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【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。ビクター✖バルセロス「逆反射神経」

【写真】動き続けることで、バルセロスの意識が追いつかなくなるという戦いをしたビクター・ヘンリー (C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たビクター・ヘンリー✖ハオーニ・バルセロスとは?!


──ビクター・ヘンリーとハオーニ・バルセロス、初回の中盤までハオーニが優勢でした。

「パンチ力がありましたね。ビクターは組みの選手というイメージがありましたが、終始打撃戦になりました」

──自分はボクシングが上手いわけでも、キックが卓越しているわけでもないビクターの打撃が、局面、局面で本職と同じような強さを持つUFCファイターに通用しないと実は思っていました。よく言われたMMAの打撃という感覚では、今や勝てないと。

「ビクターは構えが悪いです。立ちすぎていて。ほとんど自己流なんでしょうね」

──そういう自己流と発想力的なことでは、UFCでは勝てないという考えは違っていたのか……。

「確かに最初は質量的にもハオーニの方が高かったです。ただし、ハオーニは単発で狙い過ぎでした。対してビクターはエンドレスで動き続けています。良く、動きという言葉を使いますが、動きとはパンチのことだけではありません。ビクターの足を見てほしいです。動きというのは手数ではなく、足数なんです。どれだけ動き続けているのか。

結果、初回の途中で前蹴りを受けたハオーニは失速しました。あの爪先が入る蹴りをビクターは練習でショーヘイ(ヤマモト。極真空手出身、CSWの同門)に食らっているんです。面白いモノで、食らっていると技を覚えるということがあります。

ハオーニは一発があるが故に狙い過ぎて、攻撃が単発でしたね。単発の強さと、軽いエンドレスでは試合が続けば後者が勝つ確率が高くなっていく。それが格闘技の試合です。そこで求められるのが、反射神経に対しての逆反射神経なんです」

──逆反射神経……ですか。それは?

「逆反射神経とは一般的な言葉ではないです。例えば刀で斬った、斬ったところで普通の神経は止まります。ただし、刀を振り落とした時にはもう切り返すことができるのは逆反射神経が働いているからなんです。ナイファンチでいえば、右の方向に移動した時に既に左側を注意している。つまり神経がいっているということになります。そういう風に逆反射神経が生きていると、最終的に神経の滞りがなくなります。そうでないと、動きが単発で神経が分断してしまいます。

技を出したあと、神経が分断されているとどうなるのか。例えば右のパンチを出したあとに意識が止まるから、隙ができてしまいます。左の逆反射神経が働いていないということですね」

──夫婦手ではないと。

「その通りです。右の突きを出した時、左の逆反射神経が働いていると夫婦手が機能しています。連動がかかっているということですね。そういう意味では参考になる試合でした。単発の攻撃は自分の意識が働いているから、相手も意識できる。対してビクターの動きは夫婦手でもないし、逆反射神経が働いているわけでもなく、イチ、ニ、サンと動けばイチだけ意識していて、二からあとは無意識なんです。だからハオーニも意識できないから被弾した。そういうことですね。決して殺傷力はない。あるのは前蹴りぐらいで。それがビクター・ヘンリーのMMAストライキングということですね。

と同時にビクターのあの動きに何かビジョンがあったかというと、そうでもなかったと思われます。効いてもそこを抉っていくことはなく、ひたすら散らして動き続ける。そうやって動き続けることでハオーニの判断力を奪う動きになっていたのでしょうね。ハオーニがついていけなくなった。嫌な攻撃だと思います」

──逆をいえば動きが止まると、ビクターは危ないということですか。

「だから2Rになって、初回の後半に攻撃を纏め過ぎたのか、動きが止まって危ない場面がありました。そこでいえば……意識という観点から、ウェービングやヘッドスリップというボクシングで、拳の攻撃に対して発達した防御を蹴りのある試合で使うと、危ういということに通じます。

ビクターの攻撃はステップ、足の動きからボクシングでも、キックボクシングでも空手でもない打撃です。そして彼のウェービングもノープランでした。マイク・タイソンはヘッドスリップから左のレバーを狙うというビジョンを持って、頭を外側に振っていました」

──でもビクターは違うわけですね。

「ハイ。ビクターは最終回にノービジョンで頭を振った時に、ハオーニの蹴りが飛んできたシーンがあり、そこから間がハオーニに変わりました。直後に左フックを貰っています。その後のスピニングバックフィストも危なかったです。あの時のようにハオーニも一発でなく、勢いに乗って連続攻撃を出した時など、確かに強い選手だと感じました。あの動きを奪えば、ビクターは打撃では有効な手立てはないかもしれないです。そういう時のために、今回の試合では見せなかったグラップリングがあるのでしょうね」

──トップUFCファイターのテイクダウン防御力、スクランブル能力、そして寝技も日本国内とは違う。だから、ビクターの次の試合が楽しみですね。そこが通じるのか。今回はそこを見せず、立ち技だけでハオーニに勝った。これは殊勲の勝利かと。

(C)GOKIKAI

「組み、寝技は疲れる。そういう意識が、もう多くの選手にありますね。それにしてもエンドレスの恐ろしさを見ました。ビクター自身が意識していないから、相手にその意識が伝わらない。実はビクターとはLAに訪れた際に交流があって、常に明るくて元気で永遠に話し続けている人間なんです。

練習も同じで動き続けている。止まることを知らない。エネルギーが途切れることがないのではないかと、そういうエンドレスさが試合にも出ましたね。普段、練習、試合、全てマッチしているエンドレス。同じ人間とは思えない、理解不能のエネルギッシュさです。きっと、ビクターは止まれない。站椿なんてやらせると、ダメになってしまうのでしょうね(笑)」

──確かに(笑)。

「あの足の動きをずっと普段からやっている。普段の生活のまま戦っていると言えます」

──なるほど。エンドレスなビクターから、逆反射神経、そして夫婦手と非常に興味深かったです。しかし、全てに神経を届かせる。やることが多いMMAファイターは本当に大変ですね。

「仰る通り、ごもっともです。キックボクシングやムエタイで左ミドルから左ストレートという連動が成立するのは、そこにダブルレッグやシングルレッグという足を取ってのテイクダウンがないからです。組みへの反射神経を使わなくて良いから、恐れることもなく使えます。ビクターは自分も組む、相手も組んでくるという中での連打なので、言い方は悪いけどおっかなびっくりな連続技でした。これこそMMAらしいエンドレスですね。そういう世界で……UFCで勝つには、我々は逆反射神経まで含めて稽古しないといけないですね」

