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【ADCC2024】レポート─03─素晴らしき、G-World!! ミカがホシャを下しスーパーグランドスラム達成

【写真】(C)SATOSHI NARITA

8月17日(土・現地時間)と18日(日・同)の二日間にわたって、ラスベガスのT-モバイルアリーナにて、世界最高峰のグラップリングイベントであるADCC世界大会が行われた。今年は既報のように、破格の賞金100万ドルを掲げて日時と場所をあえて重ねて開催してきた対抗団体クレイグ・ジョーンズ・インビテーショナル(CJI)に多くの有力選手を奪われた形となった。レビュー第3回は、元チームメイト同士にして、22歳もの年齢差対決となった77キロ以下級の感動の決勝戦と、3位決定戦の模様をレポートしたい。
Text by Isamu Horiuchi

<77キロ以下級決勝/20分1R・延長10分>
ミカ・ガルバォン(ブラジル)
Def.19分05秒 by RNC
ヴァグネウ・ホシャ(ブラジル)

以前はマイアミのファイトスポーツにて一緒にトレーニングをしていた、親子並に年齢差のある二人。42歳のホシャが笑顔で両手を大きく広げると、20歳のミカも笑顔で歩み寄り両者はハグ。しばらくそのままの体勢で言葉をかけ合った両雄だった。

スタンドの探り合い。足を飛ばすミカ。ホシャが前にドライブすると、ミカはあまり抵抗をせずに倒れてクローズドガードを取った。

ハイガードを取るミカに対して、ホシャはその体を持ち上げ、ガードをこじ開けにかかる。ガードを解いたミカは下から足を絡めると、やがてホシャの左足を引き出して肩に抱える形を作る。が、ホシャは冷静に右足をミカの頭側に移動して足を引き抜いた。

その後も下から足を絡めるミカと、上からそれを捌くホシャという展開がしばらく続くが、6分過ぎにホシャが距離を取ったところでミカも立ち上がり、試合はスタンドでの探り合いに戻った。


7分近く。 ホシャが高めのダブルで前に出るとミカは瞬時に左でワキを差しながら支え釣り込み足。天才的な反応とタイミングで見事にホシャを舞わしてテイクダウンを奪い、サイドに付いたのだった。

さらにマウントを狙うミカだが、かろうじて左足に絡んだホシャは距離を作って立ち上がった。

その後はまたしても両者のスタンド戦となり、やがて10分が経過して試合は加点時間帯に突入した。

額をミカの額に擦り付けて押してゆくホシャは、左でワキを差す得意の姿勢を作る。さらに前に出ながらの小外刈りでミカを豪快に倒すホシャ。

が、ミカは倒された瞬間に右足でホシャの体を跳ね上げて立ち上がると、スクランブルを試みるホシャの背中に、まるで猫の如き俊敏さで飛びついてみせて、あっという間にフックを入れて3点を獲得してみせた。この動きもまた、尋常ならざるものがある。

さらにパームトゥパームで首を絞め上げにかかるミカ。ピンチと思われたホシャだが、後ろに倒れ込むと同時に体を捻って、チョークを振り解いて正対することに成功。

凄まじい攻防に大歓声が上がるなか、ミカのオープンガードの上になったホシャは、なんとも言えない味のある笑顔を作ったのだった。

ここから下のミカと上のホシャの攻防が続いた後、ミカが立って試合はスタンドに戻った。お互い何か言葉を掛け合い、時に笑顔を見せながらも厳しい組手争いを続ける両者。先程の攻防がリバーサルとして評価されたのか、ホシャにも点が入りポイントは3-2となっていた。

12分過ぎ、しきりに差しの体勢を狙うホシャが両ワキを差しにゆくと、ミカはすかさず外掛けでカウンターしテイクダウン。

動きを止めずに立とうとするホシャだが、ミカは再び素早く背中に飛びつきシングルフック。

が、ホシャは腰を上げてミカを前に落とすことに成功した。

上になったホシャは圧力をかけての侵攻を試みるが、ミカの強靭な足と上半身で作るシールドをフレームに阻まれる。やがて残り4分半の時点でミカが立ち上がった。

ここまで見事な攻撃で見せ場を作っているのはミカだが、点差はわずか1点と一瞬で逆転可能だ。どんどん前に出るホシャは左でワキを差すと、ミカが払い腰でのカウンターを狙う。しかしホシャの体は崩れず、すっぽ抜けてミカが下に。ミカはすぐさま立ち上がってみせた。

