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【Bu et Sports de combat】武術で勝つ。型の分解、ナイファンチン編(07)「中心を捕らえるヒジ当て」

【写真】自らの間を手刀で創り、円移動でない中心を捕らえてヒジを当てる (C)MMAPLANET

武術でMMAを勝つ。空手でMMAに勝利する──型を重視する剛毅會の武術空手だが、岩﨑達也宗師は「型を使って戦うということではない」と断言する。型稽古とは自身の状態を知り、相手との関係を知るために欠かせない。

サンチン、ナイファンチン、セイサン、パッサイ、クーサンクーの型稽古を行う剛毅會では、まずサンチンから指導する。そんな剛毅會の稽古には站椿が採り入れられている。

全ての根幹となる武術の呼吸を学ぶことができる──サンチンで創られた、空手の体をいかに使うのか。その第一歩となるナイファンチンの解析を行いたい。目線と体の向き、足の小指が正しくなることでナイファンチン立ちが成り立つ。前回はナイファンチンの型の動きに基づく「二挙動の手刀受け→ヒジ当て」、今回は中心で捕らえるヒジ当てを分解した。

<ナイファンチン第6回はコチラから>


突いてきた相手に対し、下がりながら


手刀を出し


連動した動きで自身の間を創る。「この間が相手にとって嫌な状態を創っていると、それを中心と呼びます」(岩﨑)


中心を捕らえずに右足の移動を起点にして


円を描くようにヒジを打つと

ヒジを当てに行こうとする意識から、ヒジを振りまわしてしまっているので当たるポイント自体がずれ、相手にとって嫌なヒジの位置で捕らえることができていない。結果、ヒジを受けても効かされることはない。「これではヒジ当てでなく、ヒジを振っているヒジ打ちになっています」(岩﨑)


このヒジの打ち方だと相手にとっては嫌な状態でなく、左の突き


右の突き


頭突き


あるいは逆にヒジ当てが打てる


【重要なポイント】

大切なことは手刀から中心で入り


中心で捕らえること。「ヒジ当ては自分の中心で、相手の中心を捕らえていないといけないです」(岩﨑)


この入り方をすると、相手は嫌な状態であり突きはおろか、頭突きも出すことできない


加えて、ヒジ当ての威力により相手はダメージを受ける

この二挙動の手刀受けからのヒジ当てが基本となり、応用ともいえる一挙動のヒジ当てが存在する──。

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Bu et Sports de combat MMA MMAPLANET o UFC アスカル・アスカロフ カイ・カラフランス ボクシング 剛毅會 岩﨑達也 武術空手

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。カラフランス✖アスカロフ「僅か3つのパンチ」

【写真】カイ・カラフランスの勝因は3つのパンチ (C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たカイ・カラフランス✖アスカル・アスカロフとは?!


──抜群に組みが強い。シングルレッグからバックテイク、そのままコントロールして勝てるアスカロフが、バックから落とされ打撃で反撃を受けカラフランスに判定負けを喫しました。

「今、剛毅會で稽古しているテーマに一つに空間の支配というものがあります。自分と敵、自分と対戦相手の間に空間があります。あるいは自分の回りに。空間をいかに支配するのかが、武術を修行する目的だったのかと最近、気付きました。

そこで組みのアスカロフ、打撃……パンチのカラフランス、私は正直アルカロフが判定勝ちしたと思いました」

──ハイ、そういう見方は十分に成り立つかと思います。初回はスタンドでバッククラブに取ったアスカロフ。2Rは打撃で優勢になり、テイクダウンを切ったカラフランス。最終回はカラフランスも疲れ、一瞬でもバックを制したアスカロフという見方もデキると思います。ただし、ジャッジはそれ以外のテイクダウンを切り、打撃で戦う姿勢のカラフランスを支持した……という風でした。アルカロフにバックを取られても落としたカラフランスは、大したものだと思います。

「それでも3Rはアスカロフと思いましたけどね。コントールがあったので。初回は完全でしたよね。ただし、2Rはアスカロフが1発被弾してからパンチを嫌うようになりました。改めてMMAで対峙した時の間合いは遠い。そう思わされた試合でした。遠いところから、ステップインしつつワンツー、そしてスリーを打っていました。この3発目の左の精度が高かったです。ロングで突っ込んで、短いのをパンパンと打つ。

それに対して、アスカロフもパンチを出してシングルレッグに行っていました。アスカロフは打撃からテイクダウン狙いの正統派、教科書みたいは攻め方でした。高度な攻めかどうかは分からないです。ただ精度は高いです。この勝つために組むということを最近はしなくなっているなと感じることがあります。なぜか中途半端なボクシングをする選手が多い。これは私が練習を見させてもらった日本の練習でも、正直なところダメなら離れるということは多いかと感じました。

私は空手家ですから、組まれるのが絶対に嫌です。これはテイクダウン防御を身につけたとしても、自分が打撃で勝ち、組みで勝たない選手は変わりないと思います。なら、そういう選手を相手にした時、レスラーやグラップラーは組み続けるべきなのに、相手が助けられたと感じる打撃に戻る。なぜ、嫌なことを続けないのか。MMAなのに打撃戦が延々と続く。そういう試合が増えましたね」

──それこそ、興行なのでファンの見たいモノが増える。そのタイミングでブレイクを掛け、離れて戦うのかというシーンは増えているかと思います。

「ちんとんしゃん、ちんとんしゃんと打撃をやっているだけで」

──ちんとんしゃん……(苦笑)。組んで倒す、倒して抑える。力を使ってここまで持っていっても評価が落ちました。そこでダメージを与えろとなると、効かすパンチは空間ができるので立たれてしまいます。なら、大したポイントにもならないので狙わない。

「だから終盤に疲れてからだと、背中をつける展開が増えるけど、序盤はスタンドばかり。そのうち組むべき選手が、組まないということもありますね。アスカロフは徹底している珍しい選手なのに、3Rの序盤に組むための打撃ではなくて、ボクシングに付き合っていました。そうするとカラフランスの間になるので、危ないなと思いました。そこもまた戻していたので、バックを制して勝ったと思ったのですが……。

