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【Special】『MMAで世界を目指す』第3回:鈴木陽一ALIVE代表「体組成とフィジカルのバランス」─01─

【写真】一般会員さんからアマチュア、プロ選手に至るまで個々の違いを考えることが重要だ(C) ALIVE

世界的なスポーツとなったMMAで勝つために、フィジカル強化は不可欠となった。MMAPLANETでは「MMAに必要なフィジカルとは?」というテーマについて、総合格闘技道場ALIVEを運営する鈴木社長=鈴木陽一代表が各ジャンルの専門家とともに、MMAとフィジカルについて考えていく連載企画をスタート。MMAとフィジカルについて考える連載第3回目は、MMAに必要な体組成とフィジカル――さらにジュニア世代のMMAについて考える。
Text by Shojiro Kameike

<連載第1回「MMAに必要なフィジカルとは?」Part.1はコチラ
<連載第1回「MMAに必要なフィジカルとは?」Part.2はコチラ
<連載第2回「MMAに適した体組成とは?」Part.1はコチラ
<連載第2回「MMAに適した体組成とは?」Part.2はコチラ


――MMAに必要なフィジカルについて考える連載、第3回目のテーマは前回に続き「体組成」です。今回は体組成についての理解を深めるために、体組成とフィジカルのバランスについて考えていきたいと思います。今回は連載第1回目にご登場いただきました、理学療法士の納土真幸さんをお招きしています。

鈴木 よろしくお願いします! まず今回のテーマのポイントは、体組成——筋肉量や骨密度、組織の強さには休養と栄養が必要だということです。簡単に言うと、身体づくりのためには練習しすぎも良くないし、ちゃんと栄養も摂らないといけないんですね。なぜ改めてこのお話をするのかといえば、やはり競技を続けていくうえで年齢的な変化があるためです。

――普段からトレーニングしているファイターであっても、年齢を重ねると体力が落ちたり怪我が治らなくなったりしますね。

鈴木 はい。その対策として、体組成の観点からは筋肉量を増やして体脂肪を減らし、骨密度を高める。トレーニングで瞬発力、有酸素能力、耐乳酸性能力、筋力を上げたりする。さらに運動する一方で、身体に休養と栄養を与えて、脳と筋肉と内臓を回復させないといけません。年齢を重ねていくと、回復が遅くなっていくという問題があります。

30代に入ってから20代のイケイケの時と同じ体組成をキープするのは大変ですよ。しかし選手活動を続け、かつ勝率を上げるためのフィジカルと体組成を考える場合、やはり年齢的な回復力の遅さという問題に着目しなければいけない。トレーナーとして選手活動を長期的に考えた場合、いかに良い栄養と休養を与えて、良い体組成をつくるかという部分が重要になってきます。

もちろん日頃から体重を増やしすぎないことも重要です。通常体重が5キロ増えると、それは5キロの鉄アレイを持って動き回るのと同じですよね。するとヒザ腰など関節靭帯への負担が大きくなります。

――MMAは30代に入って花開く選手もいますし、選手寿命も長くなりつつあります。その要因としては、身体づくりの進化もあるのでしょうか。

納土 近年の傾向でいえば、スポーツ界全体で選手寿命は伸びていますよね。特に顕著なのはサッカーで、30歳を超えても競技を続けられる人が増加しています。最も大きな要因としては、スポーツ医学の普及が挙げられます。特に栄養管理については、選手が個別に管理栄養士をつけることが増えていて。サプリも普及し、疲れにくく怪我をしにくい体づくりを意識する選手が増えてきたことは事実です。インターネットの普及により、海外選手の体づくりに関する情報も入ってくるようになったとは思います。

鈴木 選手のスポンサーにも、サプリメーカーさんが増えてきたじゃないですか。たとえば久米鷹介の場合は『ゴールデンミッション』という、世界的なダンサーさんが開発したリカバリー系のプロテインを提供してもらっています。あとは接骨院、鍼灸、カイロプラクティック・マッサージ師さん、酸素カプセルスタジオのオーナーさんのサポートがあったり、管理栄養士さんを付ける選手も増えてきました。いわゆる栄養と休養、そしてリカバリーの知識も上がったし、実際にその方法が目の前にありますよね。昔なんて、スポーツ専門の栄養士さんは東京にしかいなかった。でも今は全国的に増えていますしね。それだけ体組成に関しても、長期的な視点で考えることができるようになりました。

――長期的な視点というのは、どれくらいの期間で考えるものなのでしょうか。

鈴木 私の場合は10代の選手が道場に入ってきた場合、親御さんの体型を見たりしますよ。よく引退した後に太ったり痩せたりする人がいるじゃないですか。それは遺伝的体質もあって。だから親御さんが試合の応援に来た時、その体型を見て「この選手は10年後、こういう体型や体質になるかな」というところまで考えます。たとえば竹本啓哉の場合、彼のお父さんはラグビー選手なんです。

納土 えっ!? そうなんですか!

