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【Special】月刊、良太郎のこの一番:11月 JJ×ミオシッチ「JJが怪物から仙人になってきた」

【写真】王道の戦い方+引き出しの多さ+必要最低限の出力。これはジョン・ジョーンズの変わらない強さでもある(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は良太郎氏が選んだ2024年11月の一番──11月16日に行われたUFC309のジョン・ジョーンズ×スタイプ・ミオシッチ。今回も水垣氏と同チョイスとなったが、打撃という視点でジョーンズの強さについて語らおう。

【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:11月
JJ×ミオシッチ「いよいよJJが負ける姿が想像つかない」


――実は11月の一番も水垣さんと同じジョン・ジョーンズ×スタイプ・ミオシッチをセレクトしてもらいました。この試合はやはりジョーンズについてお聞きしたいと思います。

「あれはもう…変人の領域に達してますね(笑)。やっぱりジョン・ジョーンズに対する幻想があるじゃないですか。でも体つきを見たりすると、みんなが知っている全盛期から2周も3周も回った選手だと思うんです。だから正直まだ強いのか?と思って見ている人が多かったと思います。ミオシッチも42歳で、約3年8カ月ぶりの試合だったので、ジョーンズが何だかんだで勝つだろうなとは思っていましたが、スピニングバックキックを左の脇腹に突き刺してKO勝ちするというのは全く予想してなかったです。もう本当にすげえな、この人っていう。それしか出てこないです」

――JJは明らかにライトヘビー級時代と比べると体のコンディションは悪いじゃないですか。それでもなんだかんだで勝ってしまいましたよね。

「コンディションは間違いなく良くないですよね。ボクシング的に言ったら、 かつてのスター選手が復活して、倒して勝っちゃうことってあるじゃないですか。あれはボクシングがパンチに限定された競技でラウンド数も長いからだと思うんです。キック・ムエタイは蹴りもあってラウンド数も短くなるから、どうしても若くてフレッシュな選手の方の勢いに飲まれてしまうけど、サムエー、ブアカーオ、センチャイのように制空権を制して、相手を制圧して距離感を支配する達人みたいな40代の選手もいる。MMAは試合時間が長いのでボクシングに近いところがあるけれど、レスリングや組み技をやらないといけないし、よりフィジカル的な強さが求められる。そんな競技なのにジョン・ジョーンズはボクシングやキック・ムエタイでオールドスターが未だに強いというのをMMA、しかもUFCでやっちゃってる感じですよね。

今回のミオシッチ戦で言うなら、右と左をスイッチして戦えるベースがあるんですけど、無駄な動きが一切ないんです。ミオシッチがバー!と攻めた時にジョーンズが後ろを向いて逃げたじゃないですか。あれを若いファイターがやるともっとクイックな動きになるんですけど、ジョーンズはちょっとスローな動きでしたよね。言葉は悪いですけど年齢を重ねた選手というか。でも見方を変えれば必要最小限の動きとスピードでかわしてるわけですよ」

――なるほど。それは面白い視点です。

「細かい技術で言うと、オーソドックスに構えたら自分の距離感でスナップがついたジャブを当てて、サウスポーに構えたら前手で相手の前手を触っておいて、同じモーションでローと三日月蹴りを蹴って、たまに左ストレートを打つ。やってることは普通、王道中の王道なんです」

――特別なことをやっているわけじゃない、と。

「ただジョーンズがすごいのは1Rに決めた大外刈りのような技の引き出しが豊富なところです。あんな技もやるんだという引き出しがあるんですよね。勝つために必要なことを最小限の出力で無駄なくやる、そして技の引き出しが多い。それがジョン・ジョーンズだと思います」

――フィニッシュになったスピニングバックキックについてはいかがでしょうか。

「あれは最初にジョーンズが三日月蹴りでレバーを意識させておいて、アレックス・ペレイラがよくやるようなお尻をくっと入れるフェイントでミオシッチを下がらせて金網を背負わせる。それで逆回転のスピニングバックキックをレバーの逆側にぶちこむと。あれは当たった場所的にボディが効いたというよりも骨がいったんじゃないかなと思います」

――あの一発にもそういった細かいテクニックがあるわけですね。

「昔は怪物で最強だったのが、段々と仙人みたいになってきましたよね」

――良太郎選手のお話を聞いていると怪物時代のジョーンズも無駄打ちが少なかったり、余計な出力をしていなかったり、今と共通している部分もあるんでしょうね。

「そうですね。そこに昔は若さがあったというか、細かい部分のスピードや反応速度は当時の方があったと思います。こういうタイプは段々と反応が悪くなって結果が出なくなってきて、それで引退という流れになるんですけど、ジョーンズは負けないんですよね。なんでそれが出来るのかは……正直分かりません(笑)」

――ムエタイのスーパースターだった選手が日本でトレーナーとして働きながら試合をしても日本人には負けないというパターンに似ているのかなとも思います。

「貯金と言えば貯金で勝っていると思いますが、それだけでもないし、UFCのあのレベルでやっているわけですからね。今回も相手はブランクがあるとはいえミオシッチですし。ここまで来たら、もう相手は1人=トム・アスピナルしかいないですけど、なんかやらなそうな感じじゃないですか。色々と難癖をつけて(苦笑)。でも僕はそれも含めて強さだと思うんですよ。フロイド・メイウェザーじゃないけど、博打する時は自分のタイミングでやる、みたいな。だからそこも全部ひっくるめて最強幻想がありますよね」

――試合以外の部分でも主導権を握るところも含めて強さですね。あれだけ色々な問題を起こしてもUFCで試合を組まれ続けているわけですし。

「本当ですよ。 普通は追放レベルですからね(苦笑)」

――いずれにしてもUFCから必要とされ続けているという時点で スペシャルな選手であることは間違いないですね。

「はい。ただみんなはもうちょっと彼に尊敬や畏敬の面を求めていると思います(笑)」

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【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:11月 JJ×ミオシッチ「いよいよJJが負ける姿が想像つかない」

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は水垣偉弥氏が選んだ2024年11月の一番──11月16日に行われたUFC309のジョン・ジョーンズ×スタイプ・ミオシッチ、改めてUFCヘビー級王者としての強さを見せつけたジョーンズについて語らおう。


――今月の一番ではジョン・ジョーンズ×スタイプ・ミオシッチの一戦を選んでいただきました。この試合をセレクトした理由を訊かせてもらえますか。

「これはもうジョン・ジョーンズという選手だからですよね。ジョーンズは僕がUFCに行く前からUFCで戦っている大ベテランで、今でもUFCチャンピオンでい続けているという。何で言うんですかね、『誰もジョーンズには勝てないのか?』という、ちょっとした虚しさを感じた試合でした」

――ジョーンズは今回がヘビー級転向2戦目で体もシェイプされていなかったですし、今回は厳しい試合位になると思っていました。

「ヘビー級になって体も大分デカくなって、あの体を見た時に『今まで通り動けるの?』と思ったんです。そうしたらヘビー級転向初戦のシリル・ガンヌ戦はギロチンで一本勝ちして。でもあの試合は2分くらいで終わった試合だったので、判断できないところがあったんです。試合が長引いたらすぐに失速するんじゃないかなと。それで今回のミオシッチ戦はもっとジョーンズが距離を取って戦うと予想していたのですが、序盤から腹を効かせて自分から攻めたんですよね。しかも1Rにいきなり打撃からの大外刈りでテイクダウンして。あれがあったので2R以降のミオシッチはなかなかパンチの距離に持ち込めなかったですよね。逆にジョーンズは1Rで距離感が分かったので、すぐにダメージを与える打撃を切り替えましたよね」

