【写真】気持ちの良いポジティブ思考。矢地の言葉は、人々を幸せにできる (C)TAKUMI NAKAMURA
29日(日)さいたま市中央区のさいたまスーパーアリーナで行われるRIZIN48にて、矢地祐介が宇佐美正パトリックと対戦する。
Text by Takumi Nakamura
2023年は1試合に終わった矢地だが、今年は2月のRIZIN佐賀大会の白川陸斗戦、5月のBellatorフランス大会のマンスール・ベルナウイ戦に続いて、早くも3戦目となる。ベルナウイ戦での反省を踏まえて、フィニッシュへの意識を高く持って練習に取り組んできたという矢地。それは打撃への評価が高くなった最近のMMAへの対応という意味も含まれる。
そのなかで迎える宇佐美との一戦を「時代への挑戦。新世代のMMAファイターと戦って、そこに抗えるか」と位置づけた。
──5月のBellator CSにおけるマンスール・ベルナウイ戦後のインタビューでは「今年はドンドン試合をしたい」と話をしていて、3試合目=宇佐美正パトリック戦が決まりました。矢地選手としては常に試合ができる状態で準備していたのですか。
「そうですね。体重含めて常に試合の準備はできているんで、今年はトントントンと試合が決まって嬉しいです」
──Bellator CSのベルナウイ戦の敗戦を踏まえて、どんなことを意識して練習をしているのですか。
「一本勝ちを目指してテイクダウンするとか、ラウンドの中で極めきるとか、練習中の1Rのなかでも勇気を出して失敗してもいいから極めに行く姿勢でやるようにしています」
──より試合をイメージしてスパーリングしているのですか。
「自然にそうなってきていると思います」
──試合は5分3Rなので、ラウンド数もそれに合わせる形にして、短いラウンドを集中してやるようにしているのですか。
「なぜかこの夏、ロータスはエアコンをつけない方針だったんですよ、理由は分からないんですけど(苦笑)。あまりにも暑すぎて、連続では2本やるのが限界みたいな感じでした」
──エアコンをつけない!? 毎年恒例でやっているわけではないんですよね。
「はい。いきなりなんちゅうことを企画しているんだよっていう感じですよ。ただボス(八隅)が決めたことだから反対できないし、ジムから外に出て『あっ、涼しいな』と思うぐらいの暑さでした。外の気温は36度とかなのに(笑)。しかも今年は湿気も凄かったし、マジでバテてました。9月に入ってから少し涼しくなってきて、今日も3本連続で集中してやったんですけど。まあ大変な夏を過ごしました」
──想像するだけでも過酷な練習環境ですね……。よりフィニッシュを意識して練習するようになったのはどういった理由からですか。
「最近のMMAの判定基準が、やっぱりUFCをはじめ世界的にストライキング重視になっていて、寝技でのコントロールがあまり評価されないようになってきていますよね。そういう中で組み技の選手としてはしっかり一本を取るとか、パウンドやヒジでダメージを与える展開を作らないといけない。
特にRIZINの場合はトータルマストなので、3R終盤までずっと相手を組み技でコントロールし続けていても、最後の最後に立ち上がられて1発食らってふらついちゃったら、それだけで相手に判定を持っていかれていて負けになる可能性があるわけじゃないですか。そういう意味で、寝かせたらダメージを与える・一本取ることを意識するようになりました」
──最近のMMAのトレンドを抑えたうえでのことだったのですね。やはりそこは一本を狙う・ダメージを当たると“意識”するだけじゃなくて、体がそうなるように練習から作っておかなければいけないということですね。
「はい。そういう判定基準がどうかは別にして、世界的にそうなってきているわけだから、僕ら選手としてはそれに従わなきゃいけないし、順応しなきゃいけない。そういう意味でも自然にそうなってきました」
──矢地選手はそういった判定基準は分かりやすくていいと思いますか。
「分かりやすいんでしょうけど、その事実を認められていない選手も多いと思います。特にグラップラーの選手は。今までそれ(コントロール重視)で勝ててきた分、あれ?と思って対応しきれていない選手が多いイメージですよね。でも選手はそれに従ってやるだけですよ。そうじゃなかったら勝てない」
──フィニッシュやダメージへの意識が高くなって、動き自体も変わってきましたか。
「良くも悪くも相手に隙を与えてしまう場面もあったりするんですけど、今までよりフィニッシュできるようになったし、そこを狙っていくことで、技術体系も変わってきて、新たな発見もありますね」
――よりアグレッシブになっていますか。
「好戦的になりますよね。練習の時点で自分からフィニッシュに向かって展開を作っていこうというマインドになっているので。例えばボイド・アレン戦なんかは、固めて勝とうみたいな意識だったんですけど、今はあれじゃ勝てないと思うんですよ。練習の時点でフィニッシュを意識して、それができるようになってきた感覚はあります」
──フィニッシュにトライするからこそ、今までに気づかなかった一本の取り方やダメージの与え方も見えてきましたか。
「それもありますね。(一本を取りに)行ってみたら割と行けるんだみたいな場面はありました。自分は心配性でビビリだから、なかなか一歩前に出られないタイプなんですけど、練習でフィニッシュを狙うことによって、こういうところからでも極められるんだとか、今までは自信がなかったところでも、全然(一本)取れるんだ!みたいな発見はあったかもしれないです。一歩踏み出さなかったから分からなかったけど、一歩踏み出してみたらこんな楽園があった、そんなノリですよ」
──言い方は難しいですけど、変にキツいことをやらなくても、決着つけられる道があるということですよね。
