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Interview JJ Globo Special ブログ 今成正和 岩本健汰 青木真也

【Special】月刊、青木真也のこの一番:11月─その弐─岩本健汰×今成正和「組み技の異種格闘技戦を」

【写真】岩本健汰を孤高のグラップラーにさせてはいけない (C)MMAPLANET

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2020年11月の一番、第2 弾は22日に開催されたZST/Battle Hazard08から岩本健汰✖今成正和の一戦を語らおう。


──11 月の青木真也が選ぶ、この一番。2試合目は?

「岩本健汰✖今成正和のブラップリングマッチですね。僕は2人とも組んできていますし、当然のように彼の方が強いことは分かっていました。でも、思った以上に差がありましたね。15分のグラップリングで下を選択して良いルールなので、決着がつかないという予想もありました。

圧倒するからこそ取れないということがあると思っているところで、取ってしまったので。相当の実力がありますね」

──今成選手が組み技で日本人選手に一本を取られるのは、本当に記憶になくて。自分のなかでは佐藤ルミナ戦以来かと……。

「コンバットレスリングだっ!! ないですよね、そこ以外。日本で戦った試合では外国人にだって……ジェフ・グローバーにも取られなかったし。MMAで今成選手からパスを決めた選手はままいますが、グラップリングで引き込んだ今成選手に岩本選手がパスを決めた。あれこそが、この試合のハイライトでしたね。

ボディロックですぐにパスをした。アレが全てだと思いました。得意な形なんですけど、バチっといった。『これは強えぇ』と思いましたね」

──岩本選手の方が大きくはありましたが、そのあたりというのは?

「体格差はありました。でも2、3キロとかの範囲だろうし、いうてもグラップリングですからね。そこの体重差が影響したというのは打撃よりは小さいですよね」

──15分という試合タイム、ここはどうでしょうか。

「10分でないのは大きいです。10分だと守られたかもしれない。15分という時間を設定できたのはポイントだし、そこから戦いも始まっていますからね」

──と同時に、一瞬でも内ヒールに入る態勢に持っていける今成選手も素敵でした。

「岩本選手のチャンレジを受けて立つ、そこは凄いです。40代半ばになって、バリバリの日本一と戦う。勝負論からは下りているからこその味わいがあります。一発あるかもって思われると、そこである意味勝ちでもありますしね。高島さんはこういう言い方嫌いかもしれないですけど、プロレスラーですよ」

──自分、プロレスラー嫌いでないですよ。ロープに跳んで、ラ・ケプラーダやトペ・コンヒーロができるって凄いと思いますし。プロレスをやっているプロレスラーの人に何もないです。でも、MMAやグラップリングだと偽ってプロレスをするのは話が違うと思っているだけで。

「そうでした、そうですね。なんていうのか、でも勝負論がないことを好まない印象はありますよね」

──う~ん、自分のスタンスを話すのも格好悪いですが、勝負論がないことを好まないのではなくて、勝負論がない試合を勝負論がある試合よりPV数を稼ぐために上位に持ってくるのは好まないという感じです。

「違う色は認めると。それは、それで魅力がありますからね。勝負論っぽくて、勝負論じゃないとかは面白くないけど。その点でいえば、今成選手の凄いところは達観しているところなんですよね」

──今成選手の試合が面白くないケースが多いのは、足関節が怖くて入れない対戦相手が多いから。でも、それも勝負の妙で。今回、入っていける相手だとここまで重厚感があって緊張感溢れる試合になるというのを岩本選手が示したかと思います。それに今成選手の場合は足関勝負できる人が、ほとんど一緒に練習している選手になりますし。

「あぁ、気持ちが入らないということですね。そうなっちゃいますよね、面白くなりそうな相手が……練習相手だと。うん、熱くなれないですよね」

──と同時に寝転がって足関合戦ができる選手が、どれだけ少ないのかという表れでもあるかと思います。グラップリングが盛んなるには、もっと門戸を広げないと岩本選手も対戦相手がいなくなってくるという懸念が既にあります。他の上にいる選手、倒した選手が有利というような。

「それって上から下にモノは流れるものだから、米国軸にそういう流れがないと難しいですよね。こっちからメジャーにしていくのは困難です」

──ただし、そこに挑むために国内の普及策ということでは、そういう考えもあるかと思います。

「そうですね。日本のグラップラー、柔術家が海外に出て勝負すると、どれだけテクニックがあってもフィジカルで跳ね返される。テクニック勝負にならないという事実はあるかと思います。そういうなかで、MMAファイターと触れ合うことができるグラップリングというのは必要になるかもしれないですね」

──そのためにはMMAファイターに勝ち目があるルールが、必要かと。

「簡単にいえばADCCルールですよね。ポイントのあるバージョンの。打撃のないMMAというか。MMAファイターもね、グラップリングをやっていないから。そこが必要だからっていうのは、そういうモノがあることで気付く人も出てくるかもしれないですしね。

MMAの人達が……僕もMMAの人なんですけど、MMAの人はグラウンドをやらないから。やらないと、しんどいですよ。最終的には、勝てなくなります。UFCファイターはデキていますからね。

そういうなかで岩本健汰という今の日本で最高のグラップラーは足関の人として出てきたのが、今や足関の人でない。今成さんと取り合って、パスして肩固めで勝てる。固いグラップリングもできる。総合力のあるグラップラーです。

自分でいうのも恥ずかしいですが、僕は影響を与えてしまったと思っています。良くも悪くも──柔術で勝つグラップリングに、MMAのエッセンスを与えてしまった。彼が今のようになったのは、僕の流れというのはありますし」

──では責任を取ってもらって、青木スペシャルで総合グラップリングを組んでもらいましょうか(笑)。

「いわばノーギで柔道家、サンビスト、柔術家とも戦える。昔、中井(祐樹)さんが『MMAファイターだったり、大道塾のようにトータルファイトを標ぼうする人間は、どの競技の人間ともやり合えなくても良いけど、立ち会えないといけない』と凄く良いことを言っていたんです」

──15年前だと、それこそ──そうである人がMMAで突出することがありましたが、今や普通レベルにそれが求められるほどMMAは進化したわけですね。

「まぁ、そこに寝技が欠けているというのが日本の現状ですけど、ボクサーともキックボクサーとも立ち会える。勝てないかもしれないけど、立ち会えますよね。

そういう部分で岩本選手はどんなグラップラーとやっても立ち会える。その彼の世界観が広がるのはノーポイントではないでしょうね。そのグラウンドの戦いの重要性を競技者としてやりつつ、MMAファイターも含め伝えていく責任があると最近は感じています。

