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【Special】月刊、良太郎のこの一番:1月 プロハースカ×ヒル「対面して分かる懐の深さと独特の距離」

【写真】体の流れに任せたウニャウニャした動きの中には確固たる己のスタイルがある。それがプロハースカだ(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は良太郎氏が選んだ2025年1月の一番──1月18日に行われたUFC311のイリー・プロハースカ×ジャマール・ヒル、プロハースカの鮮やかな一撃が生んだKO劇を語らおう。


――1月の一番としてイリー・プロハースカ×ジャマール・ヒルの試合をピックアップしていただきました。この試合は日本でも活躍したプロハースカの見事なKO勝利でした。

「実は去年イリーが来日した時にミットを持ったことがあったんです。最初は1Rだけの予定だったのが、僕のことを気に入ってくれて、結局30分くらいミットを持ったんですけど(笑)。イリーのファイトスタイルは僕好みではあるのですが、正直試合を見ていて、彼のどこが強いのか分からない部分があった。でも実際に対峙してミットを持ってみると、技術のベースがしっかりしていて、ものすごく手が長くて懐が深い。またイリーはムエタイ上がりで首相撲もしっかり使えるので(打撃の)距離がゼロになっても首をロックしてヒジ・ヒザをガンガン入れてくる。僕がミットを持った時も首相撲からヒジをガンガン入れてきて、あの距離の打撃や攻防も上手かったですね

 ヒル戦で言うと、ヒルは基本的にはサウスポーでスイッチして戦うタイプ。イリーがダウンを奪った場面は、イリーがサウスポーにスイッチして相四つ同士になったところで、ヒルの右フックをスウェーバックして左ストレート→右フックのカウンターを当てて倒しました。ただ、そこまでのプロセスが完璧だったのかと言われると、結構ヒルの打撃を被弾しているんですよね。イリーは構えの左右関係なく、手で相手を触って距離感を取りながら戦うのですが、いかんせんスウェーバックが自分の首を後ろに下げるだけなので危ない避け方ではあるんですよ。現にそこを狙われてアレックス・ペレイラのKOされています。ただ今回はペレイラにやられたことをヒルにやり返したような形ですよね。

 打撃の距離感で言ったら、ヒルも良かった距離が何度かあったんです。でも、イリ―のように腰を落として手を伸ばして、いきなりパッと右ストレートで入ってくる。右ストレートを出しながら右足も前に出してサウスポーにスイッチする。そういう超変則型のスイッチャーとは相性が悪かったですね。もちろんイリーのフィニッシュブローは相当練り込んで打ってる打ち方だとは思います」

――プロハースカは武道家というイメージが強いですが、格闘技的にはムエタイのバックボーンが大きいんですね。

「相当ムエタイは活きていると思いますね。手の使い方とか、首相撲のロックとか、ケージ際でのヒジ・ヒザとか。自分の手を使ったボディワークのコントロールがすごく上手いです。そういうことも実際にミットを持った人じゃ分からないと思います。僕もそれまでは他の人たちと同じように『ウニャウニャしてるのになんか強いんだよな』と思っていたので(笑)」

――確かにウニャウニャしてますね(笑)。

「あれは自分がやられる可能性があるから、とてつもなく危険なんですよ。イリーのように色んなテクニックがあって、懐が深いからこそ出来るスタイルだと思います。ミットでも『そこから打つの?』と思うくらい遠いですし、イゴール(・タナベ)と目慣らしのスパーをやった時もやっぱり距離が遠いんですよね。それでいてあの技術体型なので、かなり独特の距離感だと思います。まだ反応速度もそこまで落ちてないですし」

――ガードを下げて一か八かで打ち合っているように見えますが、プロハースカ本人は相手のパンチが見えているのでしょうか。

「そこまで計算してやっているとは思わないですが、体の流れの通りにはやっていると思います。さっきも話したように、右ストレートを打ったら、そのまま右足を踏み込んでサウスポーにスイッチする。そうなった時にこれをやる…とか。ヒルの右フックに対してステップバックして左ストレートから返しの右フックを当てた場面も、あれは体に染みついた動きだと思います。で、展開的に相手が近づいてきたら首相撲を展開して距離をリセットも出来る、と。ペレイラと比べると、ペレイラはしっかり構えを作って、そのスタンスの中で戦う。イリーはスタンスを崩しながらも体の流れに合わせて戦う。その部分でイリーにとってペレイラは相性が悪いですよね。イリーがウニャウニャ動いても、ペレイラはそれを無視して同じ構えのままどんどん入ってきちゃうので」

――プロハースカのウニャウニャに動じないのがぺレイラだったということですね。

「そうです。ペレイラはイリーがいくらウニャウニャ動こうが、スイッチしようが、フェイントをかけてこようが、一切動じてなかったなので。逆にヒルに対してはイリーのウニャウニャした動きがばっちりとハマった感じです」

――ペレイラと同じようにプロハースカも自分の体型や持っている技術をミックスして自分のスタイルを作っているんですね。

「そう思います。僕はイリーがスイッチするのを知っていたので、ミットを持った時に『スイッチしてもOK』と言ったのですが、オーソドックスに構えた時に打つワンツーも綺麗なんですよ。試合ではウニャウニャ動くように見えますが、本人なりにしっかり統率が取れた動きがあるのだと思います」

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【RIZIN DECADE】大晦日からRIZIN2025年の展望を柏木さんに訊く─02─「一度リセットが必要になるかも」

【写真】これだって日本を強くするため(C)MMAPLANET

RIZIN DECADE=大晦日から2025年のRIZINフライ級&フェザー級戦線の動向を柏木信吾氏に占ってもらったインタビュー後編。
Text by Manabu Takashima

チャンピオン堀口恭司、扇久保博正という五輪3回出場のような長年のツートップに割り込もうとする神龍誠。その神龍を59キロ契約ながら大晦日に破ったホセ・トーレス、堀口のベルトに挑戦し濃密なMMAの攻防を見せたエンカジムーロ・ズールー、さらには11月の来日で勝利したトニー・ララミー&アリベク・カジャマトフと海外勢の充実が目立ってきた。

彼ら対抗しうる力を持ったフライ級ファイターはいるのか。そしてフライ級頂上決戦でトップに返り咲いたクレベル・コイケと、デビュー以来の無敗とフィニッシュ勝利を12に伸ばしたラシャブアリ・シェイドゥラエフを中心としたフライ級の動向は。

2025年の展望を語る氏は、日本の格闘技界の現状を理解した上でファイター、格闘家としての一番大切なモノは何なのか熱い言葉が続いた。切実、そして純度100パーセントの柏木節をお届けしよう。

<柏木信吾インタビューPart.01はコチラから>


──RIZINという大舞台で戦うことで、満足してしまうことがあるということですね。

「ハイ、そうなんです。でもアートを追い求めるって、そういうことなのかって思うんです。身近な存在でも、RIZINのスタッフであるデザイナーさんの仕事を見させてもらうと、完成形なんてないんです。『これで100パーセント』とかなくて。常にもっと上手くできると考えられていて。アレンジを加えて、より良い作品を創ろうとしています。ただ納期があるから、徹底的に追及をすることはできない」

──はい。作品でもあっても商品はそうなります。

「だからこそ、この世に出ている作品で満足をしているわけじゃない。納期があるから、ある程度で妥協をしている結果なんです。無限に時間があれば、永遠に一つの作品と向き合っているはずです。その意識を格闘家が持たなくて、どうするんだっていう話ですよ。

スポンサーがいて、月々に入ってくるお金の額も増えた。『なら、良いっかぁ』みたいな。知名度を上げて、YouTubeで食っていけるとか。そういう感覚になってしまうと、格闘家の本質から離れてくるのではないかと思います。いや、自分勝手なことを言っているのは理解していますよ。誰だって食っていかないといけないので」

──と同時に、食っていくための選択で強さを求める要素が減少してしまうなら、人々はその選手に魅せられることはないと思います。満たされて、以前のように求道的でなくなる。それは我々一般人のありようです。なぜ、人々はフィクションだろうが映画の主人公に魅せられるのか。泣いて、共感して。元気をもらうことができるのか。スクリーンのなかの主人公は、常人にはできないことをやってくれるからです。

「ハイ。強さを追求して、巨額の富を得る選手も存在しています。ジャパニーズMMAは、実力以外の部分……添加物を与えている。キャラ作りをして、演じてもらう。でも純粋に強さを求めている方が、やっぱり見入ってしまいます」

──とはいえ、演じきれれば立派なものかと。必要とされて、それをやり切る。選手も必要とされる方が幸せです。そこが榊原代表は非常に上手くないでしょうか(笑)。

「本当に人を輝かせることに、長けています。こういうとアレですけど、分不相応のモノでも分相応に見せることができます。それは日本の格闘技界の長けている部分だと思います。良いのか、悪いのかは別として」

──ある意味、良いことだと思います。求められた役割を全うし、ファイトマネーは既存のプロモーションより高い。そして人々に認知される。MMAをやってきて、報われたと思うことができる。ただし……。

「それで強さを求める姿勢が衰えるのは……というこうとですよね。良い生活ができるようなったことで、そこをはき違えてしまった選手はいるかと思います。そういうことがあると選手に対して、冷めてしまう。そこの部分は、そうですね。その点は選手も分かってほしいです。

それでいうとフライ級のストーリーは、軸に強さがある。堀口恭司が主人公なので。そこが大切なんです。軸となる人間が強くて本物だからこそ、遣り甲斐があります。だからこそ忖度なしに、強い奴らを呼ぶことができる。そこは凄く遣り甲斐があります」

──トニー・ララミー、アリベク・ガジャマトフと戦いたいという選手は現れましたか。

「ララミーはいます。ガジャマトフに関しては堀口選手、扇久保選手ですね。でもガジャマトフはまだ、分からないところも多いですよ」

──トップ2らしいです。そうなってくると、外国人対決も興味深くなってこないでしょうか。

「そこも堀口恭司に勝てるかもと、思われる外国人選手を連れてきてから……ですかね。ガジャマトフにはあと2試合、3試合はしてほしいです。それこそがストーリーじゃないかと」

──本当にカテゴリーとして、強さが軸にあることが浮き彫りになります。そうなると日本勢の強化、底上げが欠かせなくなってきます。

「面白い選手はいますよ。名前に言及するのは控えておきますが、少し成長を待ちたいという選手はいます」

──将来性でなく、現有勢力なら若松佑弥選手に和田竜光選手。藤田大和選手、そして伊藤盛一郎選手ですね。

「まぁONEと契約している選手は、ないものねだりになってしまいますからね。現実的でないことは、考えないように努めています。周囲を含めると思惑という言い方になってしまいますが、選手にはやりたいこともあるでしょうし。しょうがない部分はあります」

──では逆に現有勢力では?

