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【ADCC2024】レポート─03─素晴らしき、G-World!! ミカがホシャを下しスーパーグランドスラム達成

【写真】(C)SATOSHI NARITA

8月17日(土・現地時間)と18日(日・同)の二日間にわたって、ラスベガスのT-モバイルアリーナにて、世界最高峰のグラップリングイベントであるADCC世界大会が行われた。今年は既報のように、破格の賞金100万ドルを掲げて日時と場所をあえて重ねて開催してきた対抗団体クレイグ・ジョーンズ・インビテーショナル(CJI)に多くの有力選手を奪われた形となった。レビュー第3回は、元チームメイト同士にして、22歳もの年齢差対決となった77キロ以下級の感動の決勝戦と、3位決定戦の模様をレポートしたい。
Text by Isamu Horiuchi

<77キロ以下級決勝/20分1R・延長10分>
ミカ・ガルバォン(ブラジル)
Def.19分05秒 by RNC
ヴァグネウ・ホシャ(ブラジル)

以前はマイアミのファイトスポーツにて一緒にトレーニングをしていた、親子並に年齢差のある二人。42歳のホシャが笑顔で両手を大きく広げると、20歳のミカも笑顔で歩み寄り両者はハグ。しばらくそのままの体勢で言葉をかけ合った両雄だった。

スタンドの探り合い。足を飛ばすミカ。ホシャが前にドライブすると、ミカはあまり抵抗をせずに倒れてクローズドガードを取った。

ハイガードを取るミカに対して、ホシャはその体を持ち上げ、ガードをこじ開けにかかる。ガードを解いたミカは下から足を絡めると、やがてホシャの左足を引き出して肩に抱える形を作る。が、ホシャは冷静に右足をミカの頭側に移動して足を引き抜いた。

その後も下から足を絡めるミカと、上からそれを捌くホシャという展開がしばらく続くが、6分過ぎにホシャが距離を取ったところでミカも立ち上がり、試合はスタンドでの探り合いに戻った。


7分近く。 ホシャが高めのダブルで前に出るとミカは瞬時に左でワキを差しながら支え釣り込み足。天才的な反応とタイミングで見事にホシャを舞わしてテイクダウンを奪い、サイドに付いたのだった。

さらにマウントを狙うミカだが、かろうじて左足に絡んだホシャは距離を作って立ち上がった。

その後はまたしても両者のスタンド戦となり、やがて10分が経過して試合は加点時間帯に突入した。

額をミカの額に擦り付けて押してゆくホシャは、左でワキを差す得意の姿勢を作る。さらに前に出ながらの小外刈りでミカを豪快に倒すホシャ。

が、ミカは倒された瞬間に右足でホシャの体を跳ね上げて立ち上がると、スクランブルを試みるホシャの背中に、まるで猫の如き俊敏さで飛びついてみせて、あっという間にフックを入れて3点を獲得してみせた。この動きもまた、尋常ならざるものがある。

さらにパームトゥパームで首を絞め上げにかかるミカ。ピンチと思われたホシャだが、後ろに倒れ込むと同時に体を捻って、チョークを振り解いて正対することに成功。

凄まじい攻防に大歓声が上がるなか、ミカのオープンガードの上になったホシャは、なんとも言えない味のある笑顔を作ったのだった。

ここから下のミカと上のホシャの攻防が続いた後、ミカが立って試合はスタンドに戻った。お互い何か言葉を掛け合い、時に笑顔を見せながらも厳しい組手争いを続ける両者。先程の攻防がリバーサルとして評価されたのか、ホシャにも点が入りポイントは3-2となっていた。

12分過ぎ、しきりに差しの体勢を狙うホシャが両ワキを差しにゆくと、ミカはすかさず外掛けでカウンターしテイクダウン。

動きを止めずに立とうとするホシャだが、ミカは再び素早く背中に飛びつきシングルフック。

が、ホシャは腰を上げてミカを前に落とすことに成功した。

上になったホシャは圧力をかけての侵攻を試みるが、ミカの強靭な足と上半身で作るシールドをフレームに阻まれる。やがて残り4分半の時点でミカが立ち上がった。

ここまで見事な攻撃で見せ場を作っているのはミカだが、点差はわずか1点と一瞬で逆転可能だ。どんどん前に出るホシャは左でワキを差すと、ミカが払い腰でのカウンターを狙う。しかしホシャの体は崩れず、すっぽ抜けてミカが下に。ミカはすぐさま立ち上がってみせた。

