【写真】対策練習があったとしても、普段の練習で自力がついた勝利(C)RIZIN FF
9月29日(日)に、さいたま市中央区のさいたまスーパーアリーナで開催されたRIZIN48で、元谷友貴が太田忍からRNCで一本勝ちを収めた。
text by Takumi Nakamura
2022年7月以来、約2年ぶりに太田と再戦した元谷。太田のパワフルなパンチで押される場面もあったが。ジャブ& ストレートを細かく当て続け、最終ラウンドにスクランブルの攻防からバックにつくと、ワンハンド式のRNCを極めた。
2年前に判定勝ちした太田に対してリマッチではRNCによるフィニッシュ。単純な比較はできないが、自身の成長を見せた形の試合となった。この勝利の裏にあるATTでの練習の積み重ね、そして試合の当日のひらめきを元谷に語ってもらった。
やっぱりATTでレスラーたちとたくさん組んできたんで
――前回の太田忍戦はRNCで見事な一本勝ちでした。試合映像はご自身でもチェックされましたか。
「はい。何回か映像を見直して、試合前に自分が思っていたやりたい流れというか、自分の想像通りというか、自分のやりたい試合ができたと思います」
――事前にイメージしていた太田選手とそこまで大きな違いはなかったですか。
「そうですね。大体こんな感じで組んでくるだろうなというイメージはしていて、それを切ったりするイメージはありました」
――太田選手とは2022年7月以来の再戦でしたが、組んだ時の感想はいかがでしたか。
「太田選手はレスリングのトップ選手なので、2年前に試合をした時からテイクダウンが強かったし、ある意味、あそこから劇的にテイクダウン能力が上がることはないと思っていたんです。だから太田選手のテイクダウン力はイメージできていたし、そこに対応できるように練習してきました。前回は結構テイクダウンを取られたんですけど 今回はディフェンスができたかなと思います」
――今回の対戦でテイクダウンディフェンスできた要因は何だったのでしょうか。
「詳しくは言えないですが、太田選手がテイクダウンする感じというか、自分の中ではこういう風にテイクダウンしてくるだろうなというのがあったんで、それをイメージしてやっていました。あとはやっぱりATTでレスラーたちとたくさん組んできたんで、そういう面では免疫というか、すごく対策はできていたのかなと思います」
――ATTでレスリングベースの選手たちと肌を合わせることで自然にレスリング力が上がっているわけですね。
「そうですね、レスリング力は変わったと思いますし、本当に全部の局面で、すごくいい練習ができているなと感じています」
――あとは打撃に関しても元谷選手がイニシアチブ取っているように見えました。
「打撃でああいう感じになるとは思っていませんでしたが、ジャブとかストレートとか、それ系の技でリードできましたね」
――太田選手も自信を持ってパンチを振っていましたが、実際に戦っていてどう感じていましたか。
「やっぱりガードの上からでも一発は重いなと思いましたね。ただ自分の方が打撃を当てられていて、 相手の打撃も見えていたんで、もしバチバチに打ち合っても、1発もらってしまう以外で負ける感じはないなと思いました」
――太田選手が元谷選手をコーナーに詰めて思い切りパンチを振る場面もあり、見栄えが悪いかもしれないという考えはありましたか。
「仮にガードの上からでも、距離を詰められて打撃をもらうのは、見栄えが良くないなと思いました。多分この試合で1発もクリーンヒットはもらってないし、脳にダメージをもらったかというとダメージはないんですけど、太田選手のパンチで流血しちゃったんですよね。あれはパンチをガツン!ともらってパックリ割れたんじゃなくて、グローブが擦れたかなんかで切れた感じだったんですよね。あれもダメージはなかったのですが、流血のせいで印象が悪いよなと思いました」
――では試合の展開としてはうまく進められているけど、印象が悪い部分もあるなという感覚だったのですね。
「そうですね。実際にダメージはなくても圧をかけられて(ロープやコーナーに)詰まっちゃうと印象が悪いんで。今回は常に動きながら、あまり距離を詰めさせないようにイメージしていました。でもそこは太田選手の強いところでもあるので、まああんなもんかなとは思います」
