【写真】11月中旬からスーパーボンのもとで武者修行中の内藤(C)TAIKI NAITO
秋元皓貴と共にONEキック・ムエタイで戦う日本人として最古参となった内藤大樹。2023年は7月・10月とルンピニースタジアムで試合が続き、いずれもムエタイ戦士に判定で敗れた。
text by Takumi Nakamura
盛り上がりを見せるONEムエタイを肌で感じている内藤はONEムエタイならではの戦い方がある一方、ムエタイの伝統的な技術やジャッジの見方を知ることも必要だと考えている。
現在、内藤はムエタイを学ぶべくONEのトップ戦線で活躍するスーパーボンが主宰するスーパーボン・トレーニング・キャンプにて武者修行中。ONEムエタイでの戦い、ONE日本大会、そして武尊のONE参戦についても訊いた。
――10月17日のONE Friday Fights 37ではゴントーラニー・ソー・ソンマイに判定負けという結果でした。まずあの試合から振り返っていただけますか。
「相手が強かったですし、前々回の試合でルンピニーで戦うことがどういうことかを分かったつもりだったのですが、自分のムエタイのスキルが足りていなかったのかなと思いました」
――内藤選手は7月のONE Friday Fights 27でデッドゥアンレック・ティーデ99と対戦。あの試合は内藤選手のロー&カーフキック×デッドゥアンレックのミドルという蹴り合い中心の攻防で、デッドゥアンレックのミドルが評価されて、内藤選手が判定で敗れる結果でした。デッドゥアンレック戦とゴントーラニー戦はセットで見る試合だったと思います。
「もともと僕は蹴りが得意なんですけど、どうしても蹴り合いになったらタイ人に分があるな、と。だからデッドゥアンレック戦のあとは多少強引にでもパンチで倒すことを考えて練習していました。実際にゴントーラニー戦の1Rはパンチを当てることが出来たのですが、2R以降は相手も動きを修正してきて。ゴントーラニーは去年までラジャのチャンピオンで、一流のタイ人らしい技の引き出しがありましたよね。僕がパンチで倒そう倒そうと真っ直ぐいってしまったので、相手は2・3Rはやりやすかったかもしれないです」
――1Rは左フックのカウンターのタイミングも合っていましたが、パンチに固執しすぎたということですか。
「前半は相手もパンチを返そうとして前重心だったんですけど、途中からは後ろ重心でミドル主体に切り替えてきたんです。そこで僕もローを返したりすればよかったのですが、どうしても前々回のことが頭によぎってしまって。蹴り返すことよりもパンチでいかなきゃという焦りになってしまいました」
――ONEムエタイ、特にルンピニーでの試合はダメージ重視でアグレッシブなファイトスタイルが評価されやすくなっていますが、それでもまだムエタイの判定基準は難しいですか。
「ABEMAの生中継で試合を見ている方がほとんだと思うのですが、ルンピニーは軽くミドルが当たっただけで会場の声援がすさまじいんですよ。あれも多少は動きに影響があると思いますね。
――3Rはどんなことを考えて試合をしていましたか。
「実はガードの合間から何度かパンチをもらってしまって、少しボーっとしていたところがありました。ただ相手が蹴ってきたときに『何を返そう?』と頭で考えていて、今思えば考えている時点でダメですよね。考えなくても体が動かなきゃいけないし、あのレベルの選手に勝つためにはAがダメならB、BがダメならC……そういう細かい技の引き出しと状況判断が求められると思いました」
――内藤選手も引き出しが多いタイプだと思うのですが、タイのトップ選手たちと戦うにはもっと増やすことが必要ですか。
「僕も日本でやっていた時は割と空間や間合いを支配して勝つタイプだったのですが、それだけでは勝っていけないんだなと思いましたね。特にここ2戦で」
――具体的にはどんなことが必要だと思いますか。
「タイ人と戦う上でムエタイをちゃんと学んで理解することが必要だと思います。それはファイトスタイルを変えるということではなく、ムエタイの練習をしてムエタイの技術を覚えて、その上で自分の戦い方や対策を考えるということです。相手がミドルを蹴ってくるからといって蹴り合うわけではないですが、蹴り返す技術がないとそれだけで選択肢が狭まってしまう。ONEムエタイで戦うなかで、ムエタイの技術を持っておくことは大事だと思います」
――現在内藤選手はタイで練習中ですが、ムエタイを学ぶことが目的ですか。
「そうですね。今年の始めにゲオサムリットジムで練習させてもらった時にミットを持ってくれたトレーナーが、スーパーボン・トレーニング・キャンプに移ったんですよ。それで今回はスーパーボン・トレーニング・キャンプにお世話になることにしました。もちろんスーパーボンやノンオーやペッタノンといった超一流の選手たちに触れてみたいということも理由の一つです」
――タイのトップ選手はONEムエタイの戦いにも順応していますが、なぜ彼らはそれができると分析していますか。
「例えばタイ人のパンチのミット打ちを見ると、一発一発をゴツゴツ打つじゃないですか。ボクシング的な技術ys回転の早さだったら日本人の方が上だと思うんですけど、MMAグローブのONEムエタイだったら、ああいうパンチの方が合っていると思うんですよね」
――なるほど。
「ボクシング的な打ち方をすると当たるけど効かせられない。逆にムエタイ的な打ち方は当たる数は少ないけど一発で効かせられる。タイ人がONEムエタイでパンチでゴリゴリいけるのは、パンチの打ち方を変えたというよりも、MMAグローブでやるムエタイがタイ人に合ってるんだと思います。
――そう考えるとルールによって「パンチが上手い」という概念も変わりますね。
「そうなんですよ。これは僕自身の練習にも影響するのですが、キックルールとムエタイルールのどちらでオファーが来るかによって、練習内容やメニューを変える必要があるなと。ヒジうや首相撲があるかどうかでも大分戦い方や技術は変わりますし、ONEの場合はグローブも変わるので、より別競技になってくると思います」
