カテゴリー
45 MMA MMAPLANET o Special UFC   ショーン・オマリー ジョゼ・アルド ボクシング マラブ・デヴァリシビリ ライカ 大沢ケンジ 柏木信吾 水垣偉弥 良太郎

【Special】月刊、良太郎のこの一番:9月 マラブ×オマリー「二歩下がって一歩出る、マラブの制空権」

【写真】9月の一番は水垣・良太郎両氏ともにマラブ×オマリーをチョイス。ぜひ両者の言葉を読んだうえで、この一戦を再考していただきたい(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は良太郎氏が選んだ2024年9月の一番──9月14日に行われたNOCHE UFC 306のマラブ・デヴァリシビリ×ショーン・オマリー、水垣氏も選んだこの一戦を、水垣氏とは異なる目線で語ろう。

【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:9月
マラブ×オマリー「マラブは変な人? だからあれをやりきれる」

――9月の一番、良太郎選手にもマラブ・デヴァリシビリ×ショーン・オマリーの一戦を選んでいただきました。

「打撃という部分にフォーカスして、この企画をやらせてもらっていて、この試合はストライカーVSストライカーではないんですけど、僕は指導する立場でもあるので、ストライカーにとっては嫌な展開を作られた試合でした。しかもこの試合はUFCが誇る超スター選手のオマリーvsオマリーのような華がはないけど実力があるマラブという図式もあり、試合前のトラッシュトークも含めて、こういう試合展開になることは予想していた人も多かったと思うんですね。純粋な打撃だけのスキルとは違う部分で、打撃にフォーカスする試合としてセレクトさせていただきました」

――オマリーのようなストライカーからすると、テイクダウンを狙ってくる相手に対して、どう打撃を当てるか。これはMMAにおける永遠のテーマだと思います。

「多くの人がマラブが無限のスタミナでひたすらテイクダウンを狙って削る、もしくはカウンターパンチャーのオマリーが打撃を入れる、そういう試合をイメージしていたと思います。そこでいうと僕はスタンドの距離=制空権が鍵を握っていると思いました。

 オマリーはロングレンジを活かした打撃を当てたくて、5Rに三日月蹴りを効かせた場面もありましたが、あの時点でオマリー自身がスタミナ切れしていて追い足がなかったですよね。ああやって三日月蹴りで削って、そこから打撃で仕留める展開に持ち込みたかったと思うのですが、その三日月蹴りを当てたのが最終ラウンドで、試合の残り時間とお互いのスタミナを考えたら、あそこから仕留めないといけないオマリーよりも、最悪くっついて逃げ切ればいいマラブだったら、マラブの方が有利でしたよね。

 1Rはお互いスタミナもある状況ですが、マラブが上下のフェイントで揺さぶりをかけて組みついてテイクダウンを仕掛けて。あれを凌ぐ攻防のなかでオマリーはかなりスタミナをロスしたと思います。オマリーはカウンターパンチャーなので、あそこでロングレングのパンチを射抜いたり、カウンターのヒザ蹴りだったりを当てられればよかったのですが、それが出来なかったですよね」

――なぜオマリーはそれが出来なかったのでしょうか。

「これは対戦した選手にしか分からないと思うのですが、おそらくマラブはスタンドの距離が独特なんですよ。オマリーもVSストライカーだったら、スイッチを使って体の軸を色々と使い分けながらパンチを打ち抜くので打撃のゾーンが広くて、距離が独特なんですね。ただこれがVSマラブになると、マラブは打撃が当たらない距離でステップしていて、そこからダッシュ力を活かして入ってくる。相手からするとマラブはかなり遠い位置に感じると思います。

 それが特に分かりやすかったのが4Rにマラブがテイクダウンを奪った場面で、1~3Rまでの動きを見ていてもそうなのですが、オマリーが一歩前に出ると、マラブは二歩下がるんです。そしてすぐに一歩前に出る。そうするとオマリーが一歩下がったとしても、そこはマラブにとってはテリトリー内なんです。4Rにオマリーがフェイントをかけて前に詰めようとしたところで、マラブにジャブから綺麗にタックルに入られてテイクダウンされたのは、その距離のトラップに引っかかったからですね」