――逆に元谷選手のコンパクトなパンチも当たっていたと思いますが、手ごたえはありましたか。
「自分のパンチで効かせた感じはあまりなくて、普通に打撃を当てる・ポイントで当てる感じでした。どうしても倒そうと思って強く打ちこんじゃうと、あっちのテイクダウンがあるんで。だから最初は3Rを通して試合を考えて、太田選手に組みつかれないように、バン!と行きすぎないようにしていました」
――ダメージを与えようとしてパンチが大振りになって、そのタイミングで太田選手に組まれる。そういった展開は避けたかったですか。
「太田選手に一度いいところを組まれたら対処が遅れちゃうし、そうなるとテイクダウンを取られて相手に良い形を作られちゃうと思うんで、そこはちゃんと隙を作らず、しっかりポイントアウトして(テイクダウンを)切ってくイメージでした」
――そこも含めて細かいパンチ=真っすぐ系のパンチで試合を作っていく作戦だったのですか。
「ストレート系のパンチを使ったのは、試合直前にセコンドの堀口(恭司)選手にアドバイスされたからなんですよ。『こういう方がいいんじゃない?』みたいな感じで。それを言われるまで自分は普通に打撃をやろうかなと思っていたんです」
――それは意外でした。てっきり試合に向けてミットなどで反復練習しているものだと思っていました。
「試合前のアップで動いてみて、自分の得意なストレートの形があって、これを使おうかなみたいな感じでした。当日の動きと堀口選手のアドバイスがちょうど合って、それが作戦としてハマりましたね」
――まさに直前も直前だったのですね。
「練習の段階ではストレート系のパンチを出す感じはあんまりなかったですね。だから本当に当日、それも試合直前で決めました」
――では組みに対してはしっかり練りつつ、打撃は自分の感性・感覚で出していたという形ですか。
「でも組みも太田選手対策としてはやってなかったです。純粋にレスラーと練習してレスリング力そのものを上げてきた感じです」
――試合のインターバル中には堀口選手とどのような会話をしていたのですか。
「インターバル中に何か話したというのはなくて、自分は試合のことだけを考えていましたね。そこに堀口選手が『ストレート系がいい』、『こういうフェイントがいい』、『これが当たってるね』、『この感じでいいよ』みたいなことをアドバイスしてくれて、それを耳で聞きながら試合に集中していました」
あの形で極まりましたけど、それ以外にも自分の中で極める流れやパターンはもっとあります
――そしてRNCで決着がついた3R、スクランブルの攻防からバックを取る動きは自然に体が動いていましたか。
「あれは体が勝手に動いたというか、いつも通りの動きって感じですね」
――あの場面は元谷選手が太田選にがぶられた状態から一旦引き込むようにして、スクランブルの展開に持ち込んでバックを取る形でした。あれはATTでレスリング系の選手と練習していた成果ですか。
「レスリング系の選手と練習していると、よくスクランブルの展開になるので、例えばですけど、こういう動きが通用する・しないというのがやっていて分かるんですよね。スクランブルの動きは純粋なレスリングの動きじゃなくて、レスリングの動きに寝技の要素も入っているので、ああいう動きを練習でやりながら通用する動きが何かを覚えていく感覚です」
――まさにレスリングとグラップリングを融合させた動きでしたが、ああいった動きは元谷選手も意識しているものですか。
「やっぱりATTには強いレスラーがいるので、この部分だったらいける、この部分は厳しいというのが分かりやすい。それで自分が勝負できるところ、自分の動きの流れや組み立てが明確になってくるんです。そうやって色んな面で強化できているなと思います」
――ATTでの練習を重ねることで使えるようになった技術や技の引き出しは増えていますか。
「そうですね。自分の通用するところ・しないところは米国に行くたびに明確になってきていますね」
――そして最後のRNCは両腕を組むのではなく、ワンハンドチョークのような形で極めていましたが、あれは元谷選手の得意な形なのですか。
「ATTではみんな強いのでなかなか極めさせてくれないんですけど、日本に帰ってきて練習していると結構極まる形ですね。自分の得意な形ではあります」
――相手の首に手を回せば極められるという自信はありますか。
