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【Special】『MMAで世界を目指す』第7回:鈴木陽一ALIVE代表「体組成とMMAのスポーツ化」─02─

【写真】取材当日は選手がインボディでの測定後、理学療法士の所澄人トレーナーから指導を受けた(C)SHOJIRO KAMEIKE

世界的なスポーツとなったMMAで勝つために、フィジカル強化は不可欠となった。この連載では「MMAに必要なフィジカルとは?」というテーマについて、総合格闘技道場ALIVEを運営する鈴木社長=鈴木陽一代表が各ジャンルの専門家とともに、MMAとフィジカルについて考えていく。
Text by Shojiro Kameike

連載第7回目の後編は、体づくりとMMAのスポーツ化について語り合う。現在、日本でMMA関連スポーツは日本スポーツ協会(旧称=日本体育協会)に加盟していない。それは「スポーツ認定を受けていない」と言い換えることもできる。MMAの普及、競技人口の増加——MMAの未来を考えるうえでも、特に中高生のフィジカルについても考えていきたい。

<連載第7回Part.01はコチラから>


――MMAのスポーツ化、ですか。

鈴木 僕の基本的な考えは「MMAをスポーツとして認定してほしい」というものです。そのためには成長期の中高生に、保護者が納得して習わせることができるスポーツにならないといけない。

インボディ測定&シートに記入された内容をもとに、所トレーナーが体づくりの重要性を説明する(C)SHOJIRO KAMEIKE

だから選手だけでなく、ジムや指導者側もアスリートのための勉強をしてほしいと思っています。一番の希望は栄養士や理学療法士など、ちゃんと勉強して国家資格を取得した人に、MMAに関わってほしい。ちゃんと国が定める基準で見てほしい。ベテランのファイターやトレーナーが「自分の経験則で……」と指導するのは違う話なんです。

――なるほど。その点がMMAのスポーツ化と、どのように繋がってくるのでしょうか。

鈴木 正確に言えば「国にMMAをスポーツとして認定してほしい」ということです。世界各国のスポーツ関連の省庁でスポーツ認定されるためには、様々な条件があります。プロよりもアマチュアのほうが競技人口は多い、子供の競技人口が多い、世界標準のルールがある――など。日本のMMAは、おそらくアマチュアよりプロ選手のほうが多いですよね。

――「世界標準のルール」というのも難しいです。プロモーションによって大きくルールや採点基準が異なりますし。

鈴木 各団体が「ウチ独自のルールでやる」と言った時点で、それはスポーツではなくイベント……娯楽として認定されるんです。

 たとえば何かしら事業を始める場合、国が定める業種に分けられるんです。格闘技ジムは「娯楽」に分けられますね。娯楽業というと、パチンコなど娯楽産業と同じで。他のスポーツは「教育」といった業種になるのですが……。

――同じ格闘技でも柔道やレスリング、空手の道場は「娯楽」ではないわけですね。

 ジムや道場でいえば、その形態にもよると思いますが、スポーツ関連の業種に分けられると思います(※注)

注)国の定める「日本標準産業分類」では、大分類:教育,学習支援業 > 中分類:その他の教育,学習支援業 >分類コード:スポーツ・健康教授業 がある。その内容は「スポーツ技能、健康、美容などの増進のため、指導者が柔道、水泳、ヨガ、体操などを教授することを主たる目的とする事業所」。一方、「スポーツを行うための施設を提供する事業」、たとえばフィットネスクラブは「スポーツ・健康教授業」に分類されない。
【参考】総務省「大分類O—教育,学習支援業 総説」

鈴木 五輪競技である、つまり日本のスポーツ庁がスポーツとして認定しているということですよね。分かりやすい例としては。ただ、先ほど言ったようにルールの面は難しいです。僕たちのようなイチ道場主だけの意見では、どうにもならない。まず現場となるMMA道場としては、競技的な体組成や栄養を理解するところから始まると思っています。

――まだ身体が成長過程にある中高生も、安心して道場に通ってもらえるように。

鈴木 はい。たとえば17歳や18歳の選手がパンチを食らってダウンした時に脳のMRIを撮って、続けて大丈夫かどうか確認する。それと同じように、捻挫しやすい子の体組成を調べて「思ったより筋肉量が少ない」と分かれば、その点を改善していく。アスリートとしての身体的な評価を、具体的な数字で出してあげることが必要です。他競技のトップアスリートは、もっともっと細かい状態を調べてアプローチしていますよね。

――所さんは他のスポーツ選手を指導しているなか、MMA界の状況を見た時に驚きませんでしたか。

 いや、う~ん……やっていると思っていました(苦笑)。

鈴木 アハハハ、そうだよね。

 もちろん体組成からアプローチしている選手や指導者もいるでしょう。でも、やっていない人が多いのであれば凄くもったいないですよね。たとえば大リーグ、野球選手って50年前の日本人と今の日本人では平均で身長が10センチは伸びており、体重は10キロ増えています。対して米国人は昔から身長も体重も、大きくは変わっていない。それは食事の欧米化が進み、体が大きくなっているということなんですよ。

――大谷翔平選手は、まさにその象徴ですよね。体格的に米国のメジャーリーガーに負けていない。

体の構造をもとに、ストレッチポールを利用した調整法を指導。フィジカルは科学だ(C)SHOJIRO KAMEIKE

 そうなんです。食事の欧米化は、スポーツの観点で見れば必ずしも悪いわけではありません。ただ、MMAは階級制で体重調整がありますからね。体が大きくなっていくなかで、どう食事と向き合っていくのか。他のスポーツよりシビアにならないといけない。食事に関してはセオリーもあるなかで、どのタイミングで何を摂取すれば良いのか。それも階級によって変わってくると思います。他のスポーツよりも複雑なので、より勉強してほしいです。

鈴木 前にもお話しましたが、加藤久輝は元ハンドボールの日本代表です。彼がハンドボールの現役だった十数年前から遺伝子検査、腸内環境検査、体組成検査はやっていたそうで。それが民間に降りてきて、民間の実業団やプロの選手も使い始めました。

これがアマチュアの中高生にとっても普通になれば――すでに甲子園レベルの野球部や、インターハイクラスのバスケットボール部やサッカー部も取り入れています。インピーダンス法で測り、体組成や腸内フローラ、遺伝子を調べることがスタンダードになってきている。僕が言っているのは、何も特別なことをやりたいわけではなく、国がスポーツ認定している競技と同じものを普及させていきたいんですよ。

 僕はフィジカルトレーニングについては、「自分のキャパシティを増やすこと」だと説明しています。現在の100パーセントのキャパシティで同じ動きを続けていても、それは100パーセントにしかならない。でも――筋力やフィジカルを底上げし、キャパシティを110パーセントに増やすと、同じ動きでもパフォーマンスが10パーセント上がります。

こういう話って、一般の方のほうが理解しやすいんです。自分のキャパシティを増やすと、動きが変わって日常生活が楽になる。それを体感しやすいから、トレーニングの意味を納得しやすい。だけどスポーツも同じです。スポーツはスキルあってのものですが、そのスキルを向上させるためにトレーニングでキャパシティを上げてほしい、と思います。

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【Special】『MMAで世界を目指す』第7回:鈴木陽一ALIVE代表「体組成とMMAのスポーツ化」─01─

【写真】ALIVEクラス終了後ーー遂に体組成計がそのベールを脱ぐ!(C)SHOJIRO KAMEIKE

世界的なスポーツとなったMMAで勝つために、フィジカル強化は不可欠となった。この連載では「MMAに必要なフィジカルとは?」というテーマについて、総合格闘技道場ALIVEを運営する鈴木社長=鈴木陽一代表が各ジャンルの専門家とともに、MMAとフィジカルについて考えていく。
Text by Shojiro Kameike

5カ月の休養期間を経ての連載第7回目は、これまで何度も取り上げてきた「体組成」の測定について紹介したい。今回は理学療法士の所澄人氏が体成分分析装置『InBody(インボディ)』でALIVE所属選手の体組成を測定し、体づくりについて指導する現場に伺った。ここではALIVE鈴木社長と所氏に、体組成を測定する意義について訊いた。


鈴木 今回は『インボディ』という機器で、成長期にある選手の体組成を測ります。インボディというのは簡単に言うと業務用の体組成計で、体組成を測ることで選手にとって適正な階級を調べるために行います。そのために今回は、2度目の登場となる理学療法士の所澄人君に来てもらいました。

 よろしくお願いします。

――よろしくお願いします。この連載では以前から体組成について説明してきましたが、今回は実際の測定風景をご紹介することとなりました。

鈴木 インボディでは、左右の手足の筋肉量の差を測ることができます。その結果から、体の問題の原因を考えることができる。所君には選手の動きも見てもらい、理学療法士の視点から「こういった怪我をする可能性がある」とチェックしてもらうんです。

株式会社インボディ・ジャパンの体成分分析装置『インボディ』。医療用、専門家用、家庭用など様々なタイプがあり、多くのトレーニング施設で導入されている(C)SHOJIRO KAMEIKE

――左右の筋肉量に差があった場合、問題となるのは差の大小なのでしょうか。あるいは、そもそも差があってはいけないのか。

 大事なのは「差があることを理解しておく」ということですね。どのスポーツでも競技特性から必ず左右の筋肉量に差が出てきます。当然、使っている筋肉のほうが肥大しますし、必ず右利きと左利きでも差は出ますから。筋肉量に差がある箇所に怪我の既往歴があるなら、怪我しないように強化していく必要がある。インボディで、怪我対策のための一つのデータを得ることができます。

