フライ級GPのメンバーに入りたい。素晴らしい経験になるだろうから。そしてキョージに挑戦したいんだ。それは彼がチャンピオンというだけでなく、如何に強い人間か知っているからで。大晦日、キョージは問題なくズールーに勝つ。間違いないよ」

――フライ級GPの正式発表の日を指折り数えて待ちたいと思います。ところでショーティーは今、メキシコシティにいるそうですね(※取材は22日に行われた)。どのジムで試合の準備をしてきたのでしょうか。

「それがクレイジーなことに、ここにジムはないんだ。僕がコーナーに就く一人ロナルド・ロドリゲス(17勝2敗、UFCフライ級ファイター)がメキシコシティに住んでいて、マイク・ミゲール・ゴンザレスの指導を受けている。彼が『ジムはないけど、色々なところを回ってファイトキャンプをしないか』って誘ってきたんだ。今回は5、6人のチームで色々なジムを回って練習してきた。なかでもUFC PIメキシコシティは数多く使ってきた。

いずれこのメンバーで、ジムを持ちたいと思っている。それだけ最高のメンバーが揃っているんだ。でも日本とメキシコは凄く似ていると思うよ。日本人、ハワイアン、メキシカンは共通点がある」

――えぇ? ハワイの人は日本の血が流れていることも多いのですが、メキシコ人と日本人が似ている?

「自分より強い相手にも、一歩も引かない。スピードがあってパワフルだ。ハワイアンは、めちゃくちゃテクニカルでタフ。メキシカン・ファイターとの戦いでは、こっちが倒さない限り倒される。とにかく彼らは前に出てファイトを続けるから。最高のテクニシャンじゃない。でも諦めることなく戦い続ける。日本とメキシコは、ボクシングも優秀だし。メキシコではボクサーからMMAに転じるファイターが多くなっている。もちろん柔術やレスリングというように身に着けないといけないことは残っている。でも最高のボクサーが投げを習い、レスリングの指導を受けている。

僕自身、ここではレスリングの指導を徹底してやっている。それぞれ別の特色があるファイターだけど、揃ってずば抜けてタフで才能にあふれている」

――メキシコで準備をしてきた神龍誠戦、日本でどのような試合を見せたいと思っていますか。

「小さな紫色のヘアーカラーをした男が、デッカイことをやってのけるところを見て欲しい。フライ級に戻れば、僕がどれだけのファイターなのか。そう期待してもらえるよう戦う。長い間、1人で戦ってきたけど、今は最高のチームに支えてもらっている。日本で絶対に勝ちたい、メキシコ代表としてね。そしてBRAVE CFの了解を得て、フライ級GPで戦いたい」

■RIZIN DECADE 視聴方法(予定)
12月31日(火)
午後1時00分~ ABEMA、U-NEXT、RIZIN LIVE、RIZIN100CLUB、スカパー!

■RIZIN DECADE / RIZIN49 対戦カード

<RIZINフェザー級選手権試合/5分3R>
[王者] 鈴木千裕(日本)
[挑戦者] クレベル・コイケ(ブラジル)

<RIZINフライ級選手権試合/5分3R>
[王者] 堀口恭司(日本)
[挑戦者] エンカジムーロ・ズールー(南アフリカ)

<RIZINライト級選手権試合/5分3R>
[王者] ホベルト・サトシ・ソウザ(ブラジル)
[挑戦者] ヴガール・ケラモフ(アゼルバイジャン)

<女子スーパーアトム級/5分3R>
伊澤星花(日本)
ルシア・アプデリガルリム(アルゼンチン)

<バンタム級次期挑戦者決定戦/5分3R>
元谷友貴(日本)
秋元強真(日本)

<フェザー級/5分3R>
久保優太(日本)
ラジャブアリ・シェイドゥラエフ(キルギス)

<フェザー級/5分3R>
YA-MAN(日本)
カルシャガ・ダウトベック(カザフスタン)

<バンタム級/5分3R>
福田龍彌(日本)
芦澤竜誠(日本)

<ヘビー級/5分3R>
上田幹雄(日本)
キム・テイン(韓国)

<59キロ契約/5分3R>
神龍誠(日本)
ホセ・トーレス(米国)

<ライト級/5分3R>
矢地祐介(日本)
桜庭大世(日本)

<フェザー級/5分3R>
武田光司(日本)
新居すぐる(日本)

<ヘビー級/5分3R>
貴賢神(日本)
エドポロキング(日本)

<バンタム級/5分3R>
大雅(日本)
梅野源治(日本)

<RIZIN甲子園決勝戦/5分2R>
横内三旺(日本)
斉藤健心(日本)

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45 MMA MMAPLANET o UFC UFC308 YouTube   イクラム・アリスケロフ イスラエル・アデサニャ カマル・ウスマン カムザット・チマエフ ケヴィン・ホランド ジルベウト・ドゥリーニョ ジルベウト・ドゥリーニョ・バーンズ ドリキュス・デュプレッシー ニック・ディアス パウロ・コスタ マックス・ホロウェイ ヨエル・ロメロ リー・ジンリャン レオン・エドワーズ ロバート・ウィティカー

【UFC308】展望  このスポーツの模範ロバート・ウィティカー×危険かつ情緒不安定カムザット・チマエフ

【写真】心技体の合計点。高いのどっちだ (C)Zuffa/UFC

26日(土・現地時間)、アラブ首長国連邦アブダビのエティハド・アリーナにてUFC 308「Topuria vs. Holloway 」が行われる。新王者イリア・トプリアにBMF王者マックス・ホロウェイが挑戦するフェザー級タイトルマッチをメインとするこの大会のコメインは、元世界王者のロバート・ウィティカーとプロ無敗のカムザット・チマエフが激突する大注目のミドル級トップコンテンダーマッチだ。
Text by Isamu Horiuchi

ウィティカーは2017年の7月、ヨエル・ロメロとの5Rの激闘を制してミドル級暫定王者に就くと、同年末には当時の正規王者ジョルジュ・サンピエールのタイトル返上&引退を受けて正規王者に認定された。2019年10月にイスラエル・アデサニャに敗れて王座を失ったが、その後も常にミドル級トップ戦線で戦い続けている。

昨年7月には現王者のドリキュス・デュプレッシーに2RTKO負けを喫したものの、今年に入って2月にパウロ・コスタに判定3-0で快勝し、さらに6月にはUFC無敗のイクラム・アリスケロフと対戦。1R早々に必殺の飛び込んでの右ストレートを当てると、さらに右ハイ、そして右アッパーをスマッシュヒットして圧巻のKO勝利を飾っている。


対するチマエフはこれまでプロ13戦全勝。昨年10月には元ウェルター級王者のカマル・ウスマンに判定3-0で快勝し、UFC7連勝を飾った。ウィティカーとの試合は今年の6月に予定されていたが、チマエフの体調悪化により中止となり、上述のようにウィティカーは代役のアリスケロフに鮮烈な1RKO勝利。4ヶ月後の今回、両者の試合が改めて組まれた。

UFC王者✖BMF王者という豪華メインイベントに劣らぬ注目を集めているこの一戦。その理由は何よりもまず、チマエフが途轍もなく高い戦闘能力と心身の不安定さを併せ持つ、色々な意味で目の離せない存在であることだ。そしてウィティカーこそチマエフのキャリア上最強の相手であり、今回ついにその「底」が露呈する可能性が少なくないことだ。

2020年7月、チマエフは(コロナ禍による米国入国規制に対応して開催された)アブダビのファイトアイランドことヤス島大会に登場し、ジョン・フィリップスとのミドル級戦において2Rダースチョークで圧勝して鮮烈なUFCデビューを飾った。

その10日後には同会場に行われた大会にも欠場選手の代打としてウェルター級戦=リース・マッキー戦に登場。1RパウンドによるTKOで相手を葬り去り、10日で2勝という(ワンデートーナメント廃止以降の)現代UFCにおける最短記録を──しかも2階級をまたいで──樹立してのけた。

さらにその2ヶ月後には再びミドル級戦に登場し、今度はわずか17秒でジェラルド・マーシャートからKO勝ちを収め、66日で3連勝という新たな現代UFC記録をも達成した。

結果以上に圧巻だったのがこの3戦の内容だ。最初の2戦は試合開始と同時に距離を詰めてテイクダウン。そのまま相手を逃さず強烈なパウンドや肘で削り、一方的に攻撃してフィニッシュした。3戦目も試合開始直後から前に出て、テイクダウンを警戒する相手を右ショート一発で昏倒させた。

問答無用のテイクダウン力と相手に何もさせない圧倒的コントロール力、さらに精度と破壊力を併せ持つ打撃まで備えた男が、試合開始と同時に様子見を一切せず相手に迫り、一片の躊躇もなくフルスロットルで攻撃し続け、最短距離で粉砕する──見る者全てを戦慄させる戦いを披露したチマエフは、当然のようにデビュー3連続でパフォーマンス・オブ・ザ・ナイト・ボーナスを受賞した。

その言動も超攻撃的な戦い方に相応しく、二戦目の勝利後には「俺は全ての相手を破壊する!」と絶叫し、三戦目の前には「お前の顔面を粉砕してやる」と相手を挑発すると、17秒でその通りに実行。こうしてチマエフは、UFCデビューから僅か2カ月にて世界で最も熱い注目を浴びる若手MMAファイターの座に駆け上がったのだった。

3カ月後の12月には早くもウェルター級トップランカーのレオン・エドワーズとの対戦が組まれたが、両者とも新型コロナウィルスに感染して試合は延期に。その後この試合は二度リスケジュールされたものの、チマエフの回復が遅れて実現せず。21年3月にチマエフは肺の合併症を理由にSNSで「もう終わりだと思う。みんながっかりすると思うけど、僕の心と体が僕に全てを語っている」と引退の意志を表明し、洗面台に吐いた血を写したショッキングな写真を投稿した。

が、チマエフを治療のためにベガスに呼んだデイナ・ホワイトUFC代表は、これは一時的な気持ちの揺れによるものと説明して引退を否定。実際やがて症状が改善したチマエフは、2021年10月にリー・ジンリャンと対戦した。以前同様、開始同時に距離を詰めて組みついてチマエフは、ジンリャンをリフトしたままケージの中を歩きながらケージサイドのホワイト代表に向かって「俺が王者だ! 全員殺してやる!」と叫んでからテイクダウン。そのまま強烈なパウンドとチョークを織り交ぜて一方的に攻撃し、3分過ぎにジンリャンを絞め落として破天荒極まりない復活を遂げた。

が、その後チマエフは2022年9月に大会目玉カードのニック・ディアス戦を体重超過で飛ばしてしまう。そこで急遽組まれたケヴィン・ホランド戦に圧勝すると、試合後のインタビューでは謝罪するどころか「ウェイトオーバーなんてどうでもいい! 俺は落とせたのに医者に止められたんだ!」と前代未聞の開き直りを見せた。

次戦の昨年10月の元ウェルター級王者のカマル・ウスマン戦は快勝。が、今年6月に予定されていたウィテカー戦は、キャンプ途中で原因不明の体調不良に襲われて回復せず、キャンセルを余儀なくされた。

比類なき戦闘能力とアグレッシブネス、その激しさを反映するが如き精神面健康面の脆さも併せ持ったチマエフは、「次にいつ試合するのか」、「どんな戦いを見せるのか」、「そもそも本当に試合をするのか」とさまざまな形でファンの興味を掻き立て続ける存在だ。

