【写真】それぞれの格闘技、格闘家としての生活。素敵な格闘技観だ (C)SHOJIRO KAMEIKE
25日(日)、東京都港区のニューピアホールで行われNEXUS36にて、ライト級王者の岸野JUSTICE紘樹が横山武司の持つ同フェザー級王座に挑戦する。
Text by Shojiro Kameike
昨年8月にジェイク・ウィルキンスとの王座決定戦を制し、ライト級のベルトを獲得した岸野は今年2月の村井和道戦=フェザー級次期挑戦者決定戦で勝利し、今回のフェザー級王座挑戦に至っている。
岸野のプロデビューは2012年6月、もうMMAキャリアは12年となっている。デビューしてから2014年11月まで勝ち星がなかった岸野が、いかにネクサスのライト級王座まで辿り着いたのか。さらに今回フェザー級のベルトに挑む理由とは――。
ずっと辞めたいと思っているんですよ。それが目標で
――MMAPLANETでは初のインタビューとなります。岸野選手は2012年7月プロデビューで今年30歳になります。ということは高校生の時にプロデビューしたのですか。
「ジムの扉を開いたのが15歳、高校1年生でした。プロデビューが18歳の時なので、ギリギリ高校3年の冬だったかなと思います。当時は水戸に住んでいて、桜井隆多さんのR-BLOODでお世話になっていたんです。その時は梅田恒介さんに面倒を見てもらっていて、『ジャスティス』というリングネームも梅田さんが漫画のキャラクターから付けてくれました」
――なぜ15歳の時にMMAを始めようと思ったのでしょうか。
「中学の時は柔道とレスリングをやっていました。それまでは特にスポーツに興味があったわけではなく、小学生の時は学校から帰ってきて、ポテトチップスを食べてテレビゲームをして1日を終える生活でした」
――アクティブとは言えなかったのですね。(笑)。
「ハイ。でもウチの中学校は皆が部活に入るような感じで、父親からは『紘樹はモヤシみたいな体格だし、運動部に入っておけ』と言われました。僕は球技ができなくて、柔道のほうが良いかなぁと思ったんです。ただ柔道もレスリングも結果はふるわず、納得がいかなかったというか……。『この試合は勝っていたんじゃないか』、『ここで勝っていたら高校の推薦も決まったんじゃないか』と思ったり、やりきった感がありませんでした。
進学した高校には柔道部がなく、他にやりたい部活もなかったので、格闘技のジムに入りました。そこでプロ選手になり、ライト級のチャンピオンになろうと」
――ジムに入会した時に、チャンピオンになる階級も決めていたのですか。
「当時はDREAMのライト級GPを観ていて、自分も体重が同じくらいだし、ライト級でチャンピオンになりたいと思ったんです」
――プロデビュー後、1分けを挟んで5連敗。初勝利は2014年11月と苦しい時期が続きました。
「苦しい時期でしたね。当時はいろんなMMA大会が始まって、セミプロみたいな選手へのオファーが増えた時期でもあったんです。そこでうまくプロデビューできたような感じですね。しっかりアマチュアで経験を積んだわけでもないので、最初の頃は戦績もふるわない時期が長く続きました」
――序盤でMMAを続けることを諦めてもおかしくないレコードだったと思います。
「MMAを辞めようとは思わなかったです。ただ『すぐに勝てる世界ではないんだなぁ』と――誤算やナメていた部分があったのは事実です。体も出来ていなくて、怪我もありましたし。怪我のために辞めようと考えることもありましたけど、勝てないから辞めようとは思わなかったですね。柔道とレスリングをやっていた頃と同じですけど、MMAでも『この試合は勝っていただろう。ここで勝っていたら流れも変わったんじゃないか』と思う試合があったりして」
――同じように自分の中で納得がいっていない。だから辞めるわけにはいかないという気持ちもあったのですか。
「はい。高校卒業後、専門学校に進んで社会人になる時に一度、区切りをつけようとは思いました。2014年11月のTTF Challenge03で勝って『もういいかな』と思っていたんですけど、ネクサスの山田さんにお願いして、また試合に出るようになりました。上京してからはトイカツ道場に入って、今に至ります」