「伊藤裕樹選手が強くなっていると思います。と同時にイ・ジョンヒョンはフィニッシュしてほしかった。そこは正直な気持ちです。それでも毎試合、強くなっているように見えます。

でも……日本勢の強化は、やはりビジネスを成立させないと難しい。IMMAFの世界大会を開いたウズベキスタンなんて、大統領が出てきて選手を激励しているんですよ。もう国がMMAに投資している。政策として、MMA振興が存在しているという。レバノンも10年以上、国ぐるみでアマMMAに投資している。そりゃあ、これからどんどん強くなってきます。5歳の時からMMAの英才教育を受けている。あと5年もすればそういう選手がどんどん出てくるでしょうね。

だってIMMAFで優勝したらUFCで通用する。そこを目指しているわけで。そんなところに対抗していくには……。世界的に見ても、MMAはビジネスとして成り立たせるのが難しい。だって、あのBellatorが無くなってしまうんですよ。PFLもトーナメント戦になりました」

──ONEも立ち技に重きが置かれている。つまりUFC以外は……。

「金になっていないということですよね。そこを踏まえて、日本にはこれだけ団体があって、選手の試合機会も多い。格闘技が好きな人たちも本当に多い。そのなかでも、ビジネスとして成立させるファイトが必要で、強さが軸になっていることと剥離がある。それが現実で。

じゃあ、どうすれば日本人は強くなれるのか。これは書かれると拙いですが、今の世代では難しい。揃って厳しい結果とが続き、一度リセットが必要になるかもしれないです。それでも強い選手を呼んで、高いレベルの試合を見せていかないと。目指すところが下がれば、全てがレベルダウンしてしまいます。そのためにも高見、レベルの高い試合が見られる環境を創り続けたいです」

(C)RIZIN FF

──フライ級と並び、外国勢力の台頭が目立つのがフェザー級です。

その頂点が鈴木千裕選手から、クレベル・コイケ選手に代わりました。

「正直、鈴木千裕選手の方がストーリーや展開は創りやすいです。でも、こうなったらクレベルのシェイドゥラフ攻略が見たくなります(笑)。負けていないから、シェイドゥラフは間違いを犯したことがないという勢いで攻めることができます」

──その攻撃力を柔術家ならではの防御能力の高さで対抗できるのか。逆に攻めてばかり来たシェイドゥラフのディフェンス力はどうなのか。

「めちゃくちゃ楽しみですね」

(C)RIZIN FF

──実現の方は?

「まだカードとして弱いですよ。でも、クレベルとシェイドゥラエフ戦が実現するのは、団体として正しい選択だと思います」

──一方でダウトベックはYA-MAN選手に勝利しましたが、打撃戦でひるんだ感も見せました。

(C)RIZIN FF

「まぁ、あれだけ殴っても前に出てきて強振をしてくる相手にテイクダウンを仕掛けたくなるのは、理解できます。

この試合で株を上げたのはYA-MAN選手で、ダウトベックではなかったです。ただ、日本人選手がYA-MAN選手と戦った際、どれだけテイクダウンできるのかというのはあります。同時にYA-MAN選手も技術力を向上させないと。打たれ強さが武器になっている状態のままだと、長続きはしないと思うので。

あの試合を見て平本蓮選手、鈴木千裕選手なら勝てるなという風に思ったファンの人も多いじゃないでしょうか。そういう風にイメージできるダウトベックの戦い方でした。とはいっても最大限の期待から、若干落ちたというレベルで。ダウトベックもまだまだナンボでも、いけると思っています」

──押忍。フライ級もフェザー級も2025年はさらに面白くなりそうです。ここで、締めと行きたいのですが、一つ。3月30日に高松大会で、井上直樹選手と元谷友貴選手がベルトを掛けて戦うことが決まっているバンタム級戦線ですが。

「福田龍彌選手ですね」

──ハイ。打撃で芦澤竜誠選手に勝った。これは特筆すべき勝利かと。

(C)RIZIN FF

「圧巻ですね。

福田龍彌選手からすると、MMAを舐めるなよっていうことだったのでしょうね。あの勝利でMMAファイターは勇気をもらうことができたかと。と同時に福田戦を受けた芦澤選手。ダウトベックと戦ったYA-MAN選手。シェイドゥラエフと戦った久保選手。彼らの心の強さから、MMAファイターは学ぶべきモノがあると思います。

MMAファイターは全てが分かるからこそ、『こいつには勝てない』と総合的な判断をするわけじゃないですか。だからシェイドゥラエフとやりたくないだとか、ダウトベックとは戦いたくないって断る。そんな総合格闘家のメンタリティは、理解できます」

──冬の時代を経験して、RIZINという舞台では負ける姿を晒したくないとうことでしょうか。

「今のRIZINに満足しているのであれば。強い外国人選手なんて、『わざわざ呼んでほしくない』と言いたくなるのも分かります。でも、そういう選手の要望に応えていると日本自体が弱くなる。日本の格闘技のレベルを下がってしまいます。居心地の良さをRIZINにキープしてほしいなら、後輩たちも誰も勝てなくなってしまいます。

そんな冬の時代を経験している扇久保選手は、ガジャマトフとも戦うと言います。扇久保選手はUFCファイターになって然りの選手です。TUFでランナーアップ、準優勝でした。本来なら契約されるべき選手でした。彼自身も今UFCで戦ってもやれると思っているでしょうし。だから「ジョン・ドットソンと戦いたい」、「ガジャマトフ、全然やります」、「ララミー? 楽勝」みたいな感じで。それは絶対的な自信があるからこそ、口にできることです」

──もう、そうなるとフライ級GPの機運はいよいよ高まったと断言しても良いでしょうか。

「GPはやったほうが良いです。やるなら今年です。それにホセ・トーレスに続く感じの選手を招聘して、扇久保選手にΦ♪§⇔БXЖ∵ωな、なんて思っています」

──何かむにょむにょ言われていて、聞き取れなかったですが(笑)。それにしてもRIZINフライ級が楽しみで、MMAPLANETだけが許されている柏木さんの下ネタが出る暇もなかったです。

「本当ですね(笑)。もうMMAの話が楽し過ぎて、〇ン〇もおとなしいままですよ」

──ハハハハハハ。最後に無理やり突っ込んでくれて、そこもありがとうございます。

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【RIZIN DEDADE】大晦日からRIZIN2025年の展望を柏木さんに訊く─01─「神龍選手は絶対に強くなる」

【写真】これも日本を強くするためです(C)MMAPLANET

RIZIN DECADE、大晦日は1年の集大成であり──新しい年のプロローグだ。
Text by Manabu Takashima

特に昨年9月から本格的に海外未知強勢の来日が始まったRIZINフライ級戦線に元UFCファイターというブランドをもってホセ・トーレスが乗り込んできたことは、2025年の──いよいよGPが実現するのではないかと噂される──フライ級の序章といえた。そんなフライ級の2試合から、柏木信吾氏に大晦日を振り替えてもらった。

柏木氏が、ホセ・トーレス×神龍誠=59キロ契約戦とRIZINフライ級選手権試合=堀口恭司×エンカジムーロ・ズールーの2試合に込めた想いと感じた手応えとは。


──今更ながらですが、明けましておめでとうございます(※取材は16日に行われた)。本年も宜しくお願いします。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

──大晦日大会まで本当にお忙しかったかと思いますが、年始は休めましたか。

「ハイ。おかげさまで1週間ほど休暇があり、家族で旅行に行かせてもらいました」

──それは良かったです!!  大晦日、RIZIN DECADEの前にFight & Lifeで2025年フェザー級の展望という取材をさせていただいたのですが、フェザー級と同様にMMAPLANETではフライ級戦線に注目をさせてもらってきました。6月からのフェザー級、9月以降のフライ級はUFCも含んだMMA全体の世界観のなかにある。従来のMMAPLANETの読者の皆さんも、絶対に好きなところだと感じています。

「おお、そうですか。見てくださっている方が、強さのベクトルで選手を評価してくれることは凄く良いことですよね。SNSの評判とかでなく、実際に試合で感じた強さで選手のことを評価してくれるようになった。それは本当に嬉しいです」

──あぁ、それは感じます。今は映画でも実際に見ていないのにSNSの評価が独り歩きする。それは格闘技を語るMMAファンにも感じられる部分ではあります。

「YouTubeのコメントも、最初のコメントをした人の意見がコメント欄の方向性を決めるってありますよね。皆、マジョリティでいたくて同じようなことを言う人が多い。それって僕も感じるところです。匿名でとりあえず流れに乗って、自分は多数派だ──みたいな」

──匿名でもマイノリティになれないのかと(笑)。

「ないんですよ。自分のXを見返していたら中村優作選手のヒロヤ戦後の会見で、高島さんの言った『負けたと思っていました』という言葉が切り抜かれて、ボロンチョに書かれていたところに目が留まって(笑)」

──あぁ、ありましたね(笑)。高校生の娘から「学校で友達から、お父さん大丈夫って言われたけど。何かしたの?」って尋ねられましたよ(笑)。

「あの時、高島さんを擁護した投稿をしたら僕まで凄く攻撃されて……」

──それはスミマセンでした。えっ、でも擁護してくれたのですが。それはありがとうございます。

「めっちゃしましたよ。切り抜きですし、選手と記者さんはちゃんとした人間関係があるから、そういう質問だってできる。切り抜きで評価はできないですよって。それでボコボコに叩かれました(笑)」

──いやあ、本当に申し訳なかったです。自分はXを見る度胸はないのですが、Xを読んでしまわないだけの気持ちの強さは持ち合わせているみたいで。本当に読まなかったんですよ。気持ちが良いモノでないのは絶対なので。

「ハハハハ」

──ただ、知人に「追従して俺のことを悪く言った関係者。俺を庇ってくれた業界の人間の名前だけは教えてくれ」って頼んで。その時は川尻(達也)さんと大沢(ケンジ)さんが庇ってくれたと聞いて、一生忘れないでいようと思いました。

「えぇ、僕の名前なかったですか。なんで? 僕が絶対に一番擁護していますよ。めちゃくちゃ頑張ったのに。普段、こんなに返信しないのにってぐらいに返信をして」

──重ねてありがとうございます。自分も今になって、凄く嬉しいです。そんなところで話を戻しますと、強さで選手が評価される世界観があるRIZINフライ級でホセ・トーレスが神龍誠選手に勝ちました。最終回、神龍選手が足関節を2度仕掛けた。これが本当に残念な敗戦の要因になったかと。

「あそこまで本当にイーブンでした。つまり、勝てた試合ですからね。変な話、ユニファイドの裁定基準ですらイーブンだったじゃないですか」

──ハイ。初回が神龍選手で、2Rがトーレスでした。

「本当に勝負の最終回でした。これは試合後に神龍選手本人にも伝えたのですが、イーブンだから何かインパクトを残す必要があって、流れを引き寄せようとした判断は正しかったです。フィニッシュ・ストロングということがありますし、何かしないといけない。それが分かっていた神龍選手は偉いです。ただ、その選択肢が足関節だったというのが……」