無尽蔵のエネルギーを誇るホシャはさらに前進を繰り返し、ミカの頭を両手で掴んでは下げさせにかかる。が、スタミナ十分のミカはそれを許さず、積極的にホシャの足に手を伸ばしてゆく。両者気力充実、一つのテイクダウンが勝敗を分けるスリリングな攻防が続いた。

残り2分。首を抱え合った状態から、おもむろに頭を下げて右手を伸ばしたミカは、内側からホシャの左カカトを掴んでピックしてバランスを崩したと思いきや、次の瞬間背中に回ってそのままフックを完成して6-2。凄まじい動きで決定的なポイントを奪うと、すぐさま深く左腕を食い込ませ、残り1分のところでホシャからタップを奪ってみせたのだった。

大歓声が上がるなか、体を起こしたホシャの肩に顔をうずめるミカ。

親子ほども年齢差のある両者は健闘を称え合った。

やがてホシャはミカの父にしてセコンドのメルキ・ガルバォンと抱き合い、ミカはホシャの盟友にして古巣ファイトスポーツの主であるサイボーグことホベルト・アブレウとハグ。さらにミカはガールフレンドであり、今年のパリ五輪女子フリースタイルレスリング68キロ級にて、米代表として金メダルを獲得したアミット・エロアとも抱き合ったのだった。

念願のADCC初制覇にして、2024年度スーパーグランドスラム(IBJJFユーロ、パン、ブラジレイロ、ムンジアル、ADCC全制覇)達成を果たしたミカは「すごく長い旅だったよ。僕の周りにいてくれた人たちなら、ここまで本当に何が起きたかを知っているんだ。ただこの大会に出られたということだけでも僕には大きな意味がある。2022年(のADCCでは、結果が準優勝で終わって)からADCCタイトルを取るためにずっとやってきた。このイベントに感謝したい。そして来てくれたみんなにもね。感謝したいのはまずダッドだ。僕はときには、あなたに相応しいような息子じゃないのは分かっている。でも約束するよ、これからベストを尽くして、あなたが育てようとしていたような息子になるから。(ガールフレンドのアミット・エロアに向けて)ベイブ、本当にありがとう。君はオリンピックで優勝したばかりで、時間をとってここにADCCを見にきてくれた。僕のハートの全ては君のものさ、僕は本当に恵まれているよ」とコメントを残した。

準決勝では思わぬ大苦戦を強いられた──判定に「救われた」とすら見えた──ミカだが、絶妙のタイミングとスピード、卓越した反応から繰り出されるテイクダウン、そして目にも止まらぬスピードと高い精度を兼ね備えたバックグラブは、組技を見る者に至上の喜びを提供してくれる。

選手の活躍する舞台が多様化するとともに、ときに自由な行き来が困難な場面も出てくるのが昨今のグラップリング界だ。それでもファンとしては、今回世界を獲ったミカと、CJIで輝いたルオトロ&タケット兄弟、リーヴァイ・ジョーンズレアリー、そしてタイと初戦で激闘を繰り広げた超エリートレスラーにして、後日グラップリング転向を表明したジェイソン・ノルフらの対戦の実現を心待ちにしたい。

また、強力なレスリングベースを持つ同士の3位決定戦となったPJ・バーチ対エライジャ・ドロシー戦では、ドロシーが自ら座って下からの勝負を挑んだ。一度腕ひしぎ腕固めでバーチの左腕を伸ばしかける等の見せ場を作ったドロシーだが、それを抜いたバーチは準決勝でミカからパスを奪いかけたのと同様の3点倒立の形を作ると、右ヒザをスライドしてパス。