竹本啓哉に関する意外な情報が――(C)MMAPLANET

鈴木 意外でしょう? 竹本の場合は性格とかビジュアルのおかげで、のんびりしてそうに見えたりしますよね。でもお父さんはバリバリの有名なラガーマンで、実は竹本も体が強い。加藤久輝のお父さんも柔道でフランスに派遣される選手だったから、お父さんに似て先天的に身体が強いのではないかと。するとゴールデンエイジ――運動神経が伸びる成長期のトレーニング量によっても、年齢を重ねた時の回復の度合いも変わってきます。もともと運動する習慣がある子は、成長期を超えて大人になっても体の使い方が巧かったり、トレーニングや試合後の回復が速い傾向にはありますね。

高校生の段階で運動をしているかどうかで、大人になってからの体質も変わります。道場を25年間やってきて感じているのは、コーチはその選手の幼少期から、家族の体型も見たりして将来的な体組成の変化まで考えて指導するほうが良いということ。私も選手の5年後を考えて、「今はウェイトをやらないほうが良いかな」とか考えたりします。

――これは話が逸れるかもしれませんが、子供の頃に激しい運動や減量をやらせないほうが良いという意見もあります。たとえば幼少期から格闘技を始め階級制のスポーツに取り組んでいる子たちの中で、減量させすぎると身長が伸びない等……。長い目で見た場合、子供の頃から体組成を理解せずに減量をさせると、身体の成長に悪影響を及ぼすのですか。

納土 一概には言えませんが――軟骨が育ってくる成長期の段階で、反復する動きが多い競技をやっていると、負荷の集中する箇所の怪我は多くなります。成長期の運動によって身体が出来上がっている子と出来上がっていない子、分かりやすく言えば身体が強い子と弱い子が分かれてくる。結果、スポーツは好きだけど身体が弱い子というのは頑張りすぎてしまい、腰椎分離症(疲労骨折が原因と考えられ、成長期のスポーツ選手に多く見られる)になるケースも多いですよね。

鈴木 格闘技でも中3から高1ぐらいで道場に通い始めた子で、腰椎分離症になってしまう場合も多いですよね。コンタクトスポーツだから、まだ身体が出来上がっていない段階で大人と当たることも多いですし。アライブの場合は若い子が道場に入ると、まず柔術から始めてもらうことが多いです。柔術を通じて、ゆっくり身体の使い方を覚えてもらいます。

納土 そういった練習は、身体を休めながら行うことができますよね。指導者が選手に対して、しっかり休むことを伝えられるかどうかで変わってきます。その点がスポーツ強豪校の部活動は違っていて……選手を休ませない学校が多いです。

鈴木 高校生にとって部活動は3年間ではなく、実質的に2年間ですよね。高3の前半で部活動を引退したりするので、それまでに実績を残すために2年間で凄くハードなトレーニングを積むことになる。

納土 それだけトレーニングして、実績を残さないと先がなくなるから仕方ない面はあります。

――高校スポーツの多くはトーナメント制です。高校野球でいえば甲子園で一回負けると夏が終わってしまうので、その是非を問うのは難しい面もあります。

鈴木 2~3月生まれの子なんて、高1といってもまだ中学生と変わりませんから。同じように高1の選手向けのトレーニングを課すのは過酷ですよ。あと日中の気温が40度にもなるのに、そんな炎天下の中でトーナメントを戦うとか。

納土 そのために中体連(中学校体育連盟)の解体が検討されたり、小学校の全国大会が無くなるというのは、選手のことを考えると仕方ない面はありますね。

ジュニアBORDERで活躍中の須田雄律の父、智行氏も「ジュニアの間はあまり減量をさせない」と語っていた(C)MMAPLANET

鈴木 今MMAでもキッズやジュニアの大会が増えているので、その点は注意したほうが良いと思います。ただしMMAの場合は部活動ではないぶん、長期的に考えることができる点が違いますよね。やはり成長期の子たちは、休ませる時は休ませないといけない。

アライブでも体組成を考えた時、長期的なダメージを受けないように結構休ませています。ベテランのプロ選手からは「社長は甘い」とか「休ませすぎ」と言われることもあるけど……。40代前後で負傷があり、日常生活に支障をきたしている例もありますから。指導者として、そういった選手の姿はもう見たくない。

言葉として「トレーナー」とは、トレーニングを教える人のことをいいます。「インストラクター」というのは、インストラクション=やり方を教える人です。一方、コーチは語源が「寄り添う人」なんですよ。我々は「寄り添う人」として、選手の競技寿命や競技年齢を考えながらフィジカルを考えることは大事だと思っています。

<この項、続く>

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【Special】新連載『MMAで世界を目指す』第2回:鈴木陽一ALIVE代表「MMAに適した体組成とは?」─02─

【写真】Gladiator023の計量後。ALIVE所属の竹本啓哉も過去に計量失敗を経験している。個々に適した調整を試行錯誤を繰り返した末、ベルトを取り戻している(C) MMAPLANET

世界的なスポーツとなったMMAで勝つために、フィジカル強化は不可欠となった。MMAPLANETでは「MMAに必要なフィジカルとは?」というテーマについて、総合格闘技道場ALIVEを運営する鈴木社長=鈴木陽一代表が各ジャンルの専門家とともに、MMAとフィジカルについて考えていく連載企画をスタート。「MMAと体組成」について考える連載第2回目は、MMAの計量と調整について深堀りする。

<連載第2回「MMAに適した体組成とは?」Part.1はコチラ


鈴木 毎日あるいは毎試合、減量に関する記録をつけていくなら、計量当日よりも前日の水抜き前に測るほうが、正確な体脂肪率を測れるかもしれませんね。よく知られているインピー・ダンス法体脂肪計のなかに、足を乗せるだけで体脂肪率が測れるというものがあります。しかしこれは、実は足から内臓までしか電気が届いていません。どういうことかというと、内臓肥満型の人が足だけのタイプに乗った場合、肥満度が上がって出てしまうかもしれないんです。それよりも、トレーニングジムなどにある手と足の四点から測るタイプの体脂肪計のほうが、精度は高いですね。一番良いのは水中で体重と体積の比率から測る方法ですが、そんな設備は滅多にないですし。

