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Bu et Sports de combat Interview ズベア・トホゴフ ハキーム・ダラドゥ ブログ 岩﨑達也

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。ダラドゥ✖トホゴフ「何をもって有効打と?」

【写真】読者の皆さんにとって、質量という捉え方がまだ困難であっても迫力という言葉に置き換えても両者のパンチの違いは見て取れるはずだ、(C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑氏とともに見てみたい。

武術的観点に立って見た──UFC253におけるハキーム・ダラドゥ✖ズベア・トホゴフとは?!


──ハキーム・ダラドゥ✖ズベア・トホゴフ、非常に興味深い攻防が見られ私はトホゴフの29-28で判定勝ちかと思いました。しかし結果はダラドゥが30-27、29-28、28-29でスプリット判定負けとなりました。武術的にみて質量、間がどうであったのか。岩﨑さんの見立てをお伺いしたいと思います。

「判定に関しては、私もロシア人の勝ちだと思いましたよ。そうとしか思えなかったです。初回と2Rと取った上での3Rの安全策。私は質量が高い選手が好みなので、そういう選手が有利に見えてしまうというのはあるかと思います。対して、MMAというのは質量の高い選手がポイントで負けることがあります。それもMMAだと分かります。そうなるとトホゴフは創りがまずかったのか……と。でも、今回ばかりは初回と2Rでそういう見方は成り立たないのかと思うんです。

確かにトホゴフは体重オーバーです。だからといって、ポイントがマイナスされるということはUFCではないですよね。イエロースタートのようなことは。そうなればどうすれば初回、2Rと落とすことがあるのか。2Rはテイクダウンをして、バックにも回っていた。つまりはポイントメイクもしているのに」

──その通りだと、自分も思いました。例え2Rを落として28-29で負けたのも、そういうこともあるのか……と捉えることもできます。しかし、30-27でダラドゥというのは、意味不明かと。

「おかしいですよね。ダラドゥのカーフキックが良かったとか、ジャブが良かった……トホゴフはバテたという意見もあるようですが、ダラドゥのジャブにしてもトホゴフが打ってくるところに合わせていたり、前に出てくるのを止めているなら有効ですよ。でも、相手のパンチに弱腰になり、それこそ腰が引けたような構えでチョコチョコ出しても、トホゴフも痛くないし、怖くないからそのままにしておきますよ。

有効打ということを考えると、では何をもって有効打とするのですか。それを審判が見ても、分からないからアマチュアボクシングは当たったら全部取るという風になりました。その判断なら分かりますよ、今回の採点も。

でもUFCはダメージ重視で、インパクト、試合のコントロールですよね。ならばダラドゥの勝ちはない。確かにトホゴフが安全策を取ったのは失敗だったでしょう。でも、3Rだってテイクダウンを切られているけど、テイクダウンを仕掛けている。それぐらいのスタミナは残っていますよ。そうやって勝てると踏んでいたんだろうし」

──同じことになってしまいますが、スタミナが切れて足を使ったとしましょう。それでもダラドゥが取ったのは3Rだけかと。

「ダラドゥも声を挙げて、距離を詰める動きはしなかったです。テイクダウンは切ったけど、あんな風にエキサイトしたのは自分が勝っていると思っていなかったからでしょう。どうしようもなくなって、『お前、出てこいっ!!』って怒鳴って。そうじゃないと逆転の芽がないから。ダラドゥはどこが良かったのか。そういう風に見てみると、どの攻撃を挙げることができますか」

──左ボディは良かったかと。

「そうですね。あのタイミングで、あの間合でよく打てていました。でも、あの攻撃だけですね。この試合からダラドゥの見るべきところは。才能は素晴らしいです。終盤のテイクダウンの切り方も、2Rにジャンプしてスイッチしてから左の前蹴りも。ああいう攻撃をされると厄介ですよ。何をしてくるのか、分からない怖さがあります。ただし、何をするわけでもなかった。

ダラドゥは質量の低い選手ではないです。でも、自分の力を生かしきれていない。相手を見て、対策に専念するかのように戦っていました。そういう練習をしてきたのであれば、彼の強さが試合で出てくる練習になっていないと感じましたね」

──つまりは質量という部分でもトホゴフでしたか。

「ハイ。本来は体のバネなどを考えても、ダラドゥの質量が上回っていてもおかしくないです。それだけの素材です。それでもトホゴフの質量が上だったのは、彼は呼吸で打っているからです。筋肉の引っ張りで打っていない。ただし、単発になっていました。呼吸で打ってはいるのですが、そこで一度止まってしまっていました。

対してダラドゥは腰を落として、蹴りから入ろうとします。トホゴフのパンチを良く見て。ただし、その動きで彼の質量は下がっていました。自分の長所を殺し、対策で戦っていたんです。ダラドゥが多少殴られようが、自分の庭に持ち込んでぶっ殺すぐらいの勢いだったら、彼の質量は下がることはないはずです。自分の攻撃で優位に持っていくという作戦だと、そうなっていたかと。ダラドゥが持っている人間としてのパワーは凄いモノだと思います」

──最初のパンチの被弾で、ビビったということはないですか。

「いや、それはビビっていますよ。だから、あのパンチへの対応策でしかない。つまり受け身の戦いだったんです。2Rのトホゴフがノーモーションで打ち下ろした右ストレート、ゾッとしましたよ」

──カーフやローという攻撃も、パンチの距離にしたくないのかと。

「う~ん、でもカーフでもなかったですしね。トホゴフは随分と避けているし、効いていなかった。及び腰でチョンチョンと蹴りやジャブを出してはいましたが」

──先日、人間は手足があるから、手と手足の戦いになると手足が絶対的に有利ということでしたが、この試合では蹴りのあるダラドゥの方が質量が下だったわけでしょうか。

「それはあの時も言ったように、蹴りを使う必要はなくても知っていると問題ないということです。トホゴフのパンチはボクシングではないです。蹴っていないけど、足も生きている。そういうパンチなんです。接近戦で体当たりみたいな攻防になっても、押し返していた。あれはボクシングだけの選手は、MMAでは見せることができない動きなんです。蹴っていないけど、足は生きていました。そうなると使っていたのはパンチだけでも、トホゴフの方が質量は上になります。

5ポンド・オーバーで、ああやって動ける。最後まで体重を落としてないだろうってことで、トホゴフの人間性は疑いますけどね(苦笑)。でも、どっちも強いです。そして可能性としてはダラドゥです。あんな二段蹴りができるなら、普通に蹴れば素晴らしく威力のある蹴りが出せるはずです」

──愛弟子の松嶋こよみ選手は、彼らとやり合えますか。

「本人のやる気次第です。『やってやるよ、この野郎』となればやれます。『噛みついてでも勝つ』と思えばいけます。そういう想いがあれば、こよみの技量だといけます」

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Bu et Sports de combat Interview ゼリム・イマダエフ ブログ ミシェウ・ペレイラ 岩﨑達也

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。ペレイラ✖イマダエフ「理屈でなく乗り」

【写真】パンチが当たるのも、余計な動きをしているから?!(C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑氏とともに見てみたい。

武術的観点に立って見た──UFN176におけるミシェウ・ペレイラ✖ゼリム・イマダエフとは?!