それにしても組みが少なくなって、打撃が多い。その原因が疲れることなら試合なんて出なければ良いのにと思います。そりゃ、疲れるだろうって。疲れることをやっているのに、疲れるのが嫌なのは矛盾しています」

──それもまたジャッジの判断なのですが、20年前のMMAでは攻め疲れは相手の攻勢でない。ただし、疲れて攻められると相手の攻勢になりますが、疲れてから展開がない場合は自ら疲れたのだから、対戦相手の効果点にはならないという見方もありました。

「それが今では自滅しても、相手の攻勢点ということですね。結果的に攻められたからではなくて、攻められなくても動きが落ちれば」

──大雑把にいえば、そういうことかと思います。

「なら、疲れないようにしないと。それは太古の昔から、同じことで。だから鬼のように練習をするんです。簡単に根性論という風に捉えられることがありますが、やはりサボる、サボっていないというのは伝わってきてしまいます。

打撃系の選手にとっては、そうやって組みの選手が疲れないために自分の持ち味を忘れて中途半端に打撃をやってくれるほどありがたいことはないです。相手の嫌なことをするのが武術の本質です。組まれたくない選手を相手に、自分が疲れるからアッサリと相手の土俵に戻る。

打撃で戦えるなら、それで構わないです。でも現状は打撃で不利になる選手でも、そうしてしまう。実は打撃だけの試合でも、自分の動きができなくて疲れて、その疲れのイメージを引きづって余計に動けなくなるという経験は私にもありました。これを克服するには死ぬ思いをして練習するしかないんですよ……」

──克服するしかない……。

「ハイ。デキないなら、潔く身を引く。自分が好きでやっていることです。MMAを嫌々続けるなんて、辛すぎますよ。黒崎健時先生が100メートル走のスピードでマラソンを走る。その気概、勇気を持つことと仰っていました。そんなことできるか……と思いますよね。でもUFCで勝つということは、それだけの勇気、気概を持って稽古に励むしかない。そういうことではないでしょうか。

『仕事が忙しいから、追い込み練習はできません』──ハイ、なら試合に出るのは控えよう。それだけですよ。練習方針が合う、合わないでジムから離れる選手はまま存在するかと思います。でも、それは練習方針ではなくて、練習にどれだけ打ち込めるか方針です。試合に臨むだけの稽古をしない人と、強い人間を育てて試合で勝たせようとする指導者の間で、気持ちにずれが生じるのは当然です。

負けた選手が、そこから何を学び、何を克服したのか。何も変わっていないのに、オファーがあったから出場する。それでは試合に出ているだけです。相手が代わろうが、同じことの繰り返しです」

──……。業界の在り方も関係してきますね……。負けてもオファー、すぐにオファーがありますしね。強くなるための興行論は確立できていないのは絶対だと思います。

「その強さという部分ですが、UFCフライ級……2位のアスカロフにカラフランスが勝って、タイトルに挑戦をアピールしていましたが、ここは日本人も勝てると素直に思いました。カラフランスがそれほど特別だとは思えないです。バンタム級から上とは、違う。そこは明白に感じましたね。

それでもカラフランスに見習うべき点はあります。彼は僅か3つのパンチに徹して、この試合に勝った。アスカロフもシングルからバックに徹しきっていれば勝てた試合です。そしてカラフランスはバックを譲っても、取られない防御力が存在していました。カラフランスは、この3つのパンチで勝つためにどれだけ他の部分を磨いているか。打撃もレスリングも寝技も何でも練習していて、何でもできる。そのなかで選択と集中がカラフランスの試合から見られました。ビジネスで勝つこととMMAで勝つことは同じだとカラフランスの試合を見て、学習させてもらえましたね。徹しきった選手は、強いです」

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ABEMA Bu et Sports de combat MMA MMAPLANET o ONE UFC キック キム・ジェウン ジヒン・ラズワン タン・カイ ボクシング 中国武術 剛毅會 岩﨑達也 平田樹 松嶋こよみ 武術空手

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。タン・カイ✖キム・ジェウン&ジヒン✖平田樹

【写真】一発で終わる──そんな空気が流れる立ち合いのなかで、キム・ジェウンとタン・ガイにどのような差があったのだろうか (C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たタン・カイ✖キム・ジェウン、そしてジヒン・ラズワン✖平田樹とは?!


──教え子である松嶋こよみ選手が離脱したONEフェザー級戦線で非常に高度な試合が見られたと感じました。

「互いにボクシングで戦っているなかで、動いて質量を養成するキム・ジェウンと定位置で質量を養成するタン・カイという対戦でした」

──その場で力を養成する選手、久方ぶりの登場です。

「タン・カイは倒れたキム・ジェウンに、即パウンドを落としていました。以前にも効かせた後の追撃で試合を決めるという場面がありました。1から2、2から3と動きが移行するなかで、タン・カイはラグなく動くことができます。それは──その場に質量があるからです。構えた時にエネルギーがあるので、それを目標に置くだけだからラグが生じないスムーズな攻撃が可能になります。

対してキム・ジェウンは動いて、エネルギーを創って打っています。凄く良いタイミングで右も左も打てているんです。ただし、タン・カイはきっと見えていたと思います」

──フィニッシュの左フック。完全にキム・ジェウンの右のタイミングを掴んでいたように感じました。それ以前の攻防で計っていたように。

「それは怖くないからできるんですよね。貰っても痛くない。見えている攻撃は、さほど痛くない。振りが大きくて強い感じがするパンチを打っているのはキム・ジェウンなんですが、タン・カイは見えていたと思います。

それとキム・ジェウンの構えでは、お腹が死んでしまいます。中心を無くしている。頭を振ったり、上半身を揺らして相手の攻撃を避ける。キム・ジェウンはそういう風に動くことが、動きやすくなっているんだと思います。ただし中心を無くしているので、体が一つにまとまらないようになっています。

中国武術の口訣(※カオチェ=「くけつ」。文書に認めず口で伝える奥義)のなかに外三合(ワイサンフウォ=「そとさんごう」、あるいは「がいさんごう」)という言葉がありますが──腕と脚、ヒジとヒザ、肩と股関節が揃って動いた時に力が出るとされています。この試合ではキム・ジェウンでなく、タン・カイの方が外三合でした」

