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【Special】『MMAで世界を目指す』第7回:鈴木陽一ALIVE代表「体組成とMMAのスポーツ化」─02─

【写真】取材当日は選手がインボディでの測定後、理学療法士の所澄人トレーナーから指導を受けた(C)SHOJIRO KAMEIKE

世界的なスポーツとなったMMAで勝つために、フィジカル強化は不可欠となった。この連載では「MMAに必要なフィジカルとは?」というテーマについて、総合格闘技道場ALIVEを運営する鈴木社長=鈴木陽一代表が各ジャンルの専門家とともに、MMAとフィジカルについて考えていく。
Text by Shojiro Kameike

連載第7回目の後編は、体づくりとMMAのスポーツ化について語り合う。現在、日本でMMA関連スポーツは日本スポーツ協会(旧称=日本体育協会)に加盟していない。それは「スポーツ認定を受けていない」と言い換えることもできる。MMAの普及、競技人口の増加——MMAの未来を考えるうえでも、特に中高生のフィジカルについても考えていきたい。

<連載第7回Part.01はコチラから>


――MMAのスポーツ化、ですか。

鈴木 僕の基本的な考えは「MMAをスポーツとして認定してほしい」というものです。そのためには成長期の中高生に、保護者が納得して習わせることができるスポーツにならないといけない。

インボディ測定&シートに記入された内容をもとに、所トレーナーが体づくりの重要性を説明する(C)SHOJIRO KAMEIKE

だから選手だけでなく、ジムや指導者側もアスリートのための勉強をしてほしいと思っています。一番の希望は栄養士や理学療法士など、ちゃんと勉強して国家資格を取得した人に、MMAに関わってほしい。ちゃんと国が定める基準で見てほしい。ベテランのファイターやトレーナーが「自分の経験則で……」と指導するのは違う話なんです。

――なるほど。その点がMMAのスポーツ化と、どのように繋がってくるのでしょうか。

鈴木 正確に言えば「国にMMAをスポーツとして認定してほしい」ということです。世界各国のスポーツ関連の省庁でスポーツ認定されるためには、様々な条件があります。プロよりもアマチュアのほうが競技人口は多い、子供の競技人口が多い、世界標準のルールがある――など。日本のMMAは、おそらくアマチュアよりプロ選手のほうが多いですよね。

――「世界標準のルール」というのも難しいです。プロモーションによって大きくルールや採点基準が異なりますし。

鈴木 各団体が「ウチ独自のルールでやる」と言った時点で、それはスポーツではなくイベント……娯楽として認定されるんです。

 たとえば何かしら事業を始める場合、国が定める業種に分けられるんです。格闘技ジムは「娯楽」に分けられますね。娯楽業というと、パチンコなど娯楽産業と同じで。他のスポーツは「教育」といった業種になるのですが……。

――同じ格闘技でも柔道やレスリング、空手の道場は「娯楽」ではないわけですね。

 ジムや道場でいえば、その形態にもよると思いますが、スポーツ関連の業種に分けられると思います(※注)

注)国の定める「日本標準産業分類」では、大分類:教育,学習支援業 > 中分類:その他の教育,学習支援業 >分類コード:スポーツ・健康教授業 がある。その内容は「スポーツ技能、健康、美容などの増進のため、指導者が柔道、水泳、ヨガ、体操などを教授することを主たる目的とする事業所」。一方、「スポーツを行うための施設を提供する事業」、たとえばフィットネスクラブは「スポーツ・健康教授業」に分類されない。
【参考】総務省「大分類O—教育,学習支援業 総説」

鈴木 五輪競技である、つまり日本のスポーツ庁がスポーツとして認定しているということですよね。分かりやすい例としては。ただ、先ほど言ったようにルールの面は難しいです。僕たちのようなイチ道場主だけの意見では、どうにもならない。まず現場となるMMA道場としては、競技的な体組成や栄養を理解するところから始まると思っています。

――まだ身体が成長過程にある中高生も、安心して道場に通ってもらえるように。

鈴木 はい。たとえば17歳や18歳の選手がパンチを食らってダウンした時に脳のMRIを撮って、続けて大丈夫かどうか確認する。それと同じように、捻挫しやすい子の体組成を調べて「思ったより筋肉量が少ない」と分かれば、その点を改善していく。アスリートとしての身体的な評価を、具体的な数字で出してあげることが必要です。他競技のトップアスリートは、もっともっと細かい状態を調べてアプローチしていますよね。

――所さんは他のスポーツ選手を指導しているなか、MMA界の状況を見た時に驚きませんでしたか。

 いや、う~ん……やっていると思っていました(苦笑)。

鈴木 アハハハ、そうだよね。

 もちろん体組成からアプローチしている選手や指導者もいるでしょう。でも、やっていない人が多いのであれば凄くもったいないですよね。たとえば大リーグ、野球選手って50年前の日本人と今の日本人では平均で身長が10センチは伸びており、体重は10キロ増えています。対して米国人は昔から身長も体重も、大きくは変わっていない。それは食事の欧米化が進み、体が大きくなっているということなんですよ。

――大谷翔平選手は、まさにその象徴ですよね。体格的に米国のメジャーリーガーに負けていない。

体の構造をもとに、ストレッチポールを利用した調整法を指導。フィジカルは科学だ(C)SHOJIRO KAMEIKE

 そうなんです。食事の欧米化は、スポーツの観点で見れば必ずしも悪いわけではありません。ただ、MMAは階級制で体重調整がありますからね。体が大きくなっていくなかで、どう食事と向き合っていくのか。他のスポーツよりシビアにならないといけない。食事に関してはセオリーもあるなかで、どのタイミングで何を摂取すれば良いのか。それも階級によって変わってくると思います。他のスポーツよりも複雑なので、より勉強してほしいです。

鈴木 前にもお話しましたが、加藤久輝は元ハンドボールの日本代表です。彼がハンドボールの現役だった十数年前から遺伝子検査、腸内環境検査、体組成検査はやっていたそうで。それが民間に降りてきて、民間の実業団やプロの選手も使い始めました。

これがアマチュアの中高生にとっても普通になれば――すでに甲子園レベルの野球部や、インターハイクラスのバスケットボール部やサッカー部も取り入れています。インピーダンス法で測り、体組成や腸内フローラ、遺伝子を調べることがスタンダードになってきている。僕が言っているのは、何も特別なことをやりたいわけではなく、国がスポーツ認定している競技と同じものを普及させていきたいんですよ。

 僕はフィジカルトレーニングについては、「自分のキャパシティを増やすこと」だと説明しています。現在の100パーセントのキャパシティで同じ動きを続けていても、それは100パーセントにしかならない。でも――筋力やフィジカルを底上げし、キャパシティを110パーセントに増やすと、同じ動きでもパフォーマンスが10パーセント上がります。

こういう話って、一般の方のほうが理解しやすいんです。自分のキャパシティを増やすと、動きが変わって日常生活が楽になる。それを体感しやすいから、トレーニングの意味を納得しやすい。だけどスポーツも同じです。スポーツはスキルあってのものですが、そのスキルを向上させるためにトレーニングでキャパシティを上げてほしい、と思います。

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【Special】『MMAで世界を目指す』第7回:鈴木陽一ALIVE代表「体組成とMMAのスポーツ化」─01─

【写真】ALIVEクラス終了後ーー遂に体組成計がそのベールを脱ぐ!(C)SHOJIRO KAMEIKE

世界的なスポーツとなったMMAで勝つために、フィジカル強化は不可欠となった。この連載では「MMAに必要なフィジカルとは?」というテーマについて、総合格闘技道場ALIVEを運営する鈴木社長=鈴木陽一代表が各ジャンルの専門家とともに、MMAとフィジカルについて考えていく。
Text by Shojiro Kameike

5カ月の休養期間を経ての連載第7回目は、これまで何度も取り上げてきた「体組成」の測定について紹介したい。今回は理学療法士の所澄人氏が体成分分析装置『InBody(インボディ)』でALIVE所属選手の体組成を測定し、体づくりについて指導する現場に伺った。ここではALIVE鈴木社長と所氏に、体組成を測定する意義について訊いた。


鈴木 今回は『インボディ』という機器で、成長期にある選手の体組成を測ります。インボディというのは簡単に言うと業務用の体組成計で、体組成を測ることで選手にとって適正な階級を調べるために行います。そのために今回は、2度目の登場となる理学療法士の所澄人君に来てもらいました。