――水垣さんの分析ではあの大外刈りが試合の流れを決めた、と。ただあの技を武器として持っていたとしても、復帰戦の1Rのあの時間帯で決めるのは普通ではないですよね。

「はい。相手のパンチが見えている状況だったら、ああいう技(大外刈り)でテイクダウンできると思うんですよ。でもミオシッチはハードパンチャーで、ジョーンズ自身も1年8カ月ぶりの試合だった。そういう状況で打撃の距離感を合わせるのは難しいし、序盤からああいう技にトライするのはリスクがあると思うんですよ。でもそういう技をパッとやって決めってしまうという」

――あの動きはジョーンズにしかできないですか。

「動きそのものは特別な技ではないと思いますが、あの状況で決めるのは……やっぱりジョーンズは特別ですね。体格的に恵まれている上に技の引き出しも多くて、もちろんジョーンズも色んな努力をして強くなったと思うのですが、あれはずるいです(苦笑)」

――もはやずるいレベルの強さだ、と。

「はい。しかも普通はあれだけ偉大な選手だったらもっとリスペクトされるじゃないですか。でもジョーンズは色んな問題を起こして、スーパーヒールのポジションを確立している。見ていて面白いというのは違うのかもしれないけど、自分のキャラクターを確立していますよね」

――憎まれ役なのにファイターとしては抜群に強い。ジョーンズにしかできないポジションですね。

「僕もジョーンズと話したことがあるのですが、普段は本当に物静かでオラオラするようなタイプでもないんですよ。以前、DJ.taikiさんがジャクソンズMMAに練習に行った時、空港までの移動手段がなくて困っていたら、ジョーンズが『俺が車で空港まで乗せていってあげるよ』と言って送ってくれたことがあったそうなんです。だから本来はそういう一面も持っている人なんですよね。それなのになんであんなに問題を起こしてしまうんだ?という(苦笑)。僕はジョーンズのことが嫌いとかは一切ないんですけど、あれだけ強すぎるとジョーンズが試合で辛くなった姿・苦しむ姿を見たくなっちゃうんですよね」

――確かに……あまりにも強すぎるので苦戦するジョーンズを見たい気持ちは理解できます。

「そうなんです。今までUFCでも特別なものを感じる選手はいたと思うんですけど、どこかで底が見えてくるというか、そういう試合や負けがあるじゃないですか。でもジョーンズはそれがないんですよね。このまま苦戦することなく引退するとなったら、それはそれで悲しい。僕はミオシッチはジョーンズの相手としてはベストチョイスだと思っていて、ファイターとして試合をしながら消防士という一面もあって、そういう人柄も見えてくるじゃないですか。逆にジョーンズは格闘技は強いんだけど問題を起こしまくる問題児で、ミオシッチにジョーンズを苦しめて欲しかったんですよね。そう思っていたら逆にジョーンズが圧勝してしまうという(苦笑)」

――極端かもしれませんが、ジョーンズがこのまま勝ち続けていくと、恵まれた体格と持って生まれた格闘センスを持った人間には誰も勝てないということになっちゃいますよね。

「そうなんです。僕はダニエル・コーミエーがジョーンズが対戦した時、完全にコーミエー派だったんです。コーミエーはジョーンズと違って技術と技のタイミングを精度を研ぎ澄ましてUFCチャンピオンになった選手で、コーミエーもジョーンズとは真逆のタイプだと思うんですよね。でもいざ蓋を開けてみたらジョーンズがコーミエーに2戦2勝して(※2戦目は試合後にジョーンズがドーピング検査で陽性反応が出たためノーコンテストに変更)。もしかしたらミオシッチだったらコーミエー戦の続きを見せてくれるんじゃないかと思って期待したんですけどね……。ライトヘビー級時代にマウリシオ・ショーグンに勝った頃のジョーンズは怖いくらい強くて、ショーグン戦以降は5Rフルに使って勝つみたいな試合も増えていたと思うんですよ。実際にドミニク・レイエスとやった試合は以前のような強さ・魅力がなくなっていて。それでいよいよジョーンズ政権が崩れる時代が来ると思っていたら、ガンヌとミオシッチにああいう勝ち方をしてしまうわけだから。いよいよジョーンズが負ける姿が想像つかないし、どうしたんもんですかね………と思う以外の感想がないです(苦笑)」

――ジョーンズのスペシャルな部分は一旦抜きにすると、レスリングの強さ+ロングリーチから繰り出す多彩な打撃という意味では、自分の強みや特徴を理解して試合を組み立てていますよね。

「そうですね。レスリングが強くて、あの長いリーチで色んな打撃が出来る。対戦相手からすると中に入り込んで打撃を打ち込たいところですが、いざ中に入ってもレスリングや首相撲でコントロールされてしまう。じゃあ離れたところで戦おうとすると、今度は長いリーチから打撃がバンバン飛んでくる。僕もリーチが長い相手の中に入って殴るのが得意だったのですが、ジョーンズみたいな戦い方をされると、どうしようもないです(苦笑)」

――そういった戦い方の上手さもあるということで。

「技の引き出しそのものが多くて、どの局面でどの引き出しを開ければいいか。そこのチョイスには抜群のセンスがあるし、しっかり戦略を立てるコーチやブレーンがいるんだと思います」

――2025年はトム・アスピナルとの対戦が期待されていますが実現するかどうか…ですよね。

「フランシス・ガヌーとやったらどうなるんだろうと思いますが、ガヌーがPFLと契約しているので現実的ではないじゃないですか。だったらアスピナルだとは思うんですけど、どうなるのかなと」

――もしかしたらこのままジョーンズが引退して、ジョーンズは特別だったと割り切った方がいいのかなとも思ってしまいました。

「どうだろう…僕はジョーンズが負けるまで現役は続けてほしいと思いますね。ジョーンズには恨みもなにもないのですが(笑)、あれだけ強すぎるとどうしても負ける姿が見たくなります」

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【RIZIN DECADE】神龍誠と対戦。小さな巨人ホセ・トーレス「ショーティー航空だ。僕が宙を舞わすから」

【写真】待望というか、来日を期待することができなかったフライ級の実力者がRIZINフライ級戦線へ(C)BRAVE CF

31日(火)、さいたま市中央区のさいたまスーパーアリーナで開催されるRIZIN DECADE。その第2部=RIZIN49にホセ・トーレスが初来日を果たし、59キロ契約マッチで神龍誠と対戦する。
Text Manabu Takashima

IMMAF二連覇、プロ転向後は3戦目でTitan FCフライ級王座を獲得すると5戦目でバンタム級を制し2連覇を達成。合計4度の王座防衛の末に契約を果たしたUFCだったが、フライ級冬の時代と重なり1勝1敗で階級閉鎖の流れのなか、バンタム級転向&契約続行でなくリリースを選択した。

トーレスが選んだ再就職先は、バーレーン王国が所有するBRAVE CFだった。結果的に未完に終わったフライ級王座決定トーナメントに出場後に、階級を上げてバンタム級でBRAVE CFの頂点に立った。

厚待遇、レスト・オブ・ザ・レスト級の未知強と戦える砂漠のMMA独立王国で、トーレスはファイター人生のピークを過ごすものかと思われた。そんな身長163センチ、ショーティーと呼ばれる小さな巨人が思いもしないRIZIN参戦へ。しかも今後はフライ級に戻すことも明言した。

ボクシングの距離で戦い続けることができるトーレスは、レスリングでなく柔道、キックでなくムエタイと散打を重視する。そんな北米MMAの枠を飛び越えた――北米MMAの実力者が心躍る日本初戦への想いを語った。


