【写真】オクタゴンで、しっかりと勝てる。素晴らしいことだ(C)Zuffa/LCC
過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura
大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は水垣偉弥氏が選んだ2023年9月の一番──9月23日に行われたUFN228:UFN on ESPN+86「Fiziev vs Gamrot」での魅津希×ハナ・ゴールディ戦について語らおう。
――今回水垣さんにはUFN228での魅津希×ハナ・ゴールディを選んでいただきました。
「魅津希選手は約3年のブランクがあって復帰戦が組まれて、UFCなので相手のレベルも高いですし、大変な状況だったと思うんですけど、本当にいい勝ち方をしたと思います。UFCにおいて日本人がなかなか勝てないという状況が続いている中で、同じ日本人としてうれしい勝利でしたね」
――僕も試合を見ていて、ブランクを感じないほど序盤から身体が動いていたと思いました。
「すごく動きが良かったですよね」
――それだけ準備が出来ていたということでしょうか。
「UFC PIも利用してリハビリに向けたサポートをしっかり受けることが出来たのが大きいんじゃないですかね」
――結果的に時間をかけて治療、リハビリ、練習したうえで復帰したことがよかったのかもしれませんね。
「特に彼女の場合は小さい頃から格闘技をやっていて、年齢と比較して競技生活が長いと思うんですよ。それで細かい怪我も多かっただろうし、一度しっかり休んで怪我を治すことが出来たのは、これからに向けても大きなことだったと思います」
――技術的な部分についても聞かせてください。1Rはテイクダウンを狙うゴールディを首相撲でコントロールしたり、組みの攻防にイニシアチブをとっていました。
「あの首相撲もそうですし、自分殻をワキを差してゴールディにケージを背負わせたり、レスリング力がかなり向上しているなと思いました。下になる場面は2Rに1回あったぐらいで、あの時もすぐにスクランブルを仕掛けて、立ち上がっているんですよ。それまでの魅津希選手は打撃が出来て寝技も強いタイプで、テイクダウンされると下から勝負することを選択することが多かったと思うんです。でも今回は下になっても立つ、上を取り返すという意識が強くなっていて、MMAファイターとしての進化を感じました。ただ怪我を治して元の状態に戻って復帰するのではなく、それにプラスアルファで自分に足りなかった部分を補ってきたんだなと思いました」
――フィニッシュを狙う印象が強かった魅津希選手のMMAファイターとしての進化が見られた試合ですね。
「そうですね。やはりこういう戦い方ができると判定を拾いやすくなるので、判定も拾えてフィニッシュも狙える。それが出来るようになるんじゃないかなと思います」
――判定はジャッジ3名が29-28ながら、どのラウンドにポイントを付けるかがばらつきました。これについてはいかがでしょうか。
「僕は30-27でもいいかなと思いました。強いて言うなら2Rに一度グラウンドで上を取られましたけど、逆に上を取り返していますし、僕は完勝と言っていい試合内容だったと思います」
――今回の試合に限らず、魅津希選手のファイターとしての長所はどこでしょうか。
「すごくファイトIQが高い選手だと思います。スタンドでは細かいフェイントをかけるのが上手いですし、抑えるべきところをしっかり抑えて戦っている。ちゃんと相手を研究して戦って、試合を作ることが出来ますよね。唯一懸念していたのが、先ほどのグラウンドで下になった時にスクランブルを仕掛けるのではなく落ちついてしまうところだったので、そこはまさに改善されつつあると思います。
あとはフィジカルですね。今回の対戦相手はめちゃくちゃゴツくて、ちょっと力負けするんじゃないかと思っていたんです。そういう相手にも力負けしていなかったことも進化の一つですよね。あと僕は村田夏南子選手の存在も大きいと思っていて、村田選手のレスリングとフィジカルは世界に通用するものですし、一緒に練習していることがかなりプラスになっていると思います」
――これまでNYのセラ・ロンゴ・ファイトチームで練習していた魅津希選手ですが、この1年は日本を練習の拠点とし、山﨑剛代表のリバーサルジム新宿 Me,Weをべースに村田選手、CUTEで上田将勝さんと練習していたそうです。
