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BELLATOR Brave CF Bu et Sports de combat K-1 キム・テキュン ナルザン・アキシェフ ブログ 剛毅會 岩﨑達也 武術空手

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。キム・テキュン✖アキシェフ「斜と正面」

【写真】序盤は殴られ、2R以降は殴られなくなったというのは技術的な部分で、殴り合えるかというのは精神的──よりも、構造的なことが起因となっている (C)BRAVE CF

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たキム・テキュン✖ナルザン・アキシェフとは?!


──カザフスタンで開催されたBRAVE CFのメインで、韓国のキム・テキュンが地元のエース=ナルザン・アキシェフに初回にダウンを喫しながら、逆転勝ちを収めました。

「完全な打撃戦でしたね。カザフスタン人のアキシェフは根性がありましたね。まず最初のダウン、キム選手の構えはボクシングでした。ボクシングのセオリーとして相手と正対しないというのがありますよね。だから、初回にダウンを喫した時は『あっ、やられる』というのが分かりました。

ボクシングをしている選手にとって、あの斜め、斜に構えると間は対戦相手もモノになってしまいます。対して、空手は正面を向いて戦えというものです」

──キム・テキュンからすると、あの構で良いパンチが出せるのであれば、ボクシングの構えをとり続けるかと。

「ハイ。2Rになって分かりました。空手で正面に立つというのは、相手が動いても間合いを理解して立っています。ボクシングの構えも理屈は同じです。キム選手は2Rからパンチを貰わなくなりました。それはサークリングをしたからです。止まっていれば斜に構えようが、正面に構えようが要は同じだということですね」

──つまり、相手の攻撃に注意を払わないといけないということですね。初回にあのパンチを被弾したのは、は打撃でなくテイクダウンに来ると思っていたからかと。アキシェフはテイクダウンから寝技で勝負するタイプの選手だったので。

「なるほど、そういうことですね。アキシェフもあそこでミスをしました。倒したからパウンドで仕留めにいったのですが、あそこはスタンドに戻させていれば仕留めることができていたと思います。あと1発で倒すことができていた。でも実際はパウンドにいって自分が疲れてしまいました。寝技で凌がれ、結果的に完全にスタミナ切れを起こしました」

──キム・テキュンの攻撃よりも、疲れですか。

「もちろん、ダメージもあったかと思います。ただ2Rにドクターチェックが入り、アキシェフはスタミナを挽回できています。あの直後だけは、また勢いを取り戻しました。すぐに落ちましたが。ただ、あれだけ流血で顔面が真っ赤になっているのに、ずっと動こうとしていて、アキシェフは気持ちが強かったですね」

──その気持ちという部分なのですが、キム・テキュンはBRAVE CFと契約してカザフスタンでメインを入っている。試合という部分だけでなく、人生として気合が入っているかと。そうすると、自然とこのような試合が可能になるのか。その辺りのことを岩﨑さんはどのように捉えていますか。

「う~ん、精神的な部分ですね。それはもう関係するでしょう。しないわけがないというか……。BRAVE CFからUFCに選手はステップアップをしていますか」

──ハイ、特に中東ベースということもありUAE WarriorsとLFAはパンデミック禍で国際大会を開きアブダビのUFC Fight Island大会でオクタゴンデビューという選手はまま見られました。

「そこでキム選手は戦っているのですね」

──UAEWにもキム・ギョンピョ、ムン・ギボムという韓国人選手がいます。

「そして、日本人はいないと?」

──ハイ。

「あのう……なんていうのか、今UFCやUFCを目指そうおしている選手が戦うコンテンダーシリーズやLFA、このBRAVE CFで行われている試合と、日本のMMAは別競技に見えます。向うは要するに、打撃ですよね。打撃戦。それを組みや寝技ができる選手たちがやっている。もちろん組み技の練習も大切ですが、打撃という部分を見直す必要があるのかと。彼らとやりあえる打撃を使えるように」

──ただK-1やキックで日本人選手は結果を残しています。野球やサッカーでも対等にやりあうライバルですから、日本人がフィジカルで韓国人選手に圧倒的に劣っていたり、打撃で遅れを取ることはないと思います。

「ないです。ただし質量とは、エネルギーを沸騰させるものなんです。どこを見て、戦っているのか。その認識の違いは、試合に出ます。だから日本人選手は日本人を相手に殴れます。それが外国人になるとできなくなる。

日本は格闘技が盛んでした。UFCがちゃちいパンフを作っていたのが、立派なモノを印刷するようになった。ONEやBellator、このBRAVEを見ていてもPRIDEの影響を受けているのは明らかです。日本の影響を受けている。つまり、日本がMMAをリードしていたんです。

その良い記憶が、あまりにも鮮烈に残っている。それは今、育っている選手でなく指導者やプロモーションの人により残っているす。海の向こうにUFCを頂点としたえげつない戦いが存在しており、いくら選手がUFCに行きたいと口にしても、そこに本当に飛び込める人間がどれだけいるのか。指導者や関係者が、どれだけいるのか。

私の下には幸いにも、そんなところに挑もうとするバカが来てくれています。そんなバカだから、損得抜きにして強くなってほしいという想いになる。ジムにしてもプロを育てて経営上の利益など望めない。でも、強い選手を育てたいをいう酔狂な想いでやっている。そこで本気でバカのように目指せる選手でないと、口にするだけの選手にそこまで懸命になれないでしょう」