岩本選手が岩崎(正寛)選手とやりたいと言っていたけど、そういう世界観じゃない。岩崎選手もやらなくて良いし。反応もしなくて良いです。柔術に対応できてノーギが戦える柔道家とかね……。コロナの状況下ですけど、何か次に良いモノを用意してあげたいですね。要は組み技の異種格闘技戦ですね。

岩本選手は努力の質と量、技術力、何も上から目線で言えない。俺たちがやってやっているというんじゃなくて、協力させてもらっているという立ち位置で……何かできれば。岩本健汰的な世界観が広まれば、回りまわって僕も得する──みたいな有難い話であるので(笑)」

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Interview ONE Special ケビン・ベリンゴン ジョン・リネケル ブログ 青木真也

【Special】月刊、青木真也のこの一番:11月─その壱─リネケル×ベリンゴン「ONEの世界観が──」

【写真】こんなにあっさりと決着がつくとは……そんなショッキングな試合になったリネケル✖ベリンゴンだった (C) ONE

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2020年11月の一番、第一弾は13日に中継されたONE 113 Inside the Matrix03からジョン・リネケル✖ケビン・ベリンゴンについて語らおう。


──11月の青木真也が選ぶ、この一番。まず第1試合目は?

「ジョン・リネケル✖ケビン・ベリンゴン戦ですね。まぁ、成績としては当然の結果じゃないですか。ただ、あれだけしっかりとKOという結果が残るとショックはショックです」

──この試合もまさにというか、タン・リー✖マーチン・ウェン以上にUFCファイターがONEに参戦して、北米の世界観がONEの世界観を駆逐した試合となりました。

「リネケルがムイン・ガフロフと戦った時は、跳ねた試合ではなかった。だから本調子でなくて、ベリンゴンの目もあるかと思っていたんです。水抜きなしの計量に慣れていなくて、調整面でも不安は残っていたし。だから、あるのかと……にも関わらず、ハッキリと結果が出ましたね。最後もノックアウトというよりも、ゴメンナサイ感がありましたし」

──嫌ダウンか、痛ダウンかと。

「そうでしたね。ベリンゴンってタフで、殴り合いに長けた選手だったのが、ああなる。ビビアーノ・フェルナンデスとあれだけやりあっていて……ビビアーノはDREAMのチャンピオンからUFCと契約まで話があったのに、うっちゃってONEを選んだ選手だったから」

──いわばランク15位とかでなく、あの当時ですがトップ5級の活躍が見込まれていました。

「そういうベリンゴンが、ここでリネケルに負けたことでONEのストーリーラインもゴチャゴチャしてしまいます。リネケルのUFC的な世界観を持ちこんできたから、話がおかしくなってしまって」

──そもそもリネケルとONEの契約に関しては、DJやエディ・アルバレスと違い、なぜその必要があるのかと思ったのも事実です。ヴィトー・ベウフォート然り。ブラジル大会でも狙っていたのかと。

「謎でしたね。なぜ、この世界観を持ちこむのかって。米国でTV中継を始めたことで、北米や南米開拓というのはあったのかもしれないですけど、謎だった。

リネケルに関してもUFCでのレコードは良くても、ここ一番に負けている選手ですからね」

──計量ミスが多く、実は水抜き無しの1階級上というのは合っているのかしれないです。水抜きありで65キロだと、対戦相手ももっと大きくなってしまうので。

「あぁ、それですね。ムイン・ガフロフと戦った時はジャカルタだったから、コンディションも悪かったのかもしれないですね」

──う~ん、旅の疲れでなければブラジリアンは東南アジアで戦うのは苦ではないような気がします。ビビアーノも「マニラはリオみたいだ。気候もフルーツが多いのも」って言っていましたし。

「あぁ、なるほどぉ。そうかぁ……高温多湿で。なら、あの時はやっぱり減量の仕方がまずかったのかな」

──そのビビアーノが、リネケルの挑戦を受けることになるかと思われます。

「なると余計におかしくなりますよね。ビビアーノがチャンピオンでブラジル人同士だし……」

──おかしいと感じるのは、青木選手にとってONEという戦いの場はどういうモノだったのでしょうか。

「ONEの面白さって、北米的な世界観が入らない面白さだった。僕がONEで戦うようになった時は北米の物差しが一切なかったから。そういう面白さ、ワクワク感。要は鎖国された世界観があったから面白かったんです。それがグローバル……全ての価値観を、北米を含めた世界に当てはめるようになりましたね」

──飲み込まれないためには、勝たないといけないんですよね。

「この負けは分かっていたことだけど、ベリンゴンはスクランブルが強く、蹴りもできる選手でタフだったのに……。しっかりと北米に侵食されるようになってきましたね」

──私などは勝手ながら、元UFCやBellatorのライト級の選手がONEにロースターに加わって青木選手と戦うようなことがあれば、それは楽しみですよ。

「それは良いかなって思います(笑)。ONEの世界観でなく、僕の世界ですけどね」

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Interview Special ブログ 青木真也

【Special】月刊、青木真也のこの一番:番外編─青木真也の忖度・解説「面倒くさがらずやっていきたい」

【写真】青木真也はケージの上でも放送ブースでも、真剣勝負をしている (C)MMAPLANET

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

ここでは番外編として、青木に二面性を持つ解説について尋ねた。

格闘技を伝える、その対象を考えた青木話術。忖度無しと言われる青木の解説だが、実際には格闘技の在り方に関して、推し量るばかりのスーパー忖度解説だった。


──先日の青木選手のABEMAの解説を拝聴させてもらって、少し気になったことがあり、その点について話を伺わせてほしいのですが。

「もちろん、どういうところですか」

──格闘技的に好きな試合と、そうでない試合で話している内容が変わっていますよね。

「そうですか(笑)」

──タン・リー✖マーチン・ウェンの時は相当に技術的なことを話していましたが、いえば余りテクニック的に見るべきことがない試合になると一気にプロレスラーモードになっていたような気がしました(笑)。

「そりゃタン・リーとウェンの試合や、クリスチャンの試合は技術で語ることができますけど、あのインド女子の試合とは、そういうことで話はできないですよね。MMAとしては厳しいです」

──マーケティング戦略があるのでしょうが、ONE国際大会復活第1弾のライブマッチ。4つの世界戦の中から一つをオープニングで選ぶのも、ショーとして全くありかと思いました。

