【写真】日本の格闘技界のパンドラの扉が今回は開けられた。再び開けられるのか、今は分からない(C)MMAPLANET
17日(金)、Road to ONE02が開催され、MMA2試合、グラップリング2試合、ムエタイ(MMAグローブ着用)2試合が無観客で行われた。
日程変更1度、会場変更2度。無観客大会となり、メディアも主催者が認めた最低限の人数=3名のみ。うち1人スチール撮影しない記者は、会場にいてもケージサイドにいることも許されない。競技運営陣とABEMAの中継カメラマン、ケージ回りには暗幕が張り巡らされ、その場にいる人間は全て防護服、マスク、手袋着用が義務付けられていた。
小径ケージの周囲と中に15人名ほど。それでも米国や英国で定められた人が集まる人数を上回るが、恐らくは国内でこのようなシチュエーションで格闘技のイベントが行われることは、もう2度とないかと思われる。もちろん、その普通でない大会となったのは新型コロナウィルス感染拡大の影響だ。
ここに書くまでもなく国内外で格闘技大会は軒並み中止、延期が続いている。そのなかでRoad to ONE02は開催された。当然のように批判の声は大会決行前から聞かれた。
その声は表現方法の良し悪しはあっても、正しい。今回のコロナ問題は東日本大震災の時と違い、「スポーツで元気になろう」という声を出せない状況にこの国を、全世界を陥れている。大会前には緊急事態宣言も出された。不要不急の外出は控えること、ステイホーム──の号令のなか、濃厚接触が絶対の格闘技大会開催にしても、その準備のための対人練習にも批判の声が挙がって当然だ。
と同時に、イベント関連の会社や格闘技ジムの経営者からは、すでに「生活できない」という声が多く聞かれるのも事実。このままではコロナに感染しなくても、人生を終える人たちが出てくることすら危惧される、逼迫された現実が既にある。
コロナ問題が長引くと判断した一部の人間が、そんなコロナと共存する時代に経済活動を格闘界で続けるために模索する──パーセンテージ的には圧倒的に少数派だが、そういう人間も世の中に必要だという意見さえ、全否定されるだろうか。
コロナ問題が起こってから、自分の取るべき立場は変わらない。大会を開く(現状、無観客のみ)、開かない。試合に出る、出ない。練習をする、しない。どちらを選択しようが、コロナ終息後の人の判断理由にしない。
格闘技で生きている人間にとって、格闘技は不要不急なモノではない。少なくとも、この現状でも不要ではない。だからこそ、感染を防ぐために最善を尽くして、少人数で練習し、ジムの外では不用意・無防備な行動は慎む。そう心掛けているのであれば、格闘家から格闘技を取り上げることはできない。それが自分の考えだ。
だからこのイベントも開催前、開催中、開催後と格闘技メディアの役割を果たすつもりでいた。とはいっても、この考えに同意できない人がいることも十分に承知しているし、批判は受ける。
今大会の主催者も同じ気持ちでいたと思う。とあるABEMAのスタッフは、これまでの付き合いで自己主張は極力なく、淡々と仕事をこなしているという印象だったが、向かい風が強くなれば強くなるほど、「大会を無事に終わらせる」という闘志が言動に表れるようになった。
選手とセコンドはタクシーで会場入りし、試合が終わるとタクシーで戻る。その費用も主催者が持つ。看護師でなく、ドクターが3名。イベントに関係する人間の数を最小限に留め、それ以外の人との接触を徹底して避ける。
それでもこの大会開催を正当化しようとは思わない。と同時に、この大会を開こうとしている人間の意思は、反対の立場を取っている人間より強かった。反対意見には世間の追い風がある。けれども、本気でイベント開催を阻止しようと努力した人間はいただろうか。
「UFCが止めたから、止めるべきだ」。そんなヤワな意見は誰にでも口にできる。この大会に何か欠けていたモノがあるとすれば、それは本気で大会中止を訴え、行動に移す人材だっただろう。
そういう人がいたかどうか、自分は聞き及んでいない。そして、大会は開かれた。試合開始は午後7時、午後6時前に現場近くのパーキングに車を止めた。普通に通勤帰りの人たちが最寄り駅に向かい、ガラガラというほどでないぐらいに人影が見られたバスを眺めつつ、先に記した暗幕が張られ、スタッフが既に防護服を着た異様な雰囲気の会場に。
すぐに検温があり、それぞれの配置場所が決められる。第1試合と中継開始の40分前ごろには、会場でこの日2度目の消毒液が散布された。
いやおうになく緊張感が高まり、いつも以上に軽口を叩き続けた。イベント開始30分前、手順が説明され自分も防護服に足と袖を通した。同時に審判団が会場入りする。すぐに防護服とマスクで誰だか分からなくなるが、少しでも見知った顔が増えると、幾分気持ちも落ち着き、仕事モードに入ることができた。
