【写真】計量台でポージング。剣道、武道について話してもらいましたが、ヘンリーはプロフェッショナルMMAファイターです (C)MMAPLANET
16日(金)、配信に特化して開催されるGLADIATOR CHALLENGER SERIES01「Bang vs Kawana Ⅱ」で、アン・ジェヨンと対戦する三上ヘンリー大智インタビュー後編。
Text by Manabu Takashima
高校、大学と剣道で活躍した三上は、その剣道家生活で体に摺り込まれた武の理が、MMAで生きると断言した。表面上の動き、そして内面。武道でありながら競技のある武器術と、無手のコンバットスポーツであるMMAの共通点とは──。
目の前の相手に勝つ競技を戦いながら、戦いの本質がその身にある三上ヘンリー大智──彼以外のMMAは決して口にできないであろう──数々の心理が聞かれた。
<三上ヘンリー大智インタビューPart.01はコチラから>
――個人的にヘンリー選手に以前から伺いたかったことなのですが、剣道がMMAに生きることはあるのでしょうか。
「メチャクチャあります」
――おお。ぜひとも詳しくお聞かせください。素手と武器術は間合いから違ってくると思いますし、どのようにMMAに落としこむことができるのか。同じ剣術でも、前後運動だけのフェンシングよりも、剣道の方がリンクするのではないかと。それぐらいの感覚でしかないので、とても興味深いです。
「色々な要素があり過ぎて、伝えることは難しいのですが……。重量級という立場で言わせてもらうと、剣道は無差別なので凄くすばしっこいヤツ、大きくて一発はあるけどノソソノしたヤツとやろうがルールは全て同じです。状況も全て同じです。そのなかで三本勝負なので、パワーで押せないというのがあります。
スピードに対応しないといけない。小さい人と稽古しているときも、その速さについていかないといけないんです。そうなると大きかろうが、小さかろうが足さばきは必然の要素になってきます。だからいわゆるキックボクサーのゆっさゆっさした動きにはならないんですよ。
前後移動、左右移動ともに重心を一定にして、上下させるのは相手の攻撃を避けるにしても、攻撃を当てるにしても、技の起こりがなかなか見えないので。僕に関して言うと『ここで当たる』という場所に留まらない。『ここには当たらないだろう』という時に当たる。そのような動きが可能になると思います。
あと……一番大きい所は間合いなのかと思います。剣道をやっている時に口を酸っぱくして言われたのが、『打って勝つな、勝って打て』ということなんです。その部分での間合いとか気構え、相手の起こりを捕らえることだとか。あるいはわざと起こりを見せて、相手を誘って打つとか。その辺りの心理的な駆け引きに関して言うと、他のスポーツ……例えばボクシングと違ってダメージを受けずに訓練ができるので、何度失敗してもその訓練ができるのが剣道の特徴ですね。
ボクシングだと打たれ、ディフェンス力がついてくるじゃないですか。でも、その時には打たれ弱くなってしまうかもしれない。でも剣道はそういうことなしで、模擬戦を何度でもできる。そこが違ってくるのかと」
――武道は競技化すると勝利を目的とした技術が発展し、結果スポーツとしてフィジカルの優れた者が有利になります。ただ竹刀があり、防具があることで剣術ではないですが、剣道として武道性は残りやすいのでしょうか。
「自分のなかでは……『これは、そうなんじゃないかな』ということがあります。対人競技で相手と、体の中心が近ければ近いほどパワーの勝負になる。それが離れれば離れるほど、技術の勝負になる。だから弓道は的を狙うものですけど、体格とか関係ないじゃないですか。弓を弾く力は必要でも、的の中心を射るという点においては体の大きさは関係ない。
剣道よりも槍の方が間合いが遠いから、より技術の勝負になる。剣道には鍔迫り合いという近距離での間合いでいなしたりとかするから。空手の場合は競技化すると、突きの距離になるので、竹刀がある剣道とは理屈が変わってくる。そうなってくると、空手は技術の側面が失われるのかもしれないですね。
最初から組んでいる武道、競技は話が違ってくるとは思いますけど。剣道は一つ棒を持つことで、武術の本質に触れられる。でも剣道をやっている時は、そんなことは全然考えていなかったです。振りのスピードとか、足を速く動かした方が勝てるだろうと思っていて」
――つまり西洋スポーツ化した思考だったのですね。
「ハイ。でも剣道を離れてMMAを始めると、『ヘンリーって、こういうところが凄いね』と指摘された動きは、剣道の動きで。意識をしていなかったのですが、そこで初めて『剣道のこういうところが生きるんだ』って気づいたんです。それこそ無意識に摺りこまれていたんでしょうね」
――剣道の動きよりも、剣道の理がMMAに生きる?
「その通りですね。だから組み技でも生きるんですよ。剣道は面を取りたかったら、小手を攻めろというのがあって。小手を取りたかったら、面を攻めろと。それは柔術も同じで。腕十字を取りたかったら、三角を見せて腕十字だとか。マウントを取りたかったら、腕を攻めに行くとか。
ボクシングもそうで。ジャブを見せて、ボディとか。虚実――そこらへんが全て、つながっているんじゃないですかね」
――虚実を織り交ぜた動きが、体に摺りこまれている。そこがMMAで有利に働く?
