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【NEXUS36】岸野”JUSTICE”紘樹を相手に防衛戦、横山武司「復帰戦は簡単じゃないなと思ってます」

【写真】この11カ月をしっかりと話してくれました (C)TAKUMI NAKAMURA

25日(日)、東京都港区のニューピアホールで行われるFighting NEXUS 36にて、フェザー級王者の横山武司が初防衛戦で岸野”JUSTICE”紘樹と対戦する。
Text by Takumi Nakamura

横山は2022年11月にNEXUSフェザー級王者となり、2023年からRIZINに参戦。9月の摩嶋一整戦でプロ初黒星を喫すると、摩嶋戦後の練習中に網膜剥離の怪我を負い、長期欠場を余儀なくされた。初めての負けのショックと選手生命を左右する怪我が重なり、MMAからの撤退も脳裏によぎったが、大晦日のRIZINを見て復帰を決意。NEXUS山田峻平代表から防衛戦の提案を受けて、約11カ月ぶりの復帰戦が決まった。今回のインタビューでは復帰を決断するまでの道のり、そしてこれからのMMAファイターとしての目標を訊いた。


――昨年9月、RIZIN44での摩嶋一整戦以来、約11カ月ぶりの試合となりました。摩嶋戦後に目の負傷で長期欠場を余儀なくされたと聞いています。

「そうなんですよ。摩嶋戦の後に網膜剥離になっちゃって。もともと小さい頃から目が悪くて、レーシックもやっていて、角膜そのものが薄かったらしいんです。医者からは何かきっかけがあってなるもんじゃないから、蓄積されたダメージだとは言われたんですけど、練習のときにがっつりアイポークをもらったあとなんで、それで(網膜剥離になった)かなと思います」

――例えば摩嶋戦の前に違和感があったりはしたのでしょうか。

「いや、全然なかったです。摩嶋戦の練習でアイポークがあったところから目の調子がおかしくて、1週間後ぐらいに完全に目が見えなくなって、びっくりしました。いきなり朝起きたら目が見えなくったんで」

――具体的にはどういう状況だったのですか。

「アイポークがあってしばらくはちょっと目がかすむなって感じだったんですよ。それで1週間ぐらい経ったときに嫌な夢を見て、びっくりして起きたら目が見えなくなってたんです。目のレンズの一部、25パーセントぐらいが真っ暗みたいな感じで。で、その真っ暗な部分が時間が経つにつれて大きくなってきて、これは絶対にやばいやつだと思ってすぐ病院に行きました」

――自然治癒じゃ無理だと判断して病院に行った、と。

「はい。最初に診察を受けた病院で網膜剥離と診断されて、すぐ大学病院に行って手術をしてもらいました。本来は1週間ぐらいで退院できるそうなんですけど、他の場所でも剥離しているのが見つかって。その箇所の手術が結構大がかりなものだったので大変でしたね。結局1カ月ほど入院して、運動してもOKになったのが半年後くらいでした」

――選手生命を左右する怪我だったと思うのですが、何か格闘技に対する向き合い方は変わりましたか。

「実は目が見えなくて入院した日に、嫁の妊娠が発覚して。嫁は産婦人科に行って、僕は眼科に入院して──みたいな感じだったんです。だから最初は総合なんてやってる場合じゃないと思いました。言うても僕が総合を始めたのは2年ぐらい前だし、死ぬまで続けるとは思ってなかったから、こんな怪我をしてしまって、子供も生まれてくるんだったら総合はこれで辞めようと。

でもそれは怪我で気分が落ちていて、摩嶋戦で負けてヘコんでいたのが大きかったと思います。それで退院して、退院してもすぐは体は動かせなかったから、年内はずっと家で安静にしつつ、大晦日のRIZINを見に行ったんですよ。そこでイゴール(・タナベ)とか仲間の試合を見ていたら『やっぱりこれ(MMA)やりたい!』と思いましたね」

――仲間たちの活躍がきっかけだったんですね。年明けから練習は再開できたのですか。

「振動を与えるのもダメだったんで、年が明けてもなかなか運動の許可が下りなくて。2月~3月ぐらいからようやく動き始めて、っていう感じですね」

――ジムの指導も休んでいたのですか。

「指導は年明けから始めたんですけど、スパーリングとかはやれなかったですし、本当にゆっくり徐々に…ですね。僕って4歳からずっと格闘技漬けの人生を送っていて、半年間ぐらい練習を休んだのは初めてだったんです。だから体がなまっちゃって『休むとこんなに(動き・体力が)落ちるんだ』と思いました」

――「練習を1日休むと取り戻すのに3日かかる」という言葉もありますが、そういった感覚ですか。

「そんな感じですね。本当にそうなるんだって。だから復帰戦は簡単じゃないなと思ってますし、しっかり作り上げていかないといけないんだなっていう感じですね」

――もちろん辛い時期だったと思いますが、休んだからこそ気づけたものもありますか。

「まず怪我はない方がいいです、それは間違いない。怪我とはちょっと関係なくなるけど、摩嶋戦で負けたことが、結構自分にとって大きかったなとは思ってます。自分はデビューから5連勝して、1回も負けてなかった。だから変な話、試合すれば勝てると思っていたんですよ。

それで摩嶋選手に負けたことで、勝つことがどれだけ嬉しいか分かったし、すぐ試合をして次は勝ちたいと思いました」

――試合で負けると次に試合で勝つまでは記憶は負けのままじゃないですか。

「本当にそうなんですよ。そうなると自分が弱いんじゃないかと思っちゃって、自分が強いという自信がなくなっちゃうんです。次の試合は勝てるかな?みたいな感じで。そのくらい摩嶋戦の負けはショックでした」

――改めて摩嶋戦の試合を振り返っていただけますか。

「あれは結構パニクった試合なんですよ。僕がしょっぱなに飛びヒザにいったところにパンチ合わされて、ガードを取ったところから15分くらい記憶ないんです」

――ファーストコンタクトでほぼ試合が終わったような感覚ですか。

「ほぼほぼ終わりましたね(苦笑)。あれから寝技の展開になったんですけど、そこからもう超パニックで。大舞台に飲まれたのかもしれないし、パンチが効いたのかもしれないし。摩嶋選手が強くて、どうしようどうしようとなって動けなくなったのもあると思います。

だからあの試合は自分の中では本当にバッドで。試合のことも覚えてないから、試合後の1週間ぐらいは自分に何が起きたのか分からなくて。記憶がないから試合を見返すのも怖かった。あれはもう本当なんか悪夢として終わってますね、自分の中で」

――僕もあの時は試合会場で取材していて、横山選手がインタビュースペースに来たときの様子がすごく淡々としていた印象があって。あれは試合の記憶がないから話ができなかったんですね。

「本当そうですね。あと試合で負けると、めっちゃハイになるんですよ。周りの選手を見ていて思うのが、負けると敗因や言い訳をすごい探すというか。自分が負けを経験して、試合で負けた後の選手のSNSを見たりすると、めっちゃハイになってるんですよね。

すごく長文を書いてみたり、やっぱり負けると様子がおかしい。負けを受け入れて悔しいですと言える選手の方が少ないと思います。当時は嫁と2人暮らしだったんですけど、僕の様子がおかしくても、奥さんも励まし方が分からない。嫁もショックを受けちゃって、状態が良くなかったんです。だからもうあんな思いは二度としたくないです」

――なるほど。家族としても負けを経験しないから、奥さんもどう接していいか分からなかったんですね。

「試合に出れば勝ってたわけだから、今回もそうなるだろうと思っていたら、そうじゃなかったわけですからね。嫁も初めての負けだったから、本当に何を言えばいいのかわかってなかったと思うし。いやぁ悲惨でしたね。自分はいつもポジティブで、いつでも明るい性格なんですけど、試合後の1週間はホントにひどかったです」

――そういった時期を経て、今回の復帰戦ですが、ある程度は夏に復帰する目途を立てていたのですか。

「いや、そういうわけじゃないです。ちょうど練習を再開するかどうかのタイミングでNEXUSの山田(峻平)代表と会う機会があって。最初山田さんは『目がそういう状態だと(MMAを)続けるのは難しいよね?』という感じだったんですよ。

それで『俺、やっぱやりたいっす』と気持ちを伝えたら『それだったら8月のネクサスで防衛戦をやってみない?』と提案してくれて。そこから徐々に練習がスタートしていった感じです」

――そのときに山田代表と話をして、一つ具体的な目標が出来たことが大きかったようですね。

「はい。そこで具体的にまた(MMAを)やる方向に行きましたね。いきなりRIZINで復帰もなしではなかったんですけど、それはちょっとハードルが高くて。自分はまだ総合を始めて2年半ぐらいだし、最初に声をかけてもらったNEXUSで、タイトルを取ってから1年9カ月ぐらいNEXUSには出てないから、ここで防衛戦をやってまた頑張ろうっていう感じですね」

――今はどんなことを意識して練習を続けていますか。

「復帰戦は楽じゃないので、何か新しいことをやったり、できることを増やしていく練習が一番いいんですけど、今はもうコンディションを戻すことを一番に考えています。もちろん対戦相手の対策とか、試合の作戦に基づいた練習はしていますけど、まずはやっぱ自分のコンディションですね。

僕はMMA=コンディションが大切だと思っていて、MMAは一瞬の隙で勝負がつくじゃないですか。だからその一瞬でちゃんと動けるようなコンディションが必要だと思っています」

――確かにMMAは柔術と比べると攻防の瞬間瞬間にやることも多いし、判断も多いと思います。

「あとはすごく人に見られるわけじゃないですか、アマチュア競技と違って。だからその緊張感ですよね。数カ月前にも試合していて、そこで勝って『フォー!』となっていれば、そのテンションで次の試合にも出るんですけど、今回は試合そのものが久しぶりだし、しかも直前の試合で負けている。

色んな嫌なことを経験したから、今は一試合一試合が自分にとってすごく重い。だから総合の試合では過去一で緊張してるかもしれないです」

――改めて横山選手は柔術とMMA、それぞれどこに戦う楽しさや喜びを感じていますか。

「自分の人生はずっと柔術をやってきて、家族でやっている柔術ジムが自分の生活の基盤になっています。今のジムは父が代表で、父と兄と僕の3人がインストラクターなんですけど、父は50歳でも黒帯の試合で優勝して。兄も30歳で全日本チャンピオンになった。父と兄で十分柔術の結果を出してるから、インストラクター3人のうち1人はMMAをやってもいいかなっていう。

父と兄がいなかったらずっと真面目に柔術だけやってると思うんですけど、今は柔術は父と兄に任せて、僕は総合にチャレンジする役じゃないけど、ジムの会員さんたちでも、RIZINとか総合が好きな人が多いから、そういう人たちにとってはジムの誰かが総合に出るほうがある意味盛り上がるっていうのもありますね。

あとはやっぱり本当に、シンプルに総合がずっと好きなんですよ。小さい頃からPRIDEとかDREAMを見て総合をやりたいと思っていたから、その頃の自分の夢を叶えるじゃないけど、あと2~3年間で総合をやりきって、また柔術だけの生活に戻りたいなと思っています」

――横山選手の中ではある程度MMAをやる期間を決めているんですね。

「MMAの練習ばっかりやっていると、どうしても純粋な柔術のレベルは落ちるんですよ。それはそれですごく自分的にはプレッシャーで、早く柔術に戻らないと、柔術に戻った時に苦労するのが分かっています。自分は柔術を死ぬまでやるつもりだし、逆に総合はマジでやって35歳ぐらいまでだと思ってるから、今は死ぬ気で総合をやりきって──ですね。

