【写真】シャノン・ウィラチャイ(左)とボスことチャユット・ロジャナカット(C)MMAPLANET
今や世界中からファイターが集まり、タイではトレーニングを中心としたファイト産業が、急成長している。特にプーケット、パタヤには多くの外国人がトレーニングをするために短期、長期滞在している。ただし、観光地のメガジムにローカルファイターの姿は少ない。
Text by Manabu Takashima
従業員はタイ人でも、トレーニングをしているのは外国人だ。まさにリゾート・ホテルと同じようなメガジムでなく、首都バンコクのMMA事情はどうなっているのか。バンコク・ファイトラボで元ONEファイターのシャノン・ウィラチャイ、そしてフォーエバーヤング・ライフジムでアマMMA選手兼指導者でもあるチャユット・ロジャナカットに尋ねた。
Part.01
シャノン・ウィラチャイ・インタビュー
──タイのMMAのパイオニアであるシャノンですが、タイにおけるMMAの現状を教えてください。ONEがタイに進出した直後、幾人かのムエタイのビッグネームがムエタイに転向しましたが、デェダムロン・ソーアミュアイシルチョークのような成功例は少なかったです。今ではONE Friday Fightはムエタイの試合が多く組まれるようになり、ムエタイそのものの環境は変化しました。今、タイの若者がファイターを目指す時はムエタイかMMA、どちらを目指す傾向にありますか。
「タイにおけるMMAの現状は、以前は少し良くなっていた。ONE以外にも大会が開かれ手始めていたしね。でも、ここ数年は少しスローダウンした。特にコロナの影響も大きかった。同時に僕もそうだけど、タイ人ファイターがONEで戦いたいという想いは強くなっている。ただし、この1年はONEがムエタイとキックボクシングに力を入れてきたので、MMAファイターが戦う機会は決して多くない
常時MMAの練習をするタイ人選手、それとタイ人以外の選手──いずれもファイターになりたいと思っている人間は増えたけど、試合の機会を得るのは本当に難しい。年に1度や2度というところがやっとで。そういう状況だから若いMMA思考の選手も、戦う機会をえるためにストリートファイトのような独立団体で試合をしたりしている。それこそストリートで素手で殴り合っていた若い連中は、ボクシングやムエタイ、MMAで戦いたいという風になっているんだけどね。
タイの若い選手たちが、もっと試合機会に恵まれてグラスルーツショーからプロ、ワールドクラスレベルへというヒエラルキーができると素晴らしいんだけど。キックボクシングなのか、ムエタイなのか、MMAなのか──いずれにしても、タイ人選手は可能性を秘めているよ。うん、テコンドーでも空手でも活躍できる。世界一になれるかどうかともかく、良い活躍はできるはずだ。
ファイティングスポーツは楽しまれているから、ムエタイにしてもMMAにしても、この国は凄く可能性がある。とにかく、まずはムエタイ。そしてボクシング、それからキックボクシング……タイの人々は『なぜ? クリンチとエルボーがない』って不満を言うけど、キックボクシングでも凄く多くの世界チャンピオンが生まれている。タイ人はどんなコンバットスポーツでも活躍できる力がある」
問題はムエタイファイターはキックボクシングには気軽に転向できるけど、MMAはそうでないということ。MMAは寝技があってサブミッションや柔術、レスリング、パウンドなど修得しないといけない技術が多い。それを彼らは怖がっている。でも、練習すれば誰もができるようになるのは絶対だよ。それなのに首を絞められたくない、腕を極められなくないって感じなんだ。毎日のようにエルボーで、誰かの顔をカットしているのにね。
繰り返すけど、タイ人はMMAでも活躍できる。ローマ・ルックンブンミーはUFCで活躍していて、スタンプ・フェアテックスはONEで世界チャンピオンになっている。タイ人ファイターはどんなマーシャルアーツでも良い結果を残せると思っている」
──プーケットでは外国人ばかりが練習していて、コーチも外国人です。ここバンコクでも柔術などタイ人以外の指導者が目っています。そういうコーチを雇うにはお金がかかるので、ジムの会費も自然と高くなります。結果、タイの若い世代がMMAの練習はなかなかできない。この現状をどう思いますか。
「その通りで、ずっと長い間タイの問題でもあるよね。この国は観光産業でなりたっている。そして市井の人々は、観光客との触れ合いを躊躇するところもあるんだよね。でも今、タイは変化の時を迎えている。