 よろしくお願いします。

――よろしくお願いします。この連載では以前から体組成について説明してきましたが、今回は実際の測定風景をご紹介することとなりました。

鈴木 インボディでは、左右の手足の筋肉量の差を測ることができます。その結果から、体の問題の原因を考えることができる。所君には選手の動きも見てもらい、理学療法士の視点から「こういった怪我をする可能性がある」とチェックしてもらうんです。

株式会社インボディ・ジャパンの体成分分析装置『インボディ』。医療用、専門家用、家庭用など様々なタイプがあり、多くのトレーニング施設で導入されている(C)SHOJIRO KAMEIKE

――左右の筋肉量に差があった場合、問題となるのは差の大小なのでしょうか。あるいは、そもそも差があってはいけないのか。

 大事なのは「差があることを理解しておく」ということですね。どのスポーツでも競技特性から必ず左右の筋肉量に差が出てきます。当然、使っている筋肉のほうが肥大しますし、必ず右利きと左利きでも差は出ますから。筋肉量に差がある箇所に怪我の既往歴があるなら、怪我しないように強化していく必要がある。インボディで、怪我対策のための一つのデータを得ることができます。

普段から何となく、ただ練習メニューをこなすだけでなく、より強化すべき箇所にフォーカスすることで怪我予防に繋がります。それが結果的に選手寿命を長くして、パフォーマンスを上げることにも繋がってきますよね。

――なるほど。筋肉量の左右差には、ある程度のパターンがあるのか。それとも個々で全くことなるのでしょうか。

 競技によってパターンがあり、その中にも個性が出てきます。筋肉量に差が出てくるのは、動きに依るところが大きいわけですね。当然のことながら、ずっと同じ動きをしていたら筋肉が肥大する箇所も同じです。その部分で、競技特性によるところは大きいです。

――競技特性と、ファイトスタイルも。

所 MMAの競技特性を考えると、ファイトスタイルの違いも大きいですね。

鈴木 ストライカーかグラップラーか、というだけでも変わってくるからね。

 その選手に、どういう持ち味があるのか。僕たちは一つの動きを要素分解していくんです。たとえば右のパンチ一つに対してリーチ。上半身のスピード、下半身の強さ、柔軟性とか。そのなかからウィークポイントを探し、穴を埋めていく。それがフィジカルというものであり、フィジカルを強化していくためには体組成を把握しておくことは重要です。

――なるほど。インボディのような体組成計でないと、それだけパフォーマンスを強化するだけの参考データを取得することはできないのでしょうか。

 そうですね。右腕、左腕、右足、左足で何キロの差があるというところまで出るので。

鈴木 以前にも紹介した「インピーダンス法」ですね。両手両足の四方向から電気を通して測ります。一般的に見られる――足からだけ測る体組成計だと、両手や上半身については正確な数値が出ませんから。

――その数値を測ることができる機器だけに、価格も高いかと思います。他のスポーツやジムなどには、どれだけ普及しているのでしょうか。

両手両足の4点から電流を流した際に発生する「インピーダンス」から、人体を構成する成分を測定する(C)SHOJIRO KAMEIKE

鈴木 今はスポーツクラブやパーソナルトレーニングジム、なかには整骨院で導入している場合もありますね。オリンピックスポーツと提携している整骨院もありますから。

 一般企業さんでも普及していますね。測ってみると面白いといいますか(笑)。インボディでは体脂肪率ではなく、脂肪の量が表示されるんですよ。たとえば60キロの体重に対して、一般的な体脂肪計では「33パーセント」と出る。しかしインボディでは「20キロ」と出る。そのリアルな数字を見ると結構ショッキングですし、「このままではヤバイ」と考えますよね。一般の方にはリアルな数字を見せて衝撃を与えるという有効活用ができます。

アスリートの場合は、また違います。筋肉量が思ったよりも少なく、意外と体脂肪が多いとか。逆に筋肉量が突き抜けていて、体脂肪が低すぎるとか。そういった個々に特性があるので、体組成と比較しながら課題を見つけていきます。

スタミナがない場合は、体組成としては下半身の筋肉が弱かったりします。であれば、その部分を強化したほうが良い。こうして体組成を調べた結果をトレーニングメニューに組み込むことができるので、練習プログラムの改善のためにも重要になりますね。

――ALIVEでは、この体組成計を使い続けているのですか。

現在の体調や測定結果などシートに記入し、鈴木社長と所氏でチェック。選手の指導に生かす(C)SHOJIRO KAMEIKE

鈴木 今回は取材のために、ジムに持ってきてもらいました。いつもは選手一人ひとりを所君のジムに連れていき、インボディで測定してもらっています。ウチでもしっかりと体組成を測り始めたのは、ジムに高校生の選手が増えたからなんですよ。

これは脳のダメージにも関わる問題であって。仕事柄、産業医さんや栄養士さん、理学療法士さんたちと関わることは多いじゃないですか。そのなかで聞くのは――脳や頭蓋骨って、22歳までは柔らかいままで。形成されるまでに思ったより時間が掛かるということなんです。だから中高生が頭にダメージを受けると、後々に影響が出てきてしまう。

 うん、そうですよね。

鈴木 以前、ウチのジムにもいたんです。小さい頃にハイキックで失神した経験のある子は、大人になっても失神しやすかったり、倒れやすくなる。脳が形成される過程で、ハイキックを受けた時に出来る傷が残っているので。あとは一つのスポーツを長く続けていると、いわゆる「野球肘」や「テニス肘」のように組成や骨の形状が変わってきます。そういったことがあるから高校生の選手のために、しっかりと体組成を測るようになりました。

――その効果は……。

鈴木 効果が有る無いの前に、まずは本人が自分の状態を知ることなんですよ。怪我の予防だから。効果という部分で言えば、一番は本人と親が納得してMMAを続けてくれます。それが一番大事なことだと思いますね。MMAをスポーツ化していくためには。

<この項、続く>

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45 MMA MMAPLANET o Special UFC   ショーン・オマリー ジョゼ・アルド ボクシング マラブ・デヴァリシビリ ライカ 大沢ケンジ 柏木信吾 水垣偉弥 良太郎

【Special】月刊、良太郎のこの一番:9月 マラブ×オマリー「二歩下がって一歩出る、マラブの制空権」

【写真】9月の一番は水垣・良太郎両氏ともにマラブ×オマリーをチョイス。ぜひ両者の言葉を読んだうえで、この一戦を再考していただきたい(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は良太郎氏が選んだ2024年9月の一番──9月14日に行われたNOCHE UFC 306のマラブ・デヴァリシビリ×ショーン・オマリー、水垣氏も選んだこの一戦を、水垣氏とは異なる目線で語ろう。

【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:9月
マラブ×オマリー「マラブは変な人? だからあれをやりきれる」

――9月の一番、良太郎選手にもマラブ・デヴァリシビリ×ショーン・オマリーの一戦を選んでいただきました。

「打撃という部分にフォーカスして、この企画をやらせてもらっていて、この試合はストライカーVSストライカーではないんですけど、僕は指導する立場でもあるので、ストライカーにとっては嫌な展開を作られた試合でした。しかもこの試合はUFCが誇る超スター選手のオマリーvsオマリーのような華がはないけど実力があるマラブという図式もあり、試合前のトラッシュトークも含めて、こういう試合展開になることは予想していた人も多かったと思うんですね。純粋な打撃だけのスキルとは違う部分で、打撃にフォーカスする試合としてセレクトさせていただきました」

――オマリーのようなストライカーからすると、テイクダウンを狙ってくる相手に対して、どう打撃を当てるか。これはMMAにおける永遠のテーマだと思います。

「多くの人がマラブが無限のスタミナでひたすらテイクダウンを狙って削る、もしくはカウンターパンチャーのオマリーが打撃を入れる、そういう試合をイメージしていたと思います。そこでいうと僕はスタンドの距離=制空権が鍵を握っていると思いました。

 オマリーはロングレンジを活かした打撃を当てたくて、5Rに三日月蹴りを効かせた場面もありましたが、あの時点でオマリー自身がスタミナ切れしていて追い足がなかったですよね。ああやって三日月蹴りで削って、そこから打撃で仕留める展開に持ち込みたかったと思うのですが、その三日月蹴りを当てたのが最終ラウンドで、試合の残り時間とお互いのスタミナを考えたら、あそこから仕留めないといけないオマリーよりも、最悪くっついて逃げ切ればいいマラブだったら、マラブの方が有利でしたよね。

 1Rはお互いスタミナもある状況ですが、マラブが上下のフェイントで揺さぶりをかけて組みついてテイクダウンを仕掛けて。あれを凌ぐ攻防のなかでオマリーはかなりスタミナをロスしたと思います。オマリーはカウンターパンチャーなので、あそこでロングレングのパンチを射抜いたり、カウンターのヒザ蹴りだったりを当てられればよかったのですが、それが出来なかったですよね」