──プロを育て、UFCに挑む選手を育ててなおかつジム経営が健全である状況から必要になってくるわけですね。

「昔の良かった時代を今一度という想いでいることが、が悪いことだとは思いません。団体やジムの経営者として。悪くないから日本の総合格闘技とUFCを頂点としたMMAが、別モノになったという想いがするんです。話が戻るのですが、どれだけの人が本気でUFCに行きたいと発言してきたかということですね。そういう気持ちがあって、このキム・テキュンのようにBRAVEで、カザフスタンでもやってやるんだという覚悟があれば、日本の選手も外国人相手に練習通りの打撃が使える。殴り合いだってできるということはあるかと思っています」

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Bu et Sports de combat MMA ブログ 剛毅會 岩﨑達也 松嶋こよみ 武術空手

【Bu et Sports de combat】武術的な観点……フルコンタクト空手で見るMMA。下段回し蹴り

【写真】長い間、顔面パンチがないことによりMMAで効果的な蹴りは少ないと考えられてきたフルコンタクト空手の蹴りだが、カーフで負傷続出の状況でその有効性が分かってきた (C)MMAPLANET

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点──から、少し離れ、ダスティン・ポイエー✖コナー・マクレガーにも見られたカーフを蹴った選手が負傷するという事例の多さについて追及したい。

現代MMAの距離が80年代、90年代のフルコン空手の距離に近くなっている。当時のフルコンタクト空手は、この距離での蹴りの発達の顕著だった。進化の背景には足のどの位置で、相手のどの箇所を、どのような角度で蹴っていたのかという研鑽が日々行われていた。今回は、そんな当時のフルコンタクト空手の下段回し蹴りを実演した。


回し蹴りとは腰をまわすのではなく、脚の骨が回ることで角度を作る。そして相手を蹴る箇所によって、蹴り方が変わってくる。ただし、自身の足の当てる位置は変わらない。この3点を大前提として頭に留める。

脹脛への下段回し蹴り

ヒザからの下、カーフを蹴りたいのであれば脚をそれほど回転させずに、45度の角度で蹴る


自身の足を角材に例えると、脛骨の付け根の内側を角材の角とイメージして当てる


足首から爪先へいくほど弱くなる。ただし、靭帯のある部分で急所になるので必ず避ける


脛骨の付け根の内側で蹴ると、『ほとんどケガはしません』(岩﨑) しかし、当てる箇所を考えずに弱い箇所で当てると、痛める要因になる。また当てる位置はカーフ、インロー、太腿へのローでも変わらない

インロー

インローの場合は


カーフの角度で蹴ると、力が加わる方向が上になるので効かない


ヒザというのは上へ力には耐久力があるが、外側への力には弱い。この特性を理解し、カーフとは違い横にスライドさせてけるようにする

太腿への下段回し蹴り

フルコン空手で修得できた太腿への下段蹴り


70年代はカーフと同じ45度の蹴りで太腿を蹴っていたが、顔面への突きがあることを想定していた時代からフルコンルール内で勝つことを想定するようになり、距離が近づくように


こうなると、45度では腿の中心を捕えることができなくなり、蹴っても効かなくなった。その結果、中段回し蹴りの角度から途中で軌跡を変え、振り下ろす下段に変化した

漫然とローを蹴るのではなく──正しい位置を当てる。蹴る箇所によって、角度を変える。これらのことを意識することで、無暗な蹴りによる負傷は減少すると考えられる。

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Bu et Sports de combat MMA サンチン 剛毅會 岩﨑達也 武術空手 虎口

【Bu et Sports de combat】武術で勝つ。型の分解、サンチン編─14─虎口、分解組手で知る極め

【写真】サンチンにはここまで触れてこなかったが、極めが含まれている──が、MMAでこの動きをするということではない(C)MMAPLANET

武術でMMAを勝つ。空手でMMAに勝利する──型を重視する剛毅會の武術空手だが、岩﨑達也宗師は「型を使って戦うということではない」と断言する。型稽古とは自身の状態を知り、相手との関係を知るために欠かせないモノであって、その形で戦うことではない。

サンチン、ナイファンチ、セイサン、パッサイ、クーサンクーの型稽古を行う剛毅會では、まずサンチンから指導する。5種類の型稽古にあって、唯一サンチンのみが意味を吸いて吐くという意味での呼吸を学ぶことができる。

全ての根幹となる武術の呼吸を学ぶことができる──サンチンの解析、第14回は虎口の理解を深めるために、その分解空手を説明していきたい。今回は型の動きに含まれている極めという要素を紹介したい。

<サンチン解析第13回はコチラから>


相手が


右上段突きを打ってきたときに


左腕で、掛けて


突いてきた腕を極めつつ


右手で突くことができる。掛けて突くと同様に極めて突く動作となる。この場合も極めと突きを分断して『極めて・突く』とせず、『極めて突く』ようにする。極めて・突こうとすると、相手は動くことができる


反対向きから見ると、極められたことで松嶋は姿勢を乱し、顔面もがら空きになり入られていることが分かる


この時に腕を締めたり、掴んで極めようとすると


入ることができておらず、相手が腕を抜くことができる


反対側から見ると、両者の距離感、松嶋の姿勢から入られておらず、極められていないことが容易に理解できるはず。これだと松嶋は左の突きを出す状態になっている

つまり掴む行為が支点を作ることになり相手が動くことができるようになる。掴む、組むという行為は攻防が生まれ、武術ではなく格闘技、格闘競技となる

掴まず掛けて極める場合も、力を入れて締めると相手は腕を抜くことができるため、締めずに


相手が動いた時にまた極める

※今回は相手の内側(中)に入ったが、次回は外側に入る虎口の分解組手を紹介したい

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Bu et Sports de combat MMA コナー・マクレガー ダスティン・ポイエー ブログ 剛毅會 岩﨑達也 武術空手

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。ポイエー✖マクレガー「当てる箇所と角度」

【写真】左足で蹴り。左足を負傷。カーフを蹴って自ら負傷するという事例が、なぜMMAで多く見られるのか。そこにはMMAでは必要ないと思われてきた技術の欠如があった (C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たダスティン・ポイエー✖コナー・マクレガーとは?!


