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HOOKnShoot Special The Fight Must Go On アレッシャンドリ・カカレコ エルミス・フランカ タクミ ブログ マイク・ブラウン マット・ヒューム 山下志功 鈴木洋平

【The Fight Must Go On】DVDチラ見─02─2001年11月17&18日、マイク・ブラウンが戦っていたのは修斗?

HnS【写真】古き良き時代と新しい時代への交差点のような大会だったHOOKnShoot KINGS (C) FIGHTWORLD.com

国内外のMMA大会の中止及び延期、さらには格闘技ジムの休館など、停滞ムードの真っただ中です。個人的にも大会の延期と中止のニュースばかりを書かざるをえない時期だからこそ、目まぐるしい日々の出来事、情報が氾濫する通常のMMA界では発することができなかったMMAに纏わる色々なコトを発信していければと思います。こんな時だからこそ The Fight Must Go On──第11弾は懐かしくもあり、今や秘蔵っぽさタップリのDVD紹介シリーズ、その第2回として2001年11月17&18日にインディアナ州エヴァンズビルで開催されたHOOKnSHOOT「KINGS」のDVDを紹介したい。


豪州=オーストラリア修斗、ハワイ=スーパーブロウルに続き、中西部インディアナ州でプロ修斗公式戦を組むようになった──今でいえば──フィーダーショーがHOOKnShoot(以下HnS)だ。とはいっても北米のビッグショーはUFCだけといっても過言でない時代、人口10万人強(広域都市圏では35万人ほど)の地方都市のメモリアルホールで行われていた大会は、今の北米ローカルショーとは比較にならない国際色豊かなイベントとして行われていた。

HooKとShoot、裏技とガチというプロレス隠語を合わせたネーミングのMMA大会は1996年から活動しており、いわば業界のパイオニアの一つであった。そして90年代の終わりごろ米国のマニアック層は、修斗の競技志向をリスペクトする傾向が見られ、HnSを主宰するジェフ・オズボーンもその一人だった。そんなマニアック過ぎたオズボーンを片腕として、後にBodogなど非UFC系のビッグショーのマッチメイカーやタレントリレーションズで活躍するミゲール・イトゥラテがサポートし、一介のローカルショーの域を脱するショーを2000年から2001年にかけてプロモートしていた。

イトゥラテはこの2日連続イベントからフロリダの富豪ダン・ランバートの資金援助を得るようになり、シウベイラ・ブラザース所属の3選手やコーチ陣はランバートと共にプライベート・ジェットでエヴァンズビル入りを果たしていた。

Franca vs Brownそう後のATTの原形がこの大会で見られたことになる。

シウベイラ・ブラザースから出場したエルミス・フランカは、今やATTの知恵袋として八面六臂で活躍中のマイク・ブラウン(当時はキース・ロッケル率いるアムハースト・サブミッション・アカデミー所属だった)を2分少しで三角絞めで下している。

この大会はプロ修斗公式戦を行うことで日本からTV放映料を得ていたが、HnSという大会のブランド力をアップさせたいイトゥラテの意向もあり、修斗公式戦と北米ユニファイドルールを併用したイベントでもあった。

タクミ、山下志功、鈴木洋平が日本から出場した修斗公式戦とはいえ、HnSでの修斗公式戦はインディアナ州アスレチックコミッションの認可を受けるために、当時日本で用いられていた10カウント制は採用されず、修斗インディアナ・ルールという特例ルールの下で実施されていた。

Nakayamaばかりか、この大会では競技運営面を統括していたインターナショナル修斗コミッションとプロモーションのコミュニケーション不足もあり、修斗グローブが現地になく修斗公式戦出場ファイターもハービンガー・グローブを着用していた。

結果、2001年だけで脅威の6勝目をタクミが挙げた✖ヘンリー・マタモロス戦にしても、修斗公式戦か北米ルール下でのMMAマッチか、今や映像を確認しても判別がつかない状況になってしまっている。