――なぜオマリーはそれが出来なかったのでしょうか。

「これは対戦した選手にしか分からないと思うのですが、おそらくマラブはスタンドの距離が独特なんですよ。オマリーもVSストライカーだったら、スイッチを使って体の軸を色々と使い分けながらパンチを打ち抜くので打撃のゾーンが広くて、距離が独特なんですね。ただこれがVSマラブになると、マラブは打撃が当たらない距離でステップしていて、そこからダッシュ力を活かして入ってくる。相手からするとマラブはかなり遠い位置に感じると思います。

 それが特に分かりやすかったのが4Rにマラブがテイクダウンを奪った場面で、1~3Rまでの動きを見ていてもそうなのですが、オマリーが一歩前に出ると、マラブは二歩下がるんです。そしてすぐに一歩前に出る。そうするとオマリーが一歩下がったとしても、そこはマラブにとってはテリトリー内なんです。4Rにオマリーがフェイントをかけて前に詰めようとしたところで、マラブにジャブから綺麗にタックルに入られてテイクダウンされたのは、その距離のトラップに引っかかったからですね」

――あのテイクダウンはメラブの距離とステップに要因があった、と。

「スイッチする選手はステップせずに歩きながら前に出られる分、どうしても距離設定が緩くなる場面があるんですね。今回はそこにマラブが打撃ではなくカウンターのタックルを合わせたという形ですね。しかも今回は5Rマッチでお互いスタミナを消耗していて、特にオマリーは後半のラウンドになると下半身からの連動で強い攻撃を出せない・追い足がない状態に追い込まれていました。

 3Rあたりはオマリーも距離を探れているのかなと思ったのですが、いかんせんマラブがさっきのステップインでオマリーの体力とやることを削っていたので、オマリーとしてはマラブの泥沼にハマっていった感じですよね。どこまでマラブが意識していたか分かりませんが、2Rにオマリーにキスして余裕をアピールして挑発したじゃないですか。ああいう心理戦の駆け引きもあったと思います」

――スイッチヒッターに対して打撃ではなく、タックルのカウンターを合わせたということですか。

「そうですね。オマリーがスイッチして一歩前に出て、マラブが一歩下がるだけだったら、オマリーがプレッシャーをかけられるんですけど、二歩下がるとプレッシャーがかからないんですよね。しかもそこからすぐマラブがステップインしてきて、距離を取ろうと思った時には、マラブにタックルに入られる距離になっているという。

 もしオマリーが1Rから組まれる覚悟でローで足を潰すとか、ヒザのフェイントを入れるとか、そういう選択をしていたら展開は変わっていたかもしれないです。オマリーもどうしても自分のパンチに自信があるから、制空権を支配したいという気持ちがあったと思うんですよね。それが今回に関してはマラブに遠い距離に居座られて、あのダッシュ力で距離を詰められる=制空権を支配できないという時間が長かったように思います」

――オマリーにとっては自分のやりたい攻防に持ち込めなかったわけですね。

「オマリーからすると相当やりづらかっただろうし、試合をしながらイライラしていたと思います。最後は体力的にいけなかったのもあるし、どうしても1Rから4Rまでの攻防で、打撃が当たらなかったら組まれる→トップキープされて時間を使われる→判定になったら負けるということも頭に刷り込まれていたと思います」

――またマラブはテイクダウン以外でかなり細かいパンチのフェイントを入れたり、目線を散らしたり、体を上下させたり、常に動き続けていますよね。あれは打撃の観点から見ていかがですか。

「あれはうざったいですね。フェイントには動くフェイントと動かないフェイントがありますが、マラブは典型的な動くフェイントで、常に上下に体を動かして、基本的にテイクダウンにつなげる打撃なんだけど、必ず当たる打撃も混ぜてくる。それでいて遠い距離にいるなと思ったら、ものすごいダッシュ力で組んできて、試合後半になっても疲れることなく、それを延々と繰り返してくるわけだから…ストライカーからしたらたちが悪いですよ(苦笑)」

――あのファイトスタイルだけだったら対応できるかもしれませんが、あれを5R続けられるスタミナがあることが厄介ですよね。

「はい。もしかしたらオマリー陣営は、さすがに後半は動きが落ちるだろうから、そこで勝負しようとしていたところもあったのかなと思うんです。競技は違いますけど、ボクシングの井上拓真×堤聖也みたいに、みんなさすがに堤選手は後半ペースが落ちると思っていたら、結局最後まで落ちなかったじゃないですか。ああなると対戦相手からすると手遅れなんですよ。しかもオマリーのようなカウンターパンチャーは、玉砕覚悟で前に出て打撃を当てるのが決して得意ではないので、後半のラウンドで一気に逆転という形にはならなかったですよね」

――ちなみにもし良太郎選手の選手あマラブと戦うことになったら、どういう作戦を立てますか。

「僕だったら…1Rはイーブンに動かせますね。結局マラブのリズムに合わせちゃうからやられるわけで、だったらこっちもあえて乗っかる。マラブと同じことをやるわけじゃなく、こっちはこっちで色んな打撃のフェイんをかけて動く。もちろんスタミナはロスしますけど、その方がマラブもマラブでやりにくいと思うんです。オマリーはどちらかと言うとフワフワ~と動いてドン!と当てるタイプですが、逆に最初からパンチとかヒザ蹴りをどんどん見せていった方がよかったかもしれないです。これもすべてたらればの話ではあるんですけどね」

――最近のMMAは判定で打撃・ダメージが重視されやすくなっていますが、UFCのチャンピオンの顔ぶれを見ると組み技系の選手も多いですよね。

「やっぱり時代は回るんですよ。そういうなかでイリア・トプリアのような選手がチャンピオンになるところが面白いですよね。ただUFCのトップレベルの技術を10段階で評価したら、すべての技術が7~8はあると思うんですよ。そのうえで10ある技術で勝負しているというか。トプリアやジョゼ・アルドのような純ストライカーに見える選手でも、元は柔術黒帯だったりするわけじゃないですか。

 きっとそれは練習環境が以前よりも整備されていて、自分にあったスキルを学べるコーチや指導者がいるから、ベースにある格闘技を活かしながらMMAファイターとして完成度を上げられるからだと思うんですよね。そういう部分でもUFCの試合を見ていくのは興味深いですし、これだけレベルが上がったもの同士が戦うのに『嘘だろ?』『こんなのある?』みたいなフィニッシュも起こるわけだから、純粋にUFCは見ていて面白いですよ」

――今回もたっぷり語っていただき、ありがとうございます!

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【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:9月 マラブ×オマリー「マラブは変な人。だからあれをやりきれる」

【写真】ファイトスタイルそのものは疲れるスタイル。それを5Rやりきってしまうのがマラブの強さだ(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は水垣偉弥氏が選んだ2024年8月の一番──9月14日に行われたNOCHE UFC 306のマラブ・デヴァリシビリ×ショーン・オマリーについて語ろう。


――9月の一番はマラブ・デヴァリシビリ×ショーン・オマリーの一戦を選んでいただきました。この試合はマラブの強さが目立った試合だったと思います。

「色々と僕の中でも見どころがあった試合で、マラブのようなタックルマシーンに対して、オマリーのようなストライカーがどう戦うのか。そこは自分自身の現役時代からの永遠のテーマでもあり、この試合でもそこを主に見たい、もっと言うならオマリーがどういう戦い方をするのかを見たかったんですね。結果的にはオマリーがストライカー病というか、マラブのタックルを警戒して手が出ないという、よくあるパターンにハマっちゃったなっていう感じでしたね。と同時に、このテーマはまだまだ続くなと思ったのが正直な感想です」

――試合全体を通して見ると、1Rに2回組まれてテイクダウンを許してしまったことが、2R以降の試合展開に影響を与えたと思います。

「ずばりそれだと思いますね。1Rが始まってテイクダウンされるまでのオマリーは、割と前蹴りだったり攻撃が出ていたんですよね。逆にマラブはいつもよりちょっとな控えめで、タックルに行きにくそうに見えました。でもそこで1回マラブがテイクダウンを取ったことで、徐々にオマリーの手が出なくなってきて。オマリーからすると打撃を出すとマラブに触れる、警戒して打撃を出せないというパターンにハマっていった印象です」