BRAVE CFを日本の人達に知ってもらうためのファイト

──まさかショーティーの試合が、大晦日に日本で見られる日が来るとは思ってもいなかったです。

「ようやくこの日を迎えることができたよ。僕が最初にMMAに夢中になったのはPRIDEを視たからだった。ストリートでPRIDEのDVDを打っている人間がいて(笑)。それを買ってランペイジのスープレックス、皇帝ヒョードルや多くのファイターの試合を夢中になって視ていた。そして今回、PRIDEが行われていて会場で、PRIDEのようにリングで戦うことができる。こんな環境で戦えるなんて、めちゃくちゃエキサイトしているよ。楽しみでしょうがない」

――BRAVE CFに属してギャリアを全うするように感じていたので、この日が来ることが本当に嬉しいです。

「僕は今もBRAVE CFのファイターだ。彼らが僕にこのDECADEイベントで戦う機会を与えてくれた。そしてポケモン、デジモン、ドラゴンボールZと僕が夢中になった夢のような国で戦うことができる。BRAVE CFの元チャンピオンとして、BRAVEのショーツ、BRAVEのTシャツを着て、BRAVEとは違うマーケットで、BRAVEのブランドを知らしめるために戦う。32歳になった僕には、そういう役割もある。BRAVE CFを日本の人達に知ってもらうためのファイト。その機会をマッチメイカーが僕に設けてくれた。

ただ、それとは別に本当に訪れたかった場所に行けるという喜びがあるんだ。最高にファイターを尊敬してくれるところで戦うことができる。今回の試合だけでなく、観光客として日本に行く日が来ることを願っているよ(笑)」

――ではこの話が決定した時、ショーティーは本当に嬉しかったのでしょうね。

「もう言葉に言い表すことはできないよ。かつての練習仲間だったキョージ・ホリグチがチャンピオンのフライ級まで、すぐに体重を落とすことはできなかった。でもキャッチウェイトでマコト・シンリュウと戦うという話に、即イエスと答えたよ。ホントはキャッチウェイトでない正規の階級で戦いたいけど、今は自分のオリジナルウェイトに落とす過程にあるから、今回は59キロで戦うことにしたんだ。

怖いモノ知らずの若くて、強いファイターと戦う。彼はフライングニーやフライングハイキックをリングで使っているよね。最高にエキサイティングなファイターだ。ただ、僕の武器はシンリュウにとって最悪だ。この試合で、僕の名前を日本のファンの心にしっかりと刻むことできるに違いない。心の底からワクワクしている」

――ショーティーは自分にとって、MMAの打撃戦がボクシングの距離で続くことを初めて見せてくれたファイターです。ただ、それゆえにダメージの蓄積もあったかと思います。そして、最近ではバンタム級でレスリング重視の試合をしてきました。日本のファンはグラップリングを熟知していますが、どのような試合をしたいと考えていますか。

(C)BRAVE CF

「まず、RIZINでは僕にとって未体験の技が許されている。

グラウンドでヒザやキックを使うことができる。それに日本のファンが柔道やレスリングが分かっているといっても、RIZINという場所で見たいのはファイトだ。それに現実的なことをいえばレスリングは嫌いだ。ボクシングが好きなんだ」

レスリングで勝負してくるなら、柔道で迎え撃つ

――アハハハハ。言い切りましたね。

「前に出て殴る。若い頃のマニー・パッキャオのように、スピードに乗って飛び込むようにパンチを繰り出したい。戦いたいんだ。ただ、ここ2年間で3度戦ったンコシ・ンデベレは、背の高いパワーあふれるファイターだった。あの相手に勝つには、テイクダウンを選択するしかない。

ンコシと僕の試合はイスラエル・アデサニャとケルヴィン・ガステラムのマッチアップと同じだよ。ボクシング、テイクダウンと必死に懐に入っていった。ジョン・ジョーンズと戦った時のダニエル・コーミエーのようにね。五輪レスラーのDCが、テイクダウンを狙って苦労し続けた。もう、これはサイズとレンジの問題なんだ。

でも、ついに自分のサイズの相手と戦うことができる。懐に跳びこんで、顔面を殴ることができるんだ。もちろん彼だって僕を殴ることができる。そういう戦いのなかで、スタンドでもグラウンドでも僕には仕留める力があることを見せたい。

シンリュウがテイクダウンを仕掛け、レッスルしたいことは分かっている。試合がグラウンドになっても、構わない。立ちレスになっても、内股や払い腰で投げることが可能だ。ただ日本のファンに最高にエキサイティングな試合を見せたいから、僕のゴールはKOすることになる」

――神龍選手は拳の届く距離に立ち続けることはないかと予想されます。

「僕のボクシングは徹底的にプレッシャーを与えるなかで、カウンターを決めること。マコトの打撃は、カラテやテコンドーのように遠い距離から出入りを多用する。その先にあるのはテイクダウンをすること。でも、僕はカウンターファイターだ。掴んできても、さっきも言ったように投げることができる。それがショーティー・エアラインだ。無料でマイル・ポイントを獲得できるんだ。僕が宙を舞わすから」

――ショーティー航空で、投げを食らうといことですね(笑)。

「そう。でも、決して自分が思うような飛行はできないからね。マコトがレスリングで勝負してくるなら、柔道で迎え撃つ。打撃の間合いなら、殴って来ればよい。その時点でカウンターを打ち込む。彼はまだ若い。そういう経験をしたことがない。それでもマコトのように前に出てくる相手と戦うことは、楽しみでならないよ。それにレスリングと柔術にしても、僕は彼より優れている。テイクダウンをしたいなら、してくれば良い。

僕の爆発力を試合開始直後から、ぶつけるよ。その仕掛けに5分間耐えることができれば、彼は徹底して2Rと3Rを組み続けてくるようになるだろう。でも僕は皆に楽しんでもらいたい。例え、そういう風に攻めてきても僕のペースにマコトはついてくることができるかな?

特にラウンド毎の裁定でなく、試合を通じてダメージを与えた方が勝てる判定基準は、絶対的に僕に有利に働く。本当にシンリュウにとって、しんどい試合になるはずだよ。初回を戦い切ることができたとしても、ね」

――リングで戦うことに対して、免疫はありますか。

「リング、90度のコーナーがあることは僕のようなプレッシャーファイターにとってアドバンテージでしかない。オクタゴンやサークルは、足を使われると先回りすることが難しい。でもコーナーがあれば、サイドステップで先回りして簡単に追い込むことができる。

それに散打の経験が絶対的に生きてくる。散打はリングが舞台だった。ボクシングとレスリングをミックスして、リングで戦っている。リングで戦うことで、何かマイナスがあるとすればケージを背負って仕掛けるサブミッション、ギロチンが極めづらくなることだろう」

――柔道に散打ですか……ショーティーのことを単なる北米スタイルのMMAファイターとは思わない方が良いですね。

「これは僕も分かっていなかったんだけど、ダゲスタンで練習したときに僕のレスリングや柔術は凄くサンボ的だったことを知った。トップから攻めるのが好きで、柔術プレーはしたくない。リバーサルは立ち技に戻るための手段で。それに散打の投げも大好きだけど、僕が本当に得意にしていて皆に見て欲しい攻撃はボクシング。そして組まれたときの柔道とムエタイ・クリンチだ。

首相撲からヒザやヒジを叩きこむこと。ボクシング、柔道、ムエタイを見て欲しい。それを同じサイズのファイターにぶつけることができる。いやぁ、本当に楽しみで仕方ないよ(笑)。上のクラスから、フライ級に戻ることもね」

