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Bu et Sports de combat Interview ゼリム・イマダエフ ブログ ミシェウ・ペレイラ 岩﨑達也

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。ペレイラ✖イマダエフ「理屈でなく乗り」

【写真】パンチが当たるのも、余計な動きをしているから?!(C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑氏とともに見てみたい。

武術的観点に立って見た──UFN176におけるミシェウ・ペレイラ✖ゼリム・イマダエフとは?!


──無駄に動いたり、ドタバタすると質量は落ちるということですが、ミシェウ・ペレイラほど無駄な動きをする選手はいません。その辺りで、彼の質量というのはどういうものなのかと。

「確かに無駄な動きは多いです(笑)。それはね、多いに結構なことです」

──そうなのですか? バック宙をしたり、ダブルレッグで肩を抱えてケージを蹴ってスラム、コークスクリューをしてパスを狙ってバテてしまうこともあります。

「アハハハ。今回の試合も胴回し回転蹴りをして、背中から落ちていましたね。全く、する必要がない動きを。基本、最初の質量はイマダエフの方が上でした。パンチで入る人の特徴として、イチ・ニ、イニ・チのリズムで戦っていて。でも、結果的にイマダエフはボクシングだけでした。

ボクシングからムエタイ、キックで成功することって余り例がないのですが、ムエタイからボクシングでは成功例があるじゃないですか。人間は手足を使うようにできているのだからだと思います。試合で蹴りを使う必要はないですが、蹴りを使えないと蹴りを持っている相手を殴ることはできないです。

マクレガーも関節蹴りや、ミドルを使い、そこからパンチで倒すようにしています。質量もそうですが、両手しか使えない人が両手・両足を使える人と戦うと、間違いない距離は両手・両足が使える人の距離になります。その典型的な試合でした。イマダエフもボクシングしかできなくて、UFCまで来るなんてことはないと思います。でもテイクダウンにも行かないし、ボクシングだけで戦っていました。それではUFCでは勝てないです、厳しかったですね」

──質量でいうと最初はイマダエフだったのが、どの辺りでペレイラの方が強くなっていったのでしょうか。

「開始直後2分ぐらいは大人しかったです。1Rの後半に蹴りの間合いから右が入ったり、後ろ蹴りを入れるようになりました。キックボクシングではないフルコン系の蹴りを生かしていましたね。MMAのように組みが入ってくると、キックボクシングやムエタイのように蹴って・蹴り返すというリズムの攻防には余りならないですよね。対して、ペレイラはカポエイラの蹴りを使っていましたしね」

──ただし、無くても良い動きもします。

「アハハハハ。それは本人に聞いてくださいよ。ただし、私の経験でいえば『こういう蹴りを身につけたから、試合で使うぞ』なんていう気持ちでいると、上手くいかなかったことが多かったです。だからペレイラのようなノリでやっている時の方が決めるような。

その実、色々とペレイラがバタバタやっているのも余裕があるからできているわけですし。余裕がなければ、ああいうことはできないです。無駄な動きはしていますが、2Rでも差し際にヒザを入れて、しっかりとコントロールもできている。際の打撃も理想的なことをしていました。

蹴りが入り始めると、もう初回の中盤から間は全てペレイラです。イマダエフは何もできなかったので。ペレイラからすると、もう好き勝手にやっていました。胴回し回転蹴りで背中から落ちても、イマダエフが何もしないで待っていましたしね。フルコン空手ですら、あの展開で残心を決めると技有りになるというのに。あのチャンスに動かなかった。

ペレイラはブレずに好きにやっていたから……跳んだり、回ったりした結果、上手くいった感はあります。何度も言いますが、イマダエフがボクシングだけやっている限り、胴回し回転蹴りやカポエイラのような蹴りを使っている相手に対しては動けなくなり、そんな状況だとパンチも被弾してしまいます。彼のボクシングは相殺されてしまったのです、間を失うことで」

──岩﨑さんの教え子が、「先生、僕は楽しい試合がしたいんです」といってバック宙や前転を試合中にしていると、どうしますか。

「放っておきます(笑)。それで良い時もあるからです。一番いけないことは、習ったことをやろうとすることです。習ったことが自分の指揮系統のなかに入って、考えることなく使っているなら構いません。そうでないのに使おうと意識することで、居着きます。先生に習ったから使おうと思うなら、使わない方が良いです。

車を運転するときに、バックミラーやドアミラーを確認する。それは自分の指揮系統にあって、安全に車を運転するためにです。それがね、横に教官が乗っていて見ないと怒られるからミラーを確認しているようじゃ、運転なんてできないということですよ」

──なるほどっ!!

「ペレイラは誰の指示も受けず、自分でアレをやっていたんです。今、私もセコンドに就く時は『何かをやらせる』という意識はないです。何が起こっているのかを見るためにいる。相手の腹が効いているのに、気付いていないなら『腹を攻めろ』と指示を出します。指示というのは、後付けで良いと考えています」

──宙返りも?