――仮に組まれたとしてもマラブのクリンチをはがしたり、完全には寝かされない状況を作っていれば違ったと思うのですが、しっかり組まれてしまった印象があります。

「そうなんですよね。結構ちゃんと組まれてしまって、その後のラウンドもすぐに立ち上がることができない展開になってましたよね。それだけ1Rにテイクダウンされた時に、もうテイクダウンされたくないなというのがオマリーの中で出てきちゃったんだと思います。マラブは割とテイクダウンしても相手を立たせるタイプなんですけど、オマリーは一度組まれて尻餅をつかされると、そのまま動きが止まったり、下になる展開が長かったように見えました」

――もちろんオマリーもレスリング・組み技への対応はできる選手だと思いますが、マラブのような超トップ選手との対戦は少なかったと思います。

「まさにそれもあって、正直過去の対戦相手を見ると、あまりマラブのようなタイプとはやってないんですよね。アルジャメイン・ステーリングとやった試合が初めてレスリングが強力な相手とやった試合だと思うんですけど、アルジャメイン戦も2R開始直後にパコーン!と一発で倒しちゃったので、レスリングや組みの技術をちゃんと見ることが出来ないままだったんですよね。そういう部分で、マラブとやってどうなのかなと思っていたのですが、 やや安易にグラウンドで下になったり、ガードポジションを取ったりしていて。オマリーはグラウンドで下からガンガン戦えるタイプでもないと思うのですが、そこで立ちに行く感じでもなかったので、組まれる・テイクダウンされるとキツいというのが見えちゃいましたよね」

――どうしてもマラブクラスのレスリング力がある選手と対戦すると、その部分で差が出てしまいますよね。

「そこは相性の問題もあると思います。ストライカーとレスラーは、単純に言うとどうしてもストライカーは相性が悪くて、その相性の悪さがもろに出ちゃったのかなと。例えばジョゼ・アルドやピョートル・ヤンがマラブとやった時、アルドは下がりながらテイクダウンに対処する感じで、テイクダウンは許さなかったんですけど、その代わりにケージに押し込まれ続けたんですよね。で、ヤンはスイッチを使いながら対応しようとしたのですが、マラブにそこを上回られてしまうという試合でした。じゃあオマリーはどうなんだ?というところだったのですが、結果的にオマリーはアルドやヤンのところまではいかなかったなというのが正直なところですかね」

――見ている側からすると、テイクダウンをディフェンスできないなら、打撃を思い切り当てにいくという選択肢はなかったのかと思うのですが、そこはファイター側からするとどうなのでしょうか。

「あとは一発を当てに行きたいは行きたいんですけど、結局そこで組まれちゃうんで。一発を当てるタイミングを探っているうちに結局(試合が終わる)なんですよね。ようは一発を当てるための距離になる=組まれる距離なので、行ったら組まれるという感覚もあるんですよ、タックル系の選手に対しては。だから一発を当てるための行き方が難しいんですよね、単純に思いっきりいけないという」

――その一発を当てるためには組み立ても必要だし、そうしているうちに組まれるリスクが大きいということですね。

「一発にかけるということは、ある程度の強打を当てて、その一発でKOするなり、ダウンさせるなり、大ダメージを与えるのが欲しいじゃないですか。リスクを追う分の見返りが欲しいというか。それに見合う一発を当てる距離まで詰めるというと、またそこですごく難しくなってきますよね」

――あとマラブの方もテイクダウン以外でかなり細かいパンチのフェイントを入れたり、目線を散らしたり、体を上下させたり、常に動き続けていますよね。

「動きそのものが多いですよね。絶対打撃が届かない距離でもシャドーボクシングやスイッチしたり、地味な動きなんですけど、それをずっと繰り返している。ただタックルだけ狙っているより、こういう動きをやられると嫌ですよね」

――相手からすると、あれだけちょこちょこ動き続けられると、フェイントだと分かっていても引っかかってしまうものですか。

「あとはやっぱりああやって動いている中で、本物と偽物の(動きの)違い、本当に来る時と来ない時って、 何もしないでバッ!と来るより、色々と動いてる中でバッ!と来る方が、対応も遅れると思うんですよね。そういう部分はあると思います。だからあれだけ目の前で動き続けられていたら、やりにくいと思いますね」

――オマリーも5Rに三日月蹴りを効かせる場面がありました。メラブは試合後に「効いていない」と言っていましたが……。

「あれは効いていたと思います。分かりやすくお腹をさすってましたからね」

――右の三日月蹴りをもらったあとのシーンですが、あの前の左の三日月蹴りも効いていたと思います。

「あれも絶対効いてましたね。ボディが効いたかどうかは本人しか分からないし、効いていても『効いてない』って言い張ると思うんですけど、セラ・ロンゴ・ファイトチームで一緒に練習していた(井上)直樹くんの話だと、練習でもマラブは腹を効かされていたことが結構あると言っていたんで、マラブは腹が弱いんじゃないか説も出てますね。だから試合展開や相性もあるんですけど、あれがもっと早い段階で来ていたら、面白かったのかなという気もしますよね」

――それまでの打撃とは違い、明らかにオマリーのプレッシャーがかかっていた時間でした。

「そうですね。あれはオマリーが5Rに判定で勝つのがほぼダメだろうと思っていた中での開き直りがあったから、また前に出始めたんだと思います。もうテイクダウンされてたとしてもしょうがないって気持ちがあったからこそ、もう1回(打撃を)作り直したんじゃないかなと思います」

――5Rに弱みを見せたメラブですが、あのテイクダウンを軸にしたファイトスタイル&無尽蔵のスタミナは真似できないですよね。

「あのスタミナは異常ですね。ファイトスタイルそのものは疲れるスタイルだと思うんですよね。今回の試合はトップを取ってからキープする時間が長かったですが、他の試合では結構立たせるんです。で、また倒す。倒して、立たせて、倒して…を繰り返して倒してテイクダウンの数で印象つけるみたいな、めちゃめちゃしんどい戦い方をしているので、それが出来るスタミナは尋常じゃないですね。対戦相手=タックル受ける側としては、やっぱりしつこくタックルを切って切って、マラブが疲弊してきてタックルに入れなくさせるというのも1つの作戦としてあると思うんですよね。ただマラブは疲弊しないから、その希望がなくなってしまうという」

――あれだけスタミナがあるとテイクダウンの攻防でマラブを疲れさせるという作戦もチョイスできません。

「テイクダウンそのものもバーン!と入って綺麗に倒しちゃうじゃないですか。一回ケージに押し込んで、低い姿勢でケージレスリングを頑張って倒すという展開が少ない。テイクダウン能力の高さも、マラブがバテにくい要素だと思います」

――水垣選手はどういうタイプだったらマラブを攻略できると思いますか。

「攻略法がなかなかないですよね(苦笑)。それこそシャーウス・オリヴィエラみたいに打撃があって、グラウンドで下になっても戦えるとか。そういうファイターだったら可能性があるのかなっていう気はするんですけどね」

――マラブとレスリング勝負できるか、レスリングそのものを捨てて勝負するか。

「そうなんですよ。さっきも話したようにジョゼ・アルドはほとんどテイクダウンを許していないんですけど、テイクダウンディフェンスするためにずっと押し込まれたままで判定負けしているんです。テイクダウンされないことに集中すると打撃が出せないし、相手がバテない限りは押し込まれ続けるので、ポイントを取られちゃいますよね。だからメラブ攻略は本当に難しいです。

あと試合とは関係ないですけど、メラブってちょっとおかしいじゃないですか。試合が始まった瞬間、オマリーのセコンドと言い合ったり、試合中にオマリーにキスしてハーブ・ディーンにめちゃくちゃ怒られたり。あとは試合前にインスタグラムで氷が張ってる湖に飛び込んで、練習でカットしたところを縫ってる動画をアップしてダナ・ホワイトに『アイツはレベルが違うバカだ』ってキレられてましたよね。普通はあんなことしないですよ(笑)」

――大分変わっていると言えば変わっていますね…。

「基本的に変な人なんだと思います(笑)。でも、だからこそああいうファイトスタイルをやりきれちゃうというか。普通は5Rマッチでああいう試合はやろうと思わないし、それをやっちゃうというのは何かぶっ飛んでる新しいタイプですよね」

――敗れた方のオマリーについても一言いただけますか。

「あと僕の中でオマリーとコナー・マクレガーを重ねていて、マクレガーもここで負けるだろうと思われている試合で勝ち続けて、オマリーもそういうキャリアだったと思うんですよ。マクレガーはネイト・ディアスに負けてライト級に上げてタイトルを獲っていますけど、最後はハビブ・ヌルマゴメドフにやられて、それからスーパーファイトを中心にやっていくスーパースター路線に行ったじゃないですか。じゃあオマリーはここで負けて、これからどうなっていくのかなと。そこにも凄く注目しています」