「それはあると思います。それは自分に剣道を指導してくれた先生のおかげです。高校の時(東海大学付属第四高等学校※現東海大学付属札幌高等学校)の古川和男先生が、その場で勝つための剣道を教えているような先生だったら、こういうような考え方には恐らくなっていなかったと思います。
『こういう風に打て』、『こうやれ』、『ああやれ』という指導だったら、こうやったら当たるというので終わってしまって表面上のことしか理解できていなかった。『勝って打て』──意味分かんねぇってなるんですけど、悩みながらやっていくなかで自分の心に刻まれたんじゃないかなって。それが先生の指導力の賜物だと思います」
──自分の間になっているから、勝っていると。
「ハイ。打つから勝つのではなくて。そういう内面的なこともありますし、さきほど話した足さばきや重心のこともあります。私はエレベーターがあるところは階段でなくエレベーターに乗るようにしています。坂道は重心移動として平気なのですが、階段は本来の重心移動ではないので気持ち悪くて。もう、そういう体になっているのだと思います。
表面的には他にも相手のスピードについてくために、足さばきは磨かれました。それと私は特殊で、中段から上段にスタイルを変えたんですよ。中段と上段って足の向きが逆なので、だからスイッチを使える側面もあって。そこは凄く大きかったかなって思います。
あと中段だと剣先が触れて、『ここなら攻められる』という風に勝負ができるのですが、上段の場合は竹刀同士の触れずに間合いを測らなければならなくて。本当に空間を目で見て、心で認識しないといけないんです。『今、勝っているのか』、『打って良いのか』ということを。そこもMMAに凄く生きています」
──実は以前からヘンリー選手の剣道の動画を見せてもらっていて。とにかく長身を生かして上段の構えから面を打って勝つ。その踏込みなどがMMAに生きるのかどうか、そこが気になっていたのですが……ここまで深い話を聞かせていただけるとは。
「勝つまでの行程が色々とあって、良いのを打ったなというのは相手の気を殺しているというか──間合いを盗んでいる。何よりも自分が攻めている状態で打っています。自分が攻められている状態で打っても一本にならないですし、相手に防がれます。MMAも同じなんじゃないかと」
──まさに武術的な重心の話ですね。
「ハイ、心のバランスです。同じことをしても、守っている時は全く通じないです」
──いや、参りました。それほどまで武の理を理解しているMMAファイターはいないかと。
「でも世界のトップレベルの選手って、スポーツをやっていてもそこに行き着いていると思います。メイウェザーとかも。海外の人達からは、日本の武術は凄いと思われがちですけどトップに行く人は押しなべて皆、同じようなエリア……ゾーンに足を踏みいれていると思います」
──押忍、本当に興味深い話をありがとうございます。今回の試合を終えると、ヘンリー選手はどのようなキャリアアップを考えているのでしょうか。
「そうですね、やるからにはトップを目指していきたいです。今はたまたま格闘技に心血を注いでいる状態なのですが、皆が『努力は実を結ばない』とか考えがちになります。でも私の中では……変な風に聞こえるかもしれないですけど、来世まで自分の努力や頑張ったことは引き継がれると思っています。現役選手生活が輝かしいキャリアにならなかったとしても、そこは諦めずに絶対に来世で花が咲くぐらいの勢いでMMAを頑張っていきたいと思っています。
目指すところは……名前を出して良いか分からないけど、UFCチャンピオンになること。でも、それが叶わなくても自分のやっていることに誇りを持ちたいと思うので、とにかく目の前の一戦・一戦を全力で戦うだけです」
──自分のやっていることに誇りを持つためには、ケージのなかから何を見せないといけないでしょうか。
「う~ん、そこはもう勝手に出てくるものだと思っていて。自分で表さないといけないと考えた時点で、なんか嘘になっちゃうかなって。自分が表現したいから、表現することって本当に自分の本質なのかなって思うんですよ。さっき、前回の試合で無意識になったと話したようにアレが自分を表せている。無意識の状態で、何も考えずに勝手に出てきたものが自分自身だし──。
一つ言えることは、相手に敬意を払うこと。勝っても負けても、相手に敬意を払うこと。多分、自分と同じだけ努力をしているだろうし、負けたくてケージの中に入っていく人はいないと思うから。勝っても負けての相手に敬意を払うこと。そこだけなのかと。勝った後の立ち振る舞い、負けた後の立ち振る舞いに自分のMMA道が出てくるのかなって思いますね」
■視聴方法(予定)
2月16日(金)
午後6時30分~ THE 1 TV YouTubeチャンネル
■ Gladiator CS01計量結果
<Gladiatorフェザー級選手権試合/5分3R>
[王者]パン・ジェヒョク:65.75キロ
[挑戦者]河名マスト:65.65キロ
<Progressフォークスタイルグラップリング・フェザー級王座決定戦/5分3R>
竹本啓哉:65.8キロ
竹内稔:65.4キロ
<ミドル級/5分3R>
三上ヘンリー大智:84.2キロ
アン・ジェヨン:84.1キロ
<Progressフォークスタイルグラップリング88キロ契約/5分2R>
グラント・ボクダノフ:84.0キロ
大嶋聡承:86.0キロ
<Gladiatorフライ級王座決定T準々決勝/5分3R>
和田教良:57.0キロ
チェ・ドンフン:56.6キロ