――あのテイクダウンはメラブの距離とステップに要因があった、と。

「スイッチする選手はステップせずに歩きながら前に出られる分、どうしても距離設定が緩くなる場面があるんですね。今回はそこにマラブが打撃ではなくカウンターのタックルを合わせたという形ですね。しかも今回は5Rマッチでお互いスタミナを消耗していて、特にオマリーは後半のラウンドになると下半身からの連動で強い攻撃を出せない・追い足がない状態に追い込まれていました。

 3Rあたりはオマリーも距離を探れているのかなと思ったのですが、いかんせんマラブがさっきのステップインでオマリーの体力とやることを削っていたので、オマリーとしてはマラブの泥沼にハマっていった感じですよね。どこまでマラブが意識していたか分かりませんが、2Rにオマリーにキスして余裕をアピールして挑発したじゃないですか。ああいう心理戦の駆け引きもあったと思います」

――スイッチヒッターに対して打撃ではなく、タックルのカウンターを合わせたということですか。

「そうですね。オマリーがスイッチして一歩前に出て、マラブが一歩下がるだけだったら、オマリーがプレッシャーをかけられるんですけど、二歩下がるとプレッシャーがかからないんですよね。しかもそこからすぐマラブがステップインしてきて、距離を取ろうと思った時には、マラブにタックルに入られる距離になっているという。

 もしオマリーが1Rから組まれる覚悟でローで足を潰すとか、ヒザのフェイントを入れるとか、そういう選択をしていたら展開は変わっていたかもしれないです。オマリーもどうしても自分のパンチに自信があるから、制空権を支配したいという気持ちがあったと思うんですよね。それが今回に関してはマラブに遠い距離に居座られて、あのダッシュ力で距離を詰められる=制空権を支配できないという時間が長かったように思います」

――オマリーにとっては自分のやりたい攻防に持ち込めなかったわけですね。

「オマリーからすると相当やりづらかっただろうし、試合をしながらイライラしていたと思います。最後は体力的にいけなかったのもあるし、どうしても1Rから4Rまでの攻防で、打撃が当たらなかったら組まれる→トップキープされて時間を使われる→判定になったら負けるということも頭に刷り込まれていたと思います」

――またマラブはテイクダウン以外でかなり細かいパンチのフェイントを入れたり、目線を散らしたり、体を上下させたり、常に動き続けていますよね。あれは打撃の観点から見ていかがですか。

「あれはうざったいですね。フェイントには動くフェイントと動かないフェイントがありますが、マラブは典型的な動くフェイントで、常に上下に体を動かして、基本的にテイクダウンにつなげる打撃なんだけど、必ず当たる打撃も混ぜてくる。それでいて遠い距離にいるなと思ったら、ものすごいダッシュ力で組んできて、試合後半になっても疲れることなく、それを延々と繰り返してくるわけだから…ストライカーからしたらたちが悪いですよ(苦笑)」

――あのファイトスタイルだけだったら対応できるかもしれませんが、あれを5R続けられるスタミナがあることが厄介ですよね。

「はい。もしかしたらオマリー陣営は、さすがに後半は動きが落ちるだろうから、そこで勝負しようとしていたところもあったのかなと思うんです。競技は違いますけど、ボクシングの井上拓真×堤聖也みたいに、みんなさすがに堤選手は後半ペースが落ちると思っていたら、結局最後まで落ちなかったじゃないですか。ああなると対戦相手からすると手遅れなんですよ。しかもオマリーのようなカウンターパンチャーは、玉砕覚悟で前に出て打撃を当てるのが決して得意ではないので、後半のラウンドで一気に逆転という形にはならなかったですよね」

――ちなみにもし良太郎選手の選手あマラブと戦うことになったら、どういう作戦を立てますか。

「僕だったら…1Rはイーブンに動かせますね。結局マラブのリズムに合わせちゃうからやられるわけで、だったらこっちもあえて乗っかる。マラブと同じことをやるわけじゃなく、こっちはこっちで色んな打撃のフェイんをかけて動く。もちろんスタミナはロスしますけど、その方がマラブもマラブでやりにくいと思うんです。オマリーはどちらかと言うとフワフワ~と動いてドン!と当てるタイプですが、逆に最初からパンチとかヒザ蹴りをどんどん見せていった方がよかったかもしれないです。これもすべてたらればの話ではあるんですけどね」