Shikoしかも、山下は2回戦契約だったが現地では3回戦と認識されており、2R終了後に混乱が収まらないまま3R開始に応じた山下はカーチス・スタウトに判定負けを喫している(※後日、修斗公式戦的にはノーコンテストとされたが、今も北米の主要サイトでは山下は敗北のままだ)。

このように公式戦を世界に広めようとした修斗と、尊敬心以上にビジネスとして日本のCS TVマネー欲しさで繋がったHnSとの関係は余りにも脆弱で、彼らの関係はその後2年ほどで解消される。イトゥラテはATTとより強力なタッグを組むことになり、HnSはフロリダに進出するとAbsolute FCという別名を用いるようになる。

ほどなく人が良いもののメジャー・プロモーションの経営者の資質に欠けたオズボーンと野心家イトゥラテの蜜月も終焉を迎えたものの、HnSはオズボーンの手で地元エヴァンズビルのハウスショーとして、2017年4月まで活動を続けていた。

CacarecoこのKIGS 2Daysにはイワン・フリーマン&レイ・レミディオスの後の英国UFCファイターズ、既に古豪入りが近かったカーロス・バヘット、2年後のADCC無差別級で2位となるルタリーブリのアレッシャンドリ・カカレコらが出場。

またAMCからアーロン・ライリー、アンソニー・ハムレット、クリス・モンセンを率いていたマット・ヒュームを始め、同じ中西部のエクストリーム・ファイティングのモンテ・コックス代表らがリングサイドに陣取っており、まさに古き良きNHB時代から2005年以降のMMAメインストリーム時代へのクロスロードのようなイベントだった。

Yohei & Matt現ONE副社長となったヒュームは、かつてシアトルで指導した鈴木のセコンドにも就いており、ビクター・エストラードにTKO勝ちした彼とリング上で抱き合って喜びを露にしているシーンもしっかりとDVDには収められている。

そんなHnS KINGのDVDはFightworldというオズボーンの経営するビデオ製作&販売会社から発売されていたが、彼はその映像権をUFC Fight Passに売却。そう……ここに挙げた試合は、なぜかHnS KINGS2というタイトルでファイトパスのライブラリーで視聴できるので、ぜひチェックしてほしい。

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Special The Fight Must Go On ビビアーノ・フェルナンデス ブログ

【The Fight Must Go On】あの時、〇〇が話していたこと─02─2011年6月9日、ビビアーノが話していたこと

Bibiano【写真】今から8年10カ月前のビビアーノ。さすがに若いが、その生い立ちから達観ぶりはずば抜けていた (C) MMAPLANET

国内外のMMA大会の中止及び延期、さらには格闘技ジムの休館など、停滞ムードの真っただ中です。個人的にも大会の延期と中止のニュースばかりを書かざるをえない時期だからこそ、目まぐるしい日々の出来事、情報が氾濫する通常のMMA界では発することができなかったMMAに纏わる色々なコトを発信していければと思います。こんな時だからこそ The Fight Must Go On──第10弾は過去のインタビューで、今も印象に残っている言葉を再収録したい。あの時、〇〇が話していたこと……第2回は2011年6月9日──カナダ・バンクーバー郊外リッチモンドで取材したビビアーノ・ヘルナンデスの言葉を振り返りたい。

2011年、東日本大震災のあった日本ではPRIDE後の格闘技界をDREAMとともに引っ張ってきた戦極が活動停止となり、そのDREAMも縮小化へ。レギュラーといっても過言でなかったビビアーノも来日が半年以上途絶えていたなかで、UFCやBellator移籍もあると見られていた。

そんななかDREAMで戦うことを拘るビビアーノは、当時は余り明らかとされていなかった達観した人生哲学を語り始めた。こんな今だからこそ、あの時のビビアーノの言葉をお届けしたい。


