【写真】平良の往く道の困難さを、経験値をもって予測できる点で水垣偉弥の言葉は説得力に満ちている(C)ZUFFA/UFC
過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。3人の論客から、水垣偉弥氏が選んだ水垣偉弥氏が選んだ2022 年5月の一番。お蔵入り厳禁──5月7日に行われたUFC274で組まれた変則UFC世界ライト級選手権試合=シャーウス・オリヴェイラ×ジャスティン・ゲイジー戦から、同14日のUFC ESPN36で行われた平良達郎カーロス・キャンデラリオ戦について語らおう。
<月刊、水垣偉弥のこの一番:5月:シャーウス・オリヴェイラジャスティン・ゲイジー戦はコチラから>
──いやあヌルマゴメドフがオリヴェイラのトップを取った展開、見てみたいですねぇ!!
「だから完璧なヌルマゴメドフが戻って来るならオリヴェイラ戦が見たいですけど、アレっていう彼は見たくないです」
──いうと今のマクレガーですかね……。
「そうですね(苦笑)。マクレガーはフェザー級時代、ライトになってからはエディ・アルバレスまで……ですね。だから、ブライアン・オルテガをテイクダウンして上から殴る技術とメンタルを持っているヴォルカノフスキーとオリヴェイラでライト級王座決定戦を戦って欲しいです。
イスラム・マカチェフだけが新しい血というのは、ライト級は潰し合いが進み過ぎて一回りした感があるからで。ただしビッグネーム揃いのライト級で、UFCがマカチェフを押し切れるのか。戦績でいえば2015年に1度負けただけで、10連勝しているんですよね。でも対戦相手がそこまでビッグネームじゃなくて、ダン・フッカーぐらいで。これは、上がぐるぐる回っていた影響を受けているのでしょうけど。だからヴォルカノフスキーですかね。やっぱりテイクダウンして殴ることがデキるので(笑)」
──スタンドで殴ることできる。その殴る相手がテイクダウンを仕掛けてくることを常に想定していたからこそ、水垣さんは組みの怖さと、組みがあるからこそMMAという気持ちを強く持ち続けているのが終始伝わってきます。
「テイクダウンも寝技もある。それが僕らがWEC時代にUFCに負けないぞってやってきたMMAなので。MMAのストライカーはテイクダウンのある相手を殴ることができないといけないという気持ちはやはりあります。そういう戦いの最高峰がUFCで」
──そのUFCに平良達郎選手が、約2年振りに日本人男子として新規契約を果たし、デビュー戦で勝利を飾りました。
「まず試合内容云々の前に、僕がWECでデビューをしてから13年が過ぎて……僕自身は国内で断トツだったわけじゃないですけど、一応ケージフォースのチャンピオンになって最初の試合でWEC世界王座に挑戦できました。ウルシ(漆谷康宏)さんも修斗のチャンピオンからUFC世界フライ級王座決定トーナメントに出ています(※2012年3月)。
ウルシさんのUFC初戦から10年ですよね、今年で。平良選手は修斗世界フライ級王者で、国内で抜けている存在です。その彼が当初はプレリミの第1試合、試合が延期されて第2試合で戦った。フライ級でも今や世界と日本は差が広がったんだと感じさせられました。
日本はこの10年で、世界に置いていかれた。僕らの時代は日本である程度のところで戦っていると、割と世界のトップで戦えるという認識でした。それがWECが軽量級に力を入れるようになり、UFCに合流した11年でこの状況になってしまったんだなと」
──実力という部分では、フライ級などは世界の頂点と日本のトップ選手の差はそこまで広がっていないと実は感じています。ただし、そこまでの層が厚くなった。この間にあらゆる国の選手がフライ級にもいる。それがUFCにベルトがある階級なのかと。
「僕らの頃は正直、英国やアイルランドの選手がここまで強いと思っていなかったですし、ニュージーランドや豪州もそう。ロシアやブラジルはともかく、カザフスタンとか南アフリカの選手をチェックすることなんてなかったです。
今はトップと15位の差がF1でなくてインディカーですね(笑)。どこでもUFCの試合映像がライブで視聴できて、世界中でMMAの大会が開かれるようになったわけですしね。だから10勝0敗でも、どんな選手と戦っているのか分からない。結果、UFCもまずはコンテンダーシリーズで──という感じになっているんだと思います。でも、それだけMMAが世界に広まったのは嬉しいです」
──その意見も水垣さんらしいです。とはいえ、フライ級はバンタム級やフェザー級ほどではない……とは思います。
「数は少ないですよね。それでも平良選手が無敗できても、『相手は誰?』という風にUFCでは思われてしまう。僕より前だと平良選手の師匠の松根(良太)さんがシャードッグでランキング1位だったりしていたのに。昔だったら修斗のチャンピオンなら、即チャレンジャーだって言われていた。でも日本の評価が相対的に落ちている中で、平良選手はデビューをして……とにかく勝てて良かったです。
日本で彼の試合を見ていた人たちは、バシッと一本勝ちを期待したかもしれないですけど、僕は逆に3Rをドミネイトできた勝利に価値があると思います。今後に向けて良い経験になったし、あまりに鮮烈な勝ち方をすると、すぐにトップと組まれるかもしれないですしね。
将来的にタイトルを獲るという目標があるなかでは、ここ1年ぐらいは試合をしっかりとこなした方が良いと思います。そういう意味でも、いきなり上にパッと引き上げられるよりも、じっくり戦っていく方が良いですし」
──UFCで戦うことで、さらに強くなっていけると。
「そうですね。あの勝利に注文をつけることは何もないです。一本やKOでなくても、完勝です。だから、そうやって一つ一つ勝っていって欲しいです。平良選手自身はどういう風に思っているのか分からないですけど、ランク外の選手と1、2試合戦って。そしてトップ15、トップ10と上がっていって欲しいです」
──水垣さんとしてはあの時代と今を比較して、中央アジアやオセアニア、中東の選手なんか出てくるMMAで戦ってみたかったですか。
「どうですかねぇ。ベルトを賭けて戦ったり、トップ選手と一通り戦えたのでタイミング的には良かったと思っています。スタイル的には今は打撃が多くて、戦いやすいのかという想いも有りますけど……。ヘンリー・セフードとか、五輪金メダリストだった選手やそこに準ずる選手がドッと流入してきたので、そうなると僕は埋もれてしまう可能性が高かったと思います。
何より僕の時代は軽量級で食べていけると思っていなかったです。好きだからMMAを戦っていた。僕自身、できるだけ現役を続けて。その後は細々と暮らすことができれば良いやって思っていました(笑)。それがユライア・フェイバー先輩のおかげで、今もMMAに関わっていられて、家族と楽しく生活ができるようになりました。だから、タイミング的にあの時で良かったです(笑)。
今はそうじゃないかもしれない。でも、平良選手はそういうなかで埋もれず、上を目指して頑張って欲しいです」
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