──タン・カイが中国人だからということは関係ありますか。

「う~ん、彼のベースが何か分からないですが、打撃を続けてきたことで自然と……結果的にそうなったのだと思います。体が一つにまとまっていて、ブレがない。勢いでなく、強いパンチが打てるのは、打つ前からそういう状態にあるからです。

質量も当然タン・カイが高く、結果として間もタン・カイになります。あの空間に入り込むと、キム・ジェウンはぶっ飛ばされます。実はこの試合を見ている最中にネット環境が良くなかったのか、ABEMAの中継がフリーズしてしまったんです。ただし、その空間が見えていたので、この試合はよほどのことが起こらない限りタン・カイが倒せるなと思っていました。そして画面が動くようになると、タン・カイが勝っていたんです(笑)」

──強いパンチが打てる状態。つまり定位置でエネルギーを養成できていると。

「ハイ。動きながらエネルギーを創るのと、存在しているエネルギーを運ぶことは全く違います。とはいえ、これは武術でなくボクシング、キックボクシング、MMAファイターにもそういう選手はいます。そして、一目瞭然です」

──なるほどぉ。それにしてもタン・カイは強かったですね。

「定位置で要請しているエネルギーがあっても精神的な状態で試合に生かせる、生かせないがあります。それを試合で生かすことができるのは、タン・カイが日々厳しい稽古を課しているからです。キム・ジェウンを相手にビビらず、臆することなく戦っていたからですね。

強そうなのは平田。体力やセンスも平田だろう。では平田はどこでジヒンに遅れを取ったのだろうか

いや、今回のONEを見ているとアジア勢の成長に日本はついていけていない現状が見え隠れしましたね。

平田樹選手に勝ったジヒン・ラズワン、あの素人みたいな構え。

『これは相手にならないわ』と実は思ったんです。そうするとあの詠春拳のような素人構えのジヒンが左右にステップを踏んだ。アレをやられると、ボクシングが本当に身についていなくて、形だけ半身の平田選手の打撃ではジヒンを捕らえることができなくなります。

あの構えで蹴りを使っても、効果の得られないのに繰り返してキャッチされていましたし。組み勝てるなら、そうすれば良い。ただし、投げ勝てても組み勝ててはいなかった。

それもジヒンがあの構えで正面に立っているだけなら、そうはならないです。ただ彼女は左右にステップを踏んだ。アレは何かの武術なのかと思ったほどです。ジヒンはテイクダウンして寝技に行こうというなかで、打撃で勝とうとしていないです。グラップラーが下手にボクシングをすると、組みの圧力が落ちます。組みが強い選手が、組み力を犠牲にしない打撃が必要で」

──それがジヒン・ラズワンにあったということですか。

「ハイ。打撃で平田選手を攻めさせなかったのは、理論的でなく偶然だったかもしれないです。ただし、彼女があの構えをして動いていたのは組むため。平田選手は組まれるのが嫌になり、かといって打撃でもジヒンを捕らえることができなかった。ジヒン、ジヒンの指導者には感心させられましたよ。

結果論ですが、マレーシアの女子選手の方がしっかりとMMAを考えて戦っていた。きっと環境は日本より良くないでしょう。でも、平田選手より自分の組みを犠牲にしない打撃を使っていたんです。陣営としてジヒンの方が、平田選手より優っていた。平田選手はジヒンが嫌がる攻撃をしていなかった。対して、ジヒンは平田選手が嫌がることをやっていました。戦いの基本姿勢がそこには存在していたということです」

──う~ん、非常に興味深い話です。そして色々と考えさせられる。そんななか話をタン・カイに戻しますと──下世話な話ですが、松嶋こよみ選手はタン・カイと戦って勝っていたでしょうか。

「いつだったか、一度オファーがあり鼻の骨が折れていて断ったことがあったと記憶しています。まぁ指導している人間のことなので、色んな事は言いたくないですが──私のMMAを見る姿勢として、ボクシングだけの人と蹴りがある人ということです。2本と4本では、どっちの武器が多いのかと。注意するのも2つと4つでは違います。

だからといってボクシングがデキる選手が、蹴りを入れることで2+2が4になるかというと、これが相当に違います。キックボクシングで2+2ができていてもテイクダウンのあるMMAでは話が違ってくる。キックの打撃がMMAで生きるかといえば、それも別問題で。それがMMAの難しさであり、面白さなんです。

MMAグローブで戦うけど、練習で思い切りぶん殴ることなんてできない。だからMMAは難しいです。ONEでMMAグローブのムエタイを始めた当初、一流のムエタイの選手も戦い方が崩れていましたよね。ただし、今は作り直してMMAグローブ用のムエタイを彼らは見せるようになった。

そうですね、タン・カイやキム・ジェウンがMMAグローブでぶん殴って来る。それを想定して、ジャブ、ジャブ、ジャブっていう戦いができるのか。そこを見て稽古する必要があるということです。MMAとは、そういうことだと思います。とはいってもタン・カイにも弱点はありました」

──あの試合で弱点が見られたのでしょうか。

「ハイ。タン・カイは居着いています」

──居着く……。あっ、キム・ジェウンの攻撃を計っていた。

「そうです。相手の攻撃を見ていた。つまり、居着いていたんです。計るということは、相手の攻撃に自分を合わせてしまっているんです。だから後の先を取れたのですが、キム・ジェウンがナイフを持っているような武器があれば、あの戦いをタン・カイはできないです。

キム・ジェウンが先の先が取れていると、キム・ジェウンが勝てた試合です。タン・カイは後の先を取るのではなく、取ろうとして戦っていたので。つまり試合中のほとんどの時間で取れていなかったことになります。取るために戦っていた。なら、先の先を取っていれば勝てた。キム・ジェウンが数センチ、足の位置をずらしていれば……例えば蹴りを見せていれば、タン・カイは反応するのであの戦い方はできなかった。そうなればキム・ジェウンは先の先が取れていた。そうなっていればタン・カイは受けに回ることになります。受けに回る、それが居着くということです。

