【写真】青木真也との時間、タイガームエタイでの日々でどう野村が成長しているのかが確認できる試合に (C)TAKUMI NAKAMURA
14日(日)に東京都文京区の後楽園ホールで開催されるDEEP120 IMPACTにて野村駿太が泉武志と対戦する。
Text by Takumi Nakamura
昨年12月のDEEP後楽園大会で岩倉優輝にKO勝利し、約7カ月ぶりの試合となる野村。この期間はONE日本大会に出場した青木真也のトレーニングパートナーを務め、タイガームエタイでの武者修行を行うなど、試合以外の面で多くの経験を積んだ。希望するRoad to UFCへの出場はかなわかったが、将来的な海外進出を見据えてDEEP王座を目指す戦いに挑む。
これがプロとしての覚悟なんだ、と
――14日のDEEP後楽園大会で泉武志選手と再戦が決まった野村選手です。今回野村選手にインタビューをお願いするにあたって、青木真也選手が1月のONE日本大会に向けて野村選手にトレーニングパートナーを依頼していたという話をお伺いしました。青木選手とはどういった経緯でつながりが出来たのですか。
「格闘代理戦争に出ていた中谷優我が元々BRAVEで練習していて、青木さんと中谷が知り合いで。青木さんと一緒に練習させてもらいたいと思い、中谷を通してロータス世田谷に行かせてもらうようになったのが最初のきっかけです」
――トレーニングパートナーを依頼されたときは驚きましたか。
「驚きと自分でいいのか?という心境でしたね。僕は組み技を強化したいと思ってロータスに行かせてもらっていて、その中でも青木さんは特に強くて、毎回壁に当たりにいくぐらいの気持ちでずっとやっていたんです。だから自分が青木さんの相手が務まるのか不安でした」
――具体的にはどういった形で青木選手と一緒に練習すしていたのですか。
「もともとロータスには週2回行っていたんですけど、それプラス、青木さんがMMAの練習をする時にマンツーマンで5分3Rの相手を務めるという形でやっていました」
――試合に向けたトップ選手のスパーリングパートナーを務めるというはなかなかできない経験だと思います。青木選手と試合までの時間を過ごして感じたこと、気づいたことはなんですか。
「青木さんの強さはもちろん、青木さんの人間らしさみたいなところも見させてもらいました。あれだけ強い青木選手でも試合に向けて葛藤があったりとか。特にあの時は試合直前に相手が代わるという事態も起きたので…」
――私も現場で取材していたのですが、入場式に青木選手が姿を見せず、大会の途中でセージ・ノースカットの欠場とジョン・リネケルの代打出場が発表されるという異例の事態でした。
「自分は青木さんのセコンドでバックステージにいたんですけど、ちょうど開会式が始まる前に青木さんがチャトリさんに呼ばれて、帰ってきたら表情がガラッと変わっていたんです。タイミングとしては一度身体を動かし終えて、最後に試合に向けて上げていこうという段階で」
――まさかそこで相手が変わると言われるとは思っていないですよね。
「はい。まさに試合に向けて気持ちをグッと上げている途中で、そこで対戦相手が変わると言われたわけだから、それは(気持ちが)どん底まで落ちますよね。でもそこから青木さんはもう一度気持ちを作り直して(試合を)やるという決断をして、プロとしての心意気みたいなものを見させてもらいました。改めて青木さんは自分とは何倍も大きなスケールで戦っているんだなということを感じました」
――バックステージは相当混乱していたと思います。
「僕たちは青木さんとチャトリさんが話しているのを控室で待っている状態でしたが、やっぱり最初はかなり揉めていたみたいです。ただそこから交渉で折り合いをつけて、青木さんも久々の日本大会で自分を見に来てくれているお客さんがいることも分かっていたと思うので、控室に戻ってきてからは覚悟を決めた感じでした」
――対戦相手はすぐリネケルで決まったのですか。
「そこも結構大変で、すぐにリネケルが捕まらなかったみたいんです。会場にはいるけど、どこにいるかが分からない、みたいな。だからONEのスタッフが総出で『リネケルはどこだ!?』みたいに探し回っていて。ONEのようなメジャー団体でこんなハプニングはありえないですよね。
青木さんはいつも『自分は競技をやっているわけじゃない』と言っていて、それを体現する場面を目の当たりにして、自分なりに感じるものがありました。これがプロとしての覚悟なんだ、と」
――その一方で試合に向けた青木選手の競技者としての取り組みに触れたことも大きかったと思います。
「めちゃくちゃ勉強になりました。僕はとりあえず練習して覚えるくらいの気持ちでやっていたんですけど、青木さんは次の相手に対して自分がどう戦うかを考えたうえで、そこに必要なことを練習されているんですね。
今回僕がパートナーに指名されたのも、僕がノースカットに似ていた部分があったりもして。青木さんが八隅(孝平)さんたちと試合でこうしていくというのを煮詰めて、自分もなるべくそこに近づけられるよう心掛けていました。試合に勝つためにはこういった練習への取り組みが大事なんだなと思いましたね」
――青木選手と過ごした期間を経て、今はどのようなことを意識して練習されているのですか。
「ロータスに行き始めて約1年、青木さんのトレーニングパートナーを務めさせてもらった期間が約半年になんですけど、青木さんと過ごした半年を終えて、練習に対する本気度が変わりました。今までも遊びでやっていたわけではないのですが、練習時間になったら練習場所に行って、決まった時間の練習をするという感覚はなくなりました。