ちなみに近年チマエフは、米国入国に必要なビザが降りないとのことで、昨年のウスマン戦はアブダビ大会、6月に予定されていたウィティカー戦はサウジアラビアのリヤド大会、今回改めて組まれたウィティカー戦は再びアブダビでの試合となる。ビザが降りない理由は、(18歳でスウェーデンに移住した)チマエフの生まれ故郷であるチェチェン共和国の首長ラムザン・カディロフ──米国当局からは人権侵害に関与したとして入国禁止の制裁対象とされている──とチマエフがごく親しい間柄であるためだと報道されている。

実際カディロフの二人の息子にMMAを指導し、長男のデビュー戦ではセコンドに付いたチマエフは、現在も頻繁にSNSでカディロフと親しくしている写真を投稿している。当然ファンからは批判の声も挙がっているが、本人は気にかける様子もなく、冗談めかして「(ホワイト代表と親しい)ドナルド・トランプが大統領になってくれない限り、僕は米国に入国できずにUFCタイトルに挑戦できないかもしれない。でも気にしないさ。僕はどこでも戦うし、ベルトなき王者というだけだ」と語る。このような政治的事情も、チマエフの激しくも儚く、そして危なっかしいイメージを増幅させている。

そんなチマエフの前に今回立ちはだかるウィティカーは、全く対照的なイメージを纏っている。常に若者のロールモデル(模範)であることを心がけ地域貢献活動にも精を出し、対戦相手へのトラッシュトークなどは一切行なわず、誰からも好かれ尊敬される存在だ。チマエフも以前ウィティカー戦との対戦可能性について聞かれた際に「できれば別の選手とやりたいよ。ロバートは良い人間で尊敬している。もっと憎むことのできる相手と対戦して殴りたい。彼とはむしろ一緒に練習したい」と語っており、両者の間には遺恨らしきものは存在しない。

下馬評では無敗のチマエフ(ミドル級ランキングは13位)が現在ランキング3位のウィティカーより有利と出ているが、チマエフ危うしとの声も小さくない。

最大の疑問は、チマエフの一番の強みであるテイクダウン&コントロールが、ウィティカー相手にどこまで通用するかだ。ウィティカーは、これまでウェルターとミドルを行き来してきたチマエフがはじめて戦う真のミドル級の体格のトップランカーだ。2014年から10年間ミドル級で戦い続けており、ヨエル・ロメロをはじめとする何人もの強力なレスラーのテイクダウンを凌いで勝利した実績がある。

レスリングの練習に余念のないウィティカーは「私はなかなかテイクダウンされないし、抑え付けるのも困難だよ」と自信を覗かせている。試合開始と同時に暴風雨のような攻撃を繰り出すチマエフは、これまで全ての相手から1R早々にテイクダウンを奪っている。が、仮に今回同じことをできたとしても、これまでのどの対戦相手よりも高い身体の出力を持つウィティカーをコントロールし続け、フィニッシュあるいは大ダメージを与えることができるのか。チマエフの攻撃力が最大値にある1Rの攻防こそ、一番の見どころだ。

もしウィティカーがチマエフの序盤の猛攻を凌いだ場合、ウィティカー有利説のもう一つの根拠=この試合が5R制だということが大きな意味を持ってくる。ウィティカーが何人ものミドル級トップ勢と5Rフルに戦い、制しているのに対して、チマエフはジルベウト・ドゥリーニョ・バーンズ戦とウスマン戦で3R判定の試合を二度経験しているのみ。この二戦ともに2R以降はノンストップラッシュを控えてペースを抑え、反撃をもらう場面もあった。試合が4、5Rに突入してもスタミナが残せるのか、フタを開けてみなければ分からない。

また、長期戦になればなるほどチマエフが距離を詰めてテイクダウンを取るのは困難となり、必然的にウィティカーが望むスタンドの攻防が多くなるだろう。そこでは近距離を得意とするチマエフの拳より、蹴りを多用して距離を保つウィティカーが、遠い間合いから一気にブリッツして(=飛び込んで)放つ必殺の右が炸裂する可能性が高い。チマエフも「もしロブがテイクダウンだけを警戒するのなら、僕のライトハンドでKOされる可能性もあるよ」と打撃戦にも自信を覗かせているが、どう出るか。

チマエフは前回の体調悪化を踏まえ、今回ロシアのコーカサス山中にある五輪選手用の訓練施設オゾン・ヴィレッジでキャンプを張った。世界レベルのレスラーやコーチ陣と練習を重ね、万全の調整ができた模様だ。試合前記者会見では、五分刈りではなく自然な短髪&眼鏡を着用して登場。今までのヤンチャなイメージから一変して、物静かにしてきわめて温厚な調子で受け答えをしたこと自体が反響を呼んでいる。

長年ミドル級世界トップに君臨する超実力者ウィティカーとの対戦で、底知れぬ強さを見せてきたチマエフの底が割れる日がついに来るのか、それとも予測不可能にして危険極まりない男チマエフがまたしても世界を震撼させるのか。興味は尽きない。

■視聴方法(予定)
10月26日(日・日本時間)
午後11時00分~UFC FIGHT PASS
10月27日 午前3時~PPV
午後10時 30分~U-NEXT

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45 AB LFA MMA MMAPLANET o UFC UFC ESPN62 UFC305   アンジェラ・ヒル イスラエル・アデサニャ エドマン・シャバジアン カイオ・ボハーリョ ジャレッド・キャノニア ジャレッド・キャノニアー ジョシアニ・ヌネス スラヴァ・ボルシェフ タバタ・ヒッチ デニス・ブズーキア ドリキュス・デュプレッシー ニール・マグニー ハメ・ジョントップ ホセ・メディーナ マイケル・モラレス マイロン・サントス 食事

【UFC ESPN62】キャノニアーと対戦、カイオ・ボハーリョ「過度な減量はしない。明日は水を11L飲む」

【写真】眼鏡からサングラスに変えて、計量をパス (C)Zuffa/UFC

24日(土・現地時間)、ネバダ州ラスベガスのUFC APEXでUFC on ESPN62「Cannonier vs Borrlho」が開催される。
Text by Manabu Takashima

イベント・タイトルにあるようにメインはジャレッド・キャノニアー×カイオ・ボハーリョというライトヘビー級戦が組まれている。通算戦績16勝1敗、2021年にコンテンダーシリーズからUFCに昇格したボハーリョは、オクタゴンでも8連勝中だ。そのボハーリョ、実はLFAブラジル大会でコメンテーターを務めており、英語で同朋のファイターたちの試合の模様を解説している。眼鏡姿がトレードマーク、インテリジェンスさもセールスポイントといえるボハーリョに、コメンテイターとMMAファイターの兼業の利点を尋ねた。


──週末にジャレッド・キャノニアーとメインで対戦します。今の調子はいかがですか。

「過去最強のコンディションだよ。ファイトウィークは、常にそうなんだ。ハードな練習をしても、リカバリーに細心の注意を払っている。減量のことも常に頭にいれていて、極端な体重の落とし方はしない。そのために食事も摂っているし、水を大量に飲んで体重を調整しているんだ」

──ウォーターローディングを気に掛けているということですね。

「そうだね、凄く多くの水を飲んでいるよ。今日も6リットルほどの水運補給を行ってきた」

──6リットル!!

「イエース。明日は5リットル増やして、11リットルだ。そして明後日には、水分をカットする」

──何とも壮絶に感じるのですが……。それがカイオにとっては厳しいことにならないのですね。ところでカイオはLFAブラジル大会のUFC Fight Pass中継で英語を駆使してコメンテーターをしていますね。ネイティブ・イングリッシュ・スピーカーでないのに、凄く度胸があるなと最初に視た時は驚きました。

「確かに簡単じゃなかったよ。最初の時は怖かった。でも、与えられた役割をしっかりとこなすことを考えて頑張った。6度、7度と続けていると、自信もついた。それに引退後のことを考えても、いや現役中でもそうだ。ファイター以外の仕事に就くのは良い経験になるからね。

実際にファイターとしてオクタゴンを眺めるのとコメンテーターとして、あの場にいるのとではまるで違う。他の選手の試合をしっかりと見ることになって、ファイターとして視野が広がった。コメンテーターの仕事は、色々なことを習うことができて、選手としても役立つことばかりだ」

──コメンテーターは、ファイトを楽しんでもらうために試合について語る必要があります。解説者目線で、UFC305のメインで行われたUFC世界ミドル級選手権試合=ドリキュス・デュプレッシー×イスラエル・アデサニャを振り返ってもらえないでしょうか。

「ハハハハ。良い試合だったよ。両者、自分の戦いをしようと凌ぎ合っていた。アデサニャは下がりながら、距離をマネージメントしてカウンターを狙っていた。この距離感は良かった。ただ、デュプレッシーにはそういう計算高いファイトも関係ない。

そして、奇妙な技術を持つ。その奇妙な技術が、有効なんだ。自分の世界を創り、世界のベストと戦ってしまう。それで彼は勝った。それでも、全ての対戦相手を倒してきたアデサニャが偉大なファイターであることは変わりない。誰も彼のような成績をミドル級で挙げることはできないだろう」

──ではトップを倒すことが使命といえるミドル級コンテンダーの目線で、あの試合を印象を話してもらえますか。

「アデサニャは、疲れていた。体を大きくして、体重を重くし過ぎたようだ。とはいってもデュプレッシーのゲームは、穴だらけあんだ。闇雲に前に出て、パンチを当てることしかできない。しかも殴ろうとしたときに、相手の攻撃を受ける隙ができる。それだけ対戦相手はアドバンテージを握ることになる。

それでもテイクダウンからバックを奪うのは、効果的だ。グラップリングで、相手を削って行く。そういう局面になると、力強い攻撃ができる。それでもスタンドに戻ると、攻撃の精度が落ちているので、スタンドで倒すことは可能だ。そう感じた。

デュプレッシーが優れたアスリートであることは間違いない。なんせ、UFCで負け知らずだ。良い試合をしてきた。そうだね……あの世界戦はファンにとってはエキサイティングで、グッドファイトだったに違いない。ただし、技術的にはベストファイトではなかった。あの世界戦を見て、僕の技術力は全局面において世界のベストの1人だと自信を持っている。僕は彼らよりレスリングができ、打撃もグラップリングも併せ持つウェルラウンダーだ。全ての要素を融合させることで、相手にとっては予測困難な戦いが可能になる。ハードトレーニングを続けることで、誰と戦ってもアドバンテージを持って試合に臨むことができるんだ」

──その言葉をキャノニアー戦で立証できるのか。期待して見させてもらいます。

「キャノニアーはタフな相手だよ。経験豊かで、彼のやりたい試合をされると厄介だ。既に5R戦も経験しているし、僕の実力がこのスポーツの頂点にあることを証明するのにベストな相手といえる。

間違ってもイージーファイトになるなんて、口にすることはできない。でも、彼を疲れさせてからパンチを顔面に集中させる。ダウンを奪うと、サブミットだ。キャノニアーは過去に一本負けしたことがないけど、柔術、グラップリングと引き出しが多い僕には、それを可能にするだけのスキルが身についている。

勝負の鍵は、どれだけプッシュして戦えるかだ。キャノニアーはもう40歳、ラウンドの中盤にはペースが落ちる。対して、僕は31歳になったばかりでハイペースで戦い続けることは何も問題にならない。彼には居心地が悪い時間を創り、疲れさせる。そうすると、もう僕のファイトになる」

──ファンが見る上で、注目してほしいところは?