――その後、2016年から徐々に勝ち星が増えていきます。岸野選手の中で何か大きな変化があったのでしょうか。
「……何もないですね(苦笑)。ちょっと時間の背景が戻ってしまいますけど、専門学校を留年して、もう1年あるからMMAをやろうかと思っていた時期です」
――ということは、社会人になったらMMAを辞めようと……。
「思っていないですよ。逆です」
――えっ!? 逆ということは、就職したくなかったということでしょうか。
「専業格闘家を目指していたので、就職したくなかったです(笑)。勝てるようになったのは――デビュー当時に黒星から引き分けるところまで持っていくことができて、ちょっと実力を出せるようになってきたかなと思っていたんですよ。どう戦えば評価されるのか、それが分かるまで10試合ぐらい掛かって。
基本的にはずっと同じことをやっています。負けていたら何か変えようとする選手が多いと思いますけど、僕の場合は逆にどんどんシンプルになって、今はほとんどスパーリングしかしていません」
――なるほど。そこからDEEP、韓国TOP FC、そしてZSTに出場します。この頃も「ライト級チャンピオンになる」という目標は同じですか。
「その時は、さすがにそうは思っていなかったですかね。そうですね……うん」
――では「ライト級王者になることは難しい」と思った当時のモチベーションは何だったのでしょうか。
「何でしょうね……ずっと辞めたいと思っているんですよ。それが目標で」
――辞めることが目標、とは?
「柔道とレスリングを始めた頃は、しぶしぶ続けていたような感じでした。でも自分が格闘技をやっていなかったら、どうなっていたのか。きっと学校でも端っこのほうにいて、それほど勉強も頑張っていなかったし、どうもなっていなかったと思います。
就職するタイミングでも――口下手で、人とのコミュニケーションも苦手でした。人と関わるのも好きではなかったので、できるだけ人と関わらないような仕事を見つけて……。でもそうして過ごしていると、人と成長する機会も失っていたと思います」
――……。
「僕にとって格闘技は、社会との接点を持ち続ける唯一の場所なんです。だから格闘技は続けたい。そうではなく社会人として一生懸命、仕事をして家庭を持って、自分も周囲も幸せだっていう状態が一番あるべき姿だとは思っています。実際に就職もして、結婚していた時期もありました。だから『もう格闘技はいいんじゃないか』と思う時もありました。
だけど試合に負けた時とかに『この試合だけは勝っておきたかったな』と思ったり。TOP FCに出て何もできずに負けた時も『もう少し頑張って勝って終わりにしたい』とか。『燃え尽きたい』という気持ちで続けている-——続けてしまっているというか」
僕は、ネクサスでキャリアを終えようと思っています。
――ネクサスで目標であったライト級のベルトを巻いた時に、燃え尽きることはできなかったのですか。
「ベルトを獲得して辞めようとは思いました。でもベルトを巻いた人間として、ちゃんと負けてベルトを奪われるまで続けるのが格闘技界のルールじゃないかと思ったんです。自分がベルトを獲って辞めるというのは、自分勝手なことじゃないのかなって」
――……。試合内容も大きく変わってきていると思います。過去の試合では左右のステップからテイクダウンを奪いに行っていたのに対し、ウィルキンス戦と続く村井和道戦は前後のステップも加わっていました。それは打撃のディフェンスが向上したからではないか、と。上半身が突っ立ってアゴが上がりがちだった点も修正されています。
「そこは大きく変わりました。一度KOされて30秒~1分ぐらい意識が戻らなかったことがあるんです。『もう打ち合うのは得策じゃない』と打ち合わないスタイルにシフトしていって、今はスタンドのディフェンスに注力しています。もともと打撃は下手で怖かったけど、今は打撃でも勝負できるぐらいになってきました。特にディフェンスは自信があります」
――ウィルキンス戦では岸野選手も打たれているように見えて、ダメージは少なかったからこそダウン後にフィニッシュできたのでしょうか。