明確に自分がやるべきこと、そして自分がこうなりたいというものを見つけられたというか。実は青木さんにスパーリングパートナーをお願いされた時くらいに、青木さんに『海外に(練習に)行った方がいいよ』とアドバイスされていて、青木さんの試合が終わってタイのタイガームエタイに行ったんですよ。あっちは泥臭い感じの選手しかいないというか、良くも悪くも自分が成功すること以外は考えていないような選手が世界中から集まってくるんですね。
そういう選手たちと練習することで、僕自身も格闘技で成功するんだという気持ちが強く芽生えたし、そのために他の選手よりもたくさん試合をするとか、他の選手がやらないようなキツイ練習をやるとか、そういう考えになりました」
――タイガームエタイは世界中からMMAファイターが集まるジムですが、どんなスパーリングをしてきましたか。
「スパーリングは5分5Rくらいしかやらないんですけど、トップにいく選手は最初から最後までやるし、試合前の選手はスパーリングでも自分だけ思いっきり殴ってくる選手もいます(苦笑)。最初は僕も相手に合わせちゃうところがあって、今日の相手はレスラーなのかな、ストライカーなのかなと思いながらやっていたんですけど、そうやって相手に合わせるのは意味がないなと。途中からはどんな相手でも自分のスタイルを押しつけるようにしようと思いました」
――いい意味でここからさらに上に行きたいという選手が練習するジムなので、みんなギラギラしているでしょうね。
「そうですね。例えばスパーリングでちょっとでも引いて『あいつはダメ。練習にならない』と思われたら、全く相手にしてもらえないんで。なかには自分よりも弱い相手ばっかり選んで練習する選手もいましたけど(苦笑)、基本的にはレベルの高い者・強い者同士でバチバチにやり合うスタイルでした。で、そういうスパーリングを続けていると『また練習やろうぜ』みたいな感じになったり、街中でも話しかけてくれるようになったり、ちょっとずつお互いを認め合う感じでした」
――ちなみに著名な選手も、練習相手にはいましたか。
「自分あんまり人の名前を覚えられないんですけど(笑)、NAIZA FCのタイトルマッチを控えている選手やウズベキスタンの選手たちと練習してきました」
タイトル挑戦に繋がる試合ということだったので
――野村選手にとっては青木選手のスパーリングパートナーからタイガームエタイでの武者修行までがワンセットとして意味があったようですね。そして昨年12月以来、約7カ月ぶりの試合が決まりました。
「自分の方向性としてRord to UFC(RTU)を目指していて、RTUに参戦したいという希望は出していました。それも見越してタイガームエタイに行って。ただ今年はライト級でトーナメントが行われないということになって、ワンマッチの話もあったんですけど、ヤン坊(雑賀達也)選手がパンクラスでタイトルを獲ったばかりということもあって、そっちに決まりそうだと。
もし自分にワンマッチのチャンスがくるとしたらトーナメントの準決勝以降になるということだったので、それだったら試合間隔が空くよりも、今年はDEEPでベルトを獲って来年に備えようと思いました」
――目の前でベルトの有無でチャンスが来るかどうかの場面に出くわしたわけですね。
「はい。今年出ている選手や過去に出ている選手たちの顔ぶれを見ると、やっぱりベルトを巻いているかどうかが大事で、今の自分にはそこが足りないと思いました」
――対戦相手の泉選手とは2022年7月に対戦していて、野村選手が判定勝利していますが、あれから5連勝してタイトル戦線に浮上してきました。
「泉戦がタイトル挑戦に繋がる試合ならやる、そうじゃないとやらないという考えがあったのですが、タイトル挑戦に繋がる試合ということだったのでやろうと思いました」
――対戦相手としては泉選手にはどんな印象を持っていますか。
「レスリングの実績がある選手で、5連勝しているというところで、最後に勝ちきる力があると思います。対レスラーという部分ではBRAVEでたくさん練習していますし、対策も立ててはいるんですけど、相手がこっちに合わさざるをえない、そういう自己中というか自分の試合をしたいです」
――この間の練習で試合に対するマインドも変わりましたか。
「強い選手は全員そうなんじゃないですかね。あとはどのポジションでも自信がついてきたから、そういう考えになってきたのかもしれないです。とにかくこの試合にしっかり勝って、江藤(公洋)さんにリベンジしてベルトを巻きたいです」
――今はDEEPのベルトを巻くことが一番だと思いますが、その先には海外の大会に出ていくことが目標ですか。
「自分は昔からそういう考えですね。日本の団体に興味がないということではなくて、自分が目指すのは強い選手がいるところに行って戦う、なので」
――BRAVEの選手は海外で戦っている選手も多いですが、そこから刺激を受けることもありますか。
「すごく刺激になりますね。それこそ僕は原口伸とパンクラスに出ている望月貴史の3人でBRAVEの寮に一緒に住んでいた時期があったし、原口央と伊藤(空也)さんもジムに住み込みみたいな感じだったんです。そういう時間を過ごした仲間が先に海外の団体で試合しているので、自分もそれに続きたいという想いがありますね」
――では、今回の泉選手との試合。改めてどのようなファイトを見せていきたいですか。
「自分はもっと上で、海外で戦いたいので、みんなが認めてくれるような、野村だったらいけるなと思われる試合をしたいです。今ライト級は日本人が外国人に勝てない、海外に出ても勝つことが難しい状況なので、自分だったらいけるという試合を見せられたらと思います。あとはUFC本戦やRTUでも、結果を出している日本人はレスリング出身の選手が多いじゃないですか。僕は空手出身・ストライカーとして、そういう選手たちも倒していきたい。今回は自分にそれができることを見せる試合にしたいと思っています」
■視聴方法(予定)
5月26日(日)
午後5時45分~U-NEXT, サムライTV, YouTube DEEP/DEEP JEWELSメンバーシップ