【写真】サウスポーで構えたスーチョルが、左足でオーソのパク・ヘジンの後ろ足を蹴る。この近距離で戦い続けた (C)MMAPLANET
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。
青木が選んだ2021年9月の一番、第一弾は9月2日に行われたRoad FC49より、Road FCフェザー級王座決定戦=パク・ヘジンキム・スーチョル戦について語らおう。
──青木選手が選ぶ9月の一番、最初の試合は何になりますか。
「パク・ヘジンキム・スーチョルですね。この試合、スーチョルが奥足をローで蹴っていたんですよ」
──サウスポーのキム・スーチョルが、オーソのパク・ヘジンの右足を左ローで蹴っていたということですね。
「そうなんです。MMAではなかなかないですよね。あの近い距離って。ガードを固めて、首相撲に行ったりもするんですが、自分の奥足で相手の後ろ側にある足を蹴るって……。こんなことあるのかって思いましたね。そりゃあ、最後は殴られるだろうと」
──パク・ヘジンは、一発があるグラップラーです。前足にシングルなども仕掛けていました。
「ハイ。最後はギロチンでした。ただ、あれはその前の左フックがあったからですよね。あの瞬間、スーチョルをオーソで左フックを振って、左を受けて実質はノックアウトでした」
──組みだけを警戒していたのか。
僕もキックボクサーとキックのマスとかすると、奥足を蹴られるんですよね。K-1系のジムの選手はよく使う。昔、ボクサーが魔裟斗にローでやられるみたいな。MMAなのに、キックボクシングの距離であのローを蹴るのは、信じられなかったです。というより、ちょっと笑っちゃいました(笑)。あんなリスキーなことを、なぜする必要があるんだって思って」
──確かにあの距離は両者が、ダメージを蓄積させ両足が揃った状態で殴り合う。そんな展開ぐらいでしか見ない位置関係ともいえます。
「そう、その戦いになるとローなんて出ないです。結果論ですけど、あの距離で戦ったことが敗因になりますよね。スーチョルはミットの映像を見ても近いです。僕はコリアン・ボクシングと呼んでいるんですけど。
畑山隆則(元WBA世界スーパーフェザー級及びライト級王者)さんが近い距離で戦う人で。彼のトレーナーが柳和龍(ユ・ファヨン)っていう韓国人だったんです。
柳トレーナーに近い距離のボクシングを指導された畑山さんが、インタビューで「僕みたいな選手はもう出てこないでしょう」と言っていて凄く印象に残っているんですよね。それが柳トレーナーの教えで。だからスーチョルのミットとかも文化としてコリアン・ボクシングに近いのかと。
MMAではやっちゃいけない距離です。でも、それが韓国人選手ならではというか。そこに彼らは理屈があるんだと思います」
──イ・ユンジュン、チェ・ムギョム、最近ではオク・レユンらはあの距離ではないですよね。
「コリアンゾンビは近いし、チェ・ドゥホもそうですよね」
──確かにそうですね。そして後ろの手でアッパーを当てます。
「つまり距離が近いってことですよね。アッパーを当てるわけですから。そこがコリアン・ボクシングの文化だと思います。だから良い試合をしても、負ける。チェ・ドゥホとかそうですよね」
──アジアで打ち勝てたけど、UFCではそうではない……。ただスーチョルが、韓国国内であの距離で負けたのはショックです。
「それはやっぱり4年とか実戦から離れていたことは関係していると思います。コロナの影響もあってコンディション的にも万全ではなかったはずです。これだけ長い間、試合をしていないと負けもありえます。だから、スーチョルが負けたことには驚いてはいなくて。ただ、あの距離は何なのって思った試合でした」
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