この試合ではカウンターが取れたので、後の先が取れたことになります。取れなければ、居着いていた。相手を居着かせるのが、武術の究極の目的であり、そういう戦い方が存在します。数センチの違いであれだけ強いタン・カイをキム・ジェウンは倒す可能性もあった。非常に興味深い試合でした」

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Bu et Sports de combat MMA MMAPLANET o サンチン ナイファンチ ナイファンチン 剛毅會 岩﨑達也 武術空手

【Bu et Sports de combat】武術で勝つ。型の分解、ナイファンチン編(06)「手刀、刀の理合いと組手」

【写真】刀でナイファンチンの型の手刀の理を知り、ナイファンチンの型で起こる状態を知る。決して、MMAで手刀を使うというわけではない (C)MMAPLANET

武術でMMAを勝つ。空手でMMAに勝利する──型を重視する剛毅會の武術空手だが、岩﨑達也宗師は「型を使って戦うということではない」と断言する。型稽古とは自身の状態を知り、相手との関係を知るために欠かせない。

サンチン、ナイファンチン、セイサン、パッサイ、クーサンクーの型稽古を行う剛毅會では、まずサンチンから指導する。そんな剛毅會の稽古には站椿が採り入れられている。

全ての根幹となる武術の呼吸を学ぶことができる──サンチンで創られた、空手の体をいかに使うのか。その第一歩となるナイファンチンの解析を行いたい。目線と体の向き、足の小指が正しくなることでナイファンチン立ちが成り立つ。前回はナイファンチンの型の動きに基づく「二挙動の手刀受け→ヒジ当て」の手刀受けを分解した。

「二挙動の手刀受け→ヒジ当て」の手刀受け、刀の理合いに通して──さらに理解を深めたい。

<ナイファンチン第5回はコチラから>


斬られないためには


下がるときに刀を抜く


(03) 結果、入る状態になっており自分の間で斬ることができる。「ただしタイミングで抜刀すると斬られることがあります。あくまでも先をとれている、間を制しているなどの条件が絶対になります」(岩﨑)


(04) この時の胸、爪先、頭の向きがナイファンチンの型の手刀受けと同じ状態にある

「車の運転の例えを続けますと、刀を抜く前からエンジンが掛かっています。あとは抜くだけという状態にあると、相手は既に刀を振り上げづらい状況になっています」(岩﨑)。この刀の理合い=理(ことわり)を手刀受けに応用すると

相手の突きに対し


下がり始めた時には手刀も出ており


そのまま下がりながら、手刀を伸ばし


下がった時には、間を制している状態になる。結果、相手は前に出ることができなくなり、左ハイや左の追い突きも相手は出せなくなる

組手へ応用

半身の構えでは


左ハイが伸びてくる


同様に右クロスが見えづらい傾向がある


胸は正面でなくても──顔の位置をナイファンチンの型に合わせると


互いの位置は同じでも、左ハイを届かなくなり


右クロスも当たらないという状態が起こる


この状態を知るために、ナイファンチンの型の手刀がスケールとなる

「現代空手の移動稽古で、前に出た足が地面に着いてから『突く』という動きが多いですが、武術空手では足が着くと同時に『突く』。それが私の先生の教えです。つまり、突き自体が踏み込む連動の結果として存在している。突き自体の状態が問われるのではなく、大切なのはその前、そしてその後です。全ては連動ですね。車のタイヤが回って前進するのは前輪と後輪、4つのタイヤが連動しているからです。足を着けてから、突くのでは一度ブレーキがかかるようなもので武術では、そういう動きは好ましくないです」(岩﨑)

この連動ができて、「二挙動の手刀受け→ヒジ当て」のヒジ当てへと移行するが、中心を取ることができて正しいヒジ当てが可能になるという大前提が存在する。

「踏み込むことで、重心が踏み込んだ足に移動したり、反動で逆に動くということは中心がとれなくなり、間を制することはできないです。大切なことは中心で入るということ。そうすることで相手の動きを制します。間を取り、中心を取ることができないと、相手も攻撃を出せる状態になっています」(岩﨑)

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Bu et Sports de combat MMA MMAPLANET o サンチン ナイファンチ ナイファンチン 剛毅會 岩﨑達也 武術空手

【Bu et Sports de combat】武術で勝つ。型の分解、ナイファンチン編(05)「手刀、刀の理合い」

【写真】笑わば、笑え。刀も理を知るためのツールだ(C)MMAPLANET

武術でMMAを勝つ。空手でMMAに勝利する──型を重視する剛毅會の武術空手だが、岩﨑達也宗師は「型と使って戦うということではない」と断言する。型稽古とは自身の状態を知り、相手との関係を知るために欠かせない。

サンチン、ナイファンチン、セイサン、パッサイ、クーサンクーの型稽古を行う剛毅會では、まずサンチンから指導する。そんな剛毅會の稽古には站椿が採り入れられている。

全ての根幹となる武術の呼吸を学ぶことができる──サンチンで創られた、空手の体をいかに使うのか。その第一歩となるナイファンチンの解析を行いたい。目線と体の向き、足の小指が正しくなることでナイファンチン立ちが成り立つ。前回はナイファンチンの型の動きに基づく「二挙動の手刀受け→ヒジ当て」の手刀受けを分解した。

このナイファンチンの型の動きに基づく手刀受け→ヒジ当は、二挙動の手刀受け、一挙動の手刀(内と外)、一挙動のヒジ当てという3つのプロセスがあるが、「シンプルな動きのなかに、重要なことを詰まっています」(岩﨑)ということで、今回は「二挙動の手刀受け→ヒジ当て」の手刀受けを改めて深掘りしたい。

<ナイファンチン第4回はコチラから>


相手の突きに対し


下がってからの


手刀では


左ハイや


左の追い突きを受ける

相手が打って来ることに対し、そのタイミングで下がってからの手刀だと相手の間になっているので、攻撃を受けてしまう。「相手の追撃を許してしまいます」(岩﨑)