──ビクターのMMAのエンドレス、つまりはMMA特有の打撃がUFCで通じた。ビクターと互角にやり合える日本人選手も、彼の勝利を見て日本からでもやれるという風に思えたのではないでしょうか。

「ビクターは基本的に質量が低いです。だから日本人選手と手が合った。ビクターがなぜハオーニに勝てたかは考える材料としても、ビクターとやりあえるから自分たちもハオーニとやり合えるとは考えない方が良いと思います。日本人選手の課題は、そこではないはずです」

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ABEMA MMA MMAPLANET PANCRASE Pancrase326 Pancrase327   ロッキー川村2 内藤由良 北岡悟 岡見勇信 武術空手 藤野恵実

【Pancrase326&327】湾岸から山の手、そして武蔵野・多摩。東京横断のパンクラスで内藤×ロッキー!!

【写真】内藤のポテンシャルの高さは練習仲間からも折り紙付き。対してロッキーが今も強くなり続けていることで、非常に楽しみなマッチアップだ(C)MMAPLANET

19日(水)にパンクラスから3月21日(月・祝)に東京都新宿区のベルサール高田馬場で開催されるPancrase326で内藤由良とロッキー川村2の間でミドル級王座決定戦、20日(木)には4月29日(金・祝)に東京都立川市の立川ステージガーデンでPancrase327が行われることが発表されている。

パンクラス新章が日々、明らかになってくる。藤野恵実×KAREANに続き2つ目のタイトルショットはリリースに『ロッキー ザ ファイナル』遂にロッキーがキッズレスリング時代の教え子、内藤由良と戦う時が来た。「NEVER GIV UP 自分をあきらめない』と綴られている。


2005年7月にプロデビューを果たし16年、内藤が9歳の時のことだ。2017年11月にミドル級KOP王座を失うと、MMAからは距離をおいていた川村がデカゴンに戻ってきたのは、成長した教え子の対戦要求にこたえたものだった。

ロッキー・バルボアとトミー・マシンガンはストリートファイトで決着をつけたが、こちらのロッキーはケージのなかでベルトを抱えて内藤を迎えうつ。

神奈川の磯子工業高校から国士舘大とレスリングで活躍し、全日本大学選手権と学生選手権ではそれぞれ97キロ級と92キロ級で準優勝という実績を残す内藤は、2020年9月のプロデビューからここまで4連勝で今回のタイトル戦を迎えることになった。

北岡悟とともにパンクラズイズムの看板を守り、最近では武術空手の稽古にも取り組む川村に対し、内藤は岡見勇信にとって最高のトレーニングパートナーになるまで成長している。

MMAの性格上、組みで削ることができる教え子=内藤が有利という見方もできる。その一方で、過去にMMAで見せた者が皆無の──枯れの美学という未知の領域に足を踏み入れ、その強さを川村が見せることができるのか、注目だ。

さらに本日、公になった4月の立川大会。ベイエリアから山の手、そして武蔵野・多摩へ。東京を横断するパンクラスの新章、立川ステージガーデンは昭和記念公園に隣接し、向かいにIKEAがあるライブ・エンターテイメント・ホールで客席数2500を誇り、24時間使用可能という──民間運営の利便性の良さが目をひく会場だ。

大型スクリーン、2階、3階席がある立川ステージガーデン大会でのカードの発表も待たれる。

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Bu et Sports de combat MMA MMAPLANET サンチン ナイファンチ ナイファンチン ボクシング 剛毅會 岩﨑達也 武術空手

【Bu et Sports de combat】武術で勝つ。型の分解、ナイファンチン編(03)「目線、胸、足の小指の向き」

【写真】横への隙をなくすナイファンチンの型で創ることができるヒジ当てとは? (C)MMAPLANET

武術でMMAを勝つ。空手でMMAに勝利する──型を重視する剛毅會の武術空手だが、岩﨑達也宗師は「型と使って戦うということではない」と断言する。型稽古とは自身の状態を知り、相手との関係を知るために欠かせない。

サンチン、ナイファンチン、セイサン、パッサイ、クーサンクーの型稽古を行う剛毅會では、まずサンチンから指導する。そんな剛毅會の稽古には站椿が採り入れられている。

全ての根幹となる武術の呼吸を学ぶことができる──サンチンで創られた、空手の体をいかに使うのか。その第一歩となるナイファンチンの解析を行いたい。第3回となる今回は、目線、胸、足の小指の向きからナイファンチンの型の解析を行いたい。


ナイファンチン立ちの基本と最重要点は目線と体の向き、そして足の小指の向きになる。この3つの向きが正しくなることでナイファンチン立ちが成り立つといっても過言でない。最初の姿勢は目線、胸、正面を向いている

小指も正面を向く。「小指が正面を向くと、親指はやや内側を向きます。股関節からヒザ、つま先とつながり強い構えとなります」(岩﨑)

本来、人が正面を向いた立った時は足の小指は若干外側を向く。「よって往々にして見られるのは、指を内側を向けることでヒザも内側を向いてしまうという構えです。それでは強い構えにはならないです。サンチン立ちは、指が内側を向いてもヒザは正面を向いており、強い構えです」(岩﨑)。対してナイファンチン立ちは常に足の小指を正面に向けて、強い構えを創る

一の動作。顔は右を向き、視線は右。胸と足の小指の向きは正面のまま。「ウルトラマンのカラータイマーがあるイメージし、カラータイマーを正面に向けてください」(岩﨑)

×正しくない姿勢で顕著なのは、目線に引っ張られて胸が右側を向いてしまうこと

二の動作。左足を右足の前方から、一歩踏み出す

この時、小指は正面を向くようにする。同様に胸も前、目線は右という姿勢は変わらない

三の動作。続いて右足を一歩横へ、同時に右手で手刀打ちを行う。目線は右、胸は正面、足の小指も正面なのは変わりない

×三の動作で顕著な間違った姿勢は、左肩を引いて胸が左を向いて中心がずれてしまう。「一生懸命に腕を引くことで、上体を引っ張ってしまうことで胸のカラータイマーが左を向いてしまいます」(岩﨑)