無尽蔵のエネルギーを誇るホシャはさらに前進を繰り返し、ミカの頭を両手で掴んでは下げさせにかかる。が、スタミナ十分のミカはそれを許さず、積極的にホシャの足に手を伸ばしてゆく。両者気力充実、一つのテイクダウンが勝敗を分けるスリリングな攻防が続いた。

残り2分。首を抱え合った状態から、おもむろに頭を下げて右手を伸ばしたミカは、内側からホシャの左カカトを掴んでピックしてバランスを崩したと思いきや、次の瞬間背中に回ってそのままフックを完成して6-2。凄まじい動きで決定的なポイントを奪うと、すぐさま深く左腕を食い込ませ、残り1分のところでホシャからタップを奪ってみせたのだった。

大歓声が上がるなか、体を起こしたホシャの肩に顔をうずめるミカ。

親子ほども年齢差のある両者は健闘を称え合った。

やがてホシャはミカの父にしてセコンドのメルキ・ガルバォンと抱き合い、ミカはホシャの盟友にして古巣ファイトスポーツの主であるサイボーグことホベルト・アブレウとハグ。さらにミカはガールフレンドであり、今年のパリ五輪女子フリースタイルレスリング68キロ級にて、米代表として金メダルを獲得したアミット・エロアとも抱き合ったのだった。

念願のADCC初制覇にして、2024年度スーパーグランドスラム(IBJJFユーロ、パン、ブラジレイロ、ムンジアル、ADCC全制覇)達成を果たしたミカは「すごく長い旅だったよ。僕の周りにいてくれた人たちなら、ここまで本当に何が起きたかを知っているんだ。ただこの大会に出られたということだけでも僕には大きな意味がある。2022年(のADCCでは、結果が準優勝で終わって)からADCCタイトルを取るためにずっとやってきた。このイベントに感謝したい。そして来てくれたみんなにもね。感謝したいのはまずダッドだ。僕はときには、あなたに相応しいような息子じゃないのは分かっている。でも約束するよ、これからベストを尽くして、あなたが育てようとしていたような息子になるから。(ガールフレンドのアミット・エロアに向けて)ベイブ、本当にありがとう。君はオリンピックで優勝したばかりで、時間をとってここにADCCを見にきてくれた。僕のハートの全ては君のものさ、僕は本当に恵まれているよ」とコメントを残した。

準決勝では思わぬ大苦戦を強いられた──判定に「救われた」とすら見えた──ミカだが、絶妙のタイミングとスピード、卓越した反応から繰り出されるテイクダウン、そして目にも止まらぬスピードと高い精度を兼ね備えたバックグラブは、組技を見る者に至上の喜びを提供してくれる。

選手の活躍する舞台が多様化するとともに、ときに自由な行き来が困難な場面も出てくるのが昨今のグラップリング界だ。それでもファンとしては、今回世界を獲ったミカと、CJIで輝いたルオトロ&タケット兄弟、リーヴァイ・ジョーンズレアリー、そしてタイと初戦で激闘を繰り広げた超エリートレスラーにして、後日グラップリング転向を表明したジェイソン・ノルフらの対戦の実現を心待ちにしたい。

また、強力なレスリングベースを持つ同士の3位決定戦となったPJ・バーチ対エライジャ・ドロシー戦では、ドロシーが自ら座って下からの勝負を挑んだ。一度腕ひしぎ腕固めでバーチの左腕を伸ばしかける等の見せ場を作ったドロシーだが、それを抜いたバーチは準決勝でミカからパスを奪いかけたのと同様の3点倒立の形を作ると、右ヒザをスライドしてパス。

さらにマウントを奪って見せたが、これは加点開始前。

やがて加点時間帯に入ると、ドロシーが立って勝負はスタンドレスリングに。ドロシーがシングルに入るが、それを切ったバーチが逆に深くシュートイン&ドライブする。

ドロシーは倒されながらアームインギロチンに入るが、バーチが首を抜き2点を先制した。

その後ドロシーの下からの仕掛けをしっかりワキを締め、また胸を密着させて防ぐバーチは、ドロシーが最後の望みを賭けて外ヒールを仕掛けてくるも、余裕の表情を見せる。

極めることに気を取られているドロシーの左足をクロスで捉えたバーチは、逆に一瞬で内ヒールで切り返して9分44秒、鮮やかな一本勝ちを収めた。

昨年はJTに殊勲の星を挙げるも4位に終わったバーチ。今年は準決勝でミカに限りなく勝利に近い判定負けを喫したものの、見事な3位入賞。 10thプラネット随一のレスリングベースを持つ男は、歴戦を重ねるなかで極め力と勝負勘、そして世界屈指と言っても過言ではないほどのパス技術を磨き上げ、34歳にして世界最強のグラップラーの一人へと成長した。