普段から何となく、ただ練習メニューをこなすだけでなく、より強化すべき箇所にフォーカスすることで怪我予防に繋がります。それが結果的に選手寿命を長くして、パフォーマンスを上げることにも繋がってきますよね。

――なるほど。筋肉量の左右差には、ある程度のパターンがあるのか。それとも個々で全くことなるのでしょうか。

 競技によってパターンがあり、その中にも個性が出てきます。筋肉量に差が出てくるのは、動きに依るところが大きいわけですね。当然のことながら、ずっと同じ動きをしていたら筋肉が肥大する箇所も同じです。その部分で、競技特性によるところは大きいです。

――競技特性と、ファイトスタイルも。

所 MMAの競技特性を考えると、ファイトスタイルの違いも大きいですね。

鈴木 ストライカーかグラップラーか、というだけでも変わってくるからね。

 その選手に、どういう持ち味があるのか。僕たちは一つの動きを要素分解していくんです。たとえば右のパンチ一つに対してリーチ。上半身のスピード、下半身の強さ、柔軟性とか。そのなかからウィークポイントを探し、穴を埋めていく。それがフィジカルというものであり、フィジカルを強化していくためには体組成を把握しておくことは重要です。

――なるほど。インボディのような体組成計でないと、それだけパフォーマンスを強化するだけの参考データを取得することはできないのでしょうか。

 そうですね。右腕、左腕、右足、左足で何キロの差があるというところまで出るので。

鈴木 以前にも紹介した「インピーダンス法」ですね。両手両足の四方向から電気を通して測ります。一般的に見られる――足からだけ測る体組成計だと、両手や上半身については正確な数値が出ませんから。

――その数値を測ることができる機器だけに、価格も高いかと思います。他のスポーツやジムなどには、どれだけ普及しているのでしょうか。

両手両足の4点から電流を流した際に発生する「インピーダンス」から、人体を構成する成分を測定する(C)SHOJIRO KAMEIKE

鈴木 今はスポーツクラブやパーソナルトレーニングジム、なかには整骨院で導入している場合もありますね。オリンピックスポーツと提携している整骨院もありますから。

 一般企業さんでも普及していますね。測ってみると面白いといいますか(笑)。インボディでは体脂肪率ではなく、脂肪の量が表示されるんですよ。たとえば60キロの体重に対して、一般的な体脂肪計では「33パーセント」と出る。しかしインボディでは「20キロ」と出る。そのリアルな数字を見ると結構ショッキングですし、「このままではヤバイ」と考えますよね。一般の方にはリアルな数字を見せて衝撃を与えるという有効活用ができます。

アスリートの場合は、また違います。筋肉量が思ったよりも少なく、意外と体脂肪が多いとか。逆に筋肉量が突き抜けていて、体脂肪が低すぎるとか。そういった個々に特性があるので、体組成と比較しながら課題を見つけていきます。

スタミナがない場合は、体組成としては下半身の筋肉が弱かったりします。であれば、その部分を強化したほうが良い。こうして体組成を調べた結果をトレーニングメニューに組み込むことができるので、練習プログラムの改善のためにも重要になりますね。

――ALIVEでは、この体組成計を使い続けているのですか。

現在の体調や測定結果などシートに記入し、鈴木社長と所氏でチェック。選手の指導に生かす(C)SHOJIRO KAMEIKE

鈴木 今回は取材のために、ジムに持ってきてもらいました。いつもは選手一人ひとりを所君のジムに連れていき、インボディで測定してもらっています。ウチでもしっかりと体組成を測り始めたのは、ジムに高校生の選手が増えたからなんですよ。

これは脳のダメージにも関わる問題であって。仕事柄、産業医さんや栄養士さん、理学療法士さんたちと関わることは多いじゃないですか。そのなかで聞くのは――脳や頭蓋骨って、22歳までは柔らかいままで。形成されるまでに思ったより時間が掛かるということなんです。だから中高生が頭にダメージを受けると、後々に影響が出てきてしまう。

 うん、そうですよね。

鈴木 以前、ウチのジムにもいたんです。小さい頃にハイキックで失神した経験のある子は、大人になっても失神しやすかったり、倒れやすくなる。脳が形成される過程で、ハイキックを受けた時に出来る傷が残っているので。あとは一つのスポーツを長く続けていると、いわゆる「野球肘」や「テニス肘」のように組成や骨の形状が変わってきます。そういったことがあるから高校生の選手のために、しっかりと体組成を測るようになりました。

――その効果は……。

鈴木 効果が有る無いの前に、まずは本人が自分の状態を知ることなんですよ。怪我の予防だから。効果という部分で言えば、一番は本人と親が納得してMMAを続けてくれます。それが一番大事なことだと思いますね。MMAをスポーツ化していくためには。

<この項、続く>

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【Special】『MMAで世界を目指す』第6回:鈴木陽一ALIVE代表「MMAファイターの脱水と脳震盪」─02─

【写真】鶴和レフェリー&ドクターに脱水について訊きます(C)SHOJIRO KAMEIKE

世界的なスポーツとなったMMAで勝つために、フィジカル強化は不可欠となった。この連載では「MMAに必要なフィジカルとは?」というテーマについて、総合格闘技道場ALIVEを運営する鈴木社長=鈴木陽一代表が各ジャンルの専門家とともに、MMAとフィジカルについて考えていく。
Text by Shojiro Kameike

連載第6回目は、救急科のドクターでありMMAのレフェリーも務めている鶴和幹浩氏にご登場いただく。前編では鶴和氏にドクターとしてのお仕事と、MMAのレフェリーについてご説明いただいた。後編は本題である「MMAファイターの脱水と脳震盪」について考えていこう。減量で水抜きを行う選手が多いMMAだけに、ぜひ知っておいてほしい。

<連載第6回Part.01はコチラから>


極限の状態でも水があれば生命を繋ぐことができる。逆に……

鈴木 選手の体づくりに関する連載の中で、ドクターでレフェリーもやっている鶴和さんに脱水と脳震盪についてお聞きしたいと思っていたんです。特に脱水については、たとえば私がやっていた陸上競技では、試合前に体重の2~3パーセントも脱水していたら出場停止でした。でもMMAの場合は通常体重の7~8パーセントも水抜きをして、24時間後に試合をする。MMAはほとんど室内で行われていますが、たとえば炎天下の中で行うスポーツで、試合前に7~8パーセント脱水していると怖いですよね。

鶴和 怖いですね。まず脱水が身体に良いわけはなく、悪いとしか言いようがないのです。よく知られているのは、人間の身体の約6割……つまり体重の半分以上は水で出来ています。その水分が出たり入ったりしながら、身体を維持しているわけです。救急診療の現場でも、口から水を飲めるかどうかは非常に重要で、病気がなんであれ、口から飲めない患者さんは入院して点滴が必要になります。

たとえば山で遭難した人が2週間後に救出されたというニュースがありました。その人たちは2週間、食事をしていないのに生存していて。なぜかというと沢の水を飲んでいたというんです。水分を摂っていたから生還することができた。極端な話、食事は摂らなくてもある程度大丈夫ですが、水分を飲まないと干からびて危険な状態になります。

鈴木 まずは水分なのですね。

鶴和 極限の状態でも水があれば生命を繋ぐことができるという一例です。逆に脱水は全ての臓器、器官に悪影響を及ぼし、生命に関わることもあります。

鈴木 通常体重の5パーセント前後の脱水をした場合、24時間あれば筋肉や内臓の水分バランスは良くなるけど、脳や脊髄の水分はなかなか戻らないという話を聞いたことがあります。だから10パーセントも脱水した人は、試合で受けるダメージも違ってくると。

鶴和 その可能性はあるかもしれません。やはり試合前の脱水は極力避けたいですが、そうせざるを得ない状況がありそうですよね。よく選手が計量当日の朝から水抜きをして、カラカラになって計量会場に現れるじゃないですか。良くないことだとは分かっていても、戦略上、仕方ないという理由でやっているように感じます。

鈴木 試合当日に体重差があると不利だ、という気持ちはありますよね。選手によっては計量から試合前に10パーセントは体重が戻りますし。

鶴和 それだけ戻ると、当日のパンチに乗る体重が変わってきますし、そのぶん攻撃力も違ってくるでしょうね。

先ほど鈴木さんから体重の2パーセントという数字を伺いましたが、通常体重が60キロだとすると2パーセントは1.2キロです。身体から1.2kgつまり1.2リットルもの水分が失われるというのは結構キツい。でも選手は5~6キロを水抜きで落とすわけですよね。

2リットルのペットボトル×3=6キロ。500ミリリットル1本と比べると、その量がよく分かる

鈴木 6キロというのは、2リットルのペットボトル3本分だと考えてくれれば、よく分かりますよね。それだけの水分はもう脳、脳幹、脊髄の水分もなくなるでしょう。

鶴和 全身のあらゆる臓器から水分を抜いてしまっている可能性はありますね。医師としては「脱水はよくない」としか言いようがないです。ただ、競技の性格上、難しいですよね。

水抜き後にカラカラになった状態での長距離移動は危険

鈴木 本来は、脱水は体に良くない行為です。それを前提として、MMAが階級制であるかぎり減量という行為はなくならない。特に心配なのは、脱水後は血液が濃い状態になっている。その状態で心拍数が上がると血管が詰まり、脳梗塞や心筋梗塞の心配も出てきませんか。