×同様に伸ばした右手に体が引っ張られ、体が右を向くのも起こりやすい間違い

四の動作。伸ばした右手に

左ヒジを当てる

視線と胸は右を向き、足の小指は正面

×ヒジを当てるときに、指が右側に向くことで

ナイファンチン立ちではなくなる。「内面が出来上がっていないと、足を引っ張って指先が右を向いてしまいます。つま先が右を向く、つまりヒジ打ちになります。ナイファンチンではヒジ打ちではなく、ヒジ当てです。ヒジ打ちとは明確に違います」(岩﨑)

【ヒジ打ちとヒジ当ての違い】
標的に対して、ヒジを動かせるのがヒジ打ち。できているヒジを標的に置くのがヒジ当て。「ヒジを使った攻撃を見ていると、ヒジの状態を考慮せずに振るケースが多いです。振ると移動で力を養成しようとするので、ヒジの状態を創るという状態にはなかなか辿りつかないです。武術空手のヒジ当ては、ヒジの状態が固く創ることでより威力があるという考えです。ヒジの状態が出来ていて、振ることが一番です。ただし、できたヒジを振ることでエネルギーを失うことも多く簡単ではない。ワンインチパンチがエネルギーを失わないのに対し、距離のあるパンチは失ってしまうのと同じです。そこで剛毅會のMMAではこのヒジ当てをケージ・レスリングでのダーティーボクシングに取り入れる試みをしています」(岩﨑)

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Bu et Sports de combat MMA UFC ショーン・オマリー ハファエル・アスンソン リッキー・シモン 剛毅會 岩﨑達也 武術空手 海外

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。シモン✖アスンソン「常に攻撃態勢にある」

【写真】この前蹴りにしても効かせることができるリッキー・シモン (C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たリッキー・シモン✖ハファエル・アスンソンとは?!


──リッキー・シモン×ハファエル・アスンソンのバンタム級戦、ノンストップ・アクションかつリアクションMMAで先手を打つというシモンが、長年に渡りバンタム級トップ戦線で戦ってきたアスンソンにKO勝ちを収めました。

「シモンの空振りだろうが、あの勢いのある右フック。アレを被弾する選手はUFCではそうはいないでしょうが、ゾッとするモノはありました」

――レスリングベースで、テイクダウン&スクランブルを制し続けるなかで打撃を使いこなす。ただ動き続けることで、エネルギーを零し続けるということはないでしょうか。今回はKOで試合を決めたのですが。

「う~ん、この試合では言われたような組みの中での打撃以外に関しては、パンチはパンチ、蹴りは蹴り、組みは組みという風で連動は見られなかったです。ただし、その一発、一発は右フックもそうですし、上段の右前蹴りも良くて。あの蹴りもそうですし、シモンはダメージを与えることができる攻撃をもっています。

だからスクランブルゲームでマネージメントして勝つこともできるけど、攻撃自体には破壊力も十分に感じられました。今回はずっと自分の動きができたということを差し引いても、常に攻撃態勢にありますよね。

絶対に殴る、絶対に蹴る。絶対に組んで倒す。その意識を持ち続けることができると、質量も疑いようのないモノになります。その部分でアスンソンとシモンには絶対的な差がありました。本気のモノとそうでないモノは、絶対に差があるんです。

なんとなく蹴る、なんとなく打つ。この修正は練習の時から必要です。倒すつもりで攻撃をすることが必要なんです」

――そこにシモンとアスンソンの違いがあったわけですね。

「ハイ。それがあったシモンと、ないアスンソンで質量は変わってきます。そのうえで自分のやりたいようやっているのだから、シモンはエネルギーを動くことで零すこともなかったです。それだけ攻防になっていなかったというのはありますよね。アスンソンの攻撃が脅威ではないので、自分のやりたいように動ける。結果、シモンのエネルギーが零れることもない。そういう試合だったと思います。

相手の攻撃に対し、動いたのか。それとも動かされたのか。相手の動きに対し、下がるのと下がらされるのでは全然違う。下がるのは自分の間で、下がらされると相手の間になり、これは相当に危険な状態です。能動態か受動態なのか――今回のシモンは常に能動でした。

これが脅威にさらされる攻撃を持つ相手と戦った時にどうなるのか。この質量を維持できるのか。こういうことを考えると、自分が選手に対して担う役割というのは、空手だから打撃を教えるということではなくて、質量が高い相手にどのように戦えば良いのかを指導する。そこだと普段からも思って指導しています」

――質量の高い相手とは、どう戦うのでしょうか。

「それは……相手の質量を下げることです(笑)。そういう戦いを――現状で国内で戦っていて強いとされている選手が、海外の選手を相手にした時にできるのか。それは見ている立場でも、凄く楽しみにしています。だからリッキー・シモンが、そういう立場になったときにどのような戦いができるのか、そこが見たいですね」

――シモンは試合後にショーン・オマリー戦をアピールしました。

「良いですねぇ。見ものです……案外、良い試合をするんじゃないでしょうか。絶対に見たいです。ただバンタム級ですよね……。どういうことでしょうかね、リッキー・シモンが15位にもならないというのは……。凄まじいです。UFCで戦って、勝つということを考えると気が遠くなりそうです(苦笑)」

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BELLATOR Bu et Sports de combat MMA RIZIN セルジオ・ペティス 剛毅會 堀口恭司 岩﨑達也 武術空手

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。ペティス✖堀口恭司「質量と間はペティス」

【写真】ペティスの3Rまでの動き、その秘密が明かされるのは2022年のバンタム級ワールドGP後だろう (C)BELLATOR

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たセルジオ・ペティス✖堀口恭司とは?!


──堀口選手の敗北。武術空手的にはペティス戦をどのように見ることができました。

「まず3Rまで、堀口選手がポイントをリードしていたことは絶対的です。とはいえ、それが堀口選手の試合なのか、ペティスの試合だったのか……」

──そのように感じるというのは?