【リザルト・77キロ以下級】
優勝 ミカ・ガルバォン(ブラジル)
準優勝 ヴァグネウ・ホシャ(ブラジル)
3位 PJ・バーチ(米国)

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【CJI2024】レポート─01─80以下級、岩本健汰&ジェセフはハルクに逆転負け。タイもまさかのQF敗退に

【写真】岩本は階級上のマルチワールドチャンピオンに大健闘。ジョセフも勝利を手中に収めていたかと思われたが、バルボーザの壁は厚かった。そして、タイ・ルオトロがまさかの準々決勝に敗退に(C)SATOSHI NARITA

16日(金・現地時間)と17日(土・同)の二日間にわたって、ラスベガスのトーマス&マックセンターにて、グラップリング大会クレイグ・ジョーンズ・インビテーショナル(CJI)が行われた。
Text by Isamu Horiuchi

長年グラップリング大会の頂点に君臨してきたADCC世界大会に対抗し、「選手により多額の賞金を」という志のもと、組技系イベントとしては超破格の優勝賞金100万ドル(約1億6千万円)を用意、あえてADCC世界大会と同時期に同じベガスでぶつける形で行われたこの大会。レビュー第1回目は80キロ以下級前半ブロックの準々決勝までの戦いをレポートしたい。

第1試合に早くも優勝候補筆頭のタイ・ルオトロが登場。

NCAAディビジョンIレスリングで三度王座に輝き、一昨年昨年とフリースタイル全米王者でもあるジェイソン・ノルフと対戦した。この超大物レスラーに初回からタイが立ち技で真っ向勝負を挑み、ノルフが受けて立つ白熱の展開に。


ルーカス・バルボーザから初回先制の岩本、これだけも快挙

2Rにノルフが豪快なダブルレッグを仕掛けると、タイは倒される勢いを利用してノルフを背後に放ってスクランブルして上からがぶる体勢に。そこからサイドバックに移行したタイがクルスフィクスを狙う。

と、ノルフは体をリフトしたまま立ち上がり、傾斜壁に投げつける。

が、タイはそのまま横三角をロックオン。

強烈に絞め上げるがノルフはラウンド終了まで耐えてみせた。

3R、ノルフはタイのテイクダウンからのスイッチを力でねじ伏せる形で上に。

タイはここから、下からバギーチョークを試みる。

さらにハーフからヒザ十字に入って、ノルフの足を伸ばし切ってタップを奪った。

超弩級レスラーにレスリングで挑み、跳ね返されても極めを仕掛け続け、最後に仕留める。まさに千両役者ぶりを見せつけたタイは「相手誰であろうが、テイクダウン、パス、サブミッションを狙う。それが俺のスタイル! 自分から引き込むことは絶対にないよ!」と会心の笑顔で語った。

第2試合では豪州の技師リーヴァイ・ジョーンズレアリーが登場。ユニティ柔術で磨き抜いたベリンボロ・ゲームに加え、母国の足関節の第一人者ラクラン・ジャイルズと練習を重ねたリーヴァイは──やはり彼の試合としては、定石通りすぐにシッティングへ。

さらに定石その二──通りに、デラヒーバガードの態勢に入りレッグライドを狙う。

1度、2度と反応したヒメネスだが、攻防のなかでリバースデラヒーバに取ったリーヴァイが内回りからサドルを組んでの内ヒールをセットする。

RNグリップに切り替えたリーヴァイが、初回でIBJJFノーギワールズ無差別級界王者ロベルト・ヒメネスを仕留めてみせた。

第3試合には、主催道場B-teamの主要メンバーでもある日本の岩本健汰が登場。世界柔術を二度制し、2022年ADCC世界大会でも88キロ以下級で準優勝、ムンジアルとノーギワールド通算5度制覇という超大物ルーカス・バルボーザと対戦した。

ハルクのニックネームを持ち、階級上の筋肉獣に立ち技で挑んだ岩本は、果敢にダブルを仕掛けるがスプロウルされてしまう。バルボーザはそこからグリップを組み替えて岩本の右足をクレイドルで捕獲して崩すと、上のポジションを奪った。