あとはやっぱお金ですね。家族もできたし、娘も生まれたし、家族で海外旅行とかそういう遊びにもいきたいので。ちょっと総合で稼ぎたいなとは思ってます」

――今回NEXUSでの防衛戦をクリアしたらて、その後はまたRIZINに出ていきたいですか。

「そうですね。僕はNEXUSデビューで、NEXUSでチャンピオンになったことでRIZINデビューできて。NEXUSがあったから今の自分がいると思っています。だからちゃんとNEXUSのチャンピオンとしての役目(防衛)を果たして、RIZINにチャレンジしたいです」

――今回は岸野選手の対策もされてると思いますが、一番は自分のパフォーマンスをちゃんと出し切ることですか。

「岸野選手は、打撃に特化した選手とか寝技に特化した選手というよりはオールラウンダーで、バランスの良い選手だから、本当に自分のパフォーマンスをいい状態に仕上げて、力が100%出せれば絶対に勝てるっていう自信があります。もちろん、相手の動画はちゃんと見ているし、油断はしてないです」

――横山選手自身も見ている側も、横山選手がRIZINのトップ戦線に絡んでいくことを期待していると思いますが、そこはどう考えていますか。

「自分はRIZINデビュー戦では勝てたんですけど(山本琢也に一本勝ち)、2戦目でやった摩嶋選手はRIZINの主要メンバーじゃないですか。だから摩嶋選手のような相手を倒して初めてRIZINファイターを名乗れるというか。RIZINに1~2回出たことがある選手じゃなくて、RIZINで何戦もしてる選手を倒さないと、自分をRIZINファイターとは言えない。日本で総合をやるからにはちゃんとRIZINファイターになることが大事だと思うので、まずはそこを目標にしています」

――胸を張ってRIZINファイターを名乗ることが当面の目標ですね。

「そうですね。摩嶋戦の時にどういう心境ですか?と聞かれて『これが公式なRIZINデビュー戦だと思ってます』と答えたんですよ。それで見事にやられたんで、RIZINファイターは強いなというか。これが日本のトップなんだなと感じました。でもしっかり練習していけば、そこら辺も倒せる自信はあるので、これからまた頑張っていきます!」

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【RIZIN46】コレスニック戦へ、7カ月振りの実戦=中原由貴「空手とボクシングの両方の教えを実践できる」

【写真】8月末に移転することが決まっているマッハ道場巣鴨の前で (C)TAKUMI NAKAMURA

29日(月・祝)、東京都江東区の有明アリーナで開催されるRIZIN46で、中原由貴がビクター・コレスニックと対戦する。
Text by Takmumi Nakamura

中原は昨年9月のRIZIN44で白川陸斗に判定勝利。約7カ間ぶりの試合となったが、試合間隔が空いたことで剛毅會空手とボクシングの融合をはじめ、自身のMMAにさらなる磨きをかけてきた。RIZINで2戦2勝の本格派コレスニックとの対戦を前に「キャラが立っている選手同士の試合じゃないけど、こういう試合を楽しみにしているという声もあるんで、それに恥じないように自分をしっかり出したい」と語る。


──昨年9月の白川陸斗戦以来、約7カ月ぶりの試合が決まりました。

「前回の試合が終わって大晦日に試合をしたかったので、そういうリクエストもしていたのですが(試合が)決まらなくて。それで最終的に4月の有明アリーナでコレスニック戦のオファーがあって、そこで話がまとまった感じですね」

──白川戦で勝利したこともあり、できるだけ早く試合はやりたかったですか。

「そうですね。でも結果論ですけど、今のパフォーマンスを考えるとしっかり期間が空いたことで組みの反省もできたし、打撃もいい感じになってきているんですよ。逆にもっと早く試合が決まっていたら、仕上がりが中途半端になっていたのかなと思います」

──試合が空いたことがプラスになっている、と。

「はい。むしろこのくらいの試合間隔の方がよかったかもしれないです。前回の試合も当初希望していた6月から9月に後ろ倒しになって、ちょうど剛毅會で空手を狙い始めた時期だったんですけど、6月だったら中途半端なパフォーマンスになっていたと思うんです。それが9月にずれたことで、ちゃんと練習の成果が出せました」

──試合間隔が3カ月となると、技術を伸ばすための練習に割く時間が短くなってしまいますよね。

「そうですね。新しい技術を覚える前に対策練習をして、減量して…となるので」

──そういった意味では前回の試合以降は、MMAの中でもどんなことを意識して練習されてきました?

「まず白川戦を振り返ると、あのシチュエーション(コーナーに押し込んで寝かせようとする)でもブレイクかかるんだなってことですね。ルールミーティングで事前に聞いていたので、ブレイクのタイミングには納得しているんですけど、じゃあレフェリーにブレイクさせないためにはどう動くべきだったか。そこは意識して練習しています」

──前回の試合は組みを主体にして、相手をテイクダウンもしくはコントロールするプランだったのですか。

「あの試合は打撃で勝負するつもりは全くなかったです。組みのトライが増えて、相手の打撃を被弾した部分もありましたが、組んで勝つことを決めて臨んだ試合だったんです」

──なるほど。

「それがKO負けした鈴木千裕戦の反省でもあるし、大塚(隆史)さんの所でずっと取り組んでいた”組み”をどれだけ磨くことができたかを答え合わせする試合にしたかったからです。こう言うと語弊を生むかもしれないですが、フィニッシュするとしたらスタンドのKOではなくて、削りきってパウンドアウトだったり、一本勝ちだと思って戦いました」

――しっかり自分のなかでテーマを持って臨んだ試合だったんですね。

「3Rに僕のパンチが当たり始めても、自分から組みに行ったのはそういうことです。もしあそこで打撃でいっていたら鈴木戦の二の舞いになったかもしれないし、組み勝つという課題を持って臨んだ試合だったからこそ、ああいう戦い方を選択しました。ただし今回はそういう試合にはならないと思うので、必然的にリスクを冒してトライする試合になると思います。打撃に関してはずっと岩﨑(達也)先生から指導してもらいつつ、コレスニックと試合が決まった段階で、ボクシングを見てもらっているトレーナーに連絡して、いつもより早めにボクシングを教えてもらっています」

──ボクシングの練習を早めに導入したのはビクター・コレスニック対策なのですか。

「空手の練習をやっていて、どうしても空手の攻撃では距離感にしても、僕の中で攻撃が出づらい部分があったんです。もともと僕はボクシングをずっと教えてもらっていて、前回の反省として、それ(ボクシング)も使うべきだと思いました。空手の教えが進んでいく中で、今この段階だったらいい具合に空手とボクシングが混ざるだろうと思い、ボクシングコーチに早めにスケジュールを決めてもらい、毎週ボクシングも練習しています。なので空手の教えがありつつ、そこにもともとやっていたボクシングをさらに強化みたいな感じです」

──一度空手をやると決めて、やり込んだからこそ、ボクシングの必要性が分かったということですか。

「それもあると思います。例えば新しいことに触るだけ触って自分に合わないなと感じることもあると思いますが、僕は岩﨑先生の武術的な考え方もめちゃくちゃ面白くて刺さったし、なんとか空手を自分のものにしたかったんです。ただどうしてもいざMMAで、しかも試合で使うとなると、そこまで行ききれない難しさもあって。大塚さんも『そこはしょうがないよ』と言ってくれるのですが、どうしても僕自身が納得がいかなくて。

そういう中で岩﨑先生から『これができたから、次はここまで行こう』って言ってもらって、そこまで来たら(ボクシングが)使えるじゃんと。ちょうど今がその時期だったんです」

──このタイミングでボクシングをやったことで、空手とボクシングがどう融合されていますか。

「パンチが入りやすくなったし、ボクシングコーチからも大塚さんからも『パンチが見えづらくなった』と言われます。MMAのスパーリングをやらせてもらっている選手たちからも動きが良くなっていると言ってもらえて、やっと空手とボクシングの両方の教えを実践できるようになって、上手く混ざってきましたね」

──改めて対戦相手のコレスニックには、どんな印象を持っていますか。

「体が強そうですし、全部できますよね。本当に上手な選手だと思います。ただ僕はRIZINに来た2試合しか見ないようにしていて、古い映像やKO集みたいな動画を見て、変な印象を付けるのも良くないじゃないですか。結局直近の動きが一番参考になるので。で、運がいいことにRIZINの2試合でオーソドックもサウスポーも両方やっていたので、そこも頭に入れています」

──判定決着にはなりましたが、高木凌選手と対戦した試合の方がコレスニックの引き出しが見えた気がしました。

「コレスニックが岸本篤史選手とやった時も、彼のほうから組んでいたんですけど、あれは岸本選手のパンチが当たって、ちょっと効いたと思うんですよ。そこでコレスニックがガッと組みに行って、勢いでガチャガチャと上を取ったように見えました。でも高木戦を見ると、コレスニックはバックを取られた時にちゃんと高木選手の片手をツーオンワンにとって立ち上がったり、バックコントロールで片手を外してフロントチョークに入ったり……細かいところもちゃんとやっていたんですよね。あのレベルの選手なので当たり前と言えば当たり前ですが」

──今の中原選手の言葉にもあるように全局面で勝負して、そのどこで山を作るかがポイントの試合になると思います。

「僕もそういう試合になると思うし、向こうも打撃も組みも両方やって来ると思います。でもそうやってお互いが全部を警戒しているときこそ、予想外の一撃で早期決着で終わることもあるじゃないですか。そういう可能性も頭に入れています」

──想定外のことが起こることも想定している。色んなパターンをシミュレーションしているようですね。

「だいぶ(シミュレーションを)やっていますね。あとは試合当日、自分が万全かも分からないし、体調も含めて、ですよね。でもそのくらい考えさせられる相手ですよ、コレスニックは」

──厳しい相手だと思いますが、時期的にはそういう相手と戦いたいという気持ちもありましたか。

「そうですね。パンクラス時代に当時の日本人選手とはあらかたやって、それからONEでは色んな外国人選手と戦ってきて。ONEでやっていたような未知強とばっかりやるのは微妙ですけど(笑)、強い外国人選手と戦うことは楽しみですね。今までも海外を選んで試合をしている人もいるじゃないですか。そういうタイプだと思うんで、自分は」

──僕はこの試合は実力者同士のランキング戦のようなイメージを持っています。

「派手な試合というかキャラが立っている選手同士の試合じゃないけど、こういう試合を楽しみにしているという声もあるんで、それに恥じないように自分をしっかり出したいです」

──コレスニックに勝てば連勝にもなりますし、中原選手の評価も上がると思います。今年はどんなことを目標に戦っていきたいですか。

「コレスニックに勝って、どれだけ評価が上がるかは分かりませんが、間違いなく上に行く確実なステップにはなると思います。だからコレスニックに勝って、次はRIZINのフェザー級で名前のある選手とやって、そこからタイトルマッチにつなげたいですね。同じ日のタイトルマッチ(鈴木千裕×金原正徳)でどちらが勝つか分かりませんが、フェザー級の列に並んでいる選手たちを引きずりおろしたいです」

──そういう相手に勝っていけば発言権も得られますし、中原選手が希望する相手との試合も組まれると思います。最初の話に戻ってしまいますが、だからこそ試合数が減ったものの、この1年で中原選手のMMAが熟成されて、今年はそれで勝負する1年になると思います。

「3年ぐらい前の自分だったら、MMAファイターとしてここまで来られていなかったと思います。そのくらい今は色んなことが繋がり始めて、空いていた隙間がきれいに埋まってきています。それは競技に集中できる環境を整えてくれた周りのおかげでもあるんですけど、今は格闘技をやっていて楽しくてしょうがないですね。一つ技を覚えると色んなことがどんどんつながっていくんで」