「ですよね。ばかりか、世界戦も3試合ぐらいで良いかと」

──そういうなかで解説者の人間性が変わる(笑)。どう伝えるのかっていう部分ですけど、70キロまでじゃないと伝わらないという意見は、フェザー級以下の選手には失礼ではないかと。

「でも、それは明確に思っています。格闘技は大きい人がやるものです。人を魅了するなら。言い方は悪いけど、そうでないと伝わらない。

もちろんMMAが好きな人間は別です。好きな人間だけだとパイは少ない。今の格闘技自体はMMAだけでなく、キックにしても軽量化が進んでいます。どんどん勝つために軽くしている。

そうなると本末転倒だと思います。それだとやっぱり伝わらないから。堀口選手や朝倉海選手、那須川天心ぐらいまでいけば伝わりますよ。でも、そうじゃない選手の試合は伝わらない。

PRIDEやK-1の時代だって大きな選手がやっていると、外国人同士の試合だって皆が見ていた。でもK-1 MAXになると魔裟斗という日本人エースが必要になった。そのMAXですら70キロありました。

僕自身、70キロじゃないですか。やっぱり70キロは最初、伝わりづらかったです。そこがあるから、経験則としてデカい方が伝わると思っています」

──それを口にしてしまう試合と、そうでない試合があった。いずれも重量級ではないのに。

「ABEMAの対象は一般の人達で。その人達が視ているなかで、タン・リー✖マーチン・ウェンは実力があって技術力でも良さが伝わる試合だから。アレはちゃんと話せました」

──それは対象が一般層であっても、と。

「極力、分かりやすく視ている人に立ち方なんかを話して、技術と試合で話すことができました。あの試合だったら立ち位置や距離の話でも、伝わります。

僕はレベルの高い選手の良い試合は、技術を話しても世の中に伝わると思っています。階級が下がるとそれがなくなっているのですが、バンタム級は伝わるかもしれないです。でもボクシングでも50何キロで凄い、凄いっていう人がいるけど、それですら凄いのかって僕は思っているし」

──それぞれの国のアベレージの体格も関係してこないでしょうか。180センチ、85キロの国と170センチ&65キロの国では自国の選手の活躍する階級が違ってきます。格闘技もスポーツも国威発揚、愛国心が顔を覗かせる場ですし。

「それでも大きさは関係ありますよ。佐藤天が何が凄いって、ウェルター級でやっている。それが凄いんです」

──これ自分が言っちゃうと、もうダメだろうってことですけど。UFCであってもバンタム級やフェザー級の方がライトヘビー級やヘビー級より、よほど面白くないですか。

「あぁ、それは……そうですね。そこにいくと微妙になりますね(笑)。UFCのヘビー級だとブロック・レスナー✖アリスター・オーフレイムがピークで」

──それこそジェネラルを考えた時ですよね。

「ハイ、だからデカいって凄いことで。でも、それをいえば日本だとUFCが一般層に向いていないから」

──確かにそうです。露出ということを考えても。

「まぁ会場で観るのと、画面で視るのは違っていて。でも、ここから暫らくMMAはモニターで見るモノになるかもしれないですしね」

──その論理でいけば、相撲が一番ですね(苦笑)。モニターで見てもすぐに決着がつき、分かりやすくて大きい……。

「女子とかその対極にあるけど、それで売れることがある、格闘技の中身では売っていなくて、それと同じかと。この間、RISEを観たんですけど、皆50キロです。倒れないですよ。何ていうんだろうな、迫力ないよなって。

でも、その魅力を伝えていかないといけないのも事実で。将棋でも、こうなるんだから……伝え方はあるはずです。将棋のルールも全く分からないのに、あれだけ人気が出て。Numberが特集を組む。それって売れるってことじゃないですか」

──そうなると将棋ファンが購読している将棋雑誌って今、売れているのか。格闘技もパイを広げるジェネラルと、見続けてくるコア層。伝えるにはどちらにかに振り切らないと、凄く中途半端いなり、両サイドの注意を削ぐことになるのではないかと感じることもあります。

「いずれにしても、伝え方ですよね。良い伝え方をしたいと思っています。そこは本当に思っています。一般と好きな人、一般の人に届かせる一方で、好きな人にも納得してもらえる伝え方──ポップでやる時はポップでやる。伝えるのが面倒くさいモノも、面倒くさがらずやっていきたいです」

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Interview ONE Special タン・リー ブログ マーチン・ウェン 青木真也

【Special】月刊、青木真也のこの一番:10月─その参─タン・リー×ウェン「モザイクを外すようなこと」

【写真】タン・リーという北米フィーダーショーの王者が、ONEの世界王者になったことで、その世界観にどのような変化が起こるのか楽しみだ (C)ONE

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2020年10月の一番、第3 弾は30日に開催されたONE113 Inside the MatrixからONE世界フェザー級選手権試合=タン・リー✖マーチン・ウェンの一戦を語らおう。


──10月の青木真也が選ぶ、この一番。3試合目は?

「タン・リーとマーチン・ウェンですね。この試合は語り口がいっぱいありますよ。何より、本気でショックでした」

──というのは?

「タン・リーはLFAの暫定王者で──見せ方としてウェンは世界チャンピオンじゃないですか。その世界王者が北米のフィーダーショーのチャンピオンにいかれる……タン・リーに勝ったことがある選手は決してUFCではトップになく、プレリミだという現実が、かなり来ちゃいましたね」

──えっ、でもそういうモノじゃないですか。MMAの世界は。

「それはそうなんです。だから世界王者というモザイクを外すようなことをして、NEというプロモーションにあったのかって。なんで、こういうことするんだろうなっていうことで来ちゃったんです」

──なるほどONEの世界王者が、LFAのフィーダーショーの王者に負けたことでなく、この方法論ではONEの現実が見えてしまいますよ、ということなのですね。

「ONEは北米のフィーダーショーを掘ったらダメなんです。背を向け続けないと。UFCのトップ経験者が天下りするのは構わないけど」

──ハイ。MLBの元首位打者が阪神に来るのは良いけど、4番は米国では3Aなのか──というのは見えない方が良いと。

「そうなんですよ。これで、見えちゃうから。僕なんか騙されておけば良いっていう見方をするんですけど、このモザイクを外す必要ねぇよって。僕は若い頃に北米でぶっとばされているから世界一とか言っていないし、グラップリングでもやられていますからね。そこは弁えてきたんです。