──しかも、2度です。1度目に防がれて、下に留まることがなかったことを良しとし、もう下になってはいけなかったはずです。

(C)RIZIN FF

「そこで2度、同じことを仕掛けて。

2度目は下になって、マウントを取られて殴られてしまいました。いや、勝てた試合ですよ。だから勿体ない」

──初回と同じことをしなかったのは、競り負けたのだという理解に落ち着きました。ただし、それは神龍選手個人の問題でなく、高次元での競り合い不足に陥っている日本全体の問題ではないのかと。

(C)RIZIN FF

「そこも本人に話しました。

最後の2分で競り負けた。これは扇久保(博正)戦と同じですよ──と。本当に差はなかったです。差がなくて、対等に立派な戦いができていた。でも、最後の2分で競り負けた。それがファイトIQによるものなのか、チーム力なのかは分からないですが……。繰り返しになりますが、何かをしないといけない状況で自分から創ろうとしたことは評価したいです。

それが足関節でなかったら。あるいは足関節でもキャッチまで入っている。自分を優位に置くことができれば勝っていた。そこの紙一重の差で負けました」

──テイクダウンして殴る。その選択でも構わないですか。

「良いと思います。それができていたのであれば」

(C)RIZIN FF

──確かに2Rからテイクダウン狙いは、少なくなっていました。

ホセ・トーレスの距離で打撃に応戦していて。

「本人は敗北後でも、足関節には自信を持っているようでした。『結構、良い感じだったんですよ。自分ではもうちょいだと思っていたんですよ』と言っていましたし。だからもう1度仕掛けたと。結果的にマウントを許してしまった。本当に微妙なところで負けている。マウントを許していなければ、勝っていたかもしれない。自分から仕掛けたけど……本当に難しいです。本人がどう思っているかは分からないですが、それを経験できたことは今後に大きく生きてくると思います。あのギリギリの攻防を試合で身をもって知ったので。ホセ・トーレスに競り負けた経験で、神龍選手はここからどんどん強くなれると思います」

──とはいってもRIZINのフライ級が2025年により盛り上がるには、神龍選手には勝利が必要だったかと……。現状の日本トップ3にはトーレスの上、他の日本勢がトップ3に挑むならトーレス越えが必要ですよという基準になるというか。そういう状態になってほしかった。

「そうなんですよね……。ここは勝っておくべきだった。そういう意味でも、勝ってほしかった。ただ本当に競り合っていたので、今言われたような位置にトーレスはいるという見方もできるかなと」

──「俺はトーレスに勝って神龍、扇久保と戦う」という選手に出てきてほしいということですね。

「でもホセ・トーレス、簡単じゃないですよ。あの2Rからも盛り返し、2Rの展開は面白かったです。初めて日本に来て、最後の調整にしても勝手が違ったはずです。何も分からない手探りの状況で、アレができるってさすがです。見事に流れを変えましたからね。

こういうと怒られるかもしれないけど、トーレス×神龍が一番面白かったです。MMAとして」

──おおおお。

「MMAの試合の完成度としては、ぶっちぎりでした。そうじゃなかったですか」

──堪能できました。と同時に59キロ契約です。トーレスはあと2キロ落ちるのか。

「いけそうですよ。本人はバンタム級でやってきたので不安もあったと思います。でも、全然大丈夫。アンダーできました。だから57キロの話をするのは現実的です。

トーレス自身が61キロで戦うと、渾身のパンチが当たっても効かないと言っていました。彼もフライ級でやっていきたいでしょうし。BRAVE CFで戦ってきたバンタム級、南アフリカのフィジカルモンスター(=ンコシ・ンデンベレ)には、そりゃあ効かないですよ。

だからフライ級に戻したいという意志をトーレスが持っていて。それはタイミング的にはRIZINとしても良かったです」

──そのフライ級のタイトル戦。ズールーが強く、また堀口恭司選手が強かった。

「堀口選手は強かった。それが試合というか、作業をして強いという印象を持ちました。その作業に対して、一つずつ対処していたズールーも評価したいです」

(C)RIZIN FF

──ハーフで、あの効かせるパウンドを落とせるのは堀口選手がATTでやってきたことの表れかと感じました。

立たせないで、コントロールをしている。それでいてダメージを与えることができる

「なるほど、そうですね。ズールーはスクランブルに持ち込める力があるファイターですしね。その技術も体力もある。でも堀口恭司は抑えながら殴って、削ることができた」

──日本でUFCを目指すと言っている選手、あるいはレスラーの誰にアレができるのかと。と同時に打たれ弱くなったという指摘も試合後には出ていました。

「ハイ。どう思います?」

──自分は逆に打たれ弱いとは思わなかったです。あの見えないところで左フックを被弾しながら、すぐに組みにいけたのですから。

(C)RIZIN FF

「あれはズールーを評価すべきですよ。

あのタイミングで打てるズールーを。しかも、アレは完全に狙っていました。見事に堀口対策を練ってきて、試合でも決めた。堀口選手にスクランブルを仕掛けることができるのもそうだし。

本当に対策を練ってきたんだなって。

(C)RIZIN FF

テイクダウンをされてもハーフにして、そこからスクランブルを創って立つ。

なんなら自分からテイクダウンを狙うとも言っていましたしね。なんでもできるんですよ。ただ、それから先に何があったのか。そこまでいかせなかったのが、堀口選手の強さでした」

──と同時にあれだけ組みで勝負する。やはり堀口選手のスタイルチェンジは感じられました。同時に軽量級ほど、耐久劣化は早いのではないかとも。

「それって反応とかの話ですか」

──ハイ。ズールーは年上でしたが、劣化がないようなキャリアの積み方で。だから国内の若い選手よりも、昨年の秋から始まった海外勢路線は堀口選手、扇久保選手も早々に巻き込んでしまうのではないかと。ただRIZINはふるい落とすためにあるフィーダーショーではない。日本人選手が勝たないといけない場です。

「そう、勝たないといけない。逃げられないんですから。だから、やるしかないんですよ。さっきも言いましたが、神龍誠はホセ・トーレスに競り負けた。でも、あの試合を経験したから確実に強くなる。いつも登山に例えて申し訳ないのですが、エベレストのヒラリーステップ(※エベレスト山頂付近の最後の難関といわれる絶壁)って、いくらイメージをしていても行かないと分からないじゃないですか。

富士山ばかり登っていても、想像もつかないわけで。予想はできても、実際にヒラリーステップに行ったのかと尋ねると、行ってないわけで。経験していないと、それに対する準備もできない。それがエベレストに行って、ヒラリーステップのヤバさを理解して登頂を断念する。でも、戻ってきて準備ができる状況になります。予想をしたときに、何が起こるのか見えている世界は現地に行った人間と、行っていない人間は確実に違う。

日本に戻ってきてから目に映るモノも変わっているだろうだし、生活習慣も変わると思います。目標が見えて、現実的に捉えることができるから。普段の練習、練習に対する向き合い方だって変わってくると思うんです。そういう変化がないなら、何を目指しているんだという話になるので。そういうことも踏まえて、やるしかないんですよ。もう逃げることはできないんですから」

──ホセ・トーレス×神龍誠、堀口恭司×ズールーはフライ級の選手に、世界と戦うということを真剣に見つめるきっかけになったのかと。

「考えるきっかけになってほしいです。ただ単に『強いから嫌だ』というのは違うだろうって。なんのために、格闘技をやっているのか。ヌルマゴがインタビューで『世界チャンピオンになるために、何よりも大切なことは犠牲だ』と言って話題になっているんですよね。『鍛錬じゃない。鍛錬では限界がある。犠牲を伴わないで強くなれる方法を俺は知らない』と」

──あぁ、凄まじい言葉ですね。

「ハイ。我々の求めるところじゃないですか。あれもやりたい、これもやりたいって誘惑の多い日本は、ご褒美も多いです。『家族に会いたいなら、会いに行けば良い。ここにいるべきじゃない』ともヌルマゴは言っていて。実際には彼はお父さんが亡くなって、お母さんの面倒を見るために引退しました。つまり自分は家族を優先した。もう戦うべきでないと、引退したんです。凄く一貫しているので、言葉が重いです。恰好をつけた口だけのセリフではない。鍛錬では補えないことがある。この言葉は日本人選手の皆に知ってほしいです」

──ハイ。その強さを求める、強さが評価されるフライ級の2試合ですが……大晦日にあってどのような評価を受けることができたのでしょうか。

「僕は凄く好きでしたけど、RIZIN内やRIZINのターゲットである世間様に、どれだけ突き刺さったのか。でも、あの2試合がしっかりとやれた。そしてワンサイドマッチでなかった。しっかりとしたMMAを15分間、見せてくれた。そこはすごく大きいと思っています。非常にマイノリティな意見かもしれないですが、RIZINの目指すフライ級はそこですから。『世界一のフライ級はRIZINじゃないの?』っていうロースターを創りたいです」

──パントージャ×朝倉海を見て、世界一がUFCであることは間違いないです。断言します。ただ、そういう気概を柏木さんは持っている。日本のフライ級を強くしてくれるのはRIZINではなく、柏木さんです。

「…………」

──非常に困った顔になってしまいましたが(笑)。

「まぁ強くなるのかどうか、それは選手次第です。自分は選手を育てる立場にあるわけではないので。ただ、そういう選手たちが世界イチになるためのしのぎ合いをする環境創りを自分はできる……そういう立場にいます。やっぱり格闘技を関わって、自分のことを格闘家と呼ぶなら強くなってほしい。強さを追求してほしい。現状に満足をしてはいけないです」

<この項、続く>

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【Gladiator029】令和の元寇、吉田開威と暫定バンタム級王座決定戦。シンバートル「羊肉と乳製品」

【写真】ムービーもスチールも関係ないと思われるほど、インタビュー中に動きがない。ある意味、モンゴルの不動心シンバートル(C)MMAPLANET

12日(日)、大阪府豊中市の176boxで開催されるGLADIATOR029でシンバートル・バットエルデネが吉田開威とGladiator暫定バンタム級王座決定戦を戦う。
Text Manabu Takashima

昨年10月にBreakthrough Combat旗揚げ戦では、キャリア3戦目ながら下馬評をひっくり返し吉野光に快勝したシンバートル。プロMMAデビューは2022年10月で、去年の5月には母国で元Gladiatorバンタム級王者テムーレン・アルギルマーを下している。

モンゴル相撲、レスリングをベースにMMAを戦うシンバートルはMMAの試合経験は少ない一方で、2023年と2024年の2年間でモンゴル国内ではキックボクシング、コンバットサンボでナショナルトーナメントで優勝し、散打とシュートボクシングで準優勝という結果を残している。