フライ級で再び戦う。この階級でトップになるために

――さきほどのフライ級でという言葉が聞かれ、実は鳥肌が立っていました。

「アハハハハ。僕はフライ級で戦う。UFCフライ級トップファイターのアミール・アルバジに僕は勝っている。UFCで戦っていた頃、いやそれ以前もだ。僕は世界で有数のファイターたちとトレーニングをしていた。ブランドン・モレノ、アレッシャンドリ・パントージャ、キョージ、多くのフライ級トップファイターとね。もちろん練習は練習だ。

でも、本当に良い日々だった。そしてフライ級で彼らとやり合える自信がある。君がさっき言ったように、僕はダメージが蓄積していた。だから少し体を休めためにクリスマスを楽しんだり、サンクスギビングデーに好きなだけ食べるという生活を数年してきた。そしてフライ級で再び戦う。この階級でトップになるために」

――いやぁ、本当にRIZINフライ級が楽しみになってきます。ショーティーがロースターに加わればRIZINフライ級は、UFCフライ級に続き世界から選手があつまるタフな階級になりますね。

「日本という北米マーケットとは異質のグループが、力をつけることは本当に楽しみだ。カイ・アサクラはUFCで、他のプロモーションからやってきいきなり世界戦を戦えることを証明した。キョージ・ホリグチはRIZINとBellatorの二冠王、カイ・アサクラはRIZINで2度ベルトを巻いた男。マネル・ケイプ、イリー・プロハースカというRIZIN出身のファイター達はUFCファイター達を相手に、その強さを見せてきた。

今回の試合に勝って、フライ級GPのメンバーに入りたい。素晴らしい経験になるだろうから。そしてキョージに挑戦したいんだ。それは彼がチャンピオンというだけでなく、如何に強い人間か知っているからで。大晦日、キョージは問題なくズールーに勝つ。間違いないよ」

――フライ級GPの正式発表の日を指折り数えて待ちたいと思います。ところでショーティーは今、メキシコシティにいるそうですね(※取材は22日に行われた)。どのジムで試合の準備をしてきたのでしょうか。

「それがクレイジーなことに、ここにジムはないんだ。僕がコーナーに就く一人ロナルド・ロドリゲス(17勝2敗、UFCフライ級ファイター)がメキシコシティに住んでいて、マイク・ミゲール・ゴンザレスの指導を受けている。彼が『ジムはないけど、色々なところを回ってファイトキャンプをしないか』って誘ってきたんだ。今回は5、6人のチームで色々なジムを回って練習してきた。なかでもUFC PIメキシコシティは数多く使ってきた。

いずれこのメンバーで、ジムを持ちたいと思っている。それだけ最高のメンバーが揃っているんだ。でも日本とメキシコは凄く似ていると思うよ。日本人、ハワイアン、メキシカンは共通点がある」

――えぇ? ハワイの人は日本の血が流れていることも多いのですが、メキシコ人と日本人が似ている?

「自分より強い相手にも、一歩も引かない。スピードがあってパワフルだ。ハワイアンは、めちゃくちゃテクニカルでタフ。メキシカン・ファイターとの戦いでは、こっちが倒さない限り倒される。とにかく彼らは前に出てファイトを続けるから。最高のテクニシャンじゃない。でも諦めることなく戦い続ける。日本とメキシコは、ボクシングも優秀だし。メキシコではボクサーからMMAに転じるファイターが多くなっている。もちろん柔術やレスリングというように身に着けないといけないことは残っている。でも最高のボクサーが投げを習い、レスリングの指導を受けている。

僕自身、ここではレスリングの指導を徹底してやっている。それぞれ別の特色があるファイターだけど、揃ってずば抜けてタフで才能にあふれている」

――メキシコで準備をしてきた神龍誠戦、日本でどのような試合を見せたいと思っていますか。

「小さな紫色のヘアーカラーをした男が、デッカイことをやってのけるところを見て欲しい。フライ級に戻れば、僕がどれだけのファイターなのか。そう期待してもらえるよう戦う。長い間、1人で戦ってきたけど、今は最高のチームに支えてもらっている。日本で絶対に勝ちたい、メキシコ代表としてね。そしてBRAVE CFの了解を得て、フライ級GPで戦いたい」

■RIZIN DECADE 視聴方法(予定)
12月31日(火)
午後1時00分~ ABEMA、U-NEXT、RIZIN LIVE、RIZIN100CLUB、スカパー!

■RIZIN DECADE / RIZIN49 対戦カード

<RIZINフェザー級選手権試合/5分3R>
[王者] 鈴木千裕(日本)
[挑戦者] クレベル・コイケ(ブラジル)

<RIZINフライ級選手権試合/5分3R>
[王者] 堀口恭司(日本)
[挑戦者] エンカジムーロ・ズールー(南アフリカ)

<RIZINライト級選手権試合/5分3R>
[王者] ホベルト・サトシ・ソウザ(ブラジル)
[挑戦者] ヴガール・ケラモフ(アゼルバイジャン)

<女子スーパーアトム級/5分3R>
伊澤星花(日本)
ルシア・アプデリガルリム(アルゼンチン)

<バンタム級次期挑戦者決定戦/5分3R>
元谷友貴(日本)
秋元強真(日本)

<フェザー級/5分3R>
久保優太(日本)
ラジャブアリ・シェイドゥラエフ(キルギス)

<フェザー級/5分3R>
YA-MAN(日本)
カルシャガ・ダウトベック(カザフスタン)

<バンタム級/5分3R>
福田龍彌(日本)
芦澤竜誠(日本)

<ヘビー級/5分3R>
上田幹雄(日本)
キム・テイン(韓国)

<59キロ契約/5分3R>
神龍誠(日本)
ホセ・トーレス(米国)

<ライト級/5分3R>
矢地祐介(日本)
桜庭大世(日本)

<フェザー級/5分3R>
武田光司(日本)
新居すぐる(日本)

<ヘビー級/5分3R>
貴賢神(日本)
エドポロキング(日本)

<バンタム級/5分3R>
大雅(日本)
梅野源治(日本)

<RIZIN甲子園決勝戦/5分2R>
横内三旺(日本)
斉藤健心(日本)

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『UFC 309: Jones vs. Miocic』パフォーマンスボーナス




 UFCが『UFC 309: Jones vs. Miocic』のパフォーマンスボーナスを発表。

▼ファイト・オブ・ザ・ナイト
・チャールズ・オリヴェイラ vs. マイケル・チャンドラー

▼パフォーマンス・オブ・ザ・ナイト
・ジョン・ジョーンズ、ラミス・ブラヒマイ、オバン・エリオット


 5選手には各5万ドルのボーナス。続きを読む・・・
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【UFC309】やはり別格、ジョン・ジョーンズがスピニングバックキックでKO勝ち。ミオシッチは引退宣言

<UFC世界ライトヘビー級選手権試合/5分5R>
ジョン・ジョーンズ(米国)
Def.3R4分29秒by TKO
スタイプ・ミオシッチ(米国)

サウスポーに構えたJJに対し、ミオシッチが右を伸ばす。JJは左三日月、ミオシッチはインローを蹴る。左右のパンチでJJを追うミオシッチのパンチをかわして、間合いを取り直したJJがサイドの関節蹴りから、同じ足で大外刈りを決める。ハーフでエルボーを打ち下ろすJJは、ワキを殴って顔面にヒジを落とす。ドスンと音がする重い一元を落とし、フルガードに戻させないJJは左のエルボーを連打してパス。シングルレッグを潰して、ハーフに収まるとさらに勢いを増したエルボーを続ける。ニーシールドから離れることができなかったミオシッチは、鉄槌からヒジに防戦一方だが、クルスフィクスは許さない。