──今まで使っていなかった技術が急に使えるようにもなるでしょうし。

「そうなんです。『ああここで使えたんだ!』みたいな。それが本当に楽しくてしょうがなくて、このまま時間が止まってほしいとさえ思っています。自分が思っていた以上に強くなれるじゃん、俺って。30歳を超えたらパフォーマンスが落ちると思っていたんですけど、いい具合にトレーニングの数値もまだ良くなっているし、まだまだやれそうだなって手応えはありますね」

──この中原選手の話を聞いて試合が楽しみになったファンの人も多いと思います。最後にファンの皆さんに一言お願いします。

「下馬評や予想で色々言っている人もいますけど、それを超えるために頑張っているし、頑張ってきたことが無意味じゃないぞってことをきっちり見せて、面白い試合をやって勝ちたいと思います。僕自身もこの試合が楽しみなので、みなさんも楽しみにして見てもらって構わないです」

■視聴方法(予定)
4月29日(月・祝)
午後4時30分~ABEMA、U-NEXT、RIZIN100CLUB、スカパー!、RIZIN LIVE

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【Special】J-MMA2023─2024、山本アーセン「選手は分かったと思います。俺が何をやっていたのか、は」

【写真】これから山本の名でMMAを戦っていくのはアーセンだ(C)MANABU TAKASHIMA

2023年が終わり、新たな1年が始まるなかMMAPLANETでは2023年に気になった選手をピックアップ──過ぎ去った1年を振り返り、始まったばかりの1年について話してもらった。
Text by Takashima Manabu

J-MMA2023-2024、第十六弾は遂に覚醒した──いやあるべき力を見せるようになった山本アーセンに話を訊いた。

戦績的には1勝1敗、通算でも4勝6敗と白星と黒星を一つずつ積み重ねたに過ぎない。それでも伊藤裕樹を組みで封じ込んだ戦い、TKO負けを喫したが福田龍彌と打撃でやり合った姿勢から2024年への期待が膨らみまくったアーセンに「爆発する準備」について尋ねた。

■2023年山本アーセン戦績

5月6日 RIZIN42
○3-0 伊藤裕樹(日本)

9月24日 RIZIN44
●3R1分36秒by TKO 福田龍彌(日本)


「俺を蘇らせてくれた將生、リョウ君、ジョーイです」とアーセン

──大晦日、お母さんの美憂選手のセコンドには就いたもの試合出場はなかったです。もう秋口からとある選手の名前、そして違う選手と戦うという話も伝わって来ていましたが。

「これ、全部正直に話しますけど、自分が大晦日に戦おうと思っていたのは〇〇〇〇〇との話があったからです。『よし、よし、よし』と。それが〇〇〇に代わったと伝えられた時に『えッ? そっかぁ』みたいになって。その時、僕が練習でやっていたことは寝技の戦い方を変えることだったんです。RIZINの試合って直ぐにブレイクが掛かるというのがあったけど、『これだけ待ってくれんの?』ってしばらく様子を見ることもあって。レフェリーによって、まちまちで。僕自身戦っていて早いなって思うことがあれば、余裕を持って攻めても良い試合もある。

そのなかで僕自身、固めてパウンドやヒザという攻めから、フィニッシュに持っていく形にしないといけないと思って。その練習をするようになっていました。そんな時に〇〇〇というオファーがあって、以前のように相手を選ばずにどんどん試合をするという選択もありましたよ。でも自分の体をこと考えると、ここはスマートにやっても良いかなって。

ずっと戦うことはできるけど、タイムリミットも考えるようになったなかで〇〇〇戦だと、あまりにも向うにしか得がない試合じゃないのって。その試合のために内臓を痛めて、57キロに落とすメリットは余りにもない」

──最後にお母さんと同じリングで戦うことに、魅力を感じなかった?

「もちろん、ありました。でも、そんな思い出目的だったらコーナーにいて全力でサポートする方が良いと思いました。それがあるから、〇〇〇とのオファーでも受けるって思われてんだろうなぁっていうのもあったので。俺は今まで、誰とでもやりますっていうスタンスだったけど、ちょっと賢く行っても良いだろうと。

自分がRIZINにいるのは、本当に(堀口)恭司さんと戦いたいから。そこに辿り着くまで、俺も上手くやっていって良いだろうと考えました。だから、体のことでなくて対戦相手で断ったのは初めてのことです」

──そこを考える年齢になったということでしょうか。

「考えても良いかなって、思うようになりました。これまで考えないでやってきたので。本当の格闘家なら、侍のように道端で刀を振られれば誰が相手でも応じないといけないんだろうけど。ちょっと違う、自分でいようかと。格闘技の知識、体のダメージの知識もついてきたので効率というものを考えました。結果2024年の戦いに向けて、爆発する準備をしておこうと受けないことに決めたんです」

──断ると、次がなかなかないかも?ということは考えなかったですか。

「だったら、それで良い。それだけ準備期間になるから。ただ、直ぐでなくても絶対に呼ばれるので。だったら、その時にもっと強い自分を見せることができる。俺に不可能はないし、ちゃんとした強さを求めて1試合、1試合をやり切ることにしたので。ちゃんと考えて、土台を創って戦っていこうと思っています」

──それは2023年の試合で、手応えを感じることができたからこそではないのでしょうか。

「結果ではなくて、自分が何をやっていくのが見えました。試合がなくても、練習は続けているし。進化している。試合に入るためのモード創りというモノがあるし。その方程式を見つけたから、試合間隔が空いても次の試合でもっと良いモノを見せることができる。結果でなく、自分が崩れないために必要なモノが見つかったから、ここは賢くやっても良いかと思ったスね」

──敢えて尋ねてさせてもらいますが、9月の福田龍彌戦が賢くないことをする最後の試合だったのでしょうか。

「えっ、どういうことですか?」

──あの距離で打ち合った。あそこで打撃戦を続けることができるなら、テイクダウンにもっと入れることができるのではないかと思った次第です。でも、終盤にいくほど殴り合った。

(C)RIZIN FF

「そう、あれは根性試しです。

打撃のことを知らないでバカバカ攻めて、バカバカ貰っていました。それで俺のなかに恐怖心が残った。結果、怖いのに殴りに行って。今は打撃の原理原則……角度、距離、タイミングとトップファイターが考えているであろうことを考えられるようになったと思います。

相手は打撃の選手。きっと打撃戦に付き合ってくれる。そんな相手と戦うことで、また恐怖がもたげるのかなって。習った知識を全て出すことができるのか、結局習っただけで試合では出すことができない人間で終わるのか。自分が本物のファイターであるのか、そこを確かめたかった」

──カットもあり、被弾もした。そして当てることもできた。そこで、できると確信が持てましたか。

「ビビらなかったし……自分は狙うと頭が止まる。体も止まる。それが弱点で、今直しているところで。でも、やっていることは出せたかなって」

──TKO負けしてまで、そこに拘る必要はあったのでしょうか。2Rで確信して、3Rはテイクダウンを織り交ぜようとかは考えなかったですか。

(C)RIZIN FF

「それをやると、俺は伸びねぇ。

それだとやり切れていない。テイクダウン、正直取れたと思います。でも、そこじゃない。テイクダウンに行かないことで、俺は将来への自信を得ることができたから。ただバコーンと入れて、相手がコーナーに詰まっていても行けなかったのはフックを警戒し過ぎたから。あれは完全に俺の弱さが出ました。的だけ見ていれば、フックは当たらないのに。あそこは跳びヒザをガッツリと極めることができたに違いない。ただ入るとフックが来ると思っちゃって……後ろ足に体重が掛かってしまった。ダメッすよね」

──ビビらないと、それはそれで危ないことですし。

「アハハハハ、メッチャその通りで。真ん中を取らないと。だから試合が終わった時に、バコーンと食らわせたらグラウンドでフィニッシュしないといけないという話し合いをしました」

──ハイ。あそこで下がらず打てると、アーセン選手のテイクダウン能力はグンと上がることが予想できます。

「上がるッスよ(笑)」

──あの距離で打ち合える日本人レスラーは、ほぼ記憶にないです。でも、最高峰にはドンドン打ち合えるレスラーがいます。

「俺はテイクダウンも切れるし。やっていることはお客さんには伝わらなかったかもしれないけど、他の選手は分かったと思います。俺が何をやっていたのか、は。『俺、ビビッてねぇからな』、『俺、組みだけじゃねぇからな』、『お前らをぶっ飛ばす方法なんて、いくらでもあるからな』というメッセージを込めて戦いました。

自分の試合は、次の試合へのストーリー創りでもあって。その場で全てを賭けているけど、それは次の試合に繋がっているんです。伊藤(裕樹)選手との試合で、組み続けた。でも福田選手との試合のテイクダウン狙いは、右オーバーハンドを当てるためでしかなかった。『組めなかった』と言われても、関係ねぇよ(笑)。追いかけるつもりなら、死ぬほど追い続けることはできた。だから次からは『さぁ、どっちだ』って、戦うことができるので。

でも、それも福田選手が相手だから試すことができたんです。日本のトップだから、今の。彼のやりたいところで、やれたから。そんなこと言っても、散らし方は下手でしたね(笑)。テイクダウンを意識させて、殴ろうと思っていたけど。ただ控室にいる時まで、テイクダウンから組み有りきの作戦だったんです。誰にもいわず打撃に切り替えたス。でも、モッサ(秋元僚平)先生と(中村)倫也は状況判断ができて、グラウンドから立ち技に指示を切り替えてくれました」

──まさに以心伝心ですね。

「幼馴染だから、俺の性格も知っている。

だからこそ、打撃で行くと決めて途中で曲げることはできなかったですよね」

──いやぁ、次の試合が本当に楽しみです。

「新しい動きも取り入れているし、楽しみにしてください」

──常々、そして先ほどもRIZINで戦う理由は堀口恭司選手と戦うことと明言しているアーセン選手ですが、堀口選手がフライ級王者になり、扇久保博正選手がジョン・ドッドソンを倒しました。現状、RIZINフライ級トップ戦線をどのように見ていますか。

「そこは放っておいて(笑)。戦(いくさ)と同じで、やらせておけば良い。どうぞ、脳みそを痛めあってください。その間に俺は着々と体も元気にして、チャンスがどんどん広がってくるから」

──その間、実績を残さないといけないわけですが。2024年はどのような選手と戦っていきたいと考えていますか。

「試合云々の前に、この間の大会の時にジョン・ドッドソンと凄く仲良くなって。あの人の普段の優しさと、リングに入るともう眼が違っているところとか格好良くて。アルバカーキに練習に来いって言ってくれたから、ちょっとドッドソンのファイトIQを貰いにニューメキシコに行ってこようかと考えています。

そこを貰えると強くなれるから、『欲しい』と伝えると、『俺で良ければ』と言ってくれて。次の試合はいつか分からないけど、2月か3月か──そこが終わったら、ドッドソンのところに2カ月ほど合宿に行こうかと考えています。そこまでは考えています。

その前の試合に関しては、誰が相手でも良いです。1回、断ってしまったんだから、やれと言われればやります」

──この1年でどこまで行けると踏んでいますか。

「行けたら、神龍(誠)まで行きたいですね。まぁ恭司さんとの試合を見て、強いって言われているけど、そこまでじゃない。逆に恭司さんがベテランっぽい戦い方になったから、ああいう風に戦えたんじゃないですか」

──ベテランらしい戦い方とは?