「まず、あのサークルケイジの広さと堀口選手の距離の取り方が、RIZINのリングで取っている距離のようにフィットしていなかったように見受けられました。距離が近くになっていました」

──それは試合序盤からですか。

「そうですね。遠い距離を取っているようでも、近かったです。そしてイチ・二、イチ・ニというリズムなの、そこからのパンチはイチ・ニのサンになる。対してペティスはイチで、全てを打てる構えでした。そうなると質量はペティスが重く、間もペティスになりますよね。

幾度か堀口選手はカーフを蹴って姿勢を乱すことがありましたが、質量が重いペティスを相手に蹴ろうとすると、間がペティスなのであのようになる。無理に蹴っているので空振ったり、蹴ったほうが跳ね返されるということは、往々に起こります。重心が乱れた蹴りになっているんです。対して打てば当たるという状態ではあったのですが、なぜかペティスは打たなかったです。

4Rまでずっとその調子で。それは打てなかったのか、打てなかったのか。4Rになってからは、別人といいますか……本来は1Rからあの動きができていたと思うので、なぜ最初からああいう風に動かなかったのは疑問です。どれだけ質量だ、間だと言っても手を出さないとMMAでポイントを取ることはできないですしね。

積んできたことが、練度不足だったのか。単発でしか出さないから、堀口選手がそこに合わせやすくなり、ポイントとして打撃でも堀口選手につく。そんな風になっていたのか……。それに堀口選手の右のクロスは、ショートレンジでも効きますしね」

──ペティスの3Rまでの戦い方を考察するのは、難しいということですね。

「体重差があるスパーリングが成り立つのは、重い選手が軽い選手に合わせて動くからです。それでも目に見えない攻防がある。同じ体重で戦っていてペティスが手を出していなくても、目に見えない攻防があり、試合が成立した──そんなことが起こっていたかもしれないです。とにかく質、間とも圧倒していたペティスがあのように動かなかったのは、ペティスにしかその理由は……試合中は分からないですよね」

──5Rで消耗戦、ラウンドを落としても疲れさせるという賭けだったのか。

「しかし、MMAですからね。あれだけテイクダウンを取られると、取られないように策を講じると思うんですよね。画面で見ていると、堀口選手が疲れたという風に見えなかったですし……。この連載は結果が出たところで武の理を解析しようという試みなのですので、あの結果が出ても堀口選手が疲れたようには私には見えなかったです。

ただし4Rの序盤にテイクダウンをして、それまでとは違い拘ることなく立った。そこがターニングポイントになったのかと。グラウンド・コントロールの展開にブーイングが起き、そこで堀口選手は動揺したのか、内面に何が起こったのか。あのまま抑えて、パウンドをちょこちょこと落としていれば勝てた──という仮説は十分に成り立つかと思います」

──私がFigth&Lifeで行った取材では、堀口選手は「あのままで勝てた。でも、面白くない試合で良いのか。立って倒そうと思ったし、倒せると思った」という風に話していました。

「う~ん、勿体ないです。勝利が絶対のなかで、勝利以上を目指す。だから、あれだけの存在になったのかもしれないですが……。次にまたテイクダウンを狙いにいって切られ、従来の質と間で上回る選手の試合にここからなっていました。

そうなると相手の動きをかわすという守りの間合いだった堀口選手は、手を出し始めたペティスに苦しみだした。それが4Rに起こったことかと思います。あの攻撃ができる、ああいう打撃が内在していることをペティスは明らかとしました。質量に回転が加わり、威力があることは一目瞭然となりました。

と同様に打撃に関しては、堀口選手も右のクロスを合わせるという動きに終始していましたね。テイクダウンに帰結するファイトだったからなのか単調でしたし、粗かったです。あのペティス陣営の野杁正明選手を意識したという送り足で前に出るという戦いは、相手の間になって合わされることも多いのですが、堀口選手は下がった。なら、ペティスがパンチを出していれば当たったと思うのですが……と結局、この試合はそこに行きついてしまいますね。

5R戦をマネージメントするという点において、堀口選手が3Rまでは正解だったわけですし。質量も間もペティスでも、MMAの試合では堀口選手。これは私なんかも、試合を勝たせる立場になったときに注意しないといけないことなんです。そういう意味でも勝ったペティス、負けた堀口選手、MMAを戦う選手や指導者、MMAを見ているファン、全てに勉強になる試合だったかと思います」

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Bu et Sports de combat MMA サンチン ナイファンチ ナイファンチン 剛毅會 岩﨑達也 武術空手

【Bu et Sports de combat】武術で勝つ。型の分解、ナイファンチン編(02)「横への隙を無くすため」

【写真】横からやってくる相手へ対応ではなく、横への隙を無くすのがナイファンチン (C)MMAPLANET

武術でMMAを勝つ。空手でMMAに勝利する──型を重視する剛毅會の武術空手だが、岩﨑達也宗師は「型と使って戦うということではない」と断言する。型稽古とは自身の状態を知り、相手との関係を知るために欠かせない。

サンチン、ナイファンチン、セイサン、パッサイ、クーサンクーの型稽古を行う剛毅會では、まずサンチンから指導する。そんな剛毅會の稽古には站椿が採り入れられている。

全ての根幹となる武術の呼吸を学ぶことができる──サンチンで創られた、空手の体をいかに使うのか。その第一歩となるナイファンチの解析を行いたい。第2回となる今回は、ナイファンチンという「手っ取り早く喧嘩に強くなる」型を知る前に、改めて武術と格闘技、格闘技と喧嘩の違いについて話──後編をお届けしたい。

<ナイファンチン第1回はコチラから>


──格闘であっても、闘争でないと。

「空手の道場では組手をする際に『どうすれば良いですか?』という問いがあった時は、『喧嘩のつもりでやりゃぁ良いんだよ』という答えでした。ところが時代とともに、この言葉は通じなくなってきました」

──喧嘩をしていない子供たちが増えたということでしょうか。

「ハイ。喧嘩もそうですが、怒りという感情がない。怒っちゃいけないように教育されているんです。そういう教育になっています。人に迷惑を掛けちゃいけない。いやいや、子供は迷惑を掛けて良いんです。そのために大人がいます。子供の迷惑を受け止めないで、迷惑を掛けるなという教育をするから、何が迷惑なのか、自分の感情を出すことができなくなっています。

だから大人になって迷惑を掛ける人間だらけになったんです。子供の喧嘩なんて、本気でも素人なんです。そういう時に怒ることができなくて、その感情を抑えてより弱い者にぶつける。そういう世の中です。路上の無差別殺人、狙いは女性、子供、ご老人ばかりです。人を殺して、自分も死にたいとか言って、ヤクザに切りかかる輩はいません。