鶴和 救急の現場では「脱水は何でも悪くする」と患者さんに説明しています。病気や診断が何であっても、脱水状態になれば病状は悪化しますよ……と。だから入院して点滴を受けてもらうとか、水分補給については詳しく説明しています。

鈴木 他の病気にも影響を及ぼすのですね。

鶴和 はい。様々な病気やケガ、全身の臓器も脱水によって状態は悪化します。腎臓などは特に脱水の影響をモロに受けやすい臓器ですね。

鈴木 競技トレーナーからすれば、減量のために脱水せざるをえない時があります。だから、できるだけ脱水のパーセンテージを下げて、最低でも脱水中は付いてあげてほしい。ウチは脱水のパーセンテージが高い選手は、計量前日からコーチと一緒に入ります。そのホテル代は自費になっても、選手の安全のためですから。

鶴和 そうですね。計量会場まで長距離移動の場合、水抜き後にカラカラになった状態で新幹線や飛行機に乗るのは危険です。特に飛行機での長時間の移動では、エコノミークラス症候群(肺血栓塞栓症)で血液の塊が肺に詰まったりすることもあります。肺血栓塞栓症は致死的な病気で、脱水では、より起こりやすくなりますね。

鈴木 ウチの場合は全選手、試合が決まると体重の折れ線グラフをつくります。バンタム級=61.2キロの選手だと、計量の前々日=塩分抜き前にリミットまで4キロの状態にしておく。現状が試合の6週間前で71キロであれば、65キロまで落とす。その6キロを6週間で割ると、1週間に1キロになりますよね。その数字を目安にして毎週チェックします。

ジムでの計量風景。どれだけ普段から自分緒体のことを考えられているかが大切だ(C)ALIVE

もし途中で体脂肪を落とせていなかったら、サンドバッグやヒートトレーニングを余分にやらせたりとか。逆に落ちすぎている選手は健康状態をチェックしたりしますね。急に落ちるのは脱水状態だから、睡眠が足りていないかもしれないと。

鶴和 体組成までチェックされているのですか?

鈴木 道場に体組成計があるので、若い選手は最初に体組成をチェックします。見た目と体組成は結構違っていて、体組成計でチェックしますね。ONEが導入しているハイドレーション・テストは、形を変えてジム単位でも導入したほうが良いのかなと思うんですよ。ONEのように計量当日ではなく、計量日までの確認として。

鶴和 パンクラスでも計量3日前の体重を報告してもらっています。参考値としてですが、その時点でリミットから大幅に重い選手が3日間で落とせるのかどうか。果たして3日間で落としていいものなのかどうか、と。

鈴木 医療面から考えると、脱水は良くないという結論は変わらないと思います。でもMMAの前提として減量があり、減量のための水抜きもある。ただ現在、UFCは選手が現地に入ったあと、減量食からリカバリーのドリンクまで順番を決められているそうです。だとすれば、できるだけ健康な状態に戻して試合に臨めるように、次はリカバリーも含めて専門的に考えていきたいですね。

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【Special】『MMAで世界を目指す』第6回:鈴木陽一ALIVE代表「MMAファイターの脱水と脳震盪」─01─

【写真】パンクラス、DEEP、グラジエイターなどでお馴染みの鶴和レフェリー(C)SHOJIRO KAMEIKE

世界的なスポーツとなったMMAで勝つために、フィジカル強化は不可欠となった。この連載では「MMAに必要なフィジカルとは?」というテーマについて、総合格闘技道場ALIVEを運営する鈴木社長=鈴木陽一代表が各ジャンルの専門家とともに、MMAとフィジカルについて考えていく。
Text by Shojiro Kameike

連載第6回目は、救急科のドクターでありMMAのレフェリーも務めている鶴和幹浩氏にご登場いただく。鶴和氏に「MMAファイターの脱水と脳震盪」について訊く――はずが、本題の前にレフェリーとドクターの業務について興味深い話が出てきた。MMAファイターの体を守るのもレフェリーとドクターの役目。基礎知識としてMMAにおけるレフェリーとドクターの業務についてご紹介し、前編の内容も踏まえて後編をお読みください。


ルールを理解していないと、ドクターとしても変な判断をしてしまうかも

鈴木 今回は脱水と脳震盪をテーマにお話を聞きたいと思い、現在ドクターであると同時にMMAのレフェリーもされている鶴和幹浩さんにお越しいただきました。鶴和さん、よろしくお願いします。

鶴和 よろしくお願いします。私は救急科専門医です。救急科というのは、救急車で病院に運ばれてくる患者さんを病気や怪我にかかわらず診療する科です。

鈴木 ひとくちにお医者さんといっても、それぞれ専門分野があるじゃないですか。そのなかでも救急処置ができる方がケージサイドにいてくれると、我々の立場としてもすごく安心するんですよ。だからウチが開催しているアマチュアパンクラスでも鶴和さんに来ていただいています。

鶴和 そう言っていただけると本当に嬉しいです。確かに格闘技の現場で起こりうる問題は、ほぼ救急医がカバーできる分野だろうと思います。

鈴木 今年2月のGRACHAN大阪大会で松場貴志が左腕を脱臼した時、応急処置として腕をはめてくれたのが鶴和さんでしたよね。

今年2月のGrachan67にて。(C)SHOJIRO KAMEIKE

鶴和 松場さん、その後は大丈夫ですか?

鈴木 大丈夫です。応急処置していただいたあと、救急車で病院に行って検査もして――その節はありがとうございました。まずは鶴和さんが医師、そしてレフェリーになった時期と経緯を教えてください。

鶴和 医師になったのは1998年で、ずっと救急の現場にいます。格闘技大会への関わりは2012年か2013年だったと思いますが、ZSTやジ・アウトサイダーに大会ドクターとして参加させてもらったのが最初でした。当時はZST代表であった上原譲さんには大変お世話になりました。

鈴木 最初はリングドクターだったのですか。

鶴和 はい。大会中に『これは競技のルールを理解していないと、ドクターとしても変な判断をしてしまうかも……』と思うことがあって。
鈴木 ドクターストップの判断とか。

鶴和 そうです。私は学生時代に日本拳法をやっていたのですが、MMAとは異なります。ルールなど競技のことを知らないのに、メディカルストップのような責任のある権限は負えません。だからルールを勉強したいと思っていた時に、ちょうどパンクラスで審判候補生を募集していまして。医師として参加した大会で梅木さん(JUDGE SQUAD代表 梅木良則氏)を紹介していただき、審判団で勉強させていただくようになって現在まで師事しております。

鈴木 ドクターからレフェリーへ! 本題の前に、すごく興味深くなってきました。

鶴和 審判の仕事は、選手の命や勝敗を預かる立場として不謹慎な言い方に聞こえるかもしれませんが、もの凄く面白くてやりがいのある役割なんです。自分にとっては、医師として大会に関わるよりも、はるかに興味深いことばかりで、格闘技の審判員という仕事にのめり込んでいきました。

鈴木 今、一つのプロ興行で両方やってほしいと言われませんか。アマチュア大会だと、ウチのアマチュアパンクラスでは鶴和さんに両方お願いすることもあるけど……。

鶴和 それは、あります。でも梅木さんから「兼任だと、大会そのもののクオリティが保てないから」と方針についてお話があり、プロの興行では兼任せず、アマチュア大会では臨機応変に……ということになっています。

鈴木 プロの興行で、白衣姿でケージサイドに座っている人が白衣を脱いだらレフェリーのコスチュームになったりすると……(苦笑)。

鶴和 アハハハ、それは変ですね(笑)。あとはもう一つ、そもそもレフェリーとドクターは異なるものです。レフェリーストップとメディカルストップも異なります。そのため、レフェリーをやっている時に医師としての判断はできません。レフェリーがメディカルストップを判断してしまうと、それぞれの立場がおかしくなってしまう。責任の所在がハッキリしなくなります。

審判団の中で必要な救急医療や応急処置の知識と技術をセミナー形式で

鈴木 ちなみに、たとえばパウンドアウトでストップする時はレフェリーの視点だけですか。それともドクターとしての視点も入りますか。

レフェリーストップのタイミングは難しい。格闘技と医学の見識から考える必要は出て来る(C)SHOJIRO KAMEIKE

鶴和 難しい質問ですね(苦笑)。でも、パウンドの時はレフェリーの視点です。ケージの中に入っている時は100パーセント、レフェリーですから。でもインターバルでは、チラッとドクター目線で選手の状態を見たりすることはあるかもしれません。『ダメージや負傷は大丈夫かな?』とか。

鈴木 これは本題と異なるように見えるかもしれないけど、重要な問題だと思います。世界を目指す選手だけでなく、まず人がMMAを続けていくためには健康面や安全面は欠かせません。我々も職業として常設道場を持ち、医療的な観点も持たないといけない。人の体に関わる仕事ですから。それは大会を運営する場合も同じで。

たとえば加藤久輝がベラトールに出場した時は、ドクターによる運動機能のチェックがありました。内容は四肢の機能障害、手足の機能障害、脳のダメージ、あとは視力検査などです。このメディカルチェックにクリアしないと、試合に出場できない。これは米国だとABC(Association of Boxing Commissions)の管轄で、UFCやベラトール、IMMAFも含めて統一の基準があるんですね。しかもメディカルチェックの時に、レフェリーも一緒にいました。

鶴和 なるほど。米国とは少し違うかもしれませんが、私が所属しているパンクラスでも、試合前日の計量には必ず医師が立ち会うことになっています。また、審判団の中で必要な救急医療や応急処置の知識と技術をセミナー形式で情報共有しようと準備中です。