――さてマラブの次の挑戦者にとしてウマル・ヌルマゴメドフが噂されています。

「そこは僕、すごく楽しみなんですよ。ウマルもレスリング力があるから、そこでも勝負もできるし、打撃という部分ではウマルの方が上だと思うんですよね。だから打撃+レスリング力でどこまでマラブに対抗できるのかっていうところですよね」

――前回水垣さんにウマル・ヌルマゴメドフ×コリー・サンドハーゲンを解説していただきましたが、マラブよりもウマルの方が技の引き出しは多い印象です。

「例えばウマルが一回・一発のテイクダウン勝負で負けたとしても、そこからのスクランブル勝負で後ろに回るとか、下からでも組み勝つみたいなものを見せてくれたら面白いなと思います。何度か言っているようにマラブが立たせるタイプなので、仮にマラブに3回テイクダウンされても立ち続けて、逆にウマルがテイクダウンもしくはスクランブルで上を取ってキープする。それをしつこくやれば、ウマルも強いと思います。あとはクリーンテイクダウンできなくても、スタンドバックの攻防に持っていければ、ウマルがマラブにヒザをつけさせて殴って、もう一回立って打撃をやるとか、そういうことが出来れば、ウマルにもチャンスが出てくると思いますね。この試合はぜひ実現させてほしいです!」

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45 AB MMA MMAPLANET o Special UFC UFC310 アレッシャンドリ・パントージャ ブログ 平良達郎 扇久保博正 朝倉海

【Special】Fight&Life#105より。朝倉海に訊いた世界戦発表のタイミング─「そこに僕の気持ちは通らない」

【写真】UFCへのアプローチ=プレゼン、SNSと練習時間。多くのファイターがその姿勢を知って欲しいインタビューとなっている (C)YOSHIFUMI NAKAHARA

明日23日(水)に発売されるFight & Life#105で、12月7日(土・現地時間)にネヴァダ州ラスベガスのTモバイル・アリーナで開催されるUFC310のコメインイベントでオクタゴン・デビュー=アレッシャンドリ・パントージャの持つUFC世界フライ級王座に挑戦する朝倉海のインタビューが掲載されている。
Text by Manabu Takashima

またFight&Life#105では朝倉海インタビュー以外にもブランドン・ロイヴァルと歴史に残る激闘を繰り広げた平良達郎が、キャリア初黒星となった25分間を平良が60分に以上に渡る独白。

驚くほど、その試合展開を明確に記憶し、自身のなかで嚙み砕こうとしている平良の切実、そして誠実な言葉な数々。

さらには日本大会再開の追い風となるのか、UFCフライ級戦線をJ-MMA目線で切り込む企画──朝倉ともパントージャとも戦った唯一のファイター=扇久保博正にロイヴァル×平良、パントージャ×朝倉について話を訊き、本邦初公開の秘話と共に、伝説のTUF24を振り返ったインタビューも掲載されている。

そして──6月のUFC出場発表から4カ月、「あっと驚くことになる」という本人の言葉通り、UFCデ「ビュー戦が世界タイトル戦となった朝倉海。

今月17日(木)に東京都品川区のU-NEXTにおいて「UFC310: Kai Asakura Ultimate Media day」=UFC出陣前の記者会見が開かれ、朝倉は会見後に各メディアに10分毎の個別取材を応じた。

MMAPLANETではUFCの理解もあり、Fight&Lifeと共同インタビューという形で20分の時間を確保しより詳しく今の彼の心境を尋ねることができた。その全体像はFight&Life#105を読んでいただくとして、ここではインタビューの一部を抜粋し、あの世界挑戦の発表のタイミングについて尋ねた朝倉の返答をお伝えしたい(要約)。


──ランキング1位と戦う試合当日に、急浮上した日本人選手がタイトル戦が決まったと発表されるようなことがあると、海選手だと心情的にはどうなるでしょうか。

「平良選手は僕の試合のことを知っていたと思いますが、タイミングがここじゃなくても良いだろうとは思いました。僕も発表されたのを知ったのは、朝起きた時でした。確か、その夜中の2時に発表されたんですよね?」

──ハイ。UFCのリリースは2時10分過ぎだったかと思います。

「夜中の午前零時に発表されますと関係者に言われて、僕は眠かったんですけど、起きていたんですよ。でも12時になっても発表されなくて『どうなっていますか?』と確認した時に『ラスベガスは今、朝の7時なのでまだ社長が起きていない。だからGOサインがまだ出ていないから、もう少し起きていてほしい。発表されたと同時に色々と拡散してほしい』ということで12時40分ぐらいまで頑張って起きていたんですけど(発表がなくて)寝たんですよ。

だから僕も起きたタイミングで発表されたんど驚いたぐらい、本当にギリギリまで分からなかったですね」

──このタイミングで発表されたら自分が悪者になるという気持ちは?

「そうなんですよ。だから平良選手の試合のだいぶ前に発表するか、試合の後に発表してよとは思っていたんですよね。でも、そこに僕の気持ちは通らないというか。UFC側にも考え、タイミングがあるから仕方ないなと」

──いずれにせよ、これだけ世界を目指すことができる選手が出揃って来たなかでUFC日本大会開催の機運が高まって来ています。この点、朝倉選手ご自身はどのように思いますか。

「客観的に見ても、僕次第だと思います。僕がチャンピオンになれば、日本で開催できる可能性もあると思いますし、多分UFC側も日本人でチャンピオンが生まれれば日本でやりたいと思うだろうし。

UFCは日本でやりたいんですよ。ずっと。でも今まで日本でやっても失敗しているのは、日本人のスターがいなかったからですよね。今の僕ならUFCのチャンピオンになれるし、チャンピオンとして日本人のファンを呼ぶこともできる。UFCも成功させられる自信が持てると思うので──今回しっかりと勝って来年、日本にUFCを持ってきます」
Text by Nob Yasumura

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45 AB MIKE MMA News o ONE PFL RENA SAINT Special UFC YouTube

UFC Paris: Moicano vs Saint-Denis Predictions, Bets & THE POINTS GAME!

Renan Moicano vs Benoit Saint-Denis fight at UFC Paris, share our predictions and best bets, and dive into another exciting round of THE POINTS GAME! Don’t miss out on the action and expert analysis!

*RULES*
1. 5 Points to enter the game. 20 Points next to the name to become a co-host for the evening. Every $1 = 1 Point. Players can also receive “negative points” from donations (player will lose the amount of points in the donation).
2. Points MUST be appointed to a specific player IN THE DONATION – No Exceptions – If the donations do not direct points to a player, those points will be VOID and unusable for the game.
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#ufcparis #moicano #saintdenis

0:00 Intro
15:00 MMA News & Stories
1:03:38 Battle of The Giants (PFL)
1:06:00 UFC Paris (Bolaji Oki vs. Chris Duncan)
1:11:53 Nora Cornolle vs. Jacqueline Cavalcanti
1:14:48 Daniel Barez vs. Victor Altamirano
1:28:40 Welcome, Co-Hosts
1:46:38 Darya Zheleznyakova vs. Ailín Perez
1:56:58 Vince Morales vs. Taylor Lapilus
2:14:58 Roosevelt Roberts vs. Ľudovít Klein
2:18:26 Da Woon Jung vs. Oumar Sy
2:22:35 Ivan Erslan vs. Ion Cutelaba
2:30:00 Matt Frevola vs. Fares Ziam
2:47:17 Gabriel Miranda vs. Morgan Charriere
2:50:51 Bryan Battle vs. Kevin Jousset
3:10:02 Joanderson Brito vs. William Gomis
3:17:45 Brendan Allen vs. Nassourdine Imavov
3:20:58 Benoit Saint Denis vs. Renato Moicano
3:40:24 FoF Champion
3:49:49 Thanks For Watching

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45 AB ABEMA ACA MMA MMAPLANET o ONE PRIDE RIZIN RIZIN48 Special TOP BRIGHTS UFC   カルシャガ・ダウトベック キック ボクシング 朝倉未来 木下カラテ 松嶋こよみ 鈴木千裕 関鉄矢

【Special】アジアの猛者たち─03─RIZIN48木下カラテ戦へ、カルシャガ・ダウトベック「王者になるため」

【写真】尋ねられたことを、ストレートに答える。朴訥感満載のダウトベックだった (C)MMAPLANET

29日(日)、さいたま市さいたまスーパーアリーナで開催されるRIZIN48の第1試合でカルシャガ・ダウトベックが、木下カラテと戦う。
Text by Takashima Manabu