教育現場や格闘技の道場で『死ね』という言葉が聞かれなくなった。それは『死ね』と言われて、『嫌だ。死ぬもんか』という怒りで現状を跳ね返していたのが、そういう言葉を聞かされても怒れなくて、落ち込んでしまう。それって間に一つ抜けちゃっているんじゃないかのと」

──あまり声を大にして言えないですけど、ふた昔も以前に格闘王を名乗る人と口論になったことがありました。あの時に『殺すぞ』と言われたのですが、その言葉を吐く限りは『お前も殺される覚悟ができているんだろうな!!』と口論以上に発展しそうになって(笑)。

「アハハハハ。ただし、そういうことなんです。相手に飛びかかられたことで、自分が何を口にしたのか理解したことでしょう。『殺す』という言葉が、その御仁にとっては武装ということなのでしょうが、あなただけでなく相手も武装していますよ──ということは、闘争をするうえでは忘れてはいけないです。

そういうことが完全に抜け落ちているんです。言われた方が、『お前も殺されるぞ』という感情を持たないから。そこがないと、命の脅かし合いの攻防とはならない。本気の命の脅かし合いのなかで使うモノが武術です。自分の精神に一片のごまかしがあってもならないんです」

──とはいえ、武術を鍛錬するうえでも殺し合いはできないです。

「仰る通りです。やっちゃいけないことです。ローマ帝国の頃から『汝平和を欲さば、戦への備えをせよ』という格言があります。一太刀で相手を倒す稽古をしていると、人を殺める必要性はなくなります。武術、武道の存在意義はそこにあります。だから型稽古が存在しています。

幕末に防具剣道をやっている人たちが実戦ではそれほど役に立たなかった。真剣で巻き藁を切り、型稽古をしている人の方が斬ることができた。どれだけ人を斬る状態を創っているのか。MMAは命のやり取りが念頭にあるモノではないです。だからこそ、どれだけ本気で勝つための練習をしているのかが問われるのだと感じるようになりました」

──ではMMAを戦うわけでも、空手のコンペティションに出るわけでもない人間が型稽古をすることは人を殺める業を稽古していることになるのですか。

「そうです。自分の命、家族に危害を加える人間がいるという前提で稽古をしているので。そんな人間がいないと思うなら、稽古をする必要はありません。世の中、信じているモノに裏切られることいくらでもあります」

──ハイ。

「だからといって『裏切られた』とか言っても、筋違いです。そういうことがあるという前提、それに耐えうる精神的、肉体的な強さをつけておく必要はMMAを戦う、格闘技の試合に出るという意志がなくても、身につけておいて何ら損はないと私は思っています。そして型稽古で言いますと、ナイファンチンからそういう武の核心に入っていきます。殺さないために殺し合いを学ぶ──その領域にナイファンチンから入っていくことになります」

──ナイファンチンは横移動です。そこから何を学ぶことが前提となっているのでしょうか。

「横に移動することで横から来る人間への対応方法思われがちですが、横から来る人間と戦うのではなくて、自身の横への隙を無くすためだと考えてください。正面を向いていて横に隙ができやすいのが人間です。

言うと……どこを向いていようが、360度を気にしないといけない。その360度はクーサンクーで学びます。パッサイは斜めです。いずれも隙ができやすいところの隙をなくす、それが型稽古なんです。

隙がなくなると、正面への反応、動きが見違えるほど速くなります。後方に隙ができるのが人間です。続いて横です。正面は一番、意識できる。だからこそ、後ろと横に隙ができてしまう。その隙をなくすことが、私が行っている型稽古の目的です」

<続く>

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【Bu et Sports de combat】武術で勝つ。型の分解、ナイファンチ編─01─「武術と格闘技、喧嘩と格闘技」

【写真】サンチンに次にファイファンチを学ぶ、その故とは (C)MMAPLANET

武術でMMAを勝つ。空手でMMAに勝利する──型を重視する剛毅會の武術空手だが、岩﨑達也宗師は「型と使って戦うということではない」と断言する。型稽古とは自身の状態を知り、相手との関係を知るために欠かせない。

サンチン、ナイファンチ、セイサン、パッサイ、クーサンクーの型稽古を行う剛毅會では、まずサンチンから指導する。そんな剛毅會の稽古には站椿が採り入れられている。

全ての根幹となる武術の呼吸を学ぶことができる──サンチンで創られた、空手の体をいかに使うのか。その第一歩となるナイファンチの解析を行いたい。第1回となる今回は、ナイファンチという「手っ取り早く喧嘩に強くなる」型を知る前に、改めて武術と格闘技、格闘技と喧嘩の違いについて話を訊いた。


──サンチン、ナイファンチ、セイサン、パッサイ、クーサンクーの型稽古を行う剛毅會ですが、長らく続いたサンチンの連載をひとまず終え、今回からナイファンチの解析に移らさせて頂きます。その前にサンチンは他の型とは性格が違うモノ、その部分を改めて説明して頂けないでしょうか。

「サンチンは空手に必要な精神と肉体を養う、あるいは育むための型です。他の型の稽古をしても、サンチンのレベルが他の全ての型のレベルになるファンダメンタルです。突きが良くない、それはサンチンのレベルが低いことが要因になることもあります。

サンチンを省いて、武術空手の指導はできないです。稽古をする目的がそれぞれなために、全ての教え子にサンチンの型稽古を指導してきたわけではないです。ただしMMAの試合に武術空手を生かしたいのであれば、サンチンの要素を多分に含んだ稽古はやっているので、サンチン自体の稽古をするする必要はないようにしてきました。ミットをやろうが、スパーリングをしようが、それはサンチンをしていることになります。サンチンの考え方でパンチの練習をさせている感じです。そして、サンチンをすることで自ずと突きは強くなります」

──ここでもサンチンのことになってしまいますが、なぜサンチンをすることで突きの威力が増すのですか。

「体が空手の体になるからです。空手の体になることが目的です。では、サンチンで創った体をどのように使うのか。次の段階として、使用方法を学ぶことになります」

──それがナイファンチということですか。

「格闘技と武術は違います。なので武術という部分の空手を身につけるには、格闘技の練習をしていても身につかないです。エネルギーの運用方法を学ばなければなりません。左側が資金の源泉と、右側が資金の使途と示す資金運用表というものがあります。あれと同じで左がサンチンで、右が他の型という風に考えると分かりやすいです。その右側──エネルギーの使途の第一歩がナイファンチになります」