鈴木 それは良いですね! 私はもともと厚生労働省の健康運動指導士という資格を持っていて、厚労省管轄の運動施設に勤務していました。それと企業の健康経営として産業医さんと一緒に仕事をしていたこともあって、格闘技に関わることでも医療面の話が後になってしまうのが不思議だったんです。

鶴和 まだ計画段階ではありますが「Cage Side Emergency」と題しまして、打撃による裂創や失神、絞め技による失神―さらに心停止というケースまで対応できるような内容を考えています。

鈴木 鶴和さんがいるからこそ可能なレフェリー講座ですね。講座の実現と、その効果を楽しみにしています。では、ようやく本題の「脱水と脳震盪」に移りましょう。

<この項、続く>

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【Special】『MMAで世界を目指す』第5回:鈴木陽一ALIVE代表「MMAファイターの食事と体づくり」─02─

【写真】4月29日にパンクラスで粕谷優介を下した久米鷹介。試合2カ月前で、このグッドシェイプを維持していた(C)SHOJIRO KAMEIKE

世界的なスポーツとなったMMAで勝つために、フィジカル強化は不可欠となった。MMAPLANETでは「MMAに必要なフィジカルとは?」というテーマについて、総合格闘技道場ALIVEを運営する鈴木社長=鈴木陽一代表が各ジャンルの専門家とともに、MMAとフィジカルについて考えていく連載企画をスタート。連載第5回目は、前回に続き公認スポーツ栄養士の牛島千春氏とMMAファイターの食事と体づくりについて考える。
Text by Shojiro Kameike

<連載第5回Part.01はコチラから>


鈴木 どの年代でも増量期はカロリーを増やして、減量期はカロリーを減らすという原則は変わらないわけですよね。

牛島 はい。たとえカーボを優先しても、少量のカーボだけでカロリー摂取量が低すぎると意味はないですから。特に成長期であれば、成長する分のカロリーも摂取しないといけないですし。一方でMMAの場合は、試合のない時期の食事の内容も考えておかないと、いざ試合前になると減量もしづらくなってしまいますよね。

鈴木 試合がない時期、つまり通常は糖質中心の食事のほうが良いですか。

牛島 糖質中心のほうが、減量期に入ると体重を落としやすくなると思います。脂質を上げすぎてしまうと、脂肪が増えてしまいますからね。そのケースでよく言われるのが「クリーンバルク」と「ダーティバルク」です。

牛島 たとえばジャンクフードばかりを食べて体を大きくのするのが「ダーティバルク」で、クリーンな食事で体を大きくすることを「クリーンバルク」と呼びます。ただ体を大きくするだけであれば、ダーティバルクでも良いのですが……。

鈴木 以前、何かの記事で見たことがあります。1日10本コーラを飲んで体を大きくしたけど、コーラを飲まないとイライラするような体質になってしまったと。コーラを飲むと血糖値が上がるじゃないですか。するとインスリンが分泌されて、血糖値が下がりすぎてイライラするようになってしまう。そうならないようにコーラを飲み続けるという……。

牛島 血液検査を実施している競技であれば、その状態では血糖値で引っかかってしまいますよね。

鈴木 やはり成長期の体づくりではカーボを先に摂ることも重要だけど、ちゃんとバランスを見ていかないといけないですね。練習中に、吸収の良い糖質が入ったドリンクを飲むのは良いですか。たとえばポカリスエットやアクエリアスとか。

前編にもあったとおり、ファイターにオフシーズンはない。竹本啓哉とワタナベ関羽マサノリのコンビは1週間のスパンで互いの試合を控えていた(C)SHOJIRO KAMEIKE

牛島 良いと思います。あるいはBCAAが入ったサプリメントを摂るとか。アミノ酸が欠如すると筋分解が起きてしまいますから、筋肉のエネルギー源になるBCAAは摂ったほうが効果的ですね。特に強度が高いスポーツや、運動時間が長い場合はBCAAを摂らないと逆に筋肉も減っていく場合があります。

鈴木 「運動時間が長い」というのは、どれくらいの時間を指しますか。

牛島 2~3時間でも長いと思います。

鈴木 MMAって打撃と寝技、全てをやると2~3時間ぐらいは普通に掛かってしまいますよね。ウチの場合は、計4時間ぐらいになることもありますし。

牛島 それは凄いですね! 練習の間はドリンクだけで繋いでいるのですか。

鈴木 ドリンクぐらいです。そうなると筋肉が減ってしまいますか。

牛島 練習後のエネルギー補給は、どうしているのですか?

鈴木 選手によってバラバラですね。練習を終えて自宅に帰ってからガッツリと食べている選手もいると思います。

牛島 遅い時間にガッツリ食べてしまうと消化しきれずに、翌朝しっかりと食べられないケースも出てきますよね。

鈴木 練習を終えて夜11時に食事をするとしたら、やはり野菜とたんぱく質が中心の食事のほうが良いですか。

牛島 そのほうが消化に良いと思います。炭水化物も良いですが、糖質を摂りすぎると消化にエネルギーが使われすぎて、熟睡できなくなる可能性があります。睡眠の質が下がると翌日の動きにも響いてしまいますよね。やはりガッツリと食べるのは、寝る2~3時間ぐらいまででしょうか。

鈴木 それは難しい(苦笑)。

牛島 夜に練習する状況だと、帰宅してすぐに寝なければ翌日に響いてしまいますよね。そのためには朝と昼にちゃんと食べて、夜の練習前に栄養を摂取しておくことが大切になります。

鈴木 ジムの周囲に飲食店を探しておいたほうが良いね。

牛島 練習後はできるだけ早く栄養を摂ったほうが良いので、帰宅して食事するまで1時間も空くようでしたら、練習直後に補食でつないでほうが良いです。早ければ早いほど翌日に疲れも残らないので。理想は最初に糖質を摂ってからプロテインを飲んだほうが効率は良いですね。血糖値を上げてから、たんぱく質を摂るという。

鈴木 その場合、糖質が入ったプロテインでも良いですか。

牛島 はい、それでも大丈夫です。

鈴木 なるほど。あるいは練習後に、おにぎりを販売するか……。

牛島 そういうのはアリだと思いますよ。昔は部活で練習後にマネージャーさんが、おにぎりを用意していることもありましたし。

鈴木 そうだ! 僕も部活で練習後は走って寮に戻り、すぐに食事していました。当時は「なぜこんなに早く食事するのだろう?」と思っていたけど。

牛島 トレーニング後にすぐ糖質を摂ることができるよう、炊飯器を持って移動されているボディビルダーの方もいるぐらいですし。

鈴木 昔はごはんや鶏むね肉をタッパーに入れて持ち歩くことが多かったけど、最近はごはんを炊いて、そのまま炊飯器を持って移動する人がいますね。

牛島 もちろん極端な例ではありますが――1日3食だけでなく、トレーニング後にエネルギー源を補給する。筋肉を減らさないためには、それぐらいの意識が必要ということですね。

格闘技専業でもないかぎり、どうしても練習は仕事や学校が終わってからーー。1日の生活リズムを考えることは必須だ(C)ALIVE

鈴木 昼間に仕事や学業がある選手に必要なことは、まずは朝と昼にしっかり栄養を摂取すること。あとは練習前に補食でつなぎ、練習直後に糖質からたんぱく質を摂取して、あとは早く寝ろ――ということですね。

牛島 「朝ごはんを制する者が競技を制する!」ということですね。あと1日3食はもちろん、たんぱく質はコツコツと摂っておくほうが良い場合もあります。たんぱく質は一度に溜めておく量が限られているので。6時間経ったらグリコーゲンが枯渇してしまうので、炭水化物もコツコツと食べておいたほうが良いです。

鈴木 そう考えると、昼ごはんと晩ごはんの間に「3時のおやつ」を食べるという習慣も、本当によく出来ていますよね。

牛島 3時ごろは一番、脂肪になりにくい時間ですからね。夜になればなるほど脂肪を溜めこむ遺伝子が働くようになります。そういった生活習慣に変えることも簡単でないとは思いますけど……。

鈴木 でもプロのファイターにとっては、そういった調整も仕事のうちですから。

牛島 これだけは言えるのは――アスリートにとって、どうしても埋められない才能の差というのはあると思います。しかし食事も含めて体づくりは、自分の努力次第という面が大きいんです。それこそ1日3食と3時のおやつは、もともと皆さんが日常でやっていることで。その内容を変えてみるだけでも良いですから、ぜひ始めてみてください。

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【Special】『MMAで世界を目指す』第5回:鈴木陽一ALIVE代表「MMAファイターの食事と体づくり」─01─

【写真】高校生に全日本アマチュアMMAを制した、ALIVE所属の山本麻弥。彼のような十代ファイターが増えていくと同時に、新しい体づくりも求められている(C)SHOJIRO KAMEIKE

世界的なスポーツとなったMMAで勝つために、フィジカル強化は不可欠となった。MMAPLANETでは「MMAに必要なフィジカルとは?」というテーマについて、総合格闘技道場ALIVEを運営する鈴木社長=鈴木陽一代表が各ジャンルの専門家とともに、MMAとフィジカルについて考えていく連載企画をスタート。連載第5回目は、前回に続き公認スポーツ栄養士の牛島千春氏とMMAファイターの食事と体づくりについて考える。
Text by Shojiro Kameike

<連載第4回Part.01はコチラから>
<連載第4回Part.02はコチラから>


鈴木 前回に続いて公認スポーツ栄養士の牛島さんと一緒に、MMAファイターに必要な食事や栄養の摂り方などを考えていきたいと思います。よろしくお願いします。

牛島 よろしくお願いします!

