【写真】文字だけ追うと相当に偉そうでイケイケですが、実際に話をしている時──も、同じです(C)SHOJIRO KAMEIKE
27日(日)、東京都文京区の後楽園ホールで開催されるShooto2022#07で、環太平洋バンタム級王者の石井逸人が、藤井伸樹を挑戦者に迎えて初防衛戦を行う。
Text by Shojiro Kameike
2021年9月に安藤達也との王座決定戦で敗れた石井は、その後2連勝。今年5月に、一度ドローに終わっている小野島恒太との再戦を制し、ベルトを獲得している。やらかし言動も少なくない石井だが、安藤戦の前後で何が変わったのだろうか。もちろん藤井戦に向けても自信満々――相変わらずの石井節の中にある進化について訊いた。
――今年3月に石橋佳大選手をRNCで下したあと、「俺に足りないのはベルト」だけと仰っていた石井選手です。その2カ月後に小野島恒太選手から環太平洋のベルトを奪取しました。改めてベルトを巻いた感想を教えていただけますか。
「人間って、たぶん欲深い生き物なんですよね。欲しかったものが手に入ったら、すぐに次、次っていう欲望が出てきて。ベルトを巻いた人って、よく『獲ってみたら、こんなもんか』って感想を言うじゃないですか。自分もそういう気持ちで。このベルトをずっと守り続けていこうという気持ちはないです。でもそれ以上に、藤井にこのベルトをやる気持ちはないっていう(笑)」
――いきなりの石井節ですね(笑)。ベルトを巻くという、一つの目標に対する達成感もないのでしょうか。
「それはあります。目に見える結果ですからね。自分が生きてきた証を残せているなっていう嬉しさはありますよ」
――昨年9月、安藤達也選手との環太平洋王座決定戦で敗れて以降、2連勝でベルトを巻いています。安藤戦の前と後で、何か自分の中に変化などはあったのですか。
「それは確実に――私生活で遊ぶのを控えるようになったことじゃないですかね(苦笑)」
――どういうことでしょうか。
「安藤さんに負けたあと、夜に飲んで帰りながら『俺は何をやっているんだろう……』と思ったんですよ。それから飲みに行くことも少なくなって、かなり変わったなっていう実感はあります」
――それまでは結構お酒を飲みに行っていたのですか。
「ジムで指導して、練習したあとに新宿へ行くか――って」
――指導と練習を終えたあとでは、夜も更けた頃でしょう。
「はい。だいぶ遅くまで飲んでいて、さっき言ったように『俺は試合で負けているのに何やっているんだ……』と思ってから変わりました。完全に飲みに行かなくなった、というわけではないですけど」
――もちろん自分へのご褒美であったり、ストレスを解消するためにお酒を飲みに行くことはあるかと思います。ただ、そういう遊び方ではなかったわけですね。
「ずっと周りからも言われていました。長南(亮TRIBE代表)さんからも、酒を控えろって言われたり。でも、そこそこ勝っていたから『良いでしょ!』っていう感じで(苦笑)。やっぱり自分も、ファイターとしてはもう若いわけじゃないんで、そんな生活をしていたら、どこかに支障も出て来るんですよ。練習中に集中力を欠いたり、疲労の溜まり方とか」
――私生活を改善して、何か新しく始めたことはありますか。
「何か始めたこと……もともと練習は好きなので、練習をサボッて飲みに行くことはなかったんですよ。ただ、今まで遊んでいた時間に体を休めたりとか。メンタル面の影響が一番大きいと思います。それが良い方向に進んでいるのかどうか、自分では分からないですけど、試合で良い結果に繋がっているから良くなっている気はします」
――安藤戦では序盤に石井選手が攻め込みながら、最後は肩固めで敗れました。反対に石橋戦は、相手に抑え込まれながらRNCで逆転しています。内容的にも分かりやすいですね。