バルボーザは重心低くしてボディロックパスを仕掛けるが、岩本も凌いで距離を作る。やがて足で隙間を作ってレッスルアップして立ち上がることに成功。

さらに右腕でワキを差した岩本は、ニータップを仕掛けて巨体を崩してのテイクダウン。

立ち上がったバルボーザのバックに付いた。バルボーザの前転に離れず付いていった岩本は、その巨大な背中に飛びついて片足フックへ。

ここでラウンドが終了。公表された採点は2-1で岩本。階級上の超大物相手にラウンドを先取しただけでも大快挙だ。

2Rもバルボーザのテイクダウンを切った岩本は、逆にシングルを仕掛けて巨体を壁際で崩す。

が、バルボーザは巧みに壁の傾斜を使って体勢を立て直し、上を取り返してみせた。そのまま上をキープしたバルボーザがこのラウンドを取り、試合を五分に戻した。

勝負の3R。岩本はここも果敢にテイクダウンを狙うが、体格で勝るバルボーザにスプロウルされてしまう。ガードプレイヤーとしての強さも通っている岩本が下から仕掛けるが、重心の低いバルボーザのバランスは崩せない。

岩本は終盤足を絡めて外掛けを作ったが、足関節の対処も巧みなバルボーザに防がれてしまいタイムアップとなった。判定は3者ともに最終Rを僅差ながらポジションキープで手堅く確保したバルボーザに。

一回戦敗退となった岩本だが、階級上の世界のトップ中のトップと紙一重の戦いは天晴れの一言だ。

第4試合は岩本の盟友であり、ADCCのユーロ優勝のジョセフ・チェンの登場となった。

アンディ・ヴァレラをシッティングガードからのレッスルアップで崩して上になり、得意の三点倒立パスを何度も決めて判定3-0で完勝した。

グラップリングの完全体=タイ・ルオトロが、先鋭ベリンボロゲームのリーヴァイ・ジョーンズレアリーに下る

<80キロ以下級準々決勝/5分3R>
リーヴァイ・ジョーンズレアリー(豪州)
Def.3-0:30-27.29-28.29-28
タイ・ルオトロ(米国)

2022年1月に行われたWNO13におけるウェルター級王座決定戦の再戦となったこの試合。

その時はタイがトップからのプレッシャーで優位に立ち、上の体勢から足を取りに行き内ヒールで完勝している。試合開始早々シッティングガードを作るリーヴァイに対し、タイはなんと今成ロールのような動きで飛び込みながらの首狙いへ。振り解かれてしまったものの、開始早々その真骨頂を見せつけた。

その後もパスを狙うタイだが、世界屈指のベリンボロの使い手のリーヴァイは巧みに対応する。ならばとタイはトーホールドを仕掛けるが、リーヴァイが解除。

1R残り約1分、リーヴァイはベリンボロからタイの左足に絡んで内ヒール狙いへ。これが深く入りタイの踵がフックされる寸前まで露出してしまうが、タイは回り続けてなんとか脱出に成功。

トーホールドで逆襲を試みるもののリーヴァイが無難に解除した。

そのまま終了した初回は、ヒール狙いが決定打となり2-1でリーヴァイに。絶対的優勝候補のタイが、体格に劣るリーヴァイにラウンドを取られただけで大きな衝撃だ。

2R、引き続きシッティングから足を絡めて回転してくるリーヴァイに対し、タイが圧力を掛けきれない場面が続く。手を焼くタイはスタンディングの青木ロックを仕掛けるが、リーヴァイは慌てずストレートレッグロックで切り返す。

さらに下からタイのヒザを抱えて崩そうとするリーヴァイ。その動きに合わせてタイが横に飛んでのパスを試みると、リーヴァイは逆にその勢いを利用して上を奪取。

タイがすぐに腕をポストして立ち上がれば、リーヴァイが座る。結局このラウンドもペースを支配していたリーヴァイが2-1で取り、まさかのアップセットの予感が場内を覆った。

3R、後のないタイはルオトロ兄弟の代名詞とも言える足を踏みつけてのパスを仕掛けるが、リーヴァイは侵攻を許さない。逆に下から足を絡めてXガードでタイを崩したリーヴァイ、その右足を抱えて立ちあがる。