──このような状態になってもビビアーノが、日本で戦い続けるという想いはどこから起こってくるものなのでしょうか。

「今、試合がなければ道場のことを考えている。DREAMとの契約が残っているんだから、UFCで戦いたいとかベラトールで戦ってみたいとか、そういうことは口にしたくないんだ。最初に何かを始めれば、それは最後までやり通さないといけない。DREAMからなかなか試合の機会が与えられなくても契約は彼らとの間にしか存在しないんだ。そういう大前提として存在するものを飛び越えて次の話を進めることは、人間的にも良しとしないんだ。

僕はここにいる。今、君のインタビューを受けている。その時に他のインタビューのことを考えるわけにはいかない」

──なんだか本来は当然のことなのですが、状況が状況ということがあるなかでビビアーノの義理堅さには驚くばかりです。

「だって人は今を生きているんだ。将来のことばかり考えたってね。分かるだろう?」

──自分など将来に不安を感じ、今という現実を軽視してしまいがちなのでビビアーノの言葉が胸に響きます。

「将来のことなんて何も分からないよ。今、その足下を見つめないとね。DREAMから『ビビアーノ、君はもう要らない』と言われれば、他のオプションを考える。だからDREAMがなければ……という過程の話をしてもしょうがない。僕はジャングルで生まれ育った。

僕らは生き残るために生活していて、死というものを身近に受け入れている。だから今、できることをこなし、平穏に生きたいんだ。頭をクリアにして真っすぐ歩いていくことが大切だと思っている。何かに挑戦することを大きく喧伝する連中もいるけど、僕は生きていくこと自体がチャレンジなんだ。

今の生活に不満はない。生き急いでどうなる? 早く死にたいってこと?  意味はないよ。スピードを出し過ぎた車は事故を起こして壊れてしまう。焦る必要はない。時間を掛けて生きるんだ。急いで走ってストレスを感じて、人を信じることができなくなって……一体何を恐れているの?」

──何事も生き急がないと。

「生まれてきた誰もが死ぬんだ。それだけは皆、変わりない。何を生き急ぐ必要がある?」

──マナウスやリオデジャネイロに住んでいた頃と比較して、随分と成熟したと思いませんか。

「そんなことは決してないよ(笑)。生き方は同じだけど、今のように昔は断言できることはなかったね。僕はお金のために戦ったことはない。母が亡くなって家には食べ物もお金も無くなってしまった。ある女性の家の掃除をして生きていくことになった。彼女は『いくら欲しい?』と尋ねてきたけど、『食べ物が欲しい』と答えたんだ。僕はお金を得るために生きてきたんじゃない。生きるために生きてきたんだ」

──本来はバンクーバーでビビアーノの練習などを拝見させてもらって紹介しようということが主題の取材だったのですが、このような会話になるとは思っていなかったです。

「なぜか? 今日、ここにいるからだよ。君がバンクーバーに着いたばかりなのに、僕が住んでいるラングレーにレンタカーをドライブしてくると言うので、そんなことをさせることはできないと思った」

──そのためにわざわざ、私が宿泊しているホテルまで足を運んでくれたのですね。

「自分のことを第一に考えるのなら、家で君の到着を待つだけで良かった。しかし、東京から飛行機の長旅で疲れている友人に、酷い渋滞のなかドライブなんてさせたくなかった。人生は人を思いやり、人から思いやれるもの。自分のことばかり考えて、何かを手にしていくのは実は人を思いやれないことと同じで、何も残らない空っぽな人生になる。

今、日本は大変なことになっている。でも、しっかりと気持ちを落ち着けて、自分以外の人のことを考えていくと、危険は去り、また良い時代がやってくるに違いない。そんな日本でまた戦えることを楽しみにしているよ」

──Fight & Life 2011年10月号(Vol.26)より抜粋──

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Interview Special トム・ヘルピン ブログ 青木真也