「はい。昔はパーリングやヘッドスリップを使っていましたけど、最近はブロッキングで防げる自信もあります。ブロッキングが一番動きは小さく、遠い距離と近い距離どちらも同じようにディフェンスできるようになったから、戦略の幅が増えました。それが距離の詰め方にも繋がっていると思います」
『横山選手のことをどう思うか』と訊かれても、『どうも思っていない』としか答えられない
――結果、ライト級のベルトを巻くことができました。それが今回、フェザー級に挑むというのは……。
「まず僕は、ネクサスでキャリアを終えようと思っています。ライト級のベルトを獲った時、もっと大きな舞台に行くという考えはありませんでした。まぁ、オファーもなかったんですけど(苦笑)。もともと僕にとってはベルトを獲って他の団体で戦うことよりも、防衛戦のほうがネクサスでやるべき仕事だと思っています。
ただ、僕が防衛戦をやりたくても、今はライト級に挑戦者がいない。そこでどうするか――実は2年ぐらい前から適正階級はフェザー級なんだろうと思っていたので、フェザー級に挑戦してみようかなと。やっぱり二階級制覇って夢があるじゃないですか」
――はい。
「もう一つ、山本空良選手がフェザー級王者になった時のトーナメントに、ライト級から転向して出ようかと悩んでいたんですよ。結局、出ることは叶わなかったけど『あの時もしかしたら自分が優勝できたんじゃないか』と思うこともあって。だから今回のフェザー級挑戦は、あの時に獲りに行かなかったものを獲りに行くという感じなんです」
――柔道&レスリオング時代から『やり残したこと』を追いかけ続けるのも格闘技人生だと思います。そしてライト級のベルトを獲得すると、次はフェザー級への想いがつのる。心の中では、ずっと格闘技を続けたいのではないですか。
「いやぁ、その言葉は聞きたくなかったです(笑)」
――アハハハ!
「僕は今でも辞めたいですよ(笑)。でも続けていくうちに、新しいことができるようになって、新しい目標ができて――それが嬉しいと思うこともあるんです。ただ、自分の中では『当時は手に入れられなかったものを得たい』と考えているだけであって。一通り欲しいものを揃えたら辞めると思います」
――一通りとは?
「フェザー級のベルトを巻いたら、最終的にストロー級まで獲って5階級制覇——というのはどうですか。階級を上げていくのではなく、落としていくという(笑)。たくさんベルトを巻けるからライト級でスタートしたんだなと勝手に考えています」
――勝手に(笑)。次に対戦する横山選手の印象を教えてください。
「ファイターとしては、スパッとしているところですかね。僕はいろいろ思い返して、ゴネゴネして『やるの? やらないの?』『……やります』みたいな感じで生きているわけですよ。でも横山選手はその場その場で判断していそうな感じですよね」
――横山選手の試合を視ていると、そうかもしれません。グラウンドでも一つの動きに執着しすぎることなく、切り替えが速い。
「そういうところは、自分と違って幅があって素敵だなぁと思います。でもそう聞かれると難しいんですよね。『横山選手のことをどう思うか』と訊かれても、『どうも思っていない』としか答えられないんです。自分にとってはフェザー級のベルトを獲る――その相手が横山選手だったというだけで。これは通過点であり、終着点ではないので。
僕としては試合に関して自分を持ち上げたり、相手を貶めるような発言はしません。別にこの試合が、世界最高峰の技術を見せるものだとも思っていませんし。だけどネクサスの中でライト級とフェザー級の王者が戦う。罵り合いを必要とせず、楽しんでもらえる試合になったら嬉しいです」
■視聴方法(予定)
8月25日(日)
午後12時30分~Fighting NEXUS公式YouTubeチャンネル
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【NEXUS36】横山武司に挑戦、岸野JUSTICE紘樹「格闘技は、社会との接点を持ち続ける唯一の場所」 first appeared on
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