「接近戦で戦うことだ。彼と戦う相手は、そのパワーを警戒して距離を取りたがる。でも僕は、そういう危険なゾーンで戦うことを問題視しない。目の前に立ち、思い切り顔面にパンチをくれてやる。そしてキャノニアーに勝って、その次の試合も勝ってトップ5入りを傍すよ」

■視聴方法(予定)
8月25日(日・日本時間)
午前8時00分~UFC FIGHT PASS
午前7時15分~U-NEXT

■ UFC ESPN62対戦カード

<ライトヘビー級/5分5R>
ジャレッド・キャノニアー(米国)
カイオ・ボハーリョ(ブラジル)

<女子ストロー級/5分3R>
アンジェラ・ヒル(米国)
タバタ・ヒッチ(ブラジル)

<TUF32ミドル級決勝/5分3R>
ライアン・ロダー(米国)
ロバート・ヴァレンティン(スイス)

<TUF32フェザー級決勝/5分3R>
カーン・オフィリ(豪州)
マイロン・サントス(ブラジル)

<ウェルター級/5分3R
マイケル・モラレス(エクアドル)
ニール・マグニー(米国)

<ミドル級/5分3R>
エドマン・シャバジアン(米国)
ジェラルド・マーシャート(米国)

<ライト級/5分3R>
デニス・ブズーキア(米国)
フランシス・マーシャル(米国)

<ミドル級/5分3R>
ホセ・メディーナ(ボリビア)
ザック・リース(米国)

<ライト級/5分3R>
スラヴァ・ボルシェフ(ロシア)
ハメ・ジョントップ(ペルー)

<女子バンタム級/5分3R>
ジョシアニ・ヌネス(ブラジル)
タジャケリニ・カバウカンチ(ポルトガル)

<フェザー級/5分3R>
ジギマンタス・ラマスカ(リトアニア)
ネイサン・フレッチャー(英国)

<女子フライ級/5分3R>
ワン・ソン(中国)
ヴィクトリア・レオナード(米国)

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45 MMA Preview UFC UFC305 イスラエル・アデサニャ ドリキュス・デュプレッシー ブログ

【UFC305】展望  禁断の人種問題に発展?! 世界ミドル級選手権試合=デュプレッシー×アデサニャ

【写真】どういうつもりで両者が人種問題に発展しそうな発言をしたのかは不明だが、こういう問題は当事者と同じ国籍&人種の間で論議が交わされれば良いかと(C)Zuffa/UFC

18日(日・現地時間)、豪州のパースにあるRACアリーナにて、UFC305「Du Plessis vs Adesanya」が行われる。カイ・カラフランス×スティーブ・アーセグという注目のフライ級上位ランカー対戦コメインとするこの大会のメインは、初防衛を目指す新王者のドリキュス・デュプレッシーに、3度目の戴冠を狙うイスラエル・アデサニャが挑むミドル級タイトルマッチだ。
Text by Isamu Horiuchi

デュプレッシーは、アフリカ最大のMMA団体EFCやポーランドのKSWでの戴冠を経て、2020年10月よりUFCに参戦した。ダレン・ティル、デレック・ブルンソン、ロバート・ウィテカーといった強豪たちを連覇し、オクタゴン5戦無敗の戦績をもって今年1月に王者ショーン・ストリックランドに挑戦。判定3-0で快勝し、南アフリカ共和国初のUFC王座に輝いた。

対するアデサニャは、この階級のレジェンドと言うべき存在。2022年12月、キックボクシング時代からの天敵アレックス・ポアタン・ペレイラに5R逆転KOで敗れてミドル級王座から陥落したものの、昨年4月にリベンジ戦を挑み、2Rに劇的なKO勝利を挙げて二度目の戴冠を果たした。

その半年後の10月、伏兵ストリックランドの右ストレートで1Rにまさかのダウンを奪われると、そのまま挽回できずに判定負け。UFC史上に残る大アップセットをもって再び王座を失ったのだった。以来、今回は約1年ぶりの復帰戦だ。


打撃とテイクダウンの両方を使いこなす総合格闘家が、いかにプレッシャーをかけてストライカーの間合いを潰してゆくか

UFC無敗にして飛ぶ鳥を落とす勢いの新王者と、休養を経て三度目の戴冠を目指す元絶対王者によるファン垂涎のこの頂上決戦。下馬評はアデサニャ有利と出ているが、その差はごく僅かだ。それどころか、両者の直近の戦いぶりから判断するならばデュプレッシー有利という見方も十分成立する。

前戦においてアデサニャは、多少の被弾を気にせず前に出てくるストリックランドの戦法に大苦戦。常に下がりながらの戦いを強いられた上で、距離を詰められ打撃の間合いを潰されてまさかの敗戦を喫した。一方、その三ヶ月後にそのストリックランドと戦ったデュプレッシーは、前戦同様に前に出るストリックランドにスタンドで全く圧力負けすることがなかった。むしろ要所でテイクダウンも交えて優位に試合を進めたデュプレッシーは、打撃でもストリックランドを下がらせる場面まで作って完勝を収めたのだった。

つまり、卓越した精度を誇るストライカー・アデサニャ攻略においてもっとも有効と思われる戦い方=距離を詰めて打撃の間合いを潰すことを見事にやってのけたストリックランドを、まさにその戦い方で打ち破ったのがデュプレッシーというわけだ。

圧倒的な身体の力と底知れぬスタミナ、要所で絶対に退かない心の強さ、不恰好ながらも多彩にして強力な打撃、そしてレスリング&柔道の経験を活かした高いテイクダウン力とスクランブル力を持ち合わせた新王者は、アデサニャが一番やられたくない戦い方において誰よりも優れているのだ。

そしてこの戦い方は、先月のUFC304にて絶対不利と思われた挑戦者ベラル・モハメッドが、ウェルター級王者レオン・エドワーズの打撃の間合いを潰し続けて世界を驚かせたのと同種のものでもある。その半日後に我が国で行われた超RIZIN3において、久保優太相手に敗戦を喫した斎藤裕が実践することができなかった戦い方とも言える。

打撃とテイクダウンの両方を使いこなす総合格闘家が、いかにプレッシャーをかけてストライカーの間合いを潰してゆくか。逆にストライカー側は、フットワークや打撃をいかに駆使して相手の圧力を無効化するのか。現代MMAの攻防における最も重要な鍵の一つであるこの凌ぎ合いが、世界のどこよりも高いレベルで堪能できるのが、デュプレッシー×アデサニャ戦といえよう。

アデサニャにとってはこれが、格闘技キャリア最長の一年近くの休養を経ての復帰戦となる。「敗戦後に現実を受け入れ、自分を見つめ直し、生活の仕方から練習まで全てを変えた。生まれて初めてアスリートとしてトレーニングをしたよ」と語るレジェンドが、相性的にも最大の難敵と思われる新王者の驚異の圧力にどう対処してゆくのか、興味は尽きない。

この試合で証明されるのは「どちらが真のアフリカ人か」ではなく「どちらが真の世界最強のミドル級MMAファイターか」だ。

さて、かくも意義深く興味深いこの頂上決戦には、21世紀のグローバルスポーツMMAならではの因縁もつけ加わっている。

それが表面化したのは、昨年7月、デュプレッシーが元王者のウィテカーを2RTKOで仕留めてナンバーワンコンテンダーの座を勝ち取った時のことだ。勝利者インタビューを受けるデュプレッシーと対面した当時の王者アデサニャは、最初は静かな口調で「まあ落ち着こうか。ここにいるのは俺のアフリカン・ブラザーだ」と言った後、突然テンションを全開にし

「やるぞnigxxr!どうしたbxxch! そうだnigxxr! どうすんだnigxxr! 」と、(白人のデュプレッシーに対して)黒人に対する最大の侮辱表現を繰り返しまくし立て出したのだ。

デュプレッシーが「俺はアフリカ人だけど、あんたのブラザーじゃないな! あんたは(現在在住の)ニュージーランドのみんなにはなんて言うつもりなんだい?」と返すも、聞く耳を持たない様子のアデサニャは「俺はDNA検査を受けるまでもなく、自分の出自を知ってるぜ! 受ければ俺はナイジェリア出身だと出るんだ。お前も受けてみろや! お前の出自が分かるだろうよ! 俺がお前の出自を暴いてやるぜ!」と畳みかけ、その後もデュプレッシーの発言を遮っては喚き散らしたのだった。

当時の絶対王者によるこの過激すぎる挑発の背景にあるのは、デュプレッシーが常々口にしていた「自分が本物のアフリカ人(リアル・アフリカン)初のUFC王者に」という宣言だ。1RKOで見事なUFCデビューを果たした直後のインタビュー時にてすでにこの目標を口にしたデュプレッシーは、続けて「アフリカで生まれ、育ち、練習するというね」と説明を加えている。

実際、その前年にUFC王者に就いたアフリカ系のアデサニャとカマル・ウスマンの二人は、ともにナイジェリア出身だが現在は他国に在住している。2021年にUFCヘビー級王座に就いたカメルーン出身のフランシス・ガヌーも仏在住。確かにデュプレッシー以前、UFCには「アフリカ在住のアフリカ人王者」は存在していない。

デュプレッシーとしてはアフリカ大陸に拠点を置き、練習を行っていることに順天を置いた発言だったかもしれないが、迂闊だったと捉えることもできる。

10歳の頃に家族でニュージーランドに移住したアデサニャは、自身のアイデンティティの大きな部分をアフリカに見出しており、その胸にはアフリカ大陸をデザインしたタトゥーを抱いている。そんな自分(そしてウスマンとガヌー)のことを、あたかも「本物のアフリカ人」ではないと決めつけるかの如きデュプレッシーの言葉に、アデサニャが気分を害するのは無理もないことだろう。

先日もアデサニャはこの件について「奴の言葉は冒涜そのものだ。カマル、フランシス、俺の三人に対するな。自分の道を切り拓いた先人たちへの礼儀を知れ」と語っている。

さらに、自らを「リアル・アフリカン」と名乗るデュプレッシーが──南アフリカ共和国にてアパルトヘイト政策のもと長いこと黒人を虐げてきた──ヨーロッパ系白人の子孫であることも、アデサニャの暴言を助長したことは否めない。

デュプレッシーに彼が普段決して浴びることのないアフリカ系黒人への侮蔑表現をぶつけ、DNA検査を受けろと挑発したアデサニャの言葉の裏にあるのは「お前は本当に、俺たちを差し置いてリアル・アフリカンを名乗る資格があると思っているのか?」という問いかけだと考えていいだろう。

このようにこの試合の背景には、見方によってはセンシティブな人種とアイデンティティの問題が横たわっている。しかし、それはあくまで観客の興味を惹きつけるための「アングル」に過ぎない。他ならぬ対戦する両雄はともに、この試合の本質はオクタゴンの中のファイトにのみ存在すると語っている。

デュプレッシーはこの件に触れて「こっちは自分の目標を掲げただけ。向こうがどう受け取ろうがどうでもいい。個人的にアデサニャのことは好きではないけど、それも究極どうでもいいことだ。この試合で重要なのは、自分が世界最強であることを証明すること、それだけだ」と話している。

そして散々煽ってみせたアデサニャも、試合が近づくにつれて「別に奴に個人的な恨みなどないんだ。試合する、それが全てさ。3度目のタイトルを獲れたら確かにスペシャルだけど、自分のメインフォーカスはそこにはないよ。南アフリカが輩出した最高のファイター、ドリキュス・デュプレッシーの首を刈ることに意味がある。試合前の記者会見とかメディア対応とか、一応やるけど全て馬鹿げたことだと思っている。他人ではなく、ただ自分自身とチームのために戦うだけだ」と静かに語っている。

「史上初のアフリカ人同士のUFCタイトル戦」とも宣伝されるこの試合で証明されるのは、「どちらが真のアフリカ人か」ではなく「どちらが真の世界最強のミドル級MMAファイターか」だ。

■視聴方法(予定)
8月18日(日・日本時間)
午前7時30分~UFC FIGHT PASS
午前7時~U-NEXT

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45 MMA MMAPLANET o UFC UFC300   アルジャメイン・ステーリング アルマン・ツァルキャン アレックス・ポアタン アレックス・ポアタン・ペレイラ イェン・シャオナン イスラエル・アデサニャ イリー・プロハースカ カルヴィン・ケイター キック グローバー・テイシェイラ ケイラ・ハリソン シャーウス・オリヴェイラ ジェイリン・ターナー ジェシカ・アンドラーデ ジエゴ・ロピス ジム・ミラー ジャスティン・ゲイジー ジャマール・ヒル ジャン・ウェイリ ダナ・ホワイト デイヴィソン・フィゲイレド ヘナト・モイカノ ホーリー・ホルム ボクシング ボビー・グリーン ボー・ニコル マゴメド・アンカラエフ マックス・ホロウェイ マリナ・ホドリゲス ライカ

【UFC300】展望─01─ポアタン✖ヒル。記念大会のメインはKO必至。瞬き厳禁=近距離の打撃戦?!