それが今は弁えていない子、分かっていないヤツが増えて、この結果に絶望しているんじゃないかなって。凄く嫌な気持ちになって帰宅したんです。これ、辛いなぁって」

──強くなれば良いじゃないですか。

「それはそうですよ、強くなれば。でもウェンが世界一だという世界観を潰す必要はあるのかなって……」

──えっ、思いますか? マーチンは素晴らしいファイターです。日本人で誰がマーチンに勝てるんだろうと思えるぐらい。でもMMAに世界的な競技連盟があれば、UFC以外の団体は世界を名乗ることはできないかと。

「それは勿論そうです。と同時に、そのUFCや強さをスルーして見なくなっているなって思うことがあるんです」

──マーチンが負けたことで、フィリピン、インドネシア、ミャンマー、マレーシア、ベトナムの若い選手たちはショック療法かもしれないですが、これでさらに強くなれると思った次第です。上には上がいるんだって分かって。

「あぁ、なんだ。そういうことか……。高島さんは東南アジアというかONEのマーケットを対象にしているわけですよ。僕は日本のことを言っていたんです」

──あっ、スミマセン。噛み合わなかったはずですね(笑)。

「世界、海外といって、ソレが分かっていないと……。もちろん、分かっている選手もいると思いますけど」

──口にはしなくても、そこを狙っている選手もいるだろうし。ド同時に北米は機会がないから、ONEで戦いたいと思っている選手もいるでしょうし。

「色々な生き方や選択があることは、もちろん否定はしないです。でも、世界で戦いたいとかいってONEで戦う人がいるじゃないですか。いや、ならお前、一回、北米でぶっ飛ばされてみろって思っちゃうんです。僕は一応、ぶっ飛ばされたうえで語っているから。

でも、アジアで考えると強くなるっていう見方はありますね。そこは北米と交わった方がフィリピンとか、強くなるでしょうね」

──それだけレベルの高い試合が、ONEで行われたわけですし。

「ハイ、素晴らしかったです。ホントに。技術的なことでいえば、日本人がやらないといけないことをタン・リーがやっていました。マインドというか、必ず打ったあとに回るじゃないですか」

──ハイ。攻撃すると、もうそこに留まっていなかったです。

「解説でも言っていたのですが、外の取り合いでした。打ったら外に出る。インサイドになったら、なんとか外して。最後の右フックを打った時だけ、タン・リーは左に回っているんです。あそこは打ったら、右に抜けていないとおかしいのに。最後だけ左に回ったのは、効かされていたからだと思います。それまではずっと左に回って外を取っていたのに、だから最後の一発だけはマグレだったと僕は思います」

──興味深い見方です。

「最後以外は完璧でした。あそこはウェンの流れになっていて。効かされていたんでしょうね」

──それまでもペースの取り合いで、ウェンが圧力をかけるとタン・リーが腹を蹴っていました。

「一度、急所に入ったけどタイミングは抜群でしたよね。急所に当たったということは、ウェンが当たる距離にいたからで。あれは下腹部だったけど、少し上だったらノックアウトです。そんな蹴りが当たる距離にウェンはいたということで」

──MMAでフィーダーショーのチャンピオンに、ONEで戦績を積んだ選手があそこまで戦える。それはONEのレベルが上がっているからだと私は思ったんです。

「その見方かぁ。そう言われると、そうですよね。佐藤天がサンフォードMMAではマーチン・ウェンは目立たないって言っていました。でもONEで積んできた選手が、タン・リーに勝てるかもという試合をしたということですね」

──私はそう思っています。と同時に仮にラカイのフェザー級にダニー・キンガドやジョシュア・パシオのような若い選手がいれば、めちゃくちゃ面白いのに──と。

「あぁ、あのBrave CFでやっているスティーブン・ローマン、アイツはめっちゃ強いけど……バンタム級なんですよね。間違いなくONEのレベルはあの一戦で上がったのは確かです」

──ハイ。だから日本で戦っているより、日本人選手もONEで結果を残していれば、強くなれるのではないかと。あの試合を見て、そう思えました。

「まぁ、もう日本でやっていては……ってことじゃないですか、正直。その点、ONEだとロシアや中央アジアの選手、ブラジル人と戦えるわけですし。最初に言ったモザイクを外すっていう部分ではビジネスで、回り道になるかもしれないですけど、東南アジアが強くなるっていう面白い状況が生まれてきそうですね。

ONEの功績の一つは東南アジアにMMAを普及させたことだし。で、ここでタン・リーみたいな北米の選手がいると、東南アジアが強くなって、そのうちにUFCを目指すっていう選手が出てくるかもしれない。それこそ中国、韓国、日本のようになってくるかも。それは面白い──良い話ですね」

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Interview Special UFC カビブ・ヌルマゴメドフ ジャスティン・ゲイジー ブログ 青木真也

【Special】月刊、青木真也のこの一番:10月─その弐─ヌルマゴメドフ×ゲイジー「引退は信じちゃダメ」

【写真】スクランブル全盛時代、スクランブルにならない強さを持つヌルマゴメドフだった (C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2020年10月の一番、第2 弾は24日に開催されたUFC254からガビブ・ヌルマゴメドフ✖ジャスティン・ゲイジーの一戦を語らおう。


──10 月の青木真也が選ぶ、この一番。2試合目は?

「ヌルマゴメドフとゲイジーですね。この試合で面白いと思ったのは、やっぱり総合格闘技だということ。ヌルマゴメドフって打撃が粗いと思うんです。でも、だからって打撃が上手じゃないってことではなくて、組みありきだから。それであれだけプレッシャーを与えることができる。あの個体の強さがあって、組むまでにあの打撃があれば無敵だと思いました。

あれだとゲイジーは前に出られない。出ると殴られるし、倒される。それでヌルマゴメドフが押し切っちゃいました」

──あのジャスティン・ゲイジーを相手に……。

「ハイ。ゲイジーが疲れるって、凄いモノを見ましたね」

──テイクダウンも強いですが、テイクダウンをしてからも強かったです。

「ヌルマゴメドフの一番の強味は寝かせる技術です。今回の試合はあまりなかったですけど、倒してから寝かせることができる。だから殴って、極めもある。でも、今回はゲイジーが殴る前から消耗していて。

フォークスタイルはスクランブルがあるといっても、あれだけ力の差があるとゲイジーは無理でしたね。ただヌルマゴメドフも正直、初回は効いていたと思うんです。それでも前に出続けることができる強さ……新しいスタイルじゃないんですけどね」

──新しいスタイルではないというのは?