テイクダウン&グラウンドコントロールの強さで定評のある吉野の抑え込みを返したブリッジ、テイクダウンもしっかりと奪ったことで──僅か1試合で、国内での評価を絶対とした。

令和の元寇、盟友オトゴンバートル・ホルドバートル、ダギースレン・チャグナードルジと共にグラジのベルトをモンゴルに持って帰るべき戦うシンバートル。その強さの源はモンゴル相撲、羊肉、乳製品、そして乗馬だった。


モンゴルで漢として生まれたからには、モンゴル相撲と乗馬をするのが基本

――10月30日にBreakthrough Combat旗揚げ戦で吉野光選手に勝利し、一度は今大会で竹本啓哉選手戦のオファーがあったと伺っています。

「すぐにまた日本でデキることが決まって、信じられないほど嬉しかったです」

──吉野戦の勝利で、シンバートル選手の評価は爆上がりました。

「ヨシノ選手は、本当に強くて勉強になりました。そんな彼と良い試合ができて、良かったです。とにかく日本の人達に自分のことを知ってもらえて嬉しいです」

──あの試合、下になった時に右に左と逆方向にブリッジをして上を取っていた動きを中村倫也選手が絶賛していました。

「そうですか(微笑)」

──……(笑)。あのように相手を動かせて、上を取るということは練習でも意識しているのですか。

「抑えられた時に返す練習は、常にやっています。あの動きも練習通りの動きでした」

──凄まじい体力、そして体幹の強さを感じました。「羊肉を食らい、馬に乗った幼少期を過ごした選手は強い」。そんな柏木信吾氏の主張があるのですが、シンバートル選手も子供の頃に乗馬をされていたのでしょうか。

「乗馬はモンゴルの文化です。モンゴルで漢として生まれたからには、モンゴル相撲と乗馬をするのが基本です。自分はオブスゴル県という田舎で生まれ育ったので、馬に乗るのは生活の一部でした。今も田舎に戻ると、馬に乗っています。ナーダムのような特別な日には人間も馬も着飾っていますが、自分たちは子供の頃から暴れ馬を抑えることが役割だったので手綱も鞍もなく、裸の馬に乗っていました」

──それは……木登りどころでない、強靭な体を創り上げることができますね。

「(照れ笑いを浮かべるのみ)」

オトコンバートル こいつは質問しないと、返事をしないから(笑)。

──ハハハハ。なるほど、です。栄養価の高い羊の肉を食べて、裸の馬に乗る。よって強い肉体と絶妙なバランス感覚を養うことができたと思っていますか。

「その影響は大きいと思います。自分は勉強も好きでなかったですし、毎日のように草原で馬に乗っていたいという子供だったので。そして暇さえあれば、友達とモンゴル相撲をしていました。モンゴル相撲をして、羊の肉を食べて。お菓子も乳製品という生活をしてきたので、今の体が出来上がりました」

──そのモンゴル相撲の経験なのか、あれだけレスリングができても絶対的にアンダーフックという思考でもなく、クリンチの攻防でオーバーフックに取るところが、師匠のジャダンバ・ナラントンガラグに非常に似ていると思いました。

「それこそナラントンガラグ先生の指導の賜物です。アンダーフックを狙って来た相手の腕をオーバーフックで固定して、殴るんです。このオーバーフックはモンゴル相撲の一つの形ですね。相手の腕の自由をきかなくして、柔道でいう外無双や内無双を仕掛けるのがモンゴル相撲の特徴的な動きなので。そこはMMAでも使いやすいです」

自分はグラップリングでも打撃でも戦えるので

──そこにレスリングが融合し、かつ柔術的な動きが非常にスムーズだというのが──これも中村倫也選手のシンバートル評でした。

「自分のベースはレスリングですが、MMAはそれだけでは戦えないです。なのでグラップリング、柔術も凄く練習しています」

──それは道着を着ての柔術ですか。

「いえ、ノーギです。MMAのための練習なので、道着は着ません」

──では、次の試合に向けての話を聞かせてください。竹本選手との試合から、暫定王座決定戦で吉田選手と戦うというオファーを貰った時はどのような気持ちでしたか。

「自分はどのような試合でも受ける腹積もりでいます。なので対戦相手が代わっても、それほど影響はないです。それでもタケモト選手と戦う予定だったので、タケモト選手の映像をチェックして練習をしていました。タケモト選手に勝つために努力をしてきたのですが、やはり暫定王座を賭けて戦える方が嬉しいです」

──竹本選手と吉田選手、まるでタイプが違うファイターと戦うことになりましたが。

「確かにグラップリングが強い選手から、ストライカーに代わりました。ただ、特に問題ないです。自分はグラップリングでも打撃でも戦えるので。

(ここでインタビュー中に傍らにいたオトゴンバートルが、何やらモンゴル語でシンバートルに話しかけ)練習もいつも通りやっていますが、ヨシダ選手になったことで打撃戦の比重を増やしています」

──打撃で勝負をするつもりですか。

「今はまだヨシダ選手のことを研究中ですが(※取材は12月20日に行われた)、しっかりと対策を練って作戦を立てて戦います。ただ狙いはサブミッションです。レスリングやグラップリングを駆使して、一本勝ちをしたいです」

──吉田選手はKO宣言しています。

「KOですか(笑)。素晴しい意気込みですね。ただ、私も練習をしているので。試合でどちらが強いのか、。素晴しい戦いをファンの皆に見てもらいたいと思っています」

──今日はありがとうございました。ところでシンバートル選手はいつも、そんな風に無口なのですか。

「いやぁ……」

オトコンバートル 緊張しているだけよ。いつもは、こんなんじゃないので(笑)。

■視聴方法(予定)
1月12日(日)
午後3時30分~ THE 1 TV YouTubeチャンネル
※メインカードのみ


■Gladiator029対戦カード

<Gladiatorライト級王座決定戦/5分3R> 
田中有(日本)
小森真誉(日本)

<Gladiatorフライ級王座決定戦/5分3R>
今井健斗(日本)
オトゴンバートル・ホルドバートル(モンゴル)

<Gladiator暫定バンタム級王座決定戦/5分3R>
吉田開威(日本)
シンバートル・バットエルデネ(モンゴル)

<Gladiatorフェザー級王座決定戦/5分3R> 
パン・ジェヒョク(韓国)
ダギースレン・チャグナードルジ(モンゴル)

<ライト級/5分3R>
チハヤフル・ヅッキーニョス(日本)
岩倉優輝(日本)

<フェザー級/5分3R>
水野翔(日本)
桑本征希(日本)

<フライ級/5分3R>
久保健太(日本)
井口翔太(日本)

<ウェルター級/5分3R>
森井翼(日本)
井上啓太(日本)

<バンタム級/5分2R>
ルキヤ(日本)
藤原克也(日本)

<フェザー級/5分2R>
田口翔太(日本)
花園大輝(日本)

<バンタム級/5分2R>
しゅんすけ(日本)
こう(日本)

<ストロー級/5分2R>
塩川玲斗(日本)
高橋佑太(日本)

<フライ級/5分2R>
古賀珠楠(日本)
八木祐輔(日本)

<バンタム級/5分2R>
野口蒼太(日本)
萩原和飛(日本)

<ウェルター級/5分2R>
後藤丈季(日本)
松生知樹(日本)

<バンタム級/5分2R>
秋田良隆(日本)
熊崎夏暉(日本)

<ライト級/5分2R>
八木敬志(日本)
キンコンカンコンケンチャンマン(日本)

<ライト級/5分2R>
藤井丈虎(日本)
健椰(日本)

<フライ級/5分2R>
岩崎圭吾(日本)
福島祐貴(日本)

<バンタム級/5分2R>
原田康平(日本)
内田勇作(日本)

<OPバンタム級/5分1R>
岩田虎之助(日本)
小林龍輝(日本)

<OPライト級/5分1R>
LUCKYBOY慶輔(日本)
内山裕太郎(日本)

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45 MMA MMAPLANET o Special UFC UFC309 キック ジョン・ジョーンズ スタイプ・ミオシッチ トム・アスピナル ボクシング 大沢ケンジ 柏木信吾 水垣偉弥 良太郎

【Special】月刊、良太郎のこの一番:11月 JJ×ミオシッチ「JJが怪物から仙人になってきた」

【写真】王道の戦い方+引き出しの多さ+必要最低限の出力。これはジョン・ジョーンズの変わらない強さでもある(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は良太郎氏が選んだ2024年11月の一番──11月16日に行われたUFC309のジョン・ジョーンズ×スタイプ・ミオシッチ。今回も水垣氏と同チョイスとなったが、打撃という視点でジョーンズの強さについて語らおう。

【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:11月
JJ×ミオシッチ「いよいよJJが負ける姿が想像つかない」


――実は11月の一番も水垣さんと同じジョン・ジョーンズ×スタイプ・ミオシッチをセレクトしてもらいました。この試合はやはりジョーンズについてお聞きしたいと思います。

「あれはもう…変人の領域に達してますね(笑)。やっぱりジョン・ジョーンズに対する幻想があるじゃないですか。でも体つきを見たりすると、みんなが知っている全盛期から2周も3周も回った選手だと思うんです。だから正直まだ強いのか?と思って見ている人が多かったと思います。ミオシッチも42歳で、約3年8カ月ぶりの試合だったので、ジョーンズが何だかんだで勝つだろうなとは思っていましたが、スピニングバックキックを左の脇腹に突き刺してKO勝ちするというのは全く予想してなかったです。もう本当にすげえな、この人っていう。それしか出てこないです」

――JJは明らかにライトヘビー級時代と比べると体のコンディションは悪いじゃないですか。それでもなんだかんだで勝ってしまいましたよね。

「コンディションは間違いなく良くないですよね。ボクシング的に言ったら、 かつてのスター選手が復活して、倒して勝っちゃうことってあるじゃないですか。あれはボクシングがパンチに限定された競技でラウンド数も長いからだと思うんです。キック・ムエタイは蹴りもあってラウンド数も短くなるから、どうしても若くてフレッシュな選手の方の勢いに飲まれてしまうけど、サムエー、ブアカーオ、センチャイのように制空権を制して、相手を制圧して距離感を支配する達人みたいな40代の選手もいる。MMAは試合時間が長いのでボクシングに近いところがあるけれど、レスリングや組み技をやらないといけないし、よりフィジカル的な強さが求められる。そんな競技なのにジョン・ジョーンズはボクシングやキック・ムエタイでオールドスターが未だに強いというのをMMA、しかもUFCでやっちゃってる感じですよね。