残り40秒、起き上ったJJは蹴り上げにも担ぎパス。キムラを狙いつつ、エルボーに切り替えて最後まで攻め続けた。

2R、奇跡的に大きなカットがないミオシッチは、右に回りながら左を伸ばす。JJはジャブを当て、ミオシッチが右アッパーを繰り出す。スイッチしたJJは、ここは三角蹴りを見せる。ワンツーで前に出たミオシッチは、パンチをボディに見せるが口が開いている。左ショートから、三日月で腹を抉ったJJは左インロー、続いて左ボディストレートを放つ。さらに首相撲から右ヒザを腹に突き刺す。ミオシッチも右を返したが、追撃はない。残り1分、左ミドルを蹴ったJJが、また三日月蹴りを決める。それでもワンツーで前に出るミオシッチに対して、背中を見せて距離を取ったJJがスピニングバックキックを繰り出した。

3R、すぐにJJがジャブを当て、前に出るミオシッチの間合いを外す。組んでアッパーを狙ったミオシッチに対し、JJは危険を察すると背中を見せて走り、距離を取り直す。そして三日月を入れたJJがエルボー、右を繰り出す。続く右で下がったミオシッチは、ワンツーを打ち返すが組まれてケージに押し込まれる。ミオシッチは離れて、JJの左ハイをブロック。サウスポーから右ジャブを当てるJJは三日月、インローと左からの蹴りで攻める。

ミオシッチはジャブを被弾し、前に出て左を届かせるが右は空を切る。圧を受けても右を繰り出すミオシッチは、右ストレート。JJが左をクリーンヒットさせるも、ミオシッチも頭がぶつかるぐらいの勢いで前に出る。左ミドルを入れたJJは、続く左スピニングバックキックをリブに決める。

腹ばいに崩れたミオシッチに追撃のJJが、見事なKO防衛に成功。「とてもタフだった。ずっと前に出てきた。ミオシッチはいつも最高のシェイプで仕上げてくる。それほどパンチを顔面に打てないと初回に思って、腹を狙った」と話した勝者は、王座統一戦に関しては言葉を濁したが、引退も否定。「交渉が上手くいくと、皆が見たい試合が実現するはずだ」というや、トランプ大統領に感謝の言葉を送り観客には「USA」チャントを要求。「俺は米国人チャンピオン、クリスチャンの米国人であることを誇りに思う」と締めた。

そして、敗者ミオシッチは「やり切った」と引退を宣下してケージを後にした。


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【UFC309】展望 余人をもって代え難き存在=ジョーンズ×普通の男であることに価値を置くミオシッチ

【写真】持ち過ぎた才能が、人生を狂わせながら強さは絶対のジョン・ジョーンズ。そして強さを求めて、幸福な人生を歩むこととなったミオシッチ。対照的な強者の戦いだ(C)Zuffa/UFC

16日(土・現地時間)ニューヨーク州ニューヨークシティのマジソン・スクエア・ガーデンにてUFC 309「 Jones vs Miocic」が行われる。由緒ある大会場におけるメインイベントは、事実上無敗で二階級制覇を達成したジョン・ジョーンズに、元王者のスタイプ・ミオシッチが挑むヘビー級タイトルマッチだ。
Text by ISAMU HORIUCHI

王者JJは、実に13年半前の2011年3月にマウリシオ・ショーグン・フアを3RTKOに下してライトヘビー級王座を獲得すると、6度の防衛に成功し長期政権を築いた。しかし、その後はコカイン使用、ひき逃げ、禁止薬物使用といったさまざまな問題行動を起こして3度に渡って王座を剥奪されてしまう。だがそのたびに復活しては、恐るべき強さで王座復帰を果たしてきた。

さらに2020年には飲酒運転&発砲事件による逮捕を経て、自ら王座を返上。ヘビー級への転向の意志を明らかにするが、その翌年にフィアンセへの家庭内暴力で再逮捕された。


それでも昨年3月には宣言通りヘビー級で復帰。シリル・ガンヌとの王座決定戦において1Rわずか2分でギロチンチョークで仕留め、二階級制覇を達成している。オクタゴン内での絶対的な強さにおいても、その内面に棲まうデーモンの巨大さにおいても余人をもって代え難き、格闘技の矛盾を最大限に体現する存在だ。

対するミオシッチは、8年半前の2016年5月にファブリシオ・ヴェウドゥムを敵地クリチバで1RKOに下し、ヘビー王座を獲得。その後アリスター・オーフレイム戦ジュニオール・ドスサントス戦フランシス・ガヌー戦とヘビー級王座3連続防衛というUFC新記録を樹立した。その後ダニエル・コーミエに敗れるも、リマッチで勝利して王座奪還に成功。が、21年3月にフランシス・ガヌーとの再戦に敗れて再び王座を明け渡している。

ちなみにミオシッチは、以前からファイターであると同時に消防士としての職を持ち続けている。仕事で地域に貢献し、家庭でも妻と子供を大切にする「普通の男」であることに何よりも価値を置く、JJとはあらゆる意味で対照的な生き方を実践している。

2022年にはフルタイムの消防士となったことが報じられ、ミオシッチは幸せな引退を果たしたと考える向きも多かった。しかし昨年3月、上述のようにガンヌを倒したJJがオクタゴンの上で「みんな、俺がスタイプを倒すところが見たいか? スタイプよ、練習してくれていると嬉しいぜ。あんたは歴史上のグレーテイストヘビーウェイトだ。あんたと戦いてえんだ。ものすごくな!」と不敵な笑顔で宣戦布告。11月に復帰してJJへの王座挑戦が決まった。

だが、この大一番に向けての練習中にJJが胸筋断裂の大怪我を負ってしまい、手術と半年以上の治療期間を要することが判明し欠場を余儀なくされてしまう。ここでUFCは、当日のバックアップファイターとして用意されていたセルゲイ・パブロビッチとミオシッチの暫定王座戦を行うことはせず、パブロビッチとトム・アスピナルによる暫定王者決定戦を敢行し、1R1分でKO勝利したアスピナルが王座に就いた。

強引な措置とも言えるが、デイナ・ホワイトUFC代表は「ミオシッチ対JJはレガシーファイト。歴史上最も偉大なヘビー級王者と、歴史上最も偉大なミックストマーシャルアーティストの激突だぞ。レジェンド二人の対決をファンも見たいし、私も見たいし、両者ともやりたがっている。スタイプに暫定王座戦を戦ってくれなどと頼むこと自体、まったくもって失礼な話だよ」と説明した。両者のカードは、競技の理屈をスキップしてでもUFCが実現させたいメガファイトということだ。

その後アスピナルがまたしても1分KOにて暫定王座を防衛する間に、正規王座のJJは手術を経てリハビリを完了。一年の延期を経て、今回──暫定王者として圧倒的に勝ち続けているにもかかわらず挑戦できない気の毒なアスピナルが「老いぼれどもによる、異議にまみれたタイトル戦だ」と毒づくのをよそに──ついにミオシッチとの防衛戦がついに実現することとなった。

長年パウンドフォーパウンドランキングのトップに君臨し、一年前には体にかなり脂肪が乗ったヘビー級としても圧巻の強さを見せつけた37歳のJJと、片や42歳にして3年8ヶ月ぶりの復帰戦となるミオシッチ。当然下馬評は圧倒的にJJ有利だ。

が、もしミオシッチが王者時代に劣らぬコンディションでJJの前に現れれば話は別だ。全てに卓越した王者JJだが、最大の武器はレスリングをベースとした圧巻のグラップリング力。相手が組みを警戒するからこそ、JJはスタンドでオクタゴン中央を取りプレッシャーをかけつつ、他の追従を許さない創造性に溢れた攻撃を交えて距離を支配することができる。