――最近のMMAは判定で打撃・ダメージが重視されやすくなっていますが、UFCのチャンピオンの顔ぶれを見ると組み技系の選手も多いですよね。

「やっぱり時代は回るんですよ。そういうなかでイリア・トプリアのような選手がチャンピオンになるところが面白いですよね。ただUFCのトップレベルの技術を10段階で評価したら、すべての技術が7~8はあると思うんですよ。そのうえで10ある技術で勝負しているというか。トプリアやジョゼ・アルドのような純ストライカーに見える選手でも、元は柔術黒帯だったりするわけじゃないですか。

 きっとそれは練習環境が以前よりも整備されていて、自分にあったスキルを学べるコーチや指導者がいるから、ベースにある格闘技を活かしながらMMAファイターとして完成度を上げられるからだと思うんですよね。そういう部分でもUFCの試合を見ていくのは興味深いですし、これだけレベルが上がったもの同士が戦うのに『嘘だろ?』『こんなのある?』みたいなフィニッシュも起こるわけだから、純粋にUFCは見ていて面白いですよ」

――今回もたっぷり語っていただき、ありがとうございます!

The post 【Special】月刊、良太郎のこの一番:9月 マラブ×オマリー「二歩下がって一歩出る、マラブの制空権」 first appeared on MMAPLANET.
カテゴリー
45 MMA MMAPLANET o Special UFC アルジャメイン・ステーリング ウマル・ヌルマゴメドフ コナー・マクレガー コリー・サンドハーゲン シャーウス・オリヴィエラ ショーン・オマリー ジョゼ・アルド ダナ・ホワイト ネイト・ディアス ピョートル・ヤン ボクシング マラブ・デヴァリシビリ ライカ 大沢ケンジ 柏木信吾 水垣偉弥 良太郎

【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:9月 マラブ×オマリー「マラブは変な人。だからあれをやりきれる」

【写真】ファイトスタイルそのものは疲れるスタイル。それを5Rやりきってしまうのがマラブの強さだ(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は水垣偉弥氏が選んだ2024年8月の一番──9月14日に行われたNOCHE UFC 306のマラブ・デヴァリシビリ×ショーン・オマリーについて語ろう。


――9月の一番はマラブ・デヴァリシビリ×ショーン・オマリーの一戦を選んでいただきました。この試合はマラブの強さが目立った試合だったと思います。

「色々と僕の中でも見どころがあった試合で、マラブのようなタックルマシーンに対して、オマリーのようなストライカーがどう戦うのか。そこは自分自身の現役時代からの永遠のテーマでもあり、この試合でもそこを主に見たい、もっと言うならオマリーがどういう戦い方をするのかを見たかったんですね。結果的にはオマリーがストライカー病というか、マラブのタックルを警戒して手が出ないという、よくあるパターンにハマっちゃったなっていう感じでしたね。と同時に、このテーマはまだまだ続くなと思ったのが正直な感想です」

――試合全体を通して見ると、1Rに2回組まれてテイクダウンを許してしまったことが、2R以降の試合展開に影響を与えたと思います。

「ずばりそれだと思いますね。1Rが始まってテイクダウンされるまでのオマリーは、割と前蹴りだったり攻撃が出ていたんですよね。逆にマラブはいつもよりちょっとな控えめで、タックルに行きにくそうに見えました。でもそこで1回マラブがテイクダウンを取ったことで、徐々にオマリーの手が出なくなってきて。オマリーからすると打撃を出すとマラブに触れる、警戒して打撃を出せないというパターンにハマっていった印象です」

――仮に組まれたとしてもマラブのクリンチをはがしたり、完全には寝かされない状況を作っていれば違ったと思うのですが、しっかり組まれてしまった印象があります。

「そうなんですよね。結構ちゃんと組まれてしまって、その後のラウンドもすぐに立ち上がることができない展開になってましたよね。それだけ1Rにテイクダウンされた時に、もうテイクダウンされたくないなというのがオマリーの中で出てきちゃったんだと思います。マラブは割とテイクダウンしても相手を立たせるタイプなんですけど、オマリーは一度組まれて尻餅をつかされると、そのまま動きが止まったり、下になる展開が長かったように見えました」