ナイファンチンは首里手の代表的な型であり、首里手の始祖・拳聖=松村宗棍が薩摩で示現流の免許皆伝を得たことで、刀の理合いに通じることがある。ここでは刀の理解を通じて「二挙動の手刀受け→ヒジ当て」の手刀受けの理解を深めたい

右足前の攻撃に対し


下がってから


抜刀しても既に斬られている。「本来は攻撃されて、この状態で刀を抜くことはできないです。車の運転に例えると、下がる時にギアを入れて動くこと。下がってからギアを入れても、もう遅いということです」(岩﨑)


「間を制しておらずタイミングで動くと、下がって→抜くという動きになるが、さがるときには抜く状態になれば斬られることはない。刀がない、手刀受けでも同じことが言えるということです」(岩﨑)

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BELLATOR Bu et Sports de combat Cage Warriors LFA MMA MMAPLANET o ONE UFC ガブリエル・ベニテス デヴィッド・オナマ ボクシング 修斗 剛毅會 岩﨑達也 武術空手

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。オナマ✖ベニテス「五輪競技≠MMA」

【写真】オナマの勝利から話題の軸はボクシング、五輪競技で結果を残すとMMAでも結果を残せるのかという点に (C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たデヴィッド・オナマ✖ガブリエル・ベニテスとは?!


──序盤、ベニテスが圧倒した感もある試合でしたが、左を被弾して右目を気にしながらオナマが一気に試合をひっくり返した試合でした。

「ベニテスが非常に勇敢で、危険な距離でちゃんと打つ選手ですね。オナマが左足前のオーソドックスで戦っている間、ベニテスの猛攻を食らいました。良い距離で腹を殴ることできる。そういう距離にMMAになっていますね。メキシコは『腹が死んだら、頭が死ぬ』という言葉あるそうで。とにかくメキシカンはボディから攻める。それをベニテスも実践していましたね。そしてフックで右目を気にするようになったオナマが右足前のサウスポーにスイッチしました」

──右目が見えなくなっていたそうです。

「それよりもボディを効かされた構えを変えたようにも見えましたが、ラウンドを跨ぐと止められるという状況で、彼もスイッチが入ったかもしれないですね。なんせ、ここから全く動きが変わりました。あれだけ攻めていたベニテスが何もできなくなった。

ベニテスが、サウスポーには弱いのか。それともオマナのサウスポーが異様に強いのか。ここまで戦局が変わるのは、どういうことなのか。そこはよく分からないですが、シンプルに効かされていました。なら、なぜ最初からサウスポーでオナマは攻めていないのか。つまりは偶発的なモノで、そこに理はなかったスイッチだったといえます。それまでは積極的なのはベニテスで、質量もベニテスでしたし」

──ベニテスが打たされているということではなくて?

「いや間もベニテスでしたからね。ベニテスも打たれる覚悟があるので、それで戦えるというのはあるのですが、覚悟はあっても打たせないように戦うべきなんです。今回の試合でいえば、あの距離でベニテスが良いというよりもオマナがやるべきことをしていない。だから、あの距離で打ち続けることができるということはあったと思います。打たせるより、打つという意志の方が彼らは強い。

と同時に武術的に見ると、オナマは姿勢が悪かったです。オーソの時は受けの態勢で、その時は間はベニテスになります。居着くという言葉と、受けに回るは同意語です。そう捉えてください。そしてスイッチした瞬間、姿勢が良くなり──攻めの姿勢になると、間は完全にオマナになりました」

──ただし、本人は把握していないと。

「はい。オナマは自分ではオーソがやりやすい、でもベニテスはサウスポーの方が苦手だったから起こった事象かもしれないですね。だから、私たちも稽古の時に構えを変えるのであれば、自分の得意な方を選ぶのではなくて、相手の苦手の方を選ぶようにやっています。得意な方が相手の苦手というのが一番ですが、そうでないとしても相手の苦手を優先させる。

オマナはオーソで戦いたいけど、ベニテスはオーソの方が戦いやすかった。そういうことは考えられます。オーソ基調でスイッチをする選手はオーソでは受けて変え返すことが多く、サウスポーではポンッと奥手の左ストレートをスッと出すようになったりする。そういうこともあります。ただし、こうしたら勝てるなんてことはMMAにはないです。勝つことを追求すればするほど、そんな答えはない。迷宮に迷い込むように」

──ところでルーツは同じでもアフリカ生まれの黒人選手と、米国生まれの黒人選手は何か違うような気がします。そして軽量級にもアフリカン・アフリカンが進出してきました。

「それは当然違いますよ。アメリカン・カルチャーで育った人と、アフリカン・カルチャーで育った人は違います。そういうコトを考えると、勢力分布図にアフリカ勢が軽量級も加わってくるということですね。一攫千金を目指して」

──現状、徐々にそうなっているかと思います。そして、「徐々に」が定着すれば一気に広まるのはロシアも、中央アジアもそうでした。残すは中東とアフリカ。そして中東がアフリカの中継地にもなる。

「とにかく、同じことをしてはいけないです。心も体も違うので。だからこそ、やりようはあります」

──日本はボクシングで世界チャンピオンがいる。柔道は当然、そしてレスリングも五輪金メダリストがいる。だからMMAもできるという意見があります。でも、現状は結果がまで出ていないです。

「私がそこに関して思っているのは、五輪スポーツに関しては東京五輪までと、これからは違うと考えています。東京五輪は、どれだけ金を使って北区の味の素ナショナルトレーニングセンターで強化してきたことか」

──では、プロボクシングはどうですか。

「これも私の自論ですが、私らの頃はWBAとWBCしかなかった。五輪が唯一の世界一というのとは違うかもしれないですが、ボクシングの世界王座で世の中から認められていたのは2つでした。今はどれだけ世界王座があるのか。統括組織なんて関係なく世界、世界という報じられます。対して、MMAは世界王座と名がついていても、UFCだけが頂点と誰もが分かっています」

──なるほどBellator、ONEばかりかLFAもCage Fury FC、Cage Warriors、修斗だってワールドの冠がついていて。でも、世界一とはファンも認識していない。ただし、ボクシングでは報じられ方が世界イチになってしまっていると……。