 愛知県内だと愛知医科大学ぐらいかもしれません。水中置換法といって、プールのように大きな水の箱の中に入って測る設備です。話を戻すと、何かといえば体脂肪率って、それぐらい曖昧なものなんですよ。

私のクライアントにも、今まで運動をしておらず、私と一緒に初めて体を鍛えるという方もいます。まず運動すると筋肉がついて血流も良くなる。すると今まで使っていない筋肉に血が入るようになるので、全体の水分量が増えます。結果的に体重が増えるので、よく「運動して太った!」という方もいらっしゃいますが、あくまで体重は目安でしかありません。その内訳のほうが重要です。内訳も時間によって変化するものなので、私がお勧めするのは1日に2回、体重を測ること。朝と夜、決まったタイミングで測り続けると、日ごとの変化が分かります。この定点観察だと自分の体重も管理しやすくなります。

様々な要素が含まれるため、様々なタイプの選手がいるMMA——より選手ごとに緻密な研究も必要になる。(C)ALIVE

鈴木 特にMMAの場合は、曜日によって練習メニューが大きく変わってきますからね。今日はグラップリング、今日は打撃——では日によって運動量も変わってきます。だから定点観測が、より重要になってくるわけです。それが競技特性というもので。

加えて、選手が目指すタイプによっても、適正の体組成は変わってきます。パワー系のファイターなのか、あるいはテクニシャンを目指すのか。要は体組成——体脂肪、筋肉量、そして骨量は自分の中で比較していかないといけません。他の人と比べても、人によって体格が違えば、目指すタイプも違うのですから。アマチュア時代とプロになって以降でも違ってきますし。

 ちなみに体脂肪率が10パーセント台って、見た目から相当絞れている状態じゃないですか。一般の方が「だいぶ痩せた!」と言っても、調べてみると体脂肪率は20パーセントぐらいあったりします。そこで、脂肪の量を調べることも必要なんですよね。

業務用の体組成計だと脂肪、筋肉、そして骨も全て「量」が分かります。その量を見て、できるだけ筋肉量は維持しながら脂肪だけ減らしていくための観察ができるようになります。パーセントだけ考えると、いろいろな要素が入ってくるので、ワケが分からなくなってしまいますよ。ですからトレーナーとしては、できるだけ「量」で考えるようにしています。もちろん「量」を測る機械を自宅に置いておくのも大変です。しかし今は、スポーツジムはもちろん置かれているところも増えているので、探して利用してみるのも良いと思います。

鈴木 そのためには、まず体組成に関する機械について勉強したほうが良いですよね。細かい数値がどう、ということよりもツールについて知らないといけない。それだけツールによって計測方法が変わるわけですから。可能ならインピー・ダンス法でも4点で測るものを利用してほしいし、もっと言えば「率」よりも体組成計で「量」を測るほうが良いです。

所君も言っていたとおり、それも定点観測で調べ続けるべきです。選手というのは成長し続けるものですから。アマチュアの頃から計測し続けて、記録しておいたほうが良いです。それこそ階級を上げるか下げるかを考える時に、その記録が重要になってきます。ボクシングよりもMMAのほうが、階級間の体重差が大きいわけで。1階級で5キロほど違う。

 それだけ体重が変わると、脂肪量も水分量も大きく変わってきますよね。

鈴木 そう。それが変わらないというのは、運動生理学的にはありえない。

 すると普段から、水分を抜くだけで計量をクリアできる体重を維持しておくほうが良いと思います。そのためには「いかにして筋肉量を保つか」が重要です。脂肪の中に水分を貯めておくことはできません。しかし先ほど言ったとおり、筋肉の中には血液を貯めることができる。これだけ筋肉があり、その中にある水分を絞り出せば一時的に体重を落とすことが可能になります。でも筋肉量が少なく、まあまあの脂肪量があったら水分を絞りだすことはできない。常日頃から筋肉量を維持し続けるためには、栄養学も必要になります。スポーツ選手の場合、たんぱく質を摂取していないと筋肉量を保てませんから。

鈴木 栄養の話まで広げると、コンタクトスポーツに関する最大の問題点は、体をぶつけることで他のスポーツよりも血液が壊れたり、筋肉の組成も壊れていくことですね。血液が壊れるということは貧血になりやすくなります。そのためにも、たんぱく質を摂取し続けていないといけない。

 今回のテーマからは外れるかもしれませんが、よく「たんぱく質を摂ったほうが良い」と言われているものの、どれだけ摂取したほうが良いのか分かっていない方が多いと思います。皆さん、「これぐらいかな?」と感覚で摂取量を決めていたりして。でも正しく摂取するだけでも、パフォーマンスは大きく変わりますよ。

ALIVEでは体重に対しては定点観測を行い続けている。体重を測る際にポーズをとってしまうのはご愛敬(C)ALIVE

鈴木 そうですね。繰り返しになりますが、MMAの場合はまず階級制で計量が行われる。さらに計量前には脱水しても良い、という点に着目しないといけません。そう考えた場合、筋肉量が多く体脂肪率が低いほうが——あくまで一瞬、体重を落としやすくなる。イコール計量をクリアできやすくなります。次に、MMAはコンタクトスポーツなので筋肉量プラス、ある程度の骨量があったほうが安全だということなんです。変に食事制限をして、たんぱく質の摂取量を減らすと筋肉が増えませんから、水抜きもしにくくなってしまいます。筋肉量を保っていたほうが、最後の水抜きも安全にできるようになるんですよ。