──なぜ、ナイファンチが第一歩になるのでしょうか。

「そこに関しては私が決めた順番ではなく、慣わしに則した形です。流派や先生によってはパッサイから始めるところ、セイサンから始めるところもあるでしょう。

ナイファンチに限らず、ナイファンチ以外の型でも体の使用方法を学ぶことに変わりないです。サンチンとセイサンは分類上では那覇手なので、この2つを同時に学ぶことはないと言われているようですが、そういう慣わしが伝わるようになったのも琉球王国が廃藩置県で沖縄県となった頃からのようで。それ以前はどうも那覇手も首里手も、泊手もなく、それぞれの先生がサンチンを教え、ナイファンチを教えるという風で同時に学ぶということがなかっただけで、個人が別の型を学ぶことはあったようです。

剛毅會がサンチン、ナイファンチ、セイサン、パッサイ、クーサンクーの型稽古を行うのは私の先師が決めたようですが、よくできた順番だと思っています。どこからやっても構わないはずですが、私の感覚的に手っ取り早く喧嘩に強くなるにはナイファンチだと思います」

──喧嘩に強くなるには、ですか。格闘技と武術は別ですが、武術に喧嘩は含まれると。

「格闘技と武術が別であるように、喧嘩と格闘技は別物です。全く違います。実は最近はMMAで勝つために喧嘩のトレーニングを取り入れています」

──喧嘩のトレーニング? 喧嘩はルールなき実戦ではないですか。そこを練習に採り入れるというのは?

「まさに今、喧嘩にルールはないと言われましたよね。つまり、そういうことなんです。喧嘩と格闘技の違い。喧嘩と格闘技は時間、速度が違います。格闘技は強くなればなるほど、スポーツ化していきます。スタミナの配分やジャッジの判定基準を考えるようになり、喧嘩における暴力性と相反する要素が必要となってきます。

喧嘩って本気なんです……本気というか、躊躇ない。躊躇していると、やられます。ヨーイドンがないわけですから。その根底には怒りや恐怖が存在しています。ただし格闘技は本能の発動がないのに戦闘をしないといけない。練習を見ていてもそうですが、人間の
精神は、憎くもない相手を簡単に殴るようにはできていないです。

それが海外の選手なんかは金が掛かって、より良い人生を手にするためには迷うことなく惨たらしいことがちゃんとできます。国内にもいるかもしれないですが、少なくとも私が関わってきた選手たちは、そういうことが不慣れな人間です。松嶋こよみは、まだ全然殴れるほうです。特に若いころは躊躇がなかった。そんな彼でもデビュー当初はボコボコに殴れていても、キャリアを重ねるとそうでないようになってきます。

もちろん、MMAに勝つためにはスタミナ配分も、ゲームプランを実行することも大切です。だから、殺傷能力だけでは勝てない相手と戦うようになると、自ずとボコボコと殴ることがなくなってきます。あるいはより凄い相手に殴られて、イップスのように以前のように殴ることが出来なくなるケースもあります。

よって練習の時にも、石ころを持ってぶん殴ることをイメージさせます。でも、石ころを持ってぶん殴るって殺意のある行為です。剣術や空手が格闘技と違うのは一太刀、一突きが本気でなければ意味がないということなんです。本来、剣術や空手は本気で殺めに来る人間に対して、自分がやられないための手立てなので本気でないと意味がないんです。本気でないなら、出さずに一目散に逃げた方が良い」

──う~ん、なるほどです。MMAには相手を眼前にして様子見というファイトが存在します。

「ということです、ね。これはもうナイファンチの話ではなくて空手や型の基本稽古全般の話になってきますが、一つのジャブ、ストレートもどこに当たるのかしっかりと考えて練習できているのか。動作のための動作になっていないのか。そういうことを考える必要があると思います。シャドー、ミット、スパーリング、何のためにやっているのか。そこは常に問い掛けるべきで。

格闘技はウォーミングアップから始まり、徐々に体を動かします。マススパー、ライトスパー、そしてガチスパーと上げていく。対して、試合はウォーミングアップからガチンコへ行く。そのガチンコが一瞬の交錯で勝負がつくというものじゃない。そうじゃないですか?  しっかりとマネージメントしないと勝てない。結果、闘争と格闘技が乖離してしまう一面が見られます」

<この項、続く>

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【Bu et Sports de combat】武術で勝つ。型の分解、サンチン編─18─サンチン、MMA実戦応用編─03─

【写真】サンチンのこの回転する動きを練ることで、内面の攻撃を可能とする(C)MMAPLANET

武術でMMAを勝つ。空手でMMAに勝利する──型を重視する剛毅會の武術空手だが、岩﨑達也宗師は「型を使って戦うということではない」と断言する。型稽古とは自身の状態を知り、相手との関係を知るために欠かせないモノであって、その形で戦うことではない。

サンチン、ナイファンチ、セイサン、パッサイ、クーサンクーの型稽古を行う剛毅會では、まずサンチンから指導する。5種類の型稽古にあって、唯一サンチンのみが意味を吸いて吐くという意味での呼吸を学ぶことができる。

全ての根幹となる武術の呼吸を学ぶことができる──サンチンの解析、MMA実戦応用編=最終回、MMAでの役立ち方について紹介したい。

<サンチン解析第17回はコチラから>


外面の攻撃と内面の攻撃、後ろ蹴り編

外面の攻撃

往々にして見られる後ろ蹴りは


腰の回転でエネルギーを作っており外面の攻撃となる


外面の攻撃は回った際に左パンチを被弾したり


組みつかれるなど反撃を受けやすい


蹴りが命中することも当然あるが、危険性の高い攻撃になる


実際に押されるだけで、姿勢を乱す=回っている時に中がとれていないため

内面の攻撃

対して内面の攻撃の後ろ蹴りとは


内払いから背中を見せるが


このときに中に入っているので


これだけの距離で


カカトで蹴るだけで十分な威力があり


相手の反撃を受けない


相手が入ってこられないので押されることも、パンチを当てられることもない

ここでの回転も、サンチンに身に着けることができる──詳細は第6回を参照──

回転が浅いと


相手の中を取ることできないので蹴りは内面の攻撃とはならない


中を取るために、サンチンの型で知る回転の仕方が必要になる


サンチンの動き自体が、回転してヒジを打つことが想定されている。サンチンではヒジを中段にいれるが、もちろん上段にも生きる

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【Bu et Sports de combat】武術的観点で見るMMA。ポアタン✖メケイリディス「二段跳びヒザは当たる」

【写真】右から左の跳び二段ヒザ蹴り、見事なKO勝ちを収めたペレイラ (C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たアレックス・ポアタン・ペレイラ✖アンドレアス・メケイリディスとは?!