さらにマウントを奪って見せたが、これは加点開始前。

やがて加点時間帯に入ると、ドロシーが立って勝負はスタンドレスリングに。ドロシーがシングルに入るが、それを切ったバーチが逆に深くシュートイン&ドライブする。

ドロシーは倒されながらアームインギロチンに入るが、バーチが首を抜き2点を先制した。

その後ドロシーの下からの仕掛けをしっかりワキを締め、また胸を密着させて防ぐバーチは、ドロシーが最後の望みを賭けて外ヒールを仕掛けてくるも、余裕の表情を見せる。

極めることに気を取られているドロシーの左足をクロスで捉えたバーチは、逆に一瞬で内ヒールで切り返して9分44秒、鮮やかな一本勝ちを収めた。

昨年はJTに殊勲の星を挙げるも4位に終わったバーチ。今年は準決勝でミカに限りなく勝利に近い判定負けを喫したものの、見事な3位入賞。 10thプラネット随一のレスリングベースを持つ男は、歴戦を重ねるなかで極め力と勝負勘、そして世界屈指と言っても過言ではないほどのパス技術を磨き上げ、34歳にして世界最強のグラップラーの一人へと成長した。

【リザルト・77キロ以下級】
優勝 ミカ・ガルバォン(ブラジル)
準優勝 ヴァグネウ・ホシャ(ブラジル)
3位 PJ・バーチ(米国)

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【ADCC2024】レポート─02─ステ投与を明言=ヴァグネウ・ホシャが優勝候補と新星下し、ファイナルへ

【写真】30代の時からステロイドの使用を公言。ADCCは検査なし、42歳の彼は6度目の出場で、5年ぶり二度目の決勝進出。これがホシャの人生(C)SATOSHI NARITA

17日(土・現地時間)と18日(日・同)の二日間にわたって、ラスベガスのT-モバイルアリーナにて、世界最高峰のグラップリングイベントであるADCC世界大会が行われた。今年は既報のように、破格の賞金100万ドルを掲げて日時と場所をあえて重ねて開催してきた対抗団体クレイグ・ジョーンズ・インビテーショナル(CJI)に多くの有力選手を奪われた形となった。レビュー2回目は、最注目77キロ以下級の後半ブロックの準決勝までの模様をレポートしたい。
Text by Isamu Horiuchi

前回大会3位。前回準優勝のミカ・ガルバォンや2017&2019年優勝のJTトレスに次ぐ優勝候補と言えるダンテ・リオンは、一回戦で新鋭エライジャ・ドロシーと対戦した。ロイド・アーヴィン門下にして強力なレスリングベースを持つドロシーは、今年の東海岸予選の覇者で同予選のファイナルではニッキー・ライアンを制圧している。

前半、ドロシーがダブルに入れば、リオンがギロチンで切り返し、また足関節を狙う白熱の攻防に。加点時間帯になるとリオンが座る。バタフライフックから座ってワキを差してボディロックを作り、そこから立ち上がってのテイクダウンを狙うリオンだが、ドロシーが堪えて両者は場外に。

再開後も差しからのテイクダウンを狙い続けるリオンだが、強靭な足腰を持つドロシーが、小手から内股で豪快に投げて上を取った。大きな流れの中で考えるともともと上のポジションにいたドロシーが上に戻ったという攻防だが、ブレイクを経て一旦両者がスタンドに戻ったと解釈されて、ドロシーに2点が入った。リオンとしては、改めてテイクダウンを狙うというよりスイープを継続していたつもりだっただろうから、痛恨の計算違いだ。

まさかのリードを許したリオンは再びバタフライ。そこから潜ってワキを差し、ドロシーの右足に二重絡みをかけて下から煽るが強靭なベースを誇るドロシーは崩れない。ダンテはさらに好転しながらドロシーの左足を肩で抱えて崩しにかかるが、ドロシーはここも足を抜く。その後もリオンはシッティングから崩し、チョイバーで左腕を伸ばしかける場面も作るが、ことごとくドロシーがディフェンス。結局ドロシーが2点のリードを守り切り、優勝候補を撃破する殊勲の星を挙げた。


勢いに乗るドロシーは続く準々決勝、JTトレスと対戦。ちなみにJTは以前(現在ドロシーが師事する)ロイド・アーヴィン門下だっただけに、その点でも因縁のある新旧対決だ。