【Special】月刊、青木真也のこの一番:3月─その参─コンバット柔術ワールド「足関節が極まらなくなって」

Combat JJ【写真】エディ・ブラボーが主催するコンバット柔術は、突っ込みどころ満載でありながら魅力に満ちている。写真は昨年5月のバンタム級Tのモノ(C)DAVE MANDEL

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ3月の一番、第3弾は8日に開催されたCJJW2020、コンバット柔術ワールド2020を語らおう。


──3月の青木真也が選ぶ、この一番。3試合目はどの試合になるのでしょうか。

「これは試合ではなく、コンバット柔術世界大会全体にしたいと思います」

──おおコンバット柔術ですか。グラウンドで掌底ありのノーポイント&サブオンリー、加えてタイムアップになるとシートベルト・ポジションとスパイダーウェブからのオーバータイム制が用いられるグラップリング大会です。

「技術の流れを語るうえで、今回のコンバット柔術は重要だと思います」

──どういうことでしょうか。

「足関節がやっぱり減ってくるんです」

──最終的に?

「ハイ、最終的には(笑)。僕も岩本(健汰)選手とスパーリングをさせてもらっていて、フィニッシュとしてお互いに減ってくるんです。コンバット柔術にしても、他のグラップリングにしても足関節でフィニッシュは減っていると思います」

──ただ優勝したトム・ヘルピンは初戦、準決勝の今成正和選手との試合、そして決勝と内ヒールで一本勝ちしています。

昨年のADCC66キロ級に出場していたヘルピン。パブロ・モントバーニに0-13で敗れている(C)SATOSHI NARITA

昨年のADCC66キロ級に出場していたヘルピン。パブロ・モントバーニに0-13で敗れている(C)SATOSHI NARITA

「あの選手のことは知らなかったですねぇ、全く。

岩本選手はADCC世界大会に出ていたり、その前の欧州予選で勝っている同階級の選手だからしっていたみたいですけど。

アイルランドですよ。あんな奴、いるんだっ──みたいな。しっかりと柔術が強くて、足関節とバック。柔術がちゃんとできるところが、ヘルピンが足関節で勝てた理由だと思います。足関節とバックという組み合わせが多くなって、そういう強いヤツがいるんだなって」

──まさにヘルピンは2回戦で所英男選手をRNCで破っています。それにしても本家・今成ロールにカウンターのヒールを合わせたのは驚きでした。

「切ってバックにいくのが主流で、彼も出来るはずだけと取りに行った。相当、自信あるんだと思います。多分、今成型の瞬発力的にパンと取るヒールフックは、彼らからすると一昔前の技で怖くないと思います。今成さんも今の足関節を凄く研究してレベルアップしたけど、僕と同じでいつの間にか後追いになっているんです」

──あぁあ……。ノーギに関しては、日本では90年代終盤ADCCがあり、こぞってMMAファイターが出場していました。そこから柔術家の時代になりましたが、日本はグラップリングが一度、途絶えた感があります。対して、米国は今の隆盛を迎える前に15年以上に渡り、ずっとノーギ文化が育まれてきた。

「確かに、そうですね。米国にはヒールフックは普通にある。日本にはグラップリングというジャンルがなくなり、ヒールフックも途絶えた」

──ヒールに関しては、佐藤ルミナ選手がMMAで仕掛けて殴られる。だから、MMAで選手が足関節を使わなくなった。そうすると練習でも試さないという流れではないかと。ルミナ選手が足関節の象徴だったので。もともと競技柔術にはヒールはないですし、ヒールを伝えるのはMMAの人、それが日本だったと。

「あぁ、その発想はチョットなかったです。要は日本でヒールフックが使われなくなったのは、ルミナ✖ハンセン戦からだと。その史観、面白いっ!! それは衝撃的、面白いですよ!! ルミナさんは特異なタイプだから。ルミナさんはMMAを戦っている間、柔術が入らなかったです。引退されて、柔術を取り入れられているようだけど。