──無駄に動いたり、ドタバタすると質量は落ちるということですが、ミシェウ・ペレイラほど無駄な動きをする選手はいません。その辺りで、彼の質量というのはどういうものなのかと。

「確かに無駄な動きは多いです(笑)。それはね、多いに結構なことです」

──そうなのですか? バック宙をしたり、ダブルレッグで肩を抱えてケージを蹴ってスラム、コークスクリューをしてパスを狙ってバテてしまうこともあります。

「アハハハ。今回の試合も胴回し回転蹴りをして、背中から落ちていましたね。全く、する必要がない動きを。基本、最初の質量はイマダエフの方が上でした。パンチで入る人の特徴として、イチ・ニ、イニ・チのリズムで戦っていて。でも、結果的にイマダエフはボクシングだけでした。

ボクシングからムエタイ、キックで成功することって余り例がないのですが、ムエタイからボクシングでは成功例があるじゃないですか。人間は手足を使うようにできているのだからだと思います。試合で蹴りを使う必要はないですが、蹴りを使えないと蹴りを持っている相手を殴ることはできないです。

マクレガーも関節蹴りや、ミドルを使い、そこからパンチで倒すようにしています。質量もそうですが、両手しか使えない人が両手・両足を使える人と戦うと、間違いない距離は両手・両足が使える人の距離になります。その典型的な試合でした。イマダエフもボクシングしかできなくて、UFCまで来るなんてことはないと思います。でもテイクダウンにも行かないし、ボクシングだけで戦っていました。それではUFCでは勝てないです、厳しかったですね」

──質量でいうと最初はイマダエフだったのが、どの辺りでペレイラの方が強くなっていったのでしょうか。

「開始直後2分ぐらいは大人しかったです。1Rの後半に蹴りの間合いから右が入ったり、後ろ蹴りを入れるようになりました。キックボクシングではないフルコン系の蹴りを生かしていましたね。MMAのように組みが入ってくると、キックボクシングやムエタイのように蹴って・蹴り返すというリズムの攻防には余りならないですよね。対して、ペレイラはカポエイラの蹴りを使っていましたしね」

──ただし、無くても良い動きもします。

「アハハハハ。それは本人に聞いてくださいよ。ただし、私の経験でいえば『こういう蹴りを身につけたから、試合で使うぞ』なんていう気持ちでいると、上手くいかなかったことが多かったです。だからペレイラのようなノリでやっている時の方が決めるような。

その実、色々とペレイラがバタバタやっているのも余裕があるからできているわけですし。余裕がなければ、ああいうことはできないです。無駄な動きはしていますが、2Rでも差し際にヒザを入れて、しっかりとコントロールもできている。際の打撃も理想的なことをしていました。

蹴りが入り始めると、もう初回の中盤から間は全てペレイラです。イマダエフは何もできなかったので。ペレイラからすると、もう好き勝手にやっていました。胴回し回転蹴りで背中から落ちても、イマダエフが何もしないで待っていましたしね。フルコン空手ですら、あの展開で残心を決めると技有りになるというのに。あのチャンスに動かなかった。

ペレイラはブレずに好きにやっていたから……跳んだり、回ったりした結果、上手くいった感はあります。何度も言いますが、イマダエフがボクシングだけやっている限り、胴回し回転蹴りやカポエイラのような蹴りを使っている相手に対しては動けなくなり、そんな状況だとパンチも被弾してしまいます。彼のボクシングは相殺されてしまったのです、間を失うことで」

──岩﨑さんの教え子が、「先生、僕は楽しい試合がしたいんです」といってバック宙や前転を試合中にしていると、どうしますか。

「放っておきます(笑)。それで良い時もあるからです。一番いけないことは、習ったことをやろうとすることです。習ったことが自分の指揮系統のなかに入って、考えることなく使っているなら構いません。そうでないのに使おうと意識することで、居着きます。先生に習ったから使おうと思うなら、使わない方が良いです。

車を運転するときに、バックミラーやドアミラーを確認する。それは自分の指揮系統にあって、安全に車を運転するためにです。それがね、横に教官が乗っていて見ないと怒られるからミラーを確認しているようじゃ、運転なんてできないということですよ」

──なるほどっ!!

「ペレイラは誰の指示も受けず、自分でアレをやっていたんです。今、私もセコンドに就く時は『何かをやらせる』という意識はないです。何が起こっているのかを見るためにいる。相手の腹が効いているのに、気付いていないなら『腹を攻めろ』と指示を出します。指示というのは、後付けで良いと考えています」

──宙返りも?

「ハイ。ペレイラのバック宙はありなんです。ケージの中に入った時、選手は練習のときのように思った通りに動けないですよ。そして試合中に我が身に起きる、あの緊張は練習では経験できないです。だからこそ、試合になった時に大切なのは理屈ではなくて、心の持ちようなのです。ノリとかヴァイブスです。ペレイラはそういうヴァイブスなんです。

あんなことをしているから、脳で考えて動いているじゃない。だからヒザもパンチも入る。脳で考えて動く、それでは遅いんです。打つ、蹴るという意識の先に動かす。松嶋こよみがインドネシアでキム・ジェウォンに勝った時は右を打って、左で倒そうとしていました。そうしたら、無意識の右が当たった。そういうことなんだと思いますよ、ペライラのヒザも。

ペレイラは何に依って戦っていたのか。ノリなんです。それが一番怖いんです。ノリすぎると、グラウンドの相手にヒザを入れて反則負けになってしまいますが(※ディエゴ・サンチェス戦)。あのタイプの選手は上手く行った時と、失敗した時の差は激しいと思います。ただし、あんなことは5分✖3Rですら持たないのに、5分✖5Rでは絶対にできないです。仮に世界戦まで辿り着き、カマル・ウスマンを相手に宙返りをするなら、もう国民栄誉賞です(笑)」

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Bu et Sports de combat サンチン ブログ 剛毅會 岩﨑達也 武術空手

【Bu et Sports de combat】武術で勝つ。型の分解、サンチン編─02─「力を入れるのではなくて──」

【写真】サンチンの動きで、MMAに勝てたとしてもタマタマです。ただし、サンチンを習得してMMAの戦い生かせることは、確実にある (C)MMAPLANET

武術でMMAを勝つ。空手でMMAに勝利する──型を重視する剛毅會の武術空手だが、岩﨑達也宗師は「型と使って戦うということではない」と断言する。型稽古とは自身の状態を知り、相手との関係を知るために欠かせない。

サンチン、ナイファンチ、セイサン、パッサイ、クーサンクーの型稽古を行う剛毅會では、まずサンチンから指導する。そんな剛毅會の稽古には站椿が採り入れられている。5種類の型稽古にあって、唯一サンチンのみが意味を吸いて吐くという意味での呼吸を学ぶことができる。

全ての根幹となる武術の呼吸を学ぶことができる──サンチンの解析、第2回を行いたい。

<サンチン解析第1回はコチラから>


足の幅は肩幅より少し広く取り、爪先をやや内側に向け、同じ方向にヒザを向け両腕を胸の前で交差させて両腕受けの姿勢に。この構えを取ることで後ろや前、横から押されても崩れない強い姿勢となる。

ヒザを曲げるのではなく、同じ方向に向けることでヒザに力がある状態となる。前足のカカトと、後ろ足の爪先が同一線上となるよう気を付ける。『この時、前足のカカトと後ろ足の爪先が延長線上で交わる地点を三角形の頂点となるように意識する。この三角形の頂点を意識することが、続く動作で非常に大切になる』。

✖爪先が内側に向き過ぎると、押されることで崩れてしまう弱い姿勢に。

拳は起式の際の下げた肩の高さに。ワキは拳が一つ入るぐらいのスペースを創る。『両腕を胸の前で交差させる時に腕を絞ることで、体の中心のある強い姿勢がとれ、目も見えるようになる。サンチンの形によって内側のエネルギーの大きな違いが生じるので、腕を絞る時も力を入れて無理に絞ることは厳禁』。