――もちろんオマリーもレスリング・組み技への対応はできる選手だと思いますが、マラブのような超トップ選手との対戦は少なかったと思います。

「まさにそれもあって、正直過去の対戦相手を見ると、あまりマラブのようなタイプとはやってないんですよね。アルジャメイン・ステーリングとやった試合が初めてレスリングが強力な相手とやった試合だと思うんですけど、アルジャメイン戦も2R開始直後にパコーン!と一発で倒しちゃったので、レスリングや組みの技術をちゃんと見ることが出来ないままだったんですよね。そういう部分で、マラブとやってどうなのかなと思っていたのですが、 やや安易にグラウンドで下になったり、ガードポジションを取ったりしていて。オマリーはグラウンドで下からガンガン戦えるタイプでもないと思うのですが、そこで立ちに行く感じでもなかったので、組まれる・テイクダウンされるとキツいというのが見えちゃいましたよね」

――どうしてもマラブクラスのレスリング力がある選手と対戦すると、その部分で差が出てしまいますよね。

「そこは相性の問題もあると思います。ストライカーとレスラーは、単純に言うとどうしてもストライカーは相性が悪くて、その相性の悪さがもろに出ちゃったのかなと。例えばジョゼ・アルドやピョートル・ヤンがマラブとやった時、アルドは下がりながらテイクダウンに対処する感じで、テイクダウンは許さなかったんですけど、その代わりにケージに押し込まれ続けたんですよね。で、ヤンはスイッチを使いながら対応しようとしたのですが、マラブにそこを上回られてしまうという試合でした。じゃあオマリーはどうなんだ?というところだったのですが、結果的にオマリーはアルドやヤンのところまではいかなかったなというのが正直なところですかね」

――見ている側からすると、テイクダウンをディフェンスできないなら、打撃を思い切り当てにいくという選択肢はなかったのかと思うのですが、そこはファイター側からするとどうなのでしょうか。

「あとは一発を当てに行きたいは行きたいんですけど、結局そこで組まれちゃうんで。一発を当てるタイミングを探っているうちに結局(試合が終わる)なんですよね。ようは一発を当てるための距離になる=組まれる距離なので、行ったら組まれるという感覚もあるんですよ、タックル系の選手に対しては。だから一発を当てるための行き方が難しいんですよね、単純に思いっきりいけないという」

――その一発を当てるためには組み立ても必要だし、そうしているうちに組まれるリスクが大きいということですね。

「一発にかけるということは、ある程度の強打を当てて、その一発でKOするなり、ダウンさせるなり、大ダメージを与えるのが欲しいじゃないですか。リスクを追う分の見返りが欲しいというか。それに見合う一発を当てる距離まで詰めるというと、またそこですごく難しくなってきますよね」

――あとマラブの方もテイクダウン以外でかなり細かいパンチのフェイントを入れたり、目線を散らしたり、体を上下させたり、常に動き続けていますよね。

「動きそのものが多いですよね。絶対打撃が届かない距離でもシャドーボクシングやスイッチしたり、地味な動きなんですけど、それをずっと繰り返している。ただタックルだけ狙っているより、こういう動きをやられると嫌ですよね」

――相手からすると、あれだけちょこちょこ動き続けられると、フェイントだと分かっていても引っかかってしまうものですか。

「あとはやっぱりああやって動いている中で、本物と偽物の(動きの)違い、本当に来る時と来ない時って、 何もしないでバッ!と来るより、色々と動いてる中でバッ!と来る方が、対応も遅れると思うんですよね。そういう部分はあると思います。だからあれだけ目の前で動き続けられていたら、やりにくいと思いますね」

――オマリーも5Rに三日月蹴りを効かせる場面がありました。メラブは試合後に「効いていない」と言っていましたが……。

「あれは効いていたと思います。分かりやすくお腹をさすってましたからね」

――右の三日月蹴りをもらったあとのシーンですが、あの前の左の三日月蹴りも効いていたと思います。

「あれも絶対効いてましたね。ボディが効いたかどうかは本人しか分からないし、効いていても『効いてない』って言い張ると思うんですけど、セラ・ロンゴ・ファイトチームで一緒に練習していた(井上)直樹くんの話だと、練習でもマラブは腹を効かされていたことが結構あると言っていたんで、マラブは腹が弱いんじゃないか説も出てますね。だから試合展開や相性もあるんですけど、あれがもっと早い段階で来ていたら、面白かったのかなという気もしますよね」