UFC、RIZIN、北米フィーダーショー、日本のプロモーションと世界中のMMAを見渡してみると、明らかにアジア勢が台頭しつつある。もちろん、アジアといっても広い。その勢いの中心は東アジアではなく、中央アジアだということも百も承知だ。MMAPLANETでは6月から日本人ファイターと肌を合わせた経験がある──あるいは今後その可能性が高いアジアのファイター達にインタビューを続けてきた。

お蔵入り厳禁。題して「アジアの猛者たち」──第3弾はキルギスからカルシャガ・ダウトベックのインタビューをお届けしたい。

木下との対戦が決まる前に、5年9カ月振りのRIZIN再出場を果たしたダウトベックは、それまでの日々とこれからについて何を語っていたのか。そして、シラット世界王者という肩書の真実や、カザフスタンでの格闘家生活等、カルシャガ・ダウトベックの真実とは。


──朝倉未来選手に敗れた2018年以降、5年を経てRIZINにカムバックでき、どのような気持ちでしたか。

「ミクル・アサクラに敗れた時、RIZINではどういう風に戦わないといけないのかを学習できた。あれ以来、自分のパフォーマンスが向上することに努め、日本で戦う機会が再び訪れるのを待っていた。必死に練習をしたんだ。

その甲斐があって4月にRIZINからオファーがあった。試合の2カ月前だね。当然、何も疑うことなく試合に応じたよ。5年も待ったのだから、本当に嬉しかった。そのためにスキルに身に着けて戦ってきた。ずっとRIZINで戦いたいと思っていたのは、ただ試合をするためでなくチャンピオンになるためだ」

──では前回の関鉄矢選手との試合のパフォーマンスは、どれだけ満足できましたか。

えげつないボディショットだった(C)RIZIN FF

「まず、あの機会を与えてくれたRIZINに改めて感謝の意を表したい。

もちろん、勝てたことは嬉しい。ただKO勝ちすることがゴールでなかった。自分としては、とにかく勝ちたいと思っていたんだ。それが初回KO勝ちになっただけで」

──ではKO勝ちというのは、期待以上の成果だったわけですか。

「キャリア15勝のうち13回目のKO勝ちだから、それが期待以上のモノとは言わない。でも、どの試合でも自分の目標はハードトレーニングの成果を見せて勝利を手にすることなんだ」

──その結果がKO勝ちなのですね。ところでRIZINにカムバックを果たす前にTOP BRIGHTSで松嶋こよみ選手をKOしました。あの勝利こそ、RIZIN復帰のきっかけになったと思われます。

「コヨミ・マツシマのことを軽視することは決してなかった。彼はONEチャンピオンシップで戦っていて、世界王座に挑戦までしているファイターだ。だからこそ、試合に勝てるようにしっかりと準備をしてケージに上がった。彼のようなグッドファイターから、望み通りの勝利を手にすることができて本当にハッピーだったよ。

あの勝利がRIZINに戻ることできる一つの理由になったことは確かだろう。同時にずっとマネージャーがRIZINで再び戦えるように交渉を続けてくれたことも大きい。彼がやり遂げてくれたことに凄く感謝している」

──そして迎えたRIZIN再登場で、大きなインパクトを残しました。その一方で、我々はまだカルシャガのことをそれほど知っているわけではありません。これまでの戦いの軌跡等を今回は尋ねさせて頂きたいと思っています。まず、カルシャガにとって最初に経験したコンバットスポーツは何だったのでしょうか。

「まず、子供の頃からストリートファイトを日常茶飯事のように続けていた。自分でいうのもなんだけど、問題児だった。喧嘩に明け暮れていたんだけど、近所にボクシングのコーチが住んでいて。彼からボクシングの練習に誘われたんだ。それから、ずっとコンバットスポーツに没頭してきた」

──ボクシングとMMAの両方を始めたのですか。

「ボクシングは2009年から始めて、2013年までやっていた。そして2015年からMMAを始めたんだ」

――その1年間のブランクは?

「生活をするために働いていた。ボクシングではカザフスタン王者に3度就き、カデット世界大会でも勝った。でもジュニア・レベルのアマチュアボクシングでは、食っていくことはできないからね」

――ボクシング王国であるカザフスタンですが、カルシャガはプロボクサーになろうとは?

「カザフスタンでは当時、プロボクシングは盛んでなくて、MMAは対照的に人気がうなぎ登りだった。コンバットスポーツから離れていた時期に、今のコーチの1人が『お前はスポーツをして生きていくべきだ』とMMAジムに誘ってくれて……その言葉で、MMAでやっていこうと専念するようになったんだよ。カザフスタンでMMA人気が高まっていたから、行動に移すことができた」

――ボクシングからMMAに転じて、一番苦労した部分はどこでしょうか。

「それをいえばMMAに転じて8年経つけど、今でもMMAは簡単ではないよ。それだけ、自分には伸びしろが残っていると思っている。キックボクシング、ムエタイ、レスリングを今も学び続け、自分のMMA力を高めている状態なんだ」

――そのなかで2017年にシラット世界王者になっているという話ですが、MMAに転じた翌年にシラットの大会に出るというのはどういう理由があったのでしょうか。

「シラット・ワールドGP2017のことだね。自分が出たシラットのトーナメントは、顔面パンチも許されたMMAに似たルールだった。ハードな戦いで、MMAで戦うための良い準備になったよ」

――防具をつけて、蹴り中心で顔面パンチなしのシラットではなく、MMAルールに酷使したルールセットがシラットにあると!!! 

「シラットには型もあるし、アマチュアの試合は顔面を殴ることは許されていない。でもグランプリはプロの試合で、MMAとの違いはケージでなく、マットで行われたことぐらいだ」

――勉強になりました。そのシラットの経験もあり、MMAファイターとして活動を開始しましたが、改めてRIZINから声が掛からなかった間、北米のメジャーリーグを目指すという選択はなかったですか。

「ミクル・アサクラに敗れた後RCC、ACAでも試合をした。地元のAlash Prideでもレベルの高い相手と戦うために、厳しいとレーニングを自らに課してきた。結果、ケガも多く休養が必要な時間も長かった。体を休めるために、北米の団体で戦うという機会はなかった。今はRIZINにチャンピオンになることが、唯一の目標だから北米の組織から声が掛かっても戦うことはないだろう。とにかくRIZINでチャンピオンを目指す」

――RIZINフェザー級チャンピオン鈴木千裕選手の印象を教えてください。

「スズキは素晴らしいファイターで、僕のようなノックアウト・アーチストだ。ただスズキ云々ではない、特に彼のことを気にしているわけではないよ。自分のターゲットは誰だろうが、ベルトを巻いている人間だから」

――とはいえ鈴木千裕選手はボクシングマッチが予定されていたり、なかなか王座防衛戦まで時間が空きそうです。

「ボクシングを戦っても、彼は失うモノはない。そしてメディアの注目を集めるのだから、良い機会になる。それに今すぐタイトルに挑戦できなくても、もう1試合戦ってチャレンジャーに相応しい力があることを証明するだけだ。その時がくれば、スズキは僕の挑戦を受けるしかないのだから。今はその資格を得るために、実力をつける時間だと思っている」

──タイトル挑戦権を手にするために、倒すべき意中の相手はいますか。

「RIZINフェザー級はタフな選手が揃っていて、特にトップ5のファイターが手強い。ただ、そのなかで誰か個人をフォーカスするということはない。RIZINから試合を組まれた時、初めてその相手にフォーカスする。価値ある相手を当てられ、その試合で勝つためにハードな練習をして準備したい」

──カザフスタンのカルシャガ、ウズベキスタンのノジモフ、キルギスのシェイドゥラエフと僅か2カ月の間に中央アジアのファイターがRIZINで急激に存在感を増しました。この中央アジアのファイターの間では、どの国が中央アジアで一番かというライバル意識はあるのでしょうか。

「もちろん、ライバル心はある。同じ地域というだけでなく、同じイスラム社会のなかで誰もが、今のカザフスタンのようにトップになりたいと思っている。とにかく試合機会を得た中央アジアのファイターは、良いパフォーマンスを見せている。RIZINに限らず、世界のメジャーシーンでも中央アジアのファイターが続々と進出を果たすだろう。我々の住む地域では凄い勢いでMMAが発展しているから、国内大会のレベルも凄く高い。それだけ新しい才能ある選手が中央アジアから育つことは間違いない」

──既に中央アジア旋風は世界のMMA界で巻き起こり始めたという見方もできます。カルシャガ、今日は過去のキャリア、中央アジアの現状と色々と教えていただきありがとうございます。最後に日本のファンにメッセージをお願いできないでしょうか。

「少しでも早く日本に戻って、皆が喜ぶ試合をしたいと思っている」

■RIZIN48視聴方法(予定)
9月29日(日)
午後2時00分~ ABEMA、U-NEXT、RIZIN LIVE、RIZIN100CLUB、スカパー!