――ONEとはどちらのルールで戦うかを話し合っているのですか。
「キックルールのランキングにも入っていますし、こちらからはキックルールでも試合をやりたいというリクエストはしています。そのうえでムエタイルールのオファーが続いているという状況ですね」
――内藤選手は秋元皓貴選手と並んでONEの立ち技部門の最古参と言ってもいいキャリアですよね。
「ONEで試合を始めた時期は秋元選手の方が少し先ですが、試合数で行ったら自分が一番だと思います」
――ONEの立ち技部門を巡る状況も内藤選手が参戦した当初からかなり変わってきたと思います。そこはどう捉えていますか。
「立ち技だけで見れば世界のトップが集まっている舞台になったと思うし、自分が出ている団体だからということではなく、客観的に見ても選手のレベルという意味ではONEが立ち技で一番の団体だと思います」
――やはりルンピニースタジアムで毎週大会をやっていることは大きいですよね。
「ONEムエタイが新しい時代を作ったと思います。それがいいのか悪いのかは分かりませんが、ONEムエタイによってムエタイというものが変わりましたよね。ムエタイはムエタイだけど、より激しい戦いになっているというか。ONEムエタイという新しいカテゴリーが確立されている印象です。前回自分の試合が終わったあとに会場で試合を見ていたら、ミドルキックを一発も蹴らずにパンチとヒジしかやらない試合もあったんです」
――ムエタイで一発も蹴らない、は驚きですね。
「はい。僕は移転する前のルンピニーで試合をしたことがなくて、試合を見に行っただけなのですが、今のルンピニーは海外の観光客や若い女性ファンが多かったり、お客さんの層もかなり変わってきたと思います。賭けがなくなった分、ギャンブル目的とは違う客層に響いているんだなと思いました」
――それだけルールや戦い方が変わってきても、軽量級のトップを占めているのはタイ人で、改めてタイ人のレベルの高さを感じます。
「先ほど話したようにタイに来たのは一流の選手と練習することも目的で、実際に映像を見ているのと肌を合わせるのは違うと思っていて、感じるものがあるんだろうなと思います。あとは首相撲をやったら、10代の子供たちにやられることもありますし、プライドを捨ててじゃないですけど、よりハングリーになる必要があると思います」
――内藤選手はONEのキック・ムエタイどちらもランキングに入っていて、試合は毎回超強豪との対戦です。そういうONEで戦い続けていることにプライドや自負はありますか。
「日本のイベントが盛り上がっていますが、今の自分が戦うべき舞台という見方はしていなくて。僕自身、2度目の(那須川)天心戦で負けたとき、初めて格闘技をやめようと思ったんです。ちょうどその時期に鈴木(博昭)さんがONEと契約して、セコンドとして連れて行ってもらったんですけど、初めてONEを現地で見て『自分の格闘技人生、最後にここで結果を残したい』と思ったんです」
――ONEを見たことが現役続行を決める要因だったのですね。
「鈴木さんのセコンドにつくまで、2カ月くらい練習もしていなかったし、(現役を続けるかどうか)どうしようかなと悩んでいて、自分のなかでズルズル格闘技を続けるというのが嫌だったんです。それでふと思ったことがあって、僕は小さい頃に格闘技の世界チャンピオンになるという夢があったけど、まだその夢を叶えてないなって。そのタイミングでONEの試合を生で見て、ここでチャンピオンになったら、自分の中で満足できるのかなと思ったんですよね。だからONEで戦うことに喜びを感じるというか、純粋に格闘家としてONEでベルトを巻くために戦っています」
――ONEのチャトリCEOは来年の日本大会開催を明言しています。それについてはいかがでしょうか。
「日本では4年以上試合をしていないですし、ただ日本で試合をするだけではなく、ONEで戦っている自分を日本のみなさんに見せたいという想いはあります。ただ僕は2連敗中ですし、日本大会に出られなかったとしても、それはしょうがないと思っています。日本人だから日本大会に出られるわけじゃないと思っているし、そういう厳しさがONEだと思っているので。チャンスが来ることを待って、自分を高めるだけですね」
――今後もムエタイルールで試合する場合、ロッタン・ジットムアンノンが持つベルトを目指すことになると思います。
「今は誰とやりたいということはなくて、次オファーが来た相手にしっかりと勝つ。その気持ちが強いです」
――またONE参戦を発表した武尊選手のことはどう見ていますか。
「僕は武尊選手のことをすごくリスペクトしていて。武尊選手ほど地位とキャリアがあるのに厳しい戦いを選択して、自分と同じとは言わないですけど、武尊選手も“ファイター”なんだなと思います。だからこそ自分の邪魔をさせないという発言も出るし、武尊選手のONE参戦は刺激になります」
――同じ団体・同じ階級で戦う以上、ライバルになりうる存在です。
「ONEで日本人対決というのは考えたことがなかったんですけど、ONEで武尊選手と戦えたらすごく良いなと思います。形も立場も違うのですが、僕も武尊選手も天心選手と戦っていて、お互い色んな想いを持って戦ったと思うんです。僕の中では勝手につながりのようなものも感じているし、これから日本人対決があるとすれば、僕が日本人で戦いたいと思う相手は武尊選手だけかなと思います」
――今日はありがとうございました。日本大会出場も含めて、内藤選手の次戦を楽しみにしています!
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【ONE】内藤大樹、ONEムエタイで勝つために――「ムエタイを“やる”のではなく“学ぶ”」 first appeared on
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