レスリングに自信を持つ両者だけに、スタンド戦が続く。4分過ぎ、シュートインしたドロシーが組みつくと、JTが上から首を抱えにあかる。が、ドロシーは首の力でJTをリフトしながらボディロックを作り、そのままテイクダウンに成功。その後は下から足を絡めるJTと上からパスを狙うドロシーの攻防が続くが、加点時間開始前にドロシーが距離を取り、両者スタンドに戻った。

そして試合時間が5分を過ぎ加点時間帯になると、JTはすぐさまシュートイン。ここはドロシーがスプロウルしてみせた。逆にシュートインするドロシーがそのまま押してゆくと、JTは右でウィザーを作って対抗。そのまま内股で投げを狙うJTだが、ドロシーは崩れずJTの背中側に重心をかけてゆく。

ここでJTは方向を変え、仰向け方向に捨て身の形でドロシーを投げようとするが、ドロシーは機敏な反応でバランスを取り上をキープ。なんとか距離を作って立とうとするJTに重心を浴びせて押さえ続け、ついにハーフで固定。6分経過時点で2点を先取して見せた。

JTはハーフから仕掛けようとするが、ドロシーは動かず。残り3分のところで立ち上がったJTが前進するも、ドロシーはうまくいなし続ける。ならばとJTが両差しを作ってドロシーの体を掬い上げにかかると、差し返すドロシー。さらにJTは左ワキでドロシーの首を抱えようとするが、が、前半同様強靭な首の力を持つドロシーのバランスは崩せない。逆にここでドロシーがニータップから浴びせ倒し、再び上に。JTはギロチンのカウンターを狙うが、ドロシーに首を抜かれてしまいテイクダウンが成立。4-0とリードを広げた。

その後、上からパスのプレッシャーをかけ続けるドロシーに対し、JTが有効な攻撃を仕掛けないまま試合終了。若さに勝るドロシーが、JTの本領であるはずのスタンドレスリング&トップゲームで完勝。世代交代を印象付ける一戦となった。レスリングの優位性で勝利してきたJTだが、そのレスリングで勝てなくなってしまうと、ADCCルールにおいては厳しいようだ。

もう一つの山からは、42歳の大ベテランにしてやはり優勝候補のヴァグネウ・ホシャが気を吐いた。初戦ではジェレミー・スキナーからテイクダウンを取り、パスガードを決めた後に左腕を伸ばしかけ、最後にはバックも奪って6-0で完勝。

2回戦ではジョナタス・グレイシーと当たったホシャは、上からじっくりプレッシャーをかけて疲弊させ、延長戦で左でワキを指す得意の形から小内刈りを合わせてテイクダウンに成功。その後もジョナタスの口を手で塞ぐなど嫌がらせ攻撃も冴え渡り、自分より際も若い相手を疲労困憊させて完勝。自分より20歳若いエライジャ・ドロシーとの準決勝に駒を進めた。

<77キロ以下級準決勝/10分1R・延長5分>
ヴァグネウ・ホシャ(ブラジル)
Def. Referee’s decision
エライジャ・ドロシー(米国)

42歳✖22歳。実に20の年齢差のある両者はスタンドで首や腕を取り合い、そして頭を付けて、時に強くぶつけ合っての鍔迫り合いを展開する。そして2分半経過時に、ホシャが前に出てワキを差す得意の体勢から浴びせ倒してのテイクダウンに成功。ドロシーがクローズドガードを取ると、喉元に手をやりプレッシャーをかけるホシャは一度ハーフまで侵攻するが、ドロシーも戻す。

5分を過ぎて加点時間帯となっても、上のホシャと下のドロシーによる攻防が続いた。

残り3分のところでドロシーが距離を作って立ち上がり、試合はスタンド戦に。レスリングに自信を持つドロシーが前に出るが、ホシャは下がりながら受け流す。ドロシーはニータップも仕掛けるが、ホシャはここも巧みに下がって対応した。やがてホシャはまたしてもワキを差す得意の体勢に。

対するドロシーは小手に巻いての内股狙いに出るが、ホシャがこらえてみせた。残り45秒、ホシャがワキを差した形からの小外刈でドロシーを倒す。が、ドロシーはウィザーを効かせてすぐにたち、ポイント献上は回避した。結局そのまま0-0で本戦が終了し、試合は延長に持ち込まれた。