今成さんは柔術が入った。僕もセコンドに就いていた時に『引き込んでヒールフックして上を取りましょう』とか作戦としてやっていたんです。ルミナさんも体を捻って逃げる相手の背中に飛び乗るとか、あの運動神経があるとできていたと思います。でも周囲にも柔術の発想がなかったかもしれないですよね。

そして植松さん、今成さん、戸井田さん、ルミナさん以降は足関節は職人の技になりましたね」

──DREAMと戦極で、青木&北岡コンビが現代足関節時代になる前に、一度脚光を浴びさせました。青木選手がエディ・アルバレス、北岡選手が五味選手に勝って。

「でも、僕は足関節のフィニッシュは2試合しかないんです。エディと川尻さんとの試合しか。北岡さんの方が、足関節で勝っている試合は多いです」

──と同時に青木選手が足関節を逃げられて殴られたという記憶はないです。

「僕は怖いから、それだけ使っていないので。上に居続けないといけないという発想に代わりましたからね。足関節は出ちゃった時は仕方ないけど、自分の作戦として採り入れないようにしていました」

──そんななか掌底有りのコンバット柔術における足関節とはどういう位置づけでしょうか。

「う~ん、コンバット柔術はジャンルとしてメインストリームには来ないと思います。アレがUFCみたいになることはほぼない。ルールの穴が多すぎて、メジャーになるには禁止される部分が増えたり、戦いもグラップリングでなく掌底の殴り合いみたいになっていくでしょうし。

でも現時点のコンバット柔術は逆張りする上で面白い。岩本選手とか出れば良いのに……アレはグラップリングなので。日本でもMMAファイターの人材育成ルールとか、逆に柔術家がMMAをやる前に経験しておく要素──そういうルールかと思います」

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PXC Special The Fight Must Go On UFC ブログ レッド・デラクルーズ

【The Fight Must Go On】All Time Monday Ring Girl Top 5→第2位 PXC→UFC Red Dela Cruz嬢

Dela Cruz【写真】PXC時代のデラクルーズ嬢(C) MMAPLANET

国内外のMMA大会の中止及び延期、さらには格闘技ジムの休館など、停滞ムードの真っただ中です。個人的にも大会の延期と中止のニュースばかりを書かざるをえない時期だからこそ、目まぐるしい日々の出来事、情報が氾濫する通常のMMA界では発することができなかったMMAに纏わる色々なコトを発信していければと思います。こんな時だからこそ The Fight Must Go On──第9弾はMMAPLANET All Time Monday Ring Girlトップ5……2位のリングガールを紹介したい。

ごく一部で熱烈なファンが存在するMonday Ring Girlのトップ5を独断と偏見でチョイスしました。


Dela Cruz 02MMAPLANET All Time Monday Ring Girl 第2位はPXCからUFCへとステップアップを果たしたレッド・デラクルーズ嬢だ。グアム&フィリピンを本拠としていたPXCでリングガールを務め、2015年のUFCフィリピン大会のUFCガールに公募で選ばれ──晴れて世界最高峰のリングガールの座を射止めた。今ではアジア太平洋の大会はもちろん、北米の大会にも進出しておりジャン・ウェイリに次ぎUFCで成功したアジア人女性といえる。

にしても、UFCで活躍するようになってからは、ちょっとケバいかなぁというのが実際のところで、PXC時代は田中路教がデレデレになるほど爽やか感がありました。
Dela Cruz 03

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Interview Special ケビン・リー シャーウス・オリヴェイラ ブログ 青木真也

【Special】月刊、青木真也のこの一番:3月─その弐─オリヴェイラ✖リー「ドミネイトの価値を崩す価値観」

Oliveira【写真】削るMMAという軸から外れたフィニッシャーだと青木はシャーウス・オリヴェイラを称した (C) Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2020年3月の一番、第2 弾は14日に開催されたUFN170からシャーウス・オリヴェイラ✖ケビン・リーの一戦を語らおう。


──3月の青木真也が選ぶ、この一番。2試合目は?