「冷静さを手に入れたんだと思います。あれだけ練習通りに、ポジションを取って潰すところは潰して戦えるということは。でも、あの試合で2人ともどこが嫌か見せてしまった。それはもう、変えることはできないはず」

──押忍。では続いて1月28日、ONE165で三浦彩佳✖平田樹戦が行われます。

「これさぁ……俺が想うことは全部話します。でも、何を書くかは選んでください。俺、全部話すんで」

──承知しました。

「正直、この試合に関してはどうでも良いって言っちゃアレだけど……日本の格闘技だから」

──格闘技として下品な対戦ですよね。でも、この試合を取り扱うにはそこを抉らないと、意味がない。そこで騒がないと、なんのために組まれたカードが分からない。

「うん、その通り。でも、それが日本のやり方じゃないですか」

──ではアーセン選手のところに、この試合についての取材もきますか。

「そこは『聞くなよ』っていうオーラを出しているから。『分かっているよな』、『察しろよな』って」

──申し訳ないです。察することができなくて(笑)。

「今はオーラを出していないです(笑)。『取材とかあっても話さない方が良い。2人とも傷つくから』って言ってくれる人もいましたけど(笑)。俺は最初から、話すつもりもないし。それに試合が組まれて、どんな形でも注目されるなら彩佳にとってチャンス。向うからしても、チャンス。俺はもう、そういう風に捉えています」

──平田選手と付き合っている時は完全にトレーナーという役割も果たしていたではないですか、練習場所も同じで。一方で三浦選手にはTRIBE TOKYO MMAという居場所があり、導いてくれる人がいます。

「一緒に練習はやっていないです。たまに相手がいない時に打ち込みぐらいはやったけど、それぐらいで。まぁ、お互いに全力で戦ってくれれば良い。どっちも一生懸命やれば良いけど、俺は彩佳側だよってことで」

──コーナーには?

「就かないですよ」

──この試合が組まれそうだと聞いた時、『アーセンがレフェリーをすれば良い』って言っちゃいましたよ(笑)。

「バカヤロー(笑)。自分は基本的にどっちも頑張れ──ですから。皆に良い試合を見せてください。感動をあたえてください。それだけっスよ。さっきも言ったけど、彩佳サイドっスよ。でも、元の彼女が不幸になれなんて、絶対に思わないス。そんな罰当たりなことはできない。俺はもう色々な無駄なモノを省いたうえでの、大の格闘技ファンなんですよ。俺が好きなのは、そういうことでなくて……戦い。戦いを見るのが好きなので。そういう、いちファンとしても口を挟んじゃいけない。素直な格闘技ファンとして、最後まで素直に楽しみたいです。青木(真也)さんの試合もあるし、あの大会自体が楽しみです」

──その姿をカメラで追われるのは?

「いやです。俺はRIZINファイターだから、他の会場でそういうことはできない。だって、母ちゃんが戦っているわけじゃないんだから。ついて回られても、困るんで」


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【Special】J-MMA2023─2024、福田龍彌「ユーザー(ジューサー)というものの凄さを改めて知りました」

【写真】負けじ魂が、福田をどこまで成長させるか (C)SHOJIRO KAMEIKE

2023年も残り僅か、2024年という新たな1年を迎えるには当たり、MMAPLANETでは2023年に気になった選手をピックアップ──過行く1年を振り返り、これから始まる1年について話してもらった。
Text by Shojiro Kameike

J-MMA2023-2024、第四弾は12月6日(現地時間)にカザフスタンの首都アスタナで開催されたNAIZA FC55で、ジアス・エレンガイポフに敗れた福田龍彌に話を訊いた。DEEPフライ級GPで優勝し同級暫定王座も獲得、続いてRIZINで山本アーセンを下した2023年最後の試合で喫した敗北について、福田は何を想うのか。

■2023年福田龍彌戦績

2月11日 DEEP112
〇3-0 宇田悠斗(日本)

5月7日 DEEP113
〇3-0 本田良介(日本)

9月24日 RIZIN44
〇3R1分37秒 by TKO 山本アーセン(日本)

12月6日 NAIZA FC55
●0-3 ジアス・エレンガイポフ(カザフスタン)


――カザフスタンでの試合後、風邪をひいていたそうですが、それは帰国後ですか。

「試合の日の夜から前兆はありましたね。とにかく無事に帰国することが一つのミッションやったので、それは達成できました(笑)。今回はまずカザフスタンのアスタナという街まで行くのがメッチャ大変だったんですよ。

まず朝10時ぐらいの飛行機で日本を経ち、2回乗り換えて、現地に着いたのは夜中の2時ぐらいでしたから。それは現地時間なので、日本でいうたら朝5時ぐらいですか」

――大会前にはライブ中継に関して、当初は有料だったメインカードも無料視聴できるようになったなか、ひと悶着あったそうですね。

「もともと『オンラインで中継する』とは聞いていて。僕の周りでも視たいと言ってくれている人たちも多かったから、現地で視聴方法を確認したんですよ。でもNAIZA FCのYouTubeチャンネルは日本で登録しているクレジットカードでは決済できない、と。そうなると日本では誰も視られへんから、マネージャーさんがプロモーターと交渉してくれて、メインカードも無料で視られるようになったという流れです。

僕は『みんなに視てほしいから試合をしている』というわけではないんです。でも応援してくれている人には試合を視てもらいたくて。そういう意味では、無料中継を勝ち取ったのが今回唯一の功績じゃないですか(笑)」

――唯一……(苦笑)。現地に着いてからコンディション調整はいかがでしたか。

「それがまたホテルも凄くて。半身浴をしようと思ってバスタブにお湯を溜めたら、なぜか僕の部屋はどこからか漏水して、居住空間のカーペットまで水浸しになるという。ただ、部屋はずっと暖房がガンガン効いていて乾燥しているんですよ。だから部屋のカーペットがビチャビチャになったのが、ちょうど良いぐらいで」

――アハハハ。しかし、その状態だと現地での減量はうまく行うことができたのでしょうか。

「日本で体重を落とすよりもシンドイ状況でした。ホテルのサウナも使えるけど、日本のサウナとは違う感じで――結局、必死でエアロバイクをこいで落としましたね」

――試合結果はフルランドを戦い、判定負けを喫しました。まず率直な感想から聞かせてください。

「う~ん、なんか現実を感じてしまいましたね。まず1R、相手の馬力にビックリしたんですよ。今まで感じたことのない馬力で。テイクダウンに入られた時、原チャリで突撃されたんかと思いました。でも『こんなに強いヤツがおるんか』と僕のテンションは上がって」

――テイクダウンを奪われたあと、立ち上がらずボトムから三角絞めを狙いました。あの展開は、スクランブルでスタミナを消耗しないようにという作戦だったのですか。

「あの時は相手をバテさそうと思っていました。ジアスにとっては『行けそうで行けへん』という状態にして、スタミナだけ使わせてやろうと。現に1Rが終わったら口を開けて、メッチャ肩で息をしながらコーナーに帰っていくから『あぁ、良かった』と思ったんですよね。5Rあるし、次のラウンドでスタミナを使い切らせて3~5Rで倒そうと考えました。でも1分のインターバルで全回復してきよるんです」

――えっ!?

「2Rに入っても全く出力が落ちなくて。だから3Rには相手のことが機械のように感じられましたよ。壁に押し込まれている時のプレッシャーも落ちない。今までの試合を視てもらったら分かると思うけど、僕もスタミナが切れるほうじゃないから。でもそれを凌駕するものを感じたというか――ユーザーというものの凄さを改めて知りました。負けた自分が、そんなことを口にするのも情けないけど」

――ユーザー、ですか。

「たとえば僕たちは5キロを走ることを考えて、ペース配分をするんですよ。でもジアスは100メートル走のペースで1キロ走っている。ペース配分して走っている僕に追いつく前に全回復して、また1キロ全力疾走していく。ジアスの力の使い方が、30秒一発勝負のシチュエーションスパーみたいなペースで。その力で25分間、攻めてくるんですから」

――福田選手がケージに押し込まれた際、しっかり腕を差し上げてバランスを取っていたにも関わらずテイクダウンされたことには驚きました。

「さらにジアスは巧さも持っているから大変なんですよ。技術的な面でも、レスリング力には差があったとは思います。でも抑え込まれても立つことはできたし、『今の自分がやっていることは通用するんやな』とは感じました。

ジアス戦では僕のほうが戦い方を変えていたら、もっと他のこともできたかもしれないです。ただ、それでは自分のほうが3~5Rもたへん。対してジアスは5Rまで同じペースで戦える。そういう状態で、どうやったら勝てたのか。一発カウンターを合わせるしかないけど、こちらの打撃にテイクダウンを合わせてくる巧さは持っていて。さらにインターバル中に全回復してくるから、徐々に崩して削っていくこともできませんでした」

――するとジアス戦に関しては悔しさというより、ユーザーに対して……。

「いや、メッチャ悔しいですよ。何年振りやろう? 平良達郎戦でも神龍誠戦でも、こんなに悔しくはなかったです。今回は言葉にするのが難しいぐらい悔しくて。試合はひたすら投げられて、立つけど投げられての繰り返しやったから、もう二度とそんな情けない姿は見せたくない。

僕はデビュー当初、負ける場合は漬けられることが多かったんですよ。それが悔しくて、どうやって漬けられんようになるかって考えながら、12年間やってきました。だからテイクダウンディフェンスには自信を持っていたし、倒されても立ち上がることに関しては血眼になって取り組んでいきた自信がある。実際に試合でも結果を出してきたと思います。

でも今回は自分がやってきたことを突破され、完膚なきまでに叩きのめされた。それがホンマに悔しいんです。今も毎晩のように思い出して、悔しくてジッとしてられへんぐらい――自分に対して悔しい」

――……。

「そういう意味では、今のモチベーションは過去イチ高いです。もっともっと強くなる。そのためにも、今後の取り組みも含めて考え直していきますよ。来年にはもう32歳で、きっと40歳まで現役を続けることはないと思います。だからこそ、こういう悔しい経験は今回で最後にしたい。自分の中では答えが出ているので、いろいろ修正しながら2024年はまた暴れようかなと思っています」

――2024年はどのような1年にしたいですか。

「早ければ2月には試合したいですね。個人的にはバンタム級でやりたいとは思っています。このままフライ級にこだわっていても――たとえばRIZINやと扇久保博正さんとは戦ってみたいです。でも扇久保戦に行くまで、あと何試合やらないかんのやろうと考えると……今すぐオファーが来たら戦いますけど(笑)。DEEPフライ級では、神龍君が統一戦をやってくれるなら試合したいです。それがDEEPフライ級で唯一やり残したことやから。

どうせ福田が勝つやろ、と思われるようなマッチメイクやと面白くない。僕自身も燃えへん。それやったらフライ級より、バンタム級のほうが新鮮で燃えるカードが組まれるんじゃないかと思っています」


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【RIZIN44 & NAIZA FC55】福田龍彌が振り返るアーセン戦&NAIZA─02─「二冠になり、バンタム級で…」

【写真】いかなる終了の仕方でも、ルールに則り福田の勝利は動かない。それでいて、絶対に再戦が見たい激闘だった(C)RIZIN FF

9月24日(日)、さいたまスーパーアリーナにて開催されたRIZIN44で、山本アーセンに3R TKOで勝利した福田龍彌のインタビュー後編。
Text by Shojiro Kameike

1Rと2Rで仕留めるための準備が終わった。「さぁ、これから――」と3Rに臨む福田に対し、ドクターチェックからアーセンの逆襲が始まる。驚きながらも基本通りのジャブを突き続け、レフェリーストップを呼び込んだ福田。その激闘を振り返るとともに、2023年を締めるカザフスタンでの戦いについて訊いた。