ただし体格に勝りレスリングにも長けたミオシッチは、JJのテイクダウンを恐れずスタンドで逆に圧をかけてくるだろう。仮にミオシッチがJJのテイクダウンや寝技を凌ぎ、スタンドで前に出る展開が生まれれば、俄然試合は興味深いものとなる。アルロフスキー、ヴェウドゥム、オーフレイム、ドスサントスといった名だたるヘビー級王者たちを沈めてきた一撃必殺の右を持つミオシッチの圧力を、手を開いた柔らかい構えと関節蹴り等独自の武器を用いて間合いを作る──しかしライトヘビー時代の機動力はないと思われる──JJがいかに捌くのか。

ここで忘れてはならないのは、苦境に陥った時の強さこそがJJの真骨頂だということだ。かつてJJは、1度目のアレクサンダー・グスタフソン戦ドミニク・レイエス戦で前半は思うようにテイクダウンを取れず大苦戦を強いられたことがある。が、いずれも後半に驚くべき精神力とスタミナを発揮。何より勝利への執着心が試される極限状況下にて、前に出て挑戦者を削り続けて圧倒して逆転勝利をもぎ取っている。

また、JJと組技の練習を重ねる世界最強のグラップラー、ゴードン・ライアンは、「グラップリングのみの練習でも、ジョンは展開に応じて直感的にゲームプランを変えることができるんだ。また、一つのことを教えると、たちまちそれを別の部分でも応用できてしまう」とJJの真の強さは試合中の適応力や応用力にあると語る。

試合が競った展開になればなるほど、JJの恐るべき勝利への執念、適応力、創造力を我々が目にする可能性は高まる。

今回、JJ自身も己の全てを出し尽くすフルラウンドの戦いを予期している模様だ。「お互いにとって長い夜になるだろう。相手の心臓を皿に盛りつけてみんなの前で食らうのは格別だ。奴を深海に引き摺り込んで溺死させてやる。スタイプの技術じゃなく、心臓に襲いかかるつもりだ」と、心にダークサイドを秘めた者ならではの発言でその覚悟を語っている。

相手を罵ることはもちろん、試合前には多くを語りたがらないミオシッチも「ライトヘビーで戦ってきたジョンは、俺のような相手と戦ったことはない。試合が開始すればすぐに体感するはずだ」と自信をのぞかせている。

適正階級ではない怪我上がりの38歳と、3年8ヶ月ぶりに戦う42歳の戦いでありつつも、まごうことなきMMAレジェンド二人による重量級スーパーファイトであるこの試合。UFCヘビー級最多防衛記録を持つミオシッチが、MMA史上最高のファイターと呼び声高いJJを追い詰めることで、その奥深くにさらに眠っている力が呼び覚まされる──そんな極限の戦いを期待したい。

■視聴方法(予定)
11月17日(日・日本時間)
午後8時00分~UFC FIGHT PASS
午前11時~PPV
午後7時 30分~U-NEXT

■UFC309対戦カード

<UFC世界ライトヘビー級選手権試合/5分5R>
[王者] ジョン・ジョーンズ(米国)
[挑戦者] スタイプ・ミオシッチ(米国)

<ライト級/5分5R>
シャーウス・オリヴェイラ(ブラジル)
マイケル・チャンドラー(米国)

<ミドル級/5分3R>
ボー・ニコル(米国)
ポール・クレイグ(英国)

<女子フライ級/5分3R>
カリーニ・シウバ(ブラジル)
ヴィヴィアニ・アロージョ(ブラジル)

<ライト級/5分3R>
マウリシオ・ルフィ(ブラジル)
ハメ・ジョントップ(ペルー)

<バンタム級/5分3R>
ジョナサン・マルチネス(米国)
マーカス・マギー(米国)

<ミドル級/5分3R>
クリス・ウェイドマン(米国)
エリク・アンダース(米国)

<ライト級/5分3R>
ジム・ミラー(米国)
デイモン・ジャクソン(米国)

<フェザー級/5分3R>
ロベルト・ロメロ(メキシコ)
デヴィッド・オナマ(ウガンダ)

<ヘビー級/5分3R>
マルチン・ティブラ(ポーランド)
ジョナタ・ジニス(ブラジル)

<ウェルター級/5分3R>
ミッキー・ガル(米国)
ラミズ・ブラヒメジ(米国)

<ウェルター級/5分3R>
オーバン・エリオット(英国)
バシル・ホフェス(米国)

<女子フライ級/5分3R>
ベロニカ・ハルディ(ベネズエラ)
エドゥアルダ・モウラ(ブラジル)

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【UFC309】UFC300の次はMSG、6勝6フィニッシュのNCAA3冠=ボー・ニコル「マッシブなポスチャーを」

【写真】とても穏やか。そして拙い英語へもPatienceしてくれます (C)MMAPLANET

16日(土・現地時間)、ニューヨーク州ニューヨークシティのマジソン・スクエア・ガーデンでUFC 309「Jones vs Miocic」が開催される。
Text by Manabu Takashima

同大会のメインカード、コメイン前でキャリア7戦目、UFCでは4戦目となるボー・ニコルがポール・クレイグと戦う。NCAAを制すること3度、MMAに転向後は5試合連続で初回フィニッシュ。前回のUFC300におけるコディ・ブランデージ戦で初めて2Rを経験も、全試合フィニッシュ記録は更新している。

ガードからの三角絞めと腕十字に特別な強さを見せるクレイグ戦を前にニコルにインタビューをすると、MSGで戦うことの特別さが伝わってきた。


──今週末のポール・クレイグ戦に向けて、今の気持ちを教えてください。

「最高の気分だよ。ただ減量という一番気が滅入る時間帯を向けているけどね。そこ以外は何かも素晴らしいよ」

──NCAAを3度制したレスラーなので減量は手慣れたモノという印象があるのですが、それでもやはり気が滅入るものなのですね。当日計量だったレスラー時代と、前日計量のMMAとはまた違うものですか。

「そりゃあレスリング時代の方がきつかったね。試合まで時間もなくて、リカバリーもそれほどできない。と同時に、レスリングではMMAほど体重を落とさない。レスリングもMMAも直接比較すると楽な部分もどちらにもある。でも、全てをひっくるめるとレスリングの減量の方がしんどいね。とにかく計量後1時間で試合が始まる。これはタフだよ」

──ではMMAを戦うようになってリカバリーには、レスリング時代にない知識も必要になったということは?

「そこに関しては、凄く科学的な減量方法を取り入れているから問題ないよ。確かに細かい失敗はあったけど、全ての経験が生きてきている。毎回、しっかりとその時に合ったカットとリカバリーをしてきたしね」

──ところで前回の試合は初めて2Rを経験しました。5分以上戦ってどのような印象を持ちましたか。

「ハハハハ。いう間でもなく、良い経験になったよ。ケージの中に以前より長くいることができたのは良かった。9分間戦っても何も問題はないばかりか、より動けることが確認できたんだ。フレッシュなままだったよ。コンディションとスタミナに自信が持てるようになった」

──押忍。前回のUFC300は誰もが認める歴史的なショーでした。そして今回はMSGでのファイトになります。28歳のボーにとって、MSGで戦うことは特別なのでしょうか。

「そりゃあそうさ。この機会を得られたことは、最高に光栄に感じている。ものすごく歴史のある会場……MMAだけでなくバスケットボール、アイスホッケー、ボクシングの名勝負が繰り広げられた来た。ガーデンに一歩足を踏み入れると、その伝統と威厳が感じられるんだ。そういうエネルギーを得て、今週末は戦えると思うとワクワクしてくるよ。

ただ大観衆の前で戦うのとは、違う。なんというのか、特別な感覚……それを心の底から感じられそうだ。確かに米国にはもっと大きくて、近代的な会場も増えている。スフィアなんて、その最たるものだよね。