ジャッジは他のケージ回りの人間と同様に防護服の着用が義務付けられている。防護服もマスクもしていないのは選手とケージ内のレフェリーのみ。セコンドはマスク着用、リングアナは防護服と防護メガネ、声が必要なためマスクはない。
当然のように「ここまでして、大会をやる必要があるのか」という声も聞かれた。逆に、そのような意見が聞かれないようでは、無観客といえども格闘技イベントを開いてはいけない。と同時に、全てが初体験のこと。大会を行って初めて気付くこともある。主催者の安全第一という絶対条件が、それでも参加者に浸透しきれてないのは今の日本の空気の表れだろう。
セコンドは1人という決まり事を、セコンドに就く人間は1人と捉え、控室までは2人、3人と同行者が出る選手もいた。試合後もシャワー使用の問題もあり、すぐに会場を離れられないで、控室に留まる選手も出た。今後、会場を変えようが無観客大会を徹底して接触を減らして行ううえで改善点でも見られた。
大会としては無事終わったといえるだろう。ただし、ここからだ大切だ。自覚症状のない感染者は、この会場に生まれたわけでなく、もともと存在する。それが誰かは分からない。よって新たな感染者が控室や会場で生まれる可能性は否定できない。
だからこそ大会に関わり、会場にいた人間の後追いチェックは不可欠だ。想像したくもないが感染者が出た場合、その経路をハッキリさせることが、コロナ時代の無観客格闘技イベントの肝になる。
手順通りに防護服を脱ぎ、頭から消毒液を散布され、カメラ機材、カメラ回りも、何か問題が起きるかもと案じるほど、消毒してもらい、最後に検温して会場を出た。そして、一番近くにあるレストランか食堂か、カフェか淡い光のスペースには、ケージ回りよりよほど密集状態で、笑顔で食事をする人たちがいて愕然としてしまった。
万全を期しても、万全はない。それでも、主催者とABEMAの施した対策で格闘技大会のみならず、小規模&無観客エンターテイメントが可能になるのか、その一歩を踏み出したことは確かだ。もちろん、早期終息に向けて──そんなモノは必要ないだろう。ロックダウンして、街中から人の声を失くせば良い。ただし現状では、この国はそうなってはいない。ならば早期終息がならない場合の経済活動を模索することだって必要だ。
有名ミュージシャンが自宅から、その歌声を届けることで世の中の閉塞感に風穴を開けることができるなら、格闘技だけでなくスポーツにもその力はあると信じている。
正解はない。誰もが考え、自分の信じた選択をするのみ。だから、重ねて言うが──無観客の格闘技大会には反対意見は必要で、その反対意見はもっともっと本気で熱がないといけない。そのような声があがり、さらに取捨選択がなされたうえで、それでも何かしらの格闘技の活動が可能になるならば、その形こそが今、我々に必要な格闘技の形である──と、格闘家ではないが、ファン時代を含めると45年、四半世紀を記者として格闘技と過ごしてきた自分は思っている。
最後に僕は歴史の証人になりたくて、あの場にいたわけじゃない。あの場にいることで、この件に対して堂々と意見できる人間でありたくて、一枠設けていただいた記者のスポットを活用させてもらった。そのことと家族の理解があって初めて、これが書けたということに心から感謝しています。
Road to ONE02 |
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<グラップリング・ライト級(※77.1キロ)/10分1R> | ||
△青木真也(日本) | 1R Draw 詳細はコチラ | △世羅智茂(日本) |
<ムエタイ72.5キロ契約/3分3R> | ||
○緑川創(日本) | 3R 判定 詳細はコチラ | ×西川大和(日本) |
<バンタム級(※65.8キロ)/5分3R> | ||
○後藤丈治(日本) | 1R3分58秒 ニンジャチョーク 詳細はコチラ | ×祖根寿麻(日本) |
<フェザー級(※70.3キロ)/5分3R> | ||
○工藤諒司(日本) | 1R2分59秒 TKO 詳細はコチラ | ×椿飛鳥(日本) |
<グラップリング・フェザー級(※70.3キロ)/10分1R> | ||
△宮田和幸(日本) | 1R Draw. 詳細はコチラ | △田中路教(日本) |
<ムエタイ・ストロー級(※56.7キロ)/3分3R> | ||
○HIROYUKI(日本) | 2R1分33秒 TKO 詳細はコチラ | ×ポン・ピットジム(タイ) |