――それまでの打撃とは違い、明らかにオマリーのプレッシャーがかかっていた時間でした。

「そうですね。あれはオマリーが5Rに判定で勝つのがほぼダメだろうと思っていた中での開き直りがあったから、また前に出始めたんだと思います。もうテイクダウンされてたとしてもしょうがないって気持ちがあったからこそ、もう1回(打撃を)作り直したんじゃないかなと思います」

――5Rに弱みを見せたメラブですが、あのテイクダウンを軸にしたファイトスタイル&無尽蔵のスタミナは真似できないですよね。

「あのスタミナは異常ですね。ファイトスタイルそのものは疲れるスタイルだと思うんですよね。今回の試合はトップを取ってからキープする時間が長かったですが、他の試合では結構立たせるんです。で、また倒す。倒して、立たせて、倒して…を繰り返して倒してテイクダウンの数で印象つけるみたいな、めちゃめちゃしんどい戦い方をしているので、それが出来るスタミナは尋常じゃないですね。対戦相手=タックル受ける側としては、やっぱりしつこくタックルを切って切って、マラブが疲弊してきてタックルに入れなくさせるというのも1つの作戦としてあると思うんですよね。ただマラブは疲弊しないから、その希望がなくなってしまうという」

――あれだけスタミナがあるとテイクダウンの攻防でマラブを疲れさせるという作戦もチョイスできません。

「テイクダウンそのものもバーン!と入って綺麗に倒しちゃうじゃないですか。一回ケージに押し込んで、低い姿勢でケージレスリングを頑張って倒すという展開が少ない。テイクダウン能力の高さも、マラブがバテにくい要素だと思います」

――水垣選手はどういうタイプだったらマラブを攻略できると思いますか。

「攻略法がなかなかないですよね(苦笑)。それこそシャーウス・オリヴィエラみたいに打撃があって、グラウンドで下になっても戦えるとか。そういうファイターだったら可能性があるのかなっていう気はするんですけどね」

――マラブとレスリング勝負できるか、レスリングそのものを捨てて勝負するか。

「そうなんですよ。さっきも話したようにジョゼ・アルドはほとんどテイクダウンを許していないんですけど、テイクダウンディフェンスするためにずっと押し込まれたままで判定負けしているんです。テイクダウンされないことに集中すると打撃が出せないし、相手がバテない限りは押し込まれ続けるので、ポイントを取られちゃいますよね。だからメラブ攻略は本当に難しいです。

あと試合とは関係ないですけど、メラブってちょっとおかしいじゃないですか。試合が始まった瞬間、オマリーのセコンドと言い合ったり、試合中にオマリーにキスしてハーブ・ディーンにめちゃくちゃ怒られたり。あとは試合前にインスタグラムで氷が張ってる湖に飛び込んで、練習でカットしたところを縫ってる動画をアップしてダナ・ホワイトに『アイツはレベルが違うバカだ』ってキレられてましたよね。普通はあんなことしないですよ(笑)」

――大分変わっていると言えば変わっていますね…。

「基本的に変な人なんだと思います(笑)。でも、だからこそああいうファイトスタイルをやりきれちゃうというか。普通は5Rマッチでああいう試合はやろうと思わないし、それをやっちゃうというのは何かぶっ飛んでる新しいタイプですよね」

――敗れた方のオマリーについても一言いただけますか。

「あと僕の中でオマリーとコナー・マクレガーを重ねていて、マクレガーもここで負けるだろうと思われている試合で勝ち続けて、オマリーもそういうキャリアだったと思うんですよ。マクレガーはネイト・ディアスに負けてライト級に上げてタイトルを獲っていますけど、最後はハビブ・ヌルマゴメドフにやられて、それからスーパーファイトを中心にやっていくスーパースター路線に行ったじゃないですか。じゃあオマリーはここで負けて、これからどうなっていくのかなと。そこにも凄く注目しています」

――さてマラブの次の挑戦者にとしてウマル・ヌルマゴメドフが噂されています。

「そこは僕、すごく楽しみなんですよ。ウマルもレスリング力があるから、そこでも勝負もできるし、打撃という部分ではウマルの方が上だと思うんですよね。だから打撃+レスリング力でどこまでマラブに対抗できるのかっていうところですよね」

