7日(土)、名古屋市熱田区の名古屋国際会議場で開催されるHEAT50で、イゴール・タナベと対戦する桜井隆多のインタビュー後編。
Text by Shojiro Kameike
キャリアと年齢を重ねるにつれて、桜井は常に大きな負傷を抱えながらファイター人生を送ることとなっていた。それでも現役を続ける桜井、しかし今回のインタビューでは意外な想いが飛び出した。
<桜井隆多インタビューPart.01はコチラから>
――イゴール戦のお話の前に、昨年5月20日のGRACHAN48で行われた長岡弘樹戦について振り返っていただけますか。ユナニマスの判定で敗れ、GRANDのベルトも手放しました。
「あまり言いたくはないですが、怪我が治っていませんでした。でも長岡君との試合は日程も決まっていて、僕もその日程でOKを出しているからには、そこに合わせていかないといけない。結果、痛み止めを打って試合をしていたんです。コンディションが悪かったといえば悪かったんですけど、それは言っても仕方ない話なので。あの時の自分が弱かった。それだけです」
――これだけ長くプロ生活を送っていれば、長岡戦に限らず怪我はつきものでしょう。ただ、試合が決まってからベストコンディションを作れない状態について、どのように考えているのでしょうか。
「本当に、そこですよね。試合が決まったら毎回、試合までは怪我をしないようにと思っています。でも、もともと競技として相手に怪我をさせるような動きをするじゃないですか。ということは、自分も怪我をする可能性が高い状態にあるわけで。MMAという競技が、常に怪我と隣り合わせなんですよ」
――……。
「たとえば練習でもサブミッションが極まりかかって、無理やり逃げようとした結果、自分が怪我をすることもあって。でもその状態で、また他の練習をしている時に怪我をして……。その繰り返しだったので、今回はスパーリングの量を減らし、力を抜くところを増やしました。練習のやり方をガラリと変えています。おかげで、集中して練習することができていて、もう良い状態になっています」
――そう考えると、桜井選手はずっと10年前や20年前と同じ練習メニューをこなそうとしてきたのでしょうか。
「そうなんですよね。年齢を重ねるにつれて練習内容は変えてきたんですけど、休みどころの決め方が難しいというか。この日は休もう、と決めることができずにズルズルやってしまったり。そこは今回、たとえばスパーリングした日のうちに筋トレもやって、翌日は打ち込みだけとか。疲れている状態で全く別の動きはしないようにしていますね。おかげで今回は疲労も回復しやすくなっていると思います」
――キャリアと年齢を重ねていくと、一番コンディションが良かった状態をMAXとして、同じ練習をこなさないといけないと思いがちですよね。しかし、その練習量に体がついてこなくなると。
「そういうことは多いです。あとは試合が決まると、周りも張り切って『スパーリングやりましょう!』と言ってきてくれるんですよ。僕の練習を手伝ってくれるために、だから今日はスパーリングも何本と決めていても、断ると申し訳ないし。
それとスパーリングを断ると、試合ではないのに負けた気持ちになるというか。そういう気持ちに流されちゃって、自分のコンディションや自分自身を見つめ直すことが少なかったと思います。もっと前に気づいておけよっていう感じですけど」
――ただ、それもチームの良さですよね。みんな良かれと思って、桜井選手のために集まってくれるわけですから。
「なかなか難しいですよね。長岡君との試合の時は無理をしたので、最近はそういう練習内容に切り替えています。僕も長岡君に勝っていたら――もう1試合、もう1試合と思うかもしれない。でも今のところ、次が最後の試合というつもりでいます」
――えっ!?
「それぐらいの気持ちで行かないと、相手に対しても失礼だと思うんです。自分自身としても、次の試合がダメでもまた次――という感じでもないので。それを考えて、練習内容を変えて、自分がどれくらいの力を出すことができるのか」
――なるほど。今までイゴール選手のようなタイプのファイターと試合をしたことはありますか。
「まったく無いですね。彼は組んできて、サブミッションを極めたいでしょう。ただ、MMAだとまずは組んでテイクダウンしてってなると思うんですよね。でも彼の場合は引き込んでくるじゃないですか。ワキを差してテイクダウンできなければ、自分の形で引き込んで極めに来る。そういう動きに気を付けないといけないので、今までとは違う練習をしています」
――それは試合が楽しみです。
「こういうのも初めてです。今までは出稽古に行くと、みんな自分のスタイルでスパーリングすることが多かったんですよね。オーソドックスかサウスポーか、というのも関係なく。打撃の選手でも寝技の選手でも、僕に合わせてスパーリングすることも少なくて。
だから今回初めて、完全に相手のことを想定した練習ができています。……早くから、こういうことをやっておけば良かったよなって思います(笑)。
ただ、仕方ないんですよね。みんなで練習していると、やっぱり僕のほうが変えないといけないことのほうが多くて。練習仲間の対戦相手がサウスポーだったら、僕がサウスポーになったり。蹴りが多い選手と対戦するのであれば、僕が蹴りを多く出す役をやったりとか。そのうえ、みんなが何本もスパーリングをお願いしてきて(笑)」
――桜井選手が一番キャリアのある先輩でしょうから、それも仕方ないですね。
「でも、みんな僕のことを先輩と思っているような感じではないんですよ」
――それも素敵な環境だと思います(笑)。試合の話に戻ると、イゴール・タナベ選手がキャリア的にも完全なMMAファイターではないだけに、いつもの試合とは異なるので、より対策練習が必要にはなってくるのではないかと思います。
「いつもと全然違うだろうとも思いますけど、自分が持っているものを出せば、彼が今まで感じることのなかった痛みや恐怖を感じてもらえるでしょうし、そうなれば僕が勝つパーセンテージが上がると思います」
――痛みや恐怖……やはり気持ちは永遠にファイターですよね。
「アハハハ。相手はMMAのセオリーにはない入り方もしてくるので、自分は取られず、深追いもせず、鼻でも折ってやろうかなと思います」
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