【写真】ONEでのファイトマネーを含めると、試合だけケイドの2024年の年収は2億円越えか!!(C)SATOSHI NARITA
16日(金・現地時間)と17日(土・同)の二日間にわたって、ラスベガスのトーマス&マックセンターで開催されたクレイグ・ジョーンズ・インビテーショナル(CJI)。同大会のレビュー第4回は、80キロ以下級の決勝戦をレポートしたい。
Text by Isamu Horiuchi
<80キロ以下級決勝/5分5R>
ケイド・ルオトロ(米国)
Def.3-0:49-46.48-47. 48-47
リーヴァイ・ジョーンズレアリー(豪州)
卓越したガードワークと足関節をもってケイドの双子にして優勝候補筆頭のタイを倒したリーヴァイと、グラップリング史上最高の名勝負と呼べるような準決勝の大激闘を勝ち上がり、タイの仇を取らんとするケイド。現在のグラップリング界の風潮に反旗を翻すが如くスタンドを避け、徹底して下からの戦いを貫くガードプレイヤーと、それに真っ向から意を唱えスタンドでもグラウンドでも上からも下からも攻撃を仕掛け続けるダイナミックグラップラー。
二つの異なるスタイルの頂点を究めた両者による大注目の決勝戦だ。試合開始早々座るリーヴァイ。すると客席からはブーイングが。ケイドも少し離れたところであえて座り込み、そのまま尻で前進するガードプレイヤーの仕草を真似してみせる。そこでリーヴァイが立ち上がって距離を詰めようとするとケイドは立ち、ならばとリーヴァイはまた座ってみせた。観客の声も現在の風潮も一切気にせず、自分の戦いを貫く姿勢だ。
リーヴァイは近づいてきたケイドの右足に下から絡むと、回転してクラブライドの形を作りかける。ここでケイドは豪快にバク転するように体を翻し、振り解くことに成功。ルイトロ兄弟の哲学を象徴するかのごときガード対処法を見せた。さらにリーヴァイがケイドの右足に外から絡むが、ケイドは振り解く。次に左足に絡んだリーヴァイは、股下に潜り込み後転するようにケイドの体を崩しにかかる。
ケイドはあえてその動きに乗ってダイブするよう下になると、次の瞬間三角絞めのロックを完成。
ピンチと思われたリーヴァイだが、すぐに腰を上げて右足でケイドの体をまたぎながら回転して脱出。再び下に戻ってみせた。
リーヴァイは再び右足にからむと、Kガードから回転してケイドを崩しその足を狙う。
が、ケイドもすかさず動いてヒザの支点をずらす。それでも足を狙い続けるリーヴァイだが、ケイド回転して脱出しラウンドは終了した。
採点は二人が10-9でリーヴァイを支持し、一人が10-9でケイド。これを聞いた観衆からはブーイングの声もちらほら聞かれた。
しかし「有効な攻撃を先に仕掛けること」が今大会の最優先の採点基準であるので、何度かケイドを下から崩したリーヴァイ優勢と見ることはおかしくないだろう。また、そこは両者互角と見て第二基準の「ポジションの進行やサブミッションの試み」、さらに第三基準の「ポジションにおける優位やペースを支配」を検討したところで、考え方次第でどちらに付けることも十分可能。下からの仕掛けと上からのパスのどちらを優先するか、きわめて採点の難しいラウンドだ。
2R、横への動きを見せるケイドに対し、リーヴァイは左絡んでKガードを作り崩すと、そのままケイドの片足を持って立ち上がる。ここでケイドが片足で立つと、リーヴァイは深追いせずにその足を抜かせてすぐに座ってみせた。タイ戦と同様、無理にトップを取るための深追いはせずあくまで下からの勝負を貫くようだ。
その後も、ケイドがリーヴァイのガードの突破を試みるが、攻めあぐねる展開が続く。左右に動きニースライスも狙うケイドだが、その度にリーヴァイは巧みに足を絡めて、また腕を張って距離を作って防ぐ。
逆にリーヴァイが深く足を絡めてケイドを崩し、足関節を狙いかける場面もあるが、ケイドはそのたびにニーラインをクリアする。ならばとケイドも上からのトーホールドを狙うが、効果なし。こうして終了したこのラウンドは、三者とも10-9でリーヴァイを支持した。
ここ数年、ダナハー流の足関節の使い手等やリーヴァイをはじめとするガードプレイヤー達をことごとく打ち破り、自らのスタイルの優勢を確立してきたルオトロ兄弟。が、二年前にタイに敗れたリーヴァイはそれでもガードワークと足関節を磨き続け、ついにはルオトロ兄弟の攻撃に下から互角以上に戦うまでにその技術を高めるに至ったことが、決勝のここまでの攻防で改めて明らかとなった。
3Rもリーヴァイが下から足を効かせる展開が続く。ケイドはわざと背中を見せてクラブライドを作らせ、そこから側転してのパスを狙うが不発。残り1分、リーヴァイの頭側に回ったケイドは、インヴァーテッドガードを使うリーヴァイの足と胴体に自らの体を捩じ込む形で圧力をかけ、さらにリーヴァイの左足を抱えることに成功する。