<福田龍彌インタビューPart.01はコチラから>


――ここから仕留めに行く……、その前にドクターチェックが入りました。

「絶対に試合が終わってほしくないって思いましたね。ドクターチェックのあと、アーセン君が『ごめんなさい、待たせちゃって』と言うから、『何分でも待つよ』って。するとアーセン君も『ありがとうございます!』と返してくるんです。すんごいナイスガイでした。

それで3Rが始まって、ボディを打とうとしたところに左フックをもらってヒザを着いてしまうけど、ここは効いていないんです。ビックリして引くタイミングでコケちゃった、みたいな。見栄えは悪いけどダメージはなくて」

(C)RIZIN FF

――その後、アーセン選手が左跳びヒザから組んできました。

「僕としてはコレがビックリして。

(C)RIZIN FF

跳びヒザから着地際の右フック――周りにこういうことをしてくる人はいませんでしたから。

でもテイクダウンを切ったあとに僕が、起き上がり際にヒザ、左ストレートと打つんですけど、ここでアーセン君の顔をカットしたんですよ。

相手も見えてへんから『思いっきり行ったろう』と思っていたらドクターチェックが入って。僕のほうが『マジかぁ!』と言っているんです(笑)」

――福田選手のほうが悔しかったわけですか。

(C)RIZIN FF

「やっぱり白黒つけたいから。

レフェリーストップはエェけどカット系のドクターストップは、試合後に『あのままやっていれば……』という『たら・れば』論が出てきちゃうじゃないですか。それが嫌だし、たぶん彼も嫌だったと思います。最後までやりたかったから、僕のほうが『アーセン! アーセン!』と音頭を取りました。ホンマにアーセン君に対する歓声が凄くて、『アーセン!』という音が会場からリングに降ってきていましたからね。

ドクターストップになったあと、僕から『またやろう。今回はしゃあないわ。戦ってくれてありがとう』と伝えました。アーセン君も『俺まだやれるから』と言っていたけど、レフェリーやドクター、ルールあっての場所やからね。仕方ないです」

――試合前と試合後では、アーセン選手に対する印象も変わったのではないですか。

(C)RIZIN FF

「アーセン君の評価は爆上がりしているでしょう。

ホンマに強かったし、良い試合やったと思います。僕も楽しくて、もっと試合を続けたかった。あの内容なら5分5Rやりたかったな、と思えるぐらいの良い時間でした。

でも一番良かったのは、お客さんが喜んでくれたことです。試合をしている二人だけが楽しいだけなら、この試合よりもクオリティの高い殴り合いは日常的にジムでやっているから。これで喜んでくれるなら、練習を見てくれたらもっと面白い動きを見せられるで、と思います。それが僕らの日常なんですよ」

――確かにトップファイターの練習を見ているだけでも面白いと思う瞬間があります。

「そうでしょう? そんな日常から、さいたまスーパーアリーナのお客さんが喜んでくれるようなモノを提供できるようになったんやなと感じました。さいたまスーパーアリーナという格闘技の聖地で、当日の試合の中ではお客さんが沸いたほうやし、RIZINさんに対しても良い試合ができたかなと思っています」

――なるほど。次は早速、12月2日にカザフスタンで開催されるNAIZA FC55で、同フライ級王者のジアス・エレンガイポスに挑むことが発表されました。これまで海外の試合を希望していた福田選手としては、その希望どおりという試合ですか。

「あぁ、それはハッキリと書いておいてほしいんですけど――僕としては『国内より海外』という気持ちはないです。僕は職業=戦士であって。誰と何キロで、ファイトマネーいくらで戦うか。それで年間、何試合できるか。そういう仕事として試合をしています。だから国内、海外どっちでやりたいというのもなくて」

――あくまで海外から仕事のオファーが来た、ということですね。そう考えると今年はDEEPフライ級GPで優勝し、さいたまスーパーアリーナの観客を沸かせて、海外大会の王座挑戦で締めるという……。

「おかげさまで仕事がうまく行っています。本来は9月18日のDEEP×Black Combat対抗戦にも出たかったんですよ。対抗戦に出なかったら、何のためにフライ級GPで優勝したんやっていう感じやないですか。せっかく韓国から選手が来てくれるのに、チャンピオンが出ないのは相手に失礼やと思って。でもフライ級は駒杵選手が一本で勝ってくれて良かったです。僕としては対抗戦に出ていたバンタム級の選手に興味があります。彼はNAIZA FCのバンタム級チャンピオンなんですよね」

――石司晃一選手を下したユ・スヨンですね。Black Combat、DEEP、そしてNAIZA FCのバンタム級王者でもあります。

「僕が次の試合でNAIZA FCフライ級のベルトを獲ったら、DEEPとNAIZA FCのフライ級2冠王になりますよね。そしてユ・スヨンがNAIZA FCとDEEPのバンタム級2冠王――そこで僕がバンタム級に転向できればエェかなと思っています」

――日本とカザフスタン、DEEP & NAIZA FCの2冠王者同士の対決に!

「僕を応援してくれている人って、僕が修斗時代から殴り合っているのを観てくれている人たちばかりなんです。そうした人たちのおかげで、ここまで来られているわけやから。平野区民センター、阿倍野区民センター、高松シンボルタワーから、さいたまスーパーアリーナへ。そしてカザフスタンまで――感慨深いですよ。

だから『国内より海外』っていう気持ちもないし、大きな会場だけで試合をするというつもりもないです。もちろん今後も後楽園ホールで試合がしたい。僕の中にあるのは、『お金を払って試合を観てくれている人たちに楽しんでもらいたい』という大前提だけで」

――それはNAIZA FCをはじめ、海外で試合をする時も気持ちは同じですか。

「同じですよ。言葉が分からない人たちを、試合で沸かせるのって最高じゃないですか。RIZINに出ても8割ぐらいは、アーセン君のことは知っていても僕のことは知らない人たちだったでしょう。それはもう海外と環境は変わらないですよ。僕のパンチが当たってもシーンとなっているのに、アーセン君のパンチがかすっただけで『ウォーッ!!』と沸いていて。こんなに違うんやって思いました。でも2Rあたりから、僕のパンチが当たっても沸くようになりました。ちゃんとヤバいものを提供できたら沸くし、みんなが見入ってくれる。それだけヒリヒリしてくれるわけですよね。

勝負事やから、置きに行く選手もいるじゃないですか。僕は今までたくさん負けてきているので、そういう意味では『負けても構わない』という気持ちで臨んでいます。と同時に、『絶対にコイツを仕留めたろ』という気持ちで戦っています。相手を仕留めるために5分3Rをどう使うか。仕留めるための過程も楽しんでもらう場所、それが試合なんですよ。次はカザフスタンのお客さんに、僕の試合を楽しんでもらいたいし、会場を沸かせたいです」

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【RIZIN44】福田龍彌が振り返る山本アーセン戦─01─「1Rが終わり『全部分かった。2Rから行くわ』と」

【写真】かなり時間が立ってしまいましたが、この試合は──思い切り語り尽くしてもらう価値がある戦いだと捉えています(C)RIZIN FF

9月24日(日)、さいたまスーパーアリーナにて開催されたRIZIN44で、福田龍彌が山本アーセンを3R TKOで下した。
Text by Shojiro Kameike

福田が右ジャブを中心とした打撃でアーセンの顔面を腫れ上がらせ、ドクターストップに至ったこの試合には、1Rから福田の巧みな戦術が詰まっていた。いかにして福田は序盤から仕掛けていた伏線を回収していったのか。福田自身が試合の詳細を語る。


――今回は山本アーセン戦について、技術的なポイントを解説していただければと思います。まずは開始早々の打撃の交換はいかがでしたか。

(C)RIZIN FF

「序盤でアーセン君のリアクションや、相手との距離は見えたかなと思います。

ただ、左のカーフキックは効きましたね。このカーフキックは予想外で、メッチャ効いて右足の感覚がなくなりました。嫌な箇所に蹴りが入ってもうて、『これはヤバいなぁ』と思っているところに、2発目をもらうんですよ。でもこの時にカーフのフォームは見えたから、もう大丈夫だとは思っていましたけどね」

――とはいえ、以降は右足の感覚がない状態で戦っていたのですね。

「はい。でも普段から走り込んで、足ガクガクの状態からミット打ちをやったりしていますからね。だからバランスは体が覚えているというか、感覚がなくても動けるんですよ。
僕としては、ここから奥手を触って距離を掴み始めました。

奥手を掴んだあとに左手のフェイントを出したら相手がどう動くか。それを確認しています。まず1Rはアーセン君のリアクション、武器、タイミング、フォームを観察していました。観察している間に、何が一番有効なのかを考えているわけです。ジャブの距離も掴めていて。ただ、一番警戒していたのは組みやから、テイクダウンがどんなものなのか――実はアーセン君からテイクダウンに来させようとしていました」

――えっ!? テイクダウンが得意なアーセン選手に、あえて組ませようとしていたのですか。

(C)RIZIN FF

「最初は一回、組みに来させたかったです。

絶対にテイクダウンは切れると思っていたので。実際、ここで組みに来てくれたから『この選手にテイクダウンされることはない』って分かったんですよ。『何回組みに来ても、こかされへん』と分かって、ここから思いっきり打撃で行こうと距離を詰めていきました」

――まずテイクダウンされないと分かって、次に警戒するものは何だったのでしょうか。

「警戒していたのはカーフですね。じゃあどうするかっていうと、パンチか組みの距離にするんです。カーフを出してきたところに打撃を合わせたいから、アーセン君にカーフを蹴らせたい。カーフを待ちながら試合をつくっていました」

――テイクダウンについて測るのと同様、相手にカーフを蹴らせて……。

(C)RIZIN FF

「カーフに何のカウンターを合わせることができるのかを見たかったんです。

そうしているとアーセン君がカーフを蹴ってきたので、軌道が分かりました。カーフだけじゃなく、全体的な動きも分かりだしたので、僕の左のタイミングも合い始めます。まだ距離がズレてしまっているけど、ドンピシャやったら危ないパンチもありましたね。

でも、まだ倒すつもりのパンチを打とうとは思っていないです。ポイントは取られないようにして、相手の攻撃を誘っている。だから僕が下がっているように見えるかもしれないですね。ただ、カーフが分かってくると距離を詰めていって、パンチか組みの距離にしています」

――確かに序盤と比べて、明らかに距離が近くなっていますね。

(C)RIZIN FF

「もう距離が合ってきているので、アーセン君のパンチは怖くない。

最後は左カーフに右フックを合わせていますよね。これで『もうカーフも大丈夫』とハッキリしました。そして相手は、カーフを蹴るのが嫌になってくる。僕は1Rが終わって、インターバル中にセコンドには『もう全部分かった。大丈夫。2Rから行くわ』と伝えました」

――なるほど。1Rは観察して試合をつくっていくという、福田選手の戦い方がとてもよく分かりました。

「はい。2Rは1Rに観察したアーセン君の動きを自分なりに解釈して動き、もう彼の動きのパターンは分かってきたから『よし、もう狩りに行こう!』という感じですよね」

――そう聞きながら試合を視ると、2Rに入るとアーセン選手の動きも焦っているように感じます。

「そうなんですよ。アーセン君のパンチが当たっているように見えるかもしれないけど、スリッピング・アウェーでよけている。カーフは軌道も分かっているからカットできる。組まれても大丈夫で、『テイクダウンに来るなら来いよ』と、どんどんプレスをかけて距離を詰めていきます。このあたりはもうアーセン君の打撃は当たらずに、自分のパンチがどんどん当たるようになりました。僕からすれば、相手に対して『大丈夫? あとは何したい?』という感じで。一方でアーセン君は僕のパンチが見えていない。だって僕は1Rに倒すつもりのパンチを打ってへんから」

(C)RIZIN FF

――凄い伏線回収です!