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45 MMA MMAPLANET o Special TJ・ディラショー UFC アレッシャンドリ・パントージャ アーセグ イスラエス・アデサニャ カイ・カラフランス スティーブ・アーセグ ドミニク・クルーズ ボクシング マイケル・チャンドラー 大沢ケンジ 朝倉海 柏木信吾 水垣偉弥 良太郎

【Special】月刊、良太郎のこの一番:8月 カラフランス×アーセグ「スイッチを使う打撃として参考になる」

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は良太郎氏が選んだ2024年8月の一番──8月17日に行われたUFC 305「Du Plessis vs Adesanya」のカイ・カラフランス×スティーブ・アーセグについて語ろう。


――今回はカラフランスのKOをピックアップしていただきました。まずその理由から聞かせてください。

「カラフランスは約10カ月ぶりの復帰戦で、アーセグはアレッシャンドリ・パントージャに負けて以来の試合だったんですよね。アーセグはフライ級では身長が高いんですけど(173㎝)、カラフランスは身長に対してリーチが長い体系なんですね。で、僕もMMAの選手を指導するうえで構えをスイッチする打ち方を勉強していて、この試合でカラフランスはファーストコンタクトから左→右→左とスイッチしながら出す攻撃を積極的にトライしていたんですよね。この形をトータル3回くらいトライしていて、アーセグもカラフランスの左のオーバーハンドを気にして、あまり自分から前に行くことが出来ていなかったんです。

アーセグもカラフランスが入ってくるところにアッパーを用意していて、それがいい形で当たったんですけど、フィニッシュシーンのカラフランスは左→左で入ってるんですよ。しかも左を見せたあとに左手でアーセグの前手を払って、それをアーセグに反応させておいて、右のオーバーハンドからスイッチしての左フックでダウンを奪っていました。あれは僕もすごく参考している動きですね。マイケル・チャンドラーもストレートでやる動きなんですけど、カラフランスの場合はストレートというよりもしっかり骨盤・軸に体重を乗せて、いい角度でフックが入りましたよね」

――試合途中にカラフランスのパンチの空振りが目立っていて、少しやりにくそうに見えていました。

「最初カラフランスは自分の右側に回ってトライしようとしてたんですよ。そこをリセットして左に回ったときにアーセグにアッパーを合わせられてるんですね。で、それもあったので次のトライではカラフランスがアーセグの前手を払いにいってるんです。あの前手払いにアーセグが反応してしまい、軸・顔が上がってしまったんです。あれはスイッチパンチャーに対して絶対にやってはいけない動きなんです」

――アーセグにミスがあったんですね。

「カラフランスはカラフランスで失敗もしているんですけど、最後のトライではそこを修正して打ち抜きました。だからここはしつこくやり続けたもの勝ちというか。アーセグはカラフランスのプレッシャーを感じていて、バックステップが少し甘くなっていたのかもしれないです。この試合は僕がMMAファイターを指導するにあたって、すごく勉強になる試合でした。構えをスイッチしてくる選手に対して“これをやってはいけませんよ”という意味でも参考になりました」

――良太郎さんはただ構えをオーソドックスとサウスポーに変えるだけではなく、スイッチしながらの打撃も研究しているのですか。

「はい。そういったスイッチしながらの打撃=ムービングの打撃に関しては、アルファメールの流れでいうとTJ・ディラショーとコーディ・ガ-ブランドがいて、ドゥェイン・ラドウィックのチームに分家していって……ですよね。実際にラドウィックはすごくムービングの打撃を研究していて、そこの指導が上手いんですけど、かなり複雑で覚えるのが難しいんですよ。あとはムービングをよく使う選手は体の反応速度が衰えると、それがパフォーマンスの低下に直結しちゃうんですよね。それこそディラショーやガ-ブランド、イスラエス・アデサニャもそうですよね。年齢を重ねることでの反応や体の連動が落ちると、一気に動きが落ちてしまうんです」

――スイッチしながらの打撃は運動能力に影響される部分も大きい、と。

「僕はそう思います。やはりムービングは体を連動させる動きなので、一つの形を覚えるのではなくて(重心を)おしりに乗せる、股関節に乗せる、体軸を変える……そういった動きが必要になるんです。どうしても年齢やキャリアを重ねると無理して戦わなくなるというか、若い時のようにたくさん動いて戦うというよりも、どっしりと構えて動きのベースをしっかり作って戦う選手の方が被弾は少なくなりますよね」

――非常に興味深い話です。

「例えばオーソドックスだけ、サウスポーだけしか使わない選手だったら、年齢を重ねても自分と相手との空間支配能力でなんとかなるものなんですよ。そしてその空間支配能力はあまり年齢に影響されることがない。アレックス・ペレイラがまさにそれです。逆にムービングする選手は空間支配の仕方が変わるし、反応速度が衰えてくると、そこに大きなズレが生じてくるんです。だからもし年齢を重ねてスイッチを使うとするなら、流れるようにスイッチを使って動き続ける=ムービングのスタイルよりも、オーソドックスとサウスポーをどちらも使えるスタイルの方が合っていると思うし、どうしても前者のスタイルは全盛期が少し短くなるのかなと思います。それでいくとカラフランスはキャリアは37戦やっていますけど、年齢的には31歳だし、まだ体力的に落ちることはないと思うんですよ。もし朝倉海選手がUFCのフライ級でやっていくなら、カラフランスとやると面白いと思いますよ」

――今後もスイッチしながらの打撃、良太郎さんが言うところのムービングの打撃は伸びていくでしょうか。

「日本人でも頻繁にスイッチしたり、ムービングする選手は増えていますけど、アメリカに比べると遅いじゃないですか」

――僕が初めてスイッチやムービングを意識したのは、おそらくドミニク・クルーズだと思っていて、彼がWECチャンピオンとして防衛を重ねてUFCに参戦したのは2010年~2011年です。

「僕もアメリカに練習にいった選手に聞くと、アメリカではスイッチやムービングがMMAをやる選手たちの基本的なドリルに組みこまれているそうなんです。ボクシングも国によってファイトスタイルが違うと言われますが、あれはその国の選手に合ったスタイルというわけではなくて、指導方法・方針の違いだと思うんです。もし日本人がメキシコでボクシングを始めたらメキシカンスタイルになるはず。もちろんそこには持って生まれた身体能力という部分での向き不向きはあると思いますけど、ただし最初からスイッチすることを教えていれば、そういう動きはできますよね。僕が最初から指導する選手は子供も含めて、オーソドックス・サウスポーどちらもできるようにしていますし、初歩の段階でどちらの構えもできるように仕込んでおくことで、将来的にスイッチやムービングの基礎はできやすいと思います」

――最初にどちらかに構えて、逆の構えを覚えるではなくて、最初からどちらも構えるようにするわけですね。

「どちらが利き手か、どちらの構えの方が力が伝わりやすいかは選手によって違うし、格闘技のバックボーンによっても変わってくるので、それはやりながらカスタムしていくイメージです。スイッチを練習するからスイッチヒッターにならなくてもいいし、どちらも構えることが出来たら、オーソドックスがやられて嫌なこと、サウスポーがやられて嫌なことを自分で覚えることもできて、同じジムの仲間の練習相手にもなる。そういう意味でもプラスですよね。どちらもの構えも出来ることと、構えをスイッチしながら打撃を出すことは別で、そこへの向き・不向きもあるので、僕はそういう考え方で見ています。少し話は脱線してしまいましたが、アーセグをKOしたカラフランスの打撃はスイッチを使う打撃として非常に参考になりました」

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45 AB Special UFC UFC ABC07 ウマル・ヌルマゴメドフ コリー・サンドハーゲン ブログ

【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:8月 ウマル×サンドハーゲン「ウマルが5R制で見せた変化と対応力」

【写真】この取材後にマラブ・デヴァリシビリがショーン・オマリーに勝利。マラブ×ウマルを俄然見たくなる内容になっています(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は水垣偉弥氏が選んだ2024年8月の一番──8月3日に行われたUFC ABC07「Sandhagen vs Nurmagomedov」のウマル・ヌルマゴメドフ×コリー・サンドハーゲンについて語ろう。



――8月の一番では、 ウマル・ヌルマゴメドフ×コリー・サンドハーゲンを選んでもらいました。

「この試合は組まれた時点でめちゃくちゃ楽しみだったんですよ。僕のなかではタイトルマッチ級に楽しみで『マッチメーカー、いいとこついてくるな!』と言いたくなるぐらい(笑)、楽しみでそそられるカードでした。実際の試合内容もすごく良かったですし、予想通りの部分と予想外の部分があって、本当に見どころが多かったなと思いました」