「シャーウス・オリヴェイラ✖ケビン・リーです」

──UFC初の無観客大会のメイン、世界的に見てMMAワールド活動休止前最後の1試合となります。

「シャーウス・オリヴェイラは……もう何ですかね……僕、昨日1日中ジョルジュ・サンピエールの試合を視ていたんです」

──おぉっ、1日中GSPを!!

(C)DAVE MANDEL

(C)DAVE MANDEL

「で、やっぱり今見ても凄いんですよ。

テイクダウンして、襷でなく基本ボディロックでバックを取って、レスリングが上手で。凄く洗練されていて色褪せない。ハーフでワキ差しパスが綺麗で」

──枕でプレッシャーをかける印象が凄く残っています。

「ハイ、ハーフで僕なんかは腰を畳むんですが、GSPは畳まずグイグイ押してクラシックなパスガードをしています。GSPが2010年ぐらいにMMAに削るという概念を持ち込んだと思います」

──青木選手はそう見ますか。グラインダーはジョン・フィッチだと思っていました。

「あぁ、フィッチもそうですね。フィッチとかGSPを見て、日本人選手も戦略的に削るという戦いを取り入れるようになりました。そのグライディングやドミネイトするという価値観がUFCの戦い方だったと思うんです。僕もその価値観は今も好きですけど、そこを覆す価値観をオリヴェイラは持っています。綺麗な打撃と下からのサブミッションという。

(C)Zuffa/UFC

(C)Zuffa/UFC

彼自身、ドミネイトするスタイルに苦戦して勝ちが続かない時期があったんですけど、打撃の成長があって綺麗なストライキング&サブミッションというスタイルが確立してきたと思います」

──もともと極め力は非常に強かったです。そこで打撃の精度や威力が上がり、極めという部分がさらに際立つようになったかと。

「めっちゃ凄いと思います。UFCで7試合連続フィニッシュって、本当に凄いです。どれだけのフィニッシャーなんだって(笑)」

──ダメージを与えてから、極めるというファイトになってからそこが際立っていますね。

「以前はヒールとか、三角とか瞬間、瞬間で極める感じでしたよね。それだと防がれて殴られていた。しかも、取り合いでジム・ミラーにヒザ十字とか極めらたり。

Oliveira guillotineでも、今はダメージを与えてフィニッシュに誘い込んでいる。この試合でケビン・リーに極めたギロチンもそうですし、2015年にニック・レンツに勝った時からそういう兆しもあったんですけど、最近は際立っていますね。

ブライアン・オルテガもそういうタイプです。打撃で削って、嫌がって組ませたところでギロチンとか三角で仕留める。オルテガもオリヴェイラもギロチンを途中で、作り直すんですよね。一旦、抱えておいてから組み直す」

──確かにアジャストして、極めています。

「アレは器量が相当ある証拠です。無理から絞めても凌がれるなと思ったら、作り直すことができる。アレは相当です。実は僕、試合ではギロチンで勝ったことないんです」

──青木選手はそれこそ凌がれると、下になる仕掛けは試合でないですね。組み伏せてのフィニッシュが特に最近は多いです。

「そうですね、バックチョークとか肩固め。昔はやっていたから腕十字、三角、足関節はあるんです。でもギロチンはない。練習では作って極めなおすことはできるけど、試合でそれができるかといえば、自分に疑問を持っています。

打撃でいえば仕留めに掛っている時でも、相手の動きを見て完全に外して殴ることができる。そういう極めをオリヴェイラは持っているんです。それぐらい綺麗な技量があって、抜け出ていますね。