——つまり、決して一人だけでは良い状態で計量に臨むことはできないということですね。

鈴木 そうなんです。ALIVEの場合、以前にグラジエイターで竹本啓哉が計量をクリアできないことがあったじゃないですか。そういう失敗も踏まえてウチでは朝イチの体重測定や出稽古の練習量も報告させ、定点観察を続けています。

——最初に自分の体組成を調べていなければ、適正な階級も適正な減量幅も分からないわけですね。多くは身長と体重のバランスのみで、自身の階級を決めがちです。

鈴木 お前の身長ならコレぐらいの体重が適正だろう、という(笑)。そういえば昔、ハイパー・リカバリーというものがありましたよね。ハイパー・リカバリーをしていたなかで、選手寿命が長いファイターは少ないです。毎回何キロも減量して戻す、ということを繰り返すと内臓への影響は大きくなりますし。MMAの場合は戻し方も重要で、体組成を理解していないと「どれくらい戻せば良いのか」ということも分からないかもしれません。

あとは理想をいえば、ファイトキャンプの時と試合当日の体重が同じであることがベストです。普段80キロある選手が、70キロで計量をクリアして試合当日は75キロまで戻す。そうであれば、ファイトキャンプの時も75キロで体を動かすようにしていると、試合当日も練習時の良いパフォーマンスを出せると思います。逆にファイトキャンプの時に75キロで、計量後に78~79キロまで戻すと戻しすぎになりますよね。それはリカバリーではなくリバウンドであって。普段から自分が最も動ける体組成を、日頃から考えておくことも必要ですよね。このあたりは今後、栄養士さんをお招きする回で詳しく説明したいと思います。

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【Special】新連載『MMAで世界を目指す』第2回:鈴木陽一ALIVE代表「MMAに適した体組成とは?」─01─

【写真】鈴木社長はスポーツクラブ運営委託会社勤務、健康運動指導士を経て1998年に名古屋で総合格闘技道場ALIVEを設立。現在は健康経営事業でも活躍中(C) ALIVE

世界的なスポーツとなったMMAで勝つために、フィジカル強化は不可欠となった。MMAPLANETでは「MMAに必要なフィジカルとは?」というテーマについて、総合格闘技道場ALIVEを運営する鈴木社長=鈴木陽一代表が各ジャンルの専門家とともに、MMAとフィジカルについて考えていく連載企画をスタート。連載第2回目は「MMAと体組成」について考える。

Text by Shojiro Kameike

<連載第1回「MMAに必要なフィジカルとは?」Part.1はコチラ
<連載第1回「MMAに必要なフィジカルとは?」Part.2はコチラ


——MMAに必要なフィジカルを考える連載、第2回目のテーマは「体組成」です。運動生理学を学んでいないと聞きなれない言葉かと思いますので、まずは「体組成とは何か?」についてご説明をお願いいたします。

鈴木 今回もよろしくお願いします。「体組成」とは、体を構成する成分のことをいいます。その要素とは「脂肪」「筋肉」「骨」「水分」「その他」といったように分類されています。階級制のスポーツであるMMAにおいて、特に減量を考える際にはこの体組成を知ることが重要です。また、前回のテーマであった「フィジカル=体力」について、より認識を深めていくためにも体組成について考えることが大切なんです。

そこで今回は、理学療法士の所澄人君に来ていただいています。所君は病院勤務からパーソナルトレーナーとなり、経営者に対する健康コンサルタントも行っています。その彼に、外部から見たMMAファイターの体組成について意見を頂きたいと思っています。

 「パーソナルトレーニング&姿勢矯正スタジオ ディアローグ」の所です。よろしくお願いします!

鈴木 体組成の中で多くの方が気になるのは体脂肪であり、体脂肪率ですよね。それはMMAファイターも同じです。MMAでは、太短いマッチョパワー系もいれば細長い持久スタミナ系もいます。もちろん、どちらが良い悪いではない。ただバンタム級、つまり61.2キロまで落とすのに180センチのファイターがいたり、160センチ後半でもライト級(70.3キロ)で戦う選手もいるということです。ここで重要なのは——前回もお話したとおり、「いかにして自身の特性を競技ルールに合わせていくか」ということです。

原則として同じ階級であれば、体脂肪率が低い選手のほうが筋肉量と骨量は多いので、MMAに向いているとは思います。そこで今回は所君と一緒に、一般の方の体脂肪率や筋肉量、ならびに他のスポーツ——たとえば体重制限のないラグビーと階級制のMMAでは、何がどのように違うのかを考えていきたいんですね。

鈴木社長と所澄人氏(C)MMAPLANET

 なるほど。一般の方の体脂肪率は、男性の平均が20パーセントで、女性の平均が25パーセントといったところです。男性の場合は25パーセントを超えると「少し肥満ですよね」と言われますし、女性は30パーセントを超えた場合は体脂肪率を調整したほうが良いかと思います。一方で体脂肪率が10パーセント台というのは、一般の方であれば「瘦せ型」と呼ばれ、その上に筋肉がついているのがアスリートになりますね。

なかには「食べても食べても太ることができない」という方もいます。それは先ほど言われた高身長で低体重のアスリートは、もともと「痩せ型」の体質であることが多いです。反対に、いわゆる「ずんぐりむっくり」の体型の方は、放っておくと脂肪が増える。それを踏まえたうえで、MMAではスタミナを重視するのか、あるいは瞬発力を重視するかで調整方法も変わってくると思います。