──アレックス・ポアタン・ペレイラ✖アンドレアス・メケイリディス。ペレイラはGLORYで世界ライトヘビー級とミドル級の2階級を制した正真正銘、世界の頂点に立ったキックボクサーからMMAへ転向を果たした選手です。キックの道を究めた人にとって、MMAはなかなか難しいと思うのですが、この試合を見てその辺りを武術的に探っていただきたいと思います。

「GLORYの重量級で世界チャンピオンということは、本当に世界のトップですね。MMAはいつからやっていますか?」

──もともとは2015年や2016年に3試合戦い、2勝1敗でした。その後はキックに専念して、イスラエル・アデサニャにも勝っています。GLORYの了解を得て、世界王者でありながら昨年11月にLFAでMMAを戦い、今年の3月にライトヘビー級王座を失いました。そしてUFCにデビューしています。

「ペレイラのキック時代の映像を見たことがないので、なんとも言えないのですが、立ち技格闘家は倒す……効かすタイプとマネージメントするタイプに分かれます。魔裟斗選手とか、RENA選手はマネージメントタイプです。ムエタイも5Rを通して戦うマネージャーで、古くはK-1だとピーター・アーツがマネージャーでした。アーネスト・ホースとはどっちでも戦えます」

──さすがミスター・パーフェクトです。

「ハイ。そしてミルコ・クロコップはマネージメントが下手でした。だからMMAにミルコを送り込んだ石井館長は素晴らしいです。当時、MMAの打撃系の選手のなかで、立ち技競技で成功していたのは……モーリス・スミスを例外にいなかったです。

まぁ15年や20年も前の話ですし、今ではMMAの情報が氾濫していて、技術体系も整っているので無防備にMMAを戦うことはないですから、ギガ・チカゼのような選手もいますよね。しかし、ペレイラに関してはブラジルですし、ブラジルのキックがテクニカルだとか、強いというイメージはなかったですね。

いずれにせよ、ペレイラは試合開始早々から先を取っていました。メケイリディスは物凄くペレイラの蹴りをビビっていたからです。重心も後ろに下がってしまって。もうMMAというより、異種格闘技戦になっていました」

──メケイリディスは組んで倒して勝つ、それしかなかったと思います。

「ところがメケイリディスは、1Rはテイクダウンからバックコントロールして終えたのに、2Rになるとキックボクシングを始めてしまうんです。なぜ、1Rと同じようにしないのか。初回に組んでコントロールして、疲れてしまったんでしょうね。それでガムシャラにテイクダウンに行けなくなり、タイミングを見てなんて思い……キックをした。

しかし……なぜ、相手の嫌なことをしないのか。MMAだからって、キックの世界王者に対して打撃をする必要はないです。MMAの前に、まずは闘争であれ。つまり、相手の嫌がることをするわけですよ。そこをちょっと見落としているんじゃないかなって感じます。メケイリディスは打撃が苦手だから論外ですけど、自分の得意技で勝負するといっても相手が平気だったら、そこで勝負して勝つ確率は上がるのかということです。

ペレイラからすると、メケイリディスが組んでも背中をつけずにバックを譲る形で凌いだ。そして、2Rにチャンスが到来して倒しきった。大したものです。フィニッシュは二段跳びヒザ蹴りでしたが、普通のヒザ蹴りと違い時間差攻撃になるので、とても受けづらいです」

──WEC時代のジョゼ・アルドのカブ・スワンソン戦が思い出されます。あの時、ジョゼ・アルドは左から右と両方を当ててKOしました。

「二段蹴りは本当にMMA向きのヒザ蹴りです。でも、それは決して最初の足がフェイントになって、後ろが当たるということではないんです」

──そうなのですかっ!!

「ハイ。左で誘って右で蹴るということではなくて、両足で蹴ることができる。まさにジョゼ・アルドが決めたモノですね。左足で蹴るとなると、右足を軸にして左で蹴ります。ということは、右足は居着いてしまっているんです」

──なるほどぉ!!

「それが左、右と蹴ると両足で蹴ることになるので、居着いていない。つまり体の連動が止まらないんです。空手には夫婦手という原理原則がありますが、そこと同じです。特にMMAにおいては、遠間から蹴るイメージがありますが、短い距離でも十分に使えます。左足で蹴っても、右足が居着いていたら──そこに残っていて、キャッチされ倒されやすいです」

──一見、両足だと空中で姿勢を変えることができず危なそうなのですが、違うのですね。

「二段のヒザ蹴りをしている選手のことは、実はキャッチできないです。そして、不思議なことに二段蹴りは距離が合いやすい。軸足を作って片足で蹴る場合は距離が合わないと、パンチを合わされたり、組み倒されたりします。絶対とは言えないですが、ほぼほぼ二段蹴りは相手が反応します。つまり受けに回っているので、距離が合うんです。

なぜか……それは明確には分からないです。ただし、二段蹴りの先を取ることが大変なんだとは思います。二段蹴りが始まった時点で、先を取られています。1本目を抑えていないと、先は取れない。これが左ミドルであれば初動、起こりが分かりますよね。

ただし二段蹴りの1本目は、なかなか先が取れない。そういう意味では時間差攻撃としても二段蹴りは有効で、跳ばなくてもレパートリーにしておきたい技です。当たらなくても、反撃を食らう可能性は一つのヒザ蹴りよりも少ないですから」

──いやぁ、興味深いです。

「攻撃には内面の攻撃と外面の攻撃があります。例えばこの試合でも、ペレイラは蹴りを出していないけど、蹴りを出している。メケイリディスは出ていない蹴りに反応していまいた。それは無防備と同じことなんです。もう受けに回っているので、ペレイラからすれば何でもできます。