それでいて足関節もするんですよね。アウトサイドのヒールを取って。カーフスライサーみたいなのも仕掛けるし。サブミッションはほぼ網羅している」

──ライト級王座を考えると、王者カビブ・ヌルマゴドフの対戦相手として、UFCのビッグファイト路線にオリヴェイラが介入することができるのか。

「グッドファイターで僕は大好きだけど、UFCは組まないような気がしますね。でもUFCのブラジル大会ってMMAが好きな人には面白い大会になっていましたよね」

──TUF BRの頃は北米MMAにかなり近づいていたのが、また柔術を見直した原点回帰的な部分も見られて、個性的な選手が増えてきました。

「そうですね、アルドとかはブラジルっぽくなかったですしね。ブラジル大会はUFCクオリティで、片方の選手は全てブラジルで固めることができる。その層の厚さ、アジアでは韓国と中国はやりかけているけど、ブラジルほどではないですからね。ヤヒーラ、デミアン・マイア、そしてオリヴェイラとか、ブラジル大会──好きですね」

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Interview Special アルマン・オスパノフ ブログ ラスル・ミルザエフ 青木真也

【Special】月刊、青木真也のこの一番:3月─その壱─オスパノフ✖ミルザエフ「画一化されていないMMA」

Ospanov【写真】オスパノフの公開練習には多くの報道陣やファンが集まっていた (C) ACA

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

Ospanov vs Mirzaev背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。

そんな青木が選んだ2020年3月の一番、第一弾は6日に行われたACA105からアルマン・オスパノフ✖ラスル・ミルザエフの一戦を語らおう。


──2020年3月度、選択肢がほぼ2つの週末に限られてきてしまうMMA界となってしまいましたが、青木真也が選ぶ、この一番。最初の試合は?

「オスパノフとミルザエフです」

──ACAで行われたカザフスタン✖ロシアの一戦ですか!!

「しかもカザフスタン大会なんですよね。地元のALASH PRIDEが興行を買ったというか、共同開催で。その事実がまた凄いです」

今大会にはキルギスからカナット・ケルディベコフが出場も、ブラジルのヴァウテウ・ペヘイラJrに敗れる

今大会にはキルギスからカナット・ケルディベコフが出場も、ブラジルのヴァウテウ・ペヘイラJrに敗れる

──中央アジアはやはり旧ソ連圏。今回やACA102もカザフ大会としてACAとALASH PRIDEが協力し、そこキルギスのWEFからチャンピオンクラスが派遣されている。そういう一つのMMA圏が成立されていますよね。

「でも、そもそもALASH PRIDEって何なんですかね。僕、把握できていないんですけど」

──私も確かなことは分かりませんが、ジム、マネージメント、そして大会と一手にカザフスタンのMMAを牛耳っているイメージはあります。

「ONEでもカイラット・アクメトフがALASH PRIDEの所属ですよね?」

──ハイ。今日、青木選手が取り上げたオスパノフは英語が話せるので、以前にONEの前にアクメトフをインタビューした時に通訳を手伝ってくれたことがありました(笑)。

「そうなんですか(笑)」

パンチ、蹴り、投げ、決勝で極めた後ろ三角などコンバットサンボ時代から、全局面に優れていたオスパノフ

パンチ、蹴り、投げ、決勝で極めた後ろ三角などコンバットサンボ時代から、全局面に優れていたオスパノフ

──その時に『俺、日本人と戦っているんだ』と言ってきて気付いた次第です。

「ああ、中島太一とやって。そうやって色々とやっている選手がちゃんといるから、今大会はカザフスタンの選手がたくさん出ていた。そこも興味深かったですよね。

オスパノフが中島太一を倒した時も、今の他のカザフスタンの選手と同じで別に頭になかったじゃないですか?」

──自分はオスパノフ自身は、2014年に成田で行われたサンボ世界選手権のコンバットサンボ68キロ級で優勝した時に『こんな選手がいて、アマでパウンド有りとかやっているとどんどん強くなるな』という印象を持ったことがあったのですが、その選手と中島選手がACAで戦うカザフスタン人が一致していなかったです。