今回のミオシッチ戦で言うなら、右と左をスイッチして戦えるベースがあるんですけど、無駄な動きが一切ないんです。ミオシッチがバー!と攻めた時にジョーンズが後ろを向いて逃げたじゃないですか。あれを若いファイターがやるともっとクイックな動きになるんですけど、ジョーンズはちょっとスローな動きでしたよね。言葉は悪いですけど年齢を重ねた選手というか。でも見方を変えれば必要最小限の動きとスピードでかわしてるわけですよ」

――なるほど。それは面白い視点です。

「細かい技術で言うと、オーソドックスに構えたら自分の距離感でスナップがついたジャブを当てて、サウスポーに構えたら前手で相手の前手を触っておいて、同じモーションでローと三日月蹴りを蹴って、たまに左ストレートを打つ。やってることは普通、王道中の王道なんです」

――特別なことをやっているわけじゃない、と。

「ただジョーンズがすごいのは1Rに決めた大外刈りのような技の引き出しが豊富なところです。あんな技もやるんだという引き出しがあるんですよね。勝つために必要なことを最小限の出力で無駄なくやる、そして技の引き出しが多い。それがジョン・ジョーンズだと思います」

――フィニッシュになったスピニングバックキックについてはいかがでしょうか。

「あれは最初にジョーンズが三日月蹴りでレバーを意識させておいて、アレックス・ペレイラがよくやるようなお尻をくっと入れるフェイントでミオシッチを下がらせて金網を背負わせる。それで逆回転のスピニングバックキックをレバーの逆側にぶちこむと。あれは当たった場所的にボディが効いたというよりも骨がいったんじゃないかなと思います」

――あの一発にもそういった細かいテクニックがあるわけですね。

「昔は怪物で最強だったのが、段々と仙人みたいになってきましたよね」

――良太郎選手のお話を聞いていると怪物時代のジョーンズも無駄打ちが少なかったり、余計な出力をしていなかったり、今と共通している部分もあるんでしょうね。

「そうですね。そこに昔は若さがあったというか、細かい部分のスピードや反応速度は当時の方があったと思います。こういうタイプは段々と反応が悪くなって結果が出なくなってきて、それで引退という流れになるんですけど、ジョーンズは負けないんですよね。なんでそれが出来るのかは……正直分かりません(笑)」

――ムエタイのスーパースターだった選手が日本でトレーナーとして働きながら試合をしても日本人には負けないというパターンに似ているのかなとも思います。

「貯金と言えば貯金で勝っていると思いますが、それだけでもないし、UFCのあのレベルでやっているわけですからね。今回も相手はブランクがあるとはいえミオシッチですし。ここまで来たら、もう相手は1人=トム・アスピナルしかいないですけど、なんかやらなそうな感じじゃないですか。色々と難癖をつけて(苦笑)。でも僕はそれも含めて強さだと思うんですよ。フロイド・メイウェザーじゃないけど、博打する時は自分のタイミングでやる、みたいな。だからそこも全部ひっくるめて最強幻想がありますよね」

――試合以外の部分でも主導権を握るところも含めて強さですね。あれだけ色々な問題を起こしてもUFCで試合を組まれ続けているわけですし。

「本当ですよ。 普通は追放レベルですからね(苦笑)」

――いずれにしてもUFCから必要とされ続けているという時点で スペシャルな選手であることは間違いないですね。

「はい。ただみんなはもうちょっと彼に尊敬や畏敬の面を求めていると思います(笑)」

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45 MMA MMAPLANET o Special UFC   ショーン・オマリー ジョゼ・アルド ボクシング マラブ・デヴァリシビリ ライカ 大沢ケンジ 柏木信吾 水垣偉弥 良太郎

【Special】月刊、良太郎のこの一番:9月 マラブ×オマリー「二歩下がって一歩出る、マラブの制空権」

【写真】9月の一番は水垣・良太郎両氏ともにマラブ×オマリーをチョイス。ぜひ両者の言葉を読んだうえで、この一戦を再考していただきたい(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は良太郎氏が選んだ2024年9月の一番──9月14日に行われたNOCHE UFC 306のマラブ・デヴァリシビリ×ショーン・オマリー、水垣氏も選んだこの一戦を、水垣氏とは異なる目線で語ろう。

【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:9月
マラブ×オマリー「マラブは変な人? だからあれをやりきれる」

――9月の一番、良太郎選手にもマラブ・デヴァリシビリ×ショーン・オマリーの一戦を選んでいただきました。

「打撃という部分にフォーカスして、この企画をやらせてもらっていて、この試合はストライカーVSストライカーではないんですけど、僕は指導する立場でもあるので、ストライカーにとっては嫌な展開を作られた試合でした。しかもこの試合はUFCが誇る超スター選手のオマリーvsオマリーのような華がはないけど実力があるマラブという図式もあり、試合前のトラッシュトークも含めて、こういう試合展開になることは予想していた人も多かったと思うんですね。純粋な打撃だけのスキルとは違う部分で、打撃にフォーカスする試合としてセレクトさせていただきました」

――オマリーのようなストライカーからすると、テイクダウンを狙ってくる相手に対して、どう打撃を当てるか。これはMMAにおける永遠のテーマだと思います。

「多くの人がマラブが無限のスタミナでひたすらテイクダウンを狙って削る、もしくはカウンターパンチャーのオマリーが打撃を入れる、そういう試合をイメージしていたと思います。そこでいうと僕はスタンドの距離=制空権が鍵を握っていると思いました。

 オマリーはロングレンジを活かした打撃を当てたくて、5Rに三日月蹴りを効かせた場面もありましたが、あの時点でオマリー自身がスタミナ切れしていて追い足がなかったですよね。ああやって三日月蹴りで削って、そこから打撃で仕留める展開に持ち込みたかったと思うのですが、その三日月蹴りを当てたのが最終ラウンドで、試合の残り時間とお互いのスタミナを考えたら、あそこから仕留めないといけないオマリーよりも、最悪くっついて逃げ切ればいいマラブだったら、マラブの方が有利でしたよね。

 1Rはお互いスタミナもある状況ですが、マラブが上下のフェイントで揺さぶりをかけて組みついてテイクダウンを仕掛けて。あれを凌ぐ攻防のなかでオマリーはかなりスタミナをロスしたと思います。オマリーはカウンターパンチャーなので、あそこでロングレングのパンチを射抜いたり、カウンターのヒザ蹴りだったりを当てられればよかったのですが、それが出来なかったですよね」

――なぜオマリーはそれが出来なかったのでしょうか。

「これは対戦した選手にしか分からないと思うのですが、おそらくマラブはスタンドの距離が独特なんですよ。オマリーもVSストライカーだったら、スイッチを使って体の軸を色々と使い分けながらパンチを打ち抜くので打撃のゾーンが広くて、距離が独特なんですね。ただこれがVSマラブになると、マラブは打撃が当たらない距離でステップしていて、そこからダッシュ力を活かして入ってくる。相手からするとマラブはかなり遠い位置に感じると思います。

 それが特に分かりやすかったのが4Rにマラブがテイクダウンを奪った場面で、1~3Rまでの動きを見ていてもそうなのですが、オマリーが一歩前に出ると、マラブは二歩下がるんです。そしてすぐに一歩前に出る。そうするとオマリーが一歩下がったとしても、そこはマラブにとってはテリトリー内なんです。4Rにオマリーがフェイントをかけて前に詰めようとしたところで、マラブにジャブから綺麗にタックルに入られてテイクダウンされたのは、その距離のトラップに引っかかったからですね」

――あのテイクダウンはメラブの距離とステップに要因があった、と。

「スイッチする選手はステップせずに歩きながら前に出られる分、どうしても距離設定が緩くなる場面があるんですね。今回はそこにマラブが打撃ではなくカウンターのタックルを合わせたという形ですね。しかも今回は5Rマッチでお互いスタミナを消耗していて、特にオマリーは後半のラウンドになると下半身からの連動で強い攻撃を出せない・追い足がない状態に追い込まれていました。

 3Rあたりはオマリーも距離を探れているのかなと思ったのですが、いかんせんマラブがさっきのステップインでオマリーの体力とやることを削っていたので、オマリーとしてはマラブの泥沼にハマっていった感じですよね。どこまでマラブが意識していたか分かりませんが、2Rにオマリーにキスして余裕をアピールして挑発したじゃないですか。ああいう心理戦の駆け引きもあったと思います」

――スイッチヒッターに対して打撃ではなく、タックルのカウンターを合わせたということですか。

「そうですね。オマリーがスイッチして一歩前に出て、マラブが一歩下がるだけだったら、オマリーがプレッシャーをかけられるんですけど、二歩下がるとプレッシャーがかからないんですよね。しかもそこからすぐマラブがステップインしてきて、距離を取ろうと思った時には、マラブにタックルに入られる距離になっているという。

 もしオマリーが1Rから組まれる覚悟でローで足を潰すとか、ヒザのフェイントを入れるとか、そういう選択をしていたら展開は変わっていたかもしれないです。オマリーもどうしても自分のパンチに自信があるから、制空権を支配したいという気持ちがあったと思うんですよね。それが今回に関してはマラブに遠い距離に居座られて、あのダッシュ力で距離を詰められる=制空権を支配できないという時間が長かったように思います」

――オマリーにとっては自分のやりたい攻防に持ち込めなかったわけですね。

「オマリーからすると相当やりづらかっただろうし、試合をしながらイライラしていたと思います。最後は体力的にいけなかったのもあるし、どうしても1Rから4Rまでの攻防で、打撃が当たらなかったら組まれる→トップキープされて時間を使われる→判定になったら負けるということも頭に刷り込まれていたと思います」

――またマラブはテイクダウン以外でかなり細かいパンチのフェイントを入れたり、目線を散らしたり、体を上下させたり、常に動き続けていますよね。あれは打撃の観点から見ていかがですか。

「あれはうざったいですね。フェイントには動くフェイントと動かないフェイントがありますが、マラブは典型的な動くフェイントで、常に上下に体を動かして、基本的にテイクダウンにつなげる打撃なんだけど、必ず当たる打撃も混ぜてくる。それでいて遠い距離にいるなと思ったら、ものすごいダッシュ力で組んできて、試合後半になっても疲れることなく、それを延々と繰り返してくるわけだから…ストライカーからしたらたちが悪いですよ(苦笑)」

――あのファイトスタイルだけだったら対応できるかもしれませんが、あれを5R続けられるスタミナがあることが厄介ですよね。

「はい。もしかしたらオマリー陣営は、さすがに後半は動きが落ちるだろうから、そこで勝負しようとしていたところもあったのかなと思うんです。競技は違いますけど、ボクシングの井上拓真×堤聖也みたいに、みんなさすがに堤選手は後半ペースが落ちると思っていたら、結局最後まで落ちなかったじゃないですか。ああなると対戦相手からすると手遅れなんですよ。しかもオマリーのようなカウンターパンチャーは、玉砕覚悟で前に出て打撃を当てるのが決して得意ではないので、後半のラウンドで一気に逆転という形にはならなかったですよね」