――前回水垣さんにウマル・ヌルマゴメドフ×コリー・サンドハーゲンを解説していただきましたが、マラブよりもウマルの方が技の引き出しは多い印象です。

「例えばウマルが一回・一発のテイクダウン勝負で負けたとしても、そこからのスクランブル勝負で後ろに回るとか、下からでも組み勝つみたいなものを見せてくれたら面白いなと思います。何度か言っているようにマラブが立たせるタイプなので、仮にマラブに3回テイクダウンされても立ち続けて、逆にウマルがテイクダウンもしくはスクランブルで上を取ってキープする。それをしつこくやれば、ウマルも強いと思います。あとはクリーンテイクダウンできなくても、スタンドバックの攻防に持っていければ、ウマルがマラブにヒザをつけさせて殴って、もう一回立って打撃をやるとか、そういうことが出来れば、ウマルにもチャンスが出てくると思いますね。この試合はぜひ実現させてほしいです!」

The post 【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:9月 マラブ×オマリー「マラブは変な人。だからあれをやりきれる」 first appeared on MMAPLANET.
カテゴリー
45 MMA MMAPLANET o Special TJ・ディラショー UFC アレッシャンドリ・パントージャ アーセグ イスラエス・アデサニャ カイ・カラフランス スティーブ・アーセグ ドミニク・クルーズ ボクシング マイケル・チャンドラー 大沢ケンジ 朝倉海 柏木信吾 水垣偉弥 良太郎

【Special】月刊、良太郎のこの一番:8月 カラフランス×アーセグ「スイッチを使う打撃として参考になる」

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は良太郎氏が選んだ2024年8月の一番──8月17日に行われたUFC 305「Du Plessis vs Adesanya」のカイ・カラフランス×スティーブ・アーセグについて語ろう。


――今回はカラフランスのKOをピックアップしていただきました。まずその理由から聞かせてください。

「カラフランスは約10カ月ぶりの復帰戦で、アーセグはアレッシャンドリ・パントージャに負けて以来の試合だったんですよね。アーセグはフライ級では身長が高いんですけど(173㎝)、カラフランスは身長に対してリーチが長い体系なんですね。で、僕もMMAの選手を指導するうえで構えをスイッチする打ち方を勉強していて、この試合でカラフランスはファーストコンタクトから左→右→左とスイッチしながら出す攻撃を積極的にトライしていたんですよね。この形をトータル3回くらいトライしていて、アーセグもカラフランスの左のオーバーハンドを気にして、あまり自分から前に行くことが出来ていなかったんです。

アーセグもカラフランスが入ってくるところにアッパーを用意していて、それがいい形で当たったんですけど、フィニッシュシーンのカラフランスは左→左で入ってるんですよ。しかも左を見せたあとに左手でアーセグの前手を払って、それをアーセグに反応させておいて、右のオーバーハンドからスイッチしての左フックでダウンを奪っていました。あれは僕もすごく参考している動きですね。マイケル・チャンドラーもストレートでやる動きなんですけど、カラフランスの場合はストレートというよりもしっかり骨盤・軸に体重を乗せて、いい角度でフックが入りましたよね」

――試合途中にカラフランスのパンチの空振りが目立っていて、少しやりにくそうに見えていました。

「最初カラフランスは自分の右側に回ってトライしようとしてたんですよ。そこをリセットして左に回ったときにアーセグにアッパーを合わせられてるんですね。で、それもあったので次のトライではカラフランスがアーセグの前手を払いにいってるんです。あの前手払いにアーセグが反応してしまい、軸・顔が上がってしまったんです。あれはスイッチパンチャーに対して絶対にやってはいけない動きなんです」

――アーセグにミスがあったんですね。

「カラフランスはカラフランスで失敗もしているんですけど、最後のトライではそこを修正して打ち抜きました。だからここはしつこくやり続けたもの勝ちというか。アーセグはカラフランスのプレッシャーを感じていて、バックステップが少し甘くなっていたのかもしれないです。この試合は僕がMMAファイターを指導するにあたって、すごく勉強になる試合でした。構えをスイッチしてくる選手に対して“これをやってはいけませんよ”という意味でも参考になりました」