【最重要ポイント】サンチンの型で最も大切なことが力を入れないこと。力を入れて取られた姿勢は、両腕受け拳が内から外に向いて動いた場合に外に行く力は強いが、逆の方向には弱くなる。力を入れるのではなくて、型から力が出てこなければならない。そうなると逆の方向へも中心ができることで強い構えとなる

✖ワキが空き過ぎる。ワキが拳一つ以上空くと、ここでも体の中心を失い、横からの力に弱い構えとなる

✖ワキが閉まり過ぎると──後ろからの力には強いが、前方からの力に弱くなる

<この項、続く>

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Bu et Sports de combat サンチン ブログ 剛毅會 岩﨑達也 武術空手

【Bu et Sports de combat】武術で勝つ。型の分解、サンチン編──01──「強い状態を作って始める」

【写真】サンチンを続けることで、MMAでの戦いに変化が生じたという松嶋こよみ (C)MMAPLANET

武術でMMAを勝つ。空手でMMAに勝利する──型を重視する剛毅會の武術空手だが、岩﨑達也宗師は「型と使って戦うということではない」と断言する。型稽古とは自身の状態を知り、相手との関係を知るために欠かせない。

サンチン、ナイファンチ、セイサン、パッサイ、クーサンクーの型稽古を行う剛毅會では、まずサンチンから指導する。そんな剛毅會の稽古には站椿が採り入れられている。5種類の型稽古にあって、唯一サンチンのみが意味を吸いて吐くという意味での呼吸を学ぶことができる。

全ての根幹となる武術の呼吸を学ぶことができる──剛毅會のサンチンの解析を行いたい、


まず気を付けの姿勢で、手を体側の横にして指をしっかりと下に向けるところから始める。

左の掌の上に右手を重ね、掌が上を向いた状態から、

指先が下になる姿勢──中国武術的には起式と呼ばれる、最初の姿勢を取る。『この形を取るだけは体の中心を無くし姿勢として弱く、押されるなどすると乱れてしまう。腕を絞って下げることが重要となる。肩が下がり、合わせた手が前方に行き過ぎないようにし、しっかりと指を下に向ける』

「始め」の号令で結び立ちからカカトを広げて=爪先を内側にし、内八の字立ちに。正拳を握り、拳甲を前方に、拳頭は下に向ける。『ここで大切なことは、爪先を内側に向けるときに、1・2というテンポでなく、「1」のみ。つまり一挙動で行うこと。一挙動でないと、隙ができる。下げた腕は体側よりもやや後ろに。この状態から始めないと、その後のサンチンの型、動きは意味がなくなる。強い状態を作って始めることが絶対』

✖手が体側より前に出ない。手が前方に出ると前方に対して隙ができてしまう

続いて右足を内側にしっかりと円を描くように進ませる。小さい円だと進めた足が元の位置に戻ってしまう。

右前サンチンとし同時に両腕を胸の前で交差させて開き、両腕受けの姿勢を取る。『足の幅は肩幅より少し広く取り、爪先をやや内側に向け、同じ方向にヒザを向ける。ヒザを曲げるのではなく、同じ方向に向けることでヒザに力がある状態となる。前足のカカトと、後ろ足の爪先が同一線上となるよう気を付ける。この時、前足のカカトと後ろ足の爪先が延長線上で交わる地点を三角形の頂点となるように意識する。この三角形の頂点を意識することが、続く動作で非常に大切になる』

〇中を通り、大きく円を描いて足を進める

✖頂点を意識せず、内側をしっかりと円を描かないで前に進むと、体の中心を失い姿勢は弱くなる

<この項、続く>

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Bu et Sports de combat Interview アレハンドロ・フローレス ハファエル・アウベス ブログ 岩﨑達也

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。アウベス✖フローレス「上、下、外、中」

【写真】ギロチンで敗れたフローレスだが、多角度な打撃は見るべきものがあったという。次戦に注目だ(C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑氏とともに見てみたい。

武術的観点に立って見た──DWTNCS S04 Ep04におけるハファエル・アウベス✖アレハンドロ・フローレスとは?!


打撃だけの競技だと当たり前に発展してくることが、組み技のあるMMAでは発展させることは難しい

──続いてフィジカル・モンスターのハファエル・アウベスとメキシカン・ストライカーのアレハンドロ・フローレスの試合についてお願いします。

「まず開始早々の展開で、アウベスという選手の殺気は凄まじいモノがありました。対してフローレスはひょろっとして、何となく間抜けに見えて。何だコイツ、チャップリンみたいだなって」

──いや、それはただ髭がそういう風に見えるだけじゃないですか(笑)。

「アハハハ。それぐらいアウベスの質量が凄かったんです。アウベスはロンダートンとか試合前からやって、試合でも跳びながら左ミドルを蹴っていましたね。

レは効いたと思いますが、試合の流れでいうと開始してからアッという間に、フローレスが質量をどっこいに持っていくんです。

アウベスは奇抜なことをやりますが、まぁ前に出られない。どっちが良いかというと、断然にフローレスが良かったです」

──なるほど、そういう見方もできるのですね。

「えっ? なぜですか、そう見えなかったですか。そこは武術的な見方はなくても」

──私にはフローレスは圧力に押されて、妙にバタついていたように見えました。

「いや、彼はドッタンバッタン動いて、多角度で攻撃しているんですよ。よく、見てくださいよ!!!!!! 本当にああいう動きを選手にして欲しいと思いました。イチ・ニでなく、イチで上、下、外、中とコンビネーションを見せています。対して、全くアウベスは手が出ていないですから」

──ハイ、アウベスは完全に待ちの状態で一発振りまわして勢いを見せつける。そこにフローレスも圧されて、有効な手立てはなかったように思っていました。

「アウベスは一発だけで、コンビネーションはまるで使えていなかったです。単発で何も繋がらない。あの戦いを見て、待ってないでテイクダウンにいくなりしろよっていう見方にはならないのでしょうか。だって全然、入っていかないんですよ」

──そこもMMAなので、フローレスは逆に組んで疲れさせるような動きが必要だったと思っています。そういうことができる選手が、UFCファイターだと。

「スタミナがないのは──前回、話したマイク・ブリーデンも同じで、連打を使わない。それは連打する稽古をしていないからじゃないですかね。稽古をすれば、それだけスタミナはつくはずです。

対してフローレスは最初こそ何がしたいんだって思って見ていたのですが、よく見ると距離を取りながら、アウトボクシングでパンチも蹴りも良い選手でした」

──有効打はありましたか。

「当たる、当たらないというのは、当たる時は当たります。でも、当たらないからって攻撃を使わなくなるというのは試合ではありえないですよね。コンビネーションを駆使して戦っていれば、どれか当たる。そういう考えで試合に挑む方が良いです」

──なるほど一撃必殺でも、百発百中でなくても。

「あのリーチがあって、下がりながら色々とできる選手は入る必要がないですからね。ただし、ダナ・ホワイトという興行主の前でどういう試合をするのかは個人の選択なのでしょうね。他の団体でもベルトを獲るために勝負に徹しているのを見ますが、コンテンダーシリーズになると──磁場が違ってきてしまうという風にも見えます。

それにフローレスだって隙はあります。でも、アウベスはそこを衝かない。ただ、単発でパンチを振るい、蹴っていくだけで。打ってきたモノに対し、どういう風に処理するのか。例えばローにカウンターを合わせるとか。パンチにテンカオを合わせるとか。そういう動きができる人のことを打撃ができる人だと私は捉えています。