だからペレイラがUFCという途轍もない世界で今後も活躍できるのかといえば、今回はあまり見せなかったパンチがどうなのか……ですね。キックボクサーがボクシンググローブで培ってきたパンチを、MMAグローブの攻防にアジャストするのは時間が掛かる場合があります。MMAグローブは既に近いので。それをペレイラが、いかに埋めてくるのか。

加えてペレイラが組みに対応しても、それは対応した時点で相手が先をとっていることになるので、自分の戦いをするには組ませないことです。MMAの選手は、現時点では蹴りにまだハマりやすいですし、これからペレイラがどうなるのか。打撃でなく、組みに対するストライカーの戦い方をどうモノにするのか。そこは見ものです」

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Bu et Sports de combat イアン・ギャリー ジョーダン・ウィリアムス ブログ 剛毅會 岩﨑達也 武術空手

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。ギャリー✖ウィリアムス「負けて頂き有難う」

【写真】相手の自滅で勝つ。自らの自滅で負ける。自らの技量が勝つ、自らの技量で敗れる。これが勝負事は表裏一体で、前者の方が多いのかもしれない (C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たイアン・ギャリー✖ジョーダン・ウィリアムスとは?!


──アイルランドMMAの未来、イアン・ギャリーのUFC初戦でした。

「序盤、対戦相手のジョーダン・ウィリアムスが良かったです。ウィリアムスが距離を取ってカウンター狙いで、そこのギャリーが入れなかった。そこに入っていくと、やられるからローを出すとかぐらいで、あそこから何があるということではなく、何もできないからアレを出す。そして前に出ることができていなかったです。

この試合を見る限りでは、ギャリーもカウンターファイターなのかと思いました。そういうなかで後の先を取ったのはウィリアムスだった。つまり先の先を取るパンチがギャリーになかったということですね。

ギャリーの方がリーチが長いのに、入ることができていなかったですから。自分より小さな選手にカウンターを合わせるのは上手いかもしれないです。結果的に勝ったのもそういうカウンターの右ストレートでしたから。

両者の質量はそれほど変わらないのですが、序盤はウィリアムスが間を制していました。そして先を取っているのもウィリアムスです。先の先、後の先だろうが先を取らないと当てることはできないわけで。ウィリアムスもカウンター狙いで、自分から攻めているわけではなかったのですが、後の先を取っていたことになり、ギャリーは先の先を取っていないから入れなかった。前に出られなかったです」

──そのように序盤は優位だったがウィリアムスですが、なぜ組んでいったのでしょうか。そのままでも良かったのに、組んで行ってからペースを失っていったように感じました。

「あれですねぇ。なぜ、あの流れで組むのかは理解できないです。考えられるとすれば、あの短時間で疲れてしまったのか、打撃戦を続けることに。あそこで組みに行くって、メチャクチャですよね。体を入れ替えられて、テイクダウンも取れなかったわけですし。

あのクリンチの展開から、打撃に戻った時にはウィリアムスの質量はメチャクチャ落ちていました。その状態で自分から打ちに行くという武術では絶対にしてはいけないことをやり、ギャリーがカウンターの右を合わせてKOしました。言ってしまえば、そういうことです。クリンチの展開の前と後の違いは何だ、と。あんなに風になるのは、バテてたからとしか考えられないです。あの短時間で。

まぁ武術的に見れば、序盤の打撃戦で先の先、後の先を考えるなら分かりやすい試合でした」

──UFCの初戦は力が発揮できない。UFCジッターという言葉があります。

「緊張してしまうのですね。これまで通りの試合が、UFCという場で期待値が増すとできなかった。それはやはり再現性がないからです。とにかく指導者の役割とは、色々な個性のある選手たちに対して原理・原則を徹底して練習させることだと思うんです。

スパーリングを5Rとか、7Rしたという練習で選手たちは達成感があります。ただし、それで試合の準備になっているのかということなんです。試合から逆算して考えると、イアン・ギャリー陣営としてはUFCジッターという事例が以前に存在しているなら、そこも引き算して準備をしないといけない。

試合の準備って、本当に引き算が多いです。ただし、足し算でやってしまうことが多々あります」

──高く見積もってしまうわけですね。

「そんなことできないですよ。本来は。指導中の指示、セコンドの指示、そこは本当に考えないといけないです。『ローでも良いんだよぉ』なんて言われても、『じゃあ、何でも良いだろう』ってなっちゃうじゃないですか。その指示の意図はどこにあるのか、そこをしっかりと考える必要があります。

話をギャリーに戻すと、それでもアレだけ攻められても、しっかりとKO勝ちしている。それはウィリアムスが自滅したから。だから、勝ちにつながった。MMAって、そういうことが多いです。勝負ごとは」

──確かに、相手が自滅した。相手が勝たせてくれた。この連載中によく聞かれる言葉です。

「勝ったからといって浮かれるのではなく、相手に対して『負けていただきありがとうございます』という気持ちで試合後を過ごしたいですね。もちろん、ケージの中で嬉しさを表すのも勝利者インタビューで威勢の良いことを話すのもありです。ただし、そこから一歩下りれば、相手が負けてくれたという想いを大切にしたいと思います。自分自身のために。

勝負って強いから勝つより、相手が負けてくれることが多いです。ここは本当に試合の真理で。ウィリアムスがバテた。だからギャリーが勝ったなんて、何にも面白くない結論ですよ。でも、そこにリアルがあることを見つめないといけないんです。

選手たちは勇敢で、勝つ気満々でいても、そこは早く家に帰って寝たいという気持ちと常に裏腹です。そこを捉えて、指導をしなければならないです。相手だって帰りたい。自分だって帰りたい。そういうなかで折れないことが大切なんです」

──疲れたウィリアムスが自滅し、ギャリーは勝たせてもらったと。

「それでも、ああいう最後の技を持っている選手がどれだけ日本にいるのか。そこを考えると、ギャリーは最後の右を正確に使っていました。アイルランド、英国系は拳闘に強い。UFCジッターがあったかもしれないし、ウィリアムスは序盤が良かったのに、疲れてダメになったのもあります。それでも、アレを使って勝てるのは……練習環境から、何かあるのでしょうね。次も見てみたい選手です」

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