【写真】ケージの外では、常に柔和な表情の本田(C)SHOJIRO KAMEIKE
7日(日)、東京都文京区の後楽園ホールで開催されるDEEP113 IMPACTで、本田良介×福田龍彌のDEEPフライ級GP決勝戦が行われる。
Text by Shojiro Kameike
昨年8月より実施されてきたフライ級GPで、本田は元DEEPストロー級王者の越智、現Grachanフライ級王者の松場貴志、そして元アウトサイダー王者の伊藤裕樹と、実績や知名度で上回る相手を下してきた。決勝の相手は、元修斗世界フライ級王者の福田だ。本田は今回のインタビューで、何度も「知名度」という言葉を口にした。強い者が勝つ。強い相手に勝つ。本田はこのGP決勝で、知名度を超えた格闘技の醍醐味を見せることができるか。
――昨年8月からDEEPフライ級GPが始まり、遂に決勝戦を迎えます。本田選手にとって、この9カ月はどのような期間でしたか。
「まずGPの話を聞いた時、勝てば次がある――ようやくプロらしい1年間を過ごすことができるんだなと思いました。『いつ試合があるかも分かっていない。それはプロと言えるのかどうか』とか、ずっと考えていたんです。別に専属の期間があったわけでもないので」
――本田選手が東京から故郷の福岡県に戻った頃、ちょうどコロナ禍が発生しました。そのなかで1年に1~2回試合のオファーがあるかどうかという生活は、ファイターとして不安が大きかったのでしょうか。
「そうですね。GPが始まる前は、『もっと試合がしたい』という気持ちでした。コロナ禍もありましたけど、もともとプロデビューしてから試合は年2回ぐらいのペースで。プロといっても、そんなものなのかな――と考えていましたね。ただ、他のチーム競技と比べて、コロナ禍でも自分なりの活動や練習はできていたと思うんです」
――コロナ禍に入った時、本田選手は30歳を迎えました。30歳といえば、自分の将来について考える時期でもあります。
「30歳になる前から、ずっと考えていましたよ。せっかちな性格なので(笑)。コロナ禍でも大会はあったわけじゃないですか。その中で試合に出られる選手と、出られない選手の線引きも分からなかったです。自分はどうなるのかな……、そう考えていた先に今回のGPがあって、僕もひと安心でした」
――コロナ禍の中でも試合に出られる選手と出られない選手の線引きについて、ご自身で考えたことはありますか。
「いやぁ、そこは深く考えませんでした。僕はそういう選手なんだろうな、って」
――……。
「呼ばれない選手っていうことですよね。この世界は結果が全てだから、その結果を受け入れないといけない。……うん、そういう感じです。ナメられている――というわけじゃないですけど、やっぱり東京との距離感はありますよね。地方にいると発言権もないというか」
――2021年からDEEPに出場して2連勝、しかし2022年に入って杉山廣平戦で敗れました。この時も『そこまでの選手なのかな……』と思ってしまったのではないですか。
「アハハハ、自分自身よりも周りにそう思わせちゃいました。僕自身は、あの試合で負けた要因を理解しています。だけど、やっぱり勝つしかないんですよね」
――その杉山戦の1カ月後にDEEPフライ級GPがスタートしました。わずか1カ月で立て直すことができていたのでしょうか。
「その要因以上に、越智(晴雄)さんとの試合前に大きな怪我しちゃって(苦笑)。正直、試合をキャンセルしても良かったと思います。でも負けたままでいるのが、すごく嫌で。相手は誰でも良い。とにかく勝ちたい。だから、やるしかないと思いました。福田選手もGPの途中で拳を骨折していたとインタビューで言っていましたよね。
『それでもやるしかない』という気持ちは、よく分かります。僕にとっては、何よりも勝ちたい。勝てば次がある。何だったら、負けた杉山選手とも再戦できる可能性が、GPにはあったじゃないですか。もともと『勝てば良い』というスタイルだったのが、その気持ちがより強くなりました」
――MMAがスポーツであるかぎり、勝利が最優先であることは当然です。だからこそ「勝たないと言えないこと」があるのも理解できます。
「もちろん試合ではフィニッシュを狙っていますよ。でも勝つために試合をするし、勝てば次があることで安心できますから。負けた選手はGPの途中で消えていく。勝った選手に注目度が集まる。フィニッシュはできなかったとしても、勝ちたいっていう自分の気持ちを乗せやすいスタイルで戦ってきたんじゃないかと思いますね」
――本田選手は自虐的に仰っていますが、そのスタイルで勝ち上がってきたことはインパクトが強いです。越智晴雄選手、松場貴志選手、そして伊藤裕樹選手を自分のスタイルにハメこんで勝利してきたわけですから。
「もちろん相手は全員スタイルが違うのでハメこむ方法も違いますけどね。ただ、同じ形に持って行って勝つというのは、まだ手を隠しているということなんですよ(笑)。もっと隠しているものがあるので」
――実は他のスタイルもあるのですか!