──1R終了前に足首負傷でマクレガーが試合続行不可能となりました。

「2度目のネイト・ディアス戦でマクレガーがサウスポーに対し、同じくサウスポーの構えから左ローを蹴りました。右足前の構えの相手に対し、右足前の構えから左のローを蹴るのは打撃格闘技でも有効な技です。

相手がサウスポーだと右の蹴りを蹴りたくなるのですが、自分の左サイドから来る蹴りは蹴られ慣れています。それが右サイド、それも遠くから蹴られる耐性はありません。奥足で蹴られることに対して」

──前足で蹴ると、カウンターを受けそうです。

「サウスポーの前足を、オーソの構えから左ローで蹴ると、距離が詰まっているので隙ができやすいですね。フルコン空手の場合は良いですが、顔面パンチがあると有効ではないです。

でもサウスポー同士で左のローを蹴っても、遠いから当たらないと思いがちです。それがマクレガーは躊躇なくて、蹴っていました。分かって蹴っているのか、たまたま得意だったのかは分からないです」

──その場合、角度が付き過ぎてパンチに繋げられない場合も出てきませんか。

「そこで言えば、できない人もいるでしょう。マクレガーはジョゼ・アルドを倒した時も、見事な下と上の連係を見せていました。ただし、米国の選手は上と下のバランスが悪い。時折り見られる蹴りの上手い選手は、切り替えの時にラグが生じます。

蹴りとパンチの時で重心が違うから、切り替える時にラグができることを嫌う選手は、左で蹴らないでしょうね。元々出来ていたのに、今回のマクレガーはそういう欠点がありました。

以前は居着いていなかったマクレガーが、居着くようになっています。ローはローで終わり、パンチはパンチで終わっている。2度ほど、この試合でもパンチが交錯しましたが、完全にポイエーの間でした。マクレガーは距離、タイミングを考えて出していない。考えないで思い切り振りまわすから、危なくてしょうがなかったです」

──考えないで蹴るから、足を負傷したということになりますか。

「ポイエーのカットでケガをしたとは思えないです。自爆した影響でしょう。オマリー✖モウティーニョ戦、ヤネス✖コスタ戦でも話したように距離的に80年代、90年代のフルコン空手の距離に似てきていています。その結果、あの頃のフルコンタクト空手は異常に蹴りが発達したのですが、その前段階として、どこをどういう風に当てていくのかという教えを受けることができていました。

考えて蹴らないといけないということを、常に言われていました。ヒジから先、ヒザから下は10年鍛えないと打てないという言葉が残っていますが、それだけ打った方、蹴った方もダメージも大きい。そこに特化した競技だったので、より考えてしました。毎日のように組手をしていたので、おかしな蹴り方をしていれば一貫の終わりです。足がもつわけがないんです。

だから、当てる箇所、当てる角度を徹底して指導され、身につけてきました。そんな40年前の技術が、今のMMAに生きる。それを実感できた試合でしたね」

フルコン空手で修得できた脹脛への下段蹴り

フルコン空手で修得できた太腿への下段蹴り

太腿への下段蹴りで、脹脛を狙うとどうなるのか……

※来月、フルコンの下段蹴りについて詳細をお届けします

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Bu et Sports de combat MMA UFC エイドリアン・ヤネス キック ショーン・オマリー ボクシング ランディ・コスタ 剛毅會 岩﨑達也 武術空手

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。ヤネス✖コスタ「1周回って40年前の技術が」

【写真】初回に全くハイキックが見えていなかったヤネスが、2Rに逆転KO勝ち。ここから見えてくる事象とは (C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たエイドリアン・ヤネス✖ランディ・コスタとは?!


──エイドリアン・ヤネス✖ランディ・コスタ、これも不思議な試合でした。

「なんで、急にコスタはやられたんですか?」

──いや、それを尋ねるためにこの試合をピックアップさせていただいたわけで(笑)。

「あぁ、そうですよね(笑)」

──いずれにせよ、ヤネスがあれだけ初回にハイキックの連打に晒されて危ないシーンがあるとは思いもしていなかったです。試合前のインタビューで『無駄打ちはしない』、『僕の動きには全て答がある。勢いで攻める選手は、その逆にしてやられることもある』と言っていたのですが……。

「その割にはハイキックをボンボン貰ってしまったということですね。あのコスタという選手は空手なんですかね」

──そうなのかもしれないですが、UFCで戦う以前の映像をチェックするとあれほど蹴りを使ってはいなかったです。

「アデミールって呼びたくなりますよね。あれだけ蹴っていると(笑)。ただ、MMAをやるうえで空手のような蹴りを使うようになったということも考えられますね。これはショーン・オマリーとモウティーニョの試合に通じているのですが、受け返しや捌きがまるで出来ていない。

今のボクシングの距離でないところでボクシングのパンチを使う打撃戦に蹴りという要素が加わってくると、フルコンタクト空手で見られた……MMAでは使えないだろうと思われていた技術がまるでないんです。

ヤネスがそれができていれば、あのハイキックは1発も貰わないものです。でも、ヤネスはボクシングが軸となった打撃の練習しかしていないのでしょうね。構えも大きなボクシンググローブをつけた構えで、蹴りがある競技の構えではなかったです。あれでは後ろ回し蹴り、下からの上段前蹴りも見ないです。