「凄くテクニカルにMMAを戦うわけじゃないです。GSPよりの前の世代というか。スタイルとして前の世代で、アレは新しいとか最先端ではない」

──打撃からテイクダウンで倒されない。倒されても直ぐ立つ。だから今のスクランブルMMAの時代になったのですが、ヌルマゴメドフは倒して抑えることができてしまう。

「ハイ。GSPはもっとテクニカルで、ジャブも綺麗でレベルチェンジも素晴らしい。そしてレスリングもテクニカルでした。だから参考にしたくなりますけど、ヌルマゴメドフを参考にしようとは思わないですよね」

──確かに、その通りですね。

「結論として、ヌルマゴメドフが強いからってことで他の選手がやってもああはならない。ヒョードルっぽいですよね。マネできるものじゃない」

──そのヌルマゴメドフが無敗のまま引退を決めました。

「あぁ、なんでしょうね……UFCのシステムだと次のスターが生まれるから、また次の戦いが見られる。ヌルマゴメドフがいなくなったからって、UFCがつまらなくなると思わないです。どんどん、出てくるでしょう。マイケル・チャンドラーもいるし、階級を上げたり、落としたりっていう選手もでてくるだろうから。

ゲイジーもまだやるだろうし、ファーガソンもいる。他のロシア人や中央アジア人も出てくるでしょう」

──ただしUFCとしては痛くないでしょうか。

「えっ、なぜでですか」

──ヌルマゴメドフがここまでの存在になったのは、コナー・マクレガーがいたから。ヌルマゴメドフはその彼に勝った。いわばレガシーを継いだ。青木選手やコアファンは、強いファイターが出てくると楽しめる。ただし、UFCに必要な一般層は、そういうレガシーを継ぐ選手なのではないかと。

「あぁ、でもヌルマゴメドフは勝ったままいなくなるってことですね。引継ぎができなかった。そうですね、マクレガーが今、試合をしてもタイトル戦の軸にいないし。そこが継げる選手は出てこないわけだ」

──BMF路線は名実ともにトップにはなれないです。人気は抜群であったとしても。

「そうですね。そもそも僕にとってマクレガーはチャド・メンデス、ジョゼ・アルドまでで。ネイト・ディアスとの時はいわばBMF路線でしたよ。でも、一般の人はそこが必要なんですよね、UFCといえども。タイトル戦の抱き合わせっていうPPVじゃない王者がいなくなるわけだ。

でも、ヌルマゴメドフもまた出てきますよ」

──引退撤回しますか。

「マクレガーにしても一生食えるのに出てくるって……明確にファイトジャンキーですよ。覚せい剤と同じなんでしょうね、やったことないから分からないけど(笑)」

──アハハハハ。例え話でないと、人生破滅です。

「要は快楽ですよ。快楽が欲しくなればヌルマゴメドフも戻ってきます。格闘家とミュージシャンの引退は信じちゃダメです(笑)」

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Interview Special アレックス・オリヴェイラ シャクハト・ラクモノフ ブログ 青木真也

【Special】月刊、青木真也のこの一番:10月─その壱─ラクモノフ×オリヴェイラ「多様化はすさまじい」

【写真】 無敗のM-1王者とはいえ、UFCデビュー戦でオリヴェイラに一本勝ちというのは……予想外だ(C) Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2020年10月の一番、第一弾は24日に行われたUFC254からシャクハト・ラクモノフ✖アレックス・オリヴェイラ戦について語らおう。


──10月の青木真也が選ぶ、この一番。まず第1試合目は?

「ラクモノフ✖オリヴェイラですね。正直、ラクモノフはノーマークでした。しかもオリヴェイラが3ポンドの体重オーバーで。ラクモノフってM-1からなんですね。M-1のウェルター級チャンピオンで。この試合を見ると、M-1も普段からフォローしないといけないなって思ってしまいますよね」

──どこかACA、Fight Nightに続くロシアのプロモーションというイメージに落ち着いてしまっていましたが。

「そうなんですよ。ACAはもうUFCのチャンピオンですし、でもM-1も全然違うんだなって。だってアレックス・オリヴェイラってUFCで18試合もして、トップ中のトップじゃないけどウィル・ブルックスとかカーロス・コンディットに勝っている選手ですよ。今も連勝中で──代役とはいえ、ラクモノフが勝つなんてまるで思っていなかったです。

この選手はロシア系でなくモンゴロイド、アジア系の顔で親近感がわくなぁって。でも体力のある感じで。カザフスタンって余り勉強できていないんですけど、柔道も強いですしね」

──カザフは資源が豊富で中央アジアでは断トツでGNPの高い国だという記憶があります。そして中央アジアの国においてはイスラム教徒とロシア正教の人口比が近いという。

「国土もデカくて。でもロシアと中国に挟まれて、ちょっと危ういですよね。中国が100年計画で進行しようとするルートにありますよね」

──と同時にロシアも北部をウクライナ化しようとしたり。

「危ういけど、そりゃ強いですよ。中国のMMAってもともとウィグル人、モンゴル人が多くて漢人はさほど多くなかったじゃないですか」

──ウィグル人だとジュマビエク・トルスン、リー・ジンリャンを代表する内モンゴルの人はいくらでもいる印象です。

「顔が上海の人たちと違いますもんね。僕たちが思う中国と、本当の中国は違うってことなんですよね。圧倒的に漢人が強い、民族の集合体で。裏を返すと、ソ連と同じで……、これって怖いですね。ゾッとしますね。なら中国もやっぱり出てくるのかって。

ただし中国って、スポーツは国威発揚のためじゃないですか」

──ハイ。その通りですね。だから五輪スポーツのトップが流れてくることってないと思います。

「でも中央アジアはMMAとしてはロシアの文脈で。それに旧ソ連の国ってレスターとかお金のある国に買われて、国籍を移してスイス代表とかカナダ代表とか、国籍が変わることもあります。でも、MMAは国威発揚に関係ないし」

──ハイ。選手も自由に米国、北欧、東南アジアを行き来して練習もできるから国籍を移す必要もない。

「そうなんです。つまりは金になるから、国内に留まったトップ・アスリートがMMAに回ってくる。コンバットサンボという前段階もロシア繋がりでありますし。それを考えると怖いですよ、本当に。

2、3年前にロシアは掘っちゃダメだっていっていたのが、もう普通に世界中にロシア人選手が見られるようになった。なら、ここからは中央アジア選手が普通に拡散していくのでしょうね」

──UFCのヴァレンチーナ・シェフチェンコ、ラファエル・フィジエフと同様にONEにもキルギス国籍のウェルター級王者キャムラン・アバソフがいて、カザフスタンでは元フライ級王者のカイラット・アクメトフがいます。