鈴木 同じ階級制のコンタクトスポーツでもMMAとボクシングを比較すると——MMAはボクシングよりも1ラウンドの時間が長い。しかし試合の総時間はボクシングよりも短い。そんななかで、MMAだけではなく格闘技界全体でいえば、専門のパーソナルトレーナーをつけてフィジカルトレーニングをやったのは、魔裟斗さんが初めてだったと思います。魔裟斗さんはフィジカルトレーニングの中で、400メートルダッシュをやっていて。

一方、格闘技界では昔から「走り込み」が行われていました。毎日何キロと走り込む。しかし走り込みで鍛えられるのは「全身持久力」であり、5分3RのMMAや3分3RのK-1にはそぐわないのではないかと、海外では言われていたんですよ。

 あぁ、それはそうですよね。

鈴木 MMAはお互いに見合いながらドンと打つ、という攻防が多くなります。すると耐乳酸性=無酸素で、瞬発力を鍛えるトレーニングを行うほうが良い。先ほど挙げた400メートルダッシュは、MMAの試合時間に近いわけです。

 400メートルダッシュが一番キツい運動ですからね。無酸素の状態で走り続けるので。

鈴木 海外ではハートレートモニターを着けて心拍数を測ったり、血中の乳酸濃度を測ったりして、無酸素で働く乳酸性トレーニングの体力指数を出していますね。もっと言うと遺伝子検査で、遺伝子的に遅筋が多いか速筋が多いかを調べたり。それら科学トレーニングの土台になるのが体組成なんです。階級制のスポーツにおいては、体脂肪率の少ないほうが筋肉量も多いだろうと考えます。

もうひとつ、彼らのような理学療法士や、我々のようなフィットネストレーナーあるいはフィジカルトレーナーの場合「BMI」という数値を使うことがあります。BMIというのは「体重÷身長の二乗」ではじき出される数値ですね。BMIをもとに考えると、マッチョ系のMMAファイター……たとえばUFC世界フェザー級王者のアレックス・ヴォルカノフスキーは肥満になります。

 そのヴォルカノフスキーというのは身長が低くて、体重は重い選手ですか。

鈴木 そう。身長が167センチほどで、通常対決が82キロぐらいあります。

 一般的に考えると、完全に肥満の範囲ですね。

鈴木 だけど体脂肪率はおそらく15パーセントぐらいで、水抜き前だと10パーセントを切ると思います。多くのファイターは、それぐらいの状態で。お医者さんから見ると、体脂肪率が10パーセントを切っていたら「免疫が下がるのではないか?」と心配するでしょう。

 アスリートでも体脂肪率10パーセントを切る人は、そんなに多くないと思いますよ。でないと、試合で動ききれないスタミナの問題が出て来ます。ボディビルダーの方はスタミナがない。極端に「見せる体」に特化しているので、それはそれで間違いではありません。ただ、スポーツ選手の場合は実用的な体組成ではない。動き続けることを前提に、体力ベースをキープした状態で、瞬間的にハイパフォーマンスを出すことを考えた場合——体脂肪率が10パーセント以上ないと、簡単にいえば「力が出ない」「粘りがない」といった状態になることもあります。

鈴木 アスリート別の体脂肪率でいうと、まず野球選手=8~14パーセントなんです。サッカーの場合は、体脂肪率が6~14パーセント。サッカー選手は試合の中で走り続ける時間が長いので、体脂肪率は低いほうです。それがラグビーになると、ポジショごとに体脂肪率が大きく変わってきます。低い選手は6パーセントほど、ポジションによっては16パーセントになることもあります。結果、アスリートの体脂肪率は平均10パーセントぐらいだと考えられます。一般的には、10パーセントを切ると免疫が下がってしまいます。それがMMAの場合、計量時は10パーセントを切っている選手が多いと思います。決して健康的な状態ではないですよね。

——計量前日に水抜きで体脂肪率を10パーセント以下に落とした選手が、計量後にはどのような状態にあるのでしょうか。

鈴木 それが——体脂肪率の測り方にもよるんです。それは体脂肪を考える際の課題でもあって。たとえばインピー・ダンス法といって、体の中に電気を走らせて体脂肪率を計測するやり方があります。ただ、それは体の中にどれだけ水分を含んだ箇所があるかを測るものであり、脱水状態のなかインピー・ダンス法で測ると、内容も違ってきますね。

MMAでは5キロぐらい水抜きをするファイターもいるじゃないですか。同じ体脂肪率で水を含んだ状態の70キロと、サウナに入って水抜きで65キロまで落とした状態では、必ずしも比較できるものではないんですよ。

 後者は体重が減っているのに体脂肪率は高い、ということになりますね。

鈴木 そうですね。この場合、インピー・ダンス法で測ると「筋肉量が少ない」という結果が出てしまいます。計量の時は、みんな体がバキバキに見えますよね。しかしその状態をインピー・ダンス法で計測すると、体重は落ちているのに体脂肪率が高くなっていることがある。まさに数字のマジックに惑わされることもあります。

 練習の後に体重を測ったら、体重が増えてしまっていることもあるんですよ。あるいは朝と夜では体重が2~3キロ違ったりしますし、夜と翌朝でも変わります。何かといえば、まず体組成を考えるためには、毎日しっかり決めた時間に測り、記録をつけていく。こうした定点観測が必要になるんです。そのほうが体組成のムラはなくなりますから。

<この項、続く>

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【Special】新連載『MMAで世界を目指す』:鈴木陽一ALIVE代表「MMAに必要なフィジカルとは?」─02─