大きなグローブをつけたパンチに対する受け返しなんだと思います。彼がやってきていることは。でもコスタには蹴りがあった。そしてグローブもMMAグローブで小さい。素手やMMAグローブの打撃と、ボクシンググローブでは打撃はもう別物じゃないですか」

──ハイ。

「素手やMMAグローブだと、この方が良いという構えや受け方は存在しています。ただし、この受け返しや捌きに関しては武術的観点から見ると、私は真っ向から反対する立場を取っています」

──武術には攻防は必要ないからでしょうか。

「そうです。武術に攻防はあってはいけないです。だいたい受け返していると、入れない。私の考える究極の武術は受け返しでも、カウンターでもなく『入って』いくことです。それは居ついていたらできたい。受け返し、カウンターは居着いた行為でありそれは武術にはならない。ですが、この結論は受け返しをやってきた人間がある時を境に『これではダメだ、入れない』と思うようになった結果ですね。

受けも返しも、捌きも相手が攻撃することを合意している状態、つまり居着いた状態にあります。武術とは相手に攻撃させない、いわば相手だけ居つかせた状態にすることが一つの到達点ですから受け返し、捌きは否定しているんです。

それでも──入れない選手が、そこを使えないと『負けろ』と言っているようなもの。そんなバカな話はない。試合は武術なんて使えなくても、勝てば良いので。そうなった時に私にとっては原点も原点、40年前に習った技術を北米の最高峰で戦っている有望格が全く知らないことが分かりました。

ミドルを蹴って来られたら、こうやって受けて返します。後ろ回し蹴りを蹴ってきたら、こちら側にズレますよ──とか。ハイキックはこうやって防御しますよということが分かっていないんだなって。これがボクシンググローブをつけたキックなら、また話が違ってきます。

ただ素手やMMAグローブのような裸拳に近い状態で構えた時に一番有効な受け方、返し方、そして捌き方という技術が、ちょうどピッタリと今のMMAで使えるというのが、ホントに驚かされました」

──MMAに受け返し、捌きが必要だというのは、実はMMAが進化してきたから、それらが必要になったのではないかと……。

「その通りです。受け返しをやらなくても、蹴りの攻防で勝てていたのが、そこを身につけていないと勝てなくなってきた。あっ、でも私がここで言っている受け返しや捌きは、今のフルコンで見られるモノではないです。70年代、80年代のフルコンで見られた技術です」

──つまり当時の極真空手は、ルールでは禁じられていても顔面殴打があったらどうなるのかを考慮して戦っていたから、今のMMAで使えるということですか。

「そうです。それが90年代になって、ルールで禁じられたモノを考慮するよりも、このルールで勝たないとしょうがねぇだろうという風潮になり、顔面パンチがあればということは無視された技術が発展していったのです。

そうなる以前、『顔面パンチがあれば、こうだよな』とかやってきた技術体系が、今になってMMAに生きる。それがあれば勝てるとは言わないですけど、使えるということなんです。巡り巡って、1周回ったということなのでしょうね」

──ただし、ハイへの受け返しができていないヤネスが逆転勝ちを収めした。なぜ、コスタはあのまま攻勢を維持できなかったのか。

「マネージメントができていないことはあるでしょうね。何もハイが当たっているからって、ハイばかり蹴る必要はないです。完全にヤネスの意識はハイキックにいっているのだからミドルでもローでもいくらでも当たるのに。それを手っ取り早く頭を蹴って終わらせようとしてしまったのか。結果、粘られてしまって心が折れたのか。

1Rの終盤にはもうコスタの質量は落ちました。足が上がらなくなっていて。そういうところをヤネスは見えているじゃないでしょうか。技術的にはヤネスはハイを捌くことはできていない。できていれば、すぐに倒せていたでしょうね。それでも、あの状態で勝負をモノにしてしまうのは──彼は勝負の本質を理解しているのかもしれないです。技術云々でないところで、『こんな蹴りは、すぐに使えなくなる』ということが分かっている。

彼はコスタと違って、マネージメントができている。そして倒せる。倒すのもマネージメントの一つの形ですから。倒そうとしたところで、倒されることはいくらでもある。それが分かっているのでしょう。ヤネスというファイターは、上にいっても勝てる選手になる可能性を持っています。試合のなかで起きたことへの処理能力を兼ね備えている。優秀なアスリートなんです」

──ハイキックが見えていなくても?

「ハイキックが受けられないのは、一つの要素です。彼がこのままで良いと思うなら、そのままやれば良いですし。でも腕前は、挙げた方が良い。そうすれば、もっと安定した戦い方ができるはず。それがまだできていなくても、結果的に勝った。ヤネスは上にいっても、トップの人間が戦い方を切り替えてくることを理解して戦えるでしょう。勝負どころを逃さない……そんなヤネスも15位に入っていない。UFCというのは、つくづく強くて当たり前の世界なんですね」

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Bu et Sports de combat UFC クリス・モウティーニョ ショーン・オマリー ブログ 剛毅會 岩﨑達也 武術空手

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。オマリー✖モウティーニョ「オマリーの穴」

【写真】非の打ち所がない勝利に見えたのだが…… (C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たショーン・オマリー✖クリス・モウティーニョとは?!


──注目のショーン・オマリーが、異様にタフなクリス・モウティーニョをなかなか倒せずとも、圧倒して最後は3RにTKO勝ちを収めました。

「MMAグローブをつけたキックボクシングになっていました。オマリーが下がり、モウティーニョが追いかける展開でした。間は常に下がった方が有利になります。ここで話してくるなかで追っている方の質量が高かったのは、私が覚えている限りタン・リーに負けたときのマーチン・ウェンに続き、このモウティーニョが2人目です。

なぜモウティーニョは質量が高いか、パンチを出さないからなんです。殴るため、蹴るためじゃなくて、ただ前に出ているから質量が高い。殺傷能力が高いと、オマリーが逃げて下がっていることになるので、出ている方の間になります。でもモウティーニョは何もしない。ただ前に出て、オマリーは下がって打っている。けど質量はモウティーニョが高いという変わった試合でした。

と同時に、あの何もしないで前に出ている状態だとモウティーニョは、オマリーのパンチが見えていたはずです。見えている打撃は、見えない打撃と比較すると我慢できます。

見えている打撃は1トンまで耐えることができても、見えない打撃はグラムでやられると言われています。だから、後ろから殴るパンチはそれだけ危険だということです。ここでいう『見えない』というのは視覚だけでなく、反応できないということが含まれています。ハンドスピードの速さだけを言っているのではなく、腹だと腹筋を締めることができない、顔面パンチへの反射ができていない。

それが見えていないということで、モウティーニョはきっと見えていたと思います。ただし、それを顔面に受けてやる人は初めて見ました(笑)。オマリーはそこで消耗してしまっていました。いわゆる打ち疲れです。試合後の息の粗さもマラソンの後のようでした。まぁモウティーニョも全く何もしないということではないので、オマリーはもう少しタイミングを考えて打つ必要があったかと。策はなかったのか──簡単にいうと、カウンターは取れなかったのかということですね」

──あれだけパンチを当てても、パンチは良くなかったと?

「モウティーニョの根性、打たれ強さが着目されがちですが、オマリーのパンチは良くなかったです」

──あれだけ当てているのに、ですか。

「モウティーニョが本当に手を出さないということもありましたが、オマリーはサークリングが悪いです。言ってみれば正面はサンチン、横だとナイファンチなのですが、彼のサイドステップから回る動きは非常に良くなかった。だからモウティーニョも追うことができました。

ここまで素晴らしい勝ち方をしてきたオマリーですが、前に出続けてくる相手に対して穴があることを露呈しましたね。この場合は互いに打ち合いになっても、自分が前に出ることが必要になってきます。モウティーニョはガードが、もの凄く悪くて前に出るだけなので、オマリーも前に出て打ち合いに持ち込めばカウンターも当たっていたはずです。

こういうと何ですが、米国のMMAファイターは殴れて、蹴ることができるのに、その上下のバンラスを非常に悪い。オランダ、ブラジル、タイの選手と比べると上下のバランスはとても悪いです。MMAなのに使うパンチが、一般的──普通のボクシングのようになっていて。

結果、MMAグローブをつけたキックボクシングをしているけど、距離はキックボクシングではない。組んでも切られるから組まないということが根本にはありますが、現状MMAはボクシングをしない距離、離れていてお互い核心に触れないでパンチと蹴りを出し合うことが主流になっています。

だからこそ、組みに対応できているのか。そこは本当に研究しないといけないです。ボクシングやキックができて、あの距離にいるのか。寝技ができるのに、寝技にいかないのと同じで」

──それでもショーン・オマリーは倒しています。

「そこは彼はずっと倒すつもりで戦っているというのはあるかと思います。どんな相手でもそうなのでしょう。オマリーが弱いわけじゃないし、素晴らしく強いです。でも、彼を倒す策がないわけでないことが、今回の試合で見えたと思います。

オマリーが常に持っている、倒すという想いもいつか『コイツは嫌だ』と思う時が来る。そうでなくてもピョートル・ヤンやジョゼ・アルドと戦うと、オマリーの打撃と真っ向から勝負しないで戦うということはできるかと思います。駆け引きを使える。ヤバイ攻撃を持っている相手に対するマネージメント能力が彼らにはあります。

最後まで倒しにいくオマリーは勝負に対し、清いと見るのか。マネージメント力がないと見るのか。上にいけばいくほど、強さだけでは勝てないですからね。ただし、そこに行くまでは倒す力を見せないと、チャンスがもらえない。それがUFCです。

だってオマリーは15位に入っていないんですよね……つまりはUFCのトップ同士の試合は、強いのは当たり前。そういう強い選手同士が戦って、勝つには何が必要となっているのか。

人智ではどうにもならないところで、天がどう決めるのか。それぐらいのモノだと思います。UFCのトップ同士の戦いというのは。だからオマリーが、このままの戦いをその時にできれば本当に凄いことです。凄いことですが、そんな人はなかなかいないはずです」

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Bu et Sports de combat MMA サンチン ブログ 剛毅會 岩﨑達也 松嶋こよみ 武術空手 虎口

【Bu et Sports de combat】武術で勝つ。型の分解、サンチン編─13─虎口、分解組手で知る型が伝えること

【写真】虎口の動作は、やはり空手と中国武術がつながっていると思わざるを得ない(C)MMAPLANET

武術でMMAを勝つ。空手でMMAに勝利する──型を重視する剛毅會の武術空手だが、岩﨑達也宗師は「型を使って戦うということではない」と断言する。型稽古とは自身の状態を知り、相手との関係を知るために欠かせないモノであって、その形で戦うことではない。

サンチン、ナイファンチ、セイサン、パッサイ、クーサンクーの型稽古を行う剛毅會では、まずサンチンから指導する。5種類の型稽古にあって、唯一サンチンのみが意味を吸いて吐くという意味での呼吸を学ぶことができる。

全ての根幹となる武術の呼吸を学ぶことができる──サンチンの解析、第13回は虎口の理解を深めるために、その分解空手を説明していきたい。

<サンチン解析第12回はコチラから>


相手が


右上段突きを打ってきたときに、


左腕で、掛けて防御しつつ


右手の


掌底で顔面を突く

※受けと攻撃が分断すると、攻防一体の意味を成さなくなる

虎口が難しい点は、左手で掛けて


突きを防御し


右手で掌底を顔面にいれる間に呼吸を止めないこと


呼吸が止まると、「掛けて=受けて」、「突く=返す」という風に遮断された動きになる


遮断された動きをすると、相手の2発目の攻撃を受けてしまう。つまり連続攻撃を遮断できない

遮断されない動きをするには──左手を掛けているときに、すでに右手の掌底の準備に入ること。車のハンドルを回す動きをイメージすると理解しやすい。「掛けて・突く」のではなく「掛けて突く」こと。「掛けて」と「突く」を分断しない。掛けているときには、突きが始まっている。逆をいえば、突きが始まる動作で掛けを行っているともいえる。つまり動きが途切れることがない、攻防一体の動作となる

この動作を連続写真で分解しても「掛けて・突く」と「掛けて突く」と違いの再現はほぼ無理だが、相手と距離が全く違ってくるのは明白だ。「掛けて・突く」では、相手の連続攻撃に入られるが、「掛けて突く」だと攻撃を受けず攻撃できる

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【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。イアン・ギャリー✖グラント「英国の脅威」

【写真】イアン・ギャリー、近い将来にUFCへ進むのであろうか。(C)CAGE WARRIORS

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たイアン・ギャリー✖ジャック・グラントとは?!


──今回、Cage Warriorsという大英帝国圏の大会から、ウェルター級王座決定戦=イアン・ギャリー✖ジャック・グラント戦の模様の解説をお願いします。

「はい。正直なところ初めて見た大会なのですが、このギャリーという選手は何歳ですか」

──21歳ですね。

「あれで、ですか……。途中で対戦相手となんか、喋っていなかったですか」

──はい(笑)。クリンチになると「お前、こんなことしたいのか?」、「誰も喜ばないぞ」とか言い合って、それで殴られると「これが好きだなんだ」と言い、「俺もだ」って返答して殴り続けたりしていました。

「アハハハハ。もうイッちゃっていますね。そうなってきたのも、分かります。かなり煮詰まっていましたからね。ただし、もうぶっちゃけて言うと、相当なレベルです。気持ちもUFCの上のほうの試合よりも、LFAやコンテンダーシリーズのようにハングリーで。英国を舐めちゃだめです。陽の沈まない国だったんだから。ところで、イアン・ギャリーは空手をやっていたのですか?」

──申し訳ないです。ボクシングをやっていたのは入ってきているのですが、蹴りに関しては分かりません。MMAが空手的になっているようなこともあるかもしれないです。

「あぁ、ボクシングですか。分かりました」

──?

「技術的には、ギャリーは下がれることが素晴らしいです。あの戦い方は自信がないとできない。倒すチャンスも、いくらでもありました。ただし、ボクシングのグローブだったら倒せるのかもしれないけど、MMAグローブでは倒しきれない。そういうパンチになっていますね。パンチの殺傷力はイマイチです。

それにしても、あの下がってジャブを入れたり、前足の蹴りは素晴らしいです。その一方で、打撃だけでなく何でもでき過ぎて、どうやって試合を組み立てていくのか、分からなくなっていったんだと思います。

先日、フィニッシャーとマネージャーという話をしましたが、ホドリゲスのようなファイターのほうがマネージメントとして、ギャリーを上回っています。

ただし、ギャリーは見る者を夢中にさせますよね。それと負けたジャック・グラントですか、あの選手は私には分からない寝技を次から次へと見せていました」

──確かにその通りだと思います。Xガードを狙ったり、サドルは当然でオールドスクールからノーポイント&サブオンリーの技術まで色々と駆使していました。MMAであそこまで競技柔術やノーギの技で勝負するファイターがタイトル戦線にくる。いやぁ、大英帝国のMMAソサイエティ、恐怖です。

「2人して、真剣勝負のエンターテイナーでしたね。ああやって戦う、その姿勢でUFCへ行きたいということを表しています。それにしても、前日にあったライト級タイトルマッチで勝ったジョー・マッコルガンにしても、考えさせられることは多いです。彼は決して上手くない。距離の取り方は下手なんです。それなのに前足がパタパタ動きながらでも、前に出てワンツーを打って倒すことができる。

ギャリーは距離の取り方は抜群です。でも、MMAグローブで倒せるパンチをこの試合では見せていなかった。だから、ギャリーのレンジコントロールとマッコルガンのパンチが合体すれば、すさまじいことになります。

それにしても英国で、こういうギャリーのようなプロモーションがスターにしたい選手という素材が生まれることは見逃せないです。第2のマクレガーを期待され、本人もそうなるためにハングリーです。あのグラントという相手の寝技を凌ぐことができ、あれだけの打撃がある。どれだけのことを普段の練習で積み上げてきたのか。ただし、色々とできるのも難しいことがあるんだと知りました。あれだけできる選手が、4Rと5Rに煮詰まってしまう。そういう意味では、これまでに見たことがないMMAでしたね。

志が高いから、あれだけなんでもできる。それを上手く処理できていないですが、そこを支えるMMA業界が英国にある。

こういうとアレですが、志が低いほうが努力しなくて楽なんです。ギャリーは志が高いから周囲からすれば、何をバカなことをやっているんだというぐらいの努力をしているでしょう。日本にもそういう人がいますよね。でもね、人生はそうやってバカなぐらい努力し、のめり込む奴が謳歌するんですよ。そういうバカが世の中を変える可能性を秘めています」

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【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。チェ・スンウ✖エロサ「前足の足の裏」

【写真】確かに『ぶん殴る』という意志が伝わってくるようなチェ・スンウ(C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たチェ・スンウ✖ジュリアン・エロサとは?!


──今回の試合は私どもから解説をお願いした形ではなく、岩﨑さんからチェ・スンウを取り上げたいという話でした。

「はい。この試合もチェ・スンウとエロサでは、質量に差がありました。ただし、日本人選手にあの試合ができるのかということなんです。日本人と韓国人、フィジカルもそこまで違わないのに、なぜ彼らはアレができてUFCと何人も契約しているのか」

──契約選手の数の差は市場の差もあるかと思います。一昨年12月のプサン大会はプサンの観光局がバックアップしていました。UFCを韓国が受け入れている状況が、契約選手との違いでもあるかと思います。もちろん、UFC好みのストライカーが多いのもあると思いますが……。

「その戦い方において違いの一つが、チェ・スンウの試合から見て取れることができました」

──違いというのは?

「それは足の裏なんです」

──……。足の裏ですか?

「はい。特に前足の足の裏です。日本人選手の多くが前足が、パタパタと動く。なぜ、そんな風に動くのか。それは足を止めないため。足が止まると、パンチを被弾するからという発想ですね。もう、この時点で防御の発想になっています。チェ・スンウはそんなに前足を動かしていないです。それは最初からぶん殴ろうという気持ちでいるからで。足の裏もパタパタと浮くことがないです」

──前提として、エロサという相手がそれを許しているという見方ができるかと思います。

「はい、相手は力不足です。そしてチェ・スンウはフィニッシャーです。前回のグレゴリー・ホドリゲスとの違いですね。だから、これもホドリゲスと同じように相手のレベルが上がり、さらにフィニッシャーの欧米人、ブラジル人を相手にしたときにできるのか──それは分からないです。しかし、エロサにはできています。

エロサは石原夜叉坊に敗れている選手ですが、それでも日本人でUFCという場でああいう風に戦えることができるのか……そこを考える必要があります。体格的にも骨格的にも、筋肉的にもそこまで差のない韓国人選手ができていることを、すぐにできる選手がどれだけいるのか」

──できない要因というのは、どう考えておられますか。

「韓国という国土は、常に大陸からの侵略に備えていたと思います。同じアジアでも中央アジア、あの地域の選手たちは土地を奪いあい、国家を形成してきた。そういう血生臭い歴史……今もロシアとウクライナの間でクリミア半島を取り合っています。取らないと取られる。そういう意識が根付いている。結果、やられる前にやってしまえという風潮が、日本人は彼らより欠けてしまっているのです。

日本では侵略されるかもしれないという背景を持っていたのは、沖縄だけだったかもしれないです。大和から侵略されるかもしれない。中国から侵略されるかもしれない。そこで空手が生まれたのは、偶然とは思えないです。少なくとも日本人と韓国人は、日本人とブラジル人や米国、ロシア人より近いです。だけども韓国人ファイターは臆さない。基本的に攻撃のことを考えている。

防御を第一に考える場合と攻撃のことを考えている場合では、質量は圧倒的に変わります。向かい合っているとエロサは、チェ・スンウのパンチのほうが強いことが分かっている。チェ・スンウも自分のパンチのほうが強いことが分かっている」

──フィニッシュの左フック。エロサも左を打って当たっているにも関わらず、チェ・スンウはガードをせずに打ち込んでKOしています。

「ようは韓国の選手とはDNAが違う。だから韓国人選手と同じことをしても、ダメなんです。チェ・スンウもロシア人にこれができるか。やって勝てるかといえば、また違ってきます。ただし、差があるのは筋力でないんです。それは呼吸です。これは断言できます」

──息を吸う、吐くの呼吸でない……阿吽の呼吸などの呼吸ですね。

サンチンで追及している呼吸ですね。日本のプロ野球とMLBも、この呼吸が違います。バットの振り方も違う。それは呼吸の違いなんです。だから、真似をしないで結果を残す選手が野球には存在しています。彼らのやっていることをやるのではなく、日本人には日本人のやり方があります。日本人のやりかたは、多くの欧米人は分からないはずです。彼らのやることを無視するのではなく、研究をしてどこを取り入れて、どこを取り入れないか。なんでも真似をしていてはいけないと思っています」

──つまりチェ・スンウは左フックでKOしましたが、見るべき点、真似るべき点は左フックではないと。

「左フックに着眼して、それを真似ても真似ることはできていないと思います。彼は前足をパタパタと動かしていないです。つまり、チェ・スンウは打つ重心です。前足を500グラムでも重くする。それだけで変わってくることは、多いです。見違えるほどです。ただし、その500グラムを置くことができない」

──それは?

「怖いからです。被弾したくない。ただし、その500グラムがあれば相手も無暗に出てこられなくなります。だから攻撃は最大の防御という言葉が生まれたんです。パタパタと動く、防御のため防御は却って危険です。間も相手になってしまいます。

空手でもMMAでも、どこを見るのか──左フックでKOしたことではなくて、なぜそうなったのかを見る。そのシーンから、動画を巻き戻してもらえると要因が見てくるはずです。結果でなくてプロセスを把握すると、自ずと理解できることは増えてきます。日本人選手は肉体的に近い韓国人選手ができていることを理解し、生かしていくべきだと思います」

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Bu et Sports de combat MMA UFC グレゴリー・ホドリゲス ジョシュア・フレムド 剛毅會 岩﨑達也 武術空手

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。ホドリゲス✖トドロビッチ「近未来のMMA」

【写真】誰を相手にしても、このマネージメント・ファイトをホドリゲスは展開できるのか(C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たグレゴリー・ホドリゲス✖ドゥスコ・トドロビッチとは?!


──グレゴリー・ホドリゲスは前回、ジョシュア・フレムドに勝利した試合で解説していただいた選手なのですが、フレムド戦の2週間後にUFCに出てドゥスコ・トドロビッチと対戦しました。『LFAでできていたことが、UFCでもできるのか』という疑問が、早くも検証できることになりました。

「そういう面でいえば、今回もホドリゲスは質量が高く、最後まで動きも良かったです。質量の差もありすぎました。ただし、対戦相手のトドロビッチは私が前回の彼の試合で言及した『UFCではどうなるか?』という点において、そのUFCレベルにはない選手でした。はっきり言って、弱かったです」

──確かにその通りかもしれないです。

「なのでマネージャーかフィニッシャーかということが、この試合の語るうえでの焦点になります。極端にいえば選手は、この2つのタイプに分かれると思います。フィニッシャーは一本、KOで勝つ選手。マネージャーは5分✖3Rをマネージメントして、ジャッジの裁定で勝つ選手です。

そしてマネージャーのほうが勝率は高いと思います。私は空手をやっていてフィニッシャーという感覚しかなかったです。フィニッシュできるかどうか、できなければ負けという考えだったので選手としては全然良くなかったと思います。勝率も悪いです。試合において一番必要なことは勝つこと。どれだけ僅差でも、反則だろうと──KOしなくても、一本取らなくても別に勝てば良い。選手というのは、そういう気持ちで戦いに臨んだほうが良いと思います。

マネージャーがどれだけ素晴らしい打撃、寝技、テイクダウンやスクランブルを持っていても、勝つための手段でしかないです。でも、それを使って勝とうとする。良い技を習うと、それで勝てると錯覚します。それはあり得ないことなのです」

──ホドリゲスはマネージメントに徹し、良い技を習ってもその技術で勝とうとしないといことでしょうか。

「これだけ力の差がある相手だし、ホドリゲスはフィニッシュしようと思えばいつでもできたはずです。彼は良いモノを本当に持っています。組みだって、この試合では負けていなかった。でも初回も2Rも終わらせようなんてしていない。壁につめてテイクダウンし、コントロールからパンチだってできたでしょう。でも、しない。ひたすらワンツー、ワンツー・スリー・フォーを打つ。そのパンチも非常に的確です。ダメージも与えていました。当然のように質量もずっと上です。

だから倒しに行かなくても、相手が倒れることもあるでしょう。それでも彼はいかなくて、しっかりとポイントを取る。3Rになると、逆転には一本、KOしかないトドロビッチは前に出ます」

──そうなると、倒すチャンスが増えます。

「でも、ホドリゲスはそうはしない。距離を取って、もう戦わないです。それしかできないから、こう戦っているわけではなくて。とはいえ今回の試合に関しては、実力差のある相手だから、ああいう風に戦えたという見方もできます」

──はい、その通りだと思います。

「では接戦になった時、ホドリゲスはどうなるのか。互角、相手のほうが強くなってきたとき、ホドリゲスのあのマネージメント感覚は本当に大切になってきます。持っている良いパンチが当たらないとき、彼はいったいどうするのか。それでもマネージメントしてくるのではないかと思うんです。

練習で『良いパンチだ』って褒めてもらえると、気持ちも乗るでしょう。でも試合で使えるとは限らない。だからこそ、こんなんもんは通用するわけはないという気持ちで練習しないといけない。そういう点から考えると、ホドリゲスの戦い方はありです。

いかないけどスコアを取っている戦いが、ギリギリの勝負でできるのか。1R、2Rをそうやって取って、3Rはビッグラウンドにならないように落とす。それは今のUFC、北米MMAの裁定基準で全然ありなんです。ホドリゲスは徹底して、そういう試合をしたのであればMMAの近未来を見たような気がします」

──日本ではTV格闘技など、「1Rと2R取っているのだから、3Rはフィニッシュを狙って」という見方が存在していました。自分は全く解せないままだったんです。なぜ勝っているのに、リスクは冒さないといけないのかと。

「それは選手の考え方ですね。それと興行主は違いますから。私も指導者だから、逃げろ──です(笑)。そういう点においても、ホドリゲスには底知れぬ深さがありました。能力という点での可能性でなくて、あのマネージメント力を誰を相手にも発揮できるのではないか……そうカマル・ウスマンにもコレができるんじゃないかと」

──おお、ならばホドリゲスは「武術的な観点で見るMMA」で常に追っていきたいですね。

「ハハハハ。試合はね、面白くないですよ。でも面白いか、面白くないかじゃない。どこを見ているのか。紙一重で勝つ奴が勝負事では、一番偉いんですよ。ホドリゲスがの相手がこれからフィニッシュしてくる選手ならば、よりマネージメントの効果を発揮するのか。見ていきましょう。

それと武術的な観点でいえば、打たないパンチにビビっている相手もいます。その場合は打たなくて良いです。これを内面の技といいます。打つ、蹴るという動作はやられるリスクも上がります。だから内面で攻撃して、外面ではしない。それを武術的には追及できます。ただし、ジャッジは裁定できない。それがMMAと武術の違いですね。内面で効果があっても、それは審判には分からない。MMAを戦う限り、そこも踏まえて戦う必要が出てきます」

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