「今回の試合で言えば、あの形で極まりましたけど、それ以外にも自分の中で極める流れやパターンはもっとありますね」
――前回の対戦は判定勝利でしたが、今回は一本勝ち。フィニッシュして勝ったことは率直に嬉しいですか。
「すごく嬉しいですね。今回は結構早めに試合が決まって、すごくいい準備ができて。しかもフィニッシュを目指して戦っていたので、 最後の最後にフィニッシュ出来て、すごく嬉しかったです」
――太田選手は今年に入って牛久絢太郎戦、Bellatorでのロジャー・ブランク戦に勝利していて、流れや勢いは太田選手の方に分があるという見方もあったと思います。その一方で元谷選手もATTでの練習を継続して、自分の方が成長しているという手応えはありましたか。
「ATTに行くようになって、最初に行った時より2回目、2回目よりも3回目…という風に、自分自身も吸収力が上がっているというか、この試合に向けてATTで練習するなかで、たくさんのことを学ぶことが出来たんですよ。ATTで練習する回数が増えることで、環境にも慣れてきて、色んなことを吸収できるようになっていますね。
試合に向けてだけじゃなくて、年間通して練習でやる動きもあるし、そういうものが少しずつ理解できてきて。やっぱり2カ月くらいの練習で、その瞬間だけ覚えるんじゃなくて、時間をかけて身についてきたという感覚があります。だからATTに行けば行くほど、新しいことを覚えて吸収していますね」
――元谷選手としては海外の練習は短期間ではなく、回数を重ねて何度も行くことで、ようやく身になるという感覚ですか。
「どうしても2~3カ月だけ行っても、その環境に慣れるだけで終わっちゃうんですよね。やっと環境とかリズムに慣れてきたと思ったタイミングで帰国しないといけない、みたいな。だから新しいことを学ぶ余裕がないというか、身体で覚えるといったらなおさらですよね。だから1回目で海外に慣れて、そこから何回も練習に行くというのがいいと思います」
――そう考えるとATTでの練習をスタートしたことは元谷選手にとって大きな転機でしたね。
「はい。すごく変わりました。まだ全然伸びしろを感じているし、日本でやっていることとはまた違う技術というか、そういうものもたくさんあるので、これからもATTで練習を続ければ成長できると思っています」
大晦日でもいいですし、もし来年になったとしても自分はその分強くなれる
――さて次の目標としてはRIZINバンタム級のベルトになってくると思います。同じ大会で井上直樹×キム・ス―チョルの王座決定戦が行われ、井上選手がTKO勝利でベルトを巻きました。あの試合を見た感想を聞かせてもらえますか。
「やっぱり井上選手がすごく強いなと思いました。日本人でスーチョル選手に勝った選手はいないし、スーチョル選手のああいう負け方は今までなかったと思うので。しかもちゃんと顎を打ち抜いて倒して勝って、狙い通りの勝ち方だったと思うんですよ。だから井上選手も強くなっているなと思いました」
――元谷選手は2020年大晦日に井上選手に敗れているので、そういった意味でもベルトやリベンジへの想いはいかがですか。
「そうですね。僕が今目指しているものがRIZINのベルトなので、オファーがあれば井上選手に挑戦したいです。で、前回よりもいい試合して勝ちたいと思っています」
――井上選手は大晦日での試合をアピールしていましたが、元谷選手も大晦日の大舞台でベルトに挑みたいですか。
「僕は(挑戦まで)あと1戦挟むか挟まないかだと思っているので、今年の大晦日でもいいですし、もし来年になったとしても自分はその分強くなれるので、それもそれでありかなと思っています」
――元谷選手はRIZINの旗揚げ興行(2015年大晦日)にも出場していて、RIZINでのキャリアも10年近くになります。RIZINで戦うこと、RIZINでベルトを巻くことには特別な思い入れもありますか。
「2015年から出ているので、そろそろ10年ですよね。RIZINも旗揚げ当初から、すごくレベルも上がっているし、世界のトップ団体と比べてもRIZINはレベルが高いと思っています。今は顔ぶれも新しくなって、新しい力・若い世代が入ってきて、RIZINそのものも色々と変わっていくと思うんですけど、僕自身はまだまだ頑張りたいと思います」
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