攻撃だけできても、打撃ができるわけではないです。打ち終わりや蹴り終わりに、攻撃を入れる。フローレスは良く動いていましたが、蹴り終わりなどには隙がありました。蹴って止まる、でもアウベスはそこでも前にいかない。

いやアウベスの開始直後の重心の低さと、あの攻撃力は人を殺めかねない勢いがありましたよ。それがどんどん浮いてきて、自分がもっているバネに頼った攻撃だけになっていました。俺はこんなことができるというお披露目会のようで、倒すビジョンは見えなかったです。でも、それがコンテンダーシリーズという場なのかもしれないですね」

──対して敗れたフローレスは武術的な見方だと、質量が上で間も彼のモノだったということでしょうか。

「質量も間もフローレスでした。アウベスは居着いていて。止まっていて何もしない。居着かされているから、質量は当然のようにフローレスが上でアウベスが下です。フローレスのコンビネーションは、MMAという距離のなかでの連打です。中段で外を蹴っておいて、中はストレートを打つ。多角度で来ています。

打撃戦はレベルが上がると、ああいう多角度の攻撃が必要になってきます。左フックから右ローという対角線コンビネーション、右のローから左の前蹴りを入れると外から中、中段の前蹴りから上段の前蹴りは、中から上という具合で。

この打撃だけの競技だと当たり前に発展してくることが、組み技のあるMMAでは発展させることは難しいです。それをフローレスはMMAのなかでやっていた。ギロチンで負けてしまいましたが、フローレスは次も見たい選手ですね」

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Bu et Sports de combat アンソニー・ロメロ ブログ マイク・ブリーデン 岩﨑達也

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。ロメロ✖ブリーデン「質量が上回っていても」

【写真】なぜ質量が高く、破壊力のある攻撃を持つブリーデンは敗れてしまったのか(C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑氏とともに見てみたい。

武術的観点に立って見た──DWTNCS S04 Ep04におけるアンソニー・ロメロ✖マイク・ブリーデンとは?!


強力な武器を持っていても使えていない

──アンソニー・ロメロ✖マイク・ブリーデンのコンテンダーシリーズの一戦ですが、どのような印象を持たれましたか。

「いやぁ、2人も良い選手じゃないですか!! そして質量が高いのは基本的には負けたブリーデンでした」

──そうなのですか?

「ハイ、そこに関しては完全にブリーデンです──足を蹴られて負けてしまいましたが。そしてアグレッシブなのがロメロでした。切れでロメロという感じで、足を効かせて。ブリーデンは質量が高くて、間も自分のモノになるのに、ヒットアンドアウェイで台無しにしてしまっています。パンチも重いのにあの戦い方をするということは、自信がないのですかね。それと、右足前の左のパンチと左ミドルが良かったです。ただし、そこもずっと使わない」

──サウスポーでの左の攻撃が良かったということですね。最初はオーソで、カーフを効かされて変えた構えの方が威力があった。でも、またオーソに戻した。

「その通りです。時折り、サウスポーに構えた時の左のパンチも蹴りも凄く重いです。2Rにブリーデンがテイクダウンされ、立ち上がり際にロメロがハイキックを狙ったシーンがあったじゃないですか」

──ハイ、MMAとして間断のない素晴らしい攻撃に思いました。

「ただ、あの後の展開でブリーデンがチョイと出したヒザ蹴り、その場で本当にチョコンと出したヒザなのですが、アレが効くということは質量が高いということなんです。ただし、そこを生かしきれていない。

しかし、コンテンダーシリーズの試合は最近のUFCの大物選手の試合より、良い試合が多いですね。このUFCと契約していない選手たちは、本当に良い戦いをしている。しかも、この試合で勝ったロメロはUFCと契約できなかったのだから……もう、驚きですよ。

だから、どこに理想を持っていくかですね。3Rにブリーデンは必死になってパンチを振るっていった。なぜ、それを1Rと2Rにしなかったのか。スタミナに自信がなかったのですかね。それぐらいしか、考えられないですね──あれだけの攻撃力があるのに。体もボチャっとしていて。

対してロメロは精悍で、好戦的でしたね。横蹴りができるような、そういう蹴りは使っていないですけど、使える構えで。オーソ同士の時のは、このロメロの左足を斜にした構えだと中心がズレるのでブリーデンは見えていなかったかと思います」

──ロメロの構えのせいで?

「ハイ。見えなかった。サウスポーに構えると見えるけど、それを続けない。対して、ブリーデンが見えてない状況でロメロは際の蹴り、離れ際とかの攻撃が凄く良かったです。繰り返しますが、これでUFCと契約できないとは……。もう、何をか言わんや。そこは私が言えることはないのですが……。

ただし日本で、ダナ・ホワイトが目の前で試合を見ていて『今日、良いところを見せた選手は契約するぞ』なんていう状況があったら、日本の選手だってやりますよ。それはやります。ただし、そういう戦い方を外国人とすると日本人が勝つのは難しいでしょうが」

──話をロメロ✖ブリーデンに戻しますと、それだけ質量が高く、重いパンチを持っているブリーデンですが、カーフを効かされてしまいました。

「あのカーフで効かされていましたが、ロメロは続けなかったですよね。蹴った本人も痛めていないでしょうか。自分も相当に痛めるような蹴りになっていたように思いました。それとブリーデンは、結局のところ単発なんですよね。ずっとリズムも1・2、1・2で……よっこいしょ、よっこいしょって感じで。あれだと当たらないですね。だから、先ほどもいったように、どこを理想を置いて戦っているのかということなんです。

質量が高くても、その概念がないですし、ヒットアンドアウェイで下がってしまうから、間もロメロになってしまいます。ロメロは間が自分にくると、常に攻撃ができていました。それは多少殴られようが攻撃するという勝気なところであり、そういう選手と戦うと質量が高くても攻められることが多くなり、見た目も悪くなります」

──質量が高くても、蹴られてしまう。自分の攻撃で間を創ることはできないのですか。

「質量の上下というのは、立ち会うと必ず生じます。そこを起点にモノゴトを考えることは今のMMA界や格闘技界にはないです。だから、判定も質量の上下と勝敗が一致するものではないです。何より質量が上回っていても勝つ方向に戦略を練らないと、強力な武器を持っていても使えていないことになります。コンテンダーシリーズまで来て、武器がなかったり、能力のいない人はいないでしょうが、ちゃんと武器を使えないのは勿体ないです。ブリーデンもそういうことになるのですが、それはブリーデンには相当な伸びしろが残されているということになります」

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Bu et Sports de combat Interview ブログ 岩﨑達也 王向斎 郭雲深

【Bu et Sports de combat】なぜ武術空手に型の稽古は必要なのか─09─站椿05「站椿と型、逆も真理」

【写真】站椿をすることが目的ではなく、站椿をすることになって型を理解です。その考えにいたったのが、型の稽古を始めてから。逆もまた真理 (C)MMAPLANET

型、中国武術の套路をルーツとされるなか沖縄で手の修得に用いられた。それが空手の型だ。ここで取り上げているサンチンもそのルーツは中国武術にあるといわれている。

型を重視する剛毅會の武術空手だが、岩﨑達也宗師は「型と使って戦うということではない」と断言する。自身の状態を知り、相手との関係を知るために欠かせない型稽古を剛毅會ではサンチンから指導する。そんな剛毅會の稽古には站椿が採り入れられている。

なぜ、型稽古が必要なのか。そして型稽古に站椿を採り入れているのか。日本に站椿が持ち込まれるルーツとなった意拳の王向斎は型を廃したが、その逆も真理──剛毅會で站椿を採り入れることで、何が変わるのか──站椿編、最終回をお届けしたい。