「基本的に山﨑さんのもとで練習しつつ、村田選手と対人練習して、上田さんから細かいレスリング技術を教わって、そういう取り組みが出た試合だと思います。あと僕が『月刊、水垣偉弥のこの一番』に選んだ一番の理由でもあるんですけど、練習でやってきたことをちゃんと3年ぶりの試合でも出せるというところですね。それは彼女が持っているセンスであり、試合勘の良さなのかなと思います。
どれだけ練習で出来ていても、無鉄砲にいくだけだったら試合で出せないと思うんですよ。しかも魅津希選手の場合は新しい技術を学んだうえでの試合で、本番で今までやってこなかったことを出すのは簡単ではないし、それを3年ぶりの試合で一発で出してくるところはさすがだなと思いました」
――それも一つの才能であり、センスですよね。
「一言でそう言ってしまうと、乱暴ではあるんですけど、試合になった時に落ちついて戦えるメンタルなのか。普通は練習で出来ていても試合で出せない選手の方が多いと思うんですよ。でもそれが出来てしまう、しかも復帰戦で出来てしまうというのは………やっぱりセンスなのかな(笑)。いずれにしても魅津希選手の中で、動きの感覚みたいなものがあるのだと思います」
――ちなみに魅津希選手の2週間後に復帰した村田選手の試合(ヴァネッサ・デモパウロスに判定負け)はどう見ましたか。
「僕は率直に試合を見終わったときに判定負けしたと思いました。最近のUFCの傾向としてトップを取っていてもキープだけでは評価されない。もう少しトップを取ったところで殴って攻勢を印象付けていたら判定も違っていたと思います。実際に3Rはそれが出来ていたと思うし、2Rはデモパウロスのガードポジションからの攻めの方が村田選手のトップキープよりジャッジの印象がよかったですよね。ただこれは技術的に劣っていたわけではないし、試合中の意識を変えればいいだけだと思うんですよ。
あとは先ほどの魅津希選手とは逆で、村田選手のステップワークやフェイントのかけ方が魅津希選手とそっくりだったんですよ。お互いにお互いが足りないところを補い合っていて、この」2人はすごくいいチームだなと思います」
――まだ練習を始めて1年とは思えないほど息が合っていますよね。
「はい。今回2人に事前にインタビューさせてもらったのですが、その時もすごくいい雰囲気だったので、今後どういった形になるかは分かりませんが、一緒に切磋琢磨して強くなって欲しいです」
――2人はこのままラスベガスに残って一緒に練習するとのことです。
「2人ともUFCでトップを狙えるポテンシャルを持っていると思うので、これからの2人の活躍には期待しています」
――ちなみに水垣選手は海外で長期合宿を行ったことはあるのですか。
「僕はジェフ・カランのジムに一カ月間半ほど行ったのが最長ですね。DJ.taikiさんとマキシモ・ブランコと相部屋という強烈なメンバーでした(笑)」
――日本と米国の練習環境、水垣選手はどのようにお考えですか。
「どちらを拠点に置くかは人それぞれだと思うのですが、僕の場合は日本の慣れた環境で練習する方が合っていましたね。海外で練習すると、良くも悪くも格闘技しかやることがないので、それがストレスになっちゃうので。あとは日本で出来ないなら海外でやるしかないと思っていたのですが、フランキー・エドガーの練習を見たときに、彼は自分で各分野の専門のジムに足を運んで練習してたんですよ。
マーク・ヘンリーに打撃を教わって、ヘンゾ・グレイシーのジムで組み技をやって、大学でレスリングをやって、ヒカルド・アルメイダのジムでMMAのスパーをやって、と。米国の選手がみんなメガジムで練習しているわけではないですし、エドガーの練習スタイルを見たときに、これだったら日本でもできることがあると思って、僕は日本で練習することを選びました。もし僕が米国で練習するなら、日本と米国を行き来せずに完全に米国に住んで拠点を変えます」
――日本と米国どちらがいいというわけではなく、自分に何が必要かを見極めて、取捨選択することが必要ということですね。
「そう思います。僕は自分に何が足りなくて、どこでそれを学べばいいかを考えることも才能やセンスだと思っていて、魅津希選手はそこも優れていると思います。試合で何をやるかだけでなく、試合に向けて何をやるか、試合のためにどんな準備をするか。自分の練習環境をどう整えるのか、どう普段のスケジュールや試合前のスケジュールを組み立てるのか。そういう部分まで意識して練習をすることが求められると思いますね」
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