――予想通りだったところと予想外だったところ、それぞれ教えていただけますか。

「まず予想通りだったのは、ウマルがテイクダウンで試合を作っていくというところで、予想外だったのはスクランブルの攻防でもウマルが負けていなかったところですね。どちらかというとウマルはしっかりトップを取って、ある程度ポジションを取っていくタイプだと思っていたので、スクランブルになったらサンドハーゲンがトップを取ったり、スタンドに戻したり、有利に試合を進めると思っていたんです。でも実際の試合ではスクランブルでもウマルがツイスターを狙うような動きを見せたり、予想外の動きや色んな引き出しを持っていることが分かりました」

――バックの取り方をとっても、いわゆるツイスター系、シングルバック系、クルスフィックス系と多彩でした。

「僕もダゲスタン系、要はハビブ(・ヌルマゴメドフ)なんですけど、ウマルもある程度ポジションを取るところまで持っていて、そこで抑える・殴るイメージだったんです。でもウマルはある程度スクランブルの攻防をやって、そこからバックを取りにいくスタイルで。決して殴りやすいポジションではないと思うんですけど、そこから次の展開を狙っていたのかなと思いました。その先の技術はこの試合では見れなかったのですが、その先の技術がありそうな予感もさせてくれましたし、ちょっとダゲスタン系のイメージとは違う、寝技やグラップリングをやるんだなというところが印象が深かったです」

――いい意味でレスリング色が薄いというか、グラップリングの要素が強いスタイルだと感じました。

「ウマルのを構えを見てみると、ハビブもそうなんですけど、アメリカのレスラーみたいに前傾気味に構えずに、どちらかいうと体が起きている・立っている構えなんですよ。あそこからタックルに入ってテイクダウンするのはすごいなと思いました。ハビブは一回組むと当たり前のように引っこ抜いちゃうんで、あまりそこに意識がいかなかったんですけど、今回のウマルを見ていると、あれだけ体が立った状態からタックルに入ってテイクダウンするのは驚きでしたね」

――いわゆるレスリングスタイルとは違いますよね。

「そうなんですよ。ウマルの場合は蹴りも使うし、よりアップライト気味の構えですが、しっかりタックルを取っている。ハビブはあまり蹴りのイメージはなくて、パンチを散らしてから(タックルに)入っていますが、やっぱり体が起きているんですよね。あの構えからタックルでテイクダウンを取るすごさを改めて感じたところではありますね」

――水垣さんから見て、あの構えでテイクダウンを取れるのはなぜだと思いますか。

「普通はあれだけ体が起きていると、タックルに入るのが難しいと思うんですよね。どうしても足を取りに行くまでの距離が遠くなるので。ウマルはそこを打撃で崩す・散らしているのがいいと思うんですけど……正直僕もなんであの構えでタックルが取れるのかは分かりません(笑)! ハビブの場合はケージを使って(タックルに入る)というのがあったんですけど、 今回に関しては割とさくっと足を触ってるんですよね」

――確かに。だからどこか触れることができたらテイクダウンできるという自信があるのかもしれないですね。

「その流れの話の続きになるんですけど、 試合序盤、ウマルはあまり上手くテイクダウン出来ていないんですよ。だから1Rは打撃でサンドハーゲンについてもおかしくない展開だったと思います。スコアカードを見ると割とウマルにつけているジャッジもいるんですけど」

――水垣さんとしては1Rのポイントはどう見ましたか。

「僕的にはダメージの部分でサンドハーゲンだなと思いました。で、ウマルがテイクダウンに苦戦するとなると、あのままズルズルとサンドハーゲンのペースになっていくと思ったんです。でもウマルは綺麗にテイクダウンを取り切れないなかでも、少しずつテイクダウンの入り方・種類を変えているんですよね」

――ウマルはどうテイクダウンのやり方を変えていったのですか。

「最初は(サンドハーゲンの)背中をつけることを狙っていて、そこから尻餅をつかせてバックというパターンだったんです。でも3R以降はサンドハーゲンにタックルをスプロールさせた状態でバックを狙ってスタンドバックに回るという動きに変えていたんですよね。あれが上手くいきましたよね。ああいうテイクダウンの取り方のバリエーションの多さ、試合中に相手に合わせてアジャストしていく器用さは見ていて面白かったです」

――この試合はライブで見ることが出来なくて、取材前にチェックしたのですが、1Rを見た時によくこの展開からウマルが勝ったなと思いました。

「足も効かされているし、結構これはやばいなと思いますよね」

――1Rにバックやテイクダウンを取った面など、かなり強引な入り方に見えたので、2R以降は失速するだろうな、と。

「打撃で削られてズルズルいっちゃう…みたいな感じですよね? でも最終的にはウマルペースで終わるという。僕の予想ではウマルが勝つとしたら、しっかり上を取って殴る。それを続けてバックまでいければいいかなという攻め方をすると思ったんです。でもそれが出たのが5Rの最後の最後だったんですよね」

――もしそういう展開になるなら、前半にウマルがクリーンテイクダウンやトップキープに成功して、後半はそれが出来ずに逃げ切るという展開を予想していたので、完全に真逆の試合展開でした。

「序盤は打撃で劣勢だったのに、試合が進むに連れてウマルペースになっていって、3R以降は打撃もウマルの方が当てるようになっていましたからね」

――組みの選手が崩れてかねない展開のなか、自分のペースに持っていくのは普通じゃないですよね。

「はい。事前の予想にはなかった動き、スクランブルの攻防を見せたり、タックルの種類を変えたり。試合中にそれを変えられる器用さを見ることが出来て、対戦相手からするとかなり厄介だと思います」

――一本勝ちじゃなかったからこそ、ウマルの強さが見えた試合でしたか。

「まさにウマルのMMAの奥深さですよね。最後はサンドハーゲンの方が消耗していたように見えたし、最後はややサンドハーゲンの心が折れたというか。5Rのテイクダウンの攻防で背中をついてしまって、あそこで勝負がありだったかなと思います」

――9.14NOCHE UFC 306ではショーン・オマリーとマラブ・デヴァリシビリのタイトルマッチが組まれていて。おそらくウマルは次期挑戦者になると思われます(取材は9月9日に行われた)

「5Rマッチをやったというのは、タイトル挑戦が近い証拠ですよね。マラブとオマリーがどういう結果と内容になるかによりますけど……もしオマリーがマラブにテイクダウンを許さずに打撃で勝っちゃったら、ウマルはオマリーをどう攻略するんだろう?と思いますし、逆にマラブがオマリーに勝ってウマルとやることになったら、僕好みの試合になると思いますね(笑)」

――ぜひどちらとも戦ってもらいたいと思うところですが(笑)、改めて今回の試合は5Rの面白さ、5Rで勝つために必要なものが見えた試合でもあったと思います。

「そうですね。たらればになってしまいますが、もし3Rだったらサンドハーゲンが勝つ可能性もなくはないんですよね。ジャッジ1名は50-45で全ラウンドをウマルにつけていましたけど、残り2名のジャッジは1・2Rでポイントが割れているので、そう考えるとジャッジによってはサンドヘイゲンが1・2Rを取っていた可能性もあったわけで。だからこの試合は5Rマッチの面白さ、5Rマッチでのウマルの強さが出た試合だったと思います」

――3Rだったら勢いで誤魔化せるものが、5Rでは誤魔化せない。技術がめくれていくというか、そういう印象があります。

「だからタイトル挑戦に近い選手が5Rでやるというのは本当に意味があることだと思います。3Rだったら持っている武器の数が限られていても、その武器をバーン!とぶつける勝負に持ち込めば十分に勝機があるとと思うんです。でも5Rになるとそういう訳にはいかない。こんな武器も持っている、あんな武器も持っているというのが求められるし、駆け引きの上手さも必要ですよね。僕も5Rの試合をやったことがありますけど、めちゃくちゃキツイですからね」

――それがチャンピオンやタイトルマッチには求められるということですね。

「3Rから5Rに変わると、短距離走が短距離走じゃなくなっちゃう感じですよね。3Rだったら全力ダッシュして1・2Rを取っちゃえば、3Rはフィニッシュされなければ勝ちに持っていけますが、5Rだと3・4・5Rで挽回されると逆転負けになっちゃいますからね。あとは5Rフルで行き続けるのは難しいので、どこで休むか。それこそハビブは1~3Rを取ったら少し休むとか、そういう試合の作り方をしていたので、5Rは5Rにしかない面白さがあるので、ぜひそういう部分にも注目してもらいたいです」

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