「だから浜田剛史さんは僕らの永遠のアイドルです。あの頃のボクシングの世界チャンピオンは世界一だったから。そして五輪でいえば柔道の競技人口は圧倒的にレスリングより少ない。女子レスリングの競技人口は輪をかけて少ない。だから世界に先んじていて、今もそのリードを保てています。

対して男子は日本人選手が枠を取れない階級が多くなっています。ただ枠を取ったところは味の素ナショナルトレーニングセンターで徹底的に強化されたはずです。国が予算を割いたわけです。日本は豊かな国で、スポーツは盛んです。そして東京五輪があったので国が予算を割いていた。そのような状況ですから、スポーツと格闘技は分けるべきです。

特にダメージで競い合うスポーツは、基本的に五輪競技になっていない。打撃も精度が軸のポイント制で、殴り合って倒すものではないのが基本です」

──確かにそうですね。

「対してMMAは世界中で行われるようになりました。でも、日本は政府が助けることは当然なく、スポンサーもつかない。いうと勝って経済的に見返りがない──ただ地上最強を目指していた時代の極真みたいな環境のままななんですよ、日本のMMAは。そういう状況でアメリカ人、ブラジル人、ロシア人、そしてアフリカの選手を殴り倒さないといけない。ボクシング、レスリング、柔道では強いという風にMMAを同一線上にはおけない。このオマナのような選手を殴り倒すのに、そこを根拠にするのは楽観的かと私は思います」

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【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。ローレンス✖マルチネス「自然なスイッチ」

【写真】 ロニー・ローレンスは過去にあまり例を見ない、打撃を使っている(C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たロニー・ローレンス✖マナ・マルチネスとは?!


──ロニー・ローレンス×マナ・マルチネス、最初の2Rはローレンスがダウンを2度奪い圧倒ペースから、最終回はまさかの逆転KO負け直前まで追い込まれながら判定勝ちを収めた試合でした。

「このローレンス、素晴らしい選手ですね。私は正直、打撃の専門家として打撃単体としてMMAの打撃に興味を持つことは余りないと思っていたのですが、この選手には驚かされました。そしてテイクダウンのあるMMAには、どちらの構えというモノはもう必要ない、両足を前に持って来られる彼のようなスタイルになっていくのかと思いました」

──MMAではスイッチヒッターは多いかと思いますが。

「ハイ、その通りです。ただし、その全てといって良いほどスイッチをする選手は、相手との相性を考えたり、あるいは何も考えずにただガチャガチャやるだけでローレンスのように自然に……自由に動けているファイターはほぼいなかったです。

ディラショーもそういう動きではあるのですが、アスリートとして、鍛えぬいた体を自分の意志で動かしている。ローレンスは自然にやっています。長い年月をかけて、稽古してきたことが自然と出る。そういう風に見えました。実際、負けたマルチネスもスイッチをしていたんです。ただし、マルチネスはサウスポーになると一旦動きが止まります。自由に動けていない。前足がどっちというのがないから、ローレンスはテイクダウンも本当にキレーに入っています」

──打撃とレスリングは、構えが逆になりますしね。

「彼はレスラーで、打撃を身につけたのでしょうか?」

──レスリングもやっていたようですが、ケンポーや散打、ウィンチャン、それとストリートの格闘術をやっていたようです。

「アハハハ。そんな選手がいるのですね!! 実は質量はローレンスもマルチネスも差はなかったです。ただし、マルチネスは居着く時間が多い。結果、間がローレンスだから打撃も当たる、テイクダウンも決まる。ところが3Rになって、間がマルチネスになりました」

──それはどうしてでしょうか。

「思うに1Rと2Rと2から3Pリードした。だから、もうここは落としても良いという考えだったんじゃないでしょうか」

──まぁ合理的ですよね。無理せず、戦うというのも。

「いえ、合理的ではないです。合理的なら理が合っていないといけない。つまり、やられずに終わらないと。いくらポイントを失っても。でも、逃げきろうとしてスピニングバックフィストなんか受けて倒されそうになった。それは理が合っていなかったことになります」

──なるほどっ!! 

「理が合っていなかったのは、テイクダウンを切られるようになったことでも明らかです。それまで決まっていたモノも決まらない。同じようにバックステップをしても、相手の間だと殴られます。自分の間で下がれば、次の攻撃が入る。それがナイファンチンの分解組手、二挙動ヒジ当てで学ぶことができます」

──おお、そこに武術の理が生きると。ローレンスはマルチネスの距離で下がってしまったわけですね。

「そうです。相手の間で下がるのは危険です。それまで居着いていなかったローレンスが、3Rになって居着いたのは、理に合わない戦いに変えてしまったからです。スコアのマネージメントとして、2つ取れば3Rは流せば良い。それは分かります。でも、こうなってしまうこともある。難しいです。良い逃げ方と悪い逃げ方があるということですね。

初回と2Rを取っているから、仕留めにいくと隙ができることもあるし、そこは競技で勝つことの難しさです。ただマルチネスとすれば、1Rと2Rを失っているから勝つには攻めるしかない。腹が決まると、一発の質量が上がります。そこでローレンスの逃げ方が悪かったから、ああいうことが起こったのかと。

それでもローレンスに新時代のMMAの打撃を見たような気がします。ガードを固めてっていうのでもなく、手を下げた状態でいきなりぶん殴ったりして。最初は右足前、右のボディから左フックで倒したけど、アレはあまり効いていなかったです。

面白かったのは2度目のダウンで。右足前、でも下がる相手を追いかけて走りながら左ストレートから右フックで倒しました。こんなことは普通、できないです。ひょっとすると彼がやっていたケンポーは居着くことを嫌う、そういう教えがあったのかもしれないですね」

──まるで追い突きでした。

「三本移動、三回前に出て打つという移動稽古ですね。ただ、現代空手では移動するたびにその方に体重を乗せるという教えが殆どです。そういう追い突きは使いモノならないです。足をついてから突く、つくと同時に突く──どちらでもない。全体の連動の結果として、突きが出ないと倒せる追い突きにはならないです。