延長に入るとドロシーがシュートイン。

しかしホシャは素早く対応して受け止める。アタックを試み続けるドロシーは残り3分のところで深くシングルに。

そのままドライブしてのテイクダウンを狙うが、ホシャは右足を抱えられながらもスプロールし、重心を落として対応する。

やがてドロシーを押し返して距離を取った。若きレスラーが仕掛けるテイクダウンに対して見事なディフェンスを見せたホシャは、してやったりの笑顔を見せた。

その後も両者譲らないスタンドの展開が続く。残り1分を切っても反応速度が落ちず気力充実ぶりが伺えるホシャに対し、20歳若いドロシーは遠い距離から雑にシュートインしては防がれる場面が目立ってくる。ドロシーのテイクダウンを切っては押してゆくホシャは、笑顔を見せてからフェイント。さらに前に出て左でワキを差してドロシーを場外に押し出す等、底知れぬスタミナと地力を発揮するホシャが余裕を持ってドロシーのテイクダウンを防ぐうちに試合は終了した。

レフェリー判定は、本戦の前半で綺麗なテイクダウンを奪う場面も見せたホシャに。延長で何度もアタックを試みたのはドロシーの方だが、ペース支配という点では、上手く捌き続けては押していったホシャの方が優勢に見えてしまうような展開だった。

とまれ、ホシャは2019年大会以来二度目の決勝進出。リオンとJTという優勝候補二人をスタンドレスリングとトップゲームで上回った20歳下のドロシーを相手に、まさにその分野で渡り合い攻略するという驚くべき戦いぶりだった。準々決勝でドロシーは、2019年にホシャを決勝で倒した34歳のJTに完勝し世代交代を強く印象付けた。そのドロシーをさらに一世代上のホシャが倒したのだから、時代の流れを一人で引き戻す凄まじい活躍だ。

ただしホシャ本人は、ホルモン補充療法としてステロイド投与を30代半ばから続けていることを以前から明言しており、この「驚くべき」戦いに我々はどの程度驚くべきなのか、果たして「鉄人」、「中年の希望の星」等の賛辞を送るべきかどうかの判断は難しい。

が、このADCC大会の公式ルールには禁止薬物についての記載がなく、検査もされないことは公然の事実だ。つまりホシャはこの大会で他の選手たちと同じルールに則って戦っている。そして2011年の初出場以来6度出場、実に13年間かけて戦い続け、今回42歳にして5年ぶり二度目の決勝進出を果たした。他の追従を許さない並外れた業績であることは間違いない。

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【ADCC2024】レポート─01─それでも激熱=77キロ級で、元柔術の神の子ミカがPJパーチに苦戦も決勝進出

【写真】ある意味、ADCCの権威を守ったといえるミカの出場。そして、しっかりと決勝進出を決めた(C)SATOSHI NARITA

8月17日(土・現地時間)と18日(日・同)の二日間にわたって、ラスベガスのT-モバイルアリーナにて、世界最高峰のグラップリングイベントであるADCC世界大会が行われた。今年は既報のように、破格の賞金100万ドルを掲げて日時と場所をあえて重ねて開催してきた対抗団体クレイグ・ジョーンズ・インビテーショナル(CJI)に多くの有力選手を奪われた形となった。
Text by Isamu Horiuchi

それでも世界の強豪が集まった今大会の中でも最注目と言える、77キロ以下級の前半ブロックの準決勝までの模様をレポートしたい。

この階級の最注目選手は、当然ミカ・ガルバォンだ。2022年の前回大会はケイド・ルオトロに敗れて準優勝に終わり、その数ヶ月前にタイ・ルオトロを倒して最年少で制覇したはずの世界柔術のタイトルも、禁止薬物の使用発覚によって剥奪されてしまった。

驚異的な強さの秘密の一端が神から与えられた才能ではなく、人工的な薬物だったことが明らかとなった以上、「柔術の神の子」という渾名は使いにくい。(ちなみに本人はこの件について、ハードトレーニングに起因するテストステロンの減少の治療に、医者が禁止薬物を使用してしまったせいだと説明している)