「そうなんですよ。今、やたらとインドって聞きますけど、それは市場であって競技レベルの話じゃないじゃないですか」

──ほぼほぼ他の格闘技で国際的な活躍が聞かれないですしね。男女レスリングに少しはあっても。

「インドと中央アジアとは違いますよね。ただし、中央アジアも市場がないと、いくら強くても人数制限が掛かってくる。そこにムスリムという文脈を切り取るとどうなるのか(笑)。この辺りの多様化はすさまじいものがありますね、コロナで。機会を得るだけでなく、こうやって勝ってしまうんですから。ちょっと……ラクモノフを見ていても、ゾッとします」

──青木選手はMMAに歴史を重ねて見るのが好きなようですね(笑)。

「僕は歴史、そして物語が好きで。ただ試合をして勝ち負けを見るより、その選手の名前から人種や民族を考えてしまうタイプです(笑)」

──ラクモノフは試合から見て、どこに強さが感じましたか。

「第一に体が強い。突出した部分があるわけではないですが、しっかりとテイクダウンが切れていますし。打撃も下手で威力がある。誰がきても平気という雰囲気で戦っていますよ。佐藤天と戦うとどうなるのか。どっちがアジア一番かって……でも今やオリヴェイラに勝ったからラクモノフの格上になってしまいます」

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Interview Special UFC UFC254 カビブ・ヌルマゴメドフ ジャスティン・ゲイジー ブログ

【Special】月刊、青木真也のこの一番─番外編─10月25日、ヌルマゴメドフ✖ゲイジー戦の愉しみ方

【写真】まず注目はフルマゴメドフとゲイジーのレスリング能力 (C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

ここでは番外編として、UFCで控える大一番──カビブ・ヌルマゴメドフ✖ジャスティン・ゲイジー戦の愉しみ方を青木に話してもらった。


──UFCでついにカビブ・ヌルマゴメドフ✖ジャスティン・ゲイジーのUFC世界ライト級統一戦が決まりました。この試合について、青木選手の期待度を尋ねたいと思います。

「あぁ、ゲイジー✖ヌルマゴは……レスリングでヌルマゴが圧してしまうと思います」

──この試合に備えてゲイジーがシカゴにあるノースウェスタン大学のレスリング部で昨季のBIG10で21勝0敗のパーフェクトレコードを残し、コロナ禍で中止となった今年のNCAAの157ポンド級でナンバーワンシードだったライアン・ディーキンとトレーニングをしてきたそうなんです。そこが青木選手のいうようにレスリング勝負になることをゲイジー陣営が考えているのかと。

「ヌルマゴメドフはロシアン・レスリングですしね。どれだけNCAAのレスラーと対策を練ってきてもヌルマゴメドフ有利は変わらないと思います。勝負はゲイジーが最初にいかに行けるかのってことで決まってくるような。最初に下がらずに、どれだけいけるのかが大切になってくるでしょうね」

──ジャスティン・ゲイジーならそういうスタイルで行こうとしそうですが。

「ハイ。ただし、行こうとするのと行けるのとは違うので。ゲイジーがいくら行こうとしても、ヌルマゴドフがそれをさせまいとしたら行けなくなることも十分にありえますしね」

──ゲイジーはこれまで乱打戦が多く、レスラーとしての側面を余り出していない。そのなかでテイクダウンをされていないじゃないですか。

「確かに、そうですね」

──テイクダウンの攻防がヌルメゴメドフの力によって見ることができると、それはそれで凄く興味深いです。

「ゲイジーはいつも打撃戦になってしまっていますよね。そして、頭を下げて殴りにいくことがある。そこにヌルマゴメドフの凄い一発が入ることもあり得ますし。ただ、それがあるならゲイジーも一発が入ることもある。そういうフィニッシュも考えられます」

──ゲイジーのローは有効打にはならないでしょうか。

「蹴ることができますかね。それを狙うと、テイクダウンされるような気がしますね」

──この試合は戦略を考えて愉しむという一戦でしょうか。

「もちろん、そういう愉しみ方はどの試合でもできます。ただし、どうしても不確定な要素が多いので、つまりは万人が愉しめるファイトなるということですね」

──その万人が愉しめる試合も、コア・ファンは愉しむことができるということで、順番としてヌルマゴ✖ゲイジーの前にマイケル・チャンドラー✖ゲイジーが見たかったという想いがあります。

「あぁ(笑)。僕はチャンドラー✖ヌルマゴの方が見てみたいです。この試合の方が、幻想がありますよね。一発当たったらっていう部分で」

──青木選手が予想したようにヌルマゴメドフ✖ゲイジーで、ヌルマゴメドフが勝利して、次はチャンドラーというのはあるかと思います。そうなる前に絶好調のゲイジーとチャンドラーが見たいというのがあったんです。

「あぁ、そういうことですね(笑)。ゲイジーが傷つく前に見たいという。ゲイジー✖チャンドラーを楽しむには、そっちの方が良いですしね。でもセコンドが新型コロナウィルス検査で陽性になったら試合ができないという状況ではヌルマゴメドフ✖ゲイジーが、ヌルマゴメドフ✖チャンドラー、ゲイジー✖チャンドラーに取って代わられる可能性は普段よりよほど高いですし、チャンドラーだってスタンバっているかと思います。

試合以上に不確定要素があり、何か起こった時にチャンドラーを用意している。凄く贅沢で、ここを抑えることができるのがUFCの凄さです。中東の王子様の持ち物じゃないのに、そこまでUFCは地力があります」

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Interview Special ブログ 中島太一 堀江圭功 青木真也

【Special】月刊、青木真也のこの一番:9月─その参─中島太一×堀江圭功「鈍感力、ガッツ」

【写真】試合前の青木の予想は、堀江の一方的になることもあるというものだった…… (C)MMAPLANET

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2020年9月の一番、第3 弾は27日に開催されたPancrase318から暫定フェザー級王座決定戦=中島太一✖堀江圭功の一戦を語らおう。


──9月の青木真也が選ぶ、この一番。3試合目は?