「自信がないからキープしようとか、ちょっとチープに手を打ってラウンドを終わろうみたいな感じだったのが、行くしかないんだとなったら、『なんだ、俺って意外とできるじゃん!』みたいな」
──しかもそれが失敗したとしても、今はトライしたことが判定で評価に繋がるかもしれないわけですからね。
「そうそうそう。それもあると思うし、そういう意味で今の判定基準に順応していますね」
──去年は試合数が少なくて、決まっている試合に勝つための練習ではない、技術そのものを伸ばす練習ができた時期だったと思います。逆に今年は試合がコンスタントに続いていて、勝つための練習にシフトできている部分もあるのかなと思いました。
「確かに…そう言われるとそうですね。いい流れができていると思います」
――今はまた充実して練習ができていますか。
「相変わらず楽しいですね。ただ最近は楽しいのが良くないのかなと思っちゃって。楽しい格闘技になっているから、いま一歩、もう一歩上に上がれていないのかなって思うし、格闘技のことが嫌いになるまで突き詰めないとダメなのかなとか。最近そういう風に思っているんですよ」
──練習するのも嫌になるくらいじゃないとダメだ、と。
「そう、そうなるぐらいまでやらないといけないのかなって。でも………いくらやっても楽しいものは楽しいんで」
──先ほどの判定基準の話にもつながるかもしれませんが、見ている側からすると今のMMAは楽しいMMAになりつつあると思います。
「ちょっと競技、競技しすぎていたのが、またファイトっぽくなってきますよね」
──打撃重視になると言っても、組み技・寝技のスキルがなければ勝てないわけで、逆に組み技・寝技のレベルが上がる部分もあるはずで。
「そうなると柔術の時代や寝技が評価される時代が来るだろうし」
──そういう時代の流れがありつつ、今回はパトリック選手と試合が決まりました。
「まさに今の時代の風潮と戦うにはちょうどいい相手ですよね。彼は打撃の選手で、俺に1発当てればいいと思っているだろうし。その中で俺はしっかり、もちろんMMAなんで打撃も寝技も全部なんですけど、その中でフィニッシュするっていう。時代への挑戦ですよね」
――なるほど。まさに先ほど矢地選手が言っていたように、パトリック選手は試合のほとんどをコントロールされても、最後の最後で一発当てればひっくり返せるというマインドを持って戦ってくるでしょうね。
「だと思いますよ。あっちは俺が被弾する場面が多いのを見ているだろうし、1発テンプルに当てちゃえば、アゴに当てちゃえばって思っていると思います。だから、そこをしっかりディフェンスして、MMAだから俺のパンチが当たることもあるかもしれないし、打撃にせよ寝技にせよ、しっかり極めきることが大事だなと思います」
──カード発表会見で「若い選手とやることに意味がある」とおっしゃっていましたが、今日話を聞いていてもっと大きなテーマの話になってきたなと思いました。今の時代のMMAとの勝負ですよね。
「そうですね。まさにそう。新世代、今の時代のMMAファイターと戦うっていうことですよね。だからいいっすよね。そこで抗えるかどうか」
──今年はそういった意味で試合も多いですけど、それこそいろんなテーマがありますよね。
「はい。続けているとテーマは増えますよね、結局」
──そうやって試合の度にテーマが出てくるのは矢地選手が格闘技にしっかりと向き合っているからだろうし、地震の被弾数が多いということも理解したうえで練習しているからですよね。相手はその弱点を突いて攻めてくると思いますが、そうさせずに一本を取るという部分は入念に練習しているところですか。
「そこは(ルイス・)グスタボに負けて以来ずっと取り組んでいることで、俺が被弾しているのは相手のプレッシャーに負けて下がってしまって…という場面なんで、不用意に下がらずにしっかりプレッシャーをかける。組むにしろ打撃を当てるにしろ、自分からプレッシャーをかけて攻撃を作っていくことがテーマです」
──それも決して昨日今日で修正しようとしていたことではない、と。
「最近それを試すのにちょうどいい相手と試合を組んでもらえているから、RIZINからの俺への課題というか。これを乗り越えないと君は上に行けないよというのを試されていると思っています」
──同じ日にライト級のタイトルマッチもありますが、そこは意識していますか。
「シンプルにどっちが勝つんだろうと思って気になりますね。凄い楽しみです」
──それこそあのカードも今のMMA的な打撃=グスタボ×組み技=サトシという試合かもしれないですね。
「確かに確かに。でもサトシもパンチは強いですからね、上手くはないけど」
──喧嘩が強い系ですよね。
「体の節々がでかいし、パンチが硬いんですよね。本当にいい試合になると思います」
──もちろん矢地選手もパトリック戦をクリアして、そのベルトを狙っていると思います。
「もう1発ここで勝って、大晦日に試合を組んでもらって。何度も言うけど俺は強豪外国人と戦って、乗り越えたいって気持ちが強いんで、また海外の選手と大晦日にやりたいなって今は思っています。もちろん次勝たないと何も始まらないんで」
──分かりました。この夏、冷房を切った中で練習してきた成果をぶつけてください。
「本当そう! 冷房の中で試合ができるだけで天国ですよ(笑)!」
■RIZIN48視聴方法(予定)
9月29日(日)
午後2時00分~ ABEMA、U-NEXT、RIZIN LIVE、RIZIN100CLUB、スカパー!
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【RIZIN48】有言実行なるか。宇佐美正パト戦へ、矢地祐介「今の時代の風潮と戦うにはちょうどいい相手」 first appeared on
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