それでも昨年は主にWNO等のプログラップリングで活躍し、変わらぬ強さを見せ続けたミカは、今年になってIBJJF系の大会にも復活。ヨーロピアン、パン、ブラジレイロ、世界柔術とミドル級を全制覇し、このADCC世界大会はいわゆる「スーパーグランドスラム」達成が賭かったものとなる。宿敵ケイドがCJIを選択してここにいない今回、20歳のミカが飛び抜けた優勝候補筆頭だ。


そんなミカの一回戦の相手は、ブラジル予選勝者のルイス・パウロ。ミカとは練習仲間でもある選手だ。シングルレッグで右足を掴ってから、あえて下になってのフットロック狙いを見せたミカは、それを凌がれた後も支え釣り込み足等を積極的に仕掛けてゆく。

さらに飛びつきガードも見せたミカは、下から腕や足を狙ってゆき、さらに後転してシングルレッグに移行して上に。場外に出て抵抗を試みるパウロから流れるような動きでバックを奪ってみせた。ここからミカは相手の右腕を右足で押さえて封じると、左手で相手の左手首をコントロール。こうして両手を封じた後、残った右腕でワンアームチョークに。わずか3分06秒、ミカが流石の技の切れ味を見せつけた。

続く準々決勝でミカは、技師オリバー・タザと対戦。初戦でヴェテランのダヴィ・ハモスをわずか55秒、前転からのヒザ十字で仕留めて勢いに乗るタザだったが、ミカは序盤からニータップでテイクダウンからパス、マウントへと移行し腕を極めかける等圧倒する。

そして5分経過して加点時間帯を過ぎた後、スタンドで足を飛ばしてタザを崩したミカが、背後から飛びついてグラウンドに持ち込んで先制。その後も立ち、寝技どちらも終始優勢に試合を進めたミカが、バックやマウントでポイントを重ねて8-0で勝利。順当に準決勝進出を果たした。

もう片方の山の一回戦では、ポーランドの足関節師マテウス・シュゼシンスキが大会常連のゲイリー・トノンと対戦。6月のポラリス28では、リーヴァイ・ジョーンズレアリーに競り勝ち勢いに乗るシュゼシンスキが、延長でオープンガードから一瞬で抱え十字を極めてみせた。

そのシュゼシンスキは続く準々決勝で、前回大会にて当時の絶対王者だったJTトレスを倒して世界を驚かせた10thプラネット柔術のPJ・バーチと対戦。得意のオープンガードで互角に渡り合ったシュゼシンスキは、加点時間が過ぎた後にスイープで上になりかける。が、場外側でバーチにスクランブルされてブレイクが入り、試合が(バーチの土俵である)スタンドから再開されてしまうという不運に見舞われてしまう。

結局、残り1分でダブルレッグを仕掛けたバーチが、シュゼシンスキが仕掛けてきたギロチンから頭を抜いて先制点を奪い、2大会連続の準決勝進出を決めた。

<77キロ以下級準決勝/10分1R・延長5分>
ミカ・ガルバォン(ブラジル)
Def. Referee’s decision
PJ・バーチ(米国)

前回大会準優勝のミカと、4位のバーチ。その時は顔を合わせなかった両者だが、その後昨年のWNO 20におけるウェルター級王座決定トーナメントの決勝で対戦が実現し──僅か45秒でミカの跳び抱え十字が炸裂して一本決着している。ミカの尋常でない極めを体感したバーチは、今回どう挑むのか。試合開始後いきなりシングルを仕掛けたミカ。右足を取るがバーチは片足立ちで堪えて抜く。さらにミカはダックアンダーやシングルを仕掛けるがバーチが凌ぐ。

3分を経過した時点で、これまで守っていたバーチが首を取り合う状態からミカを捻って崩すと、そのまま回り続けて最初のテイクダウンを奪ってみせた。

ハーフからクローズドを作ったミカが下から仕掛けるが、バーチは固くワキを締めて守る。やがて試合は加点時間帯に。ミカはシッティングから逞しい脚をシザースイープのような形で使ってバーチを崩す。

そのままがぶってみせたミカは、倒れ込みながらのギロチンへ。しかしバーチは強靭な首で耐えて姿勢を崩さず、やがて頭を抜いてみせた。

残り3分。下のミカに対して右でワキを差したバーチは右ヒザも入れてニースライスに。ミカは左足で跳ね上げようとするが不発で、バーチがヒザを抜く。ピンチに陥ったミカはすかさず背中を向けて凌ぎ、さらに向き直る際に足を絡めてハーフに戻す。