「中島太一✖堀江圭功戦です。中島選手とは今は練習していないですけど、堀江選手とは練習させてもらっていることがあって、組んだ感じでいえば『これは本当に強いな』と思ったんです」

──その発言は試合後の中島太一選手のインタビューで引用させていただきました。

「堀江選手はちょっと才能とか素質的にも一つ抜けていると感じていました。相当に強くて上手いです」

──では青木選手は試合前の見立ては堀江勝利だったのでしょうか。

「そうですね。堀江選手が勝つと思っていました。最初に組み合って中島選手が崩されると、勝負の行方は決まる。堀江選手のワンサイドになると」

──打撃ではなく、組みで戦局が読めると

「ハイ。中島選手が良い形で最初に組めないと、堀江選手のペースになり試合にならないかというぐらいでいました」

──組みの前に中島選手が懐に飛び込むタイミングを掴めず、無理やり行くと一発入る。そんな予想も私はしていました。

「あぁあ……KOがあるとすれば、堀江選手が仕掛けてカウンターを狙う。そういうことならあるかと思っていました。中島太一は打撃で仕掛けることはないと予想していたので。中島がするのはベタベタした試合で10-9.9を3つ狙うような」

──組ませないで、下がって殴る。それができるのか堀江選手だと私は予想していたんです。

「まぁ堀江選手の方が強いと思っていましたよね。実際に試合を見て中島選手が強いと感じたのは、凄く分かりやすいのですが……彼は怖がらずに前に出ていた部分で」

──やはりそこですか。

「そこ、そこだけだと思います。中島選手が勝っている部分は少ない」

──試合後のインタビューでは『遠い距離の方が嫌だった。近くで戦ってくれて良かった』と言っていました。

「遠い距離、近い距離……それ、中島選手はそう見えているかもしれないですけど、距離が近いか遠いかは、どっちが前に出て、どっちが下がるか。あれは中島選手が前に出た結果で、あそこで堀江選手が大きいのを入れることが出来れば、中島選手が下がる展開になっていたはずです。

つまり堀江選手は最初に入れることができなかった。そこがずっと影響してしまいました。とにかく中島は肝が座っていましたよ」

──実はテイクダウンは1度、ボディロックの展開にもほぼほぼ持ち込めていないのに、押し込みで判定勝ちができました。

「そうなんですよね。クリンチでちょっと優位なところを取っているだけで。主導権をほんの少し握っていた。結果10-9.9の試合をやり通したけど、やっつけてはいないです。

決して自分の試合じゃないし、有利になっていると言い切れる試合でもない。でも、あの戦いを3R通して実行できる。これは、良い意味での鈍感力です。今の世の中では、言い方を考えないといけないけど、戦いってバカになる必要があると思います」

──バカになる?

「ハイ。色々と考えたり、周囲の評価を気にしているのではなく、何も気にせずに自分を無条件に信じる。鈍感力であり、勘違い。だって上手い相手、予備知識がある相手じゃないとフェイントは引っ掛からなないですよ。どんくさいヤツはフェイントに掛らない。

僕はもう、当たるわけないじゃんっていう手だけバタバタした動きをしているんですけど、あれだとクロスカウンターを合わせられるリスクもないし、相手の綺麗なリズムが崩れます。だから、わざと下手でいるんです」

──青木選手は意識をしてそうしていますが、そうでない選手もいるということですね。

「中島選手もそうですよ。それって言いかえると才能、天才です。本当にリズムが全然違う。トンパチだから、レコードもトンパチで、ロシアに行ってしまうのもトンパチ。ACAの経験で強くなれたと思い込める。それだって……こういうと、思い込む力です。

堀江選手は逆に受けちゃいますよね。練習でもずっと受けている。テイクダウンを切る練習をして……僕らとやっている時は受けるだけで、攻めていなかった。受けが強いことで、僕らもより強く感じる。

でもMMAは喧嘩というか、最初に『この野郎』っていかないと。それが出来れば堀江選手のゲームで始めることができる。結果論ですけど、中島選手はガッツでいった。そこが勝敗の分かれ目になりました」

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Interview Special コルビー・コビントン タイロン・ウッドリー ブログ 青木真也

【Special】月刊、青木真也のこの一番:9月─その弐─コビントン×ウッドリー「ここが残っているのは」

【写真】レスラー対決、テイクダウンを決めたのはコビントンだった (C) Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2020年9月の一番、第2 弾は19日に開催されたUFN178からコルビー・コビントン✖タイロン・ウッドリーの一戦を語らおう。


──8 月の青木真也が選ぶ、この一番。2試合目は?

「コビントン✖ウッドリーですね。コビントンがいきなりダブルレッグでテイクダウンを決めた。アレが全てだと思います。あんな風にすぐに取れちゃうんだって。ウッドリーってD1レスラーなのに、MMAだとあんなに簡単にテイクダウンを取られる……こんなに差があるのかと驚かされました。

同時にローリー・マクドナルドと戦った時と同じぐらい、ウッドリーが動けていなかったです」

──この試合はアブドゥルバクヘヴァ✖サルナフスキーの対極にあるように感じました。ロシア人は5分✖5Rをガツガツとやり合っています。対して、コビントン✖ウッドリーは燃費合戦になっていました。

「ボクシングを軽くやって、一つのテイクダウンが大きくモノをいうという試合ですね。省エネファイトになるのは、USADAがテストをするようになって変わったというのはないですか」

──ACAにチェックがなく、ああいう試合になるかもしれないという点を差し引いても、コロナ禍のUFCの5Rはこの傾向が強いように感じます。

「そうですね、もたなくなっていますね。練習環境が整っていないというのはあったかもしれないですね。ウッドリーは優しい感じが出ています。もう、何が何でもという風になっていない。その気持ちは試合でも出ています。スクランブルすら応じなくて、馴れ合い感すらありました。『もうイージーで良いや』っていう」

──その割には試合前と試合後の方が、言葉のやり取りが盛んにあって。コビントンのトラッシュトークも、もうスクリプト感すらあってあまり乗れなかったです。

「それでもテイクダウンを取るんだってってのはありましたけど、そこからはコビントンもつまらないですからね(笑)。今のUFCウェルター級はしんどさがありますよ、この上がカマル・ウスマンですし。映えるファイターはウスマンやコビントンに消される。結果、ここが残っているのはどういうことだというのは示せているような気がします」

──ならアスクレンには劇的ではあったけど、躓かないで彼らと戦ってほしかったという想いも出てきます。

「そこはですね、レスリングは素晴らしくてもアスクレンはMMAにフォーカスしていないから、打撃でプレッシャーをかけることもできないし。コビントンとかウスマンはそれができているから、映える選手に勝てるわけですし。

MMAだとアスクレンは、ウスマンやコビントンにテイクダウンを奪われるかもしれないし。いえばウッドリーだって、レスリングだけだったらコビントンにテイクダウンされないかもしれない」

──この次の週のライトヘビー級とミドル級の世界戦が打撃で決着がついたのですが、レスリングという要素がないファイトでした。

「そうなんですよね。結局、打撃が強いレスラーは押し相撲ができる。打撃だけだと、それはないので凄い勝ち方をしていても、大切なところで勝てないということはでてくる。対して、押し相撲ができる選手は安定していますよね。