<【Bu et Sports de combat】なぜ武術空手に型の稽古は必要なのか─08─站椿04「腕が動く時、空気がある」はコチラから>


王向斎は站椿と型……套路をやってきたわけです

──排気量の大きな外国人選手とMMAを戦う場合、日本人選手は空力を考えた方が良いということになりますか。

「ここが面白いところで殴る、蹴るとなると殺傷能力によって空間や時間は変化します。空間の伸び縮みが質量によって変化するんです。質量が上か下かによって、同じ1メートルでも距離は変わってきます。

接触してから、そして打撃の受け返しは欧米人とやりやろうとしても無理です。排気量とトルク勝負になると勝てない。だけど接触しなければ、相手を居着かせてしまえば活路は見いだせるんです。ここは站椿とは関係ない話ですけどね(笑)」

──いえいえ、全て繋がっていますから。

「そうですね。站椿とはそういった目に見えないモノを理解しようとする心を養い、理解できる稽古です」

──つまり武術空手を収めるために型の稽古と並行して、站椿もした方が良いということでしょうか。

「それは勿論そうです。ただし、目的は何なのか。目的という部分が凄く難しい稽古です。私自身、站椿をやってから型をやっています。ただし、そこで重力や引力を意識して──想念というかイメージしてはいけないんです。例えばボールがあって、それを抱いているというイメージで……とか言うじゃないですか。それを脳ミソでやると、脳ってやつは捏造を始めるんです。

そうではなく、そういう感じがある。ボールを抱いたという感じで収まるモノで。そこがしっかりと収まるのは実は型をやっているからなんです。型をやるまでは中心点というモノが分からなかったんです。独学だから。それが型を始めてから、站椿をやると──站椿をする答……站椿をする目的が見つかったんです」

──う~ん、また難しくなってきました。意拳の王向斎は型を不要として站椿だけをしていたわけですよね。

「そこが私の偏屈なところで、王向斎の逆を行ったんです。今、言われたように王向斎は型を否定して站椿に行きました。私は站椿から先にやっているので、型がなかったんです。つまりは王向斎が型は要らないという風になったのも、型をやっていたからです。

型は身に付けると、残っているんです。内蔵さえしてしまえばサンチンの構えで組手をする必要は一切ありません。インストールさえしてしまえば、戦いでその形(かたち)になる必要はむしろないんです」

──武術を生かすことであって武術をかたどる必要は戦いにおいてないということですね。

「その通りです。だから形意拳の型を究めた人の站椿と、站椿から始めた人の站椿は違うモノです。ただし、それは私のなかでの站椿の捉え方です。剛毅會で站椿を稽古するのは、站椿を稽古することが目的ではありません。意拳を稽古することが、目的ではないんです。型を理解するために站椿の稽古をします」

──站椿をすることで、生徒さんたちの型の理解が進んでいるという感覚はありますか。

「型の稽古をすることは、ただ動作をすることではありません。回数を重ねれば型……順番なんて覚えるモノなんです。動作でなく、一つは自分の内面を変えることですよね。内面が変わることで空気や重力との関係が変わってきます。空気中にスッと入っていける、それは自身の質量が上がったことになります」

──1日に3回サンチンをやらないといけないという義務感でやっても、内面は変わらないということですね。

「良い例えです(笑)。私が武術空手を習っていた先生は『道着を着ていない自分に、着ている自分が追いつくには10年掛る』と言われていました。つまり道着を着ていないで普通にやっていることが、道着を着るとできなくなるということなんです」

──岩﨑さんも実際でそうでしたか。

「最近、ようやく薄れてきました。やはり道着を着ると、構えてしまうってことなんですよね。私も毎日のように稽古を繰り返していますが、稽古をする感覚でなくなってきました。朝起きて、トイレに行って、顔を洗って、歯を磨く。それと同じで、稽古をしないと生活が始まらない。やらない理由がない。そういうモノですよね。義務感でもなんでないですから」

──結論として、なのですが……站椿をすることで、型も相乗効果で身に付くとは断言できるモノですか。

「少なくとも私が要求する……、う~ん、そうですね……型稽古をする目的が存在しています。それは空手という名の下で、サンチン一つするにしても各々の先生で目的が違います。なので他の先生方の考えは分からないのですが、私が要求する空手の稽古にあって站椿をすることが効果的であることは断言できます。

ただし、站椿が目的ではありません。目的はあくまでも空手、型です。それを理解するための站椿の稽古は非常に有効です」

──その結果、站椿を軸に考えると意拳とは逆で目的が果たせる。非常に興味深いです。

「逆も真なり──ですよね、それこそ(笑)。そこが本当に我ながら面白いことだと思います。ただですね、私と似たような経緯で站椿を行っていた方が、念願叶って王向斎直径の意拳を中国で学べたそうなんです。するとまず学んだのが、形意拳の型だったというんです」

──おぉ!!

「やっぱり型は必要じゃんって(笑)。達人が経験論に基づいて出した結論、それが誰にも当てはまるのかということは全てにおきかえて考える必要はありますよね」

──あぁ、本当にその通りですね。文字を書き記すにしても5W1Hを書き続けている人だから、5W1Hを書き記さない文章が書ける。5W1Hを書いてこなかった人がそれをやっても、ただの駄文なのと同じです。

「王向斎の師匠は郭雲深という形意拳の達人です。そこで站椿と型……套路をやってきたわけです」

──いやぁ武術、格闘技は歴史の積み重ねでMMAが今、目の前に存在するというのが本当に楽しいです。

「だから……ナイハンチ、クーサンクー、パッサイに関しても私自身のなかに確証はあります。けれども言葉にしたり、文字にするには論拠が必要になります。木刀を振ってもらうと理解してもらえることを、言葉で示すには──やはり首里手の歴史をたどり、あるいは現地に赴いてその欠片を探し求める必要があると私は思うんです。

サンチンにしても那覇手の東恩納寛量先生は息吹を用いていなかったのが、宮城長順先生が白鶴拳のなかの鳴鶴拳から採り入れた。そういう論拠があります、カァーって鶴が鳴くような音だなと。そういう説明をするために文献を調べたり、現地を訪れる必要があると思うんです。グレイシー柔術だったら『私の父から習った』とか『祖父の教えは』と、そこが血の繋がりでできてしまうのですが。でも空手は、そうはいかないですからねぇ。この連載が題目がナイハンチになった時に、私はどうすれば良いのか……(苦笑)。そういう想いはあります」

──なるほどぉ(笑)。まだサンチンの解明に入ったばかりですので、並行して探求をお願いします。

「いやぁ、でも一度稽古をすることで、色々な気付きがあります。サンチンの型一つをとっても、完成なんてありえないんです。それこそが呼吸を根源とした力の深さなんです。内面の見えないエネルギーによって、外面に変化が表れます。おかしな話ですが、指先が強くなったりするんです。巻き藁を突くのとは違う形でも、そういう外面の変化は起こります」

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Bu et Sports de combat Interview ブログ 安藤達也 岩﨑達也 田丸匠

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。安藤達也✖田丸匠 「究極の一挙動へ」

【写真】田丸は良い打撃を持っているが、その蹴りに左ストレートを合わされて敗れた(C)MMAPLANET

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑氏とともに見てみたい。

武術的観点に立って見た──安藤達也✖田丸匠とは?!