「ハイ。ペレイラのバック宙はありなんです。ケージの中に入った時、選手は練習のときのように思った通りに動けないですよ。そして試合中に我が身に起きる、あの緊張は練習では経験できないです。だからこそ、試合になった時に大切なのは理屈ではなくて、心の持ちようなのです。ノリとかヴァイブスです。ペレイラはそういうヴァイブスなんです。

あんなことをしているから、脳で考えて動いているじゃない。だからヒザもパンチも入る。脳で考えて動く、それでは遅いんです。打つ、蹴るという意識の先に動かす。松嶋こよみがインドネシアでキム・ジェウォンに勝った時は右を打って、左で倒そうとしていました。そうしたら、無意識の右が当たった。そういうことなんだと思いますよ、ペライラのヒザも。

ペレイラは何に依って戦っていたのか。ノリなんです。それが一番怖いんです。ノリすぎると、グラウンドの相手にヒザを入れて反則負けになってしまいますが(※ディエゴ・サンチェス戦)。あのタイプの選手は上手く行った時と、失敗した時の差は激しいと思います。ただし、あんなことは5分✖3Rですら持たないのに、5分✖5Rでは絶対にできないです。仮に世界戦まで辿り着き、カマル・ウスマンを相手に宙返りをするなら、もう国民栄誉賞です(笑)」

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Report UFC UFN ESPN+34 UFN176 ゼリム・イマダエフ ブログ ミシェウ・ペレイラ

【UFN176】バック宙封印も、ショータイムキック&パンチ、掌底とペレイラワールド爆発。最後はRNC葬

<ウェルター級/5分3R>
ミシェウ・ペレイラ(ブラジル)
Def.3R4分39秒by RNC
ゼリム・イマダエフ(ロシア)

ステップを使い、左右に動きつつ左フックを伸ばしたペレイラ。さらに右ストレートを当て、いつものような無駄かつ彼にしかできない動きは抑えている。イマダエフは右をかわされ、左ローを蹴る。ペレイラはスイッチして前蹴り、さらに左リードフックを届かせる。と、ケージを蹴ってパンチを見せたペレイラが着地と同時に首相撲&ヒザをイマダエフの顔に届かせる。さらに右ストレートを当てたペレイラは、ケージを蹴ってショータイムキックへ。ノーガードで挑発されたイマダエフだが、ジャブを被弾しワンツーを受けそうになる。

ワンツーで腰が落ちたイマダエフに対し、スピニングバックキックを腹に入れたペレイラはワンツーを続け左ミドル。イマダエフが右ローを返すが、最後の10秒で横を向いて踊るようなステップから蹴りを入れたペレイラが初回をリードした。

2R、ワンツー、ヒザを入れたペレイラ。その間にカウンターを当てたイマダエフだが、前蹴りで突き放される。跳びヒザのタイミングで蹴りを受け、姿勢を乱したペレイラはキャンバスに手をついてカポエイラのような蹴りを見せる。ここから左右の前蹴りを腹に入れ、左フックをペレイラがヒットさせる。前転して背中から落ちるヒールキックを見せたペレイラ──気分が上がってきたのか、それともスタミナに自信があるのか。

イマダエフはクリンチからケージへ、ペレイラはヒザを入れて離れる。と、アッパーからイマダエフがパンチをまとめてくると一転、ボディショットを打ち抜いたペレイラが飛びヒザ、ワンツーとポイントを挽回する。さらに右、左と入れたペレイラが左ミドル、右ロー、最後もワンツーフックから左ボディフックを決めた。

最終回、イマダエフが右カーフ。距離を取ったペレイラが前蹴りからローを蹴る。左ジャブ、右ストレート、再度ジャブを入れたペレイラは、イマダエフの左側に回り込んでジャンプ。ケージを蹴ってパンチを打ち、タッチダウン後はヒザ蹴りへ。さらにケージを蹴ってスーパーマン掌底を当てる。その掌にキスをして、再び掌でイマダエフの顔面を張ったペレイラが笑顔を浮かべる。

イマダエフのパンチをサークリングかわし、右ボディフック、左三日月とペレイラが試合を掌握し続け、体を左右の大きく振り、右フックを打つなど全く動きが落ちない。右フック、左ジャブ、プレッシャーを高めて左フック、掌にキスを繰り返すと右ストレートを当てる。

ロー以外の攻撃は当たらないイマダエフは、下を向いたペレイラに手を出すことができない。と、イマダエフのステップインに組みついたペレイラはバックに回りリフトからテイクダウン。そのままバックを取り、両足をフックする前にRNCへ。掌で額に触れたイマダエフを見てレフェリーが試合をストップ。

正確にはタップではないタイミングだったが、観念したかのようにイマダエフはレフェリーの判断を受け入れた。バック宙や旋回パスなど、極端な動きを控えつつも自らの世界観を貫いたペレイラが見事な一本勝ちを手し、「ファイトになれば、打撃でもグラップリングでもミュージックに合わせてダンスするだけだ。次? ホルヘ・マスヴィダルだ」とインタビューで笑顔を見せた。