そのまま対角線に流してのレッグドラッグを狙うが、リーバイも動いて隙間を作って防いでみせた。その後は両者特に攻め手のないまま終了。このラウンドは、終盤の攻撃が評価されて3者とも10-9でケイドに。リーヴァイのガードワークでケイドが手を焼いている状況は変わりないが、ここに来て上からのさまざまな試みとプレッシャーが、ガード=防御線をわずかにだが押し込みはじめているようにも見える。
4Rも座って下から絡むリーヴァイと、上から突破を試みるケイドによる攻防が延々と続く。ときにリーヴァイが深く足を絡めるとケイドは対処し、逆にケイドはアオキロックを見せたり、わざと背中を向けて足を取りにゆくが有効な場面は作れない。ラウンド終盤、リーヴァイが下からケイドの背中側に付きかける。
と、ケイドは下になりながらもリーヴァイの右足に外側から右腕をこじいれてのヒザ固め狙い。が、深く入らずこのRは終了。
最後のこの攻撃が評価されたか、はたまたケイドが崩される場面が少なくなっていると判断されたか、このラウンドは3者とも10-9でケイドを支持した。
中盤以降若干流れがケイドに傾きかけているように見えるものの、ここまで両者決定打なし。採点もほぼ互角という状況で、決着は最終5Rに持ち込まれた。最終回も開始早々座るリーヴァイ。するとケイドも逆に座る。
リーヴァイが立ち上がり近づいてゆくと、ケイドは立たずに下にステイ。
初めて上下逆での攻防がはじまった。低く入ったリーヴァイはケイドの左足を取ってレッグドラッグ狙い。これを距離を取って防いだケイドは立ち上がり、リーヴァイが座って結局試合は元の展開に戻った。
ケイドは上から手を伸ばし、リーヴァイの口を塞いでの嫌がらせ。さらに頭側に回ったケイドは、3R終盤同様にインヴァーテッドの中に身体を入れようとプレッシャーをかけてから、さらに足側に戻って担ぎの体勢に。しかしリーヴァイは腕でフレームを張って凌いだ。
ややケイドが攻撃する場面が増えてきている中、リーヴァイも下からケイドの足をすくうが、ケイドは距離を取って対処。
ケイドがニースライスを仕掛けるも、上の足で侵攻を止めるリーヴァイ。ならばケイドはその足を取ってのアオキロック狙いを見せる。
残り時間が少なくなるなか、ケイドはさらに激しく動き胸でプレッシャーをかけにゆくが、リーヴァイも足と腕のフレームを効かせて対処し続ける。残り20秒でケイドはバク転しながらのパスを仕掛け、リーヴァイが対処して5Rの激闘が終了した。
判定は、49-46 48-47 48-47の 3-0でケイドに。25分間、両者どちらも決定的な場面を作らせない接戦となったが、後半になるにつれ、ケイドが攻めこむ場面がやや増えてきていたこともあり、おかしな採点ではないだろう。
2022年のADCC世界大会に続いてCJIも制覇。改めてグラップリング界の頂点の座に立つとともに破格の優勝賞金を得たケイドは「信じられない。これで俺は金持ちだ! なんてね。このお金はコスタリカに創っているジムに使うよ。道場本体はもうすごく綺麗に建ったから、次はみんなが泊まれる場所を作るのさ! タイは『誇りに思う』って言ってくれたよ。今大会の顔ぶれで、僕よりタフな選手はタイだけだった。でも昨日の2試合目(リーヴァイ戦)の1Rで怪我してしまって力を発揮できなかったんだよ。タイこそが僕を倒せる唯一の人間なんだよ」と、最後まで双子の兄弟への想いを口にした。
優勝ケイドとアンドリュー・タケットによる準決勝の超激闘の印象が強烈すぎる今大会だが、決勝で惜敗したリーヴァイの活躍にも一言触れておきたい。二年前、本人がタイに完敗を喫したこともあり──ルオトロ兄弟によってガードプレイヤー達や足関節師達は完全攻略されてしまったという印象が確立しかけていた状況下で、今回下からの戦いを貫いてタイに雪辱を果たした。そして決勝ではケイドの上からの攻撃も全て遮断し、3R戦なら勝っていたのでは、と思えるほどの戦いを見せた。
ケイドの言葉にもあるように、準々決勝でのタイ戦のリーヴァイの勝利は、序盤でタイが足を負傷したが故のアップセットだという見方もあった。が、決勝のケイド戦を経て改めて明らかになったことは、リーヴァイがガードゲームとそこからの足関節等の仕掛けを、階級上の怪物王者バルボーザを制し、世界を席巻するルオトロ兄弟を脅かすところまで磨き抜いたということだ。世界中の下派のグラップラーたちに勇気を与え、今後のグラップリング界の展開にも影響するような素晴らしい戦いぶりだった。
ADCCへの対抗軸としてはじまったCJI第一回大会の軽量級は、歴史的な名勝負を生み出すとともにグラップリングのさらなる進化も告げる、極めて意義深いものとなった。
【リザルト 80キロ以下級】
優勝 ケイド・ルオトロ(米国)
準優勝 リーヴァイ・ジョーンズレアリー(豪州)
3位 アンドリュー・タケット(米国)、ルーカス・バルボーザ(ブラジル)