──田丸選手が三日月のような蹴りを当てて、良いペースで戦っているように見えたのですが、正面のパンチの届く距離での打撃戦で、その蹴りの後に左ストレートを被弾しダウン。そのままパウンドでTKO負けとなりました。

「田丸選手は勿体ない試合でした。実は3年ほど前ですが、彼が稽古に来たことが1度あったんです。あのう……打撃が致命的にダメな人って、MMAファイターのなかにもいるんです。相手を痛めつけることができない人というのが。打ってもただ手を出しているだけで、蹴ってもただ足を出しているだけで倒せない。それでも正しい打ち方をしている。そういう人って……手の施しようがないんです」

──……。

「田丸君はまるっきり逆なんです。全ての蹴りもパンチも痛い、相手が嫌な打撃ができます。それはハッキリいってクオリティの高い練習をしているとか、そういう問題ではありません。きっと地方にいても、彼に合った練習ができているのだと思います。ただし、その練習には隙があるものです。安藤選手には合わされるべくして、合わされています。

田丸選手の打撃はいくらでも良くなります。ミドルにしても中足で蹴っています。中段も上段も蹴っている。全て嫌な攻撃です」

──確かに蹴りがよく入っていました。

「変な蹴りなんですけど、この距離だと安藤選手はもらってしまう。そういう序盤でした。嫌なタイミングで蹴ることができています。セオリーで受け返しという練習をしている選手には、嫌な攻撃になります。この攻撃を練習で育んでいで来たのなら、彼の練習環境の良さです。田丸君のオリジナルです」

──右の前蹴りから右の追い突きという動きもありました。

「あの追い突きは、ただ出しているだけですね。蹴りとパンチのコンビネーションがあると、間を創ることができます。そういう動きなんです。ただし、田丸君はこの直後に組みにいっている。う~ん、田丸君は引き出しが多過ぎるのでしょうね。グラップリングに自信があるのはレスリングでなく、下になった時かと思います。だから下をチョイスしてしまっている。わりと呑気にガードポジションを選択してしまう。あのう、田丸君はそれだけ寝技は強いのですか。今、MMAで下で勝てる人は本当に組み技が強いないといけない。

それこそ青木真也選手や田中路教選手を相手にして、下になっても勝てるぐらいでないとMMAで無暗に下を選択するのは良い流れではないです」

──MMAファイターで、そこまで下が主武器になる選手は日本には存在しないかと……。

「であるなら……追い突きのあとに離れるべきだしたね。入り方としては、前蹴りから追い突きは良い攻撃です。打撃で相手を仕留めていくには。でも組んじゃうんと間はなくなるのだから。モノゴトとは試合だけでなく、全てに先々のことを考えているのか──ということですよね」

──そこに関しては、きっと打撃で間を取ったら組んで倒す。MMA的に良い流れを作ろうとしているのではないでしょうか。

「う~ん、それで組んで下になり仕留めることができない。それが良い流れになるとは思えないです。だって、打撃で倒せる試合ですよ」

──えっ、そこまでなのですか。

「ハイ。右の中足の後に左ストレートを打たれて倒れるまで、良かったのは田丸君です。下ができるのは良いことです、MMAを戦ううえで。でも、あの局面で下になるかもしれない選択をする必要はなかった。逆に伺いたいのですが、安藤選手と戦う時に打撃で戦うのか、下になるのか、どちらの方が良いと考えていますか」

──打撃とレスリングのMMAの王道で戦うと、分が悪いので距離を取って打撃を入れ、組んでいくのはありだったと思います。下になって極めることができなくても、スクランブルでスタンドには戻ることができているので。

「う~む、この試合だけを見ると打撃は優位で、組みは不利。そして下になって、またスタンドに戻るなら、組んで下になって立つということは余分に感じてしまいます。私には……」

──打撃だけで……組みを見せての打撃、そして初回ではなく終盤になり、安藤選手がスタミナをなくしてからだと下の選択もあったかと思います。もちろん、そこまでのスコアの計算も必要になってきますか。

「つまりは、そこです。今、高島さんが言われたのは終盤で疲れた時に田丸君が下になると、安藤選手は嫌だということだと思います。でも、あの展開で組んで、下になるのは安藤選手にとっては嬉しい展開だったはずです」

──それが田丸選手のMMAというのもありますが、そこまで打撃で優位に立てるとは多くの人間が思っていなかったと思います。ただ、彼自身は打撃だけでも負けないとは言っていました。そういう風に思われているからこそ、打撃で真正面に立ち過ぎたのかと。

「序盤の打撃戦を見ていると、打撃に徹していれば良かったのにと私は思いました。あの距離と、そこから離れて出入りがあれば。詰めてやられるというのは、先の先がとれてないからです。先の先がとれないのに、先に動くとやられます」

──本来はもっと打って、離れて、組んで、離れてという戦いが持ち味の選手です。が、田丸は正攻法じゃない、掛け逃げで真っ向勝負ができないという声に反発したかったかと。

「田丸は正攻法じゃない? 真っ向勝負できない……誰が言っていることに対して、彼は反発したかったのでしょうか」

──それはこれまでの試合を見た周囲の声かと。

「周囲というのはチーム内部ですか?」

──チーム内部のことは分からないですが、中継や大会関係者からはそういう風に言われることはあったかと思います。

「そういうことであれば、それぐらいの関係にある人間のいうことに反発してもしょうがないのに……。そんな声は気にする必要はないです。それを見返したい気持ちで、詰め過ぎたのであれば勿体ない」

──私も彼に対する軸が乱れる、逃げじゃないのかという意見を拾い過ぎて影響が出てしまったのであれば、申し訳ないと実は試合後に感じていました……。

「いやいやそんな記事に書かれていることとなんて、気にしていてはダメですよ。苦言でも自分に必要だと思うモノは耳に残して、他のことは気にするなと。ホントに自分の意識にベクトルが向かっていると、記事にしても人の意見にしても必要ないモノは切り捨てます。

ただし、田丸君の打撃が良いと言ってもあくまでタメや重心移動を利用した運動力学に沿ったものでエネルギー、つまり質量があがる打撃ではありません。

運動力学に沿った打撃だとリーチやタイミングといった相対的な要因に左右されるので、戦況は有利になったり不利になったりします」

──そこは繰り返し、武術的な観点で見るMMAで岩﨑さんが指摘されてきた部分ですね。

「具体的に言うと、田丸君は前蹴りに安藤選手の左ストレートを合わされたわけですが、それは前蹴りの質量が低いから、安藤選手の間になったということなのです。逆をいえば、ただ漫然と動作するのではなく、相手に対し先をとる、間を制すことを理解し質量の高い前蹴りを蹴れば、あの左ストレートをもらうことは絶対にありません。つまり、彼の打撃は質量を伴った打撃ではないということなのです。

田丸選手は今、何歳ですか?」

──24歳です。

「競技でタイトルを取りたい、海外で通用したい──その想いを持ち、遂行するのは本人次第です。そこではなく、安藤選手との試合で僕が彼から見えた技術的な要素、そして人間的要素は限りなく伸びます。殴ることができて、蹴ることができている。1.5倍、スピードにしても早くなり、今の1.5倍の打撃になれば……。例えば、あの前の試合でKO勝ちした黒澤亮平選手のワンツー、あれはフックのフォローまでありました。

あの動きこそ、セイサンという型で要求する究極の一挙動というヤツです。それも『いぃち』ではなく『イチ』というぐらい短い。田丸君の攻撃は一挙動ではないですよね。全てにタメを使っていて、全てに重心移動を使っています。そういう攻撃は相手が返してこない……相手が受けに回っているなら、やっつけることができます。