【写真】KO必至。MMA的にはヒルという見方も成り立つが、近い距離のポアタンの振りにどう体が反応するか (C)MMAPLANET

13日(土・現地時間)、ネヴァダ州ラスベガスのTモバイル・アリーナで開催される。プレリミ含めて全試合がメインイベント級と呼べる豪華カードがズラリと揃ったこの記念大会のメインを飾るのは、二階級制覇を達成した王者アレックス・ポアタン・ペレイラに、前王者のジャマール・ヒルが挑むUFC世界ライトヘビー級選手権試合だ。
Text by Isamu Horiuchi

この試合は、約1年半続いてきたUFCライトヘビー級戦線の混迷状況に完全に終止符を打ち、ついに誰もが認める──”Undisputed”王者を決定する戦いといえる。


同級の混乱は2022年11月、当時の王者イリー・プロハースカが右肩の負傷によりタイトルを返上したことに端を発する。これを受けて翌月、2位のヤン・ブラボヴィッチと3位のマゴメド・アンカラエフの試合が急遽王座決定戦に格上げされて行われた。

しかしこの試合が、直後の会見でダナ・ホワイト代表が「酷い試合だった。ファッ○ンな3ラウンドが終わった後、私は卒倒しそうになったよ」と得意のFボムを投下し吐き捨てるような内容の末にドロー、王座は空位のままとされた。呆れた表情のホワイト代表はその場で、年明けの2023年1月リオ大会にて、元王者のグローバー・テイシェイラと当時6位のヒルの間で新たな王座決定戦を行うと発表したのだった。

(C)Zuffa/UFC

突然の大抜擢を受けて敵地に乗り込む形となったヒル。

地元の英雄に対して多彩な打撃でスタンド戦を支配。5Rにはテイシェイラ執念のテイクダウンからマウントを奪われたものの、股間を抜けてスクランブルして上を取り返し、文句なしの判定勝利を収めた。デビュー後14戦にして見事世界の頂点に立ち「俺のような境遇からここまで来られるなんて」とマットに突っ伏して感涙にむせんだヒル。

そこから顔を上げて「多くの人間が俺には無理だとぬかしやがった。チャンスは1Rしかなく、5Rは戦えないとかな。見たかこのクソ野郎ども!!」とアンチに大見栄を切ったが、思わぬ展開が重なった末の「棚ボタ的」戴冠という印象は拭えず、ヒルをまだ真の王者としては認め難いという声が消えることはなかった。

防衛を果たすことでそんな声を黙らさんと意気込んでいたヒルだが、半年後の7月に悲劇が襲う。なんとファイトウィークの催しで行われたファイターたちによるバスケットボールの試合にてアキレス腱断裂の大怪我を負ってしまい、タイトル返上を余儀なくされたのだ。

(C)Zuffa/UFC

そこで同年11月、この一年間で実に三度目の王座決定戦へ。

前王者プロハースカと二階級制覇を目指して階級を上げてきたアレックス・ポアタン・ペレイラ。1Rに強烈な右カーフでダメージを与えたポアタンは、2Rに強引に詰めてきたプロハースカに左右のフックをヒット。崩れたところに追い討ちをかけてTKO勝利。キックボクシングとMMAの両方で世界二階級制覇という大偉業を達成してみせた。

今回の記念大会ではその新王者ポアタンに、手術とリハビリを経て復活したヒルが挑む。正規王者と、敗れることなく王座を失った前王者による真の世界の頂点を決める戦いが、ついに実現するというわけだ。

ヒルにとってこの試合は、戴冠後も自分を認めようとしない世間に対して自分を証明する戦いでもある。対戦相手の悪口を言わないストイックな求道者ペレイラのことを「クールな男で、ああいうやつは好きだ」と認めているヒルだが、自分のことをビッグマウスと罵るペレイラファンたちのことは我慢がならない様子だ。

「俺はアレックスを立ち技でKOしてやる。そしてその事実を奴のファンどもの目の前に突きつけてやるぜ。アレックス本人に対してはやらないけどな。俺のことを侮辱しやがる奴ら、お前らより俺の方が遥かに優れた存在だ。俺は自分の本職で世界のトップに上り詰めたんだ。それと比べてお前らは何様だ? たかが百人くらいの規模の工場で月間優秀社員に選ばれたとか、そんな程度でお前らは自慢し、自分を特別だと思ってたりするんだろ? 

お前らなとど違い、俺は選ばれた1パーセントの中の1パーセントの中の1パーセントだぞ。そんな俺の達成や努力に唾を吐きかけクソぶっかけるような真似しやがって。その理屈で行けばお前らなど、人生において誇れることなど何一つありはしないということを理解するがいい。お前らがどう足掻こうが、俺はこの3年間で、ほとんどの人間が生涯で稼ぐ額より遥かに多くを手にしたんだ。そいつらの子供が稼ぐ金を含めてもな。俺はお前らの言葉をモチベーションにして、お前らが崇め奉るアレックスを眠らせてやるぜ」と、対戦相手ではなくそのファンに対して身も蓋もないトラッシュトークを展開する前王者だ。

それはさておき、この試合で期待されているのは凄まじい殺傷能力を持つ両者による大打撃戦だ。グローリー2階級制覇という輝かしいキックボクシングの実績を持つポアタンは、当然のようにMMAでも9勝中7フィニッシュの全てがKO勝利だ。対するヒルも、7つのフィニッシュの全てがKO。しかし高校時代までバスケットボールに励んでいたというヒルは、MMAを始めるまで特に格闘技経験はない。まったく異なるバックグラウンドとスタイルを持つMMAストライカー同士の対決という意味でも、興味深い頂上決戦だ。

まず注目なのは、ポアタンの主武器である右カーフキックを巡る攻防だ。腰を捻らないコンパクトな蹴り方でありながら強烈無比な威力を持つこの右カーフを駆使し、序盤に相手の足を殺すのがポアタンの常套手段だ。ほぼノーモーションから放たれるため、相手にとっては反応が極めて困難となる。

ヒルのヘッドコーチであるチャド・ポメロイも「我々はローキックの対策を重点的に行っていて、強いムエタイ選手たちにスパーでローを蹴ってもらっている」と発言しており、挑戦者陣営がこの技を最も警戒していることは間違いない。ヒルとしては、スタンドでいかにプレッシャーをかけて王者のローを封じるかが勝利への大きな鍵となりそうだ。

その点本人は、11月のポアタンの戴冠をケージサイドで目撃した直後にすでに「1Rはスローな展開だった。イリーは広いスタンスでローに対処せずにダメージを受けてしまったが、俺にはアレックスが対処できないようなスキルと特性がある。奴は俺が試合に持ち込むスピードとボリュームに対抗できないよ」と自信を覗かせている。

実際ヒルは王者と同じ193センチという長身を誇り(201cmのリーチは王者のそれを1センチ上回っている)、前手での多彩な攻撃を軸に、足技も交えてプレッシャーをかけることを得意とする。さらに相手のジャブにカウンターを合わせるタイミングにも天賦の才を持ち、サウスポーを基本としつつスイッチも駆使するが故に、ローのダメージを両脚に分散させることもできる。

王者のローの距離を殺しケージ際に詰めるために必要な適性に恵まれているのは確かだ。さらに誰よりもポアタンをよく知るイスラエル・アデサニャとの練習も敢行したヒルは「彼は俺の質問に全て隠すことなく答えてくれて、(打倒ポアタンのための)素晴らしいインサイトを授けてくれたよ」と語っている。

もっともポアタンとしては、ローを嫌がる相手が前に出てくるのはいつものこと。前戦でも、プロハースカが2Rに強引に詰めてきたところを待ち構えていたように強烈な左右のフックを当てて沈めている。近距離からでも異次元の破壊力を発揮する拳こそ、ポアタンの真の怖さだ。

が、挑戦者はむしろそこにポアタンの弱点を見出しているようだ。「奴のディフェンスは、自分のオフェンスに依存しているんだよ」とヒルは言う。「守るときには、自分の攻撃の背後に隠れる形になっている。だからディフェンスを余儀なくさせるように追い込んでいけば、そこに弱点が出てくるはずだ」と。

実際ポアタンは、相手が距離を詰めてきた時に上半身を動かさず腕を伸ばして下がる傾向があり、その際に相手のパンチを被弾する場面も見られる。ケージ際からの一撃必殺のカウンターは持っているが、巧みなディフェンスワークを披露することはあまりない。対してヒルは柔らかく体を使ったスウェイも得意とする。前戦の4Rにテイシェイラをケージ際まで詰めると、リーチに勝る自分の打撃だけが当たる絶妙な距離を保ち、反撃を巧みなボディワークでかわしつつ多彩なコンビネーションで滅多打ちにしてみせた。「オフェンスに依存したディフェンス」を攻略する術を、ヒルは確かに持っている。

しかし──この師と仰ぎ敬愛する存在がヒルに打ちのめされる光景を、ポアタンはセコンドとして間近で目撃している。打撃戦で師と同じ轍を踏むつもりは毛頭ないはずだ。

今回の試合に向けてテイシェイラの道場で共に練習し、攻略法を伝授される日々を過ごしてきた王者は「ヒルの打撃は確かにパワーがあって危険だ。でも技術レベルを見ると(自分が倒した)イリーの方が優れていると思う」と静かに語り、自信を覗かせる。両者の間合いが蹴りの距離からパンチの距離へと移行した時、射程距離の長いヒルの拳と短いポアタンの拳、二つの凄まじい殺傷能力はどのように交錯するのか。

お互いのことを熟知し、研究し尽くした最高峰のMMAストライカー二人による決戦。意表をついてどちらかがテイクダウンを仕掛けてゆく可能性も含め──真のライトヘビー級の頂点を決める、記念大会に相応しい至上の攻防を堪能したい。

■視聴方法(予定)
4月14日(日・日本時間)
午前7時分~UFC FIGHT PASS
午後11時~PPV
午前6時30分~U-NEXT

■UFC300対戦カード

<UFC世界ライトヘビー級選手権試合/5分5R>
[王者]アレックス・ポアタン・フェレイラ(ブラジル)
[挑戦者] ジャマール・ヒル(米国)

<UFC世界女子ストロー級選手権試合/5分5R>
[王者]ジャン・ウェイリ(中国)
[挑戦者] イェン・シャオナン(中国)