鈴木 今回のテーマは2つあります。一つは成長期の減量と体づくり、もう一つは昼間に仕事や学業がある選手の食事の摂り方についてです。

まずは成長期の減量と体づくりについて――我々がMMAを始めた二十年前というのは、選手は大人ばかりでした。柔道やレスリングからMMAへ、というように。しかし今は子供の時期からMMAを始めていることが多いです。成長期、つまり中学3年間や高校3年間は身長も体重も大きく変わる。その時期の減量や体づくりには、どうしても公認スポーツ栄養士さんなど専門的な知識が必要になってきます。

牛島さんの「公認スポーツ栄養士」という資格の詳細は前回記事へ(C)SHOJIRO KAMEIKE

牛島 MMAが階級制のスポーツであるという点がポイントですよね。成長期の体づくりを考えるうえで重要なのは、骨が成長するのは20歳まで。筋肉や脂肪は20歳以降でも増やすことはできます。しかし骨量を増やすことができるのは十代の間ですから、その時期に過酷な減量を課すのは……。

鈴木 栄養士の観点からすると、絶対にNGですよね(苦笑)。身長も伸びている、骨量も増やさないといけない時期でも階級を変えず、どんどん減量がキツくなってくるという。

牛島 そうなると骨量が増えない恐れがあります。もっと長い目で選手のことを考えてほしいな……という気持ちにはなってしまいますね。

鈴木 十代の成績より二十代の健康を考えてほしい。ウチのジムでも高校生が入会してきたら、まず身長について訊くんです。身長が伸びている間は、無理な減量をすることがないように階級を考えるようにしています。

一方で、ウチの山木麻弥は高校2年生でパンクラスのアマチュアMMA全日本選手権で優勝しましたが、プロデビューは遅らせました。というのも、まだ成長期だから、練習していると痛みを感じる箇所が多くて。彼は天才児ではあるけれど、やっぱりプロで試合をしていくためには、ちゃんと体づくりをしないと――と思いました。

牛島 確かに。せっかくの才能がもったいないですよね。

鈴木 子供の頃からMMAをやっていて、高校時代にプロデビューする選手は今後も増えていくでしょう。そのためには十代の選手の体づくりは考えておかないといけない。

牛島 栄養の摂り方は年代によって変わってきますし、シーズンによっても違いますしね。

鈴木 シーズンという点では、MMAは他の競技と違ってオフシーズンがないんですよ。

牛島 えっ、オフシーズンがないというのは……。たとえば野球やサッカーなどは、オフシーズに体をつくり込んだりしますよね。そういうことができないわけですか。

鈴木 そうなんです。打撃主体か組み技主体かでも体型から違ってきますし。

牛島 う~ん、それは難しい(苦笑)。何が合っているか、何が合っていないかの幅も大きく変わってきますよね。

鈴木 成長期の選手と昼間に仕事や学業がある選手、いずれも知りたいのは「1日のうち何時、何を摂取すれば良いのか」ということだと思います。オフシーズンがない、定期的に試合をする選手に必要な体づくりと栄養とは何なのか。

牛島 常に体が出来ている状態にしていないといけない、ということですね。

鈴木 はい。プロになればスクランブル出場――試合直前に欠場した誰かの代わりに試合をすることもあります。道場の場合だと、自分の試合が終わっても道場の仲間の試合があれば練習相手になる。完全にオフになる期間というのは、なかなか少ないです。

練習前と練習後、いつどんな栄養を摂取するべきなのか。後編でさらに深堀していきます(C)SHOJIRO KAMEIKE

それとMMAの場合は学生であれば昼は学校に行って、夜に道場で練習する。社会人であれば昼は別の仕事を持っていて、仕事が終わってから夜に練習する。そして夜10時か11時に練習を終えて、帰宅して寝て、翌朝はすぐ仕事や学校に行くというケースが多くて。

牛島 そのケースであれば、まず朝と昼はきちんと食べますよね。あとは補食で繋いでいくしかないと思います。

鈴木 補食というのは?

牛島 「食事を補う」と書いて「補食」と言います。お菓子などではなく、おにぎり、パンなど栄養のあるものを指します。

鈴木 炭水化物が中心になるのでしょうか。

牛島 いえ、たんぱく質も含みます。要はガッツリとした食事ではなく、軽食といって良いかもしれません。まずは朝ごはんと昼ごはんをしっかりと食べておくことが前提で、あとは練習中にもエネルギーを補給しておかないと、そもそも体力がもたないですよね。

鈴木 そうなると、まずは生活習慣から変えていかないといけない。

牛島 たとえば朝ごはんが補食レベルだと、1日はもたないと思います。もう1日に必要なカロリーを朝と昼に摂るぐらいの意識でいないと……。

鈴木 朝起きてすぐの時間は胃腸が動いていない、つまり消化が悪いという状態になってはいませんか。

牛島 仰るとおりです。朝ごはんの場合は、まず温かい白湯を飲んでから食べたほうが、内臓の働きが良いですね。朝ごはんが定食形式なら、お味噌汁から飲んだりとか。

鈴木 あぁ、なるほど。ごはんを食べる時にまず味噌汁から口をつけることが多いけど、それも理に適っているというか。

牛島 コース料理は、まさにそうです。スープ、前菜、たんぱく質から最後に炭水化物と。これが健康に良い順番です。これが増量の場合は逆で、野菜ではなく糖質から摂ります。

鈴木 え、どういうことですか。

牛島 減量の時は「ベジタブルファースト、カーボフィニッシュ」といって、先に食物繊維を食べておきます。すると血糖値の上昇が緩やかになり、同じものを食べても体重が増えにくくなると言われていて。反対に増量の場合は「カーボファースト、ベジタブルフィニッシュ」で、先に糖質で血糖値を上げておいてから他のものを食べると、筋肉が増えやすくなります。

鈴木 それこそまさに、まず筋肉を増やしてから減量で体重を落とすMMAに必要なことですよね。たとえば幼少期から打撃系競技をやっていた子が高校生になってMMAを始めようとした時、やはり線が細い子が多い。道場でレスリングや相撲をすると押し負けてしまうから、まずは筋肉を増やさないといけないという状況ではあります。

牛島 その場合は、やはりカーボファーストですね。野菜でお腹いっぱいになっちゃうと、糖質まではお腹に入らなくなってしまうので。特に食が細い子は、野菜よりもお肉のほうを優先して食べてもらうことはあります。

<この項、続く>

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【Special】『MMAで世界を目指す』第4回:鈴木陽一ALIVE代表「MMAファイターの食事と栄養」─02─

【写真】練習も試合も屋内であることが多いMMAだが、それが栄養素にも関わってくるとは――(C)SHOJIRO KAMEIKE

世界的なスポーツとなったMMAで勝つために、フィジカル強化は不可欠となった。MMAPLANETでは「MMAに必要なフィジカルとは?」というテーマについて、総合格闘技道場ALIVEを運営する鈴木社長=鈴木陽一代表が各ジャンルの専門家とともに、MMAとフィジカルについて考えていく連載企画をスタート。公認スポーツ栄養士の牛島千春氏とMMAファイターの食事と栄養について考える第4回目の後編は、栄養素について学ぼう。
Text by Shojiro Kameike

<連載第4回Part.01はコチラから>


鈴木 そもそも「栄養とは何か」というところから説明していただけますか。

牛島 栄養の基本とは、まず「栄養の5大要素」ですよね。糖質(炭水化物)、脂質、たんぱく質がエネルギーに変わる栄養素で、3大栄養素とも呼ばれます。さらにビタミンとミネラルを加えたものが5大栄養素です。何をどれだけ摂取すればOKということはなく、一番大事なのは5大栄養素のバランス——3大栄養素をしっかり摂りながら、それらをエネルギーに変えてくれるビタミンとミネラルが必要になってきます。

鈴木 我々がやっているMMAというのは、まず体重制限がある。普段から練習で体を動かしながら減量しないといけません。またピリオダイゼーションとして、①試合がない時期の練習②試合が決まってからの練習③試合直前の練習と内容が変わってくるために、摂取すべき栄養も違ってきますか。

牛島 コンタクトスポーツですと、試合時のエネルギー源は糖質になると思います。すると糖質は減らしすぎず、脂質でコントロールしていくというアプローチをすることが多いです。それは①②③どの時期も変わりません。

鈴木 なるほど。いわゆる「運動性貧血」については、どう考えますか? 運動のしすぎで起こってしまう貧血のことですね。MMAもコンタクトスポーツだから、血液が壊れてしまうことが多くて。鉄分を含めたミネラルの摂取については注意していますか。

牛島 注意していますね。コンタクトスポーツとして体を動かした時に血液が壊れてしまうこともありますし、そもそも汗を流すと鉄分も一緒に体内から出てしまいます。そのため鉄分はもちろん、鉄分を吸収するためのビタミンCやたんぱく質も一緒に摂取しないといけない。こうした食べ合わせが大事になります。

それとコンタクトスポーツの場合は怪我も多くなるので、怪我をしにくい――あるいは回復が早くなる骨づくりも大切ですよね。骨の材料となるのは、たんぱく質とカルシウムです。ただ、カルシウムは吸収率が良くないので、ビタミンDと一緒に摂らないといけません。ビタミンDって紫外線によって生成される、少し変わった栄養素で。