MMAならウッドリーがテイクダウンを奪われる。当たり前のことをコビントンとの試合でまた学習できました」

──その興味でウスマン✖コビントンも楽しめますか。

「ウスマンの方が打撃もレスリングもできるし、そこで勝ってきたコビントンがどうなるのか。策で返すのか、技術でごまかすことができるのか、そこは興味深いです。コビントンが上を取られて、『もっと動けよ』ってなるのか。それすらない、お互いが出ない試合になるかもしれないですし。

楽しむとすれば戦略的なことを考える。試合を見るだけでなく、試合前から楽しめる試合ですよ。その結果は『こうなるよな』ってことで終わったとしても。なんかサッカーみたいですよね、試合前に戦略が記事になる」

──確かにサッカーの専門誌はフォーメーションと出場予想選手を並べて、キープレイヤーなどプレビュー記事にページを割いています。

「そういうことですよね。MMAもそういう愉しみ方ができる。MMAを戦術、戦略、組み立て方で楽しめる。そういうフェーズに入ってきましたね(笑)」

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ACA111 Interview Special アブドゥルアジス・アブドゥルバクヘヴァ タイガー・サルナフスキー ブログ 青木真也

【Special】月刊、青木真也のこの一番:9月─その壱─アブドゥルバクヘヴァ×サルナフスキー「ロシア同士」

【写真】新ACAライト級王者となったアブドゥルバクヘヴァ(C) ACA

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2020年9月の一番、第一弾は19日に行われたACA111からアブドゥルアジス・アブドゥルバクヘヴァ✖タイガー・サルナフスキーのACAライト級王座決定戦について語らおう。


──9月度の青木真也が選ぶ、この一番。最初の試合をお願いします。

「ACAのアブドゥルバクヘヴァ✖サルナフスキーですね」

──おお、ロシア・ライト級最強の座を表す一番です。

「ACAライト級は3強ですね。アリ・バゴフ、エドゥアルド・ヴァルタニャン、アブドゥルバクヘヴァの3人でタイトルが行ったり来たりしていて。バゴフはライト級王座を返上してウェルター級に転向したけど、タイトルを取れなかったから次はどうなるのか」

──バゴフが抜けて、ユーサップ・サイソフをそこに収めたかったような気がします。

「フェザー級チャンピオンから上げてきましたよね。でもACAのライト級ってACB時代にアブドゥルバクヘヴァはバゴフに勝って、ヴァルタニャンを相手に防衛した。そしてバゴフとの2回目に負けた。そういう戦いに入って来られるのか……。フェザー級で圧倒的でもなく、ゴリゴリで勝ってきたのでライト級では分からない部分はありました。

結果、今大会のセミでカザフスタンの選手(アルテム・ラズニコフ)に負けちゃって……。まぁACAとしては痛い敗北だったでしょうね」

──それでいえばサルナフスキーの挑戦は妥当だったのかと。現在のサルナフスキーはちょっと届いてない選手かという気もしていました。

「そうですね。実際にヴァルタニャンに負けているし。でも、このところ盛り返してはきていた」

──ロシア人相手でなく国際戦で連勝し王座決定戦という流れですね。

「37勝8敗で凄いレコードだけど、ADW(※UAEW)でマカコと競い合ったり、Bellator以降はあの頃のような強さはないです」

──だからアブドゥルバクヘヴァが圧勝するかと予想していました。

「それでもサルナフスキーも下がって老獪に戦っていました。やられないように戦って」

──そうしていると2Rにアッパーを当ててアブドゥルバクヘヴァの動きを止めるとう場面も。

「そでもアブドゥルバクヘヴァは下がらない。ジャブを突いて、前に出て。2R終盤にグラつかされたので、さすがに3Rの動きは悪かった。でも前に出るので盛り返してしまう。クリンチをしてヒジを打ったり、そこも上手かったです。離れ際のアッパーも。回復力と早さで、結果的には3Rと4R、最後も取ってしまった。あの前にでる強さは安藤(晃司)みたいですよね」

──UFCがロシアを掘り、ACBの景気が良かったときに一気にロシアの恐怖が世界に広まりました。結果、掘ってしまったが故に強いは強いですが、幻想が現実になったことで落ち着いた感があります。

「僕はそれが面白いですね。もうロシア同士でやってくれた方が、ブラジルや元UFCファイターが混ざってくるのより面白い。ACAに関しては、ですよ」

──ACAになってからは派手な国際戦は減り、加えてコロナ禍で米国やブラジル人ファイターの出場が途絶えました。メディアとしては比較対象がないとファンに浸透し辛くなってしまって。

「あぁ、僕にはそういう感覚はないなぁ。ただタイ人の名前は覚えられるけど、ロシア人の名前は覚えられないですよね(笑)」

──風貌もスキンヘッドか短髪、そして髭がしっかりと生えている。でも試合は高レベルで。皆が強いからガツガツ&ドロドロの展開になる。

「皆が強くて、真っ向勝負。完全にタフファイトで。試合だけでいえば面白いです。スクランブルもUFC並みに見られます。それにピョートル・ヤンやマゴメドシャリポフみたいにACA(※ACB時代も含める)のチャンピオンは、UFCで強さを見せつけているから、UFCをリリースされた選手との国際戦より、ロシア人同士でやっていて構わないと思います。ACAはACAで、ロシア人同士でやっている方が楽しめます」

──コロナ禍でもACAで出ている旧ソ連勢が、台頭してきている感もあります。

「現にライソフに勝ったカザフスタン人がいて、タジキスタンとか、なんとかスタンっていう中央アジアが出てきている。それも楽しいじゃないですか」

──モスクワの大会でも、やけにタジキスタン選手に声援が集まっていました。

「ロシア国内での民族闘争みたいな感じで、盛り上がっている。僕はもうそこが面白いです。政治も絡んでいる感じで(笑)。ロシアを掘ったら、中央アジアが出てきた。アジアといってもヨーロッパ寄りでレスリングが強くて、ボクシングも強い。国威発揚のための格闘技強化……社会主義時代の貯金が中央アジアの格闘技には残っている。そこが出てくるのは楽しみです」

──それがこれからのACAの楽しみ方だと。

「ハイ。それとライト級ではヴァルタニャンです。柔道の香りがして、MMAで内股を決める。ヴァルタニャンがもう1回、タイトルに絡んで来て内股が見たいです(笑)」

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