<BMFタイトルマッチ・ライト級/5分5R>
ジャスティン・ゲイジー(米国)
マックス・ホロウェイ(米国)

<ライト級/5分3R>
シャーウス・オリヴェイラ(ブラジル)
アルマン・ツァルキャン(アルメニア)

<ミドル級/5分3R>
ボー・ニコル(米国)
コディ・ブランデージ(米国)

<ライトヘビー級/5分3R>
イリー・プロハースカ(チェコ)
アレクサンドル・ラキッチ(オーストリア)

<フェザー級/5分3R>
カルヴィン・ケイター(米国)
アルジャメイン・ステーリング(米国)

<女子バンタム級/5分3R>
ホーリー・ホルム(米国)
ケイラ・ハリソン(米国)

<フェザー級/5分3R>
ソディック・ユースウ(米国)
ジエゴ・ロピス(ブラジル)

<ライト級/5分3R>
ジェイリン・ターナー(米国)
ヘナト・モイカノ(ブラジル)

<女子ストロー級/5分3R>
ジェシカ・アンドラーデ(ブラジル)
マリナ・ホドリゲス(ブラジル)

<ライト級/5分3R>
ボビー・グリーン(米国)
ジム・ミラー(米国)

<バンタム級/5分3R>
デイヴィソン・フィゲイレド(ブラジル)
コディ・ガーブラント(米国)

The post 【UFC300】展望─01─ポアタン✖ヒル。記念大会のメインはKO必至。瞬き厳禁=近距離の打撃戦?! first appeared on MMAPLANET.
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【RIZIN LANDMARK09】高橋遼伍戦へ、久保優太の真実「王者のままで引退できるチャンスはあった。でも」

【写真】木下カラテに判定勝ちをしている。ここが一番の肝(C)MMAPLANET

23日(土)、神戸市中央区の神戸ワールド記念ホールで開催されるRIZIN LANDMARK09 in KOBEで久保優太が、高橋遼伍と対戦する。
Text by Takumi Nakamura

2021年9月にMMAデビューを果たし、4戦3勝1敗の成績を残している久保。MMAではキャラクター先行型の印象が強いキャリアを積んできたが、今大会では元修斗環太平洋フェザー級王者にして、ONE Championshipにも出場した高橋という実力者と拳を交える。

「MMAにチャレンジしないままに引退することはできなかった」という久保の“格闘技ジャンキー”な一面を今回のインタビューを通してお伝えしたい。


――昨年大晦日の安保瑠輝也戦で一本勝ちしたあと、約3カ月というスパンで今回の神戸大会出場が決まりました。試合はすぐにやりたいという考えだったのですか。

「そうですね。怪我もなくて自分の感覚的にはすぐやりたかったのですが、2、3月大会は枠がいっぱいだと聞いていたので、5月ぐらいになるのかなとか、もしチャンスがあるなら出たいな、くらいに思っていたんですね。そうしたら3月大会のオファーがあって、相手もかなり強敵。ONE Championshipでも活躍していた高橋遼伍選手ということで、MMAでは間違いなく格上の選手で、すごいありがたいというか。これを自分のMMAキャリアのステップアップとして受け入れていかないとなと思って速攻でOKしました」

――久保選手がいよいよ本格的にMMAの実績と実力がある選手と戦うことになったと思います。キャリア的にもこういった相手と戦いたいという思いはありましたか。

「僕は今36歳なので、格闘家のピークというか、めちゃめちゃ動ける期間はあと2年ぐらい。そこが勝負だと思うんですよね。だからその期間に、自分の中では勝負をかけたい。チンタラやったり、のらりくらりやるより、確実にステップアップを望める相手とやりたい。僕はただ何となく立ち技からMMAに転向したわけではないので、MMAというものに一から挑戦して、自分が立ち技で築いてきたキャリアをある意味すべてベットして、MMAをやっているつもりです。例えば一番いい終わり方で言ったら、K-1で言えば魔裟斗さんは世界チャンピオンで強いまま引退されたじゃないですか」

――負ける姿を見せず、一番強い状態のまま引退されたと思います。

「もしかしたら僕もそれができるチャンスはいっぱいあったと思うんですよ。K-1のタイトルを防衛し続けていたタイミングで辞めたりとか。でも……僕は格闘技がすごい好きで、その終わり方だと自分自身に燃えるものがないっていうんですかね。僕は格闘技中毒になってしまってるんです。だからMMAで挑戦する=頂点に立ちたいという思いがあって、そこを目指すには時間がないというわけではないですが、自分のピーク・動けるうちにできる、そこに挑戦したいという思いがありますね」

――失礼ながら久保選手はMMAデビュー戦で太田忍選手に敗れて、シバター戦の印象が強いのですが、奥田啓介選手、木下カラテ選手、そして安保選手に勝って3連勝中です。MMAの試合で勝つことで、自分のMMAの形は見えてきているのですか。

「確かにデビュー戦の太田戦だったり、シバターさんとの試合だったり、別に舐めているわけはなかったのですが、もうちょっとしっかりと準備期間を経て、やらないといけなかったなっていうことをめちゃめちゃ痛感しました。今思うと恥ずかしいのですが、自分のパンチや蹴りが当たったら勝てるだろうみたいな。それでいざMMAをやってみて、そんな甘い世界じゃなかったということを痛感したという(苦笑)。

そこからは自分の中でコツコツとやってきて、確かに相手のレベルどうこうはありますけど、結果として3連勝することができました。だからなおさら今回ホンモノの相手とやれることは、自分の力や真価が問われるし、自分の実力を見せられるチャンスだと思っています」

――その重要な一戦の相手、高橋選手にはどのような印象を持っていますか。

「試合を見れば見るほど強いなっていうのと、カーフキックをはじめストライカーのイメージですが、ONEでの試合では四つの展開や相手のテイクダウンにもしっかり対応していて、すごく上手くて何でもできるんだろうなと思います。そうじゃなかったら海外で試合はできないと思いますし、自分の中で高橋選手は何でもできる日本トップクラスの選手だと思います」

――高橋選手は一発一発を強く打つ・組みも意識したMMA用のストライキングという印象です。彼の打撃についてはどう見ていますか。

「確かにボクシンググローブとMMAグローブの違いやテイクダウンの有無で、使える打撃・使えない打撃が大きく変わってくると思うんですけど、そこで僕が高橋選手を乗り越えないと、RIZINでチャンピオンになるという宣言が絵空事というか、全然実現できないことになってしまう。自分自身が立てている目標を実現するためには、ここを攻略しないと、上にはいけないと思っていますね。もちろん高橋選手は日本トップクラスの選手だと思いますけど、ここを攻略することによってRIZINのチャンピオンへの階段を登ることができるんじゃないのかなと思います」

――言える範囲で構わないですが、彼の打撃をどう攻略するのかイメージは出来上がっていますか。

「正直僕が高橋選手を寝技でどうこうは通用しないというか、そういうレベルの差はあると思います。もちろん実際に向かい合ってどう戦うかを考えると思いますが、高橋選手がどういう選択をするか。過去の試合映像を見ても高橋選手からテイクダウンにいくところはほとんどなかったですが、僕相手には絶対にテイクダウンを狙ってくると思っているので。打撃の時間が長くなるにしても、単純な立ち技だけになることは絶対にないと踏んでいます。そのうえで、僕は元K-1チャンピオンとしてRIZINの舞台に来て、打撃の部分では圧倒的に差を見せつけるというか。

今のところ『さすが久保優太の打撃だな!』というところは見せられていないと思うし、K-1時代が100としたら、MMAでは20も出せてないと思うんです。MMAでもいかにK-1時代のような100に近づけられるか。そこが自分の課題であり、今回それが出せれば、高橋選手は相当強敵でめちゃめちゃ格上ですけど、絶対負けないとは思っていますね」

――そこが立ち技からMMAに転向する選手は誰もがぶつかる壁だと思うのですが、久保選手は何を意識してMMAにおける打撃を100に近づけているのですか。

「これはもうMMAの練習と試合を続けて、MMAで使える打撃・使えない打撃を取捨選択するというか。それそのものが変わってくる部分もあるのですが、2年ちょっとMMAをやって来て、その取捨選択が積み上がってきてはいます。練習では100に近づいたものを出せているので、あとは試合で出せるかどうかというところが一番の課題でありポイントですね」

――逆に言えば相手が高橋選手レベルになると、100に近づいた打撃を出せなければ勝てない相手でもありますよね。

「そうですね。なので、そこが自分の課題というか、本当に自分がK-1時代に出せていた打撃を発揮しなきゃいけないし、それが出来たら絶対どんな相手にも正直負けるわけではないと思っているので。繰り返しですけど、なかなかそれが出せないことがMMAの難しさなんですけどね」

――決して立ち技のスキルそのものが使えないわけではないと。

「そこは感じますね。MMAでもK-1でやってきた人間は打撃において負けちゃいけない、そういった自負は僕の中でもあるんですよ。だから、それを発揮できていない自分に対する悔しさもあります。と同時に、それを発揮できたら自分がいかに格闘技の天才であるかをアピールできるというか。世間に評価してもらえると思うので、そこは頑張りたいなと思っていますね」

――例えば去年の大晦日は立ち技から多くの選手がMMAに挑戦しました。久保選手はこのことをどう感じていますか。

「今は世界の格闘技のマーケットがどうしてもMMAになっていますし、なおかつ日本のマーケットはRIZINが今一番大きくなっているじゃないですか。そのRIZINはMMAが主の団体なので、マーケットの中心がMMAになるし、格闘家である以上、それに合わせていくことは、自然な流れだと思います。

世界的に見てもGLORYで活躍したアレックス・ペレイラやイスラエル・アデサニャがMMAに転向して、UFCチャンピオンになっていますからね。武尊選手のように、自分が得意な立ち技・キックボクシングでそういう世界を創っていくこと、そこで頂点を極めることは本当にかっこいいし、それは素晴らしいことだと思います。でも僕は格闘家である以上、どうしても自分が最強というか、自分が強いという承認欲求があって。

一時はK-1を離れてボクシングに行こうとも思ったのですが、やっぱり何でもありの最強を決めるMMAに挑戦するという選択をしました。あとはK-1ファイターやキックボクサーが寝たら弱いと思われていることに、自分もコンプレックスがあるというか。やっぱりそれを払拭したいんですよね」

――久保選手はボクシングの試合こそやらなかったですが、ずっとボクシングジムで練習もして、ボクシングのトレーナーの指導も受けていて。ボクシングという競技には触れてきたわけじゃないですか。

「そうですね。かなり色んなジムに行かせてもらいましたし、結構ボクシングジムからスカウトも受けていました」

――だからテコンドーから始まって、ムエタイ、キックボクシング、ボクシングと久保選手ほど立ち技競技をやりこんで、MMAに転向した選手はいないと思うんです。

「グローブ空手にも白帯で出たことがあるので空手経験者でもあります(笑)」

――なるほど(笑)。そんな久保選手が立ち技の強さを証明するためにMMAにチャレンジすることは格闘技のロマンだし、久保選手は本当に格闘技が好きなんだなと思います。

「うれしいですね。本当に格闘技ジャンキーだと思うので」

――ずばりMMAにチャレンジしないまま引退することはできなかったのですか。

「そうですね。太田選手にデビュー戦で負けてから余計に悔しくなって。試合でテイクダウンされると練習と全く違うんですよ。言うても練習では試合と同じことはやらないし、多少はみんな加減もするじゃないですか。でも試合になったらそういう加減はなくて、僕、太田選手に投げられたときにヒザを骨折したんです。それで本当にMMAは厳しい世界だなと思って、それと同時にこの道を極めたいと思いました」