「当てるつもりもないし、効かせるつもりでもない。ただ相手の反応を見るためのパンチでした。それで2Rからは、ちゃんと当てに行くし、効かせに行く。1Rに出してへんかったアッパーとか、いろんな角度の打撃で攻めていきます。このあたりは――ぶっちゃけ、自分の中では『余裕やな』と思っていましたね。相手はジャブが見えてへんから、ジャブを突きながら『これから何したろっかなぁ』と。そこで調子に乗って右フックを食らっちゃいました(苦笑)」

――アーセン選手は右を当てたあと一気に距離を詰め、組んだもののブレイクが掛かりました。

(C)RIZIN FF

「アーセン君はグレコ出身。

だから左の差し上げも強いんかなと思ったけど、組まれても大丈夫でした。練習で、もっと組みが強いヤツと組み合っていますからね。もう8割ぐらいアーセン君の動きは分かっていたから、もう倒されることはない。あとはジャブ、ジャブ――基本どおりです」

――では、この展開で何か不安な要素があるとすれば何でしょうか。

(C)RIZIN FF

「スピニングバックフィストとか変則的な動きですね。

すでにアーセン君のパンチは当たらへんけど、僕のジャブ、ボディ、フックが当たる。相手の攻撃はよけて自分の攻撃を当てる――基礎ですよ。本当に当たり前のことをしているだけで。反対にアーセン君は、おそらく何のパンチを当てられているか分かっていないですよね。反応できていたら、こんなに顔が腫れへんから。

(C)RIZIN FF

でね、2R後のインターバルが面白いんですよ。

映像で視ると、アーセン陣営は『ここが勝負だぞ! 気持ちを強く!』みたいな表情じゃないですか。直後にパッと切り替わった、僕の陣営との温度差が――」

――すでに勝利を確信しているかのようでした。

「いやいや、ここからがメインディッシュですから。最後のラウンドやから、仕留めに行く。この表情は『ここからがメインディッシュやぞ』っていう表情です」

<この項、続く>

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【RIZIN44】中島太一が語る岡田遼戦「シャドーとサンドバックだけで1時間半。僕のジャブは年季が違う」

【写真】ジャブを制するものが試合を制す。この試合の流れを決めたのは中島のジャブだった。(C)RIZIN FF

9月24日(日)さいたま市中央区のさいたまスーパーアリーナで開催されたRIZIN44で、バンタム級キング・オブ・パンクラシストの中島太一が元修斗世界バンタム級王者の岡田遼に判定勝利を収めた。
text by Takumi Nakamura

試合は中島がジャブで間合いを制し、テイクダウンを許した場面も「岡田選手が力を使っていたのが分かったから」と振り返るほど、冷静に試合を支配したものだった。今回のインタビューではジャブ誕生秘話に迫りつつ、「この階級では負ける気がしない」というバンタム級での戦いについても訊いた。


――9.24RIZINさいたま大会では岡田遼選手から判定勝利を収めた中島選手です。少し時間も経って、改めてあの試合を振り返っていただけますか。

「修斗の元世界チャンピオンの岡田選手にああいう勝ち方が出来たのは少し自信になったんですけど、自分の試合を見直して全然力を出し切れてないし、KOしないといけない内容だったという反省があります」

――試合前はどんな試合を想定していたのですか。

「ずばりKO出来ると思ってました。すべてにおいて自分の方が強いと思っていたし、想像以上に手こずったという感想です。試合前は頭のなかでフィニッシュするイメージが完璧にできていたので、それができなかった自分にガッカリです(苦笑)、仕留めきれなかったという感想です」

――試合序盤は中島選手が左ジャブ・右カーフキックを当てる展開でした。まずはああいった攻撃で削って行く作戦だったのですか。

「そうですね。僕の得意な打撃で削りながら、どこかで倒せると思っていました。ただ僕の打撃は当たっていましたけど、仕留めに行くほどのダメージではなかったので、しばらくいかなくてもいいと思ってやったんです、でも映像を見直すと『もっといけよ!』と思いました(苦笑)。試合を通して、岡田選手は思ったよりタフでしたね」

――その中で1Rにテイクダウンを奪われる場面が訪れます。試合直後はテイクダウンされても問題なかったと発言されていましたが、実際はどういう状況だったのですか。

「岡田選手に組まれた時にフルパワーで組んできた感じがあったんですよ。結構力使ってるなって。逆に僕はここで力は使わずに少し休もうと思っていたら倒されちゃって。まあ倒されても逃げられると思っていたので、タイミングを見て逃げようと思っていました」

――中島選手が簡単にテイクダウンされたのが意外だったのですが、そういった考えがあったうえでのことだったのですね。

「やっぱり簡単にやられたように見えますよね(苦笑)。でも僕的には全然大丈夫でしたよ。むしろテイクダウンされたあとも、岡田選手がすごく力を使って抑え込んでいて。僕はただ何もしないで寝ていて立ち上がるチャンスを待っていて、テイクダウンはされましたけどダメージもスタミナのロスもなく、逆に岡田選手はあの攻防で結構スタミナを使ったと思います」

――1Rが終わったあとのインターバルはセコンドとどういった会話をしたのですか。

「僕からは『相手のパンチも見えているし、相手は組みたがっているから、このまま打撃でいきます』と伝えて、八隅さんの考えも同じで『打撃でいこう』と送り出されました」

――2Rは1R以上に中島選手の打撃が当たり始めます。ただタフな岡田選手に決定打を与えるまでには至りませんでした。

「効いてたんですよ、絶対!でもこの試合に倒する気迫と根性で立ち続けていたんだと思います」

――ジャブも左ストレート気味に当たっていましたが、拳の感触はいかがでしたか。

「どうだろうな…殴り応えはそんなになかったかな。むしろもっと(打撃を)当てたかったです」

――では3Rはどういった考えで戦っていたのですか。

「実は1・2Rで結構殴っていたので、僕が疲れてしまったところがあったんですよ。だから自分から倒しに行こうというよりも、このまま削り続けて倒れてくれたらいいなという頭になってしまいました。今インタビューを受けていて、その気持ちがダメだったような気がします(苦笑)。もっと自分から殴って勝つという気持ちでいく必要がありますね」

――打撃でなく肩固めを極めかける場面もありました。あの時の極まり具合はいかがでしたか。

「あれは今更ですけど絶対(一本)取れる形だったんですよ。でも僕はあのまま肩固めを極めるより、トップキープして殴った方がレフェリーが試合を止めると思ったんです。結果論ですが、言い訳しないで力を使い切って肩固めを極めればよかったです(苦笑)」

――肩固めとパウンドアウトの2択になった時にパウンドアウトの方を選んでしまった、と。

「そうは言っても肩固めの形は完璧だったので、あのままある程度力を入れていれば極まると思ったんです。でも岡田選手も我慢していたので、このまま力を使って極めるか、パウンドに切り替えるかを考えたとき、パウンドに行ってしまいましたね」

――終了間際には踏みつけとサッカーボールキックもありましたが。

「あれはもうパウンドアウトしようと思って思いっきりいきました。ただ練習で踏みつけをフルパワーでやることなんてないから、ほぼほぼ初めてだったんですよ。意外に踏みつけを当てるのって難しいですね、相手もガードポジションで暴れるんで(苦笑)」

――最終的には危なげない試合運びでの判定勝利でした。幾つかポイントはありましたが、やはりジャブで距離・間合いを支配したことが勝因だと思います。中島選手はどこで打撃の練習をやっているのですか。

「ボクシングは角海老ジム、ムエタイは東長崎のYKジム、等々力にあるコアズというトレーニングジムでもミットを持ってもらっていて、色んな角度から打撃を磨いています」

――3つのジムを拠点にしているのですね。打撃はトレーナーを変えずに、一人のトレーナーと一緒に練習を重ねて技術を練っていく選手が多いと思うのですが、中島選手の場合は全くの逆なのですか。

「そうですね。同じ人にずっとミットを持ってもらっていると息は合ってくると思うんですけど、息が合いすぎるのも良くないと思うんですよ」

――気持ちよくミットを打たせてもらったり、良い部分を出してもらうミットはマイナス面もある?

「まさにそれですね。代わりに言ってくれてありがとうございます(笑)。だから僕は色んな人にミットを持ってもらって、その時々でベストなパンチを打てるようにしたいし、誰にミットをもらってもいい距離感やいいインパクトでパンチを打てるようにしたいと思ってやっています」

――中島選手がそういった考えでやっているのは意外でした。あのジャブはてっきりボクシングジムのトレーナーさんとマンツーマンで練習して作り上げたジャブだと思ってたので。

「あと僕は一人で練習するのが好きなんですよ。具体的にはシャドーとサンドバックで、それだけで1時間半とかやります。打つパンチも左だけとか限定することもあって、あのジャブはそうやって創り上げたものなので年季が違います」

――興味深い話をありがとうございます。あれだけジャブが当たって間合いをコントロールできていれば、テイクダウンの攻防でも有利になりますよね。

「僕もそう思ってジャブを磨いてきたんですけど、今の悩みはジャブで距離を支配することを意識しすぎちゃってるんですよね。やっぱり相手をKOしたり、倒しに行く時って、多少強引に仕留めに行かないといけないと思うんで、岡田戦はそこが足りなかったです」

――こうしてお話を聞いていると、反省点が多かった試合のようですね。

「もうそればっかりですよ(苦笑)僕はまだ自分の強さを見せられてないと思うし、今回の試合でも仕留めてアピールしたかったんですけど、それが出来なかったんで本当に悔しいです」

――KO勝ちではないにせよ、フルラウンド通して試合をコントロールすることも強さのアピールだと思います。

「いやいや、まだまだあれじゃ足りないですし、同じように相手を圧倒していてもKO勝ちと判定勝ちでは周りの反響が全然違うんですよ。もちろん判定勝ちでも僕の強さを分かってくれる人は分かってくれるんですけど、評価してくれる人の数で言ったらKO勝ちよりも少ない。だから悔しいし、そこを一つ超えたいのでKOで勝たないといけないと思っています。自分は強い選手とやれば、もっと自分の強さが分かってもらえると思うので、早く強い人とやりたいです」

――試合後のマイクでも「バンタム級では負ける気がしない」という言葉がありましたが、その自信は今も変わらないですか。

「それは昔からずっと思っています。ロシアのACBでもフェザー級でやってきたし、ロシアから帰ってきてパンクラスでも本当に強い人たちとやってきたし、その中でレコード的に負けた試合もありますけど、内容的に勝っていた試合をやってきた自負はあるので、バンタム級だったら絶対負けないです」

――振り返れば当時のキャリアでロシアで定期的に試合を重ねたことは大きなプラスになっているようですね。

「色んな巡り合わせでACBと契約させてもらって、あのタイミングで海外で試合をやらせてもらったことは本当に大きな財産ですし、あの経験は今の自信につながっています」

――次の舞台として狙うはRIZIN大晦日だと思いますが、そこに向けた想いを聞かせてもらえますか。

「僕がやらせてもらえる相手は限られていると思うし、その選手たちが大晦日に試合できる状況か分からないので、僕は大晦日に試合があると信じて練習するので、正式オファー待っています!」

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【RIZIN44】「頭をつけてのパスは、吉岡大さんがきっかけ」。金原正徳がクレベル戦を振り返る─02─