ただし、これから安藤選手や強い選手と戦っていくためには、打撃を伸ばさないといけない。究極の一挙動へ『イチ』で動けるように。どこの誰かが言っているようなことは気にしないで。評価が低いなんて、そんなのは……土曜日の修斗の大会が、格闘技として体をなしているのは田丸君と安藤選手の試合があったから。それぐらいだと私は思いましたよ。今回の試合でできた打撃、これは確実に1.5倍は良くなる。

そうなればもっと良くなるということで──でも、もっと良くなるとか差っ引いてもケージの中であの突き、蹴りができる選手はそうは見ないです。彼の評価が良くないのであれば、それを言っている人に『じゃあ、彼より良い選手は誰なの?』と聞きたいです。田丸君はもっと強くなれます」

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Bu et Sports de combat Interview サンチン ブログ 岩﨑達也 站椿

【Bu et Sports de combat】なぜ武術空手に型の稽古は必要なのか─08─站椿04「腕が動く時、空気がある」

【写真】突きも、飛行機も新幹線も、そしてF1も時間と空気の中を動いている。その空気の存在を感じるための站椿を剛毅會では採り入れている (C)MMAPLANET

型、中国武術の套路をルーツとされるなか沖縄で手の修得に用いられた。それが空手の型だ。ここで取り上げているサンチンもそのルーツは中国武術にあるといわれている。元々は一対一、あるいは極小人数で稽古が行われていた型は、明治期に入り空手が体育に採用されることで、集団で行う体力を養う運動へと変化した。

型を重視する剛毅會の武術空手だが、岩﨑達也宗師は「型と使って戦うということではない」と断言する。自身の状態を知り、相手との関係を知るために欠かせない型稽古を剛毅會ではサンチンから指導する。そんな剛毅會の稽古には站椿が採り入れられている。

なぜ、型稽古が必要なのか。そして型稽古に站椿を採り入れているのか。それは我々の周囲には大気が存在し、重力や引力とともに成り立っているからだった。

<【Bu et Sports de combat】なぜ武術空手に型の稽古は必要なのか─07─站椿03「中国の意拳は違う」はコチラから>


──站椿や推手がレスリングに通じてくる実感があったということですか。

「MMAにチャレンジしようと思ってもレスリングや寝技で勝とうということではなかったですからね。打撃で勝つにはテイクダウンをするレスリングと、テイクダウンをされないレスリングということで、レスリング自体も変わってきます。ずっと空手をやってきて寝技で勝とうなんて風にはやはりなれないですから、テイクダウンが上手くなろうというレスリングでの稽古ではなかったです。

でも、打撃だけ勝つなんて方法論は当時のMMAには存在していなかったので、自分が求めているMMAを稽古するうえで站椿は役立ちました」

──それはどういう風に役立つのですか。

「例えばレスリングやグラップリング、組み合いでも相手との衝突が起こるわけじゃないですか」

──ハイ。

「その組み合った時の力の逃がし方だとか、踏ん張りあっているときに意拳の動きを使うと、意外と凌げることができたんです」

──それは周囲から理解を得ることはできましたか。

「そこは試合に勝たないと理解はしてもらえないですよ。それが勝負、スポーツの世界です。だから周囲の理解云々とは関係なく、自分のなかで蓄積はありました」

──それは今もMMAに向き合っている選手たちにも生きるのでは……。

「生きます。ただ……何というのか、あの当時はまだ武術空手に出会っていなかったので、二子玉川に行くのに山手線をグルグルと回り続けるように、降りる駅が見当たらない状態だったんです。でも、それを『渋谷で降りれば、田園都市線に乗り換えて二子玉川に行ける』と教えてくれたのが武術空手、型だったんです。意拳、站椿をやっていて必要だとは感じている……ハマってきているものがある。でも、私がやっているのは自己流です。だから中国に渡って習おうと思った時期もありました。でも武術空手と型に出会うことで進むべき方向が定まりました」

──今、剛毅會で稽古をしている人達に站椿を指導するのは、どういうことからなのですか。

「それは……例えばサンチンをやるときに、最初に諸手の腕受けで構えを取ります。

その時に自分の腕が動く。自分の腕が動く時には必ず空気であったり、重力であったりというものは大気中にあり、それらとの関係のなかで動かしているんです。

その感覚はないと思います。ただし、事実として重力は存在しており、腕を動かすにも大気の流れと関係しているんです。我々は目に見えないモノに活かされていて、その事実関係を理解した方がより力が出ます。

引力も重力も空気圧も関係なく手を動かして力を出すのと、そこを踏まえて手を動かして力をだすのとでは違ってきます。新幹線が360キロで走るために、どんどん口ばしが長くなるような流線形の車輛に変わってきました。

F1だと前に進むのにはエンジンという動力があって、タイヤが回り、地面と設置する。そのためにダウンフォースという上から抑えつける力を利用し、かつ空気抵抗……ドラッグを少なくすることで、前に進みます。

四角い自家用車とは全く違うから、あのスピードでコーナーを曲がることができる。それと同じなんです、突くも受けるのも。飛行機が空に飛びだすためには空気抵抗をなるべくなくして、浮力を得る必要があります。抵抗していると、それこそ空中分解してしまいますよね。」

──私にとっては凄く分かりやすい例えです。

「実は私は飛行機に乗っていて、揺れるのが大嫌いなんです。

分厚い雲のなかに入っていく、あの揺れのなかで飛行機が気圧、気流、浮力、動力があり飛んでいる。『あぁ、これぞ武術だな』と思うことがあります。やはりパイロットも上手い人と、そうでもない人がいるのでしょうね。

一度、積乱雲のなかを飛ばすという時に『揺れますが、問題ありません』というアナウンスがあって。あの時の積乱雲のなかに飛行機が入っていく、まさに武術でいう入るですよ。飛行機はああいう空気圧の中に入っている。あの中で揺れなくするためにエンジンの回転数を上げたりだとか、色々とパイロットの人が操縦をしている。気流のなかでエンジンの回転数を上げる、それこそサンチンに要求される呼吸力ですよ」

──あぁ、面白いですねぇ。

「この呼吸力というのは言葉や文字では絶対に説明しても分かってもらえないです。実際に体験してもらわないと。だから体験してもらって、理解してもらう。そのための站椿です」

──これが面白いのは、興味があるからです。興味のない人には、やはり目に見えないし、腕を振るうのに空気抵抗は感じない。

「そうですね。だから否定する人がいるのは構いません。ただし、今、ここに存在しているものなのです。F1で同じエンジンを積んでもシャシーが違うと、速さも違ってきます。それはなぜか、シャシーが空気を制御し利用できているのと、そうでない場合があるからです。空気圧、重力と戦い、調和して機体差がでます。エンジンの出力はそれほど変わらない。それは人間、MMAを戦うために懸命に稽古している選手たちの出力も同じなら、この空気抵抗、重力を知ることで突きの威力は変わってきます。

ブラジル人やロシア人、米国人のような出力の高いエンジンを持っている連中と接触してからやり合おうと思っても勝てない。ただし、接触しなければ勝負できます」

<この項、続く>

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Bu et Sports de combat Interview ダレン・ティル ブログ ロバート・ウィティカー 岩﨑達也

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。ロバート・ウィティカー✖ダレン・ティル

【写真】武術的見地に立つと、強かったのはティル。倒す攻撃を続けていた彼が判定で敗れた理由とは……(C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑氏とともに見てみたい。

武術的観点に立って見た──ロバート・ウィティカー✖ダレン・ティルとは?!