――僕は旧K-1時代から久保選手を取材してきて、これだけずっと純粋に格闘技が好きな選手はいないと思っていて。でもRIZIN参戦以降は試合以外のキャラクターの部分がクローズアップされることが多かったので、久保優太はそうじゃないということを今回のインタビューで伝えたかったです。

「ありがとうございます。どうしても僕はネタ枠というか。特にシバターさんとの件で、自分自身にも原因があると思うんですけど、エンタメ性に走ってしまったというか。僕自身、目立ちたいという承認欲求もあったりして。あの件で僕が元K-1チャンピオンで3回防衛したとか、GLORYでチャンピオンになったこととか、そういう格闘技の実績が見ている人たちの記憶から忘れ去られていると思うんです。

だからここで格闘家・久保優太としての強さや久保は格闘技の天才なんだってところを見せたいです。そのために練習も必死に頑張って、なおかつ格上の選手に挑戦させていただくわけですから」

――久保選手にそういう思いがなかったら、ここで高橋遼伍というファイターとはやらないですよね。周りからは止められなかったですか。

「めちゃくちゃ止められました。まだ早いんじゃないかって。ただ、僕はチンタラMMAをやるつもりはないんで。ここで評価を上げたいし、そうすることでタイトル戦線に近づくことができると思ったので、今回はやらせてくださいという想いを伝えました」

――これまで何度も大一番を経験している久保選手だと思いますが、MMAにおける大一番になりますね。

「格闘技に詳しい人からすると『絶対久保は勝てない』や『総合力が違いすぎるだろ』って、そういう予想や評価だと思うんです。だからこそ純粋に挑戦できるというか。ある種すっきりしているわけではないし、気持ちいいと言ったらあれなんすけど、生き生きとしていると言ったらいいんですかね。格闘家として生きてるなって感じがしています。格闘家冥利に尽きるというか。やってやるぜ、最高だぜみたいな」

――今日のインタビューで久保選手の試合がより楽しみになりました。

「負けられないプレッシャーを感じていると、それこそK-1時代の防衛戦の僕はずっとディフェンシブな戦いだったじゃないですか。でも若い頃の僕はガンガン前にいけていたし、今回はそういう自分や格闘家・久保優太の生きがいを取り戻せるんじゃないかと。そういう予感がしています。だから僕自身、次の試合は楽しみだし、みなさんも楽しみにしていてください」



■視聴方法(予定)
3月23日(土)
午後12時00分~ABEMA、U-NEXT、RIZIN100CLUB、スカパー!、RIZIN LIVE

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お蔵入り厳禁【Special】月刊、大沢ケンジのこの一番:10月 チマエフ✖ウスマン~のミドル級戦線

【写真】既にミドル級に転向していたチマエフは、パウロ・コスタの代役出場となったウスマンより心身ともに優位にあったとはいえ……(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。
Text by Shojiro Kameike

背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は何と大阪ケンジ氏が、水垣偉弥氏と同様に2023年10月の一番として、10月21日に行われたUFC294におけるカムザット・チマエフ×カマル・ウスマン戦をチョイス。

お蔵入り厳禁。メディアとしてご法度の同じマッチアップから今後のUFCミドル級戦線──『ショーン・ストリックランドとチマエフ、もし戦わば……』というトピックを語らおう。


――今回もよろしくお願いいたします。まずは大沢さんが選んだ2023年10月の一番を教えてください。

「カムザット・チマエフ×カマル・ウスマンですね。あれ、ヤバくないですか!」

――10月21日(現地時間)、UFC294でチマエフがウスマンに判定勝ちを収めた試合ですね。もうUFCの試合時間が5分3Rでは足りない、5分5Rを標準としたほうが良いのではと思わせるぐらい動き続けていました。

「本当にそうですね。5分3Rをずっとアタックし続けても、まだ体力が余っているぐらい(笑)。だからこそ、2Rにチマエフが攻めなかった理由が分からなくて」

――チマエフにしてみれば、ウスマンのほうがもっと出て来ると思ったのか。あるいはウスマンが終始チマエフの足を触る、つまりテイクダウンを狙っていたので警戒していたのか。

「確かにチマエフは警戒していたと思います。ただ、チマエフのほうも触ったら即倒せるようなテイクダウン力を持っているじゃないですか。1Rはタイミングで倒した要素もあるとは思うけど、あの展開の中で『完全にコントロールできる』と考えたはずですよね。でも2Rはチマエフが攻めず、ジャッジ2人がウスマンにつけていて」

――1Rはジャッジ3者とも10-8でチマエフのビッグラウンドとし、2Rは2者がウスマンの10-9。そして最終ラウンドはジャッジ2人がウスマンにつけるという採点結果でした。

「3Rは微妙なところでしたよね。ウスマンも寝かされていたけど、チマエフにはついていない。それでも何が凄いかっていうと、今までレオン・エドワーズ戦(今年3月、ウスマンが判定負けでベルトを失う)しか背中を着かされたことのないウスマンに対して、チマエフが相手の良いとこを出させずに組みで勝った。

しかも1Rは遠い距離から入って、足を掴んでから2度3度動かれても、しっかりとバックを取った。『とんでもなく組みの強いヤツが出て来た』と思いましたよね。本来、スタンドのバックコントロールから、背中に張り付いてバックマウントを奪いに行くとか。そういうことができないと、あの状態からテイクダウンディフェンスが強い相手を倒すって難しいんです。何といっても相手はウスマンですからね。そのウスマンを相手に、何度も何度も足を入れながら崩していく。ミドル級なのに軽量級のファイターが見せるような組み技の細かさで」

――ケージ際でバックを奪いながらも、展開できずに離れる選手は多いです。スタミナをロスしないためには、必要な戦術だと思います。軽量級でもそのような攻防が多いのに対し、チマエフはミドル級でもあれだけアタックし続けているのが驚きです。

「僕も、スタンドのバックコントロールが巧くない選手に対しては『そこで勝負せずに、離れ際だけ注意して離れろ』と言ったりします。しかもウスマンは、その際の処理がメチャクチャ巧い。なのに、そのウスマンが警戒して組みの対処が後手に回っている。勝負せずに相手の組みを受け入れて、そこからどうしようかと考えているような感じでしたね。あの展開で3Rをウスマンにつけるジャッジがいるんだってことにも驚きましたけど、そんなことは関係ないほどの衝撃を受けた試合でした」

――ウェルター級以上で、あれほど細かい組み技を見せる選手が増えると、日本人ファイターはどうなってしまうのでしょうか。

「中量級以上で戦っている日本人選手がどうなるか、ということですよね。それは難しいんじゃないですか。ただでさえ軽量級に比べたら中量級以上の選手層が薄い日本で、チマエフほどの細かい技術を持つファイターを生み出すのは――。岡見勇信みたいに、一人だけ世界のミドル級で戦える選手が突然出て来ることもあるし、一概には言えないですけどね」

――チマエフが飛び込むスピードも、ミドル級の中では速すぎるように思いました。

「ミドル級では抜けているスピードですよね。一方で、打撃は少しディフェンスが甘い。ただ、ウスマンの左ジャブだから食らってしまう――というのはありますけど」

――チマエフの登場で、今後のUFCミドル級が大きく動きそうですね。

「ミドル級はイスラエル・アデサニャがトップどころを一掃して、そこにアレックス・ペレイラ(※取材後の11月11日にUFC世界ライトヘビー級王者に)とストリックランドが出て来た。そこにチマエフが現れて……誰が勝てるかなぁ。

チマエフは体格も理想的なミドル級だし、打撃も綺麗なジャブとストレートを打つ。スイッチもできる。しかもチマエフって、MMAを始めたのは最近ですよね。2018年までレスリングをやっていて、その少し前——2017年あたりからアレクサンダー・グスタフソンのジムで練習し始めたとか。5年であれほど打撃ができるというのも、レスリングとバランスの良さがあってのもので」

――チマエフのアドバンテージとして、バランスの良さと圧の強さがあると思います。打撃の攻防の中で、ウスマンがハイを見せながら体勢を崩しました。それだけチマエフのプレッシャーが強かったのではないかと。

「ウスマンって相手と向かいあったらすぐにジャブを出すし、テイクダウンにも行く。それだけアタックの回数が多い選手なのに、2Rは――チマエフもそうですけど、ウスマンのアタックは少なかった。あのウスマンが引くぐらいの圧なんだろうなって思います。

チマエフはヌルマゴ(カビブ・ヌルマゴメドフ)に近いタイプかもしれませんね。ただ、ヌルマゴのほうが早く組みに行く。チマエフは結構、打撃の攻防をやりますから。今の時点で組みの力は図抜けているので、打撃も含めてこれから成長していくと、どこまで強くなるんだろう?』と思わせるファイターです」

――チマエフは現在ランキング9位です。まだ先の話ではありますが、現世界ミドル級王者のショーン・ストリックランドと対戦した場合は……。

「そういえばDJがインターネットのインタビューで、ウスマン戦を視て『チマエフの弱点が見えた』というようなことを言っていたんですよ。ショーン・ストリックラウンドのようにアタックの回数を多くして、ガス欠を起こさせたら――と。でもガス欠を起こさせたとしても……ですよね。

ウスマンがスクランブル出場であったとしても、あれだけチマエフはテイクダウンできたわけですよ。少しでも触ったら倒せる。だからもしチマエフがベルトを獲ったら結構な長期政権を築くんじゃないのかな、とも思っています」

――ストリックランドの圧に対しても、チマエフはウスマン戦と同じ展開に持ち込めるでしょうか。

「どうでしょうね……。まずストリックランドのジャブと前蹴りに対して、正面に立つのは嫌ですよね。しかも自分に考える暇も与えず、ストリックランドが攻めてくる。1Rは攻めあぐねたとしても、2R、3Rと猛追してくるじゃないですか。それができるのって、テイクダウンディフェンスと立ち上がる技術があるからで。ただ、チマエフもストリックランドを相手にしても触れば倒せると思います。そこからストリックランドが立ち上がることができるかどうか。今のUFCミドル級でも、チマエフの組みから逃れることができる選手は見当たらないから楽しみですよ」

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【Special】月刊、大沢ケンジのこの一番─02─:9月 「コンタクト、アタックが多い試合とは」

【写真】接ストリックランド✖アデサニャのフェイスオフ--この時、誰がストリックランドの完勝を予想できただろうか(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。
Text by Shojiro Kameike

背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は大沢ケンジが選んだ2023年9月の一番、9月10日(日・現地時間)にUFC293で行われたショーン・ストリックランド×イスラエル・アデサニャとマネイル・ケイプ×フィリッピ・ドスサントスから、コンタクトが多いという現代MMAで勝つための方法を語らおう。

<月刊、大沢ケンジのこの一番:9月 Part.1はコチラから>


――コンタクトを多くする、というのは?