【写真】写真は3Rに仕掛けたパス。この圧で背中を見せたクレベルからバックを取った(C)RIZIN FF

9月24日(日)さいたま市中央区のさいたまスーパーアリーナで開催されたRIZIN44のメインベント=クレベル・コイケ戦の勝利を金原正徳自らが振り返るインタビュー後編。
Text by Takumi Nakamura

インタビュー前編ではスタンドの打撃におけるリズムの重要性、ギロチンや足関節の防御を対策練習でなく日々、何年も繰り返してきたと金原は話していた。練り上げという部分において、後編ではパスガード、スクランブルについて振り返った彼は、試合が決まってから対策を始める選手たちに対して。「一緒にすんなって話です」と言い切った。

<金原正徳インタビューPart.01はコチラから>


――そして2Rに金原選手が相手のワキの下に頭を置くパスガードを仕掛けていきます。これは金原選手の必殺技と言ってもいい形ですよね。あれはいつ頃から使うようになったのですか。

「それも北岡さんと練習していて、首を抱える相手に対するパスガードとしてやり始めたんですよ。具体的にいつからっていうのは分からないですけど、あれでバレット・ヨシダ選手をパスガードしたことがあったんです。その時にこの技に自信を持っていいんだなと思って、それが一つのターニングポイントになりましたね」

――クレベル戦後にUFCでの金原選手の試合を見返したのですが、すべてあのパスガードを仕掛けていますよね。

「そうなんです。全部あれなんですよ。ずっと自分の強い部分はトップキープとパスガードだと思っているんで、それで勝てなかったら俺は勝てないよねって開き直りも多少あります」

――まさに必殺技ですね。

「必殺技はどんなに研究されようが、どんなに対応されようが決まるものじゃないですか。あれはそういう必殺技なんですよ。だからクレベルが相手でも自信を持っていきました」

――あのパスガードは誰かに教わったものなのですか。

「自分なりに色々試行錯誤して、最終的にあの形にたどり着きました。僕のパスガードはグラップリングじゃなくて、MMAグラップリングなんです。だからパスガードしきれなくても殴れてヒジが落とせる。逆に殴ってヒジを落としてパスガードもできる。そういう技なんですよね。でも原点という意味で言うなら、数年前に亡くなられた吉岡大さんと柔術の練習をしたときに、吉岡さんが絶望的に強かったんです。

その吉岡さんが僕みたいに頭をマットにつける形ではなかったんですけどフックガード潰しが上手くて、そこで色々と教えてもらっていたんですよね。その時に『これはMMAでも使えるな』と思ったので、そういう導きになったのは吉岡さんがきっかけですね」

――MMAでも使えるという意味で、あのパスガードを仕掛けることで相手を体力的に削ることもできるのかなと。

「クレベルは下になっても強いんですけど、練習仲間から『パスガードの攻防でも削ることはできるから』と言ってもらっていて。だったら完全にパスガードできなくてもハーフガードまで持っていて、パウンドとヒジを入れて相手にダメージを与えて消耗させようと思いました」

――それがまさに2Rの最後でしたね。

「クレベルは2Rが終わってかなり消耗していましたけど、あれは僕がパスガードの攻防で削ることができたんだなと思います」

――そして3Rにはバックを巡る攻防があり、そこでも金原選手が競り勝ってトップポジションをキープします。あれは2Rの攻防でクレベル選手が消耗していたことも影響していたように見えました。

「それはあったと思います。バックからのスクランブルの時、僕は絶対に下になりたくなかったんですけど、クレベルは多少下になってもいいやって考えもあっただろうし。あと試合を見返してもらえれば分かりますけど、3R序盤のレスリングの展開でクレベルはロープを掴んだり、途中で背中を見せて立ち上がろうとしているんですよ。これが僕以外の相手だったらクレベルは引き込んでいたと思うんですよね。

でも僕が相手だとそれをやらずにレスリングで頑張った。僕はここに勝機を見出したんですよね。グラウンドで下になっても自信があるクレベルが下になるのを嫌がっているじゃんって。それが分かったから3Rを頑張れたんですよね」

――なるほど。

「あんなにグラウンドで背中をマットにつけることを気にしないクレベルが、背中をつけたくないからバックを取らせるわけですよ。そんな場面が今までありましたか?と。そのぐらい僕にトップキープされるのが嫌なんだなと思ったから、むちゃくちゃ元気になれたんですよ。ここでトップキープしたらいけるって」

――また金原選手のYouTubeチャンネルを見させていただいて、組手の重要さを説いていましたよね。あの試合でも組手は重要な部分だったのですか。

「あまり細かい部分は言えないんですけど、ちゃんと組手を理解しているならば対応できるってことなんですよ」

――個人的には「組手」というワードを使って試合を振り返る選手があまりいなかったので、そこがすごく興味深かったです。

「はっきり言って、みんな浅いんですよね。三角をとられる・ギロチンをとられるとなった時に、その形になってからどう対処するかを考えるじゃないですか。でも実際は技の形に入る前に組手があって、そこから段階を踏んで技の形に入るわけですよ。だから一番最初の組手の時点で対処できていれば、相手がゴールまでたどり着くことはない。そういうことを考えずに技の逃げ方がどうとか言ってるやつらとはね………一緒にすんなって話です。これちゃんと書いておいてください」

――はい、しっかり書いておきます。

「もちろん技の形になった時の対処法や対応策はありますよ。でも僕のなかで【1】→【2】→【3】くらいの段階があって、まずは【1】でしっかり潰す、【1】で対処することが大事なんですよ。それでも試合だから【2】・【3】まで持っていかれることはあるし、それはもうしょうがない。だからそうなった時の対処法は持っておかないといけない。僕からするとみんなは【2】・【3】の対処ばっかりなんです」

――【1】で対処しておけば逃げられるものでも、【2】・【3】になればなるほどリスクは高くなりますよね。

「そうです。今回で言えばクレベルのレベルまでいくと【2】・【3】の段階まで持っていかれると逃げられないんです。だからそうなる前に対処しようって話で、何も難しいことはないです。簡単です」

――横着せずにやるべきことをやれ、と。

「ただ【1】で対処するという話になったとき、そればっかりになってしまうと他のサブミッションをかけたられたり、スイープされてしまったりする。だから他の技にも対応できるベースを作っておいて、相手が狙っている技を【1】で対処するわけです」

――こうして話を聞いていても、金原選手が色々な経験を積んでMMAの技術を練り上げてきたことが分かります。まさに年季が違うMMAだな、と。

「今まで三角絞めが得意な選手とは何人も戦ってきたし、その時に三角絞め対策を何度もやってきました。そういう経験値があるから、僕ぐらいのキャリアになれば対戦相手用の対策はそこまでやらなくてもいいところはありますよね」

――それだけ経験値がある金原選手が先ほどのパスガードのように、一つの技を練り上げてそれで勝負しているというのがMMAの面白さですね。

「その通りです。みなさんもこれからMMAを勉強していきましょう(笑)」

――僕も引き続き勉強させていただきます(笑)。次の試合は大晦日が期待されていると思いますが、そこに向けては準備を始めているのですか。

「筋肉痛くらいしかなかったので、すぐに練習は再開しました。ヴガール・ケラモフ×鈴木千裕次第になりますけど、大晦日に試合をやってほしいという話もいただきましたし、いつでもいける準備はしています」


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【RIZIN44】金原正徳がクレベル戦を振り返る─01─「何年、北岡(悟)さんに首絞められていると(笑)」

【写真】サブミッションへの耐久力、その裏にある日々(C)RIZIN FF

9月24日(日)さいたま市中央区のさいたまスーパーアリーナで開催されたRIZIN44のメインベントでクレベル・コイケと対戦して金原正徳は、これまで培ったMMA技術をフル稼働させクレベルから判定勝利を収めた。
Text by Takumi Nakamura

スタンドの打撃におけるリズムの重要性、ギロチンや足関節を対策練習でなく日々、何年も繰り返してきた──金原による「技の解説」にとどまらないMMAの奥深さに迫ったインタビューをお届けしたい。


――RIZIN44のメインイベントでクレベル・コイケ選手に判定勝利した金原選手です。非常に話題になった一戦ですが、金原選手自身はどのような試合だったと感じていますか。

「細かい部分では覚えてないところもありますけど、すごくいいイメージのまま試合を終えることができたと思います」

――金原選手のYouTubeチャンネルでも試合を振り返っていましたが、スタンドでは蹴らずにパンチでいくことを考えていたようですね。

「クレベルは体形的に胴が長くてガードも高いので、下から崩そうという考えがあって、トレーナーとミットをやっていくなかでボディから入っていこうよと話はしていました。それで試合直前に動いているときに、今日はこれでいこうと自分の中で決め事を設けたんです」

――事前の作戦というよりも当日に決めたことだったのですか。

「そうです。当日ミットをやっていて、右ボディからの左フックが調子良かったんですよ。それで試合の時に『これから入ろう!』と言い聞かせていました」

――選手は試合に向けて色んな準備や練習をすると思いますが、当日動いてみたときのフィーリングだったり、しっくり来る動き・来ない動きがありますよね。

「全然あります。僕はあまり対策練習ってしないんですよ。こういうコンビネーションが入るだろうなくらいのニュアンスは持ちつつ、当日の体調や実際に動いた時の感覚で『今日はこれがいいな』って技があるんです。それがクレベル戦では右ボディからの左フックだったということですね」

――金原選手は試合前のインタビューでも「現場合わせ」という言葉を使いますが、そこにはちゃんと意味があるわけですね。

「僕らも人間なんで、その時の気分ってあるじゃないですか。今日はこれやると調子いい、みたいな。僕はそれを大事にしているし、当日の体調や気分で『これだ!』と思うことをやろうと思っています」

――金原さんはボディブローからMMAの打撃を組み立てることが多いですよね。

「やっぱり組んでくる相手に対するボディ打ちは右も左も有効なんですよ。クレベルが組んでくるとは思っていなかったんですけど、最初に話した通り、下から崩していこうとは思っていました。で、いつもの僕だったらローキックやカーフキックを蹴るんですけど、今回は蹴らずにパンチオンリーでいこうと思って、それを決めたのも試合直前なんですよ」

――実際に向かわないと距離感も分からないですし、どう試合に入るかも分からないからですか。

「それもありますし、僕は向かい合ったときの実際の距離感と当日の気持ちで入りを決めます」

――これもお聞きしたかったことですが、金原選手はステップを踏むわけではなく、小刻みに動いてリズムを取っていますよね。あれは意図してやっているのですか。

「僕はハンドスピードが速いわけでもないし、反応がいいわけでもないので、リズムを大事にしているんです。向かい合った時に自分と相手とリズム・波長が合うか合わないか。そこが合えば相手のリズムを崩すことができるし、合わないと後手後手になってしまう。だから立ち合いのスタートの時点で一番大事にしているのはリズムと距離感ですね」

――小刻みに動いているのにはそういう理由があったんですね。

「はい。相手のリズムを崩せばフェイントにも引っかかってくれるし、フェイントに引っかかってくれればパンチが当たる。そこは自分のなかで確信しているところがありますね」

――金原選手の「現場合わせ」や「試合当日に考える」は行き当たりばったりということではなく、金原選手が距離感・リズムを大事にしていて、それは実際に向き合わないと分からないものだからなんですね。

「そうなんですよ。むしろ当日の現場合わせは大事なことで、試合の時の相手のリズムは試合が始まらない限り分からないですからね」

――例えばゆっくりのリズムで想定していても、相手があえてそれを崩して来る場合もあるでしょうし。

「今回で言えばクレベルが先に打撃でプレッシャーをかけたり、組みにきていたりしたら、僕がそれに飲み込まれていたかもしれないし、クレベルはスタートがあまりよくない印象があったので、自分が先手を取ることで15分の中でのリズムを取れるとは思っていました」