片足立ちを余儀なくされたタイだが、リーヴァイは深追いせず、タイに足を引き抜かせるとまた座った。ここまでオープンガードでタイのパス攻撃を完全に封じ込めている以上、ここは無理せず徹底的に下から戦う作戦のようだ。

その後もタイは踏み付けてのパスや担ぎ、青木ロック等を試みるが、リーヴァイはことごとく未然に対応。残り時間が少なくなり、タイは背中を向けるリスクを犯してリーヴァイの攻撃を誘う。バックを狙ってきたリーヴァイに崩されかけたタイは、体勢を立て直すときに苦悶の表情で叫び声を上げたのだった。

結局そのまま試合終了。左足をひきずってコーナーに戻るタイ。どうやらどこかの時点で左足を負傷したようだ。

判定は3-0でリーヴァイに。

驚きの大番狂わせを演じた豪州の若きガードプレイヤーは、きわめて落ち着いた口調で「最初の1分が過ぎたくらいに、何かが起きたのは感じたよ。彼はヒザかどこかを痛めたんだよね。また向こうが100パーセントの時にぜひ戦いたいと思う。僕は彼と戦うためにずっと準備してきたのだから。彼に二年前に負けたことがきっかけで強くなれたんだよ」と語った。

ジョセフ・チェン、ハルクを追い込むも……

<80キロ以下級準々決勝/5分3R>
ルーカス・バルボーザ(ブラジル)
Def. by 3R3分24秒 by カーフスライサー
ジョセフ・チェン(ドイツ)

一回戦を勝利した後、「ぜひ僕がケンタの敗戦のリベンジをしたい。彼はいい試合をしたと思うよ」と語ったチェンは、岩本同様に真っ向から立ち技勝負を挑む。1分過ぎにハルクの左腕にアームドラッグを仕掛ける。

そのままバックに回って襷を作るとチェンは前に飛び込むように崩してバルボーザの巨体を前転させてグラウンドに持ち込んでみせた。こうして素晴らしい動きでポジションを取ったチェンが、そのまま上をキープしてラウンド終了。3-0でチェンが先取した。

2R、下になりたくない両者によるスタンドでの探り合いが延々と続く。残り 30秒のところで、チェンが遠くからタックルの動作を仕掛けるが不発。残り10秒で逆にバルボーザがシュートイン。チェンがこれを防いだところでラウンドが終わった。

ほとんどどちらにも付け難いラウンドとなったが、どちらかに付けなければならないならば、かろうじて評価対象にし得るのは最後のバルボーザのテイクダウン狙いのみ。ということでこの2Rは、3-0でバルボーザに。チェンとしては、値千金のテイクダウンで奪った1Rのリードを、ほぼ何もせずに帳消しにされてしまうという──例えるなら、百万円分の労働をもって得た物品を翌日100円で売り渡してしまうような──なんとも勿体ない形となった。

3R、同様にスタンドでの探り合いが続き、業を煮やしたレフェリーのシャオリンから両者に警告が与えられた。

2分過ぎ、先に仕掛けたのはチェン。ダブルから見事な流れでワキを潜り、バックに回ることに成功した。

さらに1Rと似たような形でバルボーザを崩したチェンだが、バルボーザも立ち上がって振り解く。後がなくなったバルボーザは、すぐにアームドラッグで反撃を試みる。

が、それを振り解いたチェンは自ら座る。このまま下から足を効かせて侵攻を許さなければ、判定勝ちは濃厚だ。

攻撃するしかないバルボーザは、体圧を使ってチェンを傾斜壁に押し付けて動きを封じにかかる。しかしチェンは体の角度をずらしてマットに背中を付ける。

ここでバルボーザは、チェンの右ヒザ裏に太い左腕を外側からこじ入れると、右足をステップオーバーして四の字フックを作りながら背後に倒れ込む。

そのままヒザ固めで絞り上げると、チェンがタップ!

台頭する若手に追い詰められたヴェテランが、意表を付く見事な仕掛けで逆転一本勝ちを奪ってみせた。

客席で見ていた息子さんと娘さんをそれぞれ片腕で抱え上げたバルボーザは「疲れた時には子供たちのことを考えた。マイ・モチベーション。明日も今日と同じさ。どんなことになっても最後まで戦うよ」と力強く語った。

かくて準決勝は、磨き抜いたガードゲームと足関節で大アップセットを引き起こしたリーヴァイ・ジョーンズレアリーと、若手二人に追い詰められつつも、底力を見せつけたバルボーザという組み合わせとなった。

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