一つ、一つの突き、蹴りを効かせるという攻撃は、帳尻合わせをする相手には判定を持っていかれる

──ウィティカーとティル、初回にウィティカーが踏み込んだ時に左エルボーを被弾してダウンを喫しました。ティルはウィティカーの左ジャブは被弾していたけど、右は貰わない。そしてエルボーを入れました。

「私が見たところ、常に質量はティルが高かったです。そして間もティルで、試合は続きました。これはほぼ1Rから4Rまでティルだったんです。そして左エルボーのシーンは、ウィティカーがあのまま突っ込んでいくとカウンターを被弾するというのは、見えましたね。ストレートかと思ったらエルボーでしたが……。

ウィティカーは左ジャブが当たっていても、右はティルの左があるから当たらない。それを無理して突っ込むとカウンターを受けるわけです。完全にティルの間なので、ウィティカーが右を出しても届かないんです。そしてウィティカーは跳ねるから、動けているけど質量が落ちてしまいます。だから1Rを見る限りウィティカーには勝機がなかったように映りました。もう攻めようがないと。

それが2Rに入ると、ウィティカーが打とうという姿勢を持つようになった。結果、ピョンピョン跳ねなくなったんです。ウティカーの気持ちと頭がどうだったのかは分かりませんが、本気で打ち込むときには跳ねない──それを体は知っているんです」

──そして右オーバーハンドで逆にウィティカーがダウンを奪い返すわけですね。

「あれは目が覚めるようなワンツーでした。たまにウィティカーはやるんですよ、あのパンチを。それでも間はティルで、その証拠にまるでウィティカーのハイは当たらなかったです。見切っているんです。見切るとは避けることではなくて、避けようとしなくても相手の蹴りが当たらなくなることなんです。

見切りとは見て、切って、避けることではなくて、それこそ食品の見切り品は値段が安くなるというのは、その値段はもう売れない。だから諦めて捨てるように、値段を安くして売ることをいいます。もう、お前の攻撃は当たらないよ、見切っているんだよ──ということですよね」

──とはいえ3Rから5Rまで、ティルにも決定的な一打はなかったです。

「ハイ、確かに途中でティルは攻撃を受けるようなところもありました。それは自分の攻撃だけを考えていて、ウィティカーがどうしようがやることを決めていたからだと思います。ティルは如何に左の突きを出すか。左のハイ、左のアッパー、そこを軸に全ての攻撃を組み立てているように見えました。と同時にウィティカーの攻撃は当たる、当たらないで判断すると当たっているかもしれないですが、効果的かどうかで見ると効果的ではないです。この試合、私の方から質問させてほしいのですが、ウィティカーの勝ちなのでしょうか?」

──私はそうだと思います。ラウンドマストですし。1Rはダウンを奪ったティル。2Rは逆にダウンを取ったウィティカーで問題ない。ここからは色々な見方があるかと思いますが、3Rはウィティカーの左が当たるようになったのと、ティルは手数が減ったように感じました。そして4Rは互いに手がない。そのなかで、圧力がティルかと。ここは分からないですが、互角のなかで5Rにティルはテイクダウンとそこからのバックを取られたので、48-47は順当ではなかったかと思います。

「あぁ、なるほど。MMAとして上手くまとめたというわけですね。効果的でないパンチも、米国のボクシングの判定の取り方のように、手数が多いから取るというヤツですね。ここですね……一つ、一つの突き、蹴りを効かせるという攻撃は、帳尻合わせをする相手には判定を持っていかれることがあります。

それに5Rはティルが足が効いたのか、無理やりポーカーフェイスを作ったり、何かレフェリーに注文を入れた。ああいうことをすると、間がウィティカーになってしまいます」

──ティルの5Rは、手を変えなかったですね。圧倒して勝っているわけではないのに、ずっとあの左と待ちで勝負した。対して、ウィティカーは右の飛び込みをテイクダウンに変え、次はテイクダウンをフェイクにして、右を当てる。そういう工夫を3Rからしてきた結果、テイクダウンを取った。MMAとして大きく変化させるのでなく、同じリズムと距離で攻め方に工夫をしたウィティカーは素晴らしかったと思います。

「つまりはティルの左を軸に考えた動きが、ポイントゲームでは仇となったということですね。逆にウィティカーの仕掛けは、工夫で。でも最後だけですよね、倒してバックに回ったのは。テイクダウン狙いに対しても、左アッパーという質量の高い攻撃をしていたのはティルでしたし。

やはり5Rは長いです。これはピョートル・ヤンとジョゼ・アルドの時も同じで、今回はティルにしてもウィティカーしても動かないラウンドができてしまいました」

ティルは自分の重心を重くして、高い質量でパンチを打つことができる

──その5Rを戦い抜けるからこそ、チャンピオンだというのはあるのですが、UFCはメインは5Rという競技的には首を傾げる規定が定着しています。

「もうこの試合に関しては、5Rも休んでいる感がありましたしね。そういうなかでウィティカーの一つのテイクダウンとバックが優位に働くと。ただし、武術的な観点でいえばティルは自分の重心を重くして、高い質量でパンチを打つことができるんです。アレは狙うというよりも、重くして打っている。彼のように重くして前に出ると、カウンターは被弾しないんです」

──実際にウィティカーがカウンターを当てた場面は記憶に残っていないです。

「それは常に間がティルのモノで、つまり先の先が取れているということです。そこは凄く感心しました。ただし、MMAのジャッジの打撃の見方はそうじゃない。これがまた難しいところですね。ティルは貰っていないです。組みつかれたけど。裁定で微妙なところにいるのであれば、ティルはMMAという勝負に甘かったということになりますし、私も勉強になる試合でした。

それと忘れてならないのは、ウィティカーは2Rにダウンを奪ったように倒す力も持っている。きっと自分の良さも把握していると思います。そして、その攻撃を繰り返すと自分がどれだけエネルギーを消費するのかも把握している。だからポイントを纏めに行った」

──そういう見方もできるのですね。

「この試合は先ほどから言っているように、リーチもあって拳に倒す実感を持っているのもティルです。だから打撃勝負ではウィティカーは不利で、それでも自分の強さを出すことも時折りある。素晴らしワンツーを入れて、質量を高めるシーンも見られました。ただし、そこを軸に戦わないのはMMAで勝つためなのでしょうね。そこにはやはり5R、スタミナの配分が大きく関係していると思います。

試合後に彼が見ている人にストレスを与える試合だった──と言ったのも、それを自分で分かっているからでしょうし。それにウィティカーは逃げてなかったですからね。やはり元チャンピオンだかし、そういう部分で負けねぇよっていう気持ちがあるのかと思います」

──これぞMMAの勝ち方ですが、武術的にはティルが強かった試合だったということですね。

「断言をしますが、強いのはティルです。ただし、MMAで勝てるのがウィティカー。ティルには工夫が足らなかった。それが競技なんです。それはどの格闘技でもいえることです。武術的な原理原則とは乖離してしまうので、武術を追求している者は試合に出るなら、勝ち方というモノを考えるチームに属す必要があります。そうでないと勝てない。

あらゆる試合は相手に勝つために存在しています。だから、審判の旗を挙げてもらって勝つ必要がある。それが選手です。強くなる価値、UFCで王者になる価値は似ているようで違いがあります。そして、この試合では勝つ意欲はあったのがウィティカーだったのかと思います。と同時に強さ、弱さを競いあっているなかで、工夫やゲームプランで勝てない時、武術にはそこを補うことができます。

勝ちに不思議な勝ちあり、負けに不思議な負けなしと言われますが、勝てない時、負けそうな相手と戦う時、勝てない相手とぶつかった時、武術は絶対に必要になってきます。そこはご期待ください(笑)」