ただニューヨーク、マンハッタンのど真ん中で戦うことは特別だ。アリーナの壁に飾れた数々のポスターからも、あの場で何が行われたのかが伝わってくる。その歴史の重みは皆が共有しているんだよね。今回の試合にサインしたことを伝えると、皆が『おぉ!! MSGで戦うのか!!』って興奮していたから」

──米国の人は格別、その感覚を持っているのでしょうね。そのMSGで戦う相手ポール・クレイグは、ボトムからの三角絞めと腕十字に特別な強さを見せるファイターです。

「危険な相手だ。UFCにおける戦績を見ても、それが証明されている。経験に裏付けされたサブミッションの使い手で、僕としては冷静かつ自信を持って戦う必要がある。焦って戦いたくない。過去に経験したたことがない試合になるだろうから、我慢強く戦うことが自分を助けてくれると思う。それでも、しっかりとポジションを考えて戦うと、サブミッションの餌食なることはないだろう」

ポール・クレイグはUFCで9勝8敗。4試合が三角絞めで勝っている(C)Zuffa/UFC

──ボーも既に仕留め方を心得ているかと思います。

ただし、ボーはレスラーです。テイクダウンからトップコントロールという常套手段が、クレイグの望む戦場になるということが特異な状況です。

「アームバーやトライアングルをセットするまでに、上手くパンチやエルボーを使っている。辛抱強く、三角絞めや腕十字の機会が訪れるのを待つことができるファイターだ。その時が来たら、全力でフィニッシュに掛かる。その機会を与えない。それが僕に必要になってくることは間違いない。あのハイガードを取れないと、彼にはチャンスはない。そのためのコントロールを僕ができるのかだよ」

(C)Zuffa/UFC

──ボーのポスチャーに要注目です。

「そこはしっかりと、やってきた。ポスチャーが悪くて、頭が下がっていることを僕らはデンジャーゾーンと呼んでいるんだ。しっかりとポスチャーができていれば、打撃を叩きこむことができる。ポスチャーに関しては、トレーニングキャンプの軸だったといえる。徹底的に考え、対策をこうじてきた。マッシブなポスチャーを見せるよ」

──ただ寝技に付き合わない戦いもMMAには存在しています。

「つまりは打撃だよね。今回のファイトキャンプ以前から、最高のコーチの下でストライキングを学んできた。打撃に関しては、僕にアドバンテージがある。彼の方が経験値は高いけど、僕の方が若くて速く、パワーもある。スタンドでの勢いのある打撃のある攻防は、ポールの弱点だ。立ち技は絶対的に僕の方が上だよ。

テイクダウンの機会があればするし。そうでなかったとしても、どの局面でも問題ない。それだけファイトキャンプで準備は整えてきたからね」

──ボー、今週末の試合を楽しみにしています。最後に日本のファンにメッセージをお願いできますか。

「UFC309を日本のファンにも楽しんでもらいたい。いつか日本を訪れて東京、地方、富士山に行きたいんだ。僕はMMAもそうだし、日本のレスリングの大ファンでもあるんだ。レスリング時代はタツヒロ・ヨネミツ(米満達弘。2012年ロンド五輪フリースタイル66キロ級金メダリスト)、今はリンヤ・ナカムラ、キョージ・ホリグチという友人がいる。日本のファンの応援に感謝しているよ」

■視聴方法(予定)
11月17日(日・日本時間)
午後8時00分~UFC FIGHT PASS
午前11時~PPV
午後7時 30分~U-NEXT

■UFC309対戦カード

<UFC世界ライトヘビー級選手権試合/5分5R>
[王者] ジョン・ジョーンズ(米国)
[挑戦者] スタイプ・ミオシッチ(米国)

<ライト級/5分5R>
シャーウス・オリヴェイラ(ブラジル)
マイケル・チャンドラー(米国)

<ミドル級/5分3R>
ボー・ニコル(米国)
ポール・クレイグ(英国)

<女子フライ級/5分3R>
カリーニ・シウバ(ブラジル)
ヴィヴィアニ・アロージョ(ブラジル)

<ライト級/5分3R>
マウリシオ・ルフィ(ブラジル)
ハメ・ジョントップ(ペルー)

<バンタム級/5分3R>
ジョナサン・マルチネス(米国)
マーカス・マギー(米国)

<ミドル級/5分3R>
クリス・ウェイドマン(米国)
エリク・アンダース(米国)

<ライト級/5分3R>
ジム・ミラー(米国)
デイモン・ジャクソン(米国)

<フェザー級/5分3R>
ロベルト・ロメロ(メキシコ)
デヴィッド・オナマ(ウガンダ)

<ヘビー級/5分3R>
マルチン・ティブラ(ポーランド)
ジョナタ・ジニス(ブラジル)

<ウェルター級/5分3R>
ミッキー・ガル(米国)
ラミズ・ブラヒメジ(米国)

<ウェルター級/5分3R>
オーバン・エリオット(英国)
バシル・ホフェス(米国)

<女子フライ級/5分3R>
ベロニカ・ハルディ(ベネズエラ)
エドゥアルダ・モウラ(ブラジル)

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MMA o ONE UFC   ジョン・ジョーンズ フランシス・ガヌー

11.16『UFC 309』のメインイベントはジョン・ジョーンズ vs. スティペ・ミオシッチのヘビー級タイトルマッチ



 UFCが11月16日にニューヨーク州ニューヨークのマジソン・スクエア・ガーデンで開催する『UFC 309』のメインイベントがジョン・ジョーンズ vs. スティペ・ミオシッチのヘビー級タイトルマッチになることを発表。

 ジョーンズは昨年3月の『UFC 285: Jones vs. Gane』で行われたヘビー級王座決定戦でシリル・ガーンに1Rギロチンチョークで勝利して以来の試合で今回が初防衛戦。

 ミオシッチは2021年3月の『UFC 260: Miocic vs. Ngannou 2』でフランシス・ガヌーに2R KO負けしヘビー級王座から陥落して以来3年8ヶ月ぶりの試合。現在UFCヘビー級ランキング8位。続きを読む・・・
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11.16『UFC 309』アレッシャンドリ・パントージャ vs. 朝倉海の画像が出回る/朝倉海「フェイクニュースが多いから正式発表をもう少し待ってね」

革命のアウトサイダー [ 朝倉海 ]


朝倉海、UFCデビュー戦から「レベルの高い選手」と対戦することを示唆(2024年08月15日)

 こちらの続報。


 MMA UNCENSOREDというアカウントが11月16日にニューヨーク州ニューヨークのマジソン・スクエア・ガーデンで開催する『UFC 309』の対戦カードとして以上の画像をアップ。上の方が切れていますが、メインカードがジョン・ジョーンズ vs. スティペ・ミオシッチのヘビー級タイトルマッチ、アレッシャンドリ・パントージャ vs. 朝倉海のフライ級タイトルマッチ、ジャン・ウェイリ vs. タティアナ・スアレスの女子ストロー級タイトルマッチ、コルビー・コヴィントン vs. ダスティン・ポイエー、デイヴィソン・フィゲイレド vs. ピョートル・ヤンとなっています。

UFC 309 - Nov. 16(Sherdog)

 しかしSherdogでは今のところ判明しているのは、ニキタ・クリロフ vs. アザマット・ムルザカノフ、ジョナサン・マルティネス vs. マーカス・マクギー、カリーニ・シウバ vs. ヴィヴィアニ・アラウージョ、ヴェロニカ・ハーディー vs. エドゥアルダ・モウラ、クリス・ワイドマン vs. エリク・アンダースの5試合のみです。