ワキを差して胸を合わせているバーチは再びニースライスを狙うが、ミカが足を入れてバタフライに戻してみせた。

難を逃れたかに見えたミカだが、残り20秒のところでバーチが両ワキを差し、3点倒立の姿勢でニースライスの形を作る。上半身を完全に制して侵攻するバーチは、残り10秒でニアマウントまで持ち込み、残り1、2秒のところでついに足の絡みを解いてヒザを抜いたバーチが完全マウントを達成…したところで本戦終了を迎えた。

バーチ大殊勲の勝利かと思いきや、ポイントが成立するにはポジションを安定させてから数秒必要ということで、スコアは0-0のまま。試合は延長戦に持ち込まれた。それにしても、これまで階級上の世界王者たちを相手にした時でさえ鉄壁であり続けたミカのガードが、同体格のバーチに完全攻略されかけた場面は衝撃的だった。

延長戦。一つの失点が命取りになるとあって、両者譲らないスタンドの攻防が続く。バーチがシュートインを試み、ミカも積極的にアームドラッグ等を仕掛けるが崩し切るには至らない。

このままでは敗色濃厚のミカは、残り15秒のところでシングルからドライブ。

バーチに切られて腹這いになるミカだったが、次の瞬間体を起こしてワキをくぐって背中に回る。

ミカはここから瞬く間に飛びついてグラウンドに持ち込む。

残り10秒を切る中、ミカは柔軟な股関節を使ってまず左足をフックし、残る右足も入れようと試み、バーチがそれを手で凌ごうとしている時に試合終了。まだ完全にバックグラブの体勢に入り切っていないということで、ここはノーポイント。試合はレフェリー判定に持ち込まれた。

本戦終了寸前にマウントポジションの形を作り切ったバーチと、延長終了寸前にテイクダウンからバックグラブ狙いまで持ち込んだミカ。予想が難しい判定は…ミカに挙がった。

これはバーチにはなんとも気の毒な判定だ。試合終了寸前のミカのバック狙いよりも、本戦終了寸前のバーチのマウントの方がはるかにポイント獲得/完全制圧に近かった。加点時間前に見事なテイクダウンを決めたのもバーチのほうだ。前戦での秒殺負けを経て、今回は隙のない試合運びを見せながら、要所で有効な攻撃を繰り出して互角に渡り合った。さらに桁外れの攻撃力を持つミカのガードを正面突破するという、世界の同階級の誰もなし得ないような偉業を成し遂げる寸前まで迫る、出色の──おそらくキャリア最高の──パフォーマンスだった。

とはいえ、敗色濃厚だったこの試合にて、最後の最後で見事な瞬発力を技のキレをもって大反撃を見せて強引に勝利を引き寄せたミカもまた、改めてその非凡さを見せつけたと言える。人工的な手段に現在も頼っていようがいまいが、やはりこの選手は柔術の神から──ついでに審判からも──特別な愛を受けている…とこちらが思ってしまうような形で薄氷の勝利を得たミカが、昨年に続いて決勝進出を決めた。

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【ADCC2024 & CJI】ADCC世界大会にクレイグ・ジョーンズが優勝賞金$100万Tをぶつける

【写真】CJIをいち早く選択したアンドリューとウィリアムのタケット兄弟(C)MMAPLANET

グラップリング界に激震が訪れようとしている?! 世界のグラップリング界の頂点といえば、四半世紀以上ADCC世界選手権がその座にあった。前世紀はMMAファイターとトップ柔術家の戦いが軸のADCCだったがTUF以降、MMAファイターのファイトマネーが急騰し、他分野にチャレンジする選手は減少していった。
Text by Manabu Takashima

柔術家の独壇場となったADCCだが、新足関節時代の到来とともにEBIなどノーギに特化したグラップリング大会が台頭し、特にコロナ禍でトーナメント方式の柔術に代わり、WNOのようなワンマッチ&プロイベント大会が活動を活発化してきた。同時に道着とノーギは競技として別モノという認識が定着するや、2022年のADCC世界大会はケイド&タイのルオトロ兄弟の活躍などもあり、ついにはDoスポーツから観賞用スポーツに昇華されラスベガスのトーマス&マック・センターには1万人以上の観客が集まった。


