【写真】写真は取材翌日もの。インタビュー時は……(C)TADAHIRO HARADA
30日(日)、東京都港区のニューピアホールで開催されるPancrase344で、原田惟紘がギレルメ・ナカガワと対戦する。
Text by Shojiro Kameike
原田は2018年11月以来のパンクラス参戦で、当初はランキング10位の谷内晴柾と対戦予定だったが、谷内の負傷で一度は試合が流れていた。しかし改めてギレルメ・ナカガワと対戦することに。ギレルメは格闘代理戦争 THE MAX出場を経て、今回がプロデビュー戦となる。この一戦に向けて原田は「負けたら引退」という覚悟を語った。
今の自分を確かめる試合でもあります
――5年7カ月振りのパンクラス参戦を控えています。その前に昨年11月には、Bloom FC旗揚げ戦で上田祐起選手に勝利しました。まずは5年振りのMMAとなった試合の感想から教えてください。
「地元で自分の生徒や仲間の前で勝つことができたのは、率直に嬉しいです。子供たちも初めて自分の試合を生で見たんですよ。今まではネットで僕が負けている試合を見て『パパ、倒れた』みたいなことは言っていて(笑)。子供たちにも、父親がちゃんと勝つことができるんだというところを見せられて良かったですね」
――タフな試合ではありましたが、しっかりドミネイトしました。あの展開は作戦どおりだったのでしょうか。
「理想は極めたかったんですよ。普通にテイクダウンして極めに行けるだろうというイメージは持っていて。だけど相手は極められないようにするのは上手いと思いました。あとは試合前から考えていたような展開でした」
――Bloom FCでMMAに復帰し、以降はコンスタントに試合をこなしていく、と。
「そうですね。でも自分も上田(将年)も30代後半になってきて……、パンクラスの坂本靖さんには『自分は負けたらMMAは引退する』と伝えています」
――えっ!?
「対戦相手が変わりましたけど、変更になる前からそう伝えていました。今回、最初にオファーを頂いた時は相手がランカーで。勝てば自分がランク入りして、もう少し戦いが続く。対戦相手が変わっても、相手はデビュー戦だけど名前もある選手で――自分も勝つことができれば、もうちょっと頑張ってみようかなとは思っています。
もちろん試合は勝つために挑みますよ。でもずっと家族には心配をかけながらMMAをやってきて、ジムも持つ身ですしね。引き際を考えている自分に、ずっと戦ってきたパンクラスから良い話をもらえました。そこで全てを出し尽くして、まだ現役を続けることができるのか。あるいは身を引くべきなのか――今の自分を確かめる試合でもあります」
――なるほど……。対戦相手変更の話があったのは、いつ頃でしょうか。
「5月の後半ですね。相手が怪我で試合できないと分かったのは火曜日で、日曜日に子供たちと焼肉に行くと決めていたんですよ。そうしたら金曜日に坂本靖さんから電話があって、子供たちとの薬肉をキャンセルしました(笑)」
――お子さんたちは残念がりませんでしたか。
「いやぁ、『へぇー、そうなんだ』みたいな感じですよ。子供たちは子供たちで好きに食べていますし。自分もせっかく体をつくっていたから、練習量も落とさず、暴飲暴食もせずに次の試合を待とうと思っていたので。試合が終わったら、またゆっくり子供たちと行きます」
――話を戻すと、対戦するギレルメ選手はこれがプロデビュー戦です。ランカーとの対戦で引退を考えるなら、分かる気もするのですが……。
「だってプロデビュー戦の相手に負けたら、ランキングなんて言っていられないじゃないですか。相手もアマチュアで勝ち上がり、柔術も黒帯で今が20代前半ですよね。これからガンガン上に行く選手だと思います。勝てば『まだまだ若い者には負けないぞ』と言えるし、負けたら『今の実力はプロデビュー戦の選手に負けるものなんだな』と受け入れざるをえないですよね。たとえどんな試合内容だったとしても」
――勝ち続けてパンクラスのベルトに挑みたいと思っていますか。
「行けるところまで行きたいです。自分はコロナ禍で何度も試合が流れました。30歳前半で5年ものブランクをつくるのって、大きいことじゃないですか。それだけの月日を経て今、これから勝って負けてのキャリアを送る年齢でもない。だから勝って、勝って、勝った末にタイトルマッチがあれば、そこまでは魂を燃やすことができるかもしれないです。