「それは次の試合を楽しみにしていてください。でも、ここに来ても僕はまだ知名度がないですよね。GPでも伏兵って呼ばれていたり(笑)。そんな僕が勝つことができて、『やったぁ!』という気持ちがあります。みんなは知名度ばかり求めているけど、僕は別に有名になりたいからMMAを始めたわけじゃなくて」
――では、何を目指してMMAを続けてきたのでしょうか。
「……そう言われると難しいですね(苦笑)。何を目指してきたんだろう? とにかく『やればできるんだぞ』というところを見せたかったです。証明というか、意地ですかね。
ずっと格闘技をやりたかった。でも『格闘技をやりたい』と口で言うだけのまま、年を食っちゃって。プロになっても試合数は少ないけど、だからといって格闘技を辞めるつもりはなかったです。ただ、知名度は……。勝つことで知名度が上がればいいと思っていました。勝って知名度も上がり、収入が増えれば良くて。
勝つことよりも先に知名度を求めるのではなく、自分のやりたいことで人に認められる。それを目指しているのかもしれないです。認められるためには、勝つしかないです。GPの試合も、勝ったことでは満足しています。『もっと、もっと』という気持ちは常に持っていますけど、1試合1試合『俺は頑張ったな』と自分で自分を褒めて――そういうセルフケアも大切です(笑)」
――アハハハ。『もっと、もっと』と考えるのは、どんな点ですか。
「試合が終わって『まだ体力が残っているなぁ』と感じた時に、だったらもっとラッシュの数を増やせばよかったなとは思いますね」
――えっ!? フルマラソンを走り切ったあとに、なおも体力が残っていることが驚きです。
「いやいや、全然です(苦笑)。でも相手にしてみれば嫌だとは思います。僕は知名度もなくて、GP前に負けているし、見た目も強そうではないじゃないですか。なのに試合では一つのミスを突かれて、そのまま持って行かれてしまうとか」
――ある意味、ギャップ萌えですね。
「ダハハハ! きっと相手も、試合が進んでいくにつれて『このままだとヤバイ』と焦っていくんですよね。たとえば越智さんは一緒に練習していたこともあって、焦っている時が分かります。松場戦ではスクランブルの時に、相手が嫌がることをしたんですよ。それに返してこなかったので『これは休みたくなっているんだな』と思いました。
僕は試合の時、常に0.5ポイントぐらいリードしていれば良いと考えていて。相手がミスをした時に削っていくと、0.5ポイントが貯まる。そのポイントが貯まっていくと、気づけば10ポイントぐらいに膨らんでいて、その結果勝つことができる。今は、一回削ると0.5ポイント貯まるところを、1ポイント以上に増やせるように練習しています。そうすれば、もっと明確に差をつけられるし、それだけ早く勝ちに繋がるので」
――なるほど。伊藤戦では、どのようなシーンで相手が嫌がったと感じましたか。
「最初に右ジャブを当てた時ですね。たぶん僕が打撃で行くとは思っていなかったんじゃないですか。右ジャブが当たって、そのあとは動きが固くなったので。僕としては『これはジャブが当たるんじゃないか』と考えていました。あんなに早く当たるとは予想していなかったけど、おかげで伊藤選手は組む前に焦っているように感じましたね。組んでポジションを取っていくと、さらに焦ってきて。
松場戦と伊藤戦で良かったのは、相手の得意なところで0.5ポイントの貯金を創ることができた点ですね。すると『ここで逆に自分が取られてしまうのか……』という焦りが生まれて、もっともっとポイントが貯まっていくという」
――次の福田戦では、同じ戦法が通用するでしょうか。
「そこを見てほしいです。福田選手の場合は、あのファイトスタイルにどんなテクニックを乗せて来るのか。それ次第で、僕が出すものも変わりますよね」
――それは本田選手も同じかと思います。本田選手も福田選手も、GPを通して毎回違うものを見せてきました。
「福田選手も試合のたびにスタンスや体の高さとか、いろいろ変えているじゃないですか。福田選手はパンチで削ってくるかもしれないけど、僕は全部を使って削りに行く。福田選手って、試合中に焦ることはない選手だと思うんですよ。今までいろんな試合をしてきて、どんな展開に対しても免疫を持っている。そこでお互い、どう削るのか。その幅が勝負を分けるような気がしています」
<この項、続く>
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