今年の世界大会からは米国、ブラジルに続き、欧州やアジア&オセニアも予選が2度開かれ男子5階級は16人の参加選手中8名が地区予選ウィナーで、残り8選手が過去の実績を考慮された招待選手というフォーマットになっている。

他方、ONEがサブミッション・グラップリングの王座を認定し、トップ選手と契約。ルオトロ兄弟やマイキー・ムスメシらが世界王者に君臨し、毎試合のように5万ドルのボーナスを手にしている。

適正体重がADCCにないムスメシはともかくとして、ルオトロ兄弟はONEとはエクスクルーシブ契約にあるなかで、ADCC世界大会だけは例外で、ムンジアルと同様にファイナンシャルでなく、世界最強の勲章を手にするために出場しているといえる。

盛り上がり続けるグラップリング界を牽引、もしくは頂点に君臨するADCC世界大会は8月17日(土・現地時間)&18日(日・同)にネヴァダ州ラスベガスのTモバイル・アリーナで開催が決まっているが、なんと──そのADCCでの活躍もあり名を馳せるようになったクレイグ・ジョーンズの名を冠したクレイグ・ジョーンズ・インビテーショナル(CJI)が同じ週末の金曜=16日と土曜=17日に開かれることが、24日(金・同)に明らかとなった。

ショーアップだけで、ADCC優勝賞金より1ドル多いCJI!!

クレイグ・ジョーンズ(C)SATOSHI NARITA

CJIの売りはグラップリング史上、最高額の支払いがあるというモノ。

80キロ以下と以上の2階級の16人制トーナメントの優勝賞金は驚愕の100万ドル(※1億5600万円)を数える。しかも出場するだけ1万1ドルのファイトマネーが用意されているという。しかも、昨年のADCC世界大会で用いられたトーマス&マック・センターが会場となっている。

世界最高峰のADCC世界大会の各階級の優勝賞金は1万ドル、8人制の女子は6000ドル。金額的な差は絶対といえる。このCJIの開催にいち早く、ADCCワールドから転じたのがウィリアムとアンドリューのタケット兄弟だ。

ウィリアムは米国西海岸予選の88キロを制し、アンドリューは同予選で77キロ級を制している。両者が戦場を変えたのは、ズバリ優勝賞金が目当てだ。アンドリューは「公式にADCCから離れ、CJIに出場する」とSNSに宣言し、「子供の頃からADCCで優勝することは夢だった。ただし、100万ドルは人生を変えることができる額だ。そのチャンスがあるなら、そこにトライする。ADCCの成功を願っている」と言葉を続けている。

兄ウィリアムも「凄くタフな判断だった。特にADCCで勝てる自信があったから。でも100万ドルは僕だけでなく、家族の人生を変えることができる。8月の16日と17日に人生のために体を張る準備はできている」とSNSで発言した。これに伴いADCCでは77キロ級にアンディ・ヴァレラ、88キロ級でエルダー・クルーズの出場が発表されている(とはいえ88キロ級はまだ12人しか選手が埋まっていない)。

(C)SATOSHI NARITA

タケット兄弟に続き、フィオン・デイヴィスもワンマッチでCJIに参戦することを明言した。

前回大会の女子60キロ級優勝でムンジアル二連覇中、ノーギワールズも2021年に制しているデイヴィスは、女子グラップリング界のP4Pといっても過言でない存在だ。今年の世界大会は55キロ級が設けられ、65キロ級、65キロ超級と階級に変化が生じたが、デイヴィスは65キロ以下級に出ても優勝候補に挙げられていたはず。その彼女は「ガザ地区の救援基金をサポートするイベントに参加することを誇りに思う。つまり、私はADCCには出ない」とSNSで所信表明を行っている。

またCJIはYouTubeで無料配信が実施されるとのこと。グラップリング界の地殻変動ともいえるCJIの出現だが、どのような背景を持ち、如何にマネタイズをしていくのかも気になるところ。残り2カ月半、ADCC世界大会はグラップリング界の最高峰の地位を維持できるのか。CJIにどのようなメンツが揃うのか注視したい。

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