以前は足が向いていなかったエリアにも出向くようになった。でも外国人のいる場所は、何でも高価で自分たちの場所とは思えないんだ。英語を話せない人も多いしね。それはプーケット、バンコクだけでなく、タイ全土で見られることなんだよ。特に昔の人、オールドジェネレーションはそんな感覚が強く残っている。でも、若い世代は違う。どんどん、進んでそんな場所にも入っていくようになっている」
──飛び込んでいるわけですね。
「ホント、英語を話せないから怖がっている部分はあるんだよ。それがタイだった。でも今では、どこもがオープンになっているよ。まだ、少し時間はかかりそうだけどね」
Part.02
チャユット・ロジャナカット・インタビュー
──ジム訪問の機会を頂いてありがとうございます。
「逆に訪れてくれて、ありがとうございます」
──いつ、このジムはオープンしたのでしょうか。
「フォーエバーヤングジムとして、ここのエカマイのジムは、2つ目の支部にジムになります。最初のジムは2018年にオープンしました。そしてここは去年(※取材は2023年11月に行われた)、2022年から活動し始めて、ちょうど1年になりますね」
──ボスと皆が呼んでいますが、フルネームを教えてください。
「チャユット・ロジャナカットです」
──ボスが最初に格闘技を始めたのは、いつのことですか。
「とても若い時、5歳か6歳、7歳の時かにムエタイを始めて。しばらくして完全に辞めていたけど、14歳か15歳のときにランシット地区のムエタイスクールでまた練習するようになりました。MMAは17、18歳になった時に始め、これまでアマチュアで戦ってきました」
──今、何歳ですか。
「今年で27歳になりました」
──既に10年のMMAキャリアがあるのですね。10年前にバンコクでMMAが練習できる環境があったということですか。
「イエス。最初にMMAの練習を始めたのは、バンコク・ファイトクラブというジムでした。ただし、上手く機能しているというわけではなくて7、8年前にここのオーナーに出会って柔術、MMA、ムエタイのトレーニングをするようになった。ムエタイは他のジムでも練習を続けていたけど、今は全てのトレーニングをここでしています」
──MMA戦績は?
「12戦して10勝し、2敗しています。全てアマチュアです」
──もう指導もしていますが、MMAを戦う目的は何ですか。
「初めてMMAを見た時には、うわぁ、何でもやって良いんだと思いました。僕自身はムエタイをやっていたけど、MMAは完璧なファイティングゲームに映りました。打撃系の格闘技はクリンチがあると、ブレイクが掛かりますが、MMAではファイトは続けられます。そんな戦いにインスパイアされ、10年前からやってきました。格闘技として、全てを補っているからです」
──国技ムエタイが世界一である、タイの一般の人はMMAのことをどのように思っているのでしょうか。
「当時、MMAはとても新しいモノでした。グラウンドがあって、ムエタイとは全く違います。寝技に関しては、全く理解されていなかったです。10年前までタイの人達は、ファイトはグラウンドになるとスタンドに戻るものだと思っていました。でも僕もそうですが、『ワォ。こんなことやって良いんだ』と驚き、MMAはリアルファイト、本物の戦いがあるマーシャルアーツだと思われるようになりました。
ムエタイ選手は、MMAを十分に戦えると思っています。クリンチゲームもできるし、爆発力もあります。ムエタイは既に立ち技では世界一ですが、MMAの将来はもっと広がっている。その機会があると思います」
──ところでタイではONEかUFC、どちらの方が人気があるのですか。
「以前からMMAを見ている人はUFCです。ムエタイから徐々にMMAを見るようになった人は、間違いなくONEを支持しています。この2つのグループに、タイのMMAファンは大別されるでしょう。以前はUFCのファンはハードコアファンだけでした。でも今では、UFCもONEも皆が知っています。ムエタイからMMAを見るようになった人は、ONEがスタート地点になります」
──では、このジムで練習している人々の目的は?
「誰もが楽しめます。マーシャルアーツの練習を通じて、人として成長する。プロで戦いたい人、体重を減らしたい人、どんな目的を持っていても、ここで練習できます。どんな目標を持っている人でも、一緒になって目標を達成する。そんなコミュニティです。皆で上を目指しています」
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