「石橋選手がチャンピオンになった頃、自分はアマ修斗に出ていたんですよ。当時から石橋選手の試合スタイルが好きでした。石橋選手のRNCに憧れて、自分もグラップラーになろうと思ったので。その人からRNCでタップを奪いたい、その気持ちが強くて狙っていました。特に石橋選手は、ほとんど一本負けがなくて。そういう相手からタップを奪うのが、一番ゾクゾクするじゃないですか。
だからRNCを極めるための作戦を練っていたんですよね。自分は、どんな体勢からでもRNCを取れる自信があるんですよ。あの試合も、自分がRNCを取れるパターンに一つひとつハマってきて。あともう一つペースがハマれば取れるんだよなぁ、っていう時にちょうどそのピースが来たっていう感じでした」
――その石橋戦の勝利から次のタイトルマッチまで2カ月というショートスパンでした。
「別に期間が短いのは気にならなかったですね。石橋戦の勝ち方だったら、次は当然タイトルマッチでしょと思っていたので。あと小野島とは前の試合がドローで、俺の中では負けているドローでしたから。それでアイツ(小野島)がチャンピオンになって、やり返すチャンスが来るならショートスパンでも上等だよ、って考えていました」
――石井選手が負けていたと考える初戦と、再戦となったタイトルマッチでは何が一番違いましたか。
「パンチで安藤さんを下がらせたことで、俺って打撃できるじゃんと思ったんですよね。それで小野島との再戦は、ジャブをたくさん突くことができたのが、勝てた要因じゃないのかなって感じです。あの試合は完全に乗りだったんですよね」
――乗りとは?
「アイツが何をやってきても、俺のほうが上だからと思っていたので。その活路がジャブだったんです。また違う場所で対戦することがあったら、その時は活路が寝技になるかもしれないし、レスリングになるかもしれないし、蹴りになるかもしれない。たまたま、あの日の活路はジャブだったというノリです。相手のパンチも見えていたので、拳をおデコで砕いてやろうと」
――相手のジャブを額で受けて……ということですか。
「そういう閃きが来ました。試合後、相手は骨折していましたよね。試合中も明らかにパンチが弱くなっているのが分かったんですよ。これは握りこんでいないだろうなって。いつ骨が折れたかは分からないですけど、何度か『これは折れたでしょ』と思う時は何度かありました。手応えじゃなく、頭応えっていうんですかね(笑)」
――ただ、相手のパンチを額で受けに行くのはリスクもあります。自分から頭を前に出しているわけですから、それに気づいた相手がパンチの軌道を変えてきたら……。
「それをリスクだと思わないから、勝てるんじゃないですかね。自分は閃きを実行できるタイプの人間なので。閃きがあっても、リスクを考えて実行できない人のほうが多いと思うんですよ。でも自分は、閃きがあったらすぐに実行する。リスクと引き換えに、それがハマれば勝てる」
――今まで、その閃きと結果が結びついた試合があれば教えてください。
「よしずみ戦(2021年1月)の腕十字とか。野尻戦(2021年5月にドロー)で、おたつロックからのAJ・マッキーがやるネルソン(マッキーオーチン)は閃きでした。印象に残っているのは、その2試合です」
――試合中に閃きがあるということは、それだけ普段から世界中のMMAを見ているのですか。
「全然見ないですね。知り合いが出ている試合は見ます(笑)」
――えっ!? それで、なぜAJ・マッキーの技を……。
「偶然SNSで、試合のダイジェストを見たんですよ、アハハハ。あぁ、こういう技があるんだって。練習もしたことはなかったけど、それが試合で出ちゃうんですよねぇ」
――はぁ……。
「反対に、閃きがない時はクソ試合になっています。東京に来て1試合目のガッツ天斗戦(2019年7月に判定勝ち)とか、パンクラスの瀧澤謙太戦(同年11月、KO負け)は閃きが来なかったですね……」
<この項、続く>
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