【写真】ALIVE所属のグラップラー竹本はGladiatorバンタム級王座を奪還。グラップラーにはグラップラーに必要なフィジカルがある(C)MMAPLANET

UFCをはじめ世界各国でMMAが普及、拡大していくなか重要視されるのがフィジカルだ。MMAPLANETでは毎月、総合格闘技ALIVEを運営する鈴木社長=鈴木陽一代表が各ジャンルの専門家とともに、MMAとフィジカルについて考えていく連載企画をスタート。第1回の後編では、MMAジムの課題と今後について語り合う。
Text by Shojiro Kameike

<MMAに必要なフィジカルとは? Part.01はコチラから>


――日本の格闘技界では、トレーナーは技術を教えるものであり、筋力は選手任せという時代もあったかと思います。あるいは独自にフィジカルトレーナーをつけると、ジムのトレーナーが嫌がることもありました。

鈴木 そういう時代もありましたね。MMAでいえば、大きくグラップラーかストライカーかに分かれます。同じ階級であっても、ファイトスタイルで身体特性が違います。

納土 そうですね。

鈴木 そこで選手とトレーナーが二人三脚でやっていく必要があります。選手任せにすることなく、「君はこの階級のなかで背が低くても力が強いほうだから、こういう身体づくりをしよう」とか。もちろん多くのジムで、トレーナーと選手の間でそういった話し合いは行われていると思います。でもその話し合いの内容が、フィジカルトレーナーや栄養士の人たちにも伝わっているのかどうか。ここでコーディネーターと各専門家による分業制のバランスが重要になってきます。選手自身にコーディネートまで任せると、自分の主観が入ってしまいますから。

最近の選手でいうと、UFC世界バンタム級王者のショーン・オマリーですよね。バンタム級で180センチというのは、本来は身体が細くなりすぎるかもしれない。でも彼は自分の身体特性を生かすために、バックステップからの右ストレートを身につけています。

納土 医療でも最初は同じ治療を行っていたとしても、その経過に合わせてオーダーメイドの治療に移っていきます。それと同じですよね。選手によって状況は違いますから。

鈴木 納土君は総合病院に勤務しながら高校の部活、愛知県アーチェリー協会のトレーナーも務めています。そうした現場では、全てオーダーメイドですよね。

納土 監督や選手によって、それぞれゴールが異なりますから。まずチーム単位では、監督が何をどう求めているかによって方法も変わってきます。競技レベルが高いチーム――高校ですとインターハイ優勝を目指している学校では、各スタッフが分業しつつ、個々の選手について報告してもらい、私のほうですることを決めます。一方で、それほど求めていないチームの場合は? 体育的な要素の一環で「スポーツを楽しんでくれたら良い」というところでは、全体を見ることのほうが多い。ゴールが違えば、それだけ違ってくるんですね。

MMA以外のスポーツでもコーチを務める鈴木社長。当然、スポーツごとに求められるフィジカルも違う

鈴木 これも大きなテーマの一つですが、身体的要素の中でも筋力と全身持久力、筋持久力とあります。マラソンの場合は全身持久力、心配機能が必要になりますよね。ひとくちに「スタミナ」といっても、スポーツによって違います。さらに同じMMAの中でも、5分5Rをアウトボクシングで戦う背の高い選手と、5分5Rだけれども2Rまでに試合を決めたいファイタータイプでは、必要なトレーニングも変わってきます。そのため、同じジムの選手でも完全に同じトレーニングをすれば良いかといえば、そういうことではない。海外のUFCファイターは、同じジム所属でもフィジカルトレーナーは別々で、スパーリングの時だけジムに揃うというケースもありますね。あれも理にかなっているわけです。

――ここ数年で日本のMMAジムの在り方も変化してきています。以前は日本の道場といえば、「師匠と弟子」という関係性が強かった。師匠の技術を弟子が受け継ぐという関係性は、素晴らしい文化の一つではあります。一方で「フィジカルの面で師匠と全く違う弟子が、師匠の技術を受け継ぐことができるのか?」という疑問はありました。

鈴木 確かに。そもそもジム運営として「格闘技を使ったフィットネスジム」、「格闘技のアマチュア選手を育てるジム」、そして「プロ育成に特化したジム」――それぞれ本来は違うものであるべきなのかな、と考えることもあります。最近では、国内外で活躍した選手たちが現役を引退して自分のジムを立ち上げています。そうした若い人たちは、どんどん調べて自分にとって良い方法を探っている。ただ、どんどんジムが立ち上がると、どうしても1ジムあたりの会員数は減ってきますよね。そこで海外のMMAジムのように、どうやって売上を立てて専門家を雇用していくのかという問題は、どうしても出て来ますね。

――フィジカルのお話でいうと、選手生活のスタート時点で、目指すファイトスタイルにフィジカルトレーニングの内容を合わせたほうが良いのか。それともフィジカルトレーニングの結果にスタイルを合わせていくべきなのか。短期的ではなく長期的に見た場合、どちらが望ましいのでしょうか。

鈴木 ウチは25年間でプロ選手を25人ほど輩出してきたなかで、柔術寄り、打撃寄りと様々なタイプの選手がいました。それは身体特性に合わせてファイトスタイルを考えていました。本人の身体特性と似たタイプの試合映像を見せて、「この選手のように戦うと勝率が上がる」と説明するんです。次に必ず言うのは「せっかく痛い想いをしながら練習して、試合をするのだから『なりたい選手』になろう」と。その2つの方向で考えてもらいます。

結局、「あなたが目指すゴールは何ですか?」ということなんですね。もしパウンドでフィニッシュしたいなら、そのゴールに向けたトレーニングをしなければいけない。でも、身体特性としてパウンドでフィニッシュすることに向いているかどうか――常にその2方向で、並行して考えていかないと難しいです。