鈴木 紫外線によって生成される、というのは……。

牛島 たとえば紫外線が少なくなる冬場は、ビタミンDが不足しがちになります。それと室内競技は紫外線を浴びることが少ないため、屋外競技よりもビタミンD不足になりやすいです。すると疲労骨折を引き起こしたりとか。そういった面でビタミンDは最近注目されている栄養素なんですよ。

栄養を考えるには食事だけでなく生活習慣から――自然って凄い

鈴木 まさにMMAは、その室内競技じゃないですか。室内競技のほうが骨の生成は難しくなると。

牛島 さらに減量がありますから。大幅な減量、脱水を行うと、どうしても骨の生成に大きな影響を及ぼしてしまいます。

鈴木 結果、怪我しやすい体になってしまう。

牛島 ビタミンDはお魚に多く含まれています。お肉だけではなく、お魚もしっかり食べたほうが良いですね。お肉を食べる時でも、もう一品――しらす、ツナ、サバ缶でも何でもお魚を加えるようにはアドバイスしています。

鈴木 室内競技だとビタミンDが不足する……それは知らなかったです。盲点ですね。

牛島 コロナ禍はビタミンD不足になる方が多かったんですよ。家から出ないために紫外線を浴びませんし、ビタミンD不足が免疫力の低下を引き起こしたりとか。それと室内競技のアスリート、デスクワークの方、さらに日焼け止めを塗りすぎている方はビタミンDが不足しやすくなります。カーテン越しの紫外線では足りなくて、やはり外に出ないといけないです。

鈴木 昔から野球選手もそうですし、格闘家も「長時間のジョギングは必要か」という議論がありました。ビタミンDのことを考えると、日に当たりながらのジョギングやランニングも必要になってくるのですね。

牛島 必要だと思います。食事からの摂取と、日に当たって紫外線による生成も大事です。ジョギングやランニングを朝に行うのは、体内のリズムを整えることはもちろん、紫外線を浴びてビタミンDを生成することにも役立つことで。

鈴木 昔から人間が理論ではなく体験や習慣に基づいて行っていたことは、実は理に適っているんですね。たとえばトレッドミルで走ると、スピードや心拍数を管理できるけど、必要なのはそれだけではない。夜に走っている場合は体脂肪が減って、毛細血管は増えるけど、骨密度には関係なかったりとか。

牛島 そういうことになりますね。

鈴木 これが一番興味深いところで。スポーツトレーナーや理学療法士といった専門分野が違えば、観点も違うし意見も異なってくる。各々の意見が間違っているわけではなく、いろんな専門家の意見を聞き、取り入れるべきものは取り入れていかないといけない。

牛島 私もいろんな専門家の方々のご意見を聞きたいです。

鈴木 MMAファイターも栄養について学んでいる人は多いと思います。しかし個人では俯瞰で考えることができない。どうしても次の試合について考えることが優先になってしまいます。だからこそ学校で専門的なものを学び、牛島さんのような専門家の意見を聞いてみないと分からないですよね。

それと栄養素の摂取といえば、やはりいろんなものを摂取するべきですか。たんぱく質といっても肉、卵、豆類と様々で。

バランスが良い食事とは……。次回はファイター向きの食事内容と時間について考えます

牛島 もちろんです。付加価値もあるので……。

鈴木 付加価値というのは?

牛島 たとえばお肉の中でも牛肉は赤身が多いのは、鉄分が多いためなんです。だから牛肉を食べると、たんぱく質だけでなく鉄分も摂取できるのが付加価値になります。豚肉は他のお肉よりもビタミンB1が多いし、鶏肉はBCAAが多かったりアミノ酸バランスが良いので、筋肉づくりに効果的である、とか。

反対にお肉からビタミンDは、あまり摂れません。お魚はたんぱく質だけでなく、オメガ3など良い脂質が含まれていますし、大豆製品であれば食物繊維が入っています。だから、たんぱく質の付加価値も考えて、いろんな種類の食べ物を摂取したほうが良いですね。

鈴木 こうなってくると、もう本当に専門家じゃないと無理ですよ(笑)。トレーナーだけではなく、牛島さんのような公認スポーツ栄養士と一緒に考えたほうが良い。次回も牛島さんと、ファイターに必要な食べ物や食べる時間などを考えていきたいと思います。

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【Special】『MMAで世界を目指す』第4回:鈴木陽一ALIVE代表「MMAファイターの食事と栄養」─01─

【写真】今回のテーマはファイターなら必見の「栄養」。特に若いファイターに読んでほしい(C)SHOJIRO KAMEIKE

世界的なスポーツとなったMMAで勝つために、フィジカル強化は不可欠となった。MMAPLANETでは「MMAに必要なフィジカルとは?」というテーマについて、総合格闘技道場ALIVEを運営する鈴木社長=鈴木陽一代表が各ジャンルの専門家とともに、MMAとフィジカルについて考えていく連載企画をスタート。連載第4回目は、公認スポーツ栄養士の牛島千春氏とMMAファイターの食事と栄養について考える。
Text by Shojiro Kameike


ALIVE鈴木陽一社長と公認スポーツ栄養士の牛島千春さん(C)SHOJIRO KAMEIKE

牛島 管理栄養士で、公認スポーツ栄養士という資格を持っております牛島千春と申します。現在は短大、専門学校、高校で栄養学の授業を受け持っています。

鈴木 公認スポーツ栄養士とは――なかなか聞きなれない名前ですが――どういった資格なのですか?

牛島 管理栄養士の資格を持っていることを前提とした、スポーツに関わる栄養士の資格です。管理栄養士といえば、病気を持っている方が対象であったり、学校や福祉施設でのお仕事が中心になります。そのなかでもスポーツに特化したお仕事をしたい方が、公認スポーツ栄養士の勉強をして、資格を取得していますね。

鈴木 管理栄養士と公認スポーツ栄養士の一番の違いは何でしょうか。

牛島 一番は対象ですね。スポーツでいえばアスリートの方はもちろん、お子さんがスポーツをされている場合や、健康のためにスポーツをされている成人の方も対象です。そういった方々に食事の摂り方をご説明しています。

鈴木 管理栄養士の資格を持っていないと、公認スポーツ栄養士にはなれないのですか。

牛島 はい。管理栄養士の資格を取得していて、かつスポーツの仕事に携わる、あるいは携わる予定がある人しか試験を受けることができません。資格試験を受けるにも最初に審査があるんです(※注)。

注:公認スポーツ栄養士の審査申請資格
1. 管理栄養士であること
2. 公認スポーツ栄養士養成講習会を受講しようとする年度の4月1日時点で満22歳であること
3. スポーツ栄養指導の経験があること、またはその予定があること
4. 日本スポーツ協会と日本栄養士会が認めた者
(公益社団法人 日本栄養士会 公式サイトより引用)

鈴木 受験のための審査があるのですね。

牛島 現状でスポーツ選手の食事や栄養に関わっていることが求められるので、「これから関りたい」と考えている人(上記『その予定があること』に該当する人)は審査に通らないこともあります。

鈴木 つまりスポーツや競技に関する知識や経験がないと難しい、ということですね。格闘技業界って、管理栄養士さんについてもらうケースは増えましたけど……。

牛島 公認スポーツ栄養士の資格を持っている人自体が、日本国内でも400人ぐらいで。まだまだ少ないですよね。

鈴木 私も公認スポーツ栄養士という資格の存在は知っていたものの、資格を取得するための段階については初めて聞きました。本題とは違うけど、スポーツ選手が引退後に管理栄養士を取得し、さらに公認スポーツ栄養士になるというセカンドキャリアも考えられるわけですね。

牛島 それは凄く良いことだと思います。引退後に栄養士、さらに管理栄養士の資格を取得するために学校へ通うことにはなりますが、スポーツの実体験があるのは強いです。

鈴木 一般の方への栄養指導と、アスリートへの栄養指導は内容も全く違いますからね。これまでの連載でもお伝えしましたが、まずMMAの場合は減量に伴う脱水があります。他の競技であれば、体重の4パーセント以上の脱水があった場合は、翌日の試合に出ません。しかしMMAは――10パーセントの脱水があった翌日に試合をすることがあって。

牛島 えぇっ!? 怖いですね……。

鈴木 そういう反応になりますよね(苦笑)。お医者さんや管理栄養士の方からすれば、絶対にダメだって言いますよ。

牛島 私も――格闘技について知らないと、「試合をしちゃダメだ」って言うと思います。公認スポーツ栄養士の基準だと、2パーセントの脱水があった時点でダメです。

鈴木 2パーセント!? もっと厳しかった(苦笑)。

牛島 医療施設で考える脱水と、スポーツにおける脱水は考え方も違ってきます。やはり御病気の方とアスリートでは筋肉量も違うので。

鈴木 確かに。しかも病気が要因の脱水症状と、自分から計量前日の一晩で10パーセントの脱水を行うのでも全然違いますし。

牛島 一晩で10パーセント……。いやぁ、凄いです(苦笑)。

鈴木 一晩でそれだけ水を抜くためのトレーニングや体づくりを、ALIVEの場合は2カ月ぐらい行います。要は「脱水の練習」をしているわけです。そういった点も公認スポーツ栄養士という専門家にお聞きしたいんですよ。