左足を前にしたときは、ジャブはこう伸ばすという動きと、追い突きは違います。決めて打つのではなく、その状態になって打つ。そういうパンチをローレンスは使っていました。後ろ回し蹴りも不発でしたが、カカトが引っ掛かっているから距離が合えば一発で倒せる蹴りです。いやぁ、こういう選手がいるのですね。ローレンスは、これからも見たい選手──要注意が必要です」

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【Bu et Sports de combat】武術で勝つ。型の分解、ナイファンチン編(05)「手刀受け→ヒジ当て」

【写真】ナイファンチンは、型をそのまま使えそうな錯覚を覚えそうになるほど、実戦的向きの型だ(C)MMAPLANET

武術でMMAを勝つ。空手でMMAに勝利する──型を重視する剛毅會の武術空手だが、岩﨑達也宗師は「型と使って戦うということではない」と断言する。型稽古とは自身の状態を知り、相手との関係を知るために欠かせない。

サンチン、ナイファンチン、セイサン、パッサイ、クーサンクーの型稽古を行う剛毅會では、まずサンチンから指導する。そんな剛毅會の稽古には站椿が採り入れられている。

全ての根幹となる武術の呼吸を学ぶことができる──サンチンで創られた、空手の体をいかに使うのか。その第一歩となるナイファンチンの解析を行いたい。目線と体の向き、足の小指が正しくなることでナイファンチン立ちが成り立つ。前回、回転の動きによるヒジ打ち二挙動に対し、一挙動のヒジ当て紹介した。第5界は一挙動のヒジ打ちを習得する前段階で、ナイファンチの型の動きに基づく、二挙動の手刀受け→ヒジ当て──の手刀受けを分解したい。

<ナイファンチン第4回はコチラから>


「一挙動のヒジ当ては言わば応用になり、二挙動の手動受けヒジ当てが基本となります」(岩﨑)

相手の突きに対し


イチ=手刀を


伸ばして


受け


二=ヒジを


打つ


手刀受けの際、目、胸、足の指がナイファンチンの型と同じ向きになるように

反対側から見て、正しい姿勢を知る

ヒジと肩を引きすぎて、胸が正面でなく右を向き中心がズレると


左ミドルや左ハイを受ける


正しい姿勢だと、相手の蹴りは上がらない


胸が相手の方が向いて、中心がずれると


左のパンチ、続く右を被弾する


正しい姿勢だと、パンチは届かない

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【Bu et Sports de combat】武術で勝つ。型の分解、ナイファンチン編(04)「ヒジ打ちでなく、ヒジ当て」

【写真】ヒジ当てはグラウンドでのヒジ打ちに応用できれば、相当に危険になる (C)MMAPLANET

武術でMMAを勝つ。空手でMMAに勝利する──型を重視する剛毅會の武術空手だが、岩﨑達也宗師は「型と使って戦うということではない」と断言する。型稽古とは自身の状態を知り、相手との関係を知るために欠かせない。

サンチン、ナイファンチン、セイサン、パッサイ、クーサンクーの型稽古を行う剛毅會では、まずサンチンから指導する。そんな剛毅會の稽古には站椿が採り入れられている。

全ての根幹となる武術の呼吸を学ぶことができる──サンチンで創られた、空手の体をいかに使うのか。その第一歩となるナイファンチンの解析を行いたい。目線と体の向き、足の小指が正しくなることでナイファンチン立ちが成り立つわけだが、第4回は正しい向きとそうでない向きを分解したい。

<ナイファンチン第3回はコチラから>


相手の突きに対し、視線が右を向かず、胸と足の小指が正面を向いていないと


避けているつもりでも突きを受けてしまう。「相手が刃物を持っていると、これで終わりです」(岩﨑)


目線が相手、胸が前、足の小指が前、つまり中心が正面だと相手の突きを受けない。「中心が入り、目が入っているということになります」(岩﨑)。ここからナイファンチンの型にあるように手刀からヒジ当てを打てる


※ナイファンチンの型から知るヒジ打ちとヒジ当ての違いは前回を参照のほど

相手の突きに対し、体の回転で当てるヒジ打ちだと


イチ・ニの挙動になり


突きを受けてヒジは届かない。「外面の回した動きでは、相手の拳が当たることで、引っ掛かりができて入ることができなくなります」(岩﨑)


対してナイファンチンのヒジ当てはイチの挙動になり


相手の攻撃を受けずに、ヒジを当てることができる。「円運動でなく内面で直接入るのが、武術空手のヒジ当てです」(岩﨑)

「稽古を積んでいけば、内面の動きが可能になり、足の小指が外を向いても外側に引っ張られることがなく入ることができます。そのように内面で動けるようになるために型の稽古が必要になります。つまり内面で動けるようになると、年を取って若い頃のように体の自由がきかなくなっても、入れるということになります」(岩﨑達也)

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【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。ブルックス✖箕輪ひろば「打・投・極の回転」

【写真】心が折れない、その強さは尊いモノだと思いたいのだが…… (C)ONE

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たジャレッド・ブルックス✖箕輪ひろばとは?!


──ジャレッド・ブルックスに挑んだ箕輪選手が、完敗を喫しました。

「ブルックスは打も組みも、全てにおいて質量が高かったです。向き合った段階で、箕輪選手は腰が引けてしまっていたように見えました。貰う前から引けていた。だから、最初のパンチを貰ったと思います。

腰が入っていない打撃は、相手の攻撃を受けた時にケガをすることが多いです。MMAは打撃でなくても組みが強いと勝てるので、そういう選手が強い打撃を受けてケガをするという例を見てきました。下手でも本気でぶん殴ろうと思うと、質量は上がります。そうすると体の強度も違ってくることもあるんじゃないかと思います。そこは分かっていないですが。

及び腰の打撃を使うぐらいなら、昔のグレイシーのように打撃を打つことを排除して戦った方が良いというぐらいに思います。組みに自信をもっていれば、組めば良い。そこで組まれたくない相手なら質量が下がります。本気で打ちこもうとしてくる相手に、中途半端にキックボクシングをするのは本当に危険です」