「要はアタックの回数を多くする、ということですね。この場合のアタックというのは、ジャブやローで様子を見ている動きは含まないです。そこから右ストレートなどのフィニッシュブローを打つこと、あるいはテイクダウンに行くことをアタックとします。今は以前と比べて、アタックする前にジャブやローで試合をつくる時間が短くなっている。つまりアタックするまでのペースが速くなっているか、連続でアタックするようになってきていますよね。すると相手としても、早めにフィニッシュブローを出すか、テイクダウンに行こうとする。結果、お互いに考える時間も短くなり、どんどんハイテンポになってきたと思います」

――UFCをはじめ世界のトップクラスは、それだけのハイテンポで5分3R、あるいは5分5Rを動き続けるわけですね。

「以前なら1R5分の間に10回ぐらいアタックがあるとして、ちょっと自分が攻められていても1~2発良いのが当たっていると、ジャッジにとってはその1~2発良いのが当たっている印象のほうが大きかったと思います。要は距離を取る、あるいは下がっているほうがカウンターを当てていたら、ポイントを取れたかもしれない。でも今はアタックの数が多いので――たとえば連打で下がらせ続けていると、少しカウンターを当ててもポイントは取れなくなりますよね。アタックの回数で、カウンターの印象が薄まってしまうから」

――かつては5分3R、あるいは5分5Rを戦うための序盤は様子を見るパターンもありました。しかし今は、それだけ長いラウンドを戦うために最初から攻め続ける。

「そういう展開が多いと思いますね。相手が考えている以上にアタックをかければ、削られて後半には相手もバテてくる。たとえば20秒に1回アタックするとしたら、1Rに15回アタックできるじゃないですか。スタンドはもちろんテイクダウンに行ったり、テイクダウンされてもスクランブルに持ち込む。もしそのアタックを15回から20回に増やしたら――お互い思っている以上に、相手が疲れますよ。『いやいや、俺はこのペースで試合していないから!』と面喰ったりして。ストリックランドがアデサニャを下した試合は、まさにそういう展開だったと思うんです」

――とはいえ、近い距離でアタックの回数を増やすことがトレンドになっているとしても、採点では評価されていないように思います。ストリックランド×アデサニャ戦でも、2Rはストリックランドがプレスをかけていたものの、アデサニャの10-9となっていました。

「もし1Rからアタックの回数を多くしても、カウンターを当てられていたらポイントは失うかもしれません。でもそのポイントを2Rと3Rで取り返す、という試合が増えている気はします。というよりも、ポイントを取り返すというより2Rか3Rで仕留めるためにアタックをかけていることのほうが多いですよね。どんどん相手のエリアに入って、攻撃を出させて削っているとバテるから、自分としては倒しやすくなる。近い距離で戦っていると、どんどん削られて――アレックス・ヴォルカノフスキーなんて、まさにそういうハイテンポのファイターですよね。相手に考えさせる暇を与えない」

――「相手に何もさせない」という意味では、かつてカビブ・ヌルマゴメドフも相手を圧倒する試合を見せていました。しかし現在のトレンド、つまりアタックの回数を多くすることとヌルマゴのスタイルは別モノということでしょうか。

「ヌルマゴはパンチを振るグラップラーでしたよね。近づいてKOできるパンチを振って、相手にディフェンスさせてからテイクダウンに入る。だから、あれはアタックの回数ではないと思います。ただ、あの時代から今まで短い期間に、これだけ進化しているわけですよね。特に相手が考える時間がないぐらいアタックするとなれば、お互いにもともと準備してきたモノで勝負するしかない。試合のために準備してきたモノというのは、やっぱりジムでの練習内容から変えていかなきゃいけないと思います」

――反対に、近い距離でアタックしてくる回数が多いファイターは、どのようにバテさせれば良いと思いますか。

「バテさせるのは難しいんじゃないですか。相手が打撃で入ってきたなら、こちらはテイクダウンを狙うとか――本来、長い距離で戦う選手は近い距離でも戦えないといけない。近い距離を嫌がると、相手もガンガン入ってきますからね。簡単に言えば、相手に自分の弱みを見せてはいけないわけですよ。みんな相手の苦手なところを突く技術が高度になってきているから――僕たちが現役の頃と比べたら、もう本当に大変な時代です(苦笑)。佐藤将光君と太田忍君の試合は、五輪クラスのレスラーがMMAではトップをキープできないんですからね。そう考えると、9月は国内外で面白い試合が多かったです。

RIZINの試合でもそうであったように、日本でも近い距離で戦える選手や、それだけハイテンポで戦える選手も増えてきました。この企画で僕はずっと『近い距離でも戦えるほうが良い』と言ってきたじゃないですか。そこに加えて最近では、ハイテンポな試合展開を意識したほうが良いと思っています。特にUFCでもランキング上位になればなるほど、その傾向が強くて。日本人選手が挑むのはフェザー級より下の階級が多くなりますけど、軽量級では近い距離の打ち合いに、テイクダウンが入ってくる。今のMMAで勝つためには、自分のことをストライカーだ、グラップラーだとか考えていてはダメですよ。全部できたうえで近い距離でも戦えて、かつハイテンポで動くことができないと、もう世界の上位陣には勝てませんから」

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【Special】月刊、大沢ケンジのこの一番:9月 ストリックランド✖アデサニャ。ケイプ、金原&牛久

【写真】接近戦で戦え、相手の得意なところでもやりあえる。それが世界的ウェルラウンダーという大沢ケンジの弁、ご堪能ほほどを(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。
Text by Shojiro Kameike

背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は大沢ケンジが選んだ2023年9月の一番、9月10日(日・現地時間)にUFC293で行われたショーン・ストリックランド×イスラエル・アデサニャマネイル・ケイプ×フィリッピ・ドスサントス、さらには9月24日のRIZIN44でも見られた現在のMMAのトレンドについて語らおう。


――大沢さんが選んだ2023年9月の一番を教えてください。

「UFC293のショーン・ストリックランド×イスラエル・アデサニャと、マネイル・ケイプ×フィリッピ・ドスサントスです。9月は国内外で面白い試合が多かったので、いろいろ語りたいことも多いんですよ」

――ではまず、ストリックランド×アデサニャとケイプ×ドスサントスを選んだ理由からお願いします。

「まずアデサニャは、長い距離で戦いながらカウンターを狙うタイプじゃないですか。でも最近は――特にアレックス・ペレイラとの試合でも、距離を詰められるとアタフタするような場面が増えていましたよね。ストリックランドはアデサニャ戦の前にペレイラと一緒に練習していて、そのあたりはペレイラから聞いていたんでしょう。

ストリックランドが距離を詰めつつ、それほど自分からガンガン行くわけではなく様子を見ていた。

アデサニャは、あれだけ近い距離に入ってこられるのは苦手だと思います。

(C)Zuffa/UFC

それでアデサニャは距離を取る。でもストリックランドが積極的に打ってくるわけでもなく――様子を見ていたらアデサニャのほうが疲れてしまって」

――確かに、ズルズルとスリックランドのペースになっていきましたね。

「パンチが当たったことに対するポイントでいえば、アデサニャが取っている可能性もあるかもしれない、と思いました。『これは自分がポイントを取っていると考えているから、アデサニャは前に出ないのかな?』と。この試合は何度か見直しました。でも、やっぱりアデサニャは短い距離を嫌がっている。その結果、大番狂わせとも言える結果になりました。

だから、これまでMMAPLANETの企画で言ってきたことに繋がりますけど――まず近い距離に自分から入っていく。そしてコンタクトを多くして相手を疲れさせていく。それが最近のMMA、特にトップ選手のトレンドになりつつあると思いますよね」

――世界で勝つためには、近い距離でも戦えるようになること。それが大沢さんの一貫した主張ですよね。

「あの距離で戦うには技術が必要だけど、それだけではなく前に出続けるためのフィジカルとタフさ、そして気持ちも必要になります。前に出ると、どうしてもカウンターをもらってしまいますから。最初は被弾覚悟で距離を詰めて、カウンターをもらいながらもプレッシャーをかけ続ける。そうして相手がフィニッシュブローを打つスタミナを奪っていく。ストリックランドは、まさにそういう試合をしていたと思います。

(C)Zuffa/UFC

そこで比較対象として良いのが、ケイプとドスサントスの試合で」

――ストリックランド×アデサニャとは対照的に、手を出し続けるドスサントスをケイプが捌いて判定勝利を収めるという試合内容でした。

「ケイプもカウンターパンチャーだけど、近い距離になっても嫌がることはないですよね。でも基本的には『待ちのファイター』だから、プレッシャーをかけられたくはない。ドスサントスは手数が多くて距離を詰めてくるので、後半はケイプも疲れていました。

ストリックランド×アデサニャのような中量級の試合とは違って、軽量級はあの距離になると打撃だけではなく、どんどんテイクダウンも狙ってくる。フライ級のアレッシャンドリ・パントージャ、ブランドン・モレノ、デイヴィソン・フィゲイレドあたりは、まさにそんな試合をしていて。……なんかね、今のUFC軽量級は凄いことになっていますよ(笑)」

――確かに。オクタゴンの中は常に進化し続けていますが、ここ最近はより一層、進化のスピードが速いように思います。試合の中で出される技術が増える一方で。

(C)RIZIN FF

「でもそれはUFCや海外だけではないんですよね。

国内でもRIZIN44で、金ちゃん(金原正徳)がクレベル・コイケ戦で見せたのは、そういう試合でした。もともと金ちゃんって、どちらかというと近い距離が好きというわけではないと思うんです。でも、まず自分から打って中に入り、相手が打ち気になってきたら、自分からテイクダウンを狙ったりとか。

(C)RIZIN FF

RIZIN44だと牛久✖萩原戦もそうです。

前半は萩原(京平)君が、牛久(絢太郎)君に打撃でプレッシャーをかけていった。牛久君もテイクダウンに行っても切られている――これは萩原君のペースになるかと思いました。でも牛久君が下がりながらパンチを振るうと、萩原君は警戒したんじゃないですか。牛久君はカウンターを恐れずにパンチを出していくと、2R以降は牛久君のペースになりましたよね」

――牛久選手がテイクダウンに成功してポジションを奪い、3-0の判定勝ちを収めました。

「こうした試合を見ていて、『オールラウンダーとは何か?』と考えたんです。日本のオールラウンダーって、相手の苦手なところで勝負しようとしますよね。相手がグラップラーならストライカーになり、相手がストライカーなら自分はグラップラーになる。いくつもの要素を混ぜ合わせるというよりは、相手の得意なところで勝負しないというイメージが強くて。それって、本当の意味でオールラウンダーではない気がするんですよ」

――試合ごとにストライカーになるか、グラップラーになるかではなく、1つの試合の中で全ての要素を出さないといけない。

「そう。相手が強いストライカーだと、打撃の距離に入らずテイクダウンを狙う――牛久君は朝倉未来戦まで、そういうファイターだったと思います。でも萩原戦では、違い距離で打撃を振りながらテイクダウンを狙えるという、もうワンランク上がった気がしますね」

――金原選手も、クレベルが寝技師だからスタンドだけで戦うというわけではない。打撃から入って、テイクダウンを奪い、グラウンドでも勝った末の勝利でした。

「試合前に金ちゃんが『先手を取る』と言っていて、まさにそんな試合展開になりました。軽量級のトレンドがそうなってくると、ケイプのようなタイプは今後――トップに行けば行くほど苦しくなってくるでしょう。ケイプは待ちのストライカーで、時おりテイクダウンを狙うこともありますよ。でもそれは近い距離を嫌がって組みに行っているような感じで。

ストリックランドとアデサニャの試合もそうですけど、最近の試合で5分3Rや5分5Rが短く感じられる時があります。視ている側がそう感じるということは、試合をしている選手は、もっと短く感じているかもしれないです。その試合中に少しでも様子を見ていると、すぐ相手にペースを持っていかれてしまう。じゃあペースを持っていかれないようにするためには――というと、コンタクトを多くすることだと思います」