――1Rはクレベル選手にギロチンにとらえられる場面もありましたが、あれはしっかり対処できていたのですか。

「何年北岡(悟)さんに首絞められていると思ってるんですか(笑)。僕、北岡さんほどギロチンが上手い人に出会ったことないですよ。それは海外でもそう。海外ではギロチンをやる選手が多いですけど、北岡さんより上手い人はいなかったです。だからそこらへんの選手にギロチンを極められるわけがないです。

それは足関節も同じで今成(正和)さんとか所(英男)さんと何年一緒に練習してるんだって話で。

僕はサブミッションの免疫力はすさまじくあると思っているから、多少苦しいなと思うことはあっても対処できる自信はあります」

<この項、続く>


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【RIZIN44】堀江圭功、ライト級転向初戦=カーライル戦を振り返る。「大切なことは、普段通りに動けるか」

【写真】組みがある故の打撃、その感覚も人それぞれということが分かる堀江の言葉だった(C)RIZIN FF

9月24日(日)さいたま市中央区のさいたまスーパーアリーナで開催されたRIZIN44にてスパイク・カーライルから判定勝利を収めた堀江圭功。
Text by Takumi Nakamura

ライト級に階級を上げての初陣で難敵カーライルに挑んだ一戦は、3Rにバックキープを許したものの、それ以外ではクリーンテイクダウンを許さず、スタンドの打撃でポイントを取って勝利を引き寄せた。破天荒なキャラクターがクローズアップされる堀江だが、今回のインタビューでは本人も「格闘技に関しては頭がいいと言われます(笑)」という頭脳派の一面を見せつつ、試合を振り返った。


――RIZIN44ではライト級転向初戦で スパイク・カーライル選手に判定勝利しました。まず試合の印象を教えていただけますか。

「試合直後よりも日が経つに連れて、カーライル選手は強かったなと思いますね」

――具体的にどこにカーライル選手の強さを感じたのですか。

「テイクダウンに来られた時の押し込む力もそうなんですけど、自分の足を腕で引っ張る力がむちゃくちゃ強かったです。しかもラウンドが進むにつれて力が強くなるんですよ。外からはカーライル選手がバテているように見えたかもしれませんが、実際はそうじゃなかったです」

――それは意外でした。カーライル選手は後半になればなるほど消耗しているように見えたので。

「逆でしたね。カーライル選手がヒザに手をついてあからさまに疲れているような素振りを見せたじゃないですか。あれはこっちを油断させるためにわざとやってるんじゃないの?と思うくらい、実際に組んだ時の力は最後まで強いままでした」

――そこは想定外でしたか。

「組まれる、力が強いというのは想定内で、自分が試合前に気を付けていたのはカーライル選手のセオリーにないガチャガチャにパンチを振り回してくるところ、組んだ時にスクランブルに持ち込んでくるところに気をつけていました。あと意外と過去の映像を見てみるとカーライル選手は自分から組みに行くことが少なかったんです。ただ✖自分ということを考えて、自分が打撃で行けばカーライル選手は組んでくるだろうと思ったので、組んでくることを想定して練習をしていました」

――カーライル選手はスクランブルの強さも含めて、きれいに動くというよりもゴチャゴチャに動くことで強さを発揮するタイプだと思います。

「まさにそこを一番警戒してたんですよ。例えば相手がパンチを振り回してきたら、こっちはそれに乗らずにカウンターを当てるとか。あの試合では出していないものも含めて色んな技は用意していました。テイクダウンディフェンスに関してはもともと自信があるところなので、そこは丁寧に一つ一つ対処していこうと思いました」

――テイクダウンディフェンスが試合のキーポイントだったと思うのですが、堀江選手は背中を見せつつ。体をコーナーに預けてクリーンテイクダウンを許しませんでした。あれはこの試合に向けて練習していたものなのですか。

「そこは今回の試合に向けてではなく、ずっと自分が練習を続けているところなので、自信はありました。ただカーライル選手は力も強いし、テクニックもあるのでかなり手強かったですね」

――カーライル選手もしつこく組み付いて押し込む→足を束ねて倒す→バックを狙うを何度何度も繰り返してきました。あそこはどちらが先に諦めるかの根競べだったと思います。

「自分も試合が進むにつれて体力的にはかなりしんどくなっていましたけど『ここで根負けしてテイクダウンされたら負ける。でもここでテイクダウンされずに打撃になったら勝つ』と思いながら必死にやってましたね。カーライル選手も最後まで諦めなかったので、本当に気持ちと削り合いでしたね」

――あれだけテイクダウンを切り続けられた要因はなんだと思いますか。

「なんだろうな…細かいテクニックはたくさんあるんですけど、自分の中では絶対テイクダウンされないっていう自信ですかね」

――その自信は最近身についたものですか。

「ちょっとずつ練習を重ねて身についてきたものですね。これは自分の意見なんですけど、日本のジムは海外に比べると狭いから壁レスになることが多いと思うんですよ。だから壁レスを意識しなくても、自然に壁レスの練習をしていることが多いと思うんですね。もしかしたらそういうことも影響しているのかなと思います」

――練習ではどういったことを意識しているのですか。

「専門の技術とかアドバイスをもらうのは当然なんですけど、あとは日々の練習で考えることですね。『今日はあそこでやられたから、明日はこれをやってみよう』とか、それの繰り返しですね」

――堀江選手の中で「ここを押さえておけばテイクダウンされない」というポイントがあるように思うのですがいかがでしょうか。

「そうなんですよ。自分なりのポイントがあって、それは練習と自分の感覚で覚えたポイントです。だから他の人が真似すると若干リスキーなところもあって、自分が指導やアドバイスするときは『あくまでこれは絶対的なディフェンスじゃないですよ』と言うんです。独学とまでは言わないですけど、練習を重ねて自分の中で培った技術だと思いますね」

――スタンドではカーライル選手に組ませない距離で打撃を出していたと思います。距離設定はどう考えていたのですか。

「強くジャブを打てる距離、蹴りを出せる距離があるので、そこをキープしようとは思っていました。でもカーライル選手のプレッシャーが予想以上だったので、自分の思っているほど打撃は出せなかったです。欲を言えばカーライル選手をガチャガチャ動かさせずに、自分の攻撃のターンを増やしたかったです」

――そこはギリギリのラインですよね。おそらくもう一歩踏み込んでいればカーライル選手に組まれていたと思うし、そうならないように戦っているように思いました。

「カーライル選手の打撃は若干組みに来るようなフェイントを入れた打撃なんですよ。例えばカーライル選手のパンチにカウンターを合わせた時、こちらの読み通りにパンチだったらいいんですけど、それがテイクダウン狙いの場合があるんですね。それが頭にあったので、カウンターを狙えると思ってもバックステップして距離を取るようにしていました」

――それは実際に対面してみないと分からないことですね。

「カーライル選手は打撃そのもののフォームはキレイじゃないのにKO勝ちも多いのはそこですね。見ている人からすると『なんでそんなパンチもらうの?』と思うかもしれませんが、実際に向かい合ってみるとタックルかパンチか分かりにくいんですよね。自分も何発かもらっちゃいましたし、本当はもっと手数を出したかったんですけど、距離を詰めると何が来るか分からないという警戒心がありました。しかも最初に話したように後半になってもプレッシャーや圧力が変わらなくて、こちらが疲れてきてもカーライル選手はそういう動きが出来るので……本当に強かったです」

――ローブローと判断されましたが、堀江選手の三日月蹴りが入る場面もありました。三日月蹴りは狙っていたのですか。

「あれも練習していました。ファールカップをかすった感じもあったので、ローブローと判断されても仕方ないんですけど、あれは確実にボディが効いていたと思います。ただカーライル選手がタフなことは分かっていたので、あれで倒せなくても慌てることはなかったです」

――3R通じて一番危なかったのは3Rにスタンドでバックを許したところですか。

「はい。カーライル選手はバックをコントロールが上手かったし、前に煽って崩されそうになった時は本当に危なかったです。もうあそこは根性でしたね」

――今回はライト級で初めての試合でした。試合に向けた仕上がりやコンディションはいかがでしたか。

「減量幅が5キロ減った分、普段通りの練習や動きが出来ました。ただあまりにも普段通り過ぎて、試合直前になってもこれから試合するんだって実感が沸かなかったんですよね。そこが不安だったんですけど、試合前になったらバチっと気持ちのスイッチが入ったのでよかったです」

――減量がない方が動きが良いと感じましたか。

「自分としては普段通りの動きだったんですけど、周りからはライト級の方が動きが良いと言われました。逆にフェザー級時代は普段と同じ動きをしているつもりでも、試合中に力が入らなくなったり、身体に乳酸がたまりやすくなる感覚があったんです。映像を客観的に見ても、今の方が明らかにパフォーマンスがいいので、これからはライト級で戦っていきます」

――とはいえライト級初戦の相手がカーライル選手というのはかなり厳しい相手だったと思いますが、試合を受けるときに迷いはなかったですか。

「最初にオファーを受けた時は『やります!』って感じで、あんまりカーライル選手のことを知らなかったんですよ。実績があるんだろうな、くらいで。いざ試合が決まって色々とカーライル選手のことを調べていくうちに『この選手、強いじゃん!』みたいな。で、試合が終わったあとは『予想以上に強かった!』と思ったので……カーライル選手は本当に強かったです(笑)」

――そこで競り勝てたことは自信になりますよね。

「そうですね。カーライル選手に競り勝てたことは大きな自信になりました」

――これからライト級で戦っていくうえで、どんな目標をもっていますか。

「RIZINのライト級は日本人選手が少ないので、日本人選手同士でやるよりも、日本人みんなで海外の強い選手たちに勝っていきたいです」

――特に外国人選手との戦いが厳しい階級だと思いますが、外国人選手に勝つためには何が必要だと思いますか。

「相手のこともあるんですけど、一番大事なことは試合当日にベストコンディションを創って、普段通りに動けるかどうかだと思います」

――技術的にはどういった部分を伸ばしていきたいですか。

「レスリング力もそうですし、立たせないようにコントロールして殴る。パッと思いつくのはそこですね。カビブ・ヌルマゴメドフみたいにグラウンドでボコボコにして、そのままフィニッシュするか、スタンドになってもKOする。そういう試合をしたいです」

――スタンドの印象が強い堀江選手ですが、グラウンドゲームも好きなのですか。

「好きなのは立ち技なんですけど、MMAはそこをやっておかないと勝っていけないと思うんですよ。試合でやるかどうかは別にして、練習ではテイクダウンやグラウンドコントロールを学んで、自分のスキルとして手元に持っておく。それがMMAファイターとしての強さにつながると思います」

――「できない」と「やらない」のは違う、と。

「はい。それに自分がテイクダウンやグラウンドコントロールを覚えれば、相手に何をされたら嫌かも分かるので、自分のディフェンス能力も上がると思います」

――今日初めて堀江選手を取材させてもらって、ここまで細かく考えて練習・試合しているというのが意外でした。もっと本能系のファイターだと思っていたので…。

「格闘技に関しては頭がいいと言われます(笑)」

――間違いなく頭がいいと思います(笑)! RIZINの大会スケジュール的に次戦は大晦日を目指す形になると思いますが、そこについてはいかがでしょうか。

「実際に試合がどうなるかは分からないですが、先ほど話した通り、自分は強い外国人選手と戦いたいので、そういうオファーがあってもいいように準備しておきます!」

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