炭水化物といえば、ごはん。後編では食事の内容と摂取する時間などについて考えます(C)SHOJIRO KAMEIKE

我々トレーナーが栄養について説明する時は、「PFCバランス」を考えます。Protein(タンパク質)、Fat(脂質)、Carbohydrare(炭水化物)ですね。さらに専門家の観点からビタミンとミネラル、それぞれの栄養素の吸収スピードについても教えていただきたいと考えています。

たとえばALIVEの場合、加藤久輝はお父さんが日本人で、お母さんがフランス人です。すると体質も違ってくるじゃないですか。最近は日本国内のMMAでもハーフ(ミックス)の選手が増えていて。さらに加藤の場合は元ハンドボール日本代表で、五輪合宿で遺伝子解析や腸内解析もしていた。彼からすれば、格闘技ではそういった解析をしないことに驚いたそうです。

牛島 その解析をすることで、アプローチの仕方が変わってきますからね。代謝しやすい遺伝子を持っているかどうか、など……。選手が寮で同じ食事をしていたとしても、すぐに身体が大きくなる選手と、そうでない選手がいます。吸収スピードは体質によって違うので。

鈴木 牛島さんは特に学生の栄養に携わっているから、その違いについて詳しいでしょう。

牛島 成長期のお子さんは特に、そういった体質の違いが大きく出てきますね。

鈴木 少し前置きが長くなってしまいましたが、そういった前提を踏まえて、今回は専門家に栄養の基本についてお聞きしていきます。

<この項、続く>

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【Special】『MMAで世界を目指す』第3回:鈴木陽一ALIVE代表「体組成とフィジカルのバランス」─02─

【写真】2009年の段階で鈴木社長はすでに、MMAではなく柔術で戦っていた杉江アマゾン大輔とフィジカルトレーニングに取り組んでいた(C) SHOJIRO KAMEIKE

世界的なスポーツとなったMMAで勝つために、フィジカル強化は不可欠となった。MMAPLANETでは「MMAに必要なフィジカルとは?」というテーマについて、総合格闘技道場ALIVEを運営する鈴木社長=鈴木陽一代表が各ジャンルの専門家とともに、MMAとフィジカルについて考えていく連載企画をスタート。MMAとフィジカルについて考える連載第3回目は、MMAに必要な体組成とフィジカル――さらにジュニア世代のMMAについて考える。
Text by Shojiro Kameike

<連載第3回「体組成とフィジカルのバランス」Part.1はコチラ


――この10~20年間でMMAや柔術、グラップリングでもトレーニング内容は大きく変化してきました。

鈴木 以前はフィジカルといえば、スパーリングの中で培うものでした。しかし今は、たとえばスパーリングをやるためのフィジカルトレーニングがある。体組成も単なる減量ではなくフレーム=骨格に合った筋肉量や体脂肪率を探す。そういった面でも、だいぶ科学的になりましたね。あと体組成を考える場合、MMAはキャリアの中で――野球やサッカーでいうとポジションを変更できることは大きいと思いますよ。

納土 確かにそうですね。

鈴木 野球でいうと中学、高校、大学とピッチャーで鳴らしていた選手が、プロになってからヒジを壊してバッターに転向する。MMAの場合は、その転向が短期間で可能なわけです。二十代はストライカーだったけど三十代になったらグラップラー、というケースがありえる。すると体組成的にもフィジカルトレーニングの内容を変えていかないといけません。

たとえば十代、二十代の時にストライカーの場合はビジョントレーニング(動体視力のトレーニング)や200メートルダッシュ、SAQ(スピード、アジリティ、クイックネス)のトレーニングを行う。三十代になったら柔術とかで、手順を踏んだ寝技を覚えたりとか。そうして瞬発系より持久系のトレーニングに移行していきます。

アライブでは杉江アマゾン大輔がそうでしたね。先日、ウチの道場生から懐かしい話をされたんですよ。私が20年前に杉江アマゾン大輔と坂道ダッシュをやったり、ハートレートモニターを付けて心拍数を測ったりしていたことが雑誌で紹介されていたこととか。

当時のSAQトレーニング風景。柔術界では珍しかった(C)SHOJIRO KAMEIKE

――当時のアマゾン選手はMMAでなく柔術に集中しており、柔術家の中でもラダートレーニングを取り入れたりしていたのは珍しかったです。

鈴木 杉江の場合はラダーと坂道ダッシュといったトレーニング内容が、400メートルダッシュに変わったりしていました。年齢的なフィジカルの変化は、MMAでは十分にありえます。逆に言うと、同じトレーニングをしていてはダメなんですよ。若い頃はウェイトトレーニングをバリバリやっていて、キャリアの終盤に階級を落とすというのは、実は理にかなっている面もあるわけです。

MMAの場合、実施されている階級の体重幅が大きい。そのために無理に筋肉量を増やしたりとか、無理な減量をする場合がある。やはりトレーナーと選手本人が、体脂肪計などを利用しながら体組成を考えないといけないと思いますよ。

あとMMAは下のポジションになることがある競技です。筋肉量という意味のフィジカルにおいては、ベンチプレスとかレッグプレスなどを行う。また、組み合うのでローイングなど、ウェイトトレーニングで自分の限界値を上げていく必要がありますね。

――テイクダウンされた選手が、ボトムからスクランブルに持ち込むためには重要です。

鈴木 そうです。バランス感覚、調整力を持ったうえでプッシュ力とローイングの力を鍛えるためには、ウェイトトレーニングしながらのレスリングトレーニングが必要になります。他のフィジカルトレーニングは400メートルダッシュや器械体操など、自分の体重をコントロールできるものを基準にしたほうが分かりやすいですね。

納土 そもそも減量自体が、身体への影響を考えると良くない行為です。特に過度な減量は腎機能に大きな影響を及ぼしてしまいますから。人体の成長よりも、内臓に障害を及ぼしてしまいます。

ちなみに減量に関する効果を調べてみたところ、2022年のMMAでUFCファイターのうち616人のデータを集めた研究結果があります。その結果によると公式計量前の72時間以内に総体重の7パーセントを落とし、計量後から試合までに総体重の10パーセントが増加しているそうです。あくまで統計的には――ですが、この期間と体重幅は腎機能に影響を及ぼすと思います。

鈴木 筋肉と内臓は、脱水が体重の4パーセントが起きた場合、24時間ほどで筋肉と内臓に水分が戻ると言われています。しかし脳と脊髄に水分が戻るには、48時間は掛かるそうです。それがMMAの場合平均7パーセントということは、計量の24時間後の試合時には脳か脊髄に水分が足りない。となると、頭部への攻撃が効きやすい状態にあるわけです。そのためにも体組成を考慮し、減量時の脱水は4パーセント以内に収めたいところですよね。

理想としては、通常時は体脂肪率が低い状態でいてほしいです。ライト級のファイターであれば、通常は74~75キロぐらいで練習し、計量は汗や排泄物などを中心に脱水を4パーセントまでに抑える。試合の時も戻すのは5キロくらいですか。

――ハイドレーションテストを導入したONEの階級制と計量システムは、その点を考慮したものですね。

納土 ただ、それはそれで抜け道を探す選手も出て来ます。ちなみに体重を減らしすぎた選手は、試合で負ける可能性が高いというデータもあります。もちろんデータの集計方法次第で、減量幅が大きくても増加幅も大きい選手のほうが勝率は高いというデータも出すことができてしまうんです。それよりも、まず減量という行為自体について考えたほうが良いのではないでしょうか。

鈴木 昔、ハイパーリカバリーという方法が流行りました。ライト級の選手が試合当日は80キロまで体重を戻す――とか。しかしハイパーリカバリーをやっていた選手の多くは、選手寿命が短くなっていますからね。これは重要だから繰り返します。技を教えるインストラクターとかトレーニングを教えるトレーナーではなく、選手に寄り添うコーチとしては、競技寿命や引退後の生活のことを考えなければいけないんです。

――減量と勝率については、いかがですか。

減量が勝敗に直結するのではなく、減量により練習時間が減ることで勝敗を左右する、といえる(C)ALIVE

鈴木 コーチの視点から考えると、減量幅が大きい選手は試合直前、減量に集中してしまいますよね。我々としては、たとえば試合2週間前にハードスパーを終えた場合、試合直前まで確認作業を行いたいです。しかしその時点で落とす幅が大きい減量に入っていると、確認作業ができずに勝率も落ちると思います。その点でも体組成とフィジカルを考えると、通常体重から体脂肪率を10パーセントほどに抑えて、試合直前の脱水も4パーセント程度に抑えるようにする。すると試合直前の知的作業ができるようになるわけですね。

ラグビーやサッカー、いわゆるコンタクト系スポーツは休養を3~4日取れば、試合に迎えると思います。しかしMMAで多いのは、最後の最後まで脱水を行うと試合までに回復しない。体の回復もしていないし、技の反復確認もしていないでは、勝率も下がるのも当然ですよね。

逆に、体重が増えると強くなったと勘違いする選手もいます。それはそうですよ。スパーリング相手に掛かる負荷が違いますから。でも、それは強くなっているわけではない。やはり通常体重で試合に臨むと、一番パフォーマンスは高くなります。

納土 サッカーでは減量して試合に臨む人はいないですからね。

鈴木 そう考えると体組成という部分は、普段から試合を想定した体脂肪率であるべきかと思います。よくショートノーティスで試合に出場する選手がいますよね。むしろ体組成は、ショートノーティスでも試合ができるようにするべきなのかな、とも考えます。

リミットから10キロオーバーしている選手は、ショートノーティスでオファーを受けても「その期間で体重は落とせない」と言います。それは逆で、たとえば1カ月前のオファーならトレーニングで1~2キロ、脱水で3~4キロを落としてリミットまで到達する状態を保っておくほうが良いんですよ。