 当サイトは基本的にSherdogの他にいくつか信用できるサイトやアカウントの情報を紹介していますが、これはさすがに無視できないので一応紹介しました。MMA UNCENSOREDは信憑性の低い噂も含めて掲載しているのでしょう。



 この噂に対し、朝倉海はXでこんなコメントをしています。

カイ・カラ・フランス「UFCがカイという男(朝倉海)を連れてくるらしいが本物のカイは俺の方だ」「いきなりビッグネームと戦うなんて甘い考えは良くない」(2024年08月20日)

 しかし、朝倉海自身がUFCデビュー戦から「レベルの高い選手」と対戦することを示唆したり、先月カイ・カラ・フランスが「UFCが日本からカイ(朝倉)という男を連れて来ようとしていると聞いたが、本物のカイは俺の方だ」「俺とパントージャには歴史がある」とコメントしていることから、あながちデマとも言い切れません。続きを読む・・・
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【Special】月刊、良太郎のこの一番:特別編 ペレイラ×プロハースカ「武器を厳選して殺傷能力を上げる」

【写真】二度目のプロハースカはペレイラの格闘IQの高さが詰まったKO劇だった(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾というJ-MMA界の論客にMMAPLANET執筆陣がインタビューをしてきた「月刊、この一番」シリーズ。そこに新たに初代KNOCK OUT-BLACKウェルター級王者にして、立ち技・MMA問わず多くの選手を指導する良太郎も参加。MMAの主要選手はすべてチェックしているという打撃の専門家の目線でMMAを語ってもらう。

今回は良太郎が選んだ2024年7月の一番として、試合をセレクトしてもらう予定だったが、さっそく良太郎のこだわりがさく裂。どうしてもこの試合を語らせて欲しいということで──6月29日に行われたUFC303のアレックス・ポアタン・ぺレイラ×イリー・プロハースカについて語ろう。


――さて今回から「月刊、この一番」に良太郎選手にも参加していただくことになりました。当初、7月の大会から試合を選んでもらう予定だったのですが、良太郎選手の強い希望で6.29「UFC303」のアレックス・ペレイラとイリー・プロハースカの試合をセレクトしてもらいました。

「この話をいただいて、ペレイラとイリーの試合しかないよなと思って、映像を再チェックしてたら6月30日(※日本時間)だったんですよ。改めて7月の試合からも選ぼうと思ったんですけど、どうしてもペレイラのことを話したいので、第1回目から特別編になっちゃいますが、よろしくお願いします(笑)」

――そういうこだわりを語ってもらうのがこの連載の趣旨なので、全く問題ありません(笑)!では良太郎選手はこの試合を見て、どんな感想を持ちましたか。

「過去に一度両者が対戦していて、ややスクランブル的に決まった試合だと思うんですけど、僕は予想として普通にペレイラがいくだろうなと思っていました。ペレイラは武骨だし、器用には見えないんですけど、ものすごく格闘技IQが高い選手だということを再確認しました」

――どこにペレイラの格闘技IQの高さを感じましたか。

「ペレイラは自分の戦い方が確立していて、イリーはやや変則的で、一度目の対戦とは大差ない試合になると思っていたんです。それがいざ蓋を開けてみると、ペレイラが細かく段階を踏んでKOにつなげていて、すごく上手くなっているなと感じました。例えば一度目の対戦ではイリーがタックルのフェイントを入れて、スイッチしながら飛び込んでいて、そこでペレイラはスイッチヒッターにやってはいけない動きをしてしまって、打撃を被弾していました。

 それでも最終的にペレイラは右の縦拳アッパーからの左フックでKOしていて、今回の再戦にあたってイリーからすると一度倒されている恐怖心もあるし、右のカーフや左フックが強烈だという刷り込みもあったと思うんです。それもあって2度目の対戦ではペレイラのゾーンがより確立されているなと思いました。右のカーフでコツコツ削って、イリ―がスイッチしたら左の三日月蹴りを蹴って、またカーフを蹴る。これで完全に制空権を支配して、イリーがステップインして来たらバックステップして得意のスマッシュを合わせる。1R終了間際のダウンはまさにそれでしたよね」

――フィニッシュになった左ハイはいかがでしたか。

「あれも完璧でしたね。試合後にペレイラがコメントしていたように、あの左ハイは試合までに用意していたものではなくて、試合直前に流れたイリーのウォーミングアップの映像を見て、コーチたちと『イリーはカーフを蹴ると手が下がるから、ハイキックを蹴ろう』とセッションして、その場で左ハイを蹴ることを決めたそうなんです。直前でもそこまで相手のことを観察して、それをチームでセッションできる。本人はもちろん、そういう役割を担う参謀役もいるんだろうなと思います」

――直前にそこまでチームで作りこんでいたのはすごいですね。ちなになぜイリーはペレイラにカーフを蹴られて手を下げてしまったのでしょうか。

「もともとイリーはガードを上げない構えで、手を下げたところから差すようなパンチを打ったり、タックルのモーションを見せるんですね。それでペレイラにカーフを蹴られたらカットするのではなく、おそらくパンチを合わせようとしていたんだと思うんです。それで自然に手が下がってしまっていたんでしょうね。あとペレイラが左ハイを蹴った時、手が下がっていたイリーはペレイラの左足をすくおうとしているんですよ。あれは三日月蹴りを蹴られていたから、そういう蹴りが来ると思って左の蹴りをすくおうとしていたんだと思います」

――まさに計算しつくされた左ハイだった、と。

「ペレイラはペレイラで試合直前のアップで左ハイを蹴っていましたからね。前回はカーフを効かされたイリーがタックルに入っていましたが、今回はそれすらさせなかったですし、以前、Fight&Lifeの取材でペレイラのことを“ヘタウマ”と表現しましたが、制空権の支配はピカイチですね。そして必ず自分の勝ちパターンに持っていくところはすごいです。僕はペレイラのことが大好きで、もしかしたらペレイラは左利きのオーソドックスかなと思ったこともあったんですよ。セーム・シュルトも右利きのサウスポーだから、ジャブがストレート並みに強いというじゃないですか。でもペレイラがサインしているところを見ると右手でペンを持っていたので、右利きは右利きだと思うんですよね」

――そこまでチェックしていたんですね(笑)。

「はい(笑)。だから日々の積み重ねであの左を磨いたんだと思います」

――これでペレイラは3連勝、完全に勝ちパターンが確立されてきました。

「相手からしたらとてつもなく嫌ですよね。ただペレイラの戦い方は自分のフレーム、骨格、リーチ、得意不得意、年齢……そういうすべてのものを加味して、自分にしかできないことをやっていると思います。必要なことしかやらない=マイナスの練習をしながら、それが結果的にプラスになっている。持っている武器を厳選しつつ、その武器一つ一つの殺傷能力が上がっていますから」

――ある意味、達人的なところまでいきつつある選手でしょうか。

「そう思いますよ。実際に“触れたら倒せる”のところまで近づいているわけですし」

――UFCでミドル級とライトヘビー級を獲って、もしヘビー級まで獲ることになったら、いよいよ最強と言える選手になるのではないかなと思います。

「山の頂上が見えている選手ですよね。僕はずばりジョン・ジョーンズをぶつけてほしいですね。ペレイラは戦績はもちろん、武骨なキャラも浸透してきて、ファイターとしての色気もあるじゃないですか。みんなジョン・ジョーンズVSアレックス・ペレイラは見たいと思いますよ」

――ジョーンズは次戦で引退という報道もありましたが、なんとかこの夢のカードは実現して欲しいですね。そういうわけで今後もよろしくお願いいたします!

「次回はちゃんと8月の大会からセレクトします(笑)!」

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