もちろん、これからも負けるつもりは一切ないですよ。でも家族やジムの生徒に、勝ったり負けたりの姿を見せるよりは――負けたら引退、それは何年も前から考えていました。ウチのジムにもパンクラスで上を目指したい子たちがいて、もし彼らがランキングに入った時、そこにジムの先生がいたら嫌でしょう(笑)」
地方の選手はどんな相手だろうと噛みついて、勝ちをもぎ取らないと
――アハハハ、確かにやりにくさはあるかもしれません。Bloom FCの上田戦も、負けたら引退するつもりだったのですか。
「Bloom FCの時は……、やっぱり最後の試合はパンクラスでやりたいとは思っていました。でもあの時は鬼木(貴典)さんが立ち上げに関わっていて。自分も上田も鬼木さんに『立ち上げだから協力しますよ』と言ったんですよ。うん……、……、……鬼木さん、亡くなっちゃいましたからね」
――……。
「鬼木さん……今年3月のBloom FC第2回にも来ていたから『体調どうなんですか?』と訊いたんですよ。でもあの人はいつも『ずっと悪いんだよ~』と笑って話すから、そんなに状態が悪かったとは知らなくて。『今度ゆっくりメシ食いに行きましょうね』と話をしていたら、体調に関するSNSの投稿があって……。突然のことでビックリしました。
自分は試合や仕事のことがあったのでお葬式には参列できず、上田に香典を持っていってもらいました。次の試合の時に、線香をあげに行かせてもらおうかと思っています。だから、いろんな想いが重なる試合になります。
やっぱり勝って線香をあげに行きたいですよね。勝って『もうちょっと続けます』という報告をしたい。もともと訃報を聞く前は上田と、『計量が終わったら、明日試合で勝ちますって言いにいこう』と話をしていたんですよ。それがこういう形になってしまって……、もちろん試合は勝ち負けがあるもので、100パーセントはありえないです。でも1パーセントでも勝つ確率を上げるために、練習でつくり込んできました」
――何か運命的なものを感じますね。このタイミングで上田選手と2人でパンクラスに復帰することになったことも……。
「上田と一緒にパンクラスで試合をする機会は、今回も含めて3回ありました。1回目は2人とも勝って、2回目は自分が計量を失敗して試合できなかったんです。前回のBloom FCも合わせたら合計4回目で。自分の試合が一度流れた時は、上田がメチャクチャ心細くなったらしいですけど(笑)」
――アハハハ。
「同じ大会で試合ができるのも、これが最後でしょうね。お互いに勝ったとしても、なかなか同じ大会に出ることは難しいでしょうから。今回、2人で勝って一緒に笑いたいですね。僕って試合を楽しみすぎちゃって負けることが多いんですよ」
――どういうことですか?
「パンクラスでは前回も前々回も、1Rと2Rを取って3Rに逆転負けしていて(苦笑)。みんな『このまま行けば勝ちだね!』と思って3Rにスマホをイジりだすんですよ。すると会場が沸いて『原田さんが仕留めたか』と思ったら、自分が負けているという。アハハハ」
――笑っている場合ではないです(笑)。
「まぁ、だから今回はフルラウンド集中して戦いたいです。正直オファーをもらった時は、ギレルメ選手のことは知らなかったんですよ。でも自分は相手が誰でも――よほど仕事の都合とかで、その日に仕事ができない場合以外は、オファーを断ったことがなくて。
来る者は拒まず。試合のオファーがあるだけありがたいと思って戦います。だって東京の大会なのに地方の選手へオファーが来ると、『プロモーターも選手を探していて、何か困っているんだろうな』と思うわけですよ。そこでオファーを受けて良い試合をしたら、次のチャンスに繋がる。地方の選手はそこでどんな相手だろうと噛みついて、勝ちをもぎ取らないと。
次の試合も『おいちゃんをナメんな。イジメちゃろ』って感じですよ。上田とともにオジサンたちの試合を見てもらって、いろんな人にエールを送りたいです。そして鬼木さんに勝利の報告ができるよう、しっかり戦います」
■視聴方法(予定)
6月30日(日)
午後12時00分~U-NEXT