通常体重増やしすぎない、体脂肪を増やしすぎないようにしておく。そのためには普段の食事から考える必要もありますので、次回は管理栄養士さんと一緒に、「身体をつくるために必要な栄養」について考えていきます。

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【Special】『MMAで世界を目指す』第3回:鈴木陽一ALIVE代表「体組成とフィジカルのバランス」─01─

【写真】一般会員さんからアマチュア、プロ選手に至るまで個々の違いを考えることが重要だ(C) ALIVE

世界的なスポーツとなったMMAで勝つために、フィジカル強化は不可欠となった。MMAPLANETでは「MMAに必要なフィジカルとは?」というテーマについて、総合格闘技道場ALIVEを運営する鈴木社長=鈴木陽一代表が各ジャンルの専門家とともに、MMAとフィジカルについて考えていく連載企画をスタート。MMAとフィジカルについて考える連載第3回目は、MMAに必要な体組成とフィジカル――さらにジュニア世代のMMAについて考える。
Text by Shojiro Kameike

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――MMAに必要なフィジカルについて考える連載、第3回目のテーマは前回に続き「体組成」です。今回は体組成についての理解を深めるために、体組成とフィジカルのバランスについて考えていきたいと思います。今回は連載第1回目にご登場いただきました、理学療法士の納土真幸さんをお招きしています。

鈴木 よろしくお願いします! まず今回のテーマのポイントは、体組成——筋肉量や骨密度、組織の強さには休養と栄養が必要だということです。簡単に言うと、身体づくりのためには練習しすぎも良くないし、ちゃんと栄養も摂らないといけないんですね。なぜ改めてこのお話をするのかといえば、やはり競技を続けていくうえで年齢的な変化があるためです。

――普段からトレーニングしているファイターであっても、年齢を重ねると体力が落ちたり怪我が治らなくなったりしますね。

鈴木 はい。その対策として、体組成の観点からは筋肉量を増やして体脂肪を減らし、骨密度を高める。トレーニングで瞬発力、有酸素能力、耐乳酸性能力、筋力を上げたりする。さらに運動する一方で、身体に休養と栄養を与えて、脳と筋肉と内臓を回復させないといけません。年齢を重ねていくと、回復が遅くなっていくという問題があります。

30代に入ってから20代のイケイケの時と同じ体組成をキープするのは大変ですよ。しかし選手活動を続け、かつ勝率を上げるためのフィジカルと体組成を考える場合、やはり年齢的な回復力の遅さという問題に着目しなければいけない。トレーナーとして選手活動を長期的に考えた場合、いかに良い栄養と休養を与えて、良い体組成をつくるかという部分が重要になってきます。

もちろん日頃から体重を増やしすぎないことも重要です。通常体重が5キロ増えると、それは5キロの鉄アレイを持って動き回るのと同じですよね。するとヒザ腰など関節靭帯への負担が大きくなります。

――MMAは30代に入って花開く選手もいますし、選手寿命も長くなりつつあります。その要因としては、身体づくりの進化もあるのでしょうか。

納土 近年の傾向でいえば、スポーツ界全体で選手寿命は伸びていますよね。特に顕著なのはサッカーで、30歳を超えても競技を続けられる人が増加しています。最も大きな要因としては、スポーツ医学の普及が挙げられます。特に栄養管理については、選手が個別に管理栄養士をつけることが増えていて。サプリも普及し、疲れにくく怪我をしにくい体づくりを意識する選手が増えてきたことは事実です。インターネットの普及により、海外選手の体づくりに関する情報も入ってくるようになったとは思います。

鈴木 選手のスポンサーにも、サプリメーカーさんが増えてきたじゃないですか。たとえば久米鷹介の場合は『ゴールデンミッション』という、世界的なダンサーさんが開発したリカバリー系のプロテインを提供してもらっています。あとは接骨院、鍼灸、カイロプラクティック・マッサージ師さん、酸素カプセルスタジオのオーナーさんのサポートがあったり、管理栄養士さんを付ける選手も増えてきました。いわゆる栄養と休養、そしてリカバリーの知識も上がったし、実際にその方法が目の前にありますよね。昔なんて、スポーツ専門の栄養士さんは東京にしかいなかった。でも今は全国的に増えていますしね。それだけ体組成に関しても、長期的な視点で考えることができるようになりました。

――長期的な視点というのは、どれくらいの期間で考えるものなのでしょうか。

鈴木 私の場合は10代の選手が道場に入ってきた場合、親御さんの体型を見たりしますよ。よく引退した後に太ったり痩せたりする人がいるじゃないですか。それは遺伝的体質もあって。だから親御さんが試合の応援に来た時、その体型を見て「この選手は10年後、こういう体型や体質になるかな」というところまで考えます。たとえば竹本啓哉の場合、彼のお父さんはラグビー選手なんです。

納土 えっ!? そうなんですか!

竹本啓哉に関する意外な情報が――(C)MMAPLANET

鈴木 意外でしょう? 竹本の場合は性格とかビジュアルのおかげで、のんびりしてそうに見えたりしますよね。でもお父さんはバリバリの有名なラガーマンで、実は竹本も体が強い。加藤久輝のお父さんも柔道でフランスに派遣される選手だったから、お父さんに似て先天的に身体が強いのではないかと。するとゴールデンエイジ――運動神経が伸びる成長期のトレーニング量によっても、年齢を重ねた時の回復の度合いも変わってきます。もともと運動する習慣がある子は、成長期を超えて大人になっても体の使い方が巧かったり、トレーニングや試合後の回復が速い傾向にはありますね。

高校生の段階で運動をしているかどうかで、大人になってからの体質も変わります。道場を25年間やってきて感じているのは、コーチはその選手の幼少期から、家族の体型も見たりして将来的な体組成の変化まで考えて指導するほうが良いということ。私も選手の5年後を考えて、「今はウェイトをやらないほうが良いかな」とか考えたりします。

――これは話が逸れるかもしれませんが、子供の頃に激しい運動や減量をやらせないほうが良いという意見もあります。たとえば幼少期から格闘技を始め階級制のスポーツに取り組んでいる子たちの中で、減量させすぎると身長が伸びない等……。長い目で見た場合、子供の頃から体組成を理解せずに減量をさせると、身体の成長に悪影響を及ぼすのですか。

納土 一概には言えませんが――軟骨が育ってくる成長期の段階で、反復する動きが多い競技をやっていると、負荷の集中する箇所の怪我は多くなります。成長期の運動によって身体が出来上がっている子と出来上がっていない子、分かりやすく言えば身体が強い子と弱い子が分かれてくる。結果、スポーツは好きだけど身体が弱い子というのは頑張りすぎてしまい、腰椎分離症(疲労骨折が原因と考えられ、成長期のスポーツ選手に多く見られる)になるケースも多いですよね。

鈴木 格闘技でも中3から高1ぐらいで道場に通い始めた子で、腰椎分離症になってしまう場合も多いですよね。コンタクトスポーツだから、まだ身体が出来上がっていない段階で大人と当たることも多いですし。アライブの場合は若い子が道場に入ると、まず柔術から始めてもらうことが多いです。柔術を通じて、ゆっくり身体の使い方を覚えてもらいます。

納土 そういった練習は、身体を休めながら行うことができますよね。指導者が選手に対して、しっかり休むことを伝えられるかどうかで変わってきます。その点がスポーツ強豪校の部活動は違っていて……選手を休ませない学校が多いです。

鈴木 高校生にとって部活動は3年間ではなく、実質的に2年間ですよね。高3の前半で部活動を引退したりするので、それまでに実績を残すために2年間で凄くハードなトレーニングを積むことになる。

納土 それだけトレーニングして、実績を残さないと先がなくなるから仕方ない面はあります。

――高校スポーツの多くはトーナメント制です。高校野球でいえば甲子園で一回負けると夏が終わってしまうので、その是非を問うのは難しい面もあります。

鈴木 2~3月生まれの子なんて、高1といってもまだ中学生と変わりませんから。同じように高1の選手向けのトレーニングを課すのは過酷ですよ。あと日中の気温が40度にもなるのに、そんな炎天下の中でトーナメントを戦うとか。

納土 そのために中体連(中学校体育連盟)の解体が検討されたり、小学校の全国大会が無くなるというのは、選手のことを考えると仕方ない面はありますね。

ジュニアBORDERで活躍中の須田雄律の父、智行氏も「ジュニアの間はあまり減量をさせない」と語っていた(C)MMAPLANET

鈴木 今MMAでもキッズやジュニアの大会が増えているので、その点は注意したほうが良いと思います。ただしMMAの場合は部活動ではないぶん、長期的に考えることができる点が違いますよね。やはり成長期の子たちは、休ませる時は休ませないといけない。

アライブでも体組成を考えた時、長期的なダメージを受けないように結構休ませています。ベテランのプロ選手からは「社長は甘い」とか「休ませすぎ」と言われることもあるけど……。40代前後で負傷があり、日常生活に支障をきたしている例もありますから。指導者として、そういった選手の姿はもう見たくない。

言葉として「トレーナー」とは、トレーニングを教える人のことをいいます。「インストラクター」というのは、インストラクション=やり方を教える人です。一方、コーチは語源が「寄り添う人」なんですよ。我々は「寄り添う人」として、選手の競技寿命や競技年齢を考えながらフィジカルを考えることは大事だと思っています。

<この項、続く>

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