「僕は中島太一の試合で知ったんですけど、地が強いですよね。今回の対戦相手のミルザエフも戦極のあとにロシアで戦った金ちゃん(金原正徳)をKOしたヤツですよ。まだ5戦目とかで」

──あぁ、あの選手だったのですか。いやぁ、青木選手に言われるまで気付いていなかったです。

「バーかなんかで人を殴って、入っていたんですよ──確か。で、戻ってきてファイトナイトとかACBに出るようになって、ここで負けているんですよね(※キャリア17連勝後、FNGでジョージアのレヴァン・マカシュビリ、ACAではシャミル・シャブラトフに敗北。18勝2敗で、今回のオスパノフ戦を迎えていた)。

パーフェクトレコードが崩れていたミルザエフですが、この試合は彼が勝つと思っていたんです。そこをオスパノフがパウンドでもっていって。オスパノフは体の強さあって、バックスピンキックを入れたりするのが、独特ですよね。底力がある。そういう国の人間が、ACAと結びつくことでもっと強くなってくるなと正直思いましたね」

──画一的でないのがロシア的ですね。

「ハイ、これまでにない発想があります。う~ん、僕らみたいなある程度見ている人になると、あんな風でないと興奮できないのかと思います。今のUFCは画一化、均一化されつつあるので、そうでない格闘技をMMAで楽しみたいと思うとロシアや中央アジアになっていくのかと」

──グローブ持参で試合に出てしまう様な(笑)。

「それを今の時代にやっているという……。競技や大会としては追いついていないけど、戦っている連中は強い。でも、2005年とかの修斗も僕はメインとかで出ると、誰かがその大会で使ったグローブが回ってくるのを待たないといけないような感じでした。それだけMMAグローブの数も確保できていなかった」

──あぁ、そうでしたか。外国人選手が使用グローブを持って帰らないかと北森さんが目を見張らせていたのは覚えています(笑)。

「今の話を聞いて日本も15年前は一つの大会で使いまわしていたなって思い出しました。だから、ロシアや中央アジアだとグローブ持参もあるんだろうなって(笑)。あの頃の僕は誰かが使う前のグローブで試合がしたいって思っていましたよ。それに今も日本の大会だと、RIZIN以外は基本は団体がグローブを回収して、使いまわしであることは変わらないですよね」

──そう考えると、毎大会のように使用グローブをそのまま選手に譲るというのは、それなりの規模でないとありえないということですね。

「1セットが1万円少しして、10試合とか15試合あると少なくない額が掛かってしまいますからね。それは理解しています」

──そんななかACAもイベントの延期や中止を発表していますが、青木選手はUFC的でないMMAを楽しむならACAだと。

「そうですね。KSWもそうだし、ACAはアリ・バゴフがウェルター級で戦ったり、65キロが回ってきていたので、ちょっと残念ですね。バンタム級でも同じ大会でダニエル・オリヴェイラがシャミル・シャフプラトフに勝って新チャンピオンになりましたよね。2人ともレコード的には凄く綺麗なわけでない(※オリヴェイラが28勝7敗、シャフプラトフが11勝4敗)けど、強い。

韓国人選手のレコードが汚いのと同じです。7勝5敗でも強いのと一緒だと思います」

──オスパノフは10勝3敗ですが、その実力のほどは。

「強いは強いです。ただし、主戦場がACAだからチャンピオンシップとかはまだ見えてこないんじゃないでしょうか。それによりもカザフスタンにはオスパノフのような選手がたくさんいるだろうっていうことが怖いです。

カザフスタン、キルギスのような中央アジア、あとはウクライナ、モルドバ、ルーマニア、ジョージア、黒海沿岸の東欧やユーロロシアの貧しい国はどうなるのか。レベルがドンと上がると思います」