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BELLATOR Bellator299 GLORY MMA MMAPLANET o UFC   アナトリー・トコフ アーロン・ピコ イスラエル・アデサニャ オットー・ホドリゲス カサン・マゴメドシャリポフ カマル・ウスマン キック ゲガール・ムサシ サバウ・ホマシ ショーン・ストリックランド ジェイジェイ・ウィルソン ジョニー・エブレン ダニエル・ヴェイケル チャーリー・ウォード デヴィ・ギャロン ピーター・クイリー ファビアン・エドワーズ ベラトール ベンソン・ヘンダーソン ペドロ・カルバーリョ マス・ブーネル マンスール・ベルナウイ リョート・マチダ レオン・エドワーズ レヴァン・チョクヒリ

【Bellator299】展望。兄弟でUFC & Bellator制覇へ─ファビアン・エドワーズ×ミドル級最強の声=エブレン

【写真】昨日の計量でエブレンは184.6ポンド。エドワーズは185ポンドのリミット丁度でパスしている (C) BELLATOR

23日(土・現地時間)、アイルランドはダブリンの3アリーナ・ダブリンでBellator299「Eblen vs Edwards」が行われる。
Text by Isamu Horiuchi

大会名が示す通り、メインイベントは米国人王者ジョニー・エブレンに英国のファビアン・エドワーズが挑戦するミドル級世界選手権試合だ。


背中に韓国の太極旗と米国の星条旗が陰陽を形作るタトゥーを抱くエブレンは、韓国人の母と米国人の父を持つ。生まれはアイオワ州だが、両親が出会ったのは父親の駐屯先だった韓国だ。これは韓国と米国にルーツを持つ元UFC世界王者ベンソン・ヘンダーソンの両親が出会った形と同様のものだ。

とまれ高校時代にレスリングでカンザス州王者に就き、ミズーリ大学でもNCAA D-1で活躍したエブレンは、大学卒業後に出会った五輪レスラー、スティーブ・モッコの紹介でATT入りしてMMAを学び、2017年にプロデビューを果たす。デビュー4連勝後の2019年からベラトールに参戦し、その後も持ち前の無類の圧力とテイクダウン力を活かした戦いで連勝した。

勝ち星を重ねるうちに打撃との連係も上達し、パンチによるKO勝利も複数記録したエブレンは、昨年6月にゲガール・ムサシのミドル級王座に挑戦。

スイッチも駆使した戦いで初回に右フックを当ててダウンを奪うと、その後もテイクダウンと打撃を混ぜてペースを完全に支配──スタンド&グラウンドの双方において終始優勢に試合を進めて判定3-0(三者とも50-45のフルマーク)で完勝。世代交代を印象付ける戴冠となった。

さらに今年の2月には、当時ベラトール7連勝中にしてプロ戦績31勝2敗の戦績を誇っていたロシアのアナトリー・トコフを相手に初防衛戦に臨む。

被弾する場面こそあったものの要所でテイクダウンを決めて上から試合をコントロールし、これまた判定3-0で完勝、デビュー以来の連勝記録を13に伸ばした。

先日UFCのミドル級絶対王者といわれていたイスラエル・アデサニャがショーン・ストリックランドにまさかの完敗を喫し、またアデサニャのライバルと目されていたアレックス・ペレイラがライトヘビー級に転向した現在、無敗のエブレンを現在のミドル級世界最強候補に推す声も出始めている。

この王者に挑戦するファビアン・エドワーズは、言わずと知れた現UFCウェルター級王者レオン・エドワーズの2歳下の弟だ。兄同様にジャマイカで生まれ、幼少時に英国に移住。

昨年8月に兄が当時PFP1位と呼ばれた絶対王者カマル・ウスマンを5Rに大逆転の左ハイでKO勝利した後に叫んだ「俺は the trenches(塹壕=弾丸が飛び交うが如く犯罪と暴力に満ちた生活環境の例え)出身だが、そんなのは関係ねえ! そうして強くなってきた! 人生でずっと虐げられてきたんだ! でも今のこの俺を見ろ!」という言葉はUFC史上に残る名マイクパフォーマンスとなったが、当然兄と共にいたファビアンも”the trenches”育ちだ。

父は彼が11歳、兄が13歳の時にロンドンのナイトクラブで射殺されている。格闘技と出会うことで犯罪から身を離すことができたという兄に遅れてMMAを始めたファビアンだが、その戦い方は最も身近なコーチである兄とよく似ている。すなわち、サウスポーで距離を取り無数のフェイントを交えつつ、強烈かつ多彩な左の打撃を軸とするもの。主武器は左ストレートだが、兄がウスマンをKOした左ストレートを見せてからの左ハイも以前からファビアンは使っている。

2017年5月にいきなりベラトールのロンドン大会でプロ第一戦に臨み、見事な飛びヒザで衝撃のデビューを飾ったファビアンは、その後BAMMAで4試合(1KO&3つの一本勝ち)を挟んだ後、2019年2月にベラトール再登場を果たす。その後は同年5月のファルコ・ネト戦におけるアップキックでダメージを与えての鮮烈なKO勝利を含めて4連勝を果たす。

直後に2連敗を喫したものの、昨年5月にはUFCレジェンドのリョート・マチダと対戦。ケージに押し込んでからの離れ際の左ヒジを痛烈にヒットさせ、ふらついたリョートに左ストレートを連打で叩き込んで1RKOに下し、デビュー以来最大の勝利を掴んだ。

さらに1勝を重ねた後、今年5月には(昨年6月にエベレンに敗れてタイトルを失った)ゲガール・ムサシとのミドル級王座挑戦者決定戦に臨む。スピード差を活かして鋭い左ストレートを幾度となく当てたファビアンは、さらに左からニータップにつないでテイクダウンを奪う等優勢に進め3-0(三者とも49-46)で快勝し、今回のタイトル挑戦権を得た。

そして迎える両者の世界戦だが、下馬評は圧倒的にファビアン不利となっている。戦績差、相性やこれまでの両者のケージ内のパフォーマンスを比較したも、妥当といえるだろう。ファビアンとしては、当然スタンドで間合いを保って打撃で勝負を賭けたいところだ。が、それはこれまでのエブレンの対戦相手のほぼ全員が試みてきた戦い方であり、ただの1人として成功していない。

エブレンはそのMMAキャリアのほぼ全てにおいて、離れて打撃勝負を試みる相手に圧力をかけてコーナーに詰め、テイクダウンを奪ってみせている。グラウンドでのトップコントロール力も突出していて、寝技で相手に上のポジションを取られた場面自体ほとんどないほどだ。

対するファビアンは、お互い打撃を交換し合う場合の間合いの取り方は超一級品だが、距離を詰めてくる相手にケージ側に追い込まれることは少なくない。そして腰が抜群に強いとも言えず、そこから組み付かれてテイクダウンを許すこともしばしばだ。

さらにいえば、倒されてガードポジションを取った後で足を利かせて立ち上がる術に長けてはいるものの、完全にハーフで胸を合わされて背中を付けさせられてしまうと防戦一方になりがちだ。

実際ファビアンは2021年5月には、エブレンの同門ATT所属レスラーのオースティン・ヴァンダーフォードにそうやって「漬け」られて完敗している。エブレンはテイクダウン&コントロール力においてヴァンダーフォードに劣らぬばかりか、打撃で圧力をかけ、距離を詰めるスキルにおいてははるかに上回る。

さらにエブレンは、今回のキャンプで元Gloryミドル級王者のロシア人キックボクサー、アルテム・レヴィン──Gloryのリングではアレックス・ペレイラにも3-0で勝利している──とみっちり打撃スパーを繰り広げたとのことで、デビュー以来上達の一途を辿るスタンド打撃にさらに自信を深めている模様だ。

その打撃とテイクダウンを臨機応変に織り混ぜるエブレンの攻撃に、ファビアンが苦戦いを強いられる可能性は高い。

が、熱心なファンなら思い当たることだろうが、この状況はファビアンの兄レオンがウスマン相手に大番狂わせをやってのけた時のそれによく似ている。打撃で圧力をかけてくるウスマンにコーナーに詰められては、何度となくテイクダウン&コントロールを許す絶対不利の状況を耐え忍んだレオンは、最終5Rに大逆転のハイを炸裂させた。

そして7ヶ月後の再戦では、スタンドでウスマンの圧力に屈せず多くの打撃を当て、テイクダウン防御にも複数回成功して五分以上に渡り合うと、堂々の2-0判定勝利を収めたのは誰もが知るところだ。

今回の弟の大勝負に向けて兄は、ウスマン2連戦で得た経験の全てを伝えていることだろう。兄の教えがファビアンの大きな武器となることは間違いない。仮にファビアンが勝利すると、UFC&ベラトール兄弟同時王者という前人未到の快挙の達成することになる。

アイルランドで勝利し、2人でUFC&ベラトールの二本のベルトを持って英国での地元バーミンガムに凱旋、そしてかつての自分たち同様に過酷な境遇にいる人々、移住した異国で苦労する家族たちにインスピレーションを与えるという兄弟の夢は叶うだろうか。決戦の時は迫ってきた。

■視聴方法(予定)
8月23日(土)
午前11時30分~ U-NEXT

■ Bellator299対戦カード

<Bellator世界ミドル級選手権試合/5分5R>
[王者] ジョニー・エブレン(米国)
[挑戦者]ファビアン・エドワーズ(英国)

<フェザー級/5分3R>
アーロン・ピコ(米国)
ペドロ・カルバーリョ(ポルトガル)

<女子フェザー級/5分3R>
シネード・カヴァナウ(アイルランド)
サラ・コリンズ(豪州)

<フェザー級/5分3R>
マス・ブーネル(デンマーク)
ダニエル・ヴェイケル(ドイツ)

<ウェルター級/5分3R>
レヴァン・チョクヒリ(ジョージア)
サバウ・ホマシ(米国)

<ウェルター級/5分3R>
ピーター・クイリー(アイルランド)
ダニエレ・ミチェーリ(イタリア)

<ライト級/5分3R>
マンスール・ベルナウイ(フランス)
ジェイジェイ・ウィルソン(ニュージーランド)

<ミドル級/5分3R>
チャーリー・ウォード(アイルランド)
グレゴリー・バベン(フランス)

<140ポンド契約/5分3R>
キアラン・クラーク(アイルランド)
プシェミスワフ・グルヌイ(ポーランド)

<ウェルター級/5分3R>
ルカ・ポクリ(モルドバ)
ロマン・ファラルド(米国)

<フェザー級/5分3R>
カサン・マゴメドシャリポフ(ロシア)
ピオトル・ニジェルスキー(ポーランド)

<フェザー級/5分3R>
デラー・ケリー(アイルランド)
ヤラ・ゼイハース(オランダ)

<フェザー級/5分3R>
ブライアン・ムーア(アイルランド)
オットー・ホドリゲス(ブラジル)

<ライト級/5分3R>
デヴィ・ギャロン(フランス)
アッティラ・コクマス(ドイツ)

<フェザー級/5分3R>
アザエラ・アジョウジ(フランス)
イブラヒム・アルファキ・ハッサン(リビア)

<フェザー級/5分3R>
ケニー・モホノアナ(アイルランド)
ジョシュ・オコーナー(英国)

<ウェルター級/5分3R>
ニコロ・ソッリ(イタリア)
フーマン・ドゥビエンヌ(フランス)

<ヘビー級/5分3R>
セルゲイ・ビロシチェニ(ロシア)
カシム・アラス(ドイツ)

<ライト級/5分3R>
マーク・イーウェン(英国)
ノア・ギュニョン(フランス)

<女子ストロー級/5分3R>
キアラ・ペンコ(イタリア)
マッケンジー・スティラー(米国)
ミレス・ヴィダウ(ブラジル)

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