――良太郎さんはただ構えをオーソドックスとサウスポーに変えるだけではなく、スイッチしながらの打撃も研究しているのですか。

「はい。そういったスイッチしながらの打撃=ムービングの打撃に関しては、アルファメールの流れでいうとTJ・ディラショーとコーディ・ガ-ブランドがいて、ドゥェイン・ラドウィックのチームに分家していって……ですよね。実際にラドウィックはすごくムービングの打撃を研究していて、そこの指導が上手いんですけど、かなり複雑で覚えるのが難しいんですよ。あとはムービングをよく使う選手は体の反応速度が衰えると、それがパフォーマンスの低下に直結しちゃうんですよね。それこそディラショーやガ-ブランド、イスラエス・アデサニャもそうですよね。年齢を重ねることでの反応や体の連動が落ちると、一気に動きが落ちてしまうんです」

――スイッチしながらの打撃は運動能力に影響される部分も大きい、と。

「僕はそう思います。やはりムービングは体を連動させる動きなので、一つの形を覚えるのではなくて(重心を)おしりに乗せる、股関節に乗せる、体軸を変える……そういった動きが必要になるんです。どうしても年齢やキャリアを重ねると無理して戦わなくなるというか、若い時のようにたくさん動いて戦うというよりも、どっしりと構えて動きのベースをしっかり作って戦う選手の方が被弾は少なくなりますよね」

――非常に興味深い話です。

「例えばオーソドックスだけ、サウスポーだけしか使わない選手だったら、年齢を重ねても自分と相手との空間支配能力でなんとかなるものなんですよ。そしてその空間支配能力はあまり年齢に影響されることがない。アレックス・ペレイラがまさにそれです。逆にムービングする選手は空間支配の仕方が変わるし、反応速度が衰えてくると、そこに大きなズレが生じてくるんです。だからもし年齢を重ねてスイッチを使うとするなら、流れるようにスイッチを使って動き続ける=ムービングのスタイルよりも、オーソドックスとサウスポーをどちらも使えるスタイルの方が合っていると思うし、どうしても前者のスタイルは全盛期が少し短くなるのかなと思います。それでいくとカラフランスはキャリアは37戦やっていますけど、年齢的には31歳だし、まだ体力的に落ちることはないと思うんですよ。もし朝倉海選手がUFCのフライ級でやっていくなら、カラフランスとやると面白いと思いますよ」

――今後もスイッチしながらの打撃、良太郎さんが言うところのムービングの打撃は伸びていくでしょうか。

「日本人でも頻繁にスイッチしたり、ムービングする選手は増えていますけど、アメリカに比べると遅いじゃないですか」

――僕が初めてスイッチやムービングを意識したのは、おそらくドミニク・クルーズだと思っていて、彼がWECチャンピオンとして防衛を重ねてUFCに参戦したのは2010年~2011年です。

「僕もアメリカに練習にいった選手に聞くと、アメリカではスイッチやムービングがMMAをやる選手たちの基本的なドリルに組みこまれているそうなんです。ボクシングも国によってファイトスタイルが違うと言われますが、あれはその国の選手に合ったスタイルというわけではなくて、指導方法・方針の違いだと思うんです。もし日本人がメキシコでボクシングを始めたらメキシカンスタイルになるはず。もちろんそこには持って生まれた身体能力という部分での向き不向きはあると思いますけど、ただし最初からスイッチすることを教えていれば、そういう動きはできますよね。僕が最初から指導する選手は子供も含めて、オーソドックス・サウスポーどちらもできるようにしていますし、初歩の段階でどちらの構えもできるように仕込んでおくことで、将来的にスイッチやムービングの基礎はできやすいと思います」

――最初にどちらかに構えて、逆の構えを覚えるではなくて、最初からどちらも構えるようにするわけですね。

「どちらが利き手か、どちらの構えの方が力が伝わりやすいかは選手によって違うし、格闘技のバックボーンによっても変わってくるので、それはやりながらカスタムしていくイメージです。スイッチを練習するからスイッチヒッターにならなくてもいいし、どちらも構えることが出来たら、オーソドックスがやられて嫌なこと、サウスポーがやられて嫌なことを自分で覚えることもできて、同じジムの仲間の練習相手にもなる。そういう意味でもプラスですよね。どちらもの構えも出来ることと、構えをスイッチしながら打撃を出すことは別で、そこへの向き・不向きもあるので、僕はそういう考え方で見ています。少し話は脱線してしまいましたが、アーセグをKOしたカラフランスの打撃はスイッチを使う打撃として非常に参考になりました」

The post 【Special】月刊、良太郎のこの一番:8月 カラフランス×アーセグ「スイッチを使う打撃として参考になる」 first appeared on MMAPLANET.