──……。

「ブルックスは、レスラーはこう戦いなさいという理想形の試合をしました。基本、余計なことをしないで上を取って殴り続ける。なるべく正確に。そうなると質量が高いままです」

──そこなんです。箕輪選手が敗れたタイミングなので、彼個人のことと思われてしまうかもしれないですが、彼だけでなく……修斗の選手は打・投・極の回転という言葉を口にします。修斗勢でないと総合力ですね。ボクシングとレスリングで対戦相手が上だと予想できた場合、打撃とテイクダウンで遅れを取る選手が打・投・極……あるいは総合力の回転で勝てるのか。そこには疑問を感じてきました。

「なるほど、そういうことですか。打・投・極が回転して勝てるのか、勝てる相手もいますし、勝てない相手もいます。佐山聡先生は修斗の理念と言っていましたね、打・投・極を。理想として存在しています。ただ私の考える格闘技は、全てが結果論です。勝つためにどうすれば良いのか。

つまり打・投・極が回転できなくても、勝てば良いです。それが格闘技です。回転して勝てるのであれば、回転させて勝てば良い。打・投・極の回転は勝つための手段です。打・投・極を回転させることが目的ではありません。修斗は回転させて勝たないといけない競技ということであれば、そうならのでしょうが」

──そういうことではないですよね。裁定基準にしても。

「今回の試合で、ブルックスの何が良かったかというと上体が浮かない状態で、パウンドを打っていたことです。どうしても打とうとすると浮くのが、彼にはない。そして、嫌なところからヒジを打っていました。箕輪選手が立ち上がろうとすると倒しに掛かり。下にいると殴る。あれこそ打倒極の回転ではないかと。立ち上がり際にヒザで顔面を狙うだとか。あの攻撃には唸りました。

そしてラスト30秒になると、ギロチンを狙って引き込む。途中でもRNCも狙っていて、取り切れないと抑えて殴る。ブルックスは勝つために、打倒極を使っていました。それは私があの試合を見た結果、結果論として感じたことです。ブルックス自身は、回転させようと思っていなかったでしょう。勝てば良いので。回転させる必要がなければ、回転せずに戦っていたはずです」

──箕輪選手はリト・アディワン、アレックス・シウバに連勝していたこともあり、ONEでやる力があると……修斗の世界チャンピオンになったからONEで戦うという路線は危険だと感じていた自分は、この2試合でそういう風に思えるようになっていました。

「箕輪選手にとってブルックスは、北米が来た──ということではないでしょうか。何よりアディワンに勝った、シウバに勝った。その勝利がブルックスに勝つことに、どういう法則性があるのか。修斗のチャンピンになったけど、ONEでやれる力があるかどうか分からないという見方は正直で、正しいと思います。強さなんて、分からないです。分かる人にしか。

そういうなかで力を見極めるには、法則性を持ってモノゴトを見る必要があります。組み技に課題がある選手に組み技で勝った。それをAというパターンとして、Aで勝った。対して組み技に強い選手に打撃でいく、Bというパターンでは勝てなかった。Aというパターンで勝てて、Bというパターンで負けたけど、AとBで見られたCということを出せば勝てるのではないか。そういうモノの見方をすることが大切じゃないかと、自分では思っています。だから箕輪選手に関しては、アディワン戦の勝利とシウバ戦の勝利が、ブルックス戦と繋がっていなかったように感じます」

──あれだけ劣勢でも、諦めずに戦い続けた。箕輪選手の頑張りが、これからに繋がって来ることに期待したいです。

「あのう……そういう考えは危険です」

──えっ、どういうことでしょうか。

「体を張って頑張る戦い方は、それで良い相手もいますが、一発で倒されてダメージが残ることもありますからね。箕輪選手は本当に頑張って、心が折れるようなこともなかったです。でも、危ない貰い方をしていたのは確かです」

──その根性が練習で生きるということはないですか。練習で頑張れない選手が、それこそ上のレベルと選手とはやっていけないのではないでしょうか。

「それはそうです。そうなのですが、強い気持ちを創ることを練習する目的にすることはないようにしてほしいです。これは全ての格闘技を戦う選手に言いたいです。

箕輪選手、凄く心の根の良い人間なんだと思います。その良さがあるから、金的を食らってもっと休めば良いのに、早々に試合の再開に応じる。5分間、休みましょうって──人間的に問題のある連中とやってきた自分は思います。良い人も、試合でマイナスに働くなら勝つためには必要ないです。

と同時に最後の最後まで諦めないから、あの急所蹴り以降の箕輪選手の攻めは良かったです。逆にブルックスは、あの急所蹴りの中断で何か途切れた。そうでなくても、2Rからは疲れて失速していましたが、あそこでプッツンと気持ちが途切れ持続しなかったように映りました。

あそこで箕輪選手が自分から打ちに行く打撃ではなくて、合わせる打撃を使っていた。それは試合の序盤も同じでした。結果、腰の引いた打撃だったので後の先を取りに行って、先の先を取られた。ただし最後の20秒は後の先が取れそうでした。それはブルックスに緊張感がもう欠如していたからです。実は間としてブルックスは危なかったです。

だから、攻略の糸口はあります。頑張ろう、ホントは怖いけど何としてもやるんだっていう打撃でなくて、怖いからビビッて打撃をする。その方が良いかもしれないです。ビビっていると、相手は安心から慢心して突っ込んできます。それだって強い相手を攻略する手ですしね。頑張ろう、頑張れる強さがある箕輪選手だからこそ、ネガティブな戦いをしても功を奏することもあるかもしれない。頑張りは立派で、本当に人として大好きになってしまうような選手ですが、戦いは別に弱気を見せても勝てば良いので」

──一生懸命やることは良いことか思うのですが……。

「格闘技を戦ううえで良いかどうか、それは勝つために何をするかです。一生懸命やっている、頑張っている。それは終わってから、周囲がする評価です。これは箕輪選手がそうかは分からないので、私の教え子に対して思うことですが、『頑張った』と振り返るのではなくて『ダメだ。これじゃダメだ』、『まだ穴がある』という気持ちでいてほしいです。それを見た人は『頑張っている』、『努力している』と思いますから」

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