【写真】変わらない堀口恭司と、変わった堀口恭司。その2つが見られたパッチー・ミックス戦だった (C)BELLATOR
MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。
武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは間、質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。
武術的観点に立って見たパッチー・ミックス堀口恭司とは?!
──堀口選手がBellatorで2連敗となりました。
「まず申し上げておきたいことは『だから何だ』ということです。武術的や技術的に見て、堀口選手に関しても、何かと問題点がある試合だったことは確かです。でも5分5Rがこれほど短く感じられることは過去になかった。それほどの試合でした。改めて堀口選手の意識レベルの高さが感じられた試合と言えます。
とはいえ質量的には1Rからミックスが上でした。あの体格差があっても、これまでは堀口選手が相手を動かしていた。相手の立場になると、動かされていました。だから質量も堀口選手が上で、リーチの違いなどを関係なく間が堀口選手だったんです。それが今回の試合は、最初からミックスに堀口選手が動かされていました」
──とはいえ初回をピンチを乗り切ろました。
「ハイ。ミックスは明らかに2Rにバテていましたね。だから体力を温存するファイトを中盤はしていました」
──2Rは落としても良いから、回復に努めているようには感じました。
「ハイ。3Rもそうです。ただし、ミックスのヒザ蹴りが腹に入りました。
あれこそ、我々が追及している置く打撃でした。理想のヒザ蹴りでした。そこまでペースを握っていた堀口選手が、あのヒザを受けて動きが一瞬止まりました。そして下がります。効いたかどうかは分からないですが、そういう動きになりました。するとミックスがミドルを続けたんです。それで完全に受けに回り、両ヒザをつけたようなダブルレッグで倒されてしまいます。
これまでの堀口選手の試合と比較しても、受けに回っていないと切れていた。そんなダブルレッグでした。正直、ミックスのパンチは脅威を感じることは一切なかったですが、あのスタンスだと蹴りは思い切り使えます。強い蹴りを出せる重心でした」
──動きをセーブしていたミックスを捕らえることができなかった。今回の堀口選手の打撃は、どこにこれまでと違いがあったのでしょうか。
「動きが変わりました。彼とチームが採った戦い方なのか、ケガと手術の影響なのかは分かりません。ただ今言ったヒザ蹴りも、以前の堀口選手なら貰っていなかったと思います」
──それは距離が近くなったということでしょうか。
「結果論としてそうかもしれないです。その位置で受けましたから。ただし、以前もあの距離になることはあった。それでも貰っていなかったです。あの距離があっても、あの場にはいなかったとうべきか。堀口選手は後ろの空間が使えていました。それが前しか、今回はなくなっていましたね」
──う~ん、どういうことでしょうか。
「相手と立ち会ったとき、前と後ろ、どちらの空間が多く存在するのかというと絶対的に後ろです。試合をする時は前にある空間を言うと、相手選手と奪い合っています。だから詰まってしまう。対して後ろは自分のモノです。自分の背後の空間を使えることで、距離でいえば遠い位置からの攻撃が有効になります。
弓矢でもゴムパチンコでも、後ろにグッと引いているからスピードと威力のある……勢いのある矢や玉が飛びます。それと同じで、前へ前へ攻撃しても、詰まってしまって後ろの空間を使える選手の攻撃力には敵わないんです。
仮に以前の堀口選手は1.5メートルの空間が使えていたとしたら、今回は前の空間ばかり使っていて1メートルの位置で止まってしまっていた。だから、あのヒザが受けてしまったと考えることができます。なのでオーバーハンドも、後ろを使えて飛び込んでいたパンチも、今回は見られなかった。堀口選手のパンチは伝統派のステップで、動いて養成したパワーを当てるというモノです。
我々が追及している、その場で養成したエネルギーを相手に届かせるのとは対極にある──距離が重視される突きです。それが今回の試合では後ろの空間を使っていなかったので、エネルギー伝達が機能していなかった。そういう部分で技術的に変化がありました。
駒が回っているのは回転によりエネルギーが生じているからです。回転が止まると、駒は倒れます。移動してパワーを得る攻撃というのは、つまりそういうことなんです。距離が短くなった。だから威力が減る。今回の堀口選手は、駒に例えると回転して得るエネルギーがなかったことになります。
対してミックスは右足前で、左足を使うことでエネルギーを養成できていた。結果、今回の試合はミックスの間になりました。だから最初のバック奪取もあったと思います。ミックスがストライカーなら、パンチを当てていたと考えることもできます。
堀口選手はついにはその場でパンチを振るうようになり、彼がこれまでKOしてきたのとは仕組みが違うパンチになっていました。ミックスは届いていても、効いていなかったと予想されます」
──なるほどぉ。堀口選手が、何らかの理由で以前と動きが変わった。それが良い方向でなく、悪い結果を招いたと。いやぁ、日本人選手が海外で通用するのか……という点でも、堀口選手のミックス戦の敗北は厳しいです。
「日本人選手でも、能力的に今の堀口選手より高い選手はいると思います。ただし、その選手たちがあの5Rの試合ができるか。きっとできないと思います。能力があっても。あの場で、あの状況で、あの相手に5分5R、あの厳しい戦いをやり抜く意志力が堀口選手にはあります。意志力が最終的に選手の行く末を決めると感じました。最終回にバックを取られて、胸を合わせた。あの状況で、あれができる選手がどれだけいるのか。勝ち負けとは別の部分で、あの一瞬に感動しました。あれで勝てるわけじゃない。でも、彼は戦い続けていた。
武術でMMAを見るという本質とは違いますが、それでも武術における質量とはエネルギーが根源にあるんです。
スポーツは筋力からエネルギーが養成されます。対して武術は心を根源にしているところがあります。素手と刃物で向き合うと、刃物を持っている方が質量は高いです。刃物を持っていない方はビビりますからね。どちらが受けに回らされているか。ビビったり、受けに回らされていると間合い──距離とタイミングは、攻撃している方のモノになります。傍から見た目の距離は同じです。でも、向き合っているとその現象は絶対です。
それは計り、タイマーやメジャーでは計れないモノなんです。計ると距離と時間は同じでも、質量の上下で時間も距離も変化しています。楽しい時間はすぐに過ぎて、辛い時間は長く感じる。それと同じことなんです。
技術的に今回の堀口選手は、以前と変わっていました。ただし堀口選手には他の多くの選手とは違う意志力があります。それは世界で勝つと目標設定が最初から高いことで持ち得た意志力です。今回の試合、堀口選手は敗れてはしまいましたが、MMAを世界で戦っていくには何が必要なのか。それを改めて気づかせてくれました」
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