――どれだけ選手にとって目指したいゴールがあっても、身体特性に合っていなければ練習でも試合でも怪我が多くなると思います。過去にはそうして怪我をしたり、負傷で現役を引退せざるをえなくなった選手も見てきました。

鈴木 何か怪我があった場合は、納土君に相談します。時にはすぐジムに来てもらったりしています。ジムの近くには提携している医療機関もあって、各検査に対しても専門家に相談できるような体制になっています。

納土 いま若い指導者のチーム、ジムは科学的な検査、検証をもとに選手のスタイルを考えていくところが多いですよね。

前回に続き、改めて掲載--学校で学ぶ「体力」の要素

鈴木 これから日本のMMAファイターの「体力」も、専門家に診てもらいながら、各専門コーチが指導していくこと。そのために必要なのは、最初にお見せしたように要素を細かく分類していくことが必要です。今までで「フィジカル」と言ったら、行動体力の機能にばかりがフォーカスされていたと思います。しかし今後は他の要素も含めた「体力」を考えていかないといけない。

納土 すでに北米にはデータがあるわけですからね。MMAにおける怪我の予防についても、米国とカナダには文献があります。昔からデータを取っている。一方で日本は言葉の定義もバラバラですし、こうした企画を通じて用語を定義し直すのも良いですし、怪我の予防なども浸透していけば嬉しいですよね。

鈴木 そういうことなんです。きっとここで私がお話していることにも、各ジャンルの専門家から見て「それは違うんじゃないか」と思うことがあるかもしれない。「鈴木さんはこう言うけど、自分は米国でこう教わってきた」とか――公の場で、そういうディスカッションをしていかないと、発展は難しいと思います。

この企画では1年間=12回、テーマにそって私がお話していきます。次は私がお話したことに対して意見のある人と、どんどん議論していきたい。その議論をMMAPLANETという公の場で行い、記事として残れば他のコーチや選手にとっても役立つものになると思います。次回は「MMAと体組成」、「体組成とフィジカル」についてご説明していきますので、よろしくお願いいたします。

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【Special】新連載『MMAで世界を目指す』:鈴木陽一ALIVE代表「MMAに必要なフィジカルとは?」─01─

【写真】ALIVE設立前はスポーツクラブ運営委託会社でトレーナーやスポーツクラブの運営に携わっていた鈴木社長。現在はALIVE運営のほか、健康経営事業でも活躍中(C) BICF

UFCをはじめ世界各国でMMAが普及、拡大していくなか、技術だけでなくフィジカル面も重要視されていることは言うまでもない。しかし「MMAに必要なフィジカルとは?」というテーマに対して、なかなか答えを出せない方も多いのではないだろうか。そこでMMAPLANETでは毎月、総合格闘技ALIVEを運営する鈴木社長=鈴木陽一代表が各ジャンルの専門家とともに、MMAとフィジカルについて考えていく連載企画をスタートする。

Text by Shojiro Kameike

鈴木社長はスポーツクラブ運営委託会社勤務、健康運動指導士を経て1998年に名古屋で総合格闘技道場ALIVEを設立。これまでプロ選手を30名輩出し、国内外のMMAイベントに選手を送り出してきた。今回の連載では、格闘家に関する身体組成、運動生理学、分子栄養学、フィジカルトレーニング、減量の知識、脱水の知識などを専門家とともに考えていくことがテーマだ。そんな連載の第1回はまず「フィジカルとは?」について考えたい。


――連載開始にあたり、まずは鈴木社長から経緯と内容についてご説明いただけますか。

鈴木 2023年9月、おかげさまでALIVEが25周年を迎えました。25周年のジムというのは、日本のMMAの中でも長いほうだと思います。そして私自身も58歳になり、会社で取り決められた定年――60歳まであと2年と迫っています。その2年の間に、25年のMMAジム運営で培ってきたものを形にして残したいと思ったんです。

MMAではカナダTKOから、UFC、Bellator、ONE、IMMAFまで29回、柔術の国際大会にも4度セコンドとして帯同している鈴木社長。

では、何をどうやって残していくのか。私はもともとスポーツやフィットネスのトレーナー出身です。そこから総合格闘技道場ALIVEを立ち上げ、選手とともに国内大会から海外へ――UFCやBellator、Road FCといったMMA大会にも行きました。柔術の世界大会ムンジアルにも同行しています。

たとえば日本と米国のMMAジムの違いとして、米国のMMAジムにはしっかりと資金が投入されている。医師、理学療法士、栄養士といった国家資格を持った人たちが、MMAジムのスタッフに加わっています。それだけMMAがスポーツ・ビジネスとして成立しているわけですね。そこで日本の格闘技業界で25年やってきた人間でありながら、スポーツトレーナーとしての観点で日本のMMAについてお話していこうというのが、今回の連載企画の主旨です。よく言われるところですが、MMAにおいて日本は海外と比べて遅れている――遅れているから、何をどうするべきなのか。その点を考えていきたいと思っています。

――同じコンバットスポーツでも、レスリングやボクシング、柔道といった五輪スポーツは日本国内でも施設や育成プログラムが整っています。海外の場合は規模こそ違えど、各MMAジムで同じような施設とプログラムが成立しているわけですよね。

鈴木 私も仕事柄、Jリーグやプロ野球、ラグビー、そのほか五輪スポーツのトレーナーさんとお話することが多いです。多くのプロスポーツは分業制になっていますよね。栄養は栄養士がチェックする、フィジカルはフィジカルトレーナーが就いて、心理相談員もいます。さらに、その全てを管理するコーディネーターさんがいるわけです。日本のMMA界でも、自らギャランティーを支払ってフィジカルトレーナーや管理栄養士さんに付いてもらっている選手もいます。ただ、それらをコーディネートするのは選手本人であることが多いですよね。それが日本と海外、日本のMMAと他のスポーツの違いではないかと思います。

――日本のMMAジムの規模で、その環境をジム側が提供できるかどうか。

鈴木 そこが一番の課題になります。たとえば米国のジムに行くと、会員さんが2000人もいたりします。そのなかでプロ練習に参加しているのは数十人ほどでしょう。1900人以上の一般会員さん、フィットネス会員さんがいる。その売上で各ジャンルの専門家をジム内で雇うことができます。それはマネージャーも含めて、です。日本のジムだと会員さんは、多くても数百人でしょう。するとジムに掛けられるお金も違ってきますよね。日本のMMAジムも、もっと利益を生み出して専門家を雇えるようにならないといけない。

――ただ、日本と米国ではMMAの市場規模が違いすぎますよね。1000人、2000人も会員さんを集められるジムは存在しないのが現状です。場所、スペースの問題もあって、それだけのジムが生まれることはないでしょう。

鈴木 これは今回の企画から離れてしまいますが、ALIVEの現状についてお話します。今はクラスの会員さんが約200名で、プロ選手が指導するパーソナルトレーニングジムの会員さんが50名ほど。プラス道場へのスポンサー料で、年間の売上が約4000万円になります。それぐらいの売上があると、ある程度の出資が可能になりますよね。国内だけでなく海外遠征も楽になる。そうして海外のMMAメガジムを追いかけている形です。

――よく分かりました。少し前置きが長くなってしまいましたが、連載第1回目のテーマ「MMAに必要なフィジカル」についてお話していただきたいと思います。私自身、「フィジカル」という言葉について一つ大きな疑問がありました。それはトレーナーさんによって「フィジカル」の定義が異なることです。

鈴木 そうですよね。そこで今回は、理学療法士でもある納土真幸君に来ていただいています。納土君は元ALIVE会員で、現在は愛知県内で特にスポーツリハビリに強い総合病院に理学療法士として勤務しています。また、高校の部活動や県のスポーツ協会で、トレーナーやメディカルスタッフとして活躍しています。

納戸 今日はよろしくお願いいたします。フィジカルの定義に関するお話の前に、MMAにおける日本の米国の差について一つ例をご紹介します。私も全ての文献をフォローできているわけではありませんが、少なくとも2015年ごろから米国では、成功したアスリートに関する文献にMMAファイターの例も増えてきています。それこそ医学的見地から脱水に関して、ボクシングの場合はこう、MMAの場合はこう――と。

――えっ!? 米国ではMMAが、以前からスポーツ医学の研究対象となっているのですか。

納土 はい。なかでも特に研究の質が高いと言われている『American Journal of Sports Medicine』(米国整形外科スポーツ医学会の公式機関誌)が、2016年にはMMAの文献について取り上げています。つまり、2016年より前から米国ではスポーツ医学の見地からMMAについて研究されているということになります。文献の中では、MMAにおけるフィジカルも研究されています。そこでMMAに必要なフィジカルとして研究されているのは、筋力――筋力と神経の伝達、もうひとつは無酸素性の能力です。

鈴木 我々が学校の体育科で最初に習うのは、「フィジカル」ではなく「体力」という言葉です。まずこの図を見てください。

学校で学ぶ「体力」の要素。これだけでも新しい事実が分かってくる

日本のトレーナーさんの言う「フィジカル」とは、「身体的要素」の中にある「行動体力」の機能だと思います。そもそも体育を専門的に学んだ者からすると、「身体的要素」と「精神的要素」の両方ともが体力=フィジカルなんです。たとえば「精神的ストレスに対する抵抗力」――練習や試合に対するストレスも、体力のいち要素であって。

――「体力」という言葉を聞くと、どうしても「行動体力」の機能しか思い浮かびません。学術的には、精神面も体力のうちに入ってくるのですね。

鈴木 MMAのトレーナーは今後、こうした文献や学術的な視点を持っておかないと、海外で勝てるファイターを育てることはできないと思います。今の僕が、これを実現できているかどうかではありません。ただ、MMAジムを25年続けてきて、所属選手が海外でも戦ってきた結果として感じていることです。

――これまでフィジカルトレーニングとメンタルトレーニングは、分けられるものだったと思います。学問としての「体力」においては同じものなのですか。

鈴木 同じです。最近流行しているボディメイクのトレーナーさんと、五輪競技のトレーナーさんでは「フィジカル」の定義が異なります。さらに学者さんが言う「フィジカル」も違います。本来「フィジカル」には、精神的なケアも含んでいるということなんです。

これはまた別の回で話をしますが、計量前の脱水に関しても「体力」の中では、身体的要素 > 防衛体力 > の温度調節、あるいは形態の発汗能力も含んできます。単に脱水といっても、様々な様子が含まれてきます。

納土 脱水に関しては腎機能に影響を及ぼすことが世界的に知られています。その点までジム単位でチェックできているか。日本のMMAの場合、減量についてはプロ選手と一般の方で認識の差が小さいと思います。しかしトップアスリートとなれば、減量の影響が試合にも大きく影響を及ぼす。減量については、健康上の安全性という観点も含めてチェックしていかないといけないですよね。

<この項、続く>

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