――ちなみにもし良太郎選手の選手あマラブと戦うことになったら、どういう作戦を立てますか。

「僕だったら…1Rはイーブンに動かせますね。結局マラブのリズムに合わせちゃうからやられるわけで、だったらこっちもあえて乗っかる。マラブと同じことをやるわけじゃなく、こっちはこっちで色んな打撃のフェイんをかけて動く。もちろんスタミナはロスしますけど、その方がマラブもマラブでやりにくいと思うんです。オマリーはどちらかと言うとフワフワ~と動いてドン!と当てるタイプですが、逆に最初からパンチとかヒザ蹴りをどんどん見せていった方がよかったかもしれないです。これもすべてたらればの話ではあるんですけどね」

――最近のMMAは判定で打撃・ダメージが重視されやすくなっていますが、UFCのチャンピオンの顔ぶれを見ると組み技系の選手も多いですよね。

「やっぱり時代は回るんですよ。そういうなかでイリア・トプリアのような選手がチャンピオンになるところが面白いですよね。ただUFCのトップレベルの技術を10段階で評価したら、すべての技術が7~8はあると思うんですよ。そのうえで10ある技術で勝負しているというか。トプリアやジョゼ・アルドのような純ストライカーに見える選手でも、元は柔術黒帯だったりするわけじゃないですか。

 きっとそれは練習環境が以前よりも整備されていて、自分にあったスキルを学べるコーチや指導者がいるから、ベースにある格闘技を活かしながらMMAファイターとして完成度を上げられるからだと思うんですよね。そういう部分でもUFCの試合を見ていくのは興味深いですし、これだけレベルが上がったもの同士が戦うのに『嘘だろ?』『こんなのある?』みたいなフィニッシュも起こるわけだから、純粋にUFCは見ていて面白いですよ」

――今回もたっぷり語っていただき、ありがとうございます!

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【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:9月 マラブ×オマリー「マラブは変な人。だからあれをやりきれる」

【写真】ファイトスタイルそのものは疲れるスタイル。それを5Rやりきってしまうのがマラブの強さだ(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は水垣偉弥氏が選んだ2024年8月の一番──9月14日に行われたNOCHE UFC 306のマラブ・デヴァリシビリ×ショーン・オマリーについて語ろう。


――9月の一番はマラブ・デヴァリシビリ×ショーン・オマリーの一戦を選んでいただきました。この試合はマラブの強さが目立った試合だったと思います。

「色々と僕の中でも見どころがあった試合で、マラブのようなタックルマシーンに対して、オマリーのようなストライカーがどう戦うのか。そこは自分自身の現役時代からの永遠のテーマでもあり、この試合でもそこを主に見たい、もっと言うならオマリーがどういう戦い方をするのかを見たかったんですね。結果的にはオマリーがストライカー病というか、マラブのタックルを警戒して手が出ないという、よくあるパターンにハマっちゃったなっていう感じでしたね。と同時に、このテーマはまだまだ続くなと思ったのが正直な感想です」

――試合全体を通して見ると、1Rに2回組まれてテイクダウンを許してしまったことが、2R以降の試合展開に影響を与えたと思います。

「ずばりそれだと思いますね。1Rが始まってテイクダウンされるまでのオマリーは、割と前蹴りだったり攻撃が出ていたんですよね。逆にマラブはいつもよりちょっとな控えめで、タックルに行きにくそうに見えました。でもそこで1回マラブがテイクダウンを取ったことで、徐々にオマリーの手が出なくなってきて。オマリーからすると打撃を出すとマラブに触れる、警戒して打撃を出せないというパターンにハマっていった印象です」

――仮に組まれたとしてもマラブのクリンチをはがしたり、完全には寝かされない状況を作っていれば違ったと思うのですが、しっかり組まれてしまった印象があります。

「そうなんですよね。結構ちゃんと組まれてしまって、その後のラウンドもすぐに立ち上がることができない展開になってましたよね。それだけ1Rにテイクダウンされた時に、もうテイクダウンされたくないなというのがオマリーの中で出てきちゃったんだと思います。マラブは割とテイクダウンしても相手を立たせるタイプなんですけど、オマリーは一度組まれて尻餅をつかされると、そのまま動きが止まったり、下になる展開が長かったように見えました」

――もちろんオマリーもレスリング・組み技への対応はできる選手だと思いますが、マラブのような超トップ選手との対戦は少なかったと思います。

「まさにそれもあって、正直過去の対戦相手を見ると、あまりマラブのようなタイプとはやってないんですよね。アルジャメイン・ステーリングとやった試合が初めてレスリングが強力な相手とやった試合だと思うんですけど、アルジャメイン戦も2R開始直後にパコーン!と一発で倒しちゃったので、レスリングや組みの技術をちゃんと見ることが出来ないままだったんですよね。そういう部分で、マラブとやってどうなのかなと思っていたのですが、 やや安易にグラウンドで下になったり、ガードポジションを取ったりしていて。オマリーはグラウンドで下からガンガン戦えるタイプでもないと思うのですが、そこで立ちに行く感じでもなかったので、組まれる・テイクダウンされるとキツいというのが見えちゃいましたよね」

――どうしてもマラブクラスのレスリング力がある選手と対戦すると、その部分で差が出てしまいますよね。

「そこは相性の問題もあると思います。ストライカーとレスラーは、単純に言うとどうしてもストライカーは相性が悪くて、その相性の悪さがもろに出ちゃったのかなと。例えばジョゼ・アルドやピョートル・ヤンがマラブとやった時、アルドは下がりながらテイクダウンに対処する感じで、テイクダウンは許さなかったんですけど、その代わりにケージに押し込まれ続けたんですよね。で、ヤンはスイッチを使いながら対応しようとしたのですが、マラブにそこを上回られてしまうという試合でした。じゃあオマリーはどうなんだ?というところだったのですが、結果的にオマリーはアルドやヤンのところまではいかなかったなというのが正直なところですかね」

――見ている側からすると、テイクダウンをディフェンスできないなら、打撃を思い切り当てにいくという選択肢はなかったのかと思うのですが、そこはファイター側からするとどうなのでしょうか。

「あとは一発を当てに行きたいは行きたいんですけど、結局そこで組まれちゃうんで。一発を当てるタイミングを探っているうちに結局(試合が終わる)なんですよね。ようは一発を当てるための距離になる=組まれる距離なので、行ったら組まれるという感覚もあるんですよ、タックル系の選手に対しては。だから一発を当てるための行き方が難しいんですよね、単純に思いっきりいけないという」

――その一発を当てるためには組み立ても必要だし、そうしているうちに組まれるリスクが大きいということですね。

「一発にかけるということは、ある程度の強打を当てて、その一発でKOするなり、ダウンさせるなり、大ダメージを与えるのが欲しいじゃないですか。リスクを追う分の見返りが欲しいというか。それに見合う一発を当てる距離まで詰めるというと、またそこですごく難しくなってきますよね」

――あとマラブの方もテイクダウン以外でかなり細かいパンチのフェイントを入れたり、目線を散らしたり、体を上下させたり、常に動き続けていますよね。

「動きそのものが多いですよね。絶対打撃が届かない距離でもシャドーボクシングやスイッチしたり、地味な動きなんですけど、それをずっと繰り返している。ただタックルだけ狙っているより、こういう動きをやられると嫌ですよね」

――相手からすると、あれだけちょこちょこ動き続けられると、フェイントだと分かっていても引っかかってしまうものですか。

「あとはやっぱりああやって動いている中で、本物と偽物の(動きの)違い、本当に来る時と来ない時って、 何もしないでバッ!と来るより、色々と動いてる中でバッ!と来る方が、対応も遅れると思うんですよね。そういう部分はあると思います。だからあれだけ目の前で動き続けられていたら、やりにくいと思いますね」

――オマリーも5Rに三日月蹴りを効かせる場面がありました。メラブは試合後に「効いていない」と言っていましたが……。

「あれは効いていたと思います。分かりやすくお腹をさすってましたからね」

――右の三日月蹴りをもらったあとのシーンですが、あの前の左の三日月蹴りも効いていたと思います。

「あれも絶対効いてましたね。ボディが効いたかどうかは本人しか分からないし、効いていても『効いてない』って言い張ると思うんですけど、セラ・ロンゴ・ファイトチームで一緒に練習していた(井上)直樹くんの話だと、練習でもマラブは腹を効かされていたことが結構あると言っていたんで、マラブは腹が弱いんじゃないか説も出てますね。だから試合展開や相性もあるんですけど、あれがもっと早い段階で来ていたら、面白かったのかなという気もしますよね」

――それまでの打撃とは違い、明らかにオマリーのプレッシャーがかかっていた時間でした。

「そうですね。あれはオマリーが5Rに判定で勝つのがほぼダメだろうと思っていた中での開き直りがあったから、また前に出始めたんだと思います。もうテイクダウンされてたとしてもしょうがないって気持ちがあったからこそ、もう1回(打撃を)作り直したんじゃないかなと思います」

――5Rに弱みを見せたメラブですが、あのテイクダウンを軸にしたファイトスタイル&無尽蔵のスタミナは真似できないですよね。

「あのスタミナは異常ですね。ファイトスタイルそのものは疲れるスタイルだと思うんですよね。今回の試合はトップを取ってからキープする時間が長かったですが、他の試合では結構立たせるんです。で、また倒す。倒して、立たせて、倒して…を繰り返して倒してテイクダウンの数で印象つけるみたいな、めちゃめちゃしんどい戦い方をしているので、それが出来るスタミナは尋常じゃないですね。対戦相手=タックル受ける側としては、やっぱりしつこくタックルを切って切って、マラブが疲弊してきてタックルに入れなくさせるというのも1つの作戦としてあると思うんですよね。ただマラブは疲弊しないから、その希望がなくなってしまうという」

――あれだけスタミナがあるとテイクダウンの攻防でマラブを疲れさせるという作戦もチョイスできません。

「テイクダウンそのものもバーン!と入って綺麗に倒しちゃうじゃないですか。一回ケージに押し込んで、低い姿勢でケージレスリングを頑張って倒すという展開が少ない。テイクダウン能力の高さも、マラブがバテにくい要素だと思います」

――水垣選手はどういうタイプだったらマラブを攻略できると思いますか。

「攻略法がなかなかないですよね(苦笑)。それこそシャーウス・オリヴィエラみたいに打撃があって、グラウンドで下になっても戦えるとか。そういうファイターだったら可能性があるのかなっていう気はするんですけどね」

――マラブとレスリング勝負できるか、レスリングそのものを捨てて勝負するか。

「そうなんですよ。さっきも話したようにジョゼ・アルドはほとんどテイクダウンを許していないんですけど、テイクダウンディフェンスするためにずっと押し込まれたままで判定負けしているんです。テイクダウンされないことに集中すると打撃が出せないし、相手がバテない限りは押し込まれ続けるので、ポイントを取られちゃいますよね。だからメラブ攻略は本当に難しいです。

あと試合とは関係ないですけど、メラブってちょっとおかしいじゃないですか。試合が始まった瞬間、オマリーのセコンドと言い合ったり、試合中にオマリーにキスしてハーブ・ディーンにめちゃくちゃ怒られたり。あとは試合前にインスタグラムで氷が張ってる湖に飛び込んで、練習でカットしたところを縫ってる動画をアップしてダナ・ホワイトに『アイツはレベルが違うバカだ』ってキレられてましたよね。普通はあんなことしないですよ(笑)」

――大分変わっていると言えば変わっていますね…。

「基本的に変な人なんだと思います(笑)。でも、だからこそああいうファイトスタイルをやりきれちゃうというか。普通は5Rマッチでああいう試合はやろうと思わないし、それをやっちゃうというのは何かぶっ飛んでる新しいタイプですよね」

――敗れた方のオマリーについても一言いただけますか。

「あと僕の中でオマリーとコナー・マクレガーを重ねていて、マクレガーもここで負けるだろうと思われている試合で勝ち続けて、オマリーもそういうキャリアだったと思うんですよ。マクレガーはネイト・ディアスに負けてライト級に上げてタイトルを獲っていますけど、最後はハビブ・ヌルマゴメドフにやられて、それからスーパーファイトを中心にやっていくスーパースター路線に行ったじゃないですか。じゃあオマリーはここで負けて、これからどうなっていくのかなと。そこにも凄く注目しています」

――さてマラブの次の挑戦者にとしてウマル・ヌルマゴメドフが噂されています。

「そこは僕、すごく楽しみなんですよ。ウマルもレスリング力があるから、そこでも勝負もできるし、打撃という部分ではウマルの方が上だと思うんですよね。だから打撃+レスリング力でどこまでマラブに対抗できるのかっていうところですよね」

――前回水垣さんにウマル・ヌルマゴメドフ×コリー・サンドハーゲンを解説していただきましたが、マラブよりもウマルの方が技の引き出しは多い印象です。

「例えばウマルが一回・一発のテイクダウン勝負で負けたとしても、そこからのスクランブル勝負で後ろに回るとか、下からでも組み勝つみたいなものを見せてくれたら面白いなと思います。何度か言っているようにマラブが立たせるタイプなので、仮にマラブに3回テイクダウンされても立ち続けて、逆にウマルがテイクダウンもしくはスクランブルで上を取ってキープする。それをしつこくやれば、ウマルも強いと思います。あとはクリーンテイクダウンできなくても、スタンドバックの攻防に持っていければ、ウマルがマラブにヒザをつけさせて殴って、もう一回立って打撃をやるとか、そういうことが出来れば、ウマルにもチャンスが出てくると思いますね。この試合はぜひ実現させてほしいです!」

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RIZINマッチメイカー柏木信吾が語るジャパニーズMMAの現在

Dropkickメルマガ10周年記念スタジオトーク!RIZINマッチメイカー柏木信吾が語るジャパニーズMMAの現在。聞き手・ジャン斉藤

最後まで視聴したい場合はこちらです!
https://live.nicovideo.jp/watch/lv345850522

後日メンバーシップのほうにフル動画をアップします

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45 MMA MMAPLANET o Special TJ・ディラショー UFC アレッシャンドリ・パントージャ アーセグ イスラエス・アデサニャ カイ・カラフランス スティーブ・アーセグ ドミニク・クルーズ ボクシング マイケル・チャンドラー 大沢ケンジ 朝倉海 柏木信吾 水垣偉弥 良太郎

【Special】月刊、良太郎のこの一番:8月 カラフランス×アーセグ「スイッチを使う打撃として参考になる」

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は良太郎氏が選んだ2024年8月の一番──8月17日に行われたUFC 305「Du Plessis vs Adesanya」のカイ・カラフランス×スティーブ・アーセグについて語ろう。


――今回はカラフランスのKOをピックアップしていただきました。まずその理由から聞かせてください。

「カラフランスは約10カ月ぶりの復帰戦で、アーセグはアレッシャンドリ・パントージャに負けて以来の試合だったんですよね。アーセグはフライ級では身長が高いんですけど(173㎝)、カラフランスは身長に対してリーチが長い体系なんですね。で、僕もMMAの選手を指導するうえで構えをスイッチする打ち方を勉強していて、この試合でカラフランスはファーストコンタクトから左→右→左とスイッチしながら出す攻撃を積極的にトライしていたんですよね。この形をトータル3回くらいトライしていて、アーセグもカラフランスの左のオーバーハンドを気にして、あまり自分から前に行くことが出来ていなかったんです。

アーセグもカラフランスが入ってくるところにアッパーを用意していて、それがいい形で当たったんですけど、フィニッシュシーンのカラフランスは左→左で入ってるんですよ。しかも左を見せたあとに左手でアーセグの前手を払って、それをアーセグに反応させておいて、右のオーバーハンドからスイッチしての左フックでダウンを奪っていました。あれは僕もすごく参考している動きですね。マイケル・チャンドラーもストレートでやる動きなんですけど、カラフランスの場合はストレートというよりもしっかり骨盤・軸に体重を乗せて、いい角度でフックが入りましたよね」

――試合途中にカラフランスのパンチの空振りが目立っていて、少しやりにくそうに見えていました。

「最初カラフランスは自分の右側に回ってトライしようとしてたんですよ。そこをリセットして左に回ったときにアーセグにアッパーを合わせられてるんですね。で、それもあったので次のトライではカラフランスがアーセグの前手を払いにいってるんです。あの前手払いにアーセグが反応してしまい、軸・顔が上がってしまったんです。あれはスイッチパンチャーに対して絶対にやってはいけない動きなんです」

――アーセグにミスがあったんですね。

「カラフランスはカラフランスで失敗もしているんですけど、最後のトライではそこを修正して打ち抜きました。だからここはしつこくやり続けたもの勝ちというか。アーセグはカラフランスのプレッシャーを感じていて、バックステップが少し甘くなっていたのかもしれないです。この試合は僕がMMAファイターを指導するにあたって、すごく勉強になる試合でした。構えをスイッチしてくる選手に対して“これをやってはいけませんよ”という意味でも参考になりました」

――良太郎さんはただ構えをオーソドックスとサウスポーに変えるだけではなく、スイッチしながらの打撃も研究しているのですか。

「はい。そういったスイッチしながらの打撃=ムービングの打撃に関しては、アルファメールの流れでいうとTJ・ディラショーとコーディ・ガ-ブランドがいて、ドゥェイン・ラドウィックのチームに分家していって……ですよね。実際にラドウィックはすごくムービングの打撃を研究していて、そこの指導が上手いんですけど、かなり複雑で覚えるのが難しいんですよ。あとはムービングをよく使う選手は体の反応速度が衰えると、それがパフォーマンスの低下に直結しちゃうんですよね。それこそディラショーやガ-ブランド、イスラエス・アデサニャもそうですよね。年齢を重ねることでの反応や体の連動が落ちると、一気に動きが落ちてしまうんです」

――スイッチしながらの打撃は運動能力に影響される部分も大きい、と。

「僕はそう思います。やはりムービングは体を連動させる動きなので、一つの形を覚えるのではなくて(重心を)おしりに乗せる、股関節に乗せる、体軸を変える……そういった動きが必要になるんです。どうしても年齢やキャリアを重ねると無理して戦わなくなるというか、若い時のようにたくさん動いて戦うというよりも、どっしりと構えて動きのベースをしっかり作って戦う選手の方が被弾は少なくなりますよね」

――非常に興味深い話です。

「例えばオーソドックスだけ、サウスポーだけしか使わない選手だったら、年齢を重ねても自分と相手との空間支配能力でなんとかなるものなんですよ。そしてその空間支配能力はあまり年齢に影響されることがない。アレックス・ペレイラがまさにそれです。逆にムービングする選手は空間支配の仕方が変わるし、反応速度が衰えてくると、そこに大きなズレが生じてくるんです。だからもし年齢を重ねてスイッチを使うとするなら、流れるようにスイッチを使って動き続ける=ムービングのスタイルよりも、オーソドックスとサウスポーをどちらも使えるスタイルの方が合っていると思うし、どうしても前者のスタイルは全盛期が少し短くなるのかなと思います。それでいくとカラフランスはキャリアは37戦やっていますけど、年齢的には31歳だし、まだ体力的に落ちることはないと思うんですよ。もし朝倉海選手がUFCのフライ級でやっていくなら、カラフランスとやると面白いと思いますよ」

――今後もスイッチしながらの打撃、良太郎さんが言うところのムービングの打撃は伸びていくでしょうか。

「日本人でも頻繁にスイッチしたり、ムービングする選手は増えていますけど、アメリカに比べると遅いじゃないですか」

――僕が初めてスイッチやムービングを意識したのは、おそらくドミニク・クルーズだと思っていて、彼がWECチャンピオンとして防衛を重ねてUFCに参戦したのは2010年~2011年です。

「僕もアメリカに練習にいった選手に聞くと、アメリカではスイッチやムービングがMMAをやる選手たちの基本的なドリルに組みこまれているそうなんです。ボクシングも国によってファイトスタイルが違うと言われますが、あれはその国の選手に合ったスタイルというわけではなくて、指導方法・方針の違いだと思うんです。もし日本人がメキシコでボクシングを始めたらメキシカンスタイルになるはず。もちろんそこには持って生まれた身体能力という部分での向き不向きはあると思いますけど、ただし最初からスイッチすることを教えていれば、そういう動きはできますよね。僕が最初から指導する選手は子供も含めて、オーソドックス・サウスポーどちらもできるようにしていますし、初歩の段階でどちらの構えもできるように仕込んでおくことで、将来的にスイッチやムービングの基礎はできやすいと思います」

――最初にどちらかに構えて、逆の構えを覚えるではなくて、最初からどちらも構えるようにするわけですね。

「どちらが利き手か、どちらの構えの方が力が伝わりやすいかは選手によって違うし、格闘技のバックボーンによっても変わってくるので、それはやりながらカスタムしていくイメージです。スイッチを練習するからスイッチヒッターにならなくてもいいし、どちらも構えることが出来たら、オーソドックスがやられて嫌なこと、サウスポーがやられて嫌なことを自分で覚えることもできて、同じジムの仲間の練習相手にもなる。そういう意味でもプラスですよね。どちらもの構えも出来ることと、構えをスイッチしながら打撃を出すことは別で、そこへの向き・不向きもあるので、僕はそういう考え方で見ています。少し話は脱線してしまいましたが、アーセグをKOしたカラフランスの打撃はスイッチを使う打撃として非常に参考になりました」

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【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:7月 エドワーズ×モハメッド「モハメッドの良さを伝えたい」

【写真】決して派手なスタイルではない。だからこそモハメッドの試合にはMMAの奥深さが詰まっている(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は水垣偉弥氏が選んだ2024年7月の一番──7月27日に行われたUFC 304「Edwards vs Muhammad 2」のレオン・エドワーズ×ベラル・モハメッドについて語ろう。


――7月の一番として、レオン・エドワーズ×ベラル・モハメッドのUFC世界ウェルター級選手権試合を選んでもらいました。この試合を選んだ理由を教えてもらえますか。

「僕はモハメッドの地味強感が好きというか、彼はフィジカル的にすごく優れているわけでもないし、リーチが長かったり、なにか特徴があるわけでもない。バックボーンはレスリングですが、決してエリートレスラーというわけでもなくて、そういう選手がMMAファイターとしてUFCのトップ戦線で戦っている。しかもフィニッシュするのではなくて、5Rフルに使って戦って勝つというのが非常に僕好みですね。

今回はエドワーズ相手にモハメッドの良さがすごく出ていて、こういう試合をみなさんに伝えられたらなと思って選びました。おそらくもっと派手な試合、例えばエドワーズのKO勝ちを期待したファンの方も多いと思うんですけど、僕的には見たいものを見ることが出来た試合です」

――この取材前にモハメッドのプロフィールを調べたら、モハメッドは高校時代にレスリングをやっていたくらいの経歴なんですよね。それで開始早々にモハメッドがテイクダウンするという展開でスタートしました。

「まずそこがすごく驚きました。エドワーズのここ数戦を見て カマル・ウスマンやコルビー・コヴィントンといったテイクダウンが強い相手に対して(エドワーズは)はほとんどテイクダウンを許してないんですよ。そのエドワーズ相手にモハメッドは開始早々テイクダウンをとってるんですよね。その作り方もすごく上手いですし、この最初のテイクダウンが活きて、その後のラウンドも有利に試合を進めていくので、試合の作り方の上手さも感じました。

もちろん1個1個の格闘技の技術もバランスよく使うものは持ってるんですけど、それ意外の部分での試合巧者というか、相手の心理を読むというか。そういう心理戦がすごい上手いんじゃないかなと思います。それがまさに最初のテイクダウンで、あれはほぼファーストコンタクトに近いようなタイミングでのタックルでしたが、おそらくエドワーズはああいうタックルはが来るとは思っていなかったと思います」

――結果的に最初にモハメッドがテイクダウンを取ったことで、エドワーズはモハメッドのテイクダウンを警戒せざるをえなくなりましたよね。逆にモハメッドはテイクダウンだけでなく打撃でもいけると踏んだと思いますし、まさにあの一発目のテイクダウンが25分間の試合の流れを決めたと思います。

「そうなんですよ。エドワーズはいきなり予想外のタックルに入られて、焦ってテイクダウンを取られてしまった。 それで打撃・スタンド勝負でも、モハメッドは楽になったと思うんですよね。それで1Rの終わりぐらいにモハメッドが打撃をまとめるシーンがあるんですよ。あれはおそらくエドワーズがテイクダウンを警戒して自分の打撃ができなかったところに、モハメッドがパンチを当てて、明らかにエドワーズが嫌がったんです。

ここでモハメッドは打撃で攻めるんじゃなくて、もう一回タックルに入るんですよ。で、そこでもまた1発でテイクダウンを決めました。そういった試合運びの巧さというかクレバーさ。フィッシュを狙うファイターであれば、打撃であそこまで行けたら そのまま打撃で行くと思うんですよね。でもそこで自分がやることを明確にして、打撃からテイクダウンに切り替えることが出来る。相手が打撃を嫌がって意識が上に行ったら、タックルに行くという。そこをパっと切り替えられることの凄さですよね」

――またモハメッドは上(打撃)と下(テイクダウン)の散らしが絶妙ですよね。

「僕もモハメッドのテイクダウンの何がいいのかを考えて、僕は理由が2つあると思うんですよ。まず1つは位置取りですよね。モハメッドはたまにスイッチを使いながら、 ナチュラルに相手にケージを背負わせるんですよ。それで相手のバックステップを殺しておいて、パンチかタックルの2択にして、パンチを散らしてタックルって入っていますよね。あともう1つは左手=前手の使い方がすごく上手いです。ジャブだけじゃなく、アッパーも打ったり、左のパンチを散らすことができる。その2つの要素がモハメッドの試合の作りにすごく関係している気がします」

――エドワーズからすると知らないうちにケージに詰められていて、打撃を散らされてテイクダウンに入られていたわけですね。

「おそらく打撃の1発はそんなにないと思うんですよね。いざ打てば強いかもしれないですけど、そういう打ち方をしていない。相手としては(モハメッドのパンチを受けて)これなら大丈夫かなと自然にステップしていたら、いつの間にかケージを背負っていって『あっ!』と思った時には、目の前で左のパンチを散らされている。今度はそれを鬱陶しいなと思ったら、タックルに入られているみたいな。そういう作りが完成されている気がします」

――技術的なところで言えば、股下で腕をクラッチして相手を持ち上げるテイクダウンが目立っていました。

「僕はあれをクレイ・グイダ・スローと呼んでいるんですよ。クレイ・グイダがネイト・ディアスを投げた時の技があれだったので(笑)」

――確かにクレイ・グイダがやっているイメージがあります(笑)。

「ハイクロッチから股下でクラッチして持ち上げる技なんですけど、あれはサクラバアームロック(キムラロック)を取られた時のカウンターでやると有効なんですよね」

――モハメッドはバックを取った時でも、すぐに両足フックせずにレスリング的なコントロールで上手く時間を使っていました。

「時間の使い方もすごい上手いですよね。バックキープはしつつも、あまりそこには固執せず。下になったシーンもありましたけど、基本的にはもう1回上を取りに行っている。あの辺りのポジションコントロールも、いい意味でフィニッシュにこだわりすぎていない。 本人もインタビューで言っているように、ドミネイトして制圧して強さを見せることが好きなんでしょうね。僕もそういう戦い方は好きですね」

――しかもそういった試合運びをエドワーズにやったことがすごいと思います。

「エドワーズはウスマンやコビントンのテイクダウンを切って、逆にテイクダウンするぐらいの選手なので、このレスリング力で、あの打撃があったら、なかなか崩せる選手はいないだろうなと思っていたところで、モハメッドが開始早々にテイクダウンを取って。モハメッドがMMAというものを見せてくれた感じがして、すごくよかったです」

――年齢的にも36歳での王座戴冠でした。

「階級がウェルター級なので、軽量級よりも多少は競技寿命が長いと思うのですが、身体能力に頼った戦い方ではないですよね。反射神経や瞬発力に頼らず、試合運びや駆け引きを武器として戦ってる選手なので、基本的な技術プラス試合作りが上手いですよね。その試合作りで言うと、3Rにエドワーズにバックを取られた時点で、僕はモハメッドがラウンドを捨てたような印象があるんですよ。このラウンドを取られてもいいから、体力回復にあてよう、みたいな。だから僕は5Rこそモハメッドの良さが出る気がしています」

――ポイントを計算できるからこそ、そういった戦い方もできる、と。

「3Rも最初はモハメッドが攻めに行って、スクランブルの攻防でバックを取られちゃって、その瞬間に、フィニッシュさえされなければいいやと思ったんじゃないのかなと。僕は見ていてそう感じていて、そういったラウンドを捨てる潔さもいいなと思いました。

例えなハビブ(・ヌルマゴメドフ)の過去の試合を見てみると、試合中に休むんですよね。1・2Rを明確に取ったら3Rは休む、みたいな。ただハビブの場合はポジションを許して休むのではなくて、攻めのテンションを一旦落ち着けて休むみたいな戦法で。モハメッドの場合は先に攻めたんだけど、守勢に回る展開になって、そこで休むことを選択したように見えました。そこでの切り替えの良さというか、すごくクレバーだなと思いましたね」

――なるほど。3Rはサブミッションさえ凌いで休めればいいという判断だったんですね。

「僕はそう思いました。バックを取られて相手に首を絞められたり、うつ伏せで潰されてしまうとダメですが、モハメッドのようにエドワーズを下にして、自分が天井を見ているような状態でバックを取られている分には強い打撃をもらうことはないと思うんです。

だからダメージもそんなに受けないし、サブミッションだけ気をつけていれば意外に疲れないのかなと。もちろん寝技が超一流の相手にバックを許して休むのは危険ですけど、エドワーズからはそういった危険を感じなかったと思うんですよね。だから一本を取られないようにディフェンスして、休もうという感覚もあったのではないかと思います」

――少し話題はずれますが5Rにモハマッドがバックを取っていて、最後の最後にエドワーズが正対して肘で流血させたじゃないですか。ああいう展開でエドワーズにポイントが入ることもありえそうですね。

「それはあると思います、ダメージ重視の視点でいくと」

――バックを取られて相手に攻めさせないで守るというのも戦法の一つとしてありえるのかなと思いました。

「自分と相手の技量を比べて極められない自信があって、ポイント的にもリードしているという、非常に限定されたシチュエーションにはなりますけど、5Rマッチであればそういう選択もありなのかもしれません。

もちろんモハメッドがバックを取られた状態から粘るのが得意だったのかもしれないし、その辺も含めて自分が持ってる引き出しと使い方、それを完全に熟知して戦っていると思います。ずば抜けて特別なものを持った選手ではないけれど、自分が持っている引き出しをどう使えばいいかを分かっている。だから勝つ。そういう選手なんだと思います。僕もそういう戦い方をしたかったので、モハメッドにはすごく惹かれますね」

――今のUFCチャンピオンの顔ぶれを見ると、また新たな個性を持ったチャンピオンが誕生しましたよね。

「ぶっちゃけ人気は出ないと思うんですよ(笑)。PPVが売れなくて、ダナ・ホワイトがキレる姿を想像しちゃいますけど、間違いなく通好みの選手ではあるので。MMA好きはチェックすべき試合、選手だと思います」

――確かに派手さはないかもしれませんが、例えば選手サイドからすると参考になる点が多い選手かもしれませんね。

「この企画でも以前話したことですが、教科書にしていい選手としちゃいけない選手がいて、ショーン・オマリートやコナー・マクレガーを真似するのは相当難しいと思うんです。そういう選手に憧れる気持ちは分かりますが、僕のような凡人が(笑)憧れる選手、見本とする選手は今回のムハマッドだったり、僕は結構ベンソン・ヘンダーソン戦い方が好きだったんですけど